JP4683712B2 - 熱間加工性に優れたNi基合金 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は熱間加工性、更には耐粒界腐食性、及び耐力に優れたNi基合金に関するものであり、特にインゴット又は鋳片の鍛造、熱間圧延などの熱間加工時に割れ、破損等の発生が少なく熱間加工性等が良好なNi基合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
Ni基合金は耐食性及び耐熱性が優れた合金であるため使用環境の厳しい条件で多用されている。最近は更に材料の安全に対する信頼性要求が高くなっている。これらのNi基合金のうち例えばインコネル600は原子炉の炉心材料として使用されているが、高い耐応力腐食割れ性及び耐粒界腐食性等を要求されているため、通常Nb等の安定化元素を添加して予め固溶Cを固定することが行われている。
【0003】
ところがNbを添加したNi基合金のインゴットは熱間加工性が悪いため鍛造又は熱間圧延工程に通すと割れ及び破損等の材料欠陥が生じる場合がある。これらの欠陥が生じると疵取りが不可欠となり製造歩留まりが著しく低下する。
【0004】
熱間加工性を向上させるために特開昭63−53235号公報ではNbCの溶体化熱処理を提案しており、特開昭61−84348号公報ではB添加およびO含有量低減による粒界偏析の低減を提案している。しかし、これらの発明はいずれも10年以上も前に提案されたものであり、現在この材料では新しい性能要求に対処できない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記Nb入りNi基合金を工業規模で製造する場合に、従来の合金では必ずしも安定した熱間加工性が得られず熱間加工中に割れが発生する場合があった。そこで、本発明の目的はNbを含有するNi基合金における上記問題点を解消し、熱間加工性に優れ、更には耐粒界腐食性と耐力も従来より優れたNi基合金を提案することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は、下記の成分組成(以下%とppmは重量ベースである)を有することを特徴とする熱間加工性に優れたNi基合金である。
(a)C:0.045%以下、Fe:3〜25%、Cr:14〜26%、
Nb:4%以下、N:0.005〜0.04%、Si:1.0%以下、
Al:0.2%以下、P:0.030%以下、Mn:1.0%以下、
残部がNiと不可避的不純物であり、
(b)更に、S(ppm)とO(ppm)は、
S≦150ppmで、かつO(ppm)≦100−S/3.75である。
【0007】
発明の第2の態様は、前記成分組成が、C:0.003〜0.045%、Nb:2〜4%、S:20ppm以下、O:20ppm以下であることを特徴とする熱間加工性に優れたNi基合金である。
【0008】
発明の第3の態様は、前記Alの含有量が0.1%以下であることを特徴とする請熱間加工性に優れたNi基合金である。
【0009】
発明の第4の態様は、前記成分組成に加えて更に、Bを0.01%以下含有することを特長とする熱間加工性に優れたNi基合金である。
【0010】
発明の第5の態様は、更に、前記C量は、熱間加工後のオーステナイト結晶粒度番号(G.S.No.)が、G.S.No.≦0となる熱間圧延の条件では、C≦0.005%となるように溶解し、0<G.S.No.≦2となる熱間圧延の条件では、C≦[0.0025×G.S.No.+0.015]%となるように溶解し、G.S.No.>2となる熱間圧延の条件では、C<0.045%となるように溶解することを特徴とする熱間加工性に優れたNi基合金である。
【0011】
発明の第6の態様は、更に、Nb/(C+N)は、熱間加工後のオーステナイト結晶粒度番号(G.S.No.)が2〜5の範囲において、Nb/(C+N)≧[320−55×(G.S.No.)]/3であり、G.S.No.が5を超え6以下の範囲においてはNb/(C+N)≧15であることを特徴とする熱間加工性に優れたNi基合金である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の基本成分組成(以下%とppmは重量ベースである)について説明する。Cは本合金の機械的強度の向上に寄与する成分である。含有量が多すぎる場合は耐食性が悪くなるので上限は0.045%とし、好ましくは0.040%以下(0%を含む)の含有量とする。なお、強度を確保するため0.003%以上が望ましく、より望ましくは0.005%以上である。
【0013】
Feは靭性に寄与する成分である。含有量が多すぎる場合は耐食性が劣化し易くなるので含有量の上限は25%とする。なお、靭性を確保するため下限は3%とし、好ましくは5%以上とする。
【0014】
Crは耐食性を発揮させるのに不可欠の元素である。含有量が14%より少ないと耐食性が劣化する。26%より多いと高温強度が高くなって加工が困難となるので14〜26%の範囲内とする。
【0015】
Nbは固溶炭素(C)、及び固溶窒素(N)を炭化物、及び窒化物として析出させ耐食性を向上させる効果がある。ただし、含有量が多すぎると過剰に析出した析出物により粒界脆化が生じる場合があるので4%以下とする。また、含有量が少なすぎると耐食性が悪くなるので好ましくは2%以上含有する。Nbの含有量は、C及びN含有量に応じて望ましくはNb/(C+N)≧15であり、より好ましくは30以上、更に好ましくは60以上となるように含有するものとする。
【0016】
Nは機械的強度、耐食性、及び耐粒界腐食性の向上に有効である。含有量が0.04%を超えるとNの固溶限に近づいてブローホールを生じ易くなるので0.04%以下とする。なお、耐力を確保するため0.005%以上とし、好ましくは0.01%以上とする。
【0017】
Alは脱酸材として添加され、酸素低減により熱間加工性向上に寄与する。しかし、含有量が多すぎると固溶Alが増加し、逆に熱間加工性が低下するとともに脱酸生成物を巻き込み清浄度を劣化させるので0.2%以下とする。より望ましくは0.1%以下である。
【0018】
Bは熱間加工性を改善するので含有量は0.01%以下とする。0.01%を超えると熱間加工性が劣化する。
【0019】
Siは含有量が1.0%より多いと耐粒界腐食性が劣化するので1.0%以下とする。
【0020】
Pは含有量が0.003%より多いと耐粒界腐食性、及び溶接性が劣化するので0.003%以下とする。
【0021】
Mnは含有量が1.0%より多いと耐粒界腐食性が劣化するので1.0%以下とする。
【0022】
本発明においては熱間加工性を改良する点から、特にS(硫黄)とO(酸素)について特別の条件を規定した。Ni基合金の熱間加工時に生じる割れ、及び破損の原因は主として粒界破壊である。特にNb等を添加した場合にはNbC等が粒内及び粒界に析出する。その結果、粒内強度の上昇と粒界強度の低下が生じて熱間加工性が低下する。
【0023】
一方S、Oは粒界に偏析して粒界を脆化させる有害元素である。従来、低濃度での制御が困難であったO、S、Alなどの合金成分組成が、近年の製錬技術の向上に伴い低濃度に制御できるようになった。そこで本発明者らは、OとSを同時に低減した場合に熱間加工性が著しく向上し、特に、Nb入りNi基合金のように粒内強度が大きい合金の割れも防止できることを見出した。
【0024】
インコネル600合金を基本としてO含有量とS含有量を変化させた合金を1050℃における熱間引張り試験に供した。試験片の試験前後の断面減少率を調べて絞り値に及ぼすO含有量とS含有量の影響を図1に示した。鍛造、及び熱間圧延等の熱間加工時に割れ、及び破損等を起こさないためには絞り値は少なくとも60%以上、より望ましくは70%以上、更に望ましくは80%以上、最も望ましいのは90%以上である。
【0025】
図1からS含有量は150ppmを超えると絞り値が60%以下となるので150ppm以下にする必要がある。また、O含有量は100ppmより多い場合は絞り値が60%以下となるので100ppm以下にする必要がある。好ましくは、S≦150ppm、かつO(ppm)≦100−S/3.75である(図1の実線の左側)。
【0026】
より望ましくはS≦100ppm、かつO≦100−S/1.25である(図1の点線の左側)。更に望ましくは、S≦50ppm、かつO≦60ppmである(図1の鎖線の左側)。最も望ましい範囲はS≦20ppm、かつO≦20ppmである(図1の最左端の範囲)。上記順に絞り値が向上するためである。
【0027】
Alを添加すると脱酸材として作用して酸素含有量が低減し熱間加工性が向上する。図2にAl含有量の絞り値に与える影響を示した。しかし、Alが過剰に存在すると熱間加工性が損なわれる。そこでAl含有量を0.2%以下に制限し、OとSの熱間加工性に与える影響を調査したところ、O≦20ppm、S≦20ppmの領域で熱間加工性が極めて優れた合金が得られた。図2からも分かるように熱間加工性は確実に改善されるのでAl含有量を0.1%以下とすることが望ましい。Al添加により生じた脱酸生成物を巻き込んで清浄度が低下することがあるためである。
【0028】
上記熱間加工性に加え耐粒界腐食性を向上させるためには以下のような限定が望ましい。即ち、粒界腐食性はC含有量が高いほど劣るので、耐食性向上のためにはC含有量を低く押さえる必要がある。本発明者らは、実際に粒界腐食を左右するのは粒界偏析した固溶Cであると考え、結晶粒度を微細化し、単位粒界面積当たりのC含有量を低下させることにより耐粒界腐食性が向上すると推考した。
【0029】
そこで、結晶粒度とC含有量を制御することで優れた耐食性を有するNi基合金が得られることを知見した。図3はインコネル合金を基本として、C含有量および結晶粒度を変化させたときの粒界腐食試験における腐食速度dに対するC含有量とG.S.No.の関係を示した図である。なお、ミクロ組織をリン酸又は蓚酸電解により顕出した後、結晶粒径の測定はJISG0551に従って実施した。
【0030】
粒界腐食試験は、3mm厚さ×15mm巾×50長さの試験片を#800まで湿式研磨し、50mm半径の曲げ加工を施した後、50%H2SO4+83gFe2(SO4)3の沸騰溶液中で24hr煮沸して腐食速度dを求めた。その結果、G.S.No.が2以上のときC含有量が0.045%まで添加しても最大腐食速度dは500μm/day以下であり耐腐食性は良好である。なお、好ましくはC含有量は0.043%以下とし、更に好ましくは0.040%以下とする。
【0031】
0≦G.S.No.≦2の場合、C≦[0.0025×G.S.No.+0.015]%を満足する範囲で最大腐食速度dは500μm/day以下であり、耐粒界腐食性は良好である。C含有量がこれより高い場合に単位粒界面積あたりの固溶Cが過剰になって耐腐食性が低下する。
【0032】
G.S.No.≦0ではC≦0.005%を満足する必要がある。C含有量がこれより高い場合、単位粒界面積あたりの固溶炭素(C)が過剰になり耐食性が低下する。但し、C含有量は強度を確保するために好ましくは0.003%以上とする。即ち、上記の関係をまとめると以下のようになる。
G.S.No.≦0では、C≦0.005%、
0<G.S.No.≦2では、C≦[0.0025×G.S.No.+0.015]%
G.S.No.>2では、C<0.045%
【0033】
結晶粒度を微細化するとそれだけで耐力向上が可能であるが、析出物が存在する場合析出物の微細化、均一分散による更なる析出強化が可能になる。Nb、C及びNの添加は、析出強化と固溶強化により耐力を向上させる効果がある。しかし、熱間加工後のオーステナイト結晶粒度(以下単に結晶粒度という)が大きい場合、析出物の多くは粒界で粗大化し、耐力向上に寄与しないばかりか粒界強度を減少させる。また、粒界強度と粒内強度の差が大きくなるため熱間加工性が低下する。
【0034】
そこで、本発明者らは、単位粒界面積あたりの析出物量を制御するため、粒界面積の指標である結晶粒度とNb/(C+N)の関係を特定の範囲に制限することで、更に十分な耐力を有するNi基合金が得られることを見出した。図4に耐力に与える結晶粒度番号とNb/(C+N)との関係を示した。
【0035】
図4において、0.2%耐力が240MPa以上であるとインコネル600の規格値を満足するので望ましい値である。従って、Nb/(C+N)が、G.S.No.が2〜5の範囲において、Nb/(C+N)≧[320−55×(G.S.No.)]/3であり、G.S.No.が5を超える範囲においてはNb/(C+N)≧15であることが望ましい。
【0036】
以上述べた条件を満足することにより熱間加工性、粒界腐食性および耐力に優れたNi基合金が得られる。
【0037】
【実施例】
図5として示す表1に記載した成分組成のNi基合金を大気誘導炉で溶解してインゴットを溶製し、次いで鍛造又は熱間圧延した。表中の試料番号1〜13は本発明の合金、14〜20は比較例の合金である。得られた熱間圧延板の表面割れ発生状態を観察した。その結果を成分組成とともに表1に示した。表においてSiは0.05〜0.5%、Pは0.001〜0.015%、Mnは0.02〜0.5%である。本発明合金には表面割れは発生しておらず熱間加工性が改善されている。
【0038】
図6として示す表2に記載した成分組成の合金を大気誘導炉で溶解してインゴットを溶製し、次いで通常の鍛造又は熱間圧延を実施した。表中試料番号1〜6は本発明の合金、14〜20は比較例の合金である。Si、P及びMnは表1と同じである。得られた熱間圧延板について粒界腐食試験を行なって最大腐食速度を測定した。その結果を結晶粒度番号と成分組成とともに表2に示した。本発明合金は従来材による比較材と比較して熱間加工性と最大腐食速度が改善されている。
【0039】
図7として示す表3に記載した試料番号1〜6は熱間加工性と耐力に優れた合金であり、14〜20は比較例の合金である。Si、P及びMnは表1と同じである。本発明の効果は明らかである。
【0040】
図8として示す表4に記載した試料番号1〜6は熱間加工性、粒界腐食性及び耐力に優れた合金であり、14〜20は比較例の合金である。Si、P及びMnは表1と同じである。本発明の効果は明らかである。
【0041】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のNi基合金は少なくとも熱間加工性、更には、耐粒界腐食及び耐力に優れており、各種原子炉構造部材などに適用できる有用な合金である。また、本発明のNi基合金は熱間加工性に優れるので、割れ、破損などの補修による歩留まり損失が少なく生産性の向上と生産コストに多大な寄与をする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 SとOの含有量が絞り値に与える影響を示す図である。
【図2】 Al含有量が絞り値に与える影響を示す図である。
【図3】腐食速度と結晶粒度との関係を示す図である。
【図4】結晶粒度番号とNb/(C+N)との関係を示す図である。
【図5】加工性に優れた本発明合金例を表1として示す図である。
【図6】熱間加工性と耐粒界腐食性に優れた本発明合金例を表2として示す図ある。
【図7】加工性と耐力とに優れた本発明合金例を表3として示す図である。
【図8】加工性と耐力と耐粒界腐食性に優れた本発明合金例を表4として示す図である。
Claims (4)
- 下記の成分組成(以下%とppmは重量ベースである)を備えたことを特徴とする熱間加工性に優れたNi基合金。 (a) C:0.045%以下、Fe:3〜25%、Cr:14〜26%、 Nb:4%以下、N:0.005〜0.04%、Si:1.0%以下、 Al:0.2%以下、P:0.030%以下、Mn:1.0%以下、残部がNiと不可避的不純物であり、(b) 更に、S(ppm)とO(ppm)は、S≦150ppmで、かつ、O(ppm)≦100−S/3.75である。
- 前記成分組成がC:0.003〜0.045%、Nb:2〜4%、S:20ppm以下、O:20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱間加工性に優れたNi基合金。
- 前記Alの含有量が0.1%以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の熱間加工性に優れたNi基合金。
- 更に、Bを0.01%以下含有することを特長とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱間加工性に優れたNi基合金。
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