JP4651258B2 - グリシンの製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、グリシンの製造方法に関する。更に詳しくは、グリシノニトリル水溶液を、加水分解反応系において、微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換する際に、該加水分解反応系は該微生物酵素を阻害する分子量が95以上の特定の構造を含む少なくとも1つの有機不純物化合物を含有し、該加水分解反応の間、該加水分解反応系における該微生物酵素を阻害する該有機不純物化合物の含有量が、該加水分解反応系の重量に対して10重量%以下に維持される条件下で該反応を行うことを包含することを特徴とするグリシンの製造方法に関する。本発明の製造方法を用いると、医農薬合成原料、食品添加物、洗浄剤原料として有用なグリシンを、高純度で効率よく簡便に環境負荷も少なく工業的に製造することが可能となる。
従来技術
従来、グリシンは、ホルムアルデヒド、シアン化水素及びアンモニアを原料として、シュトレッカー法で一旦グリシノニトリルを合成し、これを苛性ソーダ等のアルカリで加水分解してグリシンソーダとアンモニアに変換し、更に硫酸等の酸で中和後、晶析法で回収することにより製造されている(日本国特開昭43−29929号明細書、日本国特開昭51−19719号明細書、日本国特開昭49−14420号明細書、日本国特開昭49−35329号明細書)。このように、従来の塩基を用いた加水分解法はアルカリや酸をグリシンと等量使用するため、塩類を多量に副生し、廃棄による環境負荷が大きいという欠点があった。更に、この塩類はグリシンと溶解度が酷似しているため1段の晶析では回収できず、晶析と母液循環操作を複数回繰り返すなどの煩雑な操作が必要であった(日本国特開昭51−34113号明細書(DE2541677−B号及びNL7511023−B号に対応))。加えて、中間体のグリシノニトリル水溶液はpH2.5以上では不安定であり、温度が高いほど分解や着色等の変性をし易いことが知られている(日本国特開昭49−14420号明細書、日本国特開昭54−46720号明細書、日本国特開昭54−46721号明細書)。日本国、日本化学会発行の工業化学雑誌第70巻54頁(1967年)によれば、シアン化水素はアルカリ条件下では重合変性し、重合が進むと黒色固体が生成する。又、日本国、日本化学会発行の実験化学講座第一版347頁には、グリシノニトリル等のシアノメチル基はアルカリ条件下で付加重合変性し、ピリジン化合物やピリミジン化合物を生成し易いことが記載されている。日本国特開昭62−212357号明細書(米国特許第4661614号に対応)には、ホルムアルデヒド、シアン化水素及びアンモニアからもイミノジアセトニトリル等のイミン化合物を生成することが記載されている。日本国特公昭51−244815号明細書には、グリシノニトリルは加熱するとアンモニアを放出しイミノジアセトニトリル等のイミン化合物を生成し、更に変性されて黒色化合物を生成することが記載されている。このように、従来法ではこうした分解や変性に伴うグリシンの収率低下が避けられず、脱色するために活性炭や特殊なイオン交換樹脂を用いた煩雑な処理を必要とするという欠点もあった(日本国特開平3−190851号明細書、日本国特開平4−226949号明細書(EP459803−B号に対応))。
そこで、多量のアルカリや酸を使用せず、グリシノニトリルを穏和な条件で加水分解する方法として、ニトリル基の加水分解能を有する微生物を用いてグリシノニトリルを単純に加水分解し、グリシンとアンモニウムを得る方法が知られている。日本国特公昭58−15120号明細書(フランス国特許第225585号に対応)には、ブレビバクテリウムR312株を苛性カリ等でpH8に調整した反応液に懸濁して加水分解反応に用いる方法が、日本国特開平3−62391号明細書(EP187680−B号に対応)には、コリネバクテリウム N−774株をリン酸緩衝液でpH7.7に調整した反応液に懸濁して加水分解反応に用いる方法が、また日本国特開平3−280889号明細書(EP450885−B号に対応)には、ニトリル基の加水分解能を有するロドコッカス属、アルスロバクター属、カセオバクター属、シュードモナス属、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、コリネバクテイリア属、又はストレプトマイセス属の微生物をリン酸緩衝液でpH7.7に調整した反応液に懸濁してグリシノニトリルからグリシンを得る方法が開示されている。しかし、これらの方法は、実施例によると、グリシンと等量以上の乾燥微生物を用いること、あるいは30時間をかけてグリシンに対して5重量%以上の多量の乾燥微生物を用いることが必要であり、更に微生物の活性維持のためにpHを中性域に保つため逐次的に中和剤を添加することが必要である。通常、グリシンのアンモニウム塩を中和するには例えば硫酸やリン酸を添加するため、反応液には硫酸アンモニウムやリン酸アンモニウムが多量に残ることになる。従って、これらの微生物を用いるグリシンの製造方法も多量の酸を用い、多量に廃棄物を排出する欠点をもっている。更にこれら方法では、上記のアルカリ加水分解法に比べ、グリシンの回収には濃縮操作に加えてメタノールを添加するなどの工程が必要となり操作が複雑になる問題や(日本国特公昭58−15120号明細書(フランス国特許第225585号に対応))、微生物の使用量が多く廃棄物が一層多いという欠点もあった。一方、微生物と電気透析を用い、アルカリをリサイクルしながらグリシンとアンモニアを別々に回収する方法が知られている(日本国特開平10−179183号明細書(米国特許第5932454号、EP852261−A号に対応))。この方法は、微生物を用いてグリシンを含む有機酸のアンモニウム塩を生成する工程、アルカリ塩に交換しアンモニアを遊離する工程、アンモニアを回収する工程、電気透析でアルカリと有機酸を分別する工程、有機酸を有機溶媒を用いて抽出する工程、及び有機酸を有機溶媒から分離する工程を経てグリシンを製造する。また、実施例によると、20gのグリセリン培地で得られた微生物から得られた有機酸は0.3モルであり、微生物の活性が極めて低い。従って、この方法も多段工程と煩雑な操作が必要である上、多量の電力を消費し、多量の微生物の使用及び廃棄が必要であるという欠点をもっていた。
このように、従来の微生物を用いてグリシノニトリルからグリシンを製造する方法は、乾燥微生物当たり、且つ単位時間当たりの活性が低く、培地や微生物を多量に廃棄しなければならない欠点があった。また、電気透析を用いない場合、反応液のpHを調整するため、もしくはグリシンを回収するために用いる中和剤の廃棄が避けられずアンモニアの回収は困難であった。電気透析を用いても、アンモニアの回収には電力を浪費し、且つ多段の煩雑な操作を必要とする欠点があり、工業的実施は満足のいくものではなかった。
発明の概要
以上のような状況に鑑み、本発明者等は、上記の問題を解決するための反応方法や反応条件、及びこうした反応方法に適した微生物について鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、グリシノニトリル水溶液を、加水分解反応系において、ニトリル基の加水分解活性を有する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換する際に、該加水分解反応系は該微生物酵素を阻害する分子量が95以上の特定の構造を含む少なくとも1つの有機不純物化合物を含有し、該有機不純物化合物は、該加水分解反応の間、該加水分解反応系における該有機不純物化合物の含有量が、該加水分解反応系の重量に対して10重量%以下に維持される条件下で該反応を行うことにより、微生物、培地、酸、アルカリなどの多量の使用及び廃棄の必要を伴わず、グリシンの着色を抑制し、微生物当たり且つ単位時間当たりのグリシン産生活性が高く、グリシンとアンモニアを、分解又は消費を伴わずに定量的に製造し、且つ容易に別々に回収できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
したがって、本発明の主たる目的は、効率よく高純度のグリシンとアンモニアを定量的に生成し、且つ別々に回収し、環境への負荷も少ないグリシンの製造方法を提供することにある。
本発明の上記及び他の諸目的、諸特徴並びに諸利益は、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかになる。
発明の詳細な説明
本発明の1つの態様によれば、グリシンの製造方法にして、
グリシノニトリル水溶液を提供し、
該グリシノニトリル水溶液を、加水分解反応系において、ニトリル基の加水分解活性を有する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、
該加水分解反応系は該微生物酵素を阻害する少なくとも1つの有機不純物化合物を含有し、該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物は、分子量が95以上であり、ニトリル基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基及びトリメチレンアミン構造からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有し、該トリメチレンアミン構造は下記式(1):
(式中、nは1以上の整数を表わす。)、
で表わされる骨格を有し、
該加水分解反応を、該加水分解反応の間、該加水分解反応系における該微生物酵素を阻害する該有機不純物化合物の含有量が、該加水分解反応系の重量に対して10重量%以下に維持される条件下で行い、
そして、
該加水分解反応系からグリシンを単離する、
ことを包含することを特徴とする方法が提供される。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的諸特徴及び好ましい態様を列挙する。
1.グリシンの製造方法にして、
グリシノニトリル水溶液を提供し、
該グリシノニトリル水溶液を、加水分解反応系において、ニトリル基の加水分解活性を有する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、
該加水分解反応系は該微生物酵素を阻害する少なくとも1つの有機不純物化合物を含有し、該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物は、分子量が95以上であり、ニトリル基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基及びトリメチレンアミン構造からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有し、該トリメチレンアミン構造は下記式(1):
(式中、nは1以上の整数を表わす。)、
で表わされる骨格を有し、
該加水分解反応を、該加水分解反応の間、該加水分解反応系における該微生物酵素を阻害する該有機不純物化合物の含有量が、該加水分解反応系の重量に対して10重量%以下に維持される条件下で行い、
そして、
該加水分解反応系からグリシンを単離する、
ことを包含することを特徴とする方法。
2.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、シアン化水素、ホルムアルデヒド及びアンモニアからのグリシノニトリルの合成、及びグリシノニトリルのグリシンとアンモニアへの加水分解からなる群より選ばれる少なくとも1つの反応において副生物として生成されたものであることを特徴とする前項1に記載の方法。
3.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記式(2)で表わされる化合物を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
NH3−n(CH (2)
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2又は3を表わす。)
4.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の化合物(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
(a)下記式(3):
(式中、Yはニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは0以上の整数を表わし、Zはそれぞれ独立に下記式(4)又は(5)で表わされる。)
(式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わす。)
で表わされる化合物、及び、
(b)下記式(6)又は(7):
(式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、各Zは独立に下記式(8)又は(9)で表わされる。)
(式中、Yはアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、Zはそれぞれ式(3)において定義した通りであり、nは0以上の整数を表わす。)
で表わされる化合物。
5.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の化合物(c)及び(d)からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
(c)下記式(10)又は(11):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わす。)
で表わされる化合物、及び、
(d)下記式(12):
(式中、nは4以上の整数を表わす。)
で表わされる化合物。
6.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の骨格(e)及び(f)からなる群より選ばれる少なくとも1つの骨格を分子内に有する化合物を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
(e)下記式(13):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2以上の整数を表わす。)
で表わされる骨格、及び、
(f)下記式(14)又は(15):
(式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1以上の整数を表わす。)
で表わされる骨格。
7.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の骨格(g)及び(h)からなる群より選ばれる少なくとも1つの骨格を分子内に有する化合物を含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
(g)下記式(16):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは2以上の整数を表わす。)
で表わされる骨格、及び、
(h)下記式(17)又は(18):
(式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1以上の整数を表わす。)
で表わされる骨格。
8.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、ヘキサメチレンテトラミンを含むことを特徴とする前項1又は2に記載の方法。
9.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、53〜100ppmの間にピークを示すことを特徴とする前項1〜8のいずれかに記載の方法。
10.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、該加水分解反応系について測定した紫外可視吸収スペクトルにおいて、340〜380nm及び440〜480nmに吸収極大を示すことを特徴とする前項1〜9のいずれかに記載の方法。
11.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物の分子量が、130以上であることを特徴とする前項1〜10のいずれかに記載の方法。
12.該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物の濃度が、該加水分解反応系の重量に対して1重量%以下であることを特徴とする前項1〜11のいずれかに記載の方法。
13.該加水分解反応系が、該加水分解反応系の重量に対して5重量ppm以下の酸素を溶存させていることを特徴とする前項1〜12のいずれかに記載の方法。
14.該加水分解反応を、密閉反応系、不活性ガスで加圧した反応系、不活性ガスを流通させた反応系又は大気圧未満の圧力の反応系を用いて行い、該加水分解反応系に溶存する酸素濃度を抑制することを特徴とする前項1〜13のいずれかに記載の方法。
15.該加水分解反応を、アンモニアが溶存する該加水分解反応系で行うこと特徴とする前項1〜14のいずれかに記載の方法。
16.該加水分解反応を、グリシノニトリルの重量に対して2重量%以下の電解質を含む該加水分解反応系で行うことを特徴とする前項1〜15のいずれかに記載の方法。
17.ニトリル基の加水分解活性を有する該微生物酵素が、アシネトバクター属、ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、アルカリゲネス属、マイコバクテリウム属、ロドシュードモナス属及びキャンディダ属からなる群より選ばれる属の微生物に由来することを特徴とする前項1〜16のいずれかに記載の方法。
18.該アシネトバクター属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−2451のアシネトバクター sp.AK226株、又は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−7413のアシネトバクターsp.AK227株であることを特徴とする前項17に記載の方法。
19.該ロドコッカス属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−5219のロドコッカス マリス BP−479−9株であることを特徴とする前項17に記載の方法。
20.該コリネバクテリウム属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−7414のコリネバクテリウム sp.C5株、又は、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託した寄託番号ATCC 21419のコリネバクテリウム ニトリロフィラスであることを特徴とする前項17に記載の方法。
21.該アルカリゲネス属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−4750のアルカリゲネス フェカリス IFO 13111株であることを特徴とする前項17に記載の方法。
22.該マイコバクテリウム属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−2352のマイコバクテリウム sp.AC777株であることを特徴とする前項17に記載の方法。
23.該ロドシュードモナス属の菌株が、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託された寄託番号ATCC11167のロドシュードモナス スフェロイデスであることを特徴とする前項17に記載の方法。
24.該キャンディダ属の菌株が、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託された寄託番号ATCC 20311のキャンディダ トロピカリスであることを特徴とする前項17に記載の方法。
25.該加水分解反応系からグリシンの単離を行い、一方、グリシンの回収とは別に副生アンモニアを回収することを特徴とする前項1〜24のいずれかに記載の方法。
26.グリシン及びアンモニアを、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び濃縮又は冷却による晶析からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により別々に回収することを特徴とする前項25に記載の方法。
27.アンモニアを蒸留、反応蒸留又は不活性ガスによる同伴により回収し、そして、グリシンを、アンモニア回収後の残液の濃縮又は冷却による晶析に付すことにより回収することを特徴とする前項26に記載の方法。
28.該方法が、下記の工程を包含することを特徴とする前項1〜27のいずれかに記載の方法。
(1)密閉反応系において、水性媒体中でアルカリ触媒の存在下にシアン化水素をホルムアルデヒドと反応させてグリコロニトリル水溶液を得、
(2)該グリコロニトリル水溶液にアンモニアを添加して反応させ、水を生成しながらグリシノニトリル水溶液を得、大部分のアンモニアと水の一部を蒸留分離し、グリシノニトリル水溶液と未分離のアンモニアを含む加水分解反応系を得、
(3)分離したアンモニアを工程(2)にリサイクルし、
(4)該加水分解反応系を、密閉反応系内の該加水分解反応系に添加した微生物によって産生される微生物酵素の作用下に加水分解反応に付し、該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、
(5)該微生物及び該微生物酵素を、遠心濾過及び膜濾過からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、工程(1)〜(5)で副生した該微生物酵素を阻害する有機不純物化合物の一部を、膜濾過及び吸着剤を用いた分離からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、
(6)分離した該微生物及び該微生物酵素は工程(4)にリサイクルし、
(7)工程(4)で副生したアンモニアと工程(4)、の後で該加水分解反応系に残る過剰量の水を蒸留分離し、分離したアンモニアと水は工程(2)にリサイクルし、
(8)工程(7)の後又は工程(7)と同時に、該グリシンを晶析により分離し、
(9)分離された該グリシシの結晶を乾燥する。
29.グリシノニトリル水溶液を提供し、該グリシノニトリル水溶液を加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離することを包含するグリシンの製造方法において、該グリシノニトリルの加水分解をアンモニアの存在下で行うことを特徴とする方法。
30.アンモニアの濃度が、グリシノニトリル1molに対して0.001〜5molであることを特徴とする前項29に記載の方法。
31.グリシノニトリル水溶液を提供し、該グリシノニトリル水溶液を加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離することを包含するグリシンの製造方法において、塩基及び酸の不存在下で、該加水分解反応系からグリシンの単離を行い、一方、グリシンの回収とは別に副生アンモニアを回収することを特徴とする方法。
32.グリシン及びアンモニアを、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び濃縮又は冷却による晶析からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により別々に回収することを特徴とする前項31に記載の方法。
33.アンモニアを蒸留、反応蒸留又は不活性ガスによる同伴により回収し、そして、グリシンを、アンモニア回収後の残液の濃縮又は冷却による晶析に付すことにより回収することを特徴とする前項32に記載の方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、グリシノニトリルはシアン化水素、ホルムアルデヒド及びアンモニアから合成することが好ましい。グリシノニトリルを合成する方法としては、公知の方法を用いることが出来る。即ち、シアン化水素とホルムアルデヒドからグリコロニトリル(ヒドロキシアセトニトリル)を合成し、次にアンモニアを加えてグリシノニトリルを合成する方法、又はシアン化水素とホルムアルデヒドとアンモニアから直接グリシノニトリルを合成する方法等を用いることが出来る。
本発明の加水分解反応系には、グリコロニトリル、グリシノニトリル、グリシン、アンモニア、水、触媒、微生物酵素を阻害する有機不純物化合物などが含まれる。
本発明の加水分解反応系に含まれる微生物酵素を阻害する有機不純物化合物とは、微生物酵素の活性を可逆的に阻害する、または、不可逆的に阻害し酵素を失活させ微生物酵素を再利用出来なくする化合物である。こうした有機不純物化合物としては、分子量が95以上であり、ニトリル基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基及びトリメチレンアミン構造からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する化合物が含まれる。有機不純物化合物には、グリシンの製造工程に用いる原材料、触媒などの添加物や原材料中に含まれている不純物も含まれる。また、シアン化水素、ホルムアルデヒド及びアンモニアからのグリシノニトリルの合成工程及び/又はグリシノニトリル(アミノアセトニトリル)のグリシンとアンモニアへの加水分解反応工程において副生物として生成する化合物も含まれる。更に、ニトリル基の加水分解活性を有する微生物酵素の製造工程で生成した副生物、あるいはグリシンの分離精製工程から循環される副生物等が含まれる。
本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物の具体的な例として、は、次の(A)〜(F)の化合物の少なくとも一種を挙げることができる。
(A)下記式(2):
(式中、各Yは、独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2又は3を表わす。)
で示される化合物が含まれる。
式(2)で示される化合物は、イミン(−NH−)又はニトリロ(−N=)構造を有する縮合化合物及びその加水分解生成物であり、例えばグリコロニトリルとグリシノニトリルの縮合反応で生成することが知られているイミノジアセトニトリルやニトリロトリアセトニトリルが挙げられる。また、これら縮合性化合物のニトリル基の加水分解生成物としては、イミノジ酢酸、シアノメチルアミノ酢酸、イミノジアセトアミド、シアノメチルアミノアセトアミド、カルバモイルメチルアミノ酢酸、ニトリロトリ酢酸、N−(シアノメチル)イミノジ酢酸、N,N−ビス(シアノメチル)アミノ酢酸、N−(カルバモイルメチル)イミノジ酢酸、N,N−ビス(カルバモイルメチル)アミノ酢酸、ニトリロトリアセトアミド、N−(シアノメチル)イミノジアセトアミド、N,N−ビス(シアノメチル)アミノアセトアミド等が挙げられる。
(B)下記の化合物(a)及び(b):
(a)下記式(3):
(式中、Yはニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは0〜100の整数を表わし、Zはそれぞれ独立に下記式(4)又は(5)で表わされる。)
(式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わす。)
で示される化合物、及び
(b)下記式(6)又は(7):
(式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、各Zは独立に下記式(8)又は(9)で表わされる。)
(式中、Yはアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、Zはそれぞれ式(3)において定義した通りであり、nは0〜100の整数を表わす。)
で示される化合物。
式(3)で示される化合物は、付加多量化化合物と該付加多量化化合物のニトリル基が加水分解した生成物である。式(6)で示される化合物は、該付加化合物が環化したピリミジン骨格を有する付加環化化合物、及びその加水分解生成物である。式(7)で示される化合物は、該付加化合物が環化したピリジン骨格を有する付加環化化合物、及びその加水分解生成物である。こうした付加化合物等は、日本国、日本化学会発行の実験化学講座第一版第18−2巻347頁のフェニルアセトニトリルの付加反応において例示されているように、シアノメチル基同士が付加2量化、付加3量化、更に環化や重合するメカニズムで生成することが知られている。
式(3)で示される付加2量化化合物としては、例えば、グリコロニトリルとグリシノニトリルの付加反応で生成する、1,3−ジアミノ−2−イミノ−ブチロニトリル、1,3−ジヒドロキシ−2−イミノ−ブチロニトリル、1−アミノ−2−イミノ−3−ヒドロキシブチロニトリル、または3−アミノ−2−イミノ−1−ヒドロキシブチロニトリル等が挙げられる。また、これらの化合物のニトリル基の加水分解生成物としては、1,3−ジアミノ−2−イミノ−ブチリックアシド、1,3−ジヒドロキシ−2−イミノ−ブチリックアシド、1−アミノ−2−イミノ−3−ヒドロキシブチリックアシド、3−アミノ−2−イミノ−1−ヒドロキシブチリックアシド、1,3−ジアミノ−2−イミノ−ブチルアミド、1,3−ジヒドロキシ−2−イミノ−ブチルアミド、1−アミノ−2−イミノ−3−ヒドロキシブチルアミド、3−アミノ−2−イミノ−1−ヒドロキシブチルアミド等が挙げられる。
式(3)で示される付加3量化化合物のうち、内部構造としてニトリル基がメチレン基に付加した式(4)の構造を有する化合物としては、1,3,5−トリアミノ−2,4−ジイミノヘキサンニトリル、1,3−ジアミノ−2,4−ジイミノ−5−ヒドロキシヘキサンニトリル、1,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−3−ヒドロキシヘキサンニトリル、3,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−1−ヒドロキシヘキサンニトリル、1−アミノ−2,4−ジイミノ−3,5−ジヒドロキシヘキサンニトリル、3−アミノ−2,4−ジイミノ−1,5−ジヒドロキシヘキサンニトリル、5−アミノ−2,4−ジイミノ−1,3−ジヒドロキシヘキサンニトリル、2,4−ジイミノ−1,3,5−トリヒドロキシヘキサンニトリル等が挙げられる。これらの化合物のニトリル基の加水分解生成物としては、1,3,5−トリアミノ−2,4−ジイミノヘキサノイックアシド、1,3−ジアミノ−2,4−ジイミノ−5−ヒドロキシヘキサノイックアシド、1,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−3−ヒドロキシヘキサノイックアシド、3,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−1−ヒドロキシヘキサノイックアシド、1−アミノ−2,4−ジイミノ−3,5−ジヒドロキシヘキサノイックアシド、3−アミノ−2,4−ジイミノ−1,5−ジヒドロキシヘキサノイックアシド、5−アミノ−2,4−ジイミノ−1,3−ジヒドロキシヘキサノイックアシド、2,4−ジイミノ−1,3,5−トリヒドロキシヘキサノイックアシド、1,3,5−トリアミノ−2,4−ジイミノヘキサンアミド、1,3−ジアミノ−2,4−ジイミノ−5−ヒドロキシヘキサンアミド、1,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−3−ヒドロキシヘキサンアミド、3,5−ジアミノ−2,4−ジイミノ−1−ヒドロキシヘキサンアミド、1−アミノ−2,4−ジイミノ−3,5−ジヒドロキシヘキサンアミド、3−アミノ−2,4−ジイミノ−1,5−ジヒドロキシヘキサンアミド、5−アミノ−2,4−ジイミノ−1,3−ジヒドロキシヘキサンアミド、2,4−ジイミノ−1,3,5−トリヒドロキシヘキサンアミド等が挙げられる。
式(3)示される付加3量化化合物のうち、内部構造としてニトリル基がイミノ基に付加した式(5)の構造を有する化合物としては、2,4−ジアミノ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、2,4−ジアミノ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチロニトリル等が挙げられる。これらの化合物のニトリル基の加水分解生成物としては、2,4−ジアミノ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2,4−ジアミノ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチリックアシド、2,4−ジアミノ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−アミノ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、2,4−ジアミノ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、2−アミノ−4−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、4−アミノ−2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド、2,4−ジヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−イミノエチルイミノ)ブチルアミド等が挙げられる。
式(3)で表わされる化合物には、上記の化合物のメチル基やイミノ基にグリシノニトリルやグリコロニトリルのニトリル基が更に付加した付加多量化化合物も含まれる。この場合、式(4)に示す構造単位と式(5)に示す構造単位とが分子内で交互に付加したランダム構造も、同一構造単位が並ぶブロック構造も含まれる。
ニトリル基を有する末端が環化してピリミジン骨格を形成する式(6)に示す付加環化化合物としては、4,5−ジアミノ−2,6−ビス(アミノメチル)ピリミジン、4−アミノ−5−ヒドロキシ−2,6−ビス(アミノメチル)ピリミジン、5−アミノ−4−ヒドロキシ−2,6−ビス(アミノメチル)ピリミジン、4,5−ジアミノ−2−アミノメチル−6−ヒドロキシメチルピリミジン、4−アミノ−5−ヒドロキシ−2−アミノメチル−6−ヒドロキシピリミジン、5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−アミノメチル−6−ヒドロキシピリミジン、4,5−ジアミノ−6−アミノメチル−2−ヒドロキシメチルピリミジン、4−アミノ−5−ヒドロキシ−6−アミノメチル−2−ヒドロキシピリミジン、5−アミノ−4−ヒドロキシ−6−アミノメチル−2−ヒドロキシピリミジン、4,5−ジアミノ−2,6−ビス(ヒドロキシメチル)ピリミジン、4−アミノ−5−ヒドロキシ−2,6−ビス(ヒドロキシメチル)ピリミジン、5−アミノ−4−ヒドロキシ−2,6−ビス(ヒドロキシメチル)ピリミジン等が挙げられる。また、これらの化合物の1位メチレン基にニトリル基が更に付加し、式(8)又は(9)に示す構造の置換基で置換した付加環化化合物も含まれる。この場合、式(4)に示す構造単位と式(5)に示す構造単位とが置換基内で交互に付加したランダム構造も、同一構造が並ぶブロック構造も含まれる。更に、上記した付加環化化合物のニトリル基の加水分解生成物も含まれる。
ニトリル基を有する末端が環化してピリジン骨格を形成する式(7)に示す付加環化化合物としては、2,3,4,5−テトラアミノ−6−アミノメチルピリジン、2,3,4−トリアミノ−5−ヒドロキシ−6−アミノメチルピリジン、2,4,5−トリアミノ−3−ヒドロキシ−6−アミノメチルピリジン、2,4,5−トリアミノ−3,5−ジヒドロキシ−6−アミノメチルピリジン、2,3,4,5−テトラアミノ−6−ヒドロキシメチルピリジン、2,3,4−トリアミノ−5−ヒドロキシ−6−ヒドロキシメチルピリジン、2,4,5−トリアミノ−3−ヒドロキシ−6−ヒドロキシメチルピリジン、2,4,5−トリアミノ−3,5−ジヒドロキシ−6−ヒドロキシメチルピリジン化合物が挙げられる。また、これらの化合物の6位メチレン基にニトリル基が更に付加し、式(8)又は(9)に示す構造の置換基で置換した付加環化化合物も含まれる。この場合、式(4)に示す構造単位と式(5)に示す構造単位とが置換基内で交互に付加したランダム構造も、同一構造が並ぶブロック構造も含まれる。更に、上記した付加環化化合物のニトリル基の加水分解生成物も含まれる。
(C)下記の化合物(c)及び(d):
(c)下記式(10)又は(11):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わす。)
で示される化合物、及び
(d)下記式(12):
(式中、nは4〜200の整数を表わす。)
で示される化合物。
式(10)及び(11)で示される化合物は、シアン化水素4量化化合物と該シアン化水素4量化化合物のニトリル基が加水分解した生成物である。式(12)で示される化合物は、シアン化水素重合物である。
式(10)又は(11)で示されるシアン化水素4量化化合物としては、例えばジアミノマレオニトリルとその互変異性体であるアミノイミノサクシノニトリルが挙げられる。該シアン化水素4量化化合物のニトリル基が加水分解した生成物としては、ジアミノマレイン酸、2,3−ジアミノ−3−シアノアクリル酸、2,3−ジアミノ−3−シアノアクリルアミド、2,3−ジアミノ−3−カルバモイルアクリル酸、2,3−ジアミノ−3−カルバモイルアクリルアミド、アミノイミノサクシノニックアシド、2−アミノ−3−イミノ−3−カルバモイルプロピオンアミド、2−アミノ−3−イミノ−3−シアノプロピオン酸、2−アミノ−3−イミノ−3−シアノプロピオンアミド、2−アミノ−3−イミノ−3−カルバモイルプロピオン酸、3−アミノ−2−イミノ−3−シアノプロピオン酸、3−アミノ−2−イミノ−3−シアノプロピオンアミド、3−アミノ−2−イミノ−3−カルバモイルプロピオン酸が挙げられる。
式(12)で示されるシアン化水素重合物としては、n=4のとき、式(10)や(11)で示される化合物に加えて、3−アミノ−2,4−ジイミノブチリックアシド、n=5のとき、3−アミノ−3−シアノ−2,4−ジイミノブチリックアシドや3−アミノ−2,4,5−トリイミノヘプタノイックアシド、n=6のとき、3,4−ジアミノ−3,4−ジシアノ−2−イミノブチリックアシドや3−アミノ−3−シアノ−2,4,5−トリイミノヘプタノイックアシドなどが挙げられる。n=7以上のシアン化水素重合物も含まれる。
(D)下記の骨格(e)及び(f)を分子内にそれぞれ有する化合物:
(e)下記式(13):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2〜120の整数を表わす。)
で示される骨格、及び
(f)下記式、(14)又は(15):
(式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1〜70の整数を表わす。)
で示される骨格。
式(13)で示される骨格を有する構造物には、シアン化水素重合構造物やそのニトリル基が加水分解した構造物が含まれ、例えば、アミノシアノメチレン構造物、アミノカルバモイルメチレン構造物及び/又はアミノカルボキシメチレン構造物を有し、繰り返し数が2以上の構造物が挙げられる。こうしたシアン化水素重合構造物には、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、メチレン構造が70〜90ppmの間にピークを示す化合物が含まれる。
式(14)又は(15)で示される骨格を有する化合物には、多環式化合物やそのニトリル基の加水分解生成物が含まれ、例えば、3,4,4,5−テトラアミノ−4−(シアノ、カルボキシ又はカルバモイル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン骨格の6員環の5,6位が隣の6員環の2,3位である多環式構造体や、3,7,9,10−テトラアミノ−3,4,6,7,9,10−ヘキサヒドロピリジノ[2,3−e]ピリジン骨格の6,7,8,9位が隣のピリジン骨格の5,10,4,3位である多環式構造体が挙げられる。こうした多環式化合物には、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、メチレン構造が60〜80ppmの間にピークを示す化合物が含まれる。また、紫外可視吸収スペクトルにおいて380nm及び460nmに吸収極大を示す化合物も含まれる。
上記したシアン化水素重合物等の生成メカニズムは、日本国、日本化学会発行の工業化学雑誌第70巻54頁(1967年)に開示されている。
(E)下記の骨格(g)及び(h)を分子内にそれぞれ有する化合物:
(g)下記式(16):
(式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは2〜120の整数を表わす。)
で示される骨格、及び
(h)下記式(17)又は(18):
(式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1〜70の整数を表わす。)
で示される骨格。
式(16)で示される骨格を有する酸化重合物及びそのニトリル基が加水分解した生成物は、メチレン基同士が酸化カップリングする反応で生成することが知られている。例えば、グリコロニトリルとグリシノニトリルが酸化カップリングした、2,3−ジアミノサクシノニトリル、2−アミノ−3−ヒドロキシサクシノニトリル、またこれらが加水分解した、2,3−ジアミノサクシノニックアシド、2,3−ジアミノ−3−カルバモイルプロピオンアミド、2,3−ジアミノ−3−シアノプロピオン酸、2,3−ジアミノ−3−カルバモイルプロピオン酸、2,3−ジアミノ−3−シアノプロピオンアミド、2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−シアノプロピオン酸、2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−カルバモイルプロピオン酸、2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−シアノプロピオンアミド、3−アミノ−2−ヒドロキシ−3−シアノプロピオン酸、3−アミノ−2−ヒドロキシ−3−カルバモイルプロピオン酸、3−アミノ−2−ヒドロキシ−3−シアノプロピオンアミドが挙げられる。こうした酸化カップリング生成物に更にメチレン化合物がカップリングし、分子内に式(16)の骨格を有する酸化重合構造物及びそのニトリル基が加水分解した構造物としては、アミノシアノメチレン構造物、アミノカルバモイルメチレン構造物、アミノカルボキシメチレン構造物、ヒドロキシシアノメチレン構造物、ヒドロキシカルバモイルメチレン構造物及び/又はヒドロキシアミノカルボキシメチレン構造物を有し、繰り返し数が2以上の構造物が挙げられる。こうした酸化重合構造物には、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、メチレン構造が70〜90ppmの間にピークを示す化合物が含まれる。
式(17)又は(18)で示される骨格を有する化合物は上記の酸化重合構造物のシアノ基が付加環化することにより生成される。式(17)又は(18)で示される構造を有する多環式化合物及びそのニトリル基が加水分解した生成物としては、3,4,4,5−(アミノ及び/又はヒドロキシ)−4−(シアノ、カルボキシ又はカルバモイル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン骨格の6員環の5,6位が隣の6員環の2,3位である多環式構造体や、3,7,9,10−(アミノ及び/又はヒドロキシ)−3,4,6,7,9,10−ヘキサヒドロピリジノ[2,3−e]ピリジン骨格の6,7,8,9位が隣のピリジン骨格の5,10,4,3位である多環式構造の化合物が含まれる。こうした多環式構造の化合物には、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、メチレン構造が60〜80ppmの間にピークを示す化合物が含まれる。また、紫外可視吸収スペクトルにおいて、340〜380nmの間及び440〜480nmの間に吸収極大を示す化合物も含まれる。
(F)ヘキサメチレンテトラミン、及び
下記式(1):
(式中、nは1〜150の整数を表わす。)
で示されるトリメチレンアミン構造を有する化合物:
これらの化合物はホルムアルデヒドとアンモニアが縮合して生成することが知られている。式(1)の構造を有する化合物としては、n=1のとき、N−アミノメチル−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、n=2のとき、N,N’−ビスアミノメチル−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、ペンタメチレンテトラミン、ヘキサメチレンペンタミン、n=3のとき、N,N’,N”−トリスアミノメチル−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、n=4のとき、ヘキサメチレンテトラミン、ヘプタメチレンペンタミンが挙げられる。
本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物には、上記したように、ヒドロキシル基とアミノ基の縮合反応生成物、ニトリル基と活性メチレン基の付加反応生成物と環化反応生成物、又はメチレン基の酸化反応生成物と環化反応生成物や、これらの生成物のニトリル基の加水分解反応生成物が含まれる。更に、これらの反応が組み合わされて生成した化合物も含まれる。即ち、
(I)式(3)、(6)、(7)、(10)、(11)で示される化合物又は式(13)〜(18)で示される骨格のアミノ基と、式(3)、(6)、(7)で示される化合物又は式(14)〜(18)で示される骨格のヒドロキシル基との縮合生成物、
(II)式(2)、(3)、(10)〜(12)で示される化合物又は式(13)、(14)、(16)、(17)で示される骨格のニトリル基同士の付加生成物、
(III)式(2)、(3)、(10)〜(12)で示される化合物又は式(13)、(14)、(16)、(17)で示される骨格のニトリル基と、式(3)、(6)、(7)、(11)で示される化合物のイミノ基との付加生成物、
(IV)式(2)、(3)、(10)〜(12)で示される化合物又は式(13)、(14)、(16)、(17)で示される骨格のニトリル基と、式(1)〜(3)、(6)、(7)で示される化合物のメチレン基との付加生成物、
(V)式(1)〜(3)、(6)、(7)で示される化合物のメチレン基同士の酸化カップリング生成物、
が挙げられる。これらの化合物には、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、53〜100ppmの間にピークを示す化合物が含まれる。また、環化反応を経て生成する化合物は着色することから、紫外可視吸収スペクトルにおいて、340〜380nmと440〜460nmに吸収極大を示す化合物が含まれる。
本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物は、何れも分子量が95以上の多官能性化合物であり、これらが微生物酵素の活性を著しく低下させる。本発明において、分子量が95以上、好ましくは分子量が130以上の化合物の含有量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下に維持される条件下でグリシンを製造することにより微生物酵素等の活性を向上させる。
本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物の含有量を10重量%以下にする方法としては、該加水分解反応系に溶存する酸素を、該加水分解反応系の重量に対して5重量ppm以下に制限する方法が挙げられる。大気圧下で水溶液に溶存する酸素濃度は通常8〜10ppmであるが、溶存する酸素濃度を5重量ppm以下にすると副生物の生成を減らす効果が見られる。微生物酵素等の加水分解活性の阻害を抑制するためには、溶存する酸素濃度を0.5重量ppm以下にすることが好ましく、0.05重量ppm以下にすることが更に好ましい。
本発明において、加水分解反応系に溶存する酸素濃度を制限する方法として、反応系への空気の漏れ込みを遮断する密閉反応系、不活性ガスで加圧した反応系、不活性ガスを流通させた反応系又は大気圧未満の圧力の反応系を用いることができる。不活性ガスとしては、ヘリウムガス及びアルゴンガス等の希ガス類、メタンガス、エタンガス及びプロパンガス等の天然ガス類、ジメチルエーテ等の低沸点エーテル類、又は窒素ガスを単独又は混合して用いることができる。安全性等の理由から窒素ガスを用いることが好ましい。密閉反応系を用いる場合、不活性ガスで加圧することにより効果的に空気が遮断できる。この場合の圧力範囲としては特に限定されないが、使用する微生物酵素の耐圧を考慮すると大気圧を越えて1.0MPa以下が好ましく、大気圧を越えて0.5MPa以下がより好ましい。大気圧未満の圧力の反応系を用いる場合、水の0℃における蒸気圧である0.7kPaを越えて大気圧未満で行うことができ、4.0kPa以上大気圧未満が好ましい。
本発明において、加水分解反応系に溶存する酸素濃度を制限するためには、空気を遮断するだけでなく、原材料等に元々溶存している酸素を取り除く必要がある。溶存酸素を取り除く方法としては、公知の様々な方法が利用できる、例えば、蒸留操作で溶存酸素を取り除く蒸留脱気法、不活性ガスを流通させ溶存酸素を不活性ガスと置換することで取り除く不活性ガスの流通処理法、又は還元性化合物を添加し酸素を還元消費して取り除く還元性化合物添加法を用いることができる。還元性化合物添加法に用いる還元性化合物としては還元性生化学化合物、蟻酸化合物、又は亜硫酸化合物を用いることができる。還元性化合物添加法に用いる還元性生化学化合物としては特に制限はないが、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル等のアスコルビン酸エステル類、L−アスコルビン酸ナトリウム等の塩類、グルタチオン、L−システイン、L−システイン塩酸塩一水和物等のシステイン塩類、L−システインエチルエステル塩酸塩やL−システインメチルエステル塩酸塩等のシステインエステル類、またはN−アセチル−L−システイン等のN置換システイン類を用いることができる。好ましくは、L−アスコルビン酸が用いられる。還元性生化学化合物の添加量は溶存酸素濃度により異なるが、グリシノニトリルの安定化の点から、グリシノニトリルに対して0.001〜5mol%、好ましくは0.01〜2mol%用いる。還元性化合物添加法に用いる蟻酸化合物としては特に制限はないが、例えば、蟻酸、蟻酸アンモニウム等の蟻酸塩類や、蟻酸メチル、蟻酸エチル等の蟻酸エステル類が用いられる。好ましくは、蟻酸又は蟻酸アンモニウムが用いられる。蟻酸化合物の添加量は溶存酸素濃度により異なるが、グリシノニトリルの安定化の点から、グリシノニトリルに対して0.002〜8mol%、好ましくは0.02〜4mol%用いる。還元性化合物添加法に用いる亜硫酸化合物としては特に制限はないが、例えば、亜硫酸ガス、亜硫酸、亜硫酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸二カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸二アンモニウム等を用いることができる。好ましくは、亜硫酸二アンモニウムが用いられる。但し、亜硫酸化合物は電解質であり副生物の生成を促進する効果もあることから、亜硫酸化合物の添加量は以下に述べる条件に則しグリシノニトリルに対して0.001〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%用いる。
更に、本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物の含有量を10重量%以下にする方法としては、アンモニアをグリシノニトリルの安定剤として用いる方法が挙げられる。グリシノニトリルは加熱するとアンモニアを放出してイミノジアセトニトリル等のイミン化合物を生成し、更に変性されて黒色化合物を生成することから、アンモニアが溶存する加水分解反応系を用いてグリシノニトリルを安定化させることができる。アンモニアの添加量は反応温度や時間によって異なるが、グリシノニトリル1molに対して0.001〜5molが好ましく、0.01〜2molがより好ましい。通常グリシノニトリルの合成に用いる過剰のアンモニアを分離せずにそのまま用いてもよい。
更に、本発明の加水分解反応系に含まれる有機不純物化合物の含有量を10重量%以下にする方法としては、加水分解反応系に含まれる電解質を、グリシノニトリルの重量に対して2重量%以下に制御する方法が挙げられる。電解質はニトリル化合物からの副生物の生成を促進することが知られている。本発明で用いる電解質とはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびリン酸緩衝液等の混合物に加え、グリシンと塩を形成できる苛性ソーダ等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類を含む。これらの電解質を添加するとニトリル化合物からの副生物生成が促進されるが、その理由の一つとして、電解質は水溶液に添加すると酸素の溶存量を増加させる効果のあることが知られている(日本国、日本化学会発行の化学便覧 改訂4版 II−159頁 表8.54)。従って、微生物酵素の製造工程で培地又は緩衝液として用いた電解質は所定量まで洗浄し、グリシノニトリル水溶液に含まれるアルカリ触媒量を低減させ、反応液のpHを調整するためのリン酸緩衝剤の添加を極力抑制することが好ましい。加水分解反応系に含まれる電解質の総量は、グリシノニトリルの重量に対して2重量%以下にし、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下にする。
上記した、加水分解系に溶存する酸素を制限する方法、アンモニアを溶存させる方法及び電解質濃度を制御する方法は、組合わせて用いることもできる。これらの方法をすべて組合わせて行うことがより好ましい。
本発明に用いるニトリル基の加水分解活性を有する微生物酵素を産生する微生物としては、例えば、アシネトバクター(Accinetobacter)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アルカリゲネ(Alcaligenes)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、キャンディダ(Candida)属に属する微生物が適しているが、これらに限定されるもの、ではない。具体的には、以下の菌株が挙げられる。
(1)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に昭和60年5月28日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−2451のアシネトバクター sp.AK226株(日本国特公昭63−2596号明細書)、
(2)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に昭和60年5月28日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−7413のアシネトバクター sp.AK227株(日本国特公昭63−2596号明細書)、
(3)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に平成5年11月2日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−5219のロドコッカス マリス BP−479−9株(日本国特開平7−303491号明細書、日本国特開平7−303496号明細書)、
(4)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に昭和61年8月28日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−7414のコリネバクテリウム sp.C5株(日本国特公平6−65313号明細書)、
(5)米国、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(米国ヴァージニア州マナッサスブルヴァール大学(郵便番号10801))に寄託した寄託番号ATCC 21419のコリネバクテリウム ニトリロフィラス株(日本国特開平2−84198号明細書)、
(6)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に平成6年7月22日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−4750のアルカリゲネス フェカリス IFO 13111株(日本国特開平6−70856号明細書)、
(7)日本国、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−0046))に平成元年3月27日(原寄託日)に寄託した寄託番号FERM BP−2352のマイコバクテリウム sp.AC777株(日本国特開平2−84918号明細書、米国特許第5283193号)
(8)米国、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(米国ヴァージニア州マナッサスブルヴァール大学(郵便番号10801))に寄託された寄託番号ATCC 11167のロドシュードモナス スフェロイデス株(日本国特開平6−303991号明細書)、及び
(9)米国、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(米国ヴァージニア州マナッサスブルヴァール大学(郵便番号10801))に寄託された寄託番号ATCC 20311のキャンディダ トロピカリス株(日本国特開平6−303991号明細書)。
本発明に用いる微生物酵素を産生する微生物の培養には、通常用いられる培地を用いることができる。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセリン、サッカロース、フラクトース、酢酸等の有機酸、デキストリン、マルトース等が、窒素源としては、アンモニアとその塩類、尿素、硫酸塩、硝酸塩、有機窒素源(酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、大豆油、肉エキス等)が用いられる。また、培地にはリン酸塩、ナトリウム、カリウム、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、亜鉛等の無機栄養源、及びビタミン類が適宜添加される。培養はpH4〜10、好ましくはpH6〜8で、温度5〜50℃、好ましくは20〜35℃で好気的に行われる。また、上記の培地に、ラクタム化合物(γ−ラクタム、δ−ラクタム、ε−カプロラクタム等)、ニトリル化合物、アミド化合物等の酵素誘導剤を加えてもよい。本発明に用いる微生物酵素を産生する微生物はそのまま工業使用することができるが、適当な変異剤で突然変異を誘発する方法もしくは遺伝子工学的手法により改良された変異株、例えば、酵素を構成的に産生する変異株を作製して用いることもできる。本発明に用いる微生物酵素としては、培養液から採取した微生物をそのまま用いていもよいし、微生物処理物(微生物の破砕物、微生物破砕物より分離した酵素、固定化した微生物又は微生物から分離抽出された酵素を固定化した処理物)を用いてもよい。培養液からの微生物の採取は公知の方法で行うことが出来る。
本発明においては、上述の方法で分離した微生物又は微生物処理物は一旦、蒸留水や緩衝液に懸濁して保存することが出来る。この場合、反応後の廃棄物を減らす上で蒸留水、特に晶析工程等で空気を遮断した条件で蒸留分離した蒸留水を再使用することが好ましい。また、保存安定化のために安定剤を保存液に添加することも出来る。この場合も、反応後の廃棄物を減らす上で安定剤としてグリシンを用いることが好ましい。
本発明においては、上述の方法で得られた微生物又は微生物処理物の懸濁水溶液に、上記の方法で得られたグリシノニトリル水溶液又はアンモニアを含むグリシノニトリル水溶液を添加する方法、得られた微生物又は微生物処理物の懸濁水溶液を該グリシノニトリル水溶液に添加する方法、または得られた微生物又は微生物処理物を公知の方法で固定化してこれに該グリシノニトリル水溶液を流通する方法を用いることにより、速やかにグリシノニトリルの加水分解反応が進行しグリシンを製造することができる。即ち、通常、前記微生物又は微生物処理物を、例えば乾燥微生物換算で0.01〜5重量%、基質のグリシノニトリルを1〜40重量%反応装置に仕込み、温度として例えば0〜60℃、好ましくは10〜50℃にて、反応時間を例えば1〜24時間、好ましくは3〜8時間反応させればよい。グリシノニトリルを低濃度で仕込み、経時的に追加添加したり、反応温度を経時的に変化させてもよい。グリシノニトリルが加水分解されてグリシンとアンモニアに変換されると反応後の反応溶液のpHは反応前に比べて増加する。このように反応の進行に伴いpHが増加するのを抑えるために反応前に緩衝液を添加したり、反応中に酸又はアルカリを添加することもできるが、反応後の廃棄物を減らす上ではこうした緩衝液、酸やアルカリを加水分解反応系に添加しないことが好ましい。加水分解反応は開放型の反応器で実施することもできるが、副生するアンモニアの飛散による環境汚染の防止、アンモニアの回収、及び空気の遮断の観点から、密閉型の反応器を用いて閉鎖的反応条件で加水分解反応を行い、副生するアンモニアを反応器中に一旦蓄積することが好ましい。
アンモニアは、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び/又は濃縮あるいは冷却による晶析を行うことでグリシンとは別々に加水分解反応系から回収することができる。操作が簡便で有機溶媒、酸、アルカリ等の余分な成分を用いない点から、加水分解反応系から蒸留、反応蒸留又は不活性ガスへの同伴分離によりアンモニアを回収し、そして、アンモニア回収後の残液を濃縮あるいは冷却による晶析に付すことによりグリシンを回収する方法が好ましい。反応蒸留を行う場合、反応装置として、アンモニアと水を冷却回収するための冷却器の付いた単管搭、棚段搭、または充填塔を用い、反応溶液の沸騰圧以上、例えば60℃では20.0kPa以上から0℃では0.6kPa以上の圧力条件下で、連続的にまたは間欠的に減圧反応蒸留を行うことが好ましい。更に好ましくは、12.6kPa〜1.3kPaの圧力条件下で減圧反応蒸留する。不活性ガスによる同伴回収をする場合、反応装置に不活性ガスの吹き込みノズルと、アンモニアや水を不活性ガスから回収するための冷却トラップとを備え、微加圧〜減圧条件下で連続的にまたは間欠的にアンモニアを不活性ガスに同伴させ反応溶液から分離することができる。更に、アンモニアの分離を促進するために、減圧反応蒸留を不活性ガス流通条件下で行うこともできる。反応方式はバッチ型方式や流通型反応方式を用いることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
このように加水分解反応系の反応方式は、微生物やグリシノニトリルの添加方法やアンモニアの分離回収方法により異なるが、微生物又は微生物処理物の懸濁水溶液を用いる場合やアンモニアを反応蒸留又は不活性ガスで同伴分離する場合は、主にバッチ型方式又は多段の撹拌槽を用いた多段流通型反応方式を用いることができ、固定化した微生物を用いる場合は、主に管型の反応装置を用いた管型流通反応方式又はこれらを組み合わせた方式で行うことができるが、これらに限定されるものではない。
グリシノニトリルは、ほぼ100%のモル収率で加水分解される。副生する全てのアンモニアは密閉型反応器中に一旦グリシンの高濃度水溶液としてグリシンのアンモニウム塩の状態で生成蓄積させることができる。また、生成するアンモニアの全部または大部分を反応と同時に反応蒸留法や不活性ガスの流通法で反応溶液から分離して冷却回収することもできる。菌体が微生物酵素としてニトリルヒドラターゼ酵素を有する場合、グリシンが加水分解され加水分解反応系に、グリシンアミドが並産される。この場合はグリシンアミドの加水分解活性を有する微生物又は微生物酵素を追添加することにより、完全にグリシンとアンモニアに変換することもできる。グリシンのアンモニウム塩を含むグリシンの高濃度水溶液からのグリシンの回収は、例えば、反応溶液から微生物又は微生物酵素を遠心濾過及び/又は膜濾過等によって分離した後、晶析、イオン交換又は貧溶媒を用いた再沈殿により回収することができる。またアンモニアは一部の水と一緒に蒸発分離後、蒸留や抽出によって回収することができる。本発明の好ましい製造法としては、例えば、(1)密閉反応系において、水性媒体中でアルカリ触媒の存在下にシアン化水素をホルムアルデヒドと反応させてグリコロニトリル水溶液を得、(2)該グリコロニトリル水溶液にアンモニアを添加して反応させ、水を生成しながらグリシノニトリル水溶液を得、大部分のアンモニアと水の一部を蒸留分離し、グリシノニトリル水溶液と未分離のアンモニアを含む加水分解反応系を得、(3)分離したアンモニアを工程(2)にリサイクルし、(4)該加水分解反応系を、密閉反応系内の該加水分解反応系に添加した微生物によって産生される微生物酵素の作用下に加水分解反応に付し、該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、(5)該微生物及び該微生物酵素を、遠心濾過及び膜濾過からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、工程(1)〜(5)で副生した該微生物酵素を阻害する有機不純物化合物の一部を、膜濾過及び吸着剤を用いた分離からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、(6)分離した該微生物及び該微生物酵素は工程(4)にリサイクルし、(7)工程(4)で副生したアンモニアと工程(4)の後で該加水分解反応系に残る過剰量の水を蒸留分離し、分離したアンモニアと水は工程(2)にリサイクルし、(8)工程(7)の後又は工程(7)と同時に、該グリシンを晶析により分離し、(9)分離された該グリシンの結晶を乾燥することにより、グリシンを製造することができる。
本発明において、グリシノニトリル水溶液を加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離するグリシンの製造方法において、該グリシノニトリルの加水分解をアンモニアの存在下で行う。その際、アンモニアの濃度が、グリシノニトリル1molに対して0.001〜5molであることが好ましい。本発明の方法を用いることにより、グリシノニトリルを安定化し、グリシンを定量的に効率よく製造することができる。
更に、本発明において、グリシノニトリル水溶液を加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離するグリシンの製造方法において、塩基及び酸の不存在下で、該加水分解反応系からグリシンの単離を行い、一方、グリシンの回収とは別に副生アンモニアを回収することができる。その際、グリシン及びアンモニアを、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び濃縮又は冷却による晶析からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により別々に回収することが好ましい。更に、アンモニアを蒸留、反応蒸留又は不活性ガスによる同伴により回収し、そして、グリシンを、アンモニア回収後の残液の濃縮又は冷却による晶析に付すことにより回収することが好ましい。本発明の方法を用いることにより、アンモニアをリサイクルすることが可能となり、また、環境への付加も少なくすることができる。
発明を実施するための最良の形態
以下に挙げる実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例においては、反応系への酸素の混入を防ぐために、基本的な反応操作は全て窒素雰囲気下で行った。反応系に初めて投入する水溶液類は窒素ガスで一旦加圧後、再び常圧に戻す等の窒素置換操作を数回繰り返して空気を窒素で置換(即ち、酸素濃度を0.01ppm以下に)してから使用した。但し、工業プロセス(実施例12)においては、グリシノニトリルの濃縮工程やグリシンの晶析のための濃縮操作で得られる蒸留水をリサイクルするので、水溶液などを窒素下で保存する以外に特別の操作は必要ではない。
次の実施例及び比較例において、種々の操作を以下のようにして行った。
(1)アンモニア及び水の蒸発回収
アンモニアの蒸発回収や水の蒸発回収は薄膜蒸留装置(日本国、柴田化学社製)を用い、減圧下、滞留時間1分以内の条件で実施した。
(2)反応液の濃縮
30ml以下の反応液を濃縮する場合には、循環式アスピレーター減圧下ロータリーエバポレーター装置(日本国、東京理化製)を用いて行った。
(3)微生物の分離
グリシノニトリルの加水分解反応の後に微生物を分離する際には、冷却遠心分離装置(日本国、日立社製)を用い、10,000rpmで15分間遠心分離を行った。
(4)タンパク質類の除去
実施例1〜11においては注射機用限外濾過フィルター(日本国、テルモ株式会社)を用い、加圧下でろ過することによりタンパク質類の除去を行った。実施例12においては、循環式限外濾過膜装置(日本国、旭化成工業(株)製の限外濾過膜 SIP−1013)を用いてタンパク質類の除去を行った。
(5)液体クロマトグラフィー
イオンペアクロマトグラフィー法にてグリシン、グリシノニトリル、グリコロニトリル、イミノジアセトニトリル、イミノジ酢酸、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、硫酸イオン、ナトリウムイオン等を分析した。分析装置としては、液体クロマトグラフィー装置(日本国、島津社製 LC−6A、RI及びUV検出器)とODSカラム(日本国、東ソー製)を用い、イオンペア剤としてペンタンスルホン酸ナトリルムを用いてイオンペアクロマトグラフィー法を実施した。
(6)ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー
分子量55のグリコロニトリル及び分子量4000以下の有機不純物化合物の分析をゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)で行った。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー装置としては、日本国、島津社製のLC−9A及び米国、ニコレ社製のGPC−IR、RI及びUV検出器を用い、カラムとしてGS−220NQカラム(日本国、昭和電工社製のShowdex旭パック)を用いた。
(7)着色化合物の分析
紫外可視分光光度計(日本国、日立社製のU−3210)を用いて、加水分解反応系の200nm〜800nmにおける紫外可視吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルから吸収極大を示す波長及びピークの高さを求めることで、加水分解反応系に含まれる着色化合物を分析した。
(8)NMR
重水中でH−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトルをそれぞれ測定し、有機不純物化合物を分析した。H−NMRは日本国、日本電子製のJNM−α400を用いて行い、13C−NMRはドイツ国、ブルーカー社製のAC−200を用いて行った。いずれの場合も、測定用の試料としては、加水分解反応系を減圧乾燥した後に重水に溶解し、内部標準として4,4−ジメチル−4−シランペンタンスルホン酸ナトリウム(δ0.015ppm)を用いたものを使用した。
実施例1
(1)グリシノニトリルの合成
攪拌機とジャケットを備えた容量8リットルのオートクレーブ(日本国、旭化成株式会社製)を反応器として用いた。反応器の内部を窒素雰囲気にし、そこに1200gの37%ホルムアルデヒド及び当量のシアン化水素を加えて反応させ、グリコロニトリル水溶液を製造した。得られたグリコロニトリル水溶液に5000gの25%アンモニア水溶液を添加し、2時間反応させてグリシノニトリルを製造した。次に反応液中に存在する未反応のアンモニアと過剰の水を薄膜蒸留装置で減圧除去し、30重量%グリシノニトリル水溶液を得た。得られたグリシノニトリル水溶液を液体クロマトグラフィー法で分析したところ、グリシノニトリルの他に0.8重量%のイミノジアセトニトリルが含まれていた。また、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー法でグリシノニトリル水溶液を分析したところ、分子量95以上の有機不純物化合物が、水溶液中に1.2重量%含まれていた。
更に製造したグリシノニトリルを13C−NMRで分析したところ、グリシノニトリルとイミノジアセトニトリルに対応するピーク以外にも60〜70ppmに付近にピークが確認された。また、製造したグリシノニトリル水溶液の吸光度を測定したところ、344nmと468nmに吸収極大が見られ、10mm石英セル当たりの吸光度は344nmが0.297、468nmが0.08であった。
(2)微生物の培養
アシネトバクター sp.AK226株(FERM BP−2451)を、下記の組成からなる培地を用い、30℃で1日培養した。
培地
(下記の成分を蒸留水に溶解したもの、pH7.5)
フマル酸 1.0重量%
肉エキス 1.0
ペプトン 1.0
食塩 0.1
ε−カプロラクタム 0.3
リン酸第一カリウム 0.2
硫酸マグネシウム・7水塩 0.02
塩化アンモニウム 0.1
硫酸第二鉄・7水塩 0.003
塩化マンガン・4水塩 0.002
塩化コバルト・6水塩 0.002
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で18.0重量%の微生物の懸濁液を得た。窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で合成した30重量%グリシノニトリル水溶液53.3gと蒸留水46.7gを窒素雰囲気下で仕込んだ。次に微生物の懸濁液1.0gをオートクレーブに加え、40℃にて反応を開始した。この時オートクレーブ内の混合物のpHは約7だった。反応開始後pHは上昇し、2時間後にはpH10になった。反応を10時間行い、反応液を得た。得られた100gの反応液のうち2gを用いて、液体クロマトグラフィー法による原料のグリシノニトリルと生成したグリシンの定量、及びネスラー法によりアンモニアの定量を行った。液体クロマトグラフィーによる分析の結果、反応液にから原料であるグリシノニトリルは完全に消失し、グリシンの収率は99%だった。また、アンモニアは定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は117g/gであり、グリシンの生成活性は12g/g・Hrであった。
残りの反応液98gを冷却遠心分離に付して微生物を分離し、上澄みを回収した。回収した上澄みを加圧下で限外濾過フィルターに通し、残存する微生物やタンパク質を取り除いた。得られた濾液の2mlを用いて紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、468nmの波長における吸光度は0.79であった。上澄みの残りを全て薄膜蒸留装置に掛け、アンモニアと過剰の水を蒸発分離した。凝集液とドライアイスエタノールトラップに回収した氷と液体を合わせ48gのアンモニア水が得られた。ボトムには43gのグリシン濃縮液を回収した。この濃縮液を室温まで冷却しながら晶析した。一回の晶析操作で得た結晶を乾燥し、16.5gのグリシンの結晶が得られた。得られたグリシンの純度は99.99%であった。
比較例1
グリシノニトリル水溶液に含まれる副生化合物である有機不純物化合物の影響を検討した。実施例1で合成した30重量%グリシノニトリル水溶液を用い、窒素流通下、90℃でグリシノニトリル水溶液を加熱した。加熱に伴い窒素に同伴する蒸気はドライアイスエタノールトラップで補足した。加熱後15分、30分、1時間、その後は30分毎に5時間まで加熱した液を10mlずつサンプリングし、冷却保存した。
また、サンプリングした液の一部を用い、液体クロマトグラフィー、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー、紫外可視分光光度計及び13C−NMRによる分析を行った。30分以上加熱したグリシノニトリル水溶液にはアンモニア臭があった。加熱時間と共に水溶液は濃縮されているにもかかわらず、グリシノニトリルの濃度は30重量%から35重量%の間にあり、このことからグリシノニトリルは変性していることが判明した。また経時的に分子量95以上の有機不純物化合物の量が増加していた。有機不純物化合物はイミノジアセトニトリルを含んでおり、その他にも13C−NMRスペクトルにおいて50〜90ppmの間にピークを示す化合物や、紫外可視吸収スペクトルにおいて380nmと468nmに吸収極大を示す化合物が含まれていた。
上記でサンプリングした11種の加熱液と加熱していないグリシノニトリル水溶液を合わせた12種のサンプルを用い、微生物による加水分解活性を比較した。窒素ボックスの中で5.0mlのサンプルを試験管に仕込み、そこに蒸留水5.0mlを添加した。次に、実施例1と同様に培養したアシネトバクター sp.AK226株を用い、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を調製した。調製した微生物の懸濁液0.5mlを各試験管に添加し、パラフィルムで密閉した。窒素ボックス内の恒温振とう器に密閉した試験管をセットし、30℃で8時間加水分解反応を実施した。反応液のうち2gを用いて液体クロマトグラフィー法で分析した。表1に示すように、グリシンの収率は有機不純物化合物の濃度に依存し、有機不純物化合物の濃度が10重量%を越えると著しく低下した(サンプル11と12の結果を参照)。反応液に含まれるグリシン以外の成分は殆どが未反応グリシノニトリルであり、そのことから、有機不純物化合物は微生物の酵素活性を大きく阻害したと考えられる。一方、有機不純物化合物の濃度が5重量%以下では90%以上のグリシン収率を示し、1重量%以下では加熱をしないグリシノニトリルを用いた場合と同等のグリシン収率が得られた。
実施例2
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
実施例1と同様にアシネトバクター sp.AK226株を培養した。
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で5.0重量%の微生物の懸濁液を得た。窒素ガスで置換した耐圧シュレンク管に、窒素気流下において1.0mlの微生物の懸濁液と16mlの蒸留水を加え、更にグリシノニトリル水溶液3mlを添加した。耐圧シュレンク管を密閉し、20℃で反応を開始した。この時オートクレーブ内の混合物のpHは約7であり、2時間後にはpH10.1になった。反応液の一部を取り出して液体クロマトグラフィー法にて分析したところ、グリシノニトリルは消失し、グリシンが定量的に生成していた。そこで2時間毎に反応温度を5℃昇温し、それと同時に基質である30重量%グリシノニトリル水溶液を3mlづつ反応器に追加するという操作を計4回繰り返し、合計10時間反応を行って32mlの反応液を得た。そのうち2mlを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失し、グリシンの収率は100%だった。また、アンモニアも定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は120g/gであり、グリシンの生成活性は12g/g・Hrであった。
残りの反応液30mlを冷却遠心分離に付し、限外濾過膜で処理した。得られた濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、冷却して結晶化した後、濾別し、乾燥して4.6gのグリシンの結晶を得た。得られたグリシンの純度は99.99%であった。
実施例3
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
実施例1と同様にアシネトバクター sp.AK226株を培養した。
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を得た。窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で製造した30重量%グリシノニトリル水溶液53.3gと蒸留水41.7gを窒素雰囲気下で仕込んだ。次に微生物の懸濁液5gをオートクレーブに加え、50℃にて反応を開始した。この時オートクレーブ内の混合物のpHは約7だった。反応開始後pHは上昇し、1時間後にはpHは10になった。反応を8時間行い、反応液を得た。得られた100gの反応液のうち2gを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失しており、グリシンの収率は99%だった。また、アンモニアは定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は168g/gであり、グリシンの生成活性は21g/g・Hrであった。
また実施例1と同様の操作で遠心分離、限外濾過、薄膜蒸留を経てアンモニア水48gとグリシン濃縮液43gを回収した。グリシン濃縮液についてはグリシンの結晶化と乾燥操作を経て、17gのグリシン結晶を得た。得られたグリシンの純度は99.99%であった。
実施例4
実施例3において遠心分離操作で回収した微生物を蒸留水で3回洗浄した後、蒸留水を加えて微生物の懸濁液5gを調製した。得られた微生物の懸濁液を用い、実施例3と同様にグリシンを製造した。具体的には、窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で製造した30重量%グリシノニトリル水溶液50.0gと蒸留水45.0gを窒素下で仕込んだ。次に微生物の懸濁液5gをオートクレーブに加え、50℃にて反応を開始した。反応を8時間行い、反応液を得た。得られた100gの反応液のうち2gを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失しており、グリシンの収率は99%だった。また、アンモニアは定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は157g/gであり、グリシンの生成活性は27g/g・Hrであった。実施例3と実施例4の通算の乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は335g/gであり、グリシンの生成活性は20g/g・Hrであった。
また残りの反応液については、実施例1と同様の操作でアンモニア水48gとグリシン濃縮液42gを回収した。グリシン濃縮液についてはグリシンの結晶化と乾燥操作を経て、16gのグリシン結晶を得た。得られたグリシンの純度は99.99%であった。
実施例5
実施例4において遠心分離操作で回収した微生物を蒸留水で3回洗浄した後、蒸留水を加えて微生物の懸濁液5gを調製した。得られた微生物の懸濁液を用い、実施例3と同様にグリシンを製造した。具体的には、窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で製造した30重量%グリシノニトリル水溶液43.3gと蒸留水51.7gを窒素下で仕込んだ。次に微生物の懸濁液5gをオートクレーブに加え、50℃にて反応を開始した。反応を8時間行い、反応液を得た。得られた100gの反応液のうち2gを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失しており、グリシンの収率は99%だった。また、アンモニアは定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は136g/gであり、グリシンの生成活性は17g/g・Hrであった。実施例3、実施例4及び実施例5の通算の乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は461g/gであり、グリシンの生成活性は26g/g・Hrであった。
実施例6
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
ロドコッカス マリス BP−479−9株(FERM BP−5219)を、下記の組成からなる培地を用い、30℃で1日培養した。
培地
(下記の成分を蒸留水に溶解したもの、pH7.5)
グリセリン 1.0重量%
肉エキス 1.0
ペプトン 1.0
食塩 0.1
ε−カプロラクタム 0.3
リン酸第一カリウム 0.2
硫酸マグネシウム・7水塩 0.02
塩化アンモニウム 0.1
硫酸第二鉄・7水塩 0.003
塩化マンガン・4水塩 0.002
塩化コバルト・6水塩 0.002
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で6.0重量%の微生物の懸濁液を得た。得られた微生物の懸濁液1.0mlを用い、実施例2と同様にグリシノニトリルの加水分解反応を合計10時間行った。得られた32gの反応液のうち2gを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失し、グリシンの収率は100%だった。また、アンモニアも定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は100g/gであり、グリシンの生成活性は10.0g/g・Hrであった。
残りの反応液を実施例1と同様の処理に付し、4.6gのグリシンを晶析回収した。
実施例7
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
コリネバクテリウム ニトリロフィラス(ATCC 21419)を、実施例6と同様の条件で培養した。
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蕉留水を加え、乾燥微生物重量換算で8.0重量%の微生物の懸濁液を得た。得られた微生物の懸濁液1.0mlを用い、実施例2と同様にグリシノニトリルの加水分解反応を合計10時間行った。得られた32gの反応液のうち2gを用い、実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは完全に消失し、グリシンの収率は99%だった。また、アンモニアも定量的に生成していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は75g/gであり、グリシンの生成活性は8g/g・Hrであった。
残りの反応液を実施例1と同様の処理に付し、4.6gのグリシンを晶析回収した。
実施例8
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
コリネバクテリウム sp.C5株を、実施例6と同様の条件で培養した。
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を得た。撹拌器の付いた1000mlの恒温ジャケット槽型3つ口セパラブルフラスコに、底部まで届く窒素ガスの吹き込みノズル、ドライアイストラップに接続したミストセパレーター、温度計、およびサンプリング管を備えた反応器を用意した。セパラブルフラスコに微生物の懸濁液9mlを仕込み、30重量%グリシノニトリル水溶液30mlと蒸留水161mlを仕込んだ。次にガス流量計を用いて1時間当たり3リットルの窒素ガスをフィードしながら、30℃にて反応を開始した。1時間後、30mlの30重量%グリシノニトリル水溶液を反応器に追加した。この操作を更に3回繰り返し、合計5時間反応を行った。ドライアイストラップには氷と液体を合わせて15gの反応副生物が回収された。回収した反応副生物を50mlの水に溶解し、ネスラー法によりアンモニアを定量したところ、アンモニアが14g回収されていた。更に305gの反応液が回収され、この反応液2gを用いて実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは消失し、グリシンの収率は99%であった。また、トレース量のアンモニアが残存していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は53g/gであり、グリシンの生成活性は11g/g・Hrであった。
残りの反応液303gを実施例1と同様の処理に付し、47gのグリシンを晶析回収した。
実施例9
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
アルカリゲネス フェカリス IFO 13111株(FERM BP−4750)を、実施例6と同様の条件で培養した。
(3)グリシノニトリルの加水分解
培養した微生物を培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を得た。撹拌器の付いた1000mlの恒温ジャケット槽型3つ口セパラブルフラスコに、底部まで届く窒素ガスの吹き込みノズル、ドライアイストラップを経て減圧ポンプに接続した単管型の蒸留塔、圧力センサー、温度計、および液送ポンプに接続したサンプリング管を備えた反応器を用意した。セパラブルフラスコに微生物の懸濁液11ml仕込み、30重量%グリシノニトリル水溶液30mlと蒸留水159mlを仕込んだ。次にガス流量計を用いて1時間当たり3リットルの窒素ガスをフィードしながら、30℃にて反応を開始した。1時間後、30mlの30重量%グリシノニトリル水溶液を反応器に追加した。この操作を更に3回繰り返し、合計5時間反応を行った。ドライアイストラップには氷と液体を合わせて25gの反応副生物が回収された。回収した反応副生物を50mlの水に溶解し、ネスラー法によりアンモニアを定量したところアンモニアが15g回収されていた。更に295gの反応液が回収され、この反応液2gを用いて実施例1と同様に分析した。その結果、グリシノニトリルは消失し、グリシンの収率は99%であった。また、トレース量のアンモニアが残存していた。乾燥微生物当たりのグリシンの生成量は42g/gであり、グリシンの生成活性は9g/g・Hrであった。
残りの反応液293gを実施例1と同様の処理に付し、48gのグリシンを晶析回収した。
実施例10
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
(2)微生物の培養
以下の微生物を実施例6と同様の条件で培養した。
微生物
アシネトバクター sp.AK227株(FERM BP−7413)
マイコバクテリウム sp.AC777株(FERM BP−2352)
ロドシュードモナス スフェロイデス(ATCC11167)
キャンディダ トロピカリス(ATCC20311)
シュードモナス sp.88−SB−CN5株
アクレモニウム sp.D9K株
クレブシエラ sp.D5B株
(3)グリシノニトリルの加水分解
各微生物について、培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を得た。窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で製造した30重量%グリシノニトリル水溶液53.3gと蒸留水42.7gを窒素下で仕込んだ。次に懸濁液4.0gをオートクレーブに加え、40℃にて反応を開始した。反応を8時間行い、反応液を得た。得られた100gの反応液のうち2gを用いて、液体クロマトグラフィー法による原料のグリシノニトリルと生成したグリシンの定量、及びネスラー法による生成アンモニアの定量を行った。表2に示す通り、いずれの微生物を用いた場合もグリシノニトリルは完全に消失し、グリシンは高い収率で生成していた。また、アンモニアは定量的に生成していた。
実施例11
(1)グリシノニトリルの合成
実施例1と同様に30重量%のグリシノニトリル水溶液を合成した。
グリシノニトリル水溶液の468nmにおける吸光度を測定したところ、グリシノニトリル1molに換算して、10mm石英セル当たり吸光度は0.08であった。
(2)微生物の培養
以下の微生物を実施例6と同様の条件で培養した。
微生物
アシネトバクター sp.AK226株(FERM BP−2451)
ロドコッカス マリス BP−479−9株(FERM BP−5219)
コリネバクテリウム sp.C5株(FERM BP−7414)
コリネバクテリウム ニトリロフィラス(ATCC21419)
アルカリゲネス フェカリス IFO 13111株(ATCC8750)
(3)グリシノニトリルの加水分解
各微生物について、培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した。洗浄した微生物に蒸留水を加え、乾燥微生物重量換算で12.5重量%の微生物の懸濁液を得た。窒素ガスで置換した200mlの硝子オートクレーブに、上記(1)で製造した30重量%グリシノニトリル水溶液53.3gと蒸留水42.7gを窒素下で仕込み、更に表3に示す還元性化合物を添加した。微生物の懸濁液は、表3に示した微生物懸濁液量(重量)を用い、更に微生物懸濁液と蒸留水の合計量が5gとなるように蒸留水を添加した。30℃にて反応を開始し、10時間反応を行った。比較のために、各微生物について還元性化合物を添加しない実験も行った。更に密閉反応器の効果を比較するために、空気開放系での検討も合わせ行った。得られた100gの反応液のうち2gを用い、生成したアンモニアはネスラー法により定量し、原料のグリシノニトリルと生成したグリシンは液体クロマトグラフィー法で定量した。
更に実施例1と同様に冷却遠心分離と限外濾過分離を行い、得られた溶液の468nmの吸光度を測定した。また残りの液は薄膜蒸留、1回の晶析操作、及び乾燥を経てグリシンの結晶を回収し、グリシンの純度を測定した。結果を表3に示す。
還元性化合物を添加することでグリシンの着色変性を大きく抑制することができた。同時にグリシンの収率も向上し、グリシンの結晶の純度は99.99%であった。一方、空気中で反応すると褐色の反応液が得られ、収率も低下した。この場合、限外濾過は困難となった。得られたグリシン結晶は着色し純度は99%に低下した。
実施例12
図1に示すシステムに基づき、本発明のグリシンの連続的製造方法を具体的に説明する。
(1)グリシノニトリルの合成
撹拌器、レベルセンサー、圧力計、安全弁、及び温度指示計が付属した1リットルのステンレス製オートクレーブ6、7、8及びフラッシュ蒸留装置9を直列に繋ぎ、以下の条件で、グリシノニトリル水溶液を合成した。反応に先立ち、オートクレーブ6、7、8及びそれらを繋ぐ配管を窒素置換した。3台のダイアフラムポンプを用意し、ポンプを用いて窒素置換した37重量%のホルムアルデヒド水溶液1(メチルアルコール10重量%未満含有)を100g/時間、液化シアン化水素2を33.3g/時間、及び4%水酸化ナトリウム3を100ppm含む蒸留水240g/時間をオートクレーブ6に連続的にフィードした。反応温度を40℃に設定し、グリコロニトリルを製造するための反応を開始した。反応開始直後には発熱が見られたが設定温度で反応は推移した。レベルコントローラーで滞留時間を1時間に調整し、オートクレーブ7のグリコロニトリルを含む反応液をオートクレーブ8にポンプでフィードし、同時に0.2MPaのアンモニアガス4をマスフローコントローラーを通して82ノルマルリットル/時間で連続的にフィードした。反応温度を55℃に設定し、グリシロニトリルの製造を開始した。反応開始時点ではアンモニアの吸収のために大きな発熱が見られたが、設定温度及び設定圧力で反応は推移した。レベルコントローラーでオートクレーブ7の反応液の滞留時間を1時間に調整し、反応液をポンプでオートクレーブ8にフィードした。オートクレーブ8の温度は55℃に設定した。1時間の滞留時間後にポンプで連続的にグリシロニトリルを含む反応液を抜き出した。反応開始から6時間迄の初期反応液を廃液として回収し、6時間以降の反応液は常圧に設定したフラッシュ蒸留装置9にフィードした。フラッシュ蒸留装置9のカラムトップの温度を−20℃に設定し、蒸留装置9にフィードした反応液をカラムトップで冷却した。この際、水分を氷冷除去し、湿ったアンモニアガスはドライアイスエタノールトラップで回収し、液状アンモニア10を得た。回収した液状アンモニア10はオートクレーブ7に供給する原料として利用した。カラムボトムから少量のアンモニアを含むグリシノニトリル水溶液を回収し、中間タンク11において5℃で冷却保存した。この時10重量%の硫酸を安定剤として100ppm添加した。33重量%のグリシロニトリル水溶液を得た。イミノジアセトニトリルが0.9重量%含まれており、分子量が95以上の有機不純物化合物が1.3重量%含まれていた。
(2)微生物の培養
実施例1と同様にアシネトバクター sp.AK226株(FERM BP−2451)を培養した。培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で3回洗浄した後、蒸留水で12.5重量%の微生物の懸濁液5とした。
(3)加水分解反応と微生物の分離
撹拌器、温度計、pHセンサーを備えた10Lのステンレス製オートクレーブを加水分解反応器12として用いた。窒素気流下において、中間タンク11に保存したグリシノニトリル水溶液5400gを加水分解反応器12に仕込み、上記(2)で調製した微生物懸濁液5を60g添加し、50℃の設定温度でグリシノニトリルの加水分解反応を開始した。8時間後に反応液を連続遠心分離装置13(米国、ウエストファリヤー社製のTA1−02型)に導入し、反応液から微生物を分離した。分離した微生物スラリーの5分の1を廃棄し(廃棄微生物14)、残りを蒸留水で3回洗浄した。得られた微生物に蒸留水を加えて48gの懸濁液とし、これに上記(2)と同様に調製した微生物の懸濁液12gを合わせた合計60gの微生物の懸濁液を加水分解反応器12に仕込み、グリシノニトリルの加水分解反応を行った。同様の操作を2回目以降も続けた。遠心濾過によって得られた濾液(即ちグリシンを含む反応液)を循環式限外濾過膜装置15(日本国、旭化成工業(株)製の限外濾過膜 SIP−1013)に供給し、循環しながら濃縮した。濃縮液は中間タンク16に入れて一旦保存した。循環液が500mlまで減少したら、そこに蒸留水500mlを加えて1000mlとし、更に500mlまで濃縮するという操作を2回繰り返した。最後に残った循環液500mlは廃棄した。
上記の工程(3)は、12時間サイクルで繰り返した。
83重量%のグリシンのアンモニウム塩及び分子量95以上の有機不純物化合物が0.9重量%含まれていた。
(4)グリシン結晶の回収
上記(1)の反応開始後18時間目には、中間タンク16に濃縮液が約6kg得られたので、グリシンの連続晶析を開始した。100gの活性炭を仕込んだカラム17に濃縮液を通して活性炭処理された濃縮液を得た。得られた活性炭処理された濃縮液を425g/時間の速度で連続晶析装置18にフィードした。晶析装置18は撹拌器、レベルセンサー、温度計及び減圧蒸留カラムを備えており、70℃にて、濃縮液に含まれる過剰の水と液体アンモニアをそれぞれ約200g/時間と約20g/時間で減圧蒸発させた。蒸発回収した状蒸留水19と液体アンモニア10は上記(1)の反応に循環使用した。晶析槽に蓄積したスラリー(グリシン濃度:40重量%)を晶析槽のレベル上限と下限との間で間欠に晶析槽ボトムから吸引によって抜き出して、熱時濾過に付した。得られた濾液の4重量%をブローダウンし(ブロー20)、残りの濾液21は晶析槽に循環した。晶析は運転開始から3時間後には定常状態に達した。晶析したグリシンを晶析装置18から取り出し、乾燥してグリシンの結晶22を得た。得られたグリシンの結晶22の純度を分析したところ、純度は99.99%であった。このシステムにおいては、グリシンは平均して82g/時間の割合で得られ(微生物あたり54g/g)、全工程一貫収率は90%であった。
産業上の利用可能性
本発明のグリシンの製造方法を用いると、医農薬合成原料、食品添加物、洗浄剤原料として有用なグリシンを、高純度で、微生物当たり且つ単位時間当たりのグリシン生産活性が高く、グリシンとアンモニアを、分解又は消費を伴わずに定量的に製造し、且つ容易に別々に回収でき、更に、環境負荷も少なく工業的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
添付の図面において:
図1は実施例12において使用されるグリシンの製造システムの概略図である。
(符号の説明)
1: ホルムアルデヒド水溶液
2: 液化シアン化水素
3: 水酸化ナトリウム
4: アンモニアガス
5: 微生物懸濁液
6,7,8: オートクレーブ
9: フラッシュ蒸留装置
10: 液状アンモニア
11、16: 中間タンク
12: 加水分解反応器
13: 連続遠心分離装置
14: 廃棄する微生物
15: 循環式限外濾過膜装置
17: 活性炭カラム
18: 連続晶析装置
19: 蒸発回収した水
20: ブロー
21: 濾液
22: グリシンの結晶

Claims (31)

  1. グリシンの製造方法にして、 グリシノニトリル水溶液を提供し、 該グリシノニトリル水溶液を、加水分解反応系において、ニトリル基の加水分解活性を有するアシネトバクター属、ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、アルカリゲネス属、マイコバクテリウム属、ロドシュードモナス属及びキャンディダ属からなる群より選ばれる属の微生物に由来する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、
    該加水分解反応系は該微生物酵素を阻害する少なくとも1つの有機不純物化合物を含有し、該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物は、分子量が95以上であり、ニトリル基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基及びトリメチレンアミン構造からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有し、該トリメチレンアミン構造は下記式(1):
    (式中、nは1以上の整数を表わす。)、
    で表わされる骨格を有し、
    該加水分解反応を、該加水分解反応の間、該加水分解反応系における該微生物酵素を阻害する該有機不純物化合物の含有量が、該加水分解反応系の重量に対して10重量%以下に維持される条件下で、かつ、該加水分解反応を、グリシノニトリルの重量に対して2重量%以下の電解質を含む該加水分解反応系で行い、
    そして、
    該加水分解反応系からグリシンを単離する、
    ことを包含することを特徴とする方法。
  2. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、シアン化水素、ホルムアルデヒド及びアンモニアからのグリシノニトリルの合成、及びグリシノニトリルのグリシンとアンモニアへの加水分解からなる群より選ばれる少なくとも1つの反応において副生物として生成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記式(2)で表わされる化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
    NH3−n(CH (2)
    (式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2又は3を表わす。)
  4. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の化合物(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
    (a)下記式(3):
    (式中、Yはニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは0以上の整数を表わし、Zはそれぞれ独立に下記式(4)又は(5)で表わされる。)
    (式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わす。)
    で表わされる化合物、及び、
    (b)下記式(6)又は(7):
    (式中、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、各Zは独立に下記式(8)又は(9)で表わされる。)
    (式中、Yはアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、Zはそれぞれ式(3)において定義した通りであり、nは0以上の整数を表わす。)
    で表わされる化合物。
  5. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の化合物(c)及び(d)からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
    (c)下記式(10)又は(11):
    (式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わす。)
    で表わされる化合物、及び、
    (d)下記式(12):
    (HCN) (12)
    (式中、nは4以上の整数を表わす。)
    で表わされる化合物。
  6. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の骨格(e)及び(f)からなる群より選ばれる少なくとも1つの骨格を分子内に有する化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
    (e)下記式(13):
    (式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、nは2以上の整数を表わす。)
    で表わされる骨格、及び、
    (f)下記式(14)又は(15):
    (式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1以上の整数を表わす。)
    で表わされる骨格。
  7. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、下記の骨格(g)及び(h)からなる群より選ばれる少なくとも1つの骨格を分子内に有する化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
    (g)下記式(16):
    (式中、各Yは独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは2以上の整数を表わす。)
    で表わされる骨格、及び、
    (h)下記式(17)又は(18):
    (式中、Yはそれぞれ独立にニトリル基、カルボキシル基又はアミド基を表わし、各Yは独立にアミノ基又はヒドロキシル基を表わし、nは1以上の整数を表わす。)
    で表わされる骨格。
  8. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、ヘキサメチレンテトラミンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  9. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、重水中で測定した13C−NMRスペクトルにおいて、53〜100ppmの間にピークを示すことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物が、該加水分解反応系について測定した紫外可視吸収スペクトルにおいて、340〜380nm及び440〜480nmに吸収極大を示すことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物の分子量が、130以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. 該微生物酵素を阻害する該少なくとも1つの有機不純物化合物の濃度が、該加水分解反応系の重量に対して1重量%以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
  13. 該加水分解反応系が、該加水分解反応系の重量に対して5重量ppm以下の酸素を溶存させていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
  14. 該加水分解反応を、密閉反応系、不活性ガスで加圧した反応系、不活性ガスを流通させた反応系又は大気圧未満の圧力の反応系を用いて行い、該加水分解反応系に溶存する酸素濃度を抑制することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
  15. 該加水分解反応を、アンモニアが溶存する該加水分解反応系で行うこと特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
  16. 該アシネトバクター属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−2451のアシネトバクター sp.AK226株、又は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−7413のアシネトバクターsp.AK227株であることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  17. 該ロドコッカス属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−5219のロドコッカス マリス BP−479−9株であることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  18. 該コリネバクテリウム属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERMBP−7414のコリネバクテリウム sp.C5株、又は、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託した寄託番号ATCC 21419のコリネバクテリウム ニトリロフィラスであることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  19. 該アルカリゲネス属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−4750のアルカリゲネス フェカリス IFO 13111株であることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  20. 該マイコバクテリウム属の菌株が、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した寄託番号FERM BP−2352のマイコバクテリウム sp.AC777株であることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  21. 該ロドシュードモナス属の菌株が、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託された寄託番号ATCC11167のロドシュードモナス スフェロイデスであることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  22. 該キャンディダ属の菌株が、アメリカン タイプ カルチャー コレクションに寄託された寄託番号ATCC 20311のキャンディダ トロピカリスであることを特徴とする請求項1〜15に記載の方法。
  23. 該加水分解反応系からグリシンの単離を行い、一方、グリシンの回収とは別に副生アンモニアを回収することを特徴とする請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
  24. グリシン及びアンモニアを、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び濃縮又は冷却による晶析からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により別々に回収することを特徴とする請求項23に記載の方法。
  25. アンモニアを蒸留、反応蒸留又は不活性ガスによる同伴により回収し、そして、グリシンを、アンモニア回収後の残液の濃縮又は冷却による晶析に付すことにより回収することを特徴とする請求項24に記載の方法。
  26. 該方法が、下記の工程を包含することを特徴とする請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
    (1)密閉反応系において、水性媒体中でアルカリ触媒の存在下にシアン化水素をホルムアルデヒドと反応させてグリコロニトリル水溶液を得、
    (2)該グリコロニトリル水溶液にアンモニアを添加して反応させ、水を生成しながらグリシノニトリル水溶液を得、大部分のアンモニアと水の一部を蒸留分離し、グリシノニトリル水溶液と未分離のアンモニアを含む加水分解反応系を得、
    (3)分離したアンモニアを工程(2)にリサイクルし、
    (4)該加水分解反応系を、密閉反応系内の該加水分解反応系に添加した微生物によって産生される微生物酵素の作用下に加水分解反応に付し、該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、
    (5)該微生物及び該微生物酵素を、遠心濾過及び膜濾過からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、工程(1)〜(5)で副生した該微生物酵索を阻害する有機不純物化合物の一部を、膜濾過及び吸着剤を用いた分離からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により分離し、
    (6)分離した該微生物及び該微生物酵素は工程(4)にリサイクルし、
    (7)工程(4)で副生したアンモニアと工程(4)の後で該加水分解反応系に残る過剰量の水を蒸留分離し、分離したアンモニアと水は工程(2)にリサイクルし、
    (8)工程(7)の後又は工程(7)と同時に、該グリシンを晶析により分離し、
    (9)分離された該グリシンの結晶を乾燥する。
  27. グリシノニトリル水溶液を提供し、該グリシノニトリル水溶液をグリシノニトリルの重量に対して2重量%以下の電解質を含む該加水分解反応系で、ニトリル基の加水分解活性を有するアシネトバクター属、ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、アルカリゲネス属、マイコバクテリウム属、ロドシュードモナス属及びキャンディダ属からなる群より選ばれる属の微生物に由来する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離することを包含するグリシンの製造方法において、該グリシノニトリルの加水分解をアンモニアの存在下で行うことを特徴とする方法。
  28. アンモニアの濃度が、グリシノニトリル1molに対して0.001〜5molであることを特徴とする請求項27に記載の方法。
  29. グリシノニトリル水溶液を提供し、該グリシノニトリル水溶液をグリシノニトリルの重量に対して2重量%以下の電解質を含む該加水分解反応系で、ニトリル基の加水分解活性を有するアシネトバクター属、ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、アルカリゲネス属、マイコバクテリウム属、ロドシュードモナス属及びキャンディダ属からなる群より選ばれる属の微生物に由来する微生物酵素の作用下に加水分解反応に付して該グリシノニトリルをアンモニアを副生しながらグリシンに変換し、そして、加水分解反応系から該グリシンを単離することを包含するグリシンの製造方法において、塩基及び酸の不存在下で、該加水分解反応系からグリシンの単離を行い、一方、グリシンの回収とは別に副生アンモニアを回収することを特徴とする方法。
  30. グリシン及びアンモニアを、蒸留、反応蒸留、不活性ガスによる同伴、イオン交換、抽出、貧溶媒を用いた再沈殿、及び濃縮又は冷却による晶析からなる群より選ばれる少なくとも1つの操作により別々に回収することを特徴とする請求項29に記載の方法。
  31. アンモニアを蒸留、反応蒸留又は不活性ガスによる同伴により回収
    し、そして、グリシンを、アンモニア回収後の残波の濃縮又は冷却による晶析に付すことにより回収することを特徴とする請求項30に記載の方法。
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