JP4588338B2 - 曲げ加工性とプレス成形性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

曲げ加工性とプレス成形性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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Description

本発明は、板製造後に室温時効が進んだ場合でも、特にヘム加工などの曲げ加工性に優れ、プレス成形性や低温時効硬化能などのパネル化に際して要求される他の諸特性にも優れたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板(以下、アルミニウムを単にAlとも言う)に関するものである。
従来から、自動車、船舶あるいは車両などの輸送機、家電製品、建築、構造物の部材や部品用として、成形加工性 (以下、単に成形性と言う) に優れたAl-Mg 系のAA乃至JIS 規格に規定された (規格を満足する)5000 系や、成形性や焼付硬化性に優れたAl-Mg-Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に5000系乃至6000系と言う) のAl合金材(圧延板材、押出形材、鍛造材などの各アルミニウム合金展伸材を総称する)が使用されている。
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車などの輸送機の車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、特に、自動車の車体に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、より軽量なAl合金材の適用が増加しつつある。
このAl合金材の中でも、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、薄肉でかつ高強度Al合金板として、過剰Si型の6000系のAl合金板の使用が検討されている。
この過剰Si型の6000系Al合金板は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、かつSi/Mg が質量比で 1以上であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金板である。そしてこの過剰Si型6000系Al合金板は優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる時効硬化能がある。
また、これら過剰Si型6000系Al合金板は、Mg量などの合金量が多い、他の5000系のAl合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系Al合金板のスクラップを、Al合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系Al合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
一方、前記自動車などのアウタパネルでは、Al合金板を張出や絞りあるいはトリム等のプレス成形してアウタパネル化した後、アウタパネルの縁を折り曲げて (180 度折り返して) インナパネルの縁との接合を行う、ヘム( ヘミングの別称) 加工と呼ばれる厳しい曲げ加工が複合して施される。
ただ、Al合金アウタパネルのフラットヘム加工においては、従来の鋼板パネルのフラットヘム加工に比して、形成されるフラットヘムの縁曲部 (ヘム部、折り曲げ部) には、肌荒れ、微小な割れ、比較的大きな割れ等の不良が生じ易くなる。そして、これらの不良が生じた場合、アウタパネルとしての適用ができなくなる。
このようなAl合金アウタパネルのフラットヘム加工に対し、従来から、フラットヘム加工工程側や、Al合金板の素材側で、前記縁曲部の不良発生を防止して、フラットヘム加工性乃至曲げ加工性を改善する技術が種々提案されている。
この内、過剰Si型を含む6000系Al合金板のフラットヘムなどの曲げ加工性を向上させる課題に対して、集合組織におけるキューブ方位分布密度を制御することが提案されている。これらは、隣接する結晶粒の方位差が15°以下の結晶粒界の占める割合を20% 以上とするか、あるいは隣接する結晶粒の方位差が20°以下の結晶粒界長さを20% 以上とするものである(特許文献1、2参照)。
常法による製造方法では、通常、6000系Al合金板の結晶粒組織は等方性を有する。これに対し、上記技術は、特定の結晶方位を極度に集積させ,曲げ加工中の粒界への転位蓄積を軽減、あるいは/および粒界エネルギー低下により粒界析出が抑制されることに伴う粒界割れの抑制により、特に、自動車などのアウタパネルに特有の、フラットヘム (ヘミング) 加工による厳しい曲げ加工性を改善しようとするものである。
特開2003-171726 号公報 特開2003-166029 号公報
6000系Al合金板で上記技術で規定する組織を得る手法として、キューブ方位を集積させるのが一般的と考えられる。しかし、キューブ方位を有する結晶粒の割合を多くした場合、結晶方位自身の異方性により、材料特性に強い異方性が生じてしまう。
材料特性に強い異方性を持つ場合、フラットヘム加工などの曲げ加工性は改善されるものの、アウタパネルへの、張出成形などのプレス成形性が低下してしまう。即ち、曲げ加工性とプレス成形性との両者を向上させることができない。なお、上記従来技術でも、一応エリクセン試験などによるプレス成形性評価を行ない、プレス成形性も良好としている。ただ、このような小試験片による評価方法では、実際の6000系Al合金板のアウタパネルなどへの張出成形性評価としては不十分であり、小試験片による評価が良くても、実際のパネルへの張出成形時には問題が生じるなど、両者の結果が対応しない場合が多々生じる。
これは、実際のアウタパネルなどのプレス成形条件やフラットヘム加工条件が近年益々厳しく、かつ難しくなる傾向にあることにもよる。張出成形されるアウタパネル形状は、張出高さや張出面積などが大型化し、しかも形状が、伸びフランジ変形を伴うような湾曲部位を有するなど複雑化する傾向にある。このため、割れ、肌荒れなどの成形不良がより生じ易い。
このように、プレス成形性とヘム加工性の向上は、相矛盾する技術課題であって、両立させることは中々難しい。例えば、Al合金板の耐力を下げてフラットヘム加工性を改善した場合、プレス成形性が低下したり、低温での人工時効硬化処理後の耐力が不足するなどの問題を生じる。このため、従来から種々提案されている晶出物や析出物の制御技術や、Cuなどを多量に添加する技術をもってしても、プレス成形性とフラットヘム加工性の特性を同時に達成することはかなり難しい技術課題となる。
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ヘム加工などの曲げ加工性とプレス成形性とに優れるとともに、低温時効硬化能などのパネル化に際して要求される他の特性も兼備したAl-Mg-Si系Al合金板を提供しようとするものである。
この目的を達成するために、本発明アルミニウム合金板の要旨は、キューブ方位分布密度と r値の異方性とを制御したAl-Mg-Si系アルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板が、質量% で、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物である組成からなり、このアルミニウム合金板の表面から板厚の1/4 深さ部分における結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度が10〜30の範囲であり、かつ、このアルミニウム合金板の、圧延方向に対して平行方向の r値r0と、圧延方向に対して直角方向の r値r90 と、圧延方向に対して45度方向の r値r45 との、r0とr90 に対するr45 の異方性を示す指標である (r0+r90 −2 ×r45)/2が0.2 〜0.7 の範囲であることとする。
なお、本発明で言うAl合金板とは、冷間圧延後、調質処理を施した後に室温時効した板 (圧延板) を言う。したがって、上記各要件も、調質処理直後 (板製造直後) ではなく、調質処理後 (板製造後) からプレス成形乃至曲げ加工されるまでの任意の期間 (例えば板製造後から 1カ月以上経過後) における、充分室温時効したAl合金板の状態をさして言う。また、ここで言う調質処理とは、主として溶体化および焼き入れ処理を言うが、その後の任意の熱処理、例えば、後述する予備時効処理や、更に必要により施す時効処理などの種々の調質処理を含めたものを示す。
以下の曲げ加工性の説明は、特にフラットヘムなどのヘム加工を中心に行うが、ヘム加工性が良好であれば、加工 (変形) の機構が共通する、他のハット型曲げ加工や90度曲げ加工などの曲げ加工性も良好となる。したがって、本発明は、ヘム加工以外の曲げ加工にも適用でき、本発明範囲に含みうる。
本発明によれば、過剰Si型6000系Al合金板の室温時効自体は抑制されることが好ましいが、例え、Al合金板の製造後に室温時効したとしても、プレス成形性およびフラットヘムなどの曲げ加工に優れた過剰Si型6000系Al合金板を得ることができる。
このために、本発明者らは、プレス成形性およびヘム加工性と、過剰Si型6000系Al合金板のキューブ方位を有する結晶粒組織 (材料特性の異方性) との関係について改めて検討した。この結果、材料特性の異方性を高めるほど、フラットヘムなどの曲げ加工は向上するが、後述する図1 の通り、材料特性の異方性を少し高めるだけで、フラットヘムなどの曲げ加工は急激に向上することを知見した。そして、この材料特性の異方性を少し高めることが、張出成形などのプレス成形性に悪影響を及ぼさないことを知見した。
言い換えると、従来のキューブ方位に着目した集合組織制御は、この事実に気づかず、フラットヘムなどの曲げ加工向上のために、キューブ方位を集積しすぎていた (異方性を高めすぎていた) ために、張出成形などのプレス成形性を低下させていたものである。
本発明では、この知見に基づき、結晶粒組織のキューブ方位 (異方性) の制御範囲をより低めに行い、フラットヘムなどの曲げ加工を向上させるとともに、張出成形などのプレス成形性を低下させない。そして、結晶粒組織のキューブ方位 (異方性) の程度を、結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度により規定する。
一方、張出成形などのプレス成形性をより向上させるためには、張出成形時のしわを抑制する必要がある。本発明のような異方性を有する過剰Si型6000系Al合金板では、成形される板の0 度、45度、90度の方向の材料流入量が異なるため、張出成形の早い段階から「しわ」が発生しやすくなる。そして、異方性を有するほど、しわが深くなる傾向にあり、このしわを抑制するために、プレス成形時のしわ押さえ力 (板の金型への押しつけ力) を強くするなどの対策が必要となる。しかし、しわ押さえ力を強くしすぎると、逆に、プレス成形時に割れが発生しやすくなるという問題が新たに生じる。
このため、本発明では、プレス成形における前記「しわ」の発生を抑制し、プレス成形性をより向上させるために、圧延方向に対して直角方向の r値r90 と圧延方向に対して平行方向の r値r0に対する、圧延方向に対して45度方向の r値r45 の差、言い換えると、圧延方向に対して45度方向の r値r45 の異方性 (前記r45 の前記r90 やr0に対する異方性) を制御する。
具体的には、前記r90 と板の圧延方向に対して平行方向の r値r0との平均値に対する、板の圧延方向に対して45度方向の r値r45 の差を示し、r45 のr90 やr0に対する異方性の指標である、(r0 +r90 −2 ×r45)/2を0.2 〜1.4 の範囲として、過剰Si型6000系Al合金板における r値の異方性を制御する。なお、この r値の異方性制御は、板の結晶粒組織の異方性の制御という点では、上記キューブ方位制御と共通するため、勿論、フラットヘム加工などの曲げ加工性を向上させる。
本発明では、このような制御したキューブ方位と r値の異方性とを過剰Si型6000系Al合金板に持たせることで、過剰Si型6000系Al合金板が製造後に室温時効したとしても、張出成形性とフラットヘム加工性の両者とも改善する。なお、この張出成形性とフラットヘム加工の改善によって、更に、絞りなどの他のプレス成形性やロープドヘムなどの他のヘム加工をも改善しうる。
以下に、本発明Al合金板の実施態様につき、具体的に説明する。
先ず、本発明Al合金板の組織の要件につき説明する。
(キューブ方位分布密度)
本発明では、前記した通り、Al合金板のフラットヘム加工性を向上させ、張出成形などのプレス成形性を低下させないために、Al合金板の表面から板厚の1/4 深さ部分における結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度を10〜30の範囲とする。
上記キューブ方位分布密度が10未満であれば、Al合金板のフラットヘム加工性が向上しない。一方、上記キューブ方位分布密度が30を越えた場合、張出成形などのプレス成形性が低下する。
本発明では、キューブ方位分布密度を規定するに際し、結晶集合組織の測定精度がより正確な、結晶方位分布関数解析 (以下、ODF 解析と言う) によるキューブ方位分布密度で規定する。
ODF 解析によるキューブ方位分布密度は、キューブ方位をランダム方位 (標準サンプルの無配向性のAl粉末試料) からの比 (無次元) で表すため、広い範囲を定量的に表現できる。このため、上記積分強度によるキューブ方位測定のような傾向が無く、より正確にキューブ方位分布を測定できる。これに対し、他の積分強度などによるキューブ(Cube)方位の測定では、割合計算のため、高い積分強度割合のところでは、各試料間の差が非常に小さくなる傾向がある。また、面内(100面) の回転方位を分離できないため、純粋なキューブ方位だけを抽出できない傾向もある。
このAl合金板表面から板厚の1/4 深さ部分における、ODF 解析によるキューブ方位分布密度の測定は、例えば、株式会社リガクのX 線回折装置 [型式「リガクRAD-rX 」(Ru-200B) ] を用い、Al合金板の表面から板厚の1/4 の深さ部分まで研削して、この部分を計測することで行なう。上記X 線回折装置は不完全極点図によるODF 解析が可能である。即ち、schluzの反射法により、{100 }面、{111 }面の不完全極点図を作成し、Bunge の反復級数展開法(positivity 法) を適用してODF 解析を実施し、キューブ方位分布密度を求めることができる。
なお、フラットヘム加工での板 (プレス成形後の板) の曲げ方向とキューブ方位 (配行方向) との関係について、板のキューブ方位が板の曲げ方向と平行になるように (板の曲げ加工方向を素材板の圧延方向と平行あるいは直角にして) 曲げ加工した場合に、変形中のキューブ方位が安定となり、良好なフラットヘム加工性は得られる。板のキューブ方位は90度回転しても同一の構造であるため、0 度、90度の区別が無い。このため、板の曲げ加工方向を素材板の圧延方向と平行あるいは直角としても、キューブ方位は同じ構造となり、良好なフラットヘム加工性が得られる。ただ、素材板の圧延方向が板の曲げ方向と45度の方向になるなど、上記二つの方向以外の板の曲げ方向と板のキューブ方位 (配行方向) との関係では、キューブ方位は変形中に回転し、結晶方位がランダム化して、フラットヘム加工性が劣る可能性があり、フラットヘム加工における板の曲げ方向は、上記二つの方向とすることが好ましい。
( r値の異方性)
本発明では、Al合金板のフラットヘム加工などの曲げ加工性と、張出成形などのプレス成形性とを向上させるために、更に、Al合金板の圧延方向に対して平行方向の r値r0と、圧延方向に対して直角方向の r値r90 と、圧延方向に対して45度方向の r値r45 との、r0とr90 に対するr45 の異方性を示す指標である (r0+r90 −2 ×r45)/2 [以下、Δr とも言う] が0.2 〜1.4 の範囲とする。
上記Δr が0.2 未満では、板の圧延方向に対して平行方向、45度方向、90度方向の各々の各機械的性質をできるだけ均一とした、通常乃至常法によるAl合金板の等方性組織と大差がなくなり、前記キューブ方位分布密度を10以上とすることができない。したがって、板製造後に室温時効した際の、曲げ加工性の向上効果がない。
一方、このΔr が1.4 を越えた場合、キューブ方位の集積により、異方性が高まり、フラットヘムなどの曲げ加工は向上する。しかし、キューブ方位が集積しすぎ (異方性を高めすぎ) ているために、プレス成形される板の0 度、45度、90度の方向の材料流入量が大きく異なる。この結果、プレス成形における早い段階から「しわ」が発生しやすくなる。そして、このしわを抑制するために、しわ押さえ力を通常よりも強めてプレス成形する必要があり、この強いしわ押さえ力に起因する割れが逆に発生しやすくなる。
ここで、板のr 値自体はプレス成形性の評価に汎用されている。r 値は、板幅方向ひずみ (εw ) と板厚方向のひずみ (εt ) との比εw/εt で定義される。したがって、このr 値は、引張試験における、log(W0/W)/log(W0l/l0W)によって算出できる。但し、W0: 引張変形前の幅(mm)、W:引張変形後の幅(mm)、l0: 引張変形前の長さ(mm)、l:引張変形後の長さ(mm)である。
(キューブ方位分布密度と r値異方性との関係)
上記したキューブ方位分布密度と r値異方性との、曲げ加工性との関係を図1 に示す。図1 において、横軸はキューブ方位分布密度(0〜150)、左の縦軸はヘム加工性(0.0〜4.0 までの0.5 刻みの9 段階評価: 評価方法は実施例にて後述する) 、右の縦軸はr0とr90 に対するr45 の異方性を示す指標(r0 +r90 −2 ×r45)/2である (0.0 〜1.6)。
図1 において、斜線で示した範囲が本発明範囲であり、キューブ方位分布密度が10〜30の範囲であり、かつ、Δr である(r0 +r90 −2 ×r45)/2が0.2 〜1.4 の範囲である。
図1 において、曲線A はフラットヘム加工性とキューブ方位分布密度との関係を示し、キューブ方位分布密度を変えて試作した各過剰Si型6000系Al合金板のフラットヘム加工性データを外挿したものである。また、曲線B はキューブ方位分布密度とΔr との関係を示し、Δr を変えて試作した各過剰Si型6000系Al合金板のフラットヘム加工性データを外挿したものである。ここで、曲線A は右上がりであり、キューブ方位分布密度が高くなるほど、フラットヘム加工性が向上することが分かる。一方、曲線B は右下がりであり、Δr が高くなるほど、フラットヘム加工性が低下することが分かる。
この図1 の曲線A の通り、キューブ方位分布密度を10〜30の範囲で、少し高めるだけで、フラットヘムなどの曲げ加工性は4.0 から3.5 以上へと急激に向上する。そして、この範囲であれば、張出成形などのプレス成形性に悪影響を及ぼさない。これに対して、キューブ方位分布密度が30を越えた場合、フラットヘムなどの曲げ加工性は2.0 から0.5 以上へと向上するが、張出成形などのプレス成形性が著しく低下する。
また、図1 の曲線B の通り、Δr を0.2 〜1.4 の範囲とすることでフラットヘムなどの曲げ加工性を0.5 〜3.5 とすることができる。なお、図1 において、キューブ方位分布密度が10未満、Δr が1.5 以下のものが、常法による等方性を持ったAl合金板であり、フラットヘムなどの曲げ加工性が著しく劣る4.0 レベルとなる。
(平均結晶粒径)
なお、これら結晶粒組織の規定に際して、前提として、Al合金板の平均結晶粒径を50μm 以下の微細化させることが好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、フラットヘム加工性やプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が50μm を越えて粗大化した場合、フラットヘム加工性や張出などのプレス成形性が著しく低下し、ヘム部での割れなどの不良や、プレス成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易い。
なお、ここで言う結晶粒径とは板の長手(L) 方向の結晶粒の最大径である。この結晶粒径は、Al合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。
(化学成分組成)
次に、本発明Al合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。
本発明Al合金板の基本組成は、上記組織などの規定、またアウタパネルなどとして必要な、成形性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を確保するために、Al-Mg-Si系(6000 系)Al 合金とする。Al-Mg-Si系(6000 系)Al 合金の範囲でなければ、本発明で規定する上記r 値の規定範囲や組織などにならず、また、前記諸特性が発揮されない。
また、上記必要諸特性を確保するために、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上とした過剰Si型のAl-Mg-Si系Al合金とする。そして、上記組織の規定や諸特性を確保するために、より厳密には、前記規定各成分以外の残部を、Alおよび不可避的不純物とする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
上記合金元素以外の、Cr、Zr、Ti、B 、Fe、Zn、Ni、V など、その他の合金元素は、基本的には不純物元素である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら他の合金元素が含有されることを許容する。
各元素の好ましい含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。 Si:0.4〜1.3%。
Siは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの、前記低温短時間での人工時効処理時に、MgとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、板として170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。したがって、6000系Al合金板にあって、プレス成形性、ヘム加工性などの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
また、前記低温短時間での人工時効処理時 (板への成形後の塗装焼き付け処理、評価試験としては2%ストレッチ付与後160 ℃×20分の低温時効処理) 時の耐力を170MPa以上という、優れた低温時効硬化能を発揮させるためにも、Si/Mg を質量比で1.0 以上とし、SiをMgに対し過剰に含有させた過剰Si型6000系Al合金組成とする。
Si量が0.4%未満では、前記時効硬化能、更には、各用途に要求される、プレス成形性、ヘム加工性などの諸特性を兼備することができない。一方、Siが1.3%を越えて含有されると、特にヘム加工性や曲げ加工性が著しく阻害される。更に、溶接性を著しく阻害する。したがって、Siは0.4 〜1.3%の範囲とするのが好ましい。なお、アウタ板では、ヘム加工性が特に重視されるため、プレス成形性などの他の特性を低下させずに、フラットヘム加工性をより向上させるために、Si含有量を0.6 〜1.0%と、より低めの範囲とすることが好ましい。
Mg:0.2〜1.2%。
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、SiとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、板としての170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。
Mgの0.2%未満 (質量% 、以下同じ) の含有では、絶対量が不足するため、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、時効硬化能を発揮できない。このため板として必要な前記必要強度が得られない。
一方、Mgが1.2%を越えて含有されると、プレス成形性や曲げ加工性 (ヘム加工性) 等の成形性が著しく阻害される。したがって、Mgの含有量は、0.2 〜1.2%の範囲で、かつSi/Mg が1.0 以上となるような量とする。また、フラットヘム加工性をより向上させるために、Si含有量を前記0.6 〜1.0%のより低めの範囲とする場合には、これに対応して過剰Si型6000系Al合金組成とするために、Mg含有量も0.2 〜0.8%と低めの範囲とすることが好ましい。
Cu:0.001〜1.0%
Cuは、本発明の比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、時効処理状態で固溶したCuは成形性を向上させる効果もある。Cu含有量が0.001%未満ではこの効果がない。一方、1.0%を越えると、耐応力腐食割れ性や、塗装後の耐蝕性の内の耐糸さび性、また溶接性を著しく劣化させる。このため、自動車アウタパネル用などの板用途などの場合には、耐糸さび性の発現が顕著となる0.1%以下の量とすることが好ましい。
Mn:0.01 〜0.65%
Mnには、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。前記した通り、本発明Al合金板のプレス成形性やヘム加工性はAl合金組織の結晶粒が微細なほど向上する。この点、Mn含有量が0.01% 未満ではこれらの効果が無い。
一方、Mn含有量が多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、Al合金板の機械的性質を低下させる原因となる。また、特に、前記複雑形状や薄肉化、あるいはインナ板端部とアウタ板縁曲部内面との間の隙間の存在などによって、加工条件が厳しくなったフラットヘム加工では、Mn含有量が0.25% を越えた場合、ヘム加工性が低下する。このため、Mnは0.01〜0.65% の範囲とし、加工条件が厳しくなったフラットヘム加工では、より好ましくは0.01〜0.25% の範囲とする。
Cr 、Zr。
これらCr、Zrの遷移元素には、Mnと同様、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。しかし、Cr、Zrも、0.15% を越える含有では、前記加工条件が厳しくなったフラットヘム加工ではヘム加工性が低下する。したがって、Cr、Zrの含有量も0.15% 以下に規制することが好ましい。
Ti 、B 。
Ti、B は、Ti:0.1% 、B:300ppmを各々越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。但し、Ti、B には微量の含有で、鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性を向上させる効果もある。したがって、Ti:0.1% 以下、B:300ppm以下までの含有は許容する。
Fe。
溶解原料から混入して、不純物として含まれるFeは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6などの晶出物を生成する。これらの晶出物は再結晶粒の核となり、Feが0.08% 以上含まれた場合に、結晶粒の粗大化を阻止して、結晶粒を50μm 以下の微細粒とする役割を果たす。しかし、一方で、これらの晶出物は、破壊靱性および疲労特性、更には、前記加工条件が厳しくなったフラットヘム加工性およびプレス成形性を著しく劣化させる。これらの劣化特性は、Feの含有量が0.50% を越えると顕著になる。このため、含有させる場合のFeの含有量は、0.08〜0.50% とすることが好ましい。
Zn。
Znは0.5%を越えて含有されると、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量は好ましくは0.5%以下とすることが好ましい。
(成形加工)
本発明Al合金板が対象とするヘム加工は、特にフラットヘム加工を意図している。具体的なフラットヘム加工方法を例示すると、アウタ板の縁をポンチなどの工具により90°に近い角度まで折り曲げるダウンフランジ工程、アウタ板の縁を更に約135 °まで内側に折り曲げるプリヘム工程を経て、インナ板端部をアウタ板の折り曲げ部内に収容 (挿入) し、アウタ板の縁を工具により更に180 °の角度まで内側に折り曲げてフラットヘムが形成される。このフラットヘムでは、インナ板と、アウタ板の180 度折り曲げ部とが接合、密着され、フラットな曲げ部形状を有する。
しかし、本発明Al合金板は厳しい条件であるフラットヘム加工性に優れるので、それよりも一段緩い条件である、前記折り曲げ部が円弧状に膨らんだロープ状の断面形状を有しいるロープヘムなどの加工性にも当然優れる。また、加工 (変形) の機構が共通する、前記他のハット型曲げ加工や90度曲げ加工などの曲げ加工性や、あるいは、一般的にV 曲げ、U 曲げ、端曲げ、波曲げ、引張曲げなどと称される曲げ加工性にも優れる。したがって、本発明は、他のロープヘムなどのヘム加工も対象とし、ヘム加工以外の曲げ加工も対象とする。
なお、フラットヘムなどのヘム加工が、本発明Al合金板の4 周囲に対して全て行われるか、選択される辺 (側縁部) のみに対して行われか、また、ヘム加工されるアウタ板の端部形状が直線形状か、円弧形状やあるいは角部を有するような複雑形状かは、アウタ板などの部材設計に応じて、適宜選択される。
本発明Al合金板は、また、ヘム加工性と同時に、上記張出などのプレス成形を対象とする。そして、プレス成形の中でも、特に、アウタ板などにおける、前記した形状が大型化、複雑化した際の張出成形を対象とする。ただ、これらの張出成形性に優れることは、加工条件が比較的緩やかな、他の絞りなどの成形性に優れることを意味する。したがって、本発明Al合金板は、特に張出成形、また張出成形で代表できる他のプレス成形をも対象とする。
(製造方法)
以上の本発明Al合金板の製造方法について説明する。
6000系Al合金板に対し、前記した、本発明キューブ方位分布密度と r値異方性とを持つ組織を得るためには、上記成分組成などの他に、下記の冷間圧延での加工率を制御する。この点、常法で得られる通常のAl合金板は、前記した通り、基本的に本発明のようなキューブ方位分布密度と r値異方性はないし、また得られない。
本発明キューブ方位分布密度と r値異方性とを持つ組織を得るためには、圧下率を70% 以上の高い圧下率で冷間圧延する。冷間圧延での圧下率を高くすることで、冷間圧延板に十分な歪みエネルギーを蓄積できる。この結果、後述する焼鈍や溶体化を含む調質処理で、前記キューブ方位分布密度とr値の異方性を有する組織を得ることができる。冷間圧延での圧下率が低いと、常法材と変わりなくなり、後述する調質処理で、前記組織が蓄積できない。一方、冷間圧延での圧下率を80% 以上に高くしすぎても、キューブ方位分布密度と r値異方性とが過度となり、プレス成形性を却って以下させる。したがって、冷間圧延での圧下率は70〜80% とすることが好ましい。
その他の工程条件は常法で可であるが、アウタ板などとしての、フラットヘム加工性や他の特性を向上させるための好ましい条件もあり、以下に説明する。
先ず、溶解、鋳造工程では、本発明成分規格範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
次いで、このAl合金鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延、および前記高い圧下率での冷間圧延を行い、コイル状、板状などの板形状に加工する。その際、熱間圧延後に冷間圧延に先立つ焼鈍を行なって、キューブを集積させない方向に (キューブ方位分布密度を小さくする方向) に制御することができる。
加工後のAl合金板は、調質処理として、先ず、必須に溶体化および焼入れ処理される。溶体化および焼入れ処理は、後の塗装焼き付け硬化処理などの人工時効硬化処理によりGPゾーンなどの化合物相を十分粒内に析出させるために重要な工程である。この効果を出すための溶体化処理条件は、500 〜560 ℃の温度範囲で行うのが好ましい。
従来、フラットヘム加工性が特に重視される板用の場合には、あるいは前記厳しいフラットヘム加工条件用の場合には、前記溶体化処理温度を500 〜530 ℃のより低温側としていた。しかし、本発明では、前記した通り、従来のように、Al合金板の0.2%耐力を140MPa以下の低強度とせずとも、特にフラットヘムなどのヘム加工性やプレス成形性が優れる。
このため、溶体化処理温度を530 〜560 ℃の範囲の高温側で行い、Al合金板の0.2%耐力を140MPaを越える高強度にして、後の板成形後の板の人工時効硬化処理によりGPゾーンなどの化合物相を十分粒内に析出させるようにし、成形後の塗装工程などにおける前記低温短時間の人工時効硬化処理でも170MPaを越えるような高強度の板とすることが好ましい。
溶体化処理後の焼入れの際、冷却速度は50℃/ 分以上の急冷とすることが好ましい。冷却速度が50℃/ 分未満の遅い場合には、焼入れ後の強度が低くなり、時効硬化能が不足し、前記低温短時間の低温での人工時効処理により170MPa以上の高耐力を確保できない。
また、粒界上にSi、MgSiなどが析出しやすくなり、プレス成形やフラットヘム加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷でもよいが冷却速度が遅くなる可能性が大きく、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段から選択して行うことが好ましい。
本発明では、前記した通り、室温時効自体は許容するものの、室温時効を抑制しても良い。即ち、溶体化焼入れ処理後、室温時効の原因となるクラスターの生成を抑制し、GPゾーンの析出を促進するために、予備時効処理をしても良い。この予備時効処理は、50〜100 ℃、好ましくは60〜90℃の温度範囲に、1 〜24時間の必要時間保持することが好ましい。また、予備時効処理後の冷却速度は、1 ℃/hr 以下であることが好ましい。
この予備時効処理として、溶体化処理後の焼入れ終了温度を50〜100 ℃と高くした後に、直ちに再加熱乃至そのまま保持して行う。あるいは、溶体化処理後常温までの焼入れ処理の後に、直ちに50〜100 ℃に再加熱して行う。
また、連続溶体化焼入れ処理の場合には、前記予備時効の温度範囲で焼入れ処理を終了し、そのままの高温でコイルに巻き取るなどして行う。なお、コイルに巻き取る前に再加熱しても、巻き取り後に保温しても良い。また、常温までの焼入れ処理の後に、前記温度範囲に再加熱して高温で巻き取るなどしてもよい。
更に、室温時効抑制のために、前記予備時効処理後に、時間的な遅滞無く、比較的低温での亜時効処理を行い、GPゾーンを生成させても良い。前記時間的な遅滞があった場合、予備時効処理後でも、時間の経過とともに室温時効 (自然時効) が生じ、この室温時効が生じた後では、亜時効処理による効果が発揮しにくくなる。
これらの効果を得るためには、Al合金材の前記組成範囲において、時効処理温度を80〜120 ℃の亜時効処理範囲とし、時効処理時間は必要時間、好ましくは1 〜24時間の範囲とし、この範囲の中から、前記組成に応じて、時効処理効果が得られる温度と時間を選択することが好ましい。また、この亜時効処理後の冷却速度は、1 ℃/hr 以下であることが好ましい。時効処理温度が80℃未満では、また、保持時間が短過ぎると、GPゾーンを生成させることができない。このため、室温時効抑制効果や低温時効硬化能が得られない。一方、120 ℃を越える温度では通常の時効処理と大差なくなり、β" 相も析出して時効が進み過ぎ、強度が高くなりすぎる。この点は、時効処理の保持時間が長過ぎても同じである。なお、前記予備時効処理温度を、後述する時効処理並に高めとし、時効処理と合わせた乃至連続した熱処理としても良い。
この他、用途や必要特性に応じて、更に高温の時効処理や安定化処理を行い、より高強度化などを図ることなども勿論可能である。
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示す各6000系組成範囲のAl合金板について、材料特性の異方性を制御するために、表2 に示すように、熱間圧延後の焼鈍の有無と、冷間圧延の圧下率などを種々変えて、厚さ1.0mm のAl合金板を作成し、プレス成形性およびヘム加工性を評価した。
熱間圧延後の焼鈍の有無と、冷間圧延の圧下率以外のAl合金板の作製条件は、下記冷間圧延の圧下率を変化させるための熱間圧延板の板厚を除き、ほぼ同じ条件で行った。即ち、表1 に示す各組成範囲の400mm 厚の鋳塊を、DC鋳造法により溶製後、540 ℃×4 時間の均質化熱処理を施し、終了温度300 ℃で厚さ2.3 〜8mmtまで板厚を種々変えて熱間圧延した。この熱間圧延板を、キューブ方位分布密度と r値異方性とを制御するために、350 ℃×5 時間のバッチ焼鈍を選択的に行なった後に、更に、厚さ1.0mm まで、圧下率を種々変えて冷間圧延した。
次に、これら冷延板を以下の条件で調質処理した。冷延板を570 ℃に保持した空気炉に投入し、板が550 ℃の溶体化処理温度に到達した時点で (保持時間 0秒) 、70℃の温水に焼き入れする処理を行った。前記焼入れ処理の際の冷却速度は200 ℃/ 秒とし、焼入れ終了温度 (焼入れ温度) は共通して70℃とし、焼入れ後にこの温度で2 時間保持する予備時効処理 (保持後は冷却速度0.6 ℃/hr で徐冷) を行った。
そして、調質処理後に十分室温時効したAl合金板がプレス成形およびヘム加工されることを想定および考慮して、調質処理後のAl合金板を、調質処理後 4カ月間 (120 日間) の室温時効 (室温放置) させた。
これら室温時効後のAl合金板から供試板や試験片を必要枚数切り出し、各供試板の、圧延方向に平行な引張強さ (σB ) および耐力 (σ0.2)と、伸び(%) 、そして、前記r90 、r45 、r0の各方向の r値を各々測定した。そして、前記Δr を求めた。これらの結果を表2 に示す。なお、室温時効後の供試板について, 前記した方法で結晶粒径を測定した結果、発明例と比較例ともに全て、結晶粒径は全て50μm 以下であった。
なお、引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
更に、これら室温時効したAl合金板が、自動車パネルとしてプレス成形やヘム加工されることを模擬して、前記室温時効後の供試板を成形試験した。より具体的には、張出成形試験、張出成形後のフラットヘム加工試験を行い、成形性を評価した。これらの結果も表2 に示す。
張出成形試験の条件は、前記室温時効後の供試板から一辺が1000mmの正方形の供試板 (ブランク) を複数枚切り出して、メカプレスにより、ビード付き金型を用いて張出成形した。成形品の形状は、中央部に一辺が500mm で、高さが50mmと高い角筒状の張出部と、この張出部の四周囲に平坦なフランジ部を有したハット型のものとした。
張出成形試験は、しわ押さえ力は490kN 、潤滑油は一般防錆油、成形速度は20mm/ 分の同じ条件で3 回行った。評価は、前記角部割れと、前記フランジ (端部) 割れについて別々に行い、3 回とも成形ハット型板の角部割れが発生していない例を〇、1 回でも角部割れが生じたものを×として評価した。
また、この張出成形の際に、割れにかかわり無く、発生した「しわ」の最大高さ(mm)を測定し、3 回の成形の際の前記しわ高さの平均が1.0mm 以下のものを○、1.0mm を越え2.0mm 以下のものを△、2.0mm を越えるものを×と評価した。
次に、フラットヘム加工試験は以下の通りとした。前記プレス成形されたAl合金板を、アウター板としてヘム加工されることを模擬して、板の前記平坦なフランジ部の一つの端部全面を以下の条件でフラットヘム加工した。
まず、Al合金板のフラットヘム加工代 (ヘム加工後の板の内側に折り曲げられた端部から折り曲げ部の端部までの距離) を12mmとして、ダウンフランジ工程を模擬し、Al合金板の縁を90度の角度となるまで折り曲げた。この際、Al合金板の90°曲げ半径は0.8 とした。次に、プリヘム工程模擬して、Al合金板の縁を更に135 °の角度まで内側に折り曲げた。
その後、より厳しいフラットヘム加工条件を模擬して、インナ板を前記Al合金板の折り曲げ部に挿入せずに、折り曲げ部を更に内側に180 度折り曲げ、板面に密着させるフラットヘム加工を行った。
そして、このフラットヘムの縁曲部の、肌荒れ、微小な割れ、大きな割れの発生などの表面状態を目視観察した。評価は、0.0:肌荒れや微小な割れも無く表面状態が良好、1.0:若干の肌荒れが部分的に発生しているもの、2.0:肌荒れが全面的に発生しているものの、微小なものを含めた割れはないもの、3.0:微小な割れが部分的に発生しているもの、4.0:比較的大きな割れが発生しているもの、の各段階で行い、これに、各段階の中間の状態のものも加え、合計9 段階の評価を加えた。この評価において、ヘム加工性が良好あるいはヘム加工条件を変えるなどしてヘム加工に使用可と判断されるのは3.5 段階までで、4.0 段階はヘム加工条件を変えてもヘム加工に使用できない。
更に、低温時効硬化能 (塗装焼き付け硬化性) を調査するため、前記プレス成形されたAl合金板から供試板を採取して、160 ℃×20分の低温短時間の人工時効硬化処理し、処理後の各供試板の (元のAl合金板の) 圧延方向に平行な(L方向の) 引張強さ (ABσB ) と、耐力 (ABσ0.2)、を測定した。これらの結果も表2 に示す。
表1 、2 から明らかな通り、発明例1 〜7 は、前記 4カ月間 (120 日間) の室温時効後で、調質直後に比して耐力が高くなり、成形性や時効硬化性に不利となった条件でも、フラットヘム加工が可能であり、また、割れの発生がなく、しわの発生量が少ないため、張出成形性にも優れ、更に人工時効硬化能も優れている。
しかも、前記プレス成形性とフラットヘム加工性の試験条件と評価は、自動車アウタ板などの実際の厳しい加工条件の評価につながるものである。したがって、発明例1 〜7 は、前記プレス成形性とフラットヘム加工性とを兼備し、張出成形などのプレス成形で、張出高さや張出面積などが大型化しても、しわの発生量が少なく張出成形性が優れ、実際の自動車アウタ板にも十分適用できることを示している。
一方、比較例8 、9 、11、13は、常法により製造された板と言え、r 値の異方性が殆ど無い従来相当材である。したがって、各々発明例と対応する同じ合金組成であるにも関わらず、キューブ方位分布密度が10未満で、Δr も0.1 程度であり、本発明範囲から低めに外れた結果となっている。このため、比較例8 、9 、11、13は、フラットヘム加工性が発明例に比して著しく劣る。
更に、比較例10、12、14は、材料特性に強い異方性を持つ場合であり、キューブ方位分布密度が30を超え、Δr も1.4 を超えており、本発明範囲から高めに外れた結果となっている。この結果、フラットヘム加工性は発明例に比して優れるものの、張出成形が著しく低下している。
Figure 0004588338
Figure 0004588338
本発明によれば、ヘム加工などの曲げ加工性とプレス成形性とに優れるとともに、低温時効硬化能などのパネル化に際して要求される他の特性も兼備したAl-Mg-Si系Al合金板を提供することができる。したがって、Al合金板の板用途への拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。
Al合金板における、キューブ方位分布密度と r値異方性との、曲げ加工性との関係を示す説明図である。

Claims (3)

  1. キューブ方位分布密度と r値の異方性とを制御したAl-Mg-Si系アルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板が、質量% で、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物である組成からなり、このアルミニウム合金板の表面から板厚の1/4 深さ部分における結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度が10〜30の範囲であり、かつ、このアルミニウム合金板の、圧延方向に対して平行方向の r値r0と、圧延方向に対して直角方向の r値r90 と、圧延方向に対して45度方向の r値r45 との、r0とr90 に対するr45 の異方性を示す指標である (r0+r90 −2 ×r45)/2が0.2 〜0.7 の範囲であることを特徴とする曲げ加工性とプレス成形性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が張出成形後にヘム加工される請求項1に記載の曲げ加工性とプレス成形性に優れたアルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板が自動車アウタパネル用である請求項1または2に記載の曲げ加工性とプレス成形性に優れたアルミニウム合金板。
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