JP4720962B2 - アルミ電解コンデンサ、及びそれに用いるアルミ電解コンデンサ用電解液とその製造方法。 - Google Patents

アルミ電解コンデンサ、及びそれに用いるアルミ電解コンデンサ用電解液とその製造方法。 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はアルミ電解コンデンサ及びそれに用いるアルミ電解コンデンサ用電解液とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミ電解コンデンサは一般的には以下のような構成を取っている。すなわち、帯状に形成された高純度のアルミニウム箔を化学的あるいは電気化学的にエッチングを行って拡面処理するとともに、拡面処理したアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液等の化成液中にて化成処理することによりアルミニウム箔の表面に酸化皮膜層を形成させた陽極箔と、同じく高純度のアルミニウム箔を拡面処理した陰極箔をセパレータを介して巻回してコンデンサ素子が形成される。そしてこのコンデンサ素子には駆動用の電解液が含浸され、金属製の有底筒状の外装ケースに収納される。さらに外装ケースの開口端部は弾性ゴムよりなる封口体が収納され、さらに外装ケースの開口端部を絞り加工により封口を行い、アルミ電解コンデンサを構成する。
【0003】
そして、小型、低圧用のアルミ電解コンデンサの、コンデンサ素子に含浸される電解液としては、従来より、エチレングリコールを主溶媒とし、アジピン酸、安息香酸などのアンモニウム塩を溶質とするもの、または、γ−ブチロラクトンを主溶媒とし、フタル酸、マレイン酸などの四級化環状アミジニウム塩を溶質とするもの等が知られている。
【0004】
このようなアルミ電解コンデンサの用途として、スイッチング電源の出力平滑回路などの電子機器がある。このような用途においては、低インピーダンス特性が要求されるが、電子機器の小型化が進むにつれて、アルミ電解コンデンサへの、この要求がさらに高いものとなってきている。このような低インピーダンス品に対応できる比抵抗の低い電解液としては、四級化環状アミジニウム塩を用いたものがあるが、比抵抗は80Ωcm程度であり、この要求に対応するには十分でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、電解液に水を多量に含有させて、電解液の比抵抗を60Ωcm以下に低減する試みがあるが、つぎのような問題を有している。すなわち、このようなアルミ電解コンデンサを放置すると、静電容量が減少し、漏れ電流特性が劣化し、さらには、安全弁の開弁にいたることがあるという問題点があり、このような負荷もしくは無負荷での長時間経過後の特性である放置特性は、アルミ電解コンデンサの信頼性に大きな影響を与えている。
【0006】
そこで、長時間放置して劣化したアルミ電解コンデンサを分析したところ、電解液のpHが高くなっており、また、電極箔表面に溶質のアニオン成分が付着していることが分かった。このことから、電極箔表面のアルミニウムが溶質のアニオン成分と反応して電極箔に付着し、さらに、アルミニウムが溶解して水酸化物等となり、一部は溶質のアニオン成分と反応し、この際に水素ガスが発生する。この反応がくり返されて、pHが上昇し、電極箔の劣化、開弁にいたるということが明らかになった。
【0007】
ところで、リン酸がこのような電極箔の劣化の防止に効果があることはよく知られているが、十分なものではない。これは、このリン酸を添加しても、添加したリン酸は電解液中のアルミニウムと錯体を形成して電極箔に付着し、リン酸は電解液中から消失してしまうことによるものである。さらに、添加量が多過ぎると、漏れ電流が増大するという問題もある。ところが、リン酸イオンが消失する段階の適量残存している間は、アルミ電解コンデンサの特性は良好に保たれる。
【0008】
これらのことを明らかにしたことから本発明にいたったもので、低インピーダンス特性を有し、かつ、放置特性の良好なアルミ電解コンデンサ及びそれに用いるアルミ電解コンデンサ用電解液とその製造方法を提供することをその目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルミ電解コンデンサは、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを、モル比でジエチレントリアミン五酢酸:リン酸イオン=1:10〜1:1となり、かつリン酸イオン濃度を0.002〜0.04モル重量%となるように添加することにより生成されるジエチレントリアミン五酢酸とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を主成分とする溶媒と、電解液中での含有率が8〜18wt%のアジピン酸またはその塩の少なくとも一種とともに、コンデンサ素子内に含有し、コンデンサ素子中の電解液のリン酸根濃度を10〜40000ppmに保持し、pHを5〜7に維持することを特徴とする。
【0010】
そして、前記の結合体が、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加し、水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液を含浸して生成されることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明のアルミ電解コンデンサ用電解液は、水を主成分とする溶媒に、電解液中での含有率が8〜18wt%のアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液であって、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを、モル比でジエチレントリアミン五酢酸:リン酸イオン=1:10〜1:1となり、かつリン酸イオン濃度を0.002〜0.04モル重量%となるように添加することにより生成されるジエチレントリアミン五酢酸とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を含有し、電解液のリン酸根濃度を10〜40000ppmに保持し、pHを5〜7に維持することを特徴とする。
【0016】
また、前記アルミ電解コンデンサとアルミ電解コンデンサ用電解液において、溶媒中の水の含有率が35〜100wt%であることを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明のアルミ電解コンデンサは、ジエチレントリアミン五酢酸(以下、DTPA)とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を主成分とする溶媒とアジピン酸またはその塩の少なくとも一種とともに、コンデンサ素子内に含有している。そして、この水溶性結合体は、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に、DTPAと、水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加し、水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液を含浸して生成される。
【0020】
そして、通常、アルミ電解コンデンサは製造後、ある程度の期間常温で保管され、その後電子機器に搭載されて使用されることになるが、本発明のアルミ電解コンデンサは、この製造直後から使用の期間、電解液に含有されたリン酸イオンが結合した水溶性のアルミニウム錯体と、電解液中のリン酸イオンを、電解液のリン酸根濃度にして10〜40000ppmに保持している。ここでの電解液のリン酸根濃度とは、電解液中に含有されるリン酸イオンになりうるリン酸基の濃度を示す。したがって、通常pH調整等によって電解液中の化合物のリン酸基をリン酸イオンにイオン化し、そのリン酸イオンの濃度を測定することによって、リン酸根濃度を測定する。
【0021】
ここで、溶媒中の水の含有率は、35〜100wt%であり、65wt%以下では低温特性が良好なので、好ましくは、35〜65wt%である。
【0022】
DTPAは、分子内にアミノ基とカルボキシル基を複数有する化合物であるアミノポリカルボン酸であるが、アルミニウムと錯体を形成する。このDTPAを用いることによって、本発明の効果を得るものであるが、他のアミノポリカルボン酸であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等や、アルミニウムと錯体を形成するクエン酸等では本発明の効果は得られない。
【0023】
そして、水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物(以下、リン酸生成性化合物)を添加する。このリン酸生成性化合物として、一般式(化2)で示されるリン化合物又はこれらの塩もしくはこれらの縮合体又はこれらの縮合体の塩を挙げることができる。
【0024】
これらのリン酸生成性化合物としては、以下のものを挙げることができる。正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩、これらの塩としては、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩である。正リン酸及びこの塩は、水溶液中で分解してリン酸イオンを生じる。また、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩は、水溶液中で分解して、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる。
【0025】
また、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル等のリン酸化合物、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸化合物等が挙げられる。また、メチルホスフィン酸、ホスフィン酸ブチル等のホスフィン酸化合物が挙げられる。
【0026】
さらに、以下のような、縮合リン酸又はこれらの塩をあげることができる。ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状の縮合リン酸、又はこのような鎖状、環状の縮合リン酸が結合したものである。そして、これらの縮合リン酸の塩として、アンモニウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等を用いることができる。
【0027】
これらも、水溶液中でリン酸イオンを生ずるか、もしくは、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンを生じ、その後に酸化してリン酸イオンとなる、リン酸生成性化合物である。
【0028】
なお、これらの中でも、容易にリン酸イオンを生ずる正リン酸またはその塩、縮合リン酸、またはリン酸化合物が好ましい。さらに、添加量に対して、比較的速やかに、多くのリン酸イオンを生ずる正リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の直鎖状の縮合リン酸、またはその塩が好ましい。なお、これらの化合物以外でも、水溶液中でリン酸イオンを生ずる物質であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0029】
そして、溶質としては、アジピン酸またはその塩の少なくとも一種を用いる。本発明の電解液が用いられる低圧、低インピーダンス用途の電解液では、従来より、ギ酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸またはこれらの塩等が用いられてきたが、高電導度、高温安定性を得るためには、アジピン酸またはその塩が好適である。
【0030】
アジピン酸の塩としては、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩、またはアミン塩を用いることができる。第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムとしてはテトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)、ピリジウム(1−メチルピリジウム、1−エチルピリジウム、1,3−ジエチルピリジウム等)が挙げられる。また、アミン塩を構成するアミンとしては、一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等)、二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジフェニルアミン、ジエタノールアミン等)、三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7、トリエタノールアミン等)があげられる。
【0031】
また、アジピン酸またはその塩の含有率は電解液中、5〜23wt%であり、好ましくは、8〜18wt%である。この範囲未満では、電導度が低下し、この範囲を越えると、溶解性が低下する。
【0032】
また、本発明の電解液は、水を主成分とする溶媒を用いるものであるが、副溶媒として、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール、等)、多価アルコール及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3−ブタンジオール、メトキシプロピレングリコール等)などがあげられる。非プロトン性極性溶媒としては、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等)、環状アミド類(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、オキシド類(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕などが代表としてあげられる。
【0033】
また、アルミ電解コンデンサの寿命特性を安定化する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、2−(ニトロフェノキシ)エタノール、ニトロアニソール、ニトロフェネトール、ニトロトルエン、ジニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物を添加することができる。
【0034】
また、アルミ電解コンデンサの安全性向上を目的として、電解液の耐電圧向上を図ることができる非イオン性界面活性剤、多価アルコールと酸化エチレン及び/または酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル化合物、ポリビニルアルコールを添加することもできる。
【0035】
また、本発明のアルミ電解コンデンサ用電解液に、硼酸、多糖類(マンニット、ソルビット、ペンタエリスリトールなど)、硼酸と多糖類との錯化合物、コロイダルシリカ等を添加することによって、さらに耐電圧の向上をはかることができる。
【0036】
また、漏れ電流の低減の目的で、オキシカルボン酸化合物等を添加することができる。
【0037】
以上の本発明のアルミ電解コンデンサは、インピーダンスが低く、放置特性、すなわち、長期間にわたる負荷、無負荷試験後の特性が良好で、さらに、初期の静電容量も向上する。
【0038】
以下、本発明について説明する。本発明のアルミ電解コンデンサは、DTPAとアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体(以下、水溶性結合体)を、水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液とともに、コンデンサ素子内に含有しているが、この水溶性結合体は、DTPAとリン酸生成性化合物を添加した水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液をコンデンサ素子に含浸して生成される。このアルミ電解コンデンサにおいては、コンデンサ素子中で、DTPAと、リン酸生成性化合物から生成されたリン酸イオンと、アルミニウム電極箔表面のアルミニウムの水和物や水酸化部から溶出したアルミニウムイオンとが反応して、水溶性結合体が生成される。そして、このように生成された水溶性結合体の一部は電極箔に付着し、一部は電解液に溶解した状態で、コンデンサ素子中に含有されることになる。なお、この水溶性結合体はアルミニウムにDTPAとリン酸イオンが配位したキレート錯体であると考えられる。
【0039】
また、このように、本発明のアルミ電解コンデンサ用電解液には、水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液に、DTPAと、リン酸生成性化合物と、水溶液中でアルミニウムイオンを生成する化合物、すなわちアルミ電極箔表面に形成されたアルミニウムの水和物や水酸化物等とが添加された状態となって、水溶性結合体が形成され、含有される。したがって、本発明のアルミ電解コンデンサ用電解液は、電解液作成中にDTPAと、リン酸生成性化合物と、水溶液中でアルミニウムイオンを生成する化合物とを添加しても得ることができる。さらには、別途生成したこの水溶性結合体を、電解液に添加しても得ることができる。
【0040】
以上の本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、電解液の比抵抗を低減することができるので、アルミ電解コンデンサのインピーダンスを低減することができる。さらに、水溶性結合体によって、電解液中のリン酸イオンを適正量に長時間にわたって保つことができるので、アルミ電解コンデンサの放置特性を良好に保つことができる。すなわち、電解液中のリン酸イオンは電極箔から溶出するアルミニウムと反応して減少していくが、そうなると、水溶性結合体がリン酸イオンを放出して、電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用をする。そして、この適正量のリン酸イオンはアルミニウムの溶解、またアルミニウムの水酸化物等の生成を抑制して、電極箔の劣化を抑制するので、アルミ電解コンデンサの放置特性が向上する。そして、電解液中のリン酸イオンと電解液中のDTPAとアルミニウムからなる水溶性の錯体に結合したリン酸イオンは、電解液中のリン酸根として検出されるが、このリン酸根濃度は10〜40000ppmに保持されている(電解液を2mmol/lの希硝酸で1000倍に希釈して、pH=2〜3にして、リン酸イオンをイオンクロマト分析で定量した。)。
【0041】
すなわち、電解液にリン酸イオンを添加したのみでは、リン酸イオンはアルミニウムと反応して電解液中から消失してしまうので、放置特性が劣化する。また、多量に添加した場合はさらに漏れ電流特性が劣化する。しかしながら、本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、電解液中に適正量のリン酸イオンが長期間経過しても消失することなく存在して、良好な放置特性を維持することができ、漏れ電流特性も劣化することなく、良好である。
【0042】
以下の実験はこれらのことを明らかにした。本発明のアルミ電解コンデンサを分解し、コンデンサ素子に含浸された電解液を洗浄、除去した。その後、このコンデンサ素子にリン酸イオンを含まない電解液を含浸して電解コンデンサを作成したところ、この電解コンデンサの放置特性は良好であった。そして、この電解コンデンサの電解液からは10〜200ppmのリン酸根が検出され、アルミニウムはほとんど検出されなかった。すなわち、電極箔に付着した水溶性結合体が、リン酸イオンを含まない電解液中にリン酸イオンを放出し、その後も一定のリン酸イオンを長時間にわたって適正に保つことによって、コンデンサの放置特性を向上させたものである。なお、電解液中で生成されるアルミニウム錯体が水溶性でない、つまり難溶性または不溶性の場合は、本発明のような電解液中のリン酸イオンを適正量に保つ作用がないためと思われるが、本発明の効果を得ることはできない。
【0043】
そして、以上のように本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、電解液のリン酸根を10〜40000ppmに保持しているが、15000ppm以下では比抵抗が低減するので、10〜15000ppmに保持することが好ましい。また、85〜125℃、1000〜2000時間放置の条件下では、10〜10000ppmに保持される。そして、20ppm以上ではさらに放置特性が安定し、5000ppm以下では比抵抗が低減するので、この条件下では20〜5000ppmに保持されることが好ましい。
【0044】
そして、電解液作成時に添加するDTPAとリン酸生成性化合物は、電解液中のDTPAとリン酸イオンが、モル比にしてDTPA:リン酸イオン=1:20〜3:1である。さらに、好ましくは、1:10〜1:1である。DTPAが、この比率より少ないと、DTPAがアルミニウムとリン酸イオンと反応して水溶性結合体を形成しても、リン酸イオンが多い場合には電解液中にリン酸イオンが多量に残存するので、アルミ電解コンデンサの漏れ電流特性が低下する。また、この比率より多いと、理由は定かではないが、アルミ電解コンデンサの放置特性が劣化する。
【0045】
また、電解液中の一定量のリン酸イオンはアルミ電解コンデンサ作成時に電極箔と反応して消費されるので、電解液作成時に添加する量は0.002モル重量%以上必要であり、また、0.04モル重量%以上添加すると初期的な皮膜溶解が激しく、アルミ電解コンデンサの放置特性は低下する。したがって、0.002〜0.04モル重量%が好ましく、さらに好ましくは、0.003〜0.03モル重量%である。
【0046】
そして、この電解液はpHが上昇せず、5〜7(水溶液として50倍に希釈して測定)に維持されていることが判明した。これは、電解液中に保持されたリン酸イオンによって、アルミニウムの溶解が抑制され、したがって、電解質のアニオン成分がアルミニウムと反応することが抑制されて、pHの上昇が抑制されているものと思われる。
【0047】
さらに、本発明のアルミ電解コンデンサにおいては、DTPAの酸化皮膜を溶解する作用によって、アルミ電解コンデンサの作成時に、陰極箔の自然酸化皮膜が溶解されることによるものと思われるが、初期の静電容量が向上する。
【0048】
ここで、DTPA以外のアミノポリカルボン酸であるEDTA、NTA等を用いても、放置後にはリン酸根濃度が検出下限以下になってしまい、アルミ電解コンデンサの特性は劣化する。
【0049】
また、これら以外のアルミニウムと錯体を形成する、例えばクエン酸等を用いた場合、常温付近の放置によって、コンデンサの開弁が発生し、電解液のpHが上昇する。これは、常温付近では、わずかに溶解したアルミニウムと電解質のアニオン成分が反応してpHが上昇すると、クエン酸の錯体形成能力が低下して、アルミニウムを放出する。そのため、放出されたアルミニウムと電解質のアニオン成分が反応してpHはさらに上昇し、pHが上昇するとアルミニウムの溶解は著しくなり、その結果、電極箔の劣化、開弁がおこるものと思われる。
【0050】
以上のように、本発明の水を主体とする溶媒とアジピン酸またはその塩とDTPAとリン酸生成性化合物の相乗作用により、従来にないインピーダンスが低く、放置特性が良好なアルミ電解コンデンサを実現することができる。
【0051】
また、本発明の電解液は水を主成分とした溶媒を用いているので、溶媒としてγ−ブチロラクトンを用いた従来の低インピーダンスアルミ電解コンデンサ用電解液より、封口ゴムを透過してのコンデンサ外部への透散が遅く、長寿命を得ることができる。さらに、高電圧使用などの規格外の使用によってコンデンサが故障した際にも、溶媒に水が多量に含有されているので発火が発生するなどの問題点がない。また、溶媒以外の成分は、アジピン酸またはその塩、DTPA、リン酸生成性化合物であり、電解液を構成する成分は安全性も高い。このように、耐環境性も良好である。
【0052】
以下、本発明について、実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。
【0053】
【実施例】
詳細に説明する。コンデンサ素子は陽極箔と、陰極箔をセパレータを介して巻回して形成する。陽極電極箔は、純度99.9%のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的あるいは電気化学的にエッチングして拡面処理した後、アジピン酸アンモニウムの水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いる。陰極箔として、純度99.9%のアルミニウム箔をエッチングして拡面処理した箔を用いた。
【0054】
上記のように構成したコンデンサ素子に、アルミ電解コンデンサの駆動用の電解液を含浸する。この電解液を含浸したコンデンサ素子を、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部に、ブチルゴム製の封口体を挿入し、さらに外装ケースの端部を絞り加工することによりアルミ電解コンデンサの封口を行う。
【0055】
ここで用いる電解液の組成と、その比抵抗を(表1)に示す。組成は、部で示した。また、従来例として、γ−ブチロラクトン75部、フタル酸エチルジメチルイミダゾリニウム25部の電解液を用いた。比抵抗は81Ωcmであった。
【0056】
以上のように構成したアルミ電解コンデンサの高温寿命試験を行った。アルミ電解コンデンサの定格は、6.3WV−5600μFである。試験条件は、125°C、定格電圧負荷、無負荷、1000時間及び、60℃、無負荷、3000時間である。試験後の電気的特性及び電解液中のリン酸根濃度(ppm)を(表2)〜(表4)に示す。なお、開弁したアルミ電解コンデンサについては、開弁直後の電解液中のリン酸根濃度を測定した。また、リン酸根濃度の検出限界は、10ppm未満であるので、これは<10で示した。また、従来例の初期特性は、静電容量が5540μF、tanδが0.101、漏れ電流が13μAであった。
【0057】
【表1】
Figure 0004720962
(注)EG :エチレングリコール
AAd :アジピン酸アンモニウム
DTPA:ジエチレントリアミン五酢酸
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
CiA :クエン酸
2PA :リン酸水素二アンモニウム
PA :リン酸
PPA :ピロリン酸
水の欄の( )の数字は、溶媒中の水の含有率
【0058】
【表2】
Figure 0004720962
(注)Cap:静電容量(μF)、tanδ:誘電損失の正接、
LC:漏れ電流(μA)、ΔCap:静電容量変化率(%)
リン酸根:リン酸根濃度(ppm)
【0059】
【表3】
Figure 0004720962
【0060】
【表4】
Figure 0004720962
【0061】
(表1)〜(表4)ならびに従来例の特性から分かるように、実施例の比抵抗は14〜67Ωcmと、従来例の81Ωcmよりはるかに低く、初期のtanδも0.046〜0.092と、従来例の0.101より低い。また、静電容量は5680〜5740μFと、従来例の5540μFより大きくなっている。
【0062】
そして、(表2)〜(表4)から分かるように、リン酸生成性化合物としてリン酸水素二アンモニウム、正リン酸、ピロリン酸を1部添加した実施例4、8、9の1000〜3000時間経過後のリン酸根濃度は、それぞれの試験条件で2150〜4890ppmであり、125℃、60℃の放置特性も良好であった。また、リン酸水素二アンモニウムを0.5〜2部(リン酸イオン濃度にして0.0037〜0.015モル重量%)添加した実施例1、4、7では、リン酸根濃度は590〜5810ppmであり、放置特性も良好である。
【0063】
また、溶媒中の水の含有率が40〜85%である実施例2、4、6では、リン酸根濃度は1650〜4800ppmであり、放置特性も良好である。さらに、アジピン酸アンモニウムの含有量が10〜18部の実施例3〜5でのリン酸根濃度は1840〜4800ppmであり、放置特性も良好である。
【0064】
これに比べて、リン酸水素二アンモニウムのみを添加した比較例4、5は、それぞれ、電解液に、50ppm、10000ppmのリン酸水素二アンモニウムを添加したが、開弁にいたっており、さらに、開弁した時点での電解液からはリン酸根が検出されない。このことは電解液中のリン酸イオンが消失したことを示している。また、リン酸水素二アンモニウムを1部添加した比較例5の初期の漏れ電流は高い。
【0065】
さらに、DTPA、リン酸水素二アンモニウムを添加しない比較例6においては、比抵抗が80、tanδは0.108〜0.109と、比抵抗、tanδ共に、従来品のレベルとしては最も低いレベルにあるが、開弁にいたっており、本発明によって、従来例と比較しても分かるように、従来にない低tanδ特性を有し、放置特性の良好なアルミ電解コンデンサを実現していることが分かる。
【0066】
また、DTPA:リン酸が1:26である比較例1では、無負荷試験後の漏れ電流が増大している。そして、DTPA以外のアミノポリカルボン酸であるEDTAを用いた比較例2は、125℃での放置後にはリン酸根は検出されず、開弁にいたっており、DTPAの効果が分かる。
【0067】
さらに、アルミニウムと錯体を形成するクエン酸を用いた比較例3は、125℃の放置特性は良好であるが、60℃の放置特性は劣化している。なお、5000時間後には開弁したことを確認している。また、コンデンサの電解液の初期のpHは5.8であり、60℃の放置後のコンデンサの電解液のpHは、7.8であった。これは、60℃ではアルミニウムの水酸化物等とアジピン酸が反応して、アンモニウムが過剰となり、pHが上昇する。そうなると、クエン酸の錯体形成能力が低下し、クエン酸添加の効果が低下する。しかしながら、125℃放置においては、アンモニウムとアジピン酸が反応しても、アンモニウムがガス化するのでそれほどpHが上昇せず、クエン酸の錯体形成能力が維持されて、効果が維持されていることによるものと思われる。なお、放置後の静電容量が上昇しているが、これはpHが上昇して、陽極箔の酸化皮膜が溶解したためにおこったものと思われる。
【0068】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを、モル比でジエチレントリアミン五酢酸:リン酸イオン=1:10〜1:1となり、かつリン酸イオン濃度を0.002〜0.04モル重量%となるように添加することによりジエチレントリアミン五酢酸とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を主成分とする溶媒に、電解液中での含有率が8〜18wt%のアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液とともに、コンデンサ素子内に含有し、電解液のリン酸根濃度を10〜40000ppmに保持し、pHを5〜7に維持しているので、電解液の比抵抗を低減することによって低インピーダンス特性を図ることができ、さらに、電解液中のリン酸イオンを適正量に長時間にわたって保つことができ、放置後の電極箔の劣化を抑制することによって、良好な放置特性と、初期の静電容量の向上を図ることができるアルミ電解コンデンサ及びそれに用いるアルミ電解コンデンサ用電解液とその製造方法を提供することができる。

Claims (5)

  1. ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを、モル比でジエチレントリアミン五酢酸:リン酸イオン=1:10〜1:1となり、かつリン酸イオン濃度を0.002〜0.04モル重量%となるように添加することにより生成されるジエチレントリアミン五酢酸とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を、水を主成分とする溶媒と、電解液中での含有率が8〜18wt%のアジピン酸またはその塩の少なくとも一種とともに、コンデンサ素子内に含有し、コンデンサ素子中の電解液のリン酸根濃度を10〜40000ppmに保持し、pHを5〜7に維持するアルミ電解コンデンサ。
  2. 請求項1記載の結合体が、アルミニウムからなる電極箔を巻回したコンデンサ素子に、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを添加し、水を主成分とする溶媒にアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液を含浸して生成されるアルミ電解コンデンサ。
  3. 水を主成分とする溶媒に、電解液中での含有率が8〜18wt%のアジピン酸またはその塩の少なくとも一種を溶解した電解液であって、ジエチレントリアミン五酢酸と、正リン酸、直鎖状の縮合リン酸、またはその塩から選ばれる水溶液中でリン酸イオンを生成する化合物とを、モル比でジエチレントリアミン五酢酸:リン酸イオン=1:10〜1:1となり、かつリン酸イオン濃度を0.002〜0.04モル重量%となるように添加することにより生成されるジエチレントリアミン五酢酸とアルミニウムとからなる水溶性の錯体にリン酸イオンが結合した結合体を含有し、電解液のリン酸根濃度を10〜40000ppmに保持し、pHを5〜7に維持するアルミ電解コンデンサ用電解液。
  4. 溶媒中の水の含有率が35〜100wt%である、請求項1記載のアルミ電解コンデンサ。
  5. 溶媒中の水の含有率が35〜100wt%である、請求項3記載のアルミ電解コンデンサ用電解液。
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