JP4719731B2 - 切削性に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法 - Google Patents

切削性に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、切削性に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法に関し、より特定的には、内部にシリコンを含む粒子が分散配置され、切削性に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法に関する。
一般に、切削加工用の材料の切削性を評価する基準としては、切屑処理性(切屑分断性)、切削加工面の品質、切削に用いる工具の寿命および切削抵抗が挙げられる。また、自動旋盤による高速切削においては、切屑処理性が最も重要視される。
切屑処理性に優れたアルミニウム合金として、従来JIS2011合金およびJIS6262合金が知られている。このJIS2011合金およびJIS6262合金は、鉛(Pb)−ビスマス(Bi)共晶組成を利用したものである。アルミニウム(Al)−銅(Cu)系の合金であるJIS2011合金は、特に切屑処理性が要求される一方で、耐食性および陽極酸化性はあまり重要視されない用途に用いられる。また、アルミニウム(Al)−マグネシウム(Mg)−シリコン(Si)系のJIS6262合金は、切削性、耐食性、陽極酸化性がそれぞれ適度に要求される用途に用いられる。このように、上述したJIS2011合金およびJIS6262合金はその用途により使い分けられる。
しかし、上述したJIS2011合金およびJIS6262合金は鉛を含有しているため、環境に対する影響が懸念される。そのため、環境保護の観点から、鉛を含まず、切屑処理性(切屑分断性)に優れたアルミニウム合金の開発が望まれている。
このような鉛を含まず切屑分断性に優れたアルミニウム合金として、従来さまざまなものが提案されている。従来提案されているアルミニウム合金の1つとして、JIS2011合金およびJIS6262合金に含まれる鉛を他の低融点金属である錫(Sn)あるいはインジウム(In)などに置き換えたもの(すなわち、錫(Sn)−ビスマス(Bi)共晶組成あるいは錫(Sn)−ビスマス(Bi)−インジウム(In)共晶組成を利用したアルミニウム合金)が挙げられる。
上述した低融点金属を含む共晶組成を利用したアルミニウム合金は、低融点共晶合金をマトリックス中に分散させたものである。このようなアルミニウム合金では、切削加工の際に発生する熱によってマトリックス中に分散させた低融点共晶合金が溶解する。この結果、マトリックス中において亀裂が伝播することにより、切屑を分断させることができる。しかし、このような低融点金属を含むアルミニウム合金は、スクラップとしてリサイクルする場合、錫などを必要とする比較的少ない合金種にしか転用できない(リサイクル性が悪くなる)という問題がある。
したがって、上述のような低融点共晶合金をアルミニウム合金のマトリックス中に分散させる代わりに、シリコン(Si)粒子あるいはシリコン(Si)系化合物粒子などの硬質粒子を合金中に分散させることによって、切屑分断性を向上させる手法が注目されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
上述した硬質粒子をマトリックス中に分散させた合金では、硬質粒子とマトリックス材である母層のアルミニウム合金との界面において歪が蓄積することにより、剪断力による亀裂が伝播する。この結果、切削加工の際に発生する切屑を分断できるとされている。
特許第3107517号明細書 特許第3301919号明細書
しかし、上述のような硬質粒子をマトリックス中に分散させた従来のアルミニウム合金では、以下のような問題があった。すなわち、シリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子といった硬質粒子がマトリックス中に多量に存在すると、切削時に切削工具が過剰に磨耗する。このため、切削工具の寿命が短くなるという欠点があった。
また、従来のシリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子といった硬質粒子をマトリックス中に分散させたアルミニウム合金は、所望の成分の合金を溶解し、大型の鋳塊としてビレット鋳造した後、再加熱して押出加工することにより製造される。このため、鋳造時の凝固速度は低い。したがって、マトリックス中に晶出する硬質粒子について粒径の比較的大きいものが多くなる。また、鋳造された鋳塊の端部と中央部とでの冷却速度の差も大きいので、硬質粒子の粒径ばらつきも大きくなる。さらに、硬質粒子の分散度も冷却速度の差に影響されるため、硬質粒子の個数密度について、鋳塊の端部と中央部とにおいてばらつきが大きくなってしまう。
このため、上述した従来のアルミニウム合金では、粒径の大きな硬質粒子が存在することによって切削工具の寿命が短くなっていた。さらに、硬質粒子の密度が低い部分(粗な部分)において亀裂の伝播が阻害されるため、切屑分断性が低下することになっていた。
発明者は、上述のような課題を解決するため、アルミニウム合金の組成に加えて、硬質粒子のサイズや分布状況の最適化、さらに圧延工程を利用して結晶組織の制御などを検討した。そこで、この発明の目的は、切削性に優れると共に、切削工具の寿命の短縮を抑制することが可能なアルミニウム合金圧延材およびその製造方法を提供することである。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材は、シリコン(Si)を質量%以上質量%以下、銅(Cu)を質量%以上質量%以下、マグネシウム(Mg)を0.001質量%以上0.15質量%以下、クロム(Cr)を0.001質量%以上0.質量%以下、チタン(Ti)を0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素(B)を0.001質量%以上0.006質量%以下、ストロンチウム(Sr)、アンチモン(Sb)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)およびリン(P)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.005質量%以上0.3質量%以下含み、残部がアルミニウム(Al)と不可避不純物からなる。また、上記アルミニウム合金圧延材では、内部に存在するシリコンを含む粒子の大きさが平均値で5μm以下、最大値で10μm以下である。また、上記アルミニウム合金圧延材では、アルミニウム合金の結晶組織が、熱間圧延組織、および熱間圧延組織と再結晶組織との混合組織からなる群より選ばれた1種の組織である。
このようにすれば、アルミニウム合金のマトリックス中に分散配置されるシリコンを含む粒子(硬質粒子)のサイズを小さくし、かつ、硬質粒子のサイズのばらつきを抑制できる。この結果、優れた切削性(切屑分断性)を実現すると共に、切削工具の損耗などを抑制することにより切削工具の寿命の短縮を抑制できる。また、上述のような結晶組織とすることにより、切削面の性状を良好に保つことができる。
また、従来JIS2011合金が適用されていたような用途に適したアルミニウム合金圧延材を得ることができる。具体的には、特に切屑処理性が要求される一方、耐食性および陽極酸化性はあまり重要視されないような用途に適用できるアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材は、シリコンを3質量%以上5質量%以下、銅を0.1質量%以上0.7質量%以下、マグネシウムを0.5質量%以上2質量%以下、クロムを0.01質量%以上0.3質量%以下含んでいてもよい。
この場合、JIS6262合金が適用されていたような用途に適したアルミニウム合金圧延材を得ることができる。具体的には、切削性(切屑処理性)、耐食性、陽極酸化性がそれぞれ適度に必要とされる用途に適用可能なアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材では、シリコンを含む粒子の大きさが平均値で2μm以下、最大値で5μm以下であってもよい。
この場合、硬質粒子としてのシリコンを含む粒子のサイズをより小さくしてマトリックス中に分散させることになるので、切削性を向上させることができるとともに切削工具の寿命の短縮を確実に抑制することができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材では、隣接したシリコンを含む粒子の間の距離の標準偏差が1.5μm以下であることが好ましい。
この場合、シリコンを含む粒子をマトリックス中により均一に分散配置することになるので、切削性(切屑分断性)を向上させることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材は、ダイス皮剥ぎ処理により形成された表面を有することが好ましい。
この場合、その製造工程においてアルミニウム合金圧延材の表面に変質層や欠陥などが発生しても、その欠陥などが発生した表面層をダイス皮剥ぎ処理により除去する事ができる。したがって、アルミニウム合金圧延材の表面に欠陥部が残存する可能性を低減できる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法は、以下の工程を備える。
(a) シリコンを質量%以上質量%以下、銅を質量%以上質量%以下、マグネシウムを0.001質量%以上0.15質量%以下、クロムを0.001質量%以上0.質量%以下、チタンを0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素を0.001質量%以上0.006質量%以下、ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.005質量%以上0.3質量%以下含み、残部がアルミニウムと不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を準備する工程。
(b) デンドライトの2次枝間隔が40μm以下となるように溶湯を連続鋳造することによって鋳造体を得る工程。
(c) 300℃以上550℃以下の温度範囲で40%以上の加工度で鋳造体を熱間圧延することによって圧延体を得る工程。
このようにすれば、本発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
また、JIS2011合金が適用されていたような用途に適したアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法では、溶湯が、シリコンを3質量%以上5質量%以下、銅を0.1質量%以上0.7質量%以下、マグネシウムを0.5質量%以上2質量%以下、クロムを0.01質量%以上0.3質量%以下含んでいてもよい。
この場合、JIS6262合金が適用されていたような用途に適したアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法は、以下の工程を備えていてもよい。
(d) 圧延体を、450℃以上550℃以下の温度範囲で10分以上2時間以下保持した後、圧延体に対して焼入れ処理を行なう工程。
(e) 焼入れ処理を行なった後、150℃以上200℃以下の温度範囲で4時間以上20時間以下、圧延体を保持することにより時効処理を行なう工程。
この場合、上記焼入れ処理を行なう工程および時効処理を行なう工程により、本発明に従ったアルミニウム合金圧延材の機械的特性を変更することができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法は、焼入れ処理を行なう工程と時効処理を行なう工程との間において、5%以上30%以下の加工度で圧延体に対して冷間加工を行なう工程を備えていてもよい。
この場合、上記冷間加工を行なう工程により、アルミニウム合金圧延材の内部から残留応力を除去する事ができるとともに、アルミニウム合金圧延材の寸法精度を向上させることができる。
この発明に従った切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法は、焼入れ処理を行なう工程の後で、圧延体の表面にダイス皮剥ぎ処理を施す工程を備えていてもよい。
この場合、アルミニウム合金圧延材の表面層に欠陥などが発生していても、ダイス皮剥ぎ処理によってその欠陥部を除去できる。したがって、表面性状の優れたアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
この発明によれば、マトリックス中にシリコンを含む微細な硬質粒子をほぼ均一に分散配置するので、切削性に優れるとともに切削工具の寿命の短縮を抑制することが可能なアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
発明者は、硬質粒子を分散させて切屑分断性を向上させたアルミニウム合金について研究を進めた結果、シリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子などの硬質粒子のサイズを微細化し、かつその寸法ばらつきを抑えるように制御した上で、硬質粒子がアルミニウム合金全体にほぼ均一に分散するように配置すれば、優れた切屑分断性を得ることができるとともに、切削に用いる工具の寿命の短縮を抑制できることを見出した。すなわち、本発明による切屑分断性に優れたアルミニウム合金圧延材は、シリコン(Si)を2質量%以上7質量%以下、銅(Cu)を0.1質量%以上8質量%以下、マグネシウム(Mg)を0.001質量%以上5質量%以下、クロム(Cr)を0.001質量%以上0.5質量%以下、ストロンチウム(Sr)、アンチモン(Sb)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)およびリン(P)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素(上記群より選ばれた1種または2種以上の元素)を合計で0.005質量%以上0.3質量%以下、チタン(Ti)を0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素(B)を0.001質量%以上0.006質量%以下含み、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる。本発明によるアルミニウム合金圧延材は、マトリックスとしてのアルミニウム合金と、そのマトリックス中に分散配置されたシリコンを含む粒子とからなる。本発明によるアルミニウム合金圧延材では、内部に存在する晶出シリコン粒子などのシリコンを含む粒子の大きさ(粒径)が平均値で5μm以下、最大値で10μm以下である。また、本発明によるアルミニウム合金圧延材では、アルミニウム合金の結晶組織が熱間圧延組織、および熱間圧延組織と再結晶組織との混合組織からなる群より選ばれた1種の組織である。
上述のような組成および組織のアルミニウム合金圧延材では、優れた切削処理性を実現できるとともに、切削時における切削工具の磨耗を抑制することができる。なお、上述したアルミニウム合金圧延材の成分について、シリコンの含有率(添加率)が2質量%未満では切屑分断性の向上が望めない。また、シリコンの含有率が7質量%を越えると切削工具の寿命が短くなる。ここで、切削工具の寿命の短縮をより効果的に抑制するため、シリコンの含有率は2質量%以上5質量%以下であることが望ましい。
また、銅およびマグネシウムは、アルミニウム合金圧延材の強度を向上させるために添加されている。但し、銅の含有率が0.1質量%未満では上述のような強度の向上といった効果は望めない。また、銅の含有率が8質量%を越える場合には、アルミニウム合金圧延材が脆化する。このため、切削加工面の品質が低下することになる。マグネシウムについても、その含有率が0.001質量%未満の場合にはアルミニウム合金圧延材の強度の向上といった顕著な効果を得ることはできない。また、マグネシウムの含有率が5質量%を越えると、銅の場合と同様にアルミニウム合金圧延材が脆化するので、切削加工面の品質が低下することになる。
また、クロムの含有率が0.5質量%を超えると、クロムが他の添加元素あるいは不純物元素と化合物を生成するので、アルミニウム合金が脆化することになる。このため、切削加工面の品質(精度)が劣化することになる。また、クロムは再結晶粒を微細化する作用によってアルミニウム合金の強度および延性を向上させるが、クロムの含有率が0.001質量%未満では強度および延性の向上効果が得られない。
ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンは、凝固時に晶出する初晶シリコンを微細化する働きがある。これらの元素のうち1種以上の元素の合計の含有率が0.005質量%未満では、上述のような初晶シリコンを微細化するといった効果は見られない。また、上述した元素について、その合計の含有率が0.3質量%を超えて大きくなっても、初晶シリコンを微細化する効果の増大率は頭打ちとなる(0.3質量%を超えて合計の添加率を大きくしても、含有率の増大に見合った効果を得ることは難しい)。
また、チタンおよび硼素は、アルミニウム合金圧延材の鋳造組織を微細化する働きがある。さらに、チタンおよび硼素を添加することにより、シリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子などのシリコンを含む粒子の分散度を均一にするといった効果も得ることができる。ここで、チタンの含有率を0.005質量%未満もしくは硼素の含有率を0.001質量%未満とした場合には、上述のような効果を得ることはできない。また、チタンの含有率が0.03質量%を超えるような値となった場合、あるいは硼素の含有率が0.006質量%を超えるような値となった場合、それぞれの元素の含有率の増大に見合う程度に上述した効果がさらに増大するということはない(効果は頭打ちとなる)。
また、従来JIS2011合金を適用していたような用途、すなわち切屑処理性が要求され、耐食性および陽極酸化性はあまり重要視されないような用途に本発明によるアルミニウム合金圧延材を用いる場合には、アルミニウム合金圧延材の組成を以下のようにすることが好ましい。具体的には、アルミニウム合金圧延材において、シリコン(Si)の含有率を3質量%以上5質量%以下、銅(Cu)の含有率を4質量%以上7質量%以下、マグネシウム(Mg)の含有率を0.001質量%以上0.15質量%以下、クロム(Cr)の含有率を0.001質量%以上0.1質量%以下、ストロンチウム(Sr)、アンチモン(Sb)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)およびリン(P)からなる群より選ばれた少なくとも1種(1種または2種以上)の元素の合計の含有率を0.005質量%以上0.3質量%以下、チタン(Ti)の含有率を0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素(B)の含有率を0.001質量%以上0.006質量%以下とすることが好ましい。
ここで、シリコンの含有率は切屑分断性および工具寿命に関係している。そして、従来のJIS2011合金と同等以上の切屑分断性が得られ、かつ、従来のJIS2011合金と同程度の工具寿命を得るためには、シリコンの含有率として3質量%以上5質量%以下という範囲が最適である。
また、銅およびマグネシウムは材料強度の向上を目的に添加する。そして、従来のJIS2011合金と同等の切屑分断性を得るためには、マグネシウムの含有率を0.15質量%以下とすることが好ましい。また、従来のJIS2011合金と同等の強度を得るためには、銅の含有率の範囲を4質量%以上7質量%以下とすることが好ましい。さらに、クロムの添加もアルミニウム合金の延性を向上させるが、従来のJIS2011合金と同等の切屑分断性を得るためには、クロムの含有率を0.1質量%以下とすることが好ましい。
また、従来JIS6262合金を適用していたような用途、すなわち切屑処理性、耐食性、陽極酸化性がそれぞれ適度に要求されるような用途において本発明によるアルミニウム合金圧延材を使用する場合、アルミニウム合金圧延材の組成を以下のようにすることが好ましい。具体的には、アルミニウム合金圧延材の組成において、シリコンの含有率を3質量%以上5質量%以下、銅の含有率を0.1質量%以上0.7質量%以下、マグネシウムの含有率を0.5質量%以上2質量%以下、クロムの含有率を0.01質量%以上0.3質量%以下、ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の合計の含有を0.005質量%以上0.3質量%以下、チタンの含有率を0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素の含有率を0.001質量%以上0.006質量%以下とすることが好ましい。
ここで、シリコンの含有率は切屑分断性および工具寿命に関係している。そして、従来のJIS6262合金と同等以上の切屑分断性が得られ、かつ、従来のJIS6262合金と同程度の工具寿命を得るためには、シリコンの含有率の範囲を3質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
また、銅およびマグネシウムは材料強度の向上を目的に添加するが、銅の含有率が0.7質量%を超えると、アルミニウム合金のアルマイト性が低下するとともに、耐食性が低下する。また、従来のJIS6262合金と同等の強度を得るためには、マグネシウムの含有率を0.5質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。また、クロムは材料の強度および延性を向上させるために添加するが、従来のJIS6262合金と同等の強度および延性を有し、かつ、JIS6262合金と同等以上の切屑分断性を有するアルミニウム合金を得るためには、クロムの含有率を0.01質量%以上0.3質量%以下とすることが好ましい。
また、本発明によるアルミニウム合金圧延材の内部に晶出しているシリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子などのシリコンを含む粒子(硬質粒子)については、微細粒であることが求められるとともに、切削工具の寿命短縮の原因となる粗大粒を含まないことが重要である。そのため、シリコンを含む粒子の平均粒径は上述したように5μm以下とすることが好ましい。また、シリコンを含む粒子の最大粒径は10μmとすることが好ましい。
さらに、切屑分断性および工具寿命の短縮防止を図るといった点で、より優れたアルミニウム合金圧延材を得るためには、シリコンを含む粒子の平均粒径(シリコンを含む粒子(硬質粒子)の大きさの平均値)を2μm以下とすることがより好ましい。また、シリコンを含む粒子の最大粒径(硬質粒子の大きさの最大値)を5μm以下とすることが好ましい。
さらに、シリコンを含む粒子の間の距離の不均一性は、アルミニウム合金圧延材の切屑における亀裂の伝播を阻害する要因となる。したがって、シリコンを含む粒子であって隣接する2つの粒子間の距離の標準偏差を1.5μm以下とすることが好ましい。このようにすれば、アルミニウム合金圧延材の切削性を向上させることができる。
また、発明者がアルミニウム合金圧延材の結晶組織について種々調査した結果、結晶組織が鋳造組織である場合には、切屑分断性は優れるものの切削面の性状が劣化するために、切削加工用材料として望ましい特性は得られなかった。また、押出加工によって得られる組織では切屑分断性が劣化することがわかった。
発明者は、研究の結果、切削面の性状が良好でかつ切屑分断性に優れた材料の結晶組織としては、熱間圧延加工を施すことによって得られる熱間圧延組織(熱間加工組織)が望ましいという知見を得た。これは、鋳造組織では材料が脆くなるために切削面性状が劣化し、また、押出組織ではアルミニウム合金の結晶粒径が大きくなるので、亀裂の伝播が阻害されるが、熱間圧延組織では上述のような不具合が発生しない、あるいは発生してもその程度はごく軽微であると考えられるからである。このため、本発明に従ったアルミニウム合金圧延材においては、アルミニウム合金の結晶組織を上述のように熱間圧延組織または熱間圧延組織と再結晶組織との混合組織とすることが好ましい。
また、本発明によるアルミニウム合金圧延材は、ダイス皮剥ぎ処理により形成された表面を有していてもよい。このようにすれば、製造工程などにおいてアルミニウム合金圧延材の表面に欠陥などが発生しても、その欠陥が発生した部分をダイス皮剥ぎ処理により除去できる。したがって、表面欠陥の無いアルミニウム合金圧延材を得ることが可能になる。
次に、上述した本発明に従ったアルミニウム合金圧延材の製造方法を説明する。
まず、シリコンを2質量%以上7質量%、銅を0.1質量%以上8質量%以下、マグネシウムを0.001質量%以上5質量%以下、クロムを0.001質量%以上0.5質量%以下含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる溶湯(アルミニウム合金溶湯)を準備する。
なお、従来JIS2011合金を適用していたような用途、すなわち特に切屑処理性が要求され、耐食性および陽極酸化性はあまり重要ではない用途に適した合金を製造する場合、上述した溶湯の成分については、シリコンの含有率を3質量%以上5質量%以下、銅の含有率を4質量%以上7質量%以下、マグネシウムの含有率を0.001質量%以上0.15質量%以下、クロムの含有率を0.001質量%以上0.1質量%以下とすることが好ましい。また、従来JIS6262合金を適用していたような用途、すなわち切削性、耐食性および陽極酸化性がそれぞれ適度に要求されるような用途に適した合金を製造する場合には、上述した溶湯の成分においてシリコンの含有率を3質量%以上5質量%以下、銅の含有率を0.1質量%以上0.7質量%以下、マグネシウムの含有率を0.5質量%以上2質量%以下、クロムの含有率を0.01質量%以上0.3質量%以下とすることが好ましい。
上述のような溶湯を準備した後、ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンからなる群より選ばれた1種あるいは2種以上の元素を、合計の含有率が0.005質量%以上0.3質量%以下となるように上記溶湯に添加する。さらに、鋳造直前に、溶湯におけるチタンの濃度を50ppm以上300ppm以下(チタンの含有率が0.005質量%以上0.03質量%以下)、および硼素の濃度を10ppm以上60ppm以下(硼素の含有率が0.001質量%以上0.006質量%以下)となるように、アルミニウム(Al)−チタン(Ti)−硼素(P)合金を溶湯に添加する。このようにして、アルミニウム合金の溶湯を準備する工程を実施する。
次に、上述のように成分を調整した溶湯を、連続鋳造法によりDAS(デンドライトアームスペーシング)が40μm以下となるような冷却速度で鋳造する。このような鋳造体を得る工程としての連続鋳造工程により、連続鋳塊を製造する。なお、ここでDASとはデンドライトの2次枝間隔を意味する。
そして、連続鋳造装置に連結するように設置された圧延機によって、鋳塊を300℃以下に冷却することなく(300℃以上550℃以下の温度条件で)40%以上の加工度で熱間加工を行なう。このようにして、圧延体を得る工程を実施する。
なお、鋳造時の冷却速度を高めるのは、鋳塊中に析出するシリコン粒子を微細かつ均一に分散させるために鋳造組織を微細化するためである。そして、鋳造組織の微細化の指標として、上述したDASが40μm以下であるという指標を用いることができる。また、熱間加工組織(熱間圧延組織)を得るためには、上述のような300℃以上550℃以下の温度で40%以上の加工度を与えることが必要である。
このように熱間加工を施した後、調質工程を実施する。調質工程としては、熱間加工後の材料を450℃以上550℃以下という温度条件で10分以上2時間以下の時間保持する。その後に水焼入れ処理を行なう。このようにして、圧延体に対して焼入れ処理を行なう工程を実施する。
ここで、温度条件の下限を450℃としたのは、温度が450℃未満では溶体化が不充分であり、その後の時効処理で充分な強度が得られないからである。また、温度条件の上限を550℃としたのは、550℃を超える温度での処理では、水素のガス化によるブリスターの発生や、結晶粒界の再溶融が起こるためである。また、保持時間(処理時間)の下限を10分としたのは、処理時間が10分未満では粒界偏析物を固溶化させることができないからである。また、保持時間の上限を2時間としたのは、粒界編析物は2時間以内でほぼ完全に固溶化させることができるため、2時間を超える処理時間は必要無いからである。
そして、この水焼入れ処理後に時効処理を行なう。時効処理の条件としては、150℃以上200℃以下という温度条件で保持時間を4時間以上20時間以下とすることができる。
ここで、時効処理の条件として、150℃未満の温度あるいは4時間未満の処理時間では、充分な時効硬化が起こらず必要な強度が得られない。また、200℃を超える温度あるいは20時間を超える処理時間によっては、過時効状態となるため、強度が低下する。
なお、焼入れ時の条件および時効処理の条件は、最終的に要求されるアルミニウム合金圧延材の機械的特性に応じて最適化されることが望ましい。つまり、焼入れ処理や時効処理の条件を変更することにより、アルミニウム合金圧延材の機械的特性を変更することができる。但し、この場合、時効処理などを高温で長時間行なうと、合金中に析出したシリコンを含む粒子としてのシリコン粒子が大きく成長してしまう。このようにシリコン粒子が大きく成長すると切屑分断性が劣化する。したがって、要求される機械的特性を満たす範囲でできるだけ低温かつ短時間の時効処理を行なうことが好ましい。
また、切削用の材料としてさらに適したものとするため、あるいは切削後の材料における寸法精度の向上または残留応力の除去を目的として、上述した焼入れ処理を行なう工程(焼入れ工程)と時効処理工程との間に、加工度が5%以上30%以下である冷間加工工程を実施してもよい。
ここで、冷間加工工程の加工度が5%未満の場合、表面残留応力を除去する効果を得ることができない。また、加工度が30%を超えると、かえって表面残留応力を大きくしてしまう。
さらに、アルミニウム合金圧延材の表面変質層あるいは表面欠陥などの外傷を除去するため、焼入れ工程後にアルミニウム合金圧延材の表面層を除去するダイス皮剥ぎ処理を行なってもよい。
本発明によるアルミニウム合金圧延材の効果を確認するため、表1および表2に示したように、本発明の実施例としての試料(試料番号1〜試料12)および比較例としての試料(試料番号13〜試料番号22)を準備した。
Figure 0004719731
Figure 0004719731
表1および表2に示した試料1〜試料22の製造方法を簡単に説明する。まず、アルミニウムと不可避不純物からなる、純度99.7%のアルミニウムインゴットを溶解する。そして、この溶湯にシリコン、銅、マグネシウムおよびクロムを単体あるいはアルミニウムとの合金(母合金)として添加した。このようにして、溶湯におけるシリコン、銅、マグネシウムおよびクロムの濃度を各試料ごとの所望の濃度となるように調整した。また、さらにナトリウム、ストロンチウム、アンチモン、カルシウムおよびリンについても、アルミニウムとの合金(母合金)としてそれぞれの元素が所望の濃度となるように溶湯に添加した。
そして、チタンおよび硼素の溶湯における濃度が所望の濃度となるように、鋳造直前にチタンおよび硼素をアルミニウムとの合金(母合金)として溶湯に添加した。その後、連続鋳造機を用いて、連続鋳塊を製造した。
そして、鋳塊を冷却することなく、連続鋳造機に連続するように設置した熱間圧延機に鋳塊を投入した。この熱間圧延機において、当該鋳塊に対して熱間加工を行ない、直径(φ)が11.7mmの丸棒を得た。なお、鋳塊におけるDASについては、連続鋳造機における鋳型の冷却水の条件を調整することにより変化させた。また、DASは、熱間圧延前の鋳塊を対象にして、軽金属協会「アルミニウムのデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定法」に準拠し、交線方により算出した。
その後、丸棒に対して冷間加工を行なうことにより、その直径を7.3mmとした。次に、温度条件を530℃とし、保持時間を2時間とした溶体化処理を行なった。この溶体化処理後水焼入れを行なった。その後、皮剥ぎ工程を実施することにより、丸棒の直径を6.95mmとした。そして、加工度が約10%の冷間加工を丸棒に対して行なった。この結果、直径が6.5mmの棒状の試料を得た。この棒状の試料に対して、温度条件が175℃、処理時間が8時間の時効処理を行なった。このようにして、表1および表2に示した試料番号1〜試料番号22のそれぞれの試料を作製した。
作製したそれぞれの試料について、シリコンを含む粒子(硬質粒子)であるシリコン粒子の平均粒径、最大粒径、粒子間隔の標準偏差をそれぞれ測定した。また、それぞれの試料について、切屑分断性および切削に用いた切削工具の寿命についても評価した。その結果も表1および表2に示されている。
ここで、平均粒径は、以下のような手順で導出した。まず、各試料の横断面を鏡面研磨する。そして、その研磨した面について、光学顕微鏡を用いて1000倍に拡大した写真を撮影する。その写真をデジタル処理し、コンピュータ装置を用いて画像解析を行なった。この画像解析により、研磨した面に現れている個々のシリコン粒子断面の面積を測定した。そして、その測定結果から、個々の粒子の断面が、それぞれ測定した面積と同じ面積を有する真円と仮定したときの直径(等価直径)を算出した。この等価直径の平均値を平均粒径とした。また、最大粒径は、上述した等価直径のうち最大のものを用いた。
また、粒子間隔の標準偏差は以下のような方法で算出した。すなわち、平均粒子径の場合と同様に、まず試料の横断面を鏡面研磨した。そして、この研磨した面について、光学顕微鏡を用いて1000倍の倍率の写真を撮影した。次に、その写真において、シリコンを含む粒子としてのリコン粒子あるいはシリコン系化合物粒子の個数を計数した。その計数した粒子の個数に基づいて、粒子が稠密に配置しているものと仮定したときの粒子間の最短距離を求めた。
なお、上述した粒子間隔は、粒子の重心点間の距離であって、粒子の外周同士の間の距離を意味するものではない。そして、1つの試料から縦断面および横断面についてそれぞれ20点以上、無作為抽出した視野における写真を撮影し、それぞれの写真について粒子間隔の平均値を上述した方法により算出した。さらに、それらの粒子間隔について標準偏差を求めた。
また、切屑分断性(切削性)の評価は、表3に示したような条件の下で実施した。
Figure 0004719731
具体的な評価の手法としては、従来の材料に対する相対比較を行なった。すなわち、従来のJIS2011合金と同じ用途に適用できる材料を2011代替の試料であるとしてJIS2011合金と比較した。また同様に、従来JIS6262合金と同じ用途に適用できる材料を6262代替として、JIS6262合金と比較した。
切屑分断性の評価としては、切屑(切粉)100個当りの質量を測定した。そして、従来材における切屑100個当りの質量と比べて、その質量が3%以上大きくなったものを×と表示した。
また、工具寿命については、特定形状の部品を連続して切削加工し、切削加工後の試料の表面粗度が製品規格を外れるまでに作製できる試料の個数を比較することにより従来材との相対評価を行なった。具体的には、従来材と比べて作製できる個数が5%以上低下したものは×と表示した。
表1および表2からもわかるように、本発明の実施例としての試料は、いずれも切屑分断性および工具寿命について良好な結果を示している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (8)

  1. シリコンを質量%以上質量%以下、銅を質量%以上質量%以下、マグネシウムを0.001質量%以上0.15質量%以下、クロムを0.001質量%以上0.質量%以下、チタンを0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素を0.001質量%以上0.006質量%以下、ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.005質量%以上0.3質量%以下含み、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、
    内部に存在するシリコンを含む粒子の大きさが平均値で5μm以下、最大値で10μm以下であり、かつ、アルミニウム合金の結晶組織が、熱間圧延組織、および熱間圧延組織と再結晶組織との混合組織からなる群より選ばれた1種の組織である、切削性に優れたアルミニウム合金圧延材。
  2. 前記シリコンを含む粒子の大きさが平均値で2μm以下、最大値で5μm以下である、請求項1に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材。
  3. 隣接した前記シリコンを含む粒子の間の距離の標準偏差が1.5μm以下である、請求項1または2に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材。
  4. ダイス皮剥ぎ処理により形成された表面を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材。
  5. シリコンを質量%以上質量%以下、銅を質量%以上質量%以下、マグネシウムを0.001質量%以上0.15質量%以下、クロムを0.001質量%以上0.質量%以下、チタンを0.005質量%以上0.03質量%以下、硼素を0.001質量%以上0.006質量%以下、ストロンチウム、アンチモン、カルシウム、ナトリウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.005質量%以上0.3質量%以下含み、残部がアルミニウムと不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を準備する工程と、
    デンドライトの2次枝間隔が40μm以下となるように前記溶湯を連続鋳造することによって鋳造体を得る工程と、
    300℃以上550℃以下の温度範囲で40%以上の加工度で前記鋳造体を熱間圧延することによって圧延体を得る工程とを備える、切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
  6. 前記圧延体を、450℃以上550℃以下の温度範囲で10分以上2時間以下保持した後、前記圧延体に対して焼入れ処理を行なう工程と、
    前記焼入れ処理を行なった後、150℃以上200℃以下の温度範囲で4時間以上20時間以下、前記圧延体を保持することにより時効処理を行なう工程とを備える、請求項に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
  7. 前記焼入れ処理を行なう工程と前記時効処理を行なう工程との間において、5%以上30%以下の加工度で前記圧延体に対して冷間加工を行なう工程を備える、請求項に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
  8. 前記焼入れ処理を行なう工程の後で、前記圧延体の表面にダイス皮剥ぎ処理を施す工程を備える、請求項のいずれか1項に記載の切削性に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
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