以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態(発明を実施するための最良の形態)を具体的に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、内燃機関システムSは、エンジン1(内燃機関)と、エンジン1に付設された種々のアクチュエータと、種々のセンサと、これらのセンサからの信号に基づいて各アクチュエータを制御するエンジン制御ユニット100(制御器)とを備えている。
エンジン1は、例えば、ガソリン、エタノール、LPG又は水素等を燃料とする火花点火式の4サイクル4気筒エンジンであって、図示していないが、第1〜第4の4つの気筒11(シリンダ)を有する。なお、本発明において、エンジン1は4気筒エンジンに限定されるものではなく、いかなる数の気筒を有するものであってもよい。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、そのクランクシャフト14は、変速機(図示せず)を介して駆動輪(図示せず)に連結され、車両を推進する。エンジン1の幾何学的圧縮比は13以上であるのが好ましく、14以上かつ16以下であるのがとくに好ましい。
エンジン1は、その幾何学的圧縮比が大きいほど膨張比が大きくなり、機関効率は高くなる。そこで、このエンジン1では、幾何学的圧縮比を13以上に設定し、点火時期のリタード等によりノッキングの発生を回避しつつ高トルクと燃費の大幅な低減とを図るようにしている。また、幾何学的圧縮比が高いほどプリイグニッションやノッキングなどの異常燃焼が発生する可能性が高くなるので、有効圧縮比を小さくして充填効率を低下させることも必要である。しかしながら、有効圧縮比を小さくすると、気筒11の単位容積当たりの出力が低下し、内燃機関システムSの重量比で見たときの効率は低下する。さらに、エンジン1を車両に搭載する際に、エンジンルーム内でのレイアウト性ないしは搭載性に問題が生じる。このような諸般の事情を考慮すれば、幾何学的圧縮比の上限は16とするのが好ましい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に配置されたシリンダヘッド13とを備えており、これらの内部に4つの気筒11が形成されている。シリンダブロック12内には、クランクシャフト14が回転自在に支持されている。クランクシャフト14は、各気筒11のピストン15に、それぞれのコネクティングロッド16等からなる連結機構を介して連結されている。
各気筒11において、ピストン15は該気筒11内に摺動自在に嵌挿され、燃焼室17を画成している。シリンダヘッド13には、吸気ポート18及び排気ポート19が気筒11毎に2つずつ(図1中では1つずつ図示)形成されている。両ポート18、19は、それぞれ燃焼室17と連通している。吸気ポート18及び排気ポート19に対して、それぞれ、これらのポート18、19と燃焼室17との間の連通部を遮断又は遮閉することができる吸気弁21及び排気弁22が配設されている。吸気弁21及び排気弁22は、それぞれ、吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40により駆動され、所定のタイミングで往復動作を行って、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30は吸気カムシャフト31を有し、他方排気弁駆動機構40は排気カムシャフト41を有している。両カムシャフト31、41は、それぞれ、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介して、クランクシャフト14によって回転駆動される。このエンジン1の動力伝達機構は、クランクシャフト14が2回転する間に両カムシャフト31、41が1回転するように構成されている。吸気カムシャフト31の位相角は、カム位相センサ70によって検出され、その検出信号θVVT Aがエンジン制御ユニット100に入力される。また、吸気弁21のリフト量θVVL Aもエンジン制御ユニット100に入力される。
点火プラグ51は、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火システム52は、エンジン制御ユニット100からの制御信号SAを受けて、点火プラグ51に、所望の点火タイミングで火花が発生するよう通電する。燃料噴射弁53は、シリンダヘッド13の一方の側面(吸気側)に取り付けられている。燃料噴射弁53の先端部は、上下方向に関して2つの吸気ポート18の下方に位置する一方、水平方向に関して2つの吸気ポート18の中間部に位置し、その噴射孔は燃焼室17内に臨んでいる。
燃料供給システム54は、図示していないが、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプと、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプに供給する配管及びホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路とを備えている。この電気回路は、エンジン制御ユニット100からの制御信号FPを受けて燃料噴射弁53のソレノイドを作動させ、所定のタイミングで燃料噴射弁53に所定量の燃料を噴射させる。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気通路55bを介して、吸入空気(燃料燃焼用の空気)の流れを安定させるサージタンク55aに接続されている。エアクリーナ(図示せず)からの吸入空気は、スロットルボデー56を通ってサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56内にはスロットル弁57が配置されている。スロットル弁57は、サージタンク55aに向かう吸入空気を絞ってその流量を制御又は調整する。スロットルアクチュエータ58は、エンジン制御ユニット100からの制御信号TVOを受けて、スロットル弁57の開度を制御又は調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気通路を介して排気管内の排気通路と連通している。排気マニホールド60よりも下流側の排気通路には、1つ又は複数の触媒コンバータ61を有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータ61には、三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等の排気ガス浄化触媒が用いられている。なお、排気ガス浄化の目的に合致するものであれば、これらの触媒以外のいかなるタイプの触媒を用いてもよい。
吸気マニホールド55と排気マニホールド60とは、EGRパイプ62を介して互いに連通し、これにより排気ガスの一部がEGRガスとして吸気系に還流させられる。EGRパイプ62には、該EGRパイプ62を通って吸気系に還流するEGRガスの流量を制御又は調整するためのEGRバルブ63が設けられている。EGRバルブ63は、EGRバルブアクチュエータ64によって駆動される。EGRバルブアクチュエータ64は、EGRバルブ63の開度が、エンジン制御ユニット100によって算出されたEGR開度EGROPENとなるようにEGRバルブ63を駆動する。これにより、EGRガスの流量が適切に制御又は調整される。
エンジン制御ユニット100は、コンピュータ又はマイクロコンピュータを備えた内燃機関システムSないしはエンジン1の総合的な制御器であって、プログラムに従って演算等の処理を実行する中央処理装置(CPU)と、RAM及びROM等を有しプログラム及びデータを格納するメモリと、エンジン制御ユニット100への電気信号の入出力経路となる入出力バス(I/Oバス)とを備えている。
エンジン制御ユニット100には、制御情報として、カム位相センサ70によって検出される吸気カムシャフト31のバルブ位相角θVVT A、吸気弁21のリフト量θVVL A、エアフローセンサ71によって検出される吸入空気流量AF、吸気圧センサ72によって検出される吸気マニホールド圧MAP(吸気圧)、クランク角センサ73によって検出されるクランク角パルス信号等の各種信号が入力される。
そして、エンジン制御ユニット100は、例えば、クランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転速度NENGを算出する。さらに、エンジン制御ユニット100には、酸素濃度センサ74(例えば、リニア酸素濃度センサ)によって検出される排気ガスの酸素濃度EGO(ひいては空燃比)と、アクセルペダル69の踏み込み量すなわちアクセル開度を検出するアクセル開度センサ75から出力されるアクセル制御信号αと、変速機の出力軸(図示せず)の回転速度ひいては車速を検出する車速センサ76から出力される車速信号VSPとが入力される。
エンジン制御ユニット100は、これに入力された上記種々の制御情報に基づいて、エンジン1の種々の制御パラメータを算出する。例えば、適切なスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火タイミングSA、バルブ位相角θVVT、バルブリフト量θVVL等を算出する。そして、これらの制御パラメータに基づいて、これらに対応する制御信号として、スロットル制御信号TVO、燃料噴射パルス信号FP、点火パルス信号SA、バルブ位相角信号θVVT、バルブリフト量信号θVVL等を、それぞれ、スロットルアクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、吸気カムシャフト31の位相可変機構32、リフト量可変機構33等に出力する。
次に、図2及び図3(a)〜(d)を参照しつつ、吸気弁駆動機構30を詳細に説明する。図2は、図1に示す内燃機関システムSのエンジン1の吸気弁駆動機構30の具体的な構成を示す斜視図である。また、図3(a)〜(d)は、それぞれ、図2に示す吸気弁駆動機構30の要部を示す断面図である。なお、図3(a)は大リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が0の状態を示し、図3(b)は大リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が最大の状態を示し、図3(c)は小リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が0の状態を示し、図3(d)は小リフト量制御状態において吸気弁21のリフト量が最大の状態を示している。
図2及び図3(a)〜(d)に示すように、吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の変位特性を調整する変位調整機構を備えている。この変位調整機構は、クランクシャフト14に対する吸気カムシャフト31の回転位相を変更することができる位相可変機構32(以下「VVT機構32」という。)と、吸気弁21のリフト量(バルブリフト量)を連続的に変更することができるリフト量可変機構33(以下「VVL機構33」という。)とで構成されている。VVT機構32は、チェーンドライブ機構によってクランクシャフト14に駆動連結されている。チェーンドライブ機構は、図示していないが、ドリブンスプロケット104の他に、クランクシャフト14のドライブスプロケットと、これらの両スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備えている。
VVT機構32は、ドリブンスプロケット104に固定され該ドリブンスプロケット104と一体回転するケースと、このケースに収容されるとともにインナシャフト105に固定され該インナシャフト105と一体回転するロータとを有している。詳しくは図示していないが、ケースとロータとの間に複数の液圧室が設けられ、これらの液圧室は中心軸Xのまわりに、周方向に並んで形成されている。そして、ポンプにより加圧された液体(例えば、エンジンオイル)が各液圧室に選択的に供給され、互いに対向する液圧室の間に圧力差が形成される。なお、このVVT機構32は液圧式であるが、電磁式又は機械式のVVT機構を用いてもよい。
エンジン制御ユニット100はVVT機構32の電磁バルブ32aにバルブ位相角信号θVVT(制御信号)を出力し、電磁バルブ32aはこのバルブ位相角信号θVVTを受けて液圧のデューティ制御を行い、液圧室に供給する液体の流量、圧力等を制御又は調整する。かくして、ドリブンスプロケット104とインナシャフト105との間の実際の位相差が変更され、これによりインナシャフト105の所望の回転位相が達成される。なお、エンジン制御ユニット100と別体の、VVT機構32を制御するためのVVT制御ユニットを設けてもよい。
VVL機構33は、各気筒11に対応してインナシャフト105に設けられたディスク形状の偏心カム106を有している。これらの偏心カム106は、インナシャフト105の軸芯に対して偏心して設けられ、VVT機構32により決定される位相で回転する。この偏心カム106の外周には、リング状アーム107が回転自在に嵌合されている。ここで、インナシャフト105がその中心軸Xのまわりに回転すると、リング状アーム107は、中心軸Xのまわりを公転しながら、偏心カム106の中心のまわりで回動する。
また、インナシャフト105には、気筒11毎にロッカーコネクタ110が配設されている。ロッカーコネクタ110は円筒状であり、インナシャフト105に外挿されて同軸に軸支されている。換言すれば、ロッカーコネクタ110は、その中心軸Xのまわりに回動可能に支持される一方、該ロッカーコネクタ110の外周面はベアリングジャーナルとされ、シリンダヘッド13に配設されたベアリングキャップ(図示せず)によって回転可能に支持されている。
ロッカーコネクタ110には、第1及び第2のロッカーカム111、112が一体的に設けられている。両ロッカーカム111、112の構成は同一であるので、図3(a)〜(d)では、第1のロッカーカム111のみを示し、第2のロッカーカム112の図示は省略している。第1のロッカーカム111は、カム面111aと円周状のベース面111bとを有し(図3(d)参照)、カム面111a及びベース面111bは、いずれもタペット115の上面に摺接するようになっている。第1のロッカーカム111は、連続的には回転せず、揺動運動することを除いては、一般的な吸気弁駆動機構のカムと同様にタペット115を押圧して吸気弁21を開くものである。タペット115は、バルブスプリング116によって支持されている。バルブスプリング116は、2つの保持器117、118(図3(b)参照)の間に支持されている。
インナシャフト105とロッカーコネクタ110と両ロッカーカム111、112とからなる組立体と並行して、該組立体の上方に、コントロールシャフト120が配設されている。このコントロールシャフト120は、ベアリング(図示せず)によって回転可能に支持され、その長手方向の中央付近には、外周面から突出する同軸状のウォームギヤ121が一体的に設けられている。
ウォームギヤ121はウォーム122と噛み合っている。このウォーム122は、VVL機構33のアクチュエータであるステッピングモータ123の出力軸に固定されている。このため、エンジン制御ユニット100からリフト量信号θVVL)(制御信号)を受けたステッピングモータ123の作動により、コントロールシャフト120を所望の位置に回動させることができる。このように回動されるコントロールシャフト120には、気筒11毎のコントロールアーム131が取り付けられ、これらコントロールアーム131は、コントロールシャフト120の回動に伴って一体的に回動させられる。
また、コントロールアーム131は、コントロールリンク132を介してリング状アーム107に連結されている。すなわち、コントロールリンク132の一方の端部は、コントロールピボット133によってコントロールアーム131の先端部に回転自在に連結されている。また、コントロールリンク132の他方の端部は、コモンピボット134によって、リング状アーム107に回転自在に連結されている。
ここで、コモンピボット134は、前記のとおりコントロールリンク132の前記他方の端部をリング状アーム107に連結するとともに、このリング状アーム107を貫通してこれをロッカーリンク135の一方の端部にも回転自在に連結している。そして、ロッカーリンク135の他方の端部は、ロッカーピボット136によって第1のロッカーカム111に回転自在に連結されている。これにより、リング状アーム107の回転がロッカーカム111に伝達される。
具体的には、インナシャフト105が回転して、これと一体に偏心カム106が回転するときに、図3(a)、(c)に示すように偏心カム106が下側に位置すれば、リング状アーム107も下側に位置する。他方、図3(b)、(d)に示すように、偏心カム106が上側に位置すれば、リング状アーム107も上側に位置する。その際、リング状アーム107とコントロールリンク132とを連結するコモンピボット134の位置は、コントロールピボット133の位置と、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心位置との、3者相互の位置関係によって決定される。したがって、コントロールピボット133の位置が変化しない場合、すなわちコントロールシャフト120が回動しない場合は、コモンピボット134は、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心のまわりの回転のみに対応して、おおむね上下に往復動作を行う。
このようなコモンピボット134の往復動作は、ロッカーリンク135によって第1のロッカーカム111に伝達される。これにより、第1のロッカーカム111は、ロッカーコネクタ110で連結された第2のロッカーカム112とともに、中心軸Xのまわりに揺動する。かくして、揺動するロッカーカム111は、図3(b)、(c)に示すように、カム面111aがタペット115の上面に接触する間は、このタペット115をバルブスプリング116のばね力に抗して押し下げる。これにより、タペット115が吸気弁21を押し下げ、その結果吸気ポート18が開かれる。
他方、図3(a)、(c)に示すように、ロッカーカム111のベース面111bがタペット115の上面に接触する場合、タペット115は押し下げられない。これは、中心軸Xを中心とするロッカーカム111のベース面111bの半径が、その中心軸Xとタペット115の上面との間隔以下に設定されているからである。このようなコントロールピボット133と、コモンピボット134と、偏心カム106及びリング状アーム107の共通中心との間の相互の位置関係において、コントロールピボット133の位置が変化すれば、これにより3者相互の位置関係に変化が生じ、コモンピボット134は前記とは異なる軌跡を描いて往復動作を行うようになる。
したがって、ステッピングモータ123の作動によりコントロールシャフト120及びコントロールアーム131を回転させて、コントロールピボット133の位置を変えることにより、両ロッカーカム111、112の揺動範囲を変更することができる。例えば、コントロールアーム131を、図3における位置関係において時計回りに回動させ、コントロールピボット133を図3(a)に示す位置から図3(c)に示すように左斜め上側にずらせると、ロッカーカム111の揺動範囲は、相対的にベース面111bがタペット115の上面に接触する傾向の強いものとなる。
図4は、内燃機関システムSないしはエンジン1の吸気弁駆動機構30における吸気弁21の変位特性ないしは動作特性(吸気弁21のリフト量及び開閉タイミング)の設定例を示す図である。図4に示すように、吸気弁駆動機構30及びこれに関連する各部品により、吸気弁21のリフト量θVVLは、例えばθVVL minからθVVL maxまでの範囲で、目標空気充填量(ないしは目標気筒空気量)、すなわち各気筒11に充填される空気量の目標値の増加に応じて増加するように制御される。他方、吸気弁21の閉弁タイミング(閉弁時期)θVVTは、リフト量θVVLの増加に応じてθVVT minからθVVT maxの範囲で遅角させられる。具体的には、この内燃機関システムSでは、例えばエンジン回転速度NENGが1500rpmの場合、吸気行程において吸気弁21を開閉する際、吸気弁21の開弁タイミングについては、ほとんどの運転領域で排気上死点直前から開弁を開始し、要求トルクに応じて閉弁タイミングを変更するようにしている。
また、この内燃機関システムSでは、吸気弁21の閉弁タイミングに関して、早閉じ運転モードMEIVC(第1モード)と遅閉じ運転モードMLIVC(第2モード)とを設けている。ここで、早閉じ運転モードMEIVCは、空気充填量(気筒に充填される空気量)が少ない低負荷時に選択されるモードであり、遅閉じ運転モードMLIVCは、空気充填量が多い高負荷時に選択されるモードである。早閉じ運転モードMEIVCでは、時々刻々のエンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stで吸気弁21が閉じられる。他方、遅閉じ運転モードMLIVCでは、エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる閉弁タイミングよりも遅角側に閉弁タイミングが設定され、かつ、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じられる。
図4から明らかなとおり、遅閉じ運転モードMLIVCが設定される第2閉弁タイミング範囲IVC2ndは、早閉じ運転モードが設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stよりも遅角し、かつ離間している。したがって、両閉弁タイミング範囲IVC1st、IVC2nd間には、定常運転時であれば吸気弁21が閉じることのない中間閉弁タイミング範囲(異常燃焼懸念範囲)IVCIMが存在する。この中間閉弁タイミング範囲IVCIMの中の下死点BDC付近に、充填効率が最大となる吸気弁21の閉弁タイミングが存在する。
なお、このような運転モードを設定する理由は、およそ次のとおりである。すなわち、吸気弁21を早閉じにした場合、図3(c)、(d)から明らかなように、ロッカーカム111の揺動量は小さくなり、バルブスプリング116の抵抗も小さくなるので、このような運転は低負荷側では好ましい。しかし、要求負荷の増加に伴って吸気弁21の閉弁タイミングを吸気下死点付近まで遅角させると、高圧縮比のエンジン1ではプリイグニション、ノッキング等の異常燃焼が生じる可能性が高まる。また、異常燃焼が懸念される運転領域を単純に回避して吸気弁21を早閉じにした場合、要求負荷が高いときには空気充填量を確保することができず、必要な出力を得ることができない。
他方、吸気弁21を遅閉じにした場合、ピストン15が下死点に移動するまで気筒11内に空気を導入することができるので、有効圧縮比が低くなるところで吸気弁21を閉じても充分な空気充填量を確保することができる。他面、図3(a)、(b)から明らかなように、低速低負荷時の目標空気充填量が小さい運転領域では、吸気弁21のリフト量ないしはリフト範囲を最大値近傍まで大きく設定する必要があるので、機械的損失が大きくなるなどといった不具合が生じる。
このため、この内燃機関システムSでは、連続的な運転領域で可及的に膨張比を高めつつ、異常燃焼を回避するとともに、ポンプ損失の低減、目標空気充填量が小さい運転領域での機械的損失の低減、目標空気充填量が大きい運転領域での出力確保等を図るため、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとを設定している。また、早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCへの移行、あるいは遅閉じ運転モードMLIVCから早閉じ運転モードMEIVCへの移行が行われるときには、吸気弁21の閉弁タイミングが中間閉弁タイミング範囲IVCIMを通る。そこで、後で詳しく説明するように、このときには一時的に吸気圧力を低くすることにより空気過剰になる傾向を抑制するようにしている。
前記のとおり、エンジン制御ユニット100は、内燃機関システムSないしはエンジン1の総合的な制御装置であって、各センサ70〜76等によって検出される各種制御情報に基づいて、VVT機構32(電磁バルブ32a)、VVL機構33、点火プラグ51(点火システム52)、燃料噴射弁53(燃料供給システム54)、スロットル弁53(スロットルアクチュエータ54)、EGRバルブ63等を制御ないしは駆動することにより、燃料噴射制御、点火時期制御、EGR制御等の普通のエンジン制御を行うようになっている。
さらに、エンジン制御ユニット100は、本発明に係る格別のエンジン制御(以下「閉弁タイミング制御」という。)を行うようになっている。まず、エンジン制御ユニット100による本発明に係る閉弁タイミング制御の概要を説明する。すなわち、この閉弁タイミング制御においては、内燃機関システムSないしはエンジン1の制御モードとして、第1モードと、第2モードと、加速遷移モードと、減速遷移モードとを備えている。ここで、第1モードは、目標気筒空気量が所定空気量よりも小さいときの制御モードであり、吸気弁21を第1閉弁時期範囲で閉じる。第2モードは、目標気筒空気量が上記所定空気量よりも大きいときの制御モードであり、吸気弁21を第1閉弁時期範囲よりも遅角した第2閉弁時期範囲で閉じる。加速遷移モードは、目標気筒空気量が上記所定空気量よりも小さい第1空気量を越えて増加したときの制御モードであり、吸気弁21の閉弁時期を第2閉弁時期範囲に向けて遅角させるとともに、吸気通路55bの圧力を低下させる。減速遷移モードは、目標気筒空気量が上記所定空気量よりも大きい第2空気量を越えて減少したときの制御モードであり、吸気弁21の閉弁時期を第1閉弁時期範囲に向けて進角させるとともに、吸気通路55bの圧力を低下させる。
この閉弁タイミング制御においては、目標気筒空気量の変化が大きいほど第1空気量を小さくし、また、予想される目標気筒空気量の変化が大きいほど第2空気量を小さくするようにしている。そして、予想される目標気筒空気量の変化が大きいほど、加速遷移モード又は減速遷移モードにおける吸気通路55bの圧力の低下量を小さくするようにしている。また、第1空気量と第2空気量とをそれぞれ可変とし、第1空気量の範囲の最大値を第2空気量の範囲の最小値とほぼ等しく設定している。
なお、この閉弁タイミング制御では、内燃機関システムSが、エンジン1が搭載された車両のドライバによる操作が可能であり、かつ、予想される目標気筒空気量の変化の大きさを表す信号を出力することが可能なスイッチを有している場合は、スイッチから出力された信号が表す目標気筒空気量の変化が大きいほど、第1空気量を小さくする。
以下、エンジン制御ユニット100による本発明に係る閉弁タイミング制御の具体的な制御手順を説明する。すなわち、本発明に係る閉弁タイミング制御では、基本的には、目標空気充填量(ないしは目標気筒空気量)が所定空気量より少ないときには、早閉じ運転モードMEIVCで吸気弁21の閉弁タイミング等を制御する。他方、目標空気充填量(ないしは目標気筒空気量)が上記所定空気量より多いときには、遅閉じ運転モードMLIVCで吸気弁21の閉弁タイミング等を制御する。
そして、早閉じ運転モードMEIVCでの運転時において、目標空気充填量(ないしは目標気筒空気量)が上記所定空気量より小さい第1空気量A1(図8、図9参照)を越えて増加したときには、吸気弁21の閉弁タイミングを、遅閉じ運転モードMLIVCの閉弁タイミングに向かって遅角するように位相可変機構32を制御するとともに、吸気通路55bの圧力が低下するようにスロットル弁57を制御する。他方、遅閉じ運転モードMLIVCでの運転時において、目標空気充填量(ないしは目標気筒空気量)が上記所定空気量より大きい第2空気量A2(図11、図12参照)を越えて減少したときには、吸気弁21の閉弁タイミングが早閉じ運転モードMEIVCの閉弁タイミングに向かって進角するように位相可変機構32を制御するとともに、吸気通路55bの圧力が低下するようにスロットル弁57を制御する。
このように、エンジン制御ユニット100は種々の制御を行うようになっているが、普通のエンジン制御については、その制御手法は当業者にはよく知られており、またこのような普通のエンジン制御は本発明の要旨とするところでもないのでその説明を省略し、以下では主として本発明に係る閉弁タイミング制御を説明する。
図5及び図6は、エンジン制御ユニット100によって実行される本発明に係る閉弁タイミング制御の一例を示すフローチャートである。図5に示すように、この閉弁タイミング制御では、まずステップS1で、各種設定の初期化を行う。この初期化においては、現在の運転モードMを早閉じモードMEIVCに設定する。続いて、ステップS2で、アクセル開度センサ75からのアクセル開度信号α、クランク角パルス信号に基づくエンジン回転速度NENG及び車速センサ76からの車速信号VSPを読み取り、又は算出し、これらの情報に基づいて目標トルクTQを算出する。
次に、ステップS3で、目標トルクTQ及びエンジン回転速度NENGに基づいて、燃料噴射量FP(あるいは空燃比)、目標空気充填量(目標気筒空気量)CE、EGR量QEGR及び点火タイミングSAを算出する。続いて、ステップS4で、予めメモリに記憶されている制御マップM1のデータを読み取り、この制御マップM1に基づいて、目標空気充填量CEとエンジン回転速度NENGとに適合する現在の運転領域Rを判定する。
図7は、運転領域Rの一例を示す図である。図7に示すように、この例では、エンジン回転速度NENGに対して直線的に増加する特性L1、L2(所定空気量の一例)が設定されている。そして、高負荷側の特性L1以上の高負荷側である運転領域RLIVCでは、遅閉じ運転モードMLIVCが選定される。他方、低負荷側の特性L2以下の低負荷側である運転領域REIVCでは、早閉じ運転モードMEIVCが選定される。
また、特性L1と特性L2の間の過渡領域RTRは、ヒステリシスを設けるための、運転モードの切換に用いられる領域であり、運転領域REIVCから要求負荷が高くなっても、特性L1を越えるまでは、運転モードは早閉じ運転モードMEIVCが維持される。他方、運転領域RLIVCから要求負荷が低くなっても、特性L2を越えるまでは、運転モードは遅閉じ運転モードMLIVCが維持される。
次に、ステップS5で、現在の運転モードMが早閉じモードMEIVCであるか否かを判定する。ここで、運転モードMが早閉じモードMEIVCであれば(YES)、ステップS6で、現在の目標空気充填量CEが第1空気量A1(図8、図9参照)以下であるか否かを判定する。ここで、目標空気充填量CEが第1空気量A1以下であれば(YES)、ステップS7で運転モードMを早閉じモードMEIVCに維持して、早閉じ運転を続行する。
続いて、ステップS8で、この早閉じモードMEIVCでの目標気筒空気CE及びエンジン回転速度NENGに基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVVT及びスロットル開度TVOを算出する。そして、ステップS9で、算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVVT、スロットル開度TVO並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGR、及び点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL−D、θVCT−D、TVODを出力することにより、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。この後、ステップS2に移行し、前記の制御ルーチンを繰り返す。
図8は、早閉じモードMEIVCでの吸気弁21の閉弁タイミングの制御例を示す図である。図8に示すように、この制御例では、早閉じ運転が行われる場合、すなわち吸気弁21の閉弁タイミングが第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合は、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。また、目標空気充填量CEが増加するほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。その結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合、吸気弁21の閉弁タイミングが遅角することにより、空気充填量CEが増加し、要求トルクに見合うトルクが出力される。
図9は、早閉じモードMEIVCでのスロットル開度TVOの制御例を示す図である。図9に示すように、この制御例では、特性L1と平行となるように、エンジン回転速度NENGに対して直線的に増加する特性L3を低負荷側に設定している。特性L3は、図7中の特性L2よりも低負荷側であってもよく、また特性L2以上であってもよい。この特性L3よりも低負荷側の運転領域では、スロットル開度TVOは、全開になっており、目標空気充填量CEは、もっぱら、吸気弁21の閉弁タイミングで制御される。このため、充分な空気充填量CEを確保して、ポンプ損失が小さくなるように制御することができる。
他方、特性L1と特性L3の間では、要求負荷が高まるのに伴って、あるいはエンジン回転速度NENGが低下するのに伴って、スロットル開度TVOが小さくなるように制御される。このため、運転状態が、中高速・低中負荷運転領域から、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに設定する必要のある低速・高負荷運転領域に近づくのに伴って、スロットル弁57の下流の吸気ポート18を含む吸気管内の圧力を低減する。これにより、高圧縮比エンジンを採用しているのにもかかわらず、運転モードMを切り換える過渡的で不安定な運転領域で、吸気閉弁時期の変化に伴い一時的に気筒空気充填量が過大となることを抑制して、プリイグニション等の異常燃焼を回避することができる。
前記のステップS6において、目標空気充填量CEが第1空気量A1を超えていると判定された場合は(NO)、ステップS10で、運転モードMを加速遷移モードMTR−Rに設定する。続いて、ステップS11で、所定のカウント時間CTR−Rをカウント値CTRとして設定する。そして、ステップS12で、加速遷移モードMTR−Rでの目標空気充填量CE及びエンジン回転速度NENGに基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVVT、EGR量QEGR及びスロットル開度TVOを算出する。所定のカウント時間CTR−Rを設けているのは、吸気弁駆動機構30による吸気弁21の閉弁タイミング設定が切り換わるまでの間、暫定的に目標空気充填量CEを低減してプリイグニション等の異常燃焼を回避するためである。
ステップS12が実行された後はステップS9に移行し、加速遷移モードMTR−Rで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVVT、EGR量QEGR及びスロットル開度TVO、並びに、ステップS3で算出した燃料噴射量FP及び点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL−D、θVCT−D及びTVODを出力することにより、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。この後、ステップS2に移行し、前記の制御ルーチンを繰り返す。
図10は、加速遷移モードMTR−Rでの制御例を示すタイミングチャートである。図10に示すように、加速遷移モードMTR−Rでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁21の閉弁タイミングを第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに移動させるために、遅角を開始する。その際、スロットル開度TVOは、吸気弁21の閉弁タイミングが遅角するのに比例して低減し、吸気管圧力を低下させる。
これにより、万一、気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、吸気管圧力の低下によって異常燃焼が防止される。同様に、EGR弁63の開度(EGR量)QEGRも、吸気弁21の閉弁タイミングが遅角するのに比例して増加する。これにより、筒内残留ガスである内部EGRよりも低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することができる。
吸気弁21の閉弁タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。そして、このタイミングt1を経過した時点で、ステップS12で設定されるEGR量QEGR及びスロットル開度TVOが遅閉じモードMLIVCと同様に切り換えられ、運転モードの遷移が終了する。
次に、図6に示すフローチャートを参照しつつ、前記のステップS5で運転モードMが早閉じモードMEIVCではないと判定された場合(NO)の制御例を説明する。この場合は、まずステップS20で、運転モードMが遅閉じモードMLIVCであるか否かを判定する。ここで、運転モードMが遅閉じモードMLIVCであれば(YES)、ステップS21で、現在の目標空気充填量CEが第2空気量A2(図11、図12参照)以上であるか否かを判定する。ここで、目標空気充填量CEが第2空気量A2以上であれば(YES)、ステップS22で運転モードMを遅閉じモードMLIVCに維持して、遅閉じ運転を続行する。
次に、ステップS23で、遅閉じモードMLIVCでの目標空気充填量CE及びエンジン回転速度NENGに基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT及びスロットル開度TVOを算出する。そして、ステップS9で、算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT及びスロットル開度TVO、並びに、ステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGR及び点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL−D、θVCT−D及びTVODを出力することにより、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。この後、ステップS2に移行し、前記の制御ルーチンを繰り返す。
図11(a)、(b)は、遅閉じモードMLIVCでの吸気弁21の閉弁タイミングの制御例を示す図である。また、図12は、遅閉じモードMLIVCでのスロットル開度TVOの制御例を示す図である。ここで、図11(a)及び図12(a)は目標空気充填量CEに応じてスロットル開度TVOを並行して制御する場合の制御例であり、図11(b)及び図12(b)はスロットル開度を一定に維持する場合の制御例である。
図11(a)及び図12(a)に示すように、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21を閉弁する場合、スロットル開度TVOを変更しながら目標空気充填量CEを制御する場合は、目標空気充填量CEの増減にかかわらず、吸気弁21の閉弁タイミングを一定にし、スロットル弁57下流の吸気ポート18を含む吸気通路55b内の圧力を制御することにより、空気充填量が変化する。
他方、図11(b)及び図12(b)に示すように、エンジン回転速度NENGが一定の条件のもとでスロットル開度TVOを一定に維持し、目標空気充填量CEが増加するのに伴って、吸気弁21の閉弁タイミングを進角させる場合は、吸気弁21の閉弁タイミングが第2閉弁タイミングIVC2nd内で進角するのに伴って、そのときの最大空気充填量が得られる閉弁タイミングに近づくので、空気充填量が制御される。その際、スロットル開度TVOは比較的大きな値で一定に維持され、吸気通路55b内の圧力が高く維持されるので、ポンプ損失が低い状態が維持される。
図11(a)、(b)のいずれの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉弁タイミングは遅角する。また、図12(a)、(b)のいずれの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、スロットル開度TVOは、大きく制御される。これは、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気慣性力が大きくなり、このエンジン回転速度NENGにおいて目標空気充填量CEが最大となる吸気弁21の閉弁タイミングが遅角することに対応しているからである。この制御により、所要の目標空気充填量CEを確保することができる。
前記のステップS21において、目標空気充填量CEが第2空気量A2未満であると判定された場合は(NO)、ステップS24で、運転モードMを減速遷移モードMTR−Aに設定する。続いて、ステップS25で、所定のカウント時間CTR−Aをカウント値CTRとして設定する。そして、ステップS26で、この減速遷移モードMTR−Aでの目標空気充填量CE及びエンジン回転速度NENGに基づいて、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、EGR量QEGR及びスロットル開度TVOを算出する。
ステップS26が実行された後はステップS9に移行し、減速遷移モードMTR−Aで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、EGR量QEGR及びスロットル開度TVO、並びに、ステップS3で算出した燃料噴射量FP及び点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL−D、θVCT−D及びTVODを出力することにより、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。この後、ステップS2に移行し、前記の制御ルーチンを繰り返す。
図13は、減速遷移モードMTR−Aでの制御例を示すタイミングチャートである。図13に示すように、減速遷移モードMTR−Aでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁21の閉タイミングを第1閉弁タイミング範囲IVC1stに移動するために、進角を開始する。その際、スロットル開度TVOは、吸気弁21の閉タイミングが進角するのに比例して低減し、吸気管圧力を低下させる。これにより、万一、気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、吸気管圧力の低下によって異常燃焼が防止される。同様に、EGR弁63の開度(EGR量)QEGRも、吸気弁21の閉弁タイミングが進角するのに比例して増加する。これにより、比較的低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することができる。
吸気弁21の閉タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。そして、このタイミングt1を経過した時点で、ステップS26で設定されるEGR量QEGR及びスロットル開度TVOが早閉じモードMEIVCと同様に切り換えられ、運転モードの遷移が終了する。
ところで一方、前記のステップS20で運転モードMが遅閉じモードMLIVCではないと判定された場合(NO)、運転モードMは、加速遷移モードMTR−Rと減速遷移モードMTR−Aのうちのいずれかである。そこで、この閉弁タイミング制御では、まずステップS27でカウント値CTRを1だけデクリメントする。続いて、ステップS28で、運転モードMが減速遷移モードMTR−Aであるか否かを判定する。ここで、運転モードMが減速遷移モードMTR−Aであれば(YES)、ステップS29で、カウント値CTRが0より大きいか否かを判定する。
ステップS29でカウント値CTRが0よりも大きいと判定された場合は(YES)、前記のステップS26以降の制御ルーチンを実行する。これにより、減速遷移モードMTR−Aでの運転制御が継続される。他方、ステップS29でカウント値CTRが0以下であると判定された場合は(NO)、すでに吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は終了しているので、前記のステップS7以降のステップに移行し、運転モードMを早閉じモードMEIVCに切り換え、前記の早閉じモードでの運転制御を繰り返す。
前記のステップS28で運転モードMが加速遷移モードMTR−Rであると判定された場合は(NO)、ステップS30で、カウント値CTRが0よりも大きいか否かを判定する。ここで、カウント値CTRが0よりも大きければ(YES)、前記のステップS12以降の制御ルーチンを実行する。これにより、加速遷移モードMTR−Rでの運転制御が継続される。他方、ステップS30でカウント値CTRが0以下であると判定された場合は(NO)、すでに吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は終了しているので、前記のステップS22以降のステップに移行し、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに切り換え、前記の早閉じモードでの運転制御を繰り返す。
図14(a)、(b)は、図5及び図6に示すフローチャートによる閉弁タイミング制御を実行したときの、吸気弁21の閉弁タイミングを示す図である。ここで、図14(a)は、遅閉じモードMLIVCでの閉弁タイミング制御において、スロットル開度TVOを並行して制御する場合の図である。また、図14(b)は、遅閉じモードMLIVCでの閉弁タイミング制御において、スロットル開度TVOを一定に維持する場合の図である。
図14(a)に示すように、遅閉じモードMLIVCでの閉弁タイミング制御において、スロットル開度TVOを並行して制御する場合は、吸気弁21の閉弁タイミングを最も進角側に固定して目標空気充填量CEを制御することができる。このため、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える際の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)が最小となり、早閉じモードMEIVCからの切り換えに要する時間を可及的に短くすることができる。
他方、図14(b)に示すように、遅閉じモードMLIVCでの閉弁タイミングの制御において、スロットル開度TVOを一定に維持する場合は、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える際の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)は最大となる。しかしながら、吸気管圧力を高く維持することができるので、ポンプ損失を最小にすることができ、高い出力を維持することができる。
いずれの場合においても、エンジン回転速度NENGが上昇するのに伴って、吸気弁21の閉弁タイミングが遅角するので、エンジン回転速度NENGが高いほど、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の中間閉弁タイミング範囲IVCIMが小さくなり、ある回転速度(例えば、2500rpm)以上では、もっぱら第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21を閉じることになり、運転モードMの切り換えは不要となる。
図15に、本発明に係る閉弁タイミング制御を行う場合における、目標図示平均有効圧力Piと吸気弁21の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)とをパラメータとする、早閉じ領域及び遅閉じ領域の設定例を示す。図15に示すように、この設定例では、早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせている。
一般に、この種のエンジンにおいて、早閉じ運転から遅閉じ運転への移行には、デバイスの大きな移動を伴うので、該移行に時間がかかり、応答性(レスポンス)が悪化するといった問題がある。なお、遅閉じ運転から早閉じ運転への移行の際も同様の問題がある。そこで、本発明に係る閉弁タイミング制御では、例えば図15に示すように、早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせることにより、この問題を解決している。要求トルクを実現するポイントが現在の領域内にない場合や、運転履歴やスポーツモード等から使用領域の中心を他方に移した方が好ましい判断することができる場合は、他方の領域に移行する。移行中は、まず吸気弁21の閉弁タイミングあるいはリフト量などを設定し、これらに基づいてスロットル開度TVOでトルクを調整する。
図16(a)に、本発明に係る閉弁タイミング制御を行った場合において、運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際の、吸気弁21の目標閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)及び実際の閉弁タイミングIVCの経時変化の一例を示し、図16(b)に、目標図示平均有効圧力Pi及び実際の目標図示平均有効圧力Piの経時変化の一例を示す。図16(a)、(b)に示すように、本発明に係る閉弁タイミング制御では、早閉じ領域から遅閉じ領域への移行が、良好な応答性でもって迅速に行われる。
図17に、本発明に係る閉弁タイミング制御との比較例として、早閉じ領域と遅閉じ領域と互いにオーバーラップさせない場合における、目標図示平均有効圧力Piと吸気弁21の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)とをパラメータとする、早閉じ領域及び遅閉じ領域の設定例を示す。また、図18(a)に、この比較例に係る閉弁タイミング制御を行った場合において、運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際の、吸気弁21の目標閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)及び実際の閉弁タイミングの経時変化の一例を示し、図18(b)に、目標図示平均有効圧力Pi及び実際の目標図示平均有効圧力Piの経時変化の一例を示す。図18(a)、(b)に示すように、比較例に係る閉弁タイミング制御では、運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域へ移行する際の応答性が悪く、移行を迅速に行うことができない。
図19(a)に、本発明に係る閉弁タイミング制御を行う場合(破線)及び比較例に係る閉弁タイミング制御を行う場合(実線)における、目標図示平均有効圧力Pi及び吸気弁21の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)をパラメータとする早閉じ領域及び遅閉じ領域の設定例と、両閉弁タイミング制御の特徴とを対比して示す。また、図19(b)に、本発明に係る閉弁タイミング制御を行う場合(破線)及び比較例に係る閉弁タイミング制御を行う場合(実線)における、目標図示平均有効圧力Piとブーストの関係を対比して示す。図19(b)から明らかなとおり、比較例に係る閉弁タイミング制御では、運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域へ移行する際の応答性が悪くなっている。
図20に、本発明に係る閉弁タイミング制御を行う場合における、平均有効圧力Peと吸気弁21の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)とをパラメータとする、早閉じ領域及び遅閉じ領域の設定例を示す。図20に示すように、この設定例では、平均有効圧力がおおむね450〜600kPaの範囲で、早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせている。なお、図20(図21〜図26も同様)において、グラフGは、閉弁タイミングIVCが下死点(BDC)付近にあるときに、プリイグニッションが発生しない領域を示している。すなわち、運転状態の切り換え持に、このグラフGと交差するように運転すれば、プリイグニッションは発生しない。
図21に、平均有効圧力がおおむね500〜600kPaの範囲で早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせた場合において、運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際に、要求トルクに向かってデバイスを動かす経路をできるだけ早閉じ領域に維持するように吸気弁21の閉弁タイミングを変化させた場合の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)の平均有効圧力Peに対する変化特性を示す。図21に示すように、この例では、平均有効圧力Peが200kPaから550kPaまでは緩加速を行った後、600kPa→500kPa→800kPaの加減速を行っている。この場合、早閉じ領域と遅閉じ領域がオーバーラップしているので、従来は時間がかかっていたデバイスの大きな移動を最小限ですませることができる。
図22に、平均有効圧力Peがおおむね500〜600kPaの範囲で早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせた場合において、加速により運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)の平均有効圧力Peに対する変化特性の目標値(グラフH1)の一例と、この目標値に対する実際の変化特性(グラフH2)とを示す。また、図23に、平均有効圧力Peがおおむね500〜600kPaの範囲で早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせた場合において、減速により運転状態が遅閉じ領域から早閉じ領域に移行する際の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)の平均有効圧力Peに対する変化特性の目標値(グラフH3)の一例と、この目標値に対する実際の変化特性(グラフH4)とを示す。
図22に示すように、加速時は、オーバーラップ領域の下端(平均有効圧力Peが最小のところであり、図22では左端)で早閉じ領域から遅閉じ領域への移行(乗り換え)を開始する。他方、図23に示すように、減速時は、オーバーラップ領域の上端(平均有効圧力Peが最大のところであり、図23では右端)、遅閉じ領域から、燃費性の良い早閉じ領域への移行(乗り換え)を開始している。いずれの場合も、実際の変化特性は、遅閉じ領域が存在し始める平均有効圧力Peで移行を開始するような軌道を描くので、平均有効圧力Peの変化に対する吸気弁21の閉弁タイミングの移動量が少なく、応答性が良好となる。
図24に、平均有効圧力Peがおおむね500〜600kPaの範囲で早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせた場合において、アクセルペダル69を少し踏み戻す場合に運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)の平均有効圧力Peに対する変化特性の目標値(グラフH5)の一例と、この目標値に対する実際の変化特性(グラフH6)とを示す。この場合、定常状態となるときには、運転状態は遅閉じ又は早閉じの状態に収束する。
図25及び図26に、平均有効圧力Peがおおむね500〜600kPaの範囲で早閉じ領域と遅閉じ領域とをオーバーラップさせた場合において、緩加速により運転状態が早閉じ領域から遅閉じ領域に移行する際の閉弁タイミングIVC(ないしはリフト量)の平均有効圧力Peに対する変化特性の目標値(図25中のグラフH7及び図26中のグラフ)の一例と、この目標値に対する実際の変化特性(図25中のグラフH8)とを示す。
急加速時、すなわちドライバ(ユーザ)の要求トルクが早閉じ領域の範囲内では達成できず、いずれ遅閉じ領域に移行することが必要な場合(現在は早閉じ領域にあるが、アクセルペダル69が踏み込まれ、踏み込まれた先に対応するトルクが、遅閉じ領域でしか実現できない場合)は、即座に移行するのが好ましい。これに対して、緩加速時、すなわちドライバの要求トルクが600kPa以内に収まり続け、600kPaまでエンジンが追随しつづける場合は、オーバーラップ領域の上端から切り換えを行うのが好ましい。このようにすれば、早閉じ領域を長く使用することができるので、燃費性が良好である(減速側でも早閉じ領域を長く使用することができる)。ただし、600kPaからの加速時の応答性がやや低下するおそれがある。
以上、本発明に係るリフト量変更制御によれば、エンジン1の気筒11内の空気の状態をより精密に制御して、異常燃焼が発生する可能性を確実に抑制しつつ、エンジン1の運転効率を最大限に高めることができる。
S 内燃機関システム、1 エンジン、11 気筒、12 シリンダブロック、13 シリンダヘッド、14 クランクシャフト、15 ピストン、16 コネクティングロッド、17 燃焼室、18 吸気ポート、19 排気ポート、21 吸気弁、22 排気弁、30 吸気弁駆動機構、31 カムシャフト、32 位相可変機構(VVT機構)、33 リフト量可変機構(VVL機構)、40 排気弁駆動機構、56 スロットルボデー、57 スロットル弁、100 エンジン制御ユニット。