JP2004161638A - フッ素含環状化合物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】一般式(I)で表される環状化合物をフッ素ガスによりフッ素化して、フッ素含環状化合物を製造するに当たり、フッ素化反応に影響を及ぼすことがなく、しかも反応後は容易に除去することができる極性の高い溶媒を用いて、純度の高いフッ素含環状化合物を効率的に製造する。
【解決手段】溶媒としてのアセトニトリルの存在下に、一般式(I)で表される環状化合物にフッ素ガスを接触させることにより、この環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をフッ素原子に置換する。
【化4】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。Yは、CX2及びOから選ばれるものである。Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。nは整数である。)
【選択図】 なし
【解決手段】溶媒としてのアセトニトリルの存在下に、一般式(I)で表される環状化合物にフッ素ガスを接触させることにより、この環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をフッ素原子に置換する。
【化4】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。Yは、CX2及びOから選ばれるものである。Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。nは整数である。)
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素含環状化合物の製造方法に関する。詳しくは、特定の環状化合物をフッ素ガスと反応させることによりフッ素含環状化合物を製造する方法に関する。
【0002】
本発明により製造された各種フッ素含環状化合物は、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用である。
【0003】
【従来の技術】
近年、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ等のエネルギー貯蔵デバイスは、携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン等のデジタル携帯電子機器の急激な普及により、需要が急増している。また、地球環境問題や省エネルギーの点から、これらのエネルギー貯蔵デバイスは電気自動車やハイブリッド車の動力源としても注目を浴びている。
【0004】
これらのエネルギー貯蔵デバイスは、動作機構的には電気化学デバイスであるため、構成材料として電解質が必要であり、この電解質としては広い作動電位範囲を利用するために、有機溶媒に溶質塩を溶解した有機電解液が使用されている。
【0005】
例えば、負極としてリチウム金属を使用しているリチウム一次電池では、正極が二酸化マンガンのものでは、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタン混合溶媒にLiClO4或いはLiCF3SO3を溶解した電解質溶液が、正極がフッ化炭素のものには、γ−ブチロラクトンにLiBF4を溶解した電解質溶液が主として使用されている。また、リチウム−炭素化合物を負極とするリチウムイオン二次電池では、エチレンカーボネート或いはプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート或いはジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルとの混合溶媒にLiPF6を溶解した電解質溶液が専ら使用されている(宇恵 誠ら、「リチウムイオン電池材料の開発と市場」シーエムシー、第6章 (1997))。
【0006】
また、電気二重層コンデンサにはプロピレンカーボネート溶媒にEt4NBF4塩などを溶解した電解質溶液が使用されている(宇恵 誠、「電気化学」66巻、904頁(1998))。
【0007】
近年、これらのエネルギー貯蔵デバイスの普及や用途拡大に伴い、更なる高エネルギー密度化、高パワー密度化などの高性能化の要求が強まり、エネルギー貯蔵デバイスに使用される有機電解液に対しても、その要求に対応できる材料が望まれ、新しい溶媒や添加剤が探索されているのが現状である。
【0008】
ところで、一般に、有機溶媒をフッ素化すると電気化学的安定性が向上することが知られており、また、このフッ化を部分フッ素化にとどめた場合には、誘電率の向上や塩の溶解性向上、各種電極材料との親和性向上が期待される。
【0009】
一方、リチウム二次電池においては、正極及び/又は負極上において、電極表面での電解液に用いられた溶媒の分解が、多少の差違はあれ、起こることが知られており、このことがリチウム二次電池の保存特性やサイクル特性の低下の原因となっている。
【0010】
そこで、この問題を解決するために、電解液の溶媒として鎖状炭酸エステルの水素原子の一部もしくは全部がフッ素に置換された化合物を使用することが提案されている(特開平10−144346号公報)。
【0011】
通常、フッ素原子を含む有機化合物を得るには、予めフッ素が導入されている別の有機化合物を原料として合成を行うか、合成されたフッ素原子を含まない化合物にフッ素原子を導入するかのいずれかの方法を採用することになる。後者の方法の一つに、フッ素ガスを用いた導入法がある。フッ素ガスは安価に製造でき、極めて反応性が高く、工業的に非常に有用なフッ素化試剤である。しかしながら、その高い反応性のために、反応の制御が難しいという問題があり、反応の制御に関する検討が試みられている。
【0012】
通常、有機物の反応は、反応に用いた溶媒の極性によって変化し、生成物が異なるか(フッ素の導入位置が異なる。)、又は生成比率が変化するものとなる。一般に、有機物をフッ素ガスによりフッ素化する場合、溶媒は用いないか、又は、極性の低いパーフルオロアルカンやパーフルオロポリエーテルや、極性の高い無機溶媒である無水フッ酸等のフッ素ガスに対して安定な溶媒を用いる方法が知られている。下記一般式(I)で表される化合物のフッ素化においても同様である(特開2000−344763号公報,特開2001−226367号公報,特開2000−309583号公報)。
【0013】
【化2】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。
Yは、CX2及びOから選ばれるものである。
Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。
nは整数である。)
【0014】
しかしながら、上記一般式(I)で表される化合物のような極性の高い有機物のフッ素化反応に、反応制御のために、溶媒として無水フッ酸を単独で用いると、反応後の除去が困難、即ち、生成物と溶媒との分離が困難であり、生成物中に無水フッ酸が残留し易い。溶媒の無水フッ酸を含むフッ素含環状化合物をエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒等に用いた場合、その性能に悪影響をもたらす。
【0015】
このため、フッ素化反応に支障なく用いることことができ、かつ、反応後は容易に除去することができる極性の高い溶媒が求められていた。
【0016】
【特許文献1】
特開平10−144346号公報
【特許文献2】
特開2000−344763号公報
【特許文献3】
特開2001−226367号公報
【特許文献4】
特開2000−309583号公報
【非特許文献1】
宇恵 誠ら、「リチウムイオン電池材料の開発と市場」シーエムシー、第6章 (1997)
【非特許文献2】
宇恵 誠、「電気化学」66巻、904頁(1998)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、前記一般式(I)で表される環状化合物をフッ素ガスによりフッ素化して、フッ素含環状化合物を製造するに当たり、フッ素化反応に影響を及ぼすことがなく、しかも反応後は容易に除去することができる極性の高い溶媒を用いて、純度の高いフッ素含環状化合物を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明のフッ素含環状化合物の製造方法は、下記一般式(I)で表される環状化合物に、溶媒の存在下でフッ素ガスを接触させて、該環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されたフッ素含環状化合物を製造する方法において、該溶媒としてアセトニトリルを用いることを特徴とする。
【0019】
【化3】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。
Yは、CX2及びOから選ばれるものである。
Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。
nは整数である。)
【0020】
即ち、本発明者らは、鋭意検討した結果、上記一般式(I)で表される環状化合物を、フッ素ガスによりフッ素化する際、溶媒としてアセトニトリルを用いると、溶媒のアセトニトリルはフッ素化されにくく、また、反応後はアセトニトリルと一部生成するアセトニトリルのフッ素化物はいずれも容易に生成フッ素含環状化合物から除去できること、更には、溶媒を用いない場合と比較して、一般式(I)におけるY及びZに隣接する炭素原子にもフッ素を導入しやすくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明で原料として用いられる前記一般式(I)で表される環状化合物は、構造上から、次のような化合物群に大別されるが、いずれの化合物群に対しても本発明の方法を適用することができる。
【0023】
▲1▼ YがCX2でZがOの場合の環状カルボン酸エステル化合物(ラクトン類)
▲2▼ YがCX2でZがN−Rの環状カルボン酸アミド化合物(ラクタム類)
▲3▼ YがOでZがOの環状炭酸エステル化合物
【0024】
原料として用いられる前記一般式(I)で表される環状化合物(以下「原料環状化合物」と称す場合がある。)の環を構成する炭素原子に結合するXとしては、特に限定されないが、得られるフッ素含環状化合物をエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として用いる場合は、Xの元素や置換基により化合物の耐酸化還元性が低下することは好ましくなく、Xとしては水素原子の他、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロベンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、これらのアルキル基の水素の一部又はすべてがフッ素置換されたアルキル基(フルオロアルキル基)、又はこれらのアルキル基やフルオロアルキル基を末端に持つアルコキシル基、炭酸エステル基、カルボン酸エステル基、カルボキシル基等が好ましく、これらのうち特に塩素原子、メチル基、トリフロオロメチル基、エチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0025】
また、原料環状化合物の分子サイズや分子量が大きすぎると、溶解性の低下や粘度の上昇といったエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として好ましくない性能を呈するため、一般式(I)で表される原料環状化合物は、総炭素数が10以下であることが好ましく、更には7以下であることが好ましい。
【0026】
また、同様の理由で一般式(I)で表される原料環状化合物の式中、Xに水素以外の元素や置換基が用いられる数は0〜2が好ましく、更には、0又は1がより好ましい。
【0027】
更には、同様の理由で一般式(I)で表される原料環状化合物の式中、nは6以下が好ましく、更に好ましくは4以下が好ましい。ここでnが1の場合は構造上不安定となるため、最も好ましくは2〜4である。同時に、このことを満たすため、一般式(I)で表される化合物の総炭素数は3以上であることが好ましい。
【0028】
このような原料環状化合物としては、具体的には次のような化合物が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0029】
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−ジオキソラン−2−オン、γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カブロラクトン、N−メチル−γ−ブチロラクタム、N−メチル−α−メチル−γ−ブチロラクタム、N−メチル−γ−バレロラクタム、N−メチル−δ−バレロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム
【0030】
本発明において、このような原料環状化合物にフッ素ガス(F2)を接触させる方法として、例えば、このような原料環状化合物のアセトニトリル溶液中にフッ素ガスを導入する方法を採用するが、この場合、フッ素ガスをフッ素ガスに対して不活性なガスで希釈して用いても良く、また、溶媒として、アセトニトリルと共にフッ素ガスに対して不活性な他の溶媒を併用しても良い。
【0031】
即ち、フッ素ガスは極めて反応性が高いことから、反応の暴走を防止するために、フッ素ガスに対して不活性なガスで希釈して用いることが好ましい。この希釈用ガスとしては、窒素、ヘリウム、フッ化水素又は炭素数4以下のパーフルオロアルカン等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
フッ素ガスをこのようなガスで希釈して用いる場合、フッ素ガスと希釈ガスとの混合ガス中のフッ素ガスの濃度は、通常1容量%以上、特に5容量%以上で、通常50容量%以下、特に30容量%以下とすることが好ましい。このフッ素ガス濃度が低過ぎると反応性が低く、生産性が悪くなり、高過ぎると反応制御が困難となる。
【0033】
原料環状化合物に対するフッ素ガスの仕込みモル比は、通常0.01以上、特に0.1以上で、通常10以下、特に2以下である。この仕込みモル比が少な過ぎると十分な反応性を得ることができず、多過ぎても反応性の向上効果は頭打ちとなり、原料ガスの無駄を生じる。
【0034】
アセトニトリルと併用し得るフッ素ガスに対して不活性な溶媒(以下、「不活性溶媒」と称す場合がある。)としては、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン等のパーフルオロアルカンや、「潤滑誌」32巻2号107頁(1987年)に示されるようなパーフルオロポリエーテル油(例えば、ダイキン工業社製「デムナム」、オウシモント社製「フォンブリン」、デュポン社製「クライトックス」など)、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油(例えば、ダイキン工業社製「ダイフロイル」など)などのクロロフルオロアルカンなどの1種又は2種以上を挙げることができる。
【0035】
アセトニトリルと共にこれらの不活性溶媒を併用する場合、アセトニトリルと不活性溶媒との混合比率は、不活性溶媒がフッ素化反応に悪影響を与えることがない範囲であれば良く、特に制限はないが、通常、溶媒全体(アセトニトリルと不活性溶媒との合計)に対して不活性溶媒が90容量%以下、特に50容量%以下とすることが好ましい。不活性溶媒の混合割合が多過ぎると、アセトニトリルを用いることによる本発明の効果を十分に得ることができない。
【0036】
原料環状化合物をアセトニトリル、或いはアセトニトリルと上記不活性溶媒との混合溶媒に溶解させて得られる原料環状化合物溶液中の原料環状化合物の濃度は10重量%以上、90重量%以下であることが好ましい。この濃度が低過ぎると反応性、生産性が低下し、高過ぎると溶媒を用いることによる効果を十分に得ることができない。
【0037】
反応温度は通常−80℃以上、特に−30℃以上で、通常100℃以下、特に80℃以下の範囲とすることが好ましい。反応温度が過度に低いと反応が十分に進行しにくく、過度に高いと、溶媒の揮発等の問題が生じる。
【0038】
反応圧力は、通常、常圧とされるが、場合により、減圧又は加圧条件で行っても良い。特に、反応温度がアセトニトリルの沸点(87℃)を超える場合には、加圧条件として反応を液相で行うことが好ましい。採用し得る反応圧力条件は0.1MPa以上、10MPa以下程度である。
【0039】
反応時間は、原料環状化合物の種類、溶媒中の不活性溶媒の種類や混合割合、フッ素ガスの希釈の程度、反応温度等によって異なり、反応性に応じて適宜選択すればよいが、通常は1時間以上、500時間以下である。
【0040】
なお、本発明においては、この反応の際に、原料環状化合物とフッ素ガスとの反応により生成するフッ化水素を吸収するために、フッ化ナトリウムのような、フッ化物塩を反応系中に加えても良い。この場合、その添加量としては、反応に用いたフッ素ガスの通気量に対して、通常、0.5モル倍以上、2モル倍以下程度とするのが好ましい。
【0041】
反応方式は回分式、半回分式、流通式のいずれの方法でも可能であり、伝熱制御のし易いマイクロリアクターを使用することもできる。
【0042】
なお、反応により得られた反応液は、少なくともフッ素含環状化合物とアセトニトリル及び一部生成するアセトニトリルのフッ素置換体(更に他の不活性溶媒を併用する場合には当該不活性溶媒)を含むものであるが、一般式(I)で表わされる環状化合物と、アセトニトリル及び一部生成するアセトニトリルのフッ素置換体との沸点差を利用して、常圧又は減圧蒸留により容易に分離することができる。これにより、アセトニトリル及びアセトニトリルのフッ素置換体、その他の溶媒を殆ど含まない高純度のフッ素含環状化合物を得ることができる。
【0043】
反応によって得られるフッ素含環状化合物は、フッ素モノ置換体、ジ置換体からパーフルオロ置換体まで、種々の置換体が考えられるが、反応条件を調節することにより、各種のフッ素含環状化合物を高収率、高選択率で得ることができる。
【0044】
これらのフッ素含環状化合物は、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用である。
【0045】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1
液相へのガス仕込み口とガス排出口を設けた500mlのテフロン容器に、21.5g(0.25mol)のγ−ブチロラクトンを仕込み、アセトニトリル30.8g(0.75mol)を加えて混合溶解させた。この中に、窒素ガスで20容量%濃度に希釈したフッ素ガスを0.045mol/hrの速度にて導入し、反応温度:20℃、反応圧力:大気圧に保持し、約6時間反応させた。反応終了後、液相を分析した。
【0047】
GC/MS分析とNMR分析の結果、γ−ブチロラクトンの転化率は16.5%、γ−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率は11.2%で選択率67.8%であった。α−フルオロ−γ−ブチロラクトン、β−フルオロ−γ−ブチロラクトンはγ−置換体と比較して生成量が少なく、その収率はそれぞれ、1.5%、1.0%で、この他、フッ素が2個導入された各種のジフルオロ置換体が生成しており、その総量は2.6%であった。
【0048】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0049】
比較例1
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例1と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、γ−ブチロラクトンの転化率は16.3%、γ−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率は6.8%で、選択率44.2%であった。α−フルオロ−γ−ブチロラクトン、β−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率はそれぞれ、5.1%、1.4%で、この他、フッ素が2個導入された各種のジフルオロ置換体が生成しており、その総量は1.1%であった。
【0050】
実施例2
実施例1と同一条件で、N−メチル−γ−ブチロラクタム24.8g(0.25mol)を原料に用いて反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、N−メチル−γ−ブチロラクタムの転化率は16.4%、γ−ジフルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムの収率は10.7%で、選択率65.2%であった。この他に、α−フルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムが5.7%生成していた。
【0051】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0052】
比較例2
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例2と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、N−メチル−γ−ブチロラクタムの転化率は14.5%、γ−ジフルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムの収率は4.2%で、選択率29.0%であった。この他に、α−フルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムが3.9%生成していた。
【0053】
実施例3
反応温度が40℃である以外は実施例1と同一条件で、エチレンカーボネート22.1g(0.25mol)を原料に用いて反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、エチレンカーボネートの転化率は15.3%、α,β−ジフルオロエチレンカーボネートの収率は8.8%で、選択率57.5%であった。この他に、フルオロエチレンカーボネートが6.5%生成していた。
【0054】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0055】
比較例3
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例3と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、エチレンカーボネートの転化率は15.0%、α,β−ジフルオロエチレンカーボネートの収率は1.0%で、選択率6.7%であった。この他に、フルオロエチレンカーボネートが14.0%生成していた。
【0056】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、溶媒としてのアセトニトリルの存在下に、前記一般式(I)で表される環状化合物にフッ素ガスを接触させることにより、該環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素含環状化合物を得、反応後は、生成したフッ素含環状化合物から溶媒を容易に除去して、純度の高いフッ素含環状化合物を効率的に製造することができる。
【0057】
本発明によれば、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用な各種フッ素含環状化合物の製造が可能となり、その工業的有用性は極めて大きい。
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素含環状化合物の製造方法に関する。詳しくは、特定の環状化合物をフッ素ガスと反応させることによりフッ素含環状化合物を製造する方法に関する。
【0002】
本発明により製造された各種フッ素含環状化合物は、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用である。
【0003】
【従来の技術】
近年、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ等のエネルギー貯蔵デバイスは、携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン等のデジタル携帯電子機器の急激な普及により、需要が急増している。また、地球環境問題や省エネルギーの点から、これらのエネルギー貯蔵デバイスは電気自動車やハイブリッド車の動力源としても注目を浴びている。
【0004】
これらのエネルギー貯蔵デバイスは、動作機構的には電気化学デバイスであるため、構成材料として電解質が必要であり、この電解質としては広い作動電位範囲を利用するために、有機溶媒に溶質塩を溶解した有機電解液が使用されている。
【0005】
例えば、負極としてリチウム金属を使用しているリチウム一次電池では、正極が二酸化マンガンのものでは、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタン混合溶媒にLiClO4或いはLiCF3SO3を溶解した電解質溶液が、正極がフッ化炭素のものには、γ−ブチロラクトンにLiBF4を溶解した電解質溶液が主として使用されている。また、リチウム−炭素化合物を負極とするリチウムイオン二次電池では、エチレンカーボネート或いはプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート或いはジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルとの混合溶媒にLiPF6を溶解した電解質溶液が専ら使用されている(宇恵 誠ら、「リチウムイオン電池材料の開発と市場」シーエムシー、第6章 (1997))。
【0006】
また、電気二重層コンデンサにはプロピレンカーボネート溶媒にEt4NBF4塩などを溶解した電解質溶液が使用されている(宇恵 誠、「電気化学」66巻、904頁(1998))。
【0007】
近年、これらのエネルギー貯蔵デバイスの普及や用途拡大に伴い、更なる高エネルギー密度化、高パワー密度化などの高性能化の要求が強まり、エネルギー貯蔵デバイスに使用される有機電解液に対しても、その要求に対応できる材料が望まれ、新しい溶媒や添加剤が探索されているのが現状である。
【0008】
ところで、一般に、有機溶媒をフッ素化すると電気化学的安定性が向上することが知られており、また、このフッ化を部分フッ素化にとどめた場合には、誘電率の向上や塩の溶解性向上、各種電極材料との親和性向上が期待される。
【0009】
一方、リチウム二次電池においては、正極及び/又は負極上において、電極表面での電解液に用いられた溶媒の分解が、多少の差違はあれ、起こることが知られており、このことがリチウム二次電池の保存特性やサイクル特性の低下の原因となっている。
【0010】
そこで、この問題を解決するために、電解液の溶媒として鎖状炭酸エステルの水素原子の一部もしくは全部がフッ素に置換された化合物を使用することが提案されている(特開平10−144346号公報)。
【0011】
通常、フッ素原子を含む有機化合物を得るには、予めフッ素が導入されている別の有機化合物を原料として合成を行うか、合成されたフッ素原子を含まない化合物にフッ素原子を導入するかのいずれかの方法を採用することになる。後者の方法の一つに、フッ素ガスを用いた導入法がある。フッ素ガスは安価に製造でき、極めて反応性が高く、工業的に非常に有用なフッ素化試剤である。しかしながら、その高い反応性のために、反応の制御が難しいという問題があり、反応の制御に関する検討が試みられている。
【0012】
通常、有機物の反応は、反応に用いた溶媒の極性によって変化し、生成物が異なるか(フッ素の導入位置が異なる。)、又は生成比率が変化するものとなる。一般に、有機物をフッ素ガスによりフッ素化する場合、溶媒は用いないか、又は、極性の低いパーフルオロアルカンやパーフルオロポリエーテルや、極性の高い無機溶媒である無水フッ酸等のフッ素ガスに対して安定な溶媒を用いる方法が知られている。下記一般式(I)で表される化合物のフッ素化においても同様である(特開2000−344763号公報,特開2001−226367号公報,特開2000−309583号公報)。
【0013】
【化2】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。
Yは、CX2及びOから選ばれるものである。
Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。
nは整数である。)
【0014】
しかしながら、上記一般式(I)で表される化合物のような極性の高い有機物のフッ素化反応に、反応制御のために、溶媒として無水フッ酸を単独で用いると、反応後の除去が困難、即ち、生成物と溶媒との分離が困難であり、生成物中に無水フッ酸が残留し易い。溶媒の無水フッ酸を含むフッ素含環状化合物をエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒等に用いた場合、その性能に悪影響をもたらす。
【0015】
このため、フッ素化反応に支障なく用いることことができ、かつ、反応後は容易に除去することができる極性の高い溶媒が求められていた。
【0016】
【特許文献1】
特開平10−144346号公報
【特許文献2】
特開2000−344763号公報
【特許文献3】
特開2001−226367号公報
【特許文献4】
特開2000−309583号公報
【非特許文献1】
宇恵 誠ら、「リチウムイオン電池材料の開発と市場」シーエムシー、第6章 (1997)
【非特許文献2】
宇恵 誠、「電気化学」66巻、904頁(1998)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、前記一般式(I)で表される環状化合物をフッ素ガスによりフッ素化して、フッ素含環状化合物を製造するに当たり、フッ素化反応に影響を及ぼすことがなく、しかも反応後は容易に除去することができる極性の高い溶媒を用いて、純度の高いフッ素含環状化合物を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明のフッ素含環状化合物の製造方法は、下記一般式(I)で表される環状化合物に、溶媒の存在下でフッ素ガスを接触させて、該環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されたフッ素含環状化合物を製造する方法において、該溶媒としてアセトニトリルを用いることを特徴とする。
【0019】
【化3】
(式中、Xは、炭素に結合する各種元素及び/又は置換基を表し、少なくとも一つが水素原子である。
Yは、CX2及びOから選ばれるものである。
Zは、YがCX2の場合は、O及びN−Rから選ばれるものであり、YがOの場合はOである。Rは無置換又は各種置換基を持つアルキル基を表す。
nは整数である。)
【0020】
即ち、本発明者らは、鋭意検討した結果、上記一般式(I)で表される環状化合物を、フッ素ガスによりフッ素化する際、溶媒としてアセトニトリルを用いると、溶媒のアセトニトリルはフッ素化されにくく、また、反応後はアセトニトリルと一部生成するアセトニトリルのフッ素化物はいずれも容易に生成フッ素含環状化合物から除去できること、更には、溶媒を用いない場合と比較して、一般式(I)におけるY及びZに隣接する炭素原子にもフッ素を導入しやすくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明で原料として用いられる前記一般式(I)で表される環状化合物は、構造上から、次のような化合物群に大別されるが、いずれの化合物群に対しても本発明の方法を適用することができる。
【0023】
▲1▼ YがCX2でZがOの場合の環状カルボン酸エステル化合物(ラクトン類)
▲2▼ YがCX2でZがN−Rの環状カルボン酸アミド化合物(ラクタム類)
▲3▼ YがOでZがOの環状炭酸エステル化合物
【0024】
原料として用いられる前記一般式(I)で表される環状化合物(以下「原料環状化合物」と称す場合がある。)の環を構成する炭素原子に結合するXとしては、特に限定されないが、得られるフッ素含環状化合物をエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として用いる場合は、Xの元素や置換基により化合物の耐酸化還元性が低下することは好ましくなく、Xとしては水素原子の他、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロベンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、これらのアルキル基の水素の一部又はすべてがフッ素置換されたアルキル基(フルオロアルキル基)、又はこれらのアルキル基やフルオロアルキル基を末端に持つアルコキシル基、炭酸エステル基、カルボン酸エステル基、カルボキシル基等が好ましく、これらのうち特に塩素原子、メチル基、トリフロオロメチル基、エチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0025】
また、原料環状化合物の分子サイズや分子量が大きすぎると、溶解性の低下や粘度の上昇といったエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として好ましくない性能を呈するため、一般式(I)で表される原料環状化合物は、総炭素数が10以下であることが好ましく、更には7以下であることが好ましい。
【0026】
また、同様の理由で一般式(I)で表される原料環状化合物の式中、Xに水素以外の元素や置換基が用いられる数は0〜2が好ましく、更には、0又は1がより好ましい。
【0027】
更には、同様の理由で一般式(I)で表される原料環状化合物の式中、nは6以下が好ましく、更に好ましくは4以下が好ましい。ここでnが1の場合は構造上不安定となるため、最も好ましくは2〜4である。同時に、このことを満たすため、一般式(I)で表される化合物の総炭素数は3以上であることが好ましい。
【0028】
このような原料環状化合物としては、具体的には次のような化合物が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0029】
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−ジオキソラン−2−オン、γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カブロラクトン、N−メチル−γ−ブチロラクタム、N−メチル−α−メチル−γ−ブチロラクタム、N−メチル−γ−バレロラクタム、N−メチル−δ−バレロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム
【0030】
本発明において、このような原料環状化合物にフッ素ガス(F2)を接触させる方法として、例えば、このような原料環状化合物のアセトニトリル溶液中にフッ素ガスを導入する方法を採用するが、この場合、フッ素ガスをフッ素ガスに対して不活性なガスで希釈して用いても良く、また、溶媒として、アセトニトリルと共にフッ素ガスに対して不活性な他の溶媒を併用しても良い。
【0031】
即ち、フッ素ガスは極めて反応性が高いことから、反応の暴走を防止するために、フッ素ガスに対して不活性なガスで希釈して用いることが好ましい。この希釈用ガスとしては、窒素、ヘリウム、フッ化水素又は炭素数4以下のパーフルオロアルカン等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
フッ素ガスをこのようなガスで希釈して用いる場合、フッ素ガスと希釈ガスとの混合ガス中のフッ素ガスの濃度は、通常1容量%以上、特に5容量%以上で、通常50容量%以下、特に30容量%以下とすることが好ましい。このフッ素ガス濃度が低過ぎると反応性が低く、生産性が悪くなり、高過ぎると反応制御が困難となる。
【0033】
原料環状化合物に対するフッ素ガスの仕込みモル比は、通常0.01以上、特に0.1以上で、通常10以下、特に2以下である。この仕込みモル比が少な過ぎると十分な反応性を得ることができず、多過ぎても反応性の向上効果は頭打ちとなり、原料ガスの無駄を生じる。
【0034】
アセトニトリルと併用し得るフッ素ガスに対して不活性な溶媒(以下、「不活性溶媒」と称す場合がある。)としては、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン等のパーフルオロアルカンや、「潤滑誌」32巻2号107頁(1987年)に示されるようなパーフルオロポリエーテル油(例えば、ダイキン工業社製「デムナム」、オウシモント社製「フォンブリン」、デュポン社製「クライトックス」など)、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油(例えば、ダイキン工業社製「ダイフロイル」など)などのクロロフルオロアルカンなどの1種又は2種以上を挙げることができる。
【0035】
アセトニトリルと共にこれらの不活性溶媒を併用する場合、アセトニトリルと不活性溶媒との混合比率は、不活性溶媒がフッ素化反応に悪影響を与えることがない範囲であれば良く、特に制限はないが、通常、溶媒全体(アセトニトリルと不活性溶媒との合計)に対して不活性溶媒が90容量%以下、特に50容量%以下とすることが好ましい。不活性溶媒の混合割合が多過ぎると、アセトニトリルを用いることによる本発明の効果を十分に得ることができない。
【0036】
原料環状化合物をアセトニトリル、或いはアセトニトリルと上記不活性溶媒との混合溶媒に溶解させて得られる原料環状化合物溶液中の原料環状化合物の濃度は10重量%以上、90重量%以下であることが好ましい。この濃度が低過ぎると反応性、生産性が低下し、高過ぎると溶媒を用いることによる効果を十分に得ることができない。
【0037】
反応温度は通常−80℃以上、特に−30℃以上で、通常100℃以下、特に80℃以下の範囲とすることが好ましい。反応温度が過度に低いと反応が十分に進行しにくく、過度に高いと、溶媒の揮発等の問題が生じる。
【0038】
反応圧力は、通常、常圧とされるが、場合により、減圧又は加圧条件で行っても良い。特に、反応温度がアセトニトリルの沸点(87℃)を超える場合には、加圧条件として反応を液相で行うことが好ましい。採用し得る反応圧力条件は0.1MPa以上、10MPa以下程度である。
【0039】
反応時間は、原料環状化合物の種類、溶媒中の不活性溶媒の種類や混合割合、フッ素ガスの希釈の程度、反応温度等によって異なり、反応性に応じて適宜選択すればよいが、通常は1時間以上、500時間以下である。
【0040】
なお、本発明においては、この反応の際に、原料環状化合物とフッ素ガスとの反応により生成するフッ化水素を吸収するために、フッ化ナトリウムのような、フッ化物塩を反応系中に加えても良い。この場合、その添加量としては、反応に用いたフッ素ガスの通気量に対して、通常、0.5モル倍以上、2モル倍以下程度とするのが好ましい。
【0041】
反応方式は回分式、半回分式、流通式のいずれの方法でも可能であり、伝熱制御のし易いマイクロリアクターを使用することもできる。
【0042】
なお、反応により得られた反応液は、少なくともフッ素含環状化合物とアセトニトリル及び一部生成するアセトニトリルのフッ素置換体(更に他の不活性溶媒を併用する場合には当該不活性溶媒)を含むものであるが、一般式(I)で表わされる環状化合物と、アセトニトリル及び一部生成するアセトニトリルのフッ素置換体との沸点差を利用して、常圧又は減圧蒸留により容易に分離することができる。これにより、アセトニトリル及びアセトニトリルのフッ素置換体、その他の溶媒を殆ど含まない高純度のフッ素含環状化合物を得ることができる。
【0043】
反応によって得られるフッ素含環状化合物は、フッ素モノ置換体、ジ置換体からパーフルオロ置換体まで、種々の置換体が考えられるが、反応条件を調節することにより、各種のフッ素含環状化合物を高収率、高選択率で得ることができる。
【0044】
これらのフッ素含環状化合物は、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用である。
【0045】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1
液相へのガス仕込み口とガス排出口を設けた500mlのテフロン容器に、21.5g(0.25mol)のγ−ブチロラクトンを仕込み、アセトニトリル30.8g(0.75mol)を加えて混合溶解させた。この中に、窒素ガスで20容量%濃度に希釈したフッ素ガスを0.045mol/hrの速度にて導入し、反応温度:20℃、反応圧力:大気圧に保持し、約6時間反応させた。反応終了後、液相を分析した。
【0047】
GC/MS分析とNMR分析の結果、γ−ブチロラクトンの転化率は16.5%、γ−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率は11.2%で選択率67.8%であった。α−フルオロ−γ−ブチロラクトン、β−フルオロ−γ−ブチロラクトンはγ−置換体と比較して生成量が少なく、その収率はそれぞれ、1.5%、1.0%で、この他、フッ素が2個導入された各種のジフルオロ置換体が生成しており、その総量は2.6%であった。
【0048】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0049】
比較例1
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例1と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、γ−ブチロラクトンの転化率は16.3%、γ−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率は6.8%で、選択率44.2%であった。α−フルオロ−γ−ブチロラクトン、β−フルオロ−γ−ブチロラクトンの収率はそれぞれ、5.1%、1.4%で、この他、フッ素が2個導入された各種のジフルオロ置換体が生成しており、その総量は1.1%であった。
【0050】
実施例2
実施例1と同一条件で、N−メチル−γ−ブチロラクタム24.8g(0.25mol)を原料に用いて反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、N−メチル−γ−ブチロラクタムの転化率は16.4%、γ−ジフルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムの収率は10.7%で、選択率65.2%であった。この他に、α−フルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムが5.7%生成していた。
【0051】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0052】
比較例2
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例2と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、N−メチル−γ−ブチロラクタムの転化率は14.5%、γ−ジフルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムの収率は4.2%で、選択率29.0%であった。この他に、α−フルオロ−N−メチル−γ−ブチロラクタムが3.9%生成していた。
【0053】
実施例3
反応温度が40℃である以外は実施例1と同一条件で、エチレンカーボネート22.1g(0.25mol)を原料に用いて反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、エチレンカーボネートの転化率は15.3%、α,β−ジフルオロエチレンカーボネートの収率は8.8%で、選択率57.5%であった。この他に、フルオロエチレンカーボネートが6.5%生成していた。
【0054】
生成したフッ素置換体とアセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体との分離は常圧又は減圧蒸留により極めて容易に行うことができ、ガスクロマトグラフにて分析したところ、アセトニトリル及び一部生成したアセトニトリルのフッ素置換体の混入のないフッ素含環状化合物が得られたことが確認された。
【0055】
比較例3
アセトニトリルを溶媒として用いない以外は、実施例3と同一条件で反応を行った。GC/MSとNMR分析の結果、6時間後には、エチレンカーボネートの転化率は15.0%、α,β−ジフルオロエチレンカーボネートの収率は1.0%で、選択率6.7%であった。この他に、フルオロエチレンカーボネートが14.0%生成していた。
【0056】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、溶媒としてのアセトニトリルの存在下に、前記一般式(I)で表される環状化合物にフッ素ガスを接触させることにより、該環状化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素含環状化合物を得、反応後は、生成したフッ素含環状化合物から溶媒を容易に除去して、純度の高いフッ素含環状化合物を効率的に製造することができる。
【0057】
本発明によれば、各種溶剤、特に、リチウム電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等のエネルギー貯蔵デバイス用電解質の溶媒や添加剤として有用な各種フッ素含環状化合物の製造が可能となり、その工業的有用性は極めて大きい。
Claims (5)
- 一般式(I)で表される環状化合物中の総炭素数が3〜10であり、一般式(I)中のXが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、或いは、一部又はすべての水素原子がフッ素置換されたアルキル基であり、Rがアルキル基、或いは、一部又はすべての水素原子がフッ素置換されたアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含環状化合物の製造方法。
- 一般式(I)において、nが2〜4であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含環状化合物の製造方法。
- フッ素ガスが、窒素、ヘリウム、フッ化水素及び炭素数4以下のパーフルオロアルカンからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上のガスで希釈されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素含環状化合物の製造方法。
- 一般式(I)で表される環状化合物をアセトニトリルに溶解した後、フッ素ガスと接触させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフッ素含環状化合物の製造方法。
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