JP4710110B2 - フッ化スルホラン類の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ化スルホラン類の製造方法に関する。詳しくは、スルホラン類をフッ素ガスと接触させて反応させることによりフッ化スルホラン類を製造する方法に関する。
本発明により製造された各種フッ化スルホラン類は、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用である。
【0002】
【従来の技術】
近年、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ等のエネルギー貯蔵デバイスは、携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン等のデジタル携帯電子機器の急激な普及により、需要が急増している。また、地球環境問題や省エネルギーの点からこれらのエネルギー貯蔵デバイスは電気自動車やハイブリッド車の動力源としても注目を浴びている。
【0003】
これらのエネルギー貯蔵デバイスは動作機構的には電気化学デバイスであるため、構成材料として電解質が必要であり、広い作動電位範囲を利用するために、有機溶媒に溶質塩を溶解した有機電解液が使用されている。
例えば、負極としてリチウム金属を使用しているリチウム一次電池では、正極が二酸化マンガンの際には、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタン混合溶媒にLiClO4 或いはLiCF3 SO3 を溶解した電解質溶液が、正極がフッ化炭素の際には、γ−ブチロラクトンにLiBF4 を溶解した電解質溶液が主として使用されている。また、リチウム−炭素化合物を負極とするリチウムイオン二次電池では、エチレンカーボネート或いはプロピレンカーボネート等の環状炭酸エステルとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート或いはジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルとの混合溶媒にLiPF6 を溶解した電解質溶液が専ら使用されている(宇恵 誠ら、リチウムイオン電池材料の開発と市場、シーエムシー、第6章(1997))。
【0004】
また、電気二重層コンデンサにはプロピレンカーボネート溶媒にEt4 NBF4 塩等を溶解した電解質溶液が使用されている(宇恵 誠、電気化学、66巻、904頁(1998))。
しかしながら、これらのエネルギー貯蔵デバイスの普及や用途拡大に伴い、更なる高エネルギー密度化、高パワー密度化等の高性能化が要求が強まり、エネルギー貯蔵デバイスに使用される有機電解液に対しても、その要求に対応できる材料が望まれており、新しい溶媒・添加剤が探索されている状況である。
【0005】
このような新しい溶媒の一つとして、フッ化スルホラン類がある。スルホラン化合物は高温特性に優れ、高い誘電率特性を持ち、電解液の溶媒として非常に好ましい特性を有するが、粘度が高く、電気化学的安定性が不十分であるという欠点がある。
一方、溶媒をフッ素化すると一般に電気化学的安定性が向上することが知られており、また粘度の低下も期待できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、フッ化スルホラン類については適当な製造法がこれ迄知られておらず、近年、漸くスルホレンにフッ素ガスを付加した3,4−ジフルオロスルホランの合成法が報告されたに過ぎない(J.Fluorine Chem.,93,1,27(1999))。従って、これを用いるに際しては、その入手が問題となる。
【0007】
本発明は、スルホラン類を高転化率、高選択率でフッ素化してフッ化スルホラン類を製造する方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、鋭意検討した結果、従来1,2−ジメトキシエタンのパーフルオロ化に用いられた方法(J.Org.Chem.,38,3617(1973))を、その反応性から勘案すると適用が難しいと思われたスルホラン化合物に適用したところ、意外にも高転化率、高選択率で、フッ化スルホラン化合物が得られることを見出し、更に、従来の製造法では得ることの出来なかったモノフルオロスルホラン化合物を得ることに初めて成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、下記構造式(I)で表される化合物であるスルホラン類を不活性ガスで希釈されてなるフッ素ガスと接触させて反応させ、フッ素を1〜3個導入することを特徴とするフッ化スルホラン類の製造方法、にある。
【化1】
Figure 0004710110
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは0〜2の整数を表す)
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に原料として用いられるスルホラン類については、特に限定されるものではないが、式(I)で表される化合物が好ましい。
【0011】
【化2】
Figure 0004710110
【0012】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは0〜8の整数を表す)
式(I)において、アルキル基の炭素数は通常1〜10、好ましくは1〜4である。また、アルキル基が複数の場合、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。アルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、等が挙げられる。アルキル基の数nは0〜8であるが、化学的安定性、反応性等の観点から0〜2が好ましい。
【0013】
そして、このようなスルホラン類の具体例としては、例えばスルホラン、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホラン、2−エチルスルホラン、3−エチルスルホラン等のアルキル基モノ置換体、2,2−ジメチルスルホラン、3,3−ジメチルスルホラン、2−エチル−2−メチルスルホラン、3−エチル−3−メチルスルホラン等のアルキル基が同じ炭素に置換したジ置換体、2,3−ジメチルスルホラン、2,3−ジエチルスルホラン、2−エチル−3−メチルスルホラン、3−エチル−2−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、2,4−ジエチルスルホラン、2−エチル−4−メチルスルホラン、4−エチル−2−メチルスルホラン、2,5−ジメチルスルホラン、2,5−ジエチルスルホラン、2−エチル−5−メチルスルホラン、5−エチル−2−メチルスルホラン等のアルキル基が異なる炭素に置換したジ置換体の立体異性体等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、炭素数の少ない、スルホランが最も好ましい。
本発明に用いられるフッ素ガスは極めて反応性が高く、反応の暴走を防止するために、フッ素ガスに対して不活性なガスで希釈したものを用いることが好ましい。このような不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、フッ化水素又は炭素数4以下のパーフルオロアルカンが用いられる。
【0015】
不活性ガス中のフッ素ガスの濃度は、通常1〜50容量%、好ましくは5〜30容量%である。濃度が低すぎると生産性が悪く、高過ぎると反応制御が困難になる。
スルホラン化合物に対するフッ素ガス(F2 )の仕込みモル比は、通常0.01〜10が好ましいが、更に好ましくは、0.1〜2である。
【0016】
スルホラン化合物とフッ素ガスの反応は、液相のスルホラン化合物中に希釈されたフッ素ガスを導入して行われるが、フッ素ガスに対し不活性な溶媒の存在下で反応を行ってもよい。
フッ素ガスに対して不活性な溶媒としては、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン等のパーフルオロアルカンや潤滑誌32巻2号107頁に示されるようなパーフルオロポリエーテル油(例えば、ダイキン工業社製デムナム、オウシモント社製フォンブリン、デュポン社製クライトックス等)、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油(例えば、ダイキン工業社製ダイフロイル等)等のクロロフルオロアルカンを挙げることができる。不活性溶媒に対するラクトンの割合は、10〜90%であるが、この割合が低過ぎると釜効率が低下し、高過ぎると希釈の効果が薄くなる。
【0017】
反応温度については、−80℃〜100℃、好ましくは−30℃〜80℃の範囲である。反応圧力については、通常常圧で行われるが、場合により減圧又は加圧条件で行ってもよい。反応時間は、スルホラン化合物の種類、溶媒の種類、反応温度等によって異なるが、通常は1〜500時間である。
また、この反応の際、反応により生成するフッ化水素を吸収するために、フッ化ナトリウムのような、フッ化物塩を反応系中に加えてもよい。
【0018】
また、スルホラン化合物を気化させて、フッ素ガスとの気相反応で実施することも可能である。この場合も、反応の暴走を防止するため、不活性ガスで希釈することが必須になる。反応温度としては、30〜250℃で行うことができるが、50〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
反応方式は回分式、半回分式、流通式いずれの方法でも可能であり、伝熱制御のし易いマイクロリアクターを使用することもできる。
【0019】
反応によって、得られるフッ化スルホラン化合物は、フッ素モノ置換体、ジ置換体からパーフルオロ置換体まで、種々の置換体が考えられるが、反応条件を調節することにより、従来製造法の知られていなかったモノフルオロ体を高収率、高選択率で得ることができる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例によって本発明の方法を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
液相へのガス仕込み口とガス排出口を設けた300mlのテフロン容器に、スルホラン100gを仕込み、フッ化ナトリウム50gを懸濁させた。この中に、窒素ガスで20容量%に希釈したフッ素ガスを0.5mmol/分の速度にて導入し、反応温度40℃、反応圧、大気圧に保持し、約24時間反応させた。反応終了後、フッ化ナトリウムを濾別分離し、液相を分析した。
【0021】
GC/MS分析とNMR分析の結果、モノフルオロ体が選択的に生成しており、スルホランの変換率は30%、モノフルオロ置換体への選択率はほぼ100%で、ジフルオロ体以上のフッ素置換体と思われる化合物は痕跡量、スルホラン骨格を有しない化合物は見つからなかった。生成物を更に、詳細に分析した結果、モノフルオロ置換体は2,3−置換体の異性体混合物であり、各異性体の組成は2−置換体:3−置換体=1:5であった。
【0022】
実施例2
実施例1と同一条件下で、反応時間を1週間に延長した。
GC/MS分析とNMR分析の結果、ジフルオロ置換体が選択的に生成しており、スルホランの変換率は90%、ジフルオロ置換体への選択率は90%であった。
【0023】
実施例3
実施例2と同一条件下で、反応時間を更に2週間に延長した。
GC/MS分析とNMR分析の結果、ジフルオロ置換体の他に、トリフルオロ置換体が生成しており、スルホランの変換率はほぼ100%、トリフルオロ置換体への選択率は60%であった。
【0024】
実施例4
実施例1と同一条件で、スルホランの代わりに3−メチルスルホランを原料に用いて反応を行った。GC/MS分析とNMR分析の結果、モノフルオロ置換体が生成しており、スルホランの変換率は30%、モノフルオロ置換体への選択率はほぼ100%であった。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、スルホラン類を簡便にフッ素化して、フッ化スルホラン類を高転化率且つ高選択率で製造することができる。

Claims (5)

  1. 下記構造式(I)で表される化合物であるスルホラン類を不活性ガスで希釈されてなるフッ素ガスと接触させて反応させ、フッ素を1〜3個導入することを特徴とするフッ化スルホラン類の製造方法。
    Figure 0004710110
    (式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは0〜の整数を表す)
  2. 不活性ガスが窒素、ヘリウム、フッ化水素又は炭素数4以下のパーフルオロアルカンである請求項1に記載の製造方法。
  3. 不活性ガス中のフッ素ガスの濃度が1〜50容量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 上記構造式(I)で表される化合物がスルホランである請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
  5. 主生成物がフッ素モノ置換スルホラン化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
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