本発明に係る多気筒エンジンの排気装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は前記多気筒エンジンの排気装置を備えたエンジンシステム100の概略構成図である。このエンジンシステム100は、シリンダヘッド9およびシリンダブロックを有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2と、エンジン本体1に接続される排気マニホールド5と、排気マニホールド5に接続される触媒装置6とを備えている。
前記シリンダヘッド9およびシリンダブロックの内部にはピストンがそれぞれ嵌挿された複数の気筒12が形成されている。本実施形態では、4つの気筒12、具体的には、図1の右から順に第1気筒12a,第2気筒12b,第3気筒12c,第4気筒12dが形成されている。前記シリンダヘッド9には、ピストンの上方に区画された燃焼室内に臨むようにそれぞれ点火プラグ15が設置されている。
前記エンジン本体1は4サイクルエンジンであって、図6に示すように、各気筒12a〜12dにおいて、180℃Aずつずれたタイミングで前記点火プラグ15による点火が行われ、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程がそれぞれ180℃Aずつずれるように構成されている。本実施形態では、第1気筒12a→第3気筒12c→第4気筒12d→第2気筒12bの順に点火が行われてこの順に排気行程等が実施される。
各気筒12の上部には、それぞれ燃焼室に向かって開口する2つの吸気ポート17および2つの排気ポート18が設けられている。吸気ポート17は、各気筒12内に吸気を導入するためのものである。排気ポート18は、各気筒12内から排気を排出するためのものである。各吸気ポート17には、これら吸気ポート17を開閉して吸気ポート17と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための吸気バルブ19が設けられている。各排気ポート18には、これら排気ポート18を開閉してこれら排気ポート18と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための排気バルブ20が設けられている。前記吸気バルブ19は吸気バルブ駆動機構(バルブ駆動手段)30により駆動されることで、所定のタイミングで吸気ポート17を開閉する。また、前記排気バルブ20は、排気バルブ駆動機構(バルブ駆動手段)40により駆動されて、所定のタイミングで排気ポート18を開閉する。
前記吸気バルブ駆動機構30は、吸気バルブ19に連結された吸気カムシャフト31と吸気VVT(吸気バルブタイミング可変機構)32とを有している。吸気カムシャフト31は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトの回転に伴い回転して、吸気バルブ19を開閉駆動する。
前記吸気VVT32は、吸気バルブ19のバルブタイミングを変更するためのものである。この吸気VVT32は、吸気カムシャフト31と同軸に配置されてクランクシャフトにより直接駆動される所定の被駆動軸と吸気カムシャフト31との間の位相差を変更して、これによりクランクシャフトと前記吸気カムシャフト31との間の位相差を変更することで、吸気バルブ19のバルブタイミングを変更する。吸気VVT32の具体的構成としては、例えば、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に周方向に並ぶ複数の液室を有し、これら液室間に圧力差を設けることで前記位相差を変更する液圧式機構や、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に設けられた電磁石を有し、前記電磁石に電力を付与することで前記位相差を変更する電磁式機構等が挙げられる。この吸気VVT32は、ECU2で算出された吸気バルブ19の目標バルブタイミングに基づいて前記位相差を変更する。
前記排気バルブ駆動機構40は、前記吸気バルブ駆動機構30と同様の構造を有している。すなわち、排気バルブ駆動機構40は、排気バルブ20およびクランクシャフトに連結された排気カムシャフト41と、この排気カムシャフト41とクランクシャフトとの位相差を変更することで排気バルブ20のバルブタイミングを変更する排気VVT(排気バルブタイミング可変機構)42とを有している。排気VVT42は、ECU2で算出された排気バルブ20の目標バルブタイミングに基づいて、前記位相差を変更する。そして、排気カムシャフト41は、この位相差の下でクランクシャフトの回転に伴って回転して排気バルブ20を前記目標バルブタイミングで開閉駆動する。
なお、本実施形態では、前記吸気VVT32および排気VVT42は、吸気バルブ19および排気バルブ20の開弁期間及びリフト量つまりバルブ・プロファイルをそれぞれ一定に保ったまま、吸気バルブ19および排気バルブ20の開弁時期と閉弁時期とをそれぞれ変更する。
前記各気筒12の排気ポート18は、その下流側において独立排気通路52に接続されている。前記気筒12のうち第1気筒12aの排気ポート18と第4気筒12dの排気ポート18とは、それぞれ個別に、独立排気通路52a、52dに接続されている。一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2気筒12bと第3気筒12cの排気ポート18は、1つの独立排気通路52bに接続されている。これら独立排気通路52は互いに独立しており、第2気筒12bあるいは第3気筒12cから排出された排気と、第1気筒12aから排出された排気と、第4気筒12dから排出された排気とは、互いに独立して各独立排気通路52内を通って下流側に排出される。本実施形態では、これら独立排気通路52の上流部分は前記シリンダヘッド9内に形成されており、これら独立排気通路52の下流部分は前記排気マニホールド5に設けられている。
前記排気マニホールド5は、前述のように前記排気ポート18に接続される3つの独立排気通路52に加えて、3つの流路面積可変バルブ58と、低速側集合部56とを備えている。
前記独立排気通路52は、その下流側、本実施形態では前記排気マニホールド5の上流端付近、において、それぞれ高速側通路53と低速側通路54とに分離している。図2および図3に示すように、高速側通路53は、それぞれシリンダヘッド9に形成された独立排気通路52の上流側部分から直線的に後方に延びた後、下方に湾曲する形状を有している。前記低速側通路54は、前記排気マニホールド5の上流端付近から下方に湾曲した後、高速側通路53の下方を通り、これら高速側通路53と同様に直線的に後方に延びた後、下方に湾曲する形状を有している。
前記各高速側通路53の断面積すなわち流路面積は互いに同一に設定されている。各低速側通路54の断面積すなわち流路面積は、互いに同一に設定されている。また、各高速側通路53の流路面積は低速側通路54の流路面積よりも大きく設定されている。
前記流路面積可変バルブ58は、前記各高速側通路53の流路面積を変更し、これにより各独立排気通路52の流路面積を変更するためのものである。これら流路面積可変バルブ58は各高速側通路53内にそれぞれ1つずつ設けられている。本実施形態では、これら流路面積可変バルブ58は、高速側通路53内の上流端付近であって高速側通路53内と低速側通路54とが分離する付近に設けられている。
前記流路面積可変バルブ58は、その中央に設けられた回動軸58aが回動駆動されるに伴いこの回動軸58aを中心として回動する。本実施形態では、各流路面積可変バルブ58に、共通の回動軸58aが固定されており、3つの流路面積可変バルブ58は一体に回動する。各流路面積可変バルブ58は、排気の流れ方向と略平行な方向に広がる全開位置(図3の破線)と、排気の流れ方向と略垂直な方向に広がる全閉位置(図3の実線)との間で回動し、高速側通路53を開閉して高速側通路53の流路面積を変更する。なお、図3では、流路面積可変バルブ58の全開位置と全閉位置とをより明確に示すために、高速側通路53内に配置されて破線で示されるべき流路面積可変バルブ58を全閉位置にある状態で実線で示している。
前記回動軸58aは、その端部に設けられたバルブアクチュエータ(流路面積可変バルブ駆動手段)58bにより回動駆動される。このバルブアクチュエータ58bは、ECU2で算出された流路面積可変バルブ58の目標開度に応じて、前記回動軸58aを回動させて流路面積可変バルブ58を全閉あるいは全開位置に駆動する。このバルブアクチュエータ58bは前記回動軸58aを回動駆動して前記流路面積可変バルブ58を回動可能なものであればどのようなものであってもよい。
前記低速側集合部56は、前記低速側通路54の下流側に設けられる部分である。この低速側集合部56は、各低速側通路54と連通した状態で各低速側通路54の下流端に接続されている。各低速側通路54を通過したガスは、この低速側集合部56に流入してこの低速側集合部56にて集合する。この低速側集合部56において、前記3つの低速側通路54の下流端は互いに隣接する位置に配置されている。
前記低速側集合部56は、略円筒状であってその上流端の断面は略円形を有している。各低速側通路54は、上流側では断面がそれぞれ略円形であって略円筒状をなす一方、下流端付近55では断面が円形から下流に向かうに従って徐々に扇形となっている。そして、これら低速側通路54は、扇形をなす各下流端が全体として略円形断面を形成するように集合して前記低速側集合部56の円形断面の上流端に接続されており、低速側集合部56の上流端の断面形状および断面積と3つの低速側通路54の下流端全体の断面形状および断面積とはほぼ同一に設定されている。すなわち、各通路の構成を模式的に示した図5において、3×A1(低速側通路54の下流端の断面積の合計)=S10(低速側集合部56の上流端の断面積)に設定されている。
前記低速側集合部56は、その上流端から下流に向かうに従って縮径してその断面積すなわち流路面積が下流に向かうに従って縮小する形状を有しており、低速側集合部56の下流端の断面積S11が上流端の断面積S10よりも小さく(S11<S10=3×A1)設定されている。このように流路面積が絞られるように構成された低速側集合部56には、各低速側通路54から高速で排気が流入する。
前記低速側集合部56の下流端には前記触媒装置6の後述するケーシング62が接続されており、前記低速側通路54に流入した排気はこの低速側集合部56を高速で通過した後、前記ケーシング62内に流入する。
前記触媒装置6は、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。この触媒装置6は、三元触媒等の触媒本体64とこの触媒本体64を収容するケーシング62とを備えている。ケーシング62は、排気の流れ方向と平行に延びる略円筒状を有している。前記触媒本体64は、前記ケーシング62の下流部分に収容されており、このケーシング62の上流部分には、ケーシング62に流入したガスが混合可能な所定の空間が形成されている。
前記触媒装置6のケーシング62は、前記低速側集合部56および各高速側通路53と連通した状態でこれら低速側集合部56の下流端および各高速側通路53の下流端に接続されている。従って、前記低速側集合部56を通過した排気および各高速側通路53を通過した排気は、このケーシング62に流入してこのケーシング62の上流部分にて集合する。
このように、本実施形態では、触媒装置6のケーシング62の上流部分62aが、各独立排気通路を通過したガスが集合する集合部として機能する。そして、前記低速側通路54に流入した排気は前記低速側集合部56に流入した後このケーシング62に流入する一方、高速側通路53に流入したガスは途中で集合することなくこのケーシング62に流入してこのケーシング62にて集合する。
本実施形態では、前記3つの高速側通路53は前記ケーシング62の上流端において互いに隣接する位置に配置されている。
前記ケーシング62の上流部分62aは、その上端の断面積S20が前記低速側集合部56の下流端の断面積S11および各高速側通路53の下流端の断面積A2の合計面積よりも大きく、かつ、その上流端から所定距離の間、下流に向かうに従って拡径する形状を有している。すなわち、図5において、3×A2+S11(高速側通路53の下流端の断面積A2の合計3×A2と低速側集合部56の下流端の断面積S11との和)>S20(ケーシング62の上流端の断面積)に設定されているとともに、S20<S21(ケーシング62の下流側の断面積)に設定されている。各高速側通路53を通過した排気は、このように断面積が大きく容積の大きいケーシング62に流入する。従って、各高速側通路53を通過する排気は、その背圧が小さく抑えられて排気抵抗が少ない状態で円滑にケーシング62内に流入する。
前記ECU2は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行するためのCPUと、RAMやROMからなりプログラム及びデータを格納するメモリと、各種信号の入出力を行なうI/Oバスとを備えている。このECU2は、前記I/Oバスを介して各種センサからの信号を受け、この信号に基づき種々の演算を行う。
ECU2は、運転条件に応じて、吸気バルブ19および排気バルブ20の目標バルブタイミングを演算するとともに、前記流路面積可変バルブ58の目標開度を演算して、吸気バルブ19および排気バルブ20のバルブタイミング、流路面積可変バルブ58の開度がこれら目標値になるように、吸気VVT32および排気VVT42、前記バルブアクチュエータ58bを駆動する。
前記吸気バルブ19および排気バルブ20の目標バルブタイミングは、エンジンの回転数NEが基準回転数N1より低い低速領域R1(図8参照)において、図6に示すように、吸気バルブ19と排気バルブ20の両方が排気上死点(TDC)を挟んで所定のオーバーラップ期間T_O/L開弁して排気バルブ20の開弁期間と吸気バルブ19の開弁期間とがオーバーラップするように、かつ、排気バルブ20が排気行程が連続する他の気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に開弁を開始するように設定されている。具体的には、第1気筒12aの吸気バルブ19と排気バルブ20とがオーバーラップしている期間中に第3気筒12cの排気バルブ20が開弁を開始し、第3気筒12cの吸気バルブ19と排気バルブ20とがオーバーラップしている期間中に第4気筒12dの排気バルブ20が開弁を開始し、第4気筒12dの吸気バルブ19と排気バルブ20とがオーバーラップしている期間中に第2気筒12bの排気バルブ20が開弁を開始し、第2気筒12bの吸気バルブ19と排気バルブ20とがオーバーラップしている期間中に第1気筒12aの排気バルブ20が開弁を開始するよう設定されている。
また、前記低速領域R1における前記排気バルブ20および吸気バルブ19の目標バルブタイミングは、図7に示すように、オーバーラップ期間T_O/L中において、排気バルブ20と吸気バルブ19のバルブリフトカーブの重複する領域の面積が排気上死点TDCよりも遅角側の方が排気上死点よりも進角側よりも大きくなるように設定されている。すなわち、排気上死点TDCから排気バルブ20の閉弁時期EVCまでの期間における排気バルブ20と吸気バルブ19のうちバルブリフトの小さい方のバルブ(図7では、角度C1までは吸気バルブ19であり、C1以降は排気バルブ20である)のバルブリフトの時間面積S_VL2が、吸気バルブ19の開弁時期IVOから排気上死点TDCまでの期間における排気バルブ20と吸気バルブ19のうちバルブリフトの小さい方のバルブ(図7では吸気バルブ19)のバルブリフトの時間面積S_VL1よりも大きくなるように設定されている。
前記オーバーラップ期間の掃気時において、吸気ポート17から吸気バルブ19を介して気筒12内に吸気が流入して気筒12内から排気バルブ20を介して排気ポート18側に残留ガスが流出するというガス流れでは、掃気されるガス量は排気バルブ20と吸気バルブ19のうちバルブリフトの小さい方のバルブの開口量によって制約される。これに対して、本エンジンシステム100では、前記のように、排気上死点TDCよりも遅角側において、吸気バルブ19と排気バルブ20のうちバルブリフトの小さい方のバルブのバルブリフトの時間面積S_VL2がより大きく設定されてこのバルブ開口量が大きく確保されており、排気上死点TDCよりも遅角側において重点的に掃気が行なわれる。
前記低速領域R1では、前記S_VL2>S_VL1の関係が維持されつつ、図8に示すように、排気バルブ20の目標バルブタイミング(開弁時期EVOおよび閉弁時期EVC)はエンジン回転数NEが高くなるほど進角側に設定されている。また、図9に示すように、吸気バルブ19の目標バルブタイミング(開弁時期IVOおよび閉弁時期IVC)はエンジン回転数NEが高くなるほど遅角側に設定されている。そして、低速領域R1では、エンジンの回転数NEが高くなるほど前記オーバーラップ期間T_O/Lが小さくなるように設定されている。
前記基準回転数N1は、例えば、2000rpmである。また、排気バルブ20の開弁時期EVOおよび閉弁時期EVCは、例えば、2000rpmにおいてEVO=BBDC(下死点前)30℃A、EVC=ATDC(上死点後)30℃Aに設定され、1500rpm以下においてEVO=BBDC20℃A、EVC=ATDC40℃Aに設定されている。吸気バルブ19の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、例えば、2000rpmにおいてIVO=BTDC(上死点前)30℃A、IVC=50℃Aに設定され、1500rpm以下においてIVO=BTDC40℃A、IVC=40℃Aに設定されて、前記オーバーラップ期間T_O/Lは、2000rpmにおいて60℃A、1500rpm以下において80℃Aに設定されている。
なお、エンジンの回転数NEと前記オーバーラップ期間T_O/Lの関係は、エンジンの回転数NEが高い条件の方がエンジンの回転数NEが低い条件に比べてオーバーラップ期間T_O/Lが小さく設定されていればよく、エンジンの回転数NEに応じてオーバーラップ期間T_O/Lが連続的に変化するものでなくてもよい。
一方、エンジン回転数NEが前記基準回転数N1以上の高速領域R2では、排気バルブ20の目標バルブタイミングは前記低速領域R1よりも進角側に設定されている。また、高速領域R2では、吸気バルブ19の目標バルブタイミングは前記低速領域R1よりも遅角側に設定されている。そして、高速領域R2では、排気バルブ20と吸気バルブ19オーバーラップ期間T_O/Lが低速領域R1での値よりも小さく設定されている。例えば、高速領域R2ではオーバーラップ期間T_O/Lは40℃A以下に設定されている。
なお、高速領域R2においても、排気バルブ20の目標バルブタイミングはエンジン回転数NEが高くなるほど進角側に設定され、吸気バルブ19の目標バルブタイミングはエンジン回転数NEが高くなるほど遅角側に設定されている。
図10に、低速領域R1とR2における排気バルブ20および吸気バルブ19の目標バルブタイミングを比較したものを示す。この図10において、実線が低速領域R1での目標バルブタイミングであり、破線が高速領域R2での目標バルブタイミングである。
前述のように、排気バルブ20の目標バルブタイミングはエンジン回転数NEが低いほど遅角されており、全ての運転領域で下死点より前で開弁するよう設定された排気バルブ20は、低速領域R1において、より下死点に近く他の気筒の上死点により近い時期で開弁する。
なお、本エンジンシステム100において、前記吸気バルブ19および排気バルブ20の開弁時期、閉弁時期とは、それぞれ、図12に示すように、各バルブのリフトカーブにおいてバルブのリフトが急峻に立ち上がるあるいは立ち下がる時期であり、例えば0.4mmリフトの時期をいう。
前記流路面積可変バルブ58の目標開度は、前記低速領域R1において全閉に設定される一方、高速領域R2において全開に設定されている。低速領域R1では、前記各高速側通路53が遮断されて、エンジン本体1から排出された排気は前記低速側通路54のみを通って下流に流れる。一方、高速領域R2では、各高速側通路53が開放されて、エンジン本体1から排出された排気は高速側通路53および低速側通路54を通って下流に流れる。
以上のように構成されたエンジンシステム100における吸気性能について次に説明する。
所定の気筒12(以下、適宜、排気行程気筒12という)の排気バルブ20が開弁すると、この気筒12の排気ポート18からこの気筒12に対応する前記独立排気通路52に排気が高速で流入する。
前記低速領域R1では、前記高速側通路53は遮断されて独立排気通路52のうち低速側通路54のみが開放されており、前記排気は前記低速側通路54にのみ流入する。前述のように、この低速側通路54の流路面積は独立排気通路52の上流側部分さらには高速側通路53よりも小さく設定されている。さらに、低速側通路54の下流に設けられた前記低速側集合部56は、下流に向かうほど流路面積が小さくなっている。従って、前記排気は、前記低速側集合部56を高速で通過する。
このようにして、低速側集合部56に所定の低速側通路54から高速の排気が噴出されると、この排気の周囲に発生した負圧作用すなわちエゼクタ効果により低速側集合部56に連通している他の低速側通路54には、その内部のガスを下流側へと吸い出す力が作用する。前記排気行程気筒12の排気バルブ20の開弁時において、排気順序がこの排気行程気筒12の1つ前に設定された他の気筒12(以下、適宜、吸気行程気筒12という)は前記オーバーラップ期間中にあり、その排気バルブ20と吸気バルブ19とはいずれも開弁している。そのため、前記吸出し力は、この吸気行程気筒12に接続された低速側通路54を介して吸気行程気筒12内のガスに作用する。この吸出し力により吸気行程気筒12内の残留ガスは気筒12内から勢いよく吸い出される。
ここで、排気上死点よりも遅角側では、ピストンの下降に伴い燃焼室の容積が増大することで、吸気ポート17内のガスに吸気行程気筒12内への強い吸引力が作用する。前述のように、本エンジンシステム100では、排気上死点よりも遅角側において、吸気バルブ19と排気バルブ20のうちバルブリフトの小さい方のバルブのバルブリフトの時間面積S_VL2がより大きく設定されており、排気上死点よりも遅角側であって吸気ポート17内のガスに吸気行程気筒12内への強い吸引力が作用するタイミングで重点的に掃気が行なわれている。そのため、この吸気に加えられる気筒12内への吸引力と、前記エゼクタ効果により気筒12内の残留ガスに加えられる排気ポート18側への吸出し力とが効果的に作用して、より多くのガスが掃気され、より多くの吸気が気筒12内に流入する。
特に、前記低速領域R1では、排気バルブ20は下死点付近であって吸気行程気筒12の排気上死点付近において開弁している。そのため、前記吸気行程気筒12では、前記ピストンの下降に伴って吸気ポート17側の吸気に気筒12内への吸引力が作用するのと同時に、排気バルブ20の開弁直後に気筒12内から排出される高速のガス(いわゆるブローダウンガス)により生成される高い吸出し力が作用する。これにより、前記残留ガスはより勢いよく排出されてより多量の吸気が気筒12内に流入する。
このようにして、本エンジンシステム100では、低速領域R1において、エゼクタ効果が効果的に発揮され各気筒12の掃気が促進されて、吸気効率が高められ、エンジン出力が高められる。
ここで、エンジン回転数NEが高くなると吸気慣性により気筒12に吸気が流入するタイミングは遅角側に移行する。すなわち、気筒12に流入する吸気量が最大となる時期は遅角側に移行する。これに対して、前記低速領域R1において、吸気バルブ19の閉弁時期IVCは、エンジン回転数NEが高くなるほど遅角されている。そのため、この低速領域R1では、前記エゼクタ効果により掃気が促進されるとともに、エンジン回転数NEの変化に伴う吸気量の流入タイミングの変化に対応してより多くの吸気量が気筒12内に流入する。
また、エンジン回転数NEが高く排気行程の時間が短いほど、排気バルブ20を早期に開弁する方がより多くの排気を排出することができる。これに対して、前記低速領域R1において、排気バルブ20の開弁時期EVOは、エンジン回転数NEが高くなるほど進角されている。そのため、この低速領域R1では、前記エゼクタ効果により掃気が促進されるとともに、エンジン回転数NEの変化に対応してより多くの排気が排出される。
一方、高速領域R2では、高速側通路53は開放されており、気筒12の排気ポート18から独立排気通路52に流入した排気は、前記低速側通路54に加えて高速側通路53に流入する。前述のように、高速側通路53の流路面積は低速側通路54の流路面積よりも大きく設定されており、前記排気の多くはこの高速側通路53を通過する。そして、高速側通路53を通過した排気は、直接前記触媒装置6のケーシング62に流入する。ここで、これら高速側通路53を通過したガスが集合するこのケーシング62の上流部分62aは、その流路面積が各高速側通路53の下流端の合計面積よりも大きく設定されているとともに、下流に向かうほど拡径する形状を有している。そのため、各高速側通路53を通過した排気は、より少ない抵抗でこの高速側通路53を円滑に通過する。これに伴い、高速側通路53の下流端の圧力すなわち各高速側通路53の背圧は低く抑えられる。
このようにして、本エンジンシステム100では、排気流量が大きく背圧が高くなりやすい高速領域R2では、高速側通路53が開放されて排気が抵抗の少ない状態で排出されることでシリンダの掃気が促進されてエンジン出力が確保される。
また、この高速領域R2において、吸気バルブ19の閉弁時期IVCは、エンジン回転数NEが高くなるほど遅角されており、前述のようにエンジン回転数NEが高くなるほど遅角側に移行する吸気量が最大となる時期に合わせて吸気バルブ19が閉弁するため、エンジン回転数NEに応じて適切に吸気量が確保される。そして、この高速領域R2において、排気バルブ20の開弁時期EVOはエンジン回転数NEが高くなるほど進角されており、気筒12からはエンジン回転数NEの変化に対応してより多くの排気が排出される。
ここで、前記実施形態では、前記吸気バルブ19がその開弁期間及びリフト量つまりバルブ・プロファイルが一定に保たれたまま、その開弁時期と閉弁時期とが変更される場合について説明したが、吸気バルブタイミング可変機構として、吸気バルブ19の開弁時期を一定時期に固定しつつバルブリフト量を変更することで閉弁時期を変更するものを用いてもよい。
この場合には、前記低速領域R1において、図11に示すように、エンジンに対する要求トルクすなわちエンジン負荷が高くなるほど吸気バルブ19のバルブリフト量を大きくするのが好ましい。このようにすれば、吸気バルブ19の開弁時期IVOが固定されることで前記オーバーラップ期間が十分に確保されて前記エゼクタ効果による掃気性能が高く維持されるとともに、高負荷領域において吸気バルブ19のバルブリフト量が大きくなるのに伴い吸気量が増大することでエンジン出力が確実に高められる。一方、低負荷領域では、図11に示すように、吸気バルブ19の閉弁時期がエンジン負荷の低下に伴いBDCより進角側に移動することで、ポンピングロスが低減され、燃焼安定性が向上する。
また、吸気バルブタイミング可変機構として、吸気バルブ19の開弁時期、閉弁時期、バルブリフト量を、それぞれ個別に変更することができるものを用いてもよい。
また、前記低速領域R1において、前記オーバーラップ期間をエンジン回転数NEによらず一定としてもよい。
また、前記実施形態では前記低速領域R1において前記流路面積可変バルブ58が全閉位置に駆動される場合について説明したが、この低速領域R1における流路面積可変バルブ58の位置は全閉位置に限らず、全開位置よりも閉じ側、すなわち、高速側通路53の流路面積が最大面積よりも縮小される位置であればよい。
また、低速領域R1において、前記流路面積可変バルブ58を全開位置と全閉位置との間で段階的あるいは連続的に変化するようにしてもよい。この場合には、エンジン回転数NEが高くなるほど高速側通路53の流路面積が大きくなるように前記流路面積可変バルブ58を駆動するのが好ましい。このようにすれば、エンジン回転数NEが低く排気の流量が少ない領域では高速側通路53の流路面積を絞ることでエゼクタ効果により掃気性能を高めることができる一方、エンジン回転数NEが高く排気の流量が多い領域では高速側通路の流路面積を大きくすることで排気抵抗を小さく抑えることにより掃気を促進することができる。
また、前記実施形態では、前記各独立排気通路52が低速側通路54と高速側通路53とに分離しており、流路面積可変バルブ58が高速側通路53を開閉することで独立排気通路52の流路面積が変更される場合について示したが、独立排気通路52の流路面積を変更するための構成はこれに限らない。例えば、独立排気通路52を低速側通路54と高速側通路53とに分離せず、独立排気通路52内にその流路面積を変更可能な流路面積可変バルブを設けてもよい。
また、触媒装置6の位置は前記に限らない。例えば、前記独立排気通路52の下流端と触媒装置6との間に、所定の通路を設けて、この通路内において高速側通路53を通過したガスが集合するようにしてもよい。ただし、本エンジンシステム100によれば、エゼクタ効果により吸気効率を高めることができるため、ターボ過給機を有しないエンジンシステムにおいて有用である。そして、このようにターボ過給機を有しない場合には、触媒装置6を前記実施形態のように各独立排気通路53に直接接続してより上流側の位置に配置することができ、これにより触媒本体64に流入する排気の温度を高く維持して触媒を早期に活性させることができる。
また、低速領域R1のうちエンジン負荷の低い低負荷領域では、吸気の圧力が小さく、吸気バルブ19と排気バルブ20のオーバーラップ期間を大きくすると排気が吸気側に逆流するおそれがあるため、このような場合には、吸気バルブ19と排気バルブ20のオーバーラップ期間を小さくするとともに、流路面積可変バルブ58を全開としてもよい。