しかしながら、点描画によってパターンを形成するフォトマスクでは、階調数と解像度はドットの大きさと位置精度によって決定される。現在入手可能な製造設備では、ドットピッチは0.7μm程度、位置精度・分解能は0.3μm程度が限界である。解像度は1μm以上となる。また、不要な回折光の発生により、階調とドット密度が単純には対応しないので、正確な階調表現の露光を行うために複雑な計算が必要で手間がかかる。
よって、本発明は、より正確な階調表現が可能なフォトマスクを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明のひとつのフォトマスクは、複数のマスク領域を有する透明基板と、前記複数のマスク領域の各々に形成された一定ピッチの複数の溝からなる位相格子と、を備え、前記複数の溝の各々は、透明基板の中心を起点とする螺旋状の線上に形成され、前記複数の溝の各々の深さ及び幅の少なくともいずれかが露光パターンを担っていることを特徴とする。
上記のひとつのフォトマスクにおいて、前記一定ピッチをP、前記フォトマスクを使用する露光装置の露光光の波長をλ、その結像系レンズの入射側開口数をNA i とすると、P<λ/NA i に設定されることが好ましい。
また、上記のひとつのフォトマスクにおいて、前記複数の溝の各々の断面は略正弦波形状であり、前記複数の溝の各々の前記露光光における位相深さは、0〜1.5πの範囲内である、ことが好ましい。
上記目的を達成するため、本発明のフォトマスクは、透明基板と、上記基板に形成された一定ピッチの複数の溝からなる位相格子と、を備え、この位相格子の各溝の深さ及び幅のいずれかが露光パターンを担っている。これは、位相格子の各溝の深さ、幅、深さ及び幅のうちのいずれかが露光パターンに対応した情報を担っていることを意味する。より具体的には、このマスクを通過した投影光が被露光材上に露光パターンを形成するように、該各溝の深さ及び幅の少なくともいずれかのサイズが露光パターンの情報を担っている。
かかる構成とすることによって、位相格子(全透過型の回折格子)を用いたフォトマスクが得られる。位相格子の溝や幅で基板を透過する透過光の光量をコントロールすることによって、解像度の高い、中間階調の露光が可能なフォトマスクを得ることが可能となる。
好ましくは、上記ピッチをP、上記フォトマスクを照射する露光装置の露光光の波長をλ、結像系レンズの入射側開口数をNAiとすると、P<λ/NAiに設定される。それにより、位相格子の溝パターンが結像系レンズの解像度以下となって被露光基板に位相格子の溝自体は形成(結像)されずに、位相格子マスクが担う中間階調のパターン(濃度情報によるパターン)が形成されるようになる。
好ましくは、上記位相格子の溝の断面は略正弦波形状であり、この溝の上記露光光における位相深さは、0〜1.5πの範囲内である。また、上記位相格子の溝が略台形状であり、この溝の形状は略平面から露光光の波長における0次光の透過率が最小になる形状の範囲内である。この範囲内とすることによって、位相格子(マスク)を通過する透過光量を溝の深さ及び幅でコントロールすることが可能となる。
ここで、露光光の位相の深さdpは、dp=2π・d・|n2−n1|/λにより表される。dは格子の深さ、n1は格子周囲の屈折率(通常は空気の屈折率(=1))、n2は格子媒体の屈折率、λは露光光の波長である。
好ましくは、上記複数の溝は回転走査系によって形成される。それにより、パターン走査を連続的に行い、比較的に精度良くかつ簡単に位相格子型のフォトマスクを製造することが可能となる。
好ましくは、上記位相格子の複数の溝は、走査ビームの強度を変調することによって当該溝の深さ及び幅のうちの少なくともいずれかを形成したものである、好ましくは、上記位相格子の複数の溝は、1の溝の形成を1つ又は複数の走査ビームを使用して重複照射することにより、あるいは1の溝の形成を1つ又は複数の走査ビームを使用して走査密度を増すことによって、当該溝の深さ及び幅の少なくともいずれかを形成したものである。複数の走査ビームを使用することによって溝の深さや幅、溝の深さ及び幅の制御範囲が拡大する。
また、本発明の微細構造体は、透明基板と、上記基板に形成された一定ピッチの複数の溝からなる位相格子と、を備える微細構造体において、上記位相格子の各溝の深さ及び幅の少なくともいずれかがが表示すべきパターンの階調に対応して形成されている。
かかる構成とすることによって中間階調を表現したパターンを有する微細構造体を得ることが可能となる。例えば、微細構造体として、フォトマスク、回折格子、ホログラム、グラフィック表現物の表示媒体、ロゴやマークの標示体等が含まれる。
また、本発明の位相格子マスクの製造方法は、マスク基板にレジスト(感光性材料)を形成する工程と、上記レジストに所定間隔の複数の溝を含む位相格子マスクの潜像を形成する露光工程と、上記レジストを現像して位相格子レジストを形成する現像工程と、上記マスク基板に上記位相格子レジストの形状を転写する転写工程と、を含み、上記露光工程は、上記位相格子マスクのパターンに対応して強度変調された露光ビームによって上記レジストを走査して上記レジストに形成される露光溝の深さを設定する。
好ましくは、上記レジストはポジ型であり、上記露光ビームの露光量は、作成される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量から該0次光透過率が最大となる露光量までの範囲で制御される。
好ましくは、上記レジストはポジ型であり、上記露光ビームの露光量は、作成される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量から前記レジストが現像によって略全て除去される露光量までの範囲で制御される。
また、本発明の位相格子マスクの製造方法は、マスク基板にレジストを形成する工程と、上記レジストに所定間隔の複数の溝を含む位相格子マスクの潜像を形成する露光工程と、上記レジストを現像して位相格子レジストを形成する現像工程と、上記マスク基板に上記位相格子レジストの形状を転写する転写工程と、を含み、上記露光工程は、上記位相格子マスクのパターンに対応して強度差を与えられた少なくとも2つの露光ビームによって上記レジストを走査して上記レジストに形成される露光溝の深さを設定する。
かかる2つのビーム差によって溝の深さを設定することによって溝の形成をより正確にコントロールすることが可能となる。
好ましくは、上記2つの露光ビームのうち、第1の露光ビームによって第1の深さの第1の露光溝を形成し、上記第2の露光ビームによって第2の深さの第2の露光溝を形成し、上記第1及び第2の露光溝の形成位置の差によって上記露光溝の深さを相対的に設定する。
好ましくは、上記2つの露光ビームのうち、第1の露光ビームは一定の強度に保たれ、第2の露光ビームは上記位相格子マスクのパターンに対応して強度変調される。
好ましくは、上記2つの露光ビームのうち、第1の露光ビームは上記レジストに一定の深さの露光溝を形成し、上記第2の露光ビームはこの露光溝に隣接する土手部の高さを設定する。
好ましくは、上記2つの露光ビームは各々の強度が個別に設定され、この2つの露光ビームで同時に前記レジストを走査する。
好ましくは、上記第1及び第2の露光ビームを、1の露光ビームの強度設定の態様を各走査毎に変えることにより得る。
好ましくは、上記露光ビームのスポット径が上記位相格子マスクの溝間隔より小さく溝間隔の1/2よりも大きい。それにより、マスクの溝間を全て露光するすることが可能となる。
また、本発明の位相格子マスクの製造方法は、マスク基板にレジストを形成する工程と、上記レジストに所定間隔の複数の溝を含む位相格子マスクの潜像を形成する露光工程と、上記レジストを現像して位相格子レジストを形成する現像工程と、上記マスク基板に上記位相格子レジストの形状を転写する転写工程と、を含み、上記露光工程は、2つの露光ビームによって上記レジストを走査し、該レジストを照射する2つの露光ビームの間隔を上記位相格子マスクのパターンに対応して設定し、上記レジストに形成される露光溝の幅を設定する。
かかる構成とすることによって露光ビームの幅を実質的に可変に設定可能となる。
また、本発明の位相格子マスクの製造方法は、マスク基板にレジストを形成する工程と、上記レジストに所定間隔の複数の溝を含む位相格子マスクの潜像を形成する露光工程と、上記レジストを現像して位相格子レジストを形成する現像工程と、上記マスク基板に上記位相格子レジストの形状を転写する転写工程と、を含み、上記露光工程は、2つの露光ビームによって前記レジストを走査し、該レジストを照射する2つの露光ビームのなす角を上記位相格子マスクのパターンに対応して設定し、上記レジストに形成される露光溝の深さ及び幅を設定する。
かかる構成とすることによって、露光ビームによって形成される溝の深さと幅とを可変に設定可能となる。
好ましくは、上記2つの露光ビームを、1の露光ビームの照射方向を各走査毎に変えることにより得る。
好ましくは、上記2つの露光ビームは各々の照射方向が対称的に設定され、この2つの露光ビームで同時に前記レジストを走査する。それにより、半分の時間で走査を終了することが可能となる。
好ましくは、上記第1及び第2の露光ビームの強度を共に大として浅い溝を形成する。それにより、ポジタイプのフォトレジストの現像後の残量を少なくすることが可能となり、熱などによるマスクの変形を減らすことが可能となる。
好ましくは、上記走査は回転走査系である。
好ましくは、上記位相格子マスクの複数の溝の所定間隔Pは、上記位相格子マスクを照射する露光装置の露光光の波長をλ、結像系レンズの入射側開口数をNAiとすると、P<λ/NAiに設定される。
好ましくは、上記レジストに形成される露光溝の断面は略正弦波形状であり、この溝の前記露光光における位相深さは、0〜1.5πの範囲内である。
好ましくは、上記位相格子の溝が略台形状であり、この溝の形状は略平面から露光光の波長における0次光の透過率が最小になる形状の範囲内である。
好ましくは、上記レジストはポジ型であり、このレジストへの上記露光ビームによる露光光量が、作成される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量から該0次光透過率が最大となる露光量までの範囲となるようになされる。それにより、広い範囲の0次光透過率を得ることが可能となる。
好ましくは、上記レジストはポジ型であり、このレジストへの上記露光ビームによる露光光量が、作成される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量から上記レジストが現像によって略全て除去される露光量までの範囲となるようになされる。それにより、広い範囲の0次光透過率を得ることが可能となる。
また、本発明の露光装置は、位相格子の各溝の深さ又は幅がマスクパターンを担う位相格子型のマスクと、上記マスクに露光光を照射する露光光源と、感光膜が塗布された被露光材料と、上記マスクを通過した露光光のうち上記位相格子による0次光を上記被露光材料上に集光する投影レンズなどの投影手段と、を備える。好ましくは、上記位相格子の溝のピッチをP、上記露光光源の露光光の波長をλ、上記投影手段の集光(結像)レンズの入射側開口数をNAiとすると、P<λ/NAiに設定される。
好ましくは、上記投影手段は、上記0次光のみを上記被露光材料に投影し、1次光以上の高次光は投影せず、上記フォトマスクは、上記位相格子の各溝の深さ又は幅により上記0次光の回折効率を決定し、上記感光膜に上記マスクパターンに対応した露光階調を与える。
好ましくは、上記位相格子の溝の断面は略正弦波形状であり、この溝の上記露光光における位相深さは、0〜1.5πの範囲内である。それにより、位相格子(マスク)を通過する透過光量を溝の深さでコントロールすることが可能となる。
好ましくは、上記位相格子の溝が略台形状であり、この溝の形状は略平面から露光光の波長における0次光の透過率が最小になる形状の範囲内である。
かかる構成とすることによって、位相格子型のフォトマスクを用いてパターン露光を行うことが可能となる。また、解像度の高い、中間階調の露光を行うことが可能となる。
好ましくは、上述した露光装置を用いて、マイクロレンズ、反射板、導光板、フォトマスク、液晶パネル、半導体基板、マイクロ・エレクトロニクス・メカニカル・システム(MEMS)基板、回折格子、ホログラム、光通信デバイス、グラフィック表現物の表示媒体、等の微細構造体が製造される。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明のフォトマスクを概略的に説明する説明図である。
同図に示されるフォトマスクは位相格子型のマスクである。フォトマスクは、透明な基板(例えば、屈折率1.48の石英基板)を使用している。この表面に所定の間隔P(例えば、0.6μm)で複数の溝(位相格子)が形成されている。この溝の幅又は深さ、あるいはこの溝の幅及び深さは、マスクパターンの情報を担っており、パターンに対応した
ものとなっている。図示の例は、マイクロレンズの形成に使用するフォトマスクのパターンを示しており、場所によって溝の幅及び深さが異なっているが、主に溝の深さがフォトマスクのパターンの情報を担っている。
後述するように、位相格子の溝の最大の深さは、図示しない露光装置における露光光における位相深さの1.5π(ラジアン)となっている。例えば、i線の場合には、既述式により、d=570nmのとき、dp=1.5πである。また、溝の断面形状は、最大深さ付近で略正弦波となっている。このマスクに露光光を照射すると、マスクを透過した光は、0次光、±1次光、…に回折、分岐される。図示のマスクの例では、±1次光の回折角は35.6度となる。露光装置では、透過した露光光のうち0次光を用いてマスクパターンの描画(露光)を行う。
この際に、フォトマスクの位相格子のピッチPを、露光装置の結像光学系の最小分解能D(=λ/NA)よりも小さくする、すなわち、P<D=λ/NAと設定しておくことによって位相格子の溝パターン自体は露光装置の結像系では転写されず、0次光の光量分布(マスクパターン)のみが感光基板に転写される。それにより、マスクパターンの情報が転写される。前述したように、λは露光光の波長、NAは結像系レンズの入射側開口数である。
図2は、溝の断面形状が正弦波形状である位相格子の0次光の透過効率(回折効率)と位相深さ(溝の深さ)との関係を高速フーリエ変換(FFT)によって解析した結果を示している。位相深さが0π(ラジアン)のとき、0次光透過率は100%、1.5πのとき、0次光透過率は0%となる。それらの中間の位相深さでは深さに応じた値となる。従って、位相格子の溝の深さを形成すべきパターンの凹凸の高さに対応して設定することによって位相格子マスクの透過光量をコントロールすることが可能となる。なお、後述のように、位相格子の溝の幅によっても透過光量をコントロールすることが可能である。
次に、図3乃至図6を参照して位相格子マスクの製造方法について説明する。
図3は、フォトマスクを作製するために使用する回転走査系の露光装置を説明する図である。図4は、露光光の光変調系を説明する機能ブロック図である。図5は、露光装置による基板への露光軌跡を説明する説明図である。図6は、露光装置による溝形成過程を説明する説明図であり、同図(a)は、目標とする形状を示す図、同図(b)は、この形状を得るためにコントロールされる露光光の光量を説明する図、同図(c)は、フォトレジスト膜に基板形成される溝群の断面を説明する図、同図(d)は、フォトレジスト膜に基板形成されるマスクパターン情報を担った格子パターンを説明する平面図である。
図3及び図4に示すように、描画露光装置30は、ビーム露光光源としてのレーザ光37を出射するレーザ発生装置31、マスクの溝パターンの各画素に応じたレベル信号を回転座標系で発生する信号発生器(パターンジェネレータ)38、信号発生器38からのレベル信号に応じてレーザ光37を変調する音響光学変調器(AOM)32、この音響光学変調器32を経たレーザ光37を被露光基板42上に導く反射ミラー33,34等の案内光学系、レーザ光37を被露光基板42上に収束してスポット39を形成する対物レンズ35、被露光基板42を回転駆動するターンテーブル41、音響光学変調器32,反射ミラー33及び34,対物レンズ35等を載置してターンテーブル41の径方向に移動する移動光学台36、音響光学変調器32にパターン信号を供給する信号供給装置及び対物レンズ35の焦点位置を調整するフォーカス制御装置(図示せず)等によって構成されている。移動光学台36及びターンテーブル41は信号発生器38によって制御され、読み出し画素の座標位置と被露光基板42上のレーザスポット39の位置とが同期するようになされる。
レーザ発生装置31は、例えば、波長351nmのクリプトンガスレーザ装置である。対物レンズ35の開口数は0.9であり、マスク基板42上に0.48μm径のレーザスポット39を形成する。フォトレジストが塗布されたマスク基板42は、ターンテーブル41上に載置され、一定回転数で回転する。この回転に同期して対物レンズ35を載置した移動光学台36がターンテーブル41の半径方向に1回転あたり0.6μmの速度でゆっくり移動する。それにより、マスク基板42に、図5に示すような、螺旋状の露光が行われる。上述したように、レーザスポット39は露光軌跡43のトラックピッチ0.6μ
mよりも小さい。
例えば、図5に示す基板42のマスク形成領域にマイクロレンズを得るための位相格子マスク(フォトマスク)を形成する場合、図6(a)に示すような、マイクロレンズの形状のプロファイル(断面形状)に対応して、信号発生器38から音響光学変調装置32に描画位置の形状(高さ)に対応した信号を供給して、図6(b)に示すように、レーザ光37の露光量を制御する。露光量はより多段階であっても、連続的であっても良い。露光後に基板42のフォトレジスト膜の現像処理を行うことによって、図6(c)及び同(d
)に示すように、0.6μmピッチ(P)の溝群が形成される。これ等の溝は全体として見れば図5に示すように螺旋状である。各溝は互いに平行であり、また、各溝は、形成すべきマイクロレンズの各部の高さに応じた深さとなっている。前述したように、各溝の深さは、後述の露光装置60において使用する露光光の位相深さの0から1.5π(例えば、i線の場合、0〜570nm)の間で形成される。この後、フォトレジスト膜をマスクとしてドライエッチングを行い、フォトレジスト膜の位相格子を石英基板に転写し、位相格子マスクを得る。
次に、図7を参照して上述した位相格子マスクを使用するパターン露光の概略について説明する。
同図に示すように、パターン露光装置60は、露光光源61、位相格子マスク42、投影レンズ66、感光基板67が基準線上に適当な間隔で配置されて構成されている。露光光源61には、波長(λ)が365nmのi線の紫外線ランプが使用される。フォトマスク42は前述した石英基板の位相格子マスクである。マスク42の溝の最大の深さは、i線の位相深さ1.5πに相当する570nmである。また、溝ピッチは0.6μmである
。投影レンズ66の入射側開口数NAは0.4、入射瞳の仰角は23.6度に選定されている。
投影レンズによる結像系を備える露光装置の最小分解能Dは、D=λ/NAで表される。この実施例の場合、最小分解能Dは、0.365/0.4=0.912μmとなり、フォトマスクの位相格子のピッチP(=0.6μm)は、P<D=λ/NAを満たしている。従って、位相格子の溝パターンは露光装置の結像系では転写されず、0次光の光量分布のみが感光基板67に転写される。感光基板67は被処理材料にポジ型のフォトレジスト68を塗布したものである。
露光光62によってフォトマスクを照射すると、透過光は位相格子によって、0次光64、±1次光65に分かれる。0次光64は直進し、±1次光65の回折角は35.6度となる。投影レンズ66の入射瞳の仰角は23.6度であるため、±1次光65は投影レンズ66から外方に外れ、0次光64のみが投影レンズ66に入射する。なお、露光光62の波長と位相格子の溝間隔(ピッチ)の選定次第では、2次光以上のより高次の回折光を生じうるが、より高次の回折光は一次光よりも回折角度が大きいため、投影レンズ66には入射しない。
投影レンズ66によってフォトマスク42のパターンが所定時間露光された基板67は現像処理される。露光量の多い部分(マスク42の溝の浅い領域)は、深く現像され、露光量の少ない部分(マスク42の溝の深い部分)では浅く現像される。例えば、フォトマスクが図5(d)に示すようなパターンである場合、図5(a)に示すような、フォトレジストによる半球状のマイクロレンズが基板に得られる。このマイクロレンズを用いることにより、あるいはこのレジストのマイクロレンズをマスクとして基板をエッチングしてマイクロレンズの形状を転写することによって微細構造体が形成される。
図8は、上述したパターン露光装置60としてステッパを使用する例を説明する概略構成図である。図8において、ステッパ70は、波長λのi線62を出射可能な水銀ランプなどから構成した光源71を有している。光源71が出射した露光光62はコンデンサレンズ72によって並行光となり、コンデンサレンズ72の下方に配設したレチクル台76に保持されたレチクル77を照射する。レチクル77は前述した位相格子マスク42によって構成されている。レチクル台76は、図示しない移動機構により上下方向移動可能に形成してある。また、レチクル台76の下方には、縮小投影レンズ78が設けてある。この縮小投影レンズ78は、前述した投影レンズ66に相当し、位相格子マスク42によって生じた0次光のみを平面移動可能なワークテーブル79の上面に配置した半導体基板80(基板67に相当する)に縮小投影する。縮小投影は、レチクル77に形成したパターンを、例えば、1/5または1/10等に縮小して基板上に投影することができる。
このような露光装置70においては、投影レンズ78の瞳面78aの開口をNA、露光光の波長をλとすると、解像度(最小分解能)Dはλ/NAで表される。解像度Dよりも位相格子のピッチPを狭くすると、0次光のみの露光によって基板80のフォトレジスト68には位相格子の溝の深さ又は幅、あるいは溝の深さ及び幅に記録された半球状の露光パターン(潜像)が形成される。
このように形成したステッパ70は、位相格子マスク42で形成された、例えば、マイクロレンズのパターンを半導体基板80に塗布されたフォトレジスト68にステップアンドショットを繰り返してマイクロレンズアレイの露光パターンを形成する。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。上述した第1の実施の形態では、位相格子の溝を形成する際に1つのビームによってレジストに断面が正弦波状となる溝を形成し、このビームの強度を変えることによってこの溝の深さを設定している。第2の実施の形態では、位相格子の溝(groove)の回りの土手(land)の高さを変化することによって溝の深さを相対的に設定している。具体的には、レジストに形成した定トラックピッチの深い溝の相互間の土手を強度変調したビームで露光して土手の高さを変化し、該深い溝の(土手からの)深さを設定する。
(実施例1)
このため、第2の実施の形態の第1の実施例では、スライダの送りを半ピッチとし、第1の走査のビーム露光で深溝(又は土手)を形成し、第2のビーム露光で土手(又は深溝)を形成する。別言すれば、位相格子の1つの溝を形成する際に、該溝に対応するレジストの溝を2つ(複数)のビーム走査によって形成する。この方法には、前述した図3及び図4に示した露光装置を使用できる。
すなわち、両図に示すように、レーザ発生装置31から出射されたビームは音響光学変調器32、反射ミラー33及び34、対物レンズ35を経て基板上に集光される。前述したように、レーザビームスポット39の径(エアリーディスクの第1暗環)は、0.48μmであり、溝ピッチ0.6μmよりも小さく、溝ピッチの1/2よりも大きい。マスク基板42の表面には、スピンコートによって、約800nmの厚さにフォトレジスト44が塗布されている。この基板42をターンテーブル41に載置して、一定回転数で回転する。
この実施例では、ターンテーブル41を一定回転数で回転すると同時に、対物レンズ35を搭載した移動光学台36を半径方向に1回転当り、0.3μmという、第1の実施の形態の半分の速度でゆっくりと移動することにより、レジスト44をビームスポット39でスパイラル状に露光する。別言すれば、第1の実施の形態の、トラックピッチを1/2、トラック数を2倍として、光ビーム露光走査を行う。従って、第1の実施の形態における格子の1つの溝を2つのビーム走査(1ピッチに2つの溝)で形成することになる。
ここで、図9に示すように、1の格子ピッチ内における2つのトラックの第1のビーム走査(例えば、奇数トラック走査)をバイアスビーム37a、第2のビーム走査(例えば、偶数トラック走査)を変調ビーム37bと称することにする。バイアスビーム37aによる露光と変調ビーム37bによる露光とを1回転ずつ交互に行う。例えば、バイアスビーム37aによる溝は一定量のエネルギ密度で露光される。隣接トラックの変調ビーム37bの光量が0のとき、溝は最大の深さになり、0次光透過率が最小になるように、バイアスビーム37aの露光量が決められる。変調ビーム37bの光量は、0からバイアスビーム37aの光量との間で、描画パターンに応じた信号によって変調される。この信号は予め信号発生器38に記憶されている。変調ビーム37bの光量が0のときは上述したように溝は最大の深さとなり、0次光透過率は最小となる。変調ビーム37bの光量が最大、すなわち、バイアスビーム37bの光量と等しくなるときは、溝は形成されない。これは、ビーム径がトラックピッチ(=溝ピッチの1/2)より大きいために、光学的分解能が不足し、略全面均一露光と同等になるためである。このとき、0次光透過率は最大となる(図2参照)。
このような倍密度走査による溝部と土手部の露光によってレジスト44にパターン露光を行い、露光後に現像処理を行うことによって0.6μmピッチのスパイラル状の溝が形成され、溝の深さに対応した0次光の透過率となるようにパターニングされた位相格子のマスクが作製される。これをマスクとして異方性ドライエッチングを行い、石英基板42に位相格子のパターンを転写して本発明のフォトマスクが完成する。
図11は上述した溝及び土手をパターニングした実施例の位相格子マスクの特性例(溝土手露光)を示している。また、図10は溝のみをパターニングした位相格子マスクの比較参考例(単ビーム露光)を示すグラフである。両グラフにおいて、左側の縦軸は位相格子マスクの0次光透過率を、右側の縦軸は溝の深さを示している。横軸は位相格子作製の際の露光ビームのパワーを示している。露光パワーは0次光透過率が100%となる値が1となるように、正規化している。
単ビーム露光方式では、黒丸点群のグラフで示される0次光透過率特性、黒角点群のグラフで示される深さ特性とも、全露光パワーのうち、0.6〜1.0の露光範囲で階調が得られ、曲線の立ち下がり、立ち上がりが急である。これに対し、実施例の溝土手露光方式では、単ビーム露光方式とは逆方向の傾斜特性を示す。そして、変調露光パワーが0〜1.0の広い露光パワー範囲で階調が得られ、0次光透過率特性曲線の立ち下がり及び深さ特性曲線の立ち上がりが共に緩やかであり、リニアリティも良好である。
(実施例2)
図12乃至図14は、第2の実施の形態の第2の実施例を示している。同図において、図3、図4及び図9と対応する部分には、同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。
この実施例では、同時に複数の(実施例では2つ)のビームを基板のレジストに照射することによって溝と土手とを同時に露光し、形成するようにしている。
図12及び図13に示されるように、レーザ発生器31から出射されたレーザビーム37は、ハーフミラーによるスプリッタ51によって2つのビームに分割される。第1のレーザビームはバイアス信号が印加される音響光学変調器32aを経てバイアスビーム37aとなり、反射ミラー33、ハーフミラー55、反射(落射)ミラー34及び対物レンズ35を経て基板42上に至り、バイアスビームスポット39aとなる。第2のレーザビームは反射ミラー52、露光パターンに対応した変調信号が信号発生器38から印加される音響光学変調器32bを経て変調ビーム37bとなり、音響光学偏向器(AOD)53、1/2波長板54、ハーフミラー55、反射ミラー34及び対物レンズ35を経て基板42上に至り、変調ビームスポット39bとなる。ここで、音響光学偏向器53は、ビームスポット39aとビームスポット39bとの相互間の距離を設定するために使用される。
また、1/2波長板54は、2つのレーザビーム37a及び37bが互いに干渉しないようにするために、ビーム37bの偏光面をビーム37aの偏光面に対して90度回転させる。
図14に示すように、2つのビーム37a及び37b間の距離は、音響光学偏向器53により0.3μmに調整されている。移動光学台36が半径方向にターンテーブル41の1回転当り、0.6μm(トラックピッチ)の速度でゆっくりと移動することにより、実施例1のターンテーブル2回転分の露光を1回転で行うことができる。2つのビームのうち片方、例えば、ビーム37aを音響光学変調器32aで一定光量とし、これをバイアスビーム37aとして一定量のエネルギ密度でレジスト44を露光する。これにより、レジスト44に深い溝を形成することができる。残りの1つのビーム37bを音響光学変調器
32bで露光パターンに対応してレベル変調し、これを変調ビーム37bとしてレジスト44を露光してパターンを記録する。これにより、高さが変化する土手部を形成することができる。
このような同時2ビーム(複数ビーム)走査による溝部と土手部の露光によってレジスト44にパターン露光を行い、露光後に現像処理を行うことによって0.6μmピッチのスパイラル状の溝が形成され、溝の深さに対応した0次光の透過率となるようにパターニングされた位相格子のマスクが作製される。これをマスクとして異方性ドライエッチングを行い、石英基板42に位相格子のパターンを転写して本発明のフォトマスクが完成する。
(実施の形態3)
この実施の形態では、隣接した2つのトラック上を走行するスライダから両トラックの中間に向けて2つのレーザビームを斜めに照射してフォトレジストを露光し、2つの傾斜ビームの重畳加減によって両トラック間に形成されるレジストの溝の深さ及び幅を設定する。
(実施例1)
図15、図16及び図17は、第3の実施形態の第1の実施例を示している。同図において、図3、図4及び図9と対応する部分には、同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。
実施例1においては、螺旋状に走査する1つのレーザビームの向きを1トラック(あるいは1回転)毎に径方向の内外に交互に切り替えることによって2つの傾斜ビームを得ている。
図15及び図16に示されるように、レーザ発生器31から出射されたレーザビーム37は、バイアス信号が印加されてレーザビーム37の直流レベルを設定する音響光学変調器32、偏向信号が供給される音響光学偏向器53、反射ミラー33、落射ミラー34及び対物レンズ35を経て基板42上に至り、ビームスポット39を形成する。信号発生器38は、露光パターンに対応した偏向データを極座標形式で予め記憶しており、トラック上の走査位置に対応して偏向信号を音響光学偏向器53に供給する。偏向データは、奇数トラックのデータと偶数トラックのデータとを含んでいる。例えば、ターンテーブル41の中心からその外周側に向かって移動光学台36を移動しながら螺旋状に露光ビームを走査させるとき、奇数トラックの露光パターンのデータ(画素データ)は、当該トラック位置の上方にあるレーザビーム37をターンテーブル41の径方向の外側に向かって所定量偏向させる情報を含んでいる。また、偶数トラックのパターンデータは、当該トラック位置の上方にあるレーザビーム37をターンテーブル41の径方向の内側に向かって所定量偏向させる情報を含んでいる。各データの偏向量は0から半ピッチの間で設定される。
かかる構成において、図17に示されるように、移動光学台36は、半径方向にターンテーブル41の1回転当り、0.3μm(トラックピッチ)の速度で、ターンテーブル41の中心側から外側に向かってゆっくりと移動する。露光によって形成される1つの溝は奇数トラック上からのビーム露光と隣接する偶数トラック上からのビーム露光との2回の露光で形成されるため、その溝ピッチは0.6μmとなる。
ビーム37は音響光学偏向器53により、奇数トラック露光時には外側方向に、偶数トラック露光時には内側方向に、描画パターンに応じた信号によって0からトラックピッチの半分(0.15μm)の距離の間で偏向される。
偏向量が0のとき、ビーム37は0.3μmピッチで各トラックを露光するため全面露光となり、作製された位相格子の0次光透過率は最大となる。ビーム37の偏向量が最大(0.15μm)のときは、奇数トラックの露光と偶数トラックの露光が重なるため、0.6μmピッチの最大深さの位相格子が作製される。このとき0次光回折効率が最小(略0)になるようにビーム光量が調整されている。
このような傾斜が変調されたビーム走査による露光によってレジスト44にパターン露光を行い、露光後に現像処理を行うことによって0.6μmピッチのスパイラル状の溝が形成され、溝の深さに対応した0次光の透過率となるようにパターニングされた位相格子のマスクが作製される。これをマスクとして異方性ドライエッチングを行い、石英基板42に位相格子のパターンを転写して本発明のフォトマスクが完成する。
このようにして、マスクパターンに対応したレーザビーム37の偏向量に応じた幅と深さの位相格子の溝が作製され、位相格子の0次光透過率も偏向量(マスクパターン)に応じた値となり、中間階調が表現される。
(実施例2)
図18、図19及び図20は、第3の実施形態の第2の実施例を示している。図18乃至図20において、それぞれ図15乃至図17と対応する部分には同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。
この実施例では、傾斜を変化した2つのビームを同時に重畳してフォトレジストの露光を行い、2つの傾斜ビームの重畳加減によって両トラック間に形成されるレジストの溝の深さ及び幅を設定する。
図18及び図19に示されるように、レーザ発生器31から出射されたレーザビーム37は、ハーフミラーによるスプリッタ51によって2つのビーム37a及び37bに分割される。レーザビーム37aはレベル設定信号が印加される音響光学変調器32a、音響光学偏向器53a、反射ミラー33、ハーフミラー55、反射(落射)ミラー34及び対物レンズ35を経て基板42上に至り、ビームスポット39aとなる。レーザビーム37bは反射ミラー52、レベル設定信号が印加される音響光学変調器32b、音響光学偏向器53b、1/2波長板54、ハーフミラー55、反射ミラー34及び対物レンズ35を経て基板42上に至り、ビームスポット39bとなる。1/2波長板54は、2つのレーザビーム37a及び37bが互いに干渉しないようにするために、ビーム37bの偏光面をビーム37aの偏光面に対して90度回転させる。
音響光学偏向器53a及び53bには、露光パターンに対応した変調信号が信号発生器38から印加される。信号発生器38は、露光パターンに対応した偏向データを極座標形式で予め記憶しており、トラック上の走査位置に対応して偏向信号を音響光学偏向器53a及び53bに供給する。音響光学偏向器53a及び53bはレーザビーム37a及び37bを対称的に偏向するように動作する。すなわち、音響光学偏向器53aは、変調信号に応じてレーザビーム37aの光軸を偏向し、トラック上の照射ビームの照射(傾斜)角度を基板42の径方向外向きに0からトラックピッチの半分(0.15μm)の距離の間で変化させる。音響光学偏向器53bは、上記変調信号に応じてレーザビーム37bの光軸を偏向し、トラック上の照射ビームの照射角度を径方向内向きに0からトラックピッチの半分の距離の間で変化させる。
レーザビーム37a及び37bの偏向量が0のとき、レーザビーム37a及び37bは0.3μmピッチで各トラックを露光するため露光部分では全面露光となり、作製された位相格子の0次光透過率は最大となる。ビーム37a及び37b各々の偏向量が最大(0.15μm)のときは、奇数トラックの露光と偶数トラックの露光が重なるため、0.6μmピッチの最大深さの位相格子が作製される。このとき0次光回折効率が最小(略0)になるようにビーム光量が音響光学変調器32a及び32bによって予め調整されている。
かかる構成によって、移動光学台36は半径方向に1回転当り、0.6μmの速度で内側から外側にゆっくりと移動する。描画パターンに応じた信号によって音響光学偏向器53a及び53bが駆動され、2つのビームのスポット間の距離が変調され、作製される溝の幅及び深さが変調される。フォトレジスト44を照射するレーザビーム37a及び37bの偏向量が大きいときには、レジスト44に深い溝が形成され、偏向量が小さいときには、浅く幅広な溝が形成される。
このようにして、レジスト44にパターン露光を行い、露光後に現像処理を行うことによって0.6μmピッチのスパイラル状の溝が形成され、溝の深さに対応した0次光の透過率となるようにパターニングされた位相格子のマスクが作製される。これをマスクとして異方性ドライエッチングを行い、石英基板42に位相格子のパターンを転写して本発明のフォトマスクが完成する。
なお、実施例では、初期スポットの間隔を0、音響光学偏向器53a及び53bによるビーム37a及び37bの偏向量をそれぞれ外側及び内側に0〜0.15μmとしているが、2つのビームの初期スポット間隔、音響光学偏向器による偏向駆動方向、偏向量等は様々な組み合わせが可能である。
上述した第1及び第2の実施形態の各第1の実施例の方法では、単一のレーザビームを使用するので全面露光の時の光量の均一性が高く、品質の良い位相格子を得ることが可能となる。
また、第1及び第2の実施形態の各第2の実施例の方法では、2つ(複数)のレーザビームを同時に用いて露光を行うのでパターン露光時間が半分となり、安価に位相格子を作製することが可能になる。
また、各実施例では、図9、図14、図17、図20に示したように、現像後のフォトレジストレジストの残りが少ないという利点がある。図21の参考例に示すように、現像後のフォトレジストの残りが多いと、特に、参考例のように浅い溝の部分で多く残る場合には、エッチング時の熱でフォトレジストが変形し易くなり、解像度が低下する傾向も生じ得るが、このような不具合を回避可能で都合がよい。
このように、マスクの解像度を向上するためには、トラックピッチを狭くする必要があるが、トラックピッチが狭くなり、光学的分解能に近づくと、露光パターンの断面は正弦波に近付いていく。こういった領域では、従来の2値マスク用のパターンとして閾値が曖昧で使用できない。しかし、実施例のフォトマスクは、この狭いトラックピッチ領域における正弦波状の断面の溝を積極的に利用できるために、従来よりもトラックピッチを狭めることができ、高解像度のマスクを得ることができる。
加えて、従来の2値マスクでは、ドットの位置精度や分解能がフォトマスクの解像度に影響を与えていたが、実施例のフォトマスクでは、そのようなことはない。
また、実施例のフォトマスクでは、露光量に対する0次光透過率の変化が線形で階調数が多くとれ、階調の制御性が良好なフォトマスクが得られる。また、現像後の残りのレジストが少なく、エッチング時の熱で変形しにくい、解像度の低下が少ないフォトマスクが得られる。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。既述の第1の実施の形態では、位相格子の溝の断面形状を正弦波状としているが、第4の実施の形態では、溝の断面形状を台形状としている。
図22は、位相格子の溝の形状を台形状にした例を示している。図23は、位相格子の溝の形状を正弦波状とした例を示している。このような、台形状の溝の位相格子と正弦波状の位相格子について溝の深さと0次光透過率の関係をシミュレーションしたグラフを図24に示す。
図24に示されるように、正弦波状の溝の位相格子の場合には、溝の深さを増加すると0次光透過率が100%から減少し、位相深さ1.5πで0次光透過率が最小(0%)となる。更に、溝の深さを増加すると、0次光透過率が緩やかに増加する部分が生ずる。一方、台形状の溝の位相格子の場合には、溝の深さを増加すると0次光透過率が100%から減少し、溝の深さが位相深さ1.15πで0次光透過率が最小(0%)となる。更に、溝の深さを増加すると、0次光透過率が100%からの減少傾向と同様の傾きで増加する
部分が生ずる。
図25及び図26は、台形状の溝の位相格子の溝幅と0次光透過率の関係をシミュレーションしたグラフを示す。
図25に示すように、台形状溝の基本形状を、溝ピッチP=0.6μm、溝の開口部W=0.375μm、溝の底部B=0.225μm、溝斜面の傾斜角度=79.1度、溝の深さd=437μmとした。
次に、溝の傾斜面の角度を一定として開口部W(及び溝の底部B)を変化し、溝開口部幅Wに対する0次光透過率のシミュレーションを行った。この結果を図26に示す。0次光透過率は100%から直線的に減少し、開口部幅W=0.375μmで0次光透過率は0%となった。このとき、溝の幅と土手部(ランド)の幅との寸法比は1:1であった。
その後は、開口幅Wの増加に対して0次光透過率は直線的に増加する傾向を示した。
このような、台形状の溝の位相格子をマスクとする例について以下に説明する。
(実施例1)
図3及び図27を参照して台形溝の位相格子マスクの作製方法について説明する。
石英基板42にフォトレジスト44を所望の厚さに塗布する。このときの厚さは、最終的に回折効率が0〜100%に変調できるように予備実験により求められ、設定される。この例では、480nmとしている。
この原盤をレーザ装置を使用する露光装置30で露光し、フォトレジストに0.6μmピッチの溝を形成する。露光量は描画すべきパターンに応じて変調され、露光量0から作製される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量までの範囲内で設定される。
図27に示すように、レーザビーム37による露光量が小さいときは、原盤の径方向における溝の断面形状は略V字形状となる。露光量がある値を超えると、フォトレジスト44中の溝の底部は基板42に到達し、底付き状態となって、溝の形状はV字状から略台形形状となる。このとき、溝の深さはレジスト膜厚と等しくなる。更に、露光量を増すと台形状の溝の幅が増加する。径方向における、溝の幅と土手部(ランド部)の幅とが等しくなったときに、作製される位相格子の0次光透過率が最小となる。露光量が中間のときは、その溝形状に応じた0次光透過率が得られる。
このように、露光量が小さいときは、主に溝の深さの変化で、露光量が大きいときは幅の変化で0次光透過率を調整可能である(図24及び図26参照)。
この基板を現像し、露光部分のフォトレジスト44を除去する。残ったフォトレジスト44をマスクとしてCHF3等の反応性ガスにより、ドライエッチングを行い、フォトレジストのパターンを石英基板42に転写する。反応性ガスの石英とフォトレジストのエッチングの選択比は1:1.1であるので、転写された溝の最大深さは、437nm程度となる。これは、パターン露光装置60のi線(波長365nm)による位相深さが約1.15πとなる深さである。図24のグラフに示されるように、1.15πの深さは、0次光透過率を0%とすることが可能な最適な溝の深さである。
なお、溝形状は、レーザビーム(あるいは走査ビーム)の形状やトラックピッチ、レジストの種類などに依存する。このため、溝形状が正確な台形形状となっていない場合には、図24のグラフに示す理論値の1.15πで最適になるとは限らず、当該溝形状に合った深さが存在し得る。最適な膜厚は、都度実験的に求めることができる。
また、台形形状の溝形成には、既述した2ビームを用いる方法を使用しても良く、適宜に選択可能である。
(実施例2)
上述した第4の実施形態の実施例1にて、フォトレジスト中に溝を形成するレーザビームの露光量を、作製される位相格子の0次光透過率が最小となる露光量から更に増加すると、図28に示すように、土手部の幅よりも、溝部の幅の方が大きくなる。すると、0次光透過率は再び増加する(図26参照)。露光量を更に増加させると、土手部の幅は小さくなり、最終的に土手部が殆どなくなる状態となる。このときの0次光透過率は100%に近くなる。従って、図28に示す0次光透過率0%から0次光透過率100%の間でも透過率を調整することが可能である。
このように、第4の実施の形態では、位相格子の溝の形状を断面台形状に形成している。断面正弦波形状の溝では、露光量が変化すると、フォトレジストに形成される溝の深さと幅の両方が変化するため、これによって作製された位相格子マスクの回折効率が大きく変化する。従って、繰り返し再現性が悪くなり易く、光量のコントロールが難しい。この点、台形形状は、正弦波波形に比べて溝の深さをフォトレジストの膜厚で精度良く制御できるので、光量変化による溝の深さ変動がなく、比較的に特性が安定した位相格子マスクを作製することができる。
図29乃至図31は、上述した、断面形状が正弦波状の溝と、断面形状が台形状の溝形状の実施例1及び2の方法で作製した位相格子の露光パワーと0次光透過率の関係を示すグラフである。規格化露光パワーは、0次光透過率が0%となる露光量を1として露光光量を示している。
正弦波状の溝による位相格子では、比較的に溝幅が狭く、解像度を高くし易い利点がある。V字状溝から台形状溝を使用する第1の実施例では、露光光量が少なくて済むという利点がある。台形状の溝の深さを一定とし、溝幅を増加する第2の実施例では、露光量と0次光透過率の関係が直線的であり、階調数が多く取れ、更に、露光パワーが大きいのでS/Nが高く、ノイズに強いという利点がある。
図32は、本発明の位相格子マスクの応用例を示している。位相格子マスクは微細構造体のパターニングのマスクとして使用することができるが、本発明の位相格子マスクは中間階調を表現できるので、図示のように、写真、絵画、ポスター、広告物、印刷物等(グラフィック表現物)の表示媒体として使用可能である。
また、図33に示すように、商品のロゴマークLとしても使用できる。
本発明の位相格子マスクは、形状だけで濃淡の表示が可能であり、見る角度によって濃淡の状態や色が変化するため、ホログラムのような個性的な表示が可能となる。位相格子マスクを人が視認する表示媒体として使用する場合、格子のピッチPが照明光の波長λよりも広くても、濃淡の表示の機能が発揮される。これは、P<λ/NAにおける入射瞳NAが人の瞳の大きさで決まるため、λ/NAが非常に小さい値になることによる。
このように、従来、マスクの解像度を向上するためには、トラックピッチを狭くする必要があるが、トラックピッチが狭くなり、光学的分解能に近づくと、露光パターンの断面は正弦波に近づいていく。このような、領域では従来の2値マスク用のパターンとしては閾値が曖昧となって使用できない。
この点、第1の実施の形態のフォトマスクは、この狭トラックピッチ領域における正弦波状の断面の溝を積極的に利用できるため、従来よりも、トラックピッチを狭めることができ、高解像度のマスクを得ることができる。また、従来の2値マスクでは、ドットの位置情報や分解能がフォトマスクの解像度に影響を与えているが、本発明のマスクではそのようなことがなく、具合が良い。
また、実施例では、マイクロレンズのフォトマスクを例として説明したが、これに限られるものではなく、マイクロレンズアレイ、反射板、導光板、標示物等の微細構造体の製造に利用可能である。
本実施例では、実際にマスクを使用するのは基板の中の一部の領域であるが、基板の略全面をマスク領域としても良い。
以上説明したように本発明のフォトマスクによれば、中間階調を露光することのできる解像度の高いマスクが得られる。