発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明に係る作業車両の一実施の形態としての歩行型除雪機(以下、「除雪機」)1の全体構成について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本発明に係る作業車両としては除雪機に限定されるものではなく、例えば、トラクタや管理機やモア等の作業車両でもよい。
除雪機1は、除雪作業を行う作業部2と、除雪機1の各駆動部に動力供給を行う駆動部3と、除雪機1を走行させる左右一対の走行装置4と、除雪機1の運転操作が行われる運転操作部5とを備えており、これらが機体フレーム6に支持されている。そして、機体フレーム6内の後部には、駆動部3からの駆動力を前記走行装置4に伝達するトランスミッション30が収容されている。
作業部2は、機体フレーム6の前側に配設され、除雪機1の走行経路上に存在する雪を除去するものである。作業部2は、雪を掻き込むための掻込オーガ10、掻き込まれた雪を排出するためのブロア11、掻込オーガ10を包囲するとともにブロア11を収容するハウジング12、雪の排出管であるシュータ13等から構成されている。すなわち、除雪機1の機体前端に掻込オーガ10が配置され、ハウジング12内の後部にブロア11が配置されており、このハウジング12の上部にシュータ13が立設されている。
そして、作業部2においては、掻込オーガ10により除雪機1前方の雪が掻き込まれ、この雪がハウジング12内に搬送されるとともにブロア11によりシュータ13を通して跳ね飛ばされる。こうして除雪機1の走行経路上の雪が除去される。ここで、シュータ13は、ハウジング12に対して水平面上で旋回可能に構成され、その先端部は、上下回動可能に構成される。これにより、ブロア11よりシュータ13を介して跳ね飛ばされる雪の地面への落下位置を調節することができる構成となっている。なお、図示は省略するが、除雪機1においては、機体フレーム6に油圧シリンダ等の昇降装置が設けられており、この昇降装置が操作されることにより作業部2が昇降するように構成されている。
駆動部3は、機体フレーム6上に配設され防振装置などの支持装置14を介して載置されるエンジン15を有している。また、駆動部3においては、エンジン15の出力を利用して発電する発電機16と、この発電機16により発電される電力を充電するバッテリ17とが備えられる。なお、図2に示す発電機16及びバッテリ17は、機体フレーム6に固定される等して設けられる。
エンジン15は、除雪機1の駆動源であり、該エンジン15からの駆動力が、作業部2の掻込オーガ10及びブロア11に伝達されるとともに、走行装置4へと伝達される。また、エンジン15は発電機16を回転駆動して電力を発生させる。この発電機16で発電される電力は、トランスミッション30に備えられるモータ35(本実施形態においては左右の電動モータ35L・35R)に供給されるか、またはバッテリ17に充電される。すなわち、発電機16またはバッテリ17からの電力が、電動モータ35L・35Rのそれぞれの駆動回路(インバータ)36L・36Rに供給され、各電動モータ35L・35Rが回転数などを制御されながら駆動する。この電動モータ35L・35Rの制御は、前記駆動回路36L・36Rが接続される制御回路37が用いられることにより行われる。
エンジン15は、機体前方に突出する出力軸15aを有しており、この出力軸15aには、二連のエンジンプーリ43a・43bが前後に配置され設けられており、後側のエンジンプーリ43aが走行装置4への駆動力伝達に用いられ、前側のエンジンプーリ43bが作業部2への駆動力伝達に用いられる。
具体的には、機体フレーム6内においては、エンジン15からの駆動力をトランスミッション30へ伝達するための駆動力伝達軸28aが機体前後方向に架設されており、この駆動力伝達軸28aの前端に入力プーリ47aが設けられ、この入力プーリ47a及び前記エンジンプーリ43aにベルト48aが巻回される。一方、機体フレーム6内から作業部2のハウジング12内にかけては、エンジン15からの駆動力を作業部2のブロア11及び掻込オーガ10へ伝達するための駆動力伝達軸28bが機体前後方向に架設されており、この駆動力伝達軸28bの後端に入力プーリ47bが設けられ、この入力プーリ47b及び前記エンジンプーリ43bにベルト48bが巻回される。つまり、駆動力伝達軸28bは、その中途部に配置されるブロア11に駆動力を伝達するとともに、先端部にギヤボックス29が構成されており、このギヤボックス29において駆動力伝達軸28bの回転軸方向がベベルギヤ等により機体左右方向に変換され、掻込オーガ10が駆動される。
走行装置4は、左右一対のクローラ式走行装置4L・4Rにより構成されている。クローラ式走行装置4L・4Rは、それぞれ、後側に配置される駆動スプロケット18、前側に配置される従動スプロケット19及びこれらに巻回される無端ベルトであるクローラベルト20等から構成される。駆動スプロケット18は、トランスミッション30から機体左右側方に突出する、クローラ式走行装置4L・4Rの駆動軸である車軸21L・21Rの先端部(外側端部)にそれぞれ外嵌固定される。左右の車軸21L・21Rは、その軸線方向が機体左右方向となるように同一軸線上に配置される。また、従動スプロケット19は、機体フレーム6の前部にて回転可能に軸支される従動軸22に左右両側にて外嵌固定される。このような構成において、左側の車軸21Lの回転により左側のクローラ式走行装置4Lが駆動され、右側の車軸21Rの回転により右側のクローラ式走行装置4Rが駆動される。なお、本実施形態においては、左右一対の走行装置4をクローラ式の走行装置としているが、これに限定されずホイル式のものであってもよい。
運転操作部5は、機体フレーム6上の左右両側から上後方に延設される左右のハンドル23、該ハンドル23にそれぞれ設けられる旋回レバー24、機体フレーム6の後部において立設される操作部フレーム25に設けられる主変速レバー26、作業部2への駆動力の伝達の断接を行う作業部クラッチレバー27(図2参照)、前記昇降装置を操作し作業部2を昇降するための作業部昇降レバー(図示略)等を備えている。
作業者は、左右のハンドル23の先端部に設けられる把持部23aを持って除雪機1を操作する。ここで、作業者が左右のハンドル23に設けられる旋回レバー24を操作する(把持部23aとともに旋回レバー24を握る)ことにより、操作された旋回レバー24の側の駆動スプロケット18が減速して、その側に除雪機1が旋回する構成となっている。つまり、作業者は、左右のハンドル23の把持部23aを持って除雪機1を操作する際、左右の旋回レバー24を操作することによって除雪機1の旋回を行い、主変速レバー26を操作することによって除雪機1の走行速度を調節する。
具体的には、旋回レバー24は、前記制御回路37と接続されており、この制御回路37により旋回レバー24の操作量(回動角度)が検出され、これに基づき前記駆動回路36L・36Rを介して電動モータ35L・35Rが制御される。つまり、左右の電動モータ35L・35Rが差動されることにより除雪機1の旋回が行われる。また、主変速レバー26は、該主変速レバー26のレバー位置を検出するポテンショメータ26aを介して制御回路37に接続されている。つまり、主変速レバー26が操作されると、そのレバー位置がポテンショメータ26aにより検出され、制御回路37を介して、エンジン15から走行装置4に伝達される駆動力の変速が行われる。なお、左右の電動モータ35L・35Rは、この主変速操作にともなって(両旋回レバー24が操作されていない場合には同一速度(回転数)で)、走行装置4の駆動をアシストするものとしてもよい。一方、作業部クラッチレバー27は、エンジン15から作業部2への駆動力の入切を行う作業部クラッチ38と接続されており、作業部クラッチレバー27が操作されることにより、作業部2の駆動が操作される。なお、運転操作部5における各種レバーの構成や配置などは本実施形態に限定されるものではない。
続いて、トランスミッション30について、図3〜図6を加えて説明する。トランスミッション30は、駆動源であるエンジン15及び電動モータ35L・35Rからの駆動力を左右のクローラ式走行装置4L・4Rに伝達し、除雪機1を直進(前進・後進)または左右旋回させるものである。このとき、トランスミッション30は、左右の走行装置4の回転速度をそれぞれ調節し、除雪機1の直進及び滑らかな旋回を可能としている。
トランスミッション30は、ミッションケース31、油圧式無段変速装置(以下、「HST」(Hydro Static Transmission)という。)32、左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34、左右一対の電動モータ35L・35Rを具備している。すなわち、トランスミッション30は、ミッションケース31内に、左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34を具備し、エンジン15及び電動モータ35L・35Rからの駆動力を、差動機構34を経て、左右一対のクローラ式走行装置4L・4Rの駆動軸である各車軸21L・21Rへ伝達する。
ミッションケース31は、トランスミッション30の構成要素を収容してその内部への塵挨などの侵入を防止する筐体としての機能と、同じくその内部において構成要素を支持(軸支)する構造体としての機能を有する。なお、本実施形態におけるミッションケース31は、機体前後方向の半割りケースにより構成され、その割り面において前記車軸21L・21R等を支持する。
HST32は、エンジン15から伝達される駆動力を変速し、差動装置34へ伝達する無段変速装置である。このHST32は、センタセクション40、油圧ポンプ41、油圧モータ42等により構成されており、ミッションケース31内の上部において収容されている。すなわち、ミッションケース31内に収容されるセンタセクション40には、油圧ポンプ41及び油圧モータ42が付設される付設面がそれぞれ形成されており、これら付設面に油圧ポンプ41及び油圧モータ42がそれぞれ付設されて構成される。そして、センタセクション40には油路が形成されており、この油路を介して油圧ポンプ41と油圧モータ42とが流体的に接続されている。
油圧ポンプ41は、いわゆる可動斜板式のアキシャルピストンポンプであり、入力軸(ポンプ軸)41aと、この入力軸41aに相対回転不能に嵌設されるシリンダブロック41bと、このシリンダブロック41bに穿設される複数のシリンダ孔に気密的に付勢バネを介して摺接可能に収容される複数のピストン41cと、これらピストン41cを往復駆動させる斜板カムとして作用する可動斜板41dとを備えている。すなわち、前記センタセクション40の前面側に形成される付設面にシリンダブロック41bが付設され、このシリンダブロック41b内の複数のピストンが可動斜板41dに当接しながら回転することにより、センタセクション40内に形成される油路を介して圧油が油圧モータ42へ搬送される。可動斜板41dは、その板面の、入力軸41aの軸線方向に対する角度を変更可能に構成されている。そして、可動斜板41dの板面が入力軸41aの軸線方向に対して垂直であるときは、入力軸41aが回転駆動されても油圧モータ42に圧油が搬送されることがない中立状態であり、同じく可動斜板41dの板面が入力軸41aの軸線方向に対して垂直の状態から傾動することにより、入力軸41aの回転駆動に連動して油圧モータ42に圧油が搬送される。ここで、可動斜板41dの傾動角度が調節されることにより、入力軸41aが一回転する間に搬送される圧油の量が調節され、後述する油圧モータ42の出力軸42aの回転数及び回転方向が調節される。
また、油圧モータ42は、いわゆる固定斜板式のアキシャルピストンモータであり、出力軸(モータ軸)42aと、この出力軸42aに相対回転不能に嵌設されるシリンダブロック42bと、このシリンダブロック42bに穿設される複数のシリンダ孔に気密的に付勢バネを介して摺接可能に収容される複数のピストン42cと、油圧ポンプ41から搬送される圧油によるピストン42cの往復駆動力を出力軸42aの回転駆動力に変換する斜板カムとして作用する固定斜板42dとを備えている。すなわち、前記センタセクション40の側面側(本実施形態においては右側面側)に形成される付設面にシリンダブロック42bが付設され、このシリンダブロック42b内の複数のピストン42cが固定斜板42dに当接しながら回転することにより、出力軸42aが回転する。
前記油圧ポンプ41の入力軸41aが、エンジン15からの駆動力をトランスミッション30に入力するための入力軸となり、この入力軸41aは、ミッションケース31内から機体前方に向けて突出される。また、油圧モータ42の出力軸42aは、ミッションケース31内において機体左右方向を軸線方向とする。つまり、油圧ポンプ41は、その入力軸41aの軸線方向が機体前後方向となるように配置され、油圧モータ42は、その出力軸42aの軸線方向が機体左右方向となるように配置される。
また、前記油圧ポンプ41においては、可動斜板41dが傾動操作されるためのコントロール軸41eが、その上端部をミッションケース31外に突出した状態で該ミッションケース31に上下方向に軸支されている。このコントロール軸41eには、その上方突出部分にコントロールレバー41fが固設され、ミッションケース31内の下端部には揺動アーム41gが固設されている(図4参照)。この揺動アーム41gの一端部は、可動斜板41dから立設される枢支ピン41hに支持されている。このような構成において、コントロールレバー41fがコントロール軸41e回りに回動操作されることにより、コントロール軸41e回りに揺動アーム41gが回動し、可動斜板41dが傾動操作され、油圧ポンプ41の出力変更操作が行われる。つまり、コントロールレバー41fは、図示せぬリンクやワイヤ等を介して制御回路37に接続されており、該制御回路37と前記ポテンショメータ26aを介して接続される前記主変速レバー26が操作されることにより、HST32の出力、即ち油圧モータ42の出力軸42aの回転数及び回転方向が調節される。
なお、油圧モータ42の固定斜板42dを可動斜板として、該油圧モータ42を可変容積型にしてもよい。また、ミッションケース31内におけるHST32の配置位置や、油圧ポンプ41及び油圧モータ42の相対的な配置関係は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、油圧ポンプ41と油圧モータ42とが上下に配置される構成などでもよい。
差動機構34は、走行装置4における左右の車軸21L・21Rを差動的に連結し、これら車軸21L・21Rに、HST32を介して伝達されるエンジン15からの駆動力及び電動モータ35L・35Rからの駆動力を合成して伝達するものであり、前述したように左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有しており、ミッションケース31内の下部において配置構成される。なお、車軸21L・21R上の軸線方向内側とは、各車軸21L・21R上におけるミッションケース31内部側(左側の車軸21Lの右側、右側の車軸21Rの左側)を指し、車軸21L・21R上の軸線方向外側とは、各車軸21L・21R上における駆動スプロケット18側(左側の車軸21Lの左側、右側の車軸21Rの右側)を指すものとする。
各遊星歯車機構33L・33Rは、左右の車軸21L・21R間にて該車軸21L・21Rと同一軸線上に配置されるサンギヤ軸50に設けられるサンギヤ51と、各車軸21L・21R上に相対回転不能に軸支されるキャリア52L・52Rと、該キャリア52L・52Rからは独立して車軸21L・21R上に相対回転自在に軸支されるインターナルギヤ53L・53Rと、各キャリア52L・52Rに回動自在に軸支される複数のプラネタリギヤ54L・54Rとを有しており、これらプラネタリギヤ54L・54Rはそれぞれ、各車軸21L・21R上にてサンギヤ51に噛合し、かつインターナルギヤ53L・53Rに噛合する。
すなわち、サンギヤ軸50は、左右の遊星歯車機構33L・33Rの回転中心となるサンギヤ51を構成するものであり、各遊星歯車機構33L・33R間に架設されるとともに、左右の車軸21L・21Rと同一軸線上に配置され回動自在に支持される。そして、サンギヤ51は、サンギヤ軸50に一体的に刻設される。ただし、サンギヤ51は、サンギヤ軸50に一体的に刻設される構成ではなく、各遊星歯車機構33L・33Rにおいてプラネタリギヤ54L・54Rと噛合するようにサンギヤ軸50の両端部に固設される別体の構成であってもよい。また、サンギヤ軸50の中間部には、該サンギヤ軸50の入力ギヤであるセンターギヤ44が、スプライン嵌合されること等により相対回転不能に軸支される。なお、サンギヤ軸50の支持構成及びセンターギヤ44の配置構成については後述する。
また、キャリア52L・52Rは、略円環板状に形成される部材であり、左右の車軸21L・21R上のそれぞれの軸線方向内側端部、即ち左側の車軸21Lの右側端部、右側の車軸21Rの左側端部にそれぞれスプライン嵌合されることにより車軸21L・21Rに対して相対回転不能に軸支され、車軸21L・21Rと一体的に回転する。
また、インターナルギヤ53L・53Rは、車軸21L・21R上の軸線方向における前記キャリア52L・52Rの外側、即ち左側の車軸21Lにおいてはキャリア52Lの左側、右側の車軸21Rにおいてはキャリア52Rの右側にそれぞれ設けられ、車軸21L・21Rに対して軸受55を介して相対回転自在に軸支される。インターナルギヤ53L・53Rは、その内周側にギヤ部53aを有しており、外周側には後述するアウターギヤ75L・75Rが形成されている。すなわち、インターナルギヤ53L・53Rは、略円環板状に形成され略鉛直に配置される鉛直板部53cと、該鉛直板部53cから左右方向内側に延出される略水平筒状の側部53dとから略有底筒状に形成され、鉛直板部53cの内周側にて軸受55を介してインターナルギヤ53L・53Rが車軸21L・21Rに相対回転自在に軸支され、この鉛直板部53cの外周面にアウターギヤ75L・75Rが形成される。また、側部53dの筒状の内部に前記キャリア52L・52Rが収納されるとともに、この側部53dの内周側にインターナルギヤ53L・53Rのギヤ部53aが形成される。
また、プラネタリギヤ54L・54Rは、各遊星歯車機構33L・33Rにおいて車軸21L・21Rの軸線に対して放射状に等間隔に複数(図3等においては一つのみ図示)配置され、略円環板状のキャリア52L・52Rから、軸線方向を車軸21L・21Rと同じくし該軸線方向において内側(左側の遊星歯車機構33Lにおいては右側、右側の遊星歯車機構33Rにおいては左側)に向けて突出する回転軸59L・59Rを介してキャリア52L・52Rに対して回転自在に軸支される。そして、プラネタリギヤ54L・54Rは、前記サンギヤ51及びインターナルギヤ53L・53Rのギヤ部53aにそれぞれ噛合する。すなわち、インターナルギヤ53L・53Rの側部53dは、その先端部が、車軸21L・21Rと同一軸線上に配置されるサンギヤ軸50の端部と該軸線方向において一部重なる位置まで延設されてこの重なる位置にギヤ部53aが形成され、このギヤ部53a及びサンギヤ軸50両端部におけるサンギヤ51それぞれに、プラネタリギヤ54L・54Rが噛合する。また、プラネタリギヤ54L・54Rの車軸21L・21R上の軸線方向内側には、該車軸21L・21Rに固定される円盤状の留め板54aがそれぞれ設けられており、この留め板54aによりプラネタリギヤ54L・54Rが位置決めされている。
そして、各遊星歯車機構33L・33Rにおいてインターナルギヤ53L・53Rの外周側に形成されるアウターギヤ75L・75Rには、電動モータ35L・35Rからの駆動力が伝達されるウォームギヤ60L・60Rがそれぞれ噛合している。つまり、各遊星歯車機構33L・33Rを構成するインターナルギヤ53L・53Rに設けられるアウターギヤ75L・75Rは、それぞれウォーム軸64L・64Rを回動軸として回動するウォームギヤ60L・60Rに対応するウォームホイルとなり、ウォームギヤ60L・60Rの回転軸線方向を略直角方向に変換して出力する。前記ウォーム軸64L・64Rは、機体前後方向を軸線方向とし、ミッションケース31内において前後方向に架設され、その両端部が軸受などを介して回動自在に支持される(図4参照)。なお、電動モータ35L・35Rからの駆動力の伝達については後述する。
このように構成される遊星歯車機構33L・33Rにおいては、インターナルギヤ53L・53Rがキャリア52L・52Rから独立して車軸21L・21Rに軸支されるので、キャリア52L・52Rにインターナルギヤ53L・53Rからのラジアル荷重(車軸21L・21Rの軸線方向に対して垂直方向にかかる荷重)が直接的にかかることがなくなり、キャリア52L・52Rが車軸21L・21R上で傾くことによるインターナルギヤ53L・53Rの傾きが発生しなくなる。これにより、遊星歯車機構33L・33Rにおけるギヤ同士の良好な噛合状態を保つことができ、ギヤ摩耗やギヤ鳴りの発生が抑制されギヤの寿命を向上することができる。
また、キャリア52L・52Rについては、車軸21L・21Rにスプライン嵌合により相対回転不能に軸支されるので、該キャリア52L・52Rに回転自在に軸支されるプラネタリギヤ54L・54Rによる調心作用(軸心を調整する作用)がはたらくこととなる。このことからも、遊星歯車機構33L・33Rにおけるギヤ同士の良好な噛合状態を保つことができる。
次に、サンギヤ軸50の支持構成及びセンターギヤ44の配置構成について図6を用いて説明する。サンギヤ軸50は、その軸線方向の両遊星歯車機構33L・33R間の中途部にて、ミッションケース31に形成される軸受支持部56により回転自在に支持される。軸受支持部56は、ミッションケース31内において該ミッションケース31と一体に形成される支持壁31aと、該支持壁31aに嵌設される軸受57とから構成される。そして、左右の遊星歯車機構33L・33R間に架設されるサンギヤ軸50が、その中間部(軸線方向中途部)において前記軸受支持部56により回転自在に支持される。すなわち、サンギヤ軸50は、ミッションケース31に形成される支持壁31aに、軸受57を介して回転自在に支持される。機体前後方向の半割りケースにより構成される本実施形態のミッションケース31においては、各ケースが接合された状態で支持壁31aが一体的に形成されることとなる。
このようにして支持されるサンギヤ軸50については、その両端部に特に支持構造を設けることなく十分な位置決めがなされる。すなわち、サンギヤ軸50に対しては、該サンギヤ軸50に刻設されるサンギヤ51に噛合しサンギヤ軸50周りを自転しながら公転するプラネタリギヤ54L・54Rにより調心作用が得られることから、サンギヤ軸50の軸心位置が自動的に位置決めされる。
また、サンギヤ軸50の入力ギヤであるセンターギヤ44は、前述したように、サンギヤ軸50の中間部においてスプライン嵌合などにより相対回転不能に軸支されるが、このセンターギヤ44は、前記軸受支持部56に対して隣接配置される。本実施形態においては、センターギヤ44は軸受支持部56の右側に隣接配置され、センターギヤ44の左側面が軸受支持部56の軸受57に略接する状態となっている。そして、センターギヤ44の右側面は、サンギヤ軸50に固設される留め具58により固定されている。つまり、センターギヤ44は、サンギヤ軸50の軸線方向一側(左側)が軸受支持部56に略接した状態で、同じく軸線方向他側(右側)にて留め具58により固定され位置決めされる。なお、本実施形態においては、軸受支持部56の右側にセンターギヤ44が配置される構成となっているが、センターギヤ44は軸受支持部56の左側に配置されてもよく、センターギヤ44と軸受支持部56との相対的な位置関係は本実施形態に限定されるものではない。ここで、サンギヤ軸50の軸心位置の位置決めが良好に行われるためには、サンギヤ軸50の略中央部が軸受支持部56により支持されることが好ましい。
このような構成においては、左右一対に略対称に構成される遊星歯車機構33L・33Rに対して、サンギヤ軸50の支持位置及びセンターギヤ44の配置位置を左右非対称な位置とすることができる。すなわち、従来の構成においては、左右一対に略対称に構成される遊星歯車機構33L・33Rに対して、略左右対称となっていたサンギヤ軸50の支持位置(サンギヤ軸50の両端部位置)及びセンターギヤ44の支持位置(サンギヤ軸50の略中央位置)を、略左右対称となる位置に規制されることなく配置することができる。
このように、サンギヤ軸50をその中間部にてミッションケース31に形成される軸受支持部56により支持するとともに、センターギヤ44を軸受支持部56に隣接配置することにより、サンギヤ軸50の軸受支持部56が、左右の遊星歯車機構33L・33Rに設けられることなく、ミッションケース31に形成されるので、各遊星歯車機構33L・33Rにサンギヤ軸50にかかる荷重が直接伝わることがなく、該サンギヤ軸50の両端に荷重を均等にかける必要がなくなる。従って、前記軸受支持部56を設ける位置、即ちサンギヤ軸50の支持位置が、サンギヤ軸50の軸心位置の位置決めが良好に行われる範囲内で変更可能となり、これにともない、軸受支持部56に隣接配置されるセンターギヤ44のレイアウトの自由度が向上する。これにより、センターギヤ44に噛合するギヤや該ギヤを軸支する伝達軸などのレイアウトの自由度も向上することができる。つまり、ミッションケース31内におけるギヤや軸などのレイアウトの自由度を向上することができる。
また、サンギヤ軸50は、その軸線方向の両遊星歯車機構33L・33R間の中途部の軸受支持部56で軸支されるものであって、その両端部がキャリア52L・52Rや車軸21L・21Rに軸支されないので、ある程度、左右の遊星歯車機構33L・33Rのプラネタリギヤ54L・54Rによる調心作用により、自由に揺動して、その軸心位置が自動的に車軸21L・21Rの軸心の動きに追従するので、遊星歯車機構33L・33Rにおけるギヤ同士の噛合状態を良好に保つことができる。すなわち、除雪機1が走行する地面の凹凸等により車軸21L・21Rにラジアル荷重がかかった場合に、車軸21L・21Rはサンギヤ軸50から自由に該ラジアル荷重による揺動が可能である一方、サンギヤ軸50の両端部も、前述の如きプラネタリギヤ54L・54Rによる調心作用に抗することなく円滑に車軸21L・21Rの軸心の動きに追従して揺動する。従って、サンギヤ軸50の両端部が、車軸21L・21Rに固設されるキャリア52L・52Rに軸支される場合に生じるプラネタリギヤ54L・54R等における、ギヤ摩耗やギヤ鳴りの発生が抑制されギヤの寿命を維持または向上することができる。
また、前述のサンギヤ軸50の軸受支持部56は、ミッションケース31に形成されているので、車軸21L・21R、差動機構34、サンギヤ軸50、センターギヤ44等にかかる様々な荷重にかかわらず、サンギヤ軸50を安定して位置固定することができる。
そして、センターギヤ44がサンギヤ軸50の軸受支持部56に対して隣接配置されることから、センターギヤ44にかかる軸受支持部56側へのアキシャル荷重(サンギヤ軸50の軸線方向に対して平行方向にかかる荷重)を、軸受支持部56によって受けることができ、また、軸受支持部56と反対側へのアキシャル荷重は、留め具58によって受けることができるので、センターギヤ44がアキシャル荷重によってずれることがなく、センターギヤ44の確実な位置決めを行うことができる。これにより、センターギヤ44と該センターギヤ44に噛合するギヤとの噛合状態を良好に保つことができる。
このように、軸受支持部56を複数箇所設け、サンギヤ軸50を複数箇所で支持する構成とすることにより、サンギヤ軸50を確実に支持することができ、サンギヤ軸50の軸心位置の位置決めを確実に行うことができる。
このような構成のトランスミッション30において、エンジン15からの駆動力の伝達について図3乃至図5等により説明する。前述したように、エンジン15からの駆動力は、出力軸15aに設けられるエンジンプーリ43a等を介して駆動力伝達軸28aに伝達される。この駆動力伝達軸28aは後方に向けて延設され、図4に示す如く、ジョイント69を介してミッションケース31から前方に向けて突出するHST32の油圧ポンプ41の入力軸41aと連結されており、駆動力伝達軸28aの駆動力が、この入力軸41aに伝達される。
前記入力軸41aを介してHST32に入力される駆動力は、該HST32により変速され、油圧モータ42の出力軸42aに伝達される。この出力軸42aには、図3、図5に示す如く、出力ギヤ49が固設されるとともに、出力軸42aを制動するためのブレーキ46を構成するブレーキ板46aが外嵌固定されている。すなわち、ブレーキ46は、出力軸42aに固定されるブレーキ板46aと、該ブレーキ板46aを挟み込んで摩擦力によりその回転を止めるブレーキパッド46bと、該ブレーキパッド46bを移動させブレーキ板46aを加圧させるためのブレーキカム46cとを備えている。そして、このブレーキ46のブレーキカム46cは、図示せぬリンクやワイヤ等を介して制御回路37と接続されており、運転操作部5に設けられるレバーやスイッチ等の操作具により操作可能に構成される。
また、ミッションケース31内におけるHST32と差動機構34との間には、伝達軸61が、その軸線方向が機体左右方向となるように軸支されている。この伝達軸61には、油圧モータ42の出力軸42aに固定される出力ギヤ49と噛合する伝達ギヤ62及びサンギヤ軸50の入力ギヤであるセンターギヤ44と噛合する伝達ギヤ63がそれぞれ固設されている。
このような構成において、エンジン15からの駆動力は、出力軸15a→エンジンプーリ43a→ベルト48a→入力プーリ47a→駆動力伝達軸28a→入力軸41aを経てHST32に伝達される。このHST32に伝達された駆動力は、HST32にて変速された後、出力軸42a→出力ギヤ49→伝達ギヤ62→伝達軸61→伝達ギヤ63→センターギヤ44→サンギヤ軸50を経て差動機構34の左右の遊星歯車機構33L・33Rのサンギヤ51に伝達される。
左側の遊星歯車機構33Lに伝達された駆動力は、サンギヤ軸50→サンギヤ51→プラネタリギヤ54L→回転軸59L→キャリア52L→車軸21Lを経て、クローラ式走行装置4Lの駆動スプロケット18に伝達される。一方、右側の遊星歯車機構33Rに伝達された駆動力は、サンギヤ軸50→サンギヤ51→プラネタリギヤ54R→回転軸59R→キャリア52R→車軸21Rを経て、クローラ式走行装置4Rの駆動スプロケット18に伝達される。このようにして、エンジン15からの駆動力は、左右一対の車軸21L・21Rに伝達され、左右のクローラ式走行装置4L・4Rが回転駆動される。
続いて、トランスミッション30に具備されるモータ35について説明する。前述したように、本実施形態においてはトランスミッション30に具備されるモータ35を左右一対の電動モータ35L・35Rとしており、これら電動モータ35L・35Rは、トランスミッション30に駆動力を伝達するものであり、ミッションケース31に付設される。すなわち、一対の電動モータ35L・35Rからの駆動力は、遊星歯車機構33L・33Rに設けられるウォームホイルとしてのアウターギヤ75L・75Rに噛合するウォームギヤ60L・60Rを介することにより、電動モータ35Lまたは35Rに対応する側の遊星歯車機構33Lまたは33Rを経て、この遊星歯車機構33Lまたは33Rに対応する側のクローラ式走行装置4Lまたは4Rの車軸21Lまたは21Rに伝達される。
以下、前記電動モータ35L・35Rからの駆動力の伝達について図3乃至図6等により説明する。電動モータ35L・35Rからの駆動力は、前述の如く、ウォームホイルとしてのアウターギヤ75L・75Rに噛合するウォームギヤ60L・60Rを介して差動機構34の左右の遊星歯車機構33L・33Rに伝達されるのであるが、この際、各電動モータ35L・35Rのモータ軸45L・45Rとウォームギヤ60L・60Rのウォーム軸64L・64Rとの間にそれぞれ減速ギヤ65L・65Rが介在しており、電動モータ35L・35Rの駆動力は、この減速ギヤ65L・65Rを介してウォームギヤ60L・60Rへ伝達される。
具体的には、図4に示すように、ミッションケース31の後側には、該ミッションケース31から突出して形成される収納部31c及びこの収納部31cを覆う蓋体66aによりギヤケース66が構成されており、このギヤケース66に前記減速ギヤ65L・65Rが収容される。そして、このギヤケース66の蓋体66aに電動モータ35L・35R取り付けられることにより、電動モータ35L・35Rがミッションケース31に付設される。
減速ギヤ65L・65Rは、モータ軸45L・45Rにそれぞれ固設される出力ギヤ67L・67Rと、該出力ギヤ67L・67Rそれぞれに噛合する、前記ウォーム軸64L・64Rに固設される入力ギヤ68L・68Rとにより構成される。すなわち、図4に示すように、電動モータ35L・35Rのモータ軸45L・45Rはギヤケース66内に前方に向けて挿入され、ウォームギヤ60L・60Rのウォーム軸64L・64Rはミッションケース31内から後方に向けて延設されギヤケース66内に挿入される。そして、これらモータ軸45L・45R及びウォーム軸64L・64Rにそれぞれ固設される出力ギヤ67L・67Rと入力ギヤ68L・68Rとがギヤケース66内にて噛合し、減速ギヤ65L・65Rが構成される。なお、本実施形態においては、減速ギヤ65L・65Rはモータ軸45L・45Rの出力ギヤ67L・67Rと、ウォーム軸64L・64Rの入力ギヤ68L・68Rとによる一段減速構成となっているが、出力ギヤ67L・67Rと入力ギヤ68L・68Rとの間に、ギヤケース66内に軸支される他のギヤを介装して複数段に減速させる構成とすることもできる。
このような構成において、左側に配置される電動モータ35Lからの駆動力は、モータ軸45L→出力ギヤ67L→入力ギヤ68L→ウォーム軸64L→ウォームギヤ60L→アウターギヤ75L→インターナルギヤ53L→プラネタリギヤ54L→回転軸59L→キャリア52L→車軸21Lを経て、左側のクローラ式走行装置4Lの駆動スプロケット18に伝達される。一方、右側に配置される電動モータ35Rからの駆動力は、モータ軸45R→出力ギヤ67R→入力ギヤ68R→ウォーム軸64R→ウォームギヤ60R→アウターギヤ75R→インターナルギヤ53R→プラネタリギヤ54R→回転軸59R→キャリア52R→車軸21Rを経て、右側のクローラ式走行装置4Rの駆動スプロケット18に伝達される。
このようにして、左右の電動モータ35L・35Rからの駆動力は、対応する車軸21L・21Rに伝達され、左右のクローラ式走行装置4L・4Rが回転駆動する。そして、左側の電動モータ35L及び右側の電動モータ35Rの回転速度に応じて対応するクローラ式走行装置4L・4Rの走行速度が滑らかに変化し、左右のクローラ式走行装置4L・4R間で走行速度差が生じることにより、除雪機1が滑らかに旋回することができる。
このように、電動モータ35L・35Rのモータ軸45L・45Rとウォーム軸64L・64Rとの間に減速ギヤ65L・65Rを介在させることにより、モータ軸45L・45Rとウォーム軸64L・64Rとの間に減速比が得られるので、モータ軸45L・45Rからウォーム軸64L・64Rに伝達されるトルクが増大する。つまり、電動モータ35L・35Rを小型化することによっても必要なトルクを得ることができる。このように電動モータ35L・35Rの小型化が図れることにより、除雪機1における軽量化や省スペース化を図ることができる。
そして、本実施形態におけるトランスミッション30は、エンジン15からの駆動力を、ミッションケース31内から機体前方に向けて突出する入力軸41aを介してミッションケース31内へ伝達するとともに、各電動モータ35L・35Rを、それぞれのモータ軸45L・45Rが前記減速ギヤ65L・65Rを収容するギヤケース66内に機体前方へ向けて突出するようにミッションケース31の後側に配置している。すなわち、電動モータ35L・35Rは、ミッションケース31の後側にて、左右に略同じ高さに配置され、左側に配置される電動モータ35Lのモータ軸45L及び右側に配置される電動モータ35Rのモータ軸45Rが、それぞれ機体前方に向けて前記ギヤケース66内に突出するように配置される。
このように、左右の電動モータ35L・35Rをミッションケース31の後側に配置することにより、機体フレーム6内の後部に配置されるトランスミッション30において、ミッションケース31から後方に突出した状態で電動モータ35L・35Rが配置されることとなるので、除雪機1の機体後方及び側方から容易に電動モータ35L・35Rのメンテナンスを行うこと可能となる。つまり、電動モータ35L・35Rが、機体フレーム6内の中央部側に位置したり側面視において左右のクローラ式走行装置4L・4Rの内側に位置したりすることがなくなり、電動モータ35L・35Rのメンテナンス性の向上が図れる。
また、前述の如く減速ギヤ65L・65Rを介在させるとともに、電動モータ35L・35Rが、ミッションケース31においてトランスミッション30の入力プーリであるHST32の油圧ポンプ41の入力プーリ47aと反対側の面に配置されることとなるので、電動モータ35L・35Rの配置位置がミッションケース31内の遊星歯車機構33L・33Rの配設位置や入力プーリ47aの配置位置に拘束されることがなくなり、電動モータ35L・35Rのレイアウトの自由度が高まる。
このことから、ウォーム軸64L・64Rに対するモータ軸45L・45Rの位置を高くすることができるので、ミッションケース31の後側に配設される電動モータ35L・35Rの取り付け位置を高くすることができる。これにより、電動モータ35L・35Rの地上高を高くすることができるので、電動モータ35L・35Rの地上に存在する障害物との接触や除雪機1の走行によってクローラ式走行装置4L・4Rにより跳ね上げられる泥などによる汚れを防止することができる。
以上のように構成されるトランスミッション30は、前述したように、電動モータ35L・35Rを具備するとともに、ミッションケース31内に、エンジン15からの駆動力が伝達されるHST32と、該HST32から出力される駆動力及び電動モータ35L・35Rから伝達される駆動力を合成して左右の車軸21L・21Rへ伝達する左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34とを収容している。具体的には、図3に示すように、ミッションケース31内における上部空間にHST32が収容され、該HST32からの駆動力を伝達する伝達軸61やギヤ類などを介して、ミッションケース31内における下部空間に左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34が収容されている。
このようなミッションケース31内には、図3に示すように、該ミッションケース31内にてHST32を収容する空間を液密的に区画するとともに、該HST32の油圧モータ42の出力軸42aを回動自在に貫通支持する隔壁70が設けられている。
前記隔壁70は、ミッションケース31と一体成形されることにより設けられ、ミッションケース31内においてHST32を収容する空間を区画することにより、ミッションケース31内を、HST32が収容されるHST室71と、HST32からの駆動力を左右の車軸21L・21Rに伝達する伝達機構や一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34等を収容するギヤ室72とに隔てる。以下、隔壁70から突出する出力軸42aを含み、ギヤ室72内に収容されるHST32からの駆動力及び電動モータ35L・35Rからの駆動力を車軸21L・21Rへ伝達する伝達軸61やギヤ類や差動機構34等から構成される伝達機構を、「車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構」という。
前記隔壁70には、HST32を構成する油圧モータ42の出力軸42aを貫通させるとともに回動自在に支持する貫通支持部70aが形成されており、この貫通支持部70aを介して前記出力軸42aがHST室71からギヤ室72へと突出される。つまり、出力軸42aのギヤ室72内へ突出する部分に前記出力ギヤ49が設けられ、HST32から車軸21L・21Rへの駆動力の伝達が確保されている。ここで、貫通支持部70aにおいては、隔壁70と油圧モータ42の出力軸部との間にはオイルシール73が介装されており、HST室71とギヤ室72との間が液密的に区画されている。
このように、隔壁70は、HST32からの駆動力の伝達を確保するとともに、HST室71とギヤ室72とを液密的に区画する。これにより、HST室71及びギヤ室72にはそれぞれ油液が充填または貯溜される。すなわち、HST室71内には油液が充填されるとともに、該HST室71内はミッションケース31の上部に設けられる連通口31dを介してオイルタンク74(図5参照)と連通しており、該オイルタンク74内からの油液の補給によりHST室71内は常に油液が充填された状態となる。一方、ギヤ室72内には、油液が貯溜されており、ギヤ室72内における上方のギヤ等には伝達軸61に設けられる伝達ギヤ62・63による潤滑油のはねかけによる潤滑(飛沫式)が行われる。これらHST室71及びギヤ室72で用いられる油液は、隔壁70が設けられることにより各室間での往来が規制されることとなる。なお、本実施形態において隔壁70は、ミッションケース31と一体成形することにより設けられているが、ミッションケース31とは別体として設けることもできる。
このように、ミッションケース31内に隔壁70を設けることにより、HST室71とギヤ室72とでそれぞれ別の油液を用いることができる。つまり、HST室71にはHST32の作動油として適した油液を充填し、ギヤ室72には車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構の潤滑油として適した油液を貯溜することが可能となる。これにより、HST32に給排される油液として専用の作動油を用いることができるので、HST32の動作性の向上が図れるとともに油液の寿命を延ばすことができ、メンテナンス性の向上を図ることができる。これとともに、車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構には、潤滑性能が良い油液を潤滑油として用いることができるので、動力伝達効率の向上が図れ、燃費の向上を図ることができる。
また、ミッションケース31内を隔壁70によって区画することにより、車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構が収容される空間内の油量を減らすことができるので、この車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構における潤滑油の攪拌抵抗を低減することができる。このことからも、車軸21L・21Rへの駆動力伝達機構における駆動力伝達効率が向上し、燃費の向上を図ることができる。
特に、本構成のように、ミッションケース31内に左右一対の遊星歯車機構33L・33Rを有する差動機構34を収容するトランスミッション30においては、ミッションケース31内の容積が大きくなり充填される油量も多くなるが、前述のように隔壁70を設けることにより、左右一対の遊星歯車機構33L・33R間における潤滑油のつれ回り等による攪拌抵抗を低減することができるので、潤滑油のつれ回りが顕著となる除雪機1の高速走行時などにおいても、動力伝達効率の低下を招くことなく、燃費の悪化を防止することができる。
具体的に、HST室71内に充填される作動油としては、ピストン等の良好な動作応答性が得られることから比較的粘度の低い油液が用いられることが好ましく、例えばATF(オートマチックトランスミッションフルード)等が用いられる。また、ギヤ室72内に充填される潤滑油としては、比較的粘度が高く、油膜の厚い油液が用いられることが好ましく、例えばギヤオイル等が用いられる。
また、本構成のように、トランスミッション30に具備されるモータ35を電動モータ35L・35Rとし、これら電動モータ35L・35Rをミッションケース31の外側に付設する構成とすることにより、トランスミッション30に具備されるモータ35を油圧モータ等としてミッションケース31内に収容する構成の場合と比較して、ミッションケース31外から容易にモータ35のメンテナンスを行うことができる。