本発明を図に示す実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係るポンプ装置を用いた車両用ブレーキ装置を示す図である。
まず、ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。ここでは前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の油圧回路を構成する車両に本発明によるブレーキ装置を適用した例について説明するが、前後配管などにも適用可能である。
図1に示すように、ブレーキペダル1は倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。
そして、倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがマスタシリンダ3に配設されたマスタピストンを押圧することによりマスタシリンダ圧が発生する。なお、これらブレーキペダル1、倍力装置2及びマスタシリンダ3はブレーキ液圧発生手段に相当する。
また、このマスタシリンダ3には、マスタシリンダ3内にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ3内の余剰ブレーキ液を貯留するマスタリザーバ3aが接続されている。
そして、マスタシリンダ圧は、ABS制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータを介して右前輪FR用のホイールシリンダ4及び左後輪RL用のホイールシリンダ5へ伝達されている。以下の説明は、右前輪FR及び左後輪RL側について説明するが、第2の配管系統である左前輪FL及び右後輪RR側についても全く同様であるため、説明は省略する。
このブレーキ装置はマスタシリンダ3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには逆止弁22aと共にリニア差圧制御弁22が備えられている。そして、このリニア差圧制御弁22によって管路Aは2部位に分けられている。すなわち管路Aは、マスタシリンダ3からリニア差圧制御弁22までの間においてマスタシリンダ圧を受ける管路A1と、リニア差圧制御弁22から各ホイールシリンダ4、5までの間の管路A2に分けられる。
このリニア差圧制御弁22は通常は連通状態であるが、マスタシリンダ圧が所定圧よりも低い際にホイールシリンダ4、5に急ブレーキをかける時、或いはトラクションコントロール時に、マスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間に所定の差圧を発生させる状態(差圧状態)となる。このリニア差圧弁22は、差圧の設定値をリニアに調整することができる。
また、管路A2において、管路Aは2つに分岐しており、開口する一方にはホイールシリンダ4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはホイールシリンダ5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
これら増圧制御弁30、31は、電子制御装置(以下、ECUという)により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、この2位置弁が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ圧あるいはポンプの吐出によるブレーキ液圧を各ホイールシリンダ4、5に加えることができる。これら第1、第2の増圧制御弁30、31は、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキ時には、常時連通状態に制御されている。
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにおいてホイールシリンダ4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
第1、第2の増圧制御弁30、31と各ホイールシリンダ4、5との間における管路Aとリザーバ40とを結ぶ管路(吸入管路)Bには、ECUにより連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33は、ノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では、常時遮断状態とされている。
管路Aのリニア差圧制御弁22及び増圧制御弁30、31の間とリザーバ40とを結ぶ管路(還流管路)Cには回転式ポンプ13が配設されている。この回転式ポンプ13の吐出口側には、安全弁13Aが備えられており、ブレーキ液が逆流しないようになっている。また、この回転式ポンプ13にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ13は駆動される。なお、第2の配管系統には、回転式ポンプ13と同様に構成された回転式ポンプ10(図2参照)が備えられている。これら回転式ポンプ10、13の詳細については後で説明する。
そして、リザーバ40とマスタシリンダ3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられている。この管路Dには2位置弁23が配置されており、通常時には2位置弁23が遮断状態とされ、管路Dが遮断されるようになっている。この2位置弁23はブレーキアシスト時やトラクションコントロール時等に連通状態とされ管路Dが連通状態にされると、回転式ポンプ13は管路Dを介して管路A1のブレーキ液を汲み取り、管路A2へ吐出してホイールシリンダ4、5におけるホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧よりも高くして車輪制動力を高めるようになっている。なお、この際にはリニア差圧制御弁22によって、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧が保持される。
リザーバ40は、管路Dに接続されてマスタシリンダ3側からのブレーキ液を受け入れるリザーバ孔40aと、管路B及び管路Cに接続されホイールシリンダ4、5から逃がされるブレーキ液を受け入れるリザーバ孔40bとを備えている。リザーバ孔40aより内側には、ボール弁41が配設されている。このボール弁41には、ボール弁41を上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド43がボール弁41と別体で設けられている。
また、リザーバ室40c内には、ロッド43と連動するピストン44と、このピストン44をボール弁41側に押圧してリザーバ室40c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング45が備えられている。
このように構成されたリザーバ40は、所定量のブレーキ液が貯留されると、ボール弁41が弁座42に着座してリザーバ40内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、回転式ポンプ13の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室40c内に流動することがなく、回転式ポンプ13の吸入側に高圧が印加されないようになっている。
図2は回転式ポンプ10、13を含むポンプ装置100の断面図である。この図は、ポンプ装置100をブレーキ液圧制御用アクチュエータのハウジング150に組付けた状態を示しており、紙面上下方向が車両天地方向となるように組付けられている。以下、図2に基づいてポンプ装置100の全体構成について説明する。
上述したように、ブレーキ装置は、第1配管系統と第2配管系統の2系統から構成されている。このため、ポンプ装置100には図1及び図2に示された第1配管系統用の回転式ポンプ13と、図2に示された第2配管系統用の回転式ポンプ10の2つが備えられている。そして、これら回転式ポンプ10、13が1本の駆動軸54で駆動されるようになっている。
ポンプ装置100の外形を構成するケースは、第1、第2、第3、第4シリンダ71a、71b、71c、71d及び円筒状の第1、第2中央プレート73a、73bによって構成されている。なお、本実施形態では、第1シリンダ71aが請求項記載の第1サイドシリンダに相当し、第2シリンダ71bが中間シリンダに相当し、第3シリンダ71cが第2サイドシリンダに相当する。
第1シリンダ71a、第1中央プレート73a、第2シリンダ71b、第2中央プレート73b、第3シリンダ71cが順に重ねられ、重なり合う部分の外周が溶接されることで接合されている。そして、これら溶接されてユニット化された部分を第1ケースとして、第1ケースにおける第3シリンダ71cとの間にバネ手段に相当する皿バネ210を挟むようにして、第2ケースに相当する第4シリンダ71dが第1ケースに対して同軸的に配置されている。このようにして一体構造のポンプ装置100が構成されている。
このように一体構造とされたポンプ装置100が、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ用のハウジング150に形成された略円筒形状の凹部150a内に挿入されている。
そして、凹部150aの入口に掘られた雌ネジ溝150bにリング状の雄ネジ部材200がネジ締めされて、ポンプ装置100がハウジング150に固定された構成となっている。具体的には、ポンプ装置100の挿入方向の先端位置のうち駆動軸54の先端と対応する位置において、ハウジング150の凹部150aに円形状の第2の凹部150cが形成されている。この第2の凹部150cの径は、駆動軸54より大きいが第1シリンダ71aの外径より小さくされている。このため、駆動軸54の先端部、つまり第1シリンダ71aの端面から突出する部分が第2の凹部150c内に入り込み、凹部150aの底面のうち第2の凹部150c以外の部分が第1シリンダ71aの端面と接する構造となり、雄ネジ部材200のネジ締めによってポンプ装置100が軸力を得られるようになっている。
ここで、ハウジング150の凹部150aへのポンプ装置100の固定構造に関して、皿バネ210を備えていることから、皿バネ210が以下のように作用する。
ポンプ装置100をハウジング150に固定するため、換言すればポンプ装置100によるブレーキ液の吸入吐出時に高圧なブレーキ液圧によってポンプ装置100がハウジング150の内側でガタつかないようにするために、大きな軸力を確保しなければならない。
しかしながら、雄ネジ部材200のネジ締めのみによって上記軸力を得るのでは、軸力に大きなバラツキが発生し得る。
これに対して、本実施形態では、第3、第4シリンダ71c、71dの間に皿バネ210を配置し、第4シリンダ71dのうちの第3シリンダ71c側の端部を縮径し、その部位が後述する第3シリンダ71cの第3中心孔72cに挿入されるようにしている。また、第4シリンダ71dのうち第3シリンダ71cの第3中心孔72cに挿入される部位の径は、第3中心孔72cの径とほぼ同じか、または、若干小さめに設定してあり、第4シリンダ71dが第3シリンダ71cの第3中心孔72cに対して遊嵌合の状態としている。
このため、雄ネジ部材200をネジ締めする際に、第4シリンダ71dと第3シリンダ71cの間に配置された皿バネ210の弾性力によってポンプ装置100をハウジング150の穴部150aに固定するための軸力が発生させられることになる。つまり、第3シリンダ71cよりも紙面右側に位置する部材が皿バネ210によって凹部150aの底面に押し付けられると共に、第4シリンダ71dが皿バネ210によって雄ネジ部材200側に押し付けられることで、軸力が発生させられる。したがって、その軸力を安定させると共に、ポンプ装置100にかかる軸力が過大とならず必要最小限となるようにすることができる。これにより、ポンプ装置100の変形を押さえることができる。
この皿バネ210の向きは、皿バネ210の底面側(外周部に荷重が掛かる側)が回転式ポンプ10、13側を向き、皿バネ210の上面側(内周部に荷重が掛かる側)がモータ11側を向くような構成とされている。
また、第1〜第4シリンダ71a〜71dには、それぞれ第1、第2、第3、第4中心孔72a、72b、72c、72dが備えられている。第1シリンダ71aに形成された第1中心孔72aの内周にはベアリング51が備えられており、第3シリンダ71cに形成された第3中心孔72cの内周にはベアリング52が備えられている。これらベアリング51、52は、ニードルベアリングよりも幅狭なボールベアリングによって構成されている。
ベアリング51およびベアリング52には、共に、シールプレート51a、52aが備えられ、ベアリング51に関してはシールプレート51aが駆動軸54の先端側に位置し、ベアリング52に関してはシールプレート52aが第4シリンダ71d側に向けられた配置とされている。
図3は、第3シリンダ71cのみを表した図であり、図3(a)は第3シリンダ71cの斜視図、図3(b)は第3シリンダ71cの正面図(ポンプ装置100の軸方向から見た図)である。但し、この図3では、後述するOリング74cが配置される溝については図示を省略している。
この図に示されるように、第3中心孔72cは、ベアリング52の外径と同等の内径を有する部分と、ベアリング52の内径よりも縮小された部分とを有し、これらによって段付き部が構成されている。この段付き部までベアリング52が押し込まれると、ベアリング52が第3中心孔72cの内側まで入り込み、第3中心孔72cのうち第4シリンダ71d側において空洞が残る。この空洞内に第4シリンダ71dの一部が入り込むようになっている。
そして、軸挿入孔に相当する第1〜第4中心孔72a〜72d内に駆動軸54が嵌入され、ベアリング51、52によって軸支されている。このように、回転式ポンプ10、13を挟んで両側にベアリング51、52が配置されている。
なお、第3シリンダ71cによって後述する吸入口62も構成されているが、この吸入口62の構成に関しては後で詳細に説明する。
図4は図2のA−A線に沿う断面図である。以下、図2及び図4に基づいて回転式ポンプ10、13の構成を説明する。
第1ポンプに相当する回転式ポンプ10は、円筒状の第1中央プレート73aの両側を第1シリンダ71a及び第2シリンダ71bで挟み込んで形成されたロータ室50a内に配置されており、駆動軸54によって駆動される内接型ギアポンプ(トロコイドポンプ)で構成されている。
具体的には、回転式ポンプ10は、内周に内歯部が形成されたアウターロータ10aと外周に外歯部が形成されたインナーロータ10bとからなる回転部を備えており、インナーロータ10bの孔内に駆動軸54が挿入された構成となっている。そして、駆動軸54に形成された長穴54a(図2参照)内にキー54bが嵌入されており、このキー54bによってインナーロータ10bへのトルク伝達が成されるようになっている。
アウターロータ10aとインナーロータ10bは、それぞれに形成された内歯部と外歯部とが噛み合わさって複数の空隙部10cを形成している。そして、駆動軸54の回転によって空隙部10cが大小変化することで、ブレーキ液の吸入吐出が行われる。
一方、第2ポンプに相当する回転式ポンプ13は、円筒状の第2中央プレート73bの両側を第2シリンダ71b及び第3シリンダ71cで挟み込んで形成されたポンプ室50b内に配置されている。回転式ポンプ13も、回転式ポンプ10と同様にアウターロータ13a及びインナーロータ13bを備えた内接型ギアポンプで構成されており、駆動軸54を中心として回転式ポンプ10を180°回転させた配置となっている。このように配置することで、回転式ポンプ10、13のそれぞれの吸入側の空隙部10cと吐出側の空隙部10cとが駆動軸54を中心として対称位置となるようにし、吐出側における高圧なブレーキ液圧が駆動軸54に与える力を相殺できるようにしている。
第1サイドシリンダに相当する第1シリンダ71aは、回転式ポンプ10の端面と対向しており、第1シリンダ71aと回転式ポンプ10との接触により第1シリンダ71aと回転式ポンプ10との間がシールされている。第1シリンダ71aは、回転式ポンプ10との摺動にかかる耐久性を確保するために高炭素鋼を用いて形成されている。
この第1シリンダ71aには、回転式ポンプ10の吸入側の空隙部10cと連通する吸入口60が形成されている。吸入口60は、第1シリンダ71aの回転式ポンプ10側の端面から反対側の端面まで貫通するように形成されている。このため、吸入口60のうち回転式ポンプ10側の端面とは反対側の端面側を入口としてブレーキ液が導入される。
そして、吸入口60は、ハウジング150に対して凹部150a底面に至るように形成された吸入用管路151に接続されている。
中間シリンダに相当する第2シリンダ71bは、2つの回転式ポンプ10、13間に位置して、2つの回転式ポンプ10、13の端面と対向している。この第2シリンダ71bには、回転式ポンプ10の吐出側の空隙部10cと連通する吐出口61が備えられている。この吐出口61は、回転式ポンプ10の端面から外周面に至るように延設されている。この吐出口61は、具体的には以下のように構成されている。
第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ10側の端面、換言すると、第2シリンダ71bにおける回転式ポンプ10に対向する面には、駆動軸54を囲むように形成された環状溝61aが備えられている。この環状溝61aは、鍛造等の塑性加工のみによって形成されている。
この環状溝61a内には、リング状のシール部材171が備えられている。このシール部材171は、回転式ポンプ10側に配置された樹脂部材171aと、樹脂部材171aを回転式ポンプ10側に押圧するゴム部材171bとから構成されており、このシール部材171により、回転式ポンプ10と第2シリンダ71bとの間がシールされている。
より詳細には、このシール部材171は、その内周側に、吸入側の空隙部10c及び吸入側の空隙部10cに対向するアウターロータ10aの外周と中央プレート73aとの隙間が位置するように配置され、また、その外周側に、吐出側の空隙部10c及び吐出側の空隙部10cに対向するアウターロータ10aの外周と中央プレート73aとの隙間が位置するように配置されている。すなわち、シール部材171によって、シール部材171の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とがシールされるように構成されている。
また、シール部材171は、環状溝61aの内周と接し、外周とは一部しか接しないように構成されており、環状溝61aのうちシール部材171よりも外周側の一部接しない部分は隙間となっている。つまり、環状溝61aには、外周全周がシール部材171と接しないように構成された領域があり、この領域をブレーキ液が流動できるようになっている。さらに、第2シリンダ71bには、環状溝61aの一部から管路61bが引き出されている。このように構成された環状溝61aの隙間と管路61bによって吐出口61が構成されている。
そして、吐出口61は、ハウジング150の凹部の内周面のうちポンプ装置100の先端位置が配置される部分全周に形成された環状溝162を介して、ハウジング150に形成された吐出用管路152と接続されている。
さらに、第2シリンダ71bにおける吐出口61が形成された端面と反対側の端面、換言すると、第2シリンダ71bにおける回転式ポンプ13に対向する面には、吐出側の空隙部と連通する吐出口63が備えられている。
吐出口63は、第2シリンダ71bの端面から外周面に至るように形成されている。この吐出口63は、上記した吐出口61と同様の構造で形成されており、樹脂部材172a及びゴム部材172bからなるリング状のシール部材172を収容した環状溝63aの隙間と、環状溝63aの最も上方位置から引き出された管路63bとから構成されている。この吐出口63は、ハウジング150の凹部150aの内周面のうち中央プレート73bの外周と対向する部分全周に形成した環状溝163を介して、吐出用管路154に接続されている。なお、環状溝63aは、鍛造等の塑性加工のみによって形成されている。
シール部材172は前述のシール部材171と同様の構成になっており、このシール部材172により、回転式ポンプ13と第2シリンダ71bとの間がシールされている。より詳細には、シール部材172によって、シール部材172の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とがシールされるように構成されている。
第2サイドシリンダに相当する第3シリンダ71cは、回転式ポンプ13の端面と対向しており、第3シリンダ71cと回転式ポンプ13との接触により第3シリンダ71cと回転式ポンプ13との間がシールされている。第3シリンダ71cは、回転式ポンプ13と摺動するのみならず皿バネ210と直接当接するために高い硬度が要求され、したがって高炭素鋼を用いて形成されている。
この第3シリンダ71cには、回転式ポンプ13の吸入側の空隙部と連通する吸入口62が備えられている。吸入口62は、第3シリンダ71cにおける回転式ポンプ13側の端面から反対側の端面まで貫通し、かつ、反対側の端面において第3シリンダ71cの外周面まで貫通するように形成されている。
具体的には、吸入口62は、第3シリンダ71cに形成された第3中心孔72cを利用して構成され、この第3中心孔72cの径を拡大して溝を形成することで構成されている。図3(a)、(b)に示されるように、第3シリンダ71cの第3中心孔72cは、回転式ポンプ13側(紙面奥側)において長円形を成している。この長円形の上側の端部の半円形寄りに駆動軸54が配置されており、下側の端部の半円形と駆動軸54との間には吸入口62を構成する間隙が形成されている。なお、ここでは第3中心孔72cの形状について、下側の端部を円弧状としたが長方形状としても良い。
また、第3中心孔72cは、第3シリンダ71cの中間位置においてベアリング52と同等の径となるように拡径され、第3シリンダ71cのうち回転式ポンプ13側とは反対側の端面において長円形の下側の端部が第3シリンダ71cの外周面まで達する溝と繋がった構造とされている。この溝は、例えば断面長方形もしくは長半円形によって構成されるが、本実施形態では断面長方形としてある。
吸入口62は、この第3中心孔72cのうちベアリング52を配置しても塞がれない部分、つまり三日月状の部分と、第3シリンダ71cのうち回転式ポンプ13側とは反対側の端面において第3シリンダ71cの外周面まで延設された溝によって構成される。このため、吸入口62のうち第3シリンダ71cの外周面側を入口として、ブレーキ液が導入されるようになっている。そして、吸入口62は、吸入口62の入口の位置を含むようにハウジング150の凹部150aの内周面の全周に形成された環状溝164を介して、ハウジング150に形成された吸入用管路153と接続されている。
なお、図2において、吸入用管路153及び吐出用管路154が図1における管路Cに相当する。
このように、第3中心孔72cを利用して吸入口62を構成することにより、駆動軸54やベアリング52等にブレーキ液が供給されるため、駆動軸54の回転が円滑に行われる。また、吸入口62の方が吐出口63よりもモータ11側(ハウジング150外部側)に位置しているため、ハウジング150の外部に近い部分のブレーキ液圧が低くなるようにできる。
なお、第2シリンダ71bの第2中心孔72bは部分的に駆動軸54より径大とされており、この径大とされた部位には、第2中心孔72bと駆動軸54との間をシールして、第1の回転式ポンプ10と第2の回転式ポンプ13とを遮断するシール部材80が収容されている。軸シール部材に相当するこのシール部材80は、リング状の弾性部材であるOリング81を、径方向を深さ方向とする溝部が形成されたリング状の樹脂部材82に嵌め込んだものであり、Oリング81の弾性力によって樹脂部材82が押圧されて駆動軸54と接するようになっている。
図示しないが、例えば、樹脂部材82及び第2シリンダ71bの第2中心孔72bの断面形状は共に、円形状を部分的に切欠きとした円弧形状とされており、第2シリンダ71bの第2中心孔72bに樹脂部材82が嵌め込まれるように構成されている。このため、樹脂部材82の切欠き部分がキーとしての役割を果たし、シール部材80が第2シリンダ71bに対して相対回動できないように構成されている。
さらに、第2シリンダ71bに形成された環状溝63aは、シール部材80の径方向外側に配置されている。換言すると、環状溝63aとシール部材80は、駆動軸54の径方向に見たときに一部が重なるように配置されている。
第4シリンダ71dは、皿バネ210が配置される面と反対の面において凹んでおり、この凹みから駆動軸54が突出させられている。駆動軸54は、突出した側の端部において鍵形状とした接続部54cを備えており、この接続部54cにモータ11の駆動軸11aが差し込まれる。そして、一本の駆動軸54が駆動軸11aを介してモータ11によって回動されて、回転式ポンプ10、13が駆動されるようになっている。
また、第4シリンダ71dの凹み部分の入口の径は、モータ11のホルダー11bに形成された孔11cと同等になっており、第4シリンダ71dの凹み部分とモータ11のホルダー11bの孔11cとの間の隙間を小さくしてベアリング180を配置し、駆動軸11aが軸支されるようになっている。なお、ここでは駆動軸11aがベアリング180によって軸支される例を挙げているが、駆動軸54を軸支するようにしてもよい。
このように、モータ11のホルダー11bに形成された孔11cと第4シリンダ71dの凹み部分とにベアリング180を配置すると、モータ11と第4シリンダ71の径方向の位置決めが為されるため、モータ11の駆動軸11aと駆動軸54の軸ズレを最小限に抑えることができる。
また、第4シリンダ71dに形成された凹み内において、駆動軸54の外周を覆うように、シール部材90とオイルシール91が駆動軸54の軸方向に並べられて嵌め込み固定されている。シール部材90は、シール部材80と同様の構成であり、吸入口62から洩れてくるブレーキ液をシールする役割を果たすものである。
さらに、第1〜第4シリンダ71a〜71dのそれぞれの外周面にはOリング74a、74b、74c、74dが配置されている。これらOリング74a〜74dは、ハウジング150に形成された吸入用管路151、153や吐出用管路152、154におけるブレーキ液をシールするものであり、吸入用管路151と吐出用管路152の間、吐出用管路152と吐出用管路154の間、吐出用管路154と吸入用管路153の間、及び吸入用管路153とハウジング150の外部の間に配置されている。
なお、第4シリンダ71dの凹み部分の入口側の先端の外周面は縮径されており、段付き部を構成している。上記したリング状の雄ネジ部材200はこの縮径された部分に嵌装され、ポンプ装置100が固定されるようになっている。
次に、上記のように構成されたブレーキ装置及びポンプ装置100の作動について説明する。
ブレーキ装置は、車輪がロック傾向にあるABS制御時、若しくは大きな制動力を必要とする時(例えば、ブレーキ踏力に対応した制動力が得られない場合やブレーキペダル1の操作量が大きいとき等)において、ポンプ装置100を駆動してリザーバ40内のブレーキ液を吸入し、昇圧して吐出する。そして、この吐出された高圧のブレーキ液によってホイールシリンダ4、5の圧力を増圧する。
このとき、ポンプ装置100内では、回転式ポンプ10、13が吸入用管路151、153を通じてブレーキ液を吸入し、吐出用管路152、154を通じてブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作を行う。
このとき、回転式ポンプ10、13では、吐出側の圧力が非常に大きくなる。このため、ポンプ装置100がハウジング150から抜ける方向にブレーキ液圧が作用するが、上述したように、皿バネ210及び雄ネジ部材200によってポンプ装置100の軸力を確保しているため、ポンプ装置100がハウジング150内でガタつくのを防止することができる。
そして、本実施形態の場合、回転式ポンプ10よりもモータ11側において、ポンプ装置100の外形を構成するシリンダ部品を1部品によって構成せずに、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dという2部品に分割し、これら第3シリンダ71cと第4シリンダ71dの間に皿バネ210を配置している。
従来の車両用ブレーキ装置に備えられるポンプ本体では、回転式ポンプよりもモータ側において、ポンプ本体の外形を構成するシリンダ部品を1部品で構成し、これに吸入口を形成した構成としている。したがって、シリンダ部品はベアリングやシールを配置しなければならないため、軸方向長さが大きなものにならざるを得なかったが、ベアリングやシールよりも外周位置では、何も配置されないスペースができ、言わばデッドスペースが形成されていた。
これに対し、本実施形態では、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dの間に皿バネ210を配置した構成としているため、スペースの有効活用が図れる。このため、皿バネ210をポンプ装置100の先端位置に配置する場合と比べて、第3シリンダ71c、第4シリンダ71dおよび皿バネ210を含めたポンプ装置100のトータルの軸方向長さ(ポンプ軸長さ)を短くすることができる。
また、このような構造において、皿バネ210の向きは、皿バネ210の底面側(外周部に荷重が掛かる側)が回転式ポンプ10、13側を向き、皿バネ210の上面側(内周部に荷重が掛かる側)がモータ11側を向くような構成とされている。
仮に、皿バネ210の向きが、皿バネ210の上面側が回転式ポンプ10、13側を向き、皿バネ210の底面側がモータ11側を向くような構成とされていれば、以下の問題が発生する可能性がある。
すなわち、例えばポンプ装置100が凹部150aの底面に押し付けられるときの反力などが第1シリンダ71aの外周部、第1中央プレート73a、第2シリンダ71bの外周部、第2中央プレート73bおよび第3シリンダ71cの外周部を介して皿バネ210側に伝えられたときに、この荷重を皿バネ210の上面側で受け止めなければならない。この場合、荷重の掛かる位置が第3シリンダ71cの外周側であるのに荷重を受け止める位置がそれよりも第3シリンダ71cの内周側となるため、そのズレによって第3シリンダ71cが変形する可能性がある。
これに対し、本実施形態の場合には、その荷重を皿バネ210の底面側、つまり第3シリンダ71cの外周側で受け止めることができる。このため、皿バネ210の底面側において荷重を確実に受け止めることができ、第3シリンダ71cの変形を防止することができる。
さらに、本実施形態では、ベアリング51、52をボールベアリングで構成している。このため、ニードルベアリングを用いる場合と比べて、軸方向の短縮化を図ることが可能となる。
また、本実施形態では、回転式ポンプ10、13と第2シリンダ71bとの間はシール部材171、172によりシールされているため、回転式ポンプ10、13と第2シリンダ71bとを摺動させる必要がなくなる。そのため、例えば高炭素鋼などの高硬度材を用いて第2シリンダ71bを形成したり、或いはこの第2シリンダ71bにおける回転式ポンプ10、13に対向する面に硬化加工を施したりする必要がなくなり、第2シリンダ71bの加工の簡素化やコストダウンを図ることができる。
具体的には、例えば、第2シリンダ71bの材質を低炭素鋼にすることができる。そして、高炭素鋼などと比較して低炭素鋼は硬度が低いため、シール部材171、172が挿入される環状溝61a、63aを鍛造等の塑性加工のみによって形成することが可能であり、例えば切削加工にて形成する場合と異なり、切り粉の付着やバリの残存等をなくすことができるとともに、加工コストの低減を図ることができる。また、環状溝61a、63aを、塑性加工後切削にて仕上げ加工して形成することも可能であり、例えば切削加工のみによって形成する場合と異なり、切削加工時の取り代が少なくなるため、第2シリンダ71bの加工性を向上させることができる。
また、本実施形態では、第1シリンダ71aと回転式ポンプ10との接触により第1シリンダ71aと回転式ポンプ10との間がシールされ、第3シリンダ71cと回転式ポンプ13との接触により第3シリンダ71cと回転式ポンプ13との間がシールされている。このため、第1シリンダ71aおよび第3シリンダ71cにシール部材配置用の環状溝を設ける必要がなくなる。そして、高炭素鋼等の高硬度材を用いて第1シリンダ71aおよび第3シリンダ71cを形成する場合にあっては、こうした溝加工が不要となるメリットが大きい。
また、本実施形態では、第2シリンダ71bの中心孔72b内にシール部材80が配設され、このシール部材80の径方向外側に環状溝63aが配置されている。このため、例えばシール部材80と環状溝63aとが駆動軸54の軸方向に並ぶ態様と比較して、第2シリンダ71bを軸方向に小型化することができ、ひいてはポンプ装置100の小型化が可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、環状溝63aをシール部材80の径方向外側に配置したが、例えば環状溝63aがシール部材80の径方向外側に配置されるのではなく、環状溝63aとシール部材80とが駆動軸54の軸方向に並ぶように配置されていてもよい。
また、シール部材80を図2に示す例よりも回転式ポンプ10側に延長したり、或いは回転式ポンプ10寄りに移設したりして、このシール部材80の径方向外側に環状溝61aが配置されるようにしてもよい。また、環状溝61aがシール部材80の径方向外側に配置されるのではなく、環状溝61aとシール部材80とが駆動軸54の軸方向に並ぶように配置されていてもよい。
また、上記実施形態では、環状溝61a、63aを鍛造等の塑性加工のみによって形成したが、環状溝61a、63aは、塑性加工後切削加工にて仕上げるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、回転式ポンプ10、13として内接型ギアポンプを用いたが、これに限らず、例えばベーン式ポンプ等、他の形式の回転ポンプを用いてもよい。
10、13…ポンプ、54…駆動軸、61a、63a…環状溝、71a…第1シリンダ(第1サイドシリンダ)、71b…第2シリンダ(中間シリンダ)、71c…第3シリンダ(第2サイドシリンダ)、171、172…シール部材。