JP4587519B2 - エレベータ案内装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレベータかごのような移動体を能動的に案内するエレベータ案内装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エレベータはエレベータシャフト内に敷設されたガイドレールとワイヤーに吊されたエレベータかごとワイヤーに張力を作用させてかごを昇降させる昇降手段で構成されている。かごはワイヤーで吊されているため負荷加重の不平衡や乗客の移動により揺動するが、ガイドレールに対して案内されることでこうした揺動が抑制され、ガイドレールに沿って昇降する。かごの案内には、従来、ガイドレールに接する車輪とサスペンションで構成される案内装置が用いられていたが、ガイドレールの歪みや継ぎ目に起因する振動や雑音が車輪を通して乗客に伝わり、エレベータの快適性を損なう一因となっていた。こうした問題を解決するため、エレベータかごに電磁石を搭載し、鉄製のガイドレールに対して電磁石の吸引力を作用させ、非接触でかごの案内を行う方式(例えば、特開昭51−116548号公報,特開平06−336383号公報など)が種々提案されている。中でも特願平11−192224号公報では、ガイドレールと空隙を介して対向する電磁石の磁極を前記ガイドレールを介して対向するように配置して構成される電磁石、および前記空隙において前記電磁石と磁路を共有するように配置された永久磁石で構成される磁石ユニットに前記電磁石の励磁電流をゼロに収束させながら前記ガイドレールに作用する前記磁石ユニットの吸引力を安定化する案内制御を施したエレベータ案内装置が開示されている。この技術により、快適な乗り心地を提供するとともにガイドレールの取付等、施工費を抑えた低コストのエレベータを実現している。しかし、このような場合でも次のような問題が生じてくる。
【0003】
すなわち、前記磁石ユニットの電磁石励磁電流をゼロに収束させながらエレベータかごの案内制御を行うとエレベータかごに作用する外力および、これに起因する外乱トルク、ならびに各磁石ユニットの永久磁石吸引力とがちょうど釣合うように各磁石ユニットとガイドレール間の空隙長が変化する。つまり、外力がエレベータかごに作用すると、外力の印加に逆らうように空隙長が変化する。ここで、何らかの原因で過大な外力がエレベータかごに作用するとかごは外力の作用方向とは逆向き移動してついには磁石ユニットがガイドレールに接触する。磁石ユニットがガイドレールに接触すると、ガイドレールからの反作用によって更なる外力が印加され、案内制御装置はこの外力に対向すべく磁石ユニットの吸引力をさらに変化させ、結果として空隙長のさらなる変化を助長する。このように、いったん磁石ユニットがガイドレールに接触すると、接触時に短くなった空隙長はより短く、広くなった空隙長はより広くなるように案内制御が作用するため、ついにはエレベータかごはガイドレールに完全に接触しふたたび非接触状態に復帰することはない。
このような場合でも、例えば、特公平06−24405号公報に見られるように案内制御手段が前記空隙長が所定の範囲内にある時に電磁石励磁電流をゼロに収束させる機能を持つゼロパワー制御手段を動作させる機能を有すれば外力によるエレベータかごのガイドレールへの吸着現象を回避することができる。すなわち、ゼロパワー制御手段の動作範囲を磁石ユニットがガイドレールに接触する直前に設定し、同公報の実施例のごとくゼロパワー制御手段の出力をゼロに切替えるような設定をすることで、案内制御装置から電磁石励磁電流をゼロに収束させるゼロパワー機能を停止させることができる。ゼロパワー制御手段の動作が停止すると磁石ユニットの吸引力は外力に対して設定空隙長に戻るように制御されるので、外力に逆らうように変化した空隙長は外力の印加方向に変化してエレベータかごはふたたび非接触状態に復帰することが可能になる。しかし、この場合でも、エレベータかごの案内制御装置の動作としては十分ではない。特公平06−24405号公報では、浮上式搬送装置に上述のような磁気浮上制御を適用している。走行する搬送車にあっては、発塵を防止するため、磁石ユニットとガイドレールの接触を完全に回避することに主眼が置かれており、ガイドレールの段差通過等で搬送車に印加される一過性の外力で生じるガイドレールへの接触を回避するためにゼロパワー制御手段を停止させ、空隙長をいち早く増加させている。このため、外力が一過性のものでない場合、例えば、定格積載重量の超過等の場合では、ゼロパワー制御の停止により空隙長が増加するとゼロパワー制御手段の動作が回復する。すると、空隙長が減少してふたたびゼロパワー制御が停止するという反復現象が発生する。しかし、この場合でも、搬送車のガイドレールへの接触は回避されており、発塵の防止という目的は達成されている。一方、エレベータにあっては、発塵の防止より快適な乗り心地が優先される。この場合、前記空隙長の範囲を基準にゼロパワー制御手段の作動・停止を決定すると、過大かつ定常的な外力がエレベータかごに印加されると上述のような空隙長の連続した変動が生じて著しく快適性が損なわれることになる。
【0004】
このような問題を解決するには、空隙長の変動に対して永久磁石吸引力の変動を大きくし、外力によりわずかに空隙長が変動しても大きな吸引力変化により外力とのバランスが保てるよう、磁石ユニットの寸法を大きくするとともにあらかじめ設計時に前記空隙長を小さく設定することが必要となる。しかし、こうした解決策では、磁石ユニットが大形化するとともにガイドレールの据付に高精度が要求され、結局、コストが高くなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来のエレベータ案内装置にあっては、ゼロパワー制御手段の作動・停止を磁石ユニットとガイドレールとの間の空隙長で決定していたため、ある程度の大きさで外力がエレベータかごに印加されると著しく乗り心地が損なわれるという問題があった。しかも、こうした問題を避けるために磁石ユニットを大きくすると装置が大型化し、一方、設計空隙長を小さく設定するとガイドレールの据付を高精度に行わなければならず、いずれもエレベータシステムの複雑化や大形化、コスト高に帰着していた。
本発明は、かかる事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、装置の快適性の向上に加え簡素化や小形化、コストの低減化、信頼性の向上が図れるエレベータ案内装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のエレベータ案内装置は、上下方向に敷設されたガイドレールと、前記ガイドレールに沿って昇降可能な移動体と、前記移動体に搭載されて前記ガイドレールと空隙を介して対向する磁極を有するとともにこれら磁極のうち少なくとも2つの磁極において前記ガイドレールに作用する吸引力が互いに逆向きとなるように構成もしくは配置された電磁石と、前記空隙において前記電磁石と磁路を共有するように配置されるとともに前記移動体を案内するのに必要な起磁力を供給する永久磁石を備えた磁石ユニットと、前記電磁石が前記空隙および前記ガイドレールと形成する磁気回路の前記空隙における状態を検出するセンサ部と、このセンサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して前記磁気回路を安定化させる案内制御手段と、前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流がゼロになる状態で前記磁気回路を安定化させるゼロパワ制御手段と、前記ゼロパワー制御手段の出力に所定の飽和値を設定し前記ゼロパワー制御手段の出力がこの飽和値で規定される範囲を超える場合に当該飽和値を前記ゼロパワー制御手段の出力とし、前記案内制御手段による安定化制御を前記飽和時の空隙長さを目標値とした空隙長制御に移行させる出力制限手段とを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記ゼロパワー制御手段には、前記励磁電流の所定値からの偏差に所定のゲインを持たせて積分する積分器備えているものを採用できる。さらに、前記ゼロパワー制御手段には、前記センサ部の出力値から磁気案内系に加えられる外力を観測する状態観測器と、この状態観測器で観測された前記外力の推定値に所定のゲイン乗じるゲイン補償器とを備えているものを採用できる。加えて、前記ゼロパワー制御手段には、前記センサ部の出力を入力とする少なくとも次の遅れフィルタとを備えているものを採用できる。
また、前記出力制限手段には、前記ゼロパワー制御手段の出力値が所定の最大飽和値と最小飽和値で特定される範囲外にある場合、前記ゼロパワー制御手段の出力値が最大飽和値より大きい時は最大飽和値を、小さい時は最小飽和値を出力し、範囲内にある場合は前記ゼロパワー制御手段の出力値をそのまま出力する機能を有するものを採用できる。
さらに、前記出力制限手段には、前記最大飽和値を規定する定電圧源の出力端から前記ゼロパワー制御手段の出力端を順方向として配置されるツェナダイオードを備えているものを採用できる。
【0008】
加えて、前記出力制限手段には、前記ゼロパワー制御手段の出力端から前記最小飽和値を規定する定電圧源の出力端を順方向として配置されるツェナダイオードを備えているものを採用できる。
また、前記出力制限手段には、前記最大飽和値を規定する定電圧源の出力端から前記ゼロパワー制御手段の出力端を順方向として配置される第のツェナダイオードと、前記ゼロパワー制御手段の出力端から前記最小飽和値を規定する定電圧源の出力端を順方向として配置される第のツェナダイオードとを備えているものを採用できる。
さらに、前記出力制限手段には、前記最大飽和値を規定する定電圧源を正側電源、最小飽和値を規定する定電圧源を負側電源とするオペレーショナルアンプリファイヤを備えているものを採用できる。
本発明は上下方向に敷設された鉄製のガイドレールに対して電磁石を備えた磁石ユニットにより磁気的に非接触でエレベータかごを案内している。ここで磁石ユニットは前記ガイドレールと前記電磁石との間の空隙において磁路を共有する永久磁石を備えている。エレベータかごの案内は、何らかの原因でかごが揺動した場合、その揺動を検出し、電磁石励磁電流を揺動に対して変化させ、ガイドレールに磁石ユニットの吸引力を作用させることで行われる。かごの揺動は、ガイドレールと磁石ユニット間の空隙長の変化に起因する磁気回路の磁気抵抗を変化させるとともに、電磁石励磁電流は磁気回路の起磁力を変動させる。このため、かごの案内制御では、前記空隙長もしくは前記励磁電流を検出し、これらの値に基づいて計算された電流もしくは電圧で電磁石を励磁する。この時、ゼロパワー制御手段が動作していると、定常状態において電磁石励磁電流がゼロに収束するとともに各磁石ユニットの空隙長が変化して、エレベータかごに搭載された複数の磁石ユニットの永久磁石に起因する吸引力が互いにバランスして非接触案内が達成される。この状態でエレベータかごに外力が加わると、かごには揺動が生じるが、その揺動を抑えるべく前記電磁石が励磁される。一方、ゼロパワー制御手段の働きにより、電磁石の励磁による吸引力で磁石ユニットとガイドレール間の空隙長が変化していき、ついには永久磁石の吸引力と外力とがバランスする空隙長で励磁電流がゼロに収束し、エレベータかごの揺動は停止する。したがって、外力と永久磁石吸引力がバランスしている場合には、外力と対向する吸引力を発生させる磁極の前記空隙長が狭くなり、逆に外力と同方向の吸引力を発生させる磁極の空隙長は増加する。このゼロパワー制御によるエレベータ案内装置については特公平06−24405号公報において詳細に述べられており、ここではゼロパワー制御手段の動作については詳細な説明は省略する。
【0009】
ゼロパワー制御手段が動作中であると、大きな外力が印加され、磁石ユニットがいったんガイドレールに接触すると、接触の度合いが増すように電磁石が励磁されるため、エレベータかごがふたたび非接触状態に復帰することはない。このため、本発明においては、ゼロパワー制御手段の出力をそれ自身の出力値に基づいて制限する出力制限手段が設けられている。ゼロパワー制御手段の動作中に過大な外力が印加されると、それに打勝つ永久磁石吸引力が得られる空隙長に到達すべくゼロパワー制御手段の出力は増加する。この時、ゼロパワー制御手段の出力が飽和すると、その時点でゼロパワー制御手段の機能は停止する。ゼロパワー制御手段が動作中のときは、前記空隙長が所定の値に設定された空隙長設定値にゼロパワー制御手段の出力値に基づく空隙長偏差を加えた値になるよう案内制御手段は案内制御を行うが、出力制限手段によりゼロパワー制御手段の出力が飽和すると、その時点での空隙長を目標とした案内制御に移行する。そのため、ゼロパワー制御手段の動作時には外力に対して増加(減少)していた空隙長は動作停止時には外力に対して減少(増加)するようになる。案内制御手段による案内制御では、外力の大きさに応じて空隙長が減少(増加)すると、センサがこの磁気回路の変化を検出して電磁石が励磁され、磁石ユニットの吸引力は空隙長の減少(増加)を伴いながら増加する、やがて、磁石ユニットの吸引力が外力にバランスして空隙長の変化は収束する。そして、外力が取り除かれると、案内制御手段の作用により、空隙長はゼロパワー制御手段の動作が停止したときの値に戻ろうとするが、この時点で外力はすでに取り除かれているので、ゼロパワー制御手段への入力は同出力を減少させるように作用しており、同出力値は飽和値を下回り、ゼロパワー制御手段はふたたび動作状態へ移行する。ゼロパワー制御手段がふたたび動作状態に戻ると、各磁石ユニットの空隙長はそれぞれの永久磁石吸引力がバランスする広さに収束して再度エレベータかごのゼロパワー制御が行われることになる。
【0010】
このように、本発明ではゼロパワー制御手段の出力をそれ自身の出力値に基づいて制限しているため、外力により空隙長が変動しても、制限値(飽和値)近傍でのゼロパワー制御手段の出力値の変動が連続的かつ滑らかであり、ゼロパワー制御手段の作動・停止に起因したエレベータかごの振動を回避することができる。このため、常に快適な乗り心地を得ることができる。また、過大な外力により、ゼロパワー制御手段の動作が停止し、なおかつ磁石ユニットとガイドレールが接触しても、その時点では案内制御手段により、接触を阻止するように電磁石が励磁されており、当該外力が取り除かれれば、エレベータかごは再び非接触状態に復帰することができる。したがって、磁石ユニットがガイドレールに吸着してしまうことがなく、信頼性の高いエレベータ案内装置を提供できる。さらに、外力印加に対して、磁石ユニットを大形化したり、空隙長設計値を小さくして対処する必要もなく、エレベータシステムのコストを下げることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
図1にはエレベータ案内装置の第1の実施の形態における案内制御手段C1およびエレベータかごを非接触案内した場合の磁気浮上系C2の主要部が制御ブロック図として示されている。図中、A, b, C, Dはそれぞれ当該磁気浮上系のシステム行列、入力行列、出力行列および外乱行列であり、xは磁気浮上系の状態ベクトル、uは外力、yはセンサで検出される状態量である。また、sはラプラス演算子を表している。図1に示すように、案内制御手段C1は、点a〜ゲイン補償器1〜減算器2で構成される安定化制御手段L1と点a〜減算器3〜積分補償器4〜減算器2で構成されるゼロパワー制御手段L2、ゼロパワー制御手段L2の出力を所定の範囲に限定する出力制限手段C3で構成されている。ここで、ゼロパワー制御手段L2では減算器3においてゼロと電磁石励磁電流値が比較され、その結果が積分補償器4に入力されている。また、出力制限手段C3は所定の最大値と最小値を超えない入力値に対しては入力をそのまま出力し、入力値が当該最大値を超える場合は最大値を、最小値を下回る場合は最小値を出力する飽和器5と、飽和器5の出力信号から入力信号を減算する減算器6と、減算器6の出力と減算器3の出力とを乗算する乗算器7と、接点S1が減算器3の出力、接点S2がゼロ信号に接続されたスイッチ8と、乗算器7の出力が非負であれば接点S1側に、負であればS2側にスイッチ8を駆動する駆動手段9とで構成されている。
【0012】
このため磁気浮上系C2および案内制御手段C1で構成される磁気浮上制御系が安定であれば、積分補償器4への入力はゼロでなければならず、結果として電磁石励磁電流がゼロとなる状態での磁気浮上による非接触案内制御が達成される。今、積分補償器4の出力が飽和器5の最大値と最小値の間にあるとすれば、飽和器5の入力と出力は同じであり、減算器6からはゼロが出力されることになる。このため、乗算器7は減算器3の出力値に関らずゼロを出力することになる。乗算器7からゼロが出力されると駆動手段9はスイッチ8の接点S1側を選択する。すると、点a〜減算器3〜積分補償器4〜減算器2に至るゼロパワー制御ロープが完成し、ゼロパワー制御手段L2が動作してゼロパワー制御が達成されることになる。一方、エレベータかごに外力が加えられると、安定化手段L1、ゼロパワー制御手段L2の働きにより、磁石ユニットには過渡的に電磁石励磁電流が流れ、励磁電流のゼロへの収束に伴って永久磁石吸引力で外力との均衡が図られるベく磁石ユニットとガイドレールとの間の空隙長が変化する。この空隙長の変動は、センサによって検出され、安定化手段L1において所定のゲインが乗ぜられ、減算器2へ出力される。このとき、ゼロパワー制御では、安定化手段L1の出力値をゼロパワー制御手段L2の出力が打ち消して電磁石の励磁電圧もしくは励磁電流はゼロとなる。したがって、外力により空隙長が変動すると、安定化手段L1の出力変動に伴って、ゼロパワー制御手段L2の出力も変動する。外力により、磁石ユニットがガイドレールに接触する直前であるときの安定化手段L1の出力を飽和器5の最大値(最小値)、大きさが同じで逆向きの外力が印加される場合の安定化制御手段L1の出力値を最小値(最大値)とすれば、当該外力より過大な外力が印加されると次のようにしてゼロパワー制御手段の動作が停止する。すなわち、安定化手段L1の出力の変動に伴って、ゼロパワー制御手段L2の出力が変動し、積分補償器4の出力値が飽和器5の最大値(最小値)を越えると、減算器6において負(正)の演算結果が出力される。このとき、減算器3の出力が積分補償器4の出力値をさらに増加(減少)させる正(負)の値であれば、乗算器6は負の値を出力する。これにより、スイッチ8では接点S2が選択されて、積分補償器4にはゼロが入力され、積分動作が停止する。かくして、ゼロパワー制御手段L2は積分補償器4の出力が飽和器5の飽和値に固定され、その動作が停止する。このとき、安定化手段L1は引き続き動作しており、エレベータかごの案内制御は飽和時の空隙長を目標値とした従来の空隙長制御に移行する。この場合、印加される外力に対しては電磁石励磁電流が増減して当該外力と磁石ユニット吸引力とがバランスすることは言うまでもない。やがて、印加されていた外力が取り除かれると、安定化手段L1の作用で空隙長はゼロパワー制御手段L2が動作を停止したときの値に移行を開始する。この間、磁石ユニット吸引力を外力にバランスさせるために供給されていた電磁石励磁電流の大きさはゼロに向かって減少する。この過程で、空隙長はゼロパワー制御手段L2が動作を停止したときの値近傍に変化しているが、外力はすでに取り除かれており、この時点の空隙長では、これまで外力とバランスしていた永久磁石吸引力が過大となる。すると、磁石ユニット全体の吸引力を外力が加えられる前の値に戻すため、安定化手段L1の作用で外力にバランスする時とは逆向きの電流で電磁石が励磁されるが、この逆向きに流れる励磁電流は減算器3に入力されており、結果として乗算器7の出力はこれまでの負から正となる。すると、スイッチ8では接点S1が選択されて再び積分補償器4に減算器3の出力信号が導入されるが、この場合の減算器3の出力は外力が印加されていたときとは逆の符号を持つ値であり、積分補償器4の出力の大きさは減少する。すると飽和器5の出力は飽和値から積分補償器4の出力値と同じになるためゼロパワー制御手段L2の動作が回復する。ゼロパワー制御手段L2の動作が回復すると、減算器6の出力はゼロとなり、再び積分補償器4の出力値が出力制限手段C3の制限値となるまでゼロパワー制御手段L2の動作は継続する。
【0013】
図2〜図5には図1の案内制御手段に関るエレベータ案内装置の第1の実施の形態の構成を示している。図2に示すように、この装置は、エレベータシャフト12の内面に所定の取付方法で敷設された強磁性のガイドレール14, 14'と、このガイドレール14, 14'に沿ってたとえばロープ15の巻き上げ等の図示しない駆動手段により上下に移動する移動体16、移動体16に取り付けられ、移動体をガイドレール14,14'に対して非接触で案内する4つの案内ユニット18a〜18dで構成されている。移動体16は人荷を載せるためののりかご20、のりかご20と案内ユニット18a〜18dが取り付けられ、案内ユニット18a〜18dの所定の位置関係を保つことのできる強度を有するフレーム部22を備えており、フレーム部22の四隅には、ガイドレール14, 14'と対向する案内ユニット18a〜18dが所定の方法で取り付けられている。案内ユニット18は非磁性材料例えば、アルミやステンレスもしくはプラスチック製の台座24にx方向ギャップセンサ26(26b, 26b')、y方向ギャップセンサ28(28b, 28b')および磁石ユニット30を所定の方法で取り付けて構成されている。磁石ユニット30は中央鉄心32、永久磁石34, 34'および電磁石36,36'で構成されており、永久磁石34, 34'の同極同士が中央鉄心32を介して向かい合う状態で全体としてE字形状に組み立てられている。電磁石36, 36'はL字形状の鉄心38(38')をコイル40(40')に挿入後、鉄心38(38')の先端部に平板形状の鉄心42を取り付けて構成されている。中央鉄心32および電磁石36, 36'の先端部には、電磁石36, 36'が励磁されていない時に永久磁石34, 34'の吸引力で磁石ユニット30がガイドレール14(14')に吸着して固着することを防止し、かつ吸着状態でも移動体16の昇降に支障が出ないよう個体潤滑部材43が取付けられている。個体潤滑部材としては例えばテフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料がある。以下では,簡単のために、主要部分を示す番号に案内ユニット18a〜18dのアルファベットを付して説明する。
【0014】
磁石ユニット30bではコイル40b, 40b'を個別に励磁することでガイドレール14'に作用する吸引力をy方向とx方向に関して個別に制御することができる。この制御方式については特願平11−192224号公報に詳細が開示されており、詳説を省略する。
案内ユニット18a〜18dの各吸引力は制御装置44により制御され、のりかご20およびフレーム部22がガイドレール14, 14'に対して非接触に案内されている。
制御装置44は図1に示すように分割されてはいるが、たとえば、図6に示すように、全体として1つに構成されている。なお、以下のブロック図において、矢印線は信号経路を、また棒線はコイル40周辺の電力経路を示している。この制御装置44は、のりかご20に取付けられて磁石ユニット30a〜30dによって形成される磁気回路中の起磁力あるいは磁気抵抗もしくは移動体16の運動の変化を検出するセンサ部61と、このセンサ部61からの信号に基づいて移動体16を非接触案内させるべく各コイル40a, 40a'〜40d, 40d'に印加電圧を演算する演算回路62と、演算回路62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給するパワーアンプ63a, 63a'〜63d, 63d'とで構成されており、これらで4つの磁石ユニット30a〜30dの吸引力をx軸,y軸について独立に制御している。
【0015】
電源46はパワーアンプ63a, 63a'〜63d, 63d'に電力を供給すると同時に、演算回路62およびギャップセンサ26a, 26a'〜26d, 26d',28a, 28a'〜28d, 28d'に一定電圧で電力を供給する定電圧発生装置48にも電力を供給している。この電源46はパワーアンプに電力を供給するため、照明やドアの開閉のために図示しない電源線でエレベータシャフト12外から供給される交流をパワーアンプへの電力供給に適した直流に変換する機能を有している。
定電圧発生装置48は、パワーアンプ63への大電流の供給などにより電源46の電圧が変動しても常に一定の電圧で演算回路62およびギャップセンサ26a, 26a'〜26d, 26d', 28a, 28a'〜28d, 28d'に電力を供給する。このため、演算回路62およびギャップセンサ26a, 26a'〜26d, 26d',28a, 28a'〜28d, 28d'は常に正常に動作する。
センサ部61は、前述したギャップセンサ26a, 26a'〜26d, 26d', 28a, 28a'〜28d, 28d'と、各コイル40の電流値を検出する電流検出器66a, 66a' 〜66d, 66d'とで構成されている。
【0016】
演算回路62は、図2に示される運動座標系ごとに移動体16の磁気案内制御を行っている。すなわち、移動体16の重心のy座標に沿った前後動を表すyモ−ド(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表すxモド(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表すqモド(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表すξモド(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表すyモド(ヨーモード)である。これらのモードに加え、磁石ユニット30a〜30dがガイドレール14, 14’に及ぼす全吸引力、磁石ユニット30a〜30dがフレーム部22に及ぼすy軸周りのねじれトルク、磁石ユニット30a, 30dがフレーム部22に、磁石ユニット30b, 30cがフレーム部22に及ぼすローリングトルクでフレーム部22を左右対称に歪ませる歪力に関する3つのモードすなわち、ζモード(全吸引モード),dモード(ねじれモード),gモード(歪モード)についても案内制御を行っている。以上、8つのモードに対し、磁石ユニット30a〜30dのコイル電流をゼロに収束させることで積荷の重量にかかわらず永久磁石34の吸引力だけで移動体を安定に支持するいわゆるゼロパワー制御を施して案内制御を行っている。
【0017】
演算回路62は、ゼロパワー制御を達成するため、次のように構成されている。すなわち、x方向ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’からのギャップ長信号gxa, gxa’〜gxd, gxd’よりそれぞれのギャップ長設定値xa0, xa0’〜xd0,xd0’を減算して得られるx方向ギャップ長偏差信号Δgxa, Δgxa’〜Δgxd, Δgxd’を演算する減算器70a〜70hと、磁石ユニット30a〜30dのy方向ギャップ長設定値ya0, ya0’〜yd0,yd0’よりy方向ギャップセンサ28a,28a’〜28d,28d’からのギャップ長信号gya, gya’〜gyd, gyd’を減算して得られるy方向ギャップ長偏差信号Δgya, Δgya’〜Δgyd, Δgyd’を演算する減算器72a〜72hと、電流検出器66a, 66a’〜66d, 66d’からの励磁電流検出信号ia, ia’〜id, id’よりそれぞれの電流設定値ia0, ia0’〜id0, id0’を減算して得られる電流偏差信号Δia, Δia’〜Δid, Δid’を演算する減算器74a〜74hと、x方向ギャップ長偏差信号Δgxa, Δgxa’〜Δgxd, Δgxd’およびy方向ギャップ長偏差信号Δgya, Δgya’〜Δgyd, Δgyd’を磁石ユニットごとに平均してx方向ギャップ長偏差信号Δxa〜Δxdおよびy方向ギャップ長偏差信号Δya〜Δydを出力する2つの平均演算回路76と、ギャップ長偏差信号Δya〜Δydから移動体16の重心のy方向の移動量Δy、ギャップ長偏差信号Δxa〜Δxdから移動体16の重心のx方向の移動量Δx、同重心のθ方向(ロル方向)の回転角Δθ、移動体16のξ方向(ピッチ方向)の回転角Δξ、移動体16のψ方向(ヨー方向)の回転角Δψを演算する浮上ギャップ長偏差座標変換回路81と、電流偏差信号Δia, Δia’〜Δid, Δid’より移動体16の重心のy方向の運動に関わる電流偏差Δiy、x方向の運動に関わる電流偏差Δix、同重心のまわりのロリングに関わる電流偏差Δiθ、移動体16のピッチングに関わる電流偏差Δiξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる電流偏差Δiψ、移動体16に応力をかけるζ, δ, γに関する電流偏差Δiζ, Δiδ, Δiγを演算する電流偏差座標変換回路83と、浮上ギャップ長偏差座標変換回路81および電流偏差座標変換回路83の出力Δy, Δx, Δθ, Δζ, Δψ, Δiy, Δix, Δiθ, Δiξ, Δiψ, Δiζ, Δiδ, Δiγよりy, x, θ, ξ, ψ, ζ, δ, γの各モドにおいて移動体16を安定に磁気浮上させるモ−ド別電磁石制御電圧ey, ex, eθ, eξ, eψ, eζ, eδ, eγを演算する制御電圧演算回路84、制御電圧演算回路84の出力ey, ex, eθ, eξ, eψ, eζ, eδ, eγより前記磁石ユニット30a〜30dのそれぞれの電磁石励磁電圧ea, ea’〜ed, ed’を演算する制御電圧座標逆変換回路85とで構成されている。そして、制御電圧座標逆変換回路85の演算結果、つまり上述したea, ea’〜ed, ed’がパワアンプ63a,63a’〜63d,63d’に与えられる。なお、後述の説明のため、浮上ギャップ長偏差座標変換回路81、励磁電流偏差座標変換回路83、制御電圧演算回路84および制御電圧座標逆変換回路85を浮上制御演算部65とする。
【0018】
さらに、制御電圧演算回路84は、Δy,Δiyよりyモドの電磁石制御電圧eyを演算する前後動モド制御電圧演算回路86a、Δx,Δixよりxモドの電磁石制御電圧exを演算する左右動モド制御電圧演算回路86b、Δθ,Δiθよりθドの電磁石制御電圧を演算するためのロルモド制御電圧演算回路86c、Δξ,Δiξよりξドの電磁石制御電圧を演算するピッチモド制御電圧演算回路86d、Δψ,Δiψよりψドの電磁石制御電圧を演算するヨーモド制御電圧演算回路86e、Δiζよりζドの電磁石制御電圧を演算する全吸引モド制御電圧演算回路88a、Δiδよりδドの電磁石制御電圧を演算するねじれモド制御電圧演算回路88b、Δiγよりγドの電磁石制御電圧を演算する歪モド制御電圧演算回路88cとで構成されている。これら各モードの制御電圧演算回路が図1の案内制御手段C1の構成を備えている。すなわち、上下動モード制御電圧演算回路86aは図7のように構成されている。すなわち、ΔyからΔyの時間変化率Δ・yを演算する微分器90と、Δy、Δ・y、Δiyに適当なフィドバックゲインを乗じるゲイン補償器91と、電流偏差目標値発生器92と、Δiyを電流偏差目標値発生器92の目標値より減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分し適当なフィドバックゲインを乗じる積分補償器94と、ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、加算器95の出力値を積分補償器94の出力値より減じてyモドの電磁石励磁電圧eyを出力する減算器96と、減算器96と積分補償器94の間に介在し、積分補償器94の出力を所定の範囲に限定する出力制限手段C3で構成されている。ここで積分補償器94と出力制限手段はC3は例えば図8に示すようにオペアンプ(オペレーショナルアンプリファイヤ)97、抵抗98、コンデンサ99、ツェナーダイオード100,101、飽和最大値発生器102および飽和最小値発生器,103で構成することができる。この実施例では、ツェナーダイオード100,101のツェナー電圧をそれぞれVz1,Vz2、飽和最大値発生器102,飽和載小値発生器101の出力電圧をそれぞれVmax,Vminとして、Vmax+Vz1<VminかつVmax+Vz1>Vmin−Vz2かつVmax<Vmin−Vz2なる条件が成立していれば、積分補償器94の出力電圧Voutは、Vmax+Vz1>Vout>Vmin−Vz2の範囲に制限される。つまり、Vmax=−3V、Vmin=3V、Vz1=5V、Vz2=5Vだとすれば,積分補償器94の出力電圧Voutは、2V>Vout>−2Vに制限されることになる。また、図1では積分補償器4の入力側に出力制限手段C3を構成するスイッチ8が存在するが、図8に関る実施例ではスイッチ8は存在していない。これはスイッチ8が積分補償器4の動作を停止させると同時に積分補償器4にその出力値を保持する機能を付与していることに起因している。すなわち、図8の出力制限手段では、積分補償器94(オペアンプ97)の出力が飽和値にある場合、コンデンサ99に蓄えられるべき電荷がツェナーダイオード100もしくは102の導通側を通って流出する。このため、積分補償器94の出力電圧は常に飽和値に保持される。つまり、図1は、ゼロパワー制御手段L2に積分補償器4を用いる場合の出力制限手段C3の機能を制御ブロック図として表現したものであるため、図1と図8に差異が生じたものであり、出力制限手段C3としては全く同一のものであることは言うまでもない。
【0019】
ルモード制御電圧演算回路86bおよびピッチモド制御電圧演算回路86cもまた上下動モド制御電圧演算回路86aと同様に構成されており、対応する入出力信号を信号名で示し、説明は省略する。一方、ζ, δおよびγの3つの各モード制御電圧演算回路88a〜88cはすべて同じ構成であり、また、上下動モド制御電圧演算回路86aと同じ構成要素を有するので、同一部分に同一番号を付すとともに区別のため、’を付して図9にこれを記す。次に、以上のように構成された本実施例に係るエレベータ案内装置の動作について説明する。装置が停止状態にあるときは、磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が、固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に、同電磁石36a',36d'の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面にそれぞれ吸着している。このとき、潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降が妨げられることはない。この状態で、装置を起動させると制御装置44は浮上制御演算部65の働きにより、永久磁石34が発生する磁束と同じ向きまたは逆向きの磁束を各電磁石36a,36a'〜36d,36d'に発生させるとともに、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14,14'との間に所定の空隙長を維持させるべく各コイル40に流す電流を制御する。これによって、図5(注:図5はガイドレール14'、磁石ユニット30bについて示しているため符号「b」が付いている。)に示すように、永久磁石34〜鉄心38,42〜空隙G〜ガイドレール14(14')〜空隙G''〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mcおよび永久磁石34'〜鉄心38,42〜空隙G'〜ガイドレール14(14')〜空隙G''〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mc'が形成される。空隙G,G',G''におけるギャップ長は、永久磁石34の起磁力による各磁石ユニット30a〜30dの磁気的吸引力が移動体16の重心に作用するy軸方向前後力、同x方向左右力、移動体16の重心を通るx軸回りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクと丁度釣合うような長さになる。制御装置44はこの釣合いを維持すべく移動体16に外力が作用すると電磁石36a,36a'〜36d,36d'の励磁電流制御を行う。これによって、いわゆるゼロパワー制御がなされることになる。
【0020】
いま、ゼロパワー制御で非接触案内されている移動体16が移動力付与手段である図示しない巻き上げ機によってガイドレールに沿って昇降を開始し、ガイドレールの歪曲等により移動体に揺れが生じても、磁石ユニットが空隙中で電磁石と磁路を共有する永久磁石を備えているため、電磁石コイルの励磁により速やかに磁石ユニット吸引力を制御して揺れを抑えることができる。また、残留磁束密度と保持力の大きな永久磁石の採用により、空隙長を大きくしても非接触案内制御の制御性能が悪化しないので、移動体16中の、例えば乗客等の移動により揺動が生じてもストロークの大きな低剛性の案内制御ができ、乗り心地を損なうことがない。さらに、ガイドレールを介して磁極が対向するように磁石ユニットを配置することにより、対向する磁極がガイドレールに作用する吸引力の一部または全部が相殺されるので、ガイドレールに大きな吸引力が作用することがない。このため、磁石ユニットの大きな吸引力が一方向から作用することがなくなり、ガイドレールの据付位置が狂ったり、例えば継目98での段差やガイドレールの直線性の悪化が生じることもない。その結果、ガイドレールの敷設強度を下げることができ、エレベータシステムのコストを下げることができる。
【0021】
また、人員や積荷の偏った移動、もしくは地震等に起因するロープの揺れ等が原因で移動体16に過大な外力が加えられると、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14, 14'との間の空隙長が変動する。この変動は、外力と対向する吸引力を発生する磁極では外力の印加方向とは逆向きであり、ついには磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14, 14'との間に接触が発生しそうになる。すると、ゼロパワー制御手段L2の出力が所定値を超えるのでその動作が停止するとともにその出力値が保持されるので、案内制御はゼロパワー制御から空隙長制御に滑らかに移行する。このため、外力が加えられた当初は外力に対向する向きに変動していた空隙長がゼロパワー制御が機能を停止すると今度は外力の方向に変動する。外力がより過大であれば、空隙長の変動方向が反転してもついには磁石ユニットとガイドレールは接触することになるが、本発明の出力制限手段が備えられない場合にはゼロパワー制御の動作が停止しないため、より小さな外力でガイドレールとの接触が発生することになる。そのため、出力制限手段は快適な乗り心地を維持したままで装置の信頼性を向上させている。
【0022】
本装置が運転を終え、装置を停止させる場合には、yモードおよびxモード電流偏差目標値発生器92において、目標値をゼロから徐々に負の値とすると移動体16はy軸、x軸方向に徐々に移動し、ついには磁石ユニット30a, 30dの中央鉄心32の先端が、固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に、同電磁石36a',36d'の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面にそれぞれ吸着する。この状態で装置を停止させると電流偏差目標値がゼロにリセットされるとともに移動体がガイドレールに吸着する。
なお、上記の第1の実施の形態では案内ユニットにE字形状の磁石ユニットを用いているが、これは磁石ユニットの構成を何ら限定するものでなく、種々の変更が可能である。例えば、永久磁石と電磁石で構成されるU字形状の一対の磁石の同極同士を対向させるとともに、磁極の一部がガイドレールと対向するように配置して磁石ユニットを構成してもよい。また、ガイドレールに縦断面形状がI字形状のものを用いているが、これはガイドレールの形状を何ら限定するものでなく、例えば、円形や楕円形、箱型であって何ら差し支えない。
【0023】
次に、本発明の第2の実施の形態を図10および図11に基づいて説明する。第1の実施の形態では、ゼロパワー制御手段L2にコイル励磁電流値を積分する積分補償器4, 94を用いているが、これはゼロパワー制御手段の構成を何ら限定するものではなく、図10および図11に示したように一次遅れフィルタ104を用いて構成してもよい。なお、説明の簡単化のために、以下、第1の実施の形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
ゼロパワー制御手段L2は点a〜減算器3〜一次遅れフィルタ104〜減算器2に至るゼロパワーフィードバックループで構成されている。一次遅れフィルタ104の時定数はTfであり、各制御モードにおける変位、速度、励磁電流に関るそれぞれのゲイン補償器91の値をF1,F2,F3とすれば、この一次遅れフィルタ104のゲインPは、例えば、P=[−F1 0 0]としてゼロパワー制御を達成することができる。このゼロパワー制御手段は変位に関るゲイン補償器のフィードバックゲインF1が既知であればゼロパワー制御が可能となるので、励磁電流の検出を省略できるという利点がある。
また、本発明の第3の実施の形態を図12および図13に基づいて説明する。上記の第1、第2の実施の形態では、ゼロパワー制御手段L2が積分補償器または一次遅れフィルタを備えていたが、図12および図13に示したように状態観測器204を用いて構成してもよい。状態観測器204は各モードの変位および励磁電流値から各モードの速度および移動体16に加えられた外力を推定し、F4を外力推定値に乗ぜられるフィードバックゲインとして減算器3を介して減算器2に至るゼロパワー制御手段L2を構成している。上記の第1、第2の実施の形態では、変位を微分器90で微分して速度を得ているが、この場合のゼロパワー制御手段では状態観測器204で外力推定値とともに速度推定値を得ているので、S/N比の良好な速度信号が得られるという特徴がある。なお、図12、図13中で、記号^は推定値を表している。
【0024】
さらに、本発明の第4の実施の形態を図14に基づいて説明する。上記の第1の実施の形態では、出力制限手段C3はツェナーダイオード100,101を用いて構成されていたが、これは出力制限手段の構成を何ら限定するものではなく、図14に示したように、オペアンプ97の正側電源ピン+Vsに飽和最大値発生器102を、負側電源ピン-Vsに飽和最小値発生器103接続して構成してもよい。この実施の形態では、ゼロパワー制御手段L2の上記本発明の第2の実施の形態である一次遅れフィルタ104に出力制限手段C3を負荷した場合が示されている。ここで、一次遅れフィルタ104はオペアンプ97、抵抗198およびコンデンサ199により構成されている。この実施の形態には構成が非常に簡単になるという利点がある。以上述べたように、このように出力制限手段C3はゼロパワー制御手段L2の出力を制限するという機能を有すれば、特許請求の範囲においていかなる構成であって差し支えない。
さらに、上記各実施の形態ではギャップ長の測定を2つのギャップセンサの平均で、電磁石励磁電流を電流検出器で検出することにより磁石ユニットとガイドレールで形成される磁気回路の空隙部の状態を検出しているが、これはギャップ長の測定方法やギャップセンサの使用および電流検出器の使用を何ら限定するものではなく、磁石ユニットとガイドレールで形成される磁気回路の空隙部の状態が検出できればいかなる方法であっても差し支えない。
【0025】
加えて、上記各実施の形態では、ゼロパワー制御を行う演算回路はアナログ制御的に説明されているがこれは、アナログ、デジタルの制御方式を何ら限定するものではなくデジタル制御を演算回路に適用してもよい。
また、上記各実施の形態では、パワーアンプに電圧形のものを用いているが、これはパワーアンプの方式を何ら限定するものではなく電流形やPWM形のものであって何ら差し支えない。
このほか、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0026】
【発明の効果】
以上のように、本発明のエレベータ案内装置によれば、ゼロパワー制御手段の出力をそれ自身の出力値に基づいて制限する出力制限手段を備えることにより、外力により空隙長が変動しても、ゼロパワー制御手段の出力値の変動が連続的かつ滑らかであり、ゼロパワー制御手段の作動・停止に起因したエレベータかごの振動を回避することができ、常に快適な乗り心地を得ることができる。また、過大な外力により、ゼロパワー制御手段の動作が停止し、なおかつ磁石ユニットとガイドレールが接触しても、当該外力が取り除かれればエレベータかごは再び非接触状態に復帰することができ、磁石ユニットがガイドレールに吸着してしまうことがないので、外力印加に対して磁石ユニットを大形化したり空隙長設計値を小さくして対処する必要もなく、エレベータシステムのコストを下げることができる。
【0027】
加えて、外力の印加当初は外力に対向する向きに変動していた空隙長が出力制限手段によりゼロパワー制御手段が機能を停止すると今度は外力の方向に変動するため、磁石ユニットがガイドレールに接触するまでの空隙長の変動幅を最大2倍に広げることができるので、快適な乗り心地を維持したまま信頼性の高い装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態の全体的な構成を示すブロック図。
【図2】 第1の実施の形態における全体的な構造を示す斜視図。
【図3】 第1の実施の形態における移動体とガイドレールとの関係を示す斜視図。
【図4】 第1の実施の形態における磁石ユニットの構造示す斜視図。
【図5】 第1の実施の形態における磁石ユニットの磁気回路を示す平面図。
【図6】 第1の実施の形態における制御装置の回路構成を示すブロック図。
【図7】 第1の実施の形態における制御装置内の制御電圧演算回路の構成を示すブロック図。
【図8】 第1の実施の形態における制御電圧演算回路内の出力制限手段の構成を示す回路図。
【図9】 第1の実施の形態における制御装置内の他の制御電圧演算回路の構成を示すブロック図。
【図10】 本発明の第2の実施の形態の全体的な構成を示すブロック図。
【図11】 第2の実施の形態における制御装置内の制御電圧演算回路の構成を示すブロック図。
【図12】 本発明の第3の実施の形態の全体的な構成を示すブロック図。
【図13】 第3の実施の形態における制御装置内の制御電圧演算回路の構成を示すブロック図。
【図14】 本発明の第4の実施の形態における制御電圧演算回路内の出力制限手段の構成を示す回路図。
【符号の説明】
C1…案内制御手段
C2…磁気浮上系
C3…出力制限手段
L1…安定化手段
L2…ゼロパワー制御手段
2,3,6…減算器
4,94…積分補償器
5…飽和器
7…乗算器
8…スイッチ
9…駆動手段
10…エレベータ案内装置
12…エレベータシャフト
14,14'…ガイドレール
16…移動体
18,18a〜18d…案内ユニット
22…フレーム部
26,26a,26a'〜26d,26d'…x方向ギャップセンサ
28,28a,28a'〜28d,28d'…y方向ギャップセンサ
30,30a〜30d…磁石ユニット
32…中央鉄心、
38,38',42…鉄心
34,34'…永久磁石
36,36',36a,36a'〜36d,36d'…電磁石
40,40',40a,40a'〜40d,40d'…コイル
43…固体潤滑部材
44…制御装置
46…電源
61…センサ部
62…演算回路
63a,63a'〜63d,63d'…パワーアンプ
65…浮上制御演算部
66a,66a'〜66d,66d'…電流検出器
81…浮上ギャップ長偏差座標変換回路
83…励磁電流偏差座標変換回路
84…制御電圧演算回路
85…制御電圧座標逆変換回路
86a…前後動モド制御電圧演算回路
86b…左右動モド制御電圧演算回路
86c…ロルモド制御電圧演算回路
86d…ピッチモド制御電圧演算回路
86e…ピッチモド制御電圧演算回路
88a…全吸引モード制御電圧演算回路
88b…ねじれモード制御電圧演算回路
88c…歪モード制御電圧演算回路
91,91'…ゲイン補償器
97…オペアンプ
98…抵抗
99…コンデンサ
100,101…ツェナーダイオード
102…飽和最大値発生器
103…飽和最小値発生器
104…一次遅れフィルタ
204…状態観測器

Claims (9)

  1. 上下方向に敷設されたガイドレールと、
    前記ガイドレールに沿って昇降可能な移動体と、
    前記移動体に搭載されて前記ガイドレールと空隙を介して対向する磁極を有するとともにこれら磁極のうち少なくとも2つの磁極において前記ガイドレールに作用する吸引力が互いに逆向きとなるように構成もしくは配置された電磁石と、前記空隙において前記電磁石と磁路を共有するように配置されるとともに前記移動体を案内するのに必要な起磁力を供給する永久磁石を備えた磁石ユニットと、
    前記電磁石が前記空隙および前記ガイドレールと形成する磁気回路の前記空隙における状態を検出するセンサ部と、
    前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流を制御して前記磁気回路を安定化させる案内制御手段と、
    前記センサ部の出力に基づいて前記電磁石の励磁電流がゼロになる状態で前記磁気回路を安定化させるゼロパワ制御手段と、
    前記ゼロパワー制御手段の出力に所定の飽和値を設定し前記ゼロパワー制御手段の出力がこの飽和値で規定される範囲を超える場合に当該飽和値を前記ゼロパワー制御手段の出力とし、前記案内制御手段による安定化制御を前記飽和時の空隙長を目標値とした空隙長制御に移行させる出力制限手段と、
    を備えていることを特徴とするエレベータ案内装置。
  2. 前記ゼロパワー制御手段は、前記励磁電流の所定値からの偏差に所定のゲインを持たせて積分する積分器を備えていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  3. 前記ゼロパワー制御手段は、前記センサ部の出力値から磁気案内系に加えられる外力を観測する状態観測器と、この状態観測器で観測された前記外力の推定値に所定のゲイン乗じるゲイン補償器とを備えていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  4. 前記ゼロパワー制御手段は、前記センサ部の出力を入力とする少なくとも1次の遅れフィルタを備えていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  5. 前記出力制限手段が、前記ゼロパワー制御手段の出力値が所定の最大飽和値と最小飽和値で特定される範囲外にある場合、前記ゼロパワー制御手段の出力値が最大飽和値より大きい時は最大飽和値を、小さい時は最小飽和値を出力し、範囲内にある場合は前記ゼロパワー制御手段の出力値をそのまま出力する機能を有することを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  6. 前記出力制限手段は、前記最大飽和値を規定する定電圧源の出力端から前記ゼロパワー制御手段の出力端を順方向として配置されるツェナダイオードを備えていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  7. 前記出力制限手段は、前記ゼロパワー制御手段の出力端から前記最小飽和値を規定する定電圧源の出力端を順方向として配置されるツェナダイオードを備えていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ案内装置。
  8. 前記出力制限手段は、前記最大飽和値を規定する定電圧源の出力端から前記ゼロパワー制御手段の出力端を順方向として配置される第一のツェナダイオードと、前記ゼロパワー制御手段の出力端から前記最小飽和値を規定する定電圧源の出力端を順方向として配置される第二のツェナダイオードとを備えていることを特徴とする請求項5記載のエレベータ案内装置。
  9. 前記出力制限手段は、前記最大飽和値を規定する定電圧源を正側電源,最小飽和値を規定する定電圧源を負側電源とするオペレーショナルアンプリファイヤを備えていることを特徴とする請求項5記載のエレベータ案内装置。
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