JP4587555B2 - 空気入りタイヤ対 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両の旋回性能の他、とくに高速走行時の直進安定性を向上させた空気入りタイヤ対に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
走行中の車両は、路面状態、風および操舵などに起因する外乱を常に受けており、その外乱によって、タイヤの操縦安定性が大きな影響を受けることになる。
また、近年は、高速道路網の発達や、車両の高出力化の下に、高速走行を行う機会が増えており、この高速走行時に重要な直進安定性は、上記外乱による影響の他、操舵による進路修正のし易さの影響を大きく受けることになる。
【0003】
ところで、操舵によってタイヤに舵角が付加されてそれに横力が発生する場合には、とくに、旋回の外側に位置してより大きな横力を発生するタイヤは、それの幅方向の断面内で車両の外側から内側に向けて比較的大きく撓み変形するため、車両の内側のトレッド接地部分が路面から浮き上がる傾向を示すことになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
これがため、上記浮き上がり傾向に対する何の特別の対策も講じていない一般的な従来タイヤを装着した車両では、すぐれた旋回性能および進路修正性能を発揮させることが難しく、旋回安定性が低いという問題があり、また、高速走行時の直進安定性を、満足できる程度にまで高めることができないという問題があった。
【0005】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、旋回性能を向上させるとともに、高速走行時の直進安定性を向上させた空気入りタイヤ対を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明の空気入りタイヤ対は、トレッド部と、一対のサイドウォール部およびビード部とを具えるとともに、それらの各部を補強する、複数枚のカーカスプライからなるカーカスと、カーカスのクラウン部とトレッド部との間に配置したベルトとを具える空気入りタイヤであり、タイヤの回転方向を上方としたタイヤ展開姿勢で、前記複数枚のカーカスプライのうち、最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを形成するプライコードの、トレッド部側から見た延在方向を、左輪タイヤで右上がり、右輪タイヤで左上がりとしてなるものである。
【0007】
このタイヤによれば、とくに、タイヤに舵角が付与されてそれが横力を発生する場合、とくに、旋回の外側に位置して大きな横力を発生するタイヤの、車両の内側に位置するトレッド接地部分の浮き上がりを、プライコードの延在方向に基づく、後に詳述するような、車両の内側部分のサイドウォール部剛性の増加によって有効に防止することができ、これにより、旋回性能を有利に向上させることができる。
【0008】
またここでは、プライコードの延在方向を、左輪タイヤと右輪タイヤとの間で逆方向とすることで、プライコードの延在方向に起因するプライステアその他の性能差の相殺下で、高い直進安定性を発揮させることができ、併せて、左右の旋回性能を同等としてすぐれた進路修正機能を発揮させることができる。
【0009】
なおこのタイヤにおいて、前記複数枚のカーカスプライを、ビード部に配設したビードコアの周りに折返した場合には、タイヤビード部からサイドウォール部にかけての剛性を一層増加させて、上記作用効果をより高めることができる。
【0010】
また好ましくは、前記最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを構成するプライコードのうち、プライ折返し部を除くプライ本体部に位置するプライコードの延在方向を、左輪タイヤで右上がり、右輪タイヤで左上がりとする。
【0011】
本発明によれば、最も大きな張力が作用して剛性増加に大きく寄与する最内層カーカスプライのプライコードの延在方向を所要の方向とするか、および/または、ビードコアの周りでの折返し高さが最も高くなって、ビード部からサイドウォール部の剛性増加に大きく寄与する、最も広幅のカーカスプライプライコードの延在方向を所要の方向とすることで、所期した効果の一層の増加を担保することができる。また、前記最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを構成するプライコードのうち、プライ折返し部を除くプライ本体部のプライコードの延在方向を、左輪タイヤで右上がり、右輪タイヤで左上がりとすることによって、複数枚のカーカスプライを全体として剛性増加に寄与させることができる。
そして、本発明にあっては、ビードコアの周りに折り返した前記複数枚のカーカスプライのうち、前記最内層のカーカスプライ折返し部が、最もタイヤ径方向外側に位置するように構成にした場合にとくに効果的である。
【0012】
また、左輪タイヤおよび右輪タイヤは、それぞれの前記最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを構成するプライコードを車両中心線に対して線対称に延在させた場合には、それぞれのタイヤの、プライステア等の性能差の影響をより十分に相殺することができる。
【0013】
さらに、前記複数枚のカーカスプライのうち一枚以上のカーカスプライのプライコードの延在方向を、実質上タイヤ幅方向とした場合には、ラジアルタイヤに固有の、運動性能の向上、耐摩耗性の向上、騒音特性の向上等を実現することができる。
【0014】
ところで、以上のような作用効果は、上述したいずれかに加えて、カーカスプライの枚数および幅、ならびに、プライコードの弾性率および打込み数の少なくとも一つを、車両の内側に位置するサイドウォール部で大きくした場合にさらに顕著である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の実施の形態を図面に示すところに基づいて説明する。
図1は、この発明の実施の形態を、左輪タイヤの一部を破断除去して示す断面斜視図であり、図中1はトレッド部を、2は、トレッド部1のそれぞれの側部から半径方向内方へ延びるサイドウォール部を、そして3は、サイドウォール部2の半径方向内端に連続するビード部をそれぞれ示し、各ビード部3にはビードコア4を配設する。
【0016】
ここでは、これらの各部1,2,3を、ビードコア4間にトロイダルに延びる二枚のカーカスプライ5,6からなるカーカス7によって補強するとともに、両カーカスプライ5,6をともにビードコア4の周りに折返して半径方向外方に巻上げる。
【0017】
またここでは、内層側のカーカスプライ5を外層側のカーカスプライ6より広幅とし、その内層側カーカスプライ5の、折返し部分5aを除く本体部分5bでのプライコード5cの延在方向を、タイヤの回転方向Aを上方としたタイヤ展開姿勢の下で、図2に模式的に示すようにトレッド部から見て右上がりとする。従って、このカーカスプライ5の折返し部分5aでは、プライコード5cは左上がりに延在することになる。
【0018】
この一方で、右輪タイヤでは、同様にして見たときのプライコードの延在方向を、図2に仮想線で示すように左上がりとする。
【0019】
なお図に示すところでは、左輪タイヤの外層側カーカスプライ6のプライコード6aは、実質上タイヤ幅方向に延在し、このことは、図示しない右輪タイヤについても同様である。
【0020】
そしてさらには、カーカス7のクラウン部とトレッド部1との間に、二層のスチールコード交差層よりなるベルト8と、ナイロンコードその他の有機繊維コードの螺旋巻回構造になり、ベルト8を、それのほぼ全幅にわたって覆う広幅補強層9および、ベルト8のそれぞれの側部部分だけを覆う狭幅補強層10とを配設する。
【0021】
ところで、このようなタイヤの負荷転動に当って、それに舵角を付与した場合、たとえば、図3に示すように、左輪タイヤに右旋回方向の舵角を付与した場合には、その左輪タイヤには旋回の中心に向かう横力SFが発生し、タイヤは、その幅方向断面内で、横力SFの作用方向に撓み変形することから、通常は、トレッド接地面の図の右端部分、いいかえれば、横力SFの出側端部分が浮き上がる傾向を示す。
【0022】
かかる傾向に対しては、横力の出側と入側とのそれぞれで、サイドウォール部に剛性差を付けて出側の剛性をより大きくすることが、接地面の浮き上がりを抑制する上で効果的であるので、この発明に係る上記タイヤでは、横力の出側、すなわち、車両の内側となるサイドウォール部2における、カーカスプライ5のプライコード5cの延在方向を選択して、とくに、タイヤの踏み込み時の、サイドウォール部の剪断変形に対する剛性を増大させることによってトレッド部接地面の浮き上がりを防止し、結果として、旋回性能の大きな向上を実現する。
【0023】
より具体的には、左輪タイヤの負荷転動時における、車両の内側のサイドウォール部2は一般に、トレッド部1の踏み込み側で、そのトレッド部1が、路面との衝接によって、図4に示すような円周方向の押出し変形Pを受けて、トレッド部1に立てた法線Nが図に仮想線で示すように変位することに起因して大きく剪断変形されて、たとえば、サイドウォール部上の仮想の四角形Sが、破線で示す四辺形S1に変形することになるところ、この発明に係るタイヤでは、プライコード5cを、四辺形Sの対角方向Tに対応させて延在させて、その方向の耐張力を高めることで、四角形Sの、四辺形S1方向への変形を抑制して、サイドウォール部2の、剪断変形に対する直接的な剛性増加をもたらし、併せて、このことによる必然的帰結として、前記押出し変形Pの低減をもたらして、トレッド部の接地面の路面からの浮き上がりを防止し、車両の旋回性能を向上させる。
【0024】
より具体的には、図3(b)に示すように、横力SFの出側のトレッド部接地端Eはその横力SFによるタイヤの撓み変形によって位置E1に変位し、この時、横力SFの出側のサイド部は高さHから高さH1になるようなつぶれ変形を行うので、横力SFの発生時には、図4に示すサイドウォール部の剪断変形もまた大きくなる。
すなわち、横力SFの出側の接地部分の浮き上がり変形と、サイドウォール部の剪断変形は、変形の方向は異なるが密接な関連を有しており、互いに影響しあう。従って、この、上下方向のつぶれ変形と押出し変形Pの複合である剪断変形を押制すれば、接地面の浮き上がりを抑えることができる。
【0025】
なおこの場合において、左輪タイヤの車両外側のサイドウォール部2では、プライコード5cの延在方向を、図2に示すところで左上がりとして剪断剛性を同様に増加させることも考えられるが、横力SFの入側の剛性が高いと、トレッド部接地面の横力SFの入側部分で荷重をとくに大きく負担することになって、横力出側部分の浮き上がりを助長することになる。
従って、横力SFの出側での接地面の浮き上がりの抑制のためには、その横力SFの出側では剛性を高めて変形を小さくする一方で、横力入側では剛性を小さくして、サイドウォール部2の路面に対する突っ張りを防止することが、接地面の全体で荷重をできるだけ均等に負担する上で好適であるので、この発明では、車両外側のサイドウォール部2のプライコード5cの延在方向を、図2に示すように左下がりとする。
【0026】
そしてこれらのことは、右輪タイヤについてもまたほぼ同様であるので、その右輪タイヤでは、対象となるプライコードを、図2に仮想線で示すように左上がりに延在させ、より好ましくは、左右輪のそれぞれのタイヤにおけるプライコードの相互の延在態様を、車両中心線Xに対して線対称とする。
【0027】
以上、図1に示す構造を有するタイヤについて説明したが、カーカスを、三枚以上のカーカスプライにて構成することもでき、この場合には、最内層のカーカスプライおよび、最も広幅のカーカスプライの少なくとも一方のプライコードの延在方向を上述した方向とすることまたは、複数枚のカーカスプライのそれぞれのプライコードの平均的な延在方向を上述した延在方向とすることができる。
【0028】
またカーカスは、図5(a)に示すように、ビードコア4の周りに折返される一枚のカーカスプライ11により構成することができる他、図5(b)に示すように、同様の一枚のカーカスプライ12と、半径方向内端がそのカーカスプライ12の折返し部に重なって終了する他の一枚のカーカスプライ13とで構成することもでき、この後者の場合には、少なくとも、折返し部を有するカーカスプライ12のプライコードの延在方向を先に述べた方向とすることが好ましい。
【0029】
以上のように構成してなるタイヤ対を車両に装着した場合には、旋回時により大きな横力を発生する旋回の外側のタイヤ、たとえば、右旋回に当っては左輪タイヤの、車両内側のサイドウォール部の剛性増加に基づき、すぐれた旋回性能を発揮させることができる。またこのタイヤ対では、カーカス構造に由来するプライステア等の各タイヤの性能差を相殺することで、高い直進性を実現することができ、さらには、左右の両旋回性能を同等として、操舵による進路修正性能を十分均等ならしめて、安定性を有利に向上させることができる。
【0030】
【実施例】
実施例I
図1に示す構造を有する、サイズが235/45 ZR17の乗用車用の空気入りタイヤ対において、カーカスを、1000D/2のポリエステルコードからなる二枚のカーカスプライで構成し、ベルトは、赤道線に対して22°の角度で傾斜配置した1×5構造のスチールコードよりなり、層間でコードが交差する二層のベルト層で構成し、広幅補強層および狭幅補強層のそれぞれを1260D/2のナイロンコードにより形成した場合の、コーナリングフォースおよび直進安定性を求めたところ表1に示す通りとなった。
【0031】
なお、実施例、従来例および比較例のそれぞれにおける各カーカスプライのプライコードの延在方向および、タイヤ赤道線に対する延在角度は表1に示すものとした
【0032】
【表1】
Figure 0004587555
【0033】
なおここにおけるコーナリングフォースは、上記タイヤを8JJのリムに組み、240kPaの空気圧を充填するとともに、最大負荷能力(650kg)の70%である450kgの質量を負荷し、セーフティウォークを貼り付けたフラットベルト式試験機を用いて、速度50km/h、タイヤの赤道線と路面進行方向とのずれで表わされるスリップアングルを1°とした条件下でタイヤに入力される横力CFを測定したものである。なおこの場合、左輪タイヤは右方向にスリップアングルを付与し、右輪タイヤは左方向にスリップアングルを付与した。
実施例等の測定結果を、従来例における横力SF=1806Nを100としたときの指数で表わすことにより求めた。
【0034】
直進安定性は、比較例および実施例のタイヤ対を供試タイヤとし、これらタイヤを2500ccの後輪駆動車(国産スポーツタイプ乗用車)のテスト車両に装着し、テストドライバーを含む乗員2名で速度60〜120km/hの範囲で直進走行、レーンチェンジ走行等を実施し、それぞれの走行結果を纏めてフィーリング評価することにより求めた。この性能評価は、従来例をコントロールとして10点満点で評点付けを行い、比較例、実施例のそれぞれは従来例との対比で±10段階の数値によるものとした。
【0035】
表1によれば、実施例はいずれも、コーナリングフォースおよび直進安定性ともに、従来例および比較例に比してすぐれた結果を示すことが明らかである。
【0036】
実施例II
カーカス構造を図5(b)に示すものとした以外は先の実施例Iで述べたと同様の構造のそれぞれのタイヤ対について、先の場合と同様に、コーナリングフォースおよび直進安定性を求めたところ表2に示す結果を得た。
なお、表2中の実施例4は、請求項に対応する構成を有するものである。
【0037】
【表2】
Figure 0004587555
【0038】
この表2によれば、実施例4では、実施例3に比し、コーナーリングフォースの増加と、直進安定性の幾分の増加が認められる。
【0039】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、左右の旋回性能を大きく向上させるとともに、外乱による影響を受けても、直進安定性、とくに、高速走行時におけるすぐれた直進安定性を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態を、左輪タイヤの一部を破断除去して示す断面斜視図である。
【図2】プライコードの延在方向を模式的に示すタイヤの展開図である。
【図3】左輪タイヤを右方向に操舵した場合の横力の発生態様を示す図である。
【図4】左輪タイヤの車両内側サイドウォール部の剪断変形の発生態様を示す図である。
【図5】他のカーカス構造を示す略線図である。
【符号の説明】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ビードコア
5,6,11,12,13 カーカスプライ
5a 折返し部分
5b 本体部分
5c プライコード
7 カーカス
8 ベルト
9 広幅補強層
10 狭幅補強層
A 回転方向
SF 横力
P 押出し変形

Claims (7)

  1. トレッド部と、一対のサイドウォール部およびビード部とを具えるとともに、それらの各部を補強する、複数枚のカーカスプライからなるカーカスと、カーカスのクラウン部とトレッド部との間に配置したベルトとを具える空気入りタイヤであり、
    タイヤの回転方向を上方としたタイヤ展開姿勢で、前記複数枚のカーカスプライのうち、最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを形成するプライコードの、トレッド部側から見た延在方向を、左輪タイヤで右上がり、右輪タイヤで左上がりとしてなる空気入りタイヤ対。
  2. 前記複数枚のカーカスプライを、ビード部に配設したビードコアの周りに折り返してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ対。
  3. ビードコアの周りに折り返した前記複数枚のカーカスプライのうち、最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライ折返し部が、最もタイヤ径方向外側に位置する請求項もしくはに記載の空気入りタイヤ対。
  4. 前記最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを構成するプライコードのうち、プライ折返し部を除くプライ本体部に位置するプライコードの延在方向を、左輪タイヤで右上がり、右輪タイヤで左上がりとしてなる請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ対。
  5. 左輪タイヤおよび右輪タイヤは、それぞれの前記最内層および最も広幅の少なくとも一方に該当するカーカスプライを構成するプライコードが、車両中心線に対して線対称に延在させてなる請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ対。
  6. 前記複数枚のカーカスプライのうち、一枚以上のカーカスプライのプライコードの延在方向を、実質上タイヤ幅方向としてなる請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ対。
  7. カーカスプライの枚数および幅、ならびに、プライコードの弾性率および打込み数の少なくとも一つを、車両の内側に位置するサイドウォール部で大きくしてなる請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ対。
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