JP4604917B2 - 780MPa級高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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PSR=Cr+2Mo+Cu+10V+7Nb+5Ti-2 ・・・・・(2)
すなわち、(1)式または(2)式で表されるSR割れ感受性指数が、負になるような化学成分の組合せを選択すれば、SR割れを防止できるとされている。
しかしながら、従来、C量を低くした溶接性に優れる成分系で、耐SR割れ特性と780MPa以上の引張強さを両立することは困難な場合が多かった。
780MPa級高張力鋼における耐SR割れ特性の改善策としては、例えば、特許文献1が提案されている。
(a)従来のSR割れ感受性指数ΔG、PSRの大小だけでは、高加工性780MPa級高張力鋼のSR割れを整理できないこと、
(b)Nb添加は、微量であってもSR割れ感受性を高めること、
(c)Ca添加により、SR割れは大幅に改善されること、
(d)Mo、V、Ti添加はSR割れ感受性を高めること、
等の知見に基づいて本発明を完成させたものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
成分の限定理由について説明する。なお、成分における各元素の含有量は、全て質量%を意味する。
Cは、高張力鋼板としての母材強度確保に必要な元素である。0.065%未満では焼入性が低下し、強度確保のために、Cu、Ni、Cr、Moなどの焼入性向上元素の多量添加が必要となり、コスト高と、溶接性の低下とを招く。また、0.15%を超える添加は溶接性を著しく低下させることに加え、溶接継手部の靭性低下を招く。従って、C量は0.065〜0.15%の範囲とする。
Siは、母材強度および溶接継手強度を確保する上で有効であるので、0.10%以上添加することとした。しかし、0.50%を超える多量の添加は、溶接性の低下と溶接継手靭性の低下を招くので、Si量は0.10〜0.50%の範囲とする。
Mnは、母材強度および溶接継手強度を確保する上で有効に働くので、0.5%以上添加することとした。しかし、1.4%を超える添加は、溶接性を低下させ、焼入性の過剰を招き、母材靭性および溶接継手靭性を低下させるため、Mn量は0.5〜1.4%の範囲とする。
不純物元素であるPは、0.02%を超えると、母材靭性および溶接部靭性を低下させるので、P量は、0.02%以下とする。
耐SR割れ特性に対しては、Sの低減は重要である。Caを0.0005〜0.0050%の範囲で添加することにより固溶Sが低減し、SR割れの発生が抑制できる。Sが0.005%を超えると、固溶S量を低減するために多量のCaが必要となるが、これにより介在物が増加し、鋼板の清浄度が低下し、靭性低下の原因となるので、S量は0.005%以下、Ca量は0.0005〜0.0050%の範囲とする。好ましくは、S量は0.004%以下に抑え、Ca量は0.0010〜0.0040%とする。
Cu添加により、焼入性が向上し、母材強度は向上する。また、比較的緩やかなH2S環境では、0.15%以上の添加により水素吸収量が減少するため、SSCの抑制に効果がある。しかし、0.5%を超える添加は、母材および溶接部靭性を低下させるほか、熱間延性も低下させる。従って、Cu量は0.15%〜0.5%の範囲とする。
Ni添加は耐SSC特性を低下させる可能性が非常に高いため、Niは無添加とする。なお、不可避的混入レベルは、0.030%以下である。
Crは、焼入性を高め、強度確保のために有効な元素であり、0.10%以上の添加が必要であるが、0.80%を超える添加は溶接性を低下させ、さらにSR割れの原因となる。従って、Cr量は0.10〜0.80%の範囲とする。
Moは、焼入性の向上と析出物形成による強度確保に有効な元素であり、0.05%以上の添加が必要であるが、0.50%を超える添加は溶接性を低下させ、さらに過剰な焼入れとなる。従って、Mo量は、0.05〜0.50%の範囲とする。
Vは、母材強度を確保する上で有効に働くので、0.005%以上の添加が必要であるが、0.06%を超える添加は溶接性を低下させる。従って、V量は、0.005〜0.06%の範囲とする。
Tiは、ミクロ組織の細粒化に寄与する元素であり、0.005%以上の添加が必要であるが、0.025%を超える添加は母材靭性を低下させる。従って、Ti量は0.005〜0.025%の範囲とする。
SR割れは、溶接時の熱サイクルを受けるとボンド近傍でMo、V、Tiが再固溶し、SR時に粒内に微細に析出し、粒内強化を起こす。そのため、析出強化元素であるMo、V、Ti、Nbの添加量を制御する必要がある。Nb添加鋼では微量添加(例えば0.006%)であってもSR割れが発生することが明らかとなったことから、Nbは無添加とする。なお、Nbの不可避的混入レベルは、0.005%以下である。Mo、V、Tiは、NbほどSR割れに対して悪影響を及ぼさないが、本発明の成分系においては、Mo+2.9V+2Tiが0.5%を超えると、耐SR割れ特性が低下することがわかった。従って、Mo+2.9V+2Tiは0.5%以下とする。
Bは、焼入性の向上のために添加する。0.0005%以上のごく微量の添加で焼入性を高める効果が得られるが、0.003%を超えて添加すると、BNを形成し、逆に焼入性の低下がおこり、また、溶接熱影響部が著しく硬化する。従って、B量は、0.0005〜0.003%の範囲とする。
Alは、鋼の脱酸剤として0.005%以上添加することとした。また、好ましくは、結晶粒の微細化による母材靭性確保のために、0.01%程度添加するのが良い。しかし、0.1%を超えて添加すると、母材靭性が低下する。従ってAl量は、0.005〜0.1%の範囲とする。
Nは、Alと反応して析出物を形成することで、結晶粒を微細化し、母材靭性を向上させる効果があるため添加する。0.0005%未満の添加では、結晶粒の微細化および強度確保に必要な析出物が形成されず、0.005%を超える添加は、むしろ母材および溶接部の靭性を低下させる。従って、N量は、0.0005〜0.005%の範囲とする。
スラブ加熱温度:1000℃以上、1300℃以下
スラブ加熱温度は、鋼中の成分を均一化し、Mo、Vなどの析出強化元素を固溶させるため、1000℃以上とする。好ましくは1050℃以上を確保する必要がある。加熱温度が高過ぎると、結晶粒が粗大化し、母材の靭性低下を招く恐れがあるため、1300℃以下とする。好ましくは1200℃以下である。
直接焼入れ温度をAr3変態点以上とするのは、母材強度および母材靭性確保のためである。
焼戻し温度は、780MPa級高張力鋼板において、適正な母材の強度と靭性を得るために、板厚方向の平均温度が580℃以上、Ac1変態点以下の温度で行う。尚、板厚方向の平均温度は、板厚、表面温度および冷却条件等から、シミュレーション計算等により求められるものを用いることができる。例えば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を平均化することにより得られた温度を平均温度とすることができる。
ガス燃焼式の加熱炉によるオフラインでの焼戻し処理の代わりに、例えば、図1に示すように、熱間圧延ライン上や厚板圧延ライン上に設置した、誘導加熱装置で焼戻し処理を行ってもよい。図1中、10は、誘導加熱装置、30は、テーブルローラである。誘導加熱装置で焼戻し処理を行う場合は、鋼板表面の最高到達温度は、Ac1変態点以下とする加熱処理条件で行うこととする。
さらに、オンラインでの加熱の場合、その方式は誘導加熱によるものに限る必要はなく、図2に示すように、被圧延材である鋼板1の幅方向に列設したバーナのバーナ炎2により、鋼板1の表面を加熱する方法等も用いることができる。
母材の機械的特性は、板厚の1/4t部より丸棒引張試験片およびシャルピー衝撃試験片を採取し、それぞれ試験に供した。また、SR割れ試験は、y形溶接割れ試験片(JIS Z 3158)を用い、600℃で3時間のSR処理を行い、試験片断面に発生した割れ率(断面割れ率)を測定した。
No.9(鋼I)は、Sが発明の範囲の上限を超えており、SR割れが発生した。また、他の実施例に比べて母材靭性は低めである。
No.10(鋼J)は、ΔGとPSRは、共に負であるが、Mo+2.9V+2Tiが0.50%を超えているために、SR割れが発生している。
No.12(鋼L)は、Mo+2.9V+2Tiが0.50%を超えているため、SR割れが発生した。
No.13(鋼M)、No.14(鋼N)は、Mo+2.9V+2Tiは0.50%以内であるものの、Nb添加したために、SR割れが発生した。
2 バーナ炎
10 誘導加熱装置
30 テーブルローラ
Claims (4)
- 質量%で、C:0.065〜0.15%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.5〜1.4%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cu:0.15〜0.5%、Cr:0.10〜0.80%、Mo:0.05〜0.50%、Ca:0.0005〜0.0050%、Ti:0.005〜0.025%、B:0.0005〜0.003%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.005%を含有し、かつMo+2.9V+2Ti≦0.5%の関係を満足し、残部がFeおよび不可避不純物よりなることを特徴とする靭性および耐SR割れ特性に優れた引張強さが780MPa以上の高張力鋼板。
- 質量%で、C:0.065〜0.15%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.5〜1.4%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cu:0.15〜0.5%、Cr:0.10〜0.80%、Mo:0.05〜0.50%、V:0.005〜0.06%、Ca:0.0005〜0.0050%、Ti:0.005〜0.025%、B:0.0005〜0.003%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.005%を含有し、かつMo+2.9V+2Ti≦0.5%の関係を満足し、残部がFeおよび不可避不純物よりなることを特徴とする靭性および耐SR割れ特性に優れた引張強さが780MPa以上の高張力鋼板。
- 請求項1または請求項2に記載の成分の鋼片を、1000℃以上1300℃以下の温度に加熱し、製品板厚まで熱間圧延して鋼板とした後に、鋼板の板厚方向平均温度がAr3変態点以上の温度から直接焼入れ処理を行い、その後、板厚方向平均温度が580℃以上、Ac1変態点以下の温度に焼戻し処理することを特徴とする靭性および耐SR割れ特性に優れた引張強さが780MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
- 誘導加熱装置を用いて、鋼板表面の最高到達温度がAc1変態点以下の温度に、急速加熱して、焼戻し処理することを特徴とする請求項3に記載の靭性および耐SR割れ特性に優れた引張強さが780MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
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