JP4632588B2 - 建築用Al合金材とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は建築用Al合金材とその製造方法に関し、更に詳しくは、260〜280℃という高温域での焼き付け塗装が行われることを前提に建築用資材として実使用されるAl合金材であって、焼き付け塗装の前後にあっても耐力低下が小さく、また伸びも充分に保持しているので折り曲げ加工性が優れている建築用Al合金材とそれを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高層ビルの外壁材や内装材またはカーテンウォール材などに軽量なAl合金材が使用されている。
その場合、例えば図5で示したように、Al合金板1を90°折り曲げる加工が行われ、最近では図6で示したように、90°超えて折り曲げる鋭角折り曲げ加工が増加している。そして、このような折り曲げ加工においては、曲げ部分2をシャープにして意匠性を高めることが追求されている。その1例として、図7で示したように、Al合金材1に切り欠き3を入れて折り曲げる方法がある。
【0003】
そして、上記したような折り曲げ加工を行うに先立ち、そのAl合金材に例えばフッ素樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、ウレンタン樹脂塗料のような塗料を所定の温度で焼き付け塗装して意匠性や耐食性を高めるための処置が施される。
このような態様で実使用される建築用Al合金材には、したがって、次のような性能が求められることになる。
【0004】
まず、建築用資材であることから、施工後にあっても適切な強度特性が必要である。具体的には、例えばビル用の外壁材の場合、施工後においてもその耐力が95N/mm2以上になっていなければならない。
また、適切な伸び特性を有していて、折り曲げ加工が円滑に実施でき、しかも曲げ部分がシャープになることである。
【0005】
従来、建築用Al合金材としては強度特性が重視されていて、A3004−H24材、A3004−H32材などが使用されている。
これらの材料の製造に際しては、まず、所定規格のAl合金材が溶解され、そのインゴット(鋳塊)が製造される。ついで、この鋳塊に対して所定の温度で所定の時間加熱する均熱処理が施されたのち、熱間圧延加工が所定の加工率で行われる。
【0006】
この熱間圧延加工の過程で、鋳塊の鋳造組織は圧延方向に押し延ばされてファイバ組織に転化する。
その後、冷間圧延を行って結晶粒径の微細化と厚み調整などが行われ、ついで焼鈍して加工歪みを除去し、再度、冷間圧延、そしてそのときの加工歪み除去のための熱処理を行って、実使用に供されている。
【0007】
上記したA3004−H24材などの材料はいずれも冷間圧延止まりの材料であり、その再結晶粒は微細であり、ファイバ組織が残存しているということもあって、シャープな90°折り曲げ加工が可能である。
しかしながら、伸び特性は充分とはいえず、90°を超える鋭角折り曲げ加工を行うと曲げ部分にクラックが発生することがある。このようなクラックが発生した場合、その部分を溶接して補修しなければならず、そのため、生産性の低下とコストアップを招く。
【0008】
なお、上記した一連の製造工程において、熱間圧延加工、冷間圧延加工が終了した時点で、圧延材には圧延歪みが蓄積されている。そして、その後に圧延材が再結晶化温度以上の温度に加熱されると、加工歪みエネルギーを起点にして組織の中には再結晶粒が成長する。この再結晶粒は、通常、ファイバ形状ではなくある大きさの粒形状になっている。
【0009】
そして、A3004−H24やA3004−H32などの材料は、260〜280℃の高温の焼き付け塗装を行うと、このときの熱で再結晶粒が成長し、その結果、焼き付け塗装後の耐力は、塗装前に比べて30〜40%程度低下し、建築用資材として必ずしも信頼性が高い材料とはいえない状況にある。
このようにして製造されている各種のAl合金材が前記した建築用資材として選択されて使用されるわけであるが、例えば折り曲げ性を重視する場合には、Al合金材としては、A3004−O材やA3003−O材の使用も検討されている。
【0010】
しかしながら、これらの材料は、強度特性が低いので曲げ部分がシャープにならないという問題や、その組織が比較的粗大な再結晶粒を主体としているため曲げ部分に、例えば焼き付け塗装の剥離などの肌荒れが生じやすいという問題がある。
また、この材料の耐力は95N/mm2よりも大幅に小さいため、ビル外壁材の必要条件を満たさない。そのため、多くの補強材でその耐力不足をファイナンスすることが必要となり、結局、建築に要するコストを高めることになる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は建築用資材として使用され、しかも焼き付け塗装を前提として使用されているAl合金材における上記した問題を解決し、焼き付け塗装後にあっても耐力の低下が非常に小さく、また伸び特性も適切であるためシャープな折り曲げ加工、例えば鋭角曲げ加工も可能である建築用Al合金材とその製造方法の提供を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
JISで規定するA3003の熱間圧延材であって、温度300℃以下での焼き付け塗装後における組織が、ファイバ組織と面積比率20%以下の再結晶粒組織とから成り、前記焼き付け塗装の前後における耐力の低下率が10%以下であることを特徴とする建築用Al合金材が提供される。
【0013】
また、本発明においては、JISで規定するA3003の鋳塊に均熱処理を施し、ついで、圧延終了時の温度が290〜340℃である熱間圧延加工を行うのみで実使用に供することを特徴とする建築用Al合金材の製造方法が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のAl合金材は、強度特性が優れているA3003材に後述する条件の熱間圧延加工のみを行ってただちに実使用に供される材料である。すなわち、従来のAl合金材の場合のように、熱間圧延後に、更に続けて冷間圧延−中間焼鈍−冷間圧延−熱処理という工程を経て製造されたものではない。
【0015】
具体的には、次のようにして製造される。
まず、所定組成のA3003材を溶解し、その鋳塊を製造する。ついで、この鋳塊に均熱処理を施したのち熱間圧延加工を行う。
均熱処理は、500〜630℃の温度域で1〜15時間程度実施することが好ましい。処理温度を500℃より低くすると、例えばAlMnを主体とする金属間化合物の生成量が減少して鋳造組織(凝固組織)からの再結晶粒は粗大化するため、材料の曲げ加工性の低下や外観不良が発生しやすくなる。また、処理温度を630℃より高くすると、鋳塊の変形や膨れなどが発生し、以後の工程(熱間圧延)を経る過程で組織欠陥を引き起こすようになる。好ましい処理温度は600〜630℃である。
【0016】
また、処理時間が1時間未満である場合には鋳塊全体を均熱化することができないので均質な熱間圧延加工が困難になる。また15時間より長くしても均熱効果は飽和に達し、徒に熱エネルギーを浪費してコスト的に不利となる。望ましい処理時間は2〜6時間である。
このようにして均熱化された鋳塊には、次に、ただちに熱間圧延が施されてその鋳造組織をファイバ組織にすると同時に、微細な2次組織(サブグレイン)を成長させる。
【0017】
本発明のA3003材にあっては、上記した熱間圧延を終了して、そのまま、建築用資材として実使用に供される。したがって、実使用に供された時点で、この熱間圧延材であるA3003材の組織は圧延加工によって形成された組織であるファイバ組織が主体となっており、そこに微細な2次組織の所定量が分散した状態になっている。
【0018】
このA3003材は、上記したような組織になっているので、次のような効果を発揮する。
まず、例えば鋭角折り曲げ加工を行ったとき、組織がファイバ組織のみである場合、曲げ部分にはファイバ組織の粒界に沿って割れなどが発生するが、この材料では微細な2次組織も共存しているので、上記した割れの発生は抑制される。
すなわち、鋭角曲げ加工が可能になる。
【0019】
また、このA3003材の場合、これに温度300℃以下、より具体的には260〜280℃という高温域で焼き付け塗装を施したとしても、焼き付け塗装の前後において、A3003材の耐力の低下率は10%以下の値になる。そして、焼き付け塗装後にあっても、その耐力の絶対値は95N/mm2以上が確保されていて、ビルの外壁材としての必要条件を満たしている。また伸び値も27%以上になっていて良好な折り曲げ加工ができる。
【0020】
上記した特性、とりわけ焼き付け塗装前後の耐力低下率が10%以下になるという特性は、前記した微細な2次組織がファイバ組織と共存していることによってもたらされる効果である。この2次組織は、当然のこととして、高温域での焼き付け塗装時に、再結晶粒組織に成長してその粒径は大きくなり、またその析出量も増加する。
【0021】
しかしながら、本発明のA3003材の場合、高温域での焼き付け塗装後にあってもこの再結晶粒組織の存在量は、組織全体に占める面積比率20%以下となり、残りはファイバ組織のままであるように制御されていて、そのことにより焼き付け塗装前後における耐力低下率が10%以下に規制されているのである。
このような特性は、上記した熱間圧延加工において、圧延終了時の材料温度を290〜340℃に管理することによって実現させることができる。
【0022】
この圧延終了時の温度が340℃より高くなると、伸びは35%程度の値になるが、その組織はほとんど再結晶粒組織になってしまい、そのため、折り曲げ加工時の曲げ部分の肌荒れが発生するようになる。
また、圧延終了時の温度を290℃より低くすると、前記した微細な2次組織の生成量は少なくなり、また伸びは27%より小さくなって鋭角折り曲げ加工時に割れが発生するようになる。
【0023】
圧延終了時の温度を290〜340℃に管理するために、本発明においては、圧延開始時の温度は350〜450℃に設定される。
この温度を350℃より低くすると、圧延終了時の温度を290℃以上に確保することができず、強度は高くなるものの伸びが小さくなるため、折り曲げ加工時に割れなどが発生してくる。
【0024】
また450℃より高くすると、圧延終了時の温度を340℃以下にすることが困難となって、圧延終了時の組織においては、粗大な再結晶粒組織が主体となり、折り曲げ加工時の曲げ部分の肌荒れが発生する。そして、耐力は95N/mm2より小さくなる。
【0025】
【実施例】
実施例1〜16,比較例1〜9
(1)Al合金材
以下の組成のAl合金材を溶解し、その鋳塊(厚み500mm)を製造した。
A3003材:Si0.58質量%,Fe0.68質量%,Cu0.18質量%,Mn1.48質量%,Mg0.02質量%,Zn0.09質量%、残りはAlと不可避的不純物。
A3004材:Si0.58質量%,Fe0.68質量%,Cu0.20質量%,Mn1.48質量%,Mg1.01質量%,Zn0.23質量%、残りはAlと不可避的不純物。
【0026】
(2)板材の製造
以下の条件を備えた方法で表1に示した板厚の板材を製造した。
本発明方法(A):鋳塊に温度600℃の均熱炉で6時間の均熱処理を行ったのち、圧延開始時の温度を550℃とし、圧延終了時の温度を表1で示した温度となるような温度管理下で熱間圧延加工を実施。そのまま板材として使用。
従来方法(B):鋳塊に温度600℃の均熱炉で6時間の均熱処理を行ったのち、圧延開始時の温度を550℃、圧延終了時の温度310℃の熱間圧延を行い、ついで、温度80℃の冷間圧延を行った。
ついで、温度360℃で3時間の中間焼鈍を行い、更に温度80℃の冷間圧延を行ったのち温度230℃で3時間の熱処理を行った。その後、板材として使用。
【0027】
(3)特性の測定
焼き付け塗装前後の耐力低下率(%):
焼き付け塗装前における各板材の耐力(Γ0)と伸びを測定した。
ついで、各板材にフッ素樹脂塗料を塗布し、表1で示した温度の焼き付け塗装を行い、そのときの耐力(Γ)と伸びを測定した。
100×(Γ0−Γ)/Γ0を計算し、焼き付け塗装前後の耐力低下率とした。結果を表1に示す。
【0028】
再結晶粒組織の面積比率:
バーカー法で結晶組織を観察した。
具体的には、各板材の表面を研削加工し、その加工面を電解研磨し、研磨面に対しHBF4液を用いたエッチング処理を行い、偏光を用いた画像処理で再結晶粒組織の面積を積算した。そして、視野(5mm×5mm)内の上記積算値の割合(百分率)を求めた。その結果を表1に示した。
また、実施例9と比較例8の板材については、その組織の顕微鏡写真(倍率×50)を、それぞれ図1と図2に示した。
【0029】
(4)折り曲げ試験
焼き付け塗装後の各板材につき折り曲げ加工を行い、曲げ部分の肌荒れ(塗装の剥離)と割れの有無を目視観察した。
肌荒れに関しては、図3に示すように圧延方向4に直交する方向と、図4で示したように、圧延方向4に平行な方向の2態様で行い、肌荒れの観察されたときの曲げ角度を求めた。
また、割れに関しては、図4に示すように圧延方向に平行な方向に90°折り曲げ加工と180°折り曲げ加工を行い、割れ発生の有無を観察した。
割れのない場合を○、微小な割れが発生しているが実用上問題のない場合を△、明らかな割れが発生した場合×で示した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1と顕微鏡写真から次のことが明らかである。
(1)実施例9と比較例6を対比して明らかなように、材料が同じで、圧延終了時の温度が同じでかつ板厚が同じであっても、熱間圧延に続けて冷間圧延や中間焼鈍などを経て製造した比較例6の場合、塗装温度が同じ260℃であるにもかかわらず、塗装後の耐力は実施例9に比べて小さく、95N/mm2に満たない。そして、曲げ試験においても、実施例9に比べて肌荒れを起こしやすくなっている。これは、比較例6の組織が熱間圧延後の一連の工程、更には焼き付け塗装時において再結晶粒組織になっているからである。
このようなことから、焼き付け塗装によっても再結晶粒組織を成長させることのないような条件の熱間圧延のみで製造する本発明方法の有効性は明らかである。
【0032】
(2)図1で示した実施例9の焼き付け塗装後の組織はファイバ組織と微細な2次組織(サブグレイン)が混在している。そして、焼き付け塗装後の耐力と伸びは、それぞれ、122N/mm2、29.5%と高い値を示し、しかも耐力低下率は1.6%と非常に小さい。そのため、優れた曲げ試験の結果が得られている。一方、図2で示した比較例8の焼き付け塗装後の組織にはファイバ組織は認められず、粗大な再結晶粒組織になっている。そして、焼き付け塗装後の耐力は160N/mm2と高い値を示しているが、その伸びは15.2%と小さく、また耐力低下率は28.9%と極めて大きい。その結果、曲げ試験時の肌荒れ、割れは極めて劣悪になっている。
このようなことから、ファイバ組織と微細な2次組織が共存する組織を備えた本発明の建築用Al合金材の有用性は明らかである。
【0033】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、圧延終了時の温度を290〜340℃に管理するA3003材の熱間圧延材は、焼き付け塗装後にあっても再結晶粒組織が成長せずにファイバ組織を主体とする状態を維持し、耐力低下率が10%以下になっており、また耐力の絶対値95N/mm2以上、伸びも27%以上を確保している。したがって、本発明のAl合金材は、焼き付け塗装を行っても、折り曲げ加工性が優れ、しかも耐力低下を起こさない建築用資材としてその工業的価値は大である。
【0034】
なお、上記した説明は、焼き付け塗装時の温度が260〜280℃である場合について行ったが、本発明の建築用Al合金材は、焼き付け塗装時の温度が260℃以下であっても、280〜300℃であっても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例9の板材組織の顕微鏡写真である。
【図2】比較例8の板材組織の顕微鏡写真である。
【図3】板材を圧延方向と直交する方向に折り曲げた概略図である。
【図4】板材を圧延方向と平行な方向に折り曲げた概略図である。
【図5】板材の90°折り曲げ加工を示す概略図である。
【図6】板材の鋭角折り曲げ加工を示す概略図である。
【図7】切り込みを設けた90°折り曲げ加工を示す概略図である。
【符号の説明】
1 Al合金材
2 曲げ部
3 切り込み
4 圧延方向
Claims (4)
- JISで規定するA3003の熱間圧延材であって、温度300℃以下での焼き付け塗装後における組織が、ファイバ組織と面積比率20%以下の再結晶粒組織とから成り、前記焼き付け塗装の前後における耐力の低下率が10%以下であることを特徴とする建築用Al合金材。
- 前記焼き付け塗装後における耐力が95N/mm2以上であり、かつ、伸びが27%以上である請求項1の建築用Al合金材。
- 前記焼き付け塗装時の温度が260〜280℃である請求項1または2の建築用Al合金材。
- JISで規定するA3003の鋳塊に均熱処理を施し、ついで、圧延終了時の温度が290〜340℃である熱間圧延加工を行うのみで実使用に供することを特徴とする建築用Al合金材の製造方法。
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