JP4607304B2 - 太陽電池用シリコン単結晶及び太陽電池用シリコン単結晶ウエーハ並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコン結晶及びシリコン結晶ウエーハ並びにその製造方法に関し、さらに詳しくは太陽電池の材料として有用なシリコン結晶及びシリコン結晶ウエーハ並びにその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
以下、シリコン結晶について、一例として太陽電池セル用に用いられる場合の技術的背景について説明する。
太陽電池は、発電部に用いられる半導体材料の種類に基づいて、大きく分けて「シリコン系太陽電池」と「化合物半導体系太陽電池」の2種類に分類される。
さらに、シリコン系太陽電池は、「結晶シリコン系太陽電池」と「アモルファス(非晶質)シリコン系太陽電池」に分類され、結晶シリコン系太陽電池は「シリコン単結晶系太陽電池」と「シリコン多結晶系太陽電池」に分類される。
【0003】
太陽電池として最も重要な特性である変換効率に注目すると、近年、化合物半導体系太陽電池はこれらの中で最も高く25%近くに達し、次にシリコン単結晶系太陽電池が20%前後と続き、シリコン多結晶系太陽電池やアモルファスシリコン系太陽電池等は5〜15%程度となっている。一方、材料コストに注目すると、シリコンは地球上で酸素に次いで二番目に多い元素であり、化合物半導体に比べ格段に安いため、シリコン系太陽電池の方が広く普及している。
【0004】
なお、ここで「変換効率」とは、「太陽電池に入射した光のエネルギーに対し、太陽電池により電気エネルギーに変換して取り出すことができたエネルギーの割合」を示す値であり百分率(%)で表わされた値を言う(光電変換効率とも言う)。
【0005】
昨今、太陽電池は環境問題を背景に、クリーンエネルギーの一つとして需要は拡大しつつあるが、一般の商用電力と比較してエネルギーコストの高いことがその普及の障害となっている。シリコン結晶太陽電池のコストを下げるために、基板の製造コストを下げる一方で、その変換効率を更に高めることが大きな課題となっている。
【0006】
次に、一般的なシリコン単結晶系太陽電池の製造方法を簡単に説明する。まず、太陽電池セルの基板となるシリコンウエーハを得るために、チョクラルスキー(CZ)法或いは浮遊帯域溶融(FZ)法により、円柱状のシリコン単結晶のインゴットを作る。更に、このインゴットをスライスして、例えば厚さ300μm程度の薄いウエーハに加工し、ウエーハ表面を薬液でエッチングして表面上の加工歪みを取り除くことによって太陽電池の材料となるウエーハ(基板)が得られる。このウエーハに不純物(ドーパント)の拡散処理を施してウエーハの片側にPN接合面を形成した後、両面に電極を付け、最後に太陽光の入射側表面に光の反射による光エネルギーの損失を減らすための反射防止膜を付けることで太陽電池が完成する。
【0007】
また、太陽電池においては、より大電流を得るために、より大面積の太陽電池セルを製造することが重要である。大面積の太陽電池セルを製造するための基板材料となる大直径シリコンウエーハを得る方法としては、大直径のシリコン単結晶を容易に製造することができ、製造される単結晶の強度にも優れたCZ法が適している。そのため、太陽電池用シリコン単結晶の製造はCZ法によるものが主流となっている。
【0008】
また、その一方でシリコン単結晶系太陽電池の基板材料となるシリコンウエーハとしては、その特性の一つである基板ライフタイム(LT)の値が10μs以上でなければ太陽電池基板として利用することはできず、更には、変換効率の高い太陽電池を得るために、基板LTが好ましくは250μs以上であることが要求されている。
【0009】
しかし、現在の単結晶棒製造方法の主流であるCZ法で作った単結晶は、太陽電池に加工した際に太陽電池セルに強い光を照射すると太陽電池基板のLTの低下が起こり、光劣化を生じるために十分な変換効率を得ることができず、太陽電池の性能の面でも改善が求められている。
【0010】
このCZ法シリコン単結晶を用いて太陽電池を作った時に、強い光を太陽電池セルに当てるとLTが低下し光劣化が起こる原因は、単結晶基板中に存在するボロン(以下、Bと言う。)と酸素による影響であることが知られている。現在、太陽電池として用いられているウエーハの導電型はP型が主流であり、通常このP型ウエーハにはBがドーパントとして添加されている。そして、このウエーハの材料となる単結晶棒は、磁界下引上げ(以下、MCZと言う。)を含むCZ法、あるいはFZ法によって製造することができるが、FZ法或いはMCZ法では単結晶棒の製造コストが通常のCZ法に比べ高いため、現在はもっぱら比較的低コストで単結晶を作ることができる磁界を印加しない通常のCZ法によって製造されている。
【0011】
しかし、CZ法によって製造される結晶中には高濃度の酸素が存在し、このためP型CZ法シリコン単結晶中のBと酸素によってLT特性に影響を与え、光劣化が生じると言う問題点がある。
【0012】
このような問題点を解決するため本願出願人は先の出願において、P型のドープ剤としてBの代わりにガリウム(以下、Gaと言う。)を使用することを提案した(特願平11−264549号及び特願2000−061435)。このようにGaをドーパントとすることにより、Bと酸素の影響によるライフタイムの低下を防止することができるようになった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、Gaをドーパントとして、Bと酸素の影響を排除したものの、以下に述べる理由により結晶特性が不安定となってしまうために製造コストが高くなる傾向にある。
【0014】
図1(a)にGaまたはBをドーパントとした場合のシリコン単結晶の長さ方向に対する抵抗率を、図1(b)に同じくシリコン単結晶の長さ方向に対する各々のドーパント濃度を示す。図1から明らかなように、Gaは、Bに比べ偏析係数koが極めて小さいため(Gaのko=0.008、Bのko=0.8)、結晶を成長させて得られたシリコン結晶棒の長さ方向における抵抗率(またはドーパント濃度)に大きな差が生じてしまうという問題がある。また、Gaは、Bに比べ融点も極めて小さい(Gaの融点=29.78℃、Bの融点=2080℃)ので、取り扱いが困難であり、さらに、蒸発速度が大きい(Gaの蒸発速度=2x10-3 cm/s、Bの蒸発速度=8x10-6 cm/s)ので、シリコン結晶にドープするGa濃度の制御が難しく、インゴット内でのばらつきが大きくなってしまうために歩留まりが低くなるという問題がある。規格とされる抵抗率あるいは濃度範囲が狭い場合、その範囲に入る領域が、Gaドープの場合には、Bドープの場合に比べてかなり短くなってしまうために歩留まりが低くなり、その結果製造コストが高くなるという問題がある。
【0015】
また、現在主として使われているシリコン単結晶太陽電池の主原料であるシリコンウエーハは、集積回路(IC)やメモリ等の半導体デバイスで用いられているシリコンウエーハと同じ物である。しかし、半導体デバイスは、1平方cm以下のチップサイズで数百円以上、特に集積回路では数千円の価格で売られている。半導体デバイスと比較すると、太陽電池用のシリコンウエーハは、単位面積当たりのコストを二桁から四桁低くしなければならないと言われており、コストにおける問題も大きい。
【0016】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたもので、シリコン結晶を用いて太陽電池セルを製造した場合にでも、製造コストを低減でき且つ変換効率やライフタイムが低下せず、光劣化による変換効率の低下をも防止し、特性のバラツキが小さくできるシリコン結晶およびシリコン結晶ウエーハ並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するための本発明は、シリコン結晶であって、ドープ剤としてGaとBが添加されたものであることを特徴とするシリコン結晶である。
【0018】
Bドープシリコン結晶の製品とすることのできないコーン部、テール部あるいは不良部等を原料として再利用することができ、Gaのみを添加されたシリコン結晶に比べて、はるかに安価なものとすることができる。また、Bをドープされていることにより、抵抗率のバラツキがGaのみをドープしたシリコン結晶に比べて改善されるため、歩留りも向上する。
【0019】
この場合、前記シリコン結晶中に含まれるBの濃度が5×1014atoms/cm3以下であることが好ましい。
太陽電池セルに用いられるシリコン結晶として、本出願人は、太陽電池セルにおける変換効率の光劣化がないドーパントとしてBの代わりにGaを提案してきたが、Bがドープされるシリコン結晶であっても、格子間酸素との共存によって形成されるディープレベルの準位が、光劣化を引き起こさない程度のB量とし、さらにGaをドープすることによりP型シリコン結晶の抵抗率を所定の値とすることにより、光劣化の影響が小さく変換効率の高い安定した太陽電池セルを作ることができる。Bは酸素と共存してディープレベルのエネルギー準位となり少数キャリアのライフタイムを低下させるが、シリコン結晶中に含まれるBの濃度を5×1014atoms/cm3以下とすれば、その準位による悪影響が無視できるからである。
【0020】
この場合、前記シリコン結晶中に含まれるGaの濃度が2×1017〜3×1014atoms/cm3であることが好ましい。あるいは、前記シリコン結晶の抵抗率が20Ω・cm〜0.1Ω・cmであることが好ましい。
【0021】
これは太陽電池の基板としては、低抵抗率でライフタイムの高い基板が望まれるが、基板ウエーハの抵抗率が極度に低いものは、基板内部にオージェ(Auger)再結合による少数キャリアのライフタイム(寿命)の低下が発生し変換効率が低下するからである。従って、本発明のシリコン結晶中に含まれるGaの量は、Gaの濃度が2×1017atoms/cm3以下とするか、あるいは、抵抗率が0.1Ω・cm以上となるようにするのが好ましい。
【0022】
また、その一方で基板抵抗率が高すぎても問題が生じる。基板抵抗率が高くなると、太陽電池とした際に太陽電池セルの内部抵抗により電力が消費され、同様に変換効率が低下するためである。これらの理由により、太陽電池の基板材料として用いるのであれば、シリコン結晶中のGaの濃度は3×1014atoms/cm3以上とするか、または抵抗率が20Ω・cm以下となるようにするのが好ましい。
【0023】
そして、この場合、シリコン結晶中の格子間酸素濃度が16ppma(JEIDA;日本電子工業振興協会規格)以下であることが好ましい。
【0024】
このように、本発明では結晶中に酸素が含まれても、Gaにより結晶の抵抗率を制御し、またBの量を制御して少量としたので、光劣化が小さく、結晶中に含まれる酸素濃度は通常のCZ法によって単結晶中に取り込まれる量を含有してもよく、特に16ppma(JEIDA)といった通常の濃度にしてもよい。したがって、無理に低酸素とする必要がなく、容易に製造することができるとともに、適度に酸素が含まれるために結晶強度が高いというメリットもある。
【0025】
一方、酸素濃度が16ppma(JEIDA)を越えるようなシリコン単結晶ウエーハを得るには高酸素濃度のシリコン単結晶が必要になるが、必要以上に高い酸素濃度の単結晶を得るには、単結晶育成時のルツボ回転を高速にする等、単結晶を育成し難い製造条件を選択する必要がある。このような育成条件下では、単結晶の成長途中で単結晶にスリップ転位が生じたり、真っ直ぐに単結晶を引き上げることができず結晶が変形するなどして、太陽電池基板に加工できない結晶ができることもあるため、ウエーハの製造コストが高くなり経済的なメリットを得ることが難しくなる。従って、本発明で用いるウエーハの酸素濃度は、16ppma(JEIDA)以下とするのが好ましい。また、格子間酸素濃度を15ppma(JEIDA)以下とすることにより、初期格子間酸素あるいは熱処理により形成される酸素析出物によるライフタイムの劣化を防止することができるので、より好ましい。
【0026】
この場合、前記シリコン結晶はチョクラルスキー法で製造されたシリコン単結晶であるものとすることができる。
【0027】
従来は、特に基板に用いる単結晶の直径が大きくなると、CZ法或いはMCZ法で作った結晶は高い酸素濃度を示す傾向があるため、変換効率が高い太陽電池を得ようとするのであれば、低酸素とするためにFZ法で単結晶を作るか、MCZ法の小直径単結晶を利用するのが一般的な方法であった。しかし、FZ法では最大で6インチを超える直径を持つ単結晶を作ることは不可能に近く、MCZ法でも直径4インチを越えると低酸素濃度の単結晶を製造するのは難しいことから、変換効率の高い太陽電池を得るためには直径の大きな単結晶は不向きとされてきた。
【0028】
さらに、本発明のシリコン単結晶は、主なドーパントをGaとしたことにより単結晶中に含まれる酸素の影響を受けることなく安定した基板ライフタイムを得ることができ、さらに低コストで製造できるため、直径の大きな単結晶棒を太陽電池の基板ウエーハとして利用することが可能であり、単結晶棒の直径によらず変換効率の高い太陽電池を低コストで作ることがきる。また、現在利用されていないような大直径ウエーハも太陽電池基板として用いることができるようになるため、太陽電池そのものの大型化も可能であり、太陽電池の用途を更に広げることも十分可能である。
【0029】
この場合、前記シリコン結晶はブリッジマン法で製造されたシリコン多結晶であるものとすることができる。
シリコン多結晶太陽電池は、シリコン単結晶太陽電池に比べ、前述したように変換効率が少し低下することになるが、製造に必要な時間等も短く、安価にできるので、この方法に本発明を適用すれば一層効果的である。
【0030】
また本発明は、前記シリコン結晶をスライスして得られるシリコン結晶ウエーハである。
【0031】
このような、GaとBをドープしたシリコン結晶ウエーハを太陽電池の基板材料として用いれば、Bドープシリコン結晶を原料として再利用することもできるため、製造コストも低くできる。そして結晶に含まれるBと酸素が共存することでディープレベルの準位が発生するが、Bの量を抑制することで、その影響によって生じるライフタイムの低下を防止できるため、たとえ高い酸素を含有した単結晶ウエーハであっても、太陽電池として必要とされる高いライフタイムを得ることが可能である。これによって、抵抗率の低いセルであっても適切なライフタイムを得ることができ、極低酸素濃度の基板ウエーハとせずとも、変換効率を損なうことなく性能の高い太陽電池が製造可能となった。また、適度に酸素が含有されていることにより、ウエーハ強度が高いという使用上のメリットも得られる。
【0032】
そして、本発明のシリコン結晶ウエーハは太陽電池用であるものとすることができる。
【0033】
このように、本発明のGa及びB添加シリコン結晶ウエーハは、太陽電池用とした場合に特に有用である。また、このようなGa及びB添加シリコン結晶ウエーハから作製されたシリコン単結晶太陽電池は、安価で高いエネルギー変換効率を有するものとすることができる。
【0034】
すなわち、例えばCZ法により育成したGa及びBドープシリコン単結晶棒を加工して太陽電池用基板とし、そのウエーハから太陽電池を作れば、単結晶育成時に結晶中に取り込まれる酸素に影響されることなく、安定した変換効率を有する太陽電池を低コストで作製することができる。また、Ga及びBドープシリコン単結晶を太陽電池の材料として用いれば、酸素の濃度に影響されることなく基板ライフタイムを安定させられるので、太陽電池セルの抵抗率が低くても変換効率の良い太陽電池が作製できる。
【0035】
これまでのBドープCZ法単結晶は、抵抗率が低くなるとそれに併せてライフタイムが低下してしまい、変換効率が高く抵抗率の低い太陽電池を製造することができなかった。しかし、本発明のGa及びBドープシリコン結晶およびシリコン結晶ウエーハを用いれば、コストが低く、変換効率の高い太陽電池を作ることができる。
【0036】
次に、本発明は、シリコン結晶の製造方法において、チョクラルスキー法により、GaとBをルツボ内のシリコン融液に添加した後、前記シリコン融液に種結晶を接触させ、これを回転しながら引き上げることによってシリコン単結晶を育成することを特徴とするシリコン結晶の製造方法である。
【0037】
こうして、GaとBが添加されたシリコン単結晶を製造することができる。特に、本発明の製造方法では、広く用いられているBドープシリコン結晶のコーン部等の不要部分を原料として再利用することも可能であり、Gaのみをドープする方法に比べて生産コストははるかに安くできる。さらに、Gaに加えてBもドープすることで抵抗率のバラツキを改善することができる。
【0038】
また、本発明は、シリコン結晶の製造方法において、ブリッジマン法により、GaとBをルツボ内のシリコン融液に添加した後、前記ルツボを加熱領域から引き下げることによってシリコン多結晶を育成することを特徴とするシリコン結晶の製造方法である。
こうして、GaとBが添加されたシリコン多結晶を製造することができる。また、一般に多結晶の場合は単結晶に比べて安価にできるため、さらに太陽電池用としてのコストを下げることが可能となる。
【0039】
この場合、前記ルツボ内のシリコン融液へのGaの添加は、あらかじめ高濃度のGaを添加したシリコン結晶を育成し、この高濃度Gaドープシリコン結晶を砕いて作ったドープ剤を用いて、シリコン融液にGaを添加することが好ましい。
【0040】
本発明でGaを添加した単結晶を製造する場合のGaをドープする方法として、多結晶シリコンを溶融する前、あるいは溶融したシリコン融液に、ガリウムを直接入れてもよいが、ガリウムを添加した単結晶を工業的に量産するのであれば、上記のように、一旦ドープ剤を調整した後にドープする方がよい。このような方法を用いれば効率良く作業を行なうことができる。これはガリウムの融点が30℃と低く取扱いが難しいからである。従って、直接ガリウムをルツボに入れるよりも、ドープ剤を作製した後にドープする方法を用いることにより、Ga濃度を精度良く容易に調整することが可能であり、正確なドーパント濃度を得ることができる。また、ガリウムを直接シリコン融液に投入する場合と比べて、ドープ剤そのものの取扱いも容易になるので、併せて作業性の向上にもつながるものである。
【0041】
また、前記ルツボ内のシリコン融液へのBの添加は、あらかじめBを添加したシリコン結晶を育成し、このBを添加したシリコン結晶棒のコーン部、テール部、あるいは不良品部を砕いて作った結晶塊をシリコン原料として用いることによって、シリコン融液にBを添加することができる。
【0042】
このように、Bをドープしたシリコン結晶であっても、廃棄されるはずの材料を用いているので、材料費を大幅に低下させることができ、太陽電池コストのより一層の低減と需要の増大を見込むことができる。また、B量を制御して太陽電池基板として用いれば、変換効率が低下せず、光劣化による変換効率の低下も少ない。
【0043】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者らは、太陽電池の基板材料として製造が比較的容易で量産可能であり、同時に太陽電池として変換効率が高く低コストの基板を得るためにはどのようにすれば良いかにつき鋭意研究し、実験を繰り返し検討を加えた結果、本発明を完成させたものである。
【0044】
即ち、本発明者らは、従来のBをドーパントとして加えたP型のシリコン結晶から作製される太陽電池では、結晶中に酸素とBが同時に存在することで、太陽電池セルのPN接合面のエネルギー準位が変化し、接合面に深いエネルギー準位(deep levelまたはtrap levelとも言う。)が形成され、この深いエネルギー準位に太陽電池内のキャリアが捕獲されるために、基板のライフタイムの低下が起こり光劣化が生ずる。しかし、例えBが存在した場合にでも、基板ライフタイムの低下が起こらないB濃度を見出し、Bの量を規定すればライフタイムの変化は起こらず、光劣化を生じない点、および廃棄される部材の有効利用という観点に着目して本発明を完成した。
【0045】
すなわち本出願人は、Bの代わりにGaをドーパントとして添加してP型シリコン結晶を作ることを提案した。しかし、例え結晶内にBと酸素が存在していても、Bの量を制限すれば、基板ライフタイムの低下は起こらず、光劣化の小さい太陽電池を製造することができると考え、実験を繰り返した結果、Gaをドーパントとして添加し、廃棄されるはずのBを添加したシリコン結晶をシリコン原料の一部乃至全部として用いて、P型シリコン単結晶を引き上げて基板を作製し、これを用いた太陽電池ではコストを低減でき、またB濃度を制御することにより結晶中に高い濃度の酸素が存在してもライフタイムは安定しており、光劣化を生じない太陽電池を作ることができることを確認した。
【0046】
これにより、廃棄されるはずのシリコン結晶棒のコーン部、テール部あるいは不良品部をシリコン原料の一部乃至全部として用いれば、例えばCZ法で製造したシリコン単結晶で高い酸素濃度を示すものであっても、光劣化を起こすとなく安定した高い変換効率を有する太陽電池をきわめて低コストで作ることが可能となり、シリコン単結晶太陽電池による発電コストを低減させることができる。その結果、太陽電池用シリコン原料のコスト問題の解決に寄与するところが大となった。
さらに、Gaに加えてBもドープすることで、Gaのみの場合に比べて抵抗率のバラツキも改善されるという効果もある。
【0047】
加えて、例えばCZ法で作った単結晶であっても酸素濃度に影響されることなく安定した変換効率が得られるため、基板として用いるウエーハの直径も現在のものより大きいものを利用することができる。従来、Bをドープした結晶直径が大きい単結晶は結晶中に含まれる酸素濃度が高いために、太陽電池基板の光劣化が生じたが、Bの量を制限し、Gaを添加して抵抗を制御した単結晶を用いれば、直径の大きな単結晶基板であっても酸素濃度の影響を受けず高い変換効率が得られるため、今後さらに大型太陽電池セルを開発することも可能となった。しかも、適度に酸素が含有されるため、結晶強度が高くなり、加工性が良好となる上に、出来た太陽電池の耐久性も向上する。
【0048】
さらに一般に、太陽電池は、長時間にわたって決められた電圧あるいは電流を取り出す必要があることから、実際に使用される場合には、太陽電池素子(セル)を複数個直列、あるいは並列につなぎ合わせてモジュール化し、目的とする電力を取り出せるようにしている。特に大きな電力を取り出すためには、多くの太陽電池素子をつなぎ合わせる必要があることから、太陽電池モジュールの簡略化、小型化、更には製造コストの低減を図る意味で太陽電池セルの面積が大きい方が有利であり、大型で変換効率の高い太陽電池セルを太陽電池モジュールの材料として用いることができれば、更なる太陽電池コストの低減と需要の増大を図ることができる。
【0049】
しかし、従来は結晶中に含まれる酸素とBの影響により、直径の大きなシリコン単結晶を太陽電池基板として用いたとしても、CZ法シリコン単結晶を使った太陽電池はそもそも太陽電池エネルギーの変換効率が低い上に、光劣化による変換効率の低下もあることから、大直径シリコン単結晶を製造するためのコストに見合った特性を持つ太陽電池を得ることが難しかった。
【0050】
これに対し、GaとBをドープしたシリコン結晶を太陽電池基板として用いれば、光劣化による変換効率の低下が小さく、変換効率の高い太陽電池を得ることができると同時に、結晶直径の大きなシリコン単結晶をCZ法で製造することができる。これにより、面積が100cm2以上といった大型の太陽電池セルであっても、低コストで量産することが可能となり、光劣化が少なく高い変換効率を持つ特性と合わせて、更なる太陽電池コストの低減と需要の増大を見込むことができる。
【0051】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、本発明のシリコン結晶として、CZ法による単結晶引上げ装置の構成例や引上げ方法については特願平11−264549号、また、ブリッジマン法による多結晶製造装置の構成例や製造方法については特願2000−061435号に記載された内容と基本的に同様であり、一般的な手法によればよいが、シリコン原料とドープ剤に関しては異なるので、そのところについて以下に説明を加える。
【0052】
一般的に、Bがドープされたシリコン結晶の抵抗率は、0.003〜5000Ω・cmの範囲である。この範囲のうち、0.1Ω・cm以下の低抵抗率では、ドーパント調整剤と同じになってしまうので用いられない。
まず、例えば半導体集積回路用として製造されたBが添加された単結晶棒のうち、使用することができないテール部、コーン部や抵抗率等規格に外れた不良品部の一部又は全部をシリコン原料(以下、再利用部原料と言う。)とし、該再利用部原料の抵抗率と重量を測定する。該再利用部原料の抵抗率からASTM(American Society for Testing and Materials) StandardのF723−82によりB濃度に変換でき、 下式により該再利用部原料中のB重量を求めることができる。
B重量=B濃度×B原子量×原子質量単位×再利用部原料の重量/シリコンの密度・・・式(1)
【0053】
次に、該再利用部原料と必要に応じたノンドープの新たなシリコン原料とを併せて溶融し、シリコン結晶棒を引上げた時に、該シリコン結晶棒の肩部におけるB濃度は、下式の通り求められる。
B濃度=B重量×Bの偏析係数/(Bの原子量×原子質量単位×(再利用部原料+新たなシリコン原料)の重量/シリコンの密度)・・・式(2)
【0054】
また、光劣化の生じないドープ剤としてGaを添加して抵抗率を制御するが、Gaの添加重量とGa濃度についても、式(2)と同様に表され、式(2)中のBのところがGaと置き換わることになる。
【0055】
ここで、Bの原子量は10.81、Gaの原子量は69.72、原子質量単位は1.66×10−24g、シリコンの密度は2.33g/cm3、Bの偏析係数は0.8、Gaの偏析係数は0.008である。
【0056】
そのため、例えば、Gaを0.167gとなるように計量し、シリコン原料となる抵抗率が10Ω・cmの再利用部原料を細かく砕いた結晶塊10kgとノンドープの新たなシリコン原料20kgを一緒に石英ルツボに仕込んだとする。ヒータを昇温してシリコン原料を溶融し、全ての原料が融け終わったところで種結晶を融液表面に接触させて、これを回転しながら引上げることでP型シリコン単結晶棒が製造されることになる。そして、製造されたシリコン単結晶棒の肩部におけるGaの濃度は8.97×1014/cm3、抵抗率は15Ω・cmとなり、Bの濃度は3.57×1014/cm3となる。
【0057】
このような計算式に基づいて、再利用部原料の抵抗率と重量からB重量が計算でき、再利用部原料を100%乃至20%程度用いて、不足分(シリコン原料の総重量の0〜80%程度)を新たな高純度シリコン原料で補うことにより、所定のB濃度及び所定のGa濃度が求められ、シリコン結晶棒の抵抗率を制御できる。
ここで、再利用部原料を100%用いれば、コスト面に大きく貢献できることは言うに及ばないが、少なくとも20%用いればコスト面への貢献は大きい。これによってシリコン原料のコストを低減することが可能となる。
【0058】
シリコン結晶中の酸素濃度については、ルツボの回転速度、シリコン結晶の引上げ速度、チャンバー内の不活性ガス圧力や流量等を適宜調整することにより、また、シリコン結晶の直径については、シリコン融液の温度とシリコン結晶の引上げ速度を調整することによって制御できる。
【0059】
また、シリコン結晶棒を加工する際に、コーン部とテール部を切断してからシリコン結晶棒の周囲を円筒研削し、適当な大きさのブロックに切断加工するが、ここで切断されたGaとBが添加されたコーン部とテール部を再度シリコン原料として再利用することも可能である。但し、テール部については、再三再利用すると偏析により重金属不純物が高濃度になっていることがあるので、適宜重金属不純物濃度を測定して管理し、ある程度以上は再利用しない方が好ましい。
【0060】
本発明のGaとBを添加したシリコン結晶は、該シリコン結晶中に含まれるGaの濃度が2×1017〜3×1014atoms/cm3、Bの濃度が5×1014atoms/cm3以下であって、このB濃度は、格子間酸素との共存によって形成されるディープレベルの準位がウエーハライフタイムの光劣化を引き起こさない量とするのが好ましい。
【0061】
また、本発明のシリコン結晶の抵抗率は、Gaを添加することにより制御する。Bの濃度が5×1014atoms/cm3以上となると、Bによる抵抗率への影響が大きくなると共に、格子間酸素との共存によるディープレベルの準位が光劣化を引き起こしてしまうおそれがある。
従って、Gaの濃度にかかわらず、Bの濃度を5×1014atoms/cm3以下に制御しておくことが好ましい。
【0062】
そして、本発明を用いて作製される太陽電池用シリコン結晶ウエーハは、前記適当な大きさにした単結晶ブロックをスライサーによりスライスして、ウエーハ状にした後、さらにエッチングによって加工歪みを取り除くことにより製造される。更に、本発明を用いて作製される太陽電池セルは、前記シリコン結晶ウエーハを用いて、例えば高変換効率セルであるRP−PERC(Random Pyramid − Passivated Emitter and Rear Cell)型太陽電池セルとして製造されることが好ましい。
【0063】
以下、本発明の具体的な実験例を挙げて説明する。
(実験例1〜9)
シリコン結晶棒を引き上げるために、シリコン原料として、10Ω・cmの再利用原料とノンドープの新たなシリコン原料を、ドープ剤として、Gaは予め高濃度のGaを添加したシリコン結晶を育成し、これを砕いたものを準備した。そして、シリコン結晶棒の肩部における抵抗率が1Ω・cmとなるように条件を整え、結晶直径6インチ、結晶方位<100>のGaとBを添加したシリコン単結晶棒を、口径18インチの石英ルツボを用いて通常のCZ法により5本、また低酸素濃度にするためにMCZ法により4本引上げた。
【0064】
引上げられた9本のシリコン単結晶について、ブロックにした状態から厚み2〜3mmのウエーハにスライスしてライフタイムを測定した。ライフタイムの測定は、このスライスウエーハをHF:HNO3=5%:95%の混酸で処理し、両面のスライス損傷層をエッチング除去した後、洗浄を行い、その後、ウエーハ表面にAM(Air Mass)1.5の条件下で定常光を30時間照射した後で、HFにて表面の自然酸化膜を除去し、引き続き、ヨウ素、エタノール混合溶液を使ったケミカル・パッシベーション(CP)処理を施して、結晶表面のキャリア再結合を低減し、マイクロ波−PCD法(光導伝度減衰法)を用いてシリコン単結晶ウエーハのライフタイムの測定を行った。結果を表1および図2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1および図2からわかるように、シリコン単結晶中の酸素濃度が16ppm以下でなおかつB濃度が5×1014atoms/cm3以下の実験例1〜5では、Bがドープされているにもかかわらず、ライフタイムの低下はほとんど見られず、安定した特性を示していることを確認した。
【0067】
一方、表1および図2に示す通り、B濃度が5×1014atoms/cm3を超えている実験例7〜9のウエーハではライフタイムが低下し、特に酸素濃度が11ppma以下の実験例8及び9でも、ライフタイムが低下していることがわかる。
【0068】
次に、上記で用いたシリコン単結晶ウエーハの中から抵抗率の揃ったものを選んで、太陽電池セルとしては大型の、10cm×10cm角(セル面積100cm2)の太陽電池セルを作製し、その変換効率を測定した。太陽電池セルの変換効率の測定は、25℃に温度調節された測定台に太陽電池セルをのせ、ハロゲンランプを光源としたソーラーシュミレータでAM(エアマス)1.5の条件下で定常光をセルに照射し、セルから取り出すことができた電圧と電流を測定して、太陽電池の変換効率を算出した。なお、本発明による変換効率とは、下式で定義された値を言い、次の通りである。
[変換効率]=[セル単位面積当たりから取り出すことができた電力]/[セル単位面積あたりに照射された光エネルギー]×100(%)
測定結果を表1に併記した。
【0069】
表1に示したように、シリコン単結晶中の酸素濃度が16ppm以下でなおかつB濃度が5×1014atoms/cm3以下のところ(実験例1〜5)では、変換効率は20.2〜21.1%と高い値を示しており、効率よく光エネルギーを電気エネルギーに変換していることがわかる。また、太陽電池セルに30時間以上光を照射した後の変換効率も殆ど変化することなく、初期値と同じ値を示し、安定した変換効率を示しており、Bが添加されたシリコン結晶ウエーハを用いた太陽電池であっても、Gaにより抵抗率を制御し、酸素濃度とB濃度を制御することにより光劣化を生ずることなく変換効率の高い性能の安定した大型の太陽電池セルが得られたことを確認した。
【0070】
一方、B濃度が5×1014atoms/cm3以上(実験例7〜9)となるか、あるいは酸素濃度が16ppm以上のところ(実験例6)では、太陽電池の変換効率は、光劣化前では19.8〜20.3%と比較的高い変換効率を示していたが、30時間の定常光照射後は光劣化により17.9〜18.7%に低下してしまい、安定して20%を超えるような変換効率を得ることができなかった。CZ法で製造したBのみを添加したシリコン単結晶ウエーハを用いた太陽電池では、たとえ低酸素濃度としても、変換効率の高い性能の安定した太陽電池を造るのが難しいことがわかっている。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0072】
例えば、上記説明においては、主にCZ法によってGa及びBを添加したシリコン単結晶を製造する場合につき説明したが、本発明は例えば変換効率はシリコン単結晶ほどではないにしても、シリコン多結晶にも適用できるものである。すなわち、ブリッジマン法においても、シリコン原料のコストを低減させるのに、本発明で示したGaとBを添加するのが有効であることは言うまでもない。
【0073】
【発明の効果】
本発明は、シリコン結晶およびシリコン結晶ウエーハにGaとBが添加されるが、製造コストの安い太陽電池を作製するためのシリコン結晶およびシリコン結晶ウエーハとすることができ、また酸素濃度とB濃度を制御することによって、光劣化を生じることなく、光エネルギーの変換効率が高い太陽電池セルを造ることができる。さらに、大直径、低コスト化に寄与するとともに、結晶強度も高く耐久性にも優れたものを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)はGaまたはBをドーパントとした場合のシリコン単結晶の長さ方向に対する抵抗率を、(b)は同じくシリコン単結晶の長さ方向に対する各々のドーパント濃度を示す図である。
【図2】ライフタイムと初期酸素濃度及びB濃度との関係を示したグラフである。
Claims (7)
- シリコン単結晶であって、ドープ剤としてGaとBが添加されたもので、かつ前記シリコン単結晶中に含まれるBの濃度が5×1014atoms/cm3以下であり、さらに前記シリコン単結晶中の格子間酸素濃度が16ppma以下であることを特徴とする太陽電池用シリコン単結晶。
- 前記太陽電池用シリコン単結晶中に含まれるGaの濃度が2×1017〜3×1014atoms/cm3であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用シリコン単結晶。
- 前記太陽電池用シリコン単結晶の抵抗率が20Ω・cm〜0.1Ω・cmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽電池用シリコン単結晶。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池用シリコン単結晶をスライスして得られる太陽電池用シリコン単結晶ウエーハ。
- シリコン結晶の製造方法において、チョクラルスキー法により、GaとBをルツボ内のシリコン融液に添加した後、前記シリコン融液に種結晶を接触させ、これを回転しながら引き上げることによって、シリコン結晶中に含まれるBの濃度が5×1014atoms/cm3以下であり、さらに前記シリコン結晶中の格子間酸素濃度が16ppma以下である太陽電池用シリコン単結晶を育成することを特徴とする太陽電池用シリコン単結晶の製造方法。
- 前記ルツボ内のシリコン融液へのGaの添加は、あらかじめ高濃度のGaを添加したシリコン結晶を育成し、この高濃度Gaドープシリコン結晶を砕いて作ったドープ剤を用いて、シリコン融液にGaを添加することを特徴とする請求項5に記載の太陽電池用シリコン単結晶の製造方法。
- 前記ルツボ内のシリコン融液へのBの添加は、あらかじめBを添加したシリコン結晶棒を育成し、このBを添加したシリコン結晶棒のコーン部、テール部、あるいは不良品部を砕いて作った結晶塊をシリコン原料とすることによって、シリコン融液にBを添加することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の太陽電池用シリコン単結晶の製造方法。
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