JP4245991B2 - 固体高分子電解質、それを用いた膜、触媒電極層、膜/電極接合体及び燃料電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いられる電解質膜等に好適な耐酸化性等に優れた低コスト高耐久性固体高分子電解質、それを用いた触媒電極層、固体高分子電解質膜及び該固体高分子膜を用いた燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子電解質は高分子鎖中にスルホンアミド基、スルホン酸基等の電解質基を有する固体高分子材料であり、特定のイオンと強固に結合して、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜等、各種の用途に利用されている。
【0003】
燃料電池はプロトン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を設け、水素ガスやメタノールなどを燃料として一方の電極(燃料極)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として他方の電極(空気極)へ供給し、起電力を得るものである。また、水電解は、固体高分子電解質膜を用いて水を電気分解することにより水素と酸素を製造するものである。
【0004】
ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)の商品名で知られる高いプロトン伝導性を有するパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜は化学的安定性に優れていることから燃料電池や水電解等の固体高分子電解質膜として、広く使用されている。
【0005】
また、食塩電解は固体高分子電解質膜を用いて塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより、水酸化ナトリウム、塩素と水素を製造するものである。この場合、固体高分子電解質膜は塩素と高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液にさらされるので、これらに対する耐性の乏しい炭化水素系電解質膜を使用することができない。そのため、食塩電解用の固体高分子電解質膜には、一般に、塩素及び高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に対して耐性があり、さらに、発生するイオンの逆拡散を防ぐために表面に部分的にカルボン酸基を導入したパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0006】
ところで、パーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質は、C−F結合を有しているために化学的安定性が非常に大きく、上述した燃料電池用、水電解用、あるいは食塩電解用の固体高分子電解質膜の他、ハロゲン化水素酸電解用の固体高分子電解質膜としても用いられ、さらにはプロトン伝導性を利用して、湿度センサー、ガスセンサー、酸素濃縮器等にも広く応用されている。
【0007】
しかしながら、フッ素系電解質は製造が困難で、非常に高価であるという欠点がある。そのため、フッ素系電解質膜は、宇宙用あるいは軍用の固体高分子型燃料電池等、限られた用途に用いられ、自動車用の低公害動力源としての固体高分子型燃料電池等、民生用への応用を困難なものとしていた。
【0008】
そこで、安価な固体高分子電解質膜として、エンジニアリングプラスチックに代表される芳香族炭化水素系高分子をスルホン酸化した電解質膜が提案された。(例えば、特許文献1、2、3、4、5参照)。これらエンジニアリングプラスチックをスルホン酸化した芳香族炭化水素系電解質膜をナフィオンに代表されるフッ素系電解質膜と比較すると、製造が容易で低コストという利点がある。しかし、耐酸化性という面で非常に弱いという欠点も有している。
【0009】
非特許文献1によると、例えばスルホン酸化ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルスルホンはスルホン酸に隣接したエーテル部位から劣化すると報告している。このことから、スルホン酸の近傍に電子供与性基が存在すると、そこから酸化劣化が開始すると考えられる。そこで耐酸化性の向上を目的として、特許文献6に主鎖が電子吸引性基と芳香族環のみからなるスルホン酸化ポリフェニレンスルホンが、非特許文献2にスルホン基の隣接部位にスルホン酸を導入したスルホン酸化ポリスルホンが提案された。
【0010】
だが、特許文献7によると、芳香族炭化水素系電解質膜の劣化は酸化劣化以外にも、芳香族環に直接結合しているプロトン伝導性置換基であるスルホン酸基が、強酸、高温下において脱離してイオン伝導率が低下することも一因として考えられ、特許文献6や非特許文献2にあるようなスルホン酸化ポリフェニレンスルホンやスルホン酸化ポリスルホンではスルホン酸の脱離による劣化が避けられない。従って、プロトン伝導性置換基がスルホン酸であることは望ましくなく、特許文献7ではスルホン酸の代わりにアルキルスルホン酸を用いることを提案している。こちらはスルホン酸の脱離によるイオン伝導率の低下の改善には有効だが、使用する芳香族高分子の主鎖に電子供与性基が含まれ、耐酸化性に劣っている。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−93114号公報
【特許文献2】
特開平9−245818号公報
【特許文献3】
特開平11−116679号公報
【特許文献4】
特表平11−510198号公報
【特許文献5】
特表平11−515040号公報
【特許文献6】
特開2000−80166号公報
【特許文献7】
特開2002−110174号公報
【非特許文献1】
高分子論文集 Vol.59、No.8、460〜473頁
【非特許文献2】
Journal of Polymer Science:PartA:Polymer Chemistry,Vol.34、2421−2438(1996)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、固体高分子電解質として有用なフッ素系電解質膜が高価であることから、代替品として用いられているスルホン酸化された芳香族高分子化合物の有する耐酸化性に劣るという欠点を解消し、フッ素系電解質膜に比して安価なスルホン酸化された芳香族高分子化合物を用いて実用上十分な高耐久特性を有し、しかも製造容易な固体高分子電解質、該固体高分子電解質からなる固体高分子電解質膜、さらには該個体高分子電解質からなる触媒電極層、該電極層を用いた膜/電極接合体と該膜/電極接合体を用いた燃料電池を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、主鎖に剛直かつ化学安定性の高い芳香族炭化水素のみを含む高分子で、その側鎖にプロトン伝導性置換基としてスルホン基を含有する芳香族酸誘導体を有する高分子電解質や、該高分子電解質にスルホン基を有する芳香族化合物を共重合した高分子電解質を用いることで可能になることが明らかになった。
本発明の高分子電解質は、主鎖に耐酸化性の高い剛直な芳香族が電子供与基を介することなく直結していることと、かつ側鎖に電子吸引性のスルホン基をゆうしているため、本質的に酸化劣化しにくい。更に芳香族系炭化水素系高分子の主鎖に直接スルホン酸が導入されていない上に、電子吸引性のスルホン基の結合した芳香核上にスルホン酸が結合しているため、スルホン酸等の脱離が非常に起こりにくいことを要旨とするもので、実用上十分な耐久性を有し、しかも経済的な固体高分子電解質を得ることが可能となる。
【0014】
さらに、本発明は該固体高分子電解質からなる固体高分子電解質膜又は、該固体高分子電解質と触媒電極とからなる触媒電極層、さらにはその触媒電極層と該固体高分子電解質を用いた膜/電極接合体であり、該膜/電極接合体を用いた燃料電池を提供することである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の固体高分子電解質は主鎖が剛直な芳香族環のみからなる式(1)の炭化水素系高分子に側鎖として式(2)のスルホン基を有する芳香族酸誘導体及び式(3)のスルホン基を有する芳香族化合物を所定量共重合した構造から成る固体高分子電解質であれば特に制限は無く、少量の第三共重合成分やプロトン伝導性置換基として少量のスルホン酸やホスホン酸基を含んでいても構わない。
【0016】
【化4】
【0017】
(Ar1は2価の芳香族基及び当該芳香族基の環の炭素に任意の置換基が一個または複数個置換している2価の芳香族誘導体基である。)
【0018】
【化5】
【0019】
(Ar2は2価の芳香族基及び当該芳香族基の環の炭素に任意の置換基が一個または複数個置換している2価の芳香族誘導体基であり、Xはスルホン酸及び/またはスルホンアミドスルホン酸である)
【0020】
【化6】
【0021】
(Ar3はAr2と同一或いは異なる、2価の芳香族基及び当該芳香族基の環の炭素に任意の置換基が一個または複数個置換している2価の芳香族誘導体基である。ただし当該置換基からスルホン酸及び/またはスルホンアミドスルホン酸を除く。)
Ar1は二価の芳香族基及び当該芳香族基の環の炭素に任意の置換基が一個または複数個置換している2価の芳香族基であり、炭素数が6〜18の範囲であることが好ましい。具体的には1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、1,2−フェニレン、4,4‘−ビフェニレン、3,4’−ビフェニレン、3,3‘−ビフェニレン、1,4−ナフチレン、1,5−ナフチレン2,3−ナフチレン、2,6−ナフチレン、1,6−アントラニル、2,5−アントラニル、4,9−アントラニル、及びそれらのクロロ、フルオロ置換誘導体を好ましく挙げることができる。Ar2及びAr3はそれぞれ二価の芳香族基及び当該芳香族基の環の炭素に任意の置換基が一個または複数個置換している2価の芳香族誘導体基であり、芳香族基の環の炭素の炭素数が6〜18の範囲であることが好ましい。具体的にはフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル及びそれらのクロロ、フルオロ置換誘導体を好ましく挙げることができる。また、芳香族環にニトロ基や、シアノ基、フッ素化アルキル基などの電子吸引基を導入しても構わない。Ar2及びAr3は互いに同一でも異なっていても良い。ただしAr3の任意の置換基はスルホン酸および/またはスルホンアミドスルホン酸を除いた置換基である。)モノマーは、例えば主鎖骨格に対応するモノマーのビスハロゲン誘導体と、予めスルホニルクロリド化した側鎖に対応する芳香族化合物を塩化鉄や塩化アルミニウム等のルイス酸触媒のもとにフリーデルクラフツアシル化反応により縮合することにより合成することができる。こうして得た種々のモノマーを金属触媒下に酸化的芳香族カップリング反応を施すことで単独或いは共重合して目的のポリマーを得ることができる。
【0022】
側鎖のプロトン伝導性置換基にはスルホン酸基やスルホンアミドスルホン酸基等を用いる。また、これらスルホン酸基やスルホンアミドスルホン酸基のカウンターイオンは必ずしもプロトンに限らず、少量のアンモニウムイオンや金属イオンを含んでいても構わない。
【0023】
本発明の固体高分子電解質における側鎖プロトン伝導性置換基の導入法としては特に制限はないが、具体的な手段を一つ挙げると、Ar2側鎖を有する前駆体ポリマーを重合した後に、クロロ硫酸等によってスルホニルクロリド化した後、スルホニルクロリドの段階で水を作用すればスルホン酸を、または水の代わりにアミノスルホン酸と反応させてスルホンアミド結合を作ればスルホンアミドスルホン酸をそれぞれ選択的に結合することができる。スルホンアミドスルホン酸を作るのに使用するアミノスルホン酸には、アミノメタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸(タウリン)、アミノプロパンスルホン酸、アミノブタンスルホン酸、アミノペンタンスルホン酸、アミノヘキサンスルホン酸などのアミノアルキルスルホン酸及び2−メチルアミノエタンスルホン酸などの誘導体、アミノアルキルスルホン酸の脂肪鎖の水素原子を一部もしくは全部フッ素に置換たアミノフルオロアルキルスルホン酸及びその誘導体、アミノベンゼンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸、ジフェニルアミンスルホン酸などの芳香族アミノスルホン酸及び2−メチル−4−スルホン酸アミノベンゼンなどの誘導体がある。
【0024】
Ar2−X及びAr3を側鎖として有する本発明の芳香族炭化水素系高分子化合物であり、側鎖がAr2−Xのポリマー単位と側鎖がAr3のポリマー単位のモル比は5/95以上であることが好ましく、10/90以上であることがより好ましく、20/80以上であることが特に好ましい。
【0025】
これらを満たす芳香族炭化水素系高分子の具体例を一つ挙げると、下記式(4)に示されるポリ(2,5−ビフェニルスルホン)のような側鎖にアリールスルホン骨格を有するポリフェニレン誘導体がある。
【0026】
【化7】
【0027】
ここでm/nはモル組成比である。
【0028】
該高分子電解質はこれらスルホン酸やスルホンアミドスルホン酸をプロトン伝導性置換基として有する芳香族系高分子を主成分とする。すなわち、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で使用できる。また、該高分子電解質の機械的強度の向上のために、プロトン伝導性置換基を有しない式(1)〜(3)の炭素骨格からなる構造で、かつこれらの構造からスルホン酸やスルホンアミドスルホン酸などのプロトン伝導性置換基が除かれたものから成る芳香族炭化水素系高分子を混合しても良い。
【0029】
本発明で用いられる高分子電解質のイオン交換基当量重量は150〜2500g/molが好適である。更にイオン交換基当量重量は200〜1500g/molであることが好適であり、更に300〜1000g/molが好適である。イオン交換基当量重量が2500g/molを越えると該高分子電解質のイオン伝導度が低くなり出力性能が低下し、150g/molより低いと該高分子電解質の耐水性が低下し、それぞれ好ましくない。
【0030】
なお、本発明でイオン交換基当量重量とは、導入されたスルホン酸基やスルホンアミドスルホン酸基単位モルあたりの芳香族炭化水素系高分子の分子量を表し、値が小さいほどスルホン酸及び/またはスルホンアミドスルホン酸が多く導入されていることを示す。イオン交換基当量重量は、核磁気共鳴スペクトル測定、元素分析、特表平1-52866号公報明細書に記載の酸塩基滴定、非水酸塩基滴定(規定液はカリウムメトキシドのベンゼン・メタノール溶液)等により測定が可能である。
【0031】
スルホン酸やスルホンアミドスルホン酸が導入された該高分子電解質のイオン交換基当量重量を150〜2500g/molに制御する方法としては、芳香族炭化水素系高分子のスルホン酸化率やスルホニルクロリド化率を制御することによって可能となる。これはスルホン酸化剤、もしくはスルホニルクロリド剤の添加比、反応温度、反応時間などを制御すればよい。なお、スルホニルクロリド化する際に、溶媒は使用してもしなくても構わない。
【0032】
本発明で用いられる高分子電解質を燃料電池用として使用する際には、通常膜の状態で使用される。スルホン酸もしくはスルホンアミド化スルホン酸を導入した芳香族炭化水素系高分子を膜へ転化する方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)、溶融状態より製膜する方法(溶融プレス法もしくは溶融押し出し法)等が可能である。具体的に溶液キャスト法については、例えばポリマー溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する。製膜に用いる溶媒は、高分子を溶解し、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N'-ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、アセトンメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコール、第三ブチルアルコール等のアルコール及び/又はこれらの混合溶媒が好適に用いられる。
【0033】
該高分子電解質膜の厚みは特に制限はないが10〜200mが好ましい。特に30〜100mが好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10mより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能向上のためには200mより薄い方が好ましい。溶液キャスト法の場合、膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。溶融状態より製膜する場合、膜厚は溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを所定の倍率に延伸することで膜厚を制御できる。
【0034】
触媒電極層は、スルホン酸もしくはスルホンアミド化スルホン酸を導入した芳香族炭化水素系高分子を電解質膜作成に使用した溶媒に溶解させ、これを用いて触媒電極同士を接合することで作成する。
【0035】
ここでの触媒電極は、触媒金属の微粒子を導電材に担持することで作成できる。触媒電極に使用される触媒金属としては、水素の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、あるいはそれらの合金が挙げられる。特に白金が多くの場合用いられる。触媒となる金属の粒径は、通常は10〜300オングストロームである。これらの触媒はカーボン等の担体に付着させた方が触媒の使用量が少なくコスト的に有利である。触媒の担持量は電極が成形された状態で0.01〜10mg/cm2 が好ましい。
【0036】
導電材としては、電子伝導性物質であればいずれのものでも良く、例えば各種金属や炭素材料などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびアセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられ、これらが単独あるいは混合して使用される。
【0037】
これら導電材に触媒金属を担持させる方法としては、触媒金属を還元法により導電材(主に炭素材料の場合に使用)の表面に析出させる方法や、溶剤に触媒金属を懸濁させ、これを導電材表面に塗布する方法などがある。
【0038】
膜/電極接合体は、スルホン酸もしくはスルホンアミド化スルホン酸を導入した芳香族炭化水素系高分子を電解質膜作成に使用した溶媒に溶解させた溶液を触媒電極層に塗布し、電解質膜と接合させることで作成する。
【0039】
燃料電池は、以上のように形成された膜/電極接合体の外側にセパレータと呼ばれる燃料流路もしくは酸化剤流路を形成する溝付きの集電体を配したものを単セルとし、この様な単セルを複数個、冷却板等を介して積層することにより構成される。燃料電池は高い温度で作動させる方が電極の触媒活性が上がり電極過電圧が減少するため望ましいが、電解質膜は水分がないと機能しないため、水分管理が可能な温度で作動させる必要がある。燃料電池の作動温度の好ましい範囲は室温〜100℃である。
【0040】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
[赤外吸収スペクトル測定]
試料のKBr錠剤を調整して赤外吸収スペクトル測定装置(Magna−750、ニコレジャパン)により化合物の同定を行った。
[核磁気共鳴スペクトル測定]
所定量の試料を重水素化クロロホルム/重水素化メタノール=9/1(体積比)混合溶媒に溶解し、核磁気共鳴スペクトル測定装置(JNR-EX270、日本電子データム)により化合物の同定、定量を行った。
[イオン交換基当量重量測定]
イオン交換基当量重量測定しようとする本発明のスペーサーを含むスルホン酸化もしくはスペーサーを含むスルホンアミド化スルホン酸化PPSO系高分子を密閉できるガラス容器中に精秤(a(グラム))し、そこに過剰量の塩化カルシウム水溶液を添加して一晩撹拌した。系内に発生した塩化水素を0.1Nの水酸化ナトリウム標準水溶液(力価f)にて、指示薬にフェノールフタレインを用いて滴定(b(ml))した。イオン交換基当量重量(g/mol)は下式より求めた。
イオン交換基当量重量=(1000a)/(0.1×b×f)
[イオン伝導度測定]
本発明の電解質膜を、電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン製、SI1287)を用いて周波数0.1Hz〜65kHzの領域で4端子インピーダンス測定をし、イオン伝導度を測定した。なお、上記測定で電解質膜は水蒸気雰囲気下、75℃にて保存された。
[耐酸化性試験]
本発明の電解質膜を、30%過酸化水素水20mlに硫酸鉄7水和物1.9mgを加えることからなる60℃に加熱したフェントン試薬(鉄40ppmを含む)に浸漬させ、電解質膜がフェントン試薬の寿命である3時間内に溶解するか否か、及び/又は溶解するに至る時間を求めた。
[耐湿熱試験]
本発明の電解質膜を、1mol/lの硫酸に浸漬させ、100℃で30日間還流保存し、試験前と試験後でイオン交換基当量が変化したかを測定した。
[燃料電池単セル性能評価]
膜/電極接合体を評価セルに組み込み、燃料電池出力性能を評価した。反応ガスには、水素/酸素を用い、共に1気圧の圧力にて、70℃の水バブラーを通して加湿した後、評価セルに供給した。ガス流量は水素60ml/min、酸素40ml/min、セル温度は75℃とした。電池出力性能は、H201B充放電装置(北斗電工製)により評価した。
【0041】
【実施例】
[モノマー合成及び前駆体ポリマー重合]
[参考例]
(1)2,5−ジクロロビフェニルスルホンの合成
気体導入/導出管及び還流冷却器を装着した200ml三口丸底フラスコ内を乾燥窒素で充填し、これに塩化第二鉄26.62g(0.21mol)、脱水ベンゼン67.2g(0.4mol)を加え攪拌した。次いで2、5−ジクロロベンゼンスルホニルクロリド49.12g(0.2mol)を加え、80℃で4時間加熱還流、攪拌、反応した。副生する塩化水素は導管を通じて塩化カルシウム(脱水)管を経由して炭酸ナトリウム飽和水溶液へ吸収した。反応後、内容物を2000mlの脱イオン水にあけ、不溶分をロ別、回収した。これを50℃の脱イオン水で洗浄する操作を5回繰り返して金属塩を除去し茶褐色の粗成生物を得た。これをアセトン500mlに溶解して活性炭処理後アセトンを減圧留去した上でエタノール1000mlより再結晶することで無色針状結晶50.3g(収率87.6%)を得た。
IR及び1H-NMRより目的物であることを確認した。
【0042】
(2)ポリ2,5−ビフェニルスルホンの重合
(1)で合成した2,5−ジクロロビフェニルスルホンをモノマーに用いて固体高分子電解質の前駆体ポリマー重合を行った。
【0043】
気体導入/導出管及び還流冷却器を装着した200ml三口丸底フラスコ内を乾燥窒素で充填し、2,5−ジクロロジフェニルスルホン33.09g(119.4mmol)、亜鉛末24.96g (370.2mmol)、塩化ニッケル1.548g(11.94mmol)、2,2−ビピリジル1.866g(11.94mmol)、トリフェニルフォスフィン12.54g(47.76mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド150mlを加え、85℃で12時間加熱環流を行った。次いで135℃で更に12時間加熱撹拌し、反応せしめた。反応後、全体をイオン交換水3000mlに撹拌しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹拌洗浄するという操作を3回繰り返した。ついで析出したポリマーを5wt%塩酸水溶液1500mlで12時間撹拌洗浄する操作を二回行い、残存する亜鉛末や有機塩基触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これを更に新たなイオン交換水3000mlで2時間撹拌洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。次いで得られたポリマーをメタノール500mlで加熱還流し洗浄する操作を2回行った後、ポリマーをロ別、新たに塩化メチレン500mlに溶解し、少量存在する挟雑物をロ別除去した。塩化メチレンを減圧で留去後、更に80℃、24時間かけて減圧乾燥した。最終的に理論収率の90%程度(約22.8g)の乾燥ポリマー粉末を得た。重合後のポリマーについてはIR及び1H-NMRより目的ポリマー構造からなることを確認した。
【0044】
[実施例1]
(1)ポリ2,5−ビフェニルスルホンのスルホン酸化
気体導入/導出管を装着した200ml三口丸底フラスコ内を乾燥窒素で充填し、参考例で重合したポリ2,5−ビフェニルスルホン10.8g(0.05mol)及びクロロ硫酸100mlを加え、75℃で72時間、スルホン化反応を実施した。ポリ2,5−ビフェニルスルホンはクロロ硫酸に容易に溶解し、塩化水素ガスを発生しながらスルホン化反応が進行した。反応後、内容物を氷冷した希硫酸中に注入することで白色のスルホン化体を回収した。このものを更に脱イオン水中、70〜80℃で72時間攪拌することで部分的に存在するスルホニルクロリド残基の失活及び硫酸分の除去を行った。その後ロ別、メタノールでポリマーを洗浄後、80℃、24時間かけて減圧乾燥しスルホン化ポリマーを得た。スルホン化後のポリマーについて、スルホン酸基の導入率は1H-NMRより40モル%(EW:698)であることを確認した。
(2)電解質膜の作製
前記(1)で得られた生成物を10重量%の濃度になるようにN−メチルピロリドンに溶解した。この溶液をドクターナイフによりガラス上に展開し、乾燥することで、膜厚40μmの電解質膜を作成した。
(3)触媒電極層、膜/電極接合体、燃料電池の作製
40重量%の白金担持カーボンに、前記(2)の10重量%濃度のN−メチルピロリドン溶液を、白金担持カーボンと高分子電解質との重量比が2:1となるように添加し、均一に分散させてペースト(電極触媒被覆用溶液)を調整した。この電極触媒被覆用溶液を前記(2)で得られた電解質膜の両側に塗布した後、乾燥して白金担持量0.25mg/cm2の膜/電極接合体を作製した。これを用いて、燃料電池単セル性能評価をしたところ40mWの出力を示した。
【0045】
[実施例2]
(1)ポリ2,5−ビフェニルスルホンのスルホン酸化
実施例1に示した方法において、反応温度を100℃、反応時間を48時間に変えてポリ2,5−ビフェニルスルホンのスルホン化ポリマーを得た。スルホン化後のポリマーについて、スルホン酸基の導入率は1H-NMRより50モル%(EW:558)であることを確認した。
(2)電解質膜の作製
実施例1と同様にして、膜厚40μmの電解質膜を作成した。
(3)触媒電極層、膜/電極接合体、燃料電池の作製
実施例1と同様にして、白金担持量0.25mg/cm2の膜/電極接合体を作製した。これを用いて、燃料電池単セル性能評価をしたところ40mWの出力を示した。
【0046】
[比較例1]
(1)スルホン酸導入ポリエーテルエーテルケトンの合成
粉砕したポリエーテルエーテルケトン10gを濃硫酸200mlに除々に添加し5時間スルホン化反応を行った。反応終了後4lのイオン交換水で3回洗浄を行いロ別回収後、120℃、24時間かけて減圧乾燥しスルホン化ポリマーを得た。スルホン化後のポリマーについて、スルホン酸基の導入率は1H-NMRより60モル%(EW:612)であることを確認した。
(2)電解質膜の作製
実施例1と同様にして、膜厚40μmの電解質膜を作成した。
以上の実施例1〜3、比較例1に関して、耐酸化性試験、耐湿熱試験、イオン伝導度測定を行った。この評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【発明の効果】
本発明に係るスルホン酸もしくはスルホンアミド化スルホン酸を導入した芳香族炭化水素系高分子電解質はパーフロロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜に比べ、コストは非常に安価で、主鎖に剛直な芳香環のみを含み、更に主鎖ではなく電子吸引性のスルホン基を有する側に直接スルホン酸が導入されていることによって、耐久性特に耐酸化性と耐湿熱性に優れた高分子電解質が得られる。
また本発明に係る芳香族炭化水素系高分子電解質を用いた膜、触媒電極層、膜/電極接合体、燃料電池は実用上十分な性能を示す。
Claims (6)
- 主鎖が下記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位からなる芳香族炭化水素系高分子化合物であって、下記式(2)で表される芳香族酸誘導体及び式(3)で表される芳香族化合物を側鎖置換基として有する固体高分子電解質。
- 請求項1に記載の芳香族炭化水素系高分子化合物であり、イオン交換基当量重量が150〜2500g/molである固体高分子電解質。
- 請求項1〜2のいずれか1項に記載の固体高分子電解質からなる膜であることを特徴とする固体高分子電解質膜。
- 炭素材からなる導電材の表面に触媒金属の微粒子を担持させた触媒電極と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体高分子電解質からなる触媒電極層。
- 請求項3に記載の固体高分子電解質膜と請求項4に記載の触媒電極層からなる膜/電極接合体。
- 請求項5に記載の膜/電極接合体を使用した燃料電池。
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