JP4601845B2 - 装飾部品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、装飾部品およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、いわゆる「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する装飾部品たとえば時計外装部品、およびその製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
装飾部品(装飾品(完成品)を含む)、特に腕時計、ブレスレット、ネックレス、あるいは指輪などの装身具には、ステンレス鋼、チタン、チタン合金などの金属が多用される。たとえば、腕時計における腕時計バンド、ベゼル、ケーシング、裏蓋、文字板などの時計外装部品には、特に耐食性と装飾性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼が多く用いられる。装飾部品たとえば腕時計バンドの製造方法の一例を挙げると、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材より成る板材に冷間鍛造、さらには任意に切削加工や孔開け加工を施し、腕時計バンドの駒の形状に仕上げる。そして、このようにして得られる駒と駒とを連結して腕時計バンドを完成させる。
【0003】
近年、かかるオーステナイト系ステンレス鋼の優れた耐食性を維持したまま、そのステンレス鋼表面を硬質化させる技術が試みられている。たとえば特開平9−71854号公報、特開平9−268364号公報および特開平9−302456号公報には、オーステナイト系ステンレス鋼に、フッ素系ガス雰囲気下で300〜500℃というような低温でフッ化処理を施して上記不動態皮膜を炭素原子の浸透が容易なフッ化皮膜に変化させ、その後、浸炭性ガス雰囲気下で400〜500℃というような低温でオーステナイト系ステンレス鋼にガス浸炭処理を施し、さらに酸洗処理または機械的研磨(たとえばバレル研磨)を施す技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記のようにガス浸炭処理された時計外装部品たとえば駒の表面は、研磨したにもかかわらず、時計外装に必要とされる美しい鏡面とはならなず、微細な凹凸が存在する「ゆず肌(オレンジピール)」として観察される。ゆず肌は、装飾部品である腕時計バンドの装飾的価値を著しく損なう。
このゆず肌は、ガス浸炭処理によって、ステンレス鋼の表面の金属結晶粒内へ、該結晶粒界よりも多くの炭素が拡散固溶されることに原因があると考えられる。すなわち、炭素が粒状に形成された金属結晶粒内に浸透すると、金属結晶粒内に高い歪みが生じて、外方に向けて膨出するため、結晶粒と結晶粒界との間に段差が生じる。ステンレス鋼の表面から見れば、結晶粒は結晶粒界より高くなる。
これらの段差が表面の微細な凹凸として観察される。
【0005】
かかる結晶粒と結晶粒界との段差は、ガス浸炭処理後の一連の処理、すなわち酸洗処理や機械的な研磨を経ても無くならない。なぜならばガス浸炭処理により形成された硬化層が硬質であるため、機械的な研磨では、その表面の微細な段差を小さくすることはできても、完全に取り除くことができないからである。その結果、結晶粒がステンレス鋼の表面から浮き出て視認されやすく、浮き出た多くの結晶粒がステンレス鋼表面の微細な凹凸、すなわち「ゆず肌」として観察されるのである。
【0006】
したがって、表面に炭素原子を固溶させて硬化層(浸炭層)を形成したオーステナイト系ステンレス鋼からなる装飾部品であって、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する、外観に優れた装飾部品およびその製造方法の出現が望まれている。
【0007】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、表面に炭素原子を固溶させて硬化層(浸炭層)を形成したオーステナイト系ステンレス鋼からなる装飾部品であって、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する、外観に優れた装飾部品およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
【発明の概要】
本発明に係る装飾部品は、
結晶粒の平均粒径が100μm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、該ステンレス鋼表面に炭素原子が固溶された硬化層が形成されていることを特徴としている。
【0009】
前記硬化層中に、粗大クロム炭化物粒子が存在しないことが耐食性の面から好ましい。
前記硬化層は、オーステナイト系ステンレス鋼表面から5〜50μmの深さにわたって形成されていることが好ましい。
前記硬化層の表面硬度は、ビッカース硬さ(HV;50g荷重)で500以上であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る装飾部品の製造方法は、
オーステナイト系ステンレス鋼に、加工率(断面減少率)30〜70%の条件で冷間加工を施して、所望の装飾部品の形状に仕上げ、
次いで、該部品に、800〜1200℃で1〜30分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施し、
次いで、該部品に、フッ素系ガス雰囲気下に250〜500℃でフッ化処理を施し、
次いで、該部品を、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下に400〜550℃でガス浸炭処理を施し、
次いで、該部品に酸洗処理を施した後、水洗処理を施す
ことを特徴としている。
【0011】
この製造方法によれば、ゆず肌のない滑らから表面を有する装飾部品が得られる。
また、前記水洗処理後に、該部品の表面をバレル研磨することにより、ゆず肌のない鏡面仕上げの装飾部品を得ることができる。
前記ガス浸炭処理により装飾部品のオーステナイト系ステンレス鋼表面に、表面から5〜50μmの深さにわたって硬化層が形成されていることが好ましい。
【0012】
前記ガス浸炭処理により装飾部品のオーステナイト系ステンレス鋼表面に形成された硬化層中に、粗大クロム炭化物粒子が存在しないことが耐食性の面から好ましい。
また、前記硬化層の表面硬度がビッカース硬さ(HV;50g荷重)で500以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る装飾部品の製造方法により得られた装飾部品を形成しているオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、通常100μm以下である。
【0014】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係る装飾部品およびその製造方法について具体的に説明する。
装飾部品
本発明に係る装飾部品は、結晶粒の平均粒径が100μm以下のオーステナイト系ステンレス鋼からなり、このステンレス鋼表面に炭素原子が固溶された硬化層(浸炭層)が形成されている。この装飾部品には、ゆず肌が観察されず、滑らかな面ないし鏡面を有している。
【0015】
本願発明者らは、炭素原子を固溶させて硬化層を形成した硬化処理後に、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒が細粒であれば、硬化層における結晶粒と結晶粒界の段差が目立たず、硬化層の表面が平滑に視認されることを見出し、さらにその結晶粒の大きさについて鋭意研究した。その結果、装飾部品、たとえば腕時計バンドとしての美観を保つに充分な平滑さを、浸炭処理(硬化処理)後におけるオーステナイト系ステンレス鋼表面に得るためには、浸炭処理後におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径が少なくとも100μm以下であればよいことを見出した。この浸炭処理後におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径が小さければ小さいほど、ステンレス鋼表面は平滑に視認される。本発明で採用する低温下でのガス浸炭処理では、処理前後で結晶粒の粒径が殆ど変わらないことが判明した。因みに従来の浸炭処理後のオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は約500〜1000μm程度であった。
【0016】
本発明において、上記したように、ガス浸炭処理後に研磨処理たとえばバレル研磨を施せば、硬化層表面はさらに平滑になり、美しい鏡面を呈する。
このようなオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、たとえば顕微鏡で拡大して観察すれば容易に調べることができる。表面における結晶粒が観察しにくい場合には、装飾部品、たとえば腕時計バンドの駒の断面を顕微鏡で拡大して観察すればよい。この場合、硬化層における結晶粒の平均粒径ばかりか、硬化層が形成されていない金属内部の結晶粒の平均粒径をも調べることができる。
【0017】
装飾部品の製造方法
(冷間加工および溶体化処理)
上記のような本発明に係る装飾部品の製造方法では、まずオーステナイト系ステンレス鋼に、加工率(断面減少率)30〜70%の条件で冷間加工を施して、所望の装飾部品の形状に仕上げた後、この部品に、800〜1200℃で1〜30分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施す。
【0018】
本発明で採用するガス浸炭処理は、オーステナイト系ステンレス鋼が再結晶する温度領域まで達しない400〜550℃の範囲、たとえば480℃近傍の低温領域で行なわれる。したがって、このガス浸炭処理によって、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒と結晶粒界の段差は大きくなっても、浸炭処理の前後で結晶粒の平均粒径はほぼ変わらないため、炭素原子を固溶させて硬化層を形成する浸炭処理前に、予めオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒を細粒化しておけば、浸炭処理後においてもその細粒化した結晶粒の大きさを保持することができる。
【0019】
たとえば、上記にしたように、オーステナイト系ステンレス鋼に冷間鍛造、切削加工、孔開け加工などを施して、腕時計バンドの駒を所望の形状に仕上げるが、この駒におけるオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径を、上記した範囲の大きさの細粒に制御すると、ガス浸炭処理後も、結晶粒の大きさは浸炭処理前の結晶粒の大きさと同じく細粒のままなので、浸炭層(硬化層)を細粒化されたオーステナイト系ステンレス鋼の表面に形成することができる。
【0020】
本発明に係る装飾部品の製造方法では、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒を細粒化させる手段としては、冷間加工(たとえば冷間プレス加工、冷間圧延加工)と溶体化処理(solution treatment)との組み合わせが好ましい。
たとえば、オーステナイト系ステンレス鋼に、大きな加工率(断面減少率)をもって冷間プレス加工を施して、所望の装飾部品の形状に仕上げる。
【0021】
次いで、かかる部品に、溶体化処理を施す。すなわち、この部品を800〜1200℃で5〜25分間加熱処理を行ない、その後に急冷する。このような溶体化処理を部品に施すと、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶組識が再結晶することにより、冷間プレス加工によってステンレス鋼に与えられた大きな加工歪みが除去されて軟化するとととに、ステンレス鋼の結晶粒が細粒化される。
【0022】
本発明においては、上記の冷間プレス加工に代わりに、オーステナイト系ステンレス鋼に冷間圧延加工を施してもよい。また、冷間プレス加工を複数回繰り返してもよいし、冷間圧延加工を複数回繰り返してもよい。あるいは、少なくとも1回の冷間圧延加工と少なくとも1回の冷間プレス加工とを組み合わせてもよい。
このように、少なくとも1種類の冷間加工をオーステナイト系ステンレス鋼に複数回施す場合は、それぞれの冷間加工の後に、ステンレス鋼を溶体化処理することが好ましい。この溶体化処理を省くと、ステンレス鋼の結晶粒の大きさを細粒に制御できないばかりか、次に施される冷間加工における、ステンレス鋼の加工性が悪くなる。
【0023】
これらの一連の細粒化処理は容易に行なうことができるため、処理費用が安価ですむ。したがって、かかる細粒化処理を採用すれば、経済的に有利である。
なお、高温で行なわれる熱間加工あるいは温間加工では、オーステナイト系ステンレス鋼に、その結晶粒が細粒化するに足るほどの加工歪みを与えることができないので、結晶粒を細粒化することはできない。また、加熱処理の後に、オーステナイト系ステンレス鋼を徐々に冷却する徐冷を施しても、ステンレス鋼の結晶粒を細粒化することはできない。
【0024】
また、ガス浸炭処理後に、結晶粒が上記した範囲の大きさの細粒に制御されたオーステナイト系ステンレス鋼を得るためには、冷間加工の加工率は、30%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは70%以上である。この加工率の上限は約70%、好ましくは約65%程度である。
この加工率が30%より下がると、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒を上記した範囲に細粒化するに足る大きな加工歪みをステンレス鋼に与えることができないので、上記した範囲の細粒をオーステナイト系ステンレス鋼に得ることが困難である。一般に、加工率が70%を超えると加工負荷が大きくなりすぎるので、経済的に不利である。したがって、冷間加工の加工率は、30〜70%、好ましくは40〜65%、さらに好ましくは50〜65%、最も好ましくは55〜65%の範囲内であることが望ましい。
【0025】
本発明においては、加工率30〜70%の冷間加工を複数回繰り返してオーステナイト系ステンレス鋼に施してもよい。
上記溶体化処理における処理温度が高すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒が粗大化する。逆に、この処理温度が低すぎても、充分な軟化効果が得られず、かつ結晶粒が充分に細粒化されない。したがって、これらのことを考慮すると、溶体化処理における処理温度は、800〜1200℃、好ましくは900〜1150℃が望ましい。
【0026】
また、溶体化処理における加熱処理時間が長すぎると、逆にオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒が粗大化する。逆に、この加熱処理時間が短すぎても、再結晶されず、結晶粒が充分に細粒化されない。したがって、これらのことを考慮すると、溶体化処理におけるの加熱処理時間は、5〜25分であることが好ましい。
【0027】
溶体化処理における処理温度が高ければ加熱処理時間を短く設定することが好ましく、処理温度が低ければ加熱処理時間を長く設定することができる。したがって、たとえば溶体化処理における処理温度が800℃であるならば、加熱処理時間は25分以下、また溶体化処理における処理温度が900℃であるならば、加熱処理時間は15分以下であることが好ましい。また、溶体化処理における処理温度が1000℃であるならば、加熱処理時間は5分以下であることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる装飾部品の基材としてのオーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト系、あるいはフェライト系ステンレス鋼などの他のステンレス鋼より、耐食性に優れているため、装飾部品(完成品も含む)、特に身に付ける装身具の素材として好ましい。特に、オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト系、あるいはフェライト系ステンレス鋼などの他のステンレス鋼に比べて、炭素原子の固溶が容易であるため、浸炭処理によって硬化層を形成するには有利である。
【0029】
オーステナイト系ステンレス鋼の中では、SUS316系、特にSUS316L材が、浸炭処理後、あるいはそれに続く研磨処理後の表面が、最も平滑になるので好ましい。
(フッ化処理)
次に、上記のようにして冷間加工と溶体化処理が施された部品に、フッ化処理を施す。
【0030】
このフッ化処理は、フッ素系ガス雰囲気下に250〜500℃、好ましくは300〜500℃の条件で行なわれる。
このフッ化処理に際して用いられるフッ化系ガスとしては、具体的には、NF3、CF4、SF4、C26、BF3、CHF3、HF、SF6、WF6、SiF4、ClF3などのフッ素系化合物ガスが挙げられる。これらのフッ化系ガスは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、これらのガス以外に、分子内にフッ素を含む他のフッ素系ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。さらにまた、このようなフッ素化合物ガスを熱分解装置で熱分解させて生成させたF2ガス、あるいは予め調製したF2ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素化合物ガスとF2ガスとは、任意に混合して用いられる。
【0032】
上記フッ素化合物ガス、F2ガス等のフッ素系ガスは、それぞれ1種単独で用いることもできるが、通常は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されて使用される。このような希釈されたガスにおけるフッ素系ガス自身の濃度は、通常10,000〜100,000容量ppm、好ましくは20,000〜70,000容量ppm、さらに好ましくは30,000〜50,000容量ppmである。本発明で最も好ましく用いられるフッ素系ガスは、NF3である。NF3は、常温でガス状であり、化学的安定性が高く、取り扱いが容易である。このNF3ガスは、通常、窒素ガスと組み合わせて上記の濃度範囲内で用いられる。
【0033】
本発明におけるフッ化処理は、たとえば所定の形状に加工した、腕時計バンド用のステンレス鋼製の駒および連結部品、または腕時計用ベゼル、ケーシング、裏蓋、文字盤などをフッ化処理用の炉内に入れ、上記濃度のフッ素系ガス雰囲気下に、250〜500℃の温度で行なわれる。フッ化処理時間は、処理物の種類・大きさ等により異なるが、通常は、十数分から数十分である。
【0034】
このようなフッ化処理を行なうことにより、処理物表面に形成されたCr23を含む不動態皮膜がフッ化皮膜に変化する。このフッ化皮膜は、炭素原子の浸透性が良好であるので、次に行なわれるガス浸炭処理により、オーステナイト系ステンレス鋼表面から内部に炭素原子が浸透拡散し、浸炭(硬化)層を容易に形成することができる。
【0035】
(ガス浸炭処理)
次に、上記のフッ化処理が施された部品に、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下に400〜550℃、好ましくは400〜500℃、さらに好ましくは400〜480℃でガス浸炭処理を施す。
この浸炭処理の際に用いられる浸炭性ガスとしては、炭素源ガスとして一酸化炭素を用い、通常、この一酸化炭素と水素、二酸化炭素、窒素の混合ガスの形で用いられる。
【0036】
この浸炭性ガスの浸炭能力(カーボンポテンシャル:Pc 値)は、通常、ガス雰囲気中のCOおよびCO2の分圧値Pco、Pco2を用いて次式で示される。
Pc =(Pco)2/Pco2
このPc 値が大きくなると、浸炭能力が大きくなり、オーステナイト系ステンレス鋼の表面炭素濃度が高くなって表面硬度が高くなるが、ガス浸炭処理用炉内のすすの発生が多くなる。ただし、このPc 値をある一定の限界点以上に設定しても、形成される浸炭硬化層の表面硬度には限界がある。一方、このPc 値が小さくなると、浸炭能力が小さくなり、オーステナイト系ステンレス鋼の表面炭素濃度が低くなって表面硬度が低くなる。
【0037】
本発明では、ガス浸炭処理温度を400〜500℃という低温にすることにより、浸炭硬化層中にCr236 等の結晶質のクロム炭化物が析出せず、オーステナイト系ステンレス鋼中のクロム原子が消費されないため、浸炭硬化層の優れた耐食性を維持することができる。また、この浸炭処理温度は低温であるため、この浸炭処理によりクロム炭化物の粗大化も起こらず、しかも、ステンレス鋼内部の軟化による強度低下も少ない。しかしながら、浸炭処理温度が550℃以下で500℃を超える場合には、得られる浸炭硬化層中に、粗大化したクロム炭化物粒子が微量ながら認められるが、本発明においては、ゆず肌の問題は生じない。浸炭硬化層中に、粗大クロム炭化物粒子が少なくなるほど、ステンレス鋼は耐食性に優れ、しかも表面硬度が高くなるため、粗大クロム炭化物粒子は存在しないことが好ましい。また、耐食性の面からも浸炭層中に粗大クロム炭化物粒子は存在しないことが好ましい。
【0038】
このようなガス浸炭処理法によれば、装飾部品のオーステナイト系ステンレス鋼表面に浸炭硬化層(炭素の拡散浸透層)が均一に形成される。
これらの浸炭硬化層には、Cr236 、Cr73、Cr32 等の結晶質のクロム炭化物は生成されておらず、透過型電子顕微鏡での観察よれば、粒径0.1μm以下の超微細な金属炭化物が認められるのみである。この超微細な金属炭化物は、透過型電子顕微鏡のスペクトル分析によれば、装飾部品の基材であるオーステナイト系ステンレス鋼と同一の化学組成を有しており、結晶質のクロム炭化物ではない。これらの浸炭硬化層は、炭素原子がオーステナイト系ステンレス鋼の金属格子中に侵入固溶クロム炭化物を形成せず、この基材と同様のオーステナイト相から形成されている。この多量の炭素原子の侵入固溶により、浸炭硬化層は大きな格子歪みを起こしている。上記の超微細な金属炭化物と格子歪みとの複合効果により、浸炭硬化層の硬度の向上を実現し、ビッカース硬さ(HV;50g荷重)700〜1050という高硬度を得ることができる。しかも、上記ガス浸炭処理により結晶質のクロム炭化物が生成せず、基材中のクロム原子を消費しないことから、浸炭硬化層は、オーステナイト系ステンレス鋼が本来有している優れた耐食性と同程度の耐食性を保持している。
【0039】
ガス浸炭処理後の部品の表面には、極薄い黒皮が形成されている。
(酸洗処理)
次に、上記のガス浸炭処理が施された部品に、酸洗処理を施す。
具体的には、部品を酸性溶液に浸漬する。
この酸洗処理で用いられる酸性溶液としては、特に限定されるものではなく、たとえばフッ酸、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化アンモニウムなどが用いられる。これらの酸は、単独で用いることができるが、フッ化アンモニウムと硝酸との混合液、硝酸とフッ酸との混合液、硝酸と塩酸との混合液、硫酸と硝酸との混合液として用いることもできる。
【0040】
これらの酸性溶液の濃度は、適宜決定されるが、たとえば硝酸と塩酸との混合液では、硝酸濃度が15〜40重量%程度、塩酸濃度が5〜20重量%程度であることが好ましい。また、硝酸溶液の濃度は10〜30重量%程度が好ましい。
また、これらの酸性溶液は、常温で用いることができるし、高温で用いることもできる。
【0041】
さらに、酸洗処理として、硝酸、硫酸等の電解溶液を使用して電解処理を行なってもよい。
酸性溶液への浸漬時間は、酸性溶液の種類にもよるが、通常は約15〜90分程度である。
この酸洗処理により、部品の表面に形成された浸炭処理に起因する黒皮に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮が除去されるが、この酸洗処理のみでは、黒皮を完全に除去することはできない。しかも、部品の表面、すなわちガス浸炭処理により形成された浸炭硬化層の表面は、酸性溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗面化される。
【0042】
(水洗処理)
次に、上記酸洗処理後、その部品に水洗処理を施す。
この水洗処理により、部品から剥離しかかっている黒皮を洗い流すとともに、部品に付着している酸性溶液を完全に洗い流し、酸性溶液による浸炭硬化層の粗面化がさらに進行しないようにする。
【0043】
なお、装飾部品のうち、腕時計バンドの構成物品である駒、その連結部品などの表面に形成された黒皮は、上記の酸洗処理および水洗処理により完全に除去することはできない。
(バレル研磨)
次に、水洗処理された部品の表面をバレル研磨する。
【0044】
具体的には、部品をバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として好ましくはクルミのチップとアルミナ系研磨材をバレル槽内に入れる。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、部品のオーステナイト系ステンレス鋼表面に形成された浸炭硬化層の最表面に形成された粗い面と、残っている黒皮を研磨する。
【0045】
上記の酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨を併用することにより、連結された駒、連結されていない駒、駒の連結に使用が予定されている連結部品などの表面に形成された黒皮を完全に除去することができる。このような時計外装部品が複雑な形状を成していても、この黒皮を完全に除去することができる。
また、このバレル研磨により、ヘアーライン加工等の機械的仕上げ加工が施されていない、連結された駒、連結されていない駒、駒の連結に使用が予定されている連結部品などの装飾部品の表面を鏡面とすることができる。
【0046】
なお、バレル研磨に代えてバフ研磨を行なうと、連結された駒、連結されていない駒、駒の連結に使用が予定されている連結部品などの装飾部品の表面に形成された黒皮を完全に除去することは非常に困難である。
なお、装飾部品、たとえば時計外装部品は、かかるバレル研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0047】
次に、必要に応じて、バレル研磨した装飾部品たとえば腕時計バンドを構成する駒、連結されている駒の表面を、さらにバフ研磨してもよい。
なお、かかるバフ研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、表面に炭素原子を固溶させて硬化層を形成したオーステナイト系ステンレス鋼からなる装飾部品であって、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する、外観に優れた装飾部品およびその製造方法を提供することができる。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
【実施例1】
(腕時計バンド)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)からなる丸棒に、加工率70%の冷間プレス加工を施し、所望の腕時計バンドの駒よりやや厚い板に成形した。
次いで、その板に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。このようにして得られた板におけるステンレス鋼の結晶粒を500倍の顕微鏡で観察し、その平均粒径を測定した結果、10μmであった。
【0051】
次いで、この板を腕時計バンドの駒の長さに合わせて切断加工を施し、この板より小さい複数の切片に切断した。
次いで、この切片に加工率5%の冷間プレス加工を施し、所望の腕時計バンドの駒の形状に仕上げた。
次いで、その駒に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、18μmであった。このように、ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径が大きくなったのは、加工率の小さい冷間プレス加工により、ステンレス鋼の結晶粒が粗大化したためである。このようにして、上記の各切片より複数の駒を作製した。
【0052】
次いで、それぞれの駒の所定の位置に孔開け加工を施して、連結孔を穿設し、連結孔に連結ピンを挿入して、それぞれの駒を互いに連結させ、腕時計バンドを組み立てた。
なお、この多数の駒を連結して成る腕時計バンドの幾つかの駒は、携帯者の手首の太さに合わせてバンドの長さを調整できるように、隣接する駒から取り外し可能な駒、いわゆる長さ調整用駒であり、長さ調整用駒以外の駒は、隣接する駒から容易に分離できないように連結される駒である。また、連結部品として、長さ調整用駒に用いられる連結部品(長さ調整用ピン)と、その他の駒に用いられる連結部品(連結ピンと割パイプ、ローレットピン)を使用した。
【0053】
次いで、腕時計バンドに、研磨処理、たとえばバレル研磨やバフ研磨を施し、表面を平滑な鏡面とした。
次いで、この腕時計バンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
【0054】
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
取り出した浸炭処理後のバンドの表面には黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
【0055】
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結部品である、連結ピン、割パイプ、長さ調整用ピンにも、黒皮は観察されなかった。
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
【0056】
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。これにより、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、駒の表面、すなわち浸炭層の最表面が鏡面となった。
【0057】
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈する腕時計バンドが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このバンドにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。また、このバンドは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で800で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。予め多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから上記の各処理工程を行なったので、処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができた。
【0058】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。その結果、連結部品の硬度が高くなり、バンドの長手方向に沿ってバンドが引っ張られても、連結ピンや長さ調整用ピンが曲がったり、折れたりしにくくなった。
この実施例1では、多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れている。
【0059】
【実施例2】
(腕時計バンド)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)からなる丸棒を用いて、実施例1と同様にして、複数の切片を得た。
次いで、この切片に切削加工を施し、所望の腕時計バンドの駒の形状に仕上げた。
【0060】
次いで、その駒に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、10μmであった。このようにして、各切片より複数の駒を作製した。
以下、この複数の駒を用い、実施例1と同様にして、腕時計バンドを得た。
次いで、このバンドに、実施例1と同様にして、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗、バレル研磨を行なった。
【0061】
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈する腕時計バンドが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このバンドにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は10μmであって。また、このバンドは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で850で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。予め多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから上記の各処理工程を行なったので、処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができた。
【0062】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。その結果、連結部品の硬度が高くなり、バンドの長手方向に沿ってバンドが引っ張られても、連結ピンや長さ調整用ピンが曲がったり、折れたりしにくくなった。
この実施例2では、多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れている。
【0063】
【実施例3】
(腕時計バンド)
厚さ10mmのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)から成る板材に加工率60%の冷間圧延加工を施し、より薄い厚さ4mmの板材に加工した。次いで、その板材に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の板材におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。
【0064】
以下、この薄い板材を用い、実施例1と同様にして、腕時計バンドを得た。なお、溶体化処理後の駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は34μmであった。
次いで、このバンドに、実施例1と同様にして、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗、バレル研磨を行なった。
【0065】
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈する腕時計バンドが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このバンドにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は34μmであった。また、このバンドは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で800で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。予め多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから上記の各処理工程を行なったので、処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができた。
【0066】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。その結果、連結部品の硬度が高くなり、バンドの長手方向に沿ってバンドが引っ張られても、連結ピンや長さ調整用ピンが曲がったり、折れたりしにくくなった。
この実施例3では、多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れている。
【0067】
【実施例4】
(腕時計バンド)
厚さ10mmのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)から成る板材に加工率60%の冷間圧延加工を施し、より薄い厚さ4mmの板材に加工した。次いで、その板材に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の板材におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。
【0068】
以下、この薄い板材を用い、実施例2と同様に、切削加工を施し、所望の腕時計バンドの駒の形状に仕上げた。この駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。
次いで、この駒を用い、実施例1と同様にして、腕時計バンドを得た。溶体化処理後の駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。
【0069】
次いで、このバンドに、実施例1と同様にして、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗、バレル研磨を行なった。
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈する腕時計バンドが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このバンドにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。また、このバンドは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で840で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。予め多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから上記の各処理工程を行なったので、処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができた。
【0070】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。その結果、連結部品の硬度が高くなり、バンドの長手方向に沿ってバンドが引っ張られても、連結ピンや長さ調整用ピンが曲がったり、折れたりしにくくなった。
この実施例4では、多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れている。
【0071】
【実施例5】
(腕時計ケース)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)から成る丸棒に、加工率50%の冷間圧延加工を施して板材に加工した。
次いで、その板材に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の板材におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、26μmであった。
【0072】
次いで、この板材に加工率30%の冷間プレス加工を施し、所望のケースの形状に成形した。
次いで、そのケースに、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の板材におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、26μmであった。
【0073】
次いで、この板材を切削加工、孔開け加工して腕時計バンドを連結する連結ピンを挿入する連結孔を形成し、腕時計ケースの形状に仕上げた。
次いで、この腕時計ケースを用い、実施例1と同様にして、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、バレル研磨を行なった。
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈する腕時計ケースが得られ、ゆず肌は観察されなかった。この腕時計ケースにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、26μmであった。また、この腕時計ケースは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で790で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。
【0074】
【実施例6】
(ブレスレット)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)からなる丸棒に、加工率40%の冷間プレス加工を施し、所望のブレスレットの駒よりやや厚い板に成形した。
次いで、この厚い板に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の厚い板におけるステンレス鋼の結晶粒を500倍の顕微鏡で観察し、その平均粒径を測定した結果、36μmであった。
【0075】
次いで、この板をブレスレットの駒の長さに合わせて切断加工を施し、この板より小さい複数の切片に切断した。
次いで、この切片に加工率35%の冷間プレス加工を施し、所望のブレスレットの駒の形状に仕上げた。
次いで、その駒に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の駒におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、30μmであった。このようにして、各切片より複数の駒を作製した。
【0076】
次いで、それぞれの駒の所定の位置に孔開け加工を施して、連結孔を穿設し、連結孔に連結ピンを挿入して、それぞれの駒を互いに連結させ、ブレスレットを組み立てた。
次いで、このブレスレットを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
【0077】
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、ブレスレットを取り出した。取り出した浸炭処理後のブレスレットの表面には黒皮が形成されていた。
次いで、このブレスレットを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
【0078】
この酸洗処理により、ブレスレットの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結部品にも、黒皮は観察されなかった。
しかしながら、ブレスレットの駒表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
【0079】
次いで、酸洗処理されたブレスレットを水洗した。
次いで、水洗したブレスレットをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。これにより、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、駒の表面、すなわち浸炭層の最表面が鏡面となった。
【0080】
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈するブレスレットが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このブレスレットにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は、30μmであった。また、このブレスレットは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で800で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。予め多数の駒をまとめてブレスレットの形態にしてから上記の各処理工程を行なったので、処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができた。
【0081】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。
この実施例6では、多数の駒をまとめてブレスレットの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れている。
【0082】
【実施例7】
(ブレスレット)
厚さ10mmのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)から成る板材に加工率60%の冷間圧延加工を施し、より薄い厚さ4mmの板材に加工した。
次いで、その板材に、1000℃で5分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施した。この溶体化処理後の板材におけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。
【0083】
次いで、この板材に機械曲げ加工を行なって輪状のブレスレットにした。この曲げ加工前後でブレスレットのステンレス鋼結晶粒の平均粒径は変わらず18μmであった。
次いで、この輪状のブレスレットに、実施例1と同様にして、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗、バレル研磨を行なった。
【0084】
以上の工程により、平滑に視認される鏡面を呈するブレスレットが得られ、ゆず肌は観察されなかった。このブレスレットにおけるステンレス鋼の結晶粒の平均粒径は18μmであった。また、このブレスレットは、表面硬度がビッカース硬さ(Hv;50g荷重)で840で耐傷付き性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。

Claims (4)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼に、加工率(断面減少率)30〜70%の条件で冷間加工を施して、所望の装飾部品の形状に仕上げ、
    次いで、該部品に、800〜1200℃で1〜30分間加熱した後に急冷する溶体化処理を施し、
    次いで、該部品に、フッ素系ガス雰囲気下に250〜500℃でフッ化処理を施し、
    次いで、該部品を、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下に400〜550℃でガス浸炭処理を施し、
    次いで、該部品に酸洗処理を施した後、水洗処理を施す
    ことを特徴とする装飾部品の製造方法。
  2. 前記水洗処理後に、前記部品の表面をバレル研磨することを特徴とする請求項に記載の装飾部品の製造方法。
  3. 前記ガス浸炭処理により装飾部品のオーステナイト系ステンレス鋼表面に形成された硬化層の表面硬度がビッカース硬さ(HV;50g荷重)で500以上であることを特徴とする請求項に記載の装飾部品の製造方法。
  4. 前記製造方法により得られた装飾部品を形成しているオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒の平均粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の装飾部品の製造方法。
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