JP4639522B2 - 電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乗用車ステアリング系等に適用され、ドライバーによりハンドルに加えられた操舵トルクをモータトルクによりアシストする電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動パワーステアリングの操舵トルクをアシストするモータや、操舵トルクを制御するコントローラは、許容モータ電流を連続して通電すると過熱し、そのために発熱する問題がある。
【0003】
これに対し、例えば、特開2000−255443号公報には、電動サーボステアリング出力段の過熱を防止して電動サーボステアリングの安全性及び快適さを高め、同時に快適な操舵支援を実行することを目的とし、車両の電動サーボステアリングの出力段において、該出力段の温度に影響を与える1又は2以上の車両状況及び周囲状況が危険値を超えたか否かを認識し、前記危険値を超えたと判断された場合に、前記出力段の最大損失出力を低減する装置が記載されている。すなわち、出力段が高温になると、その温度に応じて最大電流の許容値を小さくすることで過熱を防止する技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の電動サーボステアリングの出力段過熱防止技術にあっては、出力段温度をパラメータとし、出力段温度が高温になるほど許容モータ電流を低減するものであるため、車庫入れ等でハンドルを何度も据え切りするような場合、過熱防止対策の効果を生じない結果となってしまう。
【0005】
すなわち、ハンドルを据え切りする場合、ハンドルロック(フル転舵)手前では、車輪を転舵するリンクのリンク効率が悪化するため、特にパワーステアリングのアシストトルク(操舵トルクをアシストするトルク)を多く必要であり、そのためよりモータ電流を多く流すことが要求されるが、上記のように、出力段温度をパラメータとする制御で過熱を防止しているため、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなり、運転者はそのハンドル操作位置をハンドルロック位置であると勘違いする。そのため、車庫入れ等で切り返しを行う場合には、運転者は上記の勘違いにより車両の回転半径が最小回転半径より大きくなっていることに気付かず、何度も何度も切り返しを行う状況に陥ってしまう。ハンドルの切り返し回数の増加によって、過熱を誘発するので、結局、過熱防止対策の効果を生じない結果となってしまう。更に、ハンドル切り返し回数の増加によって車庫入れに多大な無駄時間を費やすことにもなる。
【0006】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、ハンドル操舵速度等が比較的に遅いハンドル据え切り時において、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなることが無くなり、ハンドルの切り返し回数の増加を防ぐことができる電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、操舵系に連結され、操舵補助トルクを発生するモータと、運転者の操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、操舵トルク検出値と車速検出値を含む入力情報によってハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流を演算する要求モータ電流演算手段と、許容モータ電流を設定する許容モータ電流設定手段と、前記要求モータ電流と前記許容モータ電流のうち小さい値を選択し、選択した値をモータ電流の指令値とするモータ電流演算手段と、を備えた電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置において、
ハンドル操舵速度またはモータ回転速度または車輪操舵速度のうち、少なくともいずれか一つの操舵系速度を検出する操舵系速度検出手段と、前記モータを駆動制御するモータ制御系の温度を検出するモータ制御系温度検出手段と、を設け、前記許容モータ電流設定手段は、前記操舵系速度が設定速度以下で遅いときは一定の限界モータ電流を前記許容モータ電流とし、前記操舵系速度が前記設定速度を超えて速くなるほど前記限界モータ電流から減少するように前記許容モータ電流を設定すると共に、前記モータ制御系温度が高いほど前記設定速度を遅い側にスライドさせ、前記操舵系速度が前記設定速度を超えて速い領域では前記モータ制御系温度が高いほど前記許容モータ電流が減少するように設定する手段であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置において、前記モータは、電界効果トランジスタを用いたブリッジ回路によるモータ駆動回路を有する直流ブラシモータであり、前記モータ制御系温度検出手段は、前記モータ駆動回路の前記電界効果トランジスタの温度を検出するFET温度センサであることを特徴とする。
【0011】
【発明の作用および効果】
請求項1に係る発明にあっては、要求モータ電流演算手段において、操舵トルク検出手段からの操舵トルク検出値と車速検出手段からの車速検出値を含む入力情報によってハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流が演算され、許容モータ電流設定手段において、許容モータ電流が設定される。そして、モータ電流演算手段において、要求モータ電流と許容モータ電流のうち小さい値が選択され、選択した値がモータ電流の指令値とされる。このモータ制御では、操舵系速度検出手段において、ハンドル操舵速度またはモータ回転速度または車輪操舵速度のうち、少なくともいずれか一つの操舵系速度が検出され、許容モータ電流設定手段において、検出される操舵系速度が設定速度以下で遅いときは一定の限界モータ電流が許容モータ電流となり、操舵系速度が設定速度を超えて速くなるほど限界モータ電流から減少する許容モータ電流となるように設定される。すなわち、電動パワーステアリングの部品の中で、耐熱性が最も低い部品が発する熱が、ハンドル操舵速度(またはモータ回転速度、または車輪操舵速度)とモータへの出力電流に起因することに着目し、検出される操舵系速度が速くなるほど許容できるモータへの出力電流の許容最大値が減少する、言い換えると、検出される操舵系速度が遅くなるほど許容できるモータへの出力電流の許容最大値が増加するようにしてモータへの出力電流の最大値である許容モータ電流が設定される。よって、ハンドル操舵速度等の操舵系速度が比較的に遅いハンドル据え切り時においては、許容モータ電流が高い電流値に設定されることになり、許容モータ電流が低い電流値に設定される場合のような、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなることが無くなり、ハンドルの切り返し回数の増加を防ぐことができる。この結果、ハンドルの切り返し回数の増加によって過熱を誘発することが無く、モータ制御系の有効な過熱防止対策となり得ると共に、ハンドルの切り返し回数の増加によって車庫入れ等で多大な無駄時間を費やすことも解消される。
【0012】
また、モータ制御系温度検出手段において、モータを駆動制御するモータ制御系の温度が検出され、許容モータ電流設定手段において、モータ制御系温度が高いほど設定速度を遅い側にスライドさせ、操舵系速度が設定速度を超えて速い領域ではモータ制御系温度が高いほど減少する許容モータ電流となるように設定される。すなわち、例えば、ハンドルの切り返しが数回行われていることで、モータ制御系温度が既に高温となっている場合には、さらなる温度上昇を抑えるには、モータへの出力電流を低減する必要がある。よって、モータ制御系温度と操舵系速度とをパラメータとし、許容モータ電流を設定することで、モータ制御系の過熱を確実に防止することができる。
【0013】
また、許容モータ電流設定手段において、操舵系速度が設定速度以下で遅いときは一定の限界モータ電流を許容モータ電流とし、モータ制御系温度が高いほど設定速度を遅い側にスライドさせる。すなわち、モータ制御系温度が高温である場合にも、操舵系速度が遅い領域では、高い許容モータ電流に設定されることになる。よって、操舵系速度が比較的に遅いハンドル据え切り時においては、モータ制御系温度が高温であっても許容モータ電流が高い電流値に設定されるため、ハンドルの据え切り等により既にモータ制御系温度が高温となっても、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなることが無く、モータ制御系の過熱を誘発するモータ制御系温度が高温となった後のハンドルの切り返し回数の増加を防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明にあっては、モータが、電界効果トランジスタを用いたブリッジ回路によるモータ駆動回路を有する直流ブラシモータとされ、モータ制御系温度検出手段は、モータ駆動回路の電界効果トランジスタの温度を検出するFET温度センサとされる。すなわち、モータとして直流ブラシモータを採用したシステムでは、モータ駆動回路の電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)が最も耐熱性の低い部品、言い換えると、一番熱に弱い部品である。よって、FET温度と操舵系速度とをパラメータとし、許容モータ電流を設定することで、直流ブラシモータシステムの中で最も熱に弱い部品である電界効果トランジスタの過熱を防止することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置を実現する実施の形態を、請求項1,2に対応する第1実施例に基づいて説明する。
【0016】
(第1実施例)
図1は第1実施例の電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置を示す全体システム図である。
図1において、1はハンドル、2は操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)、3は減速機、4はラック&ピニオンステアリング機構、5は直流ブラシモータ(モータ)、6はFET温度センサ(モータ制御系温度検出手段)、7はコントロールユニット、8はステアリングシャフト、9は車速センサ(車速検出手段)、10は舵角センサ、11,11は操舵輪、12はバッテリである。
【0017】
前記コントロールユニット7には、操舵トルクセンサ2とFET温度センサ6と車速センサ9と舵角センサ10からセンサ信号が送られる。これらのセンサ信号に基づいてモータ電流IMが演算され、直流ブラシモータ5に対してモータ電流IMを出力することで直流ブラシモータ5が駆動される。このモータ駆動力は、減速機3を介してラック&ピニオンステアリング機構4に伝えられ、運転者のハンドル1に対する操舵トルクをアシストするように構成されている。
【0018】
図2は第1実施例のコントロールユニット7におけるモータ制御内容を表す制御ブロック図である。
前記コントロールユニット7は、各センサ2,6,9,10からのセンサ信号に基づいて指令値としてのモータ電流IMを演算するモータ電流指令値演算部7aと、該モータ電流指令値演算部7aからのモータ電流IMを入力し、直流ブラシモータ5の駆動電流を作り出すモータ駆動回路7bにより構成されている。
【0019】
図2のモータ電流指令値演算部7aにおいて、70は微分器、71は要求モータ電流演算部(要求モータ電流演算手段)、72は積算器(操舵系速度検出手段)、73は許容モータ電流設定部(許容モータ電流設定手段)、74は比較器(モータ電流演算手段)である。
【0020】
前記微分器70は、舵角センサ10からの操舵角θを微分して操舵角速度dθ(ハンドル操舵速度)を演算する。
【0021】
前記要求モータ電流演算部71は、操舵トルクセンサ2からの操舵トルクTと車速センサ9からの車速Vと微分器70からの操舵角速度dθを入力情報とし、運転者によるハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流IM *を演算する。
【0022】
前記積算器72は、微分器70からの操舵角速度dθにラック&ピニオンステアリング機構4の減速ギヤ比KGを掛け合わせることで車輪操舵速度ωを演算する。
【0023】
前記許容モータ電流設定部73は、車輪操舵速度ωが速くなるほど減少する許容モータ電流IMmaxとなるように設定すると共に、FET温度センサ6からのFET温度TFETが高いほど減少する許容モータ電流IMmaxとなるように設定する。
具体的には、図3に示すように、FET温度TFETが設定温度以下で低い場合、検出される車輪操舵速度ωが設定速度までは一定の限界モータ電流IMLIMを許容モータ電流IMmaxとし、車輪操舵速度ωが設定速度より速くなるほど減少する許容モータ電流特性により許容モータ電流IMmaxが設定されると共に、FET温度TFETが設定温度を超えて高い場合、FET温度TFETが高くなるほど一定の限界モータ電流IMLIMを許容モータ電流IMmaxとする設定速度を遅くなる側にスライドさせた許容モータ電流特性により許容モータ電流IMmaxが設定される。
【0024】
前記比較器74は、要求モータ電流演算部71からの要求モータ電流IM *と許容モータ電流設定部73からの許容モータ電流IMmaxのうち小さい値を選択し(セレクトロー)、選択した値をモータ電流IMの指令値とする。
【0025】
図2のモータ駆動回路7bにおいて、75は減算器、76はPID制御部、77はパルス幅変調器、78はブリッジ回路、79は電流センサである。
【0026】
前記減算器75は、比較器74からのモータ電流IMと、電流センサ79からの実モータ電流との偏差を求める。
【0027】
前記PID制御部76は、フィードバックモータ制御系で、減算器75で求められた偏差をなくすように、比例+積分+微分制御動作(PID動作)により、制御信号を発生させる。
【0028】
前記パルス幅変調器77は、PID制御部76からの制御信号を入力し、振幅及び繰り返し周期が一定なパルスの時間幅を、信号波の波形に応じて変化させるパルス幅変調(Pulse Width Modulation:略称PWM)を行い、ブリッジ回路78の電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4への信号を作り出す。
【0029】
前記ブリッジ回路78は、4個の電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4を有する駆動回路である。
【0030】
前記電流センサ79は、減算器75への実モータ電流を測定する。
【0031】
次に、作用を説明する。
【0032】
[発熱量が車輪操舵速度とモータ電流に起因するメカニズム]
直流ブラシモータ5を用いた第1実施例のシステムにおいて、モータ駆動系の発熱量が車輪操舵速度ωとモータ電流IMに起因するメカニズムについて説明する。なお、図5に直流ブラシモータ5の4個の電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4を有するブリッジ回路78の構成を示し、図6にFET1,2がON時とFET1,2がOFF時のモータ電流IMの流れを示す。
【0033】
1)まず、直流ブラシモータ5に流れる電流は、以下の式で決まる。
VM=IM*R+Kω*ω+VB …(1)
VM:コントロールユニット7の出力電圧
IM:モータ電流
R:ハーネス抵抗+モータ抵抗(コントロールユニット7〜直流ブラシモータ5間)
Kω:直流ブラシモータ5の発電係数
ω:車輪操舵速度(モータ回転速度、ハンドル操舵速度でも良い。)
VB:直流ブラシモータ5のブラシ電圧降下
2)また、FETのON Dutyは、以下の式で決まる(但し、コントロールユニット7内の抵抗は無視)。
VM=V1*(FETのON Duty) …(2)
FETのON Duty=(ON時間)/(ON時間+OFF時間) …(3)
V1:コントロールユニット7の入力電圧
3)すなわち、(1)式により、車輪操舵速度ωが大きいときは、コントロールユニット7の出力電圧VMも大きくなる。また、(1),(2)式により、車輪操舵速度ωが大きいときは、FETのON Dutyも大きくなる。
【0034】
4)FETの発熱量は、消費電力に依存するので、FETのON Dutyにより変化する(図6の(イ),(ロ)を参照)。
すなわち、モータ電流IMが等しくても、車輪操舵速度ωが大、つまり、FETのON Dutyが大きいほど、消費電力が大となり、発熱量が大きくなる。
4-a) ON Dutyが小の場合(例えば、0.8)
FET1,2のON Dutyが、例えば、図7の上段部に示すように、0.8の場合、FET1,2の電流は、図7の中段部に示すように、ON時間の部分がモータ電流IMとなる。
よって、FET1の消費電力WFET1は、
WFET1=IM 2*RFET*0.8
同様に、FET2の消費電力WFET2は、
WFET2=IM 2*RFET*0.8
となる。但し、RFETは、FETの抵抗値である。
4-b) ON Dutyが大の場合(例えば、1.0)
FET1,2のON Dutyが、例えば、図8の上段部に示すように、1.0の場合、FET1,2の電流は、図8の中段部に示すように、全てのON時間がモータ電流IMとなる。
よって、FET1の消費電力WFET1は、
WFET1=IM 2*RFET*1.0
同様に、FET2の消費電力WFET2は、
WFET2=IM 2*RFET*1.0
となる。
すなわち、FET1,2の消費電力WFET1, WFET2(=発熱量)は、モータ電流IMと、ON Duty(=車輪操舵速度ω)により変化する。
【0035】
[モータアシスト制御作用]
操舵時、要求モータ電流演算部71において、操舵トルクセンサ2からの操舵トルクTと車速センサ9からの車速Vと微分器70からの操舵角速度dθを入力情報とし、運転者によるハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流IM *が演算され、許容モータ電流設定部73において、車輪操舵速度ωとFET温度TFETと図3に示す許容モータ電流特性に基づき、車輪操舵速度ωが速くなるほど減少すると共に、FET温度センサ6からのFET温度TFETが高いほど減少する許容モータ電流IMmaxが設定される。そして、比較器74において、要求モータ電流演算部71からの要求モータ電流IM *と許容モータ電流設定部73からの許容モータ電流IMmaxのうち小さい値が選択され、この選択した値がモータ電流IMの指令値とされる。
【0036】
すなわち、電動パワーステアリングの部品の中で、耐熱性が最も低い部品であるモータ駆動回路7bの電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4が発する熱が、上記のように、車輪操舵速度ωとモータ電流IMに起因することに着目し、算出される車輪操舵速度ωが速くなるほど許容できるモータへの出力電流の許容最大値が減少するようにして直流ブラシモータ5への出力電流の最大値である許容モータ電流IMmaxが設定される。
【0037】
一方、操舵系温度のみをパラメータとして許容モータ電流IMmaxを設定する従来技術にあっては、図4の○印に示すように、車輪操舵速度ωが比較的に遅いハンドル据え切り時において、操舵系温度が高いと、許容モータ電流IMmaxが低い値に設定されることになり、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなり、ハンドルの切り返し回数の増加を招いていた。
【0038】
これに対し、車輪操舵速度ωとFET温度TFETとをパラメータとして許容モータ電流IMmaxを設定する第1実施例にあっては、図3の○印に示すように、車輪操舵速度ωが比較的に遅いハンドル据え切り時においては、FET温度TFETが高温であっても、許容モータ電流IMmaxが高い電流値に設定されることになり、許容モータ電流が低い電流値に設定される場合のような、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドル1が重くなることが無くなり、ハンドル1の切り返し回数の増加を防ぐことができる。
【0039】
この結果、ハンドル1の切り返し回数の増加によって過熱を誘発することが無く、モータ制御系の有効な過熱防止対策となり得ると共に、ハンドル1の切り返し回数の増加によって車庫入れ等で多大な無駄時間を費やすことも解消される。
【0040】
次に、効果を説明する。
【0041】
(1) 操舵系に連結され、操舵補助トルクを発生する直流ブラシモータ5と、運転者の操舵トルクTを検出する操舵トルクセンサ2と、車速Vを検出する車速センサ9と、操舵トルクTと車速Vを含む入力情報によってハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流IM *を演算する要求モータ電流演算部71と、許容モータ電流IMmaxを設定する許容モータ電流設定部73と、要求モータ電流IM *と許容モータ電流IMmaxのうち小さい値を選択し、選択した値をモータ電流IMの指令値とする比較器74と、を備えた電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置において、車輪操舵速度ωを算出する積算器72を設け、前記許容モータ電流設定部73を、車輪操舵速度ωが速くなるほど減少する許容モータ電流IMmaxとなるように設定する設定部としたため、ハンドル操舵速度等の操舵系速度が比較的に遅いハンドル据え切り時においては、許容モータ電流IMmaxが高い電流値に設定されることになり、許容モータ電流IMmaxが低い電流値に設定される従来技術の場合のような、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなることが無くなり、ハンドルの切り返し回数の増加を防ぐことができる。
【0042】
(2) 直流ブラシモータ5を駆動制御するモータ制御系の温度を検出するFET温度センサ6を設け、許容モータ電流設定部73を、車輪操舵速度ωが速くなるほど減少する許容モータ電流IMmaxとなるように設定すると共に、FET温度TFETが高いほど減少する許容モータ電流IMmaxとなるように設定する設定部としたため、モータ制御系温度と操舵系速度とをパラメータとして許容モータ電流IMmaxが設定されることになり、モータ制御系の過熱を確実に防止することができる。
【0043】
(3) 操舵補助トルクを発生するモータを、電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4を用いたブリッジ回路78によるモータ駆動回路7bを有する直流ブラシモータ5とし、モータ制御系温度検出手段を、モータ駆動回路7bの電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4の温度を検出するFET温度センサ6としたため、FET温度TFETと操舵系速度とをパラメータとして許容モータ電流IMmaxが設定されることになり、直流ブラシモータ5を用いたシステムの中で最も熱に弱い部品である電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4の過熱を防止することができる。
【0044】
(4) 許容モータ電流設定部73を、FET温度TFETが設定温度以下で低い場合、検出される車輪操舵速度ωが設定速度までは一定の限界モータ電流IMLIMを許容モータ電流IMmaxとし、車輪操舵速度ωが設定速度より速くなるほど減少する許容モータ電流特性により許容モータ電流IMmaxを設定すると共に、FET温度TFETが設定温度を超えて高い場合、FET温度TFETが高くなるほど一定の限界モータ電流IMLIMを許容モータ電流IMmaxとする設定速度を遅くなる側にスライドさせた許容モータ電流特性により許容モータ電流IMmaxを設定する設定部としたため、操舵系速度が比較的に遅いハンドル据え切り時においては、FET温度TFETが高温であっても許容モータ電流IMmaxが高い電流値に設定されるため、ハンドルの据え切り等により既にFET温度TFETが高温となっても、ハンドルロック(フル転舵)手前でアシストトルク不足によってハンドルが重くなることが無く、電界効果トランジスタFET1,FET2,FET3,FET4の過熱を誘発するFET温度TFETが高温となった後のハンドルの切り返し回数の増加を防止することができる。
【0045】
(他の実施例)
以上、本発明の電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0046】
第1実施例では、操舵系速度検出手段として、車輪操舵速度ωを算出する手段を示したが、ハンドル操舵速度またはモータ回転速度を算出する手段としても良い。
【0047】
第1実施例では、操舵系速度検出手段として、舵角センサ10を用いて算出する例を示したが、例えば、舵角センサ10を用いずに、モータ電流とモータ電圧の関係から舵角速度を推定算出する手段としても良い。
【0048】
第1実施例では、アシストモータとして直流ブラシモータの例を示したが、直流ブラシモータとは異なる種類のモータを用いても良く、異なる種類のモータを用いた場合で、熱の最も弱い部品がFET以外の部品である場合には、その部品の温度を検出する温度センサを用いることになる。
【0049】
第1実施例では、モータ制御系温度検出手段として、モータを駆動制御するモータ制御系の温度を直接検出する温度センサを用いた例を示したが、温度センサを設けることなく、例えば、コントロールユニット7の消費電力の積算によりモータ制御系の温度を推定検出する手段としても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置を示す全体システム図である。
【図2】第1実施例のコントロールユニット7におけるモータアシスト制御内容を表す制御ブロック図である。
【図3】第1実施例における車輪速度とFET温度をパラメータとする許容モータ電流特性図である。
【図4】従来の操舵系温度をパラメータとする許容モータ電流特性図である。
【図5】第1実施例の直流ブラシモータのブリッジ回路構成を示す図である。
【図6】第1実施例の直流ブラシモータのブリッジ回路においてFET1,FET2がON時とFET1,FET2がOFF時とでの電流の流れを示す図である。
【図7】第1実施例においてON Dutyが小の場合のFET1,2のデューティ特性と電流特性と消費電力特性を示す図である。
【図8】第1実施例においてON Dutyが大の場合のFET1,2のデューティ特性と電流特性と消費電力特性を示す図である。
【符号の説明】
1 ハンドル
2 操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
3 減速機
4 ラック&ピニオンステアリング機構
5 直流ブラシモータ(モータ)
6 FET温度センサ(モータ制御系温度検出手段)
7 コントロールユニット
7a モータ電流指令値演算部
7b モータ駆動回路
70 微分器
71 要求モータ電流演算部(要求モータ電流演算手段)
72 積算器(操舵系速度検出手段)
73 許容モータ電流設定部(許容モータ電流設定手段)
74 比較器(モータ電流演算手段)
75 減算器
76 PID制御部
77 パルス幅変調器
78 ブリッジ回路
FET1,FET2,FET3,FET4 電界効果トランジスタ
79 電流センサ
8 ステアリングシャフト
9 車速センサ(車速検出手段)
10 舵角センサ
11,11 操舵輪
12 バッテリ
Claims (2)
- 操舵系に連結され、操舵補助トルクを発生するモータと、
運転者の操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
操舵トルク検出値と車速検出値を含む入力情報によってハンドル操舵方向と同一方向にアシストトルクを発生させる要求モータ電流を演算する要求モータ電流演算手段と、
許容モータ電流を設定する許容モータ電流設定手段と、
前記要求モータ電流と前記許容モータ電流のうち小さい値を選択し、選択した値をモータ電流の指令値とするモータ電流演算手段と、
を備えた電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置において、
ハンドル操舵速度またはモータ回転速度または車輪操舵速度のうち、少なくともいずれか一つの操舵系速度を検出する操舵系速度検出手段と、
前記モータを駆動制御するモータ制御系の温度を検出するモータ制御系温度検出手段と、を設け、
前記許容モータ電流設定手段は、
前記操舵系速度が設定速度以下で遅いときは一定の限界モータ電流を前記許容モータ電流とし、前記操舵系速度が前記設定速度を超えて速くなるほど前記限界モータ電流から減少するように前記許容モータ電流を設定すると共に、
前記モータ制御系温度が高いほど前記設定速度を遅い側にスライドさせ、前記操舵系速度が前記設定速度を超えて速い領域では前記モータ制御系温度が高いほど前記許容モータ電流が減少するように設定する手段である
ことを特徴とする電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置。 - 請求項1に記載の電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置において、
前記モータは、電界効果トランジスタを用いたブリッジ回路によるモータ駆動回路を有する直流ブラシモータであり、
前記モータ制御系温度検出手段は、前記モータ駆動回路の前記電界効果トランジスタの温度を検出するFET温度センサである
ことを特徴とする電動パワーステアリングのアシストモータ制御装置。
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