JP4715023B2 - フラーレン誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、フラーレン誘導体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図14(A)及び(B)に示されるフラーレン分子C60やC70等は、1985年に炭素のレーザアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中に発見され(Kroto,H.W.;Heath,J.R.;O'Brien,S.C.;Curl,R.F.;Smalley,R.E.Nature 1985.318,162.)、更に5年後の1990年に炭素電極のアーク放電法による製造方法が見出された。それ以来、フラーレン分子は炭素系半導体材料等として注目されてきた。
【0003】
また、図15に示すような、フラーレン分子を構成する炭素原子に、複数の水酸基を付加した構造を持った化合物であるポリ水酸化フラーレン(通称「フラレノール(Fullerenol)」と呼ばれており、以下、フラレノールと称する。)は、1992年にChiangらによって最初に合成例が報告された(Chiang,L.Y.;Swirczewski,J.W.;Hsu,C.S.;Chowdhury,S.K.;Cameron,S.;Creegan,K.J.Chem.Soc,Commun.1992,1791 及び Chiang,L.Y.;Wang,L.Y.;Swirczewski,J.W.;Soled,S.;Cameron,S.J.Org.Chem.1994,57,3960)。それ以来、一定量以上の水酸基を導入したフラレノールは、特に水溶性である特性が注目され、主にバイオ関連の技術分野で研究されてきた。
【0004】
さらに、図16に示すような、上記のフラレノールの水酸基がOSO3H基と置き換わった化合物である硫酸水素エステル化フラレノールが1994年にChiangらによって報告された(Chiang,L.Y.;Wang,L.Y.;Swirczewski,J.W.;Soled,S.;Cameron,S.J.Org.Chem.1994,59,3960)。
【0005】
図17は、従来公知の製造方法による、フラーレン分子からフラレノール又は硫酸水素エステル化フラレノールを合成する反応構造式であり、フラーレン分子(例えばC60)と発煙硫酸との反応で得られる反応生成物を無水ジエチルエーテル中に投入することによって、まずシクロスルホン化フラーレンを得、これを加水分解することによって、硫酸水素エステル化フラレノール又はフラレノールを得ることができる。
【0006】
近年、例えば自動車駆動用の高分子固体電解質型の燃料電池として、パーフルオロスルホン酸樹脂(Du Pont 社製の Nafion(R) など)のようなプロトン(水素イオン)伝導性の高分子材料を用いたものが知られている。
【0007】
また、比較的新しいプロトン伝導体として、H3Mo12PO40・29H2OやSb2O5・5.4H2Oなどの多くの水和水を持つポリモリブデン酸類や酸化物も知られている。
【0008】
これらの高分子材料や水和化合物は、湿潤状態に置かれると、常温付近で高いプロトン伝導性を示す。即ち、パーフルオロスルホン酸樹脂を例にとると、そのスルホン酸基より電離したプロトンは、高分子マトリックス中に大量に取込まれている水分と結合(水素結合)してプロトン化した水、つまりオキソニウムイオン(H3O+)を生成し、このオキソニウムイオンの形態をとってプロトンが高分子マトリックス内をスムーズに移動することができるので、この種のマトリックス材料は常温下でもかなり高いプロトン伝導効果を発揮できる。
【0009】
一方、最近になってこれらとは伝導機構の全く異なるプロトン伝導体も開発されている。即ち、YbをドープしたSrCeO3などのペロプスカイト構造を有する複合金属酸化物は、水分を移動媒体としなくても、プロトン伝導性を有することが見出された。この複合金属酸化物においては、プロトンはペロプスカイト構造の骨格を形成している酸素イオン間を単独でチャネリングして伝導されると考えられている。
【0010】
この場合、この伝導性のプロトンは初めから複合金属酸化物中に存在しているわけではない。ペロプスカイト構造が周囲の雰囲気ガス中に含まれている水蒸気と接触した際、その高温の水分子が、ドープによりペロプスカイト構造中に形成されていた酸素欠陥部と反応し、この反応により初めてプロトンが発生するのだと考えられる。
【0011】
【発明に至る経過】
しかしながら、上述した各種のプロトン伝導体は次のような問題点が指摘されている。
【0012】
まず、前記パーフルオロスルホン酸樹脂などのマトリックス材料では、プロトンの伝導性を高く維持するために、使用中、継続的に十分な湿潤状態に置かれることが必要である。したがって、燃料電池等のシステムの構成には、加湿装置や各種の付随装置が要求され、装置の規模が大型化したり、システム構築のコストアップが避けられない。
【0013】
さらに、作動温度も、マトリックスに含まれる水分の凍結や沸騰を防ぐため、温度範囲が広くないという問題がある。
【0014】
また、ペロプスカイト構造を持つ前記複合金属酸化物の場合、意味のあるプロトンの伝導が行われるためには、作動温度を500℃以上という高温に維持することが必要である。
【0015】
このように、従来のプロトン伝導体は湿分を補給したり、水蒸気を必要とするなど雰囲気に対する依存性が高く、しかも作動温度が高過ぎるか又はその範囲が狭いという問題点があった。
【0016】
そこで、本出願人は、上記の如きフラレノール及び硫酸水素エステル化フラレノールがプロトン伝導性を示すことを見出し、特願平11−204038号及び特願2000−058116号において新規なプロトン伝導体(以下、先願発明と称する。)を提起した。この先願発明によるプロトン伝導体は、常温を含む広い温度域で用いることができ、その下限温度も特に高くはなく、しかも移動媒体としても水分を必要としないという、雰囲気依存性の小さなプロトン伝導体である。また、水酸基がOSO3H基に置き換わるとペレット中の伝導率は大きくなる傾向にあることを見出した。これは、水酸基よりもOSO3H基の方が水素の電離が起こり易いことによるものである。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らがプロトン伝導性の向上を目的として、単位質量当たりのスルホン酸基の数が多いことに着目し、硫酸水素エステル化フラレノールについて鋭意検討した結果、硫酸水素エステル化フラレノールは、硫酸のハーフエステル構造が、経時で容易に加水分解し、スルホン酸基が離脱してしまうという問題点を抱えていた。
【0018】
本発明は、上記した問題点を改善するためになされたものであって、その目的は、加水分解し難く、かつ良好なプロトン伝導性を有するフラーレン誘導体の製造方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記したような問題点を解決すべく鋭意検討したところ、図18及び図19に示すような、スルホン酸基が直接フラーレン骨格に結合した構造を持つ化合物は、加水分解し難く、良好な耐水・耐熱性を示し、かつ良好なプロトン伝導性を有することを見出し、そのフラーレン誘導体の製造方法に到達した。
【0020】
図20はスルホン酸基の安定性を示すものであるが、これによれば、飽和炭素に直接スルホン酸基を導入した構造を有する化合物が、特に安定していることが分かる。
【0021】
即ち、本発明は、酸素の存在下、フラーレン分子と亜硫酸水素塩を反応させ、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合されたフラーレン誘導体を生成する工程を有する、フラーレン誘導体の製造方法に係るものである。
【0022】
本発明の製造方法によれば、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合されたフラーレン誘導体を生成することができる。そのフラーレン誘導体は、前記スルホン酸基が直接フラーレン分子を構成する炭素原子に結合されているので、熱的に安定しており、例えば熱水中でも加水分解することなく、良好な耐水・耐熱性を示す。
【0023】
さらに、その製造されたフラーレン誘導体を、プロトン伝導体として各種の電気化学デバイス、例えば燃料電池に適用すれば、優れたプロトン伝導性を発揮する。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明に基づくフラーレン誘導体の製造方法は、大気又は酸素ガス中にて、前記フラーレン分子と前記亜硫酸水素塩との混合溶液にジメチルホルムアミドを加えてカラシュ反応(Kharash Reaction)させることが好ましい。
【0026】
これにより、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合された前記フラーレン誘導体を生成することができ、その得られたフラーレン誘導体は、前記スルホン酸基が、直接、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に結合されているので、熱的に安定しており、例えば熱水中でも加水分解することはない。また、例えばジメチルホルムアミド等の高沸点溶媒中で100℃以上に加熱しても安定しており、より良好な耐水・耐熱性を示す。
【0027】
さらに、得られたフラーレン誘導体をプロトン伝導体として各種の電気化学デバイス、例えば燃料電池に適用すれば、より優れたプロトン伝導性を発揮することができる。
【0028】
図2は、例えば不飽和化合物を原材料としたときの、前記カラシュ反応の反応スキームを示すものである。
【0029】
まず、亜硫酸水素イオンは、酸素によって、亜硫酸イオンラジカルとなる。この亜硫酸イオンラジカルと不飽和化合物[a]を反応させると、化合物[b]が生成する。この化合物[b]と水素によって、化合物[c]が生成する。これと同時に、化合物[b]の水素が離脱し、化合物[d]が生成する。また、前記酸素と化合物[b]が反応することにより、化合物[e]が生じ、これと亜硫酸水素イオンが反応して化合物[f]が生成する。
【0030】
本発明者らは、このカラシュ反応を、前記フラーレン分子を原料とした反応に適用し、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合された前記フラーレン誘導体を生成することを見出した。
【0031】
前記亜硫酸水素塩としては、例示するならば、亜硫酸水素ナトリウム又は亜硫酸水素カリウムを挙げることができる。
【0032】
図3は、本発明に基づくフラーレン誘導体の製造方法をより具体的に示すものである。
【0033】
図3に示すように、大気中にて、前記フラーレン分子(例えば、C60)と、前記亜硫酸水素塩としての例えば亜硫酸水素ナトリウムを、前記ジメチルホルムアミド中、120℃で3日間反応させることが好ましい。TLC(Thin Layer Chromatography:薄層クロマトグラフィー)にて前記フラーレン分子の消失をモニターし、前記フラーレン分子が消失したら、混合溶液をエーテル中に注ぎ、粗生成物と前記亜硫酸水素ナトリウムを沈殿させ、ろ過し、ジメチルホルムアミドを除去する。
【0034】
次いで、エタノールによって、前記ろ過により得られたろ過物から、目的生成物としての前記フラーレン誘導体を抽出する。抽出された生成物を、ろ過及び脱水し、前記エタノールを除去し、更にNaOHで中和し、スルホン酸塩(−SO3Na)型に変換し、SEC(Sieve Exclusion Chromatography)を用いて低分子量無機塩を除去する。そして、前記低分子量無機塩が除去されたものを脱水処理することで溶媒(水)を除去し、例えば、図19に示すような、前記フラーレン誘導体としての茶色の固体を得ることができる。
【0035】
本発明に基づくフラーレン誘導体の製造方法は、図18に示すような、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に前記スルホン酸基のみが、プロトン(H+)解離性の基として直接結合されたフラーレン誘導体及び/又は図19に示すような、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に前記スルホン酸基及び水酸基が、前記プロトン解離性の基として直接結合されたフラーレン誘導体を生成することができる。ここで、前記「プロトン解離性の基」とは、プロトンが電離により離脱し得る官能基を意味し、また「プロトン(H+)の解離」とは、電離によりプロトンが官能基から離れることを意味する。また、前記フラーレン誘導体を更に、プロトン解離性の他の基を有する誘導体へと誘導することができる。
【0036】
これらのフラーレン誘導体は、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくとも前記スルホン酸基が直接結合されているので、熱的に安定しており、例えば熱水中でも加水分解することはない。また、例えばジメチルホルムアミド等の高沸点溶媒中で100℃以上に加熱しても安定しており、良好な耐水・耐熱性を示す。
【0037】
さらに、このフラーレン誘導体を、プロトン伝導体として各種の電気化学デバイス、例えば燃料電池に適用すれば、より優れたプロトン伝導性を発揮することができる。
【0038】
本発明において、プロトン解離性の基の導入対象となる母体としてのフラーレン分子は、球状クラスター分子であれば特に限定しないが、通常はC36、C60(図14(A)参照)、C70(図14(B)参照)、C76、C78、C80、C82、C84などから選ばれるフラーレン分子の単体、若しくはこれらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。
【0039】
本発明に基づいて得られる前記フラーレン誘導体は、プロトン伝導体として各種の電気化学デバイス、例えば燃料電池に好適に用いることができる。
【0040】
燃料電池のプロトン伝導のメカニズムは図4の模式図に示すようになり、プロトン伝導部1は第1極(例えば水素極)2と第2極(例えば酸素極)3との間に挟持され、解離したプロトン(H+)は図面矢印方向に沿って第1極2側から第2極3側へと移動する。
【0041】
図5には、本発明に基づいて得られる前記フラーレン誘導体をプロトン伝導体として用いた燃料電池の一具体例を示す。この燃料電池は、触媒2a及び3aをそれぞれ密着又は分散させた互いに対向する、端子8及び9付きの負極(燃料極又は水素極)2及び正極(酸素極)3を有し、これらの両極間にプロトン伝導部1が挟着されている。
【0042】
使用時には、負極2側では導入口12から水素が供給され、排出口13(これは設けないこともある。)から排出される。燃料(H2)14が流路15を通過する間にプロトンを発生し、このプロトンはプロトン伝導部1で発生したプロトンとともに正極3側へ移動し、そこで導入口16から流路17に供給されて排気口18へ向かう酸素(又は空気)19と反応し、これにより所望の起電力が取り出される。
【0043】
かかる構成の燃料電池は、プロトン伝導部1でプロトンが解離しつつ、負極2側から供給されるプロトンが正極3側へ移動するので、プロトンの伝導率が高い特徴がある。従って、加湿装置等は不必要となるので、システムの簡略化、軽量化を図ることができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0045】
<フラーレンポリスルホン酸の合成>
大気中にて、フラーレン分子C60(500mg)と亜硫酸水素ナトリウム(60eq)を、ジメチルホルムアミドDMF(300ml)中、120℃で3日間反応させた。TLC(Thin Layer Chromatography:薄層クロマトグラフィー)にて前記フラーレン分子の消失をモニターし、前記フラーレン分子が消失したら、混合溶液をエーテル(700ml)中に注ぎ、粗生成物と前記亜硫酸水素ナトリウムを沈殿させ、ろ過し、ジメチルホルムアミドを除去した。
【0046】
次いで、エタノール(500ml)によって、前記ろ過により得られたろ過物から、目的生成物としての前記フラーレン誘導体を抽出した。抽出された生成物を、ろ過及び脱水し、前記エタノールを除去し、更にNaOHで中和し、スルホン酸塩(−SO3Na)型に変換し、SEC(Sieve Exclusion Chromatography:Sephadex LH−20)を用いて低分子量無機塩を除去した。そして、前記低分子量無機塩が除去されたものを脱水処理することで溶媒(水)を除去し、目的生成物である前記フラーレン誘導体としての、エタノールに可溶の赤黒色固体507mg(推定構造m=4、n=8として収率39%)を得ることができた。
【0047】
このフラーレン誘導体のエタノール中のUV−Vis測定を行った結果、220nm付近にピークを有し、600nmまでテールを引くスペクトルを示した。IRスペクトル(KBr)は、スルホン酸基に特徴的な1210、1040cm-1の吸収ピークを示した。MSスペクトル(positive)は、C60のピーク(イオン化の際に分解して生じた物)の他に、高分子量側に複数のピークが見られ、スルホン酸基の付加物の生成を示した。
【0048】
以下、IRスペクトル、1H、13C−NMR、XPS(X線電子分光法)、元素分析等の評価結果の詳細を示すが、これらの総合的解析から、得られた物質が図19に示すようなポリスルホン酸構造を持っていることが明らかとなった。また、フラーレンC60と亜硫酸水素ナトリウムとの反応機構については、完全に酸素のない条件下では反応が進行しなかったことより、前記カラシュ(Kharash)反応で反応が進行していると考えられる。
【0049】
<イオン交換>
C60とNaHSO3の反応で得られた生成物の水溶液を、Amberlite−140(H)のカラムにSV4(溶媒の流速が400ml/1hr)でかけることにより、強酸性(pH<1)を示すフラクションが得られた。また、後に示すXPS分析より、この溶液にはナトリウムが含まれていないことが分かり、この条件で完全にイオン交換できていることが分かった。
【0050】
<IR>
本発明のフラーレン誘導体の製造方法によって得られたフラーレン誘導体のIRスペクトルを図6に示す。イオン交換したものは1200、3400cm-1付近のピーク形状が若干変化するが、全体的には塩型と酸型で同じパターンを示し、大きな構造変化がないことがわかった。3430cm-1(vs,br)、1650cm-1(vs)、1210cm-1(vs)、1040cm-1(vs)、880、850cm-1(s)、650、590cm-1(s)
【0051】
<1H、13C−NMR(DMSO−d0)>
1H−NMRの結果を図7[A]に示すように、9.98、8.17、4.4(br)及び2.9(br)ppmにシグナルが観測され、それぞれスルホン酸基(SO3H)、DMFのアルデヒド基、OH基及びメチル基(メチレン基)由来と考えられる。
【0052】
また、13C−NMRの結果を図7[B]に示すように、148ppm付近にフラーレン骨格由来のブロードなピークが観測された。また、57ppm付近に−C−O−(若しくは−C−N、−C−S−)由来のブロードなピークが観測され、他には164ppmにC=O由来のシグナル、また35ppm付近にシャープなピークが観測されており、これらは下記の元素分析の結果より、フラーレン分子に付加したDMFに由来するものと考えられる。
【0053】
<XPS分析>
XPS分析結果を図8に示す。このXPSの元素分析によれば、Naは検出されなかった。このうちC1sピークの分析では、C−C又はC−H,69;C−O、C−S又はC−N,19;C=O,4;COO,5;π−π,4(%)であった。S2pピーク分析では、C−S又はS−S,3;−SO2−,26;−SO4 2-又は−SO3 -,71(%)となり、C−S結合の存在が確認できた。
【0054】
<元素分析(燃焼法)>
元素分析結果を図9に示す。図9に示すように、C=48.51、H=3.35、N=3.82、S=14.06、(O)=30.26(%)であった。また、上述したNMR及びXPSの結果より、フラーレンC60にスルホン酸基と水酸基及びDMFが複数個付加した構造を仮定して、C60(SO3H)n(OH)n(CH2N(CHO)CH3)mの場合の各元素重量百分率を計算すると
m=4 C H N S O (%)
n=6 54.14 2.27 3.51 12.04 28.04
n=7 51.00 2.26 3.30 13.24 30.20
n=8 48.22 2.25 3.12 14.30 32.11
となり、平均してn=7〜8の付加物が得られたと判断できる。
【0055】
<プロトン伝導度>
交流インピーダンス法から求めた室温(20℃)におけるプロトン伝導度は約2×10-3Scm-1であり、良好な値を示し、また図10に示すように、本発明に基づいて得られたフラーレン誘導体は、高温下においても優れたプロトン伝導性能を発揮することが分かる。図中には、比較のため、ナフィオン(デュポン社製)のデータも示す。
【0056】
<耐水・耐熱安定性>
本発明に基づいて得られたフラーレン誘導体を、熱水中(85℃)で10時間攪拌した後も、目視において沈降などの現象は認められず、また、熱水中における攪拌処理及び化合物分離後のFT−IR測定の結果を示す図11と、前記攪拌処理前のFT−IR測定の結果を示す図6より明らかなように、スルホン酸基が保持されていること等、何ら変化が認められなかった。これと同様にして、類似の構造を持つフラーレン硫酸エステルを熱水中において、攪拌処理し、その攪拌処理前(図12)と処理後(図13)のFT−IR測定結果を比較したところ、処理を行うと完全に加水分解し、スルホン酸基が離脱してポリ水酸化フラーレンに転化してしまったことが分かる。
【0057】
【発明の作用効果】
本発明の製造方法によれば、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合されたフラーレン誘導体を生成することができ、その得られたフラーレン誘導体は、前記スルホン酸基が直接フラーレン分子を構成する炭素原子に結合されているので、熱的に安定しており、例えば熱水中でも加水分解することなく、良好な耐水・耐熱性を示す。
【0058】
さらに、その製造されたフラーレン誘導体を、プロトン伝導体として各種の電気化学デバイス、例えば燃料電池に適用すれば、優れたプロトン伝導性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づくフラーレン誘導体の製造方法を示す図である。
【図2】カラシュ反応を示す反応構造式である。
【図3】本発明に基づくフラーレン誘導体の製造方法を示す図である。
【図4】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体をプロトン伝導体として用いた一例を示す模式図である。
【図5】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体をプロトン伝導体として用いた一実施の形態による燃料電池の概略断面図である。
【図6】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体のIRスペクトルを示す図である。
【図7】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体のNMRスペクトルを示す図である。
【図8】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体のXPS分析の測定結果を示す図である。
【図9】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体の元素分析結果を示す図である。
【図10】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体の交流インピーダンス法の測定結果を示す図である。
【図11】本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体の熱水中における攪拌後のIRスペクトルを示す図である。
【図12】ポリ水酸化フラーレン硫酸エステルのIRスペクトルを示す図である。
【図13】ポリ水酸化フラーレン硫酸エステルの熱水中における攪拌後のIRスペクトルを示す図である。
【図14】フラーレン分子の構造図である。
【図15】ポリ水酸化フラーレンの構造図である。
【図16】加水分解するポリ水酸化フラーレン硫酸水素エステルの構造図である。
【図17】加水分解するポリ水酸化フラーレン硫酸水素エステルを合成するための、従来公知の合成方法を示す反応スキームである。
【図18】加水分解しない本発明に基づいて得られるフラーレン誘導体の構造図である。
【図19】加水分解しない本発明に基づいて得られるその他のフラーレン誘導体の構造図である。
【図20】スルホン酸基の安定性を示す図である。
【符号の説明】
1…プロトン伝導部、2…第1極(水素極)、2a…触媒、
3…第2極(酸素極)、3a…触媒、14…水素、19…酸素(又は空気)
Claims (5)
- 酸素の存在下、フラーレン分子と亜硫酸水素塩を反応させ、前記フラーレン分子を構成する炭素原子に少なくともスルホン酸基が直接結合されたフラーレン誘導体を生成する工程を有する、フラーレン誘導体の製造方法。
- 大気又は酸素ガス中にて、前記フラーレン分子と前記亜硫酸水素塩との混合溶液にジメチルホルムアミドを加えてカラシュ反応(Kharash Reaction)させる、請求項1に記載したフラーレン誘導体の製造方法。
- 前記亜硫酸水素塩が、亜硫酸水素ナトリウム又は亜硫酸水素カリウムである、請求項1に記載したフラーレン誘導体の製造方法。
- 前記フラーレン分子を構成する炭素原子に、スルホン酸基及び/又は水酸基がプロトン解離性の基として直接結合された前記フラーレン誘導体を生成する、請求項1に記載したフラーレン誘導体の製造方法。
- 前記フラーレン分子として、球状炭素クラスター分子Cm(m=36、60、70、76、78、80、82、84等)を用いる、請求項1に記載したフラーレン誘導体の製造方法。
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