光音響信号を逐次観察するために生体に装着する場合を考えると、従来の成分濃度測定装置では、正確な測定を行う上での問題点として以下の3つの問題がある。すなわち体動などによる光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係・押し付け圧力のズレ、音響ノイズ、音響検出器と被検体の空気による音波の反射である。
一つ目の体動の問題について述べる。光照射位置に関して、体動により被検体と光源及び音響検出器との位置が変化すると、光が当たっている部位の形状や状態の変化が生じる。特に対象物が生体、とりわけ生体中の血管内部の成分に注目しているため、光照射部の生体中の血管分布が変化してしまえば、音源分布や光音響信号強度も変化してしまう。音波の検出に関しても、体動による位置変化などで音響検出器と被検体との接触面積が変化すると光音響現象により生じた音波の検出器までの伝搬を阻害する。このため光源から照射される光を被検体に照射する場合、被検体と音響検出器を密着させる強さによっても、得られた光音響信号強度に変化が生じるという問題があった。
上記のような体動などに伴う光音響信号の検出出力強度の不安定性に関する問題に対して、従来の方法では光音響信号発生源と音響検出器との位置関係を固定する施策、体動などによる位置変化による光音響信号の検出出力強度の不安定性の除去に対する施策は行われていない。
また上記のような問題の解決方法の一つとして、光学的生体情報測定装置においては、クランプ式機構が考えられている。クランプの相対する圧着部に励起光源及び検出器を取り付けたもので、これら励起光源及び検出器とで被検体を挾むように固定する。しかしながらクランプ式機構ではセンサの固定は可能であるが、被検体への局所的な装着圧力により被検体の組織への血液流が減少し、正確な測定ができないという難点がある。
次に二つ目の音響ノイズの問題について述べる。光音響測定法は励起光により生じた音波を高感度に検出する方法である。このため正確かつ高感度測定を行うためには音響ノイズを除去する必要がある。ここで音響ノイズとなりうるのは、外界に漂っている音波と被検体において生じた音波のうち所望の伝搬パスを通らなかった音波である。
三つ目の音響検出器と被検体の空気による音波の反射の問題について述べる。音波はある媒質1からある媒質2との界面に差しかかった時、2つの現象が生じる。ひとつは境界面を通過する透過であり、もうひとつは境界面において生じる反射である。それぞれの媒質の音響インピーダンスが大きく異なると界面で大部分反射してしまい、透過はほとんど起こらない。このときの反射率Rは、媒質1の音響インピーダンスをZ1、媒質2の音響インピーダンスをZ2とすると式(1)のように表せる。
ここで生体、特に皮膚において行う光音響測定を考えてみる。被測定物体において発生した光音波は表皮を経て、音響整合層に入射し、その後、音響検出器へと到達する。通常、測定は空気中にて行うことが想定されている。このため被検体の表皮と音響整合層の間には、微量であるが空気が侵入してしまいがちである。ここで空気と皮膚の音速及び音響インピーダンスを下表に示す。
上表から皮膚と空気との境界面での反射率を式(1)より計算すると約90%以上である。つまり皮膚と音響整合層との間に空気が微量でも存在していると生体内で生じた音波は境界面において影響を受けてしまう。さらに生体中の血液成分濃度を測定するためにはSNが1000以上の高感度測定が必要である。もしも皮膚と音響整合層との間に空気が微量でも存在していたとすると、所望の感度での測定が困難になってしまう。
そこで、本発明は、上記の体動による光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係・押し付け圧力のズレ、音響ノイズ、音響検出器と被検体の空気による音波の反射の問題を解決し、かつ、装着中における脱落の可能性を軽減することで、正確な成分濃度を逐次測定を可能とすることを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明の成分濃度測定装置は、強度変調光を出射する光源と、強度変調光によって発生した音波を検出する音響検出器と、被検体に吸着し、当該吸着によって前記音響検出器を被検体に固定する吸着体とを備えることを特徴とする。
光源が強度変調光を出射するので、被検体に音波すなわち光音響信号を発生させることができる。その音波を音響検出器が検出することで、成分濃度を測定することができる。ここで、吸着体が音響検出器を被検体に固定するので、吸着体を被検体に吸着させると、測定中に被検体の位置が一定し、ずれることがない。これにより前述の1つ目の体動による被測定位置の変化の問題を解決することができる。又、装着中における脱落の可能性を軽減させることができる。さらに、音響検出器が被検体に吸着している吸着体に保持されるので、被検体と音響検出器への空気の混入を排除して被検体と音響検出器を密着させ、音波の大部分を反射することなく音響検出器に伝達させることができる。これにより前述の2つ目の音波ノイズの問題及び3つ目の皮膚と検出器の間に生じる音響不整合の問題を解決することができる。よって、本発明に係る成分濃度測定装置は、体動による光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係・押し付け圧力のズレ、音響ノイズ、音響検出器と被検体の空気による音波の反射の問題を解決し、かつ、装着中における脱落の可能性を軽減することで、正確な光音響信号を逐次測定することができる。
さらに、この吸着による被検体への固定は被検体の血管を圧迫しないので、血流を阻害することなく成分濃度を測定することができる。これにより十分な血流量で被検体の生体情報を測定することができ、光音響信号のSN比を上げることができる。又、被検体の周囲が開放されているので被検体が膨張しやすく、被検体で発生する音波の振幅を大きくすることでさらにSN比を上げることができる。
具体的には、本発明の成分濃度測定装置は、吸着する吸着体と、前記吸着体の吸着面に向けて強度変調光を出射する光源と、前記吸着体に保持され、前記吸着面に向けて進む音波を検出する音響検出器と、を備えることを特徴とする。
光源が強度変調光を出射するので、被検体に音波すなわち光音響信号を発生させることができる。音響検出器は光源の方向から入射する音波を検出するので、光音響信号を検出し、成分濃度を測定することができる。ここで、音響検出器は吸着体に保持されているので、吸着体を被検体に吸着させると、測定中に被検体の位置が一定し、ずれることがない。これにより前述の1つ目の体動による被測定位置の変化の問題を解決することができる。又、装着中における脱落の可能性を軽減させることができる。また、この吸着による被検体への固定は被検体の血管を圧迫することが無いので、血流を阻害することがない。さらに、音響検出器が被検体に吸着している吸着体に保持されるので、被検体と音響検出器への空気の混入を排除して被検体と音響検出器を密着させ、音波の大部分を反射することなく音響検出器に伝達させることができる。これにより前述の2つ目の音波ノイズの問題及び3つ目の皮膚と検出器の間に生じる音響不整合の問題を解決することができる。よって、本発明に係る成分濃度測定装置は、体動による光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係・押し付け圧力のズレ、音響ノイズ、音響検出器と被検体の空気による音波の反射の問題を解決し、かつ、装着中における脱落の可能性を軽減することで、正確な光音響信号を逐次測定することができる。
ここで、本発明の成分濃度測定装置の基本原理を、一例として、被検体の成分濃度を測定する場合について説明する。
本発明では、異なる2波長の光の中の、第1の光の波長を、例えば被検体の測定対象の成分による吸光度が被検体の大部分を占める水による吸光度と顕著に異なる波長に設定し、第2の光の波長を水が第1の光の波長におけるのと合い等しい吸光度を示す波長に設定する。上記の波長の設定方法を、血液中のグルコースの濃度を測定する場合を例として図1により説明する。
図1は常温における水とグルコース水溶液の吸光度特性を示す。図1において、縦軸は吸光度を示し、横軸は光の波長を示している。また、図1において、実線は水の吸光度特性を示し、破線はグルコース水溶液の吸光度特性を示している。図1に示す波長λ1はグルコースによる吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長であり、波長λ2は、水がλ1における吸光度と合い等しい吸光度を示す波長である。従って、例えば、第1の光の波長をλ1と設定し、第2の光の波長をλ2と設定することができる。
以下の説明においては、一例として、第1の光の波長を測定対象の成分による吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長λ1に設定し、第2の光の波長を水が第1の光の波長λ1におけるのと合い等しい吸光度を示す波長λ2に設定した場合を説明する。
上記のように設定した異なる2波長の光の各々を、同一周波数で逆位相の信号により強度変調してパルス状の光として出射し、出射された異なる2波長の光が被検体の成分に吸収されて発生する音波を検出して、検出した音波の大きさから、被検体の測定対象の成分の濃度を測定する。上記のように強度変調された異なる2波長の光を出射した場合、第1の光を測定対象の成分と水の両方が吸収して被検体から発生する第1の音波と、第2の光を被検体の大部分を占める水が吸収して被検体から発生する第2の音波とは、周波数が等しくかつ逆位相である。従って、第1の音波と第2の音波は被検体内で重畳し、音波の差として、第1の音波の中の測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波の大きさのみが残留する。そこで、残留した音波により、第1の光が測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波のみを測定することができる。上記の測定においては、測定対象の成分と水の両方が吸収して発生する音波と水が吸収して発生する音波を個別に測定して差を演算するよりも、測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波を正確に測定することができる。
さらに、被検体と音響検出器における音波検出素子との接触状態などの音波測定系の誤差の要因を除いて、高精度に測定する方法を以下に説明する。波長λ1の光及び波長λ2の光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数をα1 (w)及びα2 (w)として、被検体の測定対象の成分のモル吸収係数をα1 (g)及びα2 (g)とすれば、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々により被検体から発生する音波の大きさs1及びs2を含む連立方程式は数式(2)で表される。
上記の、数式(2)を解いて、被検体の測定対象の成分濃度Mを求めることができる。ここで、Cは制御あるいは予想困難な係数、すなわち、被検体と音波検出素子の結合状態、音波検出素子の感度、被検体において光により音波が発生される位置と音波検出素子との間の距離、被検体の比熱及び熱膨張係数、被検体の内部の音波の速度、波長λ1の光及び波長λ2の光の変調周波数、水の吸収係数及び被検体の成分のモル吸収係数、などに依存する未知定数である。さらに数式(2)でCを消去すると次の数式(3)が得られる。
ここで、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数α1 (w)及びα2 (w)が等しくなるように選択されているので、α1 (w)=α2 (w)が成立し、さらに、s1≒s2であることを用いれば、成分濃度Mは数式(4)で表される。
上記の数式(4)に、既知の係数として、α1 (w)、α1 (g)及びα2 (g)を代入し、さらに、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々により被検体から発生する音波の大きさs1及びs2を測定して代入することにより、被検体の成分濃度Mを算出することができる。上記の数式(4)においては、2つの音波の大きさs1及びs2を個別に測定するよりも、それらの差s1−s2を測定して、別に測定した音波の大きさs2で除する方が、被検体の成分濃度を高精度に測定することができる。
そこで、本発明の成分濃度測定装置においては、まず、波長λ1の光及び波長λ2の光を、互いに逆位相の変調信号により強度変調して、1の光束に合波して出射することにより、被検体から発生する音波の大きさs1及び音波の大きさs2が相互に重畳して生じる音波の差(s1−s2)を測定する。次に、波長λ2の光を出射して、被検体から発生する音波の大きさs2を測定する。上記のように測定した(s1−s2)とs2とから、数式(4)により(s1−s2)÷s2を演算して被検体の測定対象の成分濃度を高精度に測定することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置は、被検体に吸着する吸着体と、前記吸着体の吸着面に向けて強度変調光を出射する光源と、前記吸着体に保持され、前記被検体を前記吸着面に向けて進む音波を検出する音響検出器と、を備え、前記吸着体は、前記吸着面に窪みが形成されている可撓性及び気密性を有して前記音響検出器と前記被検体との間の空気を排除する吸盤状部材であり、前記吸着面の少なくとも一部に前記被検体と密着する密着部を有し、前記密着部を除いて音波を吸収する吸音材で形成されており、前記音響検出器は、前記密着部に入射する前記音波を検出する。
本発明では、吸盤状部材の窪み内を減圧して吸引力を発生させることができる。吸着体が吸盤状部材であることで、可撓性及び気密性を有する樹脂にて吸着体を形成することができる。
本発明では、吸着体を被検体に吸着させ、その上から音響検出器が音波を検出するので、吸着体の吸引力を維持することができる。これにより、音響検出器を安定して被検体に固定することができる。
本発明では、吸着体のうちの光音響信号を検出する密着部以外の部分が吸音効果のある材料により作製されているため、音響検出器に対して外界からの音響ノイズを遮断することができる。さらに、音響検出器周辺の吸着面に入射する音波を吸音することができるので、所望の伝搬パスを通らなかった音波を吸音することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記密着部の音響インピーダンスが、水の音響インピーダンスと前記音響検出器の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスであることが好ましい。
本発明では、密着部が水の音響インピーダンスと音響検出器の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスの音響整合部材にて形成されていることで、被検体と密着部との境界における音波の反射及び密着部と音響検出器との境界における音波の反射を抑制し、音波の伝達効率を向上することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記密着部に印加される圧力を検出する圧力センサをさらに備えることが好ましい。
本発明では、圧力センサをさらに備えることで、密着部に密着している被検体に印加される圧力を検出することができる。これにより、被検体に印加されている圧力を加味した成分濃度測定をすることができる。さらに、吸着体が被検体に吸着する吸引力の調節が可能となるので、吸着体を安定して被検体に吸着させるとともに、密着部を一定強度で被検体に密着させることができる。これにより、成分濃度の再現性を向上することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置は、被検体に吸着する吸着体と、前記吸着体の吸着面に向けて強度変調光を出射する光源と、前記吸着体に保持され、前記被検体を前記吸着面に向けて進む音波を検出する音響検出器と、を備え、前記音響検出器は、前記吸着面上に配置されかつ前記被検体と密着する露出部を有し、当該露出部に入射する前記音波を検出し、前記吸着体は、前記吸着面に窪みが形成されている可撓性及び気密性を有して前記音響検出器と前記被検体との間の空気を排除する吸盤状部材であり、音波を吸収する吸音材で形成されている。
本発明では、吸盤状部材の窪み内を減圧して吸引力を発生させることができる。吸着体が吸盤状部材であることで、可撓性及び気密性を有する樹脂にて吸着体を形成することができる。
本発明では、音響検出器が露出部を有することで、成分濃度を測定する被検体に音響検出器を密着させることができる。音響検出器は被検体を伝搬する音波を直接検出することができるので、微弱な光音響信号であっても検出することができる。
本発明では、吸着体が吸音効果のある材料により作製されているため、音響検出器に対して外界からの音響ノイズを遮断することができる。さらに、音響検出器周辺の吸着面に入射する音波を吸音することができるので、所望の伝搬パスを通らなかった音波を吸音することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記露出部に、水の音響インピーダンスと前記音響検出器の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスの音響整合部材が設けられていることが好ましい。
本発明では、音響検出器の露出部の表面に音響整合部材が設けられていることで、被検体と音響検出器の境界における音波の反射を抑制し、音波の伝達効率を向上することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記露出部に印加される圧力を検出する圧力センサをさらに備えることが好ましい。
本発明では、音響検出器のうちの被検体に密着する部分に印加される圧力を検出することができるので、被検体に印加されている圧力を加味した光音響信号の検出が可能になる。さらに、吸着体が被検体に吸着する吸引力の調節が可能となるので、吸着体を安定して被検体に吸着させるとともに、露出部を一定強度で被検体に密着させることができる。これにより、成分濃度の再現性を向上することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記窪みに到達する貫通孔が前記吸盤状部材に形成されており、前記貫通孔を介して前記窪み内を減圧する空気ポンプをさらに備えることが好ましい。
本発明では、空気ポンプを備えるので、被検体を吸着体の上に乗せてポンプを作動させることにより、自動的かつ安定的に吸着体を被検体に吸着させることが可能である。さらに、窪み内の気圧を随時減圧することができるので、吸着体を安定して被検体に吸着させることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記吸着体は、遮光性を有することが好ましい。
本発明では、吸着体に遮光性を持たせることにより、被検体に入射する外光や迷光を遮ることができる。
本発明の成分濃度測定装置は、吸着体が音響検出器を被検体に固定するので、吸着体を被検体に吸着させると、測定中に被検体の位置が一定し、ずれることがない。これにより前述の1つ目の体動による被測定位置の変化の問題を解決することができる。又、装着中における脱落の可能性を軽減させることができる。さらに、音響検出器が被検体に吸着している吸着体に保持されるので、被検体と音響検出器への空気の混入を排除して被検体と音響検出器を密着させ、音波の大部分を反射することなく音響検出器に伝達させることができる。これにより前述の2つ目の音波ノイズの問題及び3つ目の皮膚と検出器の間に生じる音響不整合の問題を解決することができる。よって、本発明に係る成分濃度測定装置は、体動による光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係・押し付け圧力のズレ、音響ノイズ、音響検出器と被検体の空気による音波の反射の問題を解決し、かつ、装着中における脱落の可能性を軽減することで、正確な光音響信号を逐次測定することができる。
さらに、この吸着による被検体への固定は被検体の血管を圧迫しないので、血流を阻害することなく成分濃度を測定することができる。これにより十分な血流量で被検体の生体情報を測定することができ、光音響信号のSN比を上げることができる。又、被検体の周囲が開放されているので被検体が膨張しやすく、被検体で発生する音波の振幅を大きくすることでさらにSN比を上げることができる。
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。また、本実施形態では、被検体として人体の指、足、耳を一例として説明するが、被検体を被測定物に置き換えれば被測定物の成分濃度を測定する場合の実施の形態とすることができる。
(第1実施形態)
図2は、成分濃度測定装置の第1形態の模式図である。図3は、成分濃度測定装置の第1形態が備える吸着体、音響検出器及び圧力センサの概略構成図であり、(A)は側面図を示し、(B)は上面図を示す。図3(A)では、A−A’断面での吸着面19を示した。図2の成分濃度測定装置11は、被検体5に吸着する吸着体12と、吸着体12の吸着面に向けて強度変調光を出射する光源13と、光源13の出射する強度変調光によって被検体5で発生した音波を検出する音響検出器14と、圧力を検出する圧力センサ15と、光源13を動作制御し、音響検出器14から出力される信号に基づいて成分濃度を測定する動作制御器26と、を備える。
吸着体12は、被検体5に吸着する。吸着体12は、例えば、減圧によって生じた吸引力により被検体5に吸着するものである。例えば、吸着面19に窪みが形成されている可撓性及び気密性を有する吸盤状部材であり、窪みと被検体5との間に気密空間16を形成し、気密空間16を減圧することで吸引力を発生させて被検体5に吸着する。本実施形態では、吸着体12は、吸盤状の構造を形成するために、被検体5の外周の一部を覆う中空の半球状構造をしているが、被検体5の外周の少なくとも一部を覆って吸着する吸盤状の構造であれば例えば角状であってもよい。被検体5を指とした場合には、指自体を覆う筒形状であってもよい。また、吸着体12は、成分濃度測定装置11が装着される被検体5となる指の部分に合わせた大きさ・形状である。本実施形態では被検体5を指としたが、他の部位とする場合には、大きさ・形状はその部位に適していればよいので、図の限りではない。又、吸着体12は、少なくとも、音響検出器14を保持できるほどの大きさが必要とされる。又、被検体5は、手の指の他、足の指、腕、足先、耳等、吸着体12を吸着することのできる部位であればいずれであってもよい。又、同一の吸着体12上に光源13及び音響検出器14を保持すれば、光源13と音響検出器14の相対位置を安定させることができる。
図3に示す吸着体12は、吸盤状の構造が形成されている吸盤状部材であり、吸着面19に窪みが形成されている可撓性及び気密性を有することが好ましい。このため本実施形態では、吸着体12は皮膚に吸着効果を持たせるため、可饒性のある樹脂から成る変形可能な材質、シリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル等あるいはウレタン等で形成されていることが好ましい。又、吸着体12は、気密性のある気密性保持膜を適用していることが好ましい。気密性保持膜は、シリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル又はウレタン等の樹脂を例示できる。また、被検体5が指先や外耳のように端部を覆うことのできる部位である場合には、吸着体12は伸縮部材又は可塑性部材からなる袋状とすることもできる。また、気密空間16を構成するため、吸着体12は、気密空間16の形成の際に被検体5に予め密着させる外周部17が粘着物質で接着されることが好ましい。外周部17を被検体5に着接する場合、外周部17を更に確実に被検体5に密着固定することができる。また、外周部17及び被検体5を外周部17に沿って覆う粘着テープによる固定をしてもよい。
また、吸着体12は、吸音効果を持つような材料・形状であってもよい。材料的に吸音効果を持たせるために、母材がシリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル等あるはウレタン等で、母材中に適量かつ適当な粒子径のタングステン粉末などの金属粉が混入してある構成をとる。また形状的に吸音効果を持たせるために、吸着体12に入射した音響波が効率よく散乱されるような大きさ且つ可撓性のある樹脂で三次元構造、たとえば柱状構造などを形成させる。また、吸着体12に遮光性を持たせるために、本実施形態では、吸着体12の被検体5と接する表面に迷光除去コーティングを施していることが好ましい。吸着体12に遮光性を持たせることにより、被検体5に入射する外光や迷光を遮ることができる。又、吸着体12に吸音性を持たせることにより、外界からの音響ノイズを低減させると共に、反射音を除去して被検体5のうち強度変調光の照射点から発生する音波に限定した検出を音響検出器14においてすることができる。さらに、吸着体12が、音響検出器14以外の被検体5及びその周囲を覆うことにより外界からの音響ノイズを低減させ、所望のパス以外の音波を吸音し、高感度検出が可能になる。これにより正確な成分濃度測定が可能となる
さらに、吸着体12の被検体5と接触する部分にグリース等のゲル状材料を被覆すると、被検体5と吸着体12との密着状態、並びに音響検出器14と被検体5との接触状態を密にすることができるため望ましい。又、吸着面19に光源13や圧力センサ15が設けられている場合には、これらの被検体5との接触状態を密にすることができる。例えば、ゲル状材料が音響検出器14と被検体5との間で音響整合部材として機能し音響結合を図ることができる。ここで、音響整合部材は、空気の音響インピーダンス超かつ被検体5若しくは水の音響インピーダンス以下であることが好ましい。吸着体12に材料面から吸音効果を持たせるために、例えば、母材をシリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル又はウレタンとし、母材中に適量かつ適当な粒子径のタングステン粉末などの金属粉が混入してある構成とする。
図4は、本実施形態に係る吸着体の第1例を示す断面図である。図5は、本実施形態に係る吸着体の第1例の吸着時における断面図である。図4及び図5に示す吸着体12は、吸着面19の少なくとも一部に、吸着する被検体5と密着する密着部18を有し、音響検出器14は、密着部18に入射する音波を検出する。ここで、図4は吸着体12が被検体5に吸着していない状態を示し、図5は吸着体12が被検体5に吸着している状態示す。図4に示すように、吸着していない状態においては、外周部17が被検体5に密着している状態となっており、吸着体12は、被検体5との間に気密空間16を形成する。気密空間16を減圧することで、密着部18が被検体5に密着する。ここで、被検体5は、吸着する対象物である。吸着体12を被検体5に吸着させた状態では音響検出器14と被検体5との間の空気が排除されているので、音響検出器14は被検体5を伝搬して吸着体12に入射した音波を検出することができる。このように、吸着体12を介して音響検出器14が音波を検出することで、吸着面19を気密性のある1つの部材で形成することができる。これにより吸着体12の吸引力を維持することができるので、音響検出器14を安定して被検体5に固定することができる。
ここで、図4及び図5に示す吸盤状部材の第1例では、密着部18の音響インピーダンスが、被検体5の音響インピーダンスと音響検出器14の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスであることが好ましい。例えば、密着部18のうちの音響検出器14と被検体5とで挟まれている部分が、音響整合部材で形成されていることが好ましい。音響検出器14と被検体5とで挟まれている密着部18の音響インピーダンスを、音響検出器14と被検体5の中間の音響インピーダンスとすることで、被検体5と密着部18との境界面での音響インピーダンスの差、及び、密着部18と音響検出器14との境界面での音響インピーダンスの差を減少させることができる。このため、密着部18のうちの音響検出器14に接する面の音響インピーダンスが、接触する音響検出器14の表面の音響インピーダンスに近いことが好ましい。また、密着部18のうちの被検体5に接する面の音響インピーダンスが、接触する被検体5の表面の音響インピーダンスに近いことが好ましい。このように、密着部18を用いて音響検出器14と被検体5との境界での音響整合を行うことで、被検体5と密着部18との境界における音波の反射及び密着部18と音響検出器14との境界における音波の反射を抑制し、音波の伝達効率を向上することができる。ここで、人体の音響インピーダンスは水の音響インピーダンスと近似できるので、被検体5が人体である場合には、被検体5の音響インピーダンスを水の音響インピーダンスとすることができる。又、吸着体12のうち皮膚面と接触する密着部18に粘着剤が塗布されていても良い。密着部18を被検体5に着接する場合、密着部18を更に確実に被検体5に密着固定することができる。また粘着材は、密着性を高めかつ密着部18と被検体5の音響整合を取るために音響ゲルなどの音響整合材を用いても良い。
又、図4及び図5に示す吸盤状部材の第1例では、吸着体12は、密着部18を除いて、音波を吸収する吸音材で形成されていることが好ましい。吸着体12のうちの密着部18を除く部分とは、例えば、密着部18を取り囲む外周部17である。外周部17に限らず、外周部17と密着部18の間の側壁部など、吸着体12のうちの音響検出器14と被検体5に挟まれている部分を除くあらゆる部分が吸音材で形成されていることが好ましい。吸着体12のうちの吸音材としたい部分に、吸音性を発揮する3次元構造を作り込んだり、タングステン等の吸音性を発揮する金属粉を混入させたりすることで、吸着体12の一部であっても吸音性を発揮させることができる。さらに、音響検出器14に対して外界からの音響ノイズを遮断するために、吸着体12が吸着している状態にあるときに外気にさらされる部分すなわち吸着面19を除く部分は、吸音材で形成されていることが好ましい。さらに、音響検出器14周辺の吸着面19に入射する音波を吸音するために、密着部18のなかでも音響検出器14と被検体5との間に配置されない部分は吸音材で形成されていることが好ましい。又、吸着体12全体が吸音材で形成し、音響検出器14と被検体5との間に配置されている部分を音波の検出を阻害しない程度に十分薄くすることで、音響ノイズを減少させることができる。このように、吸着体12の少なくとも一部が吸音材で形成されていることで、音響検出器14周辺の吸着面19に入射する音波を吸音し、所望の伝搬パスを通らなかった音波による音響ノイズを減少させることができる。
又、図4及び図5に示す吸盤状部材の第1例では、圧力センサ(不図示)は密着部18に印加される圧力を検出することが好ましい。例えば密着部18上に圧電素子や光ファイバを取り付けることで、密着部18上に印加される圧力を検出する。密着部18は被検体5と密着するので、音波の検出時に被検体5に印加されている圧力を検出することができる。これにより、被検体5に印加されている圧力を加味した成分濃度測定をすることができる。さらに、吸着体12の吸引力の減少を検出することができるので、吸着体12を安定して被検体5に吸着させるとともに、密着部18を一定強度で被検体5に密着させることができる。これにより、成分濃度の再現性を向上することができる。
図6は、本実施形態に係る吸着体の第2例を示す断面図である。図7は、本実施形態に係る吸着体の第2例の吸着時における断面図である。図6及び図7に示す吸着体12は、吸着面19上に音響検出器14が露出している。音響検出器14は、吸着面19上に配置されかつ吸着体12の吸着する被検体5と密着する露出部20を有し、露出部20に入射する音波を検出する。ここで、図6は吸着体12が被検体5に吸着していない状態を示し、図7は吸着体12が被検体5に吸着している状態を示す。気密空間16を減圧することで、露出部20が被検体5に密着する。気密空間16の気密性を維持するため、音響検出器14と吸着体12とがシーリング材で接着されていることが好ましい。図6及び図7では、露出部20が密着部18の同一面上に配置されているが、吸着体12が密着部18を有していない場合には、露出部20が吸着面19から突出していることが好ましい。音響検出器14は、露出部20から音波を直接検出することができるので、微弱な光音響信号であっても検出することができる。
さらに、音響検出器14のうち皮膚面と接触する露出部20に粘着剤が塗布されていても良い。露出部20を被検体5に着接する場合、露出部20を更に確実に被検体5に密着固定することができる。また粘着材は露出部20と被検体5の音響整合を取るために音響ゲルなどの音響整合部材を用いても良い。音響整合部材の音響インピーダンスが、被検体5の音響インピーダンスと音響検出器14の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスであることが好ましい。音響検出器14と被検体5との境界に設けられる音響整合部材の音響インピーダンスを音響検出器14と被検体5の中間の音響インピーダンスとし、被検体5と音響検出器14の境界面での音響インピーダンスの差を減少させることができる。このため、音響整合部材のうちの音響検出器14に接する面の音響インピーダンスが、接触する音響検出器14の表面の音響インピーダンスに近いことが好ましい。また、音響整合部材のうちの被検体5に接する面の音響インピーダンスが、接触する被検体5の表面の音響インピーダンスに近いことが好ましい。このように、音響整合部材を用いて音響検出器14と被検体5との境界での音響整合を行うことで、音響検出器14と被検体5との境界における音波の反射を抑制し、音波の伝達効率を向上することができる。ここで、人体の音響インピーダンスは水の音響インピーダンスと近似できるので、被検体5が人体である場合には、被検体5の音響インピーダンスを水の音響インピーダンスとすることができる。
又、図6及び図7に示す吸盤状部材の第2例では、吸着体12は、音波を吸収する吸音材で形成されていることが好ましい。吸着体の第2例では、吸着体12自身を吸音物質とすることができる。例えば、吸着体12全体に吸音性を発揮する3次元構造を作り込んだり、タングステン等の吸音性を発揮する金属粉を混入させたりすることで、吸着体12を吸音材とすることができる。吸着体12が吸音効果のある材料により作製されているため、音響検出器14に対して外界からの音響ノイズを遮断することができる。さらに、音響検出器14周辺の吸着面19に入射する音波を吸音することができるので、所望の伝搬パスを通らなかった音波を吸音することができる。
又、図6及び図7に示す吸盤状部材の第2例では、圧力センサ(不図示)は露出部20に印加される圧力を検出することが好ましい。例えば、露出部20付近の密着部18上に圧電素子や光ファイバを取り付けることで、露出部20上に印加される圧力を検出する。又、露出部20が吸着面19から突出している場合には、露出部20の被検体5と密着する部分に隣接する位置に圧力センサを配置することで、露出部20に印加される圧力と同等の圧力を検出することができる。これにより、被検体に印加されている圧力を加味した成分濃度測定をすることができる。さらに、吸着体12の吸引力の減少を検出することができるので、吸着体12を安定して被検体5に吸着させるとともに、密着部18を一定強度で被検体5に密着させることができる。これにより、成分濃度の再現性を向上することができる。
図2に示す圧力センサ15は、吸着体12に設けられ、成分濃度測定時には、密着部(図4の符号18)若しくは露出部(図6の符号20)と共に被検体5に接触して被検体5を押圧する圧力を検出し、圧力に応じた電気信号を出力する。圧力センサ15は、吸着体12の被検体5と接する表面又は吸着体12の内部いずれの箇所に設けられていてもよい。圧力センサ15を吸着面19とは異なる部分に設ける場合には、圧力センサ15の圧力感知部分を吸着面19から突出させることが必要となると考えられる。吸着体12の吸着時に圧力センサ15の圧力感知部分を被検体5と接触させるためである。圧力センサ15は、例えば、圧電型の圧力センサ15を適用することができる。これにより、被検体5を押圧する圧力から被検体5への押圧力を最適な測定環境に維持して成分濃度測定をすることができる。
図2に示す光源13は、吸着体12へ向けて強度変調光を出射する。このため光源13は、光源13の強度変調光の出射端と吸着面19とが対向しており、吸着体12の吸着面19側から吸着面19に向けて強度変調光を出射することが好ましい。すなわち被検体5に吸着体12が吸着している場合には、光源13の強度変調光の光路上に、被検体5、吸着体12及び音響検出器14が順に配置されることが好ましい。この場合、光源13の出射する強度変調光が被検体5へ入射し、被検体5で発生した音波が吸着面19に入射し、吸着面19に入射した音波が音響検出器14に入射する。吸着面19に音響検出器14が露出している場合には、光源13の強度変調光の出射端と音響検出器14とが対向しており、吸着体12の吸着面19側から音響検出器14の露出部20に向けて強度変調光を出射することが好ましい。すなわち被検体5に吸着体12が吸着している場合には、光源13の強度変調光の光路上に、被検体5及び音響検出器14が順に配置されることが好ましい。この場合、光源13の出射する強度変調光が被検体5へ入射し、被検体5で発生した音波が音響検出器14に入射する。
光源13は、例えば、前述した波長λ1,λ2の2つの強度変調光を合波して出射する半導体レーザを適用することができる。光源13は、被検体5と接する表面に設けられることが好ましい。光源13を吸着体12の被検体5と接する表面に設けた場合には、被検体5に接触して直接被検体5に直接光を照射することができる。吸着体12が被検体5の外周を囲み、光源13を吸着体12の内部に設けた場合には、吸着面19を介した光照射となるが、被検体5に接触することなく吸着体12によって保護されるため耐久性が向上する。また、光源13を吸着体12の内部に設ける場合は、光源13の光の照射部を吸着体12から突出させるか、吸着体12の光の照射部分を透明にすることが考えられる。また、光源13を吸着体12の内側表面に設ける場合は、吸着体12の光の照射部分を透明にすることが考えられる。いずれの場合も吸着体12の遮光性により被検体5への光の照射強度を弱めないようにするためである。
また、光源13は、ヒーター又はペルチェ素子で加熱又は冷却することにより出射する光の波長を変化させることができる。例えば、各々の波長を一方の光の波長を測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長とし、他方の光の波長を水が一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長とする。これにより、水や測定対象とする成分以外の成分による吸収の影響を少なくして成分濃度測定の測定精度を高くすることができる。ここで、前述のように測定対象とする成分をグルコース又はコレステロールとした場合には、グルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長を照射することによって、グルコース又はコレステロールの濃度を高精度に測定することができる。
また、光源13からの光を強度変調光とするには、例えば、動作制御器26内に備えた発振器(不図示)から矩形波信号を出力することとし、光源13からの2つの光の各々を動作制御器26内に備えた駆動回路(不図示)を介して同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する。このように、2つの光の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調することにより、異なる2波長の光を発生し同時に変調することが可能となる。
音響検出器14は、光源13から出射された強度変調光により被検体5で発生する音波を検出し、音波の振幅に比例した電気信号を出力する。この場合、動作制御器26には、音響検出器14からの電気信号から高周波ノイズを除去して出力するフィルタを備え、フィルタからの電気信号を前述した矩形波信号を出力する発振器からの変調信号により同期検波し、音圧に比例する電気信号を出力するとよい。音波を変調周波数に同期した同期検波により検出することで、音波を高精度に検出することができる。音響検出器14は、吸着体12の被検体5と接する表面、吸着体12の内部、吸着体12の内側の表面いずれの箇所に設けられていてもよい。吸着体12の被検体5と接する表面に設けた場合には、被検体5に接触して直接被検体5からの音波を検出することができる。吸着体12の内部又は内側の表面に設けた場合には、吸着体12を介した音響検出となるが、被検体5に接触することなく吸着体12によって保護されるため耐久性が向上する。
動作制御器26は、成分濃度測定の際、光源13から光を出射させることと同期して音響検出器14から出力される電気信号を基に成分濃度を測定する。光源13から異なる時間に出射させた2波長の強度変調光及び1波長の強度変調光による音波の大きさをそれぞれ記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(4)から(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出することができる。また、動作制御器26は、圧力センサ15の検出する圧力が一定圧力以上に達し、密着部(図4の符号18)若しくは露出部(図6の符号20)と被検体5とが十分な圧力で密着すると動作開始指令を出力する。動作停止については、圧力センサ15の測定圧力を検出して停止することとしてもよい。
ここで、本実施形態に係る成分濃度測定装置の第1形態の測定方法の一例について図2及び図3を参照して説明する。吸着部12を被検体5に押し付け、吸着体12を被検体5に吸着させる。動作制御器26は、成分濃度の測定を開始する動作開始命令が入力されると成分濃度の測定を開始する。ここで、動作開始命令は、被検者自身が外部から動作開始命令を入力してもよいが、圧力センサ15から出力される被検体5への押圧力が一定以上に達すると、成分濃度の測定を開始する動作開始命令を入力することが好ましい。圧力センサ15からの出力に応じて動作開始命令を入力することで、成分濃度測定時における被検体5に印加される圧力を安定させ、成分濃度の再現性を向上することができる。
成分濃度測定装置11は、前述した光音響法の原理で動作する。動作制御器26が動作開始命令を入力すると、動作制御器26が光源13に光出射信号を出力して、波長λ1及び波長λ2の前述の異なる2波長の強度変調光を出射させる。また、同時に音響検出器14から出力される電気信号を取得する準備を行う。光源13から出射された強度変調光は、被検体5に照射される。光源13としては、例えば、半導体レーザをあげることができる。ここで、測定対象とする成分をグルコース又はコレステロールとした場合には、光源13がグルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長を照射することによって、成分濃度測定装置11は、グルコース又はコレステロールの濃度を精度よく測定することができる。光源13が半導体レーザであれば、ヒーター又はペルチェ素子により加熱又は冷却することにより発生する光の波長を変化させることができる。この変調された光により生体である被検体5中にて音波すなわち光音響波が発生する。音響検出器14は、光源13からの強度変調光によって被検体5で発生する音響波を検出する。動作制御器26は、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で音響波の大きさとして記憶する。その後、動作制御器26は、光源13に光出射信号を出力して波長λ2の光を出射させ、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で音波の大きさとして記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(4)から(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出する。これにより、成分濃度測定装置11は、光源13及び音響検出器14を用いて測定対象の成分濃度を測定することができる。
次に、本実施形態の主要な実装構造について説明する。図2及び図3に示す成分濃度測定装置11は、被検体5の一部に嵌合される吸音効果をもつ吸着体12と、被検体5の一部の組織内に光を照射する光源13と、吸着体12に固定されかつ被検体5に接触するように対向して設けられた音響検出器14と、吸着体12に固定され被検体5への接触圧を測定できる圧カセンサ15を備えている。吸着体12は成分濃度測定装置11が装着される被検体5となる指の部分に合わせた大きさ・形状である。本実施形態においては被検体5を指としたが、他の部位を被検体5する場合、大きさ・形状はその部位に適していればよいので、図の限りではない。吸着体12は皮膚に吸着効果を持たせるため、可撓性のある樹脂から成る変形可能な材質、例えば、シリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル等あるはウレタン等で形成されている。さらに可撓性材料中に適宜タングステン粉末などの金属粉を適量混入する、あるいは柱状構造などの三次元構造とすれば、吸着体12に入射する音響波ノイズを吸収する効果がある。吸着体12のうち被検体5と接触する部分に粘着剤が塗布されていても良い。音響検出器14及び又は圧力センサ15のセンサ部を被検体5に着接する場合、センサ部を更に確実に皮膚面に密着固定することができる。また粘着材は音響検出器14と被検体5の音響整合を取るために音響ゲルなどを用いても良い。圧カセンサ15を音響検出器14に隣接するように設けることで、圧カセンサ15を用いて被検体5と吸着体12との吸着力を検出する機構とすれば、被検体5と吸着体12との不十分な密着状態を知ることができ、吸着状態の違いによる測定の不安定性を解消することができる。
ここで、圧カセンサ15は、別に設ける構成としたが、音響検出器14を圧電型とすることにより圧カセンサとしての機能を同時に持たせれば、圧カセンサ15を別に設けなくても良い。この場合、音響検出器14の信号処理部で、AC成分である光音響信号の圧カセンサ信号であるDC信号を分離して検出すれば良い。分離して検出するには、フィルタを用いる、時分割スイッチを用いるなど周知の方法が適用できる。
次に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の成分濃度の測定手順について説明する。前記音響検出器14の吸着体12の吸着面19を上腕部や腹部等の被検体5の皮膚面に当て、吸着体12を被検体5の皮膚面の方向に押す。本実施形態では被検体5は指とする。すると、吸着体12と皮膚面の間の気密空間16に存在する空気が大気中に逃げて、同内部空間は減圧され真空に近い状態になる。これにより、吸着体12は皮膚面に吸着して固定されるとともに音響検出器14が被検体5の皮膚に一定の圧力で吸着し、固定される。このとき音響検出器14が皮膚に吸着したときの吸着圧力を圧カセンサ15にて検出し、吸着によって音響検出器14が被検体5の皮膚に密着したことを確実に検知することができる。本調整により所望の吸着圧力になったとき、光源13より強度変調光を被検体5に照射し、被検体5にて光音響波を発生させる。発生した光音響波は被検体5である生体中を伝搬し、音響検出器14へと到達する。音響検出器14では光音響波の強度に従った信号を発生させる。この信号は増幅器などを通った後、計測部にて血液成分濃度などの成分濃度に変換され出力される。
(第2実施形態)
図8は、成分濃度測定装置の第2形態を示す模式図である。図9は、成分濃度測定装置の第2形態が備える吸着体、音響検出器及び圧力センサの概略構成図であり、(A)は側面図を示し、(B)は上面図を示す。図9(A)では、B−B’断面での吸着面39を示した。図8の成分濃度測定装置31は、成分濃度測定装置の第1形態で説明した成分濃度測定装置11に、吸着体12の吸引力を増減する空気ポンプをさらに備える。図8に示す成分濃度測定装置31では、吸着体32に気密空間36に到達する貫通孔41が設けられており、空気ポンプ43は、貫通孔41及び貫通孔41に接続されている中空パイプ42を介して気密空間36内の気圧を増減する。
吸着体32には気密空間36を形成している窪みに到達する貫通孔41が吸盤状部材に形成されており、貫通孔41を介して気密空間36の減圧が可能となっている。図9(A)では、一例として図4に示す吸盤状部材の第1例と同様の構成について示したが、これに限定されるものではなく、例えば図6に示す吸盤状部材の第2例であってもよい。又、貫通孔41は1箇所のみに設けられている例を示したが、2箇所以上であってもよい。又、中空パイプ42から気密空間36への空気の流入を防ぐ一方向弁が設けられていることが好ましい。
空気ポンプ43は、中空パイプ42と接続される。また、中空パイプ42は、吸着体32に設けられた貫通孔41に接続される。また、中空パイプ42は互いに接続されている。また、中空パイプ42は、チューブであってもよい。貫通孔41は、気密空間36と連通している。これにより、空気ポンプ43は、後述の動作制御器26からの指令に応じて気密空間36内の空気を中空パイプ42を通じて出し入れして気密空間36内の圧力を変化させることができる。本実施形態では、圧力可変手段として機械的に気密空間36内の圧力を変化させる空気ポンプ43を適用しているが、簡易的には注射器を適用して手動で気密空間36内の圧力を変化させてもよい。また、貫通孔41に可撓性のある樹脂から成る一方向弁を備えると貫通孔41からのリークによる吸引力の低下を防ぐことができる。
このように、成分濃度測定装置31は、空気ポンプ43を備えることにより、成分濃度測定の際、被検体5の固定が不十分な場合でも気密空間36の圧力を制御して被検体5の吸引力を十分なのもとすることができる。また、体動による光源13、音響検出器14、圧力センサ15の被検体5に対する位置の固定をする上でも効果的である。また、空気ポンプ43は、気密空間36内の圧力を設定する際に、予め設定された設定圧力よりも高い圧力で吸引した後に設定圧力へと設定することが望ましい。これにより、吸着面39若しくは音響検出器14と被検体5との間に存在する空気を除去して吸着面39若しくは音響検出器14の被検体5への密着度を高めることができる。そのため、強度変調光により発生した音波が被検体5から音響検出器14へ伝達されるまでの間に存在する空気により散乱すること防止して、被検体5から発生する音波の強度を高めて正確な成分濃度測定が可能となる。この場合、後述の圧力センサ15により測定される被検体5の圧力から気密空間36内の圧力を予測して設定圧力とすることとしてもよいし、気密空間36内に別途圧力センサを設けて直接気密空間36内の圧力を測定して設定圧力とすることとしてもよい。
圧力センサ15は、吸着体32に設けられ、成分濃度測定時には、吸着面39と共に被検体5に接触して被検体5への押圧力を測定し、圧力に応じた電気信号を出力する。圧力センサ15は、吸着体32の被検体5と接する表面又は吸着体12の内部いずれかの箇所に設けられていてもよい。圧力センサ15を吸着体32の内部に設ける場合には、圧力センサ15の圧力感知部分を吸着体32の被検体5と接する部分から突出させることが必要となると考えられる。吸着体32の吸着時に圧力センサ15の圧力感知部分を被検体5と接触させるためである。圧力センサ15は、例えば、圧電型の圧力センサ15を適用することができ、圧力センサ15の出力する直流信号を空気ポンプ43にフィードバックすることができる。これにより、被検体5への押圧力を直接測定して被検体5への押圧力を最適な測定環境に維持して成分濃度測定をすることができる。
動作制御器26は、前述の第1形態で説明した動作制御器26に加え、さらに、空気ポンプ43に設定圧力情報と共に動作開始指令を出力する。動作停止については、空気ポンプ43で測定圧力を検出して停止することとしてもよいし、動作制御器26が測定圧力を空気ポンプ43から取得して停止することとしてもよい。
本実施形態に係る成分濃度測定装置の第2形態の測定方法の一例について図8及び図9を参照して説明する。成分濃度測定装置31は、前述した光音響法の原理で動作する。動作制御器26が動作開始命令を入力すると、動作制御器26が光源13に光出射信号を出力して、前述の異なる2波長λ1,λ2の光を出射させる。また、同時に音響検出器14から出力される電気信号を取得する準備を行う。光源13から出射された強度変調光は、被検体5に照射される。光源13としては、例えば、半導体レーザをあげることができる。ここで、測定対象とする成分をグルコース又はコレステロールとした場合には、光源13がグルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長の強度変調光を照射することによって、成分濃度測定装置31は、グルコース又はコレステロールの濃度を精度よく測定することができる。光源13が半導体レーザであれば、ヒーター又はペルチェ素子により加熱又は冷却することにより発生する光の波長を変化させることができる。この変調された光により被検体5中にて光音響波が発生する。音響検出器14は、光源13からの強度変調光によって被検体5で発生する音響波を検出する。動作制御器26は、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で音波の大きさとして記憶する。その後、動作制御器26は、光源13に光出射信号を出力して波長λ2の光を出射させ、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で音波の大きさとして記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(4)から(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出する。これにより、成分濃度測定装置31は、上記のように光源13及び音響検出器14を用いて測定対象の成分濃度を測定することができる。
次に本発明の主要な実装構造について説明する。図8及び図9に示す成分濃度測定装置31は、体の一部に嵌合される吸音効果をもつ吸着体32と、体の一部の組織内に光を照射する光源13と、吸着体32に固定され被検体5に接触するように対向して設けられた音響検出器14と、吸着体32に固定され被検体5への接触圧を測定できる圧カセンサ15と、被検体5を吸着体32に密着させるため、吸着体32と被検体5との間にある空気を除去する貫通孔41と前記空気を被検体5と吸着体32との間より排気する空気ポンプ43と、貫通孔41と空気ポンプ43とをつなぐ中空パイプ42を備えている。
次に、本実施形態の成分濃度測定装置31の成分濃度の測定手順について説明する。音響検出器14の吸着体32の吸着面39を上腕部や腹部等の被検体5の皮膚面に当て、吸着体32を皮膚面の方向に置く。図8では一例として被検体5を指とした。被検体5を吸着体32の上に置いた後、空気ポンプ43を作動させ、吸着体32と皮膚面の間の気密空間36に存在する空気を貫通孔41より排気し、気密空間36を真空に近い状態にする。これにより、吸着体32は皮膚面に吸着して固定されるとともに吸着体32のうちの吸着面39が被検体5の皮膚に一定の圧力で吸着し、固定される。
このとき音響検出器14が皮膚に吸着したときの吸着圧力を圧カセンサ15にて検出し、動作制御器26が一定の圧力になるよう空気ポンプ43にフィードバックする。動作制御器26は、空気ポンプ43の吸気及び排気を調節し、気密空間36内の圧力を調整する。本調整により所望の吸着圧力になったとき、動作制御器26が動作開始命令を入力する。動作制御器26が動作開始命令を入力すると、動作制御器26が光源13に光出射信号を出力して、前述の異なる2波長λ1,λ2の光を出射させる。また、同時に音響検出器14から出力される電気信号を取得する準備を行う。光源13から出射された光は、被検体5に照射される。強度変調光は、音波すなわち光音響波を被検体5で発生させる。発生した光音響波は被検体5中を伝搬し、音響検出器14へと到達する。音響検出器14は、光源13からの光によって被検体5で発生する音響波を検出する。音響検出器14では光音響波の強度に従った信号を発生する。動作制御器26は、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で光音響波の大きさとして記憶する。その後、動作制御器26は、光源13に光出射信号を出力して波長λ2の光を出射させ、音響検出器14から出力される電気信号を取得し、検波した上で光音響波の大きさとして記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(4)から(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出する。これにより、成分濃度測定装置31は、光源13及び音響検出器14を用いて測定対象の成分濃度を測定することができる。
その後、動作制御器26は、空気ポンプ43に動作終了信号を出力する。空気ポンプ43は、動作制御器26からの動作終了信号に応じて気密空間36の吸引力を減少させ、成分濃度測定を終了させる。
以上説明したように、本実施形態では、吸着体32と被検体5との間にある空気を除去する貫通孔41および空気ポンプ43を備える機構により、被検体5を吸着体32の上に乗せて空気ポンプ43を作動させ、自動的かつ安定的に被検体5を吸着体32に吸着させることが可能である。
さらに、圧カセンサ15を用いて被検体5と吸着体32との吸着力を検出する機構により、不十分な被検体5と吸着体32との吸着状態を知ることができ、吸着状態の違いによる測定の不安定性を除去することができる。また貫通孔41および空気ポンプ43を備えた構成をとるとき、圧カセンサ15の信号をフィードバックして空気ポンプ43を制御する機構を付加させることにより一定圧力を保持することが可能である。
なお、本実施形態では圧カセンサ15を用いて被検体5への接触圧を検出したが、音響検出器14として圧電型音響検出器を用いている場合には、被検体5への接触圧は音響検出器14のDC信号を検出することによっても測定可能である。