JP4646199B2 - 多孔質膜の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、製膜後に残存する可塑剤等の低分子量物の洗浄除去工程を伴う多孔質膜の製造方法に関し、特に、環境への負荷を低減し、なおかつ安全性が高く、洗浄過程における多孔質膜の特性変化を抑制できる製造方法に関する。本発明は、特に電池用セパレータに用いる多孔質膜の製造方法として有用である。
従来より、多孔質膜は、さまざまな分野に応用展開されている。各種用途の中でも、電池膜(セパレータ)としての需要は多く、さまざまなタイプの電池に使用されている。種々のタイプの電池が実用に供されているが、最近、電子機器のコードレス化等に対応するために、軽量で高起電力、高エネルギーを得ることができ、しかも、自己放電が少ないリチウム電池が注目を集めている。
リチウム電池は、携帯電話やノートブックパソコン用として、多量に用いられており、更に、今後、電気自動車用バッテリーとしても期待されている。これらの電池は正極と負極との間に、それら電極間の短絡を防止するために多孔質膜を電池膜(セパレータ)として使用している。
このような電池膜は、通常、正極負極間のリチウムイオンの透過性を確保するために、多数の微細孔を有する微多孔膜を用いているが、このような電池膜用微多孔膜には、電池特性に関係して、種々の特性が要求され、なかでも、高強度で高空孔率であり、更に、温度上昇時の寸法安定性にすぐれることが重要な要求特性である。微多孔膜が高空孔率を有することは、セパレータとしてのイオン透過性を向上させ、充放電特性、特に、高電流密度での充放電特性を向上させるため重要な要求特性となる。
このような微多孔膜の製造方法としては、従来、超高分子量ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂を溶媒中、加熱溶解させて、混練物とし、これからゲル状シートを調製し、延伸後に脱溶媒する等の種々の方法が提案されている。
そのなかで、空孔率の大きい微多孔膜を製造する方法として、さまざまな手法が提案されている。例えば、膜製造過程において、延伸倍率を高くする方法、ポリオレフィン樹脂と溶媒との比率を変化させる方法、延伸性の高いポリオレフィン樹脂を使用する方法などがある。
また、特徴的な材料系を採用する方法として、例えば、特許文献1にはポリオレフィン樹脂中にスチレンブロックと水素添加されたイソプレンブロックからなる飽和型熱可塑性エラストマーをポリオレフィン樹脂と共に用いることで、高空孔率を達成する方法が開示されている。
また特許文献2には、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリオレフィン(A)又は重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリオレフィンを含む組成物(B)からなるポリオレフィン微多孔膜により、高空孔率な多孔質膜が形成できることを提案している。
ただし、これらの手法では、空孔率の調整に材料自体の変更を伴うために、空孔率を調整した最終的な膜の特性が微妙に異なってしまうなどの問題がある。
また、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂を使用するものでは、非常に高い空孔率を有する膜を形成することが可能である。例えば、特許文献3には、PTFEを用いて得られた膜を、リチウムイオン電池用セパレータに使用することが記載されている。しかしながら材料系が大幅に異なるために本質的に異なる膜となってしまう。
さらに成形条件を大幅に変更することなく、膜成形後の溶媒除去、乾燥により空孔率を制御することも提案されている。このような溶媒除去方法としては、超臨界状態の二酸化炭素で処理する方法、あるいは液化状態の二酸化炭素で処理する方法(例えば特許文献4参照)が提案されている。この公報では、液化二酸化炭素を、膜に残存する可塑剤(溶媒)の抽出に使用しているが、液化二酸化炭素は低極性溶媒に近い物性であるために、用いる可塑剤の種類によっては、液化二酸化炭素に対する抽出性が低下するため、抽出が十分行えず、かえって空孔率が悪化する場合もあることが判明した。
特開2000−72908号公報 国際公開00/49073号公報 特開平9−293492号公報 特開平11−31493号公報
そこで、本発明の目的は、洗浄時に安全性が高く、なおかつ乾燥が速く、洗浄後の多孔質膜が高空孔率で一定厚みを保持できる多孔質膜の製造方法、及び電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、製膜後に残存する低分子量物を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、常圧まで減圧して乾燥させることで、シート製膜条件や材料系の大幅な変更を行うことなく、さらに引火や爆発の危険がなく安全で、溶媒置換工程のみで多孔質膜の空孔率や通気性の向上を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の多孔質膜の製造方法は、湿式製膜法による製膜後に炭化水素を含有する多孔質膜から、炭化水素を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法において、前記炭化水素を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させることを特徴とする。
本発明の多孔質膜の製造方法によると、予め炭化水素を溶解洗浄してから、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換した後、減圧して乾燥させるため、超臨界ガス等による洗浄・除去が効果的に行える。また、乾燥速度が非常に速く、乾燥条件を低温かつ短時間に設定できるため、実施例の結果が示すように、毛管力による膜の変形が抑制され、空孔率が高い多孔質膜を得ることができる。
また、本発明は、ポリオレフィン系樹脂及び炭化水素を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、これを一軸方向以上に延伸する工程と、延伸物から炭化水素を除去する工程とを含む、湿式製膜法による多孔質膜の製造方法において、前記炭化水素を除去する工程は、炭化水素を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させることを特徴とする。
上記一連の工程で得られるポリオレフィン系の多孔質フィルムには、多孔質構造中に流動パラフィンなどの炭化水素を含有しており、これを除去する必要があるが、当該炭化水素は、一般的に用いられる超臨界ガス等によって直接除去するのが困難であった。本発明によると、予め炭化水素を溶解洗浄してから、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換した後、減圧して乾燥させるため、超臨界ガス等による洗浄・除去が効果的に行える。また、乾燥速度が非常に速く、乾燥条件を低温かつ短時間に設定できるため、実施例の結果が示すように、毛管力による膜の変形が抑制され、空孔率が高い多孔質膜を得ることができる。
上記において、前記洗浄溶剤が、有機系の溶剤から選択される1種以上であることが好ましい。有機系の溶剤を洗浄溶剤として用いることで、製膜後に残存する低分子量物を効率よく溶解洗浄でき、しかも超臨界ガス等との相溶性も一般に良好になる。
また、前記液化ガス又は超臨界ガスは、液化した二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素であることが好ましい。二酸化炭素は、不燃成分であり、乾燥時に排出ガス中の可燃成分が低濃度となるため、安全に乾燥を進行させることができる。また、二酸化炭素を用いることで、コスト的にも有利となり、特に有機系の溶剤を効果的に溶解置換でき、減圧により効率良く乾燥させることができる。
本発明の電池用セパレータの製造方法は、上記いずれかに記載の多孔質膜の製造方法によって電池用セパレータを製造することを特徴とする。本発明の電池用セパレータの製造方法によると、予め低分子量物を溶解洗浄してから、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換した後、減圧して乾燥させるため、超臨界ガス等による洗浄・除去が効果的に行える。また、乾燥速度が非常に速く、乾燥条件を低温かつ短時間に設定できるため、毛管力による膜の変形が抑制され、空孔率が高い多孔質膜を得ることができ、電池用セパレータとしてのイオン透過性を向上させ、充放電特性、特に、高電流密度での充放電特性を向上させることができる。
本発明の多孔質膜の製造方法は、製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から低分子量物を除去する工程を含むものであり、かかる工程を実施する際に、低分子量物を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させることを特徴とする。
多孔質膜としては、例えばポリオレフィン系樹脂、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PPES(ポリフェニルスルホン)、PVA、PTFE、セルロース系樹脂、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリイミドなどが挙げられる。
製膜方法としては、製膜後に低分子量物が残存する方法であれば、特に限定されず、非溶媒誘起型湿式相分離法、熱誘起型湿式相分離法、乾式相分離法、延伸法など何れでもよい。
製膜後に含有される低分子量物としては、膜素材を溶解する溶媒や可塑剤、製膜原液に含有されるその他の貧溶媒、膨潤剤、相分離の速度を調整する低分子化合物や塩類、膜素材の低分子量成分、各種添加剤などが挙げられる。
本発明は、多孔質膜の孔内に残存する低分子量物を除去する場合の他、多孔質膜の骨格内に残存する低分子量物を除去する場合にも適用することができる。後者の場合、多孔質膜を膨潤させるなど、抽出性の良好な洗浄溶剤を用いるのが好ましい。
本発明は、多孔質膜の製膜工程が、ポリオレフィン系樹脂及び可塑剤を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、これを一軸方向以上に延伸する工程とを含む場合が有効である。これらの一連の工程で得られるポリオレフィン系の多孔質フィルムには、多孔質構造中に流動パラフィンなどの可塑剤を含有している。以下、この製膜工程を例にとって説明する。
本発明では、上記の製膜工程で得られた延伸物から可塑剤を除去する場合、低分子量物である可塑剤を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させる。これらの工程によって、微細な3次元網目状構造を有し、かつ高空孔率を有する多孔質膜が得られる。
本発明では、製膜の際に結晶性樹脂を用いるのが好ましく、特に、ポリオレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン等のオレフィンの単独重合体、共重合体、およびこれらのブレンド物等のポリオレフィンが好ましい。これらのなかでは、重量平均分子量が5×10以上の超高分子量ポリオレフィンを、好ましくは5重量%以上用いるのが望ましい。中でも得られる多孔質膜の機械的強度を向上させる観点から、超高分子量ポリエチレンが素材として特に好ましい。
湿式製膜法の場合に用いることのできる溶媒(即ち、これが低分子量物となる)としては、結晶性樹脂の溶解性や膨潤性に優れたものであれば、通常用いられる公知のものを限定されることなく用いることができる。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、テトラリン、流動パラフィン等の脂肪族又は環式の炭化水素、沸点がこれらに対応する鉱油留分等が挙げられ、これらの中では、流動パラフィンなどの不揮発性溶媒が好ましい。
結晶性樹脂及び溶媒の混合割合は、結晶性樹脂の種類、溶解性などの材料条件や混練時間、混練温度などの混練条件により異なるため、一概には決定できないが、結晶性樹脂および溶媒とのスラリー状樹脂混合組成物を溶融混練した際にシート状に成形できる程度であれば特に限定されない。例えば、樹脂成分の配合量は混合物中の5〜30重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、10〜25重量%がさらに好ましい。樹脂成分の配合量は、得られる多孔質膜の強度を向上させる観点から、5重量%以上が好ましく、また、ポリオレフィンを十分に溶媒に溶解させて、混練することができる観点から、30重量%以下が好ましい。
混合物中の溶媒の配合量は70〜95重量%が好ましく、70〜90重量%がより好ましく、75〜90重量%がさらに好ましい。該配合量は、適度な混練性で特性的に優れる観点から、70重量%以上が好ましく、また、押出す際にダイスでの成形が容易になる観点から、95重量%以下が好ましい。
また、セパレータの安全性を高める目的として、シャットダウン温度の低下材料として5×10未満のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマー、グラフトコポリマーが1種類以上含有されてもよい。
重量平均分子量が5×10未満のポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリルモノマー共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系や、ポリオレフィン系、ポリジエン系、塩化ビニル系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
グラフトコポリマーとしては、主鎖にポリオレフィン、側鎖に非相性基を有するビニル系ポリマーを側鎖としたグラフトコポリマーが挙げられるが、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキシアルキレン類が好ましい。なお、ここで非相溶性基とは、ポリオレフィンに対して非相溶性基を意味し、例えば、ビニル系ポリマーに由来する基などが挙げられる。
これらの5×10未満のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマー、グラフトコポリマーの含有量は、適宜要求されるシャットダウン温度により設定されるが、多孔質膜の原料樹脂混合物中、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下が更に好ましい。該含有量は、高分子量ポリオレフィンの架橋点を十分確保し、十分な耐熱性が得られるという観点から70重量%以下が好ましい。
なお、前記樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、造核剤、顔料、難燃剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。
得られる樹脂組成物を溶融混練する工程は、通常用いられる公知の方法により行うことができる。その際に高分子量ポリオレフィンのポリマー鎖の十分な絡み合いを得るために混合物に十分なせん断力を作用させて行なうことが好ましい。例えば、樹脂組成物をバンバリーミキサー、ニーダー等を用いてバッチ式で混練したり、連続押出機などを用いてもよい。連続混練機としては単軸混練機や二軸押出機、プラネタリー式などの多軸混練機で混練りを行ってもよく、またこれら装置を複数組み合わせてもなんら問題はない。
混合物を溶解混練する際の温度は、溶媒が高分子量ポリオレフィンを溶解開始させる温度(溶融開始温度)〜+60℃の範囲で行なうことが好ましい。該温度は、高分子量ポリオレフィンが効率よく分散する観点から、溶解開始温度以上が好ましい。なお、高分子量ポリオレフィンの熱分解や酸化劣化を抑制するため、溶解後の混練時に、膜特性を低下させない程度に温度を下げても差し支えない。
シート状に成形する工程は、通常用いられる公知の方法により行うことができる。方法としては、特に限定されず、例えば、押し出し機先端にTダイ等を取り付ける方法が挙げられる。
得られたシート状押出し物は混練後の構造を固定する、あるいは結晶性を固定化する目的で押し出ししたシート状物を急冷することが有効である。急冷の温度としては、好ましくは100℃以下、より好ましくは−10℃以下に冷却した金属板に挟み込み冷却して、シート状に成形することが望ましい。このようにして得られるシート状成形物の厚みとしては、特に限定されないが、その後の工程における処理のしやすさから、2〜20mmのものが好ましく、5〜10mmのものがより好ましい。
次に得られたシート状成形物はその空孔率と強度向上を図るため、延伸処理する。延伸処理の方法は特に限定されるものではなく、通常のテンター法、ロール法、またはこれらの方法の組み合わせであってもよい。また、一軸延伸、二軸延伸等のいずれの方法をも適用することができ、二軸延伸の場合は、縦横同時延伸または逐次延伸のいずれでもよいが、強度アップの観点から、縦横同時延伸が好ましい。
なお本発明では、延伸処理に先立ちシートの延伸性を向上させるために、シート状成形物の圧延処理を行ってもよい。圧延処理としてはロールによる圧延処理、金属板に挟み込み加熱して圧延する方法などが挙げられる。また圧延工程は延伸後に行ってもよい。
延伸倍率は、目的とする空孔率や強度により適宜設定できるが、好ましくは、延伸前の面積に対し通常2〜300倍、好ましくは10〜250倍の範囲で行う。
延伸処理時の温度は、延伸の均一性が良好で、十分な膜強度が得られる観点から、高分子量ポリオレフィンの融点+5℃以下の温度が好ましい。温度が高すぎると構造が崩れて強度が低下する恐れがある。またあまりにも低い温度であると延伸時に、膜の被断や延伸後の収縮が大きくなる恐れがある。
次に上記工程で得られた延伸物から可塑剤を除去する。その際、低分子量物である可塑剤を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させる。本発明では、低分子量物を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、これを別の溶剤(これも洗浄溶剤に相当する)で置換してから、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換することも可能である。その場合、別の溶剤としては、液化ガス又は超臨界ガスとより相溶性の高いものを用いるのが好ましい。
洗浄溶剤は、樹脂混合物の調製に用いた溶媒に応じて無機系あるいは有機系の洗浄溶剤を適宜選択することが出来る。具体的な有機系の洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカン、等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などの易揮発性溶剤があげられる。これら溶媒としては超臨界二酸化炭素あるいは液化二酸化炭素との親和性の高いものが好ましい。なおこれらは単独、または2種以上、を混合して用いることもできる。
かかる洗浄溶剤を用いた洗浄方法は特に限定されず、例えば、シート状成形物を洗浄溶剤を投入した浴に浸漬して溶媒を抽出する方法、洗浄溶剤をシート状成形物にスプレーノズル等からシャワーする方法等が挙げられる。
なおこれら溶解洗浄処理は延伸前に行なってもよい。また延伸処理前に溶解洗浄処理を行った後、再度、延伸処理後に溶解洗浄処理を行って、残存溶媒を除去する工程をとってもよい。
なお、本発明では、延伸処理後および溶解洗浄処理の前後に、表面性や特性改善のためさらに圧延処理を行なってもよい。例えば、前記シート状成形物を延伸処理と溶解洗浄処理(延伸と溶解洗浄の順序はいずれが先でもよい)を行なってから圧延処理に供してもよく、またシート状成形物を延伸処理してから延伸処理と溶解洗浄処理を行なってもよい。また延伸処理後と溶解洗浄処理後の双方で圧延処理を行ってもよい。
溶媒を抽出除去した際に使用する洗浄溶剤を置換する方法としては、樹脂を溶解せず尚且つ洗浄溶剤を溶解しうるほかの溶剤による抽出等も可能であるが、溶剤では乾燥後の溶剤放出時に安全性の課題があること、また溶剤の表面張力や乾燥速度に起因する乾燥収縮が大きいことから、表面張力が小さく、乾燥速度が速く、尚且つ安全性の高い超臨界状態あるいは液化状態の二酸化炭素を用いることが好ましい。
なお、置換時の多孔質膜の変質や熱による変形を抑制するためには、温度が比較的低温の液化ガス又は超臨界ガスを用いた溶解置換が好ましい。溶解置換の温度としては、100℃以下が好ましく、20〜60℃がより好ましい。このような温度範囲で、液化ガス又は超臨界ガスとなり、常温常圧でガス化する物質としては、二酸化炭素、メタン、エタン等のパラフィン類、エチレン等のオレフィン類、希ガス、窒素、その他の不活性ガスなどが挙げられる。本発明では、液化ガス又は超臨界ガスとして、液化した二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素を用いるのが好ましい。
超臨界二酸化炭素による置換としては、超臨界状態を安定に保持できる条件であれば、特に限定されないが、多孔質膜の熱収縮の観点から、なるべく低温での抽出が好ましい。例えば、高圧装置系内が40℃、8〜35MPaの条件で置換を安定して行うことが出来る。超臨界状態では密度揺らぎが存在しているため、きわめて短時間で溶剤が置換される。
また液化二酸化炭素による置換の条件としては、液化状態を安定に保持できる条件であれば、特に限定されないが、多孔質膜の熱収縮の観点から、なるべく低温での置換が好ましい。例えば、高圧装置系内が25℃、8〜35MPaの条件で置換を安定して行うことができる。
多孔質膜の溶剤置換形態としては、ロール状に巻き取った形態で行うことも、またシート状で行ってもよい。ロール状で置換する場合には、超臨界二酸化炭素あるいは液化二酸化炭素と、溶剤との置換性を向上させるために、多孔質膜の間にメッシ、ュ状のシートや、または多孔質膜の端部にメッシュ状のシートを挿入することも可能である。
また液化二酸化炭素による置換のための装置としては、特に限定されず、例えば一般的なバッチの高圧容器や、また圧力容器内部にシートの繰り出し、巻き取り可能な駆動装置を有したものでもよい。このような駆動装置を有したものであればシートにスペーサーを挿入することなく、シートを連続して置換することが可能であり、またさらに繰り出し、巻き取り部のみを独立して圧力制御できるようにすれば圧力容器の一部のみの減圧で多孔質膜の取り出し、交換が可能となる。
超臨界あるいは液化二酸化炭素による置換を行なう前に、形状固定のため、短時間の熱処理を行っても差し支えない。条件は特に限定されないが、形成した構造が変質しない温度域、例えば融点以下である60℃×30分、あるいは100℃×5分の条件などで熱固定できる。
超臨界あるいは液化二酸化炭素により置換した後、大気圧に減圧して膜を乾燥させる。減圧の速度は適宜要求される膜特性により設定される。多孔質膜の高空孔率化の観点から、なくべく早いほうが好ましい。早い減圧により膜自体が断熱膨張により温度低下して、より構造が固定されやすくなる。また膜が有する残留応力による収縮も抑制される。例えば減圧速度は、25MPaから大気圧までの速度が0.001〜0.1△g/sec(圧力降下速度dp/dtでは0.01〜2MPa/s)であり、より好ましくは、0.001〜0.5△g/sec(dp/dtでは0.01〜1MPa/s)である。
また超臨界状態あるいは液化二酸化炭素の減圧時において、置換された溶剤も放出されるが、その際に不活性ガスである二酸化炭素中に含有された状態で放出されるため、ガス放出による帯電や、何らかの要因で引火体に接触しても、溶剤ガスが不活性ガス中に存在するため、爆発の危険がなく、きわめて安全である。
次に、前記の工程により得られた多孔質構造を有する成形物の収縮抑制や構造固定化のためにヒートセット処理を行うのが好ましい。
ヒートセット処理は一回で熱処理する一段式熱処理法でも、最初に低温でまず熱処理し、その後さらに高温での熱処理を行なう多段式の熱処理法でもよく、あるいは昇温しながら熱処理する昇温式熱処理法でもよいが、ガーレ値等の多孔質膜の元の諸特性を損なうことなく処理することが望ましい。
ヒートセット処理の際の温度は、一段式熱処理の場合には、結晶性樹脂の融点−20℃以上、融点以下の温度が好ましい。温度で表した場合、結晶性樹脂の融点や、多孔質膜の組成によるが40〜140℃が好ましい。
また諸特性を損なわずに、短時間で熱処理を完了するためには、多段式あるいは昇温式熱処理法も好ましい。この場合の熱処理温度と時間は、使用する結晶性樹脂によるが、結晶性樹脂の融点−20℃以上、融点以下の温度が好ましい。温度で表した場合、結晶性樹脂の融点や、多孔質膜の組成により一概には決められないが、例えば115℃であれば30分以上であることが好ましい。また、必要に応じてさらに高温で、さらに短時間の3段目以降の熱処理を行なってもよい。
具体的な熱処理方法としては、多孔質膜の四隅を固定し熱処理炉に投入する、ロールに捲回して熱処理炉に投入する、テンターで面積方向を固定して連続的に熱処理炉に通す等の公知の方法が用いられる。
このようにして得られた多孔質膜は溶剤乾燥時に安全であり、また大幅な成形条件を変更する必要なく、空孔率を向上することが期待できる。
以上のようにして得られる多孔質膜の厚みは1〜60μmが好ましく、5〜60μmがより好ましい。その空孔率は、20〜70%が好ましく、30〜70%がより好ましい。
本発明の多孔質膜は、以上のように透過性能および機械的強度に優れるため、電池用セパレータとして使用することで、電池の様々な大きさや用途に対してより安全性を向上させることが期待でき、また、その製造方法において溶剤を使用する際における安全性を向上させることができる。
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、各種特性については、下記要領にて測定を行なった。
[フィルム厚]
1/10000mm 表示可能なシックネスゲージにより測定し、25点の平均値を用いた。
[空孔率]
測定対象の多孔質膜を5cmの正方形に切り抜き、その体積と重量を求め、得られる結果から次式を用いて計算する。 空孔率(体積%)=100×(体積(cm)−重量(g)/樹脂の平均密度(g/cm))/体積(cm
[乾燥速度]
溶剤を含有した多孔質膜を13cm角に切り取り、これを天秤上に置き、乾燥時における重量変化を完全に乾燥するまでの総重量の約1/2程度までの乾燥時間における、単位時間当たりの重量減少量として示した。超臨界条件の試料は減圧速度をなるべく一定になるように制御して、そのときの膜内に存在する溶剤量で減圧時間で除した値を用いた。
[評価用多孔質膜の作製]
超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量:10、融点:約140℃)12.5重量部と、溶媒である流動パラフィン75重量部、およびTPE2.5重量部、酸化防止剤0.47重量部をスラリー状に均一混合し、得られた樹脂組成物を二軸連続混練機を用い、150℃で溶融混練した。その後、得られた混練物を金属板に挟み込み、シート状に70℃まで急冷した。さらに急冷結晶化させたシート状成形物を約130℃でギャップ1.3mmでプレスし、シート状成形物を圧延、延伸した。これらの急冷シートを約130℃の温度で押し出し方向で4.5倍×幅方向3.8倍に縦横同時二軸延伸し多孔質構造中に溶媒を含んだ多孔質膜を得た。
実施例1
溶媒を含んだ多孔質膜を切り出してSUS製枠に固定した後、デカン中で溶解洗浄処理を3分行った後、さらに同様の溶解洗浄処理を2回繰り返した。
溶解洗浄処理をした多孔質膜を金属枠に固定した状態で、SUS製の容量500mlのステンレス製高圧容器に投入し、10分間超臨界二酸化炭素によりデカンの置換を行った。置換条件は処理槽内部圧25MPa、温度40℃で、10分間処理した。10分間の高圧処理の後、大気圧まで15秒で開放し、膜中の超臨界二酸化炭素を除去し、乾燥させた。ヒートセットのため、金属枠に固定した状態で85℃×12h+116℃×2hで空気中で熱処理を行ない、多孔質膜を得た。
実施例2
超臨界流体による置換処理を10MPaで行った以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
実施例3
置換処理を液化二酸化炭素による25MPa、25℃で行った以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
比較例1
溶媒を含んだ多孔質膜を切り出してSUS製枠に固定した後、デカン中で溶解洗浄処理を3分行った後、さらに同様の溶解洗浄処理を2回繰り返した。溶解洗浄処理をした多孔質膜を金属枠に固定した状態で、さらに3分間デカン浴中に浸漬した。膜中のデカンを乾燥させるため、風速0.6m/s、温度23℃にて乾燥装置内で乾燥した。実施例1と同様の方法でヒートセットのための熱処理を行ない、多孔質膜を得た。
比較例2
溶媒を含んだ多孔質膜を切り出してSUS製枠に固定した後、ヘブタン中で溶解洗浄処理を3分行った後、さらに同様の溶解洗浄処理を2回繰り返した。多孔質膜を金属枠に固定した状態で、さらに3分間シクロヘキサノン浴中に浸漬しデカンを置換した。膜中のシクロヘキサノンを乾燥させるため、風速0.6m/s、温度23℃にて乾燥装置内で乾燥した。実施例1と同様の方法でヒートセットのための熱処理を行ない、多孔質膜を得た。
比較例3
溶媒を含んだ多孔質膜を切り出してSUS製枠に固定した後、ヘプタン中で溶解洗浄処理を3分行った後、さらに同様の溶解洗浄処理を2回繰り返した。溶解洗浄処理をした多孔質膜を金属枠に固定した状態で、さらに3分間へプタン浴中に浸漬しデカンを置換した。膜中のへプタンを乾燥させるため、風速0.6m/s、温度23℃にて乾燥装置内で乾燥した。実施例1と同様の方法でヒートセットのための熱処理を行ない、多孔質膜を得た。
比較例4
実施例1において、デカン中で溶解洗浄処理を行わずに、直接、超臨界二酸化炭素による処理を同じ条件で行ったこと以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
以上の実施例及び比較例において得られた多孔質膜の膜厚、空孔率、安全性を表1に示す。
Figure 0004646199
表1のとおり、実施例1〜3の製造方法は、溶剤により置換を行う比較例1〜3と比べて、排出ガスの安全性が高く、膜の材料や延伸条件の変更をすることなく、得られる多孔質膜は、空孔率が高くなっていることがわかる。また、洗浄溶剤による溶解洗浄処理を行わずに、直接、超臨界二酸化炭素による洗浄処理を行った比較例4では、溶媒である流動パラフィンはほとんど除去されずに膜中に存在しており、そのため空孔率は測定できなかった。

Claims (5)

  1. 湿式製膜法による製膜後に炭化水素を含有する多孔質膜から、炭化水素を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法において、
    前記炭化水素を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
  2. ポリオレフィン系樹脂及び炭化水素を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、これを一軸方向以上に延伸する工程と、延伸物から炭化水素を除去する工程とを含む、湿式製膜法による多孔質膜の製造方法において、
    前記炭化水素を除去する工程は、炭化水素を洗浄溶剤にて溶解洗浄した後、残存する洗浄溶剤を液化ガス又は超臨界ガスで溶解置換してから、減圧して乾燥させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
  3. 前記洗浄溶剤が、有機系の溶剤から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
  4. 前記液化ガス又は超臨界ガスは、液化した二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法によって電池用セパレータを製造する電池用セパレータの製造方法。
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