以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成について]
図1は、この発明の実施の形態1の制御装置が搭載される内燃機関及びその周辺のシステムの全体構成を説明するための模式図である。図2は、内燃機関の気筒の配置を説明するための模式図である。図1に示すシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10は、実際には後述するように、第1バンク12(気筒群)、第2バンク14(気筒群)を備え、第1、第2バンク12、14は、それぞれ複数の気筒1〜6を備えているが、図1においては、そのうち一方のバンクの1つの気筒の断面のみを図示している。
気筒1〜6内部にはピストン20が配置されている。ピストン20は、コンロッド22を介して、クランクシャフト(図示せず)に接続されている。クランクシャフトの近傍には、その回転数に応じた出力を発する回転数センサ24が配置されている。ピストン20の上部には燃焼室26が設けられている。燃焼室26には、先端部が突出するように点火プラグ28が挿入されている。内燃機関10は、燃焼室26に連通された吸気ポート30および排気ポート32を備えている。
図2に示すように、内燃機関10は、6つの気筒1〜6を有している。気筒1、気筒2、気筒3は、順に直列に配置され、第1バンク12を構成している。一方、気筒4、気筒5、気筒6は、順に直列に配置され、第2バンク14を構成している。このように構成された第1バンク12及び第2バンク14が並列に接続されることで、内燃機関10が構成されている。
第1バンク12の各気筒1〜3の吸気ポート30には、それぞれ共通の吸気マニホールド34が連通され、第2バンク14の各気筒4〜6の吸気ポート30には、共通の吸気マニホールド36が連通されている。具体的に、吸気マニホールド34は、第1バンク12の気筒1〜3の吸気ポート30のそれぞれに連通する4本の分岐管34aと、3本の分岐管34aが集合して接続する1本の主管34bとを備えている。同様に、吸気マニホールド36は、それぞれ、第2バンク14の気筒4〜6の吸気ポート30のそれぞれに連通する3本の分岐管36aと、3本の分岐管36aが集合して接続する1本の主管36bとを備えている。
図2において図示は省略されているが、吸気ポート30側と同様に、気筒1〜3及び気筒4〜6の排気ポート32には、それぞれ第1、第2バンク12、14ごとに共通の排気マニホールドが連通されている。
再び、図1を参照して、内燃機関10は、各気筒1〜6の吸気ポート30のそれぞれに、吸気ポート30を開閉する吸気バルブ40(吸気弁)を備えている。吸気バルブ40には吸気バルブシャフト42が固定されている。吸気バルブシャフト42の上端部には、バルブリフタ44が取付けられている。吸気バルブシャフト42にはバルブスプリング46の付勢力が作用しており、吸気バルブ40はその付勢力によって閉弁方向に付勢されている。バルブリフタ44の上部には、吸気カム50が配置されている。各気筒1〜3、4〜6の吸気カム50は同一のバンク12、14ごとに、同一のカムシャフト(図示せず)に接続されている。このカムシャフト等を介して、吸気カム50にはバンクごとに同一の可変動弁機構52(吸気弁制御手段)が連結されている。また、吸気カム50のカムシャフト近傍には、カムポジションセンサ54が取付けられている。カムポジションセンサ54はカムの回転角及び回転数に応じた出力を発する。
吸気バルブ40の可変動弁機構52は、カムシャフトの回転を制御することで、吸気カム50の回転を制御する。その結果、各吸気バルブ40の位相、作用角およびリフト量を、第1、第2バンク12、14ごとに独立して変化させることができる。
同様に、内燃機関10は、気筒1〜6の各排気ポート32のそれぞれに、排気ポート32を開閉する排気バルブ60を備えている。排気バルブ60は、吸気バルブ40と同様の構成を有している。つまり、排気バルブ60に固定された排気バルブシャフト62と、排気バルブシャフト62上部に取付けられたバルブリフタ64と、排気バルブシャフト62を閉弁方向に付勢するように取付けられたバルブスプリング66を備えている。バルブリフタ64上部には、排気カム70が配置されている。各気筒1〜6の排気カム70は、バンク12、14ごとに、同一のカムシャフト(図示せず)に接続され、このカムシャフト等を介して、同一のバンク12、14ごとに同一の可変動弁機構72が連結されている。排気カム70のカムシャフト近傍には、カムポジションセンサ74が取付けられている。カムポジションセンサ74は排気カム70の回転角及び回転数に応じた出力を発する。
排気バルブ60側の可変動弁機構72は、カムシャフトの回転を制御することで、排気カム70の回転を制御する。その結果、排気バルブ60の位相、作用角及びリフト量を、バンク12、14ごとに独立して変化させることができる。
吸・排気バルブ40、60の位相の変動により、吸・排気バルブ40、60の開弁及び閉弁のタイミングを変更させることができる。作用角の変動により、吸・排気バルブ40、60の開弁期間を変更させることができる。また、リフト量の変動により、吸・排気バルブ40、60が開弁した際に吸・排気ポート30、32との間にできる通路の大きさを変動させることができる。また、このような制御は、各バンク12、14の気筒1〜3と気筒4〜6とで、それぞれ別個に独立して行うことができる。なお、カムシャフトの回転を制御することにより、吸気バルブ40あるいは排気バルブ60の、位相、作用角及びリフト量を制御する機構は、特に新規のものではないため、ここでの詳細な説明を省略する。
内燃機関10は、内燃機関の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)80を備える。ECU80は、回転数センサ26、カムポジションセンサ54、74等の各種センサから、内燃機関10の制御に必要な情報を取得する。また取得した情報に基づいて、点火プラグ28、及び可変動弁機構52、72を制御する。
[内燃機関のバルブタイミングについて]
図3は、この発明の実施の形態1における内燃機関の始動時の吸気バルブ40の開閉タイミングを説明するためのバルブタイミングダイヤグラムである。図3において、(1)は、圧縮行程の気筒内の圧力が小さな状態(以下「デコンプ状態」)とする場合の吸気バルブの開弁期間を表し、IVO(1)、IVC(1)は、それぞれ、この場合の吸気バルブ40の開弁タイミングと閉弁タイミングに対するピストン20の位置を表している。また、(2)は、始動時の点火に最適な吸気バルブの開弁期間を表し、IVO(2)、IVC(2)は、それぞれ、この場合の吸気バルブ40の開弁タイミングと閉弁タイミングに対するピストン20の位置を表している。
内燃機関10のクランキング開始時には、図3の(1)に示すように、吸気バルブ40は、その気筒のピストン20が吸気行程開始のTDC(Top Dead Center:以下「吸気TDC」と称する)にある位置よりも後の位置IVO(1)にあるタイミングで開かれる。その後、そのピストン20が圧縮行程開始のBDC(Bottom Dead Center:以下「圧縮BDC」と称する)を通過して、圧縮行程終了のTDC(以下「圧縮TDC」と称する)より少し前の位置IVC(1)にあるタイミングで吸気バルブ40は閉弁される。
ここで、ピストン20がIVO(1)からIVC(1)まで移動する間、吸気バルブ40は開弁した状態に維持される。吸気バルブ40が開弁している間は、ピストン20が圧縮BDCを超えて上昇を開始しても、気筒内に充填されているガスは圧縮されずに吸気ポート30側に押し出されることとなる。従って、吸気バルブ40の閉弁タイミングIVC(1)までの間、気筒内のガスは圧縮されない状態でピストン20が上昇する。従って、図3の(1)に示す吸気バルブのバルブタイミングを採用することで、気筒内をデコンプ状態とし、圧縮圧力を小さくすることができる。
特に、内燃機関10のクランキング開始時は、圧縮行程における圧縮の圧力が大きくなると、圧縮応力により機関回転速度が変化し大きな振動を発生しやすい。しかし、内燃機関10の始動直後、気筒1〜6のうち、圧縮行程にある気筒(特定気筒)について、図3の(1)の吸気バルブのバルブタイミングを採用して、その気筒内をデコンプ状態とすることで、内燃機関10の始動直後の振動の発生を抑制することができる。
一方、図3の(2)は、始動時の点火に最適な吸気バルブ40の開閉タイミングを表している。図3の(2)の場合、ピストン20が、吸気TDCを越えデコンプ状態の場合のピストン位置IVO(1)よりも更に先の位置IVO(2)にあるタイミングで、吸気バルブ40が開弁される。吸気バルブ40が開弁されるまでの間は、気筒内が密閉された状態でピストン20が下降するため気筒内の負圧が大きくなる。この状態で、ピストン20がIVO(2)に達し吸気バルブ40が開弁されると、ポンプ損失が増加して、その損失分の熱により気筒内の温度が上昇する。
また、吸気バルブ40は、ピストン20が圧縮BDC付近の位置IVC(2)にあるタイミングで閉弁される。このため、その後の圧縮行程では、気筒内に高い充填率で充填されたガスを、吸気ポート30や排気ポート32側に流出することなく、高い圧縮比で圧縮することができる。従って、気筒内に点火に十分な空気量を確保すると共に、断熱圧縮効果により気筒内の温度を上昇させることができ始動時の筒内温度を高くすることができる。
内燃機関10の始動時は、特に気筒内の温度が低温であるため、始動開始直後に安定して点火を行うことができない場合がある。しかし、上記図3の(2)のような吸気バルブ40の開閉タイミングを採用することで、気筒内の温度を上昇させることができる。従って、内燃機関の始動時の早い段階で、確実に点火を開始して必要なトルクを発生しうる状態とすることができる。
なお、以下、実施の形態において、図3の(1)のような圧縮行程の気筒内をデコンプ状態とする吸気バルブ40のバルブタイミングを「デコンプタイミング」(第1開閉タイミング)と称し、図3(2)のような内燃機関10の始動時に点火を行う場合のバルブタイミングを「始動時点火タイミング」(第2開閉タイミング)と称することとする。
[実施の形態1の特徴的な制御]
内燃機関10の始動に際しては、圧縮行程にある気筒ではデコンプ状態とすることで圧縮応力による振動を抑えるべく、デコンプタイミングを採用し、振動の発生を抑えてクランキングを開始した後は、より早く要求されるトルクを発生するべく確実な点火を行うため、始動時点火タイミングを採用することが望まれる。従って、例えば、始動開始直後の1回目の圧縮行程にある気筒の吸気バルブ40は、デコンプタイミングとし、それ以降に圧縮行程となる気筒では、点火を実現するため、始動時点火タイミングとすることが好ましい。
図4は、内燃機関10の気筒1〜6の点火の順序及び気筒1〜6の位相差について説明するための図である。図4に示すように、実施の形態1の内燃機関10の点火順序は、気筒1、気筒4、気筒2、気筒5、気筒3、気筒6となっている。点火順序が隣合う気筒間の位相差は均等である。つまり、1回の燃焼サイクルがクランク角で720度であるから、点火順序が連続する2つの気筒間での位相差は120度となる。また、第1バンク12、第2バンク14ごとにみると、各バンク12、14内での点火間隔も均等であり、点火順序が連続する気筒間の位相差は240度となる。
図4では、内燃機関10の始動開始直後、最初に圧縮行程にあり、IVC(1)に最初に達する気筒(特定気筒)が、気筒1である場合の例を示している。IVC(1)は圧縮BDCより知覚したタイミングである。ここで、気筒1のピストン20が、内燃機関10の始動開始時に圧縮BDCよりの位置A1にあり、気筒1の吸気バルブ40をデコンプタイミングで制御すると、ピストン20がIVC(1)に移動した時に、吸気バルブ40が閉弁する。この場合、気筒1に続いて点火される気筒4は気筒1より120度位相が遅角していることから、気筒4のピストン20は、吸気行程の後半の圧縮BDCに近い位置A4から、圧縮BDCの位置IVC(2)にまで移動する。同様に、次に点火される気筒2は、更に120度の遅角があるため、気筒2のピストン20は、吸気TDCの位置A2から位置IVO(1)にまで移動する。
すなわち、気筒1のピストン20がIVC(1)に達した時、気筒4のピストン20は始動時点火タイミングの閉弁タイミングに対応する位置IVC(2)にある。したがって、圧縮行程の気筒1をデコンプタイミングで制御した後に、次に圧縮行程にある気筒4を直ちに始動時点火タイミングに切り替えようとすると、切り替えと同時に気筒4の吸気バルブ40を閉弁する必要がある。しかし、アクチュエータ動作等によるタイムラグを考慮すると、バルブタイミングの切り替えと同時に、このように吸気バルブ40を閉弁させることは困難である。従って、点火順序が連続する気筒1と気筒4との間で、デコンプタイミングの制御から始動時点火タイミングの制御に切り替えることは困難である。
このことは、気筒1以外の他の気筒が最初の圧縮行程にある場合であっても同様である。つまり、連続して点火される気筒間の位相差は120度であるから、直前に点火される気筒のピストン20がデコンプタイミングの閉弁タイミングに応じた位置IVC(1)に到達した状態では、次に点火される気筒のピストン20は、始動時点火タイミングの閉弁タイミングIVC(2)に応じた位置にまで到達している。従って、前の気筒でデコンプのタイミングを実現し、直ちにその直後の気筒から、始動時点火タイミングに切り替えることは困難である。
そこで、この実施の形態1では、第1バンク12と第2バンク14とで、始動時の吸気バルブ40のバルブタイミングが異なるものとなるように設定する。具体的には、内燃機関10の始動開始直後、最初に圧縮行程にある気筒が属する方のバンク(特定気筒群)の吸気バルブ40を、デコンプタイミングに設定し、他方のバンクの吸気バルブ40を始動時点火タイミングに設定する。
図5は、この発明の実施の形態1における内燃機関の始動時の各気筒の点火順序と、バルブタイミングを説明するための図であり、図5(A)は内燃機関10の各気筒の点火順序、図5(B)は、内燃機関停止時のバルブタイミング、図5(C)は、内燃機関始動時のバルブタイミングの制御の例を表している。
図5(A)に示す点火順序で、次回の内燃機関10の始動時、気筒1のピストン20が最初に圧縮行程のIVC(1)を通過すると判断された場合、図5(B)に示すように、まず、第1バンク12側はデコンプタイミングに設定され、第2バンク14側は始動時点火タイミングに設定される。なお、図5において「デ」はデコンプタイミングを示し、「点」は始動時点火タイミングを示している。
内燃機関10が始動すると最初の圧縮行程では、図5(B)のように設定された状態で各気筒1〜6の吸気バルブが制御される。すなわち、第1バンク12の気筒1〜3は、デコンプタイミングでクランキングが開始され、第2バンク14の気筒4〜6は、始動時点火タイミングでクランキングが開始される。その後、最初に圧縮行程のIVC(1)を通過する気筒1のピストン20がIVC(1)に到達し、吸気バルブ40が閉弁されると、第1バンク12側のバルブタイミングは図5(C)に示すように、始動時点火タイミングに切り替えられる。
図6〜図9は、実施の形態1の装置が上記の内燃機関の始動時の制御を行った場合の各気筒1〜6の吸気バルブタイミングとピストン位置との関係の具体例を説明するための図である。図6〜図9は、内燃機関の始動時に最初にIVC(1)を通過する気筒が気筒1である場合を例にとって示している。また各図において、各気筒は上の行から点火順に並べられており、また横方向に始動後のその行の気筒のピストン20の位置及び吸気バルブタイミングの変化を表している。
図6は、内燃機関10の始動時において、気筒1のピストン20の停止位置が圧縮BDCを越えて、圧縮行程の中間より少し前くらいの位置A1にある場合の例を示している。この状態で内燃機関10のクランキングが開始すると、気筒1のピストン20は吸気バルブ40が開弁したままの状態で位置IVC(1)にまで到達する。つまり気筒1はデコンプ状態のままの圧縮行程となるため、この圧縮による応力は小さく、始動直後の圧縮により振動の発生が抑えられる。気筒1のピストン20が位置IVC(1)に到達すると、気筒1の吸気バルブ40は閉弁する。
この間、気筒1に続く気筒4のピストン20は、吸気行程の中間より少し進角した位置A4から圧縮BDCの位置IVC(2)にまで移動する。気筒4は、第2バンク14に属する気筒であり、始動当初から始動時点火タイミングに制御されている。従って、ピストン20がIVC(2)まで移動した時点で吸気バルブ40が閉弁する。
気筒4に続く気筒2のピストン20は、吸気TDCの位置A2から位置IVO(1)に移動する。IVO(1)は吸気TDCから60度遅角したタイミングである。気筒4は第1バンク12に属し、デコンプタイミングで制御されていることから、この時点で気筒2の吸気バルブ40は開弁する。気筒5、気筒3、気筒6はこの間、膨張または排気行程にあるため、この始動時の吸気バルブ40のバルブタイミングの制御においては閉弁状態のままとなる。
気筒1のデコンプ状態での圧縮が終了し吸気バルブ40が閉弁した後、気筒4が圧縮行程に入り、ピストン20は圧縮BDCの位置B4から上昇する。気筒4は、始動時点火タイミングに制御されており、吸気バルブ40は圧縮BDCにおいて既に閉弁されている。従って、気筒4内のガスは十分に圧縮され、断熱圧縮効果により気筒内の温度が上昇し、第4気筒から点火開始可能な状態となる。
気筒4に続く気筒2は、吸気バルブ40が開いた状態のままピストン20が下降しつつ、ピストン20がIVC(2)に達するまでに、吸気バルブ40のバルブタイミングが始動時点火タイミングに切り替えられる。従って、気筒4が圧縮行程にある間、気筒2は吸気バルブ40が開いた状態で吸気が続けられ、IVC(2)に到達した時点で吸気バルブ40が閉弁される。その後、気筒2が圧縮行程に入り、気筒2のピストン20が圧縮BDCの位置から上昇する。気筒2は、始動時点火タイミングへの切り替えが完了して。従って、気筒2内のガスは吸気ポート30側に流出されることなく十分に圧縮されて、点火可能な状態となる。
以降、気筒2に続いて、気筒5、気筒3、気筒6の圧縮、点火が行われるが、既に、第1バンク12側も、始動時点火タイミングに切り替えられている。従って、内燃機関10の始動完了が認められるまでの間、全ての気筒1〜6の吸気バルブ40が始動時点火タイミングで制御され、筒内温度を上昇させつつ、始動時に最適な空気量を確保して点火を行うことができる。
図7は、気筒1のピストン20の停止位置が、図6の場合よりも圧縮TDC寄りの例を表している。図7の場合、気筒1のピストン20は圧縮行程の中間点付近の位置A1に停止した状態で、第1バンク12のバルブタイミングがデコンプタイミングとなるように設定されている。従って、内燃機関10の始動が開始すると、気筒1においては、吸気バルブ40が開いた状態でピストン20は位置A1からIVC(1)まで上昇するため、デコンプ状態で始動時最初の圧縮行程が行われることとなる。
この間、気筒4のピストン20は圧縮BDCの少し手前の位置A4からIVC(2)(圧縮BDC)まで移動する。気筒4は点火最適タイミングで制御されているため、ピストン20がIVC(2)に到達した時点で、吸気バルブ40が閉弁する。その後、気筒4は圧縮行程に入り、気筒4内が十分に圧縮されて筒内温度が上昇した状態で点火が行われる。但し、この場合気筒4のピストン20は、吸気行程が終了する圧縮BDCより少し手前の位置からの始動開始となるため、吸気バルブ40の遅開きによる気筒4内の温度上昇の効果は無い。
始動開始後、気筒1のピストン20がIVC(1)に達するまでの間、気筒2のピストン20は、吸気バルブ40が吸気TDCより僅かに先の位置A2からIVO(1)まで移動し、吸気バルブ40が開弁する。第1気筒の吸気バルブ40が閉弁すると、第1バンク12側のバルブタイミングがデコンプタイミングから始動時点火タイミングへ切り替えられる。気筒2では、吸気バルブ40が開弁した状態のまま、バルブタイミングが始動時点火タイミングに切り替えられ、IVC(2)(圧縮BDC)までピストン20が下降すると、吸気バルブ40が閉弁される。従って、続く圧縮行程では、気筒2内のガスが十分に圧縮され点火が行われる。
図8は、内燃機関10の始動時に、気筒1のピストン20が、圧縮BDCに近い位置A1にある場合の例を示す。内燃機関10の始動開始時、気筒1はデコンプタイミングに設定されている。従って、内燃機関10の始動が開始し気筒1のピストン20がIVC(1)に至るまでの間、吸気バルブ40が開いた状態となる。これにより、始動時最初の圧縮行程における振動が抑えられる。
図8の場合、気筒1に続く気筒4のピストン20は、始動時にはIVO(2)より進角した位置に停止している。従って、内燃機関10の始動が開始されると、吸気バルブ40が開弁した状態でピストン20が下降しIVC(2)まで移動して吸気バルブ40は閉弁する。
図8の場合、気筒2のピストン20は、始動時には排気行程の終了付近の位置A2にあって、気筒1のピストン20がIVC(1)に移動するまでの間に、排気行程から吸気行程に入りIVO(2)に至り、吸気バルブ40が開弁する。その後、第1バンク12のバルブタイミングが、始動時点火タイミングに切り替えられ、気筒2のピストン20がIVC(2)まで達すると、吸気バルブ40が閉弁される。この後、全気筒1〜6が始動時点火タイミングで制御される。
図9は、内燃機関10の始動時に、気筒1のピストン20が圧縮BDCにある場合の例を示している。図9に示すように、気筒1のピストン20が圧縮BDCにある場合も同様に、気筒1はデコンプ状態で圧縮行程が行われ、ピストン20がIVC(1)に達すると吸気バルブ40が閉弁する。
この間、気筒4は、始動時点火タイミングに設定されているため、内燃機関10の始動開始後、ピストン20がIVO(2)に達した時に吸気バルブ40が開かれる。その後、気筒1がIVC(1)に到達するときに気筒4のピストン20はIVC(2)に達し、吸気バルブ40が閉弁される。この場合、気筒4では吸気バルブ40が閉弁した状態から、ピストン20の下降が開始する。従って、吸気行程におけるポンプ損失が大きくなり気筒4内の負圧により強い勢いて吸気が行われる。このため、より効率よく気筒4内の温度上昇を図り、気筒4を点火に好適な状態とすることができ、始動時2圧縮目からの点火をより確実に行うことができる。ただし、始動開始時の気筒4のピストン停止位置がIVO(2)と同じであれば、この効果は無い。
続く気筒2は、内燃機関10の始動時には排気行程の終了付近にある。気筒2のピストン20は、気筒1のピストン20がIVC(1)に移動するまでの間に、排気行程から吸気行程に入りIVO(1)まで移動する。ここで吸気バルブ40が開く。その後、吸気バルブ40が開いた状態で吸気が行われ、その間吸気バルブタイミングが始動時点火タイミングに切り替えられる。気筒2のピストン20がIVC(2)に達すると、吸気バルブ40は閉弁し、圧縮行程に入る。なお、図9に示す場合、気筒6のピストン20は、内燃機関10の始動時に圧縮行程の終了付近にある。従って、気筒6はデコンプ状態で圧縮されることとなり、圧縮圧力は小さくなるため、通常通りに始動しても振動の原因とならない。
以上の図6〜図9により説明したように、内燃機関10の始動開始後、最初にIVC(1)を通過する気筒1の吸気バルブタイミングをデコンプタイミングに設定し、気筒1の吸気バルブ40がIVC(1)において閉弁した後、第1バンク12のバルブタイミングが始動時点火タイミングとなるように切り替えられる。この切り替えの間、気筒1に続いて第2バンク14の気筒4が圧縮行程に入る。しかし、第2バンク14は始動当初から始動時点火タイミングに設定されており、気筒4は始動時点火タイミングで制御される。従って、始動直後のクランキングでは、デコンプ状態で気筒1の圧縮行程を行った後、直ちに始動時点火タイミングで、気筒4が始動時点火タイミングで制御されて圧縮行程が行われる。その後、第1バンク12が始動時点火タイミングに切り替えられて、気筒2の圧縮行程が行われる。従って、デコンプ状態により振動を抑えて始動を開始しつつ、第2圧縮目からの点火を行うことができ、始動性の向上を図ることができる。
[実施の形態1における制御のルーチンについて]
図10は、この発明の実施の形態1においてECU80が実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図10のルーチンは、内燃機関10の停止時毎回実行されるルーチンである。図10のルーチンにおいて、まず、内燃機関10の停止指令が出されているか否かが判別される(S102)。ここで内燃機関10の停止の指令が認められない場合には、この処理を終了する。
一方、ステップS102において、内燃機関10の停止指令が検出された場合は、次に、内燃機関の現在のクランク角が検出される(S104)。クランク角は、内燃機関10のクランクシャフト近傍に配置された回転数センサ26の出力に基づいて求められる。
次に、次回の内燃機関10の始動時に、最初にピストン20がIVC(1)を通過する気筒(特定気筒)が特定される(S106)。この気筒は、現在のクランク角から各気筒の停止時の位置が求められ、これにより特定される。
次に、第1バンク12、第2バンク14のうち、ステップS106において特定された気筒が属するバンク(特定気筒群)の吸気バルブ40のバルブタイミングが、デコンプタイミングに設定され、他方のバンクの吸気バルブ40のバルブタイミングが、始動時点火タイミングとなるように設定される(S108)。その後、内燃機関10が停止され(S110)、この処理が終了する。
図11は、この発明の実施の形態1においてECU80が、内燃機関10の始動時に実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図11のルーチンにおいて、内燃機関10の始動の指令が出されているか否かが検出される(S120)。始動指令が認められない場合には、この処理は終了する。
一方、内燃機関10の始動の指令が検出されると、内燃機関10の始動が開始される(S122)。内燃機関10の停止時に、既に、始動時に最初にIVC(1)を越える気筒が特定され、この気筒の含まれるバンクの吸気バルブタイミングがデコンプタイミングとなり、他方のバンクが始動時点火タイミングとなるように設定されている。従って、ステップS122では、設定されたバルブタイミングのままで始動を開始すれば良く、これにより、最初の圧縮行程の気筒はデコンプ状態とされ、振動の発生が抑制される。
次に、最初にIVC(1)に入る気筒のピストン20の位置がIVC(1)に応じた位置に到達したか否かが検出される(S124)。ここでは、回転数センサ26の出力により現在のクランク角がモニターされ、最初の圧縮行程にある気筒のピストン20がIVC(1)に到達したか否かが判別される。
ステップS124において、最初の気筒のピストン20がIVC(1)に達したことが認められない場合、IVC(1)に達したことが認められるまでの間、内燃機関10の運転が維持される。一方、ステップS124において、最初の気筒のピストン20がIVC(1)に達したことが認められると、第1、第2バンク12、14のうち、この最初の気筒が属するバンクの吸気バルブ40のバルブタイミングが、始動時点火タイミングに切り替えられる(S126)。その後、この処理が終了する。
以上の処理によれば、内燃機関10の停止時に、次回始動時に最初にIVC(1)に達する気筒が特定され、その気筒が属するバンクの吸気バルブ40はデコンプタイミングに設定され、他方のバンクの吸気バルブ40は始動時点火タイミングに設定される。これにより、内燃機関10の始動時には、通常通りに始動を開始して、最初の気筒がIVC(1)に達した時に、その気筒が属するバンクをデコンプタイミングから始動時点火タイミングへ切り替えることで、デコンプ状態でクランキングを開始した後、直ちに第2圧縮目から始動時点火タイミングとすることができ、振動を抑えつつ、始動性を向上させることができる。
なお、以上の実施の形態1において、図示したデコンプタイミングや点火最適なバルブタイミングは、この発明を拘束するものではない。例えば、デコンプ状態で圧縮行程を行うためのバルブタイミングは、圧縮行程における気筒の圧力を低減できるものであれば、他のタイミングであってもよい。また、点火最適なバルブタイミングは、十分にガスを充填させて効率よく筒内温度を上昇させ、点火に十分な空気量を確保できるものであれば、他のタイミングであってもよい。
例えば、デコンプの吸気バルブの閉弁タイミングが早まり、あるいは、点火最適なバルブタイミングの開弁タイミングがより遅くなることで、吸気バルブ40のデコンプタイミングから始動時点火タイミングへの切り替え時間が長くなる。従って、バルブタイミングの切り替えを確実に行うことができ、始動時点火タイミングをより効率的に実現できるようになる。
また、実施の形態1では、内燃機関10が2つのバンクを有し、各バンクにそれぞれ3つずつの気筒が含まれる場合について説明した。しかし、この発明において各バンクの気筒数は、これに限るものではない。また、この発明の内燃機関は、並列に接続された2つのバンクに別けられているものに限るものでもない。例えば、この発明の内燃機関は、直列に複数の気筒が接続されている場合に、この気筒がいくつかの気筒ごとに、吸気バルブのタイミングを制御できるものなどであってもよい。
また、実施の形態1では、内燃機関10の停止位置から、次回始動時に最初にIVC(1)を越える気筒を特定して、この気筒が属するバンクの吸気バルブがデコンプタイミングになるように設定する場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、たとえば、次回始動時に最初にIVC(1)に達する気筒を予め特定しておいて、その気筒が最初にIVC(1)に達するように、停止位置を調整するものであってもよい。
また、実施の形態1では、内燃機関10の停止時に、予め、最初にIVC(1)に達する気筒を特定し、そのバンクの吸気バルブがデコンプタイミングとなるようにバルブタイミングを予め設定する場合について説明した。しかし、これらの制御は、停止時に行う場合に限らず、内燃機関10の始動時に行うこととしてもよい。
なお、例えば、実施の形態1において、ステップS106、S108が実行されることにより、この発明の「第1開閉タイミング設定手段」及び「第2開閉タイミング設定手段」が実現し、ステップS124が実行されることにより「閉弁検出手段」が実現し、ステップS126が実行されることにより「切り替え手段」が実現する。
実施の形態2.
実施の形態2のシステムは、内燃機関10が、気筒1〜8の8つの気筒を有する点を除いて、図1のシステムと同じ構成を有している。図12は、実施の形態2の内燃機関の構成を説明するための模式図である。図12に示すように、内燃機関10は、気筒1〜8の8つの気筒を備え、気筒1、3、5、7は第1バンク12を構成し、気筒2、4、6、8は第2バンク14を構成している。各気筒1〜8の吸気ポート30には、それぞれバンクごとに同一の吸気マニホールド34、36が接続されている。同様に、各気筒の排気ポートにはそれぞれバンクごとに同一の排気マニホールドに接続されている。また、実施の形態2のシステムにおいても、各気筒1〜8の吸気バルブ40のバルブタイミングは、同一のバンクごとに独立して制御されるように構成されている。
図13は、図12の内燃機関10の気筒1〜8の点火順序を説明するための図である。図13に示されるように、内燃機関10では、気筒1、気筒8、気筒4、気筒3、気筒6、気筒5、気筒7、気筒2の順に点火が繰り返される。内燃機関10内全体で、連続して点火される気筒の間隔(位相差)は均等であり、クランク角で90度となる。しかし、この位相差を同一のバンクごとに見ると、例えば、第1バンク12において、気筒1と気筒3の位相差は270度、気筒3と気筒5の位相差が180度、気筒5と気筒7との位相差が90度、気筒7と気筒1との位相差が180度であり、均等ではない。同様に、第2バンク14においても、気筒8と気筒4との位相差が90度、気筒4と気筒6との位相差が180度、気筒6と気筒2との位相差が270度、気筒2と気筒8との位相差が180度であり、均等ではない。
そこで、実施の形態2のシステムでは、同一バンク内で見た場合に、位相差が長くなるタイミングで、デコンプタイミングから始動時点火タイミングへの切り替えが行われるようにする。具体的には、気筒1と気筒3の間、あるいは、気筒6と気筒2との間で、デコンプタイミングから始動時点火タイミングへの切り替えが行われるようにする。つまり、内燃機関10のクランキング開始時、気筒1か気筒6のいずれが最初にIVC(1)を通り、かつその気筒の吸気バルブ40がデコンプタイミングで制御されるようにする。
図14は、この発明の実施の形態2における内燃機関10の始動時の吸気バルブタイミングとピストン位置とを説明するためのバルブタイミングチャートである。図14では、内燃機関10の始動時に、気筒1が最初にIVC(1)の位置に達する気筒となる場合を示している。第1バンク12側の吸気バルブ40は、(1)に示すデコンプタイミングとなるように設定され、第2バンク14側の吸気バルブ40は、(2)に示す始動時点火タイミングとなるように設定される。この状態クランキングが開始されると、気筒1のピストン20は圧縮行程の途中の位置A1から、吸気バルブ40が開弁した状態のまま上昇する。ピストン20がIVC(1)まで上昇した時点で、吸気バルブ40が閉弁する。
このとき、気筒1に続く気筒8は、第2バンク14の気筒であるから、予め始動時点火タイミングに設定されている。従って、気筒1が、デコンプ状態の圧縮行程を開始した後、続く気筒8では、始動時点火タイミングでバルブ制御が行われる。つまり、気筒8のピストン20は、BDCに近い位置A8に停止した状態から、圧縮BDC(IVC(2))に至り、このとき吸気バルブ40が閉弁される。その後、圧縮行程の位置B8にまで移動する。この間、続く気筒4でも始動時点火タイミングで制御が行われ、気筒4のピストン20は、IVO(1)付近の位置A4から位置B4にまで移動する。この間、ピストン20がIVO(2)に至ると吸気バルブ40が開弁する。このように、気筒1に続く気筒8及び4では、吸気バルブ40が始動時点火タイミングに制御され、十分な圧縮が行われるため、気筒8からの点火、すなわち、始動後2圧縮目からの点火が実現される。
また、第1バンク12側では、気筒1と気筒3との間に、気筒8、気筒4の2つの気筒が存在し、気筒1と気筒3との間の位相差は、第1バンク12内の他の気筒間の位相差に比べて大きくなっている。従って、気筒1と気筒3との間で吸気バルブ10のバルブタイミングを切り替えるようにする。これにより、気筒1がデコンプタイミングでIVC(1)に達した後、気筒3のピストン20が始動時点火タイミングの開弁タイミングIVO(2)に達するまえに、吸気バルブのバルブタイミングを切り替えることができる。従って、気筒1をデコンプタイミングで制御した後、続く気筒3では始動時点火タイミングでの圧縮行程を実現することができる。その結果、内燃機関10全体で見た場合には、内燃機関の始動後最初のクランキング時に気筒1をデコンプタイミングで制御した後、気筒8以降のすべての気筒において、始動時点火タイミングで吸気バルブの制御を行うことができる。従って、振動の発生を抑制するとともに、始動性の向上を図ることができる。
図15は、この発明の実施の形態2においてシステムが実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図15に示すルーチンは、内燃機関10の停止時に、図10のルーチンに代えて実行されるルーチンである。図15のルーチンは、図10のルーチンのステップS106及びS108の処理に代えて、ステップS202及びS204の処理が行われる点を除き、図10のルーチンと同じものである。
具体的に、内燃機関10の停止指令があった後、クランク角が検出されると(S102、S104)、次に、次回の始動時に最初に圧縮行程にあり、かつIVC(1)のピストン位置を最初に越える気筒(特定気筒)が気筒1または気筒6となるように調整される(S202)。つまり、現在のクランク角から、気筒1と気筒6のいずれが、最初にIVC(1)を通過するようになる停止位置に近いかが特定され、特定された気筒1又は6が、始動時に、IVC(1)を最初に通過する位置に来るように調整される。
次に、第1、第2バンク12、14のいずれかのうち、最初にIVC(1)を越えるように設定された気筒が属するバンク(特定気筒群)がデコンプタイミングとなるように設定され、他方のバンクが始動時点火タイミングとなるように設定される(S204)。その後、内燃機関10が停止され(S110)、停止時のルーチンが終了する。
内燃機関10の始動時のルーチンは、図11のルーチンと同じである。内燃機関10の始動時に、図11のルーチンが実行されることで、始動時の最初の圧縮行程がデコンプ状態で行われ、続く圧縮行程からは、始動時点火タイミングで吸気バルブが制御される。また、デコンプタイミングに設定されていたバンクは、最初の気筒がIVC(1)を越えた時点で、始動時点火タイミングに切り替えられ、全ての気筒の吸気バルブタイミングが始動時点火タイミングとなって、内燃機関10の始動時の処理が終了する。
以上説明したように、実施の形態2においては、同一バンク内の各気筒の点火間隔が一定とはならない場合に、同じバンク内で見た場合に点火順序が直後となる気筒との位相差が大きい気筒を選択し、この気筒を始動時に最初にIVC(1)を越える気筒として特定する。これにより、内燃機関10全体でみると気筒間の点火間隔が短い場合であっても、バンク内での点火間隔が長いタイミングを利用して、デコンプタイミングから始動時点火タイミングの制御への切り替えを確実に行うことができる。従って、始動後2回目の以降の圧縮行程から確実に、始動時の点火に最適なバルブタイミングを実現することができ、始動時の振動を抑えつつ、始動性の向上を図ることができる。
なお、実施の形態2においては、内燃機関10が第1バンク12と第2バンク14との2つのバンクを有し、各バンクに4つずつの気筒が含まれる場合について説明した。しかし、この発明において、各バンクに含まれる気筒数は4つに限られるものではない。また、2つのバンクに分けられた構造に限るものではなく、例えば、直列に複数の気筒が接続されている場合に、この気筒がいくつかの気筒ごとに、吸気バルブのタイミングを制御できるものなどであってもよい。ただし、この場合であっても、同じタイミングで制御される気筒のグループ内で、点火間隔が一定とはならない構造である必要がある。
また、実施の形態2では、内燃機関10の停止位置から、次回始動時に最初にIVC(1)を越える気筒を気筒1又は気筒6のいずれかに特定して、この気筒が属するバンクの吸気バルブがデコンプタイミングになるように設定する場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、たとえば、次回始動時に最初にIVC(1)に達する気筒を予め気筒1又は気筒6に決めておいて、その気筒が最初にIVC(1)に達するように、停止位置を調整するものであってもよい。
また、実施の形態2では、内燃機関10の停止時に、予め、最初にIVC(1)に達する気筒を特定し、そのバンクの吸気バルブがデコンプタイミングとなるようにバルブタイミングを予め設定する場合について説明した。しかし、これらの制御は、停止時に行う場合に限らず、内燃機関10の始動時に行うこととしてもよい。
なお、実施の形態2において、ステップS202が実行されることにより、この発明の「特定気筒決定手段」が実現し、ステップS204が実行されることにより、この発明の「始動開始位置制御手段」が実現する。
実施の形態3.
実施の形態3のシステムは、実施の形態2と同じシステム構成を有している。実施の形態3のシステムでは、内燃機関10の停止時の、各気筒のピストン停止位置を以下のように制御する点を除いて、実施の形態2のシステムと同じものである。
図16、実施の形態3における内燃機関10の始動時のピストン位置と吸気バルブタイミングとについて説明するためのバルブタイミングダイヤグラムである。実施の形態3の装置においては、内燃機関10の始動時には、気筒2または気筒3のピストン20が、次回の始動時にIVC(1)から開始するようにその停止位置が制御される。図16は、気筒2のピストン20がIVC(1)の位置に停止するように制御される例を示している。この場合、次回の内燃機関10の始動時に、最初にIVC(1)を越える気筒(特定気筒)は、気筒1となる。この場合、気筒1が属する第1バンク12は、始動時に吸気バルブがデコンプタイミングに設定され、第2バンク14は、始動時点火タイミングに設定される。
図16に示すように、気筒2のピストン20はIVC(1)で停止する。気筒2の筒内は内燃機関10の停止中に徐々に大気に置換され、気筒2の筒内圧は大気圧に近い状態となる。つまり、ピストン20がIVC(1)で停止した状態から開始する気筒2については、筒内空気量が、デコンプ状態の空気量相当となっているため、内燃機関10の始動が開始され、ピストン20が上昇を開始しても、デコンプ状態でのクランキング開始と同様に振動の発生が抑えられる。
気筒2に続く気筒1は、デコンプタイミングで制御されている。気筒2がIVC(1)の位置にあるとき、気筒1は90度遅角した位置A1にある。この状態で内燃機関10の始動が開始すると、気筒1のピストン20がIVC(1)に到達するまで、吸気バルブ40が開いた状態となっている。従って、気筒1でもデコンプ状態で圧縮行程を行うことができる。
このように、気筒2の停止位置をデコンプタイミングの閉弁タイミング位置に停止することで、始動時の気筒2の圧縮行程を、デコンプ状態とすることができる。従って、気筒2については、バルブタイミングが始動時点火タイミングに設定されていても、始動時最初のクランキングにおいてのみデコンプ状態とすることができる。従って、第2バンク14についてはバルブタイミングを切り替えることなくデコンプ状態での圧縮行程を実現することができ、続く気筒1でもデコンプ状態とすることができるため、2圧縮分のデコンプ状態を確保して始動することができる。
また、気筒1が始動時の位置A1からIVC(1)に到達するまでの間、続く気筒8、気筒4はそれぞれ90度ずつ位相が遅角した位置A8からB8、またはA4からB4に移動する。このとき、気筒8、気筒4は共に、始動時点火タイミングで制御されているため、気筒8のピストン20がIVC(2)(圧縮BDC)を通過するところで、気筒8の吸気バルブ40が閉弁される。また、気筒4は、IVO(2)よりも手前の位置A4からピストンが下降を開始し、IVO(2)において吸気バルブ40が開弁すると一気に混合気が流入する。その後、気筒4のピストン20がIVC(2)に達すると吸気バルブ40が閉弁し、更にピストン20が上昇して気筒4内のガスが圧縮される。従って、気筒2、気筒1でのデコンプ状態での始動を実現した後、続く気筒からは、点火最適な始動時点火タイミングで制御されて、第3圧縮目、すなわち気筒8からの点火を実現することができる。
更に、実施の形態2と同様に、気筒3のピストン20が排気行程の位置A3から、吸気行程に入りIVO(1)よりもよりも手前で、気筒1の吸気バルブ40が閉弁する。この時点で、第1バンク12の吸気バルブ40は、デコンプタイミングから始動時点火タイミングに切り替えられる。従って、その後、気筒3のピストン20がIVO(1)の位置を通過して、IVO(2)に達した時に開弁し、IVC(2)に達した時点で閉弁するように吸気バルブ40が制御され、気筒3についても、点火に良好な状態に切り替えることができる。
図16においては、気筒2をIVC(1)の位置に停止させる場合を示したが、気筒3をIVC(1)に停止させることでも同じ状態を実現することができる。つまり、気筒3をIVC(1)の位置に停止させ、続く気筒6(つまり第2バンク14)をデコンプタイミングとすることで、始動時最初に圧縮行程となる気筒3、気筒6はデコンプ状態での始動とすることができる。また、第1バンク12は、始動時点火タイミングに設定されているため、気筒6に続く気筒5から点火を実現することができる。また、気筒6の後、第2バンク14内で次に圧縮行程となる気筒2は、気筒6と270度の位相差がある。従って、気筒6がIVC(1)で閉弁された後に、第2バンク14のバルブタイミングを始動時点火タイミングに切り替えることができ、第2バンク14の気筒についても、気筒6でデコンプ状態の始動をした後は、点火最適なバルブタイミングで制御して、点火を行うことができる。
従って、実施の形態3の装置は、内燃機関10の停止の際に、気筒2又は気筒3のいずれかIVC(1)の位置に近い側の気筒のピストン20がIVC(1)で停止するように停止位置を制御する。そして、ピストン20の停止位置がIVC(1)とされる気筒が属するバンクの吸気バルブ40を始動時点火タイミングに設定し、他方のバンクの吸気バルブタイミングをデコンプタイミングに設定する。これにより、始動時に最初に圧縮TDCを超える気筒2又は3については、気筒内をデコンプ状態に相当する状態とすることができ、また、続く気筒1又は6の圧縮行程をデコンプ状態で行うことができる。従って、内燃機関10の始動時に、最初の2圧縮分の圧縮行程をデコンプ状態とすることができ、より確実に始動時の振動発生を抑制することができる。
図17は、この発明の実施の形態3においてECU80が実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図17のルーチンは、図10のルーチンに代えて内燃機関10の停止時に実行されるルーチンである。図17のルーチンは、ステップS106〜S108の処理に代えて、ステップS302〜S306の処理を実行する点を除いて、図10のルーチンと同じものである。
具体的に、内燃機関10の停止の指示が認められた後、クランク角が検出されると(S102、S104)、現在のクランク角から、気筒2、気筒3のうち、何れの気筒のピストン20停止位置をIVC(1)とするかが特定される(S302)。次に、ステップS302において特定された気筒が属するバンクを始動時点火タイミングに設定し、他方のバンクの吸気バルブをデコンプタイミングに設定する(S304)。その後、特定された気筒2又は気筒3のピストン停止位置がIVC(1)となるように制御されて(ステップS306)、内燃機関10が停止される(S110)。
以上のように停止された状態で、始動時に図11のルーチンを実行することで、2圧縮分の圧縮行程をデコンプ状態とし、その後、直ちに点火最適なバルブタイミングとする実施の形態3の制御を実現することができる。
なお、実施の形態3では、気筒2又は気筒3のピストン20の停止位置をIVC(1)とする場合について説明した。しかし、この発明においてピストン20の停止位置はIVC(1)に限るものではなく、例えば、圧縮行程のIVC(1)よりも進角した位置に停止するものであってもよい。このようにしても、内燃機関10の始動時に、気筒2又は気筒3の最初の圧縮行程をデコンプ状態の圧縮行程とすることができる。
なお、例えば、実施の形態3において、ステップS302が実行されることにより「特定気筒決定手段」が実現し、ステップS306を実行することにより、「停止位置制御手段」が実現される。
また、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に限定されるものではない。また、実施の形態において説明する構造や、方法におけるステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。