JP4698873B2 - 車両用サスペンションアームの製造方法 - Google Patents

車両用サスペンションアームの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,アーム本体が,アーム長手方向に延びる頂壁部と,その頂壁部の左右両側縁より下方に延出する左,右側壁部とを備え,その左,右側壁部の長手方向一方側の各端部には同軸線上に並ぶ第1取付孔が,またその他方側の各端部には同軸線上に並ぶ第2取付孔がそれぞれ形成され,頂壁部の長手方向中間部にはバネ受け孔が形成され,そのバネ受け孔に対応して左,右側壁部には平断面円弧状の左,右湾曲部がそれぞれ形成されてなる構造の車両用サスペンションアームの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上記構造のサスペンションアームは,自動車のマルチリンク式サスペンション等において車輪を上下動可能に支持するために用いられる。その使用に際しては例えば,アーム本体の長手方向両端の取付孔にゴムブッシュ等を介して車体側および車輪側の各取付軸をそれぞれ嵌合支持させるようにし,またそのアーム本体頂壁部のバネ受け孔に嵌着した有底円筒状バネ受け座部材と車体との間に懸架コイルバネを介装して,車輪を懸架支持するようにしている。そして上記サスペンションアームには,車両走行時に路面の凹凸,車両の旋回,車輪の制動等により絶えず大きな荷重が入力されるため,その荷重に耐えるだけの充分な剛性を持たせる必要がある。
【0003】
ところで単一の板状ブランクをプレス加工して上記構造のサスペンションアームを成形する技術は従来公知であり,その一例の構造と主要な成形過程を図15により示す。即ち,板状ブランクをドロー,リスト,トリム,ピアス,バーリング等の多段階に亘るプレス工程により徐々にアーム本体の最終形態に近づけるようにプレス成形し,そのプレス成形品の頂壁部の長手方向中間部に形成されるばね受け孔に,他の板状ブランクを上記工程とは別のドロー,リスト,トリム等の多段階に亘るプレス工程でプレス成形して製作した円筒状ばね受け部材を後付けで嵌合,溶接するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記従来のものでは,板状ブランクの左,右側壁部の長手方向中間部を,比較的大径の前記ばね受け孔に対応して概ね円筒状に絞る深絞り加工を行う必要があり,この深絞り加工に際して,絞り用の皺押さえ材料が少なからず必要であり,これが最終的には切断除去されて比較的大きなスクラップロス(図15の符号50を参照)となってしまう。その上,別々にプレス成形されたアーム本体とばね受け部材とには,ばね受け孔に対応した円形の比較的大きな材料カット部分(図15の符号51,51′を参照)がそれぞれ存在し,これらにより,全体として材料の歩留りが悪くなって(即ち歩留り率が65%前後),コストが嵩むという問題がある。
【0005】
また板状ブランクを上記のように深絞り加工する関係から,高張力鋼板等の高張力材料の使用が困難となり,そのような高張力材料の使用によるアームの軽量化を図り得ない等の問題もある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので,板状ブランクをプレス成形してアームの所定展開形態に相当するプレス成形品を製作し,次いでそのプレス成形品に対し,これを所定部位で曲げるベンド加工を施すことにより,従来構造の上記問題を一挙に解決できるようにした車両用サスペンションアームの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために,請求項1の発明は,
アーム本体が,アーム長手方向に延びる頂壁部と,前記頂壁部の左側縁部より下方に延出する左側壁部と,前記頂壁部の右側縁部より下方に延出する右側壁部とを備え,前記側壁部及び右側壁部の長手方向一方側の各端部には同軸線上に並ぶ第1取付孔が,またその他方側の各端部には同軸線上に並ぶ第2取付孔がそれぞれ形成され,頂壁部の長手方向中間部にはバネ受け孔が形成され,前記バネ受け孔に対応して前記側壁部及び右側壁部には平断面円弧状の左湾曲部及び右湾曲部がそれぞれ形成されてなる車両用サスペンションアームの製造方法において,前記頂壁部に対応する部分にスリットが形成された単一の板状ブランクを得た後で、前記板状ブランクに対して、前記アーム本体のうち前記頂壁部の幅方向の中間部よりも左側部分に相当する左アーム半体においては,前記左側壁部となるべき左側壁対応部分のアーム長手方向中間部に,上方へ略円弧状に膨出した左湾曲部が成形されると共に,前記頂壁部の前記左側縁部となるべき左側縁部対応部分が,前記左側壁対応部分の内側縁より垂下されて,前記スリットの左側縁部の一部が前記バネ受け孔の左半周部の形態となるように成形され,かつ,前記中間部よりも右側部分に相当する右アーム半体においては,前記右側壁部となるべき右側壁対応部分のアーム長手方向中間部に,上方へ膨出した右湾曲部が成形されると共に,前記頂壁部Tの前記右側縁部となるべき右側縁部対応部分が,前記右側壁対応部分の内側縁より垂下されて,前記スリットの右側縁部の一部がバネ受け孔の右半周部の形態となるように成形され、併せて、前記左側縁部対応部分及び前記右側縁部対応部分の下端縁部相互が前記中間部を形成するための中間接続部を挟んで一体に連ねられ、前記左アーム半体及び前記右アーム半体が一平面上で前記中間接続部を挟んで略対称的に展開する展開形態を呈するプレス成形品を得るプレス工程と,前記プレス成形品の前記中間接続部,または前記中間接続部と前記左アーム半体及び前記右アーム半体との境界部を,前記中間接続部または前記境界部を縦通する直線に沿って,前記左側壁対応部分の前記内側縁より垂下されていた左側縁部対応部分及び前記右側壁対応部分の前記内側縁より垂下されていた右側縁部対応部分が反転されるように折曲げることで,前記中間接続部と,前記左アーム半体と,右アーム半体とからアーム本体の最終形態が得られるようにしたベンド工程とを少なくとも含むことを特徴としている。
【0008】
また請求項2の発明は、請求項1の発明の上記特徴に加えて、前記ベンド工程の終了後,前記バネ受け孔の開口上縁部に,バネ受け座を有して前記アーム本体とは別工程で製作された有底円筒状のバネ受け座部材を嵌着するようにしたことを特徴とし,また請求項3の発明は、請求項1の発明の上記特徴に加えて、前記プレス工程は,前記左アーム半体及び前記右アーム半体前記左側壁対応部分及び前記右側壁対応部分に左受け座半体及び右受け座半体をそれぞれ対応して一体にプレス成形する工程を含み,前記ベンド工程の前記折曲げにより,前記左受け座半体及び右受け座半体が互いに協働してバネ受け座を形成するようにしたことを特徴とする。
【0009】
各請求項の発明の上記特徴によれば,アーム本体には,これを円筒状に絞り加工すべき深絞り加工部位が無くなって皺押さえ材料を無くし或いは少なくでき,その上,アーム本体には,ばね受け孔形成のための材料カット部分も無くなり,これらにより,全体として材料の歩留りが頗る良好となる。しかもアーム本体の構成材として高張力材料の使用が可能となり,従ってアームの必要な剛性強度を確保しながら,その軽量化を図ることができる。さらにアーム本体の左,右側壁部は,これらを上記の展開状態でプレス成形できることから,その左,右側壁部には比較的高い成形自由度を以て湾曲部を無理なく一体成形でき,例えば各側壁部の一部をアーム幅方向(左右方向)内方に窪ませた所謂インバースとなる断面形状も無理なく成形可能である。
【0010】
また特に請求項3の発明の上記特徴によれば,バネ受け座をアーム本体(左,右側壁部)に一纏めに一体成形できる上,そのバネ受け座の成形に際しても材料カット部分が殆ど発生しなくなるため,材料の歩留りが一層良好となって更なるコスト節減が図られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に例示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【0012】
添付図面において,図1〜図6は本発明の第1実施例を示すものであって,図1は,サスペンションアームを示す平面図及び正面図ならびにそのX−X線断面図及びY−Y線断面図,図2は,第1実施例に係るサスペンションアームの車両へのセット状態の一例を示す,一部を破断した簡略説明図,図3〜図5は,前記サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図であり,また図6は,第1実施例に係るサスペンションアームの車両へのセット状態の他の一例を示す,一部を破断した簡略説明図である。さらに図7〜図9は,本発明の第2実施例を示すものであって,図7は,サスペンションアームを示す平面図,正面図及び側面図ならびにそのX−X線断面図,図8及び図9は,サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図である。さらにまた図10〜図14は,本発明の第3実施例を示すものであって,図10は,サスペンションアームを示す平面図及び正面図ならびにそのX−X線断面図,図11〜図14は,サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図である。
【0013】
先ず,図1〜図5を参照して第1実施例について説明する。図1においてサスペンションアームとしてのロアアームLは,そのアーム本体Lmの全体が高張力材料(図示例では高張力鋼板)より構成されており,そのアーム本体Lmは,アーム長手方向に延びる頂壁部Tと,その頂壁部Tの左右両側縁より下方に垂下,延出する左,右側壁部SL,SRとにより,基本的にはストレート形状に形成される。
【0014】
前記左,右側壁部SL,SRの長手方向一方側の各第1端部E1はそれらの内面相互が平行に対面しており,その各第1端部E1には,同軸線上に並ぶ第1取付孔H1がそれぞれ形成される。また左,右側壁部SL,SRの長手方向他方側の各第2端部E2もまた,それらの内面相互が平行に対面しており,その各第2端部E2には,同軸線上に並ぶ第2取付孔H2がそれぞれ形成される。前記左,右側壁部SL,SRの長手方向中間部(図示例では第1取付孔H1の近く)には,底壁相互が背中合わせに衝合する連結用窪みg,gが形成され,その両窪みg,gの底壁相互は溶接により一体に結合される。
【0015】
前記頂壁部Tのアーム長手方向中間部には,略円形のバネ受け孔Hsが形成されており,そのバネ受け孔Hsに対応して(即ち同孔Hsを左右より挟むようにして)左,右側壁部SL,SRには,平断面円弧状の左,右湾曲部SLc,SRcがそれぞれ形成される。そのバネ受け孔Hsの一端部からは,該孔Hsに直接連通してアーム長手方向に沿って第2取付孔H2側に延びるダンパー挿通孔Hsdが形成されている。
【0016】
またバネ受け孔Hsの開口上縁部には,アーム本体Lmとは別工程で製作されて該バネ受け孔Hsに上方より挿通される有底円筒状のバネ受け座部材1の上端部(上端外向きフランジ1uf)が係合,溶接されており,このバネ受け座部材1の上端部により,上記バネ受け孔Hsとダンパー挿通孔Hsdとの間が仕切られる。またバネ受け座部材1の下端部には,内向きフランジ1dfが一体に連設されており,このフランジ1dfの平坦な上面が円環状のバネ受け座sを構成する。
【0017】
さらに前記左,右側壁部SL,SRには,ダンパー挿通孔Hsdの下方において,同軸線上に並ぶダンパー連結孔d1がそれぞれ形成される。このダンパー連結孔d1は,左,右側壁部SL,SRにそれぞれ形成されて底壁相互が平行に対面するダンパー取付用窪みg′,g′の各底壁に形成される。
【0018】
図2に示すようにロアアームLの第1及び第2端部E1,E2は,それら端部の取付孔H1,H2をそれぞれ貫通する取付軸P1,P2及びゴムブッシュB1,B2を介して,車体側および車輪側の各取付部BF,BWにそれぞれ相対回動可能に連結される。
【0019】
またロアアームLは,前記バネ受け座sと車体側のバネ受け座s′との間に介装したコイルスプリングよりなる懸架ばねSPを介して車体に弾性的に連結支持されており,さらに前記ダンパー連結孔d1と車体側のダンパー取付孔dとの間に介装されて前記ダンパー挿通孔Hsdを上下に貫通するダンパーDを介しても車体に連結支持されている。
【0020】
尚,ダンパーDは,図6に示すように懸架ばねSP内でそれと同心状に配置してもよく,この場合には,前記ダンパー連結孔d1及び車体側のダンパー取付孔dに代えて,バネ受け座部材1直下の左,右側壁部SL,SRに形成したダンパー連結孔d2及びその上方の車体側ダンパー取付孔d′との間にダンパーDを介装する。
【0021】
次に図3〜図5を参照して前記ロアアームLの成形工程を説明する。この工程は,アーム本体Lmのうち頂壁部Tの幅方向中間部Tkよりも左側部分に相当する左アーム半体2と,同中間部Tkよりも右側部分に相当する右アーム半体3とを,該頂壁部Tの幅方向中間部Tkを形成するための中間接続部Kを挟んで一体に連ねたプレス成形品Aを,その両アーム半体2,3が一平面上で前記中間接続部Kを挟んで略対称的に展開する展開形態(図5の(e)を参照)となるように,単一の板状ブランクBを多段階に亘りプレス成形するプレス工程(a)〜(e)と,そのプレス成形品Aを前記中間接続部Kの縦中心線tに沿って折曲げることにより,該中間接続部Kと左,右アーム半体2,3とからアーム本体Lmの最終形態が得られる(従って両アーム半体2,3の左,右側壁部SL,SRを,それらの内面相互を対向させるように並列させる)ようにしたベンド工程(f)とを含むものである。
【0022】
ここで左アーム半体2は,アーム本体Lmの左側壁部SLと,頂壁部Tの左側縁部TLとより構成され,その左側縁部TLは,バネ受け孔Hs及びダンパー挿通孔Hsdの左半周部を有して左側壁部SLの上縁に略直角をなして連なっている。また右アーム半体3は,アーム本体Lmの右側壁部SRと,頂壁部Tの右側縁部TRとより構成され,その左側縁部TRは,バネ受け孔Hs及びダンパー挿通孔Hsdの右半周部を有して右側壁部SRの上縁に略直角をなして連なっている。
【0023】
そして前記多段階に亘るプレス工程は,図示例では,帯板状ブランクをアーム本体Lmの前記展開形態に概ね対応した所定の平板形状に打ち抜いてラフブランクBを得るラフブランク加工工程(a)と,そのラフブランクBをアーム本体Lmの前記展開形態に順次,段階的に近似させて形を整えてゆくドロー工程(b)・トリム工程(c)・リスト工程(d)・ピアスバーリング工程(e)とを含んでいる。
【0024】
前記ラフブランク加工工程(a)では,ラフブランクBの,頂壁部Tに対応する部分に,その縦中心線tに沿って縦走するスリット4が形成される。
【0025】
また前記ドロー工程(b)では,ラフブランクBの左アーム半体2となるべき左半部において,左側壁部SLとなるべき左側壁対応部分SL′のアーム長手方向中間部に,上方へ略円弧状に膨出した左湾曲部SLc′が成形されると共に,頂壁部Tの左側縁部TLとなるべき左側縁部対応部分TL′が,前記左側壁対応部分SL′の内側縁より略直角をなして垂下していて,前記スリット4の左側縁部がバネ受け孔Hs及びダンパ挿通孔Hsdの左半周部の形態となるように成形される。それと同時に,ラフブランクBの右アーム半体3となるべき右半部において,右側壁部SRとなるべき右側壁対応部分SR′のアーム長手方向中間部に,上方へ膨出した右湾曲部SRc′が成形されると共に,頂壁部Tの右側縁部TRとなるべき右側縁部対応部分TR′が,前記右側壁対応部分SR′の内側縁より略直角をなして垂下していて,前記スリット4の右側縁部がバネ受け孔Hs及びダンパ挿通孔Hsdの右半周部の形態となるように成形される。そして,ラフブランクBの前記左,右側縁部対応部分TL′,TR′は,それらの下端縁部相互が,頂壁部Tの幅方向中間部Tkを形成するための中間接続部Kを介して一体に接続される。その中間接続部Kは,図示例では横断面U字状に形成され,その中間接続部Kの湾曲した底部bが,後述するベンド工程でベンド部となるものである。
【0026】
また前記トリム工程(c)では,先のドロー工程で得られた成形品の各部に必要なトリミングを施すと共に凹凸形状を付し,更に前記リスト工程(d)では,トリミング後の成形品の各部に対し必要なフランジ曲げを施す等して更に形を整え,前記プレス成形品Aの最終形態に近づける。
【0027】
また前記ピアスバーリング工程(e)では,以上の工程を経た成形品の左右側壁部対応部分SL′,SR′に必要な孔(第1,第2取付孔H1,H2,ダンパー連結孔d1,d2等)が打ち抜き成形される。
【0028】
また前記ベンド工程(f)では,以上のプレス工程を経たプレス成形品Aを,左,右アーム半体2,3相互の中間接続部Tkの前記湾曲底部bにおいて,該中間接続部Tkを縦通する縦中心線tに沿って,約180°反転させるように折曲げることにより,該中間接続部Kと左,右アーム半体2,3とからアーム本体Lmの最終形態が得られるようにする。即ち,前記湾曲底部bの折り曲げにより,左,右アーム半体2,3の左,右側壁部対応部分SL′,SR′は,それらの内面相互を対面させて並列するようになって,アーム本体Lmの左,右側壁部SL,SRとなり,また左,右アーム半体2,3の前記左,右側縁部対応部分TL′,TR′は,折り曲げられて平坦となった前記中間接続部Kを挟んで相互間が略面一に連続するようになって,アーム本体Lmの頂壁部Tとなる。
【0029】
その後,前記左,右側壁部SL,SRの連結用窪みg,gの底壁相互を溶接して左,右側壁部SL,SR間を一体に結合する。尚,本発明では,上記溶接を省略して左,右側壁部SL,SRの連結用窪みg,gの底壁相互を単に当接させるだけでもよく,また前記連結用窪みg,gを省略してもよい。
【0030】
前記ベンド工程(f)の終了後は,その成形品たるアーム本体Lmの頂壁部Tにおけるバネ受け孔Hsに,別工程で製作されて有底円筒状のバネ受け座部材1を上方より挿通させ,その部材1の上端フランジ1ufを該孔Hsの開口上縁部に係合させ,溶接等の固着手段により固着する。これにより,バネ受け座部材1の下部はアーム本体Lm内に没しており,その下端内向きフランジ1dfがアーム本体Lm内でバネ受け座sを構成する。
【0031】
上記各工程により製造されたロアアームLは,これを介して車輪Wを車体Fに上下揺動自在に枢支する。この場合,車輪Wの上下振動及び衝撃は,懸架ばねSPの弾性力とダンパーDの減衰力とにより適度に緩衝,吸収され,車体側への振動及び衝撃の伝達が極力抑制される。
【0032】
而して上記ロアアームLの製造工程においては,アーム本体Lmの略左半分に相当する左アーム半体2と略右半分に相当する右アーム半体3とを,頂壁部Tの幅方向中間部Tkを形成するための中間接続部Kを挟んで一体に連ねたプレス成形品Aを,その両アーム半体2,3が一平面上で前記中間接続部Kを挟んで略対称的に展開する展開形態となるように,単一の板状ブランクよりプレス成形するプレス工程(a)〜(e)と,前記中間接続部K及び左,右アーム半体2,3によりアーム本体Lmの最終形態が得られるよう,前記中間接続部Kをその縦中心線tに沿って折曲げるベンド工程(f)とを組み合わせるようにしている。
【0033】
このため,アーム本体Lmには,これを円筒状に絞り加工すべき深絞り加工部位が無くなるから,スクラップロスとなってしまう皺押さえ材料を無くし或いは少なくでき,その上,アーム本体Lmには,ばね受け孔Hs形成のための材料カット部分も無くなり,これらにより,全体として材料の歩留りが頗る良好(従来例に比べ,図示例のものでは歩留り率が18%向上)となってコスト節減が図られる。しかもアーム本体Lmに深絞り加工部位が無くなる関係で,アーム本体の構成材として高張力材料の使用が可能となるため,ロアアームLの必要な剛性強度を確保しながら,その軽量化を図ることができる。さらにアーム本体Lmの左,右側壁部SL,SRには比較的高い自由度を以て湾曲部SLc,SRcを一体成形でき,内方を窪ませたような所謂インバースとなる断面形状も無理なく成形可能である。
【0034】
次に,図7〜図9に基づいて本発明の第2実施例を説明する。この実施例のロアアームLは,左右の側壁部SL,SRを,バネ受け孔Hsに対応した平断面円弧状の湾曲部SLc,SRcや下端縁の断面円弧状フランジ部f等を除いて極力平坦に形成したものであるが,そのロアアームLの製造工程では,先の実施例と同様,多段階に亘るプレス工程と,ベンド工程とが組み合わされる。
【0035】
即ち,図8の(a)がラフブランク加工工程であり,(b),(c)がドロー工程とトリム工程である。また図9の(d)がリスト工程(d)であり,(e)がピアスバーリング工程(e)であり,(f)がベンド工程である。尚,この第2実施例の各構成要素には,第1実施例中の対応する構成要素と同じ参照符号をそれぞれ付した。
【0036】
而してこの第2実施例でも,第1実施例と同様の作用効果が達成される。
【0037】
次に,図10〜図14に基づいて本発明の第3実施例を説明する。この実施例のロアアームLもその製造工程で,多段階に亘るプレス工程と,ベンド工程とが組み合わされる点は先の実施例と同様であるが,この実施例では,特にプレス工程により,アーム本体Lmにバネ受け座sを一体成形できるようにしている。
【0038】
次に図11〜図14を参照して第3実施例のロアアームLの成形工程を説明する。この工程は,アーム本体Lmのうち頂壁部Tの,比較的幅広で且つ平坦な幅方向中間部Tkよりも左側部分に相当する左アーム半体2と,同中間部Tkよりも右側部分に相当する右アーム半体3とを,該幅方向中間部Tkを形成するための中間接続部Kを挟んで一体に連ねたプレス成形品Aを,その両アーム半体2,3が一平面上で前記中間接続部Kを挟んで略対称的に展開する展開形態(図13の(f)を参照)となるように,単一の板状ブランクBを多段階に亘りプレス成形するプレス工程(a)〜(f)と,そのプレス成形品Aを前記中間接続部Kと左,右アーム半体2,3との各境界部Z′,Z″を,該境界部Z′,Z″を縦通する直線t′,t″に沿ってそれぞれ略90度ずつ折曲げることにより,該中間接続部Kと左,右アーム半体2,3とからアーム本体Lmの最終形態が得られるようにしたベンド工程(g)とを少なくとも含むものである。
【0039】
ここで左アーム半体2は,アーム本体Lmの左側壁部SLと,頂壁部Tの左側縁部TLとから構成され,その左側縁部TLは,バネ受け孔Hs及びダンパー挿通孔Hsdの左半周部を有して左側壁部SLの上縁に略直角をなして連なっている。また右アーム半体3は,アーム本体Lmの右側壁部SRと,頂壁部Tの右側縁部TRとから構成され,その左側縁部TRは,バネ受け孔Hs及びダンパー挿通孔Hsdの右半周部を有して右側壁部SRの上縁に略直角をなして連なっている。
【0040】
そして前記多段階に亘るプレス工程は,図示例では,帯板状ブランクをアーム本体Lmの前記展開形態に概ね対応した所定の平板形状に打ち抜いてラフブランクBを得るラフブランク加工工程(a)と,そのラフブランクBをアーム本体Lmの前記展開形態に順次,段階的に近似させて形を整えてゆくラフドロー工程(b)・フォーム工程(c)・トリム工程(d)・リスト工程(e)・ピアスバーリング工程(f)とを含んでおり,特にフォーム工程(c)以降で,左,右アーム半体2,3の左,右側壁部対応部分SL′,SR′(特に左,右湾曲部対応部分SLc′,SRc′)に左,右受け座半体SLa,SRaが一体に現れる。
【0041】
またベンド工程(g)では,プレス成形品Aの前記中間接続部Kと左,右アーム半体2,3との各境界部Z′,Z″を,該境界部Z′,Z″を縦通する直線t′,t″に沿ってそれぞれ略90度ずつ互いに反対方向に折曲げることにより,該中間接続部Kと左,右アーム半体2,3とからアーム本体Lmの最終形態が得られるようにしているが,その折り曲げと同時に,前記左,右受け座半体SLa,SRaが略同一平面上に並ぶようになって,その両者が互いに協働して環状のバネ受け座sを形成する。
【0042】
而してこの第3実施例によれば,前記プレス工程でバネ受け座sをアーム本体Lmに一体成形できるようにしてバネ受け座成形の際に材料カット部分が殆ど発生しないようにしたため,材料の歩留りが一層良好(従来例に比べ,図示例のものでは歩留り率が25%向上)である。
【0043】
この第3実施例のその他の工程手順,作用効果は,先の実施例と基本的に同様であるので,説明を省略する。尚,この第3実施例の各構成要素には,第1実施例中の対応する構成要素と同じ参照符号をそれぞれ付した。
【0044】
以上,本発明の実施例を詳述したが,本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば,前記実施例では,サスペンションアームとしてロアアームLが例示されたが,本発明の車両用サスペンションアームとしては,少なくともアーム本体Lmが,アーム長手方向に延びる頂壁部と,その頂壁部の左右両側縁より下方に延出する左,右側壁部とを備え,その左,右側壁部の長手方向一方側の各端部には同軸線上に並ぶ第1取付孔が,またその他方側の各端部には同軸線上に並ぶ第2取付孔がそれぞれ形成され,頂壁部の長手方向中間部にはバネ受け孔が形成され,そのバネ受け孔に対応して左,右側壁部には平断面円弧状の左,右湾曲部がそれぞれ形成されてなる構造であればよく,ロアアームに限定されない。
【0046】
【発明の効果】
以上のように各請求項の発明によれば,アーム本体の左半分に略相当する左アーム半体と,右半分に略相当する右アーム半体とを一体に連ねたプレス成形品を,その両アーム半体の左,右側壁部が一平面上で頂壁部の縦中心線を挟んで略対称的に展開する展開形態となるように,単一の板状ブランクよりプレス成形するプレス工程と,そのプレス成形品を左,右アーム半体の境界線に沿って折曲げることにより,その両アーム半体の左,右側壁部を,それらの内面相互を対向させるように並列させるベンド工程とを組み合わせて,アーム本体を製造できるようにしたので,アーム本体には,これを円筒状に絞り加工すべき深絞り加工部位が無くなって皺押さえ材料を無くし或いは少なくでき,その上,アーム本体には,ばね受け孔形成のための材料カット部分も無くなり,これらにより,全体として材料の歩留りが頗る良好となってコスト節減が図られる。しかもアーム本体に深絞り加工部位が無くなる関係で,アーム本体の構成材として高張力材料の使用が可能となるため,アームの必要な剛性強度を確保しながら,その軽量化を図ることができる。さらにアーム本体の左,右側壁部には比較的高い自由度を以て湾曲部を一体成形でき,内方を窪ませた所謂インバースとなる断面形状も無理なく成形可能である。
【0047】
また特に請求項3の発明の上記特徴によれば,バネ受け座をアーム本体に一体成形できる上,そのバネ受け座の成形の際に材料カット部分が殆ど発生しないため,材料の歩留りが一層良好となって更なるコスト節減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係るサスペンションアームを示す平面図及び正面図ならびにそのX−X線断面図及びY−Y線断面図
【図2】第1実施例に係るサスペンションアームの車両へのセット状態の一例を示す,一部を破断した簡略説明図
【図3】前記サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図4】前記サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図5】前記サスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図6】第1実施例に係るサスペンションアームの車両へのセット状態の他の一例を示す,一部を破断した簡略説明図
【図7】本発明の第2実施例に係るサスペンションアームを示す平面図,正面図及び側面図ならびにそのX−X線断面図
【図8】第2実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図9】第2実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図10】本発明の第3実施例に係るサスペンションアームを示す平面図及び正面図ならびにそのX−X線断面図
【図11】第3実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図12】第3実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図13】第3実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図14】第3実施例に係るサスペンションアームの成形過程を順次簡略的に示す工程説明図
【図15】従来のサスペンションアームの成形工程の一例を示す斜視図
【符号の説明】
A プレス成形品
H1 第1取付孔
H2 第2取付孔
Hs バネ受け孔
K 中間接続部
L ロアアーム(サスペンションアーム)
Lm アーム本体
T 頂壁部
Tk 幅方向中間部
SL 左側壁部
SLa 左受け座半体
SLc 左湾曲部
SR 右側壁部
SRa 右受け座半体
SRc 右湾曲部
s バネ受け座
t 縦中心線(直線)
t′,t″ 直線
Z′,Z″ 境界部
1 バネ受け座部材
2 左アーム半体
3 右アーム半体

Claims (3)

  1. アーム本体(Lm)が,アーム長手方向に延びる頂壁部(T)と,前記頂壁部(T)の左側縁部(TL)より下方に延出する左側壁部(SL)と,前記頂壁部(T)の右側縁部(TR)より下方に延出する右側壁部(SR)とを備え,前記側壁部(SL)及び右側壁部(SR)の長手方向一方側の各端部には同軸線上に並ぶ第1取付孔(H1)が,またその他方側の各端部には同軸線上に並ぶ第2取付孔(H2)がそれぞれ形成され,頂壁部(T)の長手方向中間部にはバネ受け孔(Hs)が形成され,前記バネ受け孔(Hs)に対応して前記側壁部(SL)及び右側壁部(SR)には平断面円弧状の左湾曲部(SLc)及び右湾曲部(SRc)がそれぞれ形成されてなる車両用サスペンションアームの製造方法において,
    前記頂壁部(T)に対応する部分にスリット(4)が形成された単一の板状ブランク(B)を得た後で、前記板状ブランク(B)に対して、前記アーム本体(Lm)のうち前記頂壁部(T)の幅方向の中間部(Tk)よりも左側部分に相当する左アーム半体(2)においては,前記左側壁部(SL)となるべき左側壁対応部分(SL′)のアーム長手方向中間部に,上方へ略円弧状に膨出した左湾曲部(SLc′)が成形されると共に,前記頂壁部(T)の前記左側縁部(TL)となるべき左側縁部対応部分(TL′)が,前記左側壁対応部分(SL′)の内側縁より垂下されて,前記スリット(4)の左側縁部の一部が前記バネ受け孔(Hs)の左半周部の形態となるように成形され,かつ,前記中間部(Tk)よりも右側部分に相当する右アーム半体(3)においては,前記右側壁部(SR)となるべき右側壁対応部分(SR′)のアーム長手方向中間部に,上方へ膨出した右湾曲部(SRc′)が成形されると共に,前記頂壁部Tの前記右側縁部(TR)となるべき右側縁部対応部分(TR′)が,前記右側壁対応部分(SR′)の内側縁より垂下されて,前記スリット(4)の右側縁部の一部がバネ受け孔(Hs)の右半周部の形態となるように成形され、併せて、前記左側縁部対応部分(TL′)及び前記右側縁部対応部分(TR′)の下端縁部相互が前記中間部(Tk)を形成するための中間接続部(K)を挟んで一体に連ねられ、前記左アーム半体(2)及び前記右アーム半体(3)が一平面上で前記中間接続部(K)を挟んで略対称的に展開する展開形態を呈するプレス成形品(A)を得るプレス工程と,
    前記プレス成形品(A)の前記中間接続部(K),または前記中間接続部(K)と前記左アーム半体(2)及び前記右アーム半体(3)との境界部(Z′,Z″)を,前記中間接続部(K)または前記境界部(Z′,Z″)を縦通する直線(t,t′,t″)に沿って,前記左側壁対応部分(SL′)の前記内側縁より垂下されていた左側縁部対応部分(TL′)及び前記右側壁対応部分(SR′)の前記内側縁より垂下されていた右側縁部対応部分(TR′)が反転されるように折曲げることで,前記中間接続部(K)と,前記左アーム半体(2)と,右アーム半体(3)とからアーム本体(Lm)の最終形態が得られるようにしたベンド工程と
    を少なくとも含むことを特徴とする,車両用サスペンションアームの製造方法。
  2. 前記ベンド工程の終了後,前記バネ受け孔(Hs)の開口上縁部に,バネ受け座(s)を有して前記アーム本体(Lm)とは別工程で製作された有底円筒状のバネ受け座部材(1)を嵌着するようにしたことを特徴とする,請求項1に記載の車両用サスペンションアームの製造方法。
  3. 前記プレス工程は,前記左アーム半体(2)及び前記右アーム半体(3)の前記左側壁対応部分(SL′)及び前記右側壁対応部分(SR′)に左受け座半体(SLa)及び右受け座半体(SRa)をそれぞれ対応して一体にプレス成形する工程を含み,前記ベンド工程の前記折曲げにより,前記左受け座半体(SLa)及び右受け座半体(SRa)が互いに協働してバネ受け座(s)を形成するようにしたことを特徴とする,請求項1に記載の車両用サスペンションアームの製造方法。
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