JP3403574B2 - 楽器用木材、楽器用木製部品及び木製楽器 - Google Patents

楽器用木材、楽器用木製部品及び木製楽器

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JP3403574B2
JP3403574B2 JP10417796A JP10417796A JP3403574B2 JP 3403574 B2 JP3403574 B2 JP 3403574B2 JP 10417796 A JP10417796 A JP 10417796A JP 10417796 A JP10417796 A JP 10417796A JP 3403574 B2 JP3403574 B2 JP 3403574B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、楽器又は楽器用部
品に用いられる木材、楽器用の木製部品及び木製の楽器
に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、木材を加工して作製された木製楽
器、あるいは木材を加工して作製された複数の木製部品
から成る楽器が知られている。これら木製楽器又は木製
部品は、一般に、大気中の水分を吸収することにより形
状が変化する。かかる形状の変化は、楽器の音質やピッ
チを変化させる原因となっている。また、木製部品の形
状が変化することによって、例えば部品と部品との摩擦
が大きくなって耐久性が低下したり、楽器を調整しても
すぐに狂いが生じてしまう等の問題が発生している。ま
た、木製楽器や木製部品の形状が変化すると、割れが発
生して雑音の原因となることがある。更に、楽器の外観
を形成する木製部品の形状が変化すると、外観品質が低
下し楽器の商品価値が低下するという問題がある。
【0003】ピアノ、チェンバロ等といった多数の木製
部品で構成されている鍵盤楽器では、木製部品の形状が
変化すると所望の機能・性能を発揮できなくなる。従っ
て、かかる鍵盤楽器では、これを構成する木製部品に
は、特に高い寸法安定性が要求される。以下、グランド
ピアノを例にとり、木製部品に、例えば反り、ねじれ、
膨張、収縮等といった形状変化が発生した場合の問題点
を列挙する。
【0004】図1はグランドピアノのアクション系(主
として打鍵による力が伝達されて打弦に至るまでの駆動
系をいう)の要部及びその周辺の構造を示す。これらの
各構造部品に形状変化が発生すると以下のような不具合
が発生する。
【0005】[ハンマーシャンク]ハンマーシャンク1
0にねじれが生じると、打弦点が変化して不協和音が大
きくなったり、あるいはハンマーフェルト11と弦の当
たりが不均一になり音質の低下をきたす。また、弦水平
(3本の弦にハンマーが同時に当たること)が保たれな
くなり、同時打弦ができず、音質が低下する。この音質
の低下は、例えば音量が出ない、音が伸びない、雑音が
発生する等の現象となって現れる。また、ハンマーシャ
ンク10が吸湿により膨張すると、ハンマーシャンクフ
レンジ20と係合するために設けられた切り込みの幅が
狭くなり、ハンマーシャンクフレンジ20との摩擦が大
きくなる。同様に、ハンマーシャンク10が膨張すると
センターピン12を通す孔の径が小さくなり、センター
ピン12との摩擦が大きくなるので、演奏が正常にでき
なくなる。尚、センターピン12は、ハンマーシャンク
10をハンマーシャンクフレンジ20に回動自在に連結
するために使用される。
【0006】[鍵盤]鍵盤13がねじれたり膨張するこ
とにより隣の鍵盤に接触し、演奏が正常にできなくな
る。また、鍵盤13が膨張すると鍵盤13に設けられた
フロントピンさし込み孔14、バランスピンさし込み孔
15の径が小さくなり、摩擦が増加することによって耐
久性が低下する。
【0007】[筬]筬16はアクション系を構成する各
部品を載せる約1.4m×0.6m程度の大きさの台座
である。この筬16に反りやねじれが生じると以下のよ
うな不具合が生じる。先ず、筬16と棚板17との間に
隙間ができると、打鍵時にノイズが発生する原因とな
る。また、ソステヌートペダル使用時にアクション系の
円滑な移動ができず、雑音(きしみ)の原因となる。ま
た、アクション系と棚板17との間に隙間ができると、
バランスピン15と鍵盤13の間に隙間が生じ、打弦力
が低下する。更に、アクション系が堅固に固定されなく
なる結果、整調が狂いやすくなり、タッチ性能が低下す
る。
【0008】[ハンマーウッド]ハンマーウッド18に
反りやねじれが生じると、打鍵時にハンマーウッド18
のテール部分にバックチェックが触れ、連打性の低下や
打弦力の低下の原因となる。
【0009】[棚板]棚板17に反りやねじれが発生す
ると、筬16と棚板17との間に隙間が発生し、打鍵時
にノイズが発生する原因となる。また、バランスピン1
5と鍵盤13との間に隙間が発生し、打弦力が低下す
る。更に、アクション系が堅固に固定されなくなる結
果、整調が狂いやすくなる。
【0010】[下口棒]下口棒19に反りが発生する
と、鍵盤13と下口棒19とが接触してスティックの原
因となる。
【0011】[ピン板]ピン板(図示しない)はチュー
ニングピンを保持するために使用される。このピン板が
吸湿による膨張の後に収縮すると、チューニングピン孔
の径が小さくなった後に元の径よりも大きくなる。その
結果、チューニングピンの保持力、つまりピントルクが
低下しチューニングが狂い易くなる。また、チューニン
グ時にきしむという不具合が発生する。
【0012】[響板、響棒、長駒、短駒:響板、響棒、
長駒、短駒]これら(何れも図示しない)が乾燥によっ
て収縮する結果、ムクリ(駒が固着されている側の面に
響板が盛り上がっていること)が減少し、音に張りがな
くなる。また、乾燥による収縮によって響板が割れる等
の現象が発生し、雑音の原因となる。
【0013】[大屋根、側板、鍵盤蓋、譜面台等:大屋
根、側板、鍵盤蓋、譜面台]これら(何れも図示しな
い)のピアノの外観を形成する木製部品に反りやねじれ
が生じると、艶出し仕上げされた塗装面にダク(光の反
射によって生ずる像が反射面の凹凸によって歪むこと)
が発生する。また、例えば大屋根のように広い面積が必
要とされる木製部品は、所定の大きさに切断された木材
片を横矧ぎ(幅矧ぎ加工の一種)し、これを所定の形状
に切断し、更に塗装して作製される。この横矧ぎによっ
て作製された木製部品は、吸湿に伴う膨張又は乾燥に伴
う収縮によって塗装面に「めのり」(木材片の接合部分
に凹凸が発生すること)が発生する。これらダクやめの
りが発生すると楽器の外観品質が低下し、その商品価値
が著しく損なわれる。
【0014】[その他]上述した以外の木製部品、例え
ばアクション系の一部であるレギュレーティングレー
ル、ハンマーレール、ダンパーヘッド、ジャック等に反
りやねじれが発生すると、整調が狂いやすくなる。ま
た、アクション系以外の木製部品に反りやねじれが発生
した場合にも、音質低下、操作性の低下等の原因とな
る。
【0015】以上はグランドピアノの場合の問題点であ
るが、アップライトピアノでも略同様の問題が発生す
る。更に、ギター(例えばアコースティックギター、電
気ギター等)や木管楽器(例えばリコーダー、クラリネ
ット、オーボエ等)においても同様の問題が発生する。
ギターの場合は、特に棹が反りやすく、この棹が反ると
ピッチが狂いやすくなる。また、木管楽器の場合には、
木製部品に反り、ねじれ、膨張、収縮等といった形状変
化が発生すると、楽器の接合部分が緩やかになったり、
きつくなったりして取り扱いに不便になると共に、音質
やピッチが変化してしまい、甚だしい場合には楽器とし
て機能しなくなる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】ところで、木材の形状
変化を抑えて高い寸法安定性を付与するための一般的な
技術として、例えば、フェノール樹脂処理、アセチル化
処理、ホルマール化処理、ポリエチレングリコール処
理、クリオキザール樹脂処理、エーテル化処理等の化学
処理方法が知られている。
【0017】この中でも、特にホルマール化処理は、A
SEによる寸法安定化度82〜87%程度であり、最も
高い寸法安定性が得られるとされているが、毒性が高
く、処理材が脆くなる等の欠点があるので、実用化は困
難である。その他の方法でも、木材の変色防止、薬品の
毒性の除去、廃液の処理方法等の問題を解決しなければ
ならない。また、例えばピアノの響板等のような長尺材
を処理するには、従来の方法では、非常に大きな設備を
必要とするという問題がある。尚、ASE(抗膨潤(収
縮)能: antiswelling efficiency, antishrink effic
iency)は下式で定義される。ここで、VCは無処理材の
容積膨潤(収縮)率であり、VTは処理材の容積膨潤
(収縮)率である。 ASE=(VC−VT)/VC
【0018】本発明は、上述したような従来の木材を素
材とする楽器における問題点を解消するためになされた
ものであり、寸法安定性に優れた楽器用木材、楽器用木
製部品及び木製楽器を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明の楽器用木材、楽
器用木製部品及び木製楽器は、上記の目的を達成するた
めに、木材にアゼライン酸又はその化合物を含浸させた
ことを特徴とする。尚、以下、アゼライン酸又はその化
合物を含浸させる処理を、単にアゼライン酸処理と呼ぶ
場合がある。
【0020】本発明の楽器用木材は、木材にアゼライン
酸処理を施すことによって製造することができるし、原
木にアゼライン酸処理を施した後、原木を加工すること
によって製造することもできる。また、本発明の楽器用
木材は、アゼライン酸処理を施した木材を積層・集積し
て製造することができるし、あるいは又、木材を積層・
集積した後にアゼライン酸処理を施すことによって製造
することもできる。
【0021】本発明の楽器用木製部品及び木製楽器は、
このようにして製造された楽器用木材を加工して作製す
ることができる。また、予め木材を加工して楽器用木製
部品又は木製楽器を作製し、その後、これらにアゼライ
ン酸処理を施すことによって、本発明の楽器用木製部品
又は木製楽器を作製することができる。更には、木材に
加工(切断)する前の原木の状態でアゼライン酸処理を
施し、その後、原木を加工(切断)して作業に適した大
きさの木材を製造し、これを加工して最終製品たるアゼ
ライン酸処理が施された本発明の楽器用木製部品又は木
製楽器を作製することもできる。
【0022】本発明の楽器用木製部品には、単体の楽器
用木製部品及び組み立てられた楽器用木製部品が含まれ
る。尚、組み立てられた楽器用木製部品は複数の部品か
ら成り、これらの複数の部品には、1つ以上のアゼライ
ン酸処理された単体の楽器用木製部品が含まれている。
【0023】また、本発明の木製楽器には、単体の木製
楽器及び複数の部品から成る木製楽器が含まれる。ここ
で、複数の部品から成る木製楽器とは、アゼライン酸処
理された1つ以上の単体の楽器用木製部品又は上記の組
み立てられた楽器用木製部品が含まれた楽器を意味す
る。
【0024】尚、本発明の楽器用木製部品及び木製楽器
には、更にそれらの表面に被膜を形成することができ
る。被膜は、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹
脂等といった塗料で表面を塗装・乾燥し、以て塗膜を形
成することにより形成することができる。この場合、ポ
リウレタン樹脂の塗料で下塗りを行い、更にポリエステ
ル樹脂の塗料で上塗りを行って被膜を形成することもで
きる。また、被膜は、プラスティックの薄膜を表面に積
層することによって形成することができる。
【0025】アゼライン酸は、木材を構成する細胞壁及
び細胞内腔の壁面を包囲しそして付着・残存する形態
で、木材内に存在する。木材を構成するセルロースとア
ゼライン酸との結び付き方として、以下の2つが考えら
れている。即ち、分子量の比較的大きい疏水性のアゼラ
イン酸分子が、セルロースの水酸基と結合することなく
木材中に導入される。あるいは又、アゼライン酸は、ア
ゼライン酸中のカルボキシル基(−COOH)と木材の
水酸基(−OH)とがエステル化することにより、木材
中に導入される。
【0026】何れの場合においても、アゼライン酸分子
が木材中に導入されることによって、セルロースとセル
ロースとの間が膨潤状態(アゼライン酸がセルロースと
セルロースとの間に入ることによって膨らんだ状態)と
なり、水分子が木材中に入ってきても、それ以上は木材
の体積が変化しない、所謂バルキング効果が生じる。こ
れによって、アゼライン酸による処理を施した木材の湿
度変化による膨張・収縮は極めて小さくなり、木材に高
い寸法安定性を付与することができる。
【0027】以上のようなアゼライン酸が含浸された木
材は寸法安定性に優れているので、加工精度の向上、耐
久性の向上、経時変化の防止等を図ることができる。ま
た、アゼライン酸処理を木材に施すことにより、楽器用
木材、楽器用木製部品及び木製楽器の寸法安定性が向上
し、加工精度の向上、耐久性の向上、経時変化の防止等
を図ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】最近、木材に対してアゼライン酸
による処理を施すことによって高い寸法安定性を得るこ
とのできる技術が、奈良県林業試験場で開発された(平
成7年7月3日に報道関係に発表、平成7年7月5日付
け日経産業新聞掲載)。この技術によれば、吸湿による
寸法変化は殆ど0%(寸法安定化度100%)を達成で
き、また、吸水による寸法変化も無処理材の9〜15%
(寸法安定化度85〜91%)に抑えることができると
されている。尚、寸法安定化度はASEで評価したもの
であり、以下においても同じである。本発明において
は、アゼライン酸による処理技術を楽器用木材、楽器用
木製部品及び木製楽器に適用する。以下、本発明の楽器
用木材、楽器用木製部品及び木製楽器の一実施の形態に
ついて説明する。
【0029】[楽器用木材、楽器用木製部品又は木製楽
器の作製工程]先ず、原木を切断して作業に適した大き
さの木材を製造する。例えばピアノに使用される樹種と
して、ブナ、カエデ、スプルス、エゾ松、ニレ、マト
ア、カバ、ラワン、シデ、マホガニー、ヘムロック、カ
ロフィルム、メープル、バースウッド等が挙げられる。
また、ギターに使用される樹種として、スプルス、ベイ
スギ、ドイツトウヒ、マホガニー、ローズ、オバンコー
ル、黒檀、ニァド等が挙げられる。次いで、この木材
に、以下に説明するアゼライン酸処理を施して楽器用木
材を作製する。その後、この楽器用木材を加工し、最終
製品たるアゼライン酸処理が施された楽器用木製部品又
は木製楽器を作製する。
【0030】[アゼライン酸処理の方法]アゼライン酸
とはジカルボン酸の一種であり、HOOC(CH27
COOH(分子量188)という構造を有している。こ
のアゼライン酸は毒性が無く且つ安価である。このアゼ
ライン酸は水に殆ど溶けないので、エタノールと水と
を、例えば1:1の比率で混合して溶媒として用いる。
水を混合する目的は、コストの低減、安全性の確保(引
火の防止)等を達成することにある。また、水が混合さ
れていた方がASEが若干向上する。そして、この溶媒
にアゼライン酸を15〜20%程度混合して、アゼライ
ン酸溶液を調製する。
【0031】このようにして調製されたアゼライン酸溶
液を木材に含浸させる。含浸には、例えば加減圧注入装
置を用いてアゼライン酸溶液を木材中に注入する方法を
用いることができる。即ち、加減圧注入装置に木材を入
れ、2時間程度かけて減圧する。この減圧においては、
減圧によって木材組織が破壊されない範囲内の任意の圧
力、例えば通常のロータリーポンプにより達成できる程
度の真空度とすることができる。尚、減圧時間及び減圧
圧力は、樹種や木材の外形寸法によって適宜変更すれば
よい。
【0032】次いで、アゼライン酸溶液を加減圧注入装
置に注入し、木材をアゼライン酸溶液に浸す。この状態
で、15〜20kgf/cm2 程度の圧力を1時間程度
加える。この加圧時間及び加圧圧力は、樹種や木材の外
形寸法によって適宜変更すればよい。尚、木材にアゼラ
イン酸溶液を含浸させる方法としては、加減圧注入装置
を用いる方法に限らず、その他の周知の何如なる方法を
も用いることができる。例えば、木材に穴を開けてアゼ
ライン酸溶液の浸透させる方法を用いることができる。
この木材に穴を開ける技術としては、微生物を用いる方
法、木材を蒸煮する方法、木材の表面に傷をつけるイン
サイジング方法、レーザーインサイジング法等を用いる
ことができる。尚、以上のような減圧加圧法の他に、常
圧法、減圧法あるいは加圧法に基づきアゼライン酸処理
を行ってもよい。
【0033】以上のようにしてアゼライン酸溶液が注入
された木材を、例えば防爆オーブンを用いて乾燥する。
乾燥手順は、例えば、60°Cの温風で24時間、10
0°Cの温風で8時間、150°Cの温風で1時間程度
とすることが好ましい。乾燥条件はこれに限定されな
い。尚、乾燥時間及び乾燥温度も樹種や外形寸法によっ
て適宜変更すればよい。このようにしてアゼライン酸処
理が施された木材は膨潤状態に保たれ、バルキング効果
により吸湿による寸法変化は殆ど0%(寸法安定化度約
100%)に保たれる。
【0034】尚、アゼライン酸自体ではなく、アゼライ
ン酸の化合物を含浸させて楽器用木材、楽器用木製部品
又は木製楽器を作ることができる。カルボキシル基(−
COOH)は反応性が高いので、例えば、アゼライン酸
を銅、亜鉛等といった金属イオンと反応させることによ
り、防腐効果を高めることができる。また、アゼライン
酸塩化物あるいは臭化物を含浸させることにより難燃性
の楽器用木材、楽器用木製部品又は木製楽器を作ること
ができる。
【0035】以上に説明したアゼライン酸処理の条件や
乾燥条件は例示であり、アゼライン酸処理を行うべき対
象物の形態・形状、組成や、どの工程でアゼライン酸処
理を行うかに依存して、適宜決定すればよい。アゼライ
ン酸処理を行う対象物にも依存するが、場合によって
は、アゼライン酸溶液を刷毛、ロールコーターやスプレ
ーを用いて対象物に塗布してもよい。
【0036】以下に、アゼライン酸処理を施すことによ
り顕著な効果が得られる楽器用木製部品又は木製楽器を
列挙する。
【0037】(1)グランドピアノ:グランドピアノの
大部分は木製部品で構成されている。以下に、アゼライ
ン酸処理の対象とすることにより顕著な効果が得られる
グランドピアノに関する木製部品を例示する。
【0038】(1−1)アクション系・・・レギュレー
ティングレール、ハンマーレール、ダンパーヘッド、ハ
ンマーウッド、ハンマーシャンク、ハンマーシャンクフ
レンジ、ジャック、ウィペン、レペティションレバー、
ダンパーレバー、ダンパーワイヤーガイドホルダー
【0039】(1−2)バック系・・・積揚、奥框、支
柱、助響、ピン板、響板、響棒、長駒、短駒、短駒座
板、短駒脚、棚板、下口棒、側板、側左右板
【0040】(1−3)鍵盤・・・筬、鍵盤、鍵盤中座
板・先座板、鍵盤押え、鍵盤蓋、拍子木
【0041】(1−4)ペダル・・・ペダル桁、ペダル
柱、ペダル笠木、ペダル箱
【0042】(1−5)ケース・・・脚、脚持、脚持
座、脚笠木、ペダル持、大屋根突揚棒、屋根前、屋根
後、上口棒
【0043】(1−6)付属品・・・譜面台
【0044】(2)アップライトピアノ:アップライト
ピアノの大部分も木製部品で構成されている。以下に、
アゼライン酸処理の対象とすることにより顕著な効果が
得られるアップライトピアノに関する木製部品を例示す
る。
【0045】(2−1)アクション系・・・レギュレー
ティングレール、ジャックストップレール、ダンパーレ
ール、ハンマーシャンク、キャッチャーシャンク、ハン
マーウッド
【0046】(2−2)バック系・・・支柱、桁貼、手
掛、響板、響棒、助響棧、長駒、短駒、短駒座板、短駒
脚、ピン板、ピンブッシュ、棚板、口棒
【0047】(2−3)鍵盤・・・筬、鍵盤、鍵盤中座
板・先座板、鍵盤蓋
【0048】(2−4)ケース・・・屋根前、屋根後、
下屋根、上前板、下前板、親板、腕木、棚受柱、前土
台、妻土台、桁貼
【0049】(2−5)付属品・・・譜面台
【0050】ギターの大部分も木製部品で構成されてい
る。以下に、アゼライン酸処理の対象とすることにより
顕著な効果が得られるギターに関する木製部品を例示す
る。更には、アゼライン酸処理の対象とすることにより
顕著な効果が得られる木製楽器を例示する。
【0051】(3)ギター・・・表板、裏板、駒、棹等
【0052】(4)その他の木製楽器:リコーダー、ク
ラリネット、オーボエ等といった木管楽器、オルガン
(譜面台、上屋根、捲屋根、側板、拍子木、鍵盤、口
棒、バッフル板、下前板、底板、空気箱等)、三味線
(さお、胴、糸巻、ばち等)、琴、拍子木、太鼓(胴、
ばち等)、バイオリン、マンドリン、ハーモニカ、キャ
ビネット等
【0053】
【実施例】以下、樹種としてスプルスを選び、このスプ
ルス材にアゼライン酸処理を施し、更に塗装して作製し
たサンプルについて、寸法安定性試験(表面形状の変化
の測定)を行った。測定は、加湿前と加湿後の2回行っ
た。
【0054】この試験のために、先ず、スプルスの原木
を切断し、図2に示すように、長さ300mm×幅20
mm×厚さ10mmの大きさの柾目の木材(以下、木材
片と呼ぶ)を10個作製した。各木材片は、同一の原木
から作製した。これは、原木が異なることに起因する寸
法安定性の違いを排除し、アゼライン酸処理による効果
のみを調べるためである。
【0055】次いで、実施例として、これらの木材片の
うち、5個の木材片にアゼライン酸処理を施した。この
処理に使用したアゼライン酸溶液は、エタノールと水と
を体積比8:2の比率で混合した溶媒に、アゼライン酸
を20%混合して調製した。次いで、このアゼライン酸
溶液を木材片に含浸させた。含浸は次の手順で行った。
先ず、加減圧注入装置に木材片を入れ、2時間かけて約
30mmHg以下まで減圧した。次いでアゼライン酸溶
液を加減圧装置に注入し、この状態で0.98HPaの
圧力を2時間加えた。次いで、以上のようにしてアゼラ
イン酸溶液が含浸された木材片を、防爆オーブンを用い
て乾燥させた。乾燥は、50°Cの温風で24時間、7
0°Cの温風で8時間、105°Cの温風で4時間行っ
た。
【0056】実施例として、上記のようにしてアゼライ
ン酸処理を施した5個の木材片を、図2に示すように横
矧ぎし、1つの試験用板材(以下、アゼライン酸処理材
と呼ぶ)を作製した。また、このアゼライン酸処理材と
比較するために、比較例として、アゼライン酸処理を施
さない残りの5個の木材片を横矧ぎして同様の試験用板
材(以下、無処理材と呼ぶ)を作製した。
【0057】次いで、アゼライン酸処理材及び無処理材
(以下、試料と総称する)のそれぞれの片面(図2中の
斜線を施した面)に塗装を施した。尚、通常、塗装面を
滑らかにするために、バッカーと呼ばれる薄い板を積層
した後に塗装を行うが、この測定では、めのりの大きさ
を正確に測定するためにバッカーは積層しなかった。塗
装は、従来の響板の塗装と同様に以下の〜の手順で
行った。 素地調整:試料をペーパーで磨き、小さな凹凸を平ら
にした。 目止め:試料の導管を埋めて平らにした。 下塗り:ポリエステルサフェーサーを厚く塗布した。 下研ぎ:ポリエステルサフェーサーを平らに研磨して
表面の凹凸を消した。 上塗り:ポリエステル樹脂塗料を吹付け、室内で24
時間放置して乾燥させた。 上研ぎ:上塗りにより形成されたポリエステル樹脂塗
料の塗膜を細かいペーパーで平らに研磨した。 仕上げ:上研ぎされた上記塗膜をバフで研磨して艶出
しを行い、更に室内で24時間放置した。尚、室内での
放置は、試料の概ね全体が空気に曝され、且つ試料が略
水平になるように置くことにより行った。
【0058】次に、上記のようにして作製された各試料
の反り量を塗装面で測定した。この測定には、表面粗さ
測定器を用いた。この表面粗さ測定器は、レコード針の
ように被測定物の表面をトレースすることにより、ミク
ロンオーダーの精度で表面形状を測定することができる
測定器である。測定位置として、図3の破線で示すよう
に、各試料について、L方向に50mmおきに5箇所
(無処理材はA〜E、アゼライン酸処理材はF〜Jの記
号で示す)を選んだ。
【0059】測定結果を図5に示す。図5の(A)は無
処理材、図5の(B)はアゼライン酸処理材の各測定結
果である。尚、図5において、横軸はR方向位置を、縦
軸は反り量を示している。縦軸の反り量は、各測定位置
の両端(図3の破線の両端)を基準(反り量=0)と
し、上反り方向を「−」、下反り方向を「+」としてい
る。従って、図4に示すように、塗装面が下側に向かっ
て反った状態では、反り量は正の数で表される。以下の
図6及び図7においても同じである。図5に示すよう
に、塗装後の2日間の室内放置で、既に、無処理材で最
大400μm程度、アゼライン酸処理材で最大300μ
m程度の反りが観察された。
【0060】以上の測定が終了した後、試料を、更に室
内で8日間放置した。その後、20°C、92%RHの
条件の恒温恒湿槽内で試料を略水平に6日間放置した。
6日間としたのは、この程度の時間で反り量が飽和する
と考えられるからである。そして、この加湿後(6日間
放置後)の各試料の反り量を測定した。測定は、上記と
同じ表面粗さ測定器を用いて行った。測定結果を図6に
示す。図6の(A)は無処理材、図6の(B)はアゼラ
イン酸処理材の各測定結果である。図6に示すように、
20°C、92%RHの条件下における6日間の加湿
で、無処理材では最大2000μm程度、アゼライン酸
処理材では最大300μm程度の反りが観察された。
【0061】図7は加湿前後の試料の反り量の差を示
す。図7の(A)は無処理材、図7の(B)はアゼライ
ン酸処理材の各反り量の差を示す。図7から明らかなよ
うに、20°C、92%RHの条件下で6日間加湿する
と、図5の(A)及び(B)に示した状態を初期状態と
した場合、無処理材では最大1400μm程度の反りが
発生するが、アゼライン酸処理材では最大300μm程
度の反りしか発生しないことが判る。以上の測定結果か
ら、アゼライン酸処理を施すことによって、加湿による
木材の反りを大幅に抑制できることが判る。
【0062】図8は、上記表面粗さ測定器で測定した加
湿後の各試料の表面粗さを表している。図8の(A)は
無処理材、図8の(B)はアゼライン酸処理材の各表面
粗さを示す。表面粗さの測定は、各測定位置のR方向の
全範囲を高い精度で測定することが困難なため、2つの
試料で、最もめのりが大きいと目視で観察された一部の
範囲について行った。これらの図に示すように、20°
C、92%RHの加湿により、無処理材で約1.5μ
m、アゼライン酸処理材で約0.5μmのめのりによる
段差が観察された。以上の測定結果からも、アゼライン
酸処理を施すことによって、めのりの量を小さくできる
ことが判る。
【0063】以上のように、アゼライン酸処理を施した
木材は寸法安定性に優れており、楽器用木製部品や木製
楽器の形状変化を抑えることができると共に、塗装のダ
クやめのりを大幅に低減させることができる。従って、
アゼライン酸処理を施した木製部品を使用してグランド
ピアノ、アップライトピアノ、ギター、その他の木製楽
器を作製すれば、上述した種々の問題点を解消すること
ができる。
【0064】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
アゼライン酸処理を施すことにより、寸法安定性に優れ
ると共に、加工精度の向上、耐久性の向上、経時変化の
防止、外観品質の低下防止等を図ることができる楽器用
木材、楽器用木製部品及び木製楽器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のグランドピアノ及び本発明の一実施の形
態に係るグランドピアノのアクション系の要部及びその
周辺の構造を示す図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例における試料を作製
する工程を示す図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例における測定位置を
説明するための図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例における反り量を説
明するための図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例における加湿前の試
料の反り量の測定結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例における加湿後の試
料の反り量の測定結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例における加湿前後の
試料の反り量の差を示す図である。
【図8】本発明の実施例及び比較例における加湿後の各
試料の表面粗さの測定結果を示す図である。
【符号の説明】
10 ハンマーシャンク 11 ハンマーフェルト 12 センターピン 13 鍵盤 14 フロントピン 15 バランスピン 16 筬 17 棚板 18 ハンマーウッド 19 下口棒 20 ハンマーシャンクフレンジ

Claims (19)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】アゼライン酸と金属イオンとの反応によっ
    て得られたアゼライン酸化合物を含浸させたことによっ
    て防腐効果を高めたことを特徴とする楽器用木材。
  2. 【請求項2】金属イオンは銅イオンであることを特徴と
    する請求項1に記載の楽器用木材。
  3. 【請求項3】金属イオンは亜鉛イオンであることを特徴
    とする請求項1に記載の楽器用木材。
  4. 【請求項4】 アゼライン酸と金属イオンとの反応によっ
    て得られたアゼライン酸化合物を含浸させたことによっ
    て防腐効果を高めたことを特徴とする楽器用木製部品。
  5. 【請求項5】金属イオンは銅イオンであることを特徴と
    する請求項4に記載の楽器用木製部品。
  6. 【請求項6】金属イオンは亜鉛イオンであることを特徴
    とする請求項4に記載の楽器用木製部品。
  7. 【請求項7】 表面に被膜が形成されていることを特徴と
    する請求項4に記載の楽器用木製部品。
  8. 【請求項8】 アゼライン酸と金属イオンとの反応によっ
    て得られたアゼライン酸化合物を含浸させたことによっ
    て防腐効果を高めたことを特徴とする木製楽器。
  9. 【請求項9】金属イオンは銅イオンであることを特徴と
    する請求項8に記載の木製楽器。
  10. 【請求項10】金属イオンは亜鉛イオンであることを特
    徴とする請求項8に記載の木製楽器。
  11. 【請求項11】 表面に被膜が形成されていることを特徴
    とする請求項8に記載の木製楽器。
  12. 【請求項12】アゼライン酸塩化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有することを特徴とする楽器用木材。
  13. 【請求項13】アゼライン酸臭化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有す ることを特徴とする楽器用木材。
  14. 【請求項14】アゼライン酸塩化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有することを特徴とする楽器用木製部
    品。
  15. 【請求項15】アゼライン酸臭化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有することを特徴とする楽器用木製部
    品。
  16. 【請求項16】表面に被膜が形成されていることを特徴
    とする請求項14又は請求項15に記載の楽器用木製部
    品。
  17. 【請求項17】アゼライン酸塩化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有することを特徴とする木製楽器。
  18. 【請求項18】アゼライン酸臭化物を含浸させたことに
    よって難燃性を有することを特徴とする木製楽器。
  19. 【請求項19】表面に被膜が形成されていることを特徴
    とする請求項17又は請求項18に記載の木製楽器。
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