JP4693242B2 - 特に車両用espシステムのためのセンサ監視方法と装置 - Google Patents
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Description
本発明は、特に車両用の電子安定性プログラム(ESP)のための、その都度プロセスの個々の基準変数と測定変数を検出するセンサを監視するための方法と装置に関する。
【0002】
この種の電子安定性プログラムは車両用の走行ダイナミクス的なコントロールシステムである。この電子安定性プログラムは、ブレーキング中、加速中および操舵中の臨界的な走行状況で運転者を支援し、運転者が直接介入することができないところで介入するために役立つ。コントロールシステムはブレーキング時、特に低い摩擦係数または変化する摩擦係数を有する道路でのブレーキング時に運転者を支援する。この道路では、車輪ロックのために車両はもはや操舵不可能であるかまたは横滑りする。更に、駆動車輪の空回りの危険がある加速時、および車両のオーバーステアまたはアンダーステアを生じるカーブでの操舵時に、運転者を支援する。それによって、快適性だけでなく、アクティブセイフティが大幅に改善される。
【0003】
このようなコントロールシステムは閉鎖ループ型制御回路に基づいている。この制御回路は車両の普通の運転時には典型的は制御課題を受持ち、極端な走行状況では、車両をできるだけ迅速に安定させる。その際、実際値発信器としては、いろいろな走行ダイナミクス的なパラメータを検出するセンサが重要である。妥当なコントロールの前提は、センサが制御対象の実際の状態を正しく表すことである。これは、制御偏差を非常い短い時間内で制御しなければならない極端な走行状況での走行安定性コントロールの場合に特に重要である。この理由から、電子安定性プログラムの場合には、ESPセンサ(ヨーレイトセンサ、横方向加速度センサ、操作角度センサ)を常に監視しなければならない。オンラインセンサ監視は、ESPセンサの故障を早期に認識するという目的を有する。それによって、車両を安全上臨界的な状態にもたらし得る誤ったコントロールが閉め出される。
【0004】
そこで、本発明の根底をなす課題は、特に車両用電子安定性プログラム(ESP)のために必要な信頼性を有する、冒頭に述べた種類のセンサを監視する方法と装置を提供することである。
【0005】
この課題は請求項1に従い、冒頭に述べた種類の方法において、個々のセンサの出力信号の変化を次のステップで周期的−順次的に監視する、すなわち、普通動作モードのための多重プロセスモデルによって、現在のプロセスの現在監視されない基準変数およびまたは測定変数から、現在監視すべきプロセスの基準変数または測定変数のための解析的な冗長度を求め、現在監視すべきプロセスの基準変数または測定変数から、求められた冗長解析的な冗長度を差し引くことによって残差を求め、残差評価機能によって残差を評価し、評価された残差を設定された閾値を比較し、残差が予め定められた少なくとも1つの監視時間のための閾値に達したときに故障通報を行うことによって解決される。
【0006】
この課題は更に、請求項9に従って、冒頭に述べた種類の装置において、普通動作モードのための多重プロセスモデルによって、現在のプロセスの現在監視されない基準変数およびまたは測定変数から、現在監視すべきプロセスの基準変数または測定変数のための解析的な冗長度を計算するための第1の装置と、現在監視すべきプロセスの基準変数または測定変数から、計算された冗長解析的な冗長度を差し引くことによって残差を求めるための第2の装置と、残差評価機能によって残差を評価するための第3の装置と、閾値を求めるための第4の装置と、評価された残差を閾値を比較し、残差が予め定められた少なくとも1つの監視時間のための閾値に達したときに故障通報を行う第5の装置とを備えていることによって解決される。
【0007】
本発明の他の詳細、特徴および効果は、図に基づく好ましい実施の形態の次の記載から明らかになる。
【0008】
自動車走行の過程は、図1に従って、制御技術的な方法で制御回路として見なすことができる。この制御回路の場合、運転者1がコントローラであり、車両2が制御されるシステムである。その際、基準変数は、道路交通を連続的に観察することによって生じる運転者の個人の走行要求FWである。実際値IFは走行方向の瞬時値と、運転者がその目または走行感覚によって捉える速度である。制御変数SFは操舵角度、変速機の位置およびアクセルペダルとブレーキペダルの位置である。このベダルの位置は目標値と実際値の偏差に基づいて運転者によって生じる。
【0009】
このような制御はしばしば、摩擦係数変化、車道の凹凸、横風または他の影響によって困難になる。なぜなら、運転者がこれらのファクタを正確に検出することができないからである。しかし、コントロールの場合にはこれらのファクタを考慮しなければならない。この理由から、運転者1は一般的に、そのトレーニングと取得した経験に基づいて、普通の走行状態で、運転者に伝達される仕事、すなわち自動車走行のプロセスを容易に制御および観察することができる。しかし、極端な状況およびまたは道路とタイヤの間の物理的な摩擦力限界を超える上記の異常な走行状態の場合には、運転者が遅れてまたは間違って反応し、車両を制御できなくなるという危険がある。
【0010】
この走行状況も考慮することができるようにするために、走行ダイナミック制御システムは下位の制御回路3(ESP)を補足的に備えている。この制御回路は図1に従って、制御アルゴリズム4、システム監視装置5および故障メモリ6を含んでいる。その際、測定された走行状態変数はシステム監視装置5と制御アルゴリズム4に供給される。システム監視装置5は場合によっては故障メッセージを通報する。この故障メッセージは故障メモリ6と制御アルゴリズム4に供給される。制御アルゴリズム4は運転者1によって発生した制御変数に依存して車両2に作用する。この制御回路によって、典型的な制御が実施される。極端な走行状況では、車両はできるだけ迅速に再び安定させられる。
【0011】
図2は、このような制御回路の構造を示している。この制御回路は実質的に、アンチロックコントロールシステム10と、トラクションスリップコントロールシステム11と、ヨートルクコントロールシステム12を備えている。更に、ヨーレイトセンサ13と、横方向加速度センサ14と、操舵角度センサ15と、圧力センサ16と、4個の車輪速度センサ17が設けられている。これらのセンサは制御偏差を決定するためおよびヨーレイト目標値といろいろな中間変数を求めるための実際値発生器として使用される。
【0012】
運転者1がアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールを操作することによって発生したプロセス基準変数は、トラクションスリップコントロールシステム11とアンチロックコントロールシステム10と圧力センサ16または操舵角度センサ15に供給される。車両特有の非直線性、摩擦係数の変動、横風の影響等は、外乱または知られていない変数18として集約され、車両縦方向および横方向ダイナミクス19に影響を及ぼす。このダイナミクス19は更に、上記の基準変数とエンジン管理ユニット20の出力信号に影響を及ぼし、車輪速度センサ17、ヨーレイトセンサ13、横方向加速度センサ14および圧力センサ16に作用する。アンチロックコントロールシステム10、トラクションスリップコントロールシステム11、ヨートルクコントロールシステム12およびブレーキ介入アルゴリズム22の出力信号が供給されるコントロールアービトレーション(仲裁)21は、エンジン管理ユニット20に対する作用を考慮してあるいは走行ダイナミクス19に対して直接的にこれらの信号を優先的に分配するために役立つ。その際、ブレーキ介入アルゴリズム22はヨートルクコントロールシステム12と圧力センサ16によって影響を受ける。走行状態検出ユニット23が設けられている。この走行状態検出ユニットには、操舵角度センサ15、ヨーレイトセンサ13、横方向加速度センサ14および車輪速度センサ17の信号が供給され、走行状態検出ユニットの出力信号はヨートルクコントロールシステム12と単一トラック基準モデル24に作用する。この単一トラック基準モデルによって、所望な目標ヨーレイトが発生させられる。
【0013】
既に説明したように、センサの間違った信号は危険な信じがたいコントロールを生じる。ヨーレイトセンサ13の故障は例えば、運転者が真っ直ぐに走行しようとしても、追加ヨートルクが車両を急激に側方に引張ることになる。これは、直線走行の間操舵角度ひいてはヨーレイトの目標値が零に等しいがしかしセンサ故障のためにヨーレイトの実際値が定まらない値を有するので、ヨートルクコントロールシステム12がこの制御偏差を調節するために追加ヨートルクを生じることに基づいている。この理由から、センサのオンライン監視が重要である。この監視は、ESPシステムが適時に部分的にまたは全体が停止するように、センサ故障を早期に検出可能でなければならない。
【0014】
本発明によるセンサ監視は、2つの方法を適用する、センサの多段式機能性試験からなっている。一方では、電気的な監視が行われる。この監視によって、監視すべきセンサ信号がその許容誤差帯域内にあるかどうかが検査される。他方では、解析冗長的に支援された監視が行われる。この監視によって、信号はその有効範囲全体で監視される。
【0015】
第1の段階では、電気的な監視によって、センサ供給電圧とケーブル布線が検査される。第2の段階では、重要性に基づいて“インテリジェント”に構成されたこのようなセンサが、連続的に自己検査される。センサの内部故障の場合には、センサ信号は故障帯域に移動する。従って、このようなセンサ故障は電気的な監視によっても検出可能である。
【0016】
その際、電気的な監視によって専ら、センサ信号が有効範囲内にあるかどうかが検査される。しかし、例えば間違った組み込み位置または緩んだ組み込み状態、接地中断等のような他のセンサ故障の検出は不可能である。この理由から、第3の段階では、有効範囲内の個々のセンサ信号の変化が周期的−順次的に監視され、しかも解析的冗長度によって監視される。この冗長度は、現在監視していないセンサ出力信号からその物理的な依存性に基づいて計算される。そのために、モデル支援のESP監視システムおよび故障診断システムが設けられる。このシステムの基本構造が図3に示してある。
【0017】
故障診断システム100は実質的に2つの部分、すなわち残差(余り)発生器30と残差評価ユニット34とからなっている。
【0018】
残差発生器30は、現在監視していないプロセス基準変数Aおよびまたは現在のプロセス32によって発生し現在監視していないプロセス測定変数Bから、解析的冗長度を計算するための第1の装置31を備えている。この場合、普通運転のための多重プロセスモデル(G1〜G4;Q1〜Q4;L1〜L4、後述参照)を使用して現在監視すべきであるプロセス基準変数またはプロセス測定変数について、解析的冗長度が計算される。更に、現在監視すべきであるプロセス基準変数またはプロセス測定変数Cから、計算された冗長解析的冗長度を差し引くことによって残差rを生じるための第2の装置33が設けられている。
【0019】
残差評価装置34は残差評価機能によって残差rを評価するための第3の装置36と、閾値を生じるための第4の装置35を備えている。この装置35には更に、現在監視していないプロセス基準変数およびまたはプロセス測定変数A,Bが供給される。それによって、多重プロセスモデルの最大誤差が比較的に大きい場合に閾値を高くし、モデルの最大誤差が比較的に小さい場合に閾値を低くすることができる。評価された残差を閾値と比較し、残差が予め定めた少なくとも1つの監視時間のための閾値に達するときに、故障通報を行うための第5の装置37が設けられている。
【0020】
本発明の根底をなす問題を明らかにするため、並びに図3に示した本発明による解決策の理解のために、先ず最初に背景情報について次のように説明する。
【0021】
残差を生じるために(多重モデルの代わりに)シングルプロセスモデルを1個だけ使用する場合には、現在のプロセス状態、ひいては誤動作に関する情報を得ることができる。勿論、効率は適用されるプロセスモデルの品質に大きく依存する。プロセスモデルの誤差が増大すると、故障警報を回避するために、閾値を高める必要がある。その結果、数多くの故障が認識されない。それとは逆に、プロセスモデルの精度を高めると(これはモデルを一層複雑にすることを意味する)、実際には、オンライン計算および開発や保守整備の高度な要求の際に、モデルの実現に多大のコストがかかるので不成功に終わった。従って、モデル支援のESP故障診断システムを開発する場合には、モデル精度と、閾値の調節ひいてはシステム感度の調節の間の妥協が重要である。
【0022】
その際、自動車走行のプロセスが知られていない多くの周辺ファクタによって大きな影響を受けることが知られていることも考慮すべきである。更に、走行ダイナミクスは或る程度までしか数学的に説明することができない。他方では、実現の限度は、最初からハードウェアの状態によって決まる。これらのすべての限界条件は、モデル支援の方法の原理に基づく解決策を必要とする。しかし、このモデル支援の方法の使用をESPシステムにおいて調整しなければならない。
【0023】
モデル支援の故障診断の基本思想は、数学的なモデルの形で示される物理的な規則性の検査である。
【0024】
y=f(u1,・・・, um ) [式1]
がこの物理的な規則性を示すと仮定する。この場合、yは監視すべきセンサの出力信号であり、u1 ・・・um は知られているかまたは測定された物理的な量であり、fは数学的な関数である。この場合、解析的冗長度
【0025】
【外3】
【0026】
は、
【0027】
【数1】
【0028】
によって求められ、残差rは次のように生じる。
【0029】
【数2】
【0030】
残差は故障のない場合にはほぼ零に等しい。センサ故障が発生すると、この規則性はその有効性を失うので、残差が零から大きく逸れる。この思想を実現する際の難点は、モデルがプロセスの一部だけしか示さないことにある。このいわゆるモデルの誤差はプロセスモデルを
y=f(u1,・・・, um )+Δ
に拡張することによって表現することができる。この場合、Δはプロセス状態に依存する知られていない量である。信頼性のあるモデル支援式故障診断の前提は、残差rへのΔの影響をできるだけ小さくすることである。
【0031】
Δの影響を抑制するためには、2つの方法がある。
1.) 最新の頑強な制御理論によって監視システムの頑強性を高める。これは、一般的にコストのかかる設計と多くの計算作業(オフラインでもオンラインでも)を必要とする受動的な方法である。
2.)付加的な情報の入手。これは、2つの方式で実現可能である能動的な方法である。一方の方式はモデルの改良である。これはオフライン情報の入手を意味するがしかし同時に、付加的なオンライン計算作業を意味する。他の方式は付加的なオンライン情報の利用である。この方式は、上記の問題を本発明に従って解決するためにきわめて有利であることが判った。
【0032】
付加的なオンライン情報の利用は、監視すべきセンサのために、多重の(冗長的な)モデルを形成し、更に監視していないいろいろなセンサまたは信号源の信号に基づいてこのセンサの挙動と機能性を再現することを可能にする。この冗長解析的冗長度は一方では監視システムの信頼性を高め、他方ではモデル誤差に対する頑強性を高める。次に、本発明による方法の好ましい実施の形態を提示する。この実施の形態によってこの基本思想が実現可能である。
【0033】
監視すべきセンサ信号の挙動にとって、次の方程式
【0034】
【数3】
【0035】
によってモデルが形成可能であると仮定する。ここで、uij,i=1,・・・,n;j=1,・・・,mはいろいろな源からの信号であり、f1 ,・・・.fn は部分モデルであり、Δ1 ,・・・Δn は個々の部分モデルのモデル誤差であり、PZはプロセス状態であり、GBi ,i=1,・・・,nは部分モデルが有効である範囲である。
【0036】
個々の部分モデルの有効性とモデル誤差は、プロセス状態に依存する。問題は、多重モデルに基づいて残差を求めることにある。この残差は一方では、検出すべき故障に対して敏感であり、他方ではモデル誤差に対して頑強である。
【0037】
そのために、走行状況は2つのグループに分けられる。
1.)モデル誤差が非常にはっきりしていて、少数の部分モデルだけが有効である非定常的な走行状態。
2.)多数の部分モデルが有効であり、そのモデル誤差が小さいという共通特性を有する定常的な走行状態。
1.)に対して:非定常的な走行状態:残差の絶対値が残差評価関数として使用されるので、すべての残差のうちの残差r
【0038】
【数4】
【0039】
[式2]
はモデル誤差に対して最も頑強なものとして生じ、同時に故障に対して最も鈍感なものとして生じる。従って、この走行状況について次のことが判る:
有効な部分モデルの数が予め定めた数よりも非常に少ないときには(<<n)、[式2]の原理に従って残差が評価される。
【0040】
この規則は“すべてのうちの最小”と呼ばれる。この基本思想は、モデル誤差が非常にはっきりしている非定常的な範囲において頑強性が重要性を増すということにある。
2.)に対して:定常的な走行状態:
【0041】
【数5】
【0042】
であると(これは、すべての部分モデルまたはほとんどすべての部分モデルが有効であり、従って一般的に普通のプロセス状態が生じることを意味する)、残差は次のアルゴリズムに従って選択される。
段階1:平均値
【0043】
【外4】
【0044】
を求める。
【0045】
【数6】
【0046】
段階2:
【0047】
【外5】
【0048】
の最小の偏差を有する
【0049】
【外6】
【0050】
の計算と、
【0051】
【外7】
【0052】
の選択。すなわち、
【0053】
【数7】
【0054】
段階3:残差rを求めることと:
【0055】
【外8】
【0056】
であり、そのとき
【0057】
【数8】
【0058】
が当てはまると仮定する。
【0059】
このアルゴリズムの機能原理を説明するために、2つのケースについて考察する。
a.)故障のない運転:この場合、“最も良好なケース”について、
【0060】
【数9】
【0061】
が当てはまる。
これは、モデル誤差が残差に影響を与えないということを意味する。“最も悪いケース”について、
【0062】
【数10】
【0063】
が当てはまる。
【0064】
それによって、最大の偏差は次の式
【0065】
【数11】
【0066】
に従って制限可能である。平均値を求めることはほとんどの場合モデル誤差を抑制するので、モデル誤差によって生じる偏差も小さくなる。
b.)センサ故障:この場合、“普通のケース”について、
【0067】
【数12】
【0068】
が当てはまる。
【0069】
故障のために、センサ信号yはその普通の値、ひいてはyik,k=1,2,3と大きく異なる。その結果、yとyi2の差は大きい。“最も悪いケース”について
【0070】
【数13】
【0071】
が当てはまる。これは故障が検出不可能であることを意味する。しかし、このケースは、誤差の大きさがモデル誤差の範囲内にあるときにのみ発生し得る。それによって、監視構想の能力限界が実質的にモデル誤差によって決まる。
【0072】
既に述べたように、残差発生の構想はモデル有効性(妥当性)の検査を前提としている。これは残差発生のために使用される信号の信頼性の検査と、走行状況に対応するモデル有効性の検査からなっている。
【0073】
信号は、ソフトウェアまたはハードウェアに従って検査されたときに信頼性のある信号と呼ばれる。信頼性のある信号は、システムの他の部分機能からの信号または他のセンサからの信号であってもよい。これは相互の監視を意味する。これは、多重モデルを形成するために利用されるオンライン情報である。
【0074】
既に述べたように、発生した残差はモデル誤差に大きく依存する。このモデル誤差はいろいろな走行状況によって影響を受ける。従って、走行状況に適応する残差評価ユニットを開発することが望まれる。
【0075】
一般的に知られているように、定常的な走行中の走行状態は非常に正確に再現することができる。これと異なり、非常にダイナミックな走行状態は数学的に再現することが困難である。従って、走行状況をケース毎に区別し、これに基づいて監視閾値と監視時間を適応させて調節すると有利である。監視閾値の適合は一方では、ありそうもないセンサ信号の発生時に故障通報を適時に開始し、他方では再現の不正確さに基づいて生じる間違った故障通報を防止する。これは、センサ信号再現の精度が悪い走行状況において閾値が高く、監視時間が長くなり、精度の良好な走行状況において閾値が低下し、監視時間が短くなるということを意味する。
【0076】
次に、3個の重要なEPSセンサ、すなわちヨーレイトセンサ、横方向加速度センサおよびステアリングホイール角度センサの監視のための、上記の段落で示した構想の実施について説明する。
【0077】
図4は、EPSセンサ、すなわちヨーレイトセンサ13、横方向加速度センサ14および操舵角度センサ15のモデル支援監視システムの構造を示している。各々のEPSセンサを監視するために、有効であるときには、4個の冗長的なモデルが供される。このモデルはヨーレイトセンサ13についてはモデルG1〜G4であり、横方向加速度センサ14についてはモデルQ1〜Q4であり、操舵角度センサ15についてはモデルL1〜L4である。プロセスモデルの数学的な実現とその有効性は、表1にまとめられている。表で使用される記号は次のように定義される。
【0078】
【外9】
【0079】
・・・モデルヨーレイト、
aqm・・・モデル横方向加速度、
δLm・・・モデル操舵角度、
【0080】
【外10】
【0081】
・・・ヨーレイト、
aq ・・・横方向加速度、
δL ・・・操舵角度、
iL ・・・操舵比、
l・・・ホイールベース、
S・・・車両のトレッド
vch・・・特徴的な走行速度。
表1:
【0082】
【表1】
【0083】
モデルは第1の装置31内に導入されている。この場合、冗長度を計算するためおよび残差を求めるための入力量として、次の信号を使用することができる。
vvr ・・・右前輪の車輪速度
vvl ・・・左前輪の車輪速度
vhr ・・・右後輪の車輪速度
vhl ・・・左前輪の車輪速度そして
vref ・・・車速;
この信号はアンチロックコントロールシステムの部分機能によって発生する。同様に、監視すべき3個のESPセンサ13,14,15から出るヨーレイト、横方向加速度および操舵角度も使用することができる。計算された冗長性はその都度監視されるセンサ信号と共に、残差を求めて評価するための第3の装置36(この第3の装置は図示では第2の装置33も含んでいる)に供給される。その都度の残差と、第4の装置35で発生した閾値との差を求めた後で、差が処理の値を上回るときには、第5の装置37によって、ヨーレイトセンサ13のための故障通報F/UG、横方向加速度センサ14のための故障通報F/UQおよび操舵角度センサ15のための故障通報F/ULが行われる。図4において、第3、第4および第5の装置36,35,37は各々のセンサ13,14,15について別々に示してある。
【0084】
アンチロックコントロールシステムによって発生した信号の場合、信号の信頼性の検査は、そこに存在する監視システムによって行われる。故障通報が行われないと、信号は信頼性のあるものとして評価され、故障通報がある場合には使用不能なものとして評価される。
【0085】
ここで説明するセンサ監視システムにおいて、上記の3つのESPセンサ信号(ヨーレイト、横方向加速度、操舵角度)の場合、故障通報が存在しないと、当該の信号は信頼性のあるものとして評価され、故障通報が行われると、システムは停止される。
【0086】
上述のように、方法“多数決原理”はセンサに欠陥があるときにセンサ故障に対して敏感であり、方法“すべてのうちの最小”はシステム故障と非定常的または極端な走行状態に対して頑強である。上記の段落で説明した監視構想は次のように実現される。
【0087】
有効なモデルの数が3よりも少ないと、残差が“すべてのうちの最小”の原理に従って発生する。そうでない場合には、残差は“多数決原理”によって求められる。
【0088】
理論的には、このすべてのプロセスモデルは走行ダイナミクスの定常範囲または線形範囲においてのみ適用される。走行状態がもはやこの範囲にないと、監視閾値を高めなければならず、監視時間を延長しなければならない。これは第4の装置(閾値計算)35における状況認識によって並びに定常または線形範囲からの走行状態のずれの程度の確認によって行われる(図4参照)。そのために使用される信号は次の通りである。車速vref 、4つの車輪速度vvr,vvl,vhl,vhr、同様に部分機能ABSから発生し、そこで検査される車両縦方向加速度a1 および他のESPセンサ信号。
【0089】
この監視閾値と監視時間は、いろいろな走行状況におけるいろいろな種類の故障の場合に車両の状態の調査によって確認される。走行操作に該当しないような大きな変化度を有するヨーレイトセンサ信号の変化が確認されると、監視時間は大幅に短縮される。
【0090】
監視閾値と監視時間の適合は表2に最も簡単な形でまとめられている。
表2:
【0091】
【表2】
【0092】
ハードウェア実施の構造が図5に示してある。この構造はマイクロプロセッサシステム40を含んでいる。このマイクロプロセッサシステムの出力信号はブレーキ介入またはエンジン介入のためのユニット41に供給される。
【0093】
マイクロプロセッサシステム40は、アナログセンサ信号を変換するためのアナログ/デジタルコンバータ401と、それに接続されたデジタル式制御アルゴリズム402を備えている。アナログの出力信号を発生するためにデジタル/アナログコンバータ403がこの制御アルゴリズムに接続されている。更に、デジタルセンサ信号は監視システム404に供給される。デジタル制御アルゴリズム402によって発生したシステム量は、監視システムに供給され、監視システムは故障メッセージをこのユニット402に送る。
【0094】
デジタル式制御アルゴリズムと監視システムを備えたESPシステムは特にC言語でプログラミングされ、続いてマイクロプロセッサ40で実行される。マイクロプロセッサシステム40の入力信号は、車両42に組み込まれたセンサ43によって発生した信号である。マイクロプロセッサシステム40の出力信号は、ブレーキシステムまたはエンジン管理システム41を制御するために案内される制御量である。監視システム404は制御システムに対して平行であり、全体システムを監視し、従って故障が確認されないときには制御に影響を与えない。故障が検出されると、監視システム404はデジタル制御アルゴリズム402に故障メッセージを送る。それによって、制御アルゴリズムはESPシステムを非活動化する。
【0095】
監視システムは数多くの走行試験によってテストされた。2つのテスト走行の測定結果を例として図6a,6b,6cに示す。この測定結果は直線走行時のヨーレイトセンサの故障シミュレーソンの結果である。図6aはヨーレイトセンサの信号(線1)と、その4つの再現(線2〜5)を示す。図6bは残差の変化(線1)と閾値(線2,3)を示す。図6cには、いつ故障通報が開始されるかが示してある。
【0096】
この図示からはっきりと判るように、ヨーレイトは非常に正確に示すことができる。シミュレーションされた故障は、ヨートルクコントロールシステムが高い圧力で車輪に作用する前に、0.25秒以内で認識された。
【0097】
図7a,7b,7cはスラローム操縦で走行する際のヨーレイトセンサの監視結果を示している。このようなスラローム操縦の間、ヨーレイトはセンサ信号とモデル信号の間の位相のずれのために正確に示されない。この状況では、このようなモデル誤差は一般的にモデル形成時に避けられない。そこで間違ったアラームが発せられないようにするために、監視閾値はスラロームの開始時に既に高められている。図7aはヨーレイトセンサの信号(線1)とその再現(線2〜5)を示している。図7bには、残差の変化(線1)と閾値(線2,3)が示してある。図7cから、故障メッセージが発せられていないことが判る。
【0098】
すなわち、全体的に、ESPシステムにおけるセンサ監視のための方法と装置が記載され、この方法または装置の要部は多重モデル支援による残差の発生にある。方法と装置の発展は第1に、走行ダイナミクスと物理的な実現可能性と使用可能性を考慮して行われる。センサ監視によって、センサ故障と、特に走行中大きな変化度を有するセンサ故障を検出可能である。監視システムは高い信頼性を有する。というのは一方では、モデル誤差に対して高い頑強性を有し、他方ではセンサ故障に対して良好な感度を有するからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 走行ダイナミクス的なコントロールシステムのブロック図である。
【図2】 ESPシステムの構造を概略的に示す図である。
【図3】 故障診断システムの原理を示す図である。
【図4】 ESPセンサのためのモデル支援式監視システムの構造を示す図である。
【図5】 本発明によるセンサ監視のブロック図である。
【図6】 a,b,cは故障シミュレーションにおける測定結果を示す図である。
【図7】 a,b,cはスラローム操縦における測定結果を示す図である。
Claims (12)
- その都度走行ダイナミクスに関するプロセスの個々の測定変数を検出する車両センサを監視するための方法において、
個々のセンサの出力信号の変化を次のステップで周期的−順次的に監視する、すなわち、
普通動作モードのための多重プロセスモデル(31;G1〜G4;Q1〜Q4;L1〜L4)によって、現在のプロセス(32)の現在監視されない運転者(1)の走行要求を表わすプロセス基準変数(A)およびプロセス測定変数(B)から、現在監視すべきプロセス測定変数(C)のための解析的な冗長度
【外1】
を求め、
現在監視すべきプロセス測定変数(C)から、求められた冗長解析的な冗長度
【外2】
を差し引くことによって残差(r)を求め、
残差評価機能によって残差(r)を評価し、
評価された残差を設定された閾値と比較し、残差が予め定められた少なくとも1つの監視時間のための閾値に達したときに故障通報(F)を行うことを特徴とする方法。 - 現在のプロセス(32)が車両の電子式走行安定性プログラム(ESP)の一部であり、監視すべきプロセス測定変数(C)がヨーレイト、横方向加速度および操舵角度であることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 当該の方法が電子的な走行安定性プログラム(ESP)と並行して進行し、故障通報(F)が行われるときに、走行安定性プログラムが非活動化されることを特徴とする請求項2記載の方法。
- 多重プロセスモデルが多数の部分モデル(G1〜G4;Q1〜Q4;L1〜L4)によって形成され、この部分モデルによって、その都度監視すべきプロセス測定変数(C)が、監視されないプロセス基準変数(A)およびプロセス測定変数(B)と、車輪回転速度(vvl,vvr,vhl,vhr)と、ホイールベース(l)と、トレッド(S)と、4つの車輪回転速度から求められる車速(vref )とから成る、監視すべきプロセス測定変数(C)以外の物理量を用いて、物理的な法則に基づいて再現可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
- 部分モデル誤差の大きな非定常のプロセス状態の際に、残差評価機能が“すべてのうちの最小”の原理に従うアルゴリズムによって求められ、すべての残差のうちの最小の残差が閾値と比較され、部分モデル誤差の小さな定常的なプロセス状態の際に、“多数決原理”によるアルゴリズムが用いられ、このアルゴリズムにおいて解析的な冗長度の平均値が求められ、閾値と比較すべき残差を求めるために、平均値から最も小さな偏差を有する、多数の部分モデル(G1〜G4;Q1〜Q4;L1〜L4)にもとづき求めた3つの冗長度のうちの中間の値である解析的な冗長度が使用されることを特徴とする請求項4記載の方法。
- 有効な部分モデルの数が3つよりも少ない場合、残差が“すべてのうちの最小”の原理に従って求められ、有効な部分モデルの数が3つ以上である場合、“多数決原理”に従って残差が求められることを特徴とする請求項5記載の方法。
- 一方では有効でないセンサ信号の発生時に適時に故障通報を行い、他方では大きな部分モデル誤差に基づく間違った故障通報が回避されるように、監視されないプロセス基準変数(A)およびプロセス測定変数(B)と、車輪回転速度(vvl,vvr,vhl,vhr)と、車速(vref )とに基づいて、現在のプロセス(32)の状態に依存して、閾値を計算し、適合させるステップを有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一つに記載の方法。
- 当該の少なくとも1つの監視時間が現在のプロセス状態に適応させられ、かつセンサの短時間の故障が許容されるように選定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
- その都度走行ダイナミクスに関するプロセスの個々の測定変数を検出する車両センサを監視するための装置において、
普通動作モードのための多重プロセスモデル(G1〜G4;Q1〜Q4;L1〜L4)によって、現在のプロセス(32)の現在監視されない運転者(1)の走行要求を表わすプロセス基準変数(A)およびプロセス測定変数(B)から、現在監視すべきプロセス測定変数(C)のための解析的な冗長度を計算するための第1の装置(31)と、
現在監視すべきプロセス測定変数(C)から、計算された冗長解析的な冗長度を差し引くことによって残差(r)を求めるための第2の装置(33)と、
残差評価機能によって残差(r)を評価するための第3の装置(36)と、
閾値を求めるための第4の装置(35)と、
評価された残差を閾値と比較し、残差が予め定められた少なくとも1つの監視時間のための閾値に達したときに故障通報(F)を行う第5の装置(37)と、
を備えていることを特徴とする装置。 - 走行状態の認識により、多重プロセスモデルの誤差が比較的に大きい場合に閾値を高め、多重プロセスモデルの誤差が比較的に小さい場合に閾値を低下させるために、現在監視されないプロセス基準変数(A)およびプロセス測定変数(B)が第4の装置(35)に供給されることを特徴とする請求項9記載の装置。
- 第1から第5までの装置がマイクロプロセッサシステム(40)によって実現されていることを特徴とする請求項9または10記載の装置。
- 車両用ESPシステムにおいて、ヨーレイトセンサ(13)、横方向加速度センサ(14)および操舵角度センサ(15)を周期的に監視するために、請求項9〜11のいずれか一つに記載の装置を備えていることを特徴とする車両用ESPシステム。
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