JP4609708B2 - 火花点火式直噴エンジン - Google Patents

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Description

本発明はエンジンに係わり、特に、火花点火式直噴エンジンに関する。
特開2004−11622号公報(特許文献1)には、火花点火式直噴エンジンが記載されている。この火花点火式直噴エンジンは、複数の噴口を有するインジェクタを備え、各噴口から噴射される燃料噴霧が、点火プラグを避けつつ、点火プラグの電極の周囲に配列されるように構成されている。このエンジンでは、複数の燃料噴霧をこのように配列することにより、着火可能な空燃比の混合気を点火プラグの電極付近に偏在させ、成層燃焼を行うことによって燃費の改善を図っている。
特開2004−11622号公報
しかしながら、燃料噴霧を点火プラグの周囲に偏在させると、特に高負荷領域で運転する場合において、噴霧された燃料が気化されないまま燃焼室やシリンダの壁面に到達し、シリンダ壁面に付着した燃料が、シリンダ壁面の潤滑油(オイル)に希釈され、燃料が希釈したオイルが、ピストンの下降によって掻き下げられてオイルパン内に落とされることで、潤滑性が低下したオイルが潤滑部位を循環し、潤滑性を低下させるという問題がある。
従って、本発明は、燃料噴霧量が多い高負荷領域においても、燃焼室内に噴霧した燃料による上記のようなオイル希釈を発生しにくくして、オイルの潤滑性低下を抑制することができる火花点火式直噴エンジンを提供することを目的としている。
上述した課題を解決するために、本発明は、火花点火式直噴エンジンであって、一端部に燃焼室が形成されたシリンダと、このシリンダ内で往復運動するピストンと、このピストンの往復運動によって回転されるクランクシャフトと、燃焼室のほぼ中央部に配置された点火プラグと、燃焼室に形成された吸気開口を開閉する吸気弁と、燃焼室に形成された排気開口を開閉する排気弁と、燃焼室の周縁部に配置され、少なくとも排気弁が位置する方向に燃料を噴霧するインジェクタと、を有し、燃焼室の天井壁は、中央の直線状の領域が最も高く、その両側の領域が傾斜面となるように構成されており、これらの傾斜面の一方の吸気側傾斜面には、吸気弁及びインジェクタが配置され、他方の排気側傾斜面には、排気弁が配置された火花点火式直噴エンジンにおいて、インジェクタは点火プラグの点火点の側方を通って排気側傾斜面の方に燃料を噴霧するように構成され、排気側傾斜面は、その下端に向かって傾斜が急激になり、この下端部の傾斜が吸気側傾斜面の傾斜よりも急激になるように球面状に構成されると共に、その下端が、シリンダの側壁面よりも内方に張り出していることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、吸気弁が開放されると吸気開口からシリンダ内に空気が導入される。燃焼室の周縁部に配置されたインジェクタは、排気弁が位置する方向に燃料を噴霧する。インジェクタの反対側の、少なくとも排気弁の背面側の領域においては、燃焼室の天井壁の下端はシリンダの側壁面よりも内方に張り出しているので、噴霧された燃料が排気弁の背面側の領域に当たった場合にも、天井壁を流下した燃料がシリンダの側壁面に流れるのを抑制することができる。
このように構成された本発明によれば、天井壁を流下した燃料のシリンダ側壁面への流れが抑制されるので、燃料がシリンダ側壁面に付着することによるオイル希釈を抑制することができる。
また、排気側傾斜面の傾斜が、吸気側傾斜面の傾斜よりも急激になるように構成されているので、排気側傾斜面に十分な大きさの排気開口を確保しながら、排気弁の背面側の領域において、燃焼室の天井壁の下端をシリンダの側壁面よりも内方に張り出させることができる。
さらに、燃焼室の天井壁の傾斜が、排気側傾斜面において、その下端に向かって急激になるように形成されているので、天井壁の下端に到達した燃料の落下を助長し、燃料がシリンダ側壁面に流れるのを抑制することができる。
本発明において、好ましくは、吸気側傾斜面は平面である。
このように構成された本発明によれば、吸気弁の弁軸を、クランクシャフトを含む平面に投影したとき、シリンダ軸線と平行になるように向けることができるので、吸気弁を駆動する機構を簡略化することができる。
本発明において、好ましくは、排気弁は、その弁軸を、クランクシャフトを含む平面に投影したとき、シリンダの軸線と平行になるように配置されている。
このように構成された本発明によれば、排気開口が形成されている燃焼室の天井面が球面状である場合にも排気弁を駆動する機構を簡略化することができる。
本発明において、好ましくは、シリンダには、吸気弁及び排気弁が夫々2つずつ備えられ、インジェクタは、2つの吸気弁の間から燃料を噴霧するように配置され、吸気弁の弁軸間の距離が、排気弁の弁軸間の距離よりも長くなるように、各吸気弁及び各排気弁が配置されている。
このように構成された本発明によれば、吸気弁の弁軸間の距離が排気弁の弁軸間の距離よりも長く構成されているので、吸気工程における燃料噴霧が吸気弁に当たるのを防止することができ、混合気分布を良好にすることができる。
本発明において、好ましくは、シリンダには、吸気弁が2つ備えられ、インジェクタは、2つの吸気弁の間から燃料を噴霧するように配置され、2つ吸気弁の各吸気開口に空気を導く2本の吸気ポートの終端部が、下流側に向かって間隔が広くなるように湾曲されている。
このように構成された本発明によれば、2本の吸気ポートの終端部が、下流側に向かって間隔が広くなるように、湾曲した形状に形成されているので、吸気が燃焼室の周縁部に沿うように流れ、噴霧された燃料が燃焼室の天井壁に当たるのを防止することができる。
本発明において、好ましくは、燃焼室の天井壁の下端と、シリンダの側壁面とを連結する壁面の少なくとも一部が、シリンダ軸線とほぼ直交するスキッシュ面として形成され、ピストンの冠面の、スキッシュ面と対向する部分が、シリンダ軸線とほぼ直交する平面で形成されている。
このように構成された本発明によれば、天井壁の下端から落下する燃料がシリンダ側壁面に流れるのを、スキッシュ流により抑制することができる。
本発明の火花点火式直噴エンジンによれば、燃料噴霧量が多い高負荷領域においても、燃焼室内に噴霧した燃料によるオイル希釈を抑制することができ、オイルの潤滑性低下を抑制することができる。
次に、図1乃至図4を参照して、本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジンを説明する。図1は、本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジンの燃焼室付近を拡大して示す断面図である。図2は、本実施形態の火花点火式直噴エンジンのピストン、インジェクタ、点火プラグ等の位置関係を示す斜視図である。また、図3は本実施形態による火花点火式直噴エンジンのシリンダヘッドをピストン側から見た下面図である。なお、図3においては、シリンダの側壁面の位置を想像線で示している。また、図4は、図3のIV−IV線に沿って切断した燃焼室の天井壁の断面図である。
図1乃至図3に示すように、本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジン1は、シリンダ2と、このシリンダ2の上端に形成された燃焼室4と、シリンダ2の内部で往復運動するピストン6と、を有する。ピストン6の下部には、コネクティングロッド(図示せず)が接続され、このコネクティングロッドは、クランクシャフト(図示せず)に連結されて、ピストン6の往復運動がクランクシャフトの回転運動に変換される。なお、本実施形態のエンジン1は、直列4気筒であり、図1の紙面に垂直な方向に4本のシリンダ2が直線状に並べて配置されている。
また、エンジン1は、燃焼室4の周縁部から中央部に向けて燃料を噴霧するインジェクタ8と、燃焼室4のほぼ中央に配置された点火プラグ10と、を有する。さらに、エンジン1は、燃焼室4の天井壁に開口した吸気開口12aに連通した吸気ポート12と、排気開口14aに連通した排気ポート14と、を有する。また、エンジン1は、吸気開口12aを開閉するための吸気弁13と、排気開口14a開閉するための排気弁15(図1に1つのみ図示)と、を有する。
燃焼室4は、シリンダ2の上端部に設けられており、その天井壁は、中央が高く、その両側の領域が周縁に向かって低くなるペントルーフ形状に形成されている。また、燃焼室4の傾斜した天井壁には、2つの吸気開口12aと、2つの排気開口14aが形成されている。なお、吸気開口12a及び排気開口14aは、夫々、図1の紙面に垂直な方向に2つずつ並べて配置されている。さらに、燃焼室4の天井壁の中央部から、鉛直下方に延びるように点火プラグ10が配置されている。また、燃焼室4の天井壁に形成された2つの吸気開口12aの間には、インジェクタ8が配置されている。このインジェクタ8は、燃焼室4の周縁部から点火プラグ10が配置された中央部の方向に燃料を噴霧するように向けられている。即ち、インジェクタ8は、その中心軸が、鉛直上方から見てシリンダ2の中心点を通り、側面から見て斜め下方を向くように配置されている。
燃焼室4の天井壁は、点火プラグ10が配置された中央水平面4aと、吸気開口12aが形成された吸気側傾斜面4bと、排気開口14aが形成された排気側傾斜面4cと、を有する。
中央水平面4aは、燃焼室4内で最も高く、その中央を通り半径方向に延びる細長い直線状の水平な平面として構成されている。
吸気側傾斜面4bは、中央水平面4aから連続して、斜め下方に延びる傾斜した平面として構成されている。また、吸気側傾斜面4bには、中央水平面4aと平行な方向に並べられた2つの吸気開口12aが形成されている。さらに、2つの吸気開口12aの間の周縁部側には、インジェクタ8が配置されている。
排気側傾斜面4cは、中央水平面4aから連続して、斜め下方に延びる傾斜した曲面として構成されている。排気側傾斜面4cの傾斜は、吸気側傾斜面4bよりも急激であり、中央水平面4aに接する中央部で最も小さく、周縁部に向かって次第に急峻になるように構成されている。本実施形態においては、図4に示すように、排気側傾斜面4cは、概ね球面によって構成されている。また、排気側傾斜面4cには、中央水平面4aと平行な方向に並べられた2つの排気開口14aが形成されている。
天井壁の中央水平面4aから延びる吸気側傾斜面4b及び排気側傾斜面4cは、燃焼室4の天井壁の下端4dまで延びている。図1及び図3に示すように、天井壁の下端4dは、シリンダ2の側壁面よりも内方に張り出すように形成されている。さらに、天井壁の下端4dの外方には、シリンダ2の軸線に直交する平面であるスキッシュ面4eが形成されている。即ち、天井壁の下端4dとシリンダ2の側壁面とを連結する壁面は、水平方向に延びるスキッシュ面4eとして形成されている。従って、中央からその下端に向かって急激に傾斜する排気側傾斜面4cは、天井壁の下端4dで、ほぼ直角に折れ曲がり、水平方向に延びるスキッシュ面4eに繋がっている。
ピストン6は、図1及び図2に示すように、その冠面が、最も高い頂点6aから両側に向かって低くなるペントルーフ状の隆起部6bが形成されている。また、隆起部6bの周囲には水平方向、即ちシリンダ2の軸線と直交する方向に向けられた平面であるスキッシュ面6cが形成されている。
インジェクタ8は、燃焼室4の周縁部から、燃焼室の中央部に向かって燃料を噴霧するように構成されている。インジェクタ8の先端部には、6つの微小な噴口が形成されている。なお、本実施形態においては、インジェクタ8の各噴口の直径は、0.3乃至0.5mmであり、インジェクタ本体8a内には、約20MPaに加圧された燃料が供給される。
また、図2に示すように、インジェクタ8は、図2における上側、即ち、燃焼室4の天井壁に近接する側に噴霧される3つのプラグ側燃料噴霧16a、16b、16cと、図2における下側、即ち、ピストン6に近接する側に噴霧される3つのピストン側燃料噴霧18a、18b、18cと、を噴霧する。プラグ側燃料噴霧16a、16b、16cは、インジェクタ8先端部の軸心に対して上方に傾斜して噴霧される。プラグ側燃料噴霧16a、16bは、最も上方に、即ち、燃焼室4の天井壁に近接する方向に向けられており、点火プラグ10の点火点10aの両側に、点火点10aの真横を夫々通るように噴霧される。また、プラグ側燃料噴霧16cは、プラグ側燃料噴霧16a、16bよりも僅かに下方に向けて、点火点10aの真下を通るように噴霧される。
一方、ピストン側燃料噴霧18aは、インジェクタ8先端部の軸心に対して僅かに下方に傾斜して、プラグ側燃料噴霧16cの真下に噴霧される。また、ピストン側燃料噴霧18b、18cは、ピストン側燃料噴霧18aよりも更に下方に傾斜して、真横に並んで噴霧される。ピストン側燃料噴霧18bと18cの為す角は、プラグ側燃料噴霧16aと16bの為す角よりも僅かに小さくなっている。
吸気ポート12は、燃焼室4の吸気側傾斜面4bに形成された2つの吸気開口12aに空気を導く管路として構成されている。吸気ポート12は、エンジン1の各シリンダ2の各吸気開口12aに1本ずつ設けられている。1つのシリンダ2に接続される2本の吸気ポート12は、その終端部が下流側に向かって間隔が広くなるように、湾曲した形状に形成されている。これらの間隔を空けた2本の吸気ポート12の間にインジェクタ8が配置されている。また、これら2本の吸気ポート12の終端部の間隔は、吸気弁13の間隔よりも広くなっている。即ち、吸気開口12aの中心点は、吸気弁13の弁軸の中心と一致しており、2つの吸気弁13の弁軸の中心間距離よりも、2本の吸気ポート12の終端部の中心間距離の方が長くなっている。
吸気弁13は、各吸気開口12aを開閉するために、各吸気開口12aに夫々対応して設けられている。各吸気弁13は、クランクシャフト(図示せず)を含む平面P1に投影したとき、その弁軸13aが、シリンダ2の軸線に対して平行になるように向けられている。また、各吸気弁13の弁軸13aは、燃焼室4の天井壁の吸気側傾斜面4bと直交するように向けられている。
排気ポート14は、燃焼室4の排気側傾斜面4cに形成された2つの排気開口14aから排気ガスを排出する管路として構成されている。排気ポート14は、エンジン1の各シリンダ2の各排気開口14aに1本ずつ設けられている。また、排気開口14aの直径は、吸気開口12aの直径よりも小さく形成されている。さらに、2つの排気開口14aの中心間距離L2は、吸気開口12aの中心間距離L1よりも短くなるように構成されている。
排気弁15は、各排気開口14aを開閉するために、各排気開口14aに夫々対応するように設けられている。各排気弁15は、クランクシャフト(図示せず)を含む平面P1に投影したとき、その弁軸15aが、シリンダ2の軸線に対して平行になるように向けられている。また、吸気開口12aの中心点と吸気弁13の弁軸の中心は一致し、排気開口14aの中心点と排気弁14の弁軸の中心も一致しているので、2つの排気弁15の弁軸15a間の距離L2は、2つの吸気弁13の弁軸13a間の距離L1よりも短くなる。さらに、各排気弁15の弁軸15aとシリンダ2の軸線を、クランクシャフト(図示せず)に直交する平面P2に投影したときに為す角βは、各吸気弁13の弁軸13aとシリンダ2の軸線を、平面P2に投影したときに為す角αよりも大きくなる。
次に、本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジン1の作用を説明する。
エンジン1は、その吸気工程において、吸気弁13がリフトして、吸気開口12aが開放されると共に、ピストン6が下降する。これにより、吸気開口12aを介してシリンダ2内に空気が吸入される。また、エンジン1が高負荷で運転されている場合には、インジェクタ8から噴霧すべき燃料の量が多いため、燃料噴霧が吸気工程から開始され、圧縮工程の終期まで続く。従って、この場合には、吸気弁13がリフトしている間にも燃料が噴霧されることになるが、吸気開口12aの中心間距離L1が長く構成されているため、噴霧された燃料は、リフトした吸気弁13に殆ど当たらない。また、吸気弁13の弁軸13aは、クランクシャフト(図示せず)を含む平面P1に投影したとき、シリンダ軸線と平行になるように向けられている。このため、吸気弁13はリフトしたときシリンダ軸線と平行に下降するので、下降に伴って吸気弁13の間隔が狭くなることはなく、インジェクタ8から噴霧された燃料は、容易に吸気弁13の間を通過する。
インジェクタ8から噴霧されたピストン側燃料噴霧18a、18b、18cは、下方のピストン6に近接した方向に向かうため、シリンダ2の側壁面に到達するまでの距離が長い。このため、ピストン側燃料噴霧18a、18b、18cは、シリンダ2の側壁面に到達する前に気化され、オイル希釈の原因となることはない。一方、プラグ側燃料噴霧16a、16b、16cは、ピストン側燃料噴霧18a、18b、18cよりも上方の点火プラグ10に近接した方向に向けられるため、燃焼室4の天井壁に到達するまでの距離が短い。従って、点火プラグ10の点火点10aの側方を通るプラグ側燃料噴霧16a、16b、及び点火点10aの下方を通るプラグ側燃料噴霧16cは、その多くが天井壁に達するまでに気化するが、一部は気化されずに燃焼室4の排気側傾斜面4cに到達する。
従来のエンジンでは、燃焼室4の天井壁に到達した燃料は、天井壁に付着した後、下方に向かい、シリンダの側壁面に流れ落ちる。これにより、シリンダ側壁面のオイルが希釈され、潤滑性能が低下する原因となる。これに対して、本実施形態の火花点火式直噴エンジン1では、燃焼室の天井壁の下端4dが、シリンダの側壁面よりも大きく内方に張り出しているので、燃料がシリンダ2の側壁面に流れることがない。即ち、天井壁に到達し、排気側傾斜面4cを流下した燃料は、天井壁の下端4dに到達すると、シリンダ2の側壁面には流れず、そのまま下方に落ちる。下方に落ちた燃料は、ピストン6の冠面に到達するが、ピストン冠面はオイルによる潤滑がなく、比較的高温であるため、燃料はそこで気化し、オイル希釈の原因とはならない。
プラグ側燃料噴霧16a、16bは、点火点10aの側方を通り排気弁15付近に到達するが、天井壁の下端4dは排気弁15の背面側の領域においても内方に張り出しているため、燃料はシリンダ2の側壁面に流れることなく落下する。また、プラグ側燃料噴霧16cは、点火点10aの下方を通り、その多くが排気側傾斜面4cの下部の、各排気弁15の間の領域に到達する。この領域においても、天井壁の下端4dは内方に張り出しているため、燃料はシリンダ2の側壁面に流れることなく落下する。また、本実施形態のエンジン1では、排気側傾斜面4cが球面状に形成されており、その傾斜が下端に向かって急激になっているため、天井壁の下端4dに到達した燃料がそのまま落下しやすくなっている。さらに、燃焼室4の排気弁15付近は比較的高温であるため、排気側傾斜面4cに付着した燃料の一部は流下せず、壁面上で気化する。
また、本実施形態のエンジン1では、2本の吸気ポート12の終端部が下流側に向かって間隔が広くなるように、湾曲した形状に形成されているため、各吸気開口12aから流入した空気は夫々、燃焼室4の周縁部に沿うように流れる。このため、2つの吸気開口12aの間のインジェクタ8から噴霧された燃料は、燃焼室4の周縁部に沿う空気の流れによって包み込まれ、燃焼室4の天井壁に到達し難くなる。
シリンダ2内に空気が吸入された後、吸気弁13は吸気開口12aを閉鎖する。次いで、圧縮工程においては、下死点からピストン6が上昇に転じ、吸気工程で吸入された空気が圧縮される。圧縮工程において、ピストン6が上昇し、上死点に近づくと、天井壁の下端4dの下端から延びるスキッシュ面4eと、ピストン冠面に形成されたスキッシュ面6cが接近し、これらの面の間に挟まれた空気が燃焼室4の中心に向かって流れるスキッシュ流が発生する。このスキッシュ流により混合気の着火性が改善される。また、このスキッシュ流は、天井壁の下端4dから落下する燃料が、シリンダ2の側壁面に流れるのを防止する。ピストン6が上死点付近に到達すると、点火プラグ10によって燃焼室4内の混合気に点火され、混合気の燃焼が開始される。
ピストン6が上死点を通過し、下降に転じる燃焼行程では、燃焼によって膨張した混合気がピストン6を下方に押し下げる。ピストン6を押圧する力は、コネクティングロッド(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に伝達され、クランクシャフトを回転させるトルクに変換される。次いで、ピストン6が下死点を通過し、上昇に転じる排気工程では、排気弁15がリフトして排気開口14aが開放され、燃焼した混合気が排気ポート14を介して排気される。さらに、ピストン6が上昇して、上死点を通過すると、吸気工程が開始される。以上の工程を繰り返すことにより、エンジン1が運転される。
本発明の実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、天井壁の下端がシリンダの側壁面よりも内方に張り出しているので、燃料噴霧量が多い高負荷領域においても、燃焼室内に噴霧した燃料によるオイル希釈を抑制することができる。このように、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、燃料が天井壁に付着してもこれがオイル希釈の原因とはならない。このため、燃料噴霧が天井壁やシリンダ側壁に当たらないように燃料の噴霧方向を設定する従来の設計とは異なる、天井壁に向けて燃料を噴霧する設計が可能となる。これにより、噴霧した燃料を点火プラグ付近に偏在させることが可能になり、成層燃焼によって燃費を改善することができる。
また、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、吸気弁の弁軸が、クランクシャフトを含む平面に投影したとき、シリンダ軸線と平行になるように向けられているので、吸気弁を駆動する機構を簡略化することができる。さらに、この構成により、吸気工程における燃料噴霧が吸気弁に当たるのを防止することができるので、混合気の成層化及び均質化が可能となり、混合気分布を良好にすることができる。
さらに、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、吸気弁の弁軸間の距離が排気弁の弁軸間の距離よりも長く構成されているので、吸気工程における燃料噴霧が吸気弁に当たるのを防止することができ、混合気分布を良好にすることができる。
また、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、排気弁の弁軸が、クランクシャフトを含む平面に投影したとき、シリンダ軸線と平行になるように向けられているので、排気開口が形成されている燃焼室の天井面が球面状であっても排気弁を駆動する機構を簡略化することができる。
さらに、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、2本の吸気ポートの終端部が、下流側に向かって間隔が広くなるように、湾曲した形状に形成されているので、吸気が燃焼室の周縁部に沿うように流れ、噴霧された燃料が燃焼室の天井壁に当たるのを防止することができる。
また、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、排気側傾斜面の傾斜が下端に向かって急激になっているので、天井壁の下端に到達した燃料の落下を助長し、燃料がシリンダ側壁面に流れるのを防止することができる。
さらに、本実施形態の火花点火式直噴エンジンによれば、天井壁の下端とシリンダ側壁面の間に延びる面をスキッシュ面として利用しているので、天井壁の下端から落下する燃料がシリンダ側壁面に流れるのを、スキッシュ流により防止することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。
本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジンの燃焼室付近を拡大して示す断面図である。 本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジンのピストン、インジェクタ、点火プラグ等の位置関係を示す斜視図である。 本発明の実施形態による火花点火式直噴エンジンのシリンダヘッドをピストン側から見た下面図である。 図3のIV−IV線に沿って切断した燃焼室の天井壁の断面図である。
符号の説明
1 火花点火式直噴エンジン
2 シリンダ
4 燃焼室
4a 中央水平面
4b 吸気側傾斜面
4c 排気側傾斜面
4d 天井壁の下端
4e スキッシュ面
6 ピストン
6a 頂点
6b 隆起部
6c スキッシュ面
8 インジェクタ
10 点火プラグ
10a 点火点
12 吸気ポート
12a 吸気開口
13 吸気弁
13a 弁軸
14 排気ポート
14a 排気開口
15 排気弁
15a 弁軸
16a、16b、16c プラグ側燃料噴霧
18a、18b、18c ピストン側燃料噴霧

Claims (6)

  1. 火花点火式直噴エンジンであって、
    一端部に燃焼室が形成されたシリンダと、
    このシリンダ内で往復運動するピストンと、
    このピストンの往復運動によって回転されるクランクシャフトと、
    上記燃焼室のほぼ中央部に配置された点火プラグと、
    上記燃焼室に形成された吸気開口を開閉する吸気弁と、
    上記燃焼室に形成された排気開口を開閉する排気弁と、
    上記燃焼室の周縁部に配置され、少なくとも上記排気弁が位置する方向に燃料を噴霧するインジェクタと、を有し、
    上記燃焼室の天井壁は、中央の直線状の領域が最も高く、その両側の領域が傾斜面となるように構成されており、これらの傾斜面の一方の吸気側傾斜面には、上記吸気弁及び上記インジェクタが配置され、他方の排気側傾斜面には、上記排気弁が配置された火花点火式直噴エンジンにおいて、
    上記インジェクタは上記点火プラグの点火点の側方を通って上記排気側傾斜面の方に燃料を噴霧するように構成され、
    上記排気側傾斜面は、その下端に向かって傾斜が急激になり、この下端部の傾斜が上記吸気側傾斜面の傾斜よりも急激になるように球面状に構成されると共に、その下端が、上記シリンダの側壁面よりも内方に張り出していることを特徴とする火花点火式直噴エンジン。
  2. 上記吸気側傾斜面が平面である請求項記載の火花点火式直噴エンジン。
  3. 上記排気弁が、その弁軸を、上記クランクシャフトを含む平面に投影したとき、上記シリンダの軸線と平行になるように配置されている請求項1又は2に記載の火花点火式直噴エンジン。
  4. 上記シリンダには、上記吸気弁及び上記排気弁が夫々2つずつ備えられ、上記インジェクタは、上記2つの吸気弁の間から燃料を噴霧するように配置され、上記吸気弁の弁軸間の距離が、上記排気弁の弁軸間の距離よりも長くなるように、上記各吸気弁及び上記各排気弁が配置されている請求項1乃至の何れか1項に記載の火花点火式直噴エンジン。
  5. 上記シリンダには、上記吸気弁が2つ備えられ、上記インジェクタは、上記2つの吸気弁の間から燃料を噴霧するように配置され、上記2つ吸気弁の各吸気開口に空気を導く2本の吸気ポートの終端部が、下流側に向かって間隔が広くなるように湾曲されている請求項1乃至の何れか1項に記載の火花点火式直噴エンジン。
  6. 上記燃焼室の天井壁の下端と、上記シリンダの側壁面とを連結する壁面の少なくとも一部が、上記シリンダ軸線とほぼ直交するスキッシュ面として形成され、上記ピストンの冠面の、上記スキッシュ面と対向する部分が、上記シリンダ軸線とほぼ直交する平面で形成されている請求項1乃至の何れか1項に記載の火花点火式直噴エンジン。
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