JP4622054B2 - 臨床検査方法及び生化学的反応促進剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、臨床検査の分野で、検体中の測定対象物を測定する際の生化学的反応を促進する生化学的反応促進剤、それを用いた臨床検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
臨床検査の分野では、高感度に抗原量を測定する検査方法としてポリスチレン等のラテックスの凝集反応による検査が行われている。ラテックス凝集法は、ラテックス表面に抗原(または抗体)を物理的あるいは化学的に結合させ、検出対象である抗体(または抗原)との免疫反応によりラテックスが凝集する際に変化する濁度、粒径分布等を検出し、被測定物質量を評価する方法である。
【0003】
また、別の方法として、酵素免疫測定法が使われている。例えば、酵素免疫測定法の一種であるサンドイッチ測定法は、測定対象物(被検物質、Ag)のエピトープを異にする2種類の抗体(Ab1、Ab2)を用いる方法である。まず、合成高分子等からなる固相の表面にAb1を物理的あるいは化学的に固定化し、これにAgを加え結合させる。次いで、標識したAb2(Ab2の標識を付したものをAb2*と表す。)を反応させた後、洗浄して遊離Ab2*を除去し、最後に、固相に結合したAb2*の活性を測定する方法である。これらの標識には通常、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性物質等が用いられている。
【0004】
更に別の方法として、DNAやRNA等の遺伝子関連物質のハイブリダイゼーション法が使われている。この方法は、測定対象物であるDNA等の遺伝子関連物質と相補的な配列を有するDNAを固定化した固相に、測定対象物であるDNAを含む検体を標識したものを反応させた後、洗浄して測定対象物であるDNA以外のものを除去し、最後に固相に結合した標識物質の活性を測定する方法である。これらの標識には通常、蛍光物質、酵素、発光物質、放射性物質等が用いられる。
【0005】
臨床検査の分野では、上記のラテックス凝集法、酵素免疫測定法およびハイブリダイゼーション法等を用いて測定対象を測定する場合、高感度で短時間で測定することが求められている。従来より、ラテックス凝集法、サンドイッチ測定法およびハイブリダイゼーション法を用いて検体を測定する際には、各測定対象物質あるいは、標識物質が容器等へ非特異的に吸着することを抑制することを目的として、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)や、カゼイン等の蛋白質を添加することが広く知られている。しかしながら、これらの蛋白質は非特異的な吸着を抑制するものの、抗原−抗体反応、酵素−基質反応、DNA−DNA反応等を促進することはできなかった。つまりこれらの反応を短時間で終了させることはできなかった。
【0006】
一方、ホスホリルコリン基含有重合体は、生体膜に由来するリン脂質類似構造に起因して、血液適合性、補体非活性化、生体物質非吸着性等の生体適合性に優れ、また防汚性、保湿性等の優れた性質を有することが知られており、それぞれの機能を生かした生体関連材料の開発を目的とした重合体の合成及びその用途に関する研究開発が活発に行われている。
【0007】
その中でも特開平7−5177号公報、特開平7−83923号公報、特開平10−114800号公報には、ホスホリルコリン基含有重合体が容器等への蛋白質の吸着を抑制することができることを利用して、高精度で臨床検査できる技術が公開されている。
しかしながら、ホスホリルコリン基含有重合体を、抗原−抗体反応、酵素−基質反応、DNA−DNA反応等の生化学的な反応の系内に添加することにより、反応が短時間で終了し、且つ、高感度な測定が可能となることは知られていなかった。
【0008】
【化5】
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記問題点に鑑み鋭意検討した結果、特定のホスホリルコリン類似基含有単量体を含む単量体組成物を重合し、その得られた重合体を臨床検査の生化学的反応に用いると、生化学的反応を促進することの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、測定対象物質を含む生体関連物質を生化学的に反応させて、該測定対象物質の活性を測定する臨床検査方法において、
測定対象物質と反応させる生体関連物質を固定し、該測定対象物質と反応させるにあたり、下記の式[1]
【0011】
【化3】
【0012】
{ただし、式中、Xは2価の有機残基を示し、Yは炭素数1〜6のアルキレンオキシ基を示し、Zは水素原子またはR5−O−(C=O)−(ただし、R5は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を示す)を示す。R1は水素原子またはメチル基を示し、R2、R3及びR4は同一もしくは異なる基であって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を示す。mは0または1を示す。nは1〜4の整数である。}で表されるA成分のホスホリルコリン類似基含有単量体20〜100mol%と、
下記の式[2]
【化6】
{ただし、式中、R 6 は、水素原子またはメチル基を示し、L 1 は、−C 6 H 4 −、−C 6 H 10 −、−(C=O)−O−、−O−、−(C=O)NH−、−O−(C=O)−および−O−(C=O)−O−から選ばれる基を示し、L 2 は、水素原子、−(CH 2 ) g −L 3 および−((CH 2 ) p −O) h −L 3 から選ばれる疎水性官能基を示す。(gおよびhは1〜24の整数を、pは3〜5の整数を示し、L 3 は、水素原子、メチル基、−C 6 H 5 および−O−C 6 H 5 から選ばれる官能基を示す。)}で表されるB成分の疎水性単量体0〜80mol%とからなる単量体組成物を重合して得られる重合体からなる生化学的反応促進剤を溶液状態で存在させて反応させることを特徴とする臨床検査方法が提供される。
また本発明によれば、上記式[1]で表されるA成分のホスホリルコリン類似基含有単量体20〜100mol%と、上記式[2]で表されるB成分の疎水性単量体0〜80mol%とからなる単量体組成物を重合して得られる重合体からなる上記臨床検査方法用の生化学的反応促進剤が提供される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の生化学的反応促進剤は、特定のホスホリルコリン類似基含有単量体(以下、PC単量体と略す)を含む単量体組成物を重合して得られる重合体(以下、PC重合体)を主成分とするものである。PC単量体を含む単量体組成物は、PC単量体のみでもよいし、上記式[2]で表されるB成分の疎水性単量体を含んでもよい。さらに、前記のPC重合体は、具体的には、A成分としてPC単量体20〜100mol%、B成分として疎水性単量体0〜80mol%とからなる単量体組成物を重合してなる重合体である。より好ましくは、A成分としてPC単量体40〜80mol%、B成分として疎水性単量体20〜60mol%とからなる単量体組成物を重合してなる重合体でである。
【0019】
B成分の疎水性単量体が80mol%より多いとホスホリルコリン類似基(以下、PC基と略す)の効果を発揮させるのが困難であるので好ましくない。ここで、前記のPC単量体は、下記の式[1]
【0020】
【化5】
【0021】
{ただし、式中、Xは2価の有機残基を示し、Yは炭素数1〜6のアルキレンオキシ基を示し、Zは水素原子もしくはR5−O−(C=O)−(ただし、R5は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を示す)を示す。また、R1は水素原子もしくはメチル基を示し、R2、R3及びR4は同一もしくは異なる基であって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を示す。mは0または1を示す。nは1〜4の整数である。}
【0022】
式[1]中のXの2価の有機残基としては、例えば、−C6H4−、−C6H10−、−(C=O)−O−、−O−、−CH2−O−、−(C=O)NH−、−O−(C=O)−、−O−(C=O)−O−、−C6H4−O−、−C6H4−CH2−O−、−C6H4−(C=O)−O−等の基が挙げられる。
【0023】
式[1]のYは、炭素数1〜6のアルキレンオキシ基であり、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の基が挙げられる。
【0024】
式[1]中のZは、水素原子もしくはR5−O−(C=O)−基を示す。ただし、R5は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を示す。
ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0025】
また、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシヘキシル基、7−ヒドロキシヘプチル基、2−ヒドロキシヘプチル基、8−ヒドロキシオクチル基、2−ヒドロキシオクチル基、9−ヒドロキシノニル基、2−ヒドロキシノニル基、10−ヒドロキシデシル基、2−ヒドロキシデシル基等が挙げられる。
【0026】
PC単量体としては、具体的には例えば、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、
【0027】
2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリプロピルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリブチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリシクロヘキシルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリフェニルアンモニオ)エチルホスフェート、
【0028】
2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメタノールアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル−2’(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、
【0029】
2−(ビニルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(アリルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンゾイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(スチリルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンジル)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(ビニルオキシカルボニル)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、
【0030】
2−(アリルオキシカルボニル)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(アクリロイルアミノ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(ビニルカルボニルアミノ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、エチル−(2’−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、ブチル−(2’−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、ヒドロキシエチル−(2’−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、
【0031】
エチル−(2’−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート、ブチル−(2’−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート、ヒドロキシエチル−(2‘−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート等を挙げることができる。
【0032】
この中でも2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートが好ましく、さらに2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート{=2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリンという場合もある、以下、MPCと略す}が入手性等の点でより好ましい。
【0033】
PC単量体を重合する際には、前記のPC単量体の1種を単独で、もしくは2種以上を混合物として用いることができる。
PC単量体は、公知の方法で製造できる。例えば、特開昭54−63025号公報、特開昭58−154591号公報等に示された公知の方法等に準じて製造することができる。
PC単量体と共重合するB成分の疎水性単量体は、式[2]
【0034】
【化6】
【0035】
{ただし、式中、R6は、水素原子またはメチル基を示し、L1は、−C6H4−、−C6H10−、−(C=O)−O−、−O−、−(C=O)NH−、−O−(C=O)−および−O−(C=O)−O−からなる群より選ばれる基を示し、L2は、水素原子、−(CH2)g−L3および−((CH2)p−O)h−L3から選ばれる疎水性官能基を示す。(gおよびhは1〜24の整数を、pは3〜5の整数を示し、L3は、水素原子、メチル基、−C6H5および−O−C6H5から選ばれる官能基を示す。)}
で表される。
【0036】
具体的には例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体等が挙げられる。これらの1種または2種以上が用いられる。
【0038】
PC重合体は、前記A成分のPC単量体とB成分の疎水性単量体との単量体組成物を重合したものであればよく、通常のラジカル共重合により製造することができる。
【0039】
本発明のPC重合体の分子量は、重量平均で、5,000〜5,000,000の範囲がよく、さらに望ましくは100,000〜2,000,000の範囲である。
重合体の分子量が5,000未満では十分に生化学的反応を促進することが困難であり、重合体の分子量が5,000,000より大きいとPC重合体の水性溶液の粘性が高くなりすぎて生化学的反応を阻害するおそれがあるため好ましくない。
【0040】
本発明における生化学的反応とは、臨床検査で用いる各種反応を示し、具体的には例えば、抗原−抗体反応、抗体−抗体反応等の蛋白質と蛋白質の反応;酵素−基質反応等の酵素とその特定の基質との反応;DNA−DNA反応、DNA−RNA反応、DNA−酵素反応、RNA−酵素反応等の遺伝子関連物質同士の反応あるいは、遺伝子関連物質と蛋白質の反応等が挙げられる。
【0041】
抗原、抗体等の免疫反応活性物質としては、例えば、免疫グロブリン、血漿蛋白質、ホルモン関連物質、腫瘍関連物質、ウイルス関連物質、薬剤に対する抗体、酵素に対する抗体等が挙げられ、またこれらの物質に対する抗体も挙げられる。
血漿蛋白質としては例えば、C反応性蛋白質(CRP)、アポ蛋白質関連物質、リューマチ因子(RF)、トランスフェリン等が挙げられる。
ホルモン関連物質としては、例えば、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)、チロキシン結合蛋白質(TBG)等が挙げられる。
【0042】
腫瘍関連物質としては、例えば、癌胎児性抗原(CEA)、β2−マイクログロブリン、αフェトプロテイン(AFP)等が挙げられる。
ウイルス関連物質としては、例えば、HBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体、ムンプス、ヘルペス、麻疹、風疹、抗エイズ抗体等が挙げられる。
薬剤に対する抗体としては、例えば、フェノバルビタール、アセトアミノフェノン、サリチル酸、シクロスポリン等の抗体が挙られる。
酵素としては、具体的には例えば、アセチルコリンエステラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、リゾチーム等が挙られる。
蛍光物質としては、例えば、フルオロセインイソチオシアネート、4−クロロ−7−ニトロベンゼンゾフラザン、4−フルオロ−7−ニトロベンゼンゾフラザン、スルホローダミン101酸クロライド等が挙られる。
【0043】
発光物質としては、例えば、10−メチル−9−[4−{2−(スクシンイミジルオキシカルボニル)エチル}フェニルオキシカルボニル]アクリジニウムフルオロサルフェート等が挙げられる。
【0044】
本発明のPC重合体により生化学的反応を促進する方法としては、生化学的反応系内にPC重合体を0.0001〜10重量%となるように添加する方法である。
PC重合体が、0.0001重量%より低い濃度では生化学的反応を促進する効果を十分に発揮させることができず、10重量%より高い濃度であると水性溶液の粘性が高くなりすぎて生化学的反応を阻害するおそれがあるため好ましくない。
【0045】
本発明のPC重合体を生化学的反応促進剤として使用する際は、生化学反応している反応系内にPC重合体を添加し、溶液状態とするだけでよい。PC重合体を添加する際は、前記の蛋白質と蛋白質の反応、酵素とその特定の基質との反応、遺伝子関連物質同士の反応あるいは遺伝子関連物質と蛋白質の反応の反応系内のどちらか一方、あるいは、双方にPC重合体を生化学的反応をさせる前に添加してもよいし、生化学反応している系内に後から添加してもよい。更に、添加するPC重合体の状態は、溶液状態でも、粉末状態でもよく、好ましくは反応系と速やかに均一になる溶液状態を挙げることができる。
【0046】
本発明における臨床検査などで用いる生化学的反応とは、前記の生化学的反応を指し、特に限定されない。臨床検査薬とは、先に記載した抗原−抗体反応、抗体−抗体反応、酵素−基質反応、DNA−DNA反応、DNA−RNA反応、DNA−酵素反応、RNA−酵素反応などの生化学的反応を用いて、血清、血漿、尿、涙液、組織などの検体中の測定対象物(検査対象物)である、蛋白質、酵素、遺伝子関連物質等を測定するに際して、前記の蛋白質、酵素、遺伝子関連物質等と前記の生化学的反応促進剤とを含有する測定試薬である。蛋白質、酵素、遺伝子関連物質と前記の生化学的反応促進剤の配合割合は、前記の反応において、測定対象の特性により特に限定されないが、好ましくは、PC重合体/蛋白質、酵素あるいは、遺伝子関連物質の重量/重量比で、1.0×10-12〜1.0×1018で、特に好ましくは1.0×10-9〜1.0×1015である。前記の重量比が1.0×10-12より小さいと生化学反応を促進するのに効果を十分に発揮することが困難であり、1.0×1018より大きいと、反応系内のPC重合体濃度が高く、粘度が高くなり生化学反応を阻害する恐れがあり好ましくない。
【0047】
本発明の臨床検査方法とは、具体的には、前記の生化学的反応促進剤を用いて、前記の生化学的反応系で、生体関連物質を測定する方法である。生体関連物質とは、前記の抗原、抗体等の免疫活性物質等の蛋白質など、DNA、RNA等の核酸関連物質等の遺伝子関連物質あるいは、酵素や酵素反応に用いる対象とする基質などが挙げられる。
【0048】
本発明の生化学的反応促進剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、界面活性剤、溶剤、防腐剤等の他の成分を添加してもよい。
【0049】
【発明の効果】
本発明の生化学的反応促進剤は、特定のホスホリルコリン類似基含有単量体に基づく構成成分を含有する重合体であり、臨床検査を実施する際の生化学的反応を促進するものであり、それにより短時間に高感度で測定が可能になる。また、本発明の臨床検査方法は、前記の臨床検査薬を用いた方法であり、反応を促進するので、短時間に高感度で測定を容易に実施することができる方法である。
【0050】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
合成例1
MPC35.7g、ブチルメタクリレート(BMA)4.3gを、エタノール160gに溶解して、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後に、60℃でアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略記する);0.82gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末29.6gを得た。
なお、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分析した。
分析条件は20mMリン酸緩衝液(pH7.4)を溶離液とし、ポリエチレングリコールを標準物質とし、UV(210nm)及び、屈折率にて検出した。 GPCにより評価した分子量は、重量平均分子量153,000であった。これをポリマー1(P−1)とする。結果を表1に示す。
ポリマー1(P−1);poly(MPC0.8−co−BMA0.2)、重量平均分子量153,000。
【0051】
合成例2、3
合成例1で用いた単量体の種類、組成比率、溶媒種を変え、合成例1と同様の操作により下記の共重合体組成のポリマーを得た。
合成例2;ポリマー2(P−2);poly(MPC0.3−co−BMA0.7)、重量平均分子量130,000であった。
なお、重合条件は、MPC;14.1g、BMA;15.9g、エタノール;120g、AIBN;0.35gに変更した以外は、合成例1に準じて反応した。
合成例3;ポリマー3(P−3);poly(MPC)、重量平均分子量529,000であった。
なお重合条件は、MPC;50.0g、エタノール;100g、AIBN;0.24gに変更した以外は、合成例1に準じて反応した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1:抗原−抗体反応の促進効果−1
10μg/mLのヤギ抗(マウス抗体)抗体{和光純薬工業(株)製}溶液(100mMリン酸緩衝液、pH7.5)をポリスチレン製96穴タイタープレート(イムノプレートF96、マキシソープ、Nunc社製)に100μL/ウェルで加え、4℃、一晩インキュベートして物理的に吸着させた後に、生理的リン酸緩衝液(以下、PBSと略記する)で4回洗浄を行った。次いで、1%のウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)を添加したPBSを300μL/ウェルで加え、4℃、一晩インキュベートした後に、BSA溶液を除去し抗体吸着固相を調製した。
次いで、抗体吸着固相にポリマー1(P−1)を1.0重量%含む0μg/mL、0.1μg/mL、0.4μg/mLの各濃度のマウス抗体{和光純薬工業(株)製}溶液(PBS)を100μL/ウェルで加え、25℃、15分間インキュベートし抗原−抗体反応を行い、PBSで4回洗浄した。次いで、パーオキシダーゼ標識−抗(マウス抗体)抗体{和光純薬工業(株)製}溶液を1%BSAを含むPBSで10000倍希釈して、100μL/ウェルで加え、25℃、2時間インキュベートし、PBSで4回洗浄した。次いで、ペルオキシダーゼ発色キットT{住友ベークライト(株)製}にて各ウェルを室温で、10分間発色させた後に、SPECTRA MAX250(マイクロプレートリーダー、モレキュラーデバイス社製)を用いて、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。測定個数(n)は8で、平均値、標準偏差、CV値(%){(平均値/標準偏差)×100}を結果として示した。結果を表2に示す。
【0054】
実施例2、3:抗原−抗体反応の促進効果−2、3
実施例1で用いたポリマー1(P−1)の代わりに合成例で得たポリマー2(P−2;実施例2)およびポリマー3(P−3;実施例3)を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
比較例1
実施例1で用いたポリマー1(P−1)の代わりにBSAを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例4:抗原−酵素標識抗体反応の促進効果−1
実施例1で調製した抗体吸着固相にBSAを1重量%含む0μg/mL、0.1μg/mL、0.4μg/mLの各濃度のマウス抗体{和光純薬工業(株)製}溶液(PBS)を100μL/ウェルで加え、25℃、2時間インキュベートし、PBSで4回洗浄した。次いで、ポリマー1(P−1)を1.0重量%含むパーオキシダーゼ標識−抗(マウス抗体)抗体{和光純薬工業(株)製}溶液をPBSで10000倍希釈して、100μL/ウェルで加え、25℃、15分間インキュベートし抗原−酵素標識抗体反応を行い、PBSで4回洗浄した。次いで、ペルオキシダーゼ発色キットT{住友ベークライト(株)製}にて各ウェルを室温で、5分間発色させた後に、SPECTRA MAX250(マイクロプレートリーダー、モレキュラーデバイス社製)を用いて、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。測定個数(n)は8で、平均値、標準偏差、CV値(%)を結果として示した。結果を表3に示す。
【0057】
実施例5、6:抗原−酵素標識抗体反応の促進効果−2、3
実施例4で用いたポリマー1(P−1)の代わりにポリマー2(P−2;実施例5)および、ポリマー3(P−3;実施例6)を用いた以外は実施例4と同様に操作を行った。結果を表3に示す。
比較例2
実施例4で用いたポリマー1(P−1)の代わりにBSAを用いた以外は実施例4と同様に操作を行った。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例7:ハイブリダイゼーション(DNA−DNAの反応)の促進効果−1
用いたオリゴDNA{エスペックオリゴサービス(株)}の名称、配列および、末端修飾を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
なお、アデニンをA、グアニンをG、シトシンをC、チミンをTと略す。
【0062】
250pmol(=ピコモル:10-12)/mLのPUC−amino溶液{1mMEDTAを含む50mMリン酸緩衝液、pH8.5(以下、EDTA−NaPBと略す)}を96穴のDNA−BIND(商標、コーニングコースター社製)に100μL/ウェルで加え、37℃、1時間インキュベートして化学的にPUC−aminoを吸着させた後に、PBSで4回洗浄を行った。次いで、3%のBSAを添加したEDTA−NaPBを300μL/ウェルで加え、37℃、1時間インキュベートした後に、BSA溶液を除去しPUC−amino結合固相を調製した。
次いで、PUC−amino結合固相にポリマー1(P−1)を1.0重量%含む0fmol(フェムトモル:10-15)/mL、10fmol/mL、40fmol/mLの各濃度のPUC−biotin溶液(750mM NaClを含む75mMクエン酸ナトリウム)を100μL/ウェルで加え、55℃、15分間インキュベートしハイブリダイゼーション(DNA−DNA反応)を行い、0.1%SDS及び、300mM NaClを含む30mMクエン酸ナトリウム水溶液で4回洗浄した。次いで、パーオキシダーゼ標識−アビジン(シグマ社製)溶液を3%のBSAを含むEDTA−NaPBで10000倍希釈して、100μL/ウェルで加え、37℃、1時間インキュベートし、PBSで4回洗浄した。
次いで、ペルオキシダーゼ発色キットT{住友ベークライト(株)製}にて各ウェルを室温で、10分間発色させた後に、SPECTRA MAX250(マイクロプレートリーダー、モレキュラーデバイス社製)を用いて、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。測定個数(n)は8で、平均値、標準偏差、CV値(%)を結果として示した。結果を表5に示す。
【0063】
実施例8、9:ハイブリダイゼーション(DNA−DNAの反応)の促進効果−2、3
実施例7で用いたポリマー1(P−1)の代わりにポリマー2(P−2;実施例8)およびポリマー3(P−3;実施例9)を用いた以外は、実施例7と同様に操作を行った。結果を表5に示す。
比較例3
実施例7で用いたポリマー1(P−1)の代わりにカゼイン{和光純薬工業(株)製}を用いた以外は実施例7と同様に操作を行った。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
実施例10:アビジン−ビオチン反応の促進効果−1
実施例7で調製したPUC−amino結合固相にカゼインを1.0重量%含む0fmol/mL、10fmol/mL、40fmol/mLの各濃度のPUC−biotin溶液(750mM NaClを含む75mMクエン酸ナトリウム)を100μL/ウェルで加え、55℃、1時間インキュベートし、0.1重量%SDS、300mM NaClを含む30mMクエン酸ナトリウム水溶液で4回洗浄した。次いで、パーオキシダーゼ標識−アビジン溶液を1%のポリマー1(P−1)を含むEDTA−NaPBで10000倍希釈して、100μL/ウェルで加え、37℃、15分間インキュベートしアビジン−ビオチン反応を行い、PBSで4回洗浄した。次いで、ペルオキシダーゼ発色キットT{住友ベークライト(株)製}にて各ウェルを室温で、10分間発色させた後に、SPECTRA MAX250(マイクロプレートリーダー、モレキュラーデバイス社製)を用いて、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。測定個数(n)は8で、平均値、標準偏差、CV値(%)を結果として示した。結果を表6に示す。
【0066】
実施例11、12:アビジン−ビオチン反応の促進効果−2、3
実施例10で用いたポリマー1(P−1)の代わりにポリマー2(P−2;実施例11)およびポリマー3(P−3;実施例12)を用いた以外は、実施例10と同様に操作を行った。結果を表6に示す。
比較例4
実施例10で用いたポリマー1(P−1)の代わりにBSAを用いた以外は実施例10と同様に操作を行った。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
実施例13:酵素−基質反応の促進効果−1
ポリマー1(P−1)を0.1重量%含む0μg/mL、0.01μg/mL、0.1μg/mLのパーオキシダーゼ{和光純薬工業(株)製}溶液(PBS)を96穴タイタープレート{ELISA用プレートS、住友ベークライト(株)製}に100μL/ウェルで加えた。パーオキシダーゼの基質として2,2’−アジノ−ジ(3−エチル−ベンゾチアゾリン−6−スルフォネート)(ABTS)を含む1 Component ABTS Microwell Peroxidase Substrate(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を100μL/ウェルで加え、25℃、10分間インキュベートし酵素−基質反応を行った。次いで、1重量%SDS溶液を100μL/ウェルで加え反応停止を行った。次いで、SPECTRA MAX250を用いて生じた405nmの吸光度を測定した。結果を表7に示す。
【0069】
実施例14、15:酵素−基質反応の促進効果−2、3
実施例13で用いたポリマー1(P−1)の代わりにポリマー2(P−2;実施例14)およびポリマー3(P−3;実施例15)を用いた以外は、実施例13と同様に操作を行った。結果を表7に示す。
比較例5
実施例13で用いたポリマー1(P−1)の代わりにBSAを用いた以外は実施例13と同様に操作を行った。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
以上の結果より、比較例1〜5に対して、実施例1〜15の場合は測定値が高くなっていることがわかる。つまり、短時間で各反応が終了し、短時間で高感度な分析が可能なことがわかる。
Claims (4)
- 測定対象物質を含む生体関連物質を生化学的に反応させて、該測定対象物質の活性を測定する臨床検査方法において、
測定対象物質と反応させる生体関連物質を固定し、該測定対象物質と反応させるにあたり、下記の式[1]
下記の式[2]
- A成分のホスホリルコリン類似基含有単量体が、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートである請求項1記載の臨床検査方法。
- 下記の式[1]
下記の式[2]
- A成分のホスホリルコリン類似基含有単量体が、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートである請求項3記載の臨床検査方法用の生化学的反応促進剤。
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