JP4618853B2 - 気相熱分解時の重合防止方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ノルボルネン誘導体を気相熱分解して、アクリル系モノマーを製造する際の重合防止方法に関する。
本発明によって得られるアクリル系モノマーは、重合して、産業排水、生活排水の処理に用いる高分子凝集剤、塗料、接着剤、高分子改質剤、製紙時の歩留向上剤、抄紙時の濾水性向上剤、紙力増強剤、土壌改良剤等の合成原料として用いられる有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
従来、アクリル系モノマーの製造方法としては、例えば、特開平1−254648号公報あるいは特公昭55−29976号公報記載の方法が公知である。
これらのうち、前者の方法は、副生物であるビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−カルボン酸をアルカリ金属塩として除去した後、特に、重合禁止剤を添加しないで、気相熱分解を行う方法を開示している。しかしながら、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート等のように沸点が低い化合物の場合は、ポップコーン重合の発生は見られないが、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等の高沸点アクリルアミドの場合、重合禁止剤を添加しないで長時間熱分解すると、ポップコーン重合が起こりやすいという問題点があった。
一方、後者の方法は、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−ヒドロキシエチルカルボン酸エステル−2中に、ハイドロキノン、カテコール等の重合禁止剤を添加し、気相熱分解してアクリレート類を製造する方法を教えている。しかしながら反応性のアクリレート類を製造する場合は極めて重合しやすく、これらの重合禁止剤では、ほとんど効果が見られないという欠点があった。
また、N−ニトロソフェニルヒドロキシアンモニウム塩や酸化窒素を気相熱分解におけるポップコーン重合の防止に用いる報告もあるが、多量に使用する必要があるとともに、これら重合禁止剤の分解生成物の製品中への混入や、目的生成物の着色が著しいという問題点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ノルボルネン誘導体を気相熱分解するのに際し、高温下でのポップコーン重合の発生を伴わず、高純度かつ低色相なアクリル系モノマーを工業的に有利に製造できる、重合防止方法を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ヒドラジン系化合物の存在下、ノルボルネン誘導体を気相熱分解させることにより、アクリル系モノマーを、高温下でのポップコーン重合の発生を伴わず、高純度かつ低色相で製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、
(1)化4(式中、R1 、R2 は、同一または異なっていてもよく、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基乃至N,N−ジメチルアミノアルキル基で置換された、あるいは無置換のC1 〜C3 のアルキル基又は水素原子を表す。)で表わされるノルボルネン誘導体を気相熱分解して、化5(式中、R1 、R2 は前記と同じ。)で表わされるアクリル系モノマーを製造するのに際し、化6(式中、R3 〜R6 は、同一または異なっていてもよく、C1 〜C3 のアルキル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基又は水素原子を表す。)で表わされるヒドラジン系化合物及びその抱水化合物(以下、両者をあわせてヒドラジン系化合物という。)を添加することを特徴とする、気相熱分解時のアクリル系モノマーの重合防止方法、
(2)ヒドラジン系化合物がヒドラジノエタノールである、上記(1)記載の重合防止方法、
(3)ヒドラジン系化合物の添加量が、化4で表わされるノルボルネン誘導体に対して、1〜20000ppmである、上記(1)乃至(2)記載の重合防止方法、
を提供するものである。
【0006】
【化4】
【0007】
【化5】
【0008】
【化6】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の重合防止方法に用いられる出発物質である上記化4で表されるノルボルネン誘導体としては、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−ヒドロキシエチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−メトキシエチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−エトキシエチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−モノメチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N,N−ジメチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N,N−ジエチルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−イソプロピルカルボン酸アミド−2、ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)カルボン酸アミド−2、等が例示される。
【0010】
また、本発明による生成物である上記化5で表されるアクリル系モノマーとしては、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が例示される。
【0011】
本発明で用いられるヒドラジン系化合物としては、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,1−ジエチルヒドラジン、1,1−ジフェニルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、1,2−ジエチルヒドラジン、1,2−ジフェニルヒドラジン、トリエチルヒドラジン、1,2−ジエチル−1−フェニルヒドラジン、1,1−ジエチル−2−フェニルヒドラジン、テトラフェニルヒドラジン、ヒドラジノメタノール、ヒドラジノエタノール、抱水化合物であるヒドラジンヒドレート等を例示することができる。
これらヒドラジン系化合物は、熱分解工程においてほぼ完全に分解されて重合防止効果を発揮するが、分解生成物が高沸点成分の場合、精製工程での除去が必要となり、また、製品に混入してきた場合、着色の原因となるため、主な分解生成物がエタノールや水等の低沸点成分であるヒドラジノエタノールやヒドラジンヒドレートが特に望ましい。
また、ヒドラジン系化合物は、単体及び水溶液のいずれでも有効であり、重合防止効果に特別の差異はないが、気相熱分解で生成するシクロペンタジエンの凝縮(回収)が通常−20〜−70℃の範囲で行われることを考慮すると、水溶液を用いた場合、水分が凝縮器内で固化し閉塞等の問題が起こる恐れがあることから、単体を使用することが望ましい。
【0012】
ヒドラジン系化合物の使用量については特に制限はないが、通常、化4で表わされるノルボルネン誘導体に対して、1〜20000ppm、好ましくは500〜5000ppm程度が望ましい。使用量が少なすぎると、ポップコーン重合の抑制効果が充分でなく、多すぎると熱分解後のアクリル系モノマーの着色が著しくなる。
ヒドラジン系化合物の使用方法は、ノルボルネン誘導体中に、予め、混ぜておいても、別途、単独で供給しても問題ない。
【0013】
本発明における気相熱分解反応は、一般的な熱分解装置を用いて一般的な方法で実施することができる。すなわち、ステンレス管を200〜600℃程度の温度に加熱し、減圧下、化4で表わされるノルボルネン誘導体の蒸気を通すことにより熱分解が実施される。熱分解生成物の内、目的とするアクリル系モノマーは、水冷した凝縮器に選択的に凝縮させることにより、容易に単離する事ができる。一方、低沸点分解物であるシクロペンタジエンは、通常、−20〜−70℃に冷却させた凝縮器において回収される。
【0014】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明を詳細に説明する。
実施例1
ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−ヒドロキシエチルカルボン酸アミド−2 400.1g中にヒドラジノエタノール1000ppmを添加した溶液を、4kPaの減圧下で加熱して蒸発気化せしめ、425℃に加熱した熱分解管に連続的に通して、約7時間、気相熱分解を行った。
分解生成物のうち、水冷した第1の凝縮器によって、まず、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド241.7g(純分97.9%、熱分解効率98.7%)が得られ、次に−70℃に冷却させた第2の凝縮器によって、シクロペンタジエン138.4gを得た。熱分解後、熱分解管、凝縮器の内部を観察したが、ポップコーン重合物の痕跡は見られなかった。
【0015】
比較例1
ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−ヒドロキシエチルカルボン酸アミド−2 351.2g中に重合禁止剤ハイドロキノン5000ppmを添加した溶液を、実施例1と同様に4kPaの減圧下で加熱して蒸発気化せしめ、425℃に加熱した熱分解管に連続的に通して、気相熱分解を行った。運転開始0.5時間後、ポップコーン重合の発生により、熱分解管が閉塞して、運転不能に陥った。
【0016】
実施例2〜3及び比較例2〜4
表1に記載の重合禁止剤を用いて、実施例1と同様に熱分解を実施し、ポップコーン重合の有無を確認した。
【0017】
【表1】
【0018】
実施例4
ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)カルボン酸アミド−2 300g中にヒドラジノエタノール1000ppmを添加した溶液を、4kPaの減圧下で加熱して蒸発気化せしめ、425℃に加熱した熱分解管に連続的に通して、約5時間、気相熱分解を行った。
分解生成物のうち、水冷した第1の凝縮器によって、まず、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド200.3g(純分98.1%、熱分解効率98.5%)が得られ、次に−70℃に冷却させた第2の凝縮器によって、シクロペンタジエン84.8gを得た。熱分解後、熱分解管、凝縮器の内部を観察したが、ポップコーン重合物の痕跡は見られなかった。
【0019】
実施例5
ビシクロ[2,2,1]ヘプテン−5−N,N−ジメチルカルボン酸アミド−2 300g中にヒドラジノエタノール1000ppmを添加した溶液を、4kPaの減圧下で加熱して蒸発気化せしめ、425℃に加熱した熱分解管に連続的に通して、約5時間、気相熱分解を行った。
分解生成物のうち、水冷した第1の凝縮器によって、まず、N,N−ジメチルアクリルアミド171.0g(純分98.5%、熱分解効率98.7%)が得られ、次に−70℃に冷却させた第2の凝縮器によって、シクロペンタジエン114.0gを得た。熱分解後、熱分解管、凝縮器の内部を観察したが、ポップコーン重合物の痕跡は見られなかった。
【0020】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、ノルボルネン誘導体にヒドラジン系化合物を添加して気相熱分解することにより、高温下でのポップコーン重合の発生を伴わず、アクリル系モノマーを高純度、低色相で工業的に製造することができる、熱分解時の重合防止方法が提供される。
Claims (3)
- 化1(式中、R1 、R2 は、同一又は異なっていてもよく、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、若しくは、N,N−ジメチルアミノ基で置換され、又は無置換のC1 〜C3 のアルキル基若しくは水素原子を表す。)で表わされるノルボルネン誘導体を気相熱分解して、化2(式中、R1 、R2 は前記と同じ。)で表わされるアクリル系モノマーを製造するのに際し、化3(式中、R3 〜R6 は、同一又は異なっていてもよく、C1 〜C3 のアルキル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基又は水素原子を表す。)で表わされるヒドラジン系化合物又はその抱水化合物を添加することを特徴とする、気相熱分解時のアクリル系モノマーの重合防止方法。
- 上記化3で表わされるヒドラジン系化合物がヒドラジノエタノールである、請求項1記載の重合防止方法。
- 上記化3で表わされるヒドラジン系化合物又はその抱水化合物の添加量が、上記化1で表わされるノルボルネン誘導体に対して1〜20000ppmである、請求項1又は2記載の重合防止方法。
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