JP4597320B2 - 粉砕・分散・混合用メディアおよびその製造方法 - Google Patents

粉砕・分散・混合用メディアおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、粉砕・分散・混合用メディアおよびその製造方法に関するもので、特に、メディア芯部が強磁性金属からなり、表面層がジルコニア質焼結体からなる、粉砕・分散・混合用メディアおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子部品のための材料に代表される高機能材料に使用される粉体に対しては、微粉化および高純度化が要求されている。そのため、粉体を得るために用いられる粉砕機としては、たとえば、高速でメディアを攪拌しながら粉砕処理を実施するメディア攪拌型粉砕機が有利に使用され、また、小径のメディアを使用することによって、高い粉砕・分散・混合効率を実現しようとしている。このようなことから、使用されるメディアとしては、耐摩耗性に優れたジルコニア製メディアが主流となっている。
【0003】
しかしながら、メディア径が小さくなるほど、メディア1個あたりの重量がより小さくなり、そのため、粉砕・分散・混合処理において働くエネルギーがより小さくなる。このことから、より高効率の粉砕・分散・混合処理を可能とするためには、より密度の高いメディアが求められている。
【0004】
また、メディア攪拌型粉砕機の場合、メディアと粉砕・分散スラリーとを互いに分離するため、スクリーンやギャップセパレータ等の分離機構が設けられている。
【0005】
しかしながら、メディア径が小さくなるほど、スクリーンやギャップセパレータ等による分離がより困難となるため、最近では、粉砕機内に遠心分離機構を設ける等の対策が採用されているものもある。また、遠心分離機構による場合であっても、スラリーの粘度が高くなったり、極めて小さいメディアを使用する場合には、効率よく十分に分離することが不可能である。
【0006】
このような背景の下、実開昭63−86846号公報には、重金属体芯部とこの芯部外面に形成されたセラミック表面層とからなる、セラミック粉砕メディアが提案されている。この公報においては、セラミックとして、ジルコニア、アルミナ、ムライト、シリカ等を用いることが記載され、また、中空のセラミック体に挿入口を設け、金属粉や溶融金属を中空セラミック体に充填する等の方法でセラミック粉砕メディアを作製する旨が記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
メディア攪拌型粉砕機において使用されるメディアには、高い耐摩耗性および高い衝撃抵抗性が要求される。しかしながら、前述した公報においては、セラミックとして、単に、ジルコニア、アルミナ、ムライト、シリカ等を用いると記載されているにすぎず、この公報に記載のセラミック粉砕メディアが、このような高負荷下で使用できるか否かは全く不明である。
【0008】
そこで、この発明の目的は、高密度であり、表面が優れた耐摩耗性および耐衝撃性を有し、スラリーとの分離が容易な粉砕・分散・混合用メディアおよびその製造方法を提供しようとすることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本件発明者は、前述のような現状に鑑み、鋭意研究を重ねてきた結果、メディア芯部が強磁性金属からなり、表面層として、高耐摩耗性を有するジルコニア質焼結体を形成することによって得られたメディアが、高い粉砕・分散効率、高耐摩耗性および高耐衝撃抵抗性を有し、磁力によりスラリーから容易に分離できることを見出し、この発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
すなわち、この発明に係る粉砕・分散・混合用メディアは、強磁性金属からなるメディア芯部と、このメディア芯部の外面を覆うように形成されかつジルコニア質焼結体からなる表面層とを備え、気孔率が%以下であり、かつ圧壊強さが710MPa以上であり、表面層の厚さが、当該粉砕・分散・混合用メディアの半径の14〜65%の範囲にあり、さらに、上記メディア芯部は、強磁性金属粉体の造粒体を焼結させて得られるものであり、このメディア芯部となる強磁性金属粉体または造粒体は、その表面に300Å以下の厚みの酸化膜が形成されたものであることを特徴としている。
【0011】
上述した強磁性金属としては、好ましくは、ニッケル系、鉄系、コバルト系およびガドリニウム系から選ばれた少なくとも1種を含む金属が用いられる。
【0012】
また、表面層を構成するジルコニア質焼結体は、主として正方晶ジルコニアからなり、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、かつ結晶粒径が0.7μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、このメディアは、その径が1mm以下であるとき、特に有効である。
【0015】
この発明は、また、上述のような粉砕・分散・混合用メディアを製造する方法にも向けられる。
【0016】
この製造方法は、1次粒子径が0.2〜5μmの範囲にある強磁性金属粉体からなる造粒体を用意する工程と、強磁性金属粉体の表面または造粒体の表面を800℃以下の温度で酸化処理する工程と、2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、比表面積が3〜30m2/gの範囲にあるジルコニア系粉体を用意する工程と、上述した造粒体をメディア芯部とし、かつこれを覆う表面層をジルコニア系粉体で形成した生のメディアを得るため、造粒体を覆うように、ジルコニア系粉体を湿式形成する工程と、造粒体を焼結させるとともに、ジルコニア系粉体を焼結させてジルコニア質焼結体とし、ジルコニア質焼結体の厚さが、当該粉砕・分散・混合用メディアの半径の14〜65%の範囲になるように、生のメディアを、不活性ガス雰囲気中、1200〜1550℃の範囲の温度で焼成する工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
上述した焼成工程において適用される温度が、1200〜1500℃の範囲にあり、この焼成工程の後、メディアを、不活性ガス雰囲気中、1400℃以下の温度でさらに熱間静水圧処理(HIP処理)することが好ましい。
【0019】
また、ジルコニア系粉体を湿式成形するにあたって、少なくとも水を含む液体が用いられることが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施形態による粉砕・分散・混合用メディアを説明するにあたって、まず、その製造方法を明らかにする。
【0021】
まず、強磁性金属粉体からなる造粒体が用意される。ここで、強磁性金属としては、たとえば、ニッケル系、鉄系、コバルト系およびガドリニウム系から選ばれた少なくとも1種を含む金属が用いられる。また、このように用いられる強磁性金属の密度は、6.0g/cm3 以上であることが好ましく、7.0g/cm3 以上であることがより好ましい。メディアを用いて粉砕・分散・混合処理を実施する際に働くエネルギーをより大きくするためである。
【0022】
強磁性金属粉体は、その1次粒子径が0. 2〜5μmの範囲、好ましくは0. 3〜4μmの範囲のものが用いられる。1次粒子径が上記の範囲を外れると、後述する成形工程における成形性および/または焼成工程における焼結性の低下を招くことがあるからである。
【0023】
また、強磁性金属粉体からなる造粒体は、その径が10〜150μm程度となるようにされる。
【0024】
他方、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有する、ジルコニア系粉体が用意される。
【0025】
より具体的には、ZrO2 とY2 3 との含有量が所定のモル比となるように、ジルコニウム化合物(たとえばオキシ塩化ジルコニウム)の水溶液とイットリウム化合物(たとえば塩化イットリウム)の水溶液とを均一に混合し、加水分解し、水酸化物を得、脱水、乾燥させた後、600〜1000℃で仮焼し、まず、ジルコニア系仮焼粉体を得る。
【0026】
ジルコニア系仮焼粉体を得るため、上述の方法に代えて、ジルコニウムおよびイットリウムを、酸化物または塩の形態で、水または有機溶媒を用いて湿式で混合し、脱水、乾燥させた後、400〜1250℃で仮焼し、ジルコニア系仮焼粉体を得るようにしてもよい。
【0027】
このようにして得られた仮焼粉体を、次いで、湿式により粉砕し、必要により、公知の成形助剤(ワックスエマルジョン、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂等)を加え、スプレードライヤ等の公知の方法で乾燥させかつ整粒し、それによってジルコニア系粉体を得ることができる。
【0028】
なお、Al2 3 のような他の成分の添加については、これを任意の段階で行なうことができる。たとえば、ジルコニウム化合物の水溶液とイットリウム化合物の水溶液とを混合する際、あるいは、ジルコニウムとイットリウムとを、酸化物または塩の形態で、水または有機溶媒を用いて混合する際、このような他の成分を、たとえば塩の水溶液として所定量添加することができる。あるいは、仮焼粉体を粉砕する際、このような他の成分を、水酸化物、炭酸化物、酸化物等の形態で添加することもできる。
【0029】
このようにして得られたジルコニア系粉体は、比表面積が3〜30m2 /gの範囲のものとされ、好ましくは、5〜20m2 /gの範囲のものとされる。このような範囲を外れると、後述する成形工程において、ジルコニア系粉体の成形性が低下したり、後述する焼成工程において、ジルコニア系粉体の焼結性が低下したり、焼成後において、強磁性金属からなるメディア芯部とジルコニア質焼結体からなる表面層との界面強度が低下したり、メディアに気孔や欠陥が多く生じたりし、メディアの強度、耐摩耗性および耐衝撃抵抗性の低下がもたらされるので、好ましくない。
【0030】
次いで、前述した強磁性金属粉体からなる造粒体をメディア芯部とし、かつこれを覆う表面層をジルコニア系粉体で形成した生のメディアを得るため、造粒体を覆うように、ジルコニア系粉体を湿式成形する工程が実施される。
【0031】
強磁性金属粉体の表面または造粒体の表面は、酸化処理されることが好ましい。このようにして、強磁性体金属粉体の表面に酸化膜が形成されることにより、後述する焼成工程によって、強磁性金属からなるメディア芯部とジルコニア質焼結体からなる表面層との界面において、焼結による強磁性金属とジルコニアとの化合物等を生成させ、界面強度を向上させることができる。なお、強磁性金属の表面に酸化膜が形成されていない場合には、メディア芯部と表面層との界面に隙間やクラックが形成されることがある。
【0032】
上述した酸化処理は、強磁性体の金属粉体の表面または造粒体の表面に施されるものであり、そのため、表面を酸化処理した強磁性金属粉体を造粒して造粒体を得るようにしても、強磁性金属粉体を造粒して造粒体を得た後、その表面を酸化処理しても、あるいは、アトマイズ法により作製した造粒体を酸化処理してもよい。
【0033】
酸化処理は、たとえば、大気中において、800℃以下、好ましくは500℃以下の温度で熱処理することによって施すことができ、強磁性金属粉体または造粒体の表面に形成される酸化膜は、300Å以下であることが好ましい。酸化膜が厚くなると、強磁性金属の磁力低下が起こり、磁力によるスラリーとの分離が困難となることがある。
【0034】
強磁性金属粉体からなる造粒体を覆うように、ジルコニア系粉体を湿式成形した状態を得るため、たとえば、ジルコニア系粉体中で強磁性金属粉体からなる造粒体を転がしながら液体を散布して、ほぼ球状で必要な強度を備えた凝集体(ペレット)を作製する、転動造粒成形法を適用することができる。この場合、流動層造粒機を用いて、強磁性金属粉体からなる造粒体をジルコニア系粉体によって予め被覆した状態としてから、上述したような転動造粒成形法を適用するようにしてもよい。また、ジルコニア系粉体を含むスラリー中に、強磁性金属粉体からなる造粒体を分散させた状態とし、ジルコニア系粉体が凝集するpH域に変化させて造粒体を覆うようにジルコニア系粉体を成形する、液中造粒成形法を適用することもできる。
【0035】
上述したようなジルコニア系粉体を湿式成形する工程において使用される液体としては、水を含有させたアルコール類、パラフィン系炭化水素類等の有機溶媒、もしくは可溶性高分子など、あるいは水を用いることができる。このように、湿式成形時に用いる液体において、水を含んでいると、後述する焼成工程の結果、強磁性金属からなるメディア芯部とジルコニア質焼結体からなる表面層との界面強度が高くなり、さらに、ジルコニア結晶粒界またはその近傍に第2相を形成し、結晶粒界強度が高くなり、そのため、得られたメディアの強度、耐摩耗性のみならず、耐衝撃抵抗性を優れたものとすることができる。
【0036】
次いで、生のメディアは、ArまたはAr+N2 ガス雰囲気のような不活性ガス雰囲気中において、1200〜1550℃の範囲の温度、好ましくは、1250〜1450℃の範囲の温度で焼成される。これによって、造粒体が焼結し、メディア芯部を形成するとともに、ジルコニア系粉体が焼結し、ジルコニア質焼結体からなる表面層を形成する。
【0037】
その後、必要に応じて、熱間静水圧処理(HIP処理)が施されてもよい。この場合、上述した焼成工程においては、1200〜1500℃の範囲の温度が適用され、この焼成工程を経て得られたメディアは、ArまたはN2 などの不活性ガス雰囲気中において、1400℃以下の温度でHIP処理される。このHIP処理によれば、焼成工程の結果、強磁性金属からなるメディア芯部とジルコニア質焼結体からなる表面層との界面およびジルコニア質焼結体からなる表面層の各部分に欠陥がある場合であっても、このような欠陥を低減または小さくすることができ、得られたメディアの摩擦、衝撃、圧壊等に対する抵抗性を高くすることができるとともに、耐摩耗性を向上させることができる。
【0038】
このように、強磁性金属からなるメディア芯部と、このメディア芯部の外面を覆うように形成されかつジルコニア質焼結体からなる表面層とを備える、この発明に係る粉砕・分散・混合用メディアが得られる。なお、このメディアに対して、前述した焼成工程等において汚染された表面部分を研磨などにより除去する工程がさらに実施されてもよい。
【0039】
この発明において、上述したメディアは、その気孔率が%以下であることを条件としている。気孔率が%を超える場合には、気孔が摩耗の起点となり、耐摩耗性の低下を招くので好ましくない
【0040】
また、この発明において、メディアの圧壊強さは710MPa以上であることが条件とされる
【0041】
圧壊強さが710MPa未満の場合には、メディア芯部の強磁性金属と表面層のジルコニア質焼結体との界面強度が低いか、表面層のジルコニア質焼結体に多くの欠陥を有することになり好ましくない。強磁性金属とジルコニア質焼結体との界面強度が低い場合には、高負荷下での使用において、表面層のジルコニア質焼結体に剥離や割れが発生しやすく、他方、表面層のジルコニア質焼結体に多くの欠陥を有する場合には、欠陥が摩耗の起点となり、耐摩耗性の低下を招くので好ましくない。
【0042】
圧壊強さは、材料試験機により測定することができる。すなわち、メディア1個を超硬合金板の間に挟み、クロスヘッドスピードを0. 5mm/分として加圧し、メディアが破壊した時点での負荷荷重(P)を求め、これとメディアの断面積(S)とから、δ=P/Sの式に基づき、圧壊強さ(δ)を算出することができる。
【0043】
なお、この発明に係るメディアの長径/短径は、1.2以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましい。長径/短径が1.2を超える場合には、たとえばミル内でメディアに高負荷が加えられたときに局所的な応力集中が生じ、割れが発生しやすくなり、耐衝撃抵抗性の低下を招くことがある。
【0044】
また、メディア径の分布は、平均メディア径の20%以内であることが好ましく、15%以内であることがより好ましい。メディア径の分布が20%を超える場合には、たとえばミル内でのメディアの円滑な動きが不可能となり、そのため、耐摩耗性の低下や粉砕・分散されるべき対象物の粒度分布が広くなりやすいことがある。
【0045】
また、前述のようにして得られたメディアにおいて、その表面層を構成するジルコニア質焼結体は、主として正方晶ジルコニアからなることが好ましい。
【0046】
この表面層に、単斜晶ジルコニアが含有されていると、その結晶周辺に微細なクラックが生じ、応力が付与されると、この微細なクラックを起点として微小破壊が起こり、圧壊強さおよび耐摩耗性の低下、さらには耐衝撃抵抗性の低下をもたらすことがある。
【0047】
他方、立方晶ジルコニアが含有されていると、正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態効果が小さくなり、圧壊強さ、破壊靭性等の機械的特性の低下をもたらし、さらには耐摩耗性の低下を招くことがある。
【0048】
なお、単斜晶ジルコニアの有無およびその含有量は、次のような方法によって求めることができる。
【0049】
すなわち、メディアの断面を鏡面仕上げし、回折角27〜34度の範囲でX線回折分析すれば、次の式により、単斜晶ジルコニアの有無およびその含有量を求めることができる。
【0050】
単斜晶ジルコニア(M)含有量(容積%)=[IM (1,1,1)+IM (1,1,−1)]/[IM (1,1,1)+IM (1,1,−1)+IT+C (1,1,1)]×100
(式中、IM (1,1,1)は、単斜晶ジルコニア回折ピーク(1,1,1)のピーク高さ、IM (1,1,−1)は、単斜晶ジルコニア回折ピーク(1,1,−1)のピーク高さ、IT+C (1,1,1)は、正方晶および立方晶ジルコニア回折ピーク高さをそれぞれ示す。)
また、正方晶ジルコニアおよび立方晶ジルコニアの各々の有無およびその含有量については、上述した単斜晶ジルコニアの有無およびその含有量を求めた方法と実質的に同様の方法を採用しながら、回折角70〜77度の範囲でX線回折分析することによって、次の式に基づき求めることができる。
【0051】
立方晶ジルコニア(C)含有量(容積%)={IT+C (1,1,1)/[IM (1,1,1)+IM (1,1,−1)+IT+C (1,1,1)]}×[IC (4,0,0)/IC (4,0,0)+IT (4,0,0)+IT (0,0,4)]×100
正方晶ジルコニア(T)含有量(容積%)=100−M−C
(式中、IC (4,0,0)は、立方晶ジルコニア回折ピーク(4,0,0)のピーク高さ、IT (4,0,0)は、正方晶ジルコニア回折ピーク(4,0,0)のピーク高さ、IT (0,0,4)は、正方晶ジルコニア回折ピーク(0,0,4)のピーク高さをそれぞれ示す。)
なお、前述したように、表面層を構成するジルコニア質焼結体が主として正方晶ジルコニアからなると言うとき、単斜晶ジルコニアの含有量は5容積%以下、立方晶ジルコニアの含有量は10容積%以下であれば許容される。
【0052】
また、この発明に係るメディアにおいて、表面層を構成するジルコニア質焼結体に含まれるZrO2 とY2 3 とのモル比、すなわちY2 3 /ZrO2 モル比は、2.5/97.5〜3.5/96.5の範囲にあることが好ましい。
【0053】
2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.5未満の場合には、表面層を構成するジルコニア質焼結体に含有される単斜晶ジルコニア量が増加し、微細なクラックが多数形成され、圧壊強さおよび耐摩耗性の低下、さらには耐衝撃抵抗性の低下を招くことがある。他方、Y2 3 /ZrO2 モル比が3.5/96.5を超える場合には、立方晶ジルコニア量が増加し、正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態効果が小さくなり、圧壊強さ、破壊靭性のような機械的特性の低下をもたらし、さらには耐摩耗性の低下を招くことがある。
【0054】
なお、Y2 3 を、その添加量の30モル%までの範囲で、他の希土類酸化物の1種または2種以上で置換してもよい。このような希土類酸化物としては、CeO2 、Nd2 3 、Yb2 3 、Dy2 3 等を用いることが安価な点で好ましい。
【0055】
また、この発明に係るメディアにおいて、表面層を構成するジルコニア質焼結体は、Al2 3 3.56重量%以下含有していることが好ましい。Al2 3 は、焼結性の向上と結晶粒径の均一化に効果がある。Al2 3 の含有量が3.56重量%を超える場合には、ジルコニア結晶粒界にAl2 3 結晶粒子が多く存在することになり、耐摩耗性の低下を招くことがある。
【0056】
また、この発明に係るメディアにおいて、表面層を構成するジルコニア質焼結体は、その結晶粒径が0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。この結晶粒径が0.7μmを超えると、耐摩耗性の低下を招くことがある。
【0057】
なお、結晶粒径は、次のようにして求めることができる。すなわち、メディアの断面を鏡面になるまで研磨し、次いで、熱エッチングまたは化学エッチングを施した後、表面層の断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、長さL(μm)あたりの結晶粒子数nを求めることによって、D=1.5×n/Lの式に基づいて、結晶粒径D(μm)を算出することができる。そして、インターセプト法により10点測定して、平均結晶粒径が求められる。
【0058】
また、この発明に係るメディアにおいて、表面層の厚さは、メディアの半径の14〜65%の範囲にあることが好ましい。表面層の厚さがメディアの半径の14%未満の場合には、圧壊強さおよび耐衝撃抵抗性が低くなることがある。他方、65%を超える場合には、メディアの密度の低下によって、粉砕・分散・混合効率が低下するだけでなく、磁力の低下が起こり、磁力によるスラリーとメディアとの分離が困難または不可能になることがある。
【0059】
【実施例】
以下に、この発明を、実施例に基づき、より具体的に説明する。
【0060】
純度99.6%のオキシ塩化ジルコニウムと純度99.9%の硝酸イットリウムとを、表1に示すY2 3 /ZrO2 モル比を与えるような組成となるように、各々水溶液にして混合した。次に、この水溶液を、加熱環流下で加水分解し、Y2 3 が固溶した水和ジルコニウムの沈殿物を生成させ、脱水、乾燥し、500〜1200℃で1時間仮焼し、得られたジルコニア系粉体を湿式にて粉砕した。この粉砕時において、Al2 3 を、表1に示す量をもって添加し、混合した。次いで、得られたスラリーを、乾燥、整粒し、表1に示すような比表面積をそれぞれ有する、試料1〜18の各々に係るジルコニア系粉体を得た。
【0061】
【表1】
Figure 0004597320
【0062】
他方、メディア芯部となる強磁性金属としては、ニッケルを用い、表面を酸化処理した、一次粒子径が0.2〜5μmの範囲にあるニッケル粉体を用意した。そして、このニッケル粉体からなる造粒体を作製し、上述のジルコニア系粉体中で、水を用いながら転動造粒成形法を適用して、メディア芯部となる造粒体を覆うように表面層となるジルコニア系粉体が成形された、生のメディアを得た。
【0063】
次いで、Arガス雰囲気中において、生のメディアを、表2に示す各焼成温度にて焼成し、直径0.1mmのメディアを得た。そして、これらのメディアを、バレル研磨によって仕上げ、評価のための各試料に係るメディアとした。
【0064】
また、特定の試料については、表2に示すように、Arガス雰囲気中において、表2記載の温度にて、HIP処理をさらに施した。
【0065】
なお、試料13については、ジルコニア系粉体によって被覆する前に、ニッケル造粒体からなるメディア芯部をN2 +1%H2 ガスにより900℃の温度で還元した。また、試料14については、ニッケル造粒体を1000℃の温度で酸化処理した。
【0066】
【表2】
Figure 0004597320
【0067】
上記の表2には、得られた各試料に係るメディアについて、気孔率、ジルコニア表面層厚さ、ジルコニア平均結晶粒径、結晶相量、圧壊強さ、摩耗率、およびスラリーとの分離性が示されている。
【0068】
なお、表2における摩耗率は、次のようにして求めたものである。
【0069】
すなわち、試料となるメディア400ccを、内容積500ccのダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製:タイプKDL−PILOT。ベッセルおよびディスクはウレタン樹脂製)に入れ、比表面積2.3m2 /gのBaTiO3 粉体を用いて、スラリー濃度を20%に設定し、ミル内温度を20℃に保持し、ディスク周速12m/秒でバッチ式で3時間粉砕処理した。そして、粉砕前のメディア重量と粉砕後のメディア重量とから、次の式に基づいて、摩耗率を求めた。
【0070】
摩耗率(ppm)=[(粉砕前のメディア重量)−(粉砕後のメディア重量)]/(粉砕前のメディア重量)×10000/粉砕時間
表1および表2において、試料1〜9は、この発明の範囲内の試料であり、かつ好ましい範囲内の試料でもある。他方、試料10〜18は、この発明に係るメディアまたはその製造方法に備える要件の少なくとも1つを満たしていないか、この発明に係るメディアおよびその製造方法にとって好ましい条件の少なくとも1つを満たしていない試料である。
【0071】
試料1〜9によれば、表1に示すように、成形に供されたジルコニア系粉体に関して、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、比表面積が3〜30m2/gの範囲にあり、また、表2に示すように、得られたメディアに関して、気孔率が%以下であり、ジルコニア表面層厚さがメディアの半径の14〜65%の範囲、すなわち7.0〜32.5μmの範囲にあり、ジルコニア平均結晶粒径が0.7μm以下であり、ジルコニア質焼結体が主として正方晶ジルコニアからなるものであるので、同じく表2に示すように、710MPa以上の高い圧壊強さおよび優れた耐摩耗性を有しており、高負荷下での使用でも割れや欠けの発生は全く見られなかった。また、磁力を用いたスラリーとの分離も容易であった。
【0072】
これらに対して、試料10では、ジルコニア系粉体に関して、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.5未満であり、また、得られたメディアに関して、ジルコニア質焼結体において5容積%を超える単斜晶ジルコニアを含有しているため、710MPa以上の圧壊強さを得ることができなかった。また、耐摩耗性も悪かった。
【0073】
試料11においては、ジルコニア系粉体に関して、Y2 3 /ZrO2 モル比が3.5/96.5を超え、また、焼成温度が1550℃を超え、得られたメディアに関して、ジルコニア平均結晶粒径が0.7μmを超え、ジルコニア質焼結体において10容積%を超える立方晶ジルコニアを含有しているので、710MPa以上の圧壊強さを得ることができず、また、耐摩耗性も劣っていた。
【0074】
試料12においては、ジルコニア系粉体に関して、3.56重量%を超えるAl2 3 を含んでいるので、得られたメディアに関して、710MPa以上の圧壊強さを得ることができなかった。
【0075】
試料13においては、前述したように、ニッケル造粒体を還元処理して、酸化膜を有しない状態としたため、得られたメディアにおいて、710MPa以上の圧壊強さを得ることができなかった。また、摩耗率の測定において、ジルコニア表面層の剥離および割れが発生した。
【0076】
試料14においては、前述したように、ニッケル造粒体からなる芯部を1000℃で酸化処理したため、形成された酸化膜が厚くなりすぎ、710MPa以上の圧壊強さが得られないばかりでなく、磁力によるスラリーとの分離が困難であった。
【0077】
試料15においては、ジルコニア系粉体に関して、3m2/g未満の比表面積を有し、得られたメディアに関して、%を超える気孔率を有しているため、710MPa以上の圧壊強さを得ることができず、また、耐摩耗性も極めて悪かった。
【0078】
試料16においては、ジルコニア系粉体に関して、30m2/gを超える比表面積を有しているので、710MPa以上の圧壊強さを得ることができず、また、耐摩耗性も劣っていた。
【0079】
試料17においては、得られたメディアに関して、ジルコニア表面層厚さが、メディアの半径の65%を超えるので、磁気によるスラリーとの分離が困難であった。
【0080】
試料18においては、得られたメディアに関して、ジルコニア表面層厚さが、メディアの半径の14%未満であるので、摩耗率の測定に際して、ジルコニア表面層の剥離および割れが発生した。
【0081】
【発明の効果】
以上のように、この発明に係る粉砕・分散・混合用メディアによれば、強磁性金属からなるメディア芯部と、このメディア芯部の外面を覆うように形成されかつジルコニア質焼結体からなる表面層とを備えているので、ジルコニア質焼結体のみからなるメディアに比べて、高い密度を有し、そのため、高い粉砕・分散・混合効率を実現することができるとともに、粉砕・分散スラリーとメディアとの分離を、磁力を用いて行なうことができる。
【0082】
したがって、従来のメディア攪拌型粉砕機に用いられている、スラリーとメディアとの分離のためのスクリーンやギャップセパレータが不要となり、そのため、直径1mm以下、さらには、直径0.3mm以下といった小径のメディアを用いる場合に、特に有効である。
【0083】
また、この発明に係るメディアによれば、気孔率が%以下であるので、高い耐摩耗性を与えることができる。
【0084】
また、この発明に係るメディアによれば、圧壊強さが710MPa以上であるので、高負荷下で使用しても、表面層の剥離や割れが生じず、また、高い耐摩耗性を実現することができる。
【0085】
この発明に係るメディアにおいて、強磁性金属として、ニッケル系、鉄系、コバルト系およびガドリニウム系から選ばれた少なくとも1種を含む金属が用いられると、強磁性金属において、高い密度を得ることが容易になる。
【0086】
また、この発明に係るメディアにおいて、表面層を構成するジルコニア質焼結体が、主として正方晶ジルコニアからなり、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.0/98.0〜4.0/96.0の範囲にあり、Al2 3 を5重量%以下含有し、かつ結晶粒径が0.7μm以下であるとき、より高い圧壊強さ、耐摩耗性および耐衝撃抵抗性をより確実に達成することができる。
【0087】
また、この発明に係るメディアによれば、表面層の厚さが、当該メディアの半径の14〜65%の範囲にあるようにされるので、高い圧壊強さおよび耐衝撃抵抗性を保証しながら、メディアの密度を高く維持することができるとともに、磁力によるスラリーとメディアとの分離を容易にかつ確実に行なえるようにすることができる。
【0088】
他方、この発明に係る粉砕・分散・混合用メディアの製造方法によれば、一次粒子径が0.2〜5μmの範囲にある強磁性金属粉体を用意し、強磁性金属粉体の表面または前記造粒体の表面を800℃以下の温度で酸化処理し、2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、比表面積が3〜30m2/gの範囲にあるジルコニア系粉体からなる造粒体を用意し、次いで、造粒体をメディア芯部とし、かつこれを覆う表面層をジルコニア系粉体で形成した生のメディアを得るため、造粒体を覆うように、ジルコニア系粉体を湿式成形し、次いで、造粒体を焼結させるとともに、ジルコニア系粉体を焼結させてジルコニア質焼結体とし、ジルコニア質焼結体の厚さが、当該粉砕・分散・混合用メディアの半径の14〜65%の範囲になるように、生のメディアを、不活性ガス雰囲気中、1200〜1550℃の範囲の温度で焼成するようにしているので、上述したような優れた特性を有する粉砕・分散・混合用メディアを能率的かつ確実に製造することができる。
【0089】
この発明に係る製造方法において、焼成工程での温度が、1200〜1500℃の範囲にあり、この焼成工程の後、メディアを、不活性ガス雰囲気中、1400℃以下の温度で熱間静水圧処理する工程をさらに実施するようにすれば、メディア芯部と表面層との界面および表面層に欠陥が存在していても、これらの欠陥を低減または小さくすることができるので、得られたメディアの摩擦、衝撃、圧壊等に対する抵抗性を高くすることができるとともに、耐摩耗性を向上させることができる。
【0090】
また、この発明に係るメディアの製造方法によれば前述したように、強磁性金属粉体の表面または造粒体の表面を酸化処理する工程を備えているので、強磁性金属からなるメディア芯部とジルコニア質焼結体からなる表面層との界面での強度を高めることができる。
【0091】
また、この発明に係るメディアの製造方法において、ジルコニア系粉体を湿式成形するにあたって、少なくとも水を含む液体が用いられると、メディア芯部と表面層との界面強度を高めることができるとともに、表面層における結晶粒界強度を高めることができるので、得られたメディアの圧壊強度、耐摩耗性および耐衝撃抵抗性をさらに優れたものとすることができる。

Claims (7)

  1. 強磁性金属からなるメディア芯部と、前記メディア芯部の外面を覆うように形成されかつジルコニア質焼結体からなる表面層とを備える、粉砕・分散・混合用メディアであって、
    気孔率が%以下であり、かつ圧壊強さが710MPa以上であり、
    前記表面層の厚さが、当該粉砕・分散・混合用メディアの半径の14〜65%の範囲にあり、
    前記メディア芯部は、強磁性金属粉体の造粒体を焼結させて得られるものであり、前記メディア芯部となる前記強磁性金属粉体または前記造粒体は、その表面に300Å以下の厚みの酸化膜が形成されたものであることを特徴とする、粉砕・分散・混合用メディア。
  2. 前記強磁性金属が、ニッケル系、鉄系、コバルト系およびガドリニウム系から選ばれた少なくとも1種を含む金属である、請求項1に記載の粉砕・分散・混合用メディア。
  3. 前記ジルコニア質焼結体は、主として正方晶ジルコニアからなり、Y2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、かつ結晶粒径が0.7μm以下である、請求項1または2に記載の粉砕・分散・混合用メディア。
  4. 当該粉砕・分散・混合用メディアの径が1mm以下である、請求項1ないし4のいずれかに記載の粉砕・分散・混合用メディア。
  5. 一次粒子径が0.2〜5μmの範囲にある強磁性金属粉体からなる造粒体を用意する工程と、
    前記強磁性金属粉体の表面または前記造粒体の表面を800℃以下の温度で酸化処理する工程と、
    2 3 /ZrO2 モル比が2.5/97.53.5/96.5の範囲にあり、Al2 3 3.56重量%以下含有し、比表面積が3〜30m2/gの範囲にあるジルコニア系粉体を用意する工程と、
    前記造粒体をメディア芯部とし、かつこれを覆う表面層を前記ジルコニア系粉体で形成した生のメディアを得るため、前記造粒体を覆うように、前記ジルコニア系粉体を湿式成形する工程と、
    前記造粒体を焼結させるとともに、前記ジルコニア系粉体を焼結させてジルコニア質焼結体とし、前記ジルコニア質焼結体の厚さが、当該粉砕・分散・混合用メディアの半径の14〜65%の範囲になるように、前記生のメディアを、不活性ガス雰囲気中、1200〜1550℃の範囲の温度で焼成する工程と
    を備える、粉砕・分散・混合用メディアの製造方法。
  6. 前記焼成工程において適用される温度が、1200〜1500℃の範囲にあり、前記焼成工程の後、前記メディアを、不活性ガス雰囲気中、1400℃以下の温度で熱間静水圧処理する工程をさらに備える、請求項に記載の粉砕・分散・混合用メディアの製造方法。
  7. 前記ジルコニア系粉体を湿式成形する工程において、少なくとも水を含む液体が用いられる、請求項5または6に記載の粉砕・分散・混合用メディアの製造方法。
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