JP4677624B2 - 小麦ふすま、大麦糠、米糠からの新規血圧降下ペプチドとその製造方法 - Google Patents
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Description
これに応じて、各食品メーカーは、食品廃棄物からメタンガス、液肥、化粧品、食品添加剤、機能性食品等、商品性のある素材の生産に着手している。
小麦ふすまや米糠は、一次加工の副産物であり、ふすまは年間およそ130万トン、米糠は80〜90万トンもの生産量がある。
これらは家畜飼料、米油、キノコの苗床等の利用に留まり、多くは廃棄されることから、有効な利用法の開発が求められている。
最近、ホールグレイン(全粒穀物)の価値が見直され、従来は廃棄の対象であったふすまや糠の部分を含む全粒穀物が食材として注目されるようになった。その背景には胚芽や種皮に含まれる機能性因子の摂取による生活習慣病の予防効果への期待がある。
血圧の調節において、重要な役割を果たしている酵素の一つはアンジオテンシンI変換酵素(ACE)である。血圧の調節系は、昇圧に関するレニン・アンジオテンシン系と降圧に関するカリクレイン・キニン系とが重要な役割を果たしている。昇圧に関するレニン・アンジオテンシン系では、肝臓から分泌されるアンジオテンシノーゲンが腎臓で生成されるレニンによって、アンジオテンシンIとなり、更に「アンジオテンシンI変換酵素」により、アンジオテンシンIIに変換される。アンジオテンシンIIは、血管を収縮させ、血圧を上昇させる。降圧に関するカリクレイン・キニン系では、カリクレインがキニノーゲンに作用して生成されるブラジキニンが、血管を弛緩させて血圧を下降させる。「アンジオテンシンI変換酵素」は、ブラジキニンを分解する活性も有する。
従って、「アンジオテンシンI変換酵素」の酵素活性を抑制もしくは阻害することによって血圧の上昇を抑制し、さらには血圧を降下させることが可能となる。
アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを分離精製することのできる食用タンパク質としては、魚肉であるイワシ(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)、カツオ(例えば、特許文献2および非特許文献2,3参照)およびツナ(例えば、非特許文献4参照)、乳タンパク質であるカゼイン(例えば、特許文献3および非特許文献5参照)およびラクトグロブリン(例えば、特許文献4および非特許文献6参照)、さらに穀類である、トウモロコシタンパク質(例えば、非特許文献7参照)、ソバ全粒粉(例えば、非特許文献8参照)、小麦胚芽(例えば、非特許文献9参照)、大豆タンパク質(例えば、非特許文献10参照)を挙げることができる。
上記食用タンパク質から分離精製されたペプチドのうち、ラクトペプチド、カゼインペプチド、イワシペプチド、カツオ節ペプチドは、特定保健用食品に登録され、健康食品として販売されている。
これらの酵素剤は、いずれも極めて高価であるため、大量製造や商品化の上での大きな障害になっている。
また、魚肉から製造する場合、臭気成分、色素成分、タンパク質など夾雑成分が多量に存在するため、精製効率が悪く、また、これら夾雑物の除去に大量の精製材料を必要とし、劣化も早いため、製造コストも悪い。なお、前記特定保健用食品で市販されているイワシペプチド(バリルチロシン(Val−Tyr))の濃度は、約1mg/gタンパク質であり、高純度とは言いがたい精製度である。さらに、日本近海において、マイワシは殆ど漁獲されず、カタクチイワシ、ウルメイワシも漁獲が減少し、値段が高騰している。世界的にも水産資源の消費が増加しつつあり、遠洋のカツオ、ツナなど水産資源は高騰しつつある。
さらに、上記の方法のいずれにおいても、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性が顕著に高いポリペプチド複数種類を有するものを製造することはできない。
次に、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、プロテアーゼやアミラーゼを添加することなく、しかも人体に有害な物質を添加することなく、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを製造しうる方法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを、経済的、且つ効率よく製造しうる方法を提供することを目的とするものである。
次に、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、プロテアーゼやアミラーゼを添加することなく、しかも人体に有害な物質を添加することなく、血圧降下機能を有するポリペプチドを製造しうる方法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、血圧降下機能を有するポリペプチドを、経済的、且つ効率よく製造しうる方法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明者は、前記方法により、小麦ふすま、大麦糠、米糠の貯蔵タンパク質由来の7種類のアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドが得られることを見出し、しかもその中に新規のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドである、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドが存在していることを見出した。
また、本発明者は、前記ポリペプチドが、血圧降下機能を有することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
請求項2に係る本発明は、前記小麦種子粉末が、澱粉貯蔵部を含まない小麦ふすま粉末である、請求項1に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、前記添加混合前に、ヘキサンを用いて前記粉末原料を脱脂処理する、請求項1又は2に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、前記粉末原料として、予め水又は緩衝液からなる洗浄液に添加混合し、当該添加混合後の洗浄液のpHを3.0〜7.0とし、0〜28℃の温度で5〜30分間浸漬した後に上清を除去したものを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、前記反応後、得られた反応液を、ODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィにより精製処理する、請求項1〜4のいずれかに記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、請求項5に記載のODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィによる精製処理において、前記反応液をODSカラムに通液し吸着させた後、10〜25%エタノールもしくは10〜25%アセトニトリルで溶出し回収する、請求項5に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法を提供するものである。
次に、本発明によれば、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、プロテアーゼやアミラーゼを添加することなく、しかも人体に有害な物質を添加することなく、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを製造しうる方法が提供される。
さらに、本発明によれば、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有する複数種類のポリペプチドを、経済的、且つ効率よく製造しうる方法が提供される。
次に、本発明によれば、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、プロテアーゼやアミラーゼを添加することなく、しかも人体に有害な物質を添加することなく、血圧降下機能を有するポリペプチドを製造しうる方法が提供される。
さらに、本発明によれば、小麦ふすま、大麦糠、米糠から、血圧降下機能を有する複数種類のポリペプチドを、経済的、且つ効率よく製造しうる方法が提供される。
本発明において、「アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチド」とは、アンジオテンシンI変換酵素の活性を、阻害もしくは抑制する機能を有するポリペプチドを指す。
当該ポリペプチドは、「アンジオテンシンI変換酵素」の酵素活性を、抑制もしくは阻害することによって、アンジオテンシンIから血圧を上昇させるアンジオテンシンIIへの変換および血圧を下降させるブラジキニンの分解を抑制し、血圧の上昇を抑制し、最終的に「血圧を降下させる機能」を有するポリペプチドである。
上記のうち、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドは、これまでに報告のない、新規のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドであり、血圧降下機能を有するポリペプチドである。
本発明の血圧降下機能を有するポリペプチドにおいて、「血圧降下機能を有する」とは、IC50の値が、1.0(mg/mL)以下、好ましく0.5(mg/mL)以下のものを指す。
本発明におけるIC50の値とは、アンジオテンシンI変換酵素の活性を50%阻害した時のサンプルの終濃度(mg/mL)の値であり、値が低いほど阻害活性の力価が高いことを示している。
なお、前記IC50の値が1mg/mLより高い場合、成分を精製しても力価の上昇が期待できないため、好ましくない。
Liberman変法では、疑似基質としてHip−His−Leu(HHL)を用い、アンジオテンシンI変換酵素によりHip−His−Leuから馬尿酸(N-benzoylglicine)を遊離させ、次いで、遊離した馬尿酸を酢酸エチルで抽出し、228nmの吸光度を測定することで、遊離した馬尿酸の量を測定する。この反応において、阻害活性を測定したいサンプルを含有させておくと、サンプルが阻害活性を有する場合には、馬尿酸の遊離量が減少し、測定される228nmの吸光度も減少する。
当該方法では、測定された228nmの吸光度の変化に基づいて、各サンプルの有するアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を求めることができる。具体的には、以下の式(1)を用いて求めることができる。
ここで、式(1)のアンジオテンシンI変換酵素の活性を50%阻害したときのサンプル終濃度がIC50値である。
具体的には、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなる新規トリペプチドを有効成分として含有するものと、このIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなる新規トリペプチドと、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Arg−Pro、Val−Tyr、Thr−Phe及びIle−Tyrからなる群より選ばれた1以上のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、を有効成分として含有するもの、とがある。
なお、アンジオテンシンI変換酵素阻害剤および血圧降下剤のIC50の値が1mg/mLより高い場合、精製しても力価の上昇が期待できないため、好ましくない。
また、Ile−Gln−Proをペプチド単体として投与する場合、90〜900mgで効果が期待される。
非経口投与は、例えば静注、直腸投与等が挙げられる。
一方、経口投与する場合の本発明におけるアンジオテンシンI変換酵素阻害剤および血圧降下剤の形状としては、特に限定されるものではないが、粉末状、砕粒状、顆粒状、カプセルに充填する形態の他、水やエタノールに分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態などとして用いることができる。
本発明におけるアンジオテンシンI変換酵素阻害剤の製造方法は、少なくとも小麦ふすまを含む小麦粉末、少なくとも大麦糠を含む大麦粉末、及び少なくとも米糠を含む米粉末よりなる群から選ばれた少なくも1種の粉末原料を、水又は緩衝液に添加混合し、添加混合後の水又は緩衝液のpHを3.05〜3.95とし、30〜45℃の温度で、少なくとも4時間以上反応させることを特徴とする。
本発明では、小麦ふすま、大麦糠、米糠を含む粉末原料を、水又は緩衝液に添加混合し、添加混合後の水又は緩衝液のpHを所定の範囲とし、所定の温度で所定の時間浸漬することによって、該原料自体に多量に含有される内在性のアスパラギン酸プロテアーゼ及びセリンプロテアーゼの活性によって原料中のタンパク質を分解し、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを製造する。
また、当該製造方法で得られるポリペプチドは、「血圧降下機能を有するポリペプチド」でもある。
本発明に用いることができる原料としては、少なくとも小麦ふすまを含む小麦粉末、少なくとも大麦糠を含む大麦粉末、及び少なくとも米糠を含む米粉末よりなる群から選ばれた少なくも1種の粉末を含むものであればよい。従って、本発明では、小麦、大麦、米の種子の全粒粉末も用いることもできるが、好ましくは、澱粉貯蔵部を含まない小麦ふすま、大麦糠、米糠を用いることが望ましい。
また、本発明に用いる原料としては、上記した小麦ふすま、大麦糠、米糠に加えて、トウモロコシ胚芽、蕎麦、ライ麦、デュラム小麦などを用いることも可能である。
また、小麦ふすまを調製するために用いる小麦の種類としては、ふくさやか、農林61号、ナンブコムギ、キタノカオリ、ハルユタカなどを挙げることができるが、具体的には、ふくさやか、農林61号を用いることが望ましい。
次に、本発明に用いる大麦糠とは、玄麦重量の20〜40搗精の部分をさす。また、大麦糠を調整するために用いる大麦の種類としては、二条大麦(スカイゴールデン、ニシノチカラ、タカホゴールデン、大系HP19)、六条大麦(中間母本農2、9551、マンテンボシ)などを挙げることができるが、具体的には、スカイゴールデン、中間母本農2、9551を用いることが望ましい。
また、米糠は、イネから籾殻を除いた玄米の主に胚芽、外胚乳、糊粉層の総称で、外側から赤糠(表皮と胚芽)、中糠、白糠となるが、本発明に用いる米糠としては、これら赤糠、中糠、白糠を用いることができる。本発明に用いる米糠を得るための米の種類としては、ヒノヒカリ、コシヒカリ、はいみのり、めばえもち、春陽、LGCソフトなどを挙げることができるが、具体的には、ヒノヒカリ、コシヒカリ、はいみのり、春陽、LGCソフトを用いることが望ましい。
また、本発明に用いる原料として、小麦の発芽種子を用いる場合、15〜40℃で3日間程度水に浸漬し発芽させ、発芽後、40〜50℃で一晩程度乾燥することによって調製することができる。
原料の粉末化は、公知技術のどのような方法で行うことができるが、ビューラーテストミル、ブラベンダーテストミル、堅型搗精機、小型精米機、研削式精米機、ブラシ式精米機、遠心ミル、粉砕機、石臼などを用いることができる。なお、粉末化していない原料を用いた場合、以下の工程における酵素分解の効率、抽出効率が減少するため、好ましくない。
当該粉末化(製粉)工程において、大ぶすまを製粉した後の残りの部分の種子から、小麦種子の全重量の約10%分を製粉し回収したものを、小ぶすまとして得ることができる。さらに、当該粉末化(製粉)工程において、小ぶすまを製粉した後の残りの部分の種子から、小麦種子の全重量の約10%分を製粉し回収したものを、末粉として得ることができる。具体的には、小ぶすまは、粒径120〜500μm、末粉は、20〜100μmの粉に粉砕される。
また、小麦種子の全粒粉を調製する場合は、遠心ミル、粉砕機、石臼などを用いることができる。例えば、小麦種子を粉砕機で破砕し、小麦の全粒粉を調製すると、560〜840μmの全粒粉が得られる。
一方、遠心ミルで粉砕すると、粒径100〜400μmの全粒粉が得られる。
一方、遠心ミルで粉砕すると、粒径100〜400μmの全粒粉が得られる。
一方、遠心ミルで粉砕すると、粒径100〜400μmの全粒粉が得られる。
次いで、ブフナ漏斗、濾紙、ミラクロス、遠心分離濾過機などを用いて濾過、好ましくはブフナ漏斗を用いて吸引濾過することで、脂質が溶出した前記無極性溶媒を分離除去し、得られた残渣を6〜18時間、10〜25℃程度の室温に放置し乾燥させる。なお、乾燥処理は、通風乾燥、窒素気流乾燥、減圧乾燥などの方法により行うこともできる。
乾燥後に得られる脱脂された粉末原料は、前記無極性溶媒が完全に揮発されていることが望ましい。
本原料洗浄処理工程においては、まず、前記粉末原料の全質量に対して、10〜50質量部の水又は緩衝液を加えて混合後、添加混合後の水又は緩衝液のpH値を3.0〜7.0、好ましくは3.2〜6.9とし、温度を0〜28℃程度、好ましくは4〜28℃程度で、5〜30分間、好ましくは10分間程度浸漬し、原料から可溶性タンパク質および色素成分を溶出させる。
本工程を経ることによって、例えば、小麦ふすま、大麦糠を原料に用いた場合、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するペプチド配列を含むグリアジン(プロラミンタイプのタンパク質の一種)以外の酸性又は中性溶液に可溶なタンパク質および色素成分を溶出除去することができる。
なお、本工程における「浸漬」とは、原料と水又は緩衝液とを混合後、静置、振盪、撹拌することを指す。好ましくは、100〜200rpmで振盪することで、より洗浄効率を高めることができる。
また、添加混合後の水又は緩衝液の温度が0℃より低い場合、可溶性タンパク質の溶解度が低下するので好ましくない。また、添加混合後の温度が30℃より高い場合、酵素反応が進みグリアジンの分解速度が高まるので好ましくない。
さらに、添加混合後の浸漬時間が30分より長い場合、グリアジンの分解量が増加するので好ましくない。添加混合後の浸漬時間が5分より短い場合、可溶性タンパク質が十分に溶解しないので好ましくない。
また、当該洗浄液は、緩衝液であることが望ましく、例えば、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸−リン酸カリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、トリス−HCl緩衝液、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝溶液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝溶液、乳酸−乳酸ナトリウム緩衝溶液、リン酸緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、ギ酸−リン酸カリウム緩衝液、ギ酸−リン酸ナトリウム緩衝液を用いることができる。特には、クエン酸−リン酸カリウム緩衝液、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液を用いることがpH調整の簡便性、緩衝能、経済性の点で好適である。
なお、当該緩衝液の濃度は、例えば、クエン酸−リン酸ナトリウム、クエン酸−リン酸カリウムを用いた場合、5〜50mMであることが望ましい。
本工程の洗浄処理の効果を損なうことなく洗浄液に殺菌効果を付与しうる物質としては、次亜塩素酸ナトリウム(アンチホルミン)、過酸化水素、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウムを挙げることができるが、具体的には、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。
次亜塩素酸ナトリウムは、一般的に、野菜、果実、飲料水、製造装置や器具の食品の殺菌剤として用いられる物質である。次亜塩素酸ナトリウムは、使用後は加熱により分解され、また、水洗浄で容易に除去されるため、加工助剤として表示は免除されている。現在、使用禁止食品は黒ゴマに限定される。
なお、当該洗浄液に次亜塩素酸ナトリウムを含有させて本洗浄処理工程を行った場合においても、好適な温度条件および時間条件は、前記所定の範囲と同じであるが、洗浄処理の温度が60℃以上の高温では次亜塩素酸ナトリウムが分解するため、殺菌効果に関しては特に好ましくない。また、洗浄処理の時間が5分未満であると、殺菌が不十分であり好ましくない。
なお、得られた沈殿に再度水を加え水を遠心除去する処理を、1回、好ましくは2回行うことで、沈殿を洗浄してもよい。
なお、当該酵素反応工程は、従来の技術とは異なり、プロテアーゼを一切添加することなく、酵素反応を行うことができる。
本工程に用いる酵素反応液は、水又は緩衝液であり、この水又は緩衝液に前記原料を添加混合し、添加混合後の水又は緩衝液のpH値を、3.05〜3.95、好ましくは3.15〜3.87、さらに好ましくは3.15〜3.77、最も好ましくは3.15〜3.26とする。
なお、添加混合後の水又は緩衝液のpH値が3.05より低い場合や3.95より高い場合には、阻害率が、阻害活性の最高値を100とした時の65%(阻害率43.9%)を下回るようになることから好ましくない。
また、当該酵素反応液は、緩衝液であることが望ましく、クエン酸−リン酸カリウム緩衝液、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝溶液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝溶液、乳酸−乳酸ナトリウム緩衝溶液、リン酸緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、ギ酸−リン酸カリウム緩衝液、ギ酸−リン酸ナトリウム緩衝液などを用いることができる。特には、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸−リン酸カリウム緩衝液を用いることがpH調整の簡便性、緩衝能の点で好適である。
当該酵素反応液に用いる緩衝液の濃度は、例えば、クエン酸−リン酸ナトリウム、クエン酸−リン酸カリウムを用いた場合、0.02〜0.15M、好ましくは0.05〜0.1Mであることが望ましい。
当該酵素反応液は、本工程の酵素反応を抑制しない限り、塩類を含有したものであってもよい。具体的には、ナトリウム塩の濃度が、100mM以下、好ましくは50mM以下とすることが望ましい。
なお、前記酵素反応液は、前記原料を添加混合する前に調製して用いることができるが、前記原料を添加混合した水に、直接前記pH調整成分、緩衝作用を有する成分を添加して調製することもできる。
本工程の酵素反応処理の効果を損なうことなく洗浄液に殺菌効果を付与しうる物質としては、次亜塩素酸ナトリウム(アンチホルミン)、過酸化水素、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウムを挙げることができるが、具体的には、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。
当該酵素反応液に殺菌効果を賦与する物質として次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、当該酵素反応液に含有させる次亜塩素酸ナトリウムの濃度としては、実効塩素濃度100〜600ppmを含有させることが望ましい。100ppm未満であると、殺菌効果が期待できない。600ppmを超えると、サンプルの酸化の要因になり、反応収率の低下が懸念される。
なお、前記洗浄処理工程で洗浄液に殺菌効果を有する物質を添加した場合においては、本工程で酵素反応液に殺菌効果を有する物質の添加を行わなくても、酵素反応液の微生物汚染を防ぐ十分な殺菌効果を得ることができる。
なお、酵素反応の温度が45℃より高い場合には、阻害活性が最高値の65%を下回るようになることから好ましくない。また、酵素反応の温度が30℃より低い場合においても、阻害活性が最高値の65%下回るようになることから好ましくない。
本酵素反応工程において、前記原料を添加混合して浸漬した酵素反応液は、少なくとも4時間以上、好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上、振盪もしくは静置することで、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを生成することができる。
なお、好ましくは、50〜160rpmで振盪することで、より反応効率を高めることができる。
酵素反応後の反応液は、沸騰水中に5分程度浸し酵素を失活させた後、4℃程度〜室温程度、好ましくは4℃程度まで冷却した後、2,000〜10,000×gで10〜20分間の遠心分離によって、「酵素反応処理液」を残渣から分離し回収することができる。
なお、ODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィによる精製を行う前において、前記酵素反応処理液のpHを、5.0〜7.0、好ましくは7.0程度に調整し、中和しておくことが望ましい。当該中和処理には、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウムなどを用いることができる。好ましくは、1〜10N程度のアンモニア水溶液を用いることができる。
当該中和処理を行った場合、5,000〜10,000×gで20〜30分間の遠心分離を行い、さらに、濾過、好ましくはブフナ漏斗を用いた吸引濾過を行い、残渣を完全に除去することが望ましい。
当該活性炭カラム処理には、液層吸着用の石炭系、ヤシ殻系、おがくず系などの破砕状、粉末状、円柱状活性炭素を用いることができる。具体的には、ナカライテスク製および和光純薬製の球状活性炭素、クラレコール(クラレ製)、サンプリフ(サンテスク製)などを用いることができる。
なお、ODS樹脂を充填した任意のスケールのカラムを作成し、必要に応じてスケールアップすることができる。また、カラムを複数セット用意し、同時に精製操作を行うこともできる。
本工程において、前記酵素反応処理液は、カラムに充填したODS樹脂の容量に応じた量をアプライすることができる。具体的には、100〜200mLのODS樹脂を充填したカラムを用いた場合、2,000〜4,000mLの前記酵素反応処理液をアプライすることができる。
非吸着夾雑物を洗浄除去した後、用いたODS樹脂容量の3〜10倍容量、好ましくは5倍容量程度の溶出溶媒に溶出させて回収することができる。本工程に用いることができる溶出溶媒としては、エタノール、アセトニトリル、メタノールを挙げることができる。
本工程においては、抽出溶媒は水溶液の形で用い、具体的には、エタノールを用いる場合、5〜30%程度、好ましくは10〜25%程度、もっとも好ましくは10%程度のエタノールを含有する水溶液であることが望ましい。なお、エタノールの含有率が5%未満の水溶液または30%より大きい水溶液で溶出した場合、阻害成分が溶出しない、または非活性成分が混入するため好ましくない。
また、本工程においてアセトニトリルを用いる場合には、5〜30%程度および65〜99.5%程度、好ましくは10〜20%程度および70〜99%程度、さらに好ましくは、10〜20%程度、もっとも好ましくは10%程度のアセトニトリルを含有する水溶液であることが望ましい。アセトニトリルの含有率が低い高極性画分と、アセトニトリルの含有率が高い低極性画分とでは、高極性画分の方がアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性が高く、その阻害活性を有するポリペプチドの含有量も多い。
なお、アセトニトリルの含有率が5%未満の水溶液、または30%より大きく65%未満の水溶液で溶出した場合、阻害成分が溶出しない、または非活性成分が混入するため好ましくない。
ODSカラム処理粗精製液は、溶媒であるエタノール、アセトニトリル、メタノールを揮発させて乾燥させることによって、「アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを含有する粗精製物」の乾燥粉末とすることができる。
なお、本乾燥工程は、自然乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、窒素気流乾燥、減圧乾燥などの方法により得ることができるが、具体的には、凍結乾燥、減圧乾燥により溶媒を気化させることが望ましい。
当該ODSカラムから10%エタノールで溶出した溶出液からは、1.5〜3.0g、IC50の値が65〜90μg/mLのアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを含有する粗精製物の乾燥粉末が得られる。なお、該粗精製物は白色であり、水に可溶である。
また、当該ODSカラムから25%エタノールで溶出した溶出液からは、3.0〜5.0g、IC50の値が90〜110μg/mLのアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを含有する粗精製物の乾燥粉末が得られる。なお、該粗精製物は淡黄色であり、水に可溶である。
なお、当該ODSカラムを10%エタノールで溶出した後、さらに25%エタノールで溶出することもできる。その場合、得られる溶出液からは、1.2〜1.8g、IC50の値が280〜360μg/mLのアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドを含有する粗精製物の乾燥粉末が得られる。なお、該粗精製物は淡黄色であり、水に可溶である。
本発明に用いることができる陰イオン交換クロマトグラフィに用いるカラムとしては、強塩基性陰イオン交換体を充填したカラムであり、例えばAG MP−1(BIO−RAD製)、アンバーライトIRA400J(オルガノ製)、アンバージェット4002(オルガノ製)など一般的な陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用いることができる。具体的には、AG MP−1、アンバーライトIRA400Jなどを用いることができる。
なお、陰イオン交換担体を充填した任意のスケールのカラムを作成し、必要に応じてスケールアップすることができる。また、カラムを複数セット用意し、同時に精製操作を行うこともできる。
アンモニア水溶液によりpHを前記所定の値に調整した後のODSカラム処理粗精製液もしくは粗精製物を水に溶解した溶液は、前記アンモニア水溶液で平衡化後、約5倍量の水を通した陰イオン交換樹脂を充填したカラムにアプライすることができる。
次に、0.05Mアンモニアを送液し、陰イオン交換カラムを洗浄することにより、陰イオン交換担体に吸着しなかった非吸着画分を回収する。本工程において、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドは、陰イオン交換カラム非吸着画分として回収される。送液の条件としては、流速2〜10mL/分、数時間以内で行うことが望ましい。
なお、本工程では、陰イオン交換担体に酸性タンパク質、酸性ペプチドなどを吸着することができ、除去することができる。
本発明に用いることができるゲル濾過HPLCに用いるカラムとしては、Superdex75HR(アマシャム製)、Superdex Peptide HR(アマシャム製)、Bio−Gel P−6(BIO−RAD製)を用いることができる。例えば、Superdex75HR(アマシャム製)を用いることができる。また、ゲル濾過HPLCを行うための装置としては、LC−10ADシステム(島津製)などを用いることができる。
なお、カラムは任意のスケールのものを用いることができる。また、カラムを複数セット用意し、同時に精製操作を行うこともできる。
本ゲル濾過HPLC工程においては、まず、0.05〜1.0%、好ましくは0.1%程度のトリフルオロ酢酸を含む、20〜40%、好ましくは30%程度のアセトニトリルでカラムを平衡化しておくことが望ましい。
また、トリフルオロ酢酸の代わりに、0.5〜2.0%、好ましくは1.0%程度の酢酸或いはギ酸を用いることもできる。
次に、30%アセトニトリル水溶液を流速1.0〜2.0mL/分、30〜40分間の条件で通液し、吸光度、具体的には220nmの吸光度のピークをモニタし、ゲル濾過HPLCに用いたカラムから分子量の大きさに従って溶出する成分を各ピークごとに分画し回収する。
分画回収された画分の中から、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドを含む画分を得ることができる。具体的には、3番目(F−3)、7番目(F−7)のピークを含む画分を、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドを含む画分として得ることができる。
なお、本乾燥工程は、自然乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、窒素気流乾燥、減圧乾燥などの方法により得ることができるが、具体的には、凍結乾燥、減圧乾燥により溶媒を気化させることが望ましい。
上記工程で得られた前記粗精製物の乾燥粉末は、前記粗精製物や以下の工程で得られる単離精製されたポリペプチドと同様に、食品、飲料、および製剤の材料として用いることができる。
本工程に用いることができる逆相系カラムとしては、Jupiter 5μ C4 300Aカラム(Phenomenex製)、Cosmosil 5Ph−AR−300(ナカライテスク製)、μRPC C18 ST(アマシャム製)を用いることができる。例えば、Jupiter 5μ C4 300Aカラム(Phenomenex製)を用いることができる。また、逆相HPLCを行うための装置としては、LC−10ADなどを用いることができる。
なお、カラムは任意のスケールのものを用いることができる。また、カラムを複数セット用意し、同時に精製操作を行うこともできる。本工程である逆相系カラムを用いた逆相HPLC工程においては、まず、30%アセトニトリル水溶液、0.1%トリフルオロ酢酸でカラムを平衡化しておくことが望ましい。
次に、平衡化に用いた溶媒を通液し、逆相HPLCに用いるカラムを洗浄することにより、カラムに吸着した成分をしなかった非吸着画分を洗浄し、次いで、流速1.0〜2.0mL/分、30〜50分間の条件で、アセトニトリル−水を直線勾配条件で通液する。
カラムからの溶出液は、吸光度、具体的には220nmの吸光度のピークをモニタし、各ピークごとに分画し回収することで、ポリペプチド単体として単離精製することができる
なお、本工程のゲル濾過HPLCの手順は、Jupiter 5μ C18、300A、(Phenomenex製)を用いること以外は、前工程の逆相HPLCと同様に行うことができる。
本工程において、分子量の測定は、MALDI−TOF MS(Applied Biosystems製、米国)、ESI−TOF MS(Mariner Biospectrometry、PerSeptive Biosystems製、米国)、LC MS(MAGIC 2002、Microm Bioresources製、米国)により行うことができるが、具体的にはMALDI−TOF MS(Voyager−DE STR、Applied Biosystems製、米国)により行うことができる。
また、本工程において、アミノ酸配列の決定は、アミノ酸シーケンサー(PPSQ−10、島津)、アミノ酸シーケンサー(Procise 494 cLC、Applied Biosystems製、米国)により行うことができるが、具体的にはアミノ酸シーケンサー(PPSQ−10、島津)により行うことができる。
本発明においては、具体的に、画分F−3からはIle−Gln−Pro、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Arg−Pro、画分F−7からはVal−Tyr、Thr−Phe、Ile−Tyrのアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドとして単離精製することができる。
このうち、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドは、これまでに報告のない、新規のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドである。
なお、上記したように、上記工程で得られる“アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有する”ポリペプチドは、「血圧降下機能を有する」ポリペプチドでもある。
具体的には、清涼飲料水、粉末清涼飲料、炭酸飲料水、錠菓、ビスケット、スナック、シリアル、カップ麺、粉末スープ、ゼリーなどの食品や飲料に用いることができる。
製剤としては、粉末状、砕粒状、顆粒状、カプセルに充填する形態の他、水やエタノールに分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態などとして用いることができる。
小麦種子(ふくさやか)をビューラーテストミル(Beuhler Inc.製、スイス)で製粉し、全粒粉を調製すると共に、これを大ぶすま、小ぶすま、末粉、60%粉に分離した。本発明において、大ぶすまは、果皮、種皮等の外皮を主体とし、小ぶすまは、子葉、根原体、胚軸等、胚盤等を含めた胚、および糊粉層を主体とし、末粉は、糊粉層および胚乳の一部を含む。なお、60%粉は、大ぶすま、小ぶすま、末粉を除いた胚乳からなる粉砕物である。
大ぶすまは、全粉量のおよそ20%を占め、小ぶすまは全粉量のおよそ10%、末粉は全粉量のおよそ10%を占めた。本実施例においては、大ぶすまと小ぶすまとを合わせたものを「小麦ふすま」とした。
小麦発芽種子は、小麦種子(ふくさやか)を20℃の水に浸し、3日間保温して発芽させることにより調製した。これを40℃で一晩乾燥後、遠心ミル(Retsch、三田村理研工業)で粉砕することにより小麦発芽種子全粒粉を調製した。
また、小麦未熟種子は、出穂4週間後に収穫、脱穀し、40℃で一晩乾燥することにより調製した。その後、遠心ミル(Retsch、三田村理研工業)で粉砕することにより、小麦未熟種子全粒粉を調製した。
米糠は、米(ヒノヒカリ)を小型精米器(象印製)で調製した。全粒粉は遠心ミル(Retsch、三田村理研工業製)で調製した。
大麦糠は、大麦種子(六条大麦である中間母本農2、9551、マンテンボシ)をパーレスト小型搗精機(Kett製)で搗精し、種子重量のおよそ40%の研削粉を大麦糠として用いた。全粒粉は遠心ミル(Retsch、三田村理研工業製)で調製した。
麦芽は、二条大麦から通常の製造方法で調製した。即ち、二条大麦を15−20℃で4日間水に浸漬し発芽後、41℃で12時間乾燥後、15分間で61℃に昇温し、61℃で2時間45分乾燥後、15分間で83℃に昇温し、83℃で4時間45分乾燥させた。その後、遠心ミル(Retsch、三田村理研工業)で粉砕することにより麦芽全粒粉を調製した。
酵素反応液である緩衝液として、0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)を用い、その4mLに0.1gのふくさやか小麦ふすま(製造例1に記載の方法で調製)を浸漬し、40℃で12時間振とう保温した。なお、原料を緩衝液に添加混合し浸漬した後の酵素反応液のpHは、3.2であった。
その後、4℃の低温下で8000×g、20分間遠心分離し、上清を回収し酵素反応処理液とした。
酵素反応処理液中の、色素成分や、共存イオンを取り除くため、以下に手法を示す手法で精製した粗精製物を阻害試験に供した。
エタノール、続いて水で活性化させたODS樹脂(0.5g)(SepPak(ミリポア製))に、酵素反応処理液(4ml)を通液し、アンジオテンシンI変換酵素の阻害成分を吸着させた。樹脂を5mLの水で洗浄後、5mLの10%、25%、50%、95%のエタノール水溶液を順次通し、それぞれの溶出液を回収した。溶出液は遠心エバポレータ(CVE−3100(東京理化器械製))でエタノールを除去後、凍結乾燥し、粗精製物とした。溶出に用いたエタノール濃度と阻害活性(阻害率(%))及び粗精製物の収量(mg)の関係を表1に示す。
なお、表1におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)は、以下に示す測定方法において、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製したときの阻害率を示す。
アンジオテンシンI変換酵素は、25mU/mLの濃度で0.2Mホウ酸緩衝液 (pH8.3)に溶解した。Hip−His−Leuは12.5mMの濃度で1M NaClを含む0.2Mホウ酸緩衝液 (pH8.3)に溶解した。
馬尿酸遊離反応は、阻害活性を測定するサンプル(50μL)に前記アンジオテンシンI変換酵素を含む溶液(100μL)を添加し、37℃で5分間インキュベート後、前記Hip−His−Leuを含む溶液(100μL)を添加し、37℃で60分間インキュベートした。反応後、0.5M HCl (250μL)を加えて反応を終了させた。
その後、馬尿酸遊離反応後の液に1.5mLの酢酸エチルを添加し、2000×gで10分間遠心分離し、500μLの上層を回収し、蒸発乾固させた。これに3mLの1M NaCl溶液を添加し、228nmの吸光度を測定した。なお、アンジオテンシンI変換酵素阻害率(%)は、前記した式(1)を用いて行った。
なお、エタノールは、アセトニトリルに比べて、人体への安全性および廃液処理コストの点で利点がある。
以後、本実施例においては、10%のエタノールで溶出する画分を粗精製画分とし、その乾燥物を粗精製物として用いた。
酵素反応液である緩衝液として、0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(表3に示す各pHのもの)を用い、各4mLに0.2gのふくさやか小麦ふすま(製造例1に記載の方法で調製したもの)を前記緩衝液に添加混合し、40℃で12時間振とう保温した。
添加混合後の前記緩衝液、即ち各酵素反応液のpHは、表3に示すとおりであった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
pH値と粗精製物の阻害活性(阻害率(%))との関係、およびpH値と粗精製物の収量(mg)との関係を、図1および表3にそれぞれ示す。
なお、図1および表3におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製した時の阻害率を示す。
また、粗精製物の収量は、pH3.77のときに7.1mgと最も多く、pH2.75〜4.64のときに5mgを超える収量が得られることが示され、前記の高い阻害率を示すpHで反応を行った場合には十分の収量が得られることが示された。
これらの結果、アンジオテンシンI変換酵素の阻害成分の生成反応に好適なpHの範囲は、pH3.05〜3.95、好ましくはpH3.15〜3.87、さらに好ましくはpH3.15〜3.77、最も好ましくは3.15〜3.26と判断された。
図2に示す各温度で酵素反応を行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で酵素反応(pH3.2で12時間振とう)を行った後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
温度と粗精製物の阻害活性(阻害率(%))との関係、および温度と粗精製物の収量(mg)との関係を、それぞれ図2に示す。
なお、図2におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製したときの阻害率を示す。
図3に示す各pHで酵素反応を行い、反応時間を4,8,12,16,20,24時間の各時間としたことを除いては、実施例1と同様の方法で酵素反応(温度40℃で振とう)を行った後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
反応時間と粗精製物の阻害活性(阻害率(%))との関係を図3に示す。
なお、図3におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製したときの阻害率を示す。
小麦ふすまは脂質を多量に含有し、これがタンパク質分解反応に影響を及ぼす可能性がある。そこで、ふすま0.2gを表4で示す各温度条件のヘキサン5.0mL中に1時間浸漬した後、ブフナ漏斗(アズワン製)で吸引濾過し、20℃で一晩乾燥して、脱脂小麦ふすまを調製した。
この脱脂小麦ふすま全量にクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)4.0mLを加え、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振とう)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
ヘキサン浸漬時の温度と粗精製物の阻害活性(阻害率(%))及び粗精製物の収量(mg)との関係を表4に示す。
なお、表4におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製したときの阻害率を示す。また、表4において括弧内の数値は、ヘキサンによる脱脂処理を行わない未処理の原料を用いた場合に対する、阻害率の増加率(%)と収量の増加率(%)をそれぞれ示す。
前述の実施例1〜5では、前記酵素反応に0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液を用いた。そこで、本例では、他のpH調整試薬が適用可能か否かを検討した。試薬として、0.5N塩酸、5N酢酸、0.5Nギ酸、0.5Nリン酸、0.5N硫酸、クエン酸粉末を選定し、0.1gの小ぶすま(中国155号)に4mLの水を添加後、それぞれの試薬でpH3.2に調整した。
また、50mMクエン酸−リン酸カリウム緩衝液(pH3.0)を用いたものをコントロールとして用いた。なお、原料を該緩衝液に添加混合し浸漬した後の酵素反応液のpHは、3.2であった。
次いで、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振とう)を行った後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
なお、アンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)の測定は、実施例1に示す測定方法と同様に、サンプル(粗精製物)の濃度を167μg/mLに調製したときの阻害率を示す。その結果を表2に示す。
アンジオテンシンI変換酵素の阻害成分の製造反応における塩濃度の影響を調べるために、NaClを含む緩衝液を用いて製造反応を行った。
0.2gのふすまに、塩化ナトリウムを50mM、100mM、200mM、400mM含有するようにそれぞれ添加した0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)4.0mLを調整した後、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振盪)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
なお、アンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)の測定は、実施例1に示す測定方法と同様に行った。
小麦ふすまタンパク質からアンジオテンシンI変換酵素の阻害ペプチドを生成するプロテアーゼの性質を調べるために、各種プロテアーゼインヒビター(プロテアーゼ阻害剤)を添加した場合の酵素反応への影響を調べた。
EDTAを1mM含有するように添加した0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)、PMSFを1mM含有するように添加した0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)、Pepstatin Aを20μM含有するように添加した0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)、E−64を4.4μM含有するように添加した0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)をそれぞれ調整した後、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振盪)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
ここで、EDTAはメタロプロテアーゼ、PMSFはセリンプロテアーゼ、Pepstatin Aはアスパラギン酸プロテアーゼ、E−64はシステインプロテアーゼのそれぞれインヒビターである。上記プロテナーゼインヒビターの添加濃度は、インヒビターとして通常用いる濃度である。
なお、アンジオテンシンI変換酵素の阻害率(%)の測定は、実施例1に示す測定方法と同様に行った。
図4に、各種プロテアーゼ阻害剤とアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性の抑制率との関係を示す。図4におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性の抑制率(%)は、値が高いほど原料タンパク質からアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するポリペプチドが生成されにくくなっていることを示している。
アスパラギン酸プロテアーゼは、ペプシンに代表される酸性プロテアーゼであり、至適pHは酸性側にある。
図1および表3が示すように、本発明におけるアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドを生成する酵素反応の至適pHが、酸性にあることからもアスパラギン酸プロテアーゼがアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの生成に主要な働きをしていることが補足される。一方、種子の発芽の際には、システインプロテアーゼ活性が増加して、グルテンを分解することが知られているが(Journal of Agricultural and Food Chemistry, 48, 6271-6279.(2000))、システインプロテアーゼはアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの生成に関与しないことが、本実施例の結果より示された。
製造例1に記載の方法で製造した、小麦、大麦、米の種子の各組織を原料に用いて粗精製物を製造し、アンジオテンシンI変換酵素阻害効果を調べた。
小麦種子(ふくさやか)からは、全粒粉、大ぶすま、小ぶすま、ふすま、末粉、60%粉、発芽種子の全粒粉、出穂4週後の未熟種子の全粒粉を用いた。なお、大ぶすま、小ぶすま、を合わせたものをふすまとした。大麦種子からは、六条大麦である中間母本農2の糠、9551の糠、マンテンボシの糠、二条大麦であるスカイゴールデンの糠、スカイゴールデンの全粒粉、スカイゴールデンの麦芽全粒粉を用いた。米種子からは、ヒノヒカリの米糠を用いた。
上記の原料の粉(0.2g)を0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)4.0mLに加え、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振とう)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。
各粗精製物のアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性IC50(mg/mL)を表6に示す。
なお、表6におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性IC50(mg/mL)の値は、アンジオテンシンI変換酵素の活性の阻害率が50%のときのサンプル(粗精製物)の終濃度の値を示す。阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に測定した。
小麦ふすまからアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を示す成分(ペプチド)を精製した。表7に示す工程の順に精製を行い、各工程での収量、阻害活性の測定を行った。阻害活性の測定は、実施例9と同様にして行った。
その後、8000×gで20分遠心分離し、上清(酵素反応処理液)を回収した。なお、この上清を乾燥させた時に得られる酵素反応処理物の収量は、は20.25 gで、IC50の値は1040μg/mL(1.04mg/mL)であった。
次いで、この酵素処理反応液を、ODS樹脂を充填したカラム(5×25cm)YMC Gel ODS−AQ(ワイエムシィ製)に添加し、1000mLの水でカラム洗浄を行った後、各500mLの10%、25%、50%、95%のエタノール水溶液を通液し吸着成分を溶出した。この工程において、10%エタノール水溶液画分からは、他のエタノール水溶液画分に比べて阻害活性の顕著に強い、IC50の値が86μg/mL(0.086mg/mL)を示す2100mgの粗精製物が得られた。
この10%エタノール水溶液画分からエバポレーターを用いてエタノールを除去後、1Nアンモニア水溶液によりpH9.0に調整し、1Nのアンモニア水溶液及び水で平衡化した陰イオン交換樹脂(3×20cm)アンバーライトAG MP-1(BIO−RAD製)に通液し、非吸着画分を回収した。なお、この画分からIC50の値が45μg/mLを示す1200mgの乾燥物が得られた。
各ピークはエバポレータで濃縮後、凍結乾燥し、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を測定した。このうち、F−3画分からは強い阻害活性を示す4成分、F−7画分からは3成分を単離した。
その結果、F−3画分から単離されたアンジオテンシンI変換酵素の阻害成分は、Leu−Gln−Pro(ロイシルグルタミルプロリン;LQP)、Ile−Gln−Pro(イソロイシルグルタミルプロリン;IQP)、Leu−Arg−Pro(ロイシルアルギニルプロリン;LRP)、Ile−Arg−Pro(イソロイシルアルギニルプロリン;IRP)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが明らかになった。また、F−7画分から単離されたアンジオテンシンI変換酵素の阻害成分は、Val−Tyr(バリルチロシン;VY)、Thr−Phe(スレオニルフェニルアラニン;TF)、Ile−Tyr(イソロイシルチロシン;IY)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが明らかになった。
これらのうち、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチド(イソロイシルグルタミルプロリン;IQP)は、これまでに報告のない新規のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するポリペプチドである。
なお、これらはいずれもα-またはβ-グリアジンの部分配列であり、ふすまに含まれるグリアジンの分解物が内在性のプロテアーゼにより分解されることによって、アンジオテンシンI変換酵素の活性阻害を示すことが示唆された。
ふくさやか小麦ふすま1kgに5Lのヘキサンを加え、20℃で1時間撹拌し、小麦ふすまを脱脂した。その後、ブフナー漏斗(アズワン製)を用いて2Lのヘキサンで洗浄しながら濾過した。脱脂したふすまは一晩室温で乾燥させた。
乾燥したふすまに10Lの水を加え、2NのHClでpH3.0に調整した。40℃で撹拌しながら12時間の内在性プロテアーゼによる酵素反応を行った。
酵素反応処理液を4℃に冷却し、10NアンモニアでpH7.0に調整した。その後、8000×gで20分遠心分離し、上清を回収し、ブフナー漏斗で濾過した。次いで、活性炭を充填したカラム(5×30cm)(ヤシ殻系、粒状(ナカライテスク製))に濾液を通し、色素成分を除去した。
得られた濾液をODS樹脂を充填したカラム(5×40cm)(LiChroprep RP−18(Merck製))に通し、カラムを3Lの水で洗浄した。
アンジオテンシンI変換酵素の阻害成分は3Lの10%のエタノール水溶液、3Lの25%エタノール水溶液で溶離させ、エバポレータで濃縮し、凍結乾燥した。
上記の実験結果から、アンジオテンシンI変換酵素の阻害活性を有するペプチドは、グリアジンに含まれる配列であることが判明した。小麦グリアジンはプロラミンタイプの単純タンパク質の一種で60〜90%エタノールに可溶であるが、水、酸性溶液、中性溶液に不溶のタンパク質である。なお、酵素処理反応においては、グリアジン以外の可溶性タンパク質が溶解し、夾雑物として共存する。そこで、酵素活性を保持したまま反応前に可溶性タンパク質を除去できれば、粗精製物の製造が簡便化できると予想される。
そこで、試行錯誤の結果、小ぶすま(中国155号)0.2gに、表9で示す各洗浄液4mLを添加し、室温(26℃)で撹拌後10分間振とうした。2000rpmで遠心分離し上清を除去し、沈殿である洗浄処理したふすまを得た。そこへ水を4mL添加し、10分間撹振とうし、同様に遠心後上清を除去した。この操作をもう一度繰り返した。
この洗浄ふすま全量に、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)4.0mLを加え、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振とう)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、実施例1と同様の方法でODSカラムクロマトグラフィを行い、10%エタノール粗精製画分を乾燥させた粗精製物を調製した。結果を表9に示す。
なお、表9におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性IC50(μg/mL)の値は、アンジオテンシンI変換酵素の活性の阻害率が50%のときのサンプル(粗精製物)の終濃度の値を示す。阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に測定した。
それに対して、アルカリ性の緩衝液(試料4,5)で洗浄し製造した粗精製物の阻害活性は、コントロール(試料6)との差が小さく、プロテアーゼの一部が溶出または失活したことが示された。
収量をみると、弱酸性の水(試料1)、酸性の緩衝液(試料2)および中性の緩衝液(試料3)で洗浄後に製造した組成製物は、はコントロール(試料6)の42〜58%であった。洗浄することによるIC50値の増加量を鑑みると、粗精製物の収量の低下を補うレベルであった。なお、アルカリ性の緩衝液(試料4,5)で洗浄後に製造した粗精製物は、34〜37%であり、グリアジンの一部が溶出したことが示された。
また、反応物の色調はコントロール(試料6)は薄褐色であるのに対し、各洗浄物(試料1〜5)は白色であり、色素成分が除去されたことが示された。
前記小麦ふすまの酵素反応処理は4時間以上におよぶため、反応中の微生物汚染が懸念される。そこで、食品加工で一般的に使用される次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液を用いてふすまを洗浄し、殺菌処理の影響を検討した。
まず、中国155号の小ぶすま0.2gに、実効塩素濃度100ppm(試料8)および600ppm(試料9)に希釈した次亜塩素酸ナトリウム(実効塩素濃度6%(和光純薬製))を含む水溶液を4mL添加し、室温(26℃)で10分間撹拌後、遠心分離で上清を除去した。得られた洗浄殺菌をした沈殿に、水4mL添加し、室温(26℃)で10分間撹拌後、遠心分離で上清を除去した。さらに、この操作をもう一度繰り返し、次亜塩素酸ナトリウムを除去した。なお、上記工程において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いずに、水のみで洗浄処理を行ったものを未殺菌のコントロール(試料7)とした。
次いで、この洗浄殺菌したふすま沈殿に、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)4.0mLを加え、実施例1と同様の方法で、酵素反応(温度40℃で12時間振とう)を行った。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、SepPak(ミリポア製)を用いて粗精製を行い、粗精製物を調製した。結果を表10に示す。
なお、表10におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性IC50(μg/mL)の値は、アンジオテンシンI変換酵素の活性の阻害率が50%のときのサンプル(粗精製物)の終濃度の値を示す。阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に測定した。
この結果、実効塩素濃度100〜600ppmに希釈した次亜塩素酸の使用による洗浄殺菌処理は、当該酵素反応に影響を及ぼさずに、酵素反応液中の微生物の増殖が防止できることが明らかになった。
実施例13と同様の趣旨により、酵素反応中の微生物汚染を防ぐために、次亜塩素酸ナトリウムを含有する酵素反応液を用いた場合のアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性に及ぼす影響を検討した。
まず、中国155号の小ぶすま0.2gに、実効塩素濃度100ppm(試料11)もしくは600ppm(試料12)の次亜塩素酸ナトリウムを含む50mMクエン酸−リン酸ナトリウム(pH3.0)各4mLを添加し、実施例1と同様の方法で、40℃で12時間の酵素反応を行った。また、上記反応において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いずに、50mMクエン酸−リン酸ナトリウム(pH3.0)のみで酵素反応処理を行ったものをコントロール(試料10)とした。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の各酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、SepPak(ミリポア製)を用いて粗精製を行い、粗精製物を調製した。結果を表11に示す。
なお、表11におけるアンジオテンシンI変換酵素の阻害活性IC50(μg/mL)の値は、アンジオテンシンI変換酵素の活性の阻害率が50%のときのサンプル(粗精製物)の終濃度の値を示す。阻害率(%)は、実施例1に示す測定方法と同様に測定した。
この結果、実効塩素濃度100〜600ppmを含有するように添加された次亜塩素酸ナトリウムは、当該酵素反応に影響を及ぼさずに、酵素反応液中の微生物の増殖が防止できることが明らかになった。
なお、残存する次亜塩素酸ナトリウムは、反応後、60℃以上の加熱、又はSepPakによる粗精製操作で完全に除去することができる。
小麦ふすまのODSカラム吸着後の10%エタノール溶出粗精製物(ODSカラム処理粗精製物)を、高血圧自然発症ラットに“単回投与”し、血圧に及ぼす影響を調べた。
まず、小麦ふすま(ふくさやか)100gを500mLの0.1Mクエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)に懸濁し、実施例1と同様の酵素反応条件(温度40℃で12時間振とう)で反応した。なお、原料を緩衝液に添加混合した後の酵素反応液のpHは3.2であった。
その後、8000×gで20分遠心分離し、上清(酵素反応処理液)を回収した。次いで、この酵素処理反応液を、ODS樹脂を充填したカラム(5×25cm)YMC Gel ODS−AQ(ワイエムシィ製)に添加し、1000mLの水でカラム洗浄を行った後、500mLの10%エタノール水溶液を通液し吸着成分を溶出した。
この10%エタノール水溶液画分からは、IC50の値が86μg/mL(0.086mg/mL)を示す2100mgの粗精製物が得られた。これを“ODSカラム処理粗精製物”として、以下の試験に用いた。
馴化後、16週齢で収縮時血圧が180mmHg以上を示すものを選抜し、血圧と体重(340−370g)が各群で平均化するように以下の4群(各群6匹ずつ)、すなわち、“ODSカラム処理粗精製物”を10mg/体重kg投与する群、50mg/体重kg投与する群、200mg/体重kg投与する群、投与しない群(0mg/kg投与する群:コントロール群)に分け、当該粗精製物の投与を行った。
当該粗精製物の投与は、各群で規定された前記所定量を投与できるように蒸留水で溶解した各被験液を、午前10−12時に、ゾンデによる強制経口投与することで行った。コントロール群には、同量の蒸留水を投与した。なお、投与は“1回のみ”行った(単回投与)。
そして、各群について、投与前および投与後2、4、6および8時間後、測定前に15分間の前保温(38℃)を施した後、非観血式血圧心拍測定装置(ソフトロン社、BP−98A)を用いて尾静脈圧を測定した。
また、投与前と投与後との値の統計学的な差の検定はStudent's paired t-testで行った。また、コントロール群および各投与群間の検定はStudent's t-testにより行った。すべての値は平均値±標準誤差で表記し、両検定で有意水準は5%とした。結果を図8に示す。
なお、図8における各測定値において、投与前との有意確率Pが0.05より小さい場合には“*”で、0.01より小さい場合には“**”で記した。また、各時間の測定値において、コントロールとの有意確率Pが0.05より小さい場合には“#”で、0.01より小さい場合には“##”で記した。なお、以下の図9,10においてもこれらの記号は同様の意味を有するものである。
また、50mg/体重kgおよび200mg/体重kgを投与した群においても、同様に投与2時間後に血圧の有意な低下が認められ(P<0.05)、その後降圧は持続し、投与8時間後も有意な降圧作用が認められた。“ODSカラム処理粗精製物”の降圧作用は10−200mg/kg投与量の範囲では用量依存的であった。
それに対して、コントロール群の投与前の血圧は215.8±11.0mmHgであったが、コントロール群の投与2−8時間後に血圧の有意な低下は認められなかった。
Ile−Gln−Proを高血圧自然発症ラットに“単回投与”し、血圧に及ぼす影響を調べた。
まず、ふすまから単離された新規なACE阻害ペプチドIle−Gln−Pro(イソロイシルグルタミルプロリン;IQP)は、純度95%以上の合成ペプチドを(株)ペプチド研究所に依頼合成した。これを以下の試験に用いた。
動物実験には、11週齢の雄性ラット(SHR/NCrlCrlj)を日本チャールス・リバー社より入手し、実施例15と同様の環境で予備飼育して馴化した。
馴化後、13週齢で収縮時血圧が180mmHg以上を示すものを選抜し、血圧と体重(300−320g)が各群で平均化するように以下の3群(各群6匹ずつ)、すなわち、“Ile−Gln−Pro”を1.5mg/体重kg投与する群、15mg/体重kg投与する群、投与しない群(0mg/体重kg投与する群:コントロール群)に分け、“Ile−Gln−Pro”の投与を行った。
Ile−Gln−Proの投与は、各群で規定された前記所定量を投与できるように蒸留水で溶解した各被験液を、午前10−12時に、ゾンデによる強制経口投与することで行った。コントロール群には、同量の蒸留水を投与した。なお、投与は1回のみ行った(単回投与)。
そして、各群について、投与前および投与後2、4、6および8時間後、測定前に15分間の前保温(38℃)を施した後、非観血式血圧心拍測定装置(ソフトロン社、BP−98A)を用いて尾静脈圧を測定した。
また、投与前と投与後との値の統計学的な差の検定、コントロール群および各投与群間の検定は、実施例15と同様にして行った。結果を図9に示す。
さらに投与8時間後には181.4±6.2mmHgおよび166.9±10.1mmHgまで血圧は降下し(降圧値−13.0mmHgおよび−27.6mmHg;P<0.05)、コントロール群に比してそれぞれ有意な降圧が認められた(コントロール群の投与8時間後の血圧191.1±4.1mmHgに対して;P<0.05)。
それに対して、コントロール群の投与前の血圧は193.3±13.2mmHgであり、試験開始後も血圧の変動はなかった。
小麦ふすまのODSカラム吸着後の10%エタノール溶出粗精製物(ODSカラム処理粗精製物)を、高血圧自然発症ラットに“長期投与”し、血圧に及ぼす影響を調べた。
“ODSカラム処理粗精製物”は、実施例15で得られたものを以下の試験に用いた。
動物実験には、11週齢の雄性ラット(SHR/NCrlCrlj)を日本チャールス・リバー社より入手し、実施例15と同様の環境で予備飼育して馴化した。
馴化後、14週齢で収縮時血圧が180mmHg以上を示すものを選抜し、血圧と体重(300−330g)が各群で平均化するように以下の3群(各群6匹ずつ)、すなわち、“ODSカラム処理粗精製物”を0.02%含有する水を投与する群、0.1%含有する水を投与する群、含まない水を投与する群(0%含有する水を投与する群:コントロール群)、に分け、当該粗精製物の投与を行った。
当該粗精製物の投与は、各群で規定された前記所定濃度になるように蒸留水で溶解した各被験液を飲料水として与え、“長期間にわたり自由に”摂取させた。コントロール群には蒸留水を与えた。
そして、各群について、それぞれ投与前と投与開始から5、10、15、20および25日後の午前10−12時に、測定前に15分間の前保温(38℃)を施した後、非観血式血圧心拍測定装置(ソフトロン社、BP−98A)を用いて尾静脈圧を測定した。
また、投与前と投与後との値の統計学的な差の検定、コントロール群および各投与群間の検定は、実施例15と同様にして行った。結果を図10に示す。
また、0.1%含有する水を投与した群は、投与開始から5日後にコントロールおよび投与前と比して血圧が有意に低下した(コントロール群の5日後の血圧201±6.7mmHg、投与前197.1±4.9mmHg、投与5日後185.0±5.2mmHg;P<0.01)。その後、降圧作用は10日後まで増強された(コントロール群の10日後の血圧200.5±5.4mmHg、投与前197.1±4.9mmHg、投与10日後183.0±5.6mmHg;P<0.01)。降圧作用は15日後以降に減少するものの、20日後まで投与前との有意差を保った(20日後の投与前に対して;P<0.05、コントロール群に対して;P<0.01)。その後、コントロールと比して投与25日後まで有意に降圧作用を持続した(コントロール群に対して;P<0.01)。
従って、本発明は食品分野、医薬品分野等において、有効に利用することができる。
Claims (6)
- 少なくとも小麦ふすまを含む小麦種子粉末原料を、水又は緩衝液に添加混合し、;添加混合後の当該水又は緩衝液のpHを3.05〜3.95とし、;30〜45℃の温度で、少なくとも4時間以上、内在性プロテアーゼの作用により貯蔵タンパク質を分解反応させる、;ことを特徴とする、Ile−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
- 前記小麦種子粉末が、澱粉貯蔵部を含まない小麦ふすま粉末である、請求項1に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
- 前記添加混合前に、ヘキサンを用いて前記粉末原料を脱脂処理する、請求項1又は2に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
- 前記粉末原料として、予め水又は緩衝液からなる洗浄液に添加混合し、当該添加混合後の洗浄液のpHを3.0〜7.0とし、0〜28℃の温度で5〜30分間浸漬した後に上清を除去したものを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
- 前記反応後、得られた反応液を、ODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィにより精製処理する、請求項1〜4のいずれかに記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
- 請求項5に記載のODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィによる精製処理において、前記反応液をODSカラムに通液し吸着させた後、10〜25%エタノールもしくは10〜25%アセトニトリルで溶出し回収する、請求項5に記載のIle−Gln−Proのアミノ酸配列からなるトリペプチドの製造方法。
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