JP4605847B2 - 粉末成形体の多段成形製造方法 - Google Patents

粉末成形体の多段成形製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、下パンチ及び上パンチ間で材料粉末を加圧・圧縮して粉末成形体を製造する方法、詳しくは、下パンチ及び上パンチの両者もしくは下パンチを複数備える装置を用いて材料粉末を製造する方法に関し、特に、横穴を有する粉末成形体の製造に適した多段成形製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
材料粉末を加圧して粉末成形体を製造する場合、粉末成形体の外周形状に沿って形成されたダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される下パンチと、該ダイ孔にその上方から挿入されて下パンチとの間にキャビティ(成形空間)を形成する上パンチとを備えた装置を用い、前記キャイビティに充填される材料粉末を上下の両パンチ間で加圧・圧縮することで、該キャビティ内に所望形状の粉末成形体を得る方法が従来から知られている。
【0003】
この場合、例えば製造する粉末成形体の上面部及び下面部に階段状の段差を形成しようとするときには、通常、各段差面に対応して互いに対向する下パンチと上パンチとの組が複数組備えられた装置が用いられ、それらの各組の両パンチ間で、材料粉末を加圧・圧縮することで(所謂、多段成形を行う)、粉末成形体が製造される。また、例えば上面部が平坦で、下面部に段差面を有するような粉末成形体を製造する場合には、平坦な下端面(成形面)を有する単一の上パンチと、上記段差面を形成するための複数の下パンチを備えた装置が用いられ、その各下パンチと、上パンチとの間で材料粉末を加圧・圧縮して多段成形を行うことで、所望の粉末成形体が製造される。
【0004】
なお、このような粉末成形体の製造手法において、キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮は、前記多段成形であるか否かによらずに、下パンチ及び上パンチをそれぞれダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行われる。この場合、前記多段成形にあっては、キャビティ内の材料粉末を加圧・圧縮する際に、ダイスを固定し、各組の下パンチ及び上パンチの全てをそれぞれ移動させながら材料粉末の加圧・圧縮を行う場合の他、下パンチのいずれか一つを固定し、他のパンチとダイスとを移動させながら材料粉末の加圧・圧縮を行う場合もあり、さらには、ダイスと上下のパンチとの全てを移動させながら材料粉末の加圧・圧縮を行う場合もある。
【0005】
ところで、例えば下パンチと上パンチとの組を複数備える装置を用いた多段成形によって粉末成形体を製造する場合にあっては、キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程における各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量や、相対的な移動速度等、下パンチと上パンチとの間の材料粉末の加圧条件が不適切であると、キャビティ内の材料粉末のうち、ある一組の両パンチ間で加圧・圧縮される部分と、これに隣接する他の一組の両パンチ間で加圧・圧縮される部分との境界箇所において、最終的に得られる粉末成形体の強度が部分的に弱くなるというような不都合を生じることがある。場合によっては、粉末成形体が、上記境界箇所において、衝撃等によって簡単に損壊してしまうという不都合を生じることもある。
【0006】
このような不都合を生じる理由の一つとして次のような理由が考えられる。
【0007】
すなわち、前記加圧条件が不適切であると、上記境界箇所において、加圧工程の開始時に互いに隣合っていた材料粉末同士が、加圧工程の終了時までに上下に位置ずれを生じることがある。このような部分では、粉末成形体の強度が不足し、クラック等の不都合を生じやすいと考えられる。
【0008】
なお、上記のような不都合は、単一の上パンチと複数の下パンチとを備える装置による多段成形においても、各下パンチ及び上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量や、相対的な移動速度等等の加圧条件が不適切であると同様に生じることがある。
【0009】
また、貫通した横穴を有する粉末成形体を多段成形により製造する場合において、上記貫通横穴を粉末成形体に形成するための横穴形成ピンをキャビティ内に挿通して該キャビティを貫通させ、その挿通状態を維持したままキャビティ内の材料粉末を加圧・圧縮する場合にあっては、前記加圧条件が不適切であると、各組の両パンチから材料粉末を介して前記横穴形成ピンに偏荷重が作用し、その結果、該横穴形成ピンが折れる等の不都合を生じることもある。
【0010】
同様に、貫通していない横穴、すなわち、めくら穴状の横穴を有する粉末成形体を多段成形により製造する場合において、上記めくら穴状の横穴を粉末成形体に形成するための横穴形成ピンをキャビティ内に挿入し、その挿入状態を維持したままキャビティ内の材料粉末を加圧・圧縮する場合にあっては、特に、該横穴形成ピンが複数組(全組とは限らない)の上下パンチ間にまたがって延在するようにキャビティに挿入されるような場合に、前記加圧条件が不適切であると、各組の両パンチから材料粉末を介して前記横穴形成ピンに偏荷重が作用し、その結果、該横穴形成ピンが折れる等の不都合を生じることもある。
【0011】
しかるに、従来は、多段成形における材料粉末の適正な加圧条件を容易に設定する手法が確立されておらず、該加圧条件の設定は、試行錯誤や経験に負うところが大きいものとなっていた。このため、良質な粉末成形体を得ることができ、あるいは、粉末材料の加圧工程中にキャビティ内に挿入される横穴形成ピンの破損を回避することができるような加圧条件を設定するまでに、多大な労力を要するものとなっていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる背景に鑑み、材料粉末の適正な加圧条件を容易に設定することができると共に、その設定した加圧条件により良質な粉末成形体を得ることができる粉末成形体の多段成形製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、貫通した横穴や、めくら穴状の横穴を有する粉末成形体を製造する場合に、該横穴を形成するためにキャビティに挿入される横穴形成ピンに偏荷重を作用させたりすることなく、横穴を有する良質な粉末成形体を製造することができる粉末成形体の多段成形製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明を説明する前に、本発明の基本的な原理を図1(a),(b)を参照して説明する。
【0015】
図1(a),(b)において、100はダイス、110はこのダイス100のダイ孔101にその下方から挿入された下パンチ、120は下パンチ110を挿入したダイ孔101に材料粉末Aを充填した後、該ダイ孔101にその上方から挿入された上パンチである。ダイ孔101内には、これに挿入された下パンチ110と上パンチ110との間に、粉末成形体Bを得るキャビティ102が形成されている。
【0016】
これらの図1(a),(b)のうち、図1(a)は、両パンチ110,120による材料粉末Aの加圧・圧縮の開始時における状態(より正確には加圧開始直前の状態。以下、加圧開始初期状態という)を示しており、この加圧開始初期状態では、キャビティ102内の材料粉末Aは両パンチ110,120間に非加圧状態で保持されている。そして、図1(b)は、上記加圧開始初期状態から、下パンチ110及び上パンチ120をそれぞれダイス100に対して上動、下動させて材料粉末Aを加圧・圧縮し、最終的に粉末成形体Bをキャビティ102内に得た状態(以下、加圧終了状態という)を示している。
【0017】
ここで、キャビティ112内の材料粉末Aの加圧開始時から加圧終了時までの加圧工程中において、該材料粉末Aの各部の上下関係は変化しないものとする。すなわち、前記加圧開始初期状態において、キャビティ112中の材料粉末Aの、上下方向における任意の高さ位置に存する部位Cと、その上側あるいは下側に存する材料粉末Aとに着目したとき、その上下関係は加圧工程中も維持され、加圧開始初期状態において、前記部位Cの材料粉末Aよりも上側又は下側に存する粉末材料Aは、それぞれ加圧工程中も部位Cの材料粉末Aよりも上側、下側に存するものとする。
【0018】
このような前提の基で、前記加圧開始初期状態において、キャビティ112中の任意の高さ位置にある材料粉末Aの部位Cに着目し、この部位Cの位置を表現するために次のようなパラメータを導入する。
【0019】
まず、図1(a)の加圧開始初期状態における材料粉末Aの深さをF(これは加圧開始初期状態における両パンチ110,120間の間隔でもある。以下、充填深さFという)、この加圧開始初期状態における上記部位Cの位置を、下パンチ110の上面から間隔Ncsを存する位置とする。そして、この間隔Ncsの前記充填深さFに対する比率を百分率で表したものをRs (=100・Ncs/F)とおく。
【0020】
また、図1(b)の加圧終了状態において両パンチ110,120間に得られる粉末成形体Bの厚さをH(これは加圧終了状態における両パンチ110,120間の間隔でもある。以下、成形体厚さHという)とし、上記部位C(加圧開始初期状態において下パンチ110の上面から間隔Ncsを存する位置にあった部位)が、加圧終了状態においては下パンチ110の上面から間隔Nceを存する位置になるとする。そして、この間隔Nceの前記成形体厚さHに対する比率を百分率で表したものをRe (=100・Nce/H)とおく。
【0021】
このとき、前述の如くキャビティ112内の材料粉末Aの各部の上下関係が加圧工程中に変化しないことから、上記の如く定義した比率Rs ,Re は、等しいと考えてよく、次式(9)が成立する。
【0022】
【数9】
Figure 0004605847
【0023】
そこで、上記比率Rs ,Re を改めて参照符号Rで表し、これを以下、加圧比率R(=Rs =Re )と称する。このように定義した加圧比率Rは、前記加圧開始初期状態及び加圧終了状態のいずれかの状態で、前記部位Cの高さ位置を特定したとき、その部位Cに対して一義的に定まり、該加圧比率Rの値は、加圧開始初期状態及び加圧終了状態のいずれの状態でも同一となる。
【0024】
この加圧比率Rを用いると、前記間隔Ncs,Nceはそれぞれ次式(10),(11)により与えられる。
【0025】
【数10】
Figure 0004605847
【0026】
【数11】
Figure 0004605847
【0027】
次に、材料粉末Aの加圧工程中における下パンチ110及び上パンチ120のダイス100に対する移動速度をそれぞれV1、V2とし、これらの比率V1:V2は加圧工程中の任意の時刻において一定であるとする(例えば移動速度V1、V2がそれぞれ一定であるとする)。
【0028】
このとき、キャビティ112内の材料粉末Aのうちには、上記加圧工程中に、ダイス100に対する上下方向の位置が変化しない部位、すなわちダイス100に対して上下方向に不動となる部位(以下、ニュートラル部位という)が存在する。
【0029】
そこで、前記部位Cがこのニュートラル部位となるための条件を以下に求める。
【0030】
すなわち、前記加圧開始初期状態における下パンチ110の上面の高さを「0」とする上下方向の座標軸Zをダイス100上に固定的に設定し(上向きを正とする)、加圧工程における下パンチ110及び上パンチ120のダイス100に対する相対的な移動量をそれぞれ図示の如くX,Yとおく。この場合、上向きを正の向きとしているため、ダイス100に対して下向きに移動する上パンチ120の移動量Yは負の値である。
【0031】
このとき、図1を参照して明らかなように次式(12)が成立する。
【0032】
【数12】
Figure 0004605847
【0033】
また、前記加圧開始初期状態における前記部位Cの座標位置は前記間隔Ncsに等しく、さらに前記加圧終了状態における前記部位Cの座標位置は下パンチ110の移動量Xに前記間隔Nceを加算したもの(=X+Nce)である。従って、部位Cがダイス100に対して不動となる前記ニュートラル部位となるための条件は、前記式(10),(11)を用いて次式(13)により与えられる。
【0034】
【数13】
Figure 0004605847
【0035】
さらに、この式(13)と前記式(12)とから、上パンチ120の移動量Yに関し、次式(14)が得られる。
【0036】
【数14】
Figure 0004605847
【0037】
従って、キャビティ102内の材料粉末Aのある部位Cを前記ニュートラル部位とするためには、その部位Cに係わる前記加圧比率Rと、前記充填深さF及び成形体厚さHとから、上記式(13),(14)によりそれぞれ加圧工程における下パンチ110の移動量X、上パンチ120の移動量Yを定め、その定めた移動量X,Yに従って、両パンチ110,120をそれぞれダイス100に対して上動、下動させて、キャビティ102内の材料粉末Aを加圧・圧縮すればよい。
【0038】
このように部位Cがニュートラル部位となるように両パンチ110,120の移動量X,Yを定めて材料粉末Aの加圧・圧縮を行ったとき、該部位Cに存する材料粉末Aは加圧工程中にダイス100に対して上下方向に不動となる。
【0039】
なお、前記加圧終了状態におけるダイス100と上下の両パンチ110,120との相互の位置関係は、ダイス100のダイ孔101内のどの箇所で粉末成形体Bを得るかをあらかじめ設計的に定めておけば、キャビティ102内に最終的に得るべき粉末成形体Bのサイズや形状から一義的に定まる。従って、加圧工程における前記両パンチ110,120のダイス100に対する移動量X,Yを上記の如く設定すれば、その移動量X,Yと、加圧終了状態におけるダイス100と両パンチ110,120との相互の位置関係とから、前記加圧開始初期状態における両パンチ110,120のダイス100に対する位置関係も自ずと定まることとなる。
【0040】
また、キャビティ102内の材料粉末Aの前記ニュートラル部位に着目すると、該ニュートラル部位はダイス100に対して上下方向に不動であることから、該ニュートラル部位の上側の材料粉末Aは、加圧工程中に常にダイス100に対して下向きに移動し、該ニュートラル部位の下側の材料粉末Aは、加圧工程中に常にダイス100に対して上向きに移動する。
【0041】
以上説明したことは、複数組の下パンチ及び上パンチを用いる多段成形において、各組の両パンチによりそれらの両パンチ間の材料粉末を加圧・圧縮するに際して、各組の両パンチについて各々成立する事項である。
【0042】
以上説明したことを基礎として、本発明を以下に説明する。
【0043】
本発明の粉末成形体の多段成形製造方法の第1の態様は、特に上下端面に段差を有するような粉末成形体の製造に適した多段成形製造方法であり、ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、各下パンチにそれぞれ対向して該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成する複数の上パンチとを備えた装置を用い、互いに対向する各組の下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内に粉末成形体を得る多段成形製造方法において、前記各組の両パンチ間の前記材料粉末のうち、当該両パンチによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が全ての組の両パンチ間の材料粉末について同一水平面上に並ぶように各組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各組の両パンチによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
前記粉末成形体は貫通横穴を有する粉末成形体であって、前記ダイスには、少なくとも前記各組の両パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送したときに前記キャビティに先端部が臨む横穴形成ピンと該横穴形成ピンに対向して前記キャビティに先端部が臨む対向ピンとがそれぞれ前記ダイスに横方向に延在して形成されたピン挿入穴に移動可能に挿入されて搭載されており、
前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位の位置を前記横穴形成ピンの中心軸上の位置に定められており、
前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記初期位置に移送する工程と、前記各組の両パンチの前記初期位置への移送後、少なくとも前記加圧工程の終了前に、前記粉末成形体に前記貫通横穴を形成すべく前記横穴形成ピンを前記対向ピンに向かって前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させると共に該横穴形成ピンの前進に同期させて前記対向ピンを該キャビティ側から後退させることにより両ピン間の前記粉末材料を前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出す工程と、前記横穴形成ピンが前記キャビティを貫通した状態を前記加圧工程が終了するまで保持する工程とを備え、
前記加圧工程は、前記各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各組の下パンチ及び上パンチの組番号をk(kは、下パンチ及び上パンチの総組数以下の自然数)、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk,Ykとしたとき、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Ykは、それぞれ後述する式(15),(16)によりあらかじめ設定されていることを特徴とするものである。
【0044】
また、本発明の粉末成形体の多段成形製造方法の第2の態様は、特に上端面及び下端面の一方に段差を有し、他方が平坦面となっているような粉末成形体の製造に適した多段成形製造方法であり、ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成すると共に平坦な下端面を有する上パンチとを備えた装置を用い、前記各下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内に粉末成形体を得る多段成形製造方法において、前記各下パンチの上方に存する材料粉末のうち、各下パンチと前記上パンチとによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が全ての下パンチの上方に存する材料粉末について同一水平面上に並ぶように各下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各下パンチと前記上パンチとによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程とを備え、
前記加圧工程は、前記各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とし且つ、各下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各下パンチの番号をk(kは、下パンチの総数以下の自然数)、前記加圧工程における第k番の下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk、mを任意の一つの下パンチの番数、前記加圧工程における前記上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をYとしたとき、前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Yは、それぞれ後述する式(15),(17)によりあらかじめ設定されていることを特徴とするものである。
【0045】
かかる本発明の第1及び第2の態様によれば、同一水平面上に並ぶように定めた各組の両パンチ間の材料粉末(第1の態様)、あるいは各下パンチの上方に存する材料粉末(第2の態様)における前記ニュートラル部位が、前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように、各下パンチとこれに対向する上パンチとの間で前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う。このため、前記加圧工程においては、前記キャビティ内の材料粉末のうちの上記水平面よりも上側の材料粉末は、全ての下パンチと上パンチとの間の材料粉末について、ダイスに対して下向きに移動する。また、上記水平面よりも下側の材料粉末は、全ての下パンチと上パンチとの間の材料粉末について、ダイスに対して上向きに移動する。つまり、キャビティ内の材料粉末の加圧工程中の移動方向は、前記ニュートラル部位が並ぶ水平面の上側と下側とで、それぞれ揃うこととなる。この結果、前記キャビティ内の材料粉末は、どの下パンチと上パンチとの間で加圧されるかによらずに、均質的に加圧・圧縮されることなる。
【0046】
かかる本発明の第1及び第2の態様では、前記した如く、前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチ(第1の態様)あるいは単一の上パンチ(第2の態様)を前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程とを備える。
【0047】
さらに、第1の態様にあっては、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記初期位置(前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程を備える。同様に、第2の態様にあっては、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程を備える。
【0048】
そして、第1の態様にあっては、前記加圧工程は、前記各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、該加圧工程における各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量は、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、後述する式(15),(16)によりあらかじめ設定しておく。
【0049】
また、第2の態様にあっては、前記加圧工程は、前記各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とすることに加えて、各下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、該加圧工程における各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量は、前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、後述する式(15),(17)によりあらかじめ設定しておく。
【0050】
上記のような本発明の第1の態様及び第2の態様によれば、まず、前記複数の下パンチを挿入したダイ孔内にその上方から材料粉末を充填する。このとき、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さはそれぞれあらかじめ定めた所定量とされる。このように各下パンチの上方に存する材料粉末の深さを所定量とするためには、例えば前記ダイス孔の上部開口端から各下パンチの上面までの間隔が上記所定量となるようにした状態で、該ダイス孔にその上部開口端まで材料粉末を充填すればよい。
【0051】
次に、前記複数の上パンチ(第1の態様)あるいは単一の上パンチ(第2の態様)を前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させることで、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成した後、この非加圧状態での各下パンチとこれに対向する上パンチとの間隔(これは前記所定量の材料粉末の深さに等しい)を維持したまま、各パンチをダイ孔内でダイスに対して相対的に上下方向に移動させることで、前記初期位置に移送する。この場合に各パンチをその初期位置に移送した状態は、各下パンチとこれに対向する上パンチとについて、前記図1(a)の加圧開始初期状態に相当するものである。
【0052】
次に、各下パンチと上パンチとをそれぞれ前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることで前記キャビティ内の材料粉末を加圧・圧縮し、前記キャビティ内に前記粉末成形体を得る。
【0053】
このとき、本発明の第1の態様にあっては、各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として各組の両パンチによる前記材料粉末の加圧・圧縮が行われる。また、第2の態様にあっては、前記加圧工程は、前記各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とすることに加えて、各下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての下パンチについて同一として、前記材料粉末の加圧・圧縮が行われる。
【0054】
このようにしたとき、同一水平面上に並ぶように定めた各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位(第1の態様)、あるいは各下パンチの上方に存する材料粉末(第2の態様)における前記ニュートラル部位が、前記加圧工程中に実際にダイスに対して上下方向に不動となるように、加圧工程における各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量を後述する式(15),(16)によって(第1の態様)、又は後述する式(15),(17)によって(第2の態様)、設定することができる。つまり、各下パンチ及び上パンチの移動量は、各下パンチとこれに対向する上パンチとの間の材料粉末における前記ニュートラル部位のあらかじめ定めた位置に対応して定まる前述の加圧比率と、加圧工程の開始時における材料粉末の深さ(これは前記所定量である)と、加圧工程の終了時における各下パンチとこれに対向する上パンチとの間隔(これは最終的にキャビティ内に得る粉末成形体の、当該両パンチ間で成形される部分のサイズによって定まる)とから、前述した式(13),(14)に基づいて求めることができる。
【0055】
また、前記加圧工程の終了時の各パンチとダイスとの相互の位置関係は、前記キャビティ内に最終的に得る前記粉末成形体のサイズや形状によって定まるので、この位置関係と、上記の如く設定する各パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量とから、加圧工程の開始時における各パンチのダイスに対する位置、すなわち前記初期位置も定まることとなる。
【0056】
そして、このように各パンチの移動量を設定し、また、上記の如く下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度や、各組の上下のパンチ、あるいは各下パンチに対応する前記ニュートラル部位の位置を定めて、前記加圧工程を行ったとき、各ニュートラル部位を、該加圧工程の開始時から終了時までダイスに対して上下方向に不動となるようにすることができると共に、そのニュートラル部位の全てを同一水平面上に並ばせることができる。
【0057】
このため、前述のように、キャビティ内の材料粉末の加圧工程中の移動方向は、前記ニュートラル部位が並ぶ水平面の上側と下側とで、それぞれ揃うこととなり、キャビティ内の材料粉末を、どの下パンチと上パンチとの間で加圧されるかによらずに、均質的に加圧・圧縮することができる。
【0058】
以上説明したことから、本発明の第1及び第2の態様によれば、複数組の上下パンチによる材料粉末の適正な加圧条件を容易に設定することができると共に、その設定した加圧条件により良質な粉末成形体を得ることができる。
【0060】
かかる本発明の第1の態様及び第2の態様では、より具体的には、前記各パンチの移動量は次のように設定される
【0061】
すなわち、まず、本発明の第1の態様にあっては、前記各組の下パンチ及び上パンチの組番号をk(kは、下パンチ及び上パンチの総組数以下の自然数)、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk,Ykとしたとき、該移動量Xk,Ykはそれぞれ次式(15),(16)により設定される
【0062】
【数15】
Figure 0004605847
【0063】
【数16】
Figure 0004605847
【0064】
ここで、前記移動量Xk,Ykは上向きを正方向としている。これらの式(15),(16)は、それぞれ、各組の両パンチ毎に、前記式(13),(14)を表したものである。そして、これらの式(15),(16)に用いるパラメータを改めて説明すると次の通りである。
【0065】
すなわち、Rkは、第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における該下パンチの上面から両パンチ間の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の終了時における両パンチ間の上下方向の間隔に対する割合を百分率で表したものであり、これは、前述した加圧比率Rに相当するものである。なお、このRkは、第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の開始時における該下パンチの上面から両パンチ間の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の開始時における両パンチ間の上下方向の間隔に対する割合を百分率で表したもの、というように定義しても同じである。
【0066】
また、Fkは、第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の開始時における両パンチ間の材料粉末の深さ(前記充填深さFに相当するもの)であり、これは、前記キャビティに材料粉末を充填する際における前記所定量の深さである。また、Hkは、第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における両パンチ間の間隔であり、これは粉末成形体のうちの各組の両パンチ間で成形される部分の厚さ(前記成形体厚さHに相当するもの)である。
【0067】
このように式(15),(16)により前記加圧工程における各組の両パンチの移動量Xk,Ykを設定したとき、その移動量Xk,Ykの設定を容易に行うことができる。つまり、前記各ニュートラル部位が加圧工程中にダイスに対して不動にするような加圧条件の設定を容易に行うことができる。
【0068】
上記と同様にして、本発明の第2の態様にあっては、前記各下パンチの番号をk(kは、下パンチの総数以下の自然数)、前記加圧工程における第k番の下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk、mを任意の一つの下パンチの番数、前記加圧工程における前記上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をYとしたとき、該移動量Xk,Yをそれぞれ前記式(15)と、次式(17)により設定する。
【0069】
【数17】
Figure 0004605847
【0070】
この場合、式(15),(17)中のRkは第k番の下パンチの上方に存する材料粉末のニュートラル部位に係わる加圧比率であり、Fkは第k番の下パンチの上方に存する材料粉末の充填深さ、Hkは加圧工程の終了時における第k番の下パンチと上パンチとの間隔(成形体厚さ)である。
【0071】
なお、この場合、式(17)中のmとしていずれの番数のkを用いても、式(17)により求まる移動量Yが同一となることが前提となるが、このことは、いずれの下パンチの上方に存する材料粉末についても、加圧工程における圧縮比(これは、前記充填深さに対する成形体厚さの比である)が同一であることから後述の如く示される。
【0072】
このようにして、本発明の第2の態様においても、前記各ニュートラル部位が加圧工程中にダイスに対して不動にするような加圧条件としての各パンチの移動量Xk,Yを容易に設定することができる。
【0073】
以上のような本発明の第1及び第2の態様のうちの第1の態様は、前記粉末成形体が貫通横穴を有する粉末成形体であって、前記ダイスには、少なくとも前記各組の両パンチを前記ダイスに対する前記初期位置に移送したときに前記キャビティに先端部が臨む横穴形成ピンと該横穴形成ピンに対向して前記キャビティに先端部が臨む対向ピンとを、それぞれ前記ダイスに横方向に延在して形成されたピン挿入穴に移動可能に挿入して搭載しておく。また、第2の態様において、前記粉末成形体が貫通横穴を有する粉末成形体である場合には、前記ダイスには、少なくとも各下パンチと上パンチとを前記ダイスに対する前記初期位置に移送したときに前記キャビティに先端部が臨む横穴形成ピンと該横穴形成ピンに対向して前記キャビティに先端部が臨む対向ピンとを、それぞれ前記ダイスに横方向に延在して形成されたピン挿入穴に移動可能に挿入して搭載しておく。
そして、各パンチの前記初期位置への移送後、少なくとも前記加圧工程の終了前に、前記粉末成形体に前記貫通横穴を形成すべく前記横穴形成ピンを前記対向ピンに向かって前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させると共に該横穴形成ピンの前進に同期させて前記対向ピンを該キャビティ側から後退させることにより両ピン間の前記粉末材料を前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出す工程と、前記横穴形成ピンが前記キャビティを貫通した状態を前記加圧工程が終了するまで保持する工程とを備え、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位(第1の態様)、あるいは前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位(第2の態様)の位置を前記横穴形成ピンの中心軸上の位置に定める。
【0074】
これによれば、前記パンチの前記初期位置への移送後、少なくとも前記加圧工程の終了前に、前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させ(このとき、両ピン間の材料粉末はキャビティから前記対向ピン側のピン挿入穴内に押し出される)、その横穴形成ピンの貫通状態を前記加圧工程が終了するまで保持するので、その貫通状態のままで、前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮が行われる。これにより、最終的に加圧工程の終了時にキャビティ内に得られる前記粉末成形体に前記貫通横穴が形成されることとなる。このとき、前記各ニュートラル部位を前記横穴形成ピンの中心軸上の位置に定めているので、該ニュートラル部位は、加圧工程中に、前記横穴形成ピンに対しても不動となる。従って、前記加圧工程中に、前記横穴形成ピンに偏荷重が作用することがない。この結果、該横穴形成ピンが加圧工程中に折れたりすることもなく、貫通横穴を有する良質の粉末成形体を得ることができる。
【0075】
上記のように貫通横穴を有する粉末成形体を製造する場合、前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させる工程は、例えば、前記加圧工程の開始直前に行うようにしてもよいが、好ましくは、前記加圧工程の開始時から終了時までの間に、前記パンチの前記ダイスに対する移動を一時的に停止して前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を中断する工程を備え、前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させる工程は、、前記加圧・圧縮の中断中に行うことが好ましい。
【0076】
このようにすることで、前記横穴形成ピンの前進及び前記対向ピンの後退による前記対向ピン側のピン挿入穴内への材料粉末の押し出しは、前記キャビティ内の材料粉末がある程度圧縮された状態で行われるため、キャビティ内の材料粉末が余分に対向ピン側のピン挿入穴内に押し出されることがなく、その押し出される材料粉末を必要限に留めることができる。
【0077】
また、上記のように貫通横穴を有する粉末成形体を製造する本発明の第1及び第2の態様では、前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させた際に、前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出された前記材料粉末を、該対向ピン側のピン挿入穴を前記ダイスの外部に連通させて該ダイスに設けた粉末排出穴を介して該ダイスの外部に排出する工程を備えることが好ましい。
【0078】
これによれば、前記対向ピン側のピン挿入穴に押し出された前記材料粉末を前記ダイスの外部で容易に回収することができ、その材料粉末を粉末成形体の製造のために再利用することが可能となる。
【0079】
次に、本発明の粉末成形体の製造方法の第3の態様及び第4の態様は、めくら穴状の横穴を有する粉末成形体を製造するための方法である。そして、本発明の第3の態様は、特に上下端面に段差を有する粉末成形体の製造に適した多段成形製造方法であり、ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、各下パンチにそれぞれ対向して該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成する複数の上パンチと、該キャビティに向かって横方向に進退可能に前記ダイスに搭載された横穴形成ピンとを備えた装置を用い、前記横穴形成ピンをその先端が前記キャビティ内に存するようにして該キャビティ内に挿入した状態で、互いに対向する各組の下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内にめくら穴状の横穴を有する粉末成形体を得る多段成形製造方法において、前記下パンチ及び上パンチの各組のうち、両パンチが前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの上下に該横穴形成ピンに対向して存する組を特定組とすると共に、前記各組の両パンチ間の前記材料粉末のうち、当該両パンチによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が、少なくとも全ての前記特定組の両パンチ間の材料粉末について前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各特定組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各特定組の両パンチ間による材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程と、少なくとも前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程の開始前に前記横穴形成ピンを該キャビティに挿入し、その挿入状態を該加圧工程中に維持する工程とを備え、
前記加圧工程は、少なくとも前記各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各特定組の下パンチ及び上パンチの組番号をk(kは、下パンチ及び上パンチの総組数以下の自然数)、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk,Ykとしたとき、該各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が該加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Ykは、それぞれ前記式(15),(16)によりあらかじめ設定されていることを特徴とするものである。
【0080】
また、本発明の第4の態様は、特に、特に上端面及び下端面の一方に段差を有し、他方が平坦面となっているような粉末成形体の製造に適した多段成形製造方法であり、ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成すると共に平坦な下端面を有する上パンチと、該キャビティに向かって横方向に進退可能に前記ダイスに搭載された横穴形成ピンとを備えた装置を用い、前記横穴形成ピンをその先端が前記キャビティ内に存するようにして該キャビティ内に挿入した状態で、前記各下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内にめくら穴状の横穴を有する粉末成形体を得る多段成形製造方法において、前記複数の下パンチのうち、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの下方に該横穴形成ピンに対向して存する下パンチを特定下パンチとすると共に、前記各下パンチの上方に存する前記材料粉末のうち、当該下パンチと前記上パンチとによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が、少なくとも全ての前記特定下パンチの上方に存する材料粉末について前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各特定下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各特定下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各特定下パンチと前記上パンチとによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程と、少なくとも前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程の開始前に前記横穴形成ピンを該キャビティに挿入し、その挿入状態を該加圧工程中に維持する工程とを備え、
前記加圧工程は、少なくとも前記各特定下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とし且つ、各特定下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての特定下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各特定下パンチの番号をk(kは、下パンチの総数以下の自然数)、前記加圧工程における第k番の特定下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk、mを任意の一つの特定下パンチの番数、前記加圧工程における前記上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をYとしたとき、前記各特定下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Yは、それぞれ前記式(15),(17)によりあらかじめ設定されていることを特徴とするものである。
【0081】
かかる本発明の第3の態様によれば、少なくとも、互いに対向する上下の両パンチが前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの上下に該横穴形成ピンに対向して存するような前記特定組の両パンチについては、該特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの中心軸上に存するように定められる。
【0082】
同様に、第4の態様によれば、少なくとも、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの下方に該横穴形成ピンに対向して存するような前記特定下パンチについては、その上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの中心軸上に存するように定められる。
【0083】
そして、本発明の第3及び第4の態様では、そのニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにキャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮が行われる。このため、前記加圧工程中に、前記横穴形成ピンに偏荷重が作用することはなく、該横穴形成ピンが折れたりするのを回避することができる。
【0084】
かかる本発明の第3及び第4の態様のより具体的な形態では、前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチ(第3の態様)、あるいは単一の上パンチ(第4の態様)を前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程とを備える。
【0085】
さらに、第3の態様にあっては、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程を備える。同様に、第4の態様にあっては、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程を備える。
【0086】
さらに、第3及び第4のいずれの態様にあっても、少なくとも前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程の開始前に前記横穴形成ピンを該キャビティに挿入し、その挿入状態を該加圧工程中に維持する工程を備える。
【0087】
そして、第3の態様にあっては、前記加圧工程は、少なくとも前記各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、少なくとも該加圧工程における各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量は、該各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が該加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、前記式(15),(16)によりあらかじめ設定しておく。
【0088】
また、第4の態様にあっては、前記加圧工程は、少なくとも前記各特定下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とし且つ、各特定下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての特定下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、少なくとも該加圧工程における各特定下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量は、前記各特定下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、前記式(15),(17)によりあらかじめ設定しておく。
【0089】
上記のような本発明の第3の態様及び第4の態様によれば、前記ダイ孔内への材料粉末の充填と前記キャビティの形成と前記各パンチの前記初期位置への移送とが前述した本発明の第1及び第2の態様の場合と全く同様に行われる。また、キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を開始する前(例えば、該加圧・圧縮を開始する直前や、前記キャビティに材料粉末を充填する前等)に、前記横穴形成ピンを前記キャビティに挿入しておく。このとき、該横穴形成ピンは粉末成形体にめくら穴状の横穴を形成するためのものであるので、該横穴形成ピンの先端は、キャビティ内に存する。
【0090】
このように横穴形成ピンをキャビティ内に挿入し、また、各パンチを前記初期位置に移送した状態で、次に、各下パンチと上パンチとをそれぞれ前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることで前記キャビティ内の材料粉末を加圧・圧縮し、前記キャビティ内に前記粉末成形体を得る。
【0091】
このとき、本発明の第3の態様にあっては、少なくとも前記各特定組の下パンチ及び上パンチについては、各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の両パンチによる材料粉末の加圧・圧縮が行われる。また、第4の態様にあっては、少なくとも前記特定下パンチについては、各下パンチと上パンチとのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とすることに加えて、各特定パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての特定下パンチについて同一として、前記材料粉末の加圧・圧縮が行われる。
【0092】
このようにしたとき、同一水平面上に並ぶように定めた各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位(第3の態様)、あるいは各特定下パンチの上方に存する材料粉末(第4の態様)における前記ニュートラル部位が、前記加圧工程中に実際にダイスに対して上下方向に不動となるように、加圧工程における各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量(第3の態様)、あるいは、各特定下パンチと上パンチとのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量(第4の態様)を前述した第1及び第2の態様の場合と同様に設定することができ、また、それらのパンチの前記初期位置も定めることができる。
【0093】
そして、このように各特定組の上下のパンチ、あるいは各特定下パンチ及び上パンチの移動量を設定し、また、それらの各パンチの前記ダイスに対する相対移動速度や、それらに対応する前記ニュートラル部位の位置を定めて、前記加圧工程を行ったとき、前記横穴形成ピンに対向する各特定組の上下のパンチ、あるいは各特定下パンチに対応する各ニュートラル部位を、該加圧工程の開始時から終了時までダイスに対して上下方向に不動となるようにすることができると共に、そのニュートラル部位の全てを同一水平面上に並ばせることができる。
【0094】
このため、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンに偏荷重が作用することはなく、横穴形成ピンが加圧工程中に折れたりするのを防止することができる。
【0095】
かかる本発明の第3の態様及び第4の態様では、より具体的には、前記各パンチの移動量は前記した如く設定される。
【0096】
すなわち、本発明の第3の態様にあっては、前記各特定組の下パンチ及び上パンチの組番号をkとしたとき、前記本発明の第1の態様に関して説明した前記式(15),(16)によって、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量Xk,Ykを設定する。
【0097】
同様に、第4の態様にあっては、前記各特定下パンチの番号をkとしたとき、前記式(15)によって、前記加圧工程における第k番の特定下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量Xkを設定することができ、また、前記式(17)によって、前記加圧工程における上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量Yを設定する。
【0098】
従って、前記横穴形成ピンの破損を回避できるような加圧条件の設定を容易に行うことができる。
【0099】
上述のような本発明の第3の態様において、前記特定組以外の組の両パンチ、すなわち、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの上下に存しないような両パンチの組については、その移動速度や移動量を必ずしも特定組の両パンチと同様に設定する必要はないが、均質的な粉末成形体を得る上では、特定組の両パンチと同様に移動速度や移動量を設定することが好ましいと考えられる。同様に、第4の態様においても、均質的な粉末成形体を得る上では、特定下パンチ以外の下パンチについても、特定下パンチと同様に移動速度や移動量を設定することが好ましいと考えられる。
【0100】
そこで、本発明の第3の態様では、前記特定組を含む全ての組の両パンチについて、前記加圧工程中における各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として各組の両パンチによる前記材料粉末の加圧・圧縮を行うと共に、前記特定組を含む全ての組の両パンチ間の材料粉末について前記ニュートラル部位が前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように、各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの該加圧工程における前記ダイスに対する相対的な移動量をあらかじめ設定する。
【0101】
同様に、本発明の第4の態様では、前記特定下パンチを含む全ての下パンチについて、前記加圧工程中における各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として各下パンチと上パンチとにによる前記材料粉末の加圧・圧縮を行うと共に、前記特定下パンチを含む全ての下パンチの上方に存する材料粉末について前記ニュートラル部位が前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように、各下パンチ及び上パンチのそれぞれの該加圧工程における前記ダイスに対する相対的な移動量をあらかじめ設定する。
【0102】
このようにすることで、全ての組の両パンチ間の材料粉末に対するニュートラル部位(第3の態様)、あるいは、全ての下パンチの上方の材料粉末に対するニュートラル部位(第4の態様)が、前記横穴形成ピンの中心軸を含む同一水平面上に並び、且つ、加圧工程中にダイスに対して上下に不動となるので、前述した本発明の第1及び第2の態様に関して説明した如く、前記キャビティ内の材料粉末は、どのパンチにより加圧されるかによらずに、均質的に加圧・圧縮され、良質の粉末成形体を得ることができる。
【0103】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施形態を図2〜図9を参照して説明する。図2は本実施形態で製造する粉末成形体の一例を示す斜視図及び縦断面図、図3〜図8は図1の粉末成形体の製造方法を説明するための説明的断面図、図9は図1の粉末成形体を製造するために材料粉末を加圧・圧縮する際の加圧条件の設定の仕方を説明するための説明図である。
【0104】
図2において、同図(a)は本実施形態で製造する粉末成形体50の斜視図、、同図(b)は図2(a)のI−I線断面による粉末成形体50の縦断面図である。これらの図に示すように、製造する粉末成形体50は、例えば、縦方向の長さが異なる3つの垂直姿勢の方形状の板部51,52,53を重合したような外形状をなし、それらの板部51,52,53の上下端面により、粉末成形体50の上下端部に段差が形成されている。そして、粉末成形体50は、その板部51,52,53をそれらの法線方向(水平方向)に貫く貫通横穴54を有する。
【0105】
本実施形態において、この粉末成形体50の製造に用いる装置は、材料粉末の多段成形を行う装置であり、図3に示すように、ダイ孔1を上下方向に有するダイス2と、このダイス2のダイ孔1にその下方から挿入される三個の下パンチ3a,4a,5aと、これらの各パンチ3a,4a,5aにそれぞれ対向してダイ孔1にその上方から挿入される三個の上パンチ3b,4b,5bとを具備する。
【0106】
ダイス2のダイ孔1は、図2に示した粉末成形体50の外周形状(垂直面形状)に沿った形状に形成されている。また、ダイス2の内部の所定の箇所には、ダイ孔1に連通させて横方向に穿設された一対のピン挿入穴6,7が、ダイ孔1を間に介在させて同心に相対向するように備えられている。そして、これらのピン挿入穴6,7には、それぞれ、前記粉末成形体50の貫通横穴54の形状を有する横穴形成ピン8と該横穴形成ピン8に対向する対向ピン9とが、それらの先端面をダイ孔1に臨ませて対向するように挿入されている。これらの横穴形成ピン8及び対向ピン9は、それぞれ図示しないアクチュエータを介してピン挿入穴6,7に沿ってその軸方向(横方向)に移動可能とされている。さらに、ダイス2には、前記対向ピン9側のピン挿入穴7に連通してダイス2の下方に開放された粉末排出穴10が備えられている。
【0107】
下パンチ3aとこれに対向する上パンチ4aとの組、下パンチ3bとこれに対向する上パンチ4bとの組、及び下パンチ3cとこれに対向する上パンチ4cとの組は、それぞれ、前記粉末成形体50の板部51の部分、板部52の部分、板部53の部分を成形するためのもので、各下パンチ3a〜5aの上面(成形面)は、それぞれ、粉末成形体50の各板部51〜53の下端面の形状に形成されている。同様に、各上パンチ3b〜5bの下面(成形面)は、それぞれ、粉末成形体50の各板部51〜53の上端面の形状に形成されている。
【0108】
なお、本実施形態では、前記ダイス2は装置に固定されており、各下パンチ3a〜5a及び各上パンチ3b〜5bが図示しないアクチュエータを介して昇降可能とされている。また、各パンチ3a〜5a,3b〜5bの昇降や、前記各ピン8,9の移動は、図示しないマイクロコンピュータ等を用いて制御される。
【0109】
以上のような装置を用いて、粉末成形体50は次のように製造される。なお、以下の説明では、下パンチ3aと上パンチ4aとの組、下パンチ3bと上パンチ4bとの組、及び下パンチ3cと上パンチ4cとの組をそれぞれ、組パンチ3,4,5と称する。
【0110】
まず、図3に示すように、ダイ孔1に挿入した下パンチ3a〜5aをそれぞれ、ダイ孔1の上端開口面から所定量F1,F2,F3の深さ位置に移動させた状態で、ダイ孔1に、その上方から材料粉末12(例えば鉄系金属粉末やセラミックス粉末)を充填する。このとき、材料粉末12は、ダイ孔1の上端開口面まで充填される。すなわち、各下パンチ3a〜5aの上側にそれぞれ上記所定量F1,F2,F3の充填深さの材料粉末12が存するように該材料粉末12がダイ孔1内に充填される。
【0111】
この場合、各下パンチ3a〜5aの上側の材料粉末12の充填深さF1,F2,F3は、材料粉末12をどの程度の圧縮比で圧縮して前記粉末成形体50を製造するかによって設計的に定められるものである。
【0112】
次いで、各下パンチ3a〜5aを一斉に、若干、下動させると共に、各上パンチ3b〜5bの下端面を同一面上に揃えた状態でそれらの上パンチ3b〜5bをダイ孔1に向かってその上方から一斉に下動させ、図4に示すように、各上パンチ3b〜5bをダイ孔1内に挿入して材料粉末12の上面に接触させる。これにより、ダイ孔1内には、下パンチ3a〜5a及び上パンチ3b〜5b間にキャビティ11が形成され、このキャビティ11内に材料粉末12が密封される。このとき、各上パンチ3b〜5bは材料粉末12の上面に接触する位置、すなわち、各上パンチ3b〜5bと対向する各下パンチ3a〜5aの上面からそれぞれ前記所定量の充填深さF1〜F3の間隔を存する位置で停止され、キャビティ11内の材料粉末12は非加圧状態に維持される。
【0113】
なお、上記のような作動に際しては、下パンチ3a〜5aを下動させる代わりに、ダイス2を上動させるようにしてもよい。
【0114】
次に、各組パンチ3,4,5のそれぞれの両パンチ間の間隔(これはそれぞれ前記充填深さF1〜F3である)を維持したまま、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を開始する際の各組パンチ3,4,5の位置として図5に示すようにあらかじめ定めた初期位置に各組パンチ3,4,5をそれぞれ移送する。この場合、本実施形態では、図4の状態から各組パンチ3,4,5をそれぞれ各別の所定量づつ下動させることで、図5の初期位置に各組パンチ3,4,5が移送され、キャビティ11の形状が前記粉末成形体50に相似した形状になる。また、この移送によって、前記横穴形成ピン8及び対向ピン9は、各組パンチ3,4,5と所定の位置関係を有してキャビティ11内の材料粉末12に臨む。
【0115】
なお、このとき各組パンチ3,4,5の前記初期位置がどのように設定されているかについては後述する。
【0116】
次いで、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチをそれぞれ一斉に上動、下動させてキャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を開始し、その後、該キャビティ11内の材料粉末12が前記粉末成形体50の形状まで圧縮される前の所定のタイミングで、材料粉末12の加圧・圧縮を中断する(各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチの移動を停止する)ことで、図6に示すように該材料粉末12を仮圧縮する。この仮圧縮は、キャビティ11内の材料粉末12がその形状を維持できる程度であればよく、例えば、キャビティ11内の材料粉末12を加圧開始時の状態(図6の状態)から各組パンチ3,4,5の両パンチ間で20〜30%圧縮するように行われる。また、この仮圧縮に際しては、各組パンチ3,4,5毎に、その各組パンチ3,4,5の下パンチの移動速度と上パンチの移動速度との比率が一定となるようにそれらの移動速度が設定されている。すなわち、組パンチ3の下パンチ3aの移動速度(上昇速度)をVa、上パンチ3bの移動速度(下降速度)をVbとしたとき、Va:Vbは仮圧縮の工程中に常に一定となるように(例えばVa、Vbのそれぞれがあらかじめ定めた一定値となるように)それらの移動速度Va,Vbが制御される。このことは、他の組パンチ4,5についても同様である。
【0117】
上記のように仮圧縮を行い、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を中断しているときに、次に、前記横穴形成ピン8をキャビティ8内に向かって前進させると共に、これに同期させて、前記対向ピン9をキャビティ11から離反させるように後退させる。この動作を、図7に示すように、横穴形成ピン8の先端部がキャビティ11内を貫通して対向ピン9側のピン挿入穴7に進入し、その先端部が前記粉末排出穴10に臨む位置に達するまで行う。
【0118】
このとき、前記図6の仮圧縮状態で、横穴形成ピン8と対向ピン9との間に存している材料粉末12が横穴形成ピン8の前進及び対向ピン9の後退に伴い、対向ピン9側のピン挿入穴7内に押し出され、その押し出された部分が横穴形成ピン8により埋められる。そして、横穴形成ピン8の先端部が前記粉末排出穴10に臨む位置に達すると、対向ピン9側のピン挿入穴7内に押し出された粉末材料11は、粉末排出穴10内に落下し、該粉末排出穴10を介してダイス2の下方に排出される。
【0119】
このとき、キャビティ11内の材料粉末12は、前述の仮圧縮によって、ある程度固められているため、横穴形成ピン8の前進に伴い対向ピン9が後退された際に、両ピン8,9間に存する材料粉末12だけでなく、その周囲の材料粉末12までもが対向ピン9側のピン挿入穴7に内に入り込んでしまうような事態を回避することができる。すなわち、キャビティ11内からピン挿入穴7内に押し出される材料粉末12を必要限に留めることができる。
【0120】
なお、排出された材料粉末12は、粉末排出穴10の下方に設けられた図示しない粉末回収器に回収され、それが新たな粉末成形体50や他の粉末成形体を製造するための材料粉末として再利用される。
【0121】
このようにして、材料粉末12の加圧・圧縮の中断中に、横穴形成ピン8をキャビティ11に貫通させた後、その貫通状態を維持したまま、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチを再びそれぞれ一斉に上動、下動させてキャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を再開し、この加圧・圧縮をキャビティ11内の材料粉末10が最終的に図8に示すように前記粉末成形体50の形状になって、該キャビティ11内に粉末成形体50が得られるまで行う。
【0122】
このとき、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチの移動速度は、前記仮圧縮の場合と同様に、各組パンチ3,4,5毎に、その各組パンチ3,4,5の下パンチの移動速度と上パンチの移動速度との比率が一定となるように制御される。
【0123】
また、前記仮圧縮の際を含めて、前記図5に示した材料粉末12の加圧・圧縮の開始時の状態から、図8に示した加圧・圧縮の終了時の状態までの加圧工程における、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチの移動量は、本実施形態では、各組パンチ3,4,5の両パンチ間に存する材料粉末12のうち、ダイス2に対して上下に不動となる部位、すなわち前述したニュートラル部位が前記横穴形成ピン8の中心軸上に位置するように設定されているのであるが、これについては後述する。
【0124】
上記のようにして、キャビティ11内に粉末成形体50が得られた後には、前記横穴形成ピン8がピン挿入穴6内に戻されてキャビティ11内の粉末成形体50から抜脱され、さらに上パンチ3b,4b,5bを上動させてダイ孔1内から抜脱した後、下パンチ3a,4b,5bを上動させることにより、粉末成形体50がダイ孔1内から取り出される。なお、横穴形成ピン8をキャビティ11内の粉末成形体50から抜脱する際には、それに先だって、上パンチ3b,4b,5bを僅かに上動させると共に、下パンチ3a,4b,5bを僅かに下動させると、キャビティ11内の粉末成形体50に生じている内部応力が解放され、横穴形成ピン8の抜脱を容易に行うことができる。
【0125】
次に、前記図5に示した材料粉末12の加圧・圧縮の開始時の状態から、図8に示した加圧・圧縮の終了時の状態までの加圧工程(仮圧縮を含む)における、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチの移動量と、加圧工程の開始時における各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチの初期位置とについて前記図2(b)及び図9を参照して説明する。
【0126】
図9(a)は、図5と同じ加圧工程の開始時の状態、図9(b)は、図8と同じ加圧工程の終了時の状態を示している。
【0127】
図9(a)を参照して本実施形態では、キャビティ11内で組パンチ3の両パンチ3a,3b間に存する材料粉末12のうちの前記横穴形成ピン8の中心軸上の部位(詳しくは該中心軸を含む水平面上の部位。以下同様)C1と、組パンチ4の両パンチ4a,4b間に存する材料粉末12のうちの横穴形成ピン8の中心軸上の部位C2と、組パンチ5の両パンチ5a,5b間に存する材料粉末12のうちの横穴形成ピン8の中心軸上の部位C3とを(これらの部位C1〜C3が横穴形成ピン8の中心軸上に連続して並んでいる)、前記仮圧縮の場合を含めてキャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を行う加圧工程中に、ダイス2に対して上下に不動となるべきニュートラル部位として定める。
【0128】
そして、それらのニュートラル部位C1〜C3がキャビティ11内の材料粉末12の加圧工程中に、実際にダイス2に対して不動となるように、すなわち、加圧工程中に常に、横穴形成ピン8の中心軸上に存するように、加圧工程の開始時から終了時までの(前記仮圧縮を含む)、各組パンチ3〜5の各パンチの加圧工程中の移動量を設定する。
【0129】
この移動量を設定するために、前述した充填深さF1〜F3以外に、次のようなパラメータを定義する。
【0130】
すなわち、前記図2(b)に示すように、粉末成形体50の各板部51,52,53の垂直方向の厚さ(成形体厚さ)をそれぞれH1,H2,H3とし、また、各板部51,52,53の下端面から前記貫通横穴54の中心軸までの間隔をそれぞれh1,h2,h3とする。換言すれば、図9(b)に示す如く、前記加圧工程の終了時における各組パンチ3〜4の両パンチ間の間隔をそれぞれH1,H2,H3とし、また、前記加圧工程の終了時における各下パンチ3a〜5aの上面から前記横穴形成ピン8の中心軸までの間隔をそれぞれh1,h2,h3とする。これらのH1,H2,H3,h1,h2,h3の値は、製造する粉末成形体50の設計寸法によって定まるものである。
【0131】
また、前記加圧工程の開始時から終了時までの各パンチ3a,3b,4a,4b,5a,5bの移動量をそれぞれX1,Y1,X2,Y2,X3,Y3、前記加圧工程の開始時における各下パンチ3a,4a,5aのダイス2の上面からの間隔をそれぞれS1,S2,S3、前記加圧工程の終了時における各下パンチ3a,4a,5aのダイス2の上面からの間隔をそれぞれE1,E2,E3、ダイス2の上面から横穴形成ピン8の中心軸までの間隔をNLとおく。
【0132】
なお、上記移動量X1,Y1,X2,Y2,X3,Y3に関しては、上向きを正の向きとする。従って、加圧工程中に上動する下パンチ3a〜5aの移動量X1〜X3は正の値であり、加圧工程中に下動する上パンチ3b〜5bの移動量Y1〜Y3は負の値である。
【0133】
ここで、まず、組パンチ3の両パンチ3a,3b間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C1に関し、図9(b)の加圧工程の開始時における下パンチ3aの上面から該ニュートラル部位C1までの間隔の、前記充填深さF1(これは加圧工程の開始時における両パンチ3a,3b間の間隔に等しい)に対する割合を百分率で表したものをR1とおくと、このR1は、前述の如く定義した加圧比率に相当するものである。そして、このニュートラル部位C1に係わる加圧比率R1は、該ニュートラル部位C1が加圧工程中に常に横穴形成ピン8の中心軸上にあるべき部位であるから、図9(b)の加圧工程の終了時における下パンチ3aの上面から横穴形成ピン8の中心軸までの間隔h1の、該加圧工程の終了時における両パンチ3a,3b間の間隔H1に対する割合を百分率で表したもの(=100・h1/H1)に等しくなるべきものである。従って、前記ニュートラル部位C1に係わる加圧比率R1の値は、次式(18)により与えられる。
【0134】
【数18】
Figure 0004605847
【0135】
そこで、本実施形態では、組パンチ3の下パンチ3aの前記移動量X1は前記式(15)に従って、前記加圧比率R1と、加圧工程の開始時における両パンチ3a,3b間の材料粉末12の充填深さF1と、粉末成形体50の板部51の垂直方向の厚さH1とを用いて、次式(19)により設定する。
【0136】
【数19】
Figure 0004605847
【0137】
また、組パンチ3の上パンチ3bの前記移動量Y1は前記式(16)に従って、前記加圧比率R1、充填深さF1及び粉末成形体50の板部51の厚さH1を用いて次式(20)により設定する。
【0138】
【数20】
Figure 0004605847
【0139】
さらに、上記の組パンチ3の場合と同様の考え方によって、組パンチ4の両パンチ4a,4b間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C2に係わる加圧比率をR2、組パンチ5の両パンチ5a,5b間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C3に係わる加圧比率をR3とおくと、これらの値は、それぞれ次式(21),(22)により与えられる。
【0140】
【数21】
Figure 0004605847
【0141】
【数22】
Figure 0004605847
【0142】
そこで、本実施形態では、組パンチ4の下パンチ4aの前記移動量X2と、上パンチ4bの前記移動量Y2とは、それぞれ前記式(15),(16)に従って、前記加圧比率R2と、充填深さF2と、粉末成形体50の板部52の垂直方向の厚さH2とを用いて、次式(23),(24)によりそれぞれ設定する。
【0143】
【数23】
Figure 0004605847
【0144】
【数24】
Figure 0004605847
【0145】
同様に、組パンチ5の下パンチ5aの前記移動量X3と、上パンチ5bの前記移動量Y4とは、それぞれ前記加圧比率R3と、充填深さF3と、粉末成形体50の板部53の垂直方向の厚さH3とを用いて、次式(25),(26)によりそれぞれ設定する。
【0146】
【数25】
Figure 0004605847
【0147】
【数26】
Figure 0004605847
【0148】
次に、本実施形態では、加圧工程の開始時における各パンチ3a〜5a、3b〜5bの初期位置は次のように設定する。
【0149】
まず、下パンチ3aに関し、前記加圧工程の終了時における該下パンチ3aの上面からダイス2の上面までの前記間隔E1は、図9(b)を参照して明らかなように、下パンチ3aの上面から横穴形成ピン8の中心軸までの前記間隔h1と、該中心軸からダイス2の上面までの間隔NL(これはダイス2の設計上で定まる値である)との和(=h1+NL)である。また、加圧工程の開始時における下パンチ3aの上面からダイス2の上面までの前記間隔S1は、上記間隔E1に、前記式(14)により設定される下パンチ3aの加圧工程中の移動量X1を加えたものである。
【0150】
そこで、本実施形態では、加圧工程の開始時における下パンチ3aの初期位置を規定する前記間隔S1を前記式(19)により設定する移動量X1を用いて次式(27)により設定する。
【0151】
【数27】
Figure 0004605847
【0152】
これと同様の考え方によって、加圧工程の開始時における下パンチ4a,5aの初期位置を規定する前記間隔S2,S3を、本実施形態では、それぞれ前記式(23),(25)により設定する移動量X2,X3を用いて次式(28),(29)により設定する。
【0153】
【数28】
Figure 0004605847
【0154】
【数29】
Figure 0004605847
【0155】
なお、加圧工程の開始時における前記各上パンチ3a,4b,5bの初期位置(各上パンチ3a,4b,5bの下面からダイス2の上面までの間隔)は、図9(a)を参照して明らかなように、それぞれ上記のように設定される間隔S1〜S3に前記各組パンチ3〜5の両パンチ間の充填深さF1〜F3を減算した値として設定される。
【0156】
以上説明したように各パンチ3a〜5a、3b〜5bの加圧工程中の移動量X1〜X3,Y1〜Y3と、各パンチ3a〜5a、3b〜5bの加圧工程の開始時の初期位置とを設定して、前述の如く、材料粉末12の加圧・圧縮を行うことで、各組パンチ3〜5の両パンチ間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C1〜C3はそのいずれもが、加圧工程中に、前記横穴形成ピン8の中心軸上で不動になる。このため、特に前記横穴形成ピン8をキャビティ11に貫通させた後の材料粉末12の加圧・圧縮に際して、該横穴形成ピン8に偏荷重が作用することがなく、該横穴形成ピン8が破損したりするのを確実に防止することができる。
【0157】
また、各組パンチ3〜5の両パンチ間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C1〜C3はそのいずれもが、加圧工程中に、前記横穴形成ピン8の中心軸上で不動になることで、組パンチ3の両パンチ間の材料粉末12とその隣の組パンチ4の両パンチ間の材料粉末12との境界部分と、組パンチ4の両パンチ間の材料粉末12とその隣の組パンチ5の両パンチ間の材料粉末12との境界部分とにおいて、加圧工程の開始時に互いに隣合っていた材料粉末12は、その隣接関係が加圧工程中も維持される。このため、上記の境界部分において粉末成形体50の強度不足が生じるような事態を防止し、良品質の粉末成形体50を得ることができる。
【0158】
次に、本発明の第2の実施形態を図10〜図15を参照して説明する。図10は本実施形態で製造する粉末成形体の一例を示す縦断面図、図11〜図15は図1の粉末成形体の製造方法を説明するための説明的断面図である。なお、本実施形態の説明において、前述の第1の実施形態と同一構成部分については、第1の実施形態と同一の参照符号を用いる。
【0159】
図10を参照して、本実施形態で製造する粉末成形体60は、例えば前述した図2の粉末成形体50と同一の外形状で、板部61,62,63を重合したような外形状をなす。各板部61〜63の垂直方向の長さ(成形体厚さ)等のサイズは、それぞれ図2の粉末成形体50の板部51〜53と同一である。そして、本実施形態では、粉末成形体60の板部51の表面(図の左側面)から板部52にかけて横方向に延在する比較的小径なめくら穴状の横穴64(以下、めくら横穴6という)を有している。このめくら横穴64は、板部63には延びていない。
【0160】
なお、本実施形態では、粉末成形体60におけるめくら横穴64の中心軸の位置は、前述の粉末成形体50における貫通横穴54の中心軸の位置と同一で、板部61〜63のそれぞれの下面から間隔h1,h2,h3を存する位置である。
【0161】
本実施形態において、この粉末成形体60の製造に用いる装置の基本構成は、前述の粉末成形体50の製造に用いる装置と同一であり、ダイ孔1を上下方向に有するダイス2と、このダイス2のダイ孔1にその下方から挿入される三個の下パンチ3a,4a,5aと、これらの各パンチ3a,4a,5aにそれぞれ対向してダイ孔1にその上方から挿入される三つの上パンチ3b,4b,5bとを具備する。ダイス2のダイ孔1、各下パンチ3a〜5a、及び各上パンチ3b〜5bの形状は、前述の第1の実施形態のものと同一で、下パンチ3a及び上パンチ3bからなる組パンチ3と、下パンチ4a及び上パンチ4bからなる組パンチ4と、下パンチ5a及び上パンチ5bからなる組パンチ5とはそれぞれ、粉末成形体60の板部61〜63の部分を成形するためのものである。
【0162】
一方、本実施形態では、ダイス2の内部には、組パンチ3寄りの箇所でダイ孔1に連通させて横方向に穿設されたピン挿入穴13が備えられ、この挿入穴13に、前記粉末成形体60のめくら横穴64の形状を有する横穴形成ピン14がその先端面をダイ孔1に臨ませて挿入されている。この横穴形成ピン14は、図示しないアクチュエータを介してピン挿入穴13に沿ってその軸方向(横方向)に移動可能とされている。
【0163】
なお、前記第1の実施形態の場合と同様、ダイス2は装置に固定されており、各下パンチ3a〜5a及び各上パンチ3b〜5bが図示しないアクチュエータを介して昇降可能とされていると共に、各パンチ3a〜5a,3b〜5bの昇降や、前記横穴形成ピン14の移動は、図示しないマイクロコンピュータ等を用いて制御される。
【0164】
以上のような装置を用いて、粉末成形体60は次のように製造される。
【0165】
まず、図11に示すように、ダイ孔1内に挿入した各下パンチ3a〜5aをそれぞれ、ダイ孔1の上端開口面から所定量F1,F2,F3の深さ位置に移動させた状態で、前記第1実施形態の場合と全く同様に(図3参照)、ダイ孔1内にその上方から材料粉末12を充填する。このときの、材料粉末12の充填深さF1,F2,F3は前記第1の実施形態と同一である。
【0166】
次いで、前記第1の実施形態の場合と全く同様に、各下パンチ3a〜5aを一斉に、若干、下動させると共に、各上パンチ3b〜5bをダイ孔1に向かってその上方から一斉に下動させ、図12に示すように、各上パンチ3b〜5bをダイ孔1内に挿入して材料粉末12の上面に接触させる。これにより、ダイ孔1内に、材料粉末12が下パンチ3a〜5aと上パンチ3b〜5bとの間で密封されたキャビティ11を形成する。このとき、キャビティ11内の材料粉末12は非加圧状態に維持される。
【0167】
次に、前記第1の実施形態の場合と全く同様に、各組パンチ3,4,5のそれぞれの両パンチ間の間隔を維持したまま、図13に示す如く各組パンチ3,4,5をキャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を開始する際の所定の初期位置にそれぞれ移送する。この場合、各組パンチ3〜5の初期位置は、第1の実施形態と同一である。
【0168】
さらに、前記横穴形成ピン14をキャビティ8内に向かって前進させ、図14に示すごとく、該キャビティ8内の所定の位置(本実施形態では、組パンチ4の両パンチ間の材料粉末と組パンチ5の両パンチ間の材料粉末の境界部分)まで、横穴形成ピン14を挿入する。このとき、組パンチ3,4の両パンチは、特定組の両パンチで、横穴形成ピン14の上下に該横穴形成ピン14に対向して存するものとなるが、組パンチ5の両パンチは、横穴形成ピン14には対向しないものとなる(組パンチ5の両パンチ間には横穴形成ピン14は存在しない)。
【0169】
そして、この横穴形成ピン14の挿入状態を維持したまま、各組パンチ3,4,5の下パンチ及び上パンチをそれぞれ一斉に上動、下動させてキャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を開始し、この加圧・圧縮を、図15に示す如く、最終的にキャビティ11内に前記粉末成形体60が得られるまで行う。
【0170】
このとき、前記第1の実施形態における材料粉末の加圧・圧縮の場合と同様に、各組パンチ3,4,5毎に、その各組パンチ3,4,5の下パンチの移動速度と上パンチの移動速度との比率が一定となるようにそれらの移動速度が制御される。
【0171】
また、図14を参照して、本実施形態では、前述の第1の実施形態と同様、キャビティ11内で組パンチ3の両パンチ3a,3b間に存する材料粉末12のうちの前記横穴形成ピン14の中心軸上の部位C1と、組パンチ4の両パンチ4a,4b間に存する材料粉末12のうちの横穴形成ピン14の中心軸上の部位C2と、組パンチ5の両パンチ5a,5b間に存する材料粉末12のうちの横穴形成ピン14の中心軸上の部位C3とを、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時(図14の状態)から、加圧・圧縮の終了時(図15の状態)までの加圧工程中に、ダイス2に対して上下に不動となるべきニュートラル部位として定めている。そして、それらのニュートラル部位C1〜C3がキャビティ11内の材料粉末12の加圧工程中に、実際にダイス2に対して不動となるように、加圧工程の開始時から終了時までの、各組パンチ3〜5の各パンチの加圧工程中の移動量を設定している。
【0172】
この場合、本実施形態では、粉末成形体60のサイズや外形状は、前記第1の実施形態で製造した粉末成形体50と同一で、上記各ニュートラル部位C1〜C3に係わる加圧比率は、第1の実施形態と同一である(前記式(18)、(21)、(22)を参照)。従って、本実施形態では、各組パンチ3〜5の各パンチの加圧工程中の移動量は、前記第1の実施形態と同一に設定され(前記式(19)、(20)、(23)〜(26)を参照)、その設定された移動量に従って、加圧工程中の各組パンチ3,4,5の各パンチの移動が行われる。なお、加圧工程の開始時における各組パンチ3〜5の各パンチの初期位置は、上記のように設定した各パンチの移動量を用いて、前記第1の実施形態と同様に設定されたものである。
【0173】
上記のようにして、キャビティ11内に粉末成形体60が得られた後には、前記横穴形成ピン14がピン挿入穴13内に戻されてキャビティ11内の粉末成形体60から抜脱され、さらに上パンチ3b,4b,5bを上動させてダイ孔1内から抜脱した後、下パンチ3a,4b,5bを上動させることにより、粉末成形体60がダイ孔1内から取り出される。なお、横穴形成ピン14をキャビティ11内の粉末成形体60から抜脱する際には、それに先だって、上パンチ3b,4b,5bを僅かに上動させると共に、下パンチ3a,4b,5bを僅かに下動させることで、横穴形成ピン14の抜脱を容易に行うことができる。
【0174】
以上説明した本実施形態においても、前記第1の実施形態と同様に、各組パンチ3〜5の両パンチ間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C1〜C3はそのいずれもが、加圧工程中に、前記横穴形成ピン14の中心軸上で不動になるため、材料粉末12の加圧・圧縮に際して、該横穴形成ピン14に偏荷重が作用することがなく、該横穴形成ピン14が破損したりするのを確実に防止することができる。
【0175】
また、各組パンチ3〜5の両パンチ間の材料粉末12の前記ニュートラル部位C1〜C3はそのいずれもが、加圧工程中に、前記横穴形成ピン14の中心軸上で不動になることで、組パンチ3の両パンチ間の材料粉末12とその隣の組パンチ4の両パンチ間の材料粉末12との境界部分と、組パンチ4の両パンチ間の材料粉末12とその隣の組パンチ5の両パンチ間の材料粉末12との境界部分とにおいて、加圧工程の開始時に互いに隣合っていた材料粉末12は、その隣接関係が加圧工程中も維持される。このため、上記の境界部分において粉末成形体50の強度不足が生じるような事態を防止し、良品質の粉末成形体50を得ることができる。
【0176】
次に、本発明の第3の実施形態を図16及び図17を参照して説明する。図16(a),(b)はそれぞれ本実施形態で製造する粉末成形体の斜視図及び縦断面図、図17は図16の粉末成形体の製造方法を説明するための説明的断面図である。なお、本実施形態の説明において、前述の第1の実施形態と同一構成部分については、第1の実施形態と同一の参照符号を用い、詳細な説明を省略する。
【0177】
図16に示すように、本実施形態で製造する粉末成形体70は、前記第1の実施形態で製造した粉末成形体50(図2参照)と同様に、3つの方形状の板部71,72,73を垂直姿勢で重合したような外形状をなす。この場合、粉末成形体70は、その上端部の形状のみが前記粉末成形体50と異なるものである。すなわち、粉末成形体70にあっては、その下端部には、板部71〜73により段差が形成されているが、板部71〜73の上端面は、同一面上に揃えられている。従って、粉末成形体70の上端面は、段差の無い平坦面となっている。そして、この粉末成形体70には、板部71〜73を貫く貫通横穴74が、前記粉末成形体50と同様に形成されている。
【0178】
なお、図16(b)では、説明の便宜上、前記図2(b)と同一の参照符号を用いて、板部71〜73の厚さH1〜H3(垂直方向の長さ)や、各板部71〜73の下端面から貫通横穴74の中心軸までの間隔h1〜h3を示している。
【0179】
この粉末成形体60を製造するための装置は、図17に示す如く、上パンチのみが、前述の第1の実施形態のもの(図3を参照)と相違するものであり、第1の実施形態と同一構成のダイス2、下パンチ3a〜5a、横穴形成ピン8及び対向ピン9を備える一方、粉末成形体60の上端面が段差の無い平坦面であることから、上パンチは、平坦な下端面(横穴形成ピン8の中心軸と平行な水平面)を有する単一の上パンチ15により構成されている。下パンチ3a〜5aは、それぞれ、上パンチ15と協働して、粉末成形体60の板部61〜63の部分を成形するためのものである。
【0180】
この装置による粉末成形体60の製造は、前述の第1の実施形態と全く同様の手順によって行われる。すなわち、ダイ孔1内への材料粉末12の充填、キャビティ11の形成、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15の初期位置への移送、キャビティ11内の材料粉末12の仮圧縮、横穴形成ピン8のキャビティ11への挿入・貫通(横穴形成ピン8によりキャビティ11内から押し出される材料粉末12の排出を含む)、横穴形成ピン8の挿入後の材料粉末11の最終的な加圧・圧縮(粉末成形体60の成形)が、第1の実施形態と全く同様のやり方で順次行われる。なお、図17(a)は、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15を初期位置に移送した状態(キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始直前の状態)を示し、図17(b)は、キャビティ11内に、最終的に粉末成形体60を得た状態(材料粉末12の加圧・圧縮の終了時の状態)を示している。
【0181】
この場合、本実施形態では、キャビティ11内の材料粉末12の仮圧縮の場合を含めて、該材料粉末12の加圧・圧縮を行う加圧工程中における各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15の移動速度は次のように制御される。
【0182】
すなわち、各下パンチ3a〜5aの移動速度をそれぞれV1〜V3、上パンチの移動速度をVとおいたとき、V:V1、V:V2、V:V3がそれぞれ加圧工程中に一定に維持されるように各パンチ3a〜5a,15の移動速度が制御される(例えば、各パンチの移動速度を一定速度に制御する)。
【0183】
また、本実施形態では、キャビティ11内の材料粉末12のうち、下パンチ3aの上方に存する部分の加圧工程における圧縮比と、下パンチ4aの上方に存する部分の加圧工程における圧縮比と、下パンチ5aの上方に存する部分の加圧工程における圧縮比とが同一となるように、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12の充填深さが設定されている。すなわち、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12の所定量の充填深さを前記第1の実施形態の場合と同様に、それぞれF1〜F3とおいたとき(図17(a)を参照)、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12の圧縮比は、それぞれ、前記粉末成形体60の板部61〜63の成形体厚さH1〜H3(図16及び図17(b)を参照)を用いてH1/F1、H2/F2、H3/F3であり、これらの値が同一となるように、材料粉末12の充填深さF1〜F3が定められている。なお、以下の説明では、この圧縮比をα(=H1/F1=H2/F2=H3/F3)とおく。
【0184】
そして、本実施形態では、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12のニュートラル部位C1〜C3は、前記第1の実施形態と同様に、横穴形成ピン8の中心軸上の位置に定められ、これらのニュートラル部位C1〜C3を加圧工程中にダイス2に対して不動とする(ニュートラル部位C1〜C3を加圧工程中に定常的に横穴形成ピン8の中心軸上に位置させる)ために、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時から終了時まで(仮圧縮を含む)の各下パンチ3a〜5aの移動量X1〜X3と、上パンチ15の移動量Yとは次のように設定されている。
【0185】
すなわち、各下パンチ3a〜5aの移動量X1〜X3は、それぞれ前記第1の実施形態と同様に、前記式(19)、(23)、(25)により設定されている。
【0186】
また、上パンチ15の移動量Yは、前記式(20)、(24)、(26)のいずれか任意の一つの式の右辺の演算結果として設定されている。
【0187】
この場合、式(20)、(24)、(26)の右辺のいずれの演算を行っても、同一の演算結果が得られることが前提となるが、このことは、次のように示される。
【0188】
すなわち、本実施形態における材料粉末12の前記圧縮比αを用いると、式(20)、(24)、(26)の右辺はそれぞれ、次式(30)〜(32)に書き換えられる。
【0189】
【数30】
Figure 0004605847
【0190】
【数31】
Figure 0004605847
【0191】
【数32】
Figure 0004605847
【0192】
ここで、本実施形態では、上パンチ15の下端面は、横穴形成ピン8の中心軸と平行な平坦面であるから、これらの式(30)〜(32)の右辺の(H1−h1),(H2−h2),(H3−h3)は、図17(b)を参照して明らかなように同一の値(上パンチ15と横穴形成ピン8の中心軸との間隔)である。従って、式(30)〜(32)の右辺の演算結果はいずれも同一となる。このことから、式(20)、(24)、(26)の右辺のいずれの演算によっても、上パンチ15の移動量Yを求めることができることが判る。
【0193】
なお、各下パンチ3a〜5aの初期位置、すなわち、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時における、各下パンチ3a〜5aの上面とダイス2の上面との間隔S1〜S3(図17(a)を参照)は、第1の実施形態と同様に、それぞれ前記式(27)〜(29)により設定される。また、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時における上パンチ15の上面とダイス2の上面との間隔(上パンチ15の初期位置)は、上記間隔S1〜S3のいずれか一つから、それに対応する下パンチの上方の材料粉末12の充填深さを減算してなる値として設定される。
【0194】
本実施形態では、上記のようにして、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15の移動量X1〜X3,Y等を設定して、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を行うことで、横穴形成ピン8の中心軸上のニュートラル部位C1〜C3がダイス2に対して不動となり、また、該ニュートラル部位C1〜C3が同一平面上に揃うことから、前記第1の実施形態と同様に、加圧工程中における横穴形成ピン8の破損を回避することができると共に、良品質の粉末成形体60を得ることができる。
【0195】
次に、本発明の第4の実施形態を図18及び図19を参照して説明する。図18(a),(b)はそれぞれ本実施形態で製造する粉末成形体の斜視図及び縦断面図、図19は図18の粉末成形体の製造方法を説明するための説明的断面図である。なお、本実施形態の説明において、前述の第2の実施形態と同一構成部分については、第2の実施形態と同一の参照符号を用い、詳細な説明を省略する。
【0196】
図18に示すように、本実施形態で製造する粉末成形体80は、前記第2の実施形態で製造した粉末成形体60(図10参照)と上端部の形状のみが相違するものである。すなわち、方形状の板部81〜83を重合したような外形状を有する本実施形態における粉末成形体80は、その下端部には、板部81〜83により段差が形成されているが、板部81〜83の上端面は、前記第3の実施形態における粉末成形体70と同様に同一面上に揃えられ、粉末成形体80の上端面は、段差の無い平坦面となっている。そして、この粉末成形体80には、板部81の部分から板部82の部分にかけて、前記第2の実施形態の粉末成形体60と同様に、比較的小径なめくら横穴84が形成されている。
【0197】
なお、本実施形態で製造する粉末成形体80の各板部81〜83の成形体厚さH1〜H3や、各板部81〜83の下端面からめくら横穴84の中心軸までの間隔h1〜h3は、前記第3実施形態のもの(図16参照)と同一である。
【0198】
この粉末成形体80を製造するための装置は、図18に示す如く、上パンチのみが、前述の第2の実施形態のもの(図11を参照)と相違するものであり、第1の実施形態と同一構成のダイス2、下パンチ3a〜5a、横穴形成ピン14を備える一方、上パンチは、平坦な下端面(横穴形成ピン14の中心軸と平行な水平面)を有する単一の上パンチ16により構成されている。下パンチ3a〜5aは、それぞれ、上パンチ16と協働して、粉末成形体80の板部81〜83の部分を成形するためのものである。
【0199】
この装置による粉末成形体80の製造は、前述の第2の実施形態と全く同様の手順によって行われる。すなわち、ダイ孔1内への材料粉末12の充填、キャビティ11の形成、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15の初期位置への移送、横穴形成ピン14のキャビティ11への挿入、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮(粉末成形体80の成形)が、第2の実施形態と全く同様のやり方で順次行われる。なお、図19(a)は、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ16を初期位置に移送した状態(キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始直前の状態)を示し、図19(b)は、キャビティ11内に、最終的に粉末成形体80を得た状態(材料粉末12の加圧・圧縮の終了時の状態)を示している。
【0200】
この場合、本実施形態では、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を行う加圧工程中における各下パンチ3a〜5a及び上パンチ15の移動速度は、それをそれぞれV1〜V3、Vとおいたとき、前記第3の実施形態と全く同様に、V:V1、V:V2、V:V3がそれぞれ加圧工程中に一定に維持されるように制御される。
【0201】
また、本実施形態では、前記第3の実施形態と同様に、各下パンチ3a〜5aの上方に存する材料粉末12の圧縮比がいずれも同一となるように、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12の充填深さF1〜F3が設定されている。
【0202】
そして、本実施形態においても、各下パンチ3a〜5aの上方の材料粉末12のニュートラル部位C1〜C3は、前記第1〜第3の実施形態と同様に、横穴形成ピン14の中心軸上の位置に定められ、これらのニュートラル部位C1〜C3を加圧工程中にダイス2に対して不動とするために、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時から終了時までの各下パンチ3a〜5aの移動量X1〜X3と、上パンチ16の移動量Yとは次のように設定されている。
【0203】
すなわち、各下パンチ3a〜5aの移動量X1〜X3は、それぞれ前記第1〜第3の実施形態と同様に、前記式(19)、(23)、(25)により設定されている。
【0204】
また、上パンチ16の移動量Yは、前記第3の実施形態と同様に、前記式(20)、(24)、(26)のいずれか任意の一つの式の右辺の演算結果として設定されている。
【0205】
この場合、第3の実施形態と同様に、キャビティ11内の材料粉末12の圧縮比を定めているので、式(20)、(24)、(26)の右辺のいずれの演算を行っても、上パンチ15の移動量Yを求めることができる。
【0206】
なお、各下パンチ3a〜5aの初期位置、すなわち、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時における、各下パンチ3a〜5aの上面とダイス2の上面との間隔S1〜S3(図19(a)を参照)は、第1の実施形態と同様に、それぞれ前記式(27)〜(29)により設定される。また、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮の開始時における上パンチ16の上面とダイス2の上面との間隔(上パンチ15の初期位置)は、上記間隔S1〜S3のいずれか一つから、それに対応する下パンチの上方の材料粉末12の充填深さを減算してなる値として設定される。
【0207】
本実施形態では、上記のようにして、各下パンチ3a〜5a及び上パンチ16の移動量X1〜X3,Y等を設定して、キャビティ11内の材料粉末12の加圧・圧縮を行うことで、横穴形成ピン14にその下方で対向する特定下パンチとなる下パンチ3a,4aのそれぞれに対応するニュートラル部位C1,C2が、加圧工程中に横穴形成ピン14の中心軸上で不動となることから、前記第2の実施形態と同様に、横穴形成ピン14の破損を回避することができる。
【0208】
さらに、下パンチ5aについても、それに対応するニュートラル部位C3、ニュートラル部位C1,C2と共に、横穴形成ピン14の中心軸上で不動となることから、良質の粉末成形体80を得ることができる。
【0209】
なお、前述した第2の実施形態及び第4の実施形態では、キャビティ11内に挿入した横穴形成ピン14に対向しない下パンチ5aの上方の材料粉末12のニュートラル部位C3についても、横穴形成ピン14の中心軸上に存するように定めたが、下パンチ5a及び上パンチ5b、あるいは下パンチ5a及び上パンチ15による材料粉末12の加圧力は、横穴形成ピン14には作用しないので、該横穴形成ピン14の破損等を防止する上では、上記ニュートラル部位C3は、必ずしも横穴形成ピン14の中心軸上に定める必要はない。従って、第2の実施形態における組パンチ5、あるいは第4の実施形態における下パンチ5aについては、その各パンチの移動量や移動速度等は、第2の実施形態や第4の実施形態と別の形態で設定するようにしてもよい。
【0210】
また、前記第2及び第4の実施形態では、横穴形成ピン14を材料粉末12の加圧・圧縮を開始する直前にキャビティ11内に挿入するようにしたが、製造する粉末成形体の形状やサイズ等によっては、キャビティに材料粉末を充填する前等に横穴形成ピンをキャビティに挿入しておくようにすることも可能である。同様に、前記第1及び第3の実施形態では、加圧工程の途中で横穴形成ピン8をキャビティ11に貫通させるようにしたが、加圧工程の開始直前や、キャビティへの材料粉末の充填前等に、横穴形成ピンをキャビティに貫通させておくようにすることも可能である。
【0211】
また、以上説明した第1〜第4の各実施形態では、ダイス2が固定されている場合を例にとって説明したが、下パンチ3a〜5aのいずれか一つを固定し、その固定した下パンチに対して他の下パンチ及び上パンチ3b〜5b,15,16とダイス2とを移動させながら材料粉末12を加圧・圧縮して粉末成形体50,60,70,80を製造する場合にも本発明を適用することができることはもちろんである。この場合、例えば下パンチ3aを固定した場合には、加圧工程中の、下パンチ3aに対するダイス2の移動量をXdとすると(但し、上向きを正とする)、該移動量Xdは、次式(33)のように前記式(19)により与えられる値の符号を逆にした値として設定すればよい。
【0212】
【数33】
Figure 0004605847
【0213】
そして、他の下パンチ4a,5aの加圧工程中の下パンチ3aに対する移動量は、それぞれ前記式(23),(25)により求まる値から、上記式(33)により設定される移動量Xdの値を減算した値に設定すればよい。同様に、第1及び第2の実施形態に係わる上パンチ3a〜5cの加圧工程中の下パンチ3aに対する移動量は、それぞれ、前記式(20),(24),(26)により求まる値から、上記式(33)により設定される移動量Xdの値を減算した値に設定すればよい。また、第3及び第4の実施形態に係わる上パンチ15の加圧工程中の下パンチ3aに対する移動量は、前記式(20),(24),(26)のいずれか一つの右辺の演算により求まる値から、上記式(33)により設定される移動量Xdの値を減算した値に設定すればよい。
【0214】
上記のことは、他の下パンチ4a,5aのいずれかを固定して材料粉末12の加圧・圧縮を行う場合についても同様である。
【0215】
また、前述の第1及び第2の実施形態では、組パンチ3〜5を三組備えた場合を例にとって説明したが、上下パンチの組数は、製造しようとする粉末成形体の形状等によって二組、あるいは四組以上としてもよいことはもちろんであり、そのいずれの場合についても本発明を前述の実施形態と同様に適用することができる。同様に、前記第3及び第4の実施形態に関しては、下パンチの個数が2個、あるいは4個以上の場合でも本発明を適用することができることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の基本的原理を説明するための説明図。
【図2】本発明の第1の実施形態で製造する粉末成形体の斜視図及び縦断面図。
【図3】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図4】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図5】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図6】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図7】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図8】図2の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図9】図2の粉末成形体を製造方法における各パンチの移動量と材料粉末の加圧開始時における各パンチの位置とを設定する手法を説明するための説明図。
【図10】本発明の第2の実施形態で製造する粉末成形体の縦断面図。
【図11】図10の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図12】図10の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図13】図10の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図14】図10の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図15】図10の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図16】本発明の第3の実施形態で製造する粉末成形体の斜視図及び縦断面図。
【図17】図16の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【図18】本発明の第4の実施形態で製造する粉末成形体の縦断面図。
【図19】図18の粉末成形体を製造方法を説明するための説明的断面図。
【符号の説明】
1…ダイ孔、2…ダイス、3a〜5a…下パンチ、3b〜5b,15,16…上パンチ、6,7…ピン挿入穴、8,14…横穴形成ピン、9…対向ピン、10…粉末排出穴、11…キャビティ、12…材料粉末、50,60,70,80…粉末成形体,54,64,74,84…横穴。

Claims (11)

  1. ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、各下パンチにそれぞれ対向して該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成する複数の上パンチとを備えた装置を用い、互いに対向する各組の下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内に粉末成形体を得る多段成形製造方法において、
    前記各組の両パンチ間の前記材料粉末のうち、当該両パンチによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が全ての組の両パンチ間の材料粉末について同一水平面上に並ぶように各組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各組の両パンチによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
    前記粉末成形体は貫通横穴を有する粉末成形体であって、前記ダイスには、少なくとも前記各組の両パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送したときに前記キャビティに先端部が臨む横穴形成ピンと該横穴形成ピンに対向して前記キャビティに先端部が臨む対向ピンとがそれぞれ前記ダイスに横方向に延在して形成されたピン挿入穴に移動可能に挿入されて搭載されており、
    前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位の位置を前記横穴形成ピンの中心軸上の位置に定められており、
    前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記初期位置に移送する工程と、前記各組の両パンチの前記初期位置への移送後、少なくとも前記加圧工程の終了前に、前記粉末成形体に前記貫通横穴を形成すべく前記横穴形成ピンを前記対向ピンに向かって前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させると共に該横穴形成ピンの前進に同期させて前記対向ピンを該キャビティ側から後退させることにより両ピン間の前記粉末材料を前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出す工程と、前記横穴形成ピンが前記キャビティを貫通した状態を前記加圧工程が終了するまで保持する工程とを備え、
    前記加圧工程は、前記各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各組の下パンチ及び上パンチの組番号をk(kは、下パンチ及び上パンチの総組数以下の自然数)、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk,Ykとしたとき、前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Ykは、それぞれ次式(1),(2)によりあらかじめ設定されていることを特徴とする粉末成形体の多段成形製造方法。
    Figure 0004605847
    Figure 0004605847
    但し、式(1),(2)において、前記移動量Xk,Ykは上向きを正方向とする。また、式(1),(2)において、Rk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における該下パンチの上面から両パンチ間の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の終了時における両パンチ間の上下方向の間隔に対する割合を百分率で表したもの、Fk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の開始時における両パンチ間の材料粉末の深さ、Hk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における両パンチ間の間隔。
  2. 前記加圧工程の開始時から終了時までの間に、前記各組の下パンチ及び上パンチの前記ダイスに対する移動を一時的に停止して両パンチ間の前記材料粉末の加圧・圧縮を中断する工程を備え、
    前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させる工程は、前記加圧・圧縮の中断中に行うことを特徴とする請求項1記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  3. 前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させた際に、前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出された前記材料粉末を、該対向ピン側のピン挿入穴を前記ダイスの外部に連通させて該ダイスに設けた粉末排出穴を介して該ダイスの外部に排出する工程を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  4. ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成すると共に平坦な下端面を有する上パンチとを備えた装置を用い、前記各下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内に粉末成形体を得る多段成形製造方法において、
    前記各下パンチの上方に存する材料粉末のうち、各下パンチと前記上パンチとによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が全ての下パンチの上方に存する材料粉末について同一水平面上に並ぶように各下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各下パンチと前記上パンチとによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
    前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程とを備え、
    前記加圧工程は、前記各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とし且つ、各下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各下パンチの番号をk(kは、下パンチの総数以下の自然数)、前記加圧工程における第k番の下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk、mを任意の一つの下パンチの番数、前記加圧工程における前記上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をYとしたとき、前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Yは、それぞれ次式(3),(4)によりあらかじめ設定されていることを特徴とする粉末成形体の多段成形製造方法。
    Figure 0004605847
    Figure 0004605847
    但し、式(3),(4)において、前記移動量Xk,Yは上向きを正方向とする。また、式(3),(4)において、Rk:第k番の下パンチと上パンチとによる加圧工程の終了時における該下パンチの上面から該下パンチの上方の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の終了時における当該第k番の下パンチと上パンチとの間隔に対する割合を百分率で表したもの、Fk:第k番の下パンチと上パンチとによる加圧工程の開始時における該下パンチの上方の材料粉末の深さ、Hk:第k番の下パンチと上パンチとによる加圧工程の終了時における当該両パンチ間の間隔。
  5. 前記粉末成形体は貫通横穴を有する粉末成形体であって、
    前記ダイスには、少なくとも前記各下パンチと前記上パンチとを前記ダイスに対する前記初期位置に移送したときに前記キャビティに先端部が臨む横穴形成ピンと該横穴形成ピンに対向して前記キャビティに先端部が臨む対向ピンとがそれぞれ前記ダイスに横方向に延在して形成されたピン挿入穴に移動可能に挿入されて搭載されており、
    前記各下パンチ及び前記上パンチの前記初期位置への移送後、少なくとも前記加圧工程の終了前に、前記粉末成形体に前記貫通横穴を形成すべく前記横穴形成ピンを前記対向ピンに向かって前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させると共に該横穴形成ピンの前進に同期させて前記対向ピンを該キャビティ側から後退させることにより両ピン間の前記粉末材料を前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出す工程と、前記横穴形成ピンが前記キャビティを貫通した状態を前記加圧工程が終了するまで保持する工程とを備え、
    前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位の位置を前記横穴形成ピンの中心軸上の位置に定めたことを特徴とする請求項4記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  6. 前記加圧工程の開始時から終了時までの間に、前記各下パンチ及び上パンチの前記ダイスに対する移動を一時的に停止して各下パンチ及び上パンチ間の前記材料粉末の加圧・圧縮を中断する工程を備え、
    前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させる工程は、前記加圧・圧縮の中断中に行うことを特徴とする請求項5記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  7. 前記対向ピンを後退させつつ前記横穴形成ピンを前記キャビティ内に前進させて該キャビティを貫通させた際に、前記対向ピン側の前記ピン挿入穴内に前記キャビティから押し出された前記材料粉末を、該対向ピン側のピン挿入穴を前記ダイスの外部に連通させて該ダイスに設けた粉末排出穴を介して該ダイスの外部に排出する工程を備えたことを特徴とする請求項5又は6記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  8. ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、各下パンチにそれぞれ対向して該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成する複数の上パンチと、該キャビティに向かって横方向に進退可能に前記ダイスに搭載された横穴形成ピンとを備えた装置を用い、前記横穴形成ピンをその先端が前記キャビティ内に存するようにして該キャビティ内に挿入した状態で、互いに対向する各組の下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内にめくら穴状の横穴を有する粉末成形体を得る多段成形製造方法において、
    前記下パンチ及び上パンチの各組のうち、両パンチが前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの上下に該横穴形成ピンに対向して存する組を特定組とすると共に、前記各組の両パンチ間の前記材料粉末のうち、当該両パンチによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が、少なくとも全ての前記特定組の両パンチ間の材料粉末について前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各特定組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各特定組の両パンチ間による材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
    前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記複数の上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各組の下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ該両パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各組の両パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程と、少なくとも前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程の開始前に前記横穴形成ピンを該キャビティに挿入し、その挿入状態を該加圧工程中に維持する工程とを備え、
    前記加圧工程は、少なくとも前記各特定組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として、各組の下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各特定組の下パンチ及び上パンチの組番号をk(kは、下パンチ及び上パンチの総組数以下の自然数)、前記加圧工程における第k組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk,Ykとしたとき、該各特定組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が該加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Ykは、それぞれ次式(5),(6)によりあらかじめ設定されていることを特徴とする粉末成形体の多段成形製造方法。
    Figure 0004605847
    Figure 0004605847
    但し、式(5),(6)において、前記移動量Xk,Ykは上向きを正方向とする。また、式(5),(6)において、Rk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における該下パンチの上面から両パンチ間の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の終了時における両パンチ間の上下方向の間隔に対する割合を百分率で表したもの、Fk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の開始時における両パンチ間の材料粉末の深さ、Hk:第k組の下パンチ及び上パンチによる加圧工程の終了時における両パンチ間の間隔。
  9. 前記特定組を含む全ての組の両パンチについて、前記加圧工程中における各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として各組の両パンチによる前記材料粉末の加圧・圧縮を行うと共に、
    前記特定組を含む全ての組の両パンチ間の材料粉末について前記ニュートラル部位が前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各組の両パンチ間の材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各組の両パンチ間の材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように、各組の下パンチ及び上パンチのそれぞれの該加圧工程における前記ダイスに対する相対的な移動量をあらかじめ設定したことを特徴とする請求項8記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
  10. ダイ孔を上下方向に備えるダイスと、該ダイスのダイ孔にその下方から挿入される複数の下パンチと、該ダイ孔にその上方から挿入され、前記複数の下パンチとの間に材料粉末が充填されるキャビティを形成すると共に平坦な下端面を有する上パンチと、該キャビティに向かって横方向に進退可能に前記ダイスに搭載された横穴形成ピンとを備えた装置を用い、前記横穴形成ピンをその先端が前記キャビティ内に存するようにして該キャビティ内に挿入した状態で、前記各下パンチと上パンチとの間で前記材料粉末を上下方向に加圧・圧縮することにより前記キャビティ内にめくら穴状の横穴を有する粉末成形体を得る多段成形製造方法において、
    前記複数の下パンチのうち、前記キャビティに挿入された横穴形成ピンの下方に該横穴形成ピンに対向して存する下パンチを特定下パンチとすると共に、前記各下パンチの上方に存する前記材料粉末のうち、当該下パンチと前記上パンチとによる該材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるべき部位をニュートラル部位とし、該ニュートラル部位が、少なくとも全ての前記特定下パンチの上方に存する材料粉末について前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各特定下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各特定下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように各特定下パンチと前記上パンチとによる材料粉末の加圧・圧縮を行う多段成形製造方法であり、
    前記複数の下パンチを挿入した前記ダイ孔内に、各下パンチの上方に存する材料粉末の深さがそれぞれあらかじめ定めた所定量となるように該材料粉末を充填する工程と、前記上パンチを前記ダイ孔にその上方から挿入して該ダイ孔内の材料粉末に接触させ、該材料粉末が非加圧状態で密封された前記キャビティを該ダイ孔内に形成する工程と、該材料粉末の非加圧状態での前記各下パンチ及び上パンチの間隔を維持しつつ各下パンチ及び上パンチをダイ孔内で前記ダイスに対して相対的に上下方向に移動させ、各下パンチ及び上パンチを前記材料粉末の加圧・圧縮の開始時における前記ダイスに対する相対的な初期位置としてあらかじめ定めた位置に移送する工程と、少なくとも前記キャビティ内の材料粉末の加圧・圧縮を行う加圧工程の開始前に前記横穴形成ピンを該キャビティに挿入し、その挿入状態を該加圧工程中に維持する工程とを備え、
    前記加圧工程は、少なくとも前記各特定下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定とし且つ、各特定下パンチの上方に存する材料粉末の前記加圧工程における圧縮比を全ての特定下パンチについて同一として、各下パンチ及び上パンチをそれぞれ前記初期位置から前記ダイスに対して相対的に上動、下動させることにより行うと共に、前記各特定下パンチの番号をk(kは、下パンチの総数以下の自然数)、前記加圧工程における第k番の特定下パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をXk、mを任意の一つの特定下パンチの番数、前記加圧工程における前記上パンチの前記ダイスに対する相対的な移動量をYとしたとき、前記各特定下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるようにするために、該移動量Xk,Yは、それぞれ次式(7),(8)によりあらかじめ設定されていることを特徴とする粉末成形体の多段成形製造方法。
    Figure 0004605847
    Figure 0004605847
    但し、式(7),(8)において、前記移動量Xk,Yは上向きを正方向とする。また、式(7),(8)において、Rk:第k番の特定下パンチと上パンチとによる加圧工程の終了時における該下パンチの上面から該下パンチの上方の材料粉末の前記ニュートラル部位までの間隔の、該加圧工程の終了時における当該第k番の特定下パンチと上パンチとの間隔に対する割合を百分率で表したもの、Fk:第k番の特定下パンチと上パンチとによる加圧工程の開始時における該特定下パンチの上方の材料粉末の深さ、Hk:第k番の特定下パンチと上パンチとによる加圧工程の終了時における当該両パンチ間の間隔。
  11. 前記特定下パンチを含む全ての下パンチについて、前記加圧工程中における各下パンチ及び上パンチのそれぞれの前記ダイスに対する相対的な移動速度の比率を一定として各下パンチと上パンチとにによる前記材料粉末の加圧・圧縮を行うと共に、
    前記特定下パンチを含む全ての下パンチの上方に存する材料粉末について前記ニュートラル部位が前記横穴形成ピンの中心軸上に存するように各下パンチの上方に存する材料粉末における該ニュートラル部位の位置をあらかじめ定めておき、
    前記各下パンチの上方に存する材料粉末における前記ニュートラル部位が前記加圧工程中に前記ダイスに対して上下方向に不動となるように、各下パンチ及び上パンチのそれぞれの該加圧工程における前記ダイスに対する相対的な移動量をあらかじめ設定したことを特徴とする請求項10記載の粉末成形体の多段成形製造方法。
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