JP3970462B2 - 耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア及びその製造方法に関する。本発明による粉砕・分散用メディアは、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中でもすぐれた耐摩耗性及び耐久性を有する。
【0002】
【従来技術とその問題点】
近年、セラミックスは耐摩耗、耐食性等がすぐれるため、従来の金属に変わって産業機用構造材に使用されるケースが増加している。例えば、電子材料等の高機能材料の製造には、微粉化および高分散化と高純度化が要求される。そのため、使用される粉砕機は、従来のボールミルから高速で粉砕・分散メディアを撹拌することにより高い粉砕・分散効率を有する媒体撹拌型粉砕機が主流となっている。
【0003】
このようなミルは、粉砕・分散用メディアに加わる負荷がかなり大きいことから、耐衝撃性、耐摩耗性にすぐれた主として正方晶系ジルコニアからなるY2O3強化ジルコニア(Y−TZP)製粉砕・分散用メディアが用いられている。このY−TZPはすぐれた機械的性質を有しているが、200〜300℃の特定温度域において正方晶系ジルコニアから単斜晶系ジルコニアに転移し、その際に生じる体積変化により微小なクラックが多数発生し、強度低下につながる熱劣化を起こす欠点が広く知られるようになり、特公昭61−21184号などにその防止法が多く提案されている。
【0004】
一方で、Y−TZP製粉砕・分散用メディアは100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中における負荷において摩耗が大きくなったり、使用しているとある時に急激に摩耗が大きくなるなどの耐摩耗特性が低下する問題点を有していた。この100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐摩耗特性の低下は、前記の200〜300℃における熱劣化を防止した焼結体であっても起こるため、前記特公昭61−21184号などの200〜300℃における熱劣化の防止法では改善できないのが現状である。
【0005】
このようなことから長期間安定してすぐれた耐摩耗性と耐久性を有する粉砕・分散用メディアが望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中においてすらも、長期間安定してすぐれた耐摩耗性と耐久性を示すジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア及びその製造方法を提供する点にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記のような現状を鑑み、鋭意研究を重ねてきた結果、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中における耐摩耗性の低下は、200〜300℃における熱安定性によるものとは全く異なる原因であることを見出した。そして、Y2O3量を特定の割合で含有するジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアにおいて、TiO 2 の存在、Al2O3量とその他の成分量、平均結晶粒径、かさ密度および欠陥量を適切な範囲に調整することにより、適切なメディア摩耗率をもち、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中においても極めてすぐれた耐摩耗性及び耐久性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、(a)ZrO2結晶が主として正方晶であるZrO2−Y2O3系ジルコニア質焼結体であって、(b)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、(c)Al2O3が0.1〜5.0wt%含有し、(d)SiO2が0.15wt%以上、好ましくは0.2wt%以上含有し、(e)TiO 2 を必ず含有し、かつSiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下であり、(f)平均結晶粒径が0.20〜0.70μmであり、(g)かさ密度5.80g/cm 3 以上、(h)欠陥量3%以下、(i)媒体撹拌ミルを用いた60℃温水中で1サイクル10時間運転で10サイクル運転した時のサイクル毎のメディア摩耗率の最大値が50ppm/h以下であることを特徴とする耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアに関する。
【0009】
本発明の第二は、(A)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、Al2O3を0.1〜5.0wt%含有し、SiO2が0.15wt%以上、好ましくは0.2wt%以上含有し、TiO 2 を必ず含有し、かつSiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下であって、比表面積が3〜30m2/g、好ましくは5〜20m2/g、含有塩素量が50ppm以下であるZrO2粉体を用いて、(B)湿式で成形し、(C)大気中1200〜1550℃で焼成することを特徴とするジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法に関する。
【0010】
なお、本発明では、媒体撹拌ミルを用いた60℃温水中で1サイクル10時間運転で10サイクル運転した時の各サイクル毎のメディア摩耗率の測定方法はつぎのとおりである。
【0011】
即ち、粉砕・分散用メディア1200ccを内容積1400ccのダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製:タイプKDL−PILOT、ベッセル及びディスクは株式会社ニッカトー製高強度ジルコニア:YTZ)に入れ、60℃に保持した10リットルの温水600cc/minで60〜65℃の範囲で温度調整をしながら循環させ、ディスク周速8m/secで10時間を1サイクルとして10サイクル運転し、各サイクル毎に下式によりサイクル毎の時間当たりのメディア摩耗率を測定する。
【0012】
【数1】
メディア摩耗率(ppm/時間)=
(Wb−Wa)/Wb×1,000,000÷10(時間)
Wb:各サイクルのテスト前メディア重量(g)
Wa:各サイクルのテスト後メディア重量(g)
【0013】
そして、このサイクル毎のメディア摩耗率の最大値が50ppm/時間以下のものを本明細書では耐摩耗性及び耐久性に優れていると呼ぶことにしている。
【0014】
以下に本発明の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアが充足すべき各要件について詳細に説明する。
【0015】
本発明における(a)の要件は、ZrO2の結晶相が主として正方晶であるZrO2−Y2O3系ジルコニア質焼結体である。ジルコニア質焼結体に単斜晶が多く含有しているとその結晶周辺に微細なクラックが生じ、応力が負荷されるとこの微細なクラックを起点として微小破壊が起こり、摩擦、衝撃、圧壊等に対する抵抗性が低下するので好ましくない。また、同時に100℃程度またはそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐久性が低下するので好ましくない。一方、立方晶を多く含有していると機械的特性の低下が起こるだけでなく、結晶粒界付近にY2O3が偏在しやすくなって耐久性の低下をきたすので好ましくない。
【0016】
なお、本発明では、ジルコニアの結晶相である単斜晶系ジルコニア(M)の存在の有無及び含有量、正方晶系ジルコニア(T)及び立方晶系ジルコニア(C)の量については以下の方法でX線回折により求める。即ち、焼結体及び加工した焼結体製品の表面は応力誘起相変態により正方晶から単斜晶に変態しており、真の結晶相を同定することができないので、焼結体表面を鏡面にまで研磨し、X線回折により、回折角27〜34度の範囲で測定し、単斜晶系ジルコニアの有無及び含有量を次式から求める。
【0017】
【数2】
【0018】
また、正方晶系ジルコニア及び立方晶系ジルコニアは、単斜晶系ジルコニアの有無を確認した方法と同様にして、X線回折により、回折角70〜77度の範囲で測定し、次式により求める。
【0019】
【数3】
【0020】
なお、本発明においては上記X線回折から求める立方晶系ジルコニアを5容積%及び単斜晶系ジルコニアを3容積%まで許容することができる。
【0021】
本発明における(b)の要件は、Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲内に、できれば1.7/98.3〜2.7/97.3の範囲内に、特に1.8/98.2〜2.5/97.5の範囲内であることが好ましい。通常ZrO2原料中に少量含有することのあるHfO2が混入していても良く、このHfO2量を含めたZrO2とHfO2の合量をZrO2量として取り扱う。
Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5未満の場合には焼結体中の単斜晶系ジルコニア量が増加し、焼結体内部にクラックが発生し、負荷が加わったり、長時間使用するとクラックが進展し、割れや欠けが発生し、結果的に耐摩耗性の低下をきたすので好ましくない。一方、Y2O3/ZrO2モル比が2.8/97.2を越えると200〜300℃における熱劣化は少なくなるが、逆に本発明においては100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐摩耗性及び耐久性の低下が起こるので好ましくない。
【0022】
なお、Y2O3添加量の30モル%まで他の稀土類酸化物の1種または2種以上で置換したものも用いることができる。このような稀土類酸化物としては、CeO2、Nd2O3、Yb2O3、Dy2O3等が安価な点で好ましい。
【0023】
本発明における(c)の要件は、Al2O3が0.1〜5.0wt%含有する点である。Al2O3の添加は焼結性の向上、微構造の均一化に効果があるだけでなく、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中における特性低下を抑制する効果がある。Al2O3含有量が0.1wt%未満の場合は、Al2O3添加の効果がなく、5.0wt%を越える場合は、ZrO2結晶粒界にAl2O3結晶粒子が多く存在することになり耐摩耗性及び耐久性の低下が起こるので好ましくない。
【0024】
本発明における(d)の要件は、SiO2が0.15wt%以上を含有する点である。本発明においてはSiO2が0.15wt%以上であることが必要であり、より好ましくは0.2wt%以上である。SiO2が0.15wt%未満の場合は、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐久性に劣るので好ましくない。一方、SiO2が多すぎる場合には、ZrO2結晶粒界に第2相が多く形成され耐摩耗性及び耐久性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明における(e)の要件は、SiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下である点にある。本発明においてはSiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下にあることが必要であり、好ましくは0.25〜2.5wt%である。耐久性を向上させるためには所定量のSiO2が含有するだけでなく、TiO2が同時に含有することが必要である。SiO2とTiO2の合計量が0.15wt%以下の場合は、耐久性が劣るので好ましくない。一方、SiO2とTiO2の合計量が3.0wt%を越える場合には、ZrO2結晶粒界に第2相が多く、かつ第2相幅が広くなり、耐摩耗性及び耐久性の低下が起こる場合がある。さらに、TiO2は2.0wt%以下含有することが好ましい。
【0026】
本発明における(f)の要件は、平均結晶粒径が0.20〜0.70μmである点にある。本発明においては平均結晶粒径が0.20〜0.70μmにあることが必要であり、より好ましくは0.25〜0.60μmである。平均結晶粒径が0.20μm未満の場合は200〜300℃における熱安定性の向上は見られるが、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中における耐久性が劣化するので好ましくない。平均結晶粒径が0.70μmを越える場合には耐摩耗性が低下するので好ましくない。平均結晶粒径は、メディア断面を鏡面にまで研磨し、次いで熱エッチングもしくは化学エッチングを施した後、走査電子顕微鏡で観察してインターセプト法により10点測定した平均値とする。算出式は下記の通りである。
【数4】
D=1.5×n/L
D:平均結晶粒径(μm)
n:長さL当たりの結晶の数
L:測定長さ(μm)
【0027】
本発明における(i)の要件は、媒体撹拌ミルを用いた60℃温水中で1サイクル10時間運転で10サイクル運転した時のサイクル毎のメディア摩耗率の最大値が50ppm/h以下である点にある。メディア摩耗率の最大値が50ppm/hを越える場合には、粉体の粉砕・分散によるメディア摩耗が大きくなると同時に粉砕・分散バッチ毎のメディア摩耗率が安定しない。特に媒体撹拌ミルを用いて粉砕する場合にはこの欠点が顕著に現れるので好ましくない。
【0028】
本発明においては、(g)の要件であるかさ密度が5.80g/cm3以上、より好ましくは5.85g/cm3以上であることが好ましい。かさ密度が5.80g/cm3未満の場合は、欠陥となるポアーが多く存在することになり、強度、硬度の低下が起こり、その結果、耐摩耗性の低下だけでなく、耐久性の低下が起こるので好ましくない。さらに、(h)の要件である欠陥量が3%以下であることが好ましい。ここで示す欠陥とは、ポアーだけでなく、メディア断面の研削及び研磨加工して鏡面仕上げする際に発生する脱粒の後のへこみも含む。この欠陥量の測定方法は、鏡面仕上げした面を所定の倍率(通常、1000〜3000倍)の走査電子顕微鏡で写真撮影を行い、その写真を画像解析にて欠陥部分と欠陥でない部分とを二値化により分離して、その欠陥部分が画像全体に占める面積の割合を算出する。この欠陥量が3%を越える場合には、かさ密度が5.80g/cm3以上であっても耐摩耗性だけでなく、耐久性に劣るので好ましくない。
【0029】
本発明の耐摩耗性及び耐久性にすぐれるジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法について説明する。
【0030】
ZrO2とY2O3の含有量が所定のモル比となるようにジルコニウム化合物(例えばオキシ塩化ジルコニウム)の水溶液とイットリウム化合物(例えば塩化イットリウム)の水溶液を均一に混合し、加水分解し、水和物を得、脱水、乾燥させた後、400〜1250℃で仮焼し、ジルコニア粉体を得る方法、もしくは酸化物あるいは塩の形態で水あるいは有機溶媒を用いて湿式で混合し、脱水、乾燥させた後、400〜1250℃で仮焼し、ジルコニア粉体を得る方法が採用される。Y2O3以外の成分の添加はジルコニウム化合物とイットリウム化合物の水溶液または酸化物を混合する際に塩の水溶液として所定量添加してもよいし、後記する仮焼粉体の粉砕・分散時に水酸化物、炭酸化物、酸化物等の形態で添加しても良い。
【0031】
得られた仮焼粉体を湿式により粉砕・分散し、乾燥して成形粉体を得る。必要に応じて成形助剤の添加やスプレードライヤーによる整粒を行う。
【0032】
得られた成形粉体粒度は、比表面積が3〜30m2/g、好ましくは5〜20m2/gであることが必要である。これらの範囲を外れる場合は、焼結性の低下や後述する成形性の低下が起こり、焼結しても得られたメディアに気孔や欠陥が多く存在してしまい、耐摩耗性及び耐久性に劣るので好ましくない。
【0033】
さらに、成形粉体は塩素量が50ppm以下であることが必要であり、より好ましくは30ppm以下である。塩素量が50ppmを越える場合には、成形性の低下が起こり、得られた粉砕・分散用メディアに欠陥が多く存在し、強度が低下したり、耐摩耗性及び耐久性に劣るので好ましくない。塩素の除去については粉体の洗浄やアンモニア水による中和等の方法が採用できる。
【0034】
得られた成形粉体を用いて、水を含有させたアルコール類、パラフィン系炭化水素類等の有機溶媒、可溶性高分子または水を用いて、転動造粒成形法、坏土成形法、鋳込成形法及び液中造粒成形法によりメディアを成形する。
【0035】
上記の方法で成形した焼結体はスプレードライヤー等で乾燥した粉体を用いてCIP成形(静水圧プレス成形)した焼結体より焼結体内部の欠陥量が非常に少なくできるためすぐれた耐磨耗性及び耐久性を有するメディアとすることができる。前述のように成形時に使用する溶液に水を含有していると、結晶粒界または近傍に適度な第2相を形成し、結晶粒界強度が高くなって耐磨耗性及び耐衝撃性が向上するだけでなく、すぐれた耐久性を示す効果がある。
【0036】
成形時に使用する溶液としては水を含有させたアルコール類、パラフィン系炭化水素類等の有機溶媒、可溶性高分子などまたは水を用いる。成形時に使用する溶液に水が含有していると、結晶粒界または近傍に適度な第2相を形成し、結晶粒界強度が高くなって耐摩耗性及び耐衝撃性が向上するだけでなく、すぐれた耐久性を示す効果がある。
【0037】
次いで得られた成形体を大気中1200〜1550℃程度で焼成することによって焼結体を得る。
【0038】
さらに、必要に応じてHIP(Hot isostatic press)処理を施すことにより焼結体内部に欠陥が有る場合にこれらの欠陥を低減もしくは小さくすることができ、摩擦、衝撃、圧壊等に対する抵抗性を高くすることができ、耐摩耗性を向上、さらには耐久性の向上ができる。HIP処理は常圧焼結後、ArやN2などの不活性雰囲気、またはO2雰囲気下で1150〜1550℃、500〜2000気圧の圧力下で処理することが好ましい。
【0039】
このようにして得られたメディアの焼成過程で汚染された表面を研磨などにより除去して、本発明の粉砕・分散用メディアが得られる。
【0040】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0041】
実施例と比較例
純度99.6%のオキシ塩化ジルコニウムと純度99.9%の硝酸イットリウムを表1の組成となるように水溶液にして混合した。次に、この水溶液を加熱環流下で加水分解し、脱水、乾燥し、Y2O3が固溶した水和ジルコニウムを得、600〜1200℃で1時間仮焼し、得られたジルコニア粉体を湿式で粉砕・分散した。なお、Y2O3以外の成分については、酸化物もしくは塩の形態で粉砕時に所定量添加混合した。次いで、得られたスラリーを乾燥、整粒し、成形用粉体とし、これらの粉体を用いて水を使用して転動造粒成形した。試料No.12は粉砕・分散したスラリーにワックスエマルジョンを粉体に対し、3wt%添加し、スプレードライヤー乾燥し、70MPaの圧力でCIP成形した。得られた成形粉体の比表面積及び含有塩素量を表1および表3に示す。次いで、1200〜1600℃で焼成し、放冷して、直径1mmの球状の焼結体からなる粉砕・分散用メディアを得た。これらのメディアをバレル研磨によって仕上げ、評価用試料とした。
【0042】
これらのメディアの化学組成、特性を表1〜4に示す。試料No.1〜10は本発明のジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアであり、試料No.11〜22は本発明の要件の少なくとも1つを満たしていない比較品である。なお、試料No.17およびNo.19については、得られたメディアのかさ密度が低いため、かさ密度以外の特性については測定しなかった。
【0043】
次いで上記で得た試料メディア1200ccを内容積1400ccのダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製:タイプKDL−PILOT、ベッセル及びディスクは株式会社ニッカトー製高強度ジルコニア:YTZ)に入れ、60℃に保持した10リットルの温水を600cc/minで60〜65℃の範囲内に温度調整をしながら循環させ、ディスク周速8m/secで10時間を1サイクルとして10サイクル運転するテストを行い、各サイクル毎の時間当たりのメディアの摩耗率を測定した。メディア摩耗率はテスト前後の時間当たりの重量変化率として算出した。サイクル毎のメディア摩耗率の最大値を表1〜2に示す。また、図1に試料No.4、13、15の各サイクルの摩耗率とテスト時間との関係を示す。
【0044】
さらに、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐久性と200〜300℃での熱劣化との違いを明確にするため試料を250℃で1500時間保持するテストを行い、テスト後のクラックの有無を調べた結果を表1において、熱劣化/クラックの有無の項に併せて示す。
【0045】
表1〜4に示す結果から、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中での耐久性と200〜300℃での熱劣化とは全くことなることが明らかである。
さらに、本発明によるジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアは、摩耗率が50ppm/h以下であり、温水中でもすぐれた耐摩耗性を示すことが明らかである。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
*熱劣化テストによるクラックの有無を示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
以下に、本発明の実施態様項を列記する。
1.(a)ZrO2結晶が主として正方晶であるZrO2−Y2O3系ジルコニア質焼結体であって、(b)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、(c)Al2O3が0.1〜5.0wt%含有し、(d)SiO2が0.15wt%以上含有し、(e)SiO2と
TiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下であり、(f)平均結晶粒径が0.20〜0.70μmであり、(g)媒体撹拌ミルを用いた60℃温水中で1サイクル10時間運転で10サイクル運転した時のサイクル毎のメディア摩耗率の最大値が50ppm/h以下であることを特徴とする
耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
2.前記Y2O3/ZrO2モル比が1.7/98.3〜2.7/97.3の範囲にある前項1記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
3.前記Y2O3/ZrO2モル比が1.8/98.2〜2.5/97.5の範囲にある前項1記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
4.前記Y2O3添加量の30モル%までがCeO2、Nd2O3、Yb2O3、Dy2O3よりなる群から選ばれた他の希土類酸化物で置換されたものである前項1〜3いずれか記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
5.前記SiO2の含有量が0.2wt%以上である前項1〜4いずれか記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
6.前記SiO2とTiO2の合計量が0.25〜2.5wt%である前項1〜5いずれか記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
7.前記TiO2の含有量が2.0wt%以下である前項6記載の耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
8.(A)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、Al2O3を0.1〜5.0wt%含有し、SiO2が0.15wt%以上含有し、SiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、
3.0wt%以下であって、比表面積が3〜30m2/g、含有塩素量が50ppm以下であるZrO2粉体を用いて、(B)湿式で成形し、(C)大気中1200〜1550℃で焼成することを特徴とするジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法。
9.前項8の(C)工程にひきつづいて、(D)不活性雰囲気下または酸素含有雰囲気下で、1150〜1550℃、500〜2000気圧で処理するものである前項8記載のジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法。
10.前記比表面積が5〜20m2/gである前項8または9記載のジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法。
【0051】
【発明の効果】
(1)本発明のジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアは、100℃程度かそれ以下の温水または高湿度雰囲気中でもすぐれた耐摩耗性と耐久性を有するため、公知の粉砕・分散用メディアとしての用途に従来のメディアに比し、有効に用いることができ、さらには温水中または高湿度雰囲気中で耐摩耗性が要求される分野にも有効に用いることができる。
(2)本発明のすぐれた耐摩耗性及び耐久性を有するジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアは、粉砕・分散用メディアだけでなく、ベアリングボール等の産業用耐摩耗構造部材として広い分野に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例と比較例における試料No.4、14、16の各サイクルの摩耗率とテスト時間との関系を示すグラフである。
Claims (2)
- (a)ZrO2結晶が主として正方晶であるZrO2−Y2O3系ジルコニア質焼結体であって、(b)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、(c)Al2O3が0.1〜5.0wt%含有し、(d)SiO2が0.15wt%以上含有し、(e)TiO 2 を必ず含有し、かつSiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下であり、(f)平均結晶粒径が0.20〜0.70μmであり、(g)かさ密度5.80g/cm 3 以上、(h)欠陥量3%以下、(i)媒体撹拌ミルを用いた60℃温水中で1サイクル10時間運転で10サイクル運転した時のサイクル毎のメディア摩耗率の最大値が50ppm/h以下であることを特徴とする耐摩耗性及び耐久性にすぐれたジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディア。
- (A)Y2O3/ZrO2モル比が1.5/98.5〜2.8/97.2の範囲にあり、Al2O3を0.1〜5.0wt%含有し、SiO2が0.15wt%以上含有し、TiO 2 を必ず含有し、かつSiO2とTiO2の合計量が0.15wt%を越え、3.0wt%以下であって、比表面積が3〜30m2/g、含有塩素量が50ppm以下であるZrO2粉体を用いて、(B)湿式で成形し、(C)大気中1200〜1550℃で焼成することを特徴とするジルコニア質焼結体からなる粉砕・分散用メディアの製造方法。
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