JP3213254B2 - 高耐蝕性金属製品およびその製法 - Google Patents

高耐蝕性金属製品およびその製法

Info

Publication number
JP3213254B2
JP3213254B2 JP08192797A JP8192797A JP3213254B2 JP 3213254 B2 JP3213254 B2 JP 3213254B2 JP 08192797 A JP08192797 A JP 08192797A JP 8192797 A JP8192797 A JP 8192797A JP 3213254 B2 JP3213254 B2 JP 3213254B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
treatment
carbon
stainless steel
resistant metal
metal product
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Lifetime
Application number
JP08192797A
Other languages
English (en)
Other versions
JPH09302456A (ja
Inventor
憲三 北野
寛治 青木
とし子 横山
忠司 林田
正昭 田原
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Air Water Inc
Original Assignee
Air Water Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Air Water Inc filed Critical Air Water Inc
Priority to JP08192797A priority Critical patent/JP3213254B2/ja
Publication of JPH09302456A publication Critical patent/JPH09302456A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3213254B2 publication Critical patent/JP3213254B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Lifetime legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C23COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
    • C23C8/00Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals
    • C23C8/40Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals using liquids, e.g. salt baths, liquid suspensions
    • C23C8/42Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals using liquids, e.g. salt baths, liquid suspensions only one element being applied
    • C23C8/48Nitriding
    • C23C8/50Nitriding of ferrous surfaces

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機械的性質と、高
度の耐蝕性を有する高耐蝕性金属製品およびその製法に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、耐蝕性が重視される分野に使
用されるオーステナイト系ステンレスは、鉄を基材とし
てクロムを18重量%,ニッケルを8重量%含有させた
基本組成のものであり、一般に「18−8ステンレス」
と呼ばれているものである。また、この18−8ステン
レスに、1〜3重量%のモリブデンを含有させたオース
テナイト系ステンレスも汎用鋼種として多用されてい
る。
【0003】これらの汎用型のオーステナイト系ステン
レスとしては、JISにおいて、SUS304,SUS
316等、用途や特性に合わせて多くの鋼種が規格化さ
れている。これらのなかでもSUS304は、最も多用
される代表的な汎用鋼種であるが、使用される環境によ
っては耐蝕性が不充分な場合がある。例えば、有機,無
機の酸や塩類,薬品類,海水,ハロゲンガス,SO2
による強い腐食性環境下では、上記SUS304等の1
8−8ステンレスを用いた金属製品では腐食されてしま
い、安定した使用ができない。そこで、上記のような腐
食性環境下においては、上記基本組成の18−8ステン
レスにモリブデンを3〜7重量%まで多量に含有させた
高耐蝕性向ステンレス鋼が用いられることがある。つま
り、これら高耐蝕性向ステンレス鋼は、モリブデンの添
加により、ステンレスの耐蝕性機能の源である不働態皮
膜が強化されるものと考えられ、海水や硫酸等の腐食性
環境用としては、モリブデンを5〜7重量%まで含有さ
せた鋼種も開発されている。ところが、上記モリブデン
はフェライト安定化元素であり、多量に添加すると、オ
ーステナイト系ステンレスのオーステナイト相を安定化
させるために、オーステナイト安定化元素であるニッケ
ルや銅,窒素(N)等を多量に添加させなければならな
い。さらに、上記のような強い腐食性環境下では、オー
ステナイト系ステンレス以外の金属材料として、26C
r−4Mo,29Cr−4Mo−2Ni等の高クロム含
有フェライト系ステンレスや、ハステロイ,モネル等の
ニッケル基合金材料やチタン合金材料が用いられたり、
あるいは、プラスチック材料,セラミック材料等の非金
属材料等が用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記高
耐蝕性向ステンレス鋼は、添加元素が増加することから
くる原料コストや製鋼コストが高くなるだけでなく、市
場流通性も低いことから、材料自体が高価なものにな
る。しかも、難加工性で溶接性も悪いことから量産性に
も劣り、成形加工,溶接等の加工コストも高くなり、上
記高耐蝕性向ステンレス鋼を原料とした金属製品は、上
記SUS304等の汎用鋼種を使用したものと比べては
るかに割高となる。また、ニッケル基合金材料やチタン
合金材料では、上記高耐蝕性向ステンレスよりもさらに
材料コスト,加工コストが高くなる。また、樹脂材料,
セラミック材料等の非金属材料を用いる場合には、機械
的強度等の信頼性の面で金属材料に劣り,適用範囲が限
定されているのが現状である。
【0005】本発明は、このような事情に鑑みなされた
もので、基本組成に近い安価な汎用型のステンレスを使
用し、その表面に炭素の濃化層を形成させることによ
り、酸,海水,薬品等に対して優れた耐蝕性を有し、し
かも安価な、高耐蝕性金属製品およびその製法の提供を
その目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、本発明の高耐蝕性金属製品は、母材が、オーステナ
イト相を呈するオーステナイト系ステンレスからなり、
表面に不働態皮膜が形成され、かつ、この不働態皮膜
面から5〜50μmの深さの表面層が、炭素原子の浸透
によって、炭素の濃化層に形成されたことを第1の要旨
とする。
【0007】また、本発明の高耐蝕性金属製品の製法
は、母材がオーステナイト相を呈するオーステナイト系
ステンレス製品を、フッ素系ガス雰囲気下で加熱状態で
保持し、ついで、400℃〜500℃の温度で炭素原子
の浸透処理を行い、表面から5〜50μmの深さの表面
層に炭素の濃化層を形成し、ついで、最表面層を除去す
る仕上げ処理を行い、この仕上げ処理ののち不働態皮膜
形成処理を行い、上記高耐蝕性金属製品を得ることを第
2の要旨とする。
【0008】本発明者らは、強い腐食性環境下での使用
に耐える安価な金属製品を得ることを目的として一連の
研究を重ねる過程で、汎用されている安価なオーステナ
イト系ステンレスに対して表面処理を施すことにより、
その耐蝕性をさらに向上させることができるのではない
かと想起し、オーステナイト系ステンレスに対する表面
処理に関して種々実験を繰り返した。その結果、オース
テナイト系ステンレスを母材とした金属製品を、400
〜500℃に加熱した状態で外部から炭素を拡散浸透さ
せ、表面に炭素の濃化層を形成させることにより、この
濃化層が、母材であるオーステナイト系ステンレスより
もはるかに良好な耐蝕性を示し、これによって得られた
金属製品が強い腐食環境下においても安定して使用でき
るようになることを突き止め、本発明に到達した。
【0009】すなわち、本発明は、オーステナイト系ス
テンレスがオーステナイト相を呈するうえで最小限のニ
ッケル,クロムあるいはモリブデンを含有する基本組成
の安価な汎用型ステンレスを使用し、この汎用型ステン
レスを加工して得られた金属製品の表面に炭素を浸透さ
せたものであり、これにより、厳しい腐食環境下であっ
ても良好な耐蝕性を発揮し、しかも汎用鋼種を用いるこ
とから安価な金属製品が得られるのである。
【0010】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態につ
いて詳しく説明する。
【0011】本発明は、汎用型のオーステナイト系ステ
ンレスを利用し、このオーステナイト系ステンレスが所
定の製品形状に加工され、その状態で母材がオーステナ
イト相を呈する金属製品に対して、表面処理により炭素
を浸透させ、表面の不働態皮膜直下の表面層に炭素の濃
化層を形成させたものである。
【0012】本発明で使用するオーステナイト系ステン
レスとしては、オーステナイト相を呈したステンレスで
あれば、特に限定されるものではなく、例えば、JIS
に規定されるSUS302,SUS302E,SUS2
02,SUS301,SUS201,SUS301J
1,SUS631,SUS632,SUS303,SU
S303Se,SUS304,SUS304L,SUS
304LN,SUS321,SUS347,SUS30
4N1,SUS304N2,SUS316,SUS31
6N,SUS316L,SUS316LN,SUS31
7,SUS317L,SUS317J1,SUS316
J1,SUS316J1L,SUS305,SUS30
5J1,SUS384,SUS385,SUS309,
SUS309S,SUS310,SUS310S,SU
S330,SUS302B,XM15J1,SUS30
8,SUS308L等各種のものが用いられる。
【0013】これらのなかでも、SUS301系やSU
S304は、固溶化状態ではオーステナイト相を呈する
が、冷間加工が進むに従って、フェライトが生成しやす
くなり、耐蝕性が劣化する場合がある。特に、SUS3
01系はこの傾向が著しい。したがって、SUS304
系の材料の場合には、SUS304N1,SUS304
N2等の窒素(N),マンガン(Mn),銅(Cu)等
の元素が添加された鋼種の方が適している。ただし、S
US304であっても、加工程度の低いものは、フェラ
イトの生成がないため、本発明に好適に用いられる。ま
た、モリブデンを含有するSUS316は、もともと耐
蝕性の向上を主眼におかれたもので母材自体の耐蝕性も
SUS304よりは良く、しかも比較的オーステナイト
相が安定であるため、本発明に好適に用いられる。
【0014】すなわち、本発明で使用するオーステナイ
ト系ステンレスとしては、最小限のニッケル,クロム,
モリブデンを含有し、常温においてフェライトの生成が
なく完全にオーステナイト相を呈していればよい。ま
た、常温での加工によってもフェライトの生成がない安
定型のオーステナイト系ステンレスであれば、より好ま
しい。また、加工によってフェライトが析出したオース
テナイト系ステンレスであっても、固溶化処理等によ
り、完全にオーステナイト相を呈するようにすれば、本
発明の母材として使用することができる。
【0015】本発明は、上記オーステナイト相を呈する
オーステナイト系ステンレスを母材とし、所望の製品形
状に加工したのち、炭素を浸透させて炭素の濃化層を形
成させる。
【0016】上記炭素の濃化層は、製品の表面から、5
〜50μmの厚さに設定するのが好ましく、20〜30
μmであれば一層好ましい。すなわち、5μm未満では
良好な耐蝕性を得るのに不充分であり、50μmを超え
ると、処理時間が長くなってコスト的に不利になるから
である。
【0017】上記濃化層において、浸透した炭素原子
は、母材であるオーステナイト系ステンレス(面心立方
格子である)の組織中で、上記面心立方格子の隙間に侵
入型に固溶している。すなわち、本発明においては、上
記炭素原子は、母材中のクロムや鉄と化合して鉄炭化物
やクロム炭化物を生成することがない。したがって、上
記濃化層は、炭素原子が侵入固溶したオーステナイト相
を保っているのである。上記濃化層により、オーステナ
イト系ステンレスの耐蝕性が格段に向上するものと考え
られる。
【0018】上記のようなクロム炭化物粒子が存在しな
いオーステナイト相とは、金属材料の結晶構造解析に一
般的に使用されるX線回折計(X−Ray Diffr
action meter)によって、Cr236 ,C
7 3 ,Cr3 2 結晶質の炭化物が確認できないオ
ーステナイト相をいう。すなわち、オーステナイト系ス
テンレスの基相であるオーステナイト相(γ−相)は、
その結晶構造が面心立方格子で格子定数がa=3.59
Åであることから、X線回折により特定の回折ピークが
得られる。これに対し、Cr236 は、同じ面心立方格
子であっても、格子定数がa=10.6Åであり、Cr
7 3 は、三方晶で格子定数がa=14.0Å,c=
4.53Åであり、Cr3 2 は、斜方晶で格子定数が
a=5.53Å,b=2.821Å,c=11.49Å
である。このため、これらのクロム炭化物は、上記オー
ステナイト相とは、結晶構造や格子定数が異なり、上記
オーステナイト相で得られる回折ピークとは異なる回折
ピークを生じる。したがって、浸透層にクロム炭化物が
存在すると、X線回折によってオーステナイト相単相の
場合には見られないクロム炭化物のピークが現出するこ
とになる。一方、本発明における炭素の濃化層は、クロ
ム炭化物が存在せず、炭素原子が侵入固溶して母相のオ
ーステナイト相の格子が等方に歪み膨張したオーステナ
イト相となっていることから、X線回折によってもクロ
ム炭化物のピークが現れない。
【0019】従来から、金属表面に上記のような炭素の
濃化層を形成させる場合には、炭素鋼や肌焼鋼を、鋼の
1 変態点(727℃)以上の温度で浸炭性のガス雰囲
気中に保持して炭素を拡散浸透させ、表面から約0.5
〜3mmの深さの浸炭硬化層を形成させる、いわゆる浸
炭処理が行われている。しかしながら、耐蝕性を重視す
るオーステナイト系ステンレスに対しては、上記のよう
な高温で浸炭処理を行うと、耐蝕性がはなはだしく低下
するうえ材料強度も低下することから、行われることは
なかった。このように、オーステナイト系ステンレスに
対して浸炭処理を行うことにより母材の耐蝕性が劣化す
る原因としては、高温で炭素原子を拡散浸透させること
で、母材中のクロムと浸透した炭素が反応し、Cr23
6 ,Cr7 3 ,Cr3 2 等のクロム炭化物が結晶粒
界や転位等の欠陥部分に析出し、母材中の固溶クロムが
消費され、耐蝕性の向上に寄与する固溶クロム濃度が大
幅に低下するためと考えられている。
【0020】これに対し、本発明では、炭素を浸透させ
る際の温度が400〜500℃と、上記一般の浸炭温度
領域よりはるかに低いことから、炭素濃化層は、結晶質
のクロム炭化物が形成されることがなく、クロム炭化物
が存在しないオーステナイト相から形成されるため、固
溶クロムが炭化物の生成に消費されず、耐蝕性が低下す
ることがない。それだけでなく、本発明の高耐蝕性金属
製品の炭素の濃化層は、母材であるオーステナイト系ス
テンレスよりも格段に優れた耐蝕性を発揮するのであ
る。
【0021】このように、本発明の高耐蝕性金属製品の
炭素の濃化層が、母材であるオーステナイト系ステンレ
スよりも優れた耐蝕性を示す理由については、現状では
明確ではないが、つぎの二つの理由によるものと推測さ
れる。すなわち、まず第一に、炭素が高濃度に固溶した
ことによって、最表面に形成される不働態皮膜直下の金
属組織の均等化が進み、不働態皮膜の不働態化機能を強
化させたものと推測される。そして、第二に、表層部に
高濃度のCバンドが形成されているため、金属イオンの
拡散バリヤーが形成されているものと推測される。
【0022】ここで、本発明において不働態皮膜とは、
ステンレス鋼の最表面に形成される、酸化クロム(Cr
2 3 )を主体とする金属酸化物で形成された薄い表面
層をいう。
【0023】上記炭素の濃化層における炭素濃度は、E
PMAによる線分析および面分析によって測定すること
ができる。図9〜図11に、SUS316材を480℃
で16時間炭素原子の浸透処理したもの(a),450
℃で浸透処理後酸洗処理したもの(b)、および600
℃で浸炭処理したもの(c)の濃化層中の炭素濃度のE
PMA分析結果を示す。本発明における代表的な温度範
囲である480℃で浸透処理したもの(a)〔図9〕お
よび450℃で浸透処理したもの(b)〔図10〕で
は、最大炭素濃度は、1.8〜2.0重量%にも達して
いる。これに対し、600℃で浸炭処理したもの(c)
〔図11〕においては、最大炭素濃度が1.03重量%
程度と低い(最表面のピークは付着物を感知したもので
ある)。このように、本発明では、濃化層の炭素濃度が
非常に高いことが特徴であり、高硬度の濃化層が形成さ
れる一因となっている。なお、本発明において、形成さ
れる濃化層において、炭素濃度が最大になるところは、
図9〜図11のEPMA分析結果からも明らかなように
最表面である。
【0024】この表面の最大炭素濃度は、浸透処理の際
の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルによって変化する
が、本発明で好適に実施される温度領域である400〜
500℃での処理によって形成される濃化層では、最大
で1.2〜2.6重量%に達することがわかっている。
この数値は、1100℃における純鉄のオーステナイト
相への炭素の固溶限度である1.7重量%よりも高い数
値を示している。なお、一般に、クロムを多量に含有す
るステンレスを600℃以上で浸炭した場合に形成され
る浸炭層中の炭素濃度も、最大1.5%以上になる場合
があるが、この場合の炭素は、全て上述のCr236
の炭化物として析出し、本発明の場合のようにオーステ
ナイト相の格子中に固溶した状態ではほとんど存在しな
いことが文献的に知られている。一例として、本発明者
らがSUS316ステンレス材に600℃で浸炭処理し
たときのX線回折データと、このときの格子定数を図8
に示す。図から明らかなように、600℃で浸炭処理し
たステンレス材には、Cr236 のピークが現れている
ことがわかる。
【0025】つぎに、オーステナイト系ステンレスから
なる金属製品の表面に上述のような炭素の濃化層を形成
させ、本発明の高耐蝕性金属製品を製造する方法につい
て説明する。
【0026】本発明の高耐蝕性金属製品は、例えば、図
1に示すマッフル炉で炭素原子を浸透させることが行わ
れる。図1において、1はマッフル炉、2はその外殻、
3はヒータ、4は内容器、5はガス導入管、6は排気
管、7はモーター、8はファン、11は金網製のかご、
13は真空ポンプ、14は排ガス処理装置、15,16
はボンベ、17は流量計、18はバルブである。
【0027】上記マッフル炉1内において、オーステナ
イト系ステンレスから形成された金属製品に炭素の濃化
層を形成させる場合には、まずフッ化処理を行い、つい
で炭素原子の浸透処理を行うのである。すなわち、上記
マッフル炉1内に、オーステナイト系ステンレス製品1
0を入れ、ボンベ16を流路に接続し、NF3 等のフッ
素系ガスを上記マッフル炉1内に導入して加熱しながら
フッ化処理を行う。ついで、排気管6からそのガスを真
空ポンプ13の作用で引き出し、排ガス処理装置14内
で無毒化して外部に放出する。つぎに、ボンベ15を流
路に接続しマッフル炉1内に浸炭性ガスを導入して加熱
し、炭素の浸透処理を行う。そののち、排気管6,排ガ
ス処理装置14を経由してガスを外部に排出する。この
一連の作業により母材のオーステナイト相に炭素原子が
浸透し、炭素の濃化層が形成されるのである。
【0028】より詳しく説明すると、まず、オーステナ
イト系ステンレスを所望の製品形状に成形し、このオー
ステナイト系ステンレス製品を上記マッフル炉1に装入
し、窒素雰囲気下で300〜400℃に加熱する。その
後、NF3 等のフッ素系ガスを炉内に導入し、その状態
で10〜30分間保持してオーステナイト系ステンレス
製品の表面をフッ化させ、表面の不働態皮膜を一旦破壊
して製品表面を活性化させる(以上、フッ化処理)。こ
のように、オーステナイト系ステンレス製品をフッ素系
ガス雰囲気下で処理することにより、オーステナイト系
ステンレス製品の表面に形成された、Cr2 3 を含む
不働態皮膜がフッ化膜に変化する。このフッ化膜は、上
記不働態皮膜に比べ、炭素原子の浸透を容易にすると予
想され、オーステナイト系ステンレスの表面は、上記フ
ッ化処理によって炭素原子の浸透の容易な表面状態にな
るものと推測される。
【0029】上記フッ化処理に用いられるフッ素系ガス
としては、上記NF3 に限定されず、F2 ,HF,BF
3 ,CF4 ,SF6 ,ClF3 ,C2 6 ,WF6 ,C
HF3 ,SiF4等からなるフッ素化合物ガスがあげら
れ、これらは、単独でもしくは2種以上併せて使用され
る。また、これらのガス以外に、分子内にフッ素(F)
を含む他のフッ素系ガスも上記フッ素系ガスとして用い
ることができる。また、このようなフッ素化合物ガスを
熱分解装置で熱分解させて生成させたF2 ガスや、あら
かじめ作られたF2 ガスも上記フッ素系ガスとして用い
ることができる。このようなフッ素化合物ガスとF2
スとは、場合によって混合使用される。そして、上記フ
ッ素化合物ガス,F2 ガス等のフッ素系ガスは、それの
みで用いることもできるが、通常はN2 ガス等の不活性
ガスで希釈されて使用される。このような希釈されたガ
スにおけるフッ素系ガス自身の濃度は、容量基準で、例
えば、10000〜100000ppmであり、好まし
くは20000〜70000ppm、より好ましくは、
30000〜50000ppmである。このフッ素系ガ
スとして最も実用性を備えているのは上述したNF3
ある。このNF3 は、常温でガス状であり、化学的安定
性が高く取扱いが容易であることから、安全性,操作
性,使用効率等の点で有利だからである。
【0030】フッ化処理温度は、300〜400℃が最
適であるが、フッ素系ガスの使用効率が多少悪化するこ
とを考慮に入れなければ、400〜500℃であっても
特に不都合はない。
【0031】ついで、上記フッ化処理ののち、フッ素系
ガスを止め、さらに450〜480℃まで炉内を昇温
し、浸炭性ガス(例えば、CO:20体積%,H2 :3
0体積%,CO2 :1体積%,残部:N2 混合ガス)を
吹き込み、3〜20時間保持したのち、炉から取り出す
(以上、炭素の浸透処理)。この浸透処理温度が、50
0℃を超えると、浸透処理によって形成される炭素の濃
化層の耐蝕性が、母材であるオーステナイト系ステンレ
ス材よりも低下し、さらに温度が上がると、急激に耐蝕
性が劣化する。したがって、500℃以下、好ましくは
400〜480℃の温度範囲で処理することが必要であ
る。なお、400℃未満では、炭素の拡散速度が遅くな
るので、処理時間が非常に長くかかり、コスト面等で好
ましくない。
【0032】上記浸透処理に用いる浸炭性ガスとして
は、CO,H2 を含む浸炭性のガスであれば特に限定さ
れるものではなく、CO+H2 +CO2 混合ガスや、炭
化水素ガスに空気を混合して変成した、いわゆるRXガ
ス〔RXガスの成分は、例えば、CO:23体積%+C
2 :1体積%+H2 :31体積%+H2 O:1体積%
+残部:N2 〕等でもよい。また、適宜、C3 8 ,C
3 6 ,C2 4 等の炭化水素ガスを使用してもよい。
【0033】つぎに、上記浸透処理の終了後、50〜7
0℃に加温したHF+HNO3 溶液に30分間浸漬して
酸洗処理する(仕上げ処理)。この酸洗処理により、上
記浸透処理において黒色に変色したオーステナイト系ス
テンレス製品の表面が、ほぼ、母材と同様の光輝性を備
えた外観になるのである。しかも、この酸洗処理を行っ
ても、濃化層の厚さにはほとんど影響がない。ここで、
HF+HNO3 溶液の濃度は、HF:1〜7重量%+H
NO3 :10〜20重量%程度が好ましい。なお、浸透
処理後の酸洗処理としては、HF+HNO3 溶液による
浸漬洗浄処理に限るものではなく、HCl+HNO3
液や、HNO3 溶液,H2 SO4 +HNO3 溶液等を用
いた浸漬洗浄処理でもよい。ここで、HCl+HNO3
溶液の濃度は、HCl:5〜20重量%+HNO3 :1
5〜40重量%程度が好ましく、HNO3 溶液の濃度
は、10〜30重量%程度が好ましい。なお、上記酸洗
処理に用いる溶液の液温としては、50〜70℃に限ら
ず、70℃以上でもよいし、50以下でもよい。また、
仕上げ処理としては、酸洗処理でなくても、機械的研磨
や化学研磨あるいは電解研磨でもよい。この仕上げ処理
ののち大気中に取り出すと、金属製品の表面に再び不働
態皮膜が形成される。
【0034】上述のような一連の処理により、表面から
5〜50μmの深さの炭素の濃化層が形成されたオース
テナイト系ステンレス製品が得られる。
【0035】本発明で、炭素を浸透させる浸透処理温度
は、400℃〜500℃であるが、一般の炭素鋼や合金
鋼は、600℃以下という低温(A1 変態点以下)では
オーステナイトに変態せず、ほとんどがフェライト,パ
ーライト相を呈しているため、炭素はほとんど固溶せ
ず、炭素の浸透も行われない。一方、オーステナイト系
ステンレスでは、上記のような低温でもオーステナイト
相を呈するが、500℃以下の低温では強固な不働態皮
膜が形成されていて、鋼中への窒素(N)や炭素(C)
の拡散浸透が阻止されている。そのうえ、炭素は、窒素
に比べて原子半径が大きく、しかもクロムとの親和力も
小さいことから、窒素に比べて母材中への拡散浸透が困
難である。そのため、オーステナイト系ステンレスであ
っても、500℃以下の低温では、通常は、やはり浸炭
は行われない。また、上記のような低温では、浸炭性ガ
スとして使用するCO+H2 +CO2 混合ガスやCO+
CO2 混合ガス等に含まれるCOが、(2CO→CO2
+C)のいわゆるブードア反応を生じ、炉内に炭素が析
出して炉壁等が汚染されるという問題がある。これらの
ような理由から、上記のような低温での炭素の浸透処理
は全く行われていなかった。本発明では、このような技
術常識を破り、上述のようなフッ素系ガスを使用した前
処理を行うことによってオーステナイト系ステンレス製
品の表面を活性化させ、炭素の濃化層が形成された金属
製品を製造することに成功したのである。
【0036】上記炭素の濃化層の深さは、上記浸透処理
の際の処理時間と処理温度とによって決定される。最表
面における最大炭素濃度は、ある程度以上の濃化層の深
さ(すなわち、炭素原子の浸透深さ)があれば、大きな
影響は受けないことから、耐蝕性の観点からは、濃化層
の深さは5〜15μmあれば充分であると考えられる。
また、上記濃化層は、炭素原子の侵入固溶により格子歪
みを起こして硬化しており、15〜50μmの深さをも
つ濃化層であれば、表面硬度はマイクロビッカースでH
v850〜950程度に達する。したがって、炭素の浸
透処理の前にあらかじめ固溶化処理をしたもの等、芯部
硬度が低く、強度の弱い金属製品の場合には、上記濃化
層を深くした方が、製品の損傷等を防ぐ意味で好まし
い。
【0037】上記炭素の濃化層は、王水等の強いエッチ
ング液によってエッチングすることにより、通常の金属
顕微鏡で容易に観察できる。図2は、SUS316材を
用い、NF3 +N2 ガス雰囲気で350℃で15分間フ
ッ化処理を行い、CO:21体積%+H2 :31体積%
+CO2 :5体積%+残部N2 ガス雰囲気で480℃で
12時間炭素の浸透処理を行ったサンプルを、切断,研
磨後、エッチングし、600倍に拡大した断面顕微鏡写
真である。図の下側から、母材,濃化層,埋め込み用樹
脂(黒色の部分)を示している。図からわかるとおり、
表面層28μmに炭素の濃化層が形成されている。
【0038】また、上記炭素の濃化層の組織状態は、X
線回折法(X−ray Diffraction)によ
って把握することができる。その回折結果例を、母材で
ある未処理のオーステナイト系ステンレス材と比較した
結果を図3に示す。すなわち、図3において、(A)は
SUS316材未処理品のX線回折チャートであり、
(B)はSUS316材を480℃で浸透処理後酸洗処
理を行ったもののX線回折チャートである。これらのX
線回折チャートの比較結果からわかるとおり、各チャー
トのオーステナイト相のピーク位置(図において○で示
すピーク)を比較すると、480℃で浸透処理後仕上げ
処理を行ったもの(B)のオーステナイト相のピーク
は、未処理材(A)のピークよりも低角度側(左側)に
シフトしている。すなわち、このことから、上記浸透処
理品(B)は、オーステナイト相に格子歪が生じている
ことが明らかである。この格子歪は、炭素が高濃度に侵
入固溶したことにより、格子が等方に膨張したものであ
り、この歪みが濃化層を硬化させているものと考えられ
る。なお、上記X線回折は、RINT1500装置を用
い、50kV,200mA,Cuターゲットの条件下で
行った。
【0039】そして、上記濃化層は、通常の700℃以
上の高温での浸炭処理で得られる浸炭硬化層とは全く異
なった特性を有するのである。一般に、オーステナイト
系ステンレスの母相であるオーステナイト相への炭素の
溶解度は低く、700℃以上の高温で浸炭処理を行う
と、浸透したものの溶解しきれない過剰の炭素が、炭化
物として粒界や転位等の欠陥部分に析出される。このよ
うな場合には、X線回折によって、Cr236 ,Cr7
3 ,Fe3 C等の安定な炭化物が析出しているのが確
認できる。すなわち、本発明の高耐蝕性金属製品の炭素
の濃化層は、図3のX線回折チャート(B)に示すよう
に、Cr236 ,Cr7 3 等の結晶質のクロム炭化物
が析出せず、母材と同様のオーステナイト相であり、格
子定数が母材のそれよりも約2%程度増大している。一
方、上記のように、高温で処理された浸炭硬化層では、
浸透した炭素がクロム等と反応して炭化物を形成するこ
とから、格子定数は母材とほとんど変わらないか、もし
くは増大しても0.02%にとどまる(図8参照)。
【0040】また、700℃以上の高温で処理されたも
のでは、50〜60℃に加温したHF+HNO3 溶液に
浸漬すると、十数分で浸炭層が溶解し消失してしまう。
これに対し本発明の高耐蝕性金属製品では、上記HF+
HNO3 溶液に浸漬しても濃化層の厚みはほとんど変わ
らない。このことは、本発明の高耐蝕性金属製品の炭素
の濃化層が、高い耐蝕性を有していることを示してい
る。
【0041】つぎに、本発明の高耐蝕性金属製品の耐蝕
性に関して説明する。オーステナイト系ステンレスの耐
蝕性は、表面に形成される不働態皮膜の特性、特に、皮
膜中のCr2 3 分の濃度や均一性に依存すると考えら
れている。これらは、基材の合金組成だけでなく、加工
履歴等に基づく不働態皮膜直下の組織の不均一性によっ
ても影響を受けると考えられている。本発明の高耐蝕性
金属製品は、母材をオーステナイト相とし、炭素原子の
浸透により、表面層に炭素の濃化層が形成されているこ
とから、不働態皮膜直下に高濃度の炭素バンドが形成さ
れ、その結果として、母材であるオーステナイト系ステ
ンレスよりも格段に優れた耐蝕性を発揮すると考えられ
るのである。
【0042】例えば、図4および図5に、それぞれSU
S316の未処理材と、このSUS316に480℃で
12時間浸透処理をしたサンプルとのアノード分極曲線
の測定結果を示す。図からわかるとおり、未処理材が、
明瞭な活性態領域のピーク(活性態領域とは、アノード
分極したときに電位の上昇とともに電流が急増する領域
であり、鋼が活性状態で溶解する領域をいう:図4にお
けるE)を示しているのに対し、浸透処理をして炭素の
濃化層が形成されたサンプルは、活性態領域のピークが
ほとんど見られない。また、自然電極電位(鋼の自然腐
食電位である:図示のD)についても、未処理材が−2
80mVであるのに対し、浸透処理品は10mVとはる
かに貴である。これらのことから、濃化層が形成された
サンプルは、未処理材と比べ極めて不働態皮膜を形成し
やすいこと、および炭素の濃化層は母材より貴なる金属
組織であることが判明した。なお、アノード分極曲線の
測定は、以下の条件で行った。
【0043】また、SUS304材の未処理材と、この
SUS304材に460℃で12時間浸透処理をして炭
素の濃化層が形成されたサンプルの孔食電位の測定結果
を図6に示す。図からわかるとおり、電位を徐々に上昇
させると、未処理材では約240mV前後の電位で急激
に電流密度が上昇している。これに対し浸透処理品は、
上記未処理材の場合よりもはるかに高い約920mVま
で急激な電流密度の上昇はない。すなわち、この測定に
おいて急激に電流密度が上昇した時点で孔食が発生する
ものと考えられることから、本発明の高耐蝕性金属製品
は、オーステナイト系ステンレス材において弱点とされ
ている耐孔食性について、著しく改善されていることを
示している。なお、孔食電位の測定は、JIS 057
7に規定された条件で行った。
【0044】なお、本発明では、フッ化処理後、すぐに
炭素の浸透処理に移行するのを基本とするが、場合によ
っては、中間処理として、フッ化処理後、雰囲気ガス中
にNH3 ガスを添加し、10〜30分間加熱保持するこ
ともできる。この中間処理によって、少なくともこれに
続いて行われる炭素の浸透処理が安定化する等の効果が
確かめられている。上記中間処理温度としては、結晶性
CrNの生成を排除するよう、低い温度で処理すること
が望まれ、400〜480℃の範囲で行うことが好まし
い。この中間処理を行ったものをEPMAで分析する
と、浸透した窒素(N)は、炭素の浸透処理が完了した
のち、ごく表層部に炭素と重複してその存在が認めら
れ、その濃度は、約0.5〜1%と低く、多くの場合、
HF−HNO3 溶液等による酸洗処理(仕上げ処理)で
除去されるので、本発明の耐蝕性には悪影響をおよぼさ
ない。
【0045】
【発明の効果】このように、本発明によれば、基本組成
に近い安価な汎用型のステンレスを使用し、その表面に
炭素の濃化層を形成させることにより、耐酸性,耐海水
性,耐薬品性に優れ、高い耐蝕性を有する金属製品を安
価に得ることができる。そのため、ボルト,ナット,ね
じ等のファスナー類から、一般産業分野において使用さ
れる、機械部品、すなわち、各種のシャフト類やインペ
ラー,ベアリング,ばね類,バルブ部品等,多様な機械
部品に有用である。また、特に、食品機械,化学プラン
ト,半導体工業等の分野に用いられる機械部品用として
有望である。
【0046】なお、本発明において対象とする鋼種は、
SUS304やSUS316等安価な汎用型のステンレ
スに限られない。すなわち、本発明の高耐蝕性金属製品
は、母材であるオーステナイト系ステンレス以上の耐蝕
性を有する炭素の濃化層を形成させることにより、優れ
た耐蝕性を発揮するものである。したがって、SUS3
17,SUS310等の上記汎用型ステンレスよりも耐
蝕性のよいオーステナイト系ステンレスを母材として使
用することにより、その母材よりも耐蝕性のよい濃化層
を形成させ、一層優れた耐蝕性を発揮させることもでき
るのである。
【0047】つぎに、実施例について説明する。
【0048】
【実施例1】板厚を2.5mmに圧延し、15mm×1
5mmに切断したSUS304(Cr含量:18.1重
量%,Ni含量:7.9重量%,C含量:0.08重量
%,残部:Fe)板片、ならびに、SUS316(Cr
含量:18.3重量%,Ni含量:12.4重量%,M
o含量:2.5重量%,残部:Fe)板片をそれぞれ複
数個準備した。また、上記SUS304板片の一部は、
真空炉で1020℃に加熱したのち急冷して固溶化処理
を行い、オーステナイト相を呈するようにした。なお、
固溶化処理を行わないSUS304板片は、圧延加工に
よりフェライトが析出している。また、SUS316板
片は、上記圧延加工後もオーステナイト相を呈してい
る。これら板片の硬度を測定したところ、SUS304
の圧延品はHv250、SUS316の圧延品はHv2
90、SUS304の固溶化処理品はHv140であっ
た。
【0049】つぎに、これらの板片を、図1に示す炉に
装入し、N2 雰囲気下で350℃に加熱したのち、10
体積%NF3 +90体積%N2 混合ガスを15分間吹き
込み、フッ化処理を行った。そののち、N2 雰囲気下で
480℃に昇温し、12時間保持して炭素の浸透処理を
行ったのち取り出した。そののち、65℃に加温した
3.5重量%HF+15重量%HNO3 溶液に40分間
浸漬して仕上げ処理を行った。この仕上げ処理(酸洗)
により、黒色を呈していた浸透処理品は、もとの未処理
品と同等の金属外観を呈するようになった。これら板片
の浸透処理後酸洗前と、酸洗後の表面硬度(マイクロビ
ッカース:Hv)と炭素の濃化層深さを測定した結果
を、下記の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】上記表1の結果から明らかなように、SU
S304の圧延品に浸透処理したものは、圧延加工によ
って母材にフェライトが析出しているため、浸透処理を
施したものでも耐蝕性が悪く、浸透処理後の酸洗によっ
て、濃化層深さが略3分の1以下に減少している。これ
に対し、SUS304固溶化処理品,SUS316圧延
品に浸透処理したものは、母材にフェライトの析出がな
く、オーステナイト相を呈していたため濃化層の耐蝕性
が良好で、浸透処理後の酸洗によっても、ほとんど濃化
層深さが減少していないことがわかる。
【0052】つぎに、SUS304圧延品各板片につ
き、50℃に加温した20%硫酸に浸漬し、浸漬時間の
経過とともに板片の重量が減少する減少重量を測定し
た。その結果を図7に示す。図7の結果から明らかなよ
うに、SUS304固溶化処理品の未処理品は、20時
間以上浸漬すると、500g/m2 以上の重量の減少が
あったが、SUS304固溶化処理品に浸透処理を行っ
たものは、24時間浸漬後の減少重量が約220g/m
2 と、未処理品の2分の1以下であった。また、SUS
316圧延品の未処理品は、24時間浸漬後の減少重量
が約420g/m2であったのに対し、SUS316圧
延品に浸透処理を行ったものは、ほとんど重量の減少が
なかった。このように、SUS304固溶化処理品およ
びSUS316圧延品に浸透処理を行ったものは、浸透
処理を行わない未処理の板片よりも格段に良好な耐蝕性
を示すことがわかる。
【0053】
【実施例2】一般に市販されているSUS304(Cr
含量:18.5重量%,Ni含量:8.5重量%,C含
量:0.08重量%,残部:Fe)板材の軟質品(母材
硬度Hv170〜180)と、SUS316(Cr含
量:17重量%,Ni含量:13.5重量%,Mo含
量:2.5重量%,C含量:0.06重量%,残部:F
e)板材(母材硬度Hv210〜230)より、それぞ
れ、厚み2mm×10mm×10mmの板片を複数個準
備した。これらの一部を、図1に示す炉において440
℃に昇温し、NF3 :10体積%+N2 :90体積%混
合ガスを25分間吹き込んでフッ化処理を行った。つい
で、H2 :32体積%+CO:20体積%+CO2 :1
体積%+残部:N2 の浸炭性ガスを導入し、8時間保持
して炭素の浸透処理をした後、取り出した。つぎに、5
5℃に加温した4重量%HF+15重量%HNO3 溶液
に20分間浸漬したのち、表面状態を調査したところ、
SUS304板片で、濃化層深さが8μm、表面硬度が
Hv380であった。SUS316板片で、濃化層深さ
が12μm、表面硬度がHv550であった。これら浸
透処理品と、未処理品を、ダイヤモンドペーストによる
研磨仕上げを行ったのち、65℃に加温した15重量%
のHNO3 溶液でパッシベーション処理を施して供試験
サンプルとした。つぎに、生理食塩水(37℃に加温し
た0.5重量%NaCl溶液)を準備し、各サンプルを
1週間浸漬して金属イオンの溶出状況を原子吸光分析に
より調査した。その結果を下記の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】上記表2の結果から明らかなように、未処
理品は、本発明品に比べ、FeイオンおよびNiイオン
の溶出が多いことがわかる。すなわち、本発明の金属製
品は、浸透処理により、未処理品(すなわち母材)より
も耐蝕性が向上していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浸透処理に用いる炉の構成図である。
【図2】本発明の高耐蝕性金属製品の表層部の断面拡大
顕微鏡写真である。
【図3】SUS316未処理品,およびSUS316板
材を480℃で浸透処理した後、強酸浸漬処理を行った
処理品のX線回折チャートである。
【図4】SUS316の未処理材のアノード分極曲線の
測定結果である。
【図5】SUS316を480℃で浸透処理したサンプ
ルのアノード分極曲線の測定結果である。
【図6】SUS316の未処理材と、このSUS316
を480℃で浸透処理したサンプルの孔食電位測定結果
である。
【図7】SUS304固溶化処理品,SUS316圧延
品、およびこれらを480℃で浸透処理したサンプルの
硫酸浸漬テストの結果である。
【図8】SUS316材を600℃で浸炭処理した処理
品のX線回折チャートである。
【図9】SUS316材を480℃で浸透処理した処理
品のEPMA分析結果である。
【図10】SUS316材を450℃で浸透処理した処
理品のEPMA分析結果である。
【図11】SUS316材を600℃で浸炭処理した処
理品のEPMA分析結果である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 林田 忠司 兵庫県尼崎市中浜町1番8号 大同ほく さん株式会社 尼崎工場内 (72)発明者 田原 正昭 兵庫県尼崎市中浜町1番8号 大同ほく さん株式会社 尼崎工場内 (56)参考文献 特開 平9−249959(JP,A) 特開 平8−158035(JP,A) 特開 平9−71853(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 8/22

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材が、オーステナイト相を呈するオー
    ステナイト系ステンレスからなり、表面に不働態皮膜が
    形成され、かつ、この不働態皮膜表面から5〜50μm
    の深さの表面層が、炭素原子の浸透によって、炭素の濃
    化層に形成されたことを特徴とする高耐蝕性金属製品。
  2. 【請求項2】 オーステナイト系ステンレスが、モリブ
    デンを含有するオーステナイト系ステンレスである請求
    項1記載の高耐蝕性金属製品。
  3. 【請求項3】 濃化層が、クロム炭化物が存在しないオ
    ーステナイト相から形成されている請求項1または2記
    載の高耐蝕性金属製品。
  4. 【請求項4】 濃化層の最大炭素濃度が1.2〜2.6
    重量%である請求項3記載の高耐蝕性金属製品。
  5. 【請求項5】 母材がオーステナイト相を呈するオース
    テナイト系ステンレス製品を、フッ素系ガス雰囲気下で
    加熱状態で保持し、ついで、400℃〜500℃の温度
    で炭素原子の浸透処理を行い、表面から5〜50μmの
    深さの表面層に炭素の濃化層を形成し、ついで、最表面
    層を除去する仕上げ処理を行い、この仕上げ処理ののち
    不働態皮膜形成処理を行い、請求項1〜4のいずれか一
    項に記載の高耐蝕性金属製品を得ることを特徴とする高
    耐蝕性金属製品の製法。
  6. 【請求項6】 フッ素系ガス雰囲気下における加熱が3
    00〜500℃である請求項5記載の高耐蝕性金属製品
    の製法。
  7. 【請求項7】 仕上げ処理が、酸洗処理である請求項5
    または6記載の高耐蝕性金属製品の製法。
  8. 【請求項8】 フッ素系ガス雰囲気下における加熱保持
    後、雰囲気中にNH3 ガスを添加して加熱保持したの
    ち、炭素原子の浸透処理を行う請求項5〜7のいずれか
    一項に記載の高耐蝕性金属製品の製法。
JP08192797A 1996-03-14 1997-03-13 高耐蝕性金属製品およびその製法 Expired - Lifetime JP3213254B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP08192797A JP3213254B2 (ja) 1996-03-14 1997-03-13 高耐蝕性金属製品およびその製法

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP8-57900 1996-03-14
JP5790096 1996-03-14
JP08192797A JP3213254B2 (ja) 1996-03-14 1997-03-13 高耐蝕性金属製品およびその製法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH09302456A JPH09302456A (ja) 1997-11-25
JP3213254B2 true JP3213254B2 (ja) 2001-10-02

Family

ID=26398988

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP08192797A Expired - Lifetime JP3213254B2 (ja) 1996-03-14 1997-03-13 高耐蝕性金属製品およびその製法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3213254B2 (ja)

Families Citing this family (12)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US6905758B1 (en) 1987-08-12 2005-06-14 Citizen Watch Co., Ltd. Decorative item and process for producing the same
US6165597A (en) * 1998-08-12 2000-12-26 Swagelok Company Selective case hardening processes at low temperature
JP2000329042A (ja) * 1999-05-20 2000-11-28 Mitsubishi Electric Corp スタータ
WO2000075522A1 (fr) * 1999-06-04 2000-12-14 Nsk Ltd. Dispositif a palier et procede de fabrication d'un tel dispositif
CN100374613C (zh) * 1999-09-07 2008-03-12 西铁城控股株式会社 装饰品及其制造方法
DE60037273T2 (de) * 1999-12-27 2008-10-09 Asahi Kasei Kabushiki Kaisha Thermoplastische vernetzte kautschukzusammensetzungen
JP2001330038A (ja) * 2000-03-17 2001-11-30 Nsk Ltd 転がり支持装置
JP4651837B2 (ja) * 2001-03-09 2011-03-16 シチズンホールディングス株式会社 食器類およびその製造方法
JP2002266083A (ja) * 2001-03-09 2002-09-18 Citizen Watch Co Ltd 装飾部品およびその製造方法
US7208052B2 (en) * 2003-12-23 2007-04-24 Rolls-Royce Corporation Method for carburizing steel components
PL1956099T3 (pl) * 2007-02-02 2009-09-30 Wmf Group Gmbh Sztućce z ferrytycznej stali stopowej z martenzytyczną warstwą brzegową
JP4624393B2 (ja) * 2007-10-04 2011-02-02 エア・ウォーターNv株式会社 ステンレス鋼ばね

Also Published As

Publication number Publication date
JPH09302456A (ja) 1997-11-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US5792282A (en) Method of carburizing austenitic stainless steel and austenitic stainless steel products obtained thereby
KR100274299B1 (ko) 오스테나이트계 스테인레스제품의 질화방법
EP0678589B1 (en) Method of carburizing austenitic metal
JP3213254B2 (ja) 高耐蝕性金属製品およびその製法
JP3064938B2 (ja) オーステナイト系ステンレスに対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系ステンレス製品
EP0787817A2 (en) Method of carburizing austenitic stainless steel and austenitic stainless steel products obtained thereby
JPH0971853A (ja) 浸炭硬化締結用品およびその製法
JP5083857B2 (ja) 被覆部材およびその製造方法
JP4133842B2 (ja) ステンレス鋼ばねの製造方法
JP3174422B2 (ja) ステンレス窒化品
JP3064937B2 (ja) オーステナイト系金属に対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系金属製品
JP3005952B2 (ja) オーステナイト系金属に対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系金属製品
JPS6140750B2 (ja)
JP3064908B2 (ja) 浸炭硬化時計部材もしくは装飾品類およびそれらの製法
JPH1018017A (ja) オーステナイト系金属に対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系金属製品
JP3064909B2 (ja) 浸炭硬化食器類およびその製法
JP2004325190A (ja) 鋼のオーステナイト粒界の現出方法
JPH09143614A (ja) 耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼
KR100289286B1 (ko) 스테인레스 질화제품
JP3248772B2 (ja) 耐食性食器類
JPH10330906A (ja) オーステナイト系ステンレス製品の製法
JP3326425B2 (ja) ステンレス品の窒化方法
JPH07126828A (ja) 半導体製造装置用高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼部材の製造方法
JP3288166B2 (ja) マイクロシャフト
Kochmanski et al. Structure and properties of gas-nitrided, precipitation-hardened martensitic stainless steel. Materials 2022; 15: 907

Legal Events

Date Code Title Description
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20010710

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080719

Year of fee payment: 7

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080719

Year of fee payment: 7

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090719

Year of fee payment: 8

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090719

Year of fee payment: 8

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100719

Year of fee payment: 9

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110719

Year of fee payment: 10

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313111

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110719

Year of fee payment: 10

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110719

Year of fee payment: 10

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120719

Year of fee payment: 11

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120719

Year of fee payment: 11

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130719

Year of fee payment: 12

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

EXPY Cancellation because of completion of term