JP4620826B2 - パウダースラッシュ成形用ポリウレタン - Google Patents

パウダースラッシュ成形用ポリウレタン Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車内装部品等に使用されるパウダースラッシュ成形用の熱可塑性ポリウレタンパウダー、及び成形体に関する。さらに詳しくは、成形品表面の傷付き性(耐スクラッチ性)に優れ、また強度、柔軟性、耐熱性、低温特性、耐候性、耐加水分解性、スッラシュ成形加工性に優れた熱可塑性ポリウレタンパウダー及び成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
スラッシュ成形法は、複雑な形状(アンダーカット、深絞り等)の製品が容易に成形でき、また肉厚が均一にできること、材料の歩留まり率が良いことから、自動車の内装材等の用途に広く利用されており、主に軟質のポリ塩化ビニル(以下PVCという)系粉末がこのような用途に使用されている(特開平5−279485号公報)。しかし、軟質化されたPVCは低分子量の可塑剤を多量に含有するため、可塑剤の凝固点以下ではソフト感が消失してしまう問題があった。また、長期間の使用において、可塑剤の揮発により車両のフロントガラス等に油膜を形成(フォギング)したり、成形物表面への可塑剤の移行による艶消し効果やソフト感の消失、さらにはPVCの経時的劣化による黄変の問題があった。またPVCは、ハロゲン原子を多量に含むため燃焼時の有毒ガスの問題や、リサイクル性に劣るという欠点を有していた。
【0003】
近年、これらPVCに代わるパウダースラッシュ成形用軟質材料として、各種熱可塑性エラストマーが多く提案されている。例えば特開平5−5050号公報、特開平5−162153号公報、特開平7−227865号公報、特開平11−152380号公報には、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなるパウダースラッシュ成形用材料が提案されている。しかしながらオレフィン系エラストマーは比較的安価で耐候性、耐熱性に優れるものの柔軟性、耐スクラッチ性に劣るという欠点を有していた。また、これらオレフィン系エラストマーは溶融時における低シェア領域での溶融粘度が高く、パウダースラッシュ成形を行うためには分子量を極端に低下させる必要が有り、結果として強度等に問題が有った。
【0004】
また、特開平7−96532号公報、特開平10−279738号公報にはスチレン系エラストマーよりなるパウダースラッシュ成形用材料が提案されている。これらスチレン系エラストマーの耐スクラッチ性は、前述のオレフィン系エラストマーに比べると改良されているが、自動車の内装部品等の用途に使用するためには不十分であり、また成形性に関してもオレフィン系エラストマーと同様、低シェア領域での溶融粘度が高く、パウダースラッシュ成形を行うためには分子量を極端に低下させる必要が有り、結果として強度等に問題が有った。
【0005】
一方、特開平6−41419号公報、特開平10−251414号公報、特開平11−49949号公報、特開2000−17032号公報には、上記オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーに比べ、成形加工性、耐スクラッチ性の良好な熱可塑性ウレタンエラストマー(以下TPUと略記することがある)よりなるパウダースラッシュ成形用材料が提案されている。これら提案にあるTPUは、ソフトセグメントの種類によりポリエーテル系、ポリエステル系およびポリカーボネート系の3種類に分類される。
【0006】
ポリエーテル系のTPUは低温特性、柔軟性に優れるものの、耐候性に劣り自動車内装部品等の用途には使用が限定される。また、ポリエステル系は強度、低温特性に関しては良好ではあるが、耐加水分解性に劣り、高温、高湿化の雰囲気下での劣化が顕著であり、ポリエーテル系と同様過酷な条件下にて長期使用される自動車部品等には信頼性の問題が有った。
【0007】
一方、ポリカーボネートジオール系TPUは耐候性、耐加水分解性、耐熱老化特性に優れ、過酷な条件下での使用が可能であるが、柔軟性、低温特性には課題が有り、実用上問題が有った。この課題を解決する試みとして特開平6−206973号公報にはTPUのソフトセグメントとしてポリカーボネートジオールと特定のポリエステルジオールとを併用する方法が記載されている。しかしながら、ポリエステルジオール成分を併用することにより、耐加水分解性が悪化してしまい、実用的には使用できるレベルには到達していないのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来の技術課題を背景になされたもので、強度、柔軟性、耐候性、耐熱性、低温特性、耐加水分解性、パウダースラッシュ成形加工性に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダーおよび、該パウダーより成形された表面の塗装の不要なパウダースラッシュ成形体を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、 次の(a)、(b)および必要に応じて(c)成分を共重合してなり、ショアD硬さが20〜40、メルトフローレートが20〜60g/10分である、パウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダーである。
(a)下記式(1)および(2)の繰り返し単位からなり、末端基が水酸基である脂肪族ポリカーボネートジオールを主体とし、下記(1)と(2)の割合が、(1)/(2)=50/50〜68/32(モル比)であり、数平均分子量が1000〜3000であるポリカーボネートジオール。(但し、式中nは5)
【化1】
Figure 0004620826
【化2】
Figure 0004620826
(b)ポリイソシアネート
(c)ポリイソシアネートと反応しうる活性水素を2個有する鎖延長剤
以下、本発明に関して詳細に説明する。本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの(a)成分に使用されるポリカーボネートジオールは、Schell著、PolmerReview 第9巻、第9〜20ページ(1964年)に記載された種々の方法により合成される。
【0013】
本発明のTPUの(a)成分として使用されるポリカーボネートジオールは、1,4−ブタンジオールおよび/または1,5−ペンタンジオールと、1,6−ヘキサンジオールから合成される共重合ポリカーボネートジオールであり、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、低温特性、耐加水分解性に優れるという特徴を有している。ポリマ−中の繰り返し単位である、1,4−ブタンジオールおよび/または1,5−ペンタンジオールと、1,6−ヘキサンジオールの割合は、10/90〜90 /10、好ましくは、20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30である。
【0014】
本発明においては先に示したジオールの他に、(a)成分のポリカーボネートジオールの好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下の低分子量脂肪族または低分子脂環式ジオールを共重合させても良い。共重合可能な好ましいジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3−ブタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0015】
また、1分子に3個以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、等の少量を用いる事により多官能化したポリカーボネートを用いたポリウレタンも含まれる。
本発明に用いられるポリカーボネートジオールの平均分子量の範囲は、通常数平均分子量で500〜5000であり、好ましくは、1000〜3000、さらに好ましくは1500〜2500のものが使用され、そのポリマ−末端は、実質的にすべてヒドロキシル基であることが望ましい。
【0016】
次に、本発明のポリウレタンエラストマーの(b)成分に使用されるポリイソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、及びその混合物(TDI)、ジフェニルメタン− 4,4′−ジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、粗製TDI、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、粗製MDI等の公知の芳香族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネート等の公知の芳香脂環族ジイソシアネート;4, 4′−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイ ソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の公知の脂肪族または脂環式ジイソシアネート、及びこれらのイソシアネート類のイソシアヌレート化変性品、カルボジイミド化変性品、ビウレット化変性品等である。
【0017】
特に耐候性、耐熱老化特性に優れるTPUを得るためには、ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族及び/又は脂環式ポリイソシアネートが用いられる。好ましい脂肪族及び/又は脂環式ポリイソシアネートの例としては、4, 4′−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0018】
又、本発明のポリウレタンエラストマーの共重合成分(c)として必要により用いられる適当な鎖延長剤としては、ポリウレタン業界における、常用の鎖延長剤が包含される。岩田敬治監修、「最近ポリウレタン応用技術CMC1985年」第25〜27ペー ジ記載の、公知の水、低分子ポリオール、ポリアミン等が含まれる。本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートと共に、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリウレタンの用途に応じて公知のポリオールを併用してもよい。公知のポリオールとして、今井嘉夫、「ポリウレタンフオーム高分子刊行会1987年」第12〜23ページに記載の公知のポリエステル、ポリエーテルカーボネート等のポリオールがある。
【0019】
具体的には、低分子ポリオールとしては通常分子量が300以下のジオールが用いられる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレンジオール、1,4−ブタンジオ−ル、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールが挙げられる。
【0020】
また、1,1−シクロヘキサンジメタノー ル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4(2−ヒ ドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4− (2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン等、が挙げられる。 好適には、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが用いられる。
【0021】
本発明のTPUを製造する方法としては、ポリウレタン業界で公知のウレタン化反応の技術が用いられる。例えば、該ポリオールと有機ポリイソシアネートを常温から200℃で反応させることにより、NCO末端のポリウレタンプレポリマーが生成する。
【0022】
又、該ポリオールとポリイソシアネート及び必要に応じて鎖延長剤を用いて、熱可塑性のポリウレタンエラストマーを製造する事が出来る。これらの製造に於いては三級アミンや錫、チタンなどの有機 金属塩等に代表される公知の重合触媒「例えば、吉田敬治著(ポリウレタン樹脂)日本工業新聞社刊第23−3 2頁(1969年)に記載」を用いる事も可能である。 又、これらの反応を溶媒を用いておこなってもよく、好ましい溶剤として、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、エチルセルソルブ等がある。
【0023】
又、本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー製造に当り、イソシアネート基に反応する活性水素を一つだけ含有する化合物、例えばエチルアルコール、プロピルアルコール等の一価アルコール、及びジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等の二級アミン等を末端停止剤として使用することができる。
本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの好ましい数平均分子量は10,000〜50,000、さらに好ましくは20,000〜45,000である。数平均分子量が10,000未満では得られるパウダースラッシュ成形体の強度、耐熱性が悪化するので好ましくない。また、数平均分子量が50,000を越えると熱溶融時の粘度が高くなり、パウダースラッシュ成形性が悪化するので好ましくない。
【0024】
本発明のTPUのショアD硬さは好ましくは15〜50、さらに好ましくは20〜40の範囲であり、ソフトセグメント量は適宜選択される。ショアD硬さが15未満では、得られるスラッシュ成形体の耐熱性、耐スクラッチ性が劣るので好ましくない。また、ショアD硬さが50を越えると、得られるスラッシュ成形体の柔軟性、ソフト感が不足するので好ましくない。
また、本発明のTPUのメルトフローレート(230℃、2.16kg加重の値、以下MFRと略記)は10〜300g/10分、好ましくは15〜100g/10分、さらに好ましくは20〜60g/10分である。MFRが10g/10分未満では、パウダースラッシュ成形性に劣り、金型の転写不良となってしまうので好ましくない。また、MFRが300g/10分を越えると、機械物性(破断強度、破断伸び等)や耐スクラッチ性、耐熱性が悪化するので好ましくない。
【0025】
また、本発明で使用するTPUのガラス転移温度(Tg)は通常−35℃以下、好ましくは−40℃以下である。Tgが−35℃を越えると、本発明のパウダースラッシュ成形体の低温でのソフト感が悪化するので好ましくない。
本発明の、ポリカーボネートジオールを使用した熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、他のポリウレタンエラストマーに比べて、柔軟性、低温特性に優れるばかりではなく、加水分解性が極めて良好であるため、常時手に触れる自動車内装部品等のエラストマー部材に使用した場合、耐汗性が優れるのため好適である。
【0026】
さらに本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、必要に応じて可塑剤の添加を行なっても良い。かかる可塑剤の例としてジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタル酸エステル類:トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリメチルヘキシルホスフェート、トリス−クロロエチルホスフェート、トリス−ジクロロプロピルホスフェート等の燐酸エステル類:トリメリット酸オクチルエステル、トリメ リット酸イソデシルエステル、トリメリット酸エステル類、ジペンタエリスリトールエステル類、ジオクチルアジペート、ジメチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、メチルアセチルリシノケート等の脂肪酸エステル類:ピロメリット酸オクチルエステル等のピロメリット酸エステル:エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ系可塑剤:アジピン酸エーテルエステル、ポリエーテル等のポリエーテル系可 塑剤:液状NBR、液状アクリルゴム、液状ポリブタジエン等の液状ゴム:非芳香族系パラフィンオイル等を挙げることが出来る。
【0027】
これら可塑剤は単独、あるいは2種以上組み合わせて使用することが出来る。可塑剤の添加量は要求される硬度、物性に応じて適宜選択されるが、TPU100重量部当り0〜50重量部が好ましい。
また、本発明のTPUには無機充填剤、安定剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤等を添加しても良い。無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、マイカ、硫酸バリウム、けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。安定剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤等が挙げられる。滑剤としてはステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸の金属塩等が挙げられる。
【0028】
一般に、本発明のTPUに可塑剤やその他添加剤を添加する方法としては、重合体成分をブレンドする為に従来技術で知られているいかなる方法を使用しても良い。最も均質なブレンド物を得るためには、通常使われているミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサーおよび押出機のような各種の混練機を使用して溶融混練する方法が望ましい。溶融混練する前に、これらの配合物をヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンブレンダーのような混合機を用いて予めドライブレンドし、該混合物を溶融混練することにより均質なTPU組成物が得られる。
【0029】
本発明におけるTPUの粉体の製造方法は以下の方法が例示できる。上記の方法によりTPUを合成し、ペレット、シート等の固形物を得た後粉砕して粉体を得る方法。(a)、(b)および必要に応じて(c)成分を、を溶解しない有機溶剤(例え ばn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等)中でワンショットで懸濁重合した後、脱溶剤・乾燥工程を経ての粉体を得る方法。(a)、(b)および必要に応じて(c)を、予め反応させて末端に遊離イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た後、得られたプレポリマーを溶解しない有機溶剤中で該プレポリマーを分散した後、(c)を加え懸濁重合し、脱溶剤・乾燥工程を経ての粉体を得る方法。(a)、(b)および必要に応じて(c)を、水中でワンショットで懸濁重合した後、脱溶剤・乾燥工程を経ての粉体を得る方法。(a)、(b)および必要に応じて(c)を、予め反応させて末端に遊離イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た後、水中で該プレポリマーと (c)とを反応させて懸濁重合した後、脱溶剤・乾燥工程を経ての粉体を得る方法等が挙げられる。
【0030】
発明のパウダースラッシュ成形体にて用いられるTPUパウダーは、平均粒子径が50〜500μm、好ましくは100〜400μmである。上記TPUパウダーの平均粒子径の範囲は、成形時の流動性及び製品肉厚斑(むら)の観点より決められ、平均粒子径が上記範囲未満のものは、パウダーが飛散し易いために作業性が劣り、粉砕のコストも高くなるといった問題がある。また、上記範囲を超えるものは、特にコーナー部の肉回りが悪くなり、成形品外観の平滑性に劣り、更に、成形膜厚が厚くなり、感触性(ソフト感)が悪化するので好ましくない。
【0031】
上記平均粒子径の測定は、パウダーの光学顕微鏡写真を撮影し、少なくとも50個以上の粒子径をその写真より測定し、その平均を求めた値である。
上記粉砕パウダー及び重合パウダーは、パウダー性状を整えるために必要に応じて高温気流中に飛散流動させ、熱処理により不定形パウダーを球形パウダーにすることもできる。該熱処理において、気流温度は100〜250℃、好ましくは140〜190℃であり、少なくともパウダーが浮遊する流速下で5〜120秒間、好ましくは20〜60秒間の熱曝露を行なう。
【0032】
また、パウダーの粒径は、篩にかけて整粒することにより所望の粒径範囲のパウダーを得ることができる。篩目サイズは目的粒径を超える粒子は不通過になる様に選定し、また目的粒径未満のパウダーも同様に篩を通過させて除くことができる。また、上記TPUパウダーにはパウダーの流動性を改良する目的で、各種滑剤をドライブレンドしても良い。用いられる滑剤としては、ポリオレフィン樹脂の粉末、タルク、カオリン、シリカ、酸化アルミ、炭酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属石鹸、脂肪酸アミド等の粉末状、および/又はジメチルポリシロキサン、鉱物油等の液状の滑剤を用いることができる。
【0033】
上記TPUパウダーを用いて成形される本発明のパウダースラッシュ成形体の膜厚は、平均成形体膜厚が50〜900μm、好ましくは150〜700μ m、特に好ましくは200〜600μmのものである。 該平均成形体膜厚が上記範囲未満のものでは引裂強度等の機械的強度が劣り、また上記範囲を超えるものは感触性(ソフト感)が悪化するので好ましくない。また、上記成形体膜厚の測定は、マイクロメーターを用いて測定した値であり、また、平均成形体膜厚とは該成形体の10箇所以上を測定した値の平均値である。
【0034】
発明におけるパウダースラッシュ成形とは、具体的には、例えば特開昭58−132507号公報に記載された成形方法であり、すなわち、同じ大きさの開口部を持つパウダー容器とパウダーの融点以上に加熱した金型とを、両開口部を合わせて固定し一体化させて、1回乃至数回回転させ、パウダー容器内の粉末パウダーを金型の内壁に溶融付着させた後、過剰のパウダーを再びパウダー容器内に戻して成形する成形方法である。本発明におけるパウダースラッシュ成形は、一般に150〜350℃、好ましくは200〜300℃の温度に予熱された金型を用いて成形される。該パウダースラッシュ成形に使用される金型の加熱方式は、ガス加熱炉方式、熱媒体油循環方式、熱媒体油又は熱流動砂内への浸漬方式、或いは、高周波誘導加熱方式、赤外線加熱法等を採用することができる。
【0035】
本発明のパウダースラッシュ成形体を構成するTPUは、転写時に高精度に転写することができるので、複雑な皮シボ模様を形成でき、表皮用の素材として最適である。従って、本発明のパウダースラッシュ成形体は、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、シートバックパネル、ヘッドレスト、ピラートリム、トランクルームトリム、エアバッグ収納カバー、ステアリングホイールカバー、アームレスト、天井材等の自動車の内装材や、家具、椅子のアームレスト、或いは、スポーツ用品、雑貨品等のクッション性が要求される部材の表皮材の素材として採用することができる。
本発明のTPUからなるスラッシュ成形体は、熱安定性に優れるため、リサイクルが可能であるという長所を有する。
【0036】
【発明の実施の形態】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法は以下の通りである。
(1)ショアD硬さ[−]:ASTM D2240、Dタイプ、23℃で測定。試料は、下記のスラッシュ成形品を用いた。
(2)メルトフローレイト(MFR)[g/10分]:ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重にて測定した。
(3)パウダースラッシュ成形性
【0037】
TPUのパウダーを一軸回転パウダースラッシュ成形装置に取り付けた300mm×200mm、深さ250mmのステンレス製角形容器(以下、パウダー供給ボックスという)に1Kg投入した。該パウダー供給ボックスの上部に予め260℃に加熱した300mm×200mm、深さ50mmのシボ付き(シボ山とシボ谷の高低差は20μm)ニッケル電鋳金型をクランプで取付、パウダー供給ボックスとシボ付き電鋳金型を同時に左右に各3回転づつ回転を繰り返した。
【0038】
その後、シボ付き金型を木ハンマーで2〜3回たたき、過剰のパウダーを払い落とした。供給ボックスからシボ付き電鋳金型を外し、300℃の加熱炉中で30秒間加熱溶融した後、水冷し、金型より成形品を取り出した。そして、脱離して得られた成形品の性状より、TPUパウダーのパウダースラッシュ成形性の目視による評価を行った。パウダースラッシュ成形性の評価基準を以下に示す。
○:成形品にピンホールがないくシボの転写性が良好。
△:成形品に多少のピンホールがあり、シボの転写が甘い。
×:成形品にピンホールが目立ち、シボがほとんど転写されていない。
【0039】
(4)引張強さ[kgf/cm2]:
JIS K6251、3号ダンベル、試料は上記スラッシュ成形品を打ち抜いて試験に供した。
(5)伸び[%]:
JIS K6251、3号ダンベル、試料は上記スラッシュ成形品を打ち抜いて試験に供した。
【0040】
(6)脆化温度[℃]:
JIS K6261、ゲーマンねじり試験、t100温度。試験片はTPUパウダーを用い、熱プレス成形にて2mm厚のシートを作成し使用した。
(7)耐傷付き性、光沢保持率[%]:
試料は上記スラッシュ成形品(シート)を用いた。シートをシボ面を上にして水平に置き、荷重40g/cm2を加えた綿布を置き、200回往復させた。その摩擦面の光沢度をJIS K7105の方法で測定し(E1)、摩擦前の光沢度(E0)からの保持率;(E1/E0)×100(%)を求めた。
【0041】
(8)シボ落ち試験:
上記スラッシュ成形品を110℃のオーブン中に168時間放置した。オーブンから取り出した後、目視にてシボ面状態を観察し、変化の無いものを○、若干光沢の出たものを△、光沢の出たものを×とした。
【0042】
(9)耐汗性試験
射出試験片を人工汗液(人工汗液組成;NaCl 7g、メチルアルコール500cc、尿素1g、乳酸4g、蒸留水500cc)に常温にて30日間浸漬した。試験片を取り出し、磨耗試験を行った後の外観(JIS K7204磨耗輪による試験後の外観)を3等級で評価した。
3;磨耗輪による傷が全く認められない
2;磨耗輪による傷がわずかに認められる
1;磨耗輪による傷が明らかに認められる
(10)ソフト感
手で触った時の感触で判定。○;ソフト感良好、△;普通、×;硬い
脂肪族コポリカーボネートジオールの合成方法を下記に参考例として示す。
【0043】
【参考例1】
デイクソンパッキン3φを充填した直径10mm、長さ300mmの蒸留塔及び温度計、攪拌機付きの3リットルフラスコに、エチレンカーボネート(EC)970g(11モル)、1,6−ヘキサンジオール(HDL)650g(5.5モル)、1,5−ペンタンンジオール(PDL)570g(5.5モル)を加え20torrの 減圧下に加熱攪拌し、内温が150℃になるようにコントロールした。蒸留塔の塔頂より共沸組成のECとエチレングリコール(以下EGと略す)を溜出させながら20時間反応を行った。
【0044】
次に蒸留塔を取り外して、減圧度を7torrにして、未反応のECとジオールを回収した。未反応物の溜出の終了後に内温を190℃にし、その温度を保ったままジオールを溜出させることにより自己縮合反応を行い分子量を上昇させた。4時間後、GPC分析により分子量2000のポリマ−を得た。収量は740gであり水酸基価は56mgKOH/gであった。このポリマ−をpc−aと略す。
【0045】
【参考例2〜5】
ジオールとして1,4−ブタンジオール(BDL)、1,6−ヘキサンジオール(HDL)を用い、表1に示した各量とした以外は、参考例1と同様な方法で脂肪族コポリカーボネートジオール(pc−b、pc−c、 pc−d、pc−e)を得た。各々の分子量を表1に示す。
【0046】
【表1】
Figure 0004620826
【0047】
【実施例1】
参考例1で得たpc−aを2,000g、ヘキサメチレンジイソシアネート328gを攪拌装置、温度計、冷却管の付いた反応器に仕込み、100℃で4時間反応し末端NCOのプレポリマーを得た。該プレポリマーに鎖延長剤の1,4−ブタンジオール91.5g、触媒としてジブチルスズジラウリレート0.06gを加えてニーダー内蔵のラボ用万能押出機((株)笠松化工研究所製LABO用万能押出機KR−35型)で140℃で30分反応後、押出し機にてペレットとした。このペレットを室温にてターボミル(32メッシュ)にて粉砕し、目的のTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は41,000、平均粒径は280μm、ショアD硬さは34、MFRは32であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表2に示した。
【0048】
【実施例2】
ヘキサメチレンジイソシアネートの仕込み量を245g、1,4−ブタンジオールの仕込量を41.6gとした以外は実施例1の方法と同様にTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は39,000、平均粒径は250μm、ショアD硬さは25、MFRは35であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表2に示した。
【0049】
【実施例3】
ポリカーボネートジオールとしてpc−bを用いた以外は、実施例1と同様にTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は38,000、平均粒径は240μm、ショアD硬さは38、MFRは31であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表2に示した。
【0050】
参考例6
ポリカーボネートジオールとしてpc−cを用いた以外は、実施例1と同様にTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は41,000、平均粒径は230μm、ショアD硬さは41、MFRは33であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表2に示した。
【0051】
【参考例7】
ポリカーボネートジオールとしてpc−dを用いた以外は、実施例1と同様にTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は41,000、平均粒径は230μm、ショアD硬さは41、MFRは33であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表2に示した。
【0052】
【表2】
Figure 0004620826
【0053】
【比較例1】
ポリカーボネートジオールとしてpc−eを用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は40,000、平均粒径は250μm、ショアD硬さは45、MFRは32であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表3に示した。
【0054】
【比較例2】
ポリカーボネートジオールの替わりに、ポリカプロラクトンポリオール(ダイセル製、プラクセル220、分子量2,000)を用いた以外は、 実施例1と同様にしてTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は41,000、平均粒径は230μm、ショアD硬さは45、MFRは27であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表3に示した。
【0055】
【比較例3】
ニーダー内蔵のラボ用万能押出機での反応条件を140℃で120分とした以外は実施例1と同様にしてTPUパウダーを得た。得られたTPUの数平均分子量は65,000、平均粒径は230μm、ショアD硬さは34、MFRは8であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表3に示した。
【0056】
【比較例4】
ヘキサメチレンジイソシアネートの仕込み量を657g、1,4−ブタンジオールの仕込量を274gとした以外は実施例1の方法と同様にTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は43、000、平均粒径は250μm、ショアD硬さは58、MFRは35であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表3に示した。
【0057】
【比較例5】
ターボミルのメッシュサイズを8メッシュとした以外は実施例1の方法と同様にしてTPUパウダーを得た。得られたTPUパウダーの数平均分子量は41,000、平均粒径は680μm、ショアD硬さは34、MFRは32であった。このパウダーを用い前述の方法にてパウダースラッシュ成形を行った。結果およびその他評価結果を表3に示した。
【0058】
【表3】
Figure 0004620826
【0059】
【発明の効果】
本発明によって得られるTPUパウダーは、柔軟性、耐傷付き性、強度、耐熱性、低温特性、耐汗性およびパウダースッラシュ成形性に優れるため、自動車部品、家電部品、玩具、雑貨等の分野で好適に利用することができる。また、成形品表面の耐傷付き性、成形加工性に優れるため、従来必要であった塗装工程をなくすことができるので、高生産性、低コストが実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例で用いたパウダースラッシュ成形用パウダー供給ボックスの平面図。
【図2】実施例及び比較例で用いたパウダースラッシュ成形用パウダー供給ボックスの立面図。
【図3】実施例及び比較例で用いたパウダースラッシュ成形用パウダー供給ボックスの側面図。
【図4】実施例及び比較例で用いたパウダースラッシュ成形用シボ付きニッケル電鋳金型の平面図。
【図5】実施例及び比較例で用いたパウダースラッシュ成形用シボ付きニッケル電鋳金型の側面図。
【符号の説明】
1;パウダー供給ボックス
2;一軸回転ハンドル
3;シボ付きニッケル電鋳金型
4;金型内シボ部分

Claims (4)

  1. 次の(a)、(b)および必要に応じて(c)成分を共重合してなり、ショアD硬さが20〜40、メルトフローレートが20〜60g/10分である、パウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダー。
    (a)下記式(1)および(2)の繰り返し単位からなり、末端基が水酸基である脂肪族ポリカーボネートジオールを主体とし、下記(1)と(2)の割合が、(1)/(2)=50/50〜68/32(モル比)であり、数平均分子量が1000〜3000であるポリカーボネートジオール(但し、式中nは5)。
    Figure 0004620826
    Figure 0004620826
    (b)ポリイソシアネート
    (c)ポリイソシアネートと反応しうる活性水素を2個有する鎖延長剤
  2. (b)ポリイソシアネートが脂肪族及び/又は脂環式ポリイソシアネートである請求項1記載のパウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダー。
  3. パウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダーの平均粒径が50〜500μmである請求項1または2記載のパウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダー。
  4. 請求項1〜3いずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーパウダーを用いてパウダースラッシュ成形してなる、平均膜厚が50〜900μmのパウダースラッシュ成形体。
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