JP4463353B2 - 時計外装部品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、時計外装部品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、いわゆる「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する時計外装部品、およびその製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
腕時計バンド、ベゼル、ケーシング、裏蓋、中留、文字盤等の時計外装部品には、ステンレス鋼、特に耐食性と装飾性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼が多用されている。たとえばオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材より成る板材に冷間鍛造、さらには任意に切削加工や孔開け加工を施し、腕時計バンドの駒の形状に仕上げる。そして、このようにして得られる駒と駒とを連結して腕時計バンドを完成させる。
【0003】
近年、かかるオーステナイト系ステンレス鋼の優れた耐食性を維持したまま、そのステンレス鋼表面を硬質化させる技術が試みられている。たとえば特開平9−71854号公報、特開平9−268364号公報および特開平9−302456号公報には、オーステナイト系ステンレス鋼に、フッ素系ガス雰囲気下で300〜500℃というような低温でフッ化処理を施して上記不動態皮膜を炭素原子の浸透が容易なフッ化皮膜に変化させ、その後、浸炭性ガス雰囲気下で400〜500℃というような低温でオーステナイト系ステンレス鋼にガス浸炭処理を施し、さらに酸洗処理または機械的研磨(たとえばバレル研磨)を施す技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記のようにガス浸炭処理された時計外装部品たとえば駒の表面は、研磨したにもかかわらず、時計外装に必要とされる美しい鏡面とはならなず、微細な凹凸が存在する「ゆず肌」として観察される。
これは、ガス浸炭処理によって、ステンレス鋼の表面の金属結晶粒内へ、該結晶粒界よりも多くの炭素が固溶されることに原因がある。すなわち、炭素が粒状に形成された金属結晶粒内に浸透すると、金属結晶粒が肥大化し、外方に向けて膨出するため、結晶粒と結晶粒界との間に段差が生じる。ステンレス鋼の表面から見れば、結晶粒は結晶粒界より高くなる。
【0005】
かかる結晶粒と結晶粒界との段差は、ガス浸炭処理後の一連の処理、すなわち酸洗処理や機械的な研磨を経ても無くならない。その結果、結晶粒がステンレス鋼の表面から浮き出て視認されやすく、浮き出た多くの結晶粒がステンレス鋼表面の微細な凹凸、すなわち「ゆず肌」として観察されるのである。
かかる「ゆず肌」は、ステンレス鋼に限らず、チタン、チタン合金などの時計外装に用いられる金属を、その金属の再結晶温度近傍未満の温度で表面硬化処理たとえば浸炭処理したときに共通して発生する現象である。具体的には、再結晶温度を少し超えた温度未満で表面硬化処理をしたときに発生する現象である。
【0006】
また、かかる「ゆず肌」は、炭素を固溶原子とした浸炭処理に限らず、窒素や酸素を固溶原子とし、用いた金属の再結晶温度近傍未満の温度で表面硬化処理したときにも共通して発生する現象である。
したがって、時計外装に用いられる金属を、その金属の再結晶温度近傍未満の温度で表面硬化処理しても、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する、外観に優れた時計外装部品およびその製造方法の出現が望まれている。
【0007】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、時計外装に用いられる金属を、その金属の再結晶温度近傍未満の温度で表面硬化処理しても、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有する、外観に優れた時計外装部品およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
【発明の概要】
本発明に係る時計外装部品は、
金属からなる時計外装部品であって、
該金属表面に、金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層が形成され、少なくとも該変形層に固溶原子を固溶させた硬化層が形成されていることを特徴としている。
【0009】
前記変形層は、金属の少なくとも表面に物理的な外力が負荷されて形成されている。本発明においては、前記変形層は、金属の表面をほぼ一方向に延ばす物理的な外力が負荷されて形成されていることが好ましい。
前記変形層は、金属の表面から2〜100μmの深さにわたって形成されていることが好ましい。
【0010】
また、前記硬化層は、変形層の表面から5〜50μmの深さにわたって形成されていることが好ましい。
前記固溶原子は、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である。
前記硬化層の鏡面の表面硬度が、ビッカース硬度(HV)で500以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る時計外装部品の製造方法は、
ステンレス鋼からなる時計外装部品の製造方法であって、
該ステンレス鋼の表面に物理的な外力を負荷して、少なくともステンレス鋼表面に金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層を形成し、
次いで、該変形層の表面に固溶原子を固溶させる硬化処理を施して硬化層を形成することを特徴としている。
【0012】
前記変形層は、ステンレス鋼の表面に、ステンレス鋼の表面をほぼ一方向に延ばす物理的な外力を負荷して形成することが好ましい。
前記変形層は、ステンレス鋼の表面に、ステンレス鋼の表面をほぼ一方向に延ばす物理的な外力を負荷する、研磨加工または研削加工の少なくとも1つを施すことによって形成する。
【0013】
より具体的には、
ステンレス鋼の表面に、切削加工または研削加工の少なくとも1つを施すことにより所望の形状の面を形成し、
次いで、該形状の面に研磨加工を施すことによって前記変形層を形成するか、あるいは、
ステンレス鋼の表面に研削加工を施すことにより、所望の形状の面を形成するとともに前記変形層を形成する。
【0014】
前記所望の形状の面は、ほぼ平らに加工された面であってもよいし、また、曲面であってもよい。
前記変形層は、ステンレス鋼の表面から2〜100μmの深さにわたって形成することが好ましい。
前記硬化層は、前記変形層の表面から5〜50μmの深さにわたって形成することが好ましい。
【0015】
前記固溶原子は、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である。
前記硬化層の鏡面の表面硬度は、ビッカース硬度(HV)で500以上であることが好ましい。
前記変形層は、通常、変形量の多い鍛造加工により形成された時計外装部品用母材のステンレス鋼の表面に形成される。
【0016】
前記硬化処理は、通常、ステンレス鋼の再結晶温度近傍未満の温度で行なわれる。硬化処理を再結晶温度以上の温度で行なってもよいが、この温度条件では、ゆず肌が発生することはないので、前記変形層を形成する必要はない。
本発明で用いられるステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。
【0017】
なお、本明細書中の「時計外装部品」としては、腕時計バンド、ベゼル、ケーシング、裏蓋、中留、文字盤などが挙げられる。
【0018】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係る時計外装部品およびその製造方法について具体的に説明する。
まず、本発明に係る時計外装部品について説明する。
時計外装部品
本発明に係る時計外装部品は、金属からなり、この金属表面に、金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層が形成され、少なくともこの変形層に固溶原子を固溶させた硬化層が形成されている。
【0019】
時計外装部品を形成する金属としては、具体的には、ステンレス鋼、チタン金属、チタン合金などが挙げられる。中でも、ステンレス鋼、特にオーステナイト系ステンレス鋼が好ましく用いられる。
上記変形層は、金属表面に、金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む層であり、金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を形成するには、金属の少なくとも表面に物理的な外力を負荷する必要がある。変形層は、金属の表面をほぼ一方向に延ばす物理的な外力が負荷されて形成されていることが好ましい。
【0020】
金属表面に上記のような物理的な外力を負荷する手段としては、研磨加工、研削加工が挙げられる。
研磨加工としては、具体的には、従来公知のバフ研磨、バニッシング加工が挙げられる。
本発明においては、金属表面にバニッシング加工を施した後に、バフ研磨を施すことができるし、また、バフ研磨あるいはバニッシング加工を金属表面に施す前に、金属表面にバレル研磨を施すことができる。また、バフ研磨あるいはバニッシング加工を金属表面に施す前に、金属表面に研削加工あるいは切削加工を施すことができる。
【0021】
変形層は、金属の表面から2〜100μmの深さにわたって形成されていることが好ましい。
本発明においては、上記のような変形層の表面に固溶原子を固溶させて硬化層が形成されているので、硬化層形成後も金属結晶粒が繊維状になっている。その結果、結晶粒と結晶粒界との間に段差が生じることはないので、ゆず肌を肉眼で観察することはできない。したがって、滑らかな面ないし鏡面を有する時計外装部品を得ることができる。この滑らかな面ないし鏡面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0022】
また、上記硬化層は、変形層の表面から5〜50μmの深さにわたって形成されていることが好ましい。
上記固溶原子は、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である。
硬化層の鏡面の表面硬度は、ビッカース硬度(HV)で500以上であることが好ましい。
【0023】
時計外装部品の製造方法
[変形層の形成]
上記のような、本発明に係る時計外装部品は、ステンレス鋼の表面に物理的な外力を負荷して、少なくともステンレス鋼表面に金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層を形成する。
【0024】
この変形層は、ステンレス鋼の表面に、ステンレス鋼の表面をほぼ一方向に延ばす物理的な外力を負荷して形成することが好ましい。
金属表面に上記のような物理的な外力を負荷する手段としては、研磨加工、研削加工が挙げられる。
研磨加工としては、具体的には、従来公知のバフ研磨、バニッシング加工が挙げられる。
【0025】
このバニッシング加工では、回転車の外周面の上に時計外装部品母材の上面が外方に向くように固定し、次いで、この回転車を回転させて時計外装部品用母材の上面にダイヤモンドあるいは超硬の工具(たとえばタングステン、カーバイド)を押し当てて時計外装部品用母材の上面を研磨する。
本発明においては、金属表面にバニッシング加工を施した後に、バフ研磨を施すことができるし、また、バフ研磨あるいはバニッシング加工を金属表面に施す前に、金属表面にバレル研磨を施すことができる。また、バフ研磨あるいはバニッシング加工を金属表面に施す前に、金属表面に研削加工あるいは切削加工を施すことができる。
【0026】
この研削加工では、回転する砥石車に時計外装部品用母材の上面を押し当てて、砥石車の砥粒によって時計外装部品用母材の上面を研削する。本発明では、研削力を低下させて切削加工を行なう。研削力を低下させる手段としては、たとえば砥石車の砥粒を滑らかなものにしたり、砥粒の数を減らしたり、あるいは研削剤を少なくするなどの方法がある。
【0027】
本発明においては、ステンレス鋼の表面に、切削加工または研削加工の少なくとも1つを施すことにより所望の形状の面を形成し、次いで、この形状の面に研磨加工を施すことによって上記変形層を形成することができるし、また、ステンレス鋼の表面に研削加工を施すことにより、所望の形状の面を形成するとともに上記変形層を形成することもできる。
【0028】
上記所望の形状の面は、ほぼ平らに加工された面であってもよいし、また、曲面であってもよい。
物理的な外力を負荷する個々の手段を好ましい順に挙げると、バニッシング加工、バフ研磨、次いで、研削加工、切削加工という順になる。
本発明においては、研削加工とバフ研磨の併用が特に好ましい。
【0029】
変形層は、ステンレス鋼の表面から2〜100μmの深さにわたって形成することが好ましい。
本発明においては、上記のような変形層は、通常、変形量の多い鍛造加工(冷間鍛造加工、熱間鍛造加工)により形成された時計外装部品用母材のステンレス鋼表面に形成される。
【0030】
[硬化層の形成]
次いで、上記のようにして形成した変形層の表面に固溶原子を固溶させる硬化処理を施して硬化層を形成する。
上記固溶原子としては、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子が用いられる。たとえばオーステナイト系ステンレス鋼に炭素原子を固溶させたり、あるいは、チタンあるいはチタン合金に窒素原子と酸素原子を固溶させたりする。また、チタンあるいはチタン合金に炭素原子を固溶させたりする。
【0031】
硬化層は、変形層の表面から5〜50μmの深さにわたって形成することが好ましい。
硬化層の鏡面の表面硬度は、ビッカース硬度(HV)で500以上であることが好ましい。
本発明において、上記硬化層の形成を、たとえばチタン金属を含まないオーステナイト系ステンレス鋼からなる時計外装部品用母材に、上記のようにして得られた変形層の表面に硬化層として浸炭層を形成する場合、以下のような工程を経て時計外装部品を製造することが好ましい。
【0032】
すなわち、この場合、浸炭層を形成する前に、表面に変形層が形成された時計外装部品用母材に、フッ素系ガス雰囲気下に100〜500℃、好ましくは150〜300℃でフッ化処理を施すことが好ましい。
このオーステナイト系ステンレス鋼は、たとえばFe−Cr−Ni−Mo系ステンレス、Fe−Cr−Mn系ステンレスなどが挙げられる。本発明で用いられるオーステナイト系ステンレスとしては、浸炭硬化層深さおよび価格の面からは、Ni含有量が出来るだけ小さい安定型のステンレスが望ましいが、耐食性の面からは、Ni含有量が多く、しかも、有価元素であるMoを1.5〜4重量%程度含有するステンレスが望ましい。また、最も好適なオーステナイト系ステンレスとしては、クロム含有量が15〜25重量%で、常温で加工してもオーステナイト相の安定な安定型ステンレスに、Moを1.5〜4重量%添加したものが挙げられる。
【0033】
上記のフッ化処理に際して用いられるフッ素系ガスとしては、具体的には、NF3、CF4、SF4、C26、BF3、CHF3、HF、SF6、WF6、SiF4、ClF3などのフッ素化合物ガスが挙げられる。これらのフッ素化合物ガスは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらのガス以外に、分子内にフッ素を含む他のフッ素化合物ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。さらにまた、このようなフッ素化合物ガスを熱分解装置で熱分解させて生成させたF2ガス、あるいは予め調製したF2ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素化合物ガスとF2ガスとは、任意に混合して用いられる。
【0034】
上記フッ素化合物ガス、F2ガス等のフッ素系ガスは、それぞれ1種単独で用いることもできるが、通常は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されて使用される。このような希釈されたガスにおけるフッ素系ガス自身の濃度は、通常10,000〜100,000容量ppm、好ましくは20,000〜70,000容量ppm、さらに好ましくは30,000〜50,000容量ppmである。本発明で最も好ましく用いられるフッ素系ガスは、NF3である。NF3は、常温でガス状であり、化学的安定性が高く、取り扱いが容易である。このNF3ガスは、通常、窒素ガスと組み合わせて上記の濃度範囲内で用いられる。
【0035】
本発明におけるフッ化処理は、たとえば所定の形状に加工した、腕時計バンド用のステンレス鋼製の駒、または腕時計用ベゼル、ケーシング、裏蓋、文字盤などをフッ化処理用の炉内に入れ、上記濃度のフッ素系ガス雰囲気下に、100〜500℃の温度で行なわれる。フッ化処理時間は、処理物の種類・大きさ等により異なるが、通常は、十数分から数時間である。
【0036】
このようなフッ化処理を行なうことにより、変形層表面に、炭素原子の浸透性が良好なフッ化被膜を形成することができるので、次に行なわれる硬化処理としてのガス浸炭処理により、ステンレス鋼表面から内部に炭素原子が浸透拡散し、浸炭硬化層を容易に形成することができる。
上記のフッ化処理が施された時計外装部品用母材に、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下に、400〜500℃、好ましくは400〜480℃でガス浸炭処理を施す。
【0037】
この浸炭処理の際に用いられる浸炭性ガスとしては、炭素源ガスとして一酸化炭素を用い、通常、この一酸化炭素と水素、二酸化炭素、窒素の混合ガスの形で用いられる。
この浸炭性ガスの浸炭能力(カーボンポテンシャル:Pc 値)は、通常、ガス雰囲気中のCOおよびCO2の分圧値Pco、Pco2を用いて次式で示される。
【0038】
Pc =(Pco)2/Pco2
このPc 値が大きくなると、浸炭能力が大きくなり、ステンレス鋼たとえばオーステナイト系ステンレス鋼の表面炭素濃度が高くなって表面硬度が高くなるが、ガス浸炭処理用炉内のすすの発生が多くなる。ただし、このPc 値をある一定の限界点以上に設定しても、形成される浸炭硬化層の表面硬度には限界がある。一方、このPc 値が小さくなると、浸炭能力が小さくなり、オーステナイト系ステンレス鋼の表面炭素濃度が低くなって表面硬度が低くなる。
【0039】
本発明では、ガス浸炭処理温度を400〜500℃という低温にすることにより、浸炭硬化層中にCr236 等の結晶質のクロム炭化物が析出せず、オーステナイト系ステンレス鋼中のクロム原子が消費されないため、浸炭硬化層の優れた耐食性を維持することができる。また、浸炭処理温度が低温であるため、この浸炭処理によりクロム炭化物の粗大化も起こらず、しかも、ステンレス鋼内部の軟化による強度低下も少ない。
【0040】
このようなガス浸炭処理法によれば、オーステナイト系ステンレス鋼からなる時計外装部品用母材の表面に浸炭硬化層(炭素の拡散浸透層)が均一に形成される。
これらの浸炭硬化層には、Cr236 、Cr73、Cr32 等の結晶質のクロム炭化物は生成されておらず、透過型電子顕微鏡での観察よれば、粒径0.1μm以下の超微細な金属炭化物が認められるのみである。この超微細な金属炭化物は、透過型電子顕微鏡のスペクトル分析によれば、母材と同一の化学組成を有しており、結晶質のクロム炭化物ではない。これらの浸炭硬化層は、炭素原子が母材の金属格子中に侵入固溶クロム炭化物を形成せず、母材と同様のオーステナイト相から形成されている。この多量の炭素原子の侵入固溶により、浸炭硬化層は大きな格子歪みを起こしている。上記の超微細な金属炭化物と格子歪みとの複合効果により、浸炭硬化層の硬度の向上を実現し、ビッカース硬度(HV)700〜1050という高硬度を得ることができる。しかも、上記ガス浸炭処理により結晶質のクロム炭化物が生成せず、母材中のクロム原子を消費しないことから、浸炭硬化層は、オーステナイト系ステンレス鋼が本来有している優れた耐食性と同程度の耐食性を保持している。
【0041】
ガス浸炭処理後の時計外装部品用母材の表面には、極薄い黒皮が形成されている。
次いで、上記のガス浸炭処理が施された時計外装部品用母材に、酸洗処理を施す。具体的には、時計外装部品用母材を酸性溶液に浸漬する。
この酸洗処理で用いられる酸性溶液としては、特に限定されるものではなく、たとえばフッ酸、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化アンモニウムなどが用いられる。これらの酸は、単独で用いることができるが、フッ化アンモニウムと硝酸との混合液、硝酸とフッ酸との混合液、硝酸と塩酸との混合液、硫酸と硝酸との混合液として用いることもできる。
【0042】
これらの酸性溶液の濃度は、適宜決定されるが、たとえば硝酸と塩酸との混合液では、硝酸濃度が15〜40重量%程度、塩酸濃度が5〜20重量%程度であることが好ましい。また、硝酸溶液の濃度は10〜30重量%程度が好ましい。
また、これらの酸性溶液は、常温で用いることができるし、高温で用いることもできる。
【0043】
さらに、酸洗処理として、硝酸、硫酸等の電解溶液を使用して電解処理を行なってもよい。
酸性溶液への浸漬時間は、酸性溶液の種類にもよるが、通常は約15〜90分程度である。
この酸洗処理により、時計外装部品用母材の表面に形成された浸炭処理に起因する黒皮に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮が除去されるが、この酸洗処理のみでは、黒皮を完全に除去することはできない。しかも、ガス浸炭処理により形成された浸炭硬化層の表面は、酸性溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗面化される。
【0044】
次いで、上記酸洗処理後、時計外装部品用母材に水洗処理を施す。
この水洗処理により、時計外装部品用母材から剥離しかかっている黒皮を洗い流すとともに、時計外装部品用母材に付着している酸性溶液を完全に洗い流し、酸性溶液による浸炭硬化層の粗面化がさらに進行しないようにする。上記の酸洗処理および水洗処理により、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することはできない。
【0045】
次いで、水洗処理された時計外装部品用母材の表面をバレル研磨する。
具体的には、時計外装部品用母材をバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として好ましくはクルミのチップとアルミナ系研磨材をバレル槽内に入れる。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、浸炭硬化層の最表面に形成された粗い面と、残っている黒皮を研磨する。
【0046】
上記の酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨を併用することにより、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することができる。この時計外装部品用母材が複雑な形状を成していても、この黒皮を完全に除去することができる。また、このバレル研磨により、時計外装部品用母材の表面を鏡面とすることができる。
【0047】
なお、バレル研磨に代えてバフ研磨を行なうと、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することは非常に困難である。
かかるバレル研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0048】
本発明においては、バレル研磨した時計外装部品用母材の表面を、さらにバフ研磨してもよい。
かかるバフ研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0049】
【発明の効果】
本発明に係る時計外装部品は、時計外装部品用母材の金属表面に、金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層が形成された後に、少なくとも変形層に固溶原子を固溶させた硬化層が形成されているので、「ゆず肌」のない滑らかな面ないし鏡面を有し、外観に優れている。
【0050】
本発明に係る時計外装部品の製造方法によれば、上記の外観に優れた、本発明に係る時計外装部品を提供することができる。
【0051】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
【実施例1】
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材より成る棒状材料を用意した。この棒状材料の断面は、腕時計バンドの駒の形状に合致するように、丸みを帯びた矩形に成す。この棒状材料をバンドの駒の幅に合わせて切断した。
次いで、この切断した部材に連結ピンが挿入されるピン孔を穿設し、腕時計バンドの駒を完成した。
【0053】
次いで、各駒に穿設されたピン孔に連結ピンを挿入し、複数の駒と駒とを互いに回動可能に連結し、腕時計バンドを組み立てた。
次いで、腕時計バンドの各駒の丸みを帯びた上面(手首に装着されたときに外方に向く表側の面)をバフ研磨した。
バフ研磨された駒の上面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、バフ研磨によって負荷された外力によって、ステンレス鋼表面の金属結晶粒がバフの回転する方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、駒の上面から3〜7μmの深さにわたって形成されていた。
【0054】
次いで、この腕時計のバンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
【0055】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0056】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0057】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から0.3〜1μmの深さの領域が除去され、駒の上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後の駒の断面を電子顕微鏡で観察したところ、駒の上面から18〜20μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。
【0058】
【実施例2】
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材より成る円柱を用意した。かかる円柱の円形断面の中心を通る中心軸に沿って外力を負荷するように、円柱を冷間鍛造し、この円柱を腕時計バンドの駒の形状に鍛造した。
次いで、鍛造した部材に連結ピンが挿入されるピン孔を穿設し、腕時計バンドの駒を完成した。
【0059】
次いで、各駒に穿設されたピン孔に連結ピンを挿入し、複数の駒と駒とを互いに回動可能に連結し、腕時計バンドを組み立てた。
次いで、腕時計バンドの各駒の上面(手首に装着されたときに外方に向く表側の面)をバニッシング加工によって平らな鏡面とした。すなわち、回転車の外周面の上にバンドの上面が外方に向くように固定した後、この回転車を回転させ、ダイヤモンドの工具をバンドの上面に押し当てた。
【0060】
バニッシング加工された駒の上面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、バニッシング加工によって負荷された外力によって、ステンレス鋼表面の金属結晶粒が回転車の回転方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、駒の上面から5〜10μmの深さにわたって形成されていた。
【0061】
次いで、この腕時計バンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
【0062】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0063】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0064】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から0.5〜1.5μmの深さの領域が除去され、駒の上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後の駒の断面を電子顕微鏡で観察したところ、駒の上面から18〜20μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。
【0065】
【実施例3】
実施例2と同様にして、腕時計バンドを組み立てた。
次いで、腕時計バンドの各駒の上面を切削加工によって平らな面とした後、各駒の上面を、バフ研磨により、さらに研磨して鏡面とした。
上記のようにして得られた駒の上面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同様に、バフ研磨によって負荷された外力によって、ステンレス鋼表面の金属結晶粒がバフの回転する方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、駒の上面から3〜6μmの深さにわたって形成されていた。
【0066】
次いで、この腕時計バンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
【0067】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0068】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0069】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、駒の上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後の駒の断面を電子顕微鏡で観察したところ、駒の上面から20〜25μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。
【0070】
【実施例4】
実施例2と同様にして、腕時計バンドを組み立てた。
次いで、腕時計バンドの各駒の上面を研削力を低下させた研削加工によって平らな鏡面とした。すなわち、回転する砥石車に腕時計バンドの上面を押し当てて、砥石車の砥粒によって各駒の上面を研削した。
【0071】
次いで、各駒の上面を、バフ研磨により、さらに研磨して鏡面とした。
上記のようにして得られた駒の上面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同様に、研削加工およびバフ研磨によって負荷された外力によって、ステンレス鋼表面の金属結晶粒が砥石車やバフの回転する方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、駒の上面から7〜12μmの深さにわたって形成されていた。
【0072】
次いで、この腕時計バンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
【0073】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0074】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0075】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から1.5〜2.5μmの深さの領域が除去され、駒の上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後の駒の断面を電子顕微鏡で観察したところ、駒の上面から15〜20μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。
【0076】
この実施例4では、研削力を低下させた研削により、各駒の上面を平らな鏡面とするとともに、表面近傍の金属結晶粒を繊維組織に変えることができるので、製造工数を少なくすることができる。したがって、このような研削加工を採用することにより製造コストを安価にすることができる。
【0077】
【実施例5】
実施例2と同様にして、腕時計バンドを組み立てた。
次いで、腕時計バンドの各駒の上面を研削力を低下させた研削加工によって平らな鏡面とした。すなわち、回転する砥石車に腕時計バンドの上面を押し当てて、砥石車の砥粒によって各駒の上面を研削した。
【0078】
上記のようにして得られた駒の上面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、ステンレス鋼表面の金属結晶粒が研削力が低下した研削砥石車の回転する方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、駒の上面から2〜5μmの深さにわたって形成されていた。
【0079】
次いで、この腕時計バンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドを取り出した。
【0080】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0081】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0082】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、駒の上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後の駒の断面を電子顕微鏡で観察したところ、駒の上面から20〜30μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。
【0083】
この実施例5では、研削力を低下させた研削により、各駒の上面を平らな鏡面とするとともに、表面近傍の金属結晶粒を繊維組織に変えることができるので、製造工数を少なくすることができる。したがって、このような研削加工を採用することにより製造コストを安価にすることができる。
【0084】
【実施例6】
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材より成る円柱を用意した。かかる円柱の円形断面の中心を通る中心軸に沿って外力を負荷するように、円柱を冷間鍛造し、この円柱を環状の部材に鍛造した。
次いで、鍛造した部材の内周および外周を求められる寸法に切削した。
【0085】
次いで、この部材の上面をバフ研磨して上面が鏡面であるベゼルを完成した。
バフ研磨されたベゼルの断面を電子顕微鏡で観察したところ、バフ研磨によって負荷された外力によって、ステンレス鋼表面の金属結晶粒がバフの回転する方向に沿って引き延ばされ、繊維状に変形された繊維組織となっていることを確認することができた。かかる繊維組織を含む変形層は、ベゼルの上面から3〜5μmの深さにわたって形成されていた。
【0086】
次いで、このベゼルを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、ベゼルを取り出した。
【0087】
取り出した浸炭処理後のベゼルの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このベゼルを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、ベゼル表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。
【0088】
しかしながら、ベゼルの表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたベゼルを水洗した。
次いで、水洗したベゼルをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、ベゼルの浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。
【0089】
このバレル研磨により、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、ベゼルの上面は、時計外装に要求される平滑で美しい鏡面となった。その表面には、微細な凹凸が成す「ゆず肌」は全く視認されなかった。
そして、バレル研磨後のベゼルの断面を電子顕微鏡で観察したところ、ベゼルの上面から20〜23μmの深さにわたって浸炭層が形成されていた。

Claims (3)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、
    該母材の表面を一方向に伸ばす物理的な外力を負加して、前記母材表面の金属結晶粒が繊維状に変形された繊維組織を含む変形層を形成し、次いで、
    前記変形層が形成された母材に、フッ化処理を施し、次いで、
    前記フッ化処理が施された母材に、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下にて、400〜500℃で、ガス浸炭処理を施した後に、
    該母材を研磨して、鏡面とすることを特徴とする時計外装部品の製造方法。
  2. 前記フッ化処理が、フッ素系ガス雰囲気下にて、100〜500℃で行うことを特徴とする請求項1に記載の時計外装部品の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の製造方法により得られた時計外装部品。
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