JP4677857B2 - 楽器用部材または楽器とその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、楽器表面の塗装膜は、4000Hzを超える可聴信号としては高周波領域において、表面波振動という形で音質へ影響を及ぼすが、この表面波振動は、その振動振幅も小さくかつ過渡的な信号であるため、測定評価が困難である。しかし、経験的に、楽器の音は楽器表面の塗装膜の性質に依存して変化することが知られており、経年変化で音質が向上する理由の一つは、この塗装膜の経年変化にあると考えられる。
具体的には、楽器の音質を良好にする塗装膜の特性とは、損失が高く弾性が低いことであり、したがって、経年変化による音質向上は、塗装膜で損失が高くなることおよび/または弾性が低くなることでもたらされると考えられる。
経年変化を短時間で実現する方法としては、例えば、楽器をオゾン中に晒して酸化反応を起こさせる方法(特許文献1参照)、あるいは、楽器に紫外線を照射する方法(特許文献2)がある。
請求項1に記載の発明は、楽器用木材料に塗装を施し、塗装膜を乾燥させた後、前記塗装膜の温度が75℃以下となるように、遠紫外線波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を、18分以上前記塗装膜に照射してなることを特徴とする楽器用部材である。
また、改質工程が短時間でかつ簡便であるため、コスト的にも優れた楽器を得ることができる。
紫外線は、その波長領域により3つのカテゴリーに分類される。すなわち、UVA(近紫外線、320〜400nm)、UVB(280〜320nm)およびUVC(遠紫外線、280nm以下)である。
これらのうち、本発明においては、少なくとも遠紫外線(以下、UVCと略記)の波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を用いる。この時、紫外線中のUVCのエネルギー量は総エネルギー量の50%以上であることが好ましい。
またUVCは、例えば、低圧水銀ランプあるいはエキシマランプ等を光源として取り出すことができる。
また、照射効率を上げると同時にオゾンガスの発生を防止するために、UVC照射は空気雰囲気中に代わり、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましく、真空雰囲気中で行うことがより好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等を好ましいものとして挙げることができる。
また、いずれの雰囲気中でUVC照射を行う場合も、楽器用部材または楽器は、UVC照射装置内において、回転テーブル等に載せて回転させながらUVCを照射することによって、塗装膜へのUVC照射を均質に行うことができる。
また、塗装膜の膜厚は、種類により異なるが、10〜110μmであることが好ましい。
ここで言う楽器用部材としては、例えば、バイオリン、ビオラ、チェロ、ダブルベース等の擦弦楽器の響板や部材、アコースティクギター、エレキギター、ハープ、琴、大正琴、チェンバロ等の撥弦楽器の響板や部材、ピアノ等の打弦楽器の響板や部材、打楽器ではマリンバやシロホン等の音板、ドラムや和太鼓等の胴部、部材、ウッドブロックや拍子木等の本体、管楽器では木管楽器の本体や部材等、その他ではパイプオルガンの木製パイプ等、その表面に塗装を施してなる、楽器を構成するすべての木製部品のことを指す。また楽器とは、前記各部材を用いて製作される各楽器のことを指す。
左に示すものは、塗料そのものあるいは塗り上がった塗料が乾燥していない塗膜の状態である。これは粘性損失係数C0を持つのみで、固体的な弾性特性を持っておらず、したがって、形状保持能力は全くない。これが乾燥すると、中央に示すように、弾性係数k1を発生し、C0はC1に減少して、硬くなって形状が安定し、塗膜として機能するようになる。ただし、この弾性は、振動振幅を低減する原因となり、楽器の鳴りを悪くしてしまう。
この状態で、本発明にしたがいUVCを照射すると、右に示すように、乾性損失係数f2が生じる。これは、弾性的特性k1をミクロに破壊することにより進行するので、k1>k2という結果が得られる。すなわち、塗装膜が乾燥しているにもかかわらず、楽器の鳴りが悪くなることを軽減できる。また、f2は損失要素であるが、粘性損失要素Cnより音色的には良好な乾性損失で、楽器のイメージとしては、文字通り「音の乾き」に繋がる特性である。
図9は、前記静特性モデルに塗料の質量を加味した動特性モデルを示すものであり、左が通常の乾燥後の塗装膜を、右がUVC照射後の塗装膜をそれぞれ示す。
ここでPは、系に対する加振力であり、例えば、弦楽器において弦から伝わる振動の力のことである。また、塗料の質量m1およびm2は、UVC照射前後でほぼ不変と考えて良いので、m1≒m2である。なお、本モデルにおいては、塗装膜乾燥前の液体的な状態を取り扱うことはできない。
しかし。この乾燥した塗装膜にUVCを照射すると、本振動系は、k1がk2とf2に変化する(k1>k2)ことにより、図9の右に示すものに変化する。この右の状態の振動方程式は、
以上のように、UVC照射による塗装膜の「ミクロな破壊」により、塗装膜の乾燥で発生増大したkを抑制し、減少したCをfで補うこと、すなわち、kのある程度の部分をfに変換することにより、乾燥しているにもかかわらず音響的に良好な塗装膜が得られる訳である。
(実施例1)
UVC照射装置として、エキシマランプを備えた市販の装置(エキシマUV/O3洗浄装置)を用いて、バイオリンにUVCを照射し、バイオリンの音質の変化を評価した。該UVC照射装置の概要を表1に示す。
エキシマランプは、波長172nmおよび222nmにスペクトルを有する、すなわち、強度が最高ピーク値となるものをそれぞれ6本ずつ用い、これらを該装置内の図10に示すランプハウス80に、金属ブロック81を介して固定した。UVC領域のエネルギー量は、紫外線総エネルギー量の80%以上である。金属ブロック81は、冷却水流路82を備えており、これらエキシマランプ83は、前記金属ブロック81を介して、冷却水により冷却されるようになっている。
また、UVCを照射して、UVC照射装置外に取り出した直後の、照射面の温度は、55〜70℃であった
(実施例2)
図1に示すUVC照射装置を用いて、表2に示す条件でバイオリンにUVCを照射して、バイオリンの音質の変化を評価した。
図1(a)は該照射装置の概略断面図であり、符号20は、UVC照射装置本体であって略直方体状の形状をしたものである。その内部の上面にはUVC光源として、低圧水銀ランプ22が設けられている。また、UVC照射装置20の内部の底面には、UVC照射対象物を設置するための設置台23が設けられており、本実施例においては、バイオリン21が設置されている。
一方、UVC照射装置20の側面には、排気口25を介して排気ポンプ26が設けられ、対向する側面には、吸気口24が設けられており、UVC照射によって発生する有害なオゾンを、常時UVC照射装置20外に排気するとともに、UVC照射装置20内に空気を吸気できるようにされている。なお、図1(b)は、該装置を上面側から見た概略平面図である。
また、図13は、低圧水銀ランプ22のスペクトル分布を示すグラフである。主要スペクトルは、253.7nmおよび184.9nmとなっている。最高ピーク値は253.7nmである。特にエネルギーレベルの高い184.9nmのUVCにより、有機化合物の主鎖および側鎖を切断できることが知られている。
なお、本発明で用いるUVC光源は、UVC波長領域を主要スペクトルとするものであれば、ここに示すものに限定されない。UVC領域におけるエネルギー量は、総エネルギー量の50%以上である。これは以下の実施例においても同様である。
すなわち、バイオリン21を、その表面(響板)最上部が低圧水銀ランプ22の下端より30mmの距離に位置するように、設置治具(図示略)で高さを調整して設置台23上に設置した。この時、バイオリン21の板全体は、低圧水銀ランプ22の下端より50mm以内の距離に収まった。なお、バイオリン21は、塗装が施されていない指板を取り外した状態にして用いた。これは、以降の実施例においても同様である。なお、指板を取り外さない場合は、指板をアルミフォイル等の紫外線遮断薄片で覆うと良い。
次に、排気ポンプ26を稼働させ、バイオリン21に対して、低圧水銀ランプ22よりUVCを5分間連続で照射し、続いて、バイオリン21をUVC照射装置20外に取り出し、コンプレッサー(図示略)を用いて圧縮空気を照射面に10分間吹付けて冷却した。この操作を1サイクルとして、合計6サイクルのUVC照射処理を行った。すなわち、UVC照射時間は、合計30分であった。
表面と同様に、UVCをバイオリン21の裏面に合計30分間照射した。UVC照射後の照射面の温度は、前記同様55〜65℃であった。
バイオリン21の側面は凹凸が大きく、側面全体に対して均質にUVCを照射することが困難であったため、低圧水銀ランプ22の下端から15mm〜115mmの距離に収まるように、バイオリン21を横向きに設置台23上に設置した。なお、低圧水銀ランプ22の下端からの距離が遠い側面は、音質上重要な部分ではないので、この距離のばらつきは、大きな問題とはならない。
バイオリン21に対して、UVC照射を3分間連続で行った後、UVC照射装置20外に取り出し、コンプレッサーを用いて圧縮空気を照射面に7分間吹付けて冷却した。この操作を1サイクルとして、合計6サイクルのUVC照射処理を行った。すなわち、UVC照射時間は、片方の側面につき合計18分であった。同様の処理を残り片方についても行い、合計で36分間UV照射処理を行った。
音質の評価は、バイオリン開発担当のアマチュア演奏家および音楽大学の教員であるプロの演奏家によって、大ホールおよび小ホールでバイオリンを試奏し、楽器設計者、バイオリン製作作業者、材料研究者、バイオリン出荷検査者および演奏者本人からなる総計6〜10名の評価者により行った。なお、これら演奏家および評価者には、演奏および評価前にこれらバイオリンの違いについての説明は、一切行わなかった。
実施例2で用いたものに近い特性のバイオリン31を選んで、以下に示すようにUVC照射処理を行った。バイオリンの木質材料は、同種木材から得たものでも特性に差が出るため、本実施例では、特に木質材料の密度、弾性率およびQ値が、実施例2で用いたバイオリンに近いものを選び、塗装方法および塗装膜の膜厚も実施例2で用いたものと同じとなるようにしたバイオリン31を選択した。
そして、図2に示すUVC照射装置30を用いて、表2に示す条件でバイオリン31にUVCを照射して、バイオリン31の音質の変化を評価した。すなわち、UVC照射装置30内において低圧水銀ランプ22を、バイオリン31を取り囲むように六方面に設置した。(図2では、バイオリン31の側面方向の低圧水銀ランプ22については、図示を省略した。)この時、表面および裏面の低圧水銀ランプ22からの距離は、実施例2と同じとし、側面の低圧水銀ランプ22からの距離は、25mm〜125mmとした。
実施例2および3で用いたものに近い特性のバイオリン41に対して、図3に示すUVC照射装置40を用いて、表2に示す条件でUVC処理を行い、バイオリン41の音色の変化を評価した。
本実施例においては、UVC照射装置40内に、設置台23に代えて、高さ調節が可能な回転テーブル43を設けて、該回転テーブル43上にバイオリン41を設置し、バイオリン41がUVC照射装置40内で回転できるようにした。そして、UVCの照射条件およびバイオリン41の低圧水銀ランプ22からの距離は、いずれも実施例2と同じとし、回転テーブル43の回転速度を12rpmとして、バイオリン41に対してUVC照射処理を行った。これにより、バイオリン41へのUVC照射をより均等に行うことができた。
なお、UVC照射装置40は、その内部でバイオリン41が回転可能となるように、水平面の面積を、UVC照射装置20よりも大きくしてある。
実施例2〜4で用いたものに近い特性のバイオリン51に対して、図4に示すUVC照射装置50を用いて、表2に示す条件でUVC処理を行い、バイオリン51の音質の変化を評価した。
UVC照射装置50には、バイオリン51に対して常時圧縮空気を吹付けられるよう、ノズル53が設けられており、該ノズル53は、配管52を介して、コンプレッサー54と接続された圧縮空気タンク55に連結されている。また、UVC照射装置50には、排気口25を介して排気ポンプ26が設けられている。
UVC照射直後における照射面の温度は、いずれの面でもほとんど差がなく、最大で61℃であった。
実施例2〜5で用いたものに近い特性のバイオリン61に対して、図5に示すUVC照射装置60を用いて、表2に示す条件でUVC処理を行い、バイオリン61の音質の変化を評価した。
UVC照射装置60は気密性を高めたもので、排気口65を介して真空ポンプ66が設けられており、該真空ポンプ66の運転により、UVC照射装置60内を真空状態(圧力0.02Mpa以下)にまで減圧可能となるようにされている。また、UVC照射装置60には、気圧回復バルブ64が設けられており、該バルブ64を開くことで、真空状態を解除できるようになっている。
さらに、同様のUVC処理を、もう10サイクル、20サイクル、30サイクルおよび40サイクル繰返し、UVC照射時間を、一つの面につき合計40分、60分、80分および100分として、その都度バイオリン61の音質を評価して、それぞれ上記20分の場合と結果を比較した。
実施例2〜6で用いたものに近い特性のバイオリン71に対して、図6に示すUVC照射装置70を用いて、表2に示す条件でUVC処理を行い、バイオリン71の音質の変化を評価した。
本実施例においては、実施例6で用いたUVC照射装置60の気圧回復バルブ64に、配管を介して窒素ガスボンベ75を接続した形態の装置を用いて、UVC照射を不活性ガスである窒素雰囲気中でおこなった。すなわち、気圧回復バルブ64を閉じた状態で、UVC照射装置70内を真空ポンプ66を用いて真空状態にした後、気圧回復バルブ64を開放して、窒素ガスボンベ75から窒素をUVC照射装置70内へ導入し、バイオリン71の低圧水銀ランプ22からの距離を実施例3および6と同じにして、UVC照射を行った。
本実施例においては、実施例6の真空雰囲気中よりは劣るが、常圧の空気雰囲気中よりもUVCの照射効果が大きい傾向が見られた。また、真空雰囲気中よりも、照射表面の自然冷却効果が大きく、照射中の温度上昇は抑えられる傾向も見られた。
実施例2〜7の結果より、UVC処理の経済的かつ合理的な方法としては、例えば、(i)常圧空気雰囲気中でのUVC全面同時照射、(ii)UVC照射中の照射面への圧縮空気吹付けによる強制冷却、(iii)UVC光源への最近接距離を表面および裏面を30mm、側面を15mmとすること、(iv)UVC照射時間10分およびUVC照射装置外での強制冷却5分の計15分のサイクルを3サイクル行うこと、を挙げることができる。
そこで、これらを組み合わせてUVC処理を行うことで、UVC全照射時間を30分とし、UVC処理全作業時間を45分としたところ、実施例2〜7の半分以下の時間で、これらと同等の効果を得ることができた。また、本実施例においては、UVC照射直後における照射面の温度は、いずれの面でもほとんど差がなく、60〜65℃であり、温度上昇を低く抑えることができた。
塗装を油性ワニス以外のもので行ったバイオリンを用いて、それ以外は実施例7と同じ条件でUVC処理を行い、バイオリンの音質の変化を評価した。
すなわち、実施例2で用いたバイオリンを製作した時の材料と近い特性の材料を用いてバイオリンを製作し、塗装をアルキド樹脂(膜厚20〜40μm)、アルコールワニス(膜厚10〜35μm)、セルロースラッカー(膜厚50〜80μm)、ポリエステル樹脂塗料(膜厚70〜90μm)およびポリウレタン樹脂塗料(膜厚90〜110μm)で行ったそれぞれのバイオリンについて、UVC照射・非照射のものを用意し、評価を行った。ただし、これらのバイオリンはいずれも、塗装後3〜4ヶ月保存し、塗装膜の化学的安定と木材の含水率安定を図ってから、UVC処理に供した。
本実施例での塗装では、塗料の種類以外に膜厚も異なるため、前記音質改善効果の差がいずれによるものかは断定できないが、これらの結果より、本発明のUVC照射による音質の改善効果は、塗装膜の種別を問わず認められることが確認された。すなわち、UVCの塗装膜への作用は化学的な作用ではなく、分子鎖の切断等、物理的な作用であることを示唆するものである。これは、UVC照射前に塗装膜がすでに硬化すなわち乾燥が終了していることからも明らかであると考えられる。
UVC照射による音質の改善効果は、どの程度の照射時間で得られるのかを確認するため、実施例2〜7で用いたものに近い特性のバイオリンを用いて、UVC照射のサイクルを細分化して徐々に進めること以外は、実施例3と同じ照射条件でUVC処理を行い、バイオリンの音質の変化を評価した。なお、本実施例で用いた前記バイオリンは、油性ワニスで膜厚が実施例3で用いたものと同じとなるように塗装されたものである。また、比較対象として、実施例2で用いたUVC非照射のバイオリンおよび実施例3で用いたUVC照射のバイオリンもそれぞれ評価した。具体的手順は以下の通りである。
よって、UVC照射によって音質の改善効果を得るためには、最低12分の照射時間が必要であることが確認された。
実施例2で用いたものに近い特性のバイオリンを選んで、このバイオリンを、低圧水銀ランプ22からの距離が実施例2の時よりもさらに50mmずつ遠くなるように設置したこと以外は、実施例2と同様にUVC処理を行い、バイオリンの音質の変化を評価した。すなわち、表面および裏面のUVC照射においては、表面あるいは裏面の最上部が、低圧水銀ランプ22の下端より80mmの距離に位置し、バイオリンの板全体が、低圧水銀ランプ22の下端より100mm以内の距離に位置するように設置した。また、側面のUVC照射においては、低圧水銀ランプ22の下端から65mm〜165mmの距離に収まるように設置した。
その結果、評価者全員がUVC処理バイオリンを正しく認識し、本比較例のバイオリンについては、約2/3の評価者が、UVC非処理のバイオリンであると評価し、約1/3の評価者はわからないと答えた。ただし、プロ演奏家は、本比較例のバイオリンを、UVC処理したバイオリンの片鱗が感じられると評価した。
実施例2のUVC照射装置のうち、低圧水銀ランプ22を同様の形状の高圧水銀ランプに換えて紫外線処理を行い、バイオリンの音質の変化を評価した。高圧水銀ランプのスペクトル分布を図14に示す。これから明らかなように、本高圧水銀ランプから照射される光は、可視光を含み、UVCではなく、UVA(320〜400nm)およびUVB(280〜320nm)を主成分とする紫外線である。強度のピーク値をとるのは、365.0nmであり、UVA領域である。
さらに、紫外線照射のサイクルを前記6サイクルからさらに増やして、合計で12サイクル、30サイクル、60サイクルおよび120サイクル行って、評価を行った。
すなわち、照射する光の波長により、塗装膜に及ぼす効果が大きく異なり、本実施例のようなUVAおよびUVBによる塗装膜の処理では、UVC同等の音質改善効果は得られないことが確認された。
図7に示すようなUVA照射装置10を用いてUVA処理を行い、バイオリンの音質の変化を評価した。図7(a)および(b)は、それぞれUVA照射装置10の上面側から見た概略平面図および概略側面図であり、図中の寸法の単位はmmである。略直方体状のUVA照射装置10は、その上面に換気口12が設けられており、側面の一つは、扉11で構成されている。
図7(c)は、該装置10の概略斜視図であり、該装置内の側面のうち、扉11の壁面とこの扉11と隣り合う壁面には、UVA光源であるブラックライト13が2本ずつ設けられ、扉11と対向する壁面にはブラックライト13が4本設けられている。これらブラックライト13は、直管の蛍光灯と同様の形状をしており、直径32.5mm、長さ580mmである。本ブラックライト13のスペクトル分布を図15に示す。350nm付近に強度のピーク値をとる。
すなわち、UVA照射を連続8時間行い、一夜静置後にさらに8時間照射して合計16時間照射し、同様の一夜静置および8時間照射をさらに3回および4回繰り返して、合計40時間および72時間の照射を行って、それぞれ照射終了後に評価を行った。
一方、72時間照射したバイオリンを1ヶ月放置した後、再度評価を行ったところ、音質の変化が解消されていることが確認された。すなわち、UVA照射による音質の変化は、塗装膜の流動性(塑性)を一時的に高めることによるもので、UVCによる塗装膜への物理的作用とは異なる作用であることが示唆された。
また、改質工程が短時間でかつ簡便であるため、コスト的にも優れた楽器を得ることができる。
Claims (8)
- 楽器用木材料に塗装を施し、塗装膜を乾燥させた後、前記塗装膜の温度が75℃以下となるように、遠紫外線波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を、18分以上前記塗装膜に照射してなることを特徴とする楽器用部材。
- 前記紫外線が、遠紫外線波長領域におけるエネルギー量が総エネルギー量の50%以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の楽器用部材。
- 紫外線の照射が、真空雰囲気中で行われたことを特徴とする請求項1または2に記載の楽器用部材。
- 紫外線の照射が、不活性ガス雰囲気中で行われたことを特徴とする請求項1または2に記載の楽器用部材。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の楽器用部材、またはそれらの組み合わせからなることを特徴とする楽器。
- 楽器用木材料に塗装を施し、塗装膜を乾燥させた後、前記塗装膜の温度が75℃以下となるように、遠紫外線波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を、18分以上前記塗装膜に照射してなることを特徴とする楽器。
- 楽器用木材料に塗装を施し、塗装膜を乾燥させた後、前記塗装膜の温度が75℃以下となるように、遠紫外線波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を、18分以上前記塗装膜に照射することを特徴とする楽器用部材の製造方法。
- 楽器用木材料に塗装を施し、塗装膜を乾燥させた後、前記塗装膜の温度が75℃以下となるように、遠紫外線波長領域において強度が最高ピーク値となる紫外線を、18分以上前記塗装膜に照射することを特徴とする楽器の製造方法。
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