ところで、リフト量可変機構の駆動を通じて吸気バルブの開弁期間を変化させる場合には、吸気バルブの閉弁時期のみならず開弁時期も変化するため、吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバラップ量も開弁期間の変更に伴って変化してしまう。そこで、吸気バルブのバルブタイミングを可変設定するバルブタイミング可変機構を内燃機関に設け、リフト量可変機構の駆動に伴う吸気バルブの開弁時期の変化を同バルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償するようにすれば、そうした開弁期間の変更に伴うバルブオーバラップ量の変化を抑えることができる。
しかし、こうした開弁時期の補償処理と上述したような目標値の切替処理とを併用すると、新たに次のような不都合が発生するおそれがある。
すなわち、目標値の切替処理が行われると、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間を切り替えられた目標値に変更するべく、リフト量可変機構は急速に駆動される。ここで、リフト量可変機構及びバルブタイミング可変機構について、各機構の目標値変化に対する応答速度は必ずしも同じではなく、むしろ異なっていることが多い。そのため、リフト量可変機構の応答速度がバルブタイミング可変機構の応答速度よりも速い場合には、開弁期間の変更過程にあって急速に変化する開弁時期に同調してその開弁時期の補償を行うことが困難になるおそれがあり、同変更過程においてはそうした各機構の応答速度の違いに起因してバルブオーバラップ量が過度に増減してしまうおそれがある。このようにバルブオーバラップ量が過度に増減すると、吸入空気量や内部EGR量も大きく増減するため、目標値の切り替えによる開弁期間の変更過程にあって機関出力が変動してしまうおそれがある。
また、上記切替処理が行われると、最大リフト量及び開弁期間の目標値が出力要求に対応した値から他の値に変更されるため、実際の吸入空気量は、出力要求に対応した吸入空気量と異なるようになる。そこで、目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度調整を通じて補償するようにすれば、実際の吸入空気量を出力要求に対応した吸入空気量に調量することができる。
しかし、こうした空気量の補償処理と上述したような目標値の切替処理とを併用する場合にも、新たに次のような不都合が発生するおそれがある。
すなわち、最大リフト量及び開弁期間の目標値は、上述したような条件を満たしたときに、出力要求に基づき設定される値とは異なる他の値に切り替えられる。そして、出力要求の状態が切替処理の実行を要求する状態からそれを要求しない状態に変化したときには、目標値の設定態様を本来の設定態様、すなわち出力要求に基づいて目標値を設定するといった設定態様に復帰させることが望ましい。
ここで、目標値の切替処理が実行されたときに行われる空気量の補償処理では、上述したようにスロットルバルブの開度調整を通じて吸入空気量が調量される。一方、目標値の設定態様が本来の設定態様に復帰したときには、目標値の切替処理が非実行状態となり、これに伴って空気量の補償処理も中止されて、吸入空気量は最大リフト量及び開弁期間の変更により調量される。このように、目標値の切替処理についてその実行時と非実行時とでは、吸入空気量の調量態様が大きく異なるため、目標値の切替や復帰が行われた直後にあっては、一時的ではあるものの、同調量態様の切り替えに伴う吸入空気量の変化が発生しやすくなる。従って、出力要求が変動し、目標値の切替及び復帰が頻繁に行われる場合には、同調量態様が頻繁に切り替えられることによって吸入空気量は変動しやすくなり、その結果、機関出力が変動するおそれがある。
このように、上述したような目標値の切替処理を行う場合にあって、上記開弁時期の補償処理や空気量の補償処理を併用する場合には、目標値の切り替えや復帰に際して機関出力が変動してしまうおそれがある。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものである。そして、その目的は、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値を出力要求に基づいた値から他の値に切り替える場合、あるいはその他の値に切り替えられた目標値を出力要求に基づいた値に復帰させる場合に生じやすい機関出力の変動を好適に抑制することのできる内燃機関のバルブ特性制御装置を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、吸気バルブのバルブタイミングを可変設定するバルブタイミング可変機構と、前記吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間を可変設定するリフト量可変機構を備える内燃機関に適用され、同機関に対する出力要求に基づいて前記最大リフト量及び開弁期間の目標値を設定し、当該目標値に向けて前記最大リフト量及び開弁期間が変化するように前記リフト量可変機構を駆動制御する内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記リフト量可変機構の駆動に伴う前記吸気バルブの開弁時期の変化を前記バルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償する開弁時期補償手段と、前記出力要求の状態が、同出力要求に基づいて前記目標値を設定した場合の吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む所定範囲内の時期にする出力要求領域内にあるときには、前記閉弁時期が前記所定範囲外の時期になるように前記目標値を前記出力要求に基づいて設定される値とは異なる他の値に切り替える目標値切替手段と、前記出力要求の状態が前記出力要求領域外となったときには、前記目標値切替手段にて切り替えられた前記目標値を前記出力要求に基づいて設定される値に復帰させる目標値復帰手段と、前記目標値の切り替え及び復帰に伴う前記開弁期間の変更途中にあって、バルブオーバラップ量が所定の範囲を超えるときには、前記目標値に向けて駆動されている前記リフト量可変機構の駆動速度を変更する変更手段とを備えることをその要旨とする。
同構成では、運転者等による機関への出力要求に基づき、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値を設定した場合に、吸気バルブの閉弁時期が吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む所定範囲内の時期、より詳細にはノッキングが発生するおそれのある範囲内の時期となる出力要求時には、吸気バルブの閉弁時期が所定範囲外の時期になるように、その目標値を出力要求に基づいて設定される値とは異なる他の値に切り替えるようにしている。こうした目標値の切替処理が行われることにより、吸気バルブの閉弁時期が吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングを抑えることができる。また、吸気バルブの閉弁時期が上記所定範囲をまたいで吸気下死点前から吸気下死点後に変化する過程、あるいは同閉弁時期が上記所定範囲をまたいで吸気下死点後から吸気下死点前に変化する過程にあっては、出力要求の変化に合わせて目標値が変更されていく場合と比較して、閉弁時期が吸気下死点付近の上記所定範囲を通過する時間が短くなる。そのため、閉弁時期が吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングについてその発生頻度を抑えることも可能となる。
他方、リフト量可変機構の駆動を通じて吸気バルブの開弁期間を変化させる場合には、吸気バルブの閉弁時期のみならず開弁時期も変化するため、開弁期間の変更に伴って吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバラップ量も変化してしまう。そこで、同構成では、リフト量可変機構の駆動に伴う吸気バルブの開弁時期の変化をバルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償するようにしており、こうした開弁時期の補償処理が行われることにより、リフト量可変機構を駆動して吸気バルブの開弁期間を変更するようにしてもバルブオーバラップ量の変化は抑えることができるようになる。
ところで、上述したような目標値の切替や上記目標値復帰手段による目標値の復帰が行われると、最大リフト量及び開弁期間を変更された目標値に一致させるべく、リフト量可変機構は急速に駆動される。ここで、リフト量可変機構及びバルブタイミング可変機構について、各機構の目標値変化に対する応答速度は異なっていることが多い。特に、リフト量可変機構の応答速度がバルブタイミング可変機構の応答速度よりも速い場合には、開弁期間の変更過程にあって急速に変化する開弁時期に同調した同開弁時期の補償を行うことが困難になるおそれがあり、同変更過程においてはそうした各機構の応答速度の違いに起因してバルブオーバラップ量が増減してしまうおそれがある。
例えば、開弁期間が増大する方向に目標値が切り替えられたときには、同開弁期間の増大に伴う開弁時期の進角側への変化をバルブタイミングの変更で十分に補償するといったことができず、開弁期間の変更途中においてバルブオーバラップ量が一時的に増大してしまうおそれがある。一方、開弁期間が減少する方向に目標値が切り替えられたときには、同開弁期間の減少に伴う開弁時期の遅角側への変化をバルブタイミングの変更で十分に補償するといったことができず、開弁期間の変更途中においてバルブオーバラップ量が一時的に減少してしまうおそれがある。このようにバルブオーバラップ量が過度に増減すると、吸入空気量や内部EGR量が増減するため、目標値の切り替えによる開弁期間の変更過程にあって機関出力は変動してしまうおそれがある。
そこで、同構成では、上記目標値の切り替えや復帰に伴う吸気バルブの開弁期間の変更途中にあって、バルブオーバラップ量が所定の範囲を超えるとき、例えば機関出力の変動を招く程度にバルブオーバラップ量が増減するときには、目標値に向けて駆動されているリフト量可変機構の駆動速度を変更するようにしている。そのため、開弁期間の変更に伴う開弁時期の変化に際して、その変化速度をバルブタイミング可変機構の駆動速度に合わせて変更することが可能となり、同バルブタイミング可変機構による吸気バルブの開弁時期補償を適切に行うことができるようになる。そのため、目標値の切り替えや復帰による開弁期間の変更過程にあってバルブオーバラップ量が過度に増減するといった不都合の発生を抑えることができるようになる。
従って、同構成によれば、リフト量可変機構の駆動に伴う吸気バルブの開弁時期の変化をバルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償する場合にあって、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値を出力要求に基づいた値から他の値に切り替える場合に生じやすい機関出力の変動を好適に抑制することができるようになる。また、他の値に切り替えられた目標値を出力要求に基づいた値に復帰させる場合に生じやすい機関出力の変動も好適に抑制することができるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記変更手段は前記変更速度の変更に際して、前記リフト量可変機構の駆動速度を前記バルブタイミング可変機構の駆動速度よりも遅くすることをその要旨とする。
同構成によれば、開弁期間が増大する方向に上記目標値が切り替えられたときにあって、同開弁期間の増大に伴う開弁時期の進角側への変化をバルブタイミングの変更にて十分に補償することができず、その結果、開弁期間の変更途中におけるバルブオーバラップ量が上記所定の範囲を超えて大きくなったときには、リフト量可変機構の駆動速度がバルブタイミング可変機構の駆動速度よりも遅くされる。従って、開弁時期の進角側への変化速度よりもバルブタイミングの変更による開弁時期の遅角側への変化速度の方が速くなり、増大したバルブオーバラップ量は減少するようになるため、同バルブオーバラップ量は上記所定の範囲内に収まるようになる。
一方、開弁期間が減少する方向に上記目標値が切り替えられたときにあって、同開弁期間の減少に伴う開弁時期の遅角側への変化をバルブタイミングの変更にて十分に補償することができず、その結果、開弁期間の変更途中におけるバルブオーバラップ量が上記所定の範囲を超えて小さくなったときにも、リフト量可変機構の駆動速度がバルブタイミング可変機構の駆動速度よりも遅くされる。従って、開弁時期の遅角側への変化速度よりもバルブタイミングの変更による開弁時期の進角側への変化速度の方が速くなり、減少したバルブオーバラップ量は増大するようになるため、同バルブオーバラップ量は上記所定の範囲内に収まるようになる。
このように、同構成によれば、上記目標値の切り替えや復帰による開弁期間の変更過程にあってバルブオーバラップ量が適切な量となるように制御することができるようになる。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記変更手段は前記変更速度の変更に際して、前記リフト量可変機構の駆動を一時的に停止させることをその要旨とする。
同構成によれば、開弁期間が増大する方向に上記目標値が切り替えられたときにあって、同開弁期間の増大に伴う開弁時期の進角側への変化をバルブタイミングの変更にて十分に補償することができず、その結果、開弁期間の変更途中におけるバルブオーバラップ量が上記所定の範囲を超えて大きくなったときには、リフト量可変機構の駆動が一時的に停止される。このようにリフト量可変機構の駆動が停止されている間は、開弁期間の増大に伴う開弁時期の進角側への変化が停止されるため、開弁時期が進角側に変化することによるバルブオーバラップ量の増大は中断される。そして、このようにバルブオーバラップ量の増大が中断された状態で、バルブタイミングの変更を通じた開弁時期の遅角側への変更が行われるため、増大したバルブオーバラップ量は急速に減少するようになる。そのため、一旦増大したバルブオーバラップ量は上記所定の範囲内に速やかに収まるようになる。
一方、開弁期間が減少する方向に上記目標値が切り替えられたときにあって、同開弁期間の減少に伴う開弁時期の遅角側への変化をバルブタイミングの変更にて十分に補償することができず、その結果、開弁期間の変更途中におけるバルブオーバラップ量が上記所定の範囲を超えて小さくなったときにも、リフト量可変機構の駆動が一時的に停止される。このようにリフト量可変機構の駆動が停止されている間は、開弁期間の減少に伴う開弁時期の遅角側への変化が停止されるため、開弁時期が遅角側に変化することによるバルブオーバラップ量の減少は中断される。そして、このようにバルブオーバラップ量の減少が中断された状態で、バルブタイミングの変更を通じた開弁時期の進角側への変更が行われるため、減少したバルブオーバラップ量は急速に増大するようになる。そのため、一旦減少したバルブオーバラップ量は上記所定の範囲内に速やかに収まるようになる。
このように、同構成によれば、上記目標値の切り替えや復帰による開弁期間の変更過程にあってバルブオーバラップ量が速やかに適切な量となるように制御することができるようになる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記バルブタイミング可変機構は油圧駆動式の機構であり、前記リフト量可変機構は電動式の機構であることをその要旨とする。
電動式の機構は、油圧駆動式の機構と比較して、その応答速度が速い傾向にある。従って、上記リフト量可変機構を電動式の機構とし、上記バルブタイミング可変機構を油圧駆動式の機構とする場合には、リフト量可変機構の応答速度の方がバルブタイミング可変機構の応答速度よりも速くなり、各機構の応答速度の違いに起因した上記不都合が発生しやすくなる。この点、同構成では、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成を備えることにより、リフト量可変機構を電動式の機構とし、バルブタイミング可変機構を油圧駆動式の機構とした場合であっても、各機構の応答速度の違いに起因した上記不都合の発生を抑えることができるようになる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度調整を通じて補償することをその要旨とする。
上述したような目標値の切替処理が実行されると、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値は出力要求に対応した値から他の値に変更されるため、実際の吸入空気量は、出力要求に対応した吸入空気量と異なるようになる。そこで、同構成では、目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度調整を通じて補償するようにしており、これにより上記目標値の切替処理を実行しても、実際の吸入空気量を出力要求に対応した吸入空気量に調量することができるようになる。
請求項6に記載の発明は、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間を可変設定するリフト量可変機構を備える内燃機関に適用され、同機関に対する出力要求に基づいて前記最大リフト量及び開弁期間の目標値を設定し、当該目標値に向けて前記最大リフト量及び開弁期間が変化するように前記リフト量可変機構を駆動制御する内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記出力要求の状態が、同出力要求に基づいて前記目標値を設定した場合の吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む所定範囲内の時期にする出力要求領域内にあるときには、前記閉弁時期が前記所定範囲外の時期になるように前記目標値を前記出力要求に基づいて設定される値とは異なる他の値に切り替える目標値切替手段と、前記目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度調整を通じて補償する空気量補償手段と、前記出力要求の状態が前記出力要求領域外となっており、かつその状態が所定期間継続されていることを条件に、前記目標値切替手段にて切り替えられた前記目標値を前記出力要求に基づいて設定される値に復帰させる目標値復帰手段とを備えることをその要旨とする。
同構成では、運転者等による機関への出力要求に基づき、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値を設定した場合に、吸気バルブの閉弁時期が吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む所定範囲内の時期、より詳細にはノッキングが発生するおそれのある範囲内の時期となる出力要求時には、吸気バルブの閉弁時期が所定範囲外の時期になるように、その目標値を出力要求に基づいて設定される値とは異なる他の値に切り替えるようにしている。こうした目標値の切替処理が行われることにより、吸気バルブの閉弁時期が吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングを抑えることができる。また、吸気バルブの閉弁時期が上記所定範囲をまたいで吸気下死点前から吸気下死点後に変化する過程、あるいは同閉弁時期が上記所定範囲をまたいで吸気下死点後から吸気下死点前に変化する過程にあっては、出力要求の変化に合わせて目標値が変更されていく場合と比較して、閉弁時期が吸気下死点付近の上記所定範囲を通過する時間が短くなる。そのため、閉弁時期が吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングについてその発生頻度を抑えることも可能となる。
また、上述したような目標値の切替処理が実行されると、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値は出力要求に対応した値から他の値に変更されるため、実際の吸入空気量は、出力要求に対応した吸入空気量と異なるようになる。そこで、同構成では、目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度調整を通じて補償するようにしており、こうした空気量の補償処理を行うことにより、上記目標値の切替処理を実行しても、実際の吸入空気量を出力要求に対応した吸入空気量に調量することができるようになる。
ところで、吸気バルブの最大リフト量及び開弁期間の目標値は、上述したような切替条件を満たすとき、すなわち出力要求の状態が、同出力要求に基づいて上記目標値を設定した場合の吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む所定範囲内の時期にする出力要求領域内にあるときに、出力要求に基づいて設定される値とは異なる他の値に切り替えられる。そして、出力要求の状態が上記切替条件を満たす状態から満たさない状態に変化したとき、すなわち出力要求の状態が上記出力要求領域外となったときには、目標値の設定態様を本来の設定態様、すなわち出力要求に基づいて目標値を設定するといった設定態様に復帰させることが望ましい。
ここで、目標値の切替処理が実行されたときに行われる空気量の補償処理では、スロットルバルブの開度調整を通じて吸入空気量が調量される。一方、目標値の設定態様が本来の設定態様に復帰したときには、目標値の切替処理が非実行状態となり、これに伴って空気量の補償処理も中止されて、吸入空気量は最大リフト量及び開弁期間の変更によって調量される。このように、目標値の切替処理についてその実行時と非実行時とでは、吸入空気量の調量態様が大きく異なるため、目標値の切替や復帰が行われた直後にあっては、一時的ではあるものの、同調量態様の切り替えに伴う吸入空気量の変化が発生しやすくなる。従って、出力要求が上記出力要求領域の内外を行き来するように変動し、目標値の切替及び復帰が頻繁に行われてしまうと、その出力要求の変動に合わせて吸入空気量の調量態様も頻繁に切り替えられてしまい、吸入空気量が変動しやすくなってしまう。そして、その結果、機関出力が変動するおそれがある。
そこで、同構成では、出力要求の状態が上記出力要求領域外となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件を満たすときに、上記切替処理にて切り替えられた上記目標値を、出力要求に基づいて設定される値に変更するようにしている。こうした目標値の復帰処理を行うことにより、出力要求が上記出力要求領域外の値となった場合であっても、その状態が継続しなければ目標値の復帰は保留される。従って、出力要求が上記出力要求領域の内外を行き来するように変動する場合でも、吸入空気量の調量態様についてその頻繁な切替は抑えられるようになり、同調量態様の頻繁な切替に伴う機関出力の変動が抑えられるようになる。
従って、同構成によれば、吸気バルブの上記目標値を出力要求に基づいた値から他の値に切り替えたときの吸入空気量の調量態様と、他の値に切り替えられた目標値を出力要求に基づいた値に復帰させた後の同調量態様とが異なる場合にあって、目標値の切替や復帰を行う場合に生じやすい機関出力の変動を好適に抑制することができるようになる。
なお、上記目標値の切替及び復帰が行われるときには、その目標値の変更に追従するべくリフト量可変機構の駆動量は比較的大きくなる。従って、同目標値の切替及び復帰が頻繁に行われると、そうした大駆動量を伴うリフト量可変機構の駆動も頻繁に行われ、当該リフト量可変機構の耐久性が悪化してしまうおそれがある。この点、同構成によれば、そうした目標値の切替及び復帰が頻繁に行われることを抑えることができるため、リフト量可変機構の耐久性の悪化も抑えることができるようになる。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記目標値復帰手段は、前記条件に加え、減速時燃料カットが所定期間継続されていることを条件に前記目標値の復帰を行うことをその要旨とする。
上記復帰処理では、出力要求の状態が上記出力要求領域外となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件を満たすときに、上記目標値を復帰させるようにしている。この場合、出力要求の状態がわずかに出力要求領域外となっている場合でも、その状態が所定期間継続されていれば復帰処理は行われる。従って、復帰処理が行われた後に出力要求がわずかでも増大したときなどでは、直ちに目標値の切替処理が行われるおそれがある。すなわち、復帰処理についてはその頻繁な実行を抑えることができるものの、復帰処理実行後における目標値の切替処理については頻繁に行われるおそれがある。
この点、同構成では、出力要求の状態が上記出力要求領域外となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件、及び減速時燃料カットが所定期間継続されているといった条件を満たすときに上記復帰処理が行われる。このように燃料カットが所定期間継続されている場合には、出力要求が所定期間継続して低い状態になっており、上記の各条件が満たされているときには、出力要求が上記出力要求領域からある程度離れた低い状態になっている。そのため、そうした状態から出力要求がわずかに増大した程度では、同出力要求が速やかに上記出力要求領域に入ることはなく、目標値の切替処理も非実行とされる。従って、同構成によれば、復帰処理が行われた後に出力要求がわずかに増大した程度では、目標値の切替処理が行われることがなく、復帰処理の実行後において、出力要求の変化に起因する目標値の切替処理についてもその頻繁な実行を抑えることができるようになる。
また、減速時の燃料カットが行われているときに上記目標値の復帰処理が行われるため、機関出力を変動させることなく、同目標値を復帰させることも可能となる。
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記内燃機関は吸気バルブのバルブタイミングを可変設定するバルブタイミング可変機構を有し、前記リフト量可変機構の駆動に伴う前記吸気バルブの開弁時期の変化を前記バルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償する開弁時期補償手段を備えることをその要旨とする。
前述したように、リフト量可変機構の駆動を通じて吸気バルブの開弁期間を変化させる場合には、吸気バルブの閉弁時期のみならず開弁時期も変化するため、開弁期間の変更に伴って吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバラップ量も変化してしまう。そこで、同構成では、リフト量可変機構の駆動に伴う吸気バルブの開弁時期の変化をバルブタイミング可変機構の駆動制御を通じて補償するようにしており、こうした開弁時期の補償処理が行われることにより、リフト量可変機構を駆動して吸気バルブの開弁期間を変更するようにしてもバルブオーバラップ量の変化は抑えることができるようになる。
ここで、前述したように、上記目標値の切替及び復帰が行われるときには、その目標値の変更に追従するべくリフト量可変機構の駆動量は比較的大きくなり、そのリフト量可変機構の駆動による吸気バルブの開弁時期の変化に合わせて、バルブタイミング可変機構の駆動量も比較的大きくなる。従って、上記目標値の切替及び復帰が頻繁に行われると、そうした大駆動量を伴うバルブタイミング可変機構の駆動も頻繁に行われ、当該バルブタイミング可変機構の耐久性が悪化してしまうおそれがある。この点、同構成によれば、上記目標値の切替及び復帰が頻繁に行われることを抑えることができるため、バルブタイミング可変機構の耐久性の悪化も抑えることができるようになる。
(第1実施形態)
以下、本発明に係る内燃機関のバルブ特性制御装置を具体化した第1実施形態について、図1〜図11を参照して説明する。
図1に示す内燃機関1では、その燃焼室2に吸気通路3を通じて空気が吸入されるとともに、燃料噴射弁4から噴射された燃料が同燃焼室2に供給される。この空気と燃料とからなる混合気に対し点火プラグ5による点火が行われると、同混合気が燃焼してピストン6が往復移動し、内燃機関1の出力軸であるクランクシャフト7が回転する。そして、燃焼後の混合気は排気として各燃焼室2から排気通路8に送り出される。
内燃機関1において、燃焼室2と吸気通路3との間は吸気バルブ9の開閉動作によって連通・遮断され、燃焼室2と排気通路8との間は排気バルブ10の開閉動作によって連通・遮断される。これら吸気バルブ9及び排気バルブ10については、クランクシャフト7の回転が伝達される吸気カムシャフト11及び排気カムシャフト12の回転に伴い開閉動作する。
内燃機関1は、吸気バルブ9のバルブ特性を可変する可変動弁機構として、吸気カムシャフト11に設けられた油圧駆動式のバルブタイミング可変機構13と、吸気カムシャフト11の吸気バルブ9との間に設けられて電動モータ15にて駆動されるリフト量可変機構14とを備えている。
そのバルブタイミング可変機構13は、クランクシャフト7に対する吸気カムシャフト11の相対回転位相を調節して吸気バルブ9のバルブタイミングVTを変更することで、図2に示されるように、吸気バルブ9の開弁期間INCAMを一定に保持した状態で同吸気バルブ9の開弁時期IVO及び閉弁時期IVCを共に進角又は遅角させるものである。
また、上記リフト量可変機構14は、吸気バルブ9の最大リフト量及び開弁期間INCAMを、図3に示されるように互いに同期して変化させるものであり、最大リフト量VLが大きくなるほど開弁期間INCAMも長くなる。また、リフト量可変機構14の駆動による開弁期間INCAMの増大に際しては、吸気バルブ9の開弁時期IVOが進角側に、閉弁時期IVCが遅角側に移行する。
こうした内燃機関1の各種制御は、自動車に搭載された電子制御装置26によって行われる。電子制御装置26は、内燃機関1の制御にかかる演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えて構成されている。
電子制御装置26の入力ポートには、以下に示す各種センサが接続されている。
・自動車の運転者によって踏み込み操作されるアクセルペダル27の踏み込み量(アクセル踏込量)を検出するアクセルポジションセンサ28。
・吸気通路3に設けられたスロットルバルブ29の開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ30。
・内燃機関1でのノッキング発生の有無を検出するノックセンサ31。
・吸気通路3を通じて燃焼室2に吸入される空気の量を検出するエアフローメータ32。
・クランクシャフト7の回転に対応する信号を出力し、エンジン回転速度の算出等に用いられるクランクポジションセンサ34。
・カムの回転位置に対応した信号を出力するカムポジションセンサ35。
・電動モータ15の駆動量の検出を通じて最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの現状値を検出するリフト量センサ36。
電子制御装置26の出力ポートには、燃料噴射弁4、点火プラグ5、バルブタイミング可変機構13、及びリフト量可変機構14などの駆動回路が接続されている。
そして、電子制御装置26は、上記各種センサから入力した検出信号に基づいて機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に応じて上記出力ポートに接続された各種駆動回路に指令信号を出力する。こうして燃料噴射弁4による燃料噴射量の制御、点火プラグ5の点火時期の制御、吸気バルブ9のバルブタイミングVTの制御、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの制御、及び、スロットルバルブ29の開度制御等が電子制御装置26を通じて実施される。
内燃機関1の点火時期制御では、通常は最も高い機関出力が得られる点火時期への調整が行われ、ノッキングが生じたときには同ノッキング抑制のために点火時期を遅角させることが行われる。この点火時期制御により、機関出力をできる限り高い状態に維持しつつ、ノッキングの発生については抑制されるようになる。
また、内燃機関1の燃料噴射量制御については、1サイクル中に吸気通路3から燃焼室2に吸入される空気の量に対応した燃料を燃料噴射弁4から噴射させるよう、同燃料噴射弁4を駆動することによって実現される。このため、内燃機関1においては、その吸入空気量を多くするほど、燃焼室2に供給される燃料及び空気の量が多くなり、機関出力は高められるようになる。
本実施形態の内燃機関1では、通常はスロットルバルブ29が全開状態に保持され、リフト量可変機構14の駆動による吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの調整を通じて吸入空気量が調節される。より詳細には、アクセル踏込量が大きくなって内燃機関1に対する出力要求が大きくなるほど、上記最大リフト量VL及び開弁期間INCAMは大きくされ、上記出力要求に対応した機関出力が得られるように吸入空気量は増量される。
また、先の図3に示したように、リフト量可変機構14の駆動を通じた吸気バルブ9の開弁期間INCAMの変更に際しては、吸気バルブ9の開弁時期IVO及び閉弁時期IVCがともに変化する。そのため、開弁期間INCAMの変更に伴って吸気バルブ9と排気バルブ10とのバルブオーバラップ量VOLも変化してしまう。そこで、本実施形態では、リフト量可変機構14の駆動に伴う吸気バルブ9の開弁時期IVOの変化をバルブタイミング可変機構13の駆動制御を通じて補償するようにしている。例えば図4に示すように、吸気バルブの最大リフト量VLが大きくなるときには(矢印A)、同吸気バルブ9の開弁時期IVOは進角側へ移行するとともに閉弁時期IVCは遅角側へ移行して、開弁期間INCAMは長くなる。こうした開弁時期IVOの進角側への移行分αに相当する分だけ、バルブタイミングVTを遅角させることにより(矢印B)、最大リフト量VLを大きくしても開弁時期IVOの変化は抑えることができる。
なお、吸気バルブの最大リフト量VLが小さくなるときには、同吸気バルブ9の開弁時期IVOは遅角側へ移行するとともに閉弁時期IVCは進角側へ移行して、開弁期間INCAMは短くなる。このときには、開弁時期IVOの遅角側への移行分に相当する分だけ、バルブタイミングVTを進角させることにより、最大リフト量VLを小さくしても開弁時期IVOの変化は抑えることができる。
このようにバルブタイミング可変機構13の駆動制御を通じた開弁時期の補償処理を行うことにより、図5に示すように、リフト量可変機構14を駆動して吸気バルブ9の開弁期間INCAMを変更するようにしても、バルブオーバラップ量VOLの変化は抑えられるようになる。
次に、内燃機関1の吸入空気量を調量するためのリフト量可変機構14の駆動制御について詳しく説明する。
リフト量可変機構14の駆動制御に際しては、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値が求められる。なお、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMは、上述したように互いに同期して変化するため、ここではリフト量可変機構14を駆動制御するための目標値として最大リフト量の目標値LTが求められる。
この目標値LTは、内燃機関1に対する出力要求の大きさ、より具体的にはアクセル踏込量の大きさに基づいて算出され、そのアクセル踏込量(出力要求)が大きくなるほど大きい値にされる。そして、算出された目標値LTに向けて最大リフト量VLが近づくようにリフト量可変機構14が駆動制御される。これにより、アクセル踏込量(出力要求)に対応した吸入空気量が得られるように、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMは調整される。
ところで、リフト量可変機構14の駆動による最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの変更を通じて吸入空気量を調量する場合、アイドル運転時などのように内燃機関1に対する出力要求が小さい低負荷運転時には要求される吸入空気量が少ないことから、上記目標値LTは小さい値にされる。そしてその目標値LTに基づき最大リフト量VL及び開弁期間INCAMも小さくされる。図6に、このときの吸気バルブ9の開弁態様を示す。同図6に示すように、このときの吸気バルブ9の閉弁時期IVCは、開弁期間INCAMの縮小に伴い、吸気下死点(BDC)よりも前の時期(tC1)になる。
また、内燃機関1に対する出力要求が大きい高負荷高回転運転時には、必要とされる吸入空気量が多くなることから上記目標値LTはより大きな値にされ、それに基づき最大リフト量VL及び開弁期間INCAMも大きくされる。このときの吸気バルブ9の閉弁時期IVCは、先の図6に示すように、開弁期間INCAMの伸長に伴い、吸気下死点(BDC)よりも後の時期(tC2)になる。
この状態にあって、加速要求などにより内燃機関1に対する出力要求が増大し、機関運転状態が高負荷高回転運転に移行するときには、その出力要求の増大に応じて目標値LTは大きくされ、その目標値LTに対応して最大リフト量VL及び開弁期間INCAMが大きくなるようにリフト量可変機構14は駆動される。こうした開弁期間INCAMの増大によって、吸気バルブ9の閉弁時期IVCは、吸気下死点前の時期(tC1)から吸気下死点後の時期(tC2)へと変化する。
このように、リフト量可変機構14の駆動制御を通じた吸入空気量の調量では、出力要求の増大に伴って、換言すれば機関負荷の増大に伴って閉弁時期IVCが、吸気下死点前の時期(tC1)から吸気下死点後の時期(tC2)へと変化する。従って、機関運転状態が中負荷状態となっているときには、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが吸気下死点付近の時期になることがある。また、出力要求の変化に対応して閉弁時期IVCが吸気下死点前から吸気下死点後に変化する過程、あるいは閉弁時期IVCが吸気下死点後から吸気下死点前に変化する過程でも、一時的ではあるものの、同閉弁時期IVCが吸気下死点付近となる期間が存在する。
ここで、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが、先の図6に示す吸気下死点付近の範囲H内にあるときには、実圧縮比が高くなることなどからノッキングが発生しやすくなり、点火時期の遅角補正が比較的高い頻度で行われる可能性がある。従って、閉弁時期IVCが吸気下死点付近となるときには、点火時期遅角に起因する機関出力の低下が起きるおそれがある。
そこで本実施形態では、出力要求の状態が、同出力要求に基づいて上記目標値LTを設定した場合に、吸気バルブ9の閉弁時期IVCを吸気下死点付近であって同吸気下死点を含む上記範囲H内の時期としてしまうような出力要求領域K内にあるときには、次の目標値切替処理を行う。そしてこの目標値切替処理を行うことで、上述したようなノッキングの発生を抑え、これにより機関出力の低下を抑えるようにしている。
すなわち、出力要求に基づいて設定される目標値LTを他の値に切り替える処理を行い、閉弁時期IVCが上記範囲H外の時期となるようにする。例えば、出力要求の状態がそうした出力要求領域K内にあるときには、図6に示すように、開弁期間INCAMを増大させて閉弁時期IVCが上記範囲Hよりも遅角側のタイミングtC3となるように、最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値を一気に変更する。
図7に、出力要求が変化するときの閉弁時期IVCについて、上述した目標値の切替処理を行う場合の変化態様を示す。この図7に示すように、出力要求が増大するにつれて目標値LTは大きくなり、これに伴う開弁期間INCAMの増大によって閉弁時期IVCは遅角側に移行する。そして、出力要求が増大し続けて上記出力要求領域Kの下限値Kminに達すると、それまで出力要求に基づいて設定されてきた目標値LTが、吸気バルブ9の閉弁時期IVCを上記タイミングtC3とするノック抑制目標値LTkに切り替えられる。そして、出力要求が上記出力要求領域Kの上限値Kmaxに達すると、ノック抑制目標値LTkは、出力要求に基づいて設定される上記目標値LTに徐々に変更されていく。これにより吸気バルブ9の閉弁時期IVCは、上記範囲Hよりも遅角側の時期であって、目標値LTにて設定される閉弁時期に近づいていく。
また、出力要求が低下してその状態が上記出力要求領域Kよりも外側の領域になったときには、上記切替処理にて切り替えられた最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値を、ノック抑制目標値LTkから出力要求に基づいて設定される目標値LTに復帰させる復帰処理が行われる。
こうした目標値の切替処理を行うことにより、出力要求の状態が上記出力要求領域K内となっているときには、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが上記タイミングtC3に設定されるため、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングを抑えることができる。
また、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが上記範囲Hをまたいで吸気下死点前から吸気下死点後に変化する過程、或いは同閉弁時期IVCが上記範囲Hをまたいで吸気下死点後から吸気下死点前に変化する過程では、出力要求の変化に合わせて目標値LTが変化する場合と比較して(図7の二点鎖線)、閉弁時期IVCが範囲Hを通過する時間が短くなる。そのため、閉弁時期IVCが吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングについてその発生頻度を抑えることも可能となる。
なお、上述したような目標値の切替処理を実行すると、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値は、出力要求に対応した目標値LTから他のノック抑制目標値LTkに変更されるため、実際の吸入空気量は、出力要求に対応した吸入空気量と異なるようになる。そこで、本実施形態では、目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化を、スロットルバルブ29の開度調整を通じて補償するようにしており、こうした空気量の補償処理を行うことにより、上記目標値の切替処理を実行しても、実際の吸入空気量が出力要求に対応した吸入空気量となるようにしている。
より詳細には、切替処理の実行中におけるノック抑制目標値LTkは、出力要求に基づいて設定される目標値LTよりも開弁期間INCAMや最大リフト量VLを増大させる値である。従って、リフト量可変機構14がノック抑制目標値LTkで制御されているときは、実際の吸入空気量が出力要求に対応した吸入空気量よりも多くなる。そこで、先の図7に示すように、出力要求が上記出力要求領域K内にあって切替処理が実行されているときは、吸入空気量が出力要求に対応した量となるように、スロットルバルブ29の開度が全開よりも閉じ側で制御される。
ところで、上述したような目標値の切替処理や復帰処理が行われると、最大リフト量VL及び開弁期間INCAMを変更された目標値に一致させるべく、リフト量可変機構14は急速に駆動される。ここで上記リフト量可変機構14は電動式の機構であり、上記バルブタイミング可変機構13は油圧駆動式の機構であるため、各機構の目標値変化に対する応答速度はリフト量可変機構14の方が速くなっている。そのため、開弁期間INCAMの変更過程にあって急速に変化する開弁時期IVOに同調させて同開弁時期IVOの補償を行うことは困難になるおそれがあり、同変更過程においては各機構の応答速度の違いに起因してバルブオーバラップ量VOLが増減してしまうおそれがある。
例えば、図8に示すように、目標値LTがノック抑制目標値LTkに切り替えられて、開弁期間INCAMが増大するときには、その開弁期間INCAMの増大に伴う開弁時期IVOの進角側への変化をバルブタイミングVTの遅角側への変更を通じて補償する処理が行われる。ここで、リフト量可変機構14の応答速度とバルブタイミング可変機構13の応答速度が同じであれば、二点鎖線にて示すように、開弁時期IVOの変化に同期させてバルブタイミングVTを遅角させることができ、もって開弁期間INCAMの増大に伴う開弁時期IVOの進角側への変化を十分に補償することができる。しかし、実際には、バルブタイミング可変機構13の応答速度がリフト量可変機構14の応答速度よりも遅いため、開弁時期IVOの進角速度に対してバルブタイミングVTの遅角速度が追いつかず、図9に示すように、開弁期間INCAMの増大側への変更途中においてバルブオーバラップ量VOLが一時的に増大してしまうおそれがある。
一方、出力要求が上記下限値Kminよりも小さくなり、最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値が上記目標値LTに復帰するときには、開弁期間INCAMの減少に伴う開弁時期IVOの遅角側への変化が、バルブタイミングVTの進角側への変更を通じて補償される。この補償処理に際しても、リフト量可変機構14の応答速度とバルブタイミング可変機構13の応答速度が同じであれば、開弁時期IVOの変化に同期させてバルブタイミングVTを進角させることができ、もって開弁期間INCAMの減少に伴う開弁時期IVOの遅角側への変化を十分に補償することができる。しかし、実際には、バルブタイミング可変機構13の応答速度がリフト量可変機構14の応答速度よりも遅いため、開弁時期IVOの遅角速度に対してバルブタイミングVTの進角速度が追いつかず、開弁期間INCAMの減少側への変更途中においてバルブオーバラップ量VOLが一時的に減少してしまうおそれがある。
このようにバルブオーバラップ量VOLが増減すると、吸入空気量や内部EGR量が増減するため、目標値LTの切り替えや復帰に起因する開弁期間INCAMの変更過程にあって機関出力が変動してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、上記目標値の切り替えや復帰に伴う開弁期間INCAMの変更途中にあって、バルブオーバラップ量VOLが所定の範囲を超えるとき、例えば機関出力の変動を招く程度にバルブオーバラップ量VOLが増減するときには、目標値に向けて駆動されているリフト量可変機構14の駆動速度を変更する処理を行うようにしている。
図10に、リフト量可変機構14の駆動速度を変更する速度変更処理についてその処理手順を示す。なお、この処理は、上記切替処理が実行されて最大リフト量VLがノック抑制目標値LTkに達するまで、あるいは上記復帰処理が実行されて最大リフト量VLが目標値LTに達するまで、電子制御装置26によって繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、実開弁時期IVOrが読み込まれる(S100)。この実開弁時期IVOrは、吸気バルブ9の開弁時期IVOの現状値であり、カムポジションセンサ35の検出信号に基づいて算出されるバルブタイミングVTの現状値、及びリフト量センサ36の検出信号に基づいて算出される開弁期間INCAMの現状値等に基づいて算出される。
そして、排気バルブ10の閉弁時期EVC及び吸気バルブ9の実開弁時期IVOrに基づいて、バルブオーバラップ量VOLの現状値が算出される(S110)。なお、本実施形態では、排気バルブ10にバルブ特性を可変とする機構が設けられていないため上記閉弁時期EVCは一定であるが、排気バルブ10にバルブ特性を可変とする機構が設けられている場合には、上記実開弁時期IVOrの算出と同様な態様で閉弁時期EVCの現状値を算出すればよい。
次に、機関運転状態に基づいて設定される目標バルブオーバラップ量VOLpと算出されたバルブオーバラップ量VOLの現状値との差ΔVOLが算出され(S120)、この差ΔVOLが判定値β以上であるか否かが判定される(S130)。この判定値βには、目標バルブオーバラップ量VOLpに対して機関出力の変動を招く程度にバルブオーバラップ量VOLの現状値が乖離しているか否かを判定することのできる値が設定されている。
そして、差ΔVOLが判定値β以上である場合には(S130:YES)、リフト量可変機構14の駆動が停止されて(S140)、本処理は一旦終了される。
一方、差ΔVOLが判定値βに満たない場合には(S130:NO)、現在、先のステップS140の処理によってリフト量可変機構14の駆動が停止されているか否かが判定される(S150)。そして、リフト量可変機構14の駆動が停止されていない場合には(S150:NO)、リフト量可変機構の駆動が継続して行われ(S170)、本処理は一旦終了される。
ステップS150にて、リフト量可変機構14の駆動が停止されている旨判定される場合には(S150:YES)、差ΔVOLが判定値γ以下であるか否かが判定される(S160)。本実施形態では、この判定値γが「0」に設定されているが、上記判定値βよりも小さい値であればこの判定値γの値は適宜変更することができる。
そして、差ΔVOLが判定値γ以下である場合には(S160:YES)、目標バルブオーバラップ量VOLpとバルブオーバラップ量VOLの現状値とが一致しているため、リフト量可変機構14の駆動が再開されて(S170)、本処理は一旦終了される。
一方、差ΔVOLが判定値γよりも大きい場合には(S160:NO)、目標バルブオーバラップ量VOLpとバルブオーバラップ量VOLの現状値とが未だ乖離しているため、リフト量可変機構14の駆動停止状態が維持されて、本処理は一旦終了される。
図11に、上記の目標値切替処理が実行されて開弁期間INCAMが増大する場合にあって、上記速度変更処理を実行したときのバルブオーバラップ量の差ΔVOLの変化態様について、その一例を示す。
時刻t1において開弁期間INCAMの増大が開始されると、リフト量可変機構14はノック抑制目標値LTkに向けて駆動され、吸気バルブ9の開弁時期IVOは進角側に移行するとともに、その開弁時期IVOの進角側への移行に同調してバルブタイミングVTは遅角側に変更される。この開弁期間INCAMの増大過程にあっては、リフト量可変機構14の応答速度がバルブタイミング可変機構の応答速度よりも速いため、開弁時期IVOの進角速度がバルブタイミングVTの遅角速度を上回り、その結果、差ΔVOLは増大していく。そして、時刻t2において、差ΔVOLが判定値βに達するとリフト量可変機構14の駆動は停止される。
このようにリフト量可変機構14の駆動が停止されると、同開弁期間INCAMの増大に伴う開弁時期IVOの進角側への変化が停止されるため、開弁時期IVOが進角側に変化することによるバルブオーバラップ量VOLの増大、換言すれば差ΔVOLの増大は中断される。そして、このようにバルブオーバラップ量VOLの増大が中断された状態で、バルブタイミングVTの変更を通じた開弁時期IVOの遅角側への変更は継続して行われるため、増大したバルブオーバラップ量VOLは急速に減少するようになる。そのため、一旦増大した差ΔVOLも減少するようになり、目標バルブオーバラップ量VOLpに対するバルブオーバラップ量VOLの乖離は判定値βよりも小さくなって、同バルブオーバラップ量VOLは、機関出力の変動発生を抑えることが可能な範囲内の値に速やかに収まるようになる。
そして、リフト量可変機構14の駆動停止による差ΔVOLの減少が進行し、判定値γ以下になると、すなわち差ΔVOLが「0」になると(時刻t3)、リフト量可変機構14の駆動が再開される。そしてその後も、差ΔVOLが判定値βに達するとリフト量可変機構14の駆動停止が行われ(時刻t4,t6)、差ΔVOLが「0」になると(時刻t3,t5)リフト量可変機構14の駆動が再開される。
このようにバルブタイミング可変機構13は連続して駆動される一方、リフト量可変機構14は駆動停止及び駆動再開を繰り返しながら駆動されることにより、目標値の切替処理による開弁期間INCAMの増大過程において、バルブオーバラップ量VOLが速やかに適切な量となるように制御することができるようになる。
なお、上記の目標値復帰処理が実行されて開弁期間INCAMが減少する場合には、同開弁期間INCAMの減少が開始されることで、吸気バルブ9の開弁時期IVOは遅角側に移行するとともに、その開弁時期IVOの遅角側への移行に同調してバルブタイミングVTは進角側に変更される。この開弁期間INCAMの減少過程にあっても、リフト量可変機構14の応答速度がバルブタイミング可変機構の応答速度よりも速いため、開弁時期IVOの遅角速度がバルブタイミングVTの進角速度を上回り、その結果、差ΔVOLは増大していくが、同差ΔVOLが判定値βに達した時点でリフト量可変機構14の駆動は停止される。
このようにリフト量可変機構14の駆動が停止されると、開弁期間INCAMの減少に伴う開弁時期IVOの遅角側への変化が停止されるため、開弁時期IVOが遅角側に変化することによるバルブオーバラップ量VOLの減少は中断され、これにより差ΔVOLの増大も中断される。そして、このようにバルブオーバラップ量VOLの減少が中断された状態で、バルブタイミングVTの変更を通じた開弁時期IVOの進角側への変更は継続して行われるため、減少したバルブオーバラップ量VOLは急速に増大するようになる。そのため、一旦増大した差ΔVOLも減少するようになり、目標バルブオーバラップ量VOLpに対するバルブオーバラップ量VOLの乖離は判定値βよりも小さくなって、同バルブオーバラップ量VOLは、機関出力の変動発生を抑えることが可能な範囲内の値に速やかに収まるようになる。
そして、リフト量可変機構14の駆動停止による差ΔVOLの減少が進行し、判定値γ以下になると、すなわち差ΔVOLが「0」になると、リフト量可変機構14の駆動が再開される。そしてその後も、差ΔVOLが判定値βに達するとリフト量可変機構14の駆動停止が行われ、差ΔVOLが「0」になるとリフト量可変機構14の駆動が再開される。
このように目標値の復帰処理が実行された場合でも、バルブタイミング可変機構13は連続して駆動される一方、リフト量可変機構14は駆動停止及び駆動再開を繰り返しながら駆動されることにより、開弁期間INCAMの減少過程において、バルブオーバラップ量VOLが速やかに適切な量となるように制御することができるようになる。
ちなみに、上記速度変更処理を行うと、リフト量可変機構14は駆動停止及び駆動再開を繰り返しながら駆動されるため、同速度変更処理を行わない場合と比較して、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが上記範囲Hを通過する時間は長くなる。しかし、少なくともバルブタイミング可変機構13の応答速度に合わせてリフト量可変機構14は極力速やかに駆動されるため、上述したような目標値の切替処理を行わない場合よりは、同閉弁時期IVCが上記範囲Hを通過する時間は短くなる。従って、上述したようなノッキングの発生を極力抑えつつ、バルブオーバラップ量VOLを適切に制御することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(1)出力要求に基づいて吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値を設定した場合に、吸気バルブ9の閉弁時期IVCがノッキングの発生するおそれがある上記範囲H内の時期となる出力要求時には、次の処理を行うようにしている。すなわち、同目標値を出力要求に基づいて設定される目標値LT値とは異なるノック抑制目標値LTkに切り替えて、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが範囲H外の時期となるようにしている。
従って、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングを抑えることができる。また、吸気バルブ9の閉弁時期IVCが上記範囲Hをまたいで吸気下死点前から吸気下死点後に変化する過程、或いは同閉弁時期IVCが上記範囲Hをまたいで吸気下死点後から吸気下死点前に変化する過程では、出力要求の変化に合わせて目標値LTが変化する場合と比較して、閉弁時期IVCが吸気下死点付近の範囲Hを通過する時間が短くなる。そのため、閉弁時期IVCが吸気下死点付近となることで発生するおそれのあるノッキングについてその発生頻度を抑えることも可能となる。
(2)リフト量可変機構14の駆動を通じて吸気バルブ9の開弁期間INCAMを変化させる場合には、吸気バルブ9の閉弁時期IVCのみならず開弁時期IVOも変化するため、開弁期間INCAMの変更に伴って吸気バルブ9と排気バルブ10とのバルブオーバラップ量VOLも変化してしまう。そこで、リフト量可変機構14の駆動に伴う吸気バルブ9の開弁時期IVOの変化をバルブタイミング可変機構13の駆動制御を通じて補償するようにしている。こうした開弁時期の補償処理を行うことにより、リフト量可変機構14を駆動して吸気バルブ9の開弁期間INCAMを変更する際のバルブオーバラップ量VOLの変化を抑えることができるようになる。
(3)吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMについてその目標値の切り替えや復帰に伴う同吸気バルブ9の開弁期間INCAMの変更途中にあって、バルブオーバラップ量VOLが所定の範囲を超えるときには、目標値に向けて駆動されているリフト量可変機構14の駆動速度を変更するようにしている。より詳細には、目標バルブオーバラップ量VOLpとバルブオーバラップ量VOLの現状値との差ΔVOLが判定値βを超えるときには、リフト量可変機構14の駆動速度を変更するようにしている。そのため、開弁期間INCAMの変更に伴う開弁時期IVOの変化に際して、その変化速度をバルブタイミング可変機構13の駆動速度に合わせて変更することが可能となり、同バルブタイミング可変機構13による吸気バルブ9の開弁時期補償を適切に行うことができるようになる。そのため、上記目標値の切り替えや復帰による開弁期間INCAMの変更過程にあってバルブオーバラップ量VOLが過度に増減するといった不都合の発生を抑えることができる。
従って、リフト量可変機構14の駆動に伴う開弁時期IVOの変化をバルブタイミング可変機構13の駆動制御を通じて補償する場合にあって、最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値を出力要求に基づいた目標値LTからノック抑制目標値LTkに切り替えるときに生じやすい機関出力の変動を好適に抑制することができるようになる。また、ノック抑制目標値LTkに切り替えられた上記目標値を出力要求に基づいて設定される目標値LTに復帰させるときに生じやすい機関出力の変動も好適に抑制することができるようになる。
(4)リフト量可変機構14の駆動速度を変更する際には、同リフト量可変機構14の駆動を一時的に停止させるようにしている。従って、上記目標値の切り替えや復帰による開弁期間INCAMの変更過程にあって、バルブオーバラップ量が速やかに適切な量となるように制御することができるようになる。
(5)油圧駆動式のバルブタイミング可変機構13と電動式のリフト量可変機構とを備える内燃機関1にあって、上述したような目標値の切替や復帰を行うようにしている。ここで、電動式の機構は、油圧駆動式の機構と比較して、その応答速度が速い傾向にある。そのため、上記リフト量可変機構14を電動式の機構とし、上記バルブタイミング可変機構13を油圧駆動式の機構とする場合には、リフト量可変機構14の応答速度の方がバルブタイミング可変機構13の応答速度よりも速くなり、各機構の応答速度の違いに起因した上記不都合が発生しやすくなる。この点、上記速度変更処理を実行することにより、リフト量可変機構14を電動式の機構とし、バルブタイミング可変機構13を油圧駆動式の機構とした場合であっても、各機構の応答速度の違いに起因した上記不都合の発生を抑えることができるようになる。
(6)上述したような目標値の切替処理が実行されると、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値は出力要求に対応した値から他の値に変更されるため、実際の吸入空気量は、出力要求に対応した吸入空気量と異なるようになる。そこで、本実施形態では、上記目標値の切り替えに伴う吸入空気量の変化をスロットルバルブ29の開度調整を通じて補償するようにしており、これにより上記目標値の切替処理を実行しても、実際の吸入空気量を出力要求に対応した吸入空気量に調量することができるようになる。
(第2実施形態)
次に、本発明に係る内燃機関のバルブ特性制御装置を具体化した第2実施形態について、図12及び図13を参照して説明する。
上記第1実施形態では、先の図7に示したように、出力要求が上記出力要求領域Kの下限値Kminに達すると、それまで出力要求に基づいて設定されてきた目標値LTを、吸気バルブ9の閉弁時期IVCを上記タイミングtC3とするノック抑制目標値LTkに切り替えるようにした。また、出力要求が上記出力要求領域Kよりも外側の領域になったとき、すなわち出力要求が先の図7に示した下限値Kminよりも小さくなったときには、上記切替処理にて切り替えられた最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値を、ノック抑制目標値LTkから出力要求に基づいて設定される目標値LTに復帰させるようにした。
ここで、目標値の切替処理が実行されたときには、上述した空気量の補償処理が行われて、スロットルバルブ29の開度調整によって吸入空気量が調量される。一方、目標値の設定態様が本来の設定態様に復帰したときには、目標値の切替処理が非実行状態となり、これに伴って空気量の補償処理も中止されて、吸入空気量は、リフト量可変機構14による最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの変更によって調量される。
このように、目標値の切替処理についてその実行時と非実行時とでは、吸入空気量の調量態様が大きく異なるため、目標値の切替や復帰が行われた直後にあっては、一時的ではあるものの、同調量態様の切り替えに伴う吸入空気量の変化が発生しやすくなる。従って、アクセル操作量が増加及び減少を繰り返す場合などには、出力要求が上記出力要求領域Kの内外を行き来するように、即ち出力要求が上記下限値Kminをまたぐように変動するため、この変動に伴って目標値の切替及び復帰が頻繁に行われてしまう。そのため、出力要求の変動に合わせて吸入空気量の調量態様も頻繁に切り替えられてしまい、吸入空気量が変動しやすくなってしまう。そして、その結果、機関出力が変動するおそれがある。
また、上記目標値の切替及び復帰が行われるときには、その目標値の変更に追従するべくリフト量可変機構14の駆動量は比較的大きくなる。従って、同目標値の切替及び復帰が頻繁に行われると、そうした大駆動量を伴うリフト量可変機構14の駆動も頻繁に行われ、当該リフト量可変機構14の耐久性が悪化してしまうおそれがある。
また、第1実施形態では、上述したように開弁時期の補償処理も行うようにしているため、そうしたリフト量可変機構14の駆動による吸気バルブ9の開弁時期IVOの変化に合わせて、バルブタイミング可変機構13の駆動量も比較的大きくなる。従って、上記目標値の切替及び復帰が頻繁に行われると、大駆動量を伴うバルブタイミング可変機構13の駆動も頻繁に行われ、当該バルブタイミング可変機構13の耐久性も悪化してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、目標値の復帰条件を以下のように設定することにより、そうした目標値の切替及び復帰が頻繁に行われることを抑えるようにしており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。そこで以下では、その相違点を中心に、本実施形態にかかるバルブ特性制御装置を説明する。
まず、目標値の復帰条件としては、次の各条件(a)、(b)が設定されており、それら各条件がともに満たされる場合に目標値の復帰が行われる。
条件(a).出力要求が上記出力要求領域Kよりも外側の値となっている状態が所定期間継続されている、より具体的には現在の出力要求が上記下限値Kmin未満となっている状態が所定期間継続されている。
なお、出力要求が下限値Kmin未満となっている状態では、機関運転状態が低回転状態、あるいは低負荷状態となっている。従って、機関回転速度が下限値Kminに相当する程度の回転速度よりも低くなっている状態、あるいは機関負荷が下限値Kminに相当する程度の負荷よりも低くなっている状態が所定期間継続されている場合に、条件(a)は満たされていると判定するようにしてもよい。
こうした条件(a)を設定することにより、次のような効果が得られる。すなわち、出力要求が下限値Kmin未満となった場合であっても、その状態が継続しなければ目標値の復帰は保留されるようになる。従って、吸入空気量の調量態様についてその頻繁な切替が抑えられるようになる。このため、同調量態様の頻繁な切替に伴う機関出力の変動も抑えられるようになるとともに、リフト量可変機構14及びバルブタイミング可変機構13の耐久性の悪化も抑えられるようになる。
条件(b).減速時の燃料カットが所定期間継続されている。
こうした、上記条件(b)及び(a)がともに満たされているときに目標値を復帰させることにより、次のような効果が得られる。すなわち、上記条件(a)では、出力要求が下限値Kmin未満となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件を満たすときに、上記目標値を復帰させるようにしている。この場合、出力要求が下限値Kminよりもわずかに小さくなっている状態であっても、その状態が所定期間継続されていれば復帰処理は行われる。従って、復帰処理が行われた後に出力要求がわずかに増大した程度でも、同出力要求は下限値Kminを超えてしまい、直ちに目標値の切替処理が行われてしまうおそれがある。すなわち、復帰処理についてはその頻繁な実行を抑えることができるものの、出力要求の状態によっては、復帰処理実行後における目標値の切替処理が頻繁に行われるおそれがある。
この点、本実施形態では、出力要求が下限値Kmin未満となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件(a)、及び減速時燃料カットが所定期間継続されているといった条件(b)をともに満たすときに上記復帰処理が行われる。このように燃料カットが所定期間継続されている場合には、出力要求が所定期間継続して低い状態になっているため、各条件(a)、(b)が満たされているときには、出力要求が上記出力要求領域Kからある程度離れた低い状態になっている。そのため、そうした状態から出力要求がわずかに増大した程度では、同出力要求が速やかに上記出力要求領域Kに入ることはなく、目標値の切替処理も非実行とされる。従って、復帰処理の実行後において、出力要求の変化に起因する目標値の切替処理についてもその頻繁な実行を抑えることができる。
また、減速時の燃料カットが行われているときに上記目標値の復帰処理が行われるため、機関出力を変動させることなく、同目標値を復帰させることも可能となる。
次に、図12を併せ参照して、本実施形態における目標値の復帰処理についてその手順を説明する。なお、この処理は、目標値の切替処理が行われており、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMの目標値がノック抑制目標値LTkに設定されている間、電子制御装置26によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、タイマTの計測開始条件が成立しているか否かが判定される(S200)。ここでは、現在の出力要求が上記下限値Kmin未満であって、かつ減速時の燃料カットが実行されている場合に計測開始条件が成立している旨判定される。そして、計測開始条件が成立していない場合には(S200:NO)、タイマTがリセットされた後(S250)、本処理は一旦終了される。
一方、計測開始条件が成立している場合には(S200:YES)、計測開始条件が連続して成立している時間を示すタイマTがカウントされる(S210)。そして、現在のタイマTが判定値Ta以上であるか否かが判定される(S220)。この判定値Taは、上記各条件(a)、(b)における所定期間に相当しており、目標値の切替や復帰が頻繁に行われることを抑えることのできる値が設定されている。
ステップS220にて、タイマTが判定値Taに満たない旨判定される場合には(S220:NO)、本処理は一旦終了される。そして、その後本処理が再び実行されてタイマTの計測開始条件が成立していると判定されるたびにタイマTの値は増大していく。そして、ステップS220にて、タイマTが判定値Ta以上である旨判定される場合には(S220:YES)、上記各条件(a)及び(b)がともに成立しているため、目標値の復帰処理が行われるとともに(S230)、タイマTはリセットされて(S240)、本処理は終了される。
図13に、上記目標値の切替処理及び復帰処理が実行されるときの吸気バルブ9の閉弁時期IVCの変化態様について、その一例を示す。
この図13に示すように、出力要求が増大して上記下限値Kminに達すると、速やかに目標値の切替処理が行われて閉弁時期IVCは大きく遅角される。また、目標値の切替処理が実行されることにより、吸入空気量の調量は、リフト量可変機構14による調量からスロットルバルブ29による調量に変更される。
一方、出力要求が低下し、同出力要求が出力要求領域Kよりも外側であって下限値Kminよりも低い値になっても速やかに目標値の復帰処理は行われず、上記各条件(a)及び(b)がともに成立してから目標値の復帰処理が行われる。この図13に示す場合には、出力要求が下限値Kminからある程度乖離した状態になってから、二点鎖線にて示すように目標値の復帰処理が行われて、吸入空気量の調量は、スロットルバルブ29による調量からリフト量可変機構14による調量に変更される。このように上記復帰処理を行うことにより、目標値の切替処理を要求する出力要求と目標値の復帰処理を要求する出力要求との間には、いわばヒステリシスが設けられるようになり、これにより出力要求の変動に起因する目標値の切替及び復帰の頻繁な実行が抑えられる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態にて得られる作用効果に加えて、更に次の作用効果を得ることもできる。
(7)出力要求の状態が上記下限値Kmin未満となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件を満たすときに、上記切替処理にて切り替えられたノック抑制目標値LTkを、出力要求に基づいて設定される目標値LTに復帰させるようにしている。そのため、出力要求が下限値Kmin未満となった場合であっても、その状態が継続しなければ目標値の復帰は保留される。従って、出力要求が下限値Kminをまたいで変動する場合でも、吸入空気量の調量態様についてその頻繁な切替は抑えられるようになり、同調量態様の頻繁な切替に伴う機関出力の変動は抑えられるようになる。
従って、吸気バルブ9の最大リフト量VL及び開弁期間INCAMについてその目標値を切り替えたときの吸入空気量の調量態様と、同目標値を復帰させた後の同調量態様とが異なる場合にあって、目標値の切替や復帰を行う場合に生じやすい機関出力の変動を好適に抑制することができるようになる。
(8)また、目標値の切替及び復帰が頻繁に行われることを抑えることができるため、リフト量可変機構14の耐久性の悪化を抑えることができるようになる。
(9)同様に、目標値の切替及び復帰が頻繁に行われることを抑えることができるため、バルブタイミング可変機構13の耐久性の悪化を抑えることも可能となる。
(10)出力要求の状態が上記下限値Kmin未満となっており、かつその状態が所定期間継続されているといった条件に加え、減速時燃料カットが所定期間継続されていることを条件に目標値の復帰を行うようにしている。従って、復帰処理が行われた後に出力要求がわずかに増大した程度では、目標値の切替処理が行われることがなく、これにより復帰処理の実行後において、出力要求の変化に起因する目標値の切替処理についてもその頻繁な実行を抑えることができるようになる。
また、減速時の燃料カットが行われているときに上記目標値の復帰処理が行われるため、機関出力を変動させることなく、同目標値を復帰させることも可能となる。
なお、上記各実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・第1実施形態において、リフト量可変機構14の駆動速度を変更する際には、同リフト量可変機構14の駆動を一時的に停止されるようにした。この他、リフト量可変機構14の駆動は継続させたままその駆動速度をバルブタイミング可変機構13の駆動速度よりも遅くするようにしてもよい。
この場合には、開弁期間INCAMの増大過程においてバルブオーバラップ量VOLが上述したような態様で増大し、上記差ΔVOLが上記判定値β以上となったときには、リフト量可変機構14の駆動速度がバルブタイミング可変機構13の駆動速度よりも遅くされる。従って、開弁時期IVOの進角側への変化速度よりもバルブタイミングVTの変更による開弁時期IVOの遅角側への変化速度の方が速くなり、増大したバルブオーバラップ量VOLは減少するようになるため、この場合にもバルブオーバラップ量VOLは機関出力の変動発生を抑えることが可能な範囲内の値に収まるようになる。
一方、開弁期間INCAMの減少過程においてバルブオーバラップ量VOLが上述したような態様で減少し、上記差ΔVOLが上記判定値β以上となったときにも、リフト量可変機構14の駆動速度はバルブタイミング可変機構13の駆動速度よりも遅くされる。従って、開弁時期IVOの遅角側への変化速度よりもバルブタイミングVTの変更による開弁時期IVOの進角側への変化速度の方が速くなり、減少したバルブオーバラップ量VOLは増大するようになる。そのため、この場合にもバルブオーバラップ量VOLは機関出力の変動発生を抑えることが可能な範囲内の値に収まるようになる。なお、この変形例にあっては、第1実施形態と比較して、増大したバルブオーバラップ量VOLを減少させる速度、或いは減少したバルブオーバラップ量VOLを増大させる速度については低下するものの、リフト量可変機構14の駆動は継続して行われるため、場合によっては、開弁期間INCAMの変更時間を短くすることも可能である。
・第2実施形態においては、バルブタイミング可変機構13を省略するようにしても同第2実施形態で説明した(7)、(8)、及び(10)の効果を得ることができる。
・第2実施形態における復帰条件のうち、条件(b)を省略してもよい。この場合でも同第2実施形態で説明した(7)に記載の効果を得ることができる。
・上記各実施形態では、油圧駆動式のバルブタイミング可変機構13及び電動式のリフト量可変機構14の駆動を制御するバルブ特性制御装置に、本発明を適用した場合について説明したが、各機構の駆動形式はそれらに限定されるものではない。リフト量可変機構14の応答速度がバルブタイミング可変機構13の応答速度よりも速くなるような駆動形式にて各機構が駆動されるものであれば、本発明は同様に適用することができる。
1…内燃機関、2…燃焼室、3…吸気通路、4…燃料噴射弁、5…点火プラグ、6…ピストン、7…クランクシャフト、8…排気通路、9…吸気バルブ、10…排気バルブ、11…吸気カムシャフト、12…排気カムシャフト、13…バルブタイミング可変機構、14…リフト量可変機構、15…電動モータ、26…電子制御装置、27…アクセルペダル、28…アクセルポジションセンサ、29…スロットルバルブ、30…スロットルポジションセンサ、31…ノックセンサ、32…エアフローメータ、34…クランクポジションセンサ、35…カムポジションセンサ、36…リフト量センサ。