JP4653989B2 - 転がり軸受 - Google Patents

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本発明は、高荷重下における潤滑性および耐荷重性に優れる転動部品および転がり軸受に関し、特に、航空機、鉄道車両、建設機械、自動車電装補機、自動車ハブなどに使用される転動部品および転がり軸受に関する。
従来、グリース封入転がり軸受が高荷重下で使用される場合には、潤滑グリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。そのため、極圧剤含有グリースを使用して、その不具合を軽減している。
低摩擦、低摩耗、耐荷重性、耐焼付き性を十分に向上させた摺動部材または転がり部材および転がり軸受を提供することを目的とした有機リン化合物、有機イオウ化合物、有機塩素化合物および有機金属化合物の少なくとも1種と化学反応させて、0.05〜0.5μm の厚さのこれらの化合物反応膜層を形成した摺動または転がり部材が知られている(特許文献1)。
また、転動部品における境界潤滑条件での摩擦特性を改善し、摩擦特性に個別のバラツキが少なく、軸受寿命を安定して長時間延長できる転動部品を目的として、チオリン酸金属塩被膜を形成してなる転動部品が知られている(特許文献2)。
しかしながら、これらはいずれも摺動面での摩耗の低減効果は十分ではなく、高温かつ高速度の使用条件で、長期耐久性が不足するという問題がある。
また、グリースを封入した転がり軸受においても、転がり軸受の使用条件が過酷になるにつれ、潤滑性および耐荷重性を向上させ、潤滑油膜破断にともなう金属接触を防止する必要がある。特に、ころ軸受はつばを有し、つば部で転動体と軌道輪つばがすべり運動するため、つば部で潤滑油膜の破断が起こりやすくなるという問題がある。
特開平2-256920号公報(特許請求の範囲) 特開平11−30236号公報(特許請求の範囲)
本発明の課題は、このような問題に対処するためになされたもので高荷重またはすべり運動が生じる状態での潤滑面での摩擦摩耗を防止し、長期耐久性に優れた転動部品および転がり軸受を提供することである。
本発明の転動部品は、該転動部品の表面に、ビスマスおよびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1つの物質の被膜(以下、ビスマス等被膜と略称する)が形成されてなることを特徴とする。
ビスマス等被膜を構成するビスマス化合物がビスマス酸化物であることを特徴とする。
外周面に転走面を有する金属製内輪と、内周面に転走面を有する金属製外輪とが、同心に配置され、上記両転走面間に介在する複数の金属製転動体とを備えた転がり軸受であって、上記両転走面および転動体表面から選ばれる少なくとも1つの接触表面に、ビスマス等被膜、特にビスマス酸化物被膜が形成されてなることを特徴とする。
本発明の転動部品は、該転動部品の表面に、ビスマス等被膜を形成してなるので高荷重またはすべり運動が生じる状態での潤滑面での摩擦摩耗を防止し、長期耐久性に優れた転動部品とすることができる。
本発明の転がり軸受は、外周面に転走面を有する金属製内輪と、内周面に転走面を有する金属製外輪とが、同心に配置され、上記両転走面間に介在する複数の金属製転動体とを備えた転がり軸受であって、上記両転走面および転動体表面から選ばれる少なくとも1つの接触表面に、ビスマス等被膜を形成してなるので、高荷重またはすべり運動が生じる状態での潤滑面での摩擦摩耗を防止し、長期耐久性に優れた転がり軸受とすることができる。
転動部品および転がり軸受の高荷重またはすべり運動が生じる状態での潤滑面における摩擦摩耗を防止すべく検討した結果、転動部品の表面に、ビスマス等被膜を形成することによって高荷重およびすべり運動下で摩耗が少なく、長期耐久性能が向上することを見出した。これはビスマス等被膜が形成されている場合は長期耐久性に優れ、該被膜による極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明の転動部品に使用できる材料は、軸受部品(内・外輪、転動体、保持器等)に採用可能な周知の金属材であり、特に金属材の種類を限定したものではない。具体例としては、軌道輪用材料として、軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼 JIS G 4805)、肌焼鋼(JIS G4104等)、高速度鋼(AMS6490)、ステンレス鋼(JIS G 4303)、高周波焼入鋼(JISG4051等)が挙げられ、保持器用材料としては、打ち抜き保持器用鋼板(JIS G 3141等)、もみ抜き保持器用炭素鋼(JIS G 4051等)、もみ抜き保持器用高力黄銅鋳物(JIS H 5102等)が挙げられる。また、鉋金、鉛やスズを配合したホワイトメタルその他の軸受合金を採用することもできる。
本発明に使用できる転動部品は、転動部品の接触表面に、ビスマス等被膜が形成されていればよく、該被膜の形成方法には特に限定されない。
また、本発明の転がり軸受は、その形式を特に限定するものではない。
本発明の転がり軸受の1例を図1に示す。図1はグリース組成物が封入されている深溝玉軸受の断面図である。
深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。
本発明に係るビスマス等被膜は、内輪転走面2a、外輪転走面3aおよび転動体4の表面から選ばれる少なくとも1つの接触表面に形成されている。
また、この複数個の転動体4を保持する保持器5および外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。また、少なくとも転動体4の周囲にグリース組成物7が封入される。
シール部材6は金属製またはゴム成形体単独でよく、あるいはゴム成形体と金属板、プラスティック板、セラミック板等との複合体であってもよい。耐久性、固着の容易さからゴム成形体と金属板との複合体が好ましい。
本発明の転がり軸受の他の1例を図2に示す。図2は円すいころ軸受の一部切り欠き斜視図である。円すいころ軸受12は内輪14と外輪13との間に円すいころ16が保持器15を介して配置されている。円すいころ16は内輪14の転走面14aと外輪13の転走面13aとの間でころがり摩擦を受け、内輪14のつば部14b、14cとの間ですべり摩擦を受ける。
本発明に係るビスマス等被膜は、内輪14の転走面14a、外輪13の転走面13aおよび円すいころ16の表面から選ばれる少なくとも1つの接触表面に形成されている。
また、これらの摩擦を低減するためにころ軸受用グリースが封入されている。
本発明に係るビスマス等被膜を形成できる物質としては、ビスマス粉末、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸ビスマスおよびその水和物、硫酸ビスマス、フッ化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、オキシフッ化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、オキシ臭化ビスマス、オキシヨウ化ビスマス、酸化ビスマスおよびその水和物、水酸化ビスマス、セレン化ビスマス、テルル化ビスマス、リン酸ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシ硫酸ビスマス、ビスマス酸ナトリウム、チタン酸ビスマス、ジルコン酸ビスマス、モリブデン酸ビスマス等が挙げられる。本発明において、好ましいのは、長期耐久性に優れ、熱分解しにくく、極圧性効果の高いビスマス粉末、三酸化ビスマス、炭酸ビスマス、亜酸化ビスマスおよびビスマス酸塩により形成された被膜が挙げられる。特に好ましくは、ビスマス粉末、酸化ビスマスまたは、これらの混合物である。
金属製軸受材の表面に上述のビスマス等被膜を形成するには、例えば、ビスマス化合物を分散させた液中に転がり軸受を浸漬した後、軸受を回転させ、その際の摩擦熱等によりビスマス化合物と金属表面とを反応させて、ビスマス化合物の被膜を形成させることができる。金属製軸受材の表面は摩擦等により活性金属表面が生成する。被膜形成を速めるため、加温しながら行なうことが望ましい。
他のビスマス等被膜形成方法としては、真空蒸着、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、イオンプレーティングなどの乾式めっき、電気めっき、無電解めっき、化成処理等の湿式めっき等が挙げられる。また、ビスマスおよびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1つの物質を融点以上に加熱した後、被膜を形成しようとする金属製軸受表面に塗布してビスマス等被膜を形成することもできる。
本発明において、転がり軸受の内部に潤滑油または、潤滑グリースなどの潤滑剤を塗布または充填する転がり軸受を使用することができる。この潤滑剤は、特に種類を限定するものではなく、通常転がり軸受に用いられている潤滑剤を使用することができる。また、本発明の転がり軸受は、無潤滑剤の状態であっても使用することができる。
本発明の転がり軸受に封入するグリースは、必要に応じて公知の添加剤をグリースに含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系、イオウ系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加することができる
実施例1
三酸化ビスマス(和光純薬(株)製) 5 g をポリαオレフィン油(シンフルード801、新日鉄化学(株)製)95 g の割合で加えた液中に鋼板(SUJ2厚さ 10 mm )とφ40 mm×厚さ 10 mm のリング状試験片(SUJ2)を浸漬し、鋼板にリング状試験片の端面を490 N の荷重で押し付けた状態で、リング状試験片を 2000 rpm の回転数で 20 時間回転させた。その際の摩擦熱等により、リング状試験片の端面に三酸化ビスマスの被膜を形成させた。三酸化ビスマスの被膜がリング状試験片の端面に形成されたことは光電子分光(以下、XPSと略す)による表面分析により確認された。
このリング状試験片を2個使用して、下記に示す極圧性評価試験を実施した。結果を図4に示す。
実施例2
ビスマス(和光純薬(株)製) 5 g をポリαオレフィン油(シンフルード801、新日鉄化学(株)製)95 g の割合で加えた液中に鋼板(SUJ2厚さ 10 mm )とφ40 mm×厚さ10 mm のリング状試験片(SUJ2)を浸漬し、鋼板にリング状試験片の端面を490 N の荷重で押し付けた状態で、リング状試験片を 2000 rpm の回転数で 20 時間回転させた。その際の摩擦熱等により、リング状試験片の端面にビスマスの被膜を形成させた。ビスマスの被膜がリング状試験片の端面に形成されたことはXPSによる表面分析により確認された。
このリング状試験片を2個作成して、下記に示す極圧性評価試験を実施した。結果を図4に示す。
比較例1
ビスマスおよびビスマス化合物の被膜が形成されていないリング状試験片を3個使用して、下記に示す極圧性評価試験を実施した。結果を図4に示す。なお、リング状試験片の材質、形状は実施例1と同一である。
極圧性評価試験:
極圧性評価試験装置を図3に示す。評価試験装置は、回転軸9に固定されたφ40 mm×厚さ 10 mm のリング状試験片10aと、この試験片10aと端面11て端面同士が擦り合わされるリング状試験片10bとで構成される。Li石けん/鉱油系グリース(基油粘度:100 mm2/s、ちょう度:230 )を端面11部分に塗布し、回転軸9を回転数 2000 rpm 、図3中右方向Aのアキシアル荷重 490N 、ラジアル荷重 392N を負荷して、極圧性を評価した。極圧性は両試験片のすべり部の摩擦摩耗増大により生じる回転軸9の振動を振動センサにて測定し、その振動値が初期値の 2 倍になるまで試験を行ない、その時間を測定した。
回転軸9の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が長いほど極圧性効果が大となり、優れた長期耐久性を示す。したがってグリースの長期耐久性の評価は、測定された上記時間の長さにて実施例1および実施例2と比較例1とを対比させて行なった。
実施例3
三酸化ビスマス(和光純薬(株)) 5 g をポリαオレフィン油(シンフルード801、新日鉄化学製)95 g の割合で加えた液中で30204円すいころ軸受をアキシアル荷重 980 N、回転数 2600 rpm で、8 時間回転させ30204円すいころ軸受の転がり表面に三酸化ビスマスの被膜を形成させた。この軸受を2個使用して、洗浄し、下記に示す転がり軸受耐久試験を実施した。結果を図5に示す。
実施例4
ビスマス(和光純薬(株)) 5 g をポリαオレフィン油(シンフルード801、新日鉄化学製)95 g の割合で加えた液中で30204円すいころ軸受をアキシアル荷重 980 N、回転数 2600 rpm で、8 時間回転させ30204円すいころ軸受の転がり表面にビスマスの被膜を形成させた。この軸受を2個使用して、洗浄し、下記に示す転がり軸受耐久試験を実施した。結果を図5に示す。
比較例2
ビスマスおよびビスマス化合物の被膜が形成されていない30204円すいころ軸受を2個使用して、下記に示す転がり軸受耐久試験を実施した。結果を図5に示す。
転がり軸受耐久試験:
30204円すいころ軸受にLi石けん/鉱油系グリース(エクソンモービル社製アラペンRB300)を 1.8 g 封入し、アキシアル荷重 67 N 、ラジアル荷重 67 N を負荷して、120℃の雰囲気中、5000 rpm で回転させた。この軸受の回転トルクが上昇し、初期の回転トルクの2倍以上になるまでの時間(寿命時間)を計測した。転がり軸受の耐久性の評価は、測定された上記時間の長さにて実施例3および実施例4と比較例2とを対比させて行なった。
極圧性評価試験を示した図4において、ビスマスおよびビスマス化合物の被膜が形成されていない比較例1で平均 28 時間の寿命に比べて、三酸化ビスマスの被膜を形成させた実施例1は平均で 165 時間の寿命であり 5.9 倍の極圧効果を示した。また同様に比較例1に比べて、ビスマスの被膜を形成させた実施例2は、試験片2個ともに 200 時間をこえても振動値が初期の 2 倍に達せず極圧性評価試験を打ち切ったため、少なくとも平均で 7.1 倍を大幅に上回る極圧効果を示した。
これらのことから、ビスマス等被膜が形成されることにより、すべり部の金属接触が防止され、極圧効果を発揮するものと考えられる。また、このビスマス等被膜の中で、三酸化ビスマスの被膜よりもビスマスの被膜の方が、長期耐久性に優れるため、極圧効果が大となるものと考えられる。
転がり軸受耐久試験結果を示した図5において、ビスマスおよびビスマス化合物の被膜が形成されていない比較例2で平均 179 時間の寿命に比べて、三酸化ビスマスの被膜が形成された実施例3は平均で 345 時間の寿命であり 3.9 倍の耐久性を示した。また同様に比較例2に比べて、ビスマスの被膜が形成された実施例4は、平均で 500 時間の寿命であり 5.6 倍の耐久性を示した。
これらのことから、ビスマス等被膜が形成されることにより、ころ軸受のつば部での金属接触が防止され、耐久性を発揮するものと考えられる。また、このビスマス等被膜の中で、三酸化ビスマスの被膜よりもビスマスの被膜の方が、ころ軸受のつば部での金属接触を防止する被膜が安定して持続するため、優れた長期耐久性を示すものと考えられる。
本発明の転動部品および転がり軸受は、高荷重下での長期耐久性に優れたビスマス等被膜を形成した材料を使用しているので、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される航空機、鉄道車両、建設機械、自動車電装補機、自動車ハブなどに好適に利用することができる。
深溝玉軸受の断面図である。 円すいころ軸受の一部切り欠き斜視図である。 極圧性評価試験装置を示す図である。 極圧性評価試験結果を示す図である。 転がり軸受耐久試験結果を示す図である。
符号の説明
1 グリース封入軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 軸方向両端開口部
9 回転軸
10a、10b リング状試験片
11 端面
12 円すいころ軸受
13 外輪
14 内輪
15 保持器
16 円すいころ

Claims (1)

  1. 外周面に転走面を有する金属製内輪と、内周面に転走面を有する金属製外輪とが、同心に配置され、前記両転走面間に介在する複数の金属製転動体とを備えた転がり軸受であって、
    前記両転走面および転動体表面から選ばれる少なくとも1つの接触表面に、ビスマス単体およびビスマス酸化物から選ばれる少なくとも1つの物質の被膜が形成されてなり、
    前記被膜は、前記物質を材料として用い、該物質を分散させた油中に該転がり軸受を浸漬して荷重を負荷して回転させ、金属製の前記接触表面と該物質とを反応させて形成された被膜であることを特徴とする転がり軸受。
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