JP4664844B2 - 高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線及びその製造方法 - Google Patents

高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線及びその製造方法に関するものである。
従来、護岸工事用かごマット、金網、養殖用生簀、ワイヤロープ、鋼撚り線など、耐食性が要求される環境下で使用される鋼線には、Znメッキ施すことによって耐食性を付与する方法が一般的に利用されてきた。現在では、高耐食性を付与する方法として、二浴法によるZn−Alメッキによる方法が主流となっている。
前記のようなメッキ方法としては、伸線後にメッキする後メッキ方式とメッキ後に伸線加工するアフタードロー(メッキ後冷間加工)方式が知られている。ここで伸線加工とは、Zn−Al合金メッキ鋼線の表面に潤滑剤を付着させた後、ダイスを用いて加工し、線径を連続的に縮径する方法のことである。さらに、このアフタードロー方式の伸線加工においては、乾式伸線及び湿式伸線が知られている。
後メッキ方式は、アフタードロー方式と比べて、メッキに先立って伸線加工を行なうため、伸長されることで地鉄としての鋼線の線径が細くなり、また長さも長くなる。そのため、メッキ作業時間が長くなり、メッキ加工コストが高くなるという問題がある。しかし、メッキ後に伸線加工を行なわないため、比較的高付着量のメッキ鋼線が得られるという利点がある。
これに対し、アフタードロー方式では、メッキ加工時の鋼線は線径が太いままなので、メッキ作業時間が短くて済み、メッキ加工コストを抑えられる利点がある。しかし、伸線加工の線径比に比例してメッキ付着量が減少するため、高付着量のメッキ鋼線が得られないという問題点を有していた。
アフタードロー伸線加工において、乾式伸線は、大気中でメッキ鋼線の表面に油脂分を含む粉状潤滑剤を付着させ、張力をかけてダイスから引き抜くことにより行なわれる。この乾式伸線は、伸線性に優れ、表面荒れも少ない反面、潤滑剤の付着量が1.0g/m程度と多い。そのため、樹脂被覆加工用等に用いる場合、樹脂との密着性を確保するために、伸線加工後に粉末潤滑剤を洗浄除去する工程が必要となり、コストがかさむといった問題がある。また、潤滑剤除去工程を同一製造過程で行う場合には、高速で伸線加工できないなどの問題もある。一方、湿式伸線では、一般的に第一ダイスのみ粉状潤滑剤を用い、第二ダイス以降は合成ワックス等を主成分とする潤滑液中で伸線加工が行なわれるため、メッキ線表面への潤滑剤の付着を少なくできる。しかし、その分、伸線性が低いため、伸線中に表面が荒れメッキが削れたり、線径不良が発生する等の問題がある。このため、ワイヤロープなど線表面の清浄性があまり要求されない一般的用途には乾式伸線が使用されており、ベルトコード等の表面清浄性が要求される用途には、潤滑液中でZnメッキが30%程度削れる犠牲を払いながら、湿式伸線が採用されている。また、表面が比較的に平滑なZn−Al合金メッキ鋼線では、湿式伸線は不可能とされていた。
アフタードロー方式では鋼線の伸線加工を行なう前にZn−Al合金メッキを施し、メッキを凝固させる必要があるが、メッキの凝固方法としては、大気中で放冷する放冷冷却や強制的に水スプレーによって冷却する水冷却、空気を吹き付けて冷却する空気冷却が知られている。水冷却による冷却を行なった場合には、メッキ層組織に耐食性の悪い共析相が耐食性の良いβ−Znマトリックス相に微細かつ近距離に分散してしまうことが知られている。ここで共析相とは、メッキ層組織中に電位の異なるα−Al相とβ−Zn相との混在する相のことである。この共析相は常にβ−Znマトリックス相に優先して腐食されることも知られている。この場合、腐食は共析相に沿って異種金属接触腐食効果により内部へと進行していく。したがって、共析相が微細かつ近距離にあるほど腐食は早く進むこととなる。これは顕微鏡写真により、腐食液によって共析相が早く腐食されて黒色となることからも確認されている。
一方、前記空気冷却を用いることにより、このような共析相を塊状化できることが本発明者によって知見され、既に特許出願により提案されている(特許文献1参照)。
特開2004−124251号公報
特許文献1で開示したように、メッキ層組織中の共析相を塊状化することで、水冷却による冷却を行なった場合よりも共析相間の距離を長くとれ、共析相に沿って内部へと進む腐食をある程度防止することができる。しかし、共析相を塊状化することで腐食を抑制し耐食性はかなり向上するものの、メッキ層の凝固時においては共析相がメッキ厚方向へと方向性を持って成長するため、いまだ共析相に沿った腐食経路が残っており、より高い耐食性に関し、まだ問題点を残している。
そこで、本発明の課題は、従来の前記したような耐食性及び表面清浄性の問題を解決するとともに、従来にない高付着量による新規な高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線及びその製造方法を提供することを目的とする。
前記した課題を解決するため、請求項1記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al合金メッキ鋼線に対し、潤滑剤除去工程を設けない湿式伸線によるアフタードローで形成された前記Zn−Al合金メッキ鋼線であって、前記湿式伸線における前記Zn−Al合金メッキ鋼線表面への潤滑剤付着量が0.25g/m以下であることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線である。
請求項1の構成により、原料線の表面が十分に粗面化され、湿式伸線によるアフタードローが可能であり、Zn−Al合金メッキ鋼線の表面への潤滑剤の付着量を0.25g/m以下の少量としたので、従来は困難とされていた樹脂被覆を行う場合等に、潤滑剤の除去作業なしに適用することが十分に可能となった。これにより、伸線加工後の洗浄除去にかかるコスト及び手間が省ける。
また、Zn―Al合金メッキ鋼線の原料線の表面を十分粗面化できるために、第一ダイスの粉状潤滑剤の乗りが良くなり、第二ダイス以降の湿式伸線による伸線加工に用いることができる。
請求項2記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al合金メッキ鋼線において、前記ZnーAl合金メッキ鋼線の前記Zn浴及びZn−Al浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層を介してその表面に形成されるメッキ層は、倍率400倍の光学顕微鏡写真において、伸線加工度が36〜72%で白色状の高耐食β−Znマトリックス相で低耐食の黒色状共析相を包み込み、β−Znマトリックス相と共析相とが白色状と黒色状のコントラストで識別されることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線である。
請求項2の構成により、伸線加工度を36.0〜72.0%の範囲で伸線加工がなされたものとすることで、β−Znマトリックス相と共析相がより鮮明なコントラストを有し、耐食性の悪い共析相が、β−Zn相により完全な包み込まれるため、耐食性を高めることができる。
請求項3記載の発明は、前記Zn−Al合金メッキ鋼線におけるメッキ付着量(g/m が線径ミリ数値の125〜210倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線である。
請求項3の構成により、後メッキ方式を前提に作成されたJIS G3537(Znメッキ鋼より線)やJIS G3525(ワイヤロープ)規格のメッキ付着量(g/m)が線径ミリ数値の約100倍程度であるのに対し、それ以上にメッキ付着量(g/m)を増やすことができる。これにより、耐食性が向上する。
また、このZn―Al合金メッキ鋼線に、アフタードローによる伸線加工を施すと、芯材となる鋼線とメッキ層が伸線前後の線径比に比例して同じ割合で減少するため、厚メッキの原料線の場合、伸線後も基本的に線径ミリ数値に対して原料線と同じ高倍率の高付着量を得ることができる。
請求項4記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、同速又は異流速の空気流で冷却する少なくとも二段階空冷のZn−Al合金メッキ鋼線において、前記Zn浴及びZn−Al浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層と該中間層を介してその表面に形成されるメッキ層の両層に含まれるAlの割合が平均質量%で8〜25%で、残部の不可避成分を含むZnの割合が75〜92%であって、前記Zn−Al合金メッキ鋼線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理によって線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成したことを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線である。
請求項4の構成により、高付着量の厚いメッキ層を得ることができ、当該メッキ層組織中において、空気流冷却において塊状化した共析相の組織を、線方向に対して略平行に、かつ扁平状に再調整して形成し、線方向に略平行な層状とする。これにより、線方向に略平行な扁平状とされた耐食性の悪い共析相が、耐食性のよいβ−Znマトリックス相に包み込まれる構造となり、共析相に沿ってメッキ厚方向に向かって進む腐食を防止できる。よって耐食性が向上する。
また、空冷処理によってメッキ鋼線の表面を粗面化することができるために、潤滑剤の乗りを良くすることができる。
Al含有量を8〜25質量%とするのは、Al含有量が8質量%未満の場合、溶湯の流動性が高い共晶成分(Al:5質量%)に近づくため、空冷凝固によりメッキ表面の粗度を大きくした潤滑材引き込み性の良い粗面仕様のZn−Al合金メッキ鋼線が製造困難となり、さらに空気冷却によってもZn−Al合金メッキ鋼線の表面が滑面化するためである。Al含有量の上限を25質量%としたのは、それ以上であっても耐食性の改善効果がみられず、メッキ層の硬度が高くなり加工性が低下するためである。
請求項5記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法による高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線の製造方法において、鋼線にZnを主成分とする溶融Znメッキを行なった後、組成比が、平均質量%でAlの割合が8〜25%、残部が不可避成分を含むZnからなる溶融Zn−Al合金メッキを行ない、Zn−Al合金メッキ浴面からメッキ絞り部を経て立ち上がる線材を、下側加圧空気部の空気噴出口から冷却空気を流出して空冷する下側空冷部と、同速の冷却空気を上側加圧空気部の空気噴出口から流出して空冷する上側空冷部と、を有する空冷装置内を順次通過させて連続的に空冷するようにした少なくとも二段階空冷により原料線を製造し、前記原料線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理により線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成することを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線の製造方法である。
請求項5記載の構成により、高付着量の厚いメッキ層を有するZn−Al合金メッキ鋼線を製造することができる。その際、少なくとも二段階空冷処理によって、メッキ層組織中にα−Alとβ−Znが混在した共析相を塊状化させた原料線を製造することができると共に、原料線の表面を粗面化することができる。原料線の表面に少なくとも二段階に冷却空気を吹き付けて空気冷却することで、水冷却では微細分散となってしまう共析相を、空気冷却ではある程度の冷却速度をもって冷却することができるので、共析相をゆっくりと成長させ、塊状化させることができる。共析相の塊状化と同時に原料線の表面においては、水冷却のように原料線の表面が滑面となってしまうのを、空気冷却では粗面化することができる。
前記少なくとも二段階の空冷により形成された共析相は、水冷却の際に出来る微細分散した共析相とは異なり、共析相は塊状化し、腐食速度は抑制されてはいるもののメッキ厚方向への方向性を有している。しかし、腐食は共析相に沿って進むので、メッキ厚方向への方向性を有したままでは耐食性をより向上させることができない。そこで、伸線加工によって線方向に対して略平行に、かつ扁平状に再調整して形成し、線方向に略平行な層状とすることで、メッキ厚方向への方向性を持った共析相を、線方向に略平行な扁平状とすることができる。これにより、共析相に沿って表面から内部へと進む腐食の道筋をなくすことができるとともに、耐食性の悪い共析相が、耐食性の良いβ−Znマトリックス相に包み込まれる構造となり、高耐食性を付与することができる。
さらに伸線加工においては原料線の表面が粗面に形成されているので、潤滑剤ののりが良く、特に湿式伸線においては、第一ダイスの粉状潤滑剤ののりが良くなるため、従来不可能であった湿式伸線が可能となる。
Al含有量を8〜25質量%とするのは、Al含有量が8質量%未満の場合、溶湯の流動性が高い共晶成分(Al:5質量%)に近づくため、空冷凝固によりメッキ表面の粗度を大きくした潤滑材引き込み性の良い粗面仕様のメッキ鋼線が製造困難となり、さらに空冷によっても合金メッキ鋼線の表面が滑面化するためである。Al含有量の上限を25質量%としたのは、それ以上であっても耐食性の改善効果がみられず、メッキ層の高度が高くなり加工性が低下するためである。
請求項6記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al−Mn合金メッキ鋼線に対し、潤滑剤除去工程を設けない湿式伸線によるアフタードローで形成された前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線であって、前記湿式伸線における前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線表面への潤滑剤付着量が0.25g/m以下であることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線である。
請求項6の構成により、原料線の表面が十分に粗面化され、湿式伸線によるアフタードローが可能であり、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線の表面への潤滑剤の付着量を0.25g/m以下の少量としたので、従来は困難とされていた樹脂被覆を行う場合等に、潤滑剤の除去作業なしに適用することが十分に可能となった。これにより、伸線加工後の洗浄除去にかかるコスト及び手間が省ける。
また、Zn―Al−Mn合金メッキ鋼線の原料線の表面を十分粗面化できるために、第一ダイスの粉状潤滑剤の乗りが良くなり、第二ダイス以降の湿式伸線による伸線加工に用いることができる。
請求項7記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al−Mn合金メッキ鋼線において、前記ZnーAl−Mn合金メッキ鋼線の前記Zn浴及びZn−Al−Mn浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層を介してその表面に形成されるメッキ層は、倍率400倍の光学顕微鏡写真において、伸線加工度が36〜72%で白色状の高耐食β−Znマトリックス相で低耐食の黒色状共析相を包み込み、β−Znマトリックス相と共析相とが白色状と黒色状のコントラストで識別されることを特徴とする高耐食性を有するZn―Al−Mn合金メッキ鋼線である。
請求項7の構成により、伸線加工度を36.0〜72.0%の範囲で伸線加工がなされたものとすることで、β−Znマトリックス相と共析相がより鮮明なコントラストを有し、耐食性の悪い共析相が、β−Zn相により完全な包み込まれるため、耐食性を高めることができる。
請求項8記載の発明は、前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線におけるメッキ付着量(g/m が線径ミリ数値の125〜210倍であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線である。
請求項8の構成により、後メッキ方式を前提に作成されたJIS G3537(Znメッキ鋼より線)やJIS G3525(ワイヤロープ)規格のメッキ付着量(g/m)が線径ミリ数値の約100倍程度であるのに対し、それ以上にメッキ付着量(g/m)を増やすことができる。これにより、耐食性が向上する。
また、このZn―Al−Mn合金メッキ鋼線に、アフタードローによる伸線加工を施すと、芯材となる鋼線とメッキ層が伸線前後の線径比に比例して同じ割合で減少するため、厚メッキの原料線の場合、伸線後も基本的に線径ミリ数値に対して原料線と同じ高倍率の高付着量を得ることができる。
さらに厚メッキになっても、前記Mn割合を含むZn−Al−Mn合金メッキ鋼線は、耐食性を改善させ、さらに合金浴の低流動性による安定した高付着量を維持することができる。
請求項9記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、同速又は異流速の空気流で冷却する少なくとも二段階空冷のZn−Al−Mn合金メッキ鋼線において、前記Zn浴及びZn−Al−Mn浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層と該中間層を介してその表面に形成されるメッキ層の両層に含まれるAlの割合が平均質量%で8〜25%で、Mnの割合が平均質量%で0.02〜0.30%であり、残部の不可避成分を含むZnの割合が74.70〜91.98%であって、前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理によって線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成したことを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線である。
請求項9の構成により、高付着量の厚いメッキ層を得ることができ、当該メッキ層組織中において、空気流冷却において塊状化した共析相の組織を、線方向に対して略平行に、かつ扁平状に再調整して形成し、線方向に略平行な層状とする。これにより、線方向に略平行な扁平状とされた耐食性の悪い共析相が、耐食性のよいβ−Znマトリックス相に包み込まれる構造となり、共析相に沿ってメッキ厚方向に向かって進む腐食を防止できる。よって耐食性が向上する。
また、空冷処理によってメッキ鋼線の表面を粗面化することができるために、潤滑剤の乗りを良くすることができる。
さらに、メッキ層にMnを前記割合で含有させたことによって耐食性を改善させ、さらに合金浴の低流動性を有することができる。これにより、線径ミリ数値に対して高倍率の高付着量を安定して製造することができる。
Al含有量を8〜25質量%とするのは、Al含有量が8質量%未満の場合、溶湯の流動性が高い共晶成分(Al:5質量%)に近づくため、空冷凝固によりメッキ表面の粗度を大きくした潤滑材引き込み性の良い粗面仕様のメッキ鋼線が製造困難となり、さらに空冷によっても合金メッキ鋼線の表面が滑面化するためである。Al含有量の上限を25質量%としたのは、それ以上であっても耐食性の改善効果がみられず、メッキ層の硬度が高くなり加工性が低下するためである。
また、Mn含有量の下限を0.02質量%としたのは、これ未満では耐食性の改善が明確ではなく、Mn含有量の上限を0.30%としたのはMnを例えば0.46質量%に増やしても特に後記する空冷凝固では明確な耐食性の向上が認められないとともに、付着量を0.46質量%程度とするにはメッキ浴におけるMn組成比が1.0質量%程度を必要とし、Mnのトップドロス化により多量のドロスが発生し、Mn1.0質量%のメッキ浴の管理が困難になるからである。
請求項10記載の発明は、Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法による高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の製造方法において、鋼線にZnを主成分とする溶融Znメッキを行なった後、組成比が、平均質量%でAlの割合が8〜25%、Mnの割合が0.02〜0.30%、残部が不可避成分を含むZnの割合が74.70〜91.98%からなる溶融Zn−Al−Mn合金メッキを行ない、Zn−Al−Mn合金メッキ浴面からメッキ絞り部を経て立ち上がる線材を、下側加圧空気部の空気噴出口から冷却空気を流出して空冷する下側空冷部と、同速の冷却空気を上側加圧空気部の空気噴出口から流出して空冷する上側空冷部と、を有する空冷装置内を順次通過させて連続的に空冷するようにした少なくとも二段階空冷により原料線を製造し、前記原料線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理により線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成することを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の製造方法である。
請求項10の構成により、高付着量の厚いメッキ層を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線を製造することができる。その際、少なくとも二段階空冷処理によって、メッキ層組織中にα−Alとβ−Znが混在した共析相を塊状化させた原料線を製造することができると共に、原料線の表面を粗面化することができる。原料線の表面に少なくとも二段階に冷却空気を吹き付けて空気冷却することで、水冷却では微細分散となってしまう共析相を、空気冷却ではある程度の冷却速度をもって冷却することができるので、共析相をゆっくりと成長させ、塊状化させることができる。共析相の塊状化と同時にZn−Al−Mn合金メッキ層の表面においては、水冷却のようにZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の表面が滑面となってしまうのを、空気冷却では粗面化することができる。
前記少なくとも二段階の空冷により形成された共析相は、水冷却の際に出来る微細分散した共析相とは異なり、共析相は塊状化し、腐食速度は抑制されてはいるもののメッキ厚方向への方向性を有している。しかし、腐食は共析相に沿って進むので、メッキ厚方向への方向性を有したままでは耐食性をより向上させることができない。そこで、伸線加工によって線方向に対して略平行に、かつ扁平状に再調整して形成し、線方向に略平行な層状とすることで、メッキ厚方向への方向性を持った共析相を、線方向に略平行な扁平状とすることができる。これにより、共析相に沿って表面から内部へと進む腐食の道筋をなくすことができるとともに、耐食性の悪い共析相が、耐食性の良いβ−Znマトリックス相に包み込まれる構造となり、高耐食性を付与することができる。
さらに伸線加工においては、原料線の表面が粗面に形成されているので、潤滑剤ののりが良く、特に湿式伸線においては、第一ダイスの粉状潤滑液ののりが良くなるため、従来不可能であった湿式伸線が可能となる。
さらに、メッキ層にMnを前記割合で含有させたことによって、耐食性を改善させ、さらに合金浴の低流動性化による厚メッキ化が可能となる。
本発明は次の効果を奏する。
1.本発明によるZn−Al合金メッキ鋼線によれば、従来困難とされていた湿式伸線による伸線加工を行なうことができ、メッキ表面に付着する潤滑剤の付着量を減らすことができる。これにより、潤滑剤の除去工程を経ずに樹脂被覆を行なうことができるので、時間的・経済的負担を削減できる点で有用である。また、メッキ層組織において耐食性の悪い共析相が線方向と略平行に再調整されることで、メッキ厚方向への方向性が解消されるので、腐食減量が低下する。その結果として、耐食性が向上し、使用可能期間を延長することができる。さらに、金網等に使用する場合には、高耐食性によって張替え費用等が抑えられる点で有用である。
2.本発明によるZn−Al−Mn合金メッキ鋼線によれば、従来困難とされていた湿式伸線による伸線加工を行なうことができ、メッキ表面に付着する潤滑剤の付着量を減らすことができる。これにより、潤滑剤の除去工程を経ずに樹脂被覆を行なうことができるので、時間的・経済的負担を削減できる点で有用である。また、メッキ層組織において耐食性の悪い共析相が鋼線と略平行に再調整されることで、鋼線の表面から内部方向への方向性が解消されるので、腐食減量が低下する。さらに従来にない合金厚メッキ鋼線とすることができる。その結果として、耐食性が大幅に向上し、使用可能期間を延長することができる。さらに、金網等に使用する場合には、高耐食性によって張替え費用等が抑えられる点で有用である。また、従来にない高耐食性を有するので、新規市場開拓が可能となる点で有用である。
3.本発明によるZn−Al合金メッキ鋼線の製造方法によれば、湿式伸線による伸線加工を行なうことで、乾式伸線において必要であった潤滑剤の除去作業を、湿式伸線においては省略できるので、潤滑剤の除去作業に要する工業用アルコール等にかかる費用を削減できる点で有用である。
4.本発明によるZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の製造方法によれば、湿式伸線による伸線加工を行なうことで、乾式伸線において必要であった潤滑剤の除去作業を、湿式伸線においては省略できるので、潤滑剤の除去作業に要する工業用アルコール等にかかる費用を削減できる点で有用である。また、Mnにより耐食性を改善させ、さらに合金浴の低流動化によりメッキ量が線径ミリ数値の125〜210倍の高付着量の製品を安定して作ることができる点で有用である。
以下、本発明の実施形態に係る高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線(以下、単に「合金メッキ鋼線」という場合がある。)及びその製造方法について詳細に説明する。
(二浴法による合金メッキ鋼線の原料線の製造について)
Zn−Al合金メッキ鋼線の原料線の製造方法は、第一浴であるZn浴に鋼線を通すことによってZnメッキ鋼線を製造する第一工程と、前記Znメッキされた鋼線を、Alの割合が8〜25質量%で、不可避成分を含むZnの割合が75〜92質量%である第二浴に通すことによって、Zn、Al及びFeを含む中間層を介して、Zn及びAlからなるメッキ層を形成させる第二工程と、第二浴から垂直に立ち上げられ、少なくとも二段階からなる空冷処理によって空気冷却する第三工程とからなる。
前記メッキ浴の組成について具体的に説明する。
第一浴のメッキ浴はZnのみで組成する。第二浴のメッキ浴は、Alの割合が8〜25質量%、Znの割合が75〜92質量%で組成する。Alが前記範囲の上限を超えると、耐食性の改善効果がみられず、メッキ層の硬度が高くなり、加工性が低下するからである。また、Alが前記範囲の下限を下回ると、溶湯の流動性が高い共晶成分(Al:5質量%)に近づくため、空冷凝固によりメッキ表面の粗度を大きくした潤滑剤引き込み性の良い粗面仕様の合金メッキ鋼線が製造困難となり、さらに空気冷却によっても合金メッキ鋼線の表面が滑面化するためである。したがって、第二浴のメッキ浴の組成はAlの割合が8〜25質量%、Znの割合が75〜92質量%となるようにするとよい。
なお、Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線の場合には、第二のメッキ浴の組成を、本発明ではAlの割合が8〜25質量%、Mnの割合が0.02〜0.30質量%、不可避成分を含むZnの割合が74.70〜91.98質量%とする。Mnの割合を前記範囲に定めたのは、前記範囲の上限を超えると、浴から引き上げる際、これらの金属のトップドロスの発生量が増加する場合がある。その結果、トップドロス化した金属をメッキ浴から排出するための作業回数が頻繁になってメッキ鋼線を製造する作業効率が低下すると共に、この排出によって損失する金属が増大することから、得られるメッキ鋼線の製造コストが増大することとなるからである。また前記範囲の下限を下回ると、耐食性の改善及び厚メッキの安定化のための浴の流動性低下が明確でないためである。
以下に、合金メッキ鋼線の製造方法について、さらに具体的に説明する。
図1は、本発明の合金メッキ鋼線の製造装置における模式図を示している。ここではZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線の製造を例に挙げて説明する。本実施例の合金メッキ鋼線の製造装置は、図1に示すZnメッキを行う第一浴槽1と、Zn−10%Al−0.04%Mnメッキを行う第二浴槽5と、第二浴槽5からZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキが施された鋼線を垂直に引き上げて少なくとも二段階の空気冷却によりメッキを凝固するための第一空冷装置9a、第二空冷装置9bと、を備える原料線の製造工程と、その後、図3に示すZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキが施された原料線を伸線する伸線加工工程と、から主として構成される。
合金メッキの前記原料線の製造工程は、ドラムから供給される鋼線Mを案内するガイドローラ3と、このガイドローラ3から鋼線Mを入線させてZn浴する第一浴槽1と、この第一浴槽1中に配置されたシンカローラ2及び第一浴槽1上に配置されたトップローラ4からZn−10%Al−0.04%Mn浴である第二浴槽5中のシンカローラ6へ案内し、このシンカローラ6からZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線を第二浴槽5外へ引き出す合金メッキ工程と、この合金メッキを施した鋼線を第二浴槽5のメッキ浴面におけるメッキ絞り部8、次いで、その上部に配置される少なくとも二段階空冷により空冷させる第一空冷装置9a及び第二空冷装置9bとを有する空冷装置を経てトップローラ7へと案内する冷却工程と、このトップローラ7からAl−10%Zn−0.04%Mn合金メッキの原料線を巻き取るドラム10を備えた巻取り工程と、から構成されている。なお、Znメッキと、Zn−10%Al−0.04%Mnメッキは、図1に示す連続ではなく個別に二工程で行なってもよい。
ところで、鋼線Mに合金メッキを施す場合、メッキ浴の表面にメッキ浴組成よりAl成分と鋼線から溶融したFe成分とが濃化偏析した浮きドロスが浮遊堆積することが知られている。そして、当該浮きドロスが浮遊堆積すると、合金メッキ鋼線における付着量不良や外観不良などの原因になると共に、清掃除去に伴う作業性の低下を招くといった問題もあった。
そこで、本実施形態にかかる第二浴槽5には、多量に発生する浮きドロスを解消するために、波動手段50を備えている。また、よりメッキ付着量を増やすために、熱付与手段55を備えている。
図1に示す波動手段50(50a,50b)は、モータ51と、回転軸52と、回転体53(53a,53b)とから構成される。
回転軸52は、回転体53(53a,53b)の回転中心軸であるとともに、モータ51の動力を回転体53に伝達するものである。
回転体53としては、図1に示すように、第二浴槽5の深さ方向三分の一の表層領域を回転している第一回転体53aと、さらに深層領域を回転している第二回転体53bとの複数翼である場合(例えば、図中、波動手段50aに相当)や、第一回転体53aのみの単翼である場合(例えば、図中、波動手段50bに相当)がある。
当該構成により、メッキ浴の表層領域が波動し、形成された浮きドロスをメッキ浴中に再度溶解させることができる。これにより、メッキ絞り部8において、鋼線Mに施したZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキが浮きドロスによって削れ、付着量不足がおきたり、鋼線Mに施したZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキに浮きドロスが付着し、コブ状となる外観不良が発生したりするのを防止することができる。また、溶融しているメッキ成分が浴槽の内壁に凝着することを抑止することもできる。
図1に示す熱付与手段55は、図示しない発熱体と燃料管とから構成され、第二浴槽5の温度を制御するものである。なお、発熱体は、第二浴槽5中に浸漬されるとともに、燃料管から輸送される燃料を燃焼させることにより発熱するものである。
この第二浴槽5の温度は、Znメッキを施した鋼線に付着させるメッキ層の厚さを決定する重要な要素であるところ、熱付与手段55は、目的とする厚さのメッキ層が得られる所定温度に第二浴槽5の温度を保持する必要がある。
なお、肉厚のメッキ層を得ようとする場合は、第二浴槽5の温度を下げてZn−10%Al−0.04%Mn合金の溶融体の粘度を高くすることが望ましい。ただし、第二浴槽5の温度を下げすぎると、溶融体が凝固してZnメッキを施した鋼線の円滑な走行が阻害されてしまう。
本実施形態においては、第二浴槽5のZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ浴温度を、通常用いる設定温度445℃よりも低い423℃に設定することができる。これにより、溶融体の粘度を高めることができるので、Znメッキを施した鋼線への合金メッキ付着量を増やすことができる。よって、耐食性をさらに上げることができる。また、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ浴温度をメッキ素材の凝固点温度(423℃)近傍の低温まで下げることができるので、空冷設備を拡張することなく、既存の設備によって、熱容量の大きい鋼線にも、空気流冷却を施すことができる。
例えば、従来は熱容量が大きいために厚メッキできなかったZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線の線径φ8.0mmの鋼線に、1030g/m程度のメッキを付着させることができる。これは、浴槽の温度が凝固が開始する凝固点温度近傍まで下げられていることから、溶融体の粘度が高くなり付着量が増えると共に、メッキ浴の浴面から引き上げられた鋼線の溶融体が凝固するまでの時間が短時間ですむためである。
なお、固液共存温度範囲でも、浴面波動により浴壁部やメッキ絞り部8での凝固が防止できるので、低温浴でのメッキ作業が可能となる。
また、本実施形態にかかる第二浴槽5の構造は、二浴法に限られるものではなく、一浴法に用いてもよい。さらに、二浴法においては、第一浴槽及び第二浴槽共に、本構造としても良い。
前記Znメッキを施した鋼線をZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ浴である第二浴槽5を通過させた後、トップローラ7によって第二浴槽5から垂直に引き上げる。引き上げたZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線を、空冷装置へ移送する際に、まずメッキ絞り部8を通過させる。メッキ絞り部8には無酸化性の雰囲気ガスが充満されており、付着メッキ層の酸化を防止し、メッキ層の偏肉や外観を損なわないようにするためのものである。
メッキ絞り部8でメッキを絞った前記Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線は、空冷装置によって冷却される。第一及び第二空冷装置9a、9bは、加圧空気部を有し、この加圧空気部から吹き出した空気によって、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線が冷却されるようになっている。第二空冷装置9bから空気が吹き出される空気は、第一空冷装置9aよりも相対的に高速の空気が吹き出されるようにされた、少なくとも二段階の空冷が行なわれるように構成されている。本実施形態では、前記空冷装置は鋼線に沿い第二浴槽5上に2台上下に直線状に並んで配設されている。トップローラ7に近い第二空冷装置9bは、第二浴槽5に近い下側の第一空冷装置9aに対し、冷却部が向き合った構造をとっており、冷却空気は鋼線の引き出し方向とは逆の方向に吹き出されている。
このように、第一空冷装置9aに対し第二空冷装置9bが向き合った構造とすることで、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線は、第一空冷装置9aの加圧空気部11aから吹き出された相対的に低速の空気によって、まずゆっくり冷却され、次に第二空冷装置9bの加圧空気部11bから吹き出された相対的に高速の空気によって冷却速度が高められるようになっている。
なお、本実施形態において、第一空冷装置9aが特許請求の範囲記載の『下部空冷部』に、第二空冷装置9bが特許請求の範囲記載の『上部空冷部』に、それぞれ該当する。
加圧空気部11a、11bにはホースが接続され、加圧空気が加圧源(図示せず)から供給される。この際、加圧空気部11bには加圧空気部11aよりも気圧の高い空気が吹き出されている。例えば、第一空冷装置9aの加圧空気部11aには、加圧空気部11aに取り付けられたノズルから3KPaの気圧で加圧空気部11aに空気が送り込まれ、第一空冷装置9a内に25m/s〜50m/sの速さで空気を吹き出している。第二空冷装置9bの加圧空気部11bには、加圧空気部11bに取り付けられたノズルから4.5KPaの気圧で加圧空気部11bに空気が送り込まれ、第二空冷装置9b内に一段目より高速の40m/s〜70m/sの速さで空気を吹き出している。
第二空冷装置9bの加圧空気部11bから吹き出された冷却空気は下方に向かって進むにつれてZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線の熱によって温められるので、第一空冷装置9aの上側冷却部から出てくる冷却空気の温度とたいして変わらなくなる。したがって、徐々にZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線を冷却できるので、前記共析相が微粒分散せず、塊状化させることができると共に、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線の表面を粗面化させることができる。
なお、第一空冷装置9aと第二空冷装置9bの間には遮風板が取り付けられているため(図示せず)、第一空冷装置9aから吹き出された冷却空気と、第二空冷装置9bから吹き出された冷却空気がぶつかりあうことはない。
また、この第一空冷装置9aと第二空冷装置9b内には、空気の吹き出しによって冷却空気の乱流を防止するための乱流防止用整流板(図示せず)が複数枚設けられている。さらに、メッキ工程及び空気冷却は単線に限られず、複数本の鋼線を同時にメッキし、空冷装置にて空気冷却することも可能である。
さらに、冷却装置内の風速はこれに限られるものではなく、第一空冷装置9aと第二空冷装置9bの風速が同速であってもよい。例えば、加圧空気部11a,11bに取り付けられたノズルに、それぞれ3KPaの気圧で空気が送り込まれることで、第一空冷装置9aと第二空冷装置9b内には同速の冷却空気が吹き出される。かかる場合においても、合金メッキ鋼線は冷却され、共析相を塊状化させることができると共に、鋼線の表面を粗面化することができる。
さらに、第一空冷装置9aの風速を第二空冷装置9bの風速よりも相対的に高速としても良い。かかる場合においても、共析相を塊状化させ、粗面化することができる。
なお、本実施形態においては、二段階空冷として2台の空冷装置を用いて説明したが、これに限られず、例えば、少なくとも2台の空冷装置を一体とした、一つの通し冷却通路を有する一台の空冷装置を用いても良い。
図2に示すように、空冷装置60は、内部にZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線を挿通する一つの通し冷却通路67と、前記冷却通路67に沿って間隔的に配置され、前記冷却通路67へ空気を吹き出す複数段の空気圧力室と、を有し、二段目以降の空気圧力室の下流側の冷却通路47は、当該空気圧力室から吹き出す空気により、当該冷却通路67内に外部空気を吸引して導入するようにした外気吸引管66を備えている。また、図示しない外部の空気供給手段(加圧源)によって、空気吹込管64,64から下段と中段の二箇所に設けられた第一及び第二空気圧力室61,62に冷却空気が供給されている。また供給される冷却空気量はバルブVによって、適宜コントロールされ、第一及び第二空気圧力室61,62に供給する圧力を調整している。
さらに、第一空気圧力室61に供給された冷却空気は第一冷却筒63a(冷却通路67)内に、第二空気圧力室62に供給された冷却空気は第二冷却筒63b(冷却通路67)内に、それぞれ噴き出されている。
なお、冷却通路67内の冷却空気の流れに関し、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキが施された鋼線の入口側を『上流側』とし、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキが施された鋼線の出口側を『下流側』とする。
また、当該空冷装置60を使用した場合においては、第一冷却筒63aが、特許請求の範囲記載の『下部空冷部』に、第二冷却筒63bが特許請求の範囲記載の『上部空冷部』にそれぞれ該当する。
ここで、当該空冷装置60は、図1に示した第一及び第二空冷装置9a,9bのように、第一空冷装置9aと、第二空冷装置9bとの間を移動する際に、強制的に空気を吹き付けられない区間(以下、「不連続部」という)がないため、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線が連続して冷却される。
これにより、不連続部となっているために冷却されなかった区間を、連続して冷却することができる。さらに、不連続部を設けた第一及び第二空冷装置9a,9bでは、第二空冷装置9bを通過しても、Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを鋼線のメッキ層が未だ固まっていなかったが、一つの通し冷却通路を有する一台の当該空冷装置を用いると、A地点で既にメッキ層が凝固していた。したがって、トップローラ7等によってZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した鋼線の表面に傷がつくことがなく、品質が向上する。
さらに、連続して冷却することで冷却効率が上がるため、線径の太い鋼線に厚メッキを施しても、十分に冷却することが可能である。
ここで、第1空気圧力室61と第2空気圧力室62の空気吹込管64にそれぞれノズルを設け、当該ノズルからミストを噴射して、冷却空気に混入して冷却することも可能である。これにより、線径の太い鋼線に厚メッキを施した場合においても、空冷装置60内で凝固させることができる。なお、第1空気圧力室61及び第2空気圧力室62の空気吹込管64,64にそれぞれ設けたノズルからミストを噴射しても急冷とはならず、共析相が微粒分散することもない。
なお、空冷装置60において、第一冷却筒63a内の風速と第二冷却筒63b内の風速とが同速であっても良いし、第二冷却筒63b内の風速が第一冷却筒63a内の風速よりも相対的に高速であっても良い。かかる場合においても、合金メッキ鋼線は冷却され、共析相を塊状化させることができると共に、鋼線の表面を粗面化することができる。
また、第一冷却筒63aの風速を第二冷却筒63bの風速よりも相対的に高速としても良い。
伸線加工工程について具体的に説明する。
図3は、アフタードロー(以下、単に「AD」という場合がある。)における湿式伸線の模式図を示している。ここでは湿式伸線による伸線加工について説明する。本実施例の湿式伸線において、最初の第一ダイス22による伸線は大気中で粉状潤滑剤Pを用いる乾式伸線で行なわれる。湿式液外の第一ダイス22によって、既に一度伸線加工されたZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキを施した原料線は、潤滑液Wが満たされた湿式伸線機21に通され、引き抜きキャプスタン25により張力をかけられながら、湿式伸線機21内のダイス23により連続的に伸線加工が施される。このダイス加工が数段階にわたり行われる。
なお、乾式伸線においては、潤滑液Wを粉状潤滑剤Pに入れ替えたものが乾式伸線装置となる。
ここでダイスとは、図4に示すように、線径がdの鋼線を張力をかけながら引き抜くことで、線径をdに縮径できる引抜工具である。さらに断面減少率(R)は以下の式(1)で求めることができる。また、伸線加工前の原料線の線径をd、最終的な伸線加工後の線径をdとした場合の、全断面減少率(TR)は以下の式(2)で求めることができる。
なお、本実施例において、使用ダイスは7台しか記載していないが、目的の線径に縮径するために、適宜回数ダイスを通すように構成されている。また、本実施例に挙げたダイスを用いる方法のみならず、張力をかけながら圧延ロールによって伸線加工することも可能である。
(合金メッキ鋼線について)
合金メッキ鋼線の構造について具体的に説明する。
図5(a)は前記Zn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線の乾式AD加工前の原料線の断面図である。図5(a)参照して説明すると、合金メッキ鋼線41は、鋼線(地鉄)42上に、Zn、Al、Mn、Feを含む中間層43を介して、Zn、Al、Mnからなるメッキ層44を備えている。
中間層43は、前記したメッキ浴組成物の組成に由来するZn、Al、Mn及び鋼線である地鉄由来の拡散成分のFeで形成されている。
メッキ層44は、Zn、Al、MnからなるZn−10%Al−Mn合金で形成されており、前記したメッキ浴組成物を構成する金属成分が固化したものである。このメッキ層中には図5(a)に示すように、α−Al相とβ−Zn相とが混在してなる共析相45aがβ−Znマトリックス相45b中に塊状で分散した構造をとっている。また表面は少なくとも二段階空冷により粗面となっている。
なおMnは、電子線プローブマイクロアナライザー面分析結果より、中間層43及びメッキ層44に均等に分散し存在していることから、固溶体を作り固溶されていると推察される。
Zn−10%Al合金メッキ鋼線においても中間層43及びメッキ層44にMnが固溶されていない点を除き、前記したZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線と変わらない構造を有している(図7(a)参照)。
これら中間層及びメッキ層の合計メッキ付着量(g/m)は、鋼線Mの線径ミリ数値の125〜210倍になるように制御されている。かかる値は後メッキ方式の場合におけるメッキ付着量(g/m)の1.25倍〜2.1倍であり、従来にない厚メッキである。これは同速又は異流速の空気流による厚メッキ用二段階空冷装置により、従来にない厚メッキ原料線を製造できるためである。また、乾式ADによる伸線加工においては、伸線加工後も鋼線とメッキの割合が維持されるので、基本的に伸線後も線径ミリ数値に対して原料線と同じ高倍率の厚メッキが維持できる。
例えば、乾式ADによって伸線した場合、線径φが5.0mmの鋼線に線径ミリ数値の198倍である991g/mのメッキを付着させたとき、伸線加工によって線径φが2.3mmになっても、メッキ付着量は線径ミリ数値の204倍である469g/mが維持される(表1参照)。なお、198倍と204倍の違いは、メッキ付着量のばらつきによるものである。
また、乾式ADによって伸線した場合、線径φが8.0mmの鋼線に線径ミリ数値の129倍である1030g/mのメッキを付着させたとき、伸線加工によって線径φが3.8mmになっても、メッキ付着量は線径ミリ数値の126倍である477g/mが維持される。
共析相とは、メッキ層組織中に電位の異なるα−Al相とβ−Zn相との混在する相のことであり、常にβ−Zn相に優先して優先腐食される。したがって、図5(a)及び図7(a)のように、顕微鏡写真においては、共析相は腐食液によって早く腐食されるため、黒色で示される。一方、β−Znマトリックス相は腐食されにくいため、白色のままである。
一般に腐食しやすい共析相は、複数回の伸線加工を経ることで、メッキ厚方向に方向性を有していた共析相を、鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状とすることができる。図9及び図10は、線径φが5.5mmであるJIS G3506 SWRH62Aの硬鋼鋼線に、少なくとも800g/m以上のZn−Al合金メッキを付着させたZn−10%Al合金メッキ鋼線であって、伸線加工回数毎における各々のメッキ層L断面図を示したものである。図9のAのように、伸線加工を行なう前においては、メッキ層中の共析相がメッキ厚方向に伸びていることがわかる。一方、図9のC〜D及び図10のE〜Hにおいては、伸線加工回数が増えるたびに共析相が鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状に再調整されていっていることがわかる。特に図9のB〜D及び図10のE〜Gにおいては、共析相の周囲をβ−Zn相が覆う構造となっており、共析相とβ−Zn相との領域のコントラストで、よりはっきりと識別できる。共析相がβ−Znマトリックス相で包み込まれることにより高耐食性が得られる。
図5〜8に、Zn−Al又はZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の伸線加工前後における合金メッキ鋼線のL断面組織図を示す。
図5(a)は、線径φが5.0mmであるJIS G3505 SWRM6K(以下、単に「M6K」という。)の軟鋼鋼線に、少なくとも900g/m以上のメッキを付着させた、表面が少なくとも二段階空冷により粗面となっているZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線(表1の比較例No.5;以下、単に「900ZAMR」という。)のL断面組織である。メッキ層において、腐食液によって黒色となっているのが共析相であり、白色はβ−Zn相である。共析相には様々な大きさ、形状で塊状化しており、また方向性も揃っておらず、表面から内部に向けて伸びているものも観察される。共析相の大きさとしては、長さが10μmから80μm、厚さが10μmから20μmほどであり、共析相とβ−Zn相の領域のコントラストがはっきりしている。
図5(b)は、前記比較例No.5のメッキ鋼線を、乾式AD(アフタードロー)により線径φが2.3mmとなるまで伸線加工した(表1の実施例No.1)L断面組織図である。前記同様、メッキ層において腐食液により黒色となっているところが共析相であり、白色がβ−Zn相である。伸線加工によって共析相が鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状になっているのが同図のメッキ層より観察される。また、共析相とβ−Zn相の領域のコントラストもある程度はっきりしていることがわかる。TR(全断面減少率)は78.8%である。
図6(a)は、M6Kの軟鋼鋼線に、少なくとも900g/m以上のメッキを付着させた、表面が強制的な水冷により滑面となっているZn−10%Al−0.03%Mn鋼線(表1の比較例No.6;以下、単に「900ZAMS」という。)のL断面組織である。メッキ層において、腐食液によって黒色となっているのが共析相であり、白色はβ−Zn相である。共析相は急冷処理により塊状化せず、微粒分散してしまっている。また、共析相は微粒分散してしまっているため、方向性などはなく、大きさも1μm以下であるため、形状は識別できない。また、β−Zn相も微粒分散した状態となっている。
図6(b)は、前記比較例No.6のメッキ鋼線を、乾式ADにより線径φが2.3mmとなるまで伸線加工した(表1の比較例No.7)L断面組織図である。前記同様、メッキ層において黒色となっているところが共析相であり、白色がβ−Zn相である。伸線加工によっても、共析相間の距離が縮まったにすぎず、共析相は微粒分散したままである。さらに、共析相がメッキ層全体に広がっており、その共析相の中にβ−Zn相が微粒分散している状態に近いため、本発明とは逆に、β−Zn相が共析相に包み込まれている。TRは78.8%である。
図7(a)は、線径φが5.5mmであるJIS G3506 SWRH62A(以下、単に「62A」という。)の硬鋼鋼線に、少なくとも800g/m以上のメッキを付着させた、表面が少なくとも二段階空冷により粗面となっているZn−10%Al鋼線(表1の比較例No.8;以下、単に「800ZAR」という。)のL断面組織図である。メッキ層において、腐食液によって黒色となっているのが共析相であり、白色はβ−Zn相である。共析相には様々な大きさ、形状で塊状化しており、また方向性も揃っておらず、表面から内部に向けて伸びているものが多く観察される。共析相の大きさとしては、長さが10μmから50μm、厚さが10μmから20μmほどであり、共析相とβ−Zn相の領域のコントラストがはっきりしている。
図7(b)は、前記比較例No.8のメッキ鋼線を、乾式ADにより線径φが2.6mmとなるまで伸線加工した(表1の実施例No.2)L断面組織図である。前記同様、メッキ層において黒色となっているところが共析相であり、白色がβ−Zn相である。伸線加工によって共析相が鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状になっているのが同図のメッキ層より観察される。
また、一部共析相は距離が近いために重なり合っているが、共析相とβ−Zn相の領域のコントラストは、ある程度はっきりしている。さらに、メッキ表面は伸線加工によって略滑面となっている。TRは77.7%である。
図8(a)は、62Aの硬鋼鋼線に、少なくとも800g/m以上のメッキを付着させた、表面が強制的な水冷により滑面となっているZn−10%Al鋼線(表1の比較例No.9;以下、単に「800ZAS」という。)のL断面組織図である。メッキ層において、腐食液によって黒色となっているのが共析相であり、白色はβ−Zn相である。共析相は急冷処理により塊状化せず、微粒分散してしまっているのが観察される。また共析相は微粒分散してしまっているため、方向性などはなく、大きさも1μm以下であるために形まで識別できない。また、β−Zn相も微粒分散した状態となっているのがわかる。
図8(b)は、前記比較例No.9のメッキ鋼線を、乾式ADにより線径φが2.6mmとなるまで伸線加工した(表1の比較例No.10)L断面組織図である。前記同様、メッキ層において黒色となっているところが共析相であり、白色がβ−Zn相である。伸線加工によっても、共析相間の距離が縮まったにすぎず、共析相は微粒分散したままである。さらに、共析相がメッキ層全体に広がっており、その共析相の中にβ−Zn相が微粒分散している状態に近いため、本発明とは逆に、β−Zn相が共析相に包み込まれている。TRは77.7%である。
以上に説明したように、図5、図7のように、共析相が塊状化しているZn−10%Al又はZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線を伸線加工した場合には、メッキ層中の低耐食性の共析相が鋼線の線方向と略並行となり、かつ扁平状となって高耐食性のβ−Zn相に覆われていることが観察される。しかし、図6、図8のように共析相が塊状化しておらず、微粒分散している場合には、伸線加工した場合においても共析相間の距離が縮まったにすぎず、共析相は微粒分散したままである。さらに、共析相がメッキ層全体に広がっており、その共析相の中にβ−Zn相が微粒分散している状態に近いため、本発明とは逆に、β−Zn相が共析相に包み込まれている。したがって、共析相が高耐食性のβ−Zn相に包み込まれないことが、図5〜8の合金メッキ鋼線のL断面組織図との比較から良くわかる。
(粗面・滑面のAD伸線前後の表面性状比較)
図11〜14に、Zn−Al又はZn−Al−Mn合金メッキ鋼線のメッキ表面の状態に応じて伸線加工した場合の、伸線前後の合金メッキ鋼線の表面及び伸線後のL断面組織を示す。
図11は、線径φが3.2mmであるM6Kの軟鋼鋼線に、少なくとも600g/m以上のメッキを付着させ、表面が少なくとも二段階空冷により粗面化され、表面粗度Rzが18μmとなっているZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線(表2の実施例No.11;以下、単に「600ZAMR」という。)である。
図11(a)は伸線加工される前のZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線の表面を、走査型電子顕微鏡(以下、単に「SEM」という。)によって撮影したものである。少なくとも二段階による空気冷却により表面が十分に粗面化されていることが観察できる。
図11(b)は湿式伸線により伸線加工を行なった後のZn−10%Al−0.04%Mn合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。いくつか凹みは認められるものの、表面傷は少なく、表面は少なくとも伸線加工によってほぼ滑面になっているのが識別できる。これは表面の凹凸によって、潤滑剤ののりが良好であったことによると考えられる。
図11(c)は、湿式伸線後のL断面組織図である。共析相が鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状となっており、β−Zn相に覆われていることがわかる。なお、TR(全断面減少率)が39.0%であるため、共析相が完全に扁平状とはなっていないものの、形状及び方向性が再調整されているため、β−Zn相に十分覆われていることが観察される。共析相とβ−Zn相の領域のコントラストもより鮮明にはっきりと識別できる。
図12は、線径φが3.2mmであるM6Kの軟鋼鋼線に、少なくとも600g/m以上のメッキを付着させ、表面が少なくとも二段階空冷により粗面化され、表面粗度Rzが23μmとなっているZn−10%Al合金メッキ鋼線(表2の実施例No.12;以下、単に「600ZAR」という。)である。
図12(a)は伸線加工される前のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMによって撮影したものである。少なくとも二段階による空気冷却により表面が十分に粗面化されている。
図12(b)は湿式伸線により伸線加工を行なった後のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。前記図11(b)に比べ、少し表面は荒れているが、ほぼ同様の状態を示している。
図12(c)は、湿式伸線後のL断面組織図である。共析相が鋼線の線方向と略平行で、かつ扁平状となっており、β−Zn相に覆われている。なお、TRが39.0%であるため、共析相が完全に扁平状とはなっていないものの、形状及び方向性が再調整されているため、十分にβ−Zn相に覆われている。共析相とβ−Zn相の領域のコントラストもより鮮明にはっきりと識別できる。
図13は、線径φが3.2mmであるM6Kの軟鋼鋼線に、少なくとも300g/m以上のメッキを付着させ、表面が水スプレーによる水冷却により滑面化され、表面粗度Rzが4.5μmとなっているZn−10%Al合金メッキ鋼線(表2の実施例No.13)である。
図13(a)は伸線加工される前のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。水スプレーによる水冷却により表面が滑面化されている。
図13(b)は湿式伸線により伸線加工を行なった場合のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。表面に無数の傷がついていることが認められる。これは表面に凹凸がないために潤滑剤ののりが悪く、ダイスとの金属接触によるものと推察される。
図13(c)は、湿式伸線後のL断面組織図である。前記したように、水冷却の場合には共析相が微粒分散するため、伸線加工後においても共析相はβ−Zn相に包み込まれることなく、微粒分散したままである。したがって、共析相とβ−Zn相の領域は区別できない。なお、本実施例において、中間層がないのは、中間層は合金浴中で半溶融のシャーベット状になっているため、メッキ時などにおいて第二浴内のシンカローラ等に削り取られてしまったためと考えられる。なお、TRは39.0%である。
図14は、線径φが3.2mmであるM6Kの軟鋼鋼線に、少なくとも300g/m以上のメッキを付着させ、表面が水スプレーによる水冷却により滑面化され、表面粗度Rzが4.5μmとなっているZn−10%Al合金メッキ鋼線(表2の実施例No.14)である。
図14(a)は伸線加工される前のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。水スプレーによる水冷却により表面が滑面化されていることが分かる。
図14(b)は乾式伸線により伸線加工を行なった場合のZn−10%Al合金メッキ鋼線の表面をSEMで撮影したものである。粉状潤滑剤Pによって伸線されているため、前記図13(b)に比べ、それほどダイスによって表面が傷ついていない。これは、大気中で高濃度の油脂成分を有する粉状潤滑剤Pを使用できる乾式伸線の高伸線性によるものと推察される。
図14(c)は、乾式伸線後のL断面組織図である。前記したように、水冷却の場合には共析相が微粒分散するため、伸線加工後においても共析相はβ−Zn相に包み込まれることなく、微粒分散したままとなっている。したがって、共析相とβ−Zn相の領域は区別できない。なお、TRは39.0%である。
(耐食性の比較)
耐食性の評価はJIS Z2371に示す塩水噴霧試験を連続250時間行なった後、腐食生成物を同JISに基づき酢酸アンモン溶液で除去し、試験前後の重量差により腐食減量を求めた。その結果を表1及び表2に示す。
表1は、各合金メッキ鋼線のメッキ付着量、組成、Znメッキ鋼線を基準とした塩水噴霧試験におけるメッキ腐食減量の割合である。
前記したように粗面である比較例No.5及びNo.8を湿式伸線により伸線加工したのが実施例No.1及びNo.2である。各合金メッキ鋼線において、塩水噴霧試験による腐食減量の割合は、Znメッキ鋼線の腐食減量を100とした場合、伸線加工前の比較例No.5及びNo.8の腐食減量の割合はそれぞれ28、30である。一方、伸線加工した実施例No.1及びNo.2の腐食減量の割合はそれぞれ19、20であり、耐食性が上がっているのがわかる。これは耐食性の悪い共析相が伸線加工によりメッキ厚方向への方向性が解消され、腐食速度が低下したためであると推測される。
表1より、滑面であるZn−10%Al−0.03%Mn合金メッキ鋼線を乾式伸線により伸線加工した比較例No.7と、Zn−10%Al合金メッキ鋼線を乾式伸線により伸線加工した比較例No.10の腐食減量の割合はそれぞれ31と36であり、前記した伸線加工前の比較例5及び8よりも腐食減量の割合が高く、粗面である原料線をADした実施例No.1及びNo.2ほど耐食性がよくないことがわかる。これは、水冷却によって共析相が微粒分散しているため、共析相間の距離が近く、β−Zn相に覆われていないことから、腐食が共析相の境界に沿って進みやすかったためであると考えられる。
表2は、各合金メッキ鋼線の伸線方法においての、Znメッキ鋼線を基準とした塩水噴霧試験におけるメッキ腐食原料の割合である。現在溶融メッキ状態で最も高耐食で腐食減量の小さい合金メッキ鋼線は、比較例No.15のZn−11%Al−2%Mg合金メッキ鋼線とされているが、実施例No.11及びNo.12にZn−10%Al系合金粗面メッキのAD線の腐食減量は、比較例No.15と同等の腐食減量の高耐食性を示している。
Zn−10%Al−2%Mg合金メッキ層のビッカース硬度は、Mg無添加の実施例No.11及びNo.12がビッカース硬度60程度に対し、ビッカース硬度130程度と硬いために、曲げ加工性の問題から、付着量はMIN220g/mと低く規定されている。実施例No.11及びNo.12はメッキ層のビッカース硬度が小さく厚メッキが可能であり、付着量を考慮した耐食性推定指数では、実施例No.15を大幅に上回る従来に存在しなかった画期的な高耐食性を有している。
原料線の表面が粗面であり、かつ湿式伸線で伸線加工した実施例No.11、No.12の塩水噴霧試験による腐食減量の割合は、Znメッキ鋼線の腐食減量を100とした場合、それぞれ11、13であり、腐食減量の割合が約10分の1にまで減っている。すなわち、Znメッキ鋼線の約10倍の耐食性を兼ね備えていることがわかる。一方、原料線の表面が滑面であり、かつ湿式伸線で伸線加工した比較例No.13の塩水噴霧試験による腐食減量の割合は、Znメッキ鋼線を基準とした場合に31であり、乾式伸線で伸線加工した比較例No.14の塩水噴霧試験による腐食減量の割合と同じである。すなわち、実施例No.11及びNo.12に比べて耐食性が悪い。
さらに注目すべき点は、合金メッキ鋼線の表面に付着した潤滑剤の量と線荒れである。比較例No.14のように、乾式伸線で伸線加工した場合には、伸線加工後に洗浄しない場合においては0.81g/mの潤滑剤が表面に付着しており、アルコールで洗浄した場合でも0.45g/mの潤滑剤が残ってしまう。しかし、湿式伸線で伸線加工を行なった場合には、潤滑剤付着量が0.25g/m以下となり(実施例No.11、No.12、比較例No.13)、乾式伸線加工よりもはるかに少ない付着量とすることができ、潤滑剤の除去工程を省略することができる。樹脂被覆加工用の合金メッキ鋼線を作成する場合には、表面への潤滑剤の付着量は0.40g/m以下が好ましいとされているので、本実施例においては最適な樹脂被覆加工用の合金メッキ鋼線が製造できる。
また、空気流冷却後の表面が粗面である合金メッキ鋼線を湿式伸線で伸線加工した場合や、同じく表面が滑面である合金メッキ鋼線を乾式伸線で伸線加工した場合には線荒れはないが、表面が滑面である合金メッキ鋼線を湿式伸線で伸線加工した場合には、前記したようにダイスとの金属接触などにより断線、線径不良等が発生し作業が不可能となる。
したがって、本実施例においては、耐食性が高く、伸線加工後の合金メッキ鋼線表面に幾分残った凹凸に付着する潤滑剤の量も少なく、また線荒れも発生しない、非常に優れた合金メッキ鋼線が潤滑剤洗浄工程が不要となり、低コストで製造できる。
表3は図9及び図10の組織断面図に関する塩水噴霧試験における腐食減量、共析相とβ−Znマトリックス相とのコントラスト、共析相の方向性についてまとめた表である。
伸線加工前の原料線の腐食減量の割合を100とした場合における、各伸線加工段階における腐食減量を比較すると、伸線加工による加工度が進むにつれて腐食減量の割合が減っていることがわかる。すなわち、耐食性が向上していることを示す。これは、図9及び図10からも明らかな通り、低耐食性の共析相が高耐食性のβ−Znマトリックス相に包み込まれていくためである。しかしながら、第7ダイスになると、逆に腐食減量が増え、耐食性が悪くなっている。これは、伸線加工しすぎると、せっかくβ−Zn相に包み込まれていた共析相同士が再び近づいてしまうためと考えられる。しかしながら、TR(全断面減少率)が72.0%以上であっても、伸線加工前の原料線に比べ、耐食性が増しているのは明らかであるが、TRとしては共析相とβーZnマトリックス相のコントラストがより鮮明であり、かつ共析相が線方向と略平行となる36.0〜72.0%の範囲が好ましい。
なお、連続3000時間以上の塩水噴霧試験によっても、本願発明が高耐食性を有することが確認された。
(用途)
本発明においては、高耐食性を活用したZn−Al又はZn−Al−Mn合金メッキ鋼線を使用した護岸工事用かごマット、金網、養殖用生簀、ワイヤロープ、鋼撚り線などに使用可能である。また、伸線潤滑剤付着量の少ない表面清浄性を活用し、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂被覆用鋼線としても使用できる。さらに、ADの場合、後メッキと異なりメッキ浴からの熱影響による 靭性低下を受けないため、耐食性と同時に高疲労性が要求される牡蠣養殖用メッキ鋼線、架線用メッキ鋼撚り線、動索用メッキワイヤロープ等に有効である。
本発明における、合金メッキ鋼線の製造装置における模式図。 他の実施形態にかかる空冷装置を示す模式図。 本発明における、湿式伸線の模式図。 本発明における、ダイスによる伸線加工の模式図。 軟鋼鋼線をZn−10%Al−0.04%Mnに合金メッキし、空気冷却した合金メッキ鋼線の、伸線加工前後におけるL断面組織図。 軟鋼鋼線をZn−10%Al−0.03%Mnに合金メッキし、水冷却した合金メッキ鋼線の、伸線加工前後におけるL断面組織図。 硬鋼鋼線をZn−10%Al合金にメッキし、空気冷却した合金メッキ鋼線の、伸線加工前後におけるL断面組織図。 硬鋼鋼線をZn−10%Al合金にメッキし、水冷却した合金メッキ鋼線の、伸線加工前後におけるL断面組織図。 各ダイス処理回数における、合金メッキL断面組織図。 各ダイス処理回数における、合金メッキL断面組織図。 軟鋼鋼線をZn−10%Al−0.04%Mnに合金メッキし、空気冷却した合金メッキ鋼線の、湿式伸線加工前後における表面図及び湿式伸線加工後のL断面組織図。 軟鋼鋼線をZn−10%Al合金にメッキし、空気冷却した合金メッキ鋼線の、湿式伸線加工前後における表面図及び湿式伸線加工後のL断面組織図。 軟鋼鋼線をZn−10%Alに合金メッキし、水冷却した合金メッキ鋼線の、湿式伸線加工前後における表面図及び湿式伸線加工後のL断面組織図。 軟鋼鋼線をZn−10%Alに合金メッキし、水冷却した合金メッキ鋼線の、乾式伸線加工前後における表面図及び乾式伸線加工後のL断面組織図。
符号の説明
41 合金メッキ鋼線
42 鋼線
43 中間層
44 メッキ層
45a 共析相
45b β−Znマトリックス相

Claims (10)

  1. Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al合金メッキ鋼線に対し、潤滑剤除去工程を設けない湿式伸線によるアフタードローで形成された前記Zn−Al合金メッキ鋼線であって、
    前記湿式伸線における前記Zn−Al合金メッキ鋼線表面への潤滑剤付着量が0.25g/m以下であることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線。
  2. Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al合金メッキ鋼線において、
    前記ZnーAl合金メッキ鋼線の前記Zn浴及びZn−Al浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層を介してその表面に形成されるメッキ層は、倍率400倍の光学顕微鏡写真において、伸線加工度が36〜72%で白色状の高耐食β−Znマトリックス相で低耐食の黒色状共析相を包み込み、β−Znマトリックス相と共析相とが白色状と黒色状のコントラストで識別されることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線。
  3. 前記Zn−Al合金メッキ鋼線におけるメッキ付着量(g/m が線径ミリ数値の125〜210倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線。
  4. Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、同速又は異流速の空気流で冷却する少なくとも二段階空冷のZn−Al合金メッキ鋼線において、
    前記Zn浴及びZn−Al浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層と該中間層を介してその表面に形成されるメッキ層の両層に含まれるAlの割合が平均質量%で8〜25%で、残部の不可避成分を含むZnの割合が75〜92%であって、
    前記Zn−Al合金メッキ鋼線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理によって線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成したことを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線。
  5. Zn浴に通した後、Zn−Al浴に通すようにした2浴法による高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線の製造方法において、
    鋼線にZnを主成分とする溶融Znメッキを行なった後、組成比が、平均質量%でAlの割合が8〜25%、残部が不可避成分を含むZnからなる溶融Zn−Al合金メッキを行ない、
    Zn−Al合金メッキ浴面からメッキ絞り部を経て立ち上がる線材を、下側加圧空気部の空気噴出口から冷却空気を流出して空冷する下側空冷部と、同速の冷却空気を上側加圧空気部の空気噴出口から流出して空冷する上側空冷部と、を有する空冷装置内を順次通過させて連続的に空冷するようにした少なくとも二段階空冷により原料線を製造し、
    前記原料線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理により線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成することを特徴とする高耐食性を有するZn−Al合金メッキ鋼線の製造方法。
  6. Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al−Mn合金メッキ鋼線に対し、潤滑剤除去工程を設けない湿式伸線によるアフタードローで形成された前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線であって、
    前記湿式伸線における前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線表面への潤滑剤付着量が0.25g/m以下であることを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線。
  7. Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、空気流冷却により粗面化したZn−Al−Mn合金メッキ鋼線において、
    前記ZnーAl−Mn合金メッキ鋼線の前記Zn浴及びZn−Al−Mn浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層を介してその表面に形成されるメッキ層は、倍率400倍の光学顕微鏡写真において、伸線加工度が36〜72%で白色状の高耐食β−Znマトリックス相で低耐食の黒色状共析相を包み込み、β−Znマトリックス相と共析相とが白色状と黒色状のコントラストで識別されることを特徴とする高耐食性を有するZn―Al−Mn合金メッキ鋼線。
  8. 前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線におけるメッキ付着量(g/m が線径ミリ数値の125〜210倍であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線。
  9. Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法により溶融メッキされ、同速又は異流速の空気流で冷却する少なくとも二段階空冷のZn−Al−Mn合金メッキ鋼線において、
    前記Zn浴及びZn−Al−Mn浴によって前記鋼線の地鉄上に形成される中間層と該中間層を介してその表面に形成されるメッキ層の両層に含まれるAlの割合が平均質量%で8〜25%で、Mnの割合が平均質量%で0.02〜0.30%であり、残部の不可避成分を含むZnの割合が74.70〜91.98%であって、
    前記Zn−Al−Mn合金メッキ鋼線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理によって線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成したことを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線。
  10. Zn浴に通した後、Zn−Al−Mn浴に通すようにした2浴法による高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の製造方法において、
    鋼線にZnを主成分とする溶融Znメッキを行なった後、組成比が、平均質量%でAlの割合が8〜25%、Mnの割合が0.02〜0.30%、残部が不可避成分を含むZnの割合が74.70〜91.98%からなる溶融Zn−Al−Mn合金メッキを行ない、
    Zn−Al−Mn合金メッキ浴面からメッキ絞り部を経て立ち上がる線材を、下側加圧空気部の空気噴出口から冷却空気を流出して空冷する下側空冷部と、同速の冷却空気を上側加圧空気部の空気噴出口から流出して空冷する上側空冷部と、を有する空冷装置内を順次通過させて連続的に空冷するようにした少なくとも二段階空冷により原料線を製造し、
    前記原料線のメッキ層組織中のメッキ厚方向に塊状化して生成した共析相の組織を、伸線処理により線方向に対して略平行に扁平状に再調整して形成することを特徴とする高耐食性を有するZn−Al−Mn合金メッキ鋼線の製造方法。
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