以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明で使用するポリエステル樹脂(a)とは、主鎖中にエステル結合を有する重合体である。好適には芳香環を重合体の連鎖単位に有する熱可塑性のポリエステルが挙げられる。具体的には通常、芳香族ジカルボン酸(あるいはそのエステル形成性誘導体)とジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)および/またはヒドロキシカルボン酸とを主成分とし、縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上併用することもできる。またアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体を併用することもできる。
またジオールとしては炭素数2〜20の脂肪族ジオール、すなわちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなど、およびそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのジオールは2種以上併用することもできる。
本発明において好ましく用いられるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリ(エチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−4,4’−ジカルボキシレート/テレフタレートなどの非液晶性ポリエステルおよびこれらの混合物が挙げられる。より好ましいものとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが挙げられ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。これらのポリエステル樹脂は成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて、混合物として用いることも実用上好適である。
本発明で使用するポリエステル樹脂(a)の製造方法は、特に制限がなく、従来公知の直接重合法またはエステル交換法によって製造される。
これらポリエステル樹脂の重合度には制限はないが、例えば0.5%のo−クロロフェノール溶液中、25℃で測定した固有粘度が、0.35〜2.00の範囲が好ましく、0.50〜1.50の範囲がより好ましい。
また、本発明で用いられるポリエステル樹脂(a)は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めた、ポリマー1トン当りのカルボキシル末端基量が5〜40eq/tであることが好ましい。カルボキシル末端基量は、好ましくは10〜40eq/tである。カルボキシル末端基量が5eq/tより小さいと低温特性が低下する傾向にあり、また、40eq/tより多いと耐加水分解性が低下する傾向にあるため好ましくない。
次に本発明で用いるオレフィン系樹脂(b)は、官能基含有オレフィン共重合体(b−1)およびエチレン/α−オレフィン共重合体(b−2)を併用するものである。
ここで、本発明で用いる官能基含有オレフィン共重合体(b−1)とは、分子内に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基およびエポキシ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基を有するオレフィン共重合体である。ここで官能基を有するオレフィン共重合体は、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基およびエポキシ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基を有する単量体成分をオレフィン共重合体に導入することで得ることができる。
オレフィン共重合体に官能基を導入するための官能基を有する単量体成分は、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、およびエポキシ基などを含有する化合物であり、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらのカルボン酸無水物あるいはカルボン酸エステルなどが挙げられる。具体的な化合物の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸ジメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、メタクリル酸アミノエチルおよびメタクリル酸アミノプロピルなどが挙げられる。
これら官能基を有する単量体成分を導入する方法は特に制限なく、前記官能基を有する単量体成分をエチレンおよびα−オレフィンから選ばれる少なくとも一種のオレフィンとともに共重合せしめる方法、オレフィン系重合体にグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
共重合する際に用いられるエチレンおよびα−オレフィンから選ばれる少なくとも一種のオレフィンとしては、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンが好ましく、具体的には、エチレンの他、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどのオレフィンが挙げられる。中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンから選ばれる1種以上のオレフィンが好ましい。
オレフィン系重合体にグラフト導入する際のオレフィン系重合体としては、具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体、未水添または水添スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体などを挙げることができる。
また官能基を有する単量体成分をオレフィン系重合体にグラフト導入する場合は、ラジカル開始剤の存在下で行うことによりグラフト反応効率が高くなるため好ましい。ここで用いられるラジカル開始剤としては、有機過酸化物あるいはアゾ化合物などを挙げることができ、具体的には、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドおよび2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トルイルパーオキサイドなどを挙げることができる。また、アゾ化合物としてはアゾイソブチロニトリルおよびジメチルアゾイソブチロニトリルなどが挙げられる。
上記のようなグラフト反応の反応条件については、特に制限はないが、オレフィン系重合体が溶融した状態で行うことが好ましく、この場合には通常オレフィン系重合体の融点以上で反応させる。すなわち、前記オレフィン共重合体の融点以上の温度、具体的には通常は80〜300℃、好ましくは80〜260℃の範囲でグラフト重合反応を行う。
また、カルボン酸金属塩基を有するオレフィン共重合体は、上記のように導入したカルボン酸の一部または全部を金属塩化したものである。カルボン酸金属塩基における金属種については特に制限はないが、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cdなどが用いられる。特にZnが好ましく用いられる。
官能基を含有する単量体成分の導入量は官能基含有オレフィン共重合体全体(b−1)に対して0.001〜40モル%が好ましく、0.01〜35モル%がより好ましい。
本発明の官能基含有オレフィン共重合体(b−1)としてはエポキシ基を含有するオレフィン共重合体が好ましい。エポキシ基を含有するオレフィン共重合体は、分子内に少なくとも一つエポキシ基をもつオレフィン共重合体である。好ましくは、エチレンおよび/またはα−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン共重合体である。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル等を共重合することも可能である。
本発明においては特にエチレンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン共重合体の使用が好ましく、中でも、エチレン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を共重合成分とするオレフィン共重合体が特に好ましい。上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、
(Rは水素原子または低級アルキル基を示す)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
エチレンおよび/またはα−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が好ましく用いられる。
また、本発明で用いるエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンからなるエチレン/α−オレフィン共重合体(b−2)は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する一種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が衝撃強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
本発明に用いるオレフィン系樹脂(b)のメルトフローレート(以下MFRと略す。:ASTM D 1238、190℃、2160g荷重にて測定)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなる場合もあるので注意が必要である。
本発明に用いる(b)オレフィン系樹脂の製造方法については、特に制限はなく、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、メタロセン触媒を用いた配位重合など、いずれの方法でも用いることができる。
本発明のポリエステル樹脂(a)とオレフィン系樹脂(b)の配合割合は、ポリエステル樹脂60〜95重量%、オレフィン系樹脂5〜40重量%であり、好ましくは、ポリエステル樹脂70〜85重量%、オレフィン系樹脂15〜30重量%である。オレフィン系樹脂が5重量%より小さすぎると、柔軟性および耐衝撃性の改良効果が得にくく、逆に、40重量%より多すぎると、ポリエステル樹脂本来の熱安定性および耐薬品性が損なわれるばかりでなく、溶融混練時の増粘が大きくなるため、好ましくない。
さらに、本発明において、官能基含有オレフィン共重合体(b−1)とエチレン/α−オレフィン共重合体(b−2)の割合は、両者の合計に対し、(b−1)成分が5〜40重量%、(b−2)成分が60〜95重量%であり、より好ましくは(b−1)成分が10〜30重量%、(b−2)成分が70〜90重量%である。(b−1)成分が、5重量%より小さすぎると低温特性が得られにくい傾向にあり、また、40重量%より多すぎると溶融混練時の増粘が大きくなり流動性が悪化する傾向にある。また、(b−2)成分が60重量%より小さすぎると低温特性が得られにくい傾向にあり、95重量%より大きすぎると耐薬品性が低下する傾向にある。
本発明においては、低温時の靱性および耐衝撃性を損なわず、さらに耐加水分解性、耐薬品性の改良などの特性を付与する点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す)(c)およびポリエーテルイミド樹脂(d)を含有せしめることが必要である。
本発明に用いるPPS樹脂(c)としては、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体を用いることができる。
耐熱性の観点からは前記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、さらには90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記のいずれかの構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。なかでもp−フェニレンスルフィド/m−フェニレンスルフィド共重合体(m−フェニレンスルフィド単位20%以下)などは、成形加工性とバリア性を兼備する点で好ましく用いられ得る。
かかるPPS樹脂は、ポリハロゲン芳香族化合物とスルフィド化剤とを極性有機溶媒中で反応させて得られるPPS樹脂を回収および後処理することで、高収率で製造することができる。具体的には特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによっても製造できる。前記のように得られたPPS樹脂を空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など種々の処理を施した上で使用することもできる。
PPS樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において、希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法が例示できる。加熱処理温度は通常、170〜280℃が選択され、好ましくは200〜270℃である。また、加熱処理時間は通常0.5〜100時間が選択され、好ましくは2〜50時間である。この両者をコントロールすることにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でも、また回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることが好ましい。
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法が例示できる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でも、また回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明で用いられるPPS樹脂(c)は、洗浄処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。かかる洗浄処理の具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理および有機溶媒洗浄処理などが例示できる。これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いても良い。
PPS樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、洗浄に用いる有機溶媒としては、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。また有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
PPS樹脂を熱水で洗浄処理する場合の具体的方法としては、以下の方法が例示できる。すなわち、熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
また、熱水で洗浄処理する場合、周期表の第II族の金属元素を含有する水溶液で処理することが好ましく用いられる。周期表の第II族の金属元素を含む水溶液とは、上記水に、周期表の第II族の金属元素を有する水溶性塩を添加したものである。水に対する周期表の第II族の金属元素を有する水溶性塩の濃度は、0.001〜5重量%程度の範囲が好ましい。
ここで使用する周期表の第II族の金属元素の中でも好ましい金属元素としては、Ca、Mg、BaおよびZnなどが例示でき、その対アニオンとしては、酢酸イオン、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオンおよび炭酸イオンなどが挙げられる。より具体的で好適な化合物としては、酢酸Ca、酢酸Mg、酢酸Zn、CaCl2、CaBr2、ZnCl2、CaCO3、Ca(OH)2およびCaOなどが例示でき、特に好ましくは、酢酸Caである。
周期表の第II族の金属元素を含有する水溶液の温度は130℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。洗浄温度の上限については特に制限はないが、通常のオートクレーブを用いる場合には250℃程度が限界である。
かかる周期表の第II族の金属元素を含む水溶液の浴比は、重量比で乾燥ポリマー1に対し、2〜100の範囲が好ましく選択され、4〜50の範囲がより好ましく、5〜15の範囲であることがさらに好ましい。
PPS樹脂を酸水溶液で洗浄処理する場合の具体的方法としては、以下の方法が例示できる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸はPPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などがあげられる。中でも酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は、残留している酸や塩などを除去するために、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
本発明で用いられるPPS樹脂(c)の灰分量は、加工時の流動性や成形サイクルなどの特性を付与する点から0.1〜2重量%と比較的多い範囲が好ましく、0.2〜1重量%の範囲がより好ましく、0.3〜0.8重量%の範囲であることがさらに好ましい。
ここで、灰分量とは以下の方法により求めたPPS樹脂中の無機成分量を指す。
(1)583℃で焼成、冷却した白金皿にPPS樹脂5〜6gを秤量する。
(2)白金皿とともにPPS樹脂を450〜500℃で予備焼成する。
(3)583℃にセットしたマッフル炉に白金皿とともに予備焼成したPPS樹脂試料を入れ、完全に灰化するまで約6時間焼成する。
(4)デシケーター内で冷却後、秤量する。
(5)式:灰分量(重量%)=(灰分の重量(g)/試料重量(g))×100により灰分量を算出する。
本発明で用いられるPPS樹脂(c)の溶融粘度は、耐薬品性の改良および加工時の流動性などの特性を付与する点から、1〜2000Pa・s(300℃、剪断速度1000sec−1)の範囲が好ましく選択され、1〜200Pa・sの範囲がより好ましく、1〜50Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。ここで溶融粘度は、剪断速度1000sec−1の条件下でノズル径0.5mmφ、ノズル長10mmのノズルを用い、高化式フローテスターによって測定した値である。
本発明で用いられるPPS樹脂(c)の有機系低重合成分(オリゴマー)量の指標となるクロロホルム抽出量(ポリマー10g/クロロホルム200mL、ソックスレー抽出5時間処理時の残差量から算出)は、耐薬品性の改良および加工時の流動性などの特性を付与する点から1〜5重量%と比較的多い範囲が好ましく、1.5〜4重量%の範囲がより好ましく、2〜4重量%の範囲であることがさらに好ましい。
本発明で用いられるPPS樹脂(c)のポリエステル樹脂(a)とオレフィン系樹脂(b)からなる組成物への配合量は、低温時の靱性および耐衝撃性を損なわず、かつさらに耐薬品性の改良および加工時の流動性などの特性を付与する点から(a)および(b)の合計100重量部に対して0.5〜30重量部であり、好ましくは1〜20重量部である。PPS樹脂(c)の配合量が小さすぎると耐薬品性の改良効果が小さくなり、大きすぎると低温特性が低下する傾向にある。
本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂(d)は、主鎖中にエーテル結合とイミド結合を繰り返し有する重合体であれば、特に限定はされないが、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミン、およびm−フェニレンジアミンとp−フェニレンジアミンの混合物との重縮合物が好ましい。このポリエーテルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商標名で、ジーイープラスチックス社より入手可能である。
本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂(d)のポリエステル樹脂(a)とオレフィン系樹脂(b)からなる組成物への配合量は、低温時の靱性および耐衝撃性を損なわず、かつさらに耐薬品性の改良および耐加水分解性などの特性を付与する点から(a)および(b)の合計100重量部に対して0.5〜30重量部であり、好ましくは1〜25重量部である。ポリエーテルイミド(d)の配合量が小さすぎると耐加水分解性の改良効果が小さくなり、大きすぎると耐薬品性が低下する傾向にある。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、さらに以下に説明するような酸化防止剤あるいはその他の添加剤を配合することが可能である。
さらに本発明においては、高い耐熱性および熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。かかる酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点から(a)および(b)成分の合計100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系およびリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
中でも、ポリエステル樹脂のコンパウンド中に酸化防止剤の揮発や分解を少なくするために、酸化防止剤の融点が高いものが好ましい。具体的にはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどが好ましく用いられる。
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を添加することが可能である。但し、この量が組成物全体の30重量%を超えるとポリエステル樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に20重量%以下の添加が好ましく使用される。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。すなわち、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えるとポリエステル樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下の添加がよい。
本発明の方法により得られるポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で充填材を配合して使用することも可能である。かかる充填材の具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、低温での柔軟性および耐衝撃性の高度バランスを得るために、図1に示したようにポリエステル樹脂1が連続相(マトリックス)を形成し、オレフィン系樹脂2が分散相を形成(海−島構造)したモルホロジーとなり、かつ、分散相を形成するオレフィン系樹脂の平均粒子径が0.01〜2μm、好ましくは0.01〜1μmであることが必要である。ここで、本発明のポリエステル樹脂組成物のモルホロジーは、図1の形態に限定されるものではなく、オレフィン系樹脂粒子の形状が多角形、略楕円形などの非円形であってもかまわない。オレフィン系樹脂の分散が凝集形態となり、平均粒子径が2μmより大きくなると、ポリエステル樹脂組成物の低温特性が得られにくくなり、耐薬品性が低下する傾向となる。また、ポリエステルが連続相とならない場合には、本発明のポリエステル樹脂組成物の流動性や耐薬品性が低下する。ポリエステル樹脂組成物が上記のモルホロジーである場合には、低温特性に優れ、耐薬品性および流動性が特に優れる。
ここでいうオレフィン系樹脂の平均粒子径とは、ポリエステル樹脂組成物を用いてASTM1号ダンベル片を成形し、その中心部から0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡(倍率:1万倍)で観察した際の任意の100ヶのオレフィン系樹脂の分散部分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後それらの平均値を求めた数平均粒子径である。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、PPS樹脂(c)が平均粒子径1〜200nmでポリエステル樹脂相中に分散していることが好ましい。さらに好ましくは1〜150nmであり、特に好ましくは1〜100nmである。このモルホロジーとなることにより耐薬品性が特に優れる。このようにPPS樹脂(c)が極めて微細に均一分散する構造をとることにより、ポリエステル樹脂塑性物の低温衝撃性、耐薬品性が飛躍的に改良される。本発明のポリエステル樹脂組成物において、PPS樹脂(c)およびポリエーテルイミド樹脂(d)を併用することにより、このようなPPS樹脂(c)の微細な分散構造を形成させることができる。
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、原料を、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなどの溶融混練機に供給して、ポリエステル樹脂の融点以上の加工温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。本発明のモルホロジーおよびオレフィン系樹脂(b)の粒径を上述の如くコントロールするためには、せん断力を比較的強くすることが必要であり、また、混練時の滞留時間を短くする必要がある。これらの条件を組み合わせることによって、オレフィン系樹脂の凝集を防ぎつつ、ポリエステル樹脂を連続相とすることができるからである。具体的には、2軸押出機を使用して、混練温度をポリエステル樹脂の融点+5〜20℃とし、滞留時間を1〜5分にすることが好ましい。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練しさらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、一部の原材料を配合後、単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐衝撃性と流動性が優れることから射出成形体用途に特に有用である。特に、低温雰囲気下で優れた柔軟性および耐衝撃性を有し、かつ流動性や耐薬品性にも優れることから、一般機器、自動車用のパイプ、ケース等の構造体、電気電子用の金属インサート成形物品などへの使用に特に適している。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
[カルボキシル末端基量]
ポリエステル樹脂をm−クレゾールに溶解し、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めた。カルボキシル末端基量はポリマー1トン当りの末端基量で表した。
[モルホロジー観察]
射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度130℃、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた系は、金型温度80℃)により、ポリエステル樹脂組成物を射出成形して、ASTM1号ダンベル片を得た。その中心部から0.1μm以下の薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で観察し、以下のように評価した。
○:図1記載のようにポリエステル樹脂が連続相形成の場合。
×:図2のようにポリエステル樹脂とオレフィン系樹脂が共連続相形成の場合。
[平均粒径]
オレフィン系樹脂の平均粒径の測定は、上記モルホロジー観察と同様に、射出成形により得た試験片の薄片を、透過型電子顕微鏡で観察した。倍率1万倍で観察した試験片中の任意のオレフィン系樹脂100ヶの分散部分について画像処理ソフト「Scion Image」を用いて、各々の粒子の最大径と最小径を測定して平均値を求めた。その後それら100ヶの平均値をさらに数平均した値を平均粒径と定義した。また、PPSの分散粒子径に関しては観察倍率を10万倍として観察を行う以外は同様にして求めた。
[成形下限圧]
射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度130℃)により、ポリエステル樹脂組成物を射出成形して、試験片を調製する際の最低充填圧力を求めた。ただし、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた系は、金型温度80℃で行った。
[−40℃アイゾット衝撃強度]
上記と同様にポリエステル樹脂組成物を射出成形して、ASTM−D256に規定された、アイゾット衝撃強度用試験片を作成した。測定温度雰囲気を−40℃にした以外はASTM−D256に従ってノッチ付きアイゾット衝撃強度(1/8インチ厚み)を測定した。
[高速面衝撃試験]
射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度130℃、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた系は、金型温度80℃)により角板成形片(厚さ3mm)を調整した。この成形片の面衝撃試験値を島津製作所製SurboPulserを用いて速度10m/s、−40℃の条件下でASTM−D3763に従って破壊エネルギーを測定した。また破壊形態について下記のように分類した。
延性:割れ、抜けなどを生じず、破壊前に塑性変形を生じる破壊形態。
脆性:割れ、抜けなどを生じ破片はシャープに割れて柔軟性の見られない破壊形態。
[耐薬品性]
ASTM1号ダンベル片を60℃×100時間トルエン/イソオクタン=50/50体積%混合溶媒に浸漬し、浸漬後のダンベル片表面を光学顕微鏡で観察し、表面荒れ(ボイド等)部分の有無を測定した。
◎:表面荒れ部分がほとんどなし。
○:表面荒れ部分が30%以下。
△:表面荒れ部分が50%程度。
×:表面荒れ部分100%。
[耐加水分解性]
ASTM1号ダンベル片を80℃、95%RHの高温高湿条件下で1000時間処理した後の引張破断伸びをASTM−D638に従って測定した。
[灰分量]
(1)583℃で焼成、冷却した白金皿にPPS樹脂5〜6gを秤量する。
(2)白金皿とともにPPS樹脂を450〜500℃で予備焼成する。
(3)583℃にセットしたマッフル炉に白金皿とともに予備焼成したPPS樹脂試料を入れ、完全に灰化するまで約6時間焼成する。
(4)デシケーター内で冷却後、秤量する。
(5)式:灰分量(重量%)=(灰分の重量(g)/試料重量(g))×100により灰分量を算出する。
[クロロホルム抽出量]
PPSポリマー10gを円筒形濾紙に秤量し、クロロホルム200mLでソックスレー抽出(バス温120℃、5時間)を行った。抽出後クロロホルムを除去し、残差量を秤量しポリマー重量当たりで計算した。
[参考例1]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(C−1)の作製方法
撹拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム831g(19.9モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、およびイオン交換水3000gを仕込んだ。常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの硫化水素の飛散量は0.021モルであった。
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ社)2942g(20.0モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで274℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去し、ポリフェニレンスルフィド(PPS)と塩類を含む固形物を回収した。
得られた固形物およびイオン交換水15120gを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
得られたケークおよびイオン交換水11880g、酢酸カルシウム1水和物(シグマアルドリッチ)4gを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは、灰分量0.6重量%、溶融粘度12Pa・s(オリフィス0.5φ×10mm、300℃、剪断速度1000sec−1)、クロロホルム抽出量が3.8%であった。
[参考例2]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(C−2)の作製方法
撹拌機付きの20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成株式会社)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム848g(20.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3267g(33モル)、酢酸ナトリウム531g(6.5モル)、およびイオン交換水3000gを仕込んだ。常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.018モルであった。
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)3031g(20.6モル)、NMP2594g(26.2モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、その後270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し270℃で140分保持した。その後250℃まで1.3℃/分の速度で冷却しながら684g(38モル)のイオン交換水をオートクレーブに圧入した。その後200℃まで0.4℃/分の速度で冷却した後、室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、10リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を20リットルの温水で数回洗浄、濾別した。次いで100℃に加熱されたNMP10リットル中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。次に9.8gの酢酸を含む20リットルの温水で洗浄、濾別した後、20リットルの温水で洗浄、濾別してPPSポリマー粒子を得た。これを、80℃で熱風乾燥し、120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPS樹脂を得た。得られたPPS樹脂は、灰分量0.02重量%、溶融粘度40Pa・s(オリフィス0.5φ×10mm、300℃、剪断速度1000sec−1)、クロロホルム抽出量が0.4%であった。
[実施例1〜11]、[参考例3]、[比較例1〜6]
上記参考例記載の(C−1、C−2)PPS樹脂成分および下に示す各成分を表1に記載の各割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機で、シリンダー温度を250〜300℃に設定し、300rpmのスクリュー回転にて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で1晩除湿乾燥したペレットを用い、射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度130℃、ただし、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた系は、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により、ポリエステル樹脂組成物を射出成形して、試験片を調製した。また、表1に示すように必要に応じて酸化防止剤として下記のものを溶融混練時に添加した。各サンプルの低温特性およびモルホロジーなどを測定した結果は表1に示すとおりであった。本実施例が低温特性(柔軟性、耐衝撃性等)、流動性、耐加水分解性、耐薬品性等に優れるのに対し、比較例においては低温特性、流動性、耐加水分解性、耐薬品性に劣るものであった。
本実施例および比較例に用いた(a)ポリエステル樹脂は以下の通りである。
(A−1):固有粘度0.85、カルボキシル末端基量25eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂。
(A−2):固有粘度0.90、カルボキシル末端基量21eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂。
(A−3):固有粘度0.75、カルボキシル末端基量18eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂。
(A−4):固有粘度0.80、カルボキシル末端基量25eq/tのポリブチレンテレフタレート樹脂。
(A−5):固有粘度0.80、カルボキシル末端基量30eq/tのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂。
(A−6):固有粘度0.85、カルボキシル末端基量25eq/t、融点234℃のポリエチレンテレフタレート/2,6−ナフタレンジカルボキシレート=92/8(モル%)樹脂。
同様に、(b−1)官能基含有オレフィン共重合体は以下の通りである。
(B−1):MFR=3g/10分(190℃、2.16kg荷重)のエチレン/メタクリル酸グリシジル=88/12(重量%)共重合体。
(B−2):無水マレイン酸変性のエチレン/プロピレン=85/15モル%共重合体。
また、同様に(b−2)エチレン/α−オレフィン共重合体は以下の通りである。
(B−3): MFR=0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度0.861g/cm3のエチレン/1−ブテン共重合体。
(B−4):無水マレイン酸で0.8重量%変性されたエチレン・1−ブテン共重合体。
(D−1):ポリエーテルイミド樹脂(GEプラスチックス株式会社製、“ウルテム”1010)
酸化防止剤:以下の2種類の化合物を用いた。
フェノール系:3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン。
リン系:ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト。