JP4633233B2 - クラミジア感染症処置剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、構成糖として、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基との二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、該ヘキスロン酸残基の2位の水酸基に硫酸基を有しない硫酸化グリコサミノグリカンまたはその塩を有効成分とするクラミジア感染症処置剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
クラミジアは偏性細胞内寄生性細菌であり、抗原性、封入体の性状、DNAホモロジーから、Chlamydia trachomatis、 Chlamydia psittaci、Chlamydia pneumoniaeの3種に分類され、Chlamydia trachomatisは、更に、A,B,Ba,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L1,L2,L3という15の血清型に分かれている。
【0003】
Chlamydia trachomatisはヒトの眼や泌尿生殖器粘膜に感染し、種々の疾患を引き起こすことが知られている。 例えば、血清型A〜Cは、トラコーマを、BおよびD〜Kは尿道炎、精巣上体炎、前立腺炎、子宮頚管炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、卵管不妊、子宮外妊娠、封入体結膜炎を、L1〜L3は、性病性リンパ肉芽腫症(LGV)を起こす。Chlamydia psittaciは鳥類や哺乳類に感染し、特に、感染鳥類からヒトに感染するオウム病が知られている。また、Chlamydia pneumoniaeは肺炎を起こすクラミジアである。
【0004】
このようなクラミジア感染症の治療には、通常、抗生物質等の抗菌剤が使用されている。ところが、クラミジアの増殖時間は一般細菌に比してはるかに長いため、長期の連続投与が必要となるが、抗生物質等の抗菌剤の長期間連続投与は好ましくないとされている。また、クラミジア感染を予防する物質としてはヘパリン(The Journal of Biological Chemistry, Vol.271, No.19, pp.11134-11140, 1996)や硫酸化多糖(特表平8−506570)が知られているが、天然物から抽出した通常のヘパリンには強い抗凝固活性や出血活性があり、抗血液凝固剤以外の医薬品としての適用には問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、クラミジア感染症の予防および治療に用いることが可能で、人体に適用するに際し、安全で副作用などの問題がほとんどない薬剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、構成ヘキスロン酸残基の2位の硫酸基を除去する処理を行った物質が、優れたクラミジア感染阻害効果を示すことを見いだした。本発明者らは更に、上記物質が、出血等の副作用をほとんど示さないことを見いだした。これらの知見に基づき、構成ヘキスロン酸残基の2位の硫酸基が除去された硫酸化グリコサミノグリカンがクラミジア感染症のための処置剤として有用であることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0007】
本発明は、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、該ヘキスロン酸残基の全てまたは一部の2位の水酸基に硫酸基を有しない硫酸化グリコサミノグリカンまたはその塩を有効成分とするクラミジア感染症処置剤(以下、「本発明の処置剤」という。)に関する。
【0008】
さらに、本発明は、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、該ヘキスロン酸残基の全てまたは一部の2位の水酸基に硫酸基を有しない硫酸化グリコサミノグリカンまたはその塩をクラミジアに接触させることを特徴とするクラミジアの生育阻害方法にも関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明の処置剤の有効成分である、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、該ヘキスロン酸残基の全てまたは一部の2位の水酸基に硫酸基を有しない硫酸化グリコサミノグリカン(以下、場合によりその塩も含めて「2ODSG」という。)は、天然物から抽出、精製等を行って得られるヘパリン、ヘパラン硫酸等の硫酸化グリコサミノグリカンを原料として製造することができる。
【0010】
出発物質としての硫酸化グリコサミノグリカンは、ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基が交互に結合した二糖の繰り返し構造を持つ硫酸化グリコサミノグリカンであり、具体的にはヘパリン、ヘパラン硫酸が例示されるが、上記基本構造を有する限り、これには限定されない。
【0011】
2ODSGを構成するヘキスロン酸としては、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸を挙げることができ、好ましくはD−グルクロン酸および/またはL−イズロン酸である。
【0012】
2ODSGを構成するヘキソサミンとしては、グルコサミンおよびガラクトサミンを挙げることができ、好ましくはグルコサミンである。グルコサミンおよびガラクトサミンは通常それぞれ、D−グルコサミンおよびD−ガラクトサミンであり、通常、2位がスルホアミノ基ではない場合はアセチルアミノ基である。
【0013】
なお、2ODSGにおいて、ヘキソサミンがD−グルコサミンである場合、ヘパリン又はヘパラン硫酸の基本骨格を有する硫酸化グリコサミノグリカンであり、本発明においては、これを2ODSHと略称する。
また、2ODSGは構成ヘキスロン酸の全てまたは一部の2位の水酸基に硫酸基を有しないという特徴を有するものであるが、この特徴は以下の分析法で分析することにより特定される。
【0014】
すなわち、ヘパリンまたはヘパラン硫酸等の2ODSHを後述の参考例1記載のグリコサミノグリカン分解酵素による分解と高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCともいう)による分析を組み合わせた方法により二糖組成分析した場合、構成ヘキスロンの2位の水酸基に硫酸基を有する不飽和二糖が、通常の硫酸化グリコサミノグリカンと比べて明らかに減少しており、その不飽和二糖組成は、通常、ΔDiHS−USが0〜0.5モル%程度、ΔDiHS−di(U,N)Sが0〜6.5モル%程度、ΔDiHS−di(U,6)Sが0〜0.5モル%程度、ΔDiHS−tri(U,6,N)Sが0〜15.0モル%程度であることが好ましく、これらの合計は0〜21モル%であることが好ましい。また、上記以外の不飽和二糖組成は、通常の硫酸化グリコサミノグリカンと比べて増加しており、ΔDiHS−0Sが0〜8.0モル%程度、ΔDiHS−6Sが0〜5.0モル%程度、ΔDiHS−NSが8.0〜25.0モル%程度、ΔDiHS−di(6,N)Sが40.0〜92.0モル%程度である。
【0015】
二糖組成分析における2ODSHの不飽和二糖組成は、2ODSHを酵素処理して得た下記一般式で表される不飽和二糖組成の溶出位置を、標準不飽和二糖の溶出位置と比較することにより分析することができる。HPLCの溶出位置を、通常紫外部(例えば波長232nm)の吸収によりモニターし、2ODSH中の不飽和二糖の含量は、その溶出パターンの積分値(面積)を濃度既知の標準不飽和二糖の溶出パターンの積分値(面積)と比較することにより求めることができる。下記一般式中の各置換基は表1の通りである。
【0016】
【化1】
【0017】
【表1】
【0018】
また、上記略号の示す構造は以下の通り表記されることもある。
ΔDiHS−0S:ΔHexA1→4GlcNAc、ΔDiHS−6S:ΔHexA1→4GlcNAc(6S)、ΔDiHS−NS:ΔHexA1→4GlcNS、ΔDiHS−US:ΔHexA(2S)1→4GlcNAc、ΔDiHS−di(6,N)S:ΔHexA1→4GlcNS(6S)、ΔDiHS−di(U,N)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNS、ΔDiHS−di(U,6)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNAc(6S)、ΔDiHS−tri(U,6,N)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNS(6S)。
【0019】
上記式中、ΔHexは不飽和ヘキスロン酸、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、GlcNSはN−スルホグルコサミン、カッコ内は硫酸基の結合位置を示す。
【0020】
2ODSGの重量平均分子量は、クラミジア感染阻害効果を示す限り、特に限定されないが、3,000Da以上が好ましく、より好ましくは、3000〜50,000Daであり、3,000〜14,000Daであることが更に好ましい。
また、2ODSGは、クラミジア感染阻害効果の点では12〜200糖(二糖単位で6〜100単位)からなるオリゴ糖または多糖であることが好ましいが、抗凝固活性を考慮すると、より低分子であることが好ましい。
尚、オリゴ糖類および多糖類は、通常、種々の重合度の糖鎖の集合体であるため、上記の2ODSGの構成糖の重合度の好ましい数は、厳密にその数である必要はなく、統計的にその数の重合度のオリゴ糖または多糖が、他の重合度のものより多い場合も包含する。
【0021】
また、2ODSGは、その塩の形で使用することが可能であり、塩としては、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリブチルアミン塩等が挙げられるが、アルカリ金属塩が好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
【0022】
2ODSGにおいて、ヘキソサミン残基が、グルコサミン残基である2ODSH(いわゆるヘパリン骨格を有する物質)は、ブタ、ウシ等の哺乳動物の臓器(腸、肺、肝、腎、血管等)から抽出、精製されたヘパリン、ヘパラン硫酸等の硫酸化グリコサミノグリカンを原料とし、その構成ヘキスロン酸残基の2位の水酸基に結合している硫酸基を除去する脱硫酸化処理を行って得ることができるが、脱硫酸化処理方法は、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基に結合している硫酸基を選択的又は優先的に脱硫酸化することができる処理であれば、特に限定されない。
【0023】
例えば、Jasejaらの方法(Jaseja et al., Can. J. Chem., 67, 1449(1989))など、公知の方法に準拠して行うことができ、具体的には、硫酸化グリコサミノグリカンのアルカリ性水溶液を調製し、これを凍結乾燥する方法が挙げられる。更に、脱硫酸化処理後、適当な溶媒を用いた溶媒沈殿、限外濾過、カラムクロマトグラフィー、透析、凍結乾燥等、または、これらの組み合わせによって容易に濃縮・精製することができる。具体的には、前記脱硫酸化処理により得られた凍結乾燥パウダーを、蒸留水に溶解し、pH7に調整し、透析処理後、凍結乾燥処理に順次付する方法が挙げられる。
【0024】
本発明者らは、硫酸化グリコサミノグリカンのクラミジア感染阻害効果を検討するため、ヒト子宮頸癌細胞由来のヒーラ229細胞(HeLa229)を用いて、実施例1記載の方法により2ODSH及びヘパリンの構成糖であるヘキスロン酸、グルコサミンの水酸基およびアミノ基に結合している全ての硫酸基を脱硫酸化した後、グルコサミンの2位のアミノ基を再硫酸化したヘパリン(以下、「CDSNSH」という。)のクラミジア感染阻害効果を調べた。その結果、ヘパリンにおいては、10μg/mlの濃度では、約3%の細胞が感染を示したが、100μg/mlでは約1%であり、ほぼ完全に感染を阻害した。2ODSHに関しては、ヘパリンと比較すると感染阻害活性はやや弱まるものの、100μg/mlではヘパリンと同様に、ほぼ完全に感染を阻害した。一方、CDSNSHは感染阻害効果を示さなかった。
【0025】
上記の様にヘパリンはクラミジア感染阻害活性を有するが、出血等の副作用があり、医薬品としての適用には好ましくない。一方、2ODSHはヘパリンと同等のクラミジア感染阻害活性を有し、かつ、出血等の副作用は極めて弱い。
【0026】
ヘパリンおよび2ODSHについて、出血活性の指標となるTT活性およびAPTT活性を後述する試験法3および4に従って測定した。結果を表2に示す。なお、TTまたはAPTTにおける測定時間の上限はそれぞれ100秒までとした。ヘパリンのTT活性またはAPTT活性を100としたとき、対応する各被検サンプルのTT活性またはAPTT活性をその相対値で示した。
【0027】
【表2】
【0028】
これにより、2ODSHはAPTT、TT活性共にヘパリンと比較して極めて低く、安全性が高いことが判明した。
【0029】
本発明の処置剤は、クラミジアに感染した対象の生体、すなわち、ヒトを含む哺乳動物、鳥類、その他脊椎動物の治療、予防、症状の緩和等の処置を目的として、非経口的または経口的に投与される薬剤である。
【0030】
本発明の処置剤を生体に投与する際の剤型および投与経路としては、対象となる疾患の性質や重篤度に応じて適宜選択することができる。例えば、それらをそのまま、または他の薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤等と共に製剤化し、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、液剤、錠剤、カプセル剤、注射剤、座剤、膣剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、点眼剤、点鼻剤等経口的または非経口的に安全に投与することができる。特に、座剤、膣剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤として非経口的に投与することが好ましい。
【0031】
本発明の2ODSGの配合量並びに投与量は、その製剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状、患者の体重などに応じて個別に決定されるべき事項であり、特に限定されないが、臨床投与量として1日当たり概ね10μg/Kg〜10mg/Kg程度を例示することができる。また、上記処置剤の投与間隔は1日1回程度でも可能であり、1日1〜3回、またはそれ以上の回数に分けて投与することもできる。
また、本発明の処置剤を性交渉時におけるクラミジア感染を防止するために膣内投与する場合、その投与量は1回概ね0.1mg〜10mg程度が好ましい。
【0032】
また、本発明は、2ODSGをクラミジア、特にその感染性粒子(Elementary Body;EB)と接触させ、生体細胞におけるクラジミアの生育を阻害する方法にも関する。本方法は、例えば、粘膜、避妊具等にクラミジア感染を阻害するのに十分な量の2ODSGを予め塗布、コーティング又は結合させ、生体へのクラミジアの感染を防止する方法等も包含する。さらに、動物細胞を培養する際に培地中に、2ODSGを存在させて、該細胞にクラミジアが感染することを防止する方法も包含する。
【0033】
尚、本発明におけるクラジミア感染阻害のメカニズムは、生体細胞のヘパリン様またはヘパラン硫酸様プロテオグリカンであるレセプターもしくはアクセプターへのクラミジア感染性粒子(EB)の吸着を防止することによるものと考えられるので、以上説明した通り、EBが生体細胞の上記レセプターもしくはアクセプターに吸着する段階を、2ODSGによって競合的に阻害する方法のみならず、生体細胞における上記レセプターもしくはアクセプターに存在するヘパリン様またはヘパラン硫酸様の糖鎖を、該糖鎖を分解するグリコサミノグリカン分解酵素で除去することによっても阻害することができる。この様な酵素としては、例えばヘパリナーゼIが例示される。
【0034】
【実施例】
以下の実施例は、本発明を更に具体的に説明するが、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
なお、本実施例における試験法は以下の通りである。
【0035】
参考例1
後述する本発明の実施例で使用した各種の硫酸化グリコサミノグリカンの分析は、以下の試験法1〜4に示す方法によって行った。
試験法1
〔酵素消化による二糖分析〕
硫酸化グリコサミノグリカン(2ODSH、ヘパリン)における硫酸基の置換位置の分析方法は、次のようにして行った。すなわち、対象とする各硫酸化グリコサミノグリカンをグリコサミノグリカン分解酵素を用いて酵素消化し、精製した不飽和二糖を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した〔新生化学実験講座3,糖質II(東京化学同人刊、1991年)p49〜62参照〕。各不飽和二糖のピーク面積を計算し、全ピーク面積の和に対する各ピーク面積の割合(%)を各不飽和二糖の組成割合とした。
この割合は、酵素消化物中の各不飽和二糖のモル%に相当し、ひいては、分析対象の硫酸化グリコサミノグリカンにおける種々の位置に硫酸基を有する二糖単位のモル%を反映するものである。
【0036】
(1)ヘパリン、2ODSHの分解酵素による消化
新生化学実験講座3、糖質II(東京化学同人刊、1991年)p49〜62に記載の方法により、2mM酢酸カルシウムを含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)220μlに、ヘパリン、2ODSH2ロット(参考例2参照;以下、それぞれ、「2ODSH−1」、「2ODSH−2」という。)各1.0mgを溶解して、20mUのヘパリナーゼ、20mUのヘパリチナーゼIおよびIIを加えて、37℃で2時間反応させた。
【0037】
(2)HPLCによる分析
ヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2を上記(1)に従い分解酵素により消化を行った後の溶液50μlを、HPLC(医理化、モデル852型)を用いて分析した。イオン交換樹脂カラム(ダイオネックス社、CarboPac PA-1カラム4.0mm×250mm)を使用し、232nmでの吸光度を測定した。不飽和二糖(4〜12糖)スタンダードを基準とし(Yamada, et al., J. Biol. Chem., 270, 8696-8706, (1995))、流速1ml/分で、塩化リチウムを用いたグラジエント系(50mM→2.5M)を用いる方法に準拠した(Kariya, et al., Comp.Biochem.Physiol., 103B, 473, (1992))。
【0038】
6種の不飽和二糖標品(8nmol each/shot)の溶出順は、ΔDiHS-0S(保持時間2.6分)、ΔDiHS-NS(保持時間 10.9分)、ΔDiHS-6S(保持時間 12.0分)、ΔDiHS-di(6,N)S(保持時間 15.2分)、ΔDiHS-di(U,N)S(保持時間 16.3分)、ΔDiHS-tri(U,6,N)S(保持時間21.9分)であった。
【0039】
試験法2
〔分子量測定〕
ヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2の3%溶液10μlをHPLCによるゲルろ過で分析した。使用カラムは4,000、3,000および2,500Gタイプの TSKgel-PWXLカラム(東ソー、7.8mm × 300mm)を用い、溶出液に0.2M塩化ナトリウムを使用して、1.0ml/分の流速で展開した。ヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2の検出には示差屈折計(島津製作所、AID-2A)を用いた。本発明における重量平均分子量(Mw)はヘパリンの分子量標準品を対照にして求めた(Kaneda, et al., Biochem. Biophys. Res. Com.,220,108-112(1996))。その計算式は、MW=10(10.17-0.19xRT)、〔RT:ピーク頂点の保持時間(分)〕である。
【0040】
試験法3
〔活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)活性の測定〕
APTTの測定のため、ラット(SD系雄性ラット(194〜224g)、チャールスリバー)の下大動脈より3.2%クエン酸1/10容量で採血し、血液を1000×gで10分間遠心分離して得た血漿100μlと、様々な濃度のヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2を各100μlずつ測定用カップに入れ、37℃で1分間保温した。その後、あらかじめ37℃に保温しておいたアクチン(商品名:ウェルファイド(株))100μlを添加し、さらに2分間保温した。次いで、37℃の保温しておいた0.2MCaCl2溶液100μlを添加し、この時より凝固が起こるまでの時間を血液凝固自動測定装置(KC-10A:アメルング社)で測定した。なお、APTTにおける測定時間の上限は100秒までとした。
【0041】
試験法4
〔トロンビン時間(TT)の測定〕
上記試験法3で得た血漿100μlと、様々な濃度のヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2を各100μlずつ測定用カップに入れ、37℃で1分間保温した。その後、37℃に保温しておいたトロンビン(商品名:ウェルファイド(株)、10U/ml)100μlを添加し、この時より凝固が起こるまでの時間を血液凝固自動測定装置(KC-10A:アメルング社)で測定した。
【0042】
〔本明細書におけるヘパリン〕
以下に示す物性を有するブタ小腸由来ヘパリンのナトリウム塩(サイエンティフィックプロテインラボラトリー社製 LotNo.40210910)を、上記試験法1〜4の分析における対照物質および下記参考例2における2ODSHの合成原料として用いた。
ヘパリンの物性
(1)上記試験法1記載の二糖組成分析法による測定値から算出した不飽和二糖組成はΔDiHS-0S:3.7%、ΔDiHS-NS:3.2%、ΔDiHS-6S:4.7%、ΔDiHS-US:1.5%、ΔDiHS-di(6,N)S:14.7%、ΔDiHS-di(U,N)S:6.8%、ΔDiHS-di(U,6)S:0.0%、ΔDiHS-tri(U,6,N)S:61.3%であり、未同定ピーク:4.1%である。(%は全てモル%を表す)。
(2)日本薬局方に具体的に収載された測定法で測定された抗血液凝固活性が170〜190IU/mgである。
(3)重量平均分子量が11,000〜14,000Daである(参考例2参照)。
【0043】
参考例2
〔2ODSHの合成〕
ヘパリンを原料とし、その2−O−脱硫酸化反応をJasejaらの方法(Jaseja et al.,Can. J. Chem.,67,1449(1989))を部分的に改変した以下の方法により実施した。すなわち、200mgのヘパリンナトリウム塩を20mlの0.4規定の水酸化ナトリウムに溶解し、直ちに凍結乾燥処理を行った。得られた凍結乾燥パウダーを20mlの蒸留水に溶解した後、1規定の酢酸を添加することによりpH7に調整した。次いで、この溶液を透析処理、凍結乾燥処理に順次付した。その結果、165mgの2ODSHをナトリウム塩として得た。この標品を2ODSH−1とした。
又、上記凍結乾燥処理を2回行うことにより、より完全に2−O−脱硫酸化した2ODSHをナトリウム塩として150mg得た。この標品を2ODSH−2とした。
【0044】
〔ゲル濾過HPLCによる分子量測定〕
各50μg/5μlのヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2を、0.2規定のNaClで平衡化した4,000、3,000および2,500Gタイプの TSKgel-PWXLカラム(東ソー、7.8mm × 300mm)を上流から順に各一本ずつ連結した東ソー社製CCPM型HPLCに付し、溶出液に0.2M塩化ナトリウムを使用して、1.0ml/分の流速で展開し、ゲル濾過(GPC-)HPLC分析を行った。なお、被検物質の検出には示差屈折計(島津製作所、AID-2A)を用い、カラムオーヴン中40℃、0.6ml/mlの定流速下で、示差屈折(RI)を指標とした。その結果、ヘパリン、2ODSH−1の保持時間は、それぞれ33.50および33.60分であった。得られた結果を基に算出した分子量を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
〔二糖組成分析〕
ヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2の不飽和二糖組成の二糖組成分析は、参考例1の試験法1に記載の方法に従って実施した。結果を表3に示す。
【0047】
参考例3
〔低分子化2ODSH画分の調製〕
100mgの2ODSH−1を含有する2mM酢酸含有カルシウム含有20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)10mlに0.1単位のヘパリチナーゼI(生化学工業社製)を添加し、37℃で一晩、部分消化した。5分間煮沸して酵素を失活させた後、Superdex 30pg(2.6×60cm,ファルマシア社製)ゲル濾過カラムで分画した。平衡化および展開溶液には0.2M酢酸アンモニウムを用いた。上記カラムから溶出した12糖以上の画分を集め、凍結乾燥して18mgの標品(低分子化2ODSH画分)を得た。分子量範囲は約3,000〜8,000Daであった。
又、上記と同様の方法で、それぞれ、2ODSHの4,6,8,10、12糖に相当する画分を得た。
【0048】
参考例4
〔血液凝固系に対するヘパリン、2ODSHの影響〕
血液凝固系に対するヘパリン、2ODSH−1および2ODSH−2の影響を前記試験法3および4にしたがって分析した。ヘパリン等何も添加しない状態で測定したAPTTおよびTTの値(以下、正常値と言う)の2倍の凝固時間を示すヘパリンの濃度はそれぞれ、0.54μg/mlと0.13μg/mlであった。同様に、正常値を2倍に延長させる2ODSH−1および2ODSH−2の濃度を求め、ヘパリンのAPTT活性およびTT活性それぞれを100とし、2ODSH−1、2ODSH−2のAPTT活性およびTT活性それぞれをその相対値で示した。
【0049】
実施例1
〔ヘパリン、2ODSH−2、CDSNSのHeLa229細胞へのクラミジア感染に対する影響〕
【0050】
3×105cells/mlのヒト子宮頸癌細胞由来HeLa229細胞を24穴プレートの各ウェルに1mlずつ分注し、24時間前培養した。クラミジア感染性粒子(elementary body:EB)液に、予めHank's balanced salt solution(HBSS)(GIBCO社製)に溶解したヘパリン、2ODSH−2及びCDSNSH(生化学工業社製)を各濃度となるように添加して懸濁した。このEB懸濁液を前培養した単層HeLa229細胞に200μlずつ分注し、室温で1時間培養した。単層HeLa229細胞をHBSSにて3回洗浄し、10μg/mlシクロヘキサミドを加えた10%牛胎児血清、0.5%グルコース含有イーグルMEM培地(CMGA培地,ICN Biochem社製)にて37℃で48時間培養した。培養後トリプシン/EDTA液にて細胞を回収し、細胞を100%エタノールで5分間固定、親水化し、0.1%Tween20(登録商標)を添加したPBSにて2回洗浄した。フルオレセンイソチオシアナート(FITC)標識抗クラミジア抗体(マイクロトラック クラミジアトラコマチスダイレクト テスト;SYVA社製)で固定細胞を染色し、フローサートメトリーにて感染陽性細胞率を測定した。結果を図1に示す。
その結果、ヘパリンおよび2ODSH−2は100μg/mlにおいてほぼ完全にクラミジア感染を阻害したが、CDSNSHは感染阻害効果を示さなかった。
【0051】
実施例2
〔低分子化2ODSH画分のHeLa229細胞へのクラミジア感染に対する影響〕
実施例1と同様の方法で、EB液に、予めHBSSに溶解したヘパリン、2ODSH−2、参考例3で調製した低分子化2ODSH画分をそれぞれ100μg/mlとなるよう添加し懸濁後、このEB懸濁液をHeLa229細胞に感染させ、これらの被検物質によるクラミジア感染の阻害効果を調べた。対照としては、参考例3で調製した2ODSHのオリゴ糖画分(4,6,8,10,12糖)を用いた。
その結果、低分子化2ODSH画分においては10%程度までクラミジア感染を抑制したが、12糖以下の上記各オリゴ糖画分は感染阻害効果は示さなかった。従って、クラミジア感染阻害効果を示す2ODSHは、12糖以上の糖鎖が必要なことが判明した。結果を図2に示す。
【0052】
実施例3
〔ヘパリン、2ODSH−2及びCDSNSH前処理EBのHeLa229細胞へのクラミジア感染に対する影響〕
100μg/mlのヘパリン、2ODSH−2、CDSNSHをそれぞれ添加したクラミジア感染性粒子(elementary body:EB)液を調製し、37℃で60分保温した。保温後、EB液をHank's balanced salt Solution(HBSS)(GIBCO社製)に懸濁し、8000Gで30分間の遠心を行った。ペレットをHBSSに再懸濁し、1分間の超音波処理をし、更に8000Gで30分間の遠心を行い、ペレットを少量のHBSSに再懸濁することによりEB懸濁を調製した。この前処理EB懸濁液のHeLa細胞への感染率を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、ヘパリン及び2ODSH−2でEBを前処理することによりクラミジア感染を阻害したが、CDSNSHは感染阻害効果を示さなかった。
結果を図3に示す。
【0053】
実施例4
〔ヘパリナーゼIのHeLa229細胞へのクラミジア感染に対する影響〕
実施例1と同様の方法に従って、ヘパリナーゼI(SIGMA社製)についても同様に、クラミジア感染陽性細胞率を測定した。
その結果、1IU/mlの濃度において、細胞の感染は約9.2%であり、ヘパリナーゼIはクラミジア感染を阻害することが分かった。結果を図4に示す。
【0054】
実施例5
〔ヘパリナーゼI前処理Hela229細胞へのクラミジア感染に対する影響〕
単層HeLa229細胞に、HBSSに懸濁したヘパリナーゼI(SIGMA社製)を添加し、37℃で60分保温した。保温後、温HBSSにで3回洗浄を行った。上記前処理を行った単層HeLa229細胞にEB懸濁液を200μlずつ分注して、室温で1時間培養した。単層HeLa229細胞をHBSSにて3回洗浄し、10μg/mlシクロヘキサミドを添加した10%牛胎児血清、0.5%グルコース含有イーグルMEM培地(CMGA培地,ICN Biochem社製)にて37℃で48時間培養した。培養後トリプシン/EDTA液にて細胞を回収し、細胞を100%エタノールで5分間固定し、親水化して、0.1%Tween20を加えたPBSにて2回洗浄した。FITC標識抗クラミジア抗体で固定細胞を染色し、フローサイトメトリーにて感染陽性細胞率を測定した。
その結果、1IU/mlの濃度において、ヘパリナーゼIで前処理したHeLa229細胞の感染は、約4.7%であり、ヘパリナーゼIでHeLa229細胞を前処理することでクラミジア感染を阻害することが分かった。結果を図5に示す。
【0055】
製剤例
(1)錠剤
実施例1で調製した2ODSH−2を100mg秤量し、これに乳糖670mg、馬鈴薯デンプン150mg、結晶セルロース60mg、および軽質無水ケイ酸50mgを添加して混合し、これにヒドロキシプロピルセルロース30mgをメタノールに溶解した溶液(10%(w/w))を添加して練合造粒した。次に、これを径0.8mmのスクリーンで押し出して顆粒状にし、乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム15mgを添加して圧縮成型し、100mgの錠剤を製造した。
【0056】
(2)カプセル剤
実施例1で調製した2ODSH−2を100mg秤量し、これに乳糖765mg、馬鈴薯デンプン150mg、ステアリン酸マグネシウム10mgおよび軽質無水ケイ酸50mgを添加して均一に混合し、これを100mgずつ硬カプセルに充填し、カプセル剤を製造した。
【0057】
(3)軟膏剤
実施例1で調製した2ODSH−2を100mg秤量し、これに鉱油4g、石油ゼリー8g、混合メチル/プロピルパラバン60mg、非イオン性界面活性剤1gおよび精製水30gを添加して均一に混合し、これを容器に充填し、軟膏剤を製造した。
【0058】
膣用座剤
実施例1で調整した2ODSH−2を100mg秤量し、マクロゴール400を3000mgとともに60℃で加温溶融して均一に混合した後、プラスチックの型に注いで冷却し、膣用座剤を製造した。
【発明の効果】
ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とする硫酸化グリコサミノグリカンにおいて、構成ヘキスロン酸残基の2位の硫酸基を除去することにより安全で副作用のないクラミジア感染症処置剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヘパリン、2ODSH−2およびCDSNSHのHeLa229細胞へのクラミジア感染阻害を示すグラフである。
【図2】ヘパリン、2ODSH−2および低分子化2ODSH画分のHeLa229細胞へのクラミジア感染阻害を示すグラフである。
【図3】ヘパリン、2ODSH−2およびCDSNSH処理EBのHeLa229細胞へのクラミジア感染阻害を示すグラフである。
【図4】ヘパリナーゼIのHeLa229細胞へのクラミジア感染阻害を示すグラフである。
【図5】ヘパリナーゼI前処理HeLa229細胞へのクラミジア感染阻害を示すグラフである。
Claims (2)
- ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするヘパリンにおいて、該ヘキスロン酸残基の全ての2位の水酸基に硫酸基を有しないヘパリンまたはその塩を有効成分とすることを特徴とするクラミジア感染症処置剤。
- ヘキスロン酸残基とヘキソサミン残基から成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするヘパリンにおいて、該ヘキスロン酸残基の全ての2位の水酸基に硫酸基を有しないヘパリンまたはその塩を有効成分とすることを特徴とするクラミジア感染症防止剤。
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