以下、図面を参照して実施形態を説明する。
まず、磁気浮上装置の基本的な原理について説明する。
図1は磁気浮上装置の基本構成を示す図であり、一質点系の磁気浮上装置の全体構成が符号1で示されている。
磁気浮上装置1は、永久磁石103および電磁石105で構成される磁石ユニット107と、磁石ユニット107と負荷荷重109からなる浮上体111と、図示せぬ構造部材で地上に対して固定されるガイド113とを備える。
また、この磁気浮上装置1は、磁石ユニット107の吸引力を制御して、浮上体111を安定に非接触支持するための電磁石励磁電圧を演算する励磁電圧演算部115と、この励磁電圧演算部115の出力に基づいて電磁石105を励磁するためのドライバ116とを備える。
なお、125は補助支持部である。この補助支持部125は、コの字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定されると共に、例えば図示せぬリニアガイド等の上下方向に力が作用しない案内部で地上側から案内される防振台のテーブルを兼ねている。
ここで、磁石ユニット107の磁気的吸引力で浮上体111を非接触で支持するため、ガイド113は強磁性部材で構成されている。
電磁石105は鉄心117a,117bにコイル119,119’を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれ鉄心117a,117bが配置されている。コイル119,119’は電磁石105の励磁によってガイド113〜鉄心117a〜永久磁石103〜鉄心117b〜ガイド113で形成される磁路の磁束が強まる(弱まる)ように直列に接続されている。
また、励磁電圧演算部115は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長zおよび電流センサ123で得られるコイル電流値つまり励磁電流izに基づいて、電磁石105を励磁する電圧を演算している。ドライバ116は、この励磁電圧演算部115によって演算された励磁電圧に基づいて、リード線128を介してコイル119,119’に励磁電流を供給している。
このとき、磁気浮上装置1の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長z
0の近傍で線型近似でき、以下の微分方程式で記述される。
Fzは磁石ユニット107の吸引力、mは浮上体111の質量、Rはコイル119,119’とリード線128を直列に接続したときの電気抵抗(以下、コイル抵抗と称す)、zは浮上ギャップ長、izは電磁石105の励磁電流、φは磁石ユニット107の主磁束、ezは電磁石105の励磁電圧、Nはコイル119,119’の総巻回数である。
Δは定常浮上状態(z=z
0,i
z=i
z0(定常浮上状態でコイル電流がゼロの場合はi
z=Δi
z))からの偏差、記号“・”は時間に関するd/dt(1階微分)、“・・”は同2階微分を表わす。偏微分∂/∂h(h=z,i
z)は、定常浮上状態(z=z
0,i
z=i
z0)における被偏微分関数のそれぞれの偏微分値である。L
z0は、L
∞をギャップ長無限大とした場合の電磁石105の自己インダクタンスとして、式2のように表せる。
また、前記式1の浮上系モデルは、下記のような状態方程式となる。
ただし、状態ベクトルx、システム行列A、制御行列bおよび外乱行列dは、以下のように表される。なお、u
sは外力である。
式3中のxの各要素が浮上系の状態量である。Cは出力行列であり、励磁電圧e
zの計算に用いる状態量の検出方法により決定される。磁気浮上装置1では、ギャップセンサ121と電流センサ123を使用しており、ギャップセンサ121の信号を微分して速度を得る場合に、Cは単位行列となる。ここで、xの比例ゲインFを、
で与えれば、浮上体111は特許文献1に見られるゼロパワー制御で浮上する。ここで、式6において、右辺第二項がゼロパワー制御を実現するための電流積分器である。なお、この電流積分器については、後に図2で符号159を付して説明する。
一方、励磁電圧e
zを次の式7で与えると、外力u
sに対してギャップ長が任意の一定値、例えば、z
0+z1に収束する。
であり、Kgは積分ゲインである。この場合、式7の右辺第二項がギャップ長一定制御を実現するためのギャップ長偏差積分器である。なお、このギャップ長偏差積分器については、後に図2で符号169を付して説明する。
さらに、式3のシステムでは、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δi
zから外力u
sを推定する状態観測器(オブザーバ)を次の式8のように構成できる。
と定義されており、ここに、α11,α21:オブザーバ設計時に決定されるパラメータ、xd ^:オブザーバ出力、z^:オブザーバ内部変数である。
なお、「^」の記号は推定値を表し、「ハット」と呼ぶ。実際には、数式中に示されているように、xやzなどのパラメータの真上に付加されるものであるが、文章中では便宜的に右上に付加するものとする。
式8は最小次元状態観測器(最小次元オブザーバ)であり、ギャップ長偏差Δzおよび励磁電流Δizからギャップ長変化速度の推定値Δz’^および外力の推定値us ^を演算する。なお、この最小次元状態観測器については、後に図2で符号149を付して説明する。
ゼロパワー制御が停止しているときに、外力u
sに対してΔzの定常偏差をなくすには、オブザーバ出力x
d ^に係るフィードバック定数F
eを
である。
前記特許文献4でも述べられているように、ゼロパワー制御が動作している場合には、外力推定値u
s ^の比例ゲインF
4を
で与えると、外力に対するギャップ長の変動が抑制される。
一般に、式9と式10の値の差はわずかであり、式9もしくは式10で比例ゲインF4を設定すれば、ゼロパワー制御がOFFのとき、つまり電流積分器が停止中のときにはギャップ長一定制御が作動する。しかし、F4はΔizの比例ゲインF3の値に依存しており、浮上調整の際にF3が変更されると、F4を再設定しなければならない。
で与えると、式7のギャップ長一定制御において、外力に対するギャップ長の変動を抑えることができる。
いま、kを0<k<1の定数とし、励磁電圧e
zを次式で与える場合を考える。
ここで、nは積分器への入力スイッチであり、ギャップ長が所定の範囲内にあるときは1、そうでないときはゼロとなる。つまり、ゼロパワー制御で浮上する浮上体111に大きな外力が印加され、ギャップ長が減少して所定の範囲から外れ、磁石ユニット107がガイド113に接近すると、nがゼロとなり、電流積分器への入力がゼロになる。
このとき、ギャップ長偏差積分器への入力はゼロからギャップ長偏差信号となる。したがって、式13のz1(ギャップ長偏差目標値)をギャップ長が所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差Δzuに設定すれば、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御にスムーズに切り替わることができる。
なお、通常のギャップ長偏差Δzと区別するために、所定の範囲から外れた時点のギャップ長偏差をΔzuと表記している。
ギャップ長が所定の範囲の限界値となる外力推定値をusu ^とすれば、このときに演算されている外力推定値us ^は│us ^│>│usu ^│の関係にある。そのとき、ギャップ長一定制御が動作しているので、浮上体111のギャップ長はギャップ長z0+zlで一定となる。これにより、外力が増加しても磁石ユニット107がガイド113に吸着することはない。
外力が取り除かれると、オブザーバの演算する外力推定値は│us ^│<│usu ^│の関係となる。この関係が成立した時点で、ギャップ長偏差目標値zlをΔzuからゼロにリセットすると、ギャップ長一定制御の作用により、浮上体111は浮上ギャップ長z0に戻ることになる。
ギャップ長が戻る途中では、ギャップ長が再び所定の範囲内に入るので、式13のnがゼロから1に代わり、電流積分器への入力がゼロから電流偏差信号になり、同時にギャップ長偏差積分器への信号がギャップ長偏差信号からゼロになる。すると、再びゼロパワー制御が開始され、電磁石105の励磁電流はゼロに収束する。
ここで、係数kは式11のゼロパワー制御と式12のギャップ長一定制御の収束の速さを規定する。つまり、係数kが大きければ、励磁電流のゼロヘの収束が早くなり、ギャップ長z0+zlへの収束が遅くなる。多くの場合、大きな外力が印加されるのは緊急の場合であるので、励磁電流をゼロに収束させるゼロパワー制御の特性を生かすため、kは大きめに設定される。
このように、電流積分器やギャップ長偏差積分器に条件によってゼロが入力される場合には、式11および式12の右辺第一項のみで磁気浮上系の安定性が維持できるようにFeやFegが設定されており、これらフィードバック定数を含む項が磁気浮上系を安定化させる支持制御手段となる。
一般に、ゼロパワー制御における浮上体111のノミナル値は、ギャップ長がz0で、励磁電流がゼロの場合である。ギャップ長一定制御では、ギャップ長がz0+zlで励磁電流がゼロの場合とすることが望ましい。このため、式8の状態観測器は、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用の2組が備えられることになる。図1では、励磁電圧演算部115において、式13とこれら2組の式8が備えられることになる。
なお、zlをリセットする外力推定値については、ゼロパワー制御用とギャップ長一定制御用のどちらの状態観測器を用いてもよい。
(第1の実施形態)
(1)全体構成
図2は第1の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体構成が1’で示されている。
この磁気浮上装置1’は上述した磁気浮上装置1と同一の構成であり、浮上体111、ガイド113、ドライバ116、ギャップセンサ121、電流センサ123および励磁電圧演算部115を備えている。ここで、電流センサ123で検出される励磁電流iz は目標値をゼロとした場合の電流偏差Δiz と同じである。
この磁気浮上装置1’にあっては、励磁電圧演算部115が次のように構成されている。
すなわち、励磁電圧演算部115は、センサ部130と、減算器131と、ゼロパワー制御器133と、外力範囲検出器135と、記憶器137と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
センサ部130は、浮上体111の浮上時における磁石ユニット107とガイド113との間のギャップ長を検出するギャップセンサ121と、電磁石105の励磁電流を検出する電流センサ123とからなる。
減算器131は、センサ部130から出力されるギャップ長zを入力して、そのギャップ長zと予め浮上の基準値として設定されたギャップ長z0 とのギャップ長偏差Δzを求める。
ゼロパワー制御器133は、減算器131から出力されるギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130から出力される電流偏差Δizを入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧eiを演算する。
外力範囲検出器135は、最小次元状態観測器149からの出力に基づいて浮上体111に加わる外力を推定し、その推定値が所定の範囲内のときに1、そうでないときはゼロを出力すると共に、その推定値が正のとき−1を、負のとき1を、ゼロのとき0を出力する。
記憶器137は、外力範囲検出手器135の出力に基づいて磁石ユニット107とガイド113との間のギャップを予め設定された間隔に収束させるための値(Δzuもしくはz1)を記憶する。
減算器139は、現在のギャップ長偏差Δzと記憶器137から出力されるギャップ長偏差目標値z1 との差分を減算する。
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−z1 およびセンサ部130から出力される電流偏差Δiz を入力して、上述の式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧eg を演算する。
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力ei に所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力eg に所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143の出力とゲイン乗算器145の出力とを加算する。
なお、ゲイン乗算器143,145および加算器147は、ゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算するための線形和演算手段として動作している。この線形和演算手段の出力に基づいて、磁石ユニット107の吸引力が制御される。
(2)ゼロパワー制御器133の構成
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備えている。
最小次元状態観測器149は、減算器131からのギャップ長偏差Δzおよびセンサ部130からの電流偏差Δiz を入力して、上述した式8に従ってギャップ長偏差Δz,ギャップ長変化速度の推定値Δz'^ ,励磁電流Δiz ,および外力の推定値us ^ を演算する。
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じて、それらの総和を出力する。
励磁電流設定器153は、電磁石105の励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
減算器155は、励磁電流設定器153の出力からセンサ部130の出力である励磁電流偏差Δiz を減算する。
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、ギャップ長範囲検出器135の出力値が1のとき、減算器155の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力値がゼロのときはゼロを出力する。
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
減算器161は、電流積分器159の出力からゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループL1が支持制御手段として用いられる。また、電流センサ123から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至る制御ループL2がゼロパワー制御手段として用いられる。
ここで、外力範囲検出器135には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us ^ が入力されている。これにより、当該外力推定値us ^ が所定の範囲内にある場合には、ギャップ長偏差Δzu に代えて、所定の初期値(たとえば、ゼロ)が出力されることになる。
(3)ギャップ長一定制御器141の構成
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備える。
最小次元状態観測器149’は、減算器139からのギャップ長偏差Δz−z1およびセンサ部130からの電流偏差Δizを入力して、上述した式8に従ってギャップ長偏差Δz,ギャップ長変化速度の推定値Δz'^ ,励磁電流Δiz ,および外力の推定値us ^ を演算する。
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’ から出力される各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じて、それらの総和を出力する。
ギャップ長設定器163は、浮上ギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、外力範囲検出器135の出力値がゼロのときは減算器165の値をそのまま出力し、ギャップ長範囲検出器135の出力値が1のときはゼロを出力する。
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。この減算器171からギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧egが出力される。
このような構成において、減算器131および電流センサ123から最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループL1’が支持制御手段として用いられる。また、減算器131から減算器139〜減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至る制御ループL3がギャップ長一定制御手段として用いられる。
なお、同一構成を有する箇所には同一番号を付し、’により区別している。また、ベクトル出力信号は二重線、スカラー出力信号は一重線で区別している。
(4)外力範囲検出器135の構成
図3は外力範囲検出器135の構成の構成を示すブロック図である。
外力範囲検出器135は、最小外力設定器173と、最大外力設定器175と、減算器177と、減算器179と、切換え器181と、切換え器183と、乗算器185と、切換え器182、切換え器184、加算器186とを備えている。
最小外力設定器173は、最小の外力推定値を設定する。最大外力設定器175は、最大の外力推定値を設定する。
減算器177は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最小外力設計器173の出力値を減算する。減算器179は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最大外力長設計器175の出力値を減算する。
切換え器181は、減算器177の出力値が正のときに1を、そうでないときはゼロを選択して出力する。切換え器183は、減算器179の出力値が正のときに1を、そうでないときはゼロを選択して出力する。乗算器185は、切換え器181の出力値と切換え器183の出力値との積を演算する。この乗算器185の演算結果は、図2に示した記憶器137、切換え器157、切換え器167に出力される。
切換え器182は、最小次元状態観測器149の外力推定値を入力し、その値が正のとき−1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。切換え器184は、最小次元状態観測器149の外力推定値を入力し、その値が負のとき1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。
加算器186は、切換え器182の出力値と切換え器184の出力値の和を演算する。この乗算器186の演算結果は、図2に示した記憶器137に出力される。
(5)記憶器137の構成
図4は記憶器137の構成を示す図である。
記憶器137は、ギャップ長偏差設定器187と、切換え器189と、乗算器195とを備える。
ギャップ長偏差設定器187は、ギャップ長偏差Δzuの絶対値を設定する。切換え器189は、乗算器185の出力値がゼロならば1を、1ならばゼロを出力する。乗算器195は、ギャップ長偏差設定器187の出力に加算器186の出力と前記切換え器189の出力とを乗じる。ここで、切換え器189は記憶器137の出力を初期値のゼロにするためのリセット手段を構成している。
(動作説明)
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
いま、装置の電源がOFFであり、浮上体111がガイド113に吸着しているとする。この状態で、装置の電源をONにすると、励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163のそれぞれの設定値がゼロにリセットされる。最小次元状態観測器149からは、最大外力設定器175に設定されている最大外力推定値よりも大きい値が出力される。
このため、外力範囲検出器135内部において、切換え器181では1が選択され、切換え器183では0が選択され、乗算器185はゼロを出力する。そして、乗算器185のゼロ出力が切換え器157に入力されるため、電流積分器159にはゼロが入力されることになる。
一方、外力範囲検出器135において、最小次元状態観測器149の外力推定値は切換え器182,184に入力されている。この場合の外力推定値は正であるので、加算器186は−1を出力する。乗算器185の出力は記憶器137中の切換え器189に入力されており、この乗算器185のゼロ出力に対して、切換え器189は1を出力する。ここで、加算器186の出力と共に切換え器189の出力値が乗算器195に入力されているため、記憶器137からはギャップ長偏差目標値z1(ここで、z1=Δzu )が出力される。
また、外力範囲検出器135の乗算器185の出力は切換え器167に入力されている。ギャップ長偏差積分器169には、減算器139の出力Δz−z1(ここで、z1=Δzu )が減算器165を介して入力されて、ギャップ長一定制御が開始される。これにより、浮上体111は浮上ギャップ長z1−z0に向かって浮上を開始する。
浮上体111が浮上を開始すると、ガイド113からの反作用がなくなる。このため、状態観測器149から出力される外力推定値がゼロもしくは比較的小さな値となる。すると、外力範囲検出器135の乗算器185の出力値が1となり、切換え器157,減算器155を介して電流積分器159に励磁電流−Δiz が入力される。
一方、外力範囲検出器135の加算器186の出力および切換え器189の出力値のどちらか、もしくは両方が0となり、記憶器137の出力値がゼロにリセットされる。また、外力範囲検出器135の乗算器185の出力値が切換え器167に入力されるため、ギャップ長偏差積分器169の入力がゼロとなる。これにより、ギャップ長一定制御からゼロパワー制御に切り換わる。
ここで、ゼロパワー制御で浮上状態にある浮上体111の補助支持部125の上面に負荷荷重が印加されると、最小次元状態観測器149で推定される外力推定値が増加する。
このとき、最小次元状態観測器で推定される外力推定値が所定の最大外力推定値よりも大きくなっていると、外力範囲検出器135の乗算器185ではゼロが選択され、加算器186では−1が選択され、記憶器137はギャップ長偏差Δzu を出力する。
これにより、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御に切り換わる。こうなると、その後の負荷荷重の増加に対してギャップ長一定制御が継続し、浮上体111がガイド113に接触することはない。また、ギャップ長一定制御が動作するので、フィードバックゲインであるゲイン補償器151,151’の値を変更しても励磁電流が大きく増加することがない。
負荷荷重が減少し、所定の最大外力設定値より小さくなると、乗算器185がゼロを出力するため、記憶器137の出力はΔzu からゼロにリセットされる。また、切換え器157,167の作用により、電流積分器159には−Δiz が入力され、ギャップ長偏差積分器169にはゼロが入力される。こうなると、ギャップ長一定制御が停止し、ゼロパワー制御が再開する。
なお、記憶器137の出力値をゼロにリセットするのは、印加される外力の方向が反転した場合に浮上体111の動揺の要因となる最小次元状態観測器149'の外力推定値の過渡応答を抑制するためである。
操作が終了し、装置を停止する場合には、励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163のそれぞれの設定値をゼロから所定の負の値に徐々に収束させればよい。ゼロパワー制御時は電流目標値の減少により、ギャップ長一定性制御時はギャップ長偏差目標値の減少により浮上体111のギャップ長が減少し、やがて浮上体111はガイド113に吸着する。この時点で装置の電源をOFFにして装置の運転が終了する。
以上のように、本実施形態に係る磁気浮上装置によれば、外力推定値を用いてゼロパワー制御のON/OFFを決定することができ、調整作業が簡素化される。これにより、調整時間が短縮され、コストの低減を図ることができる。
さらに、ゼロパワー制御がOFFになると、ギャップ長一定制御がONになるため、浮上体がガイド113に接触しにくくなるとともに、外力の増大に対して電磁石105の励磁電流の増加が抑制される。加えて、ガイド113の不整などに起因するギャップセンサ121の出力誤差やノイズがゼロパワー制御とギャップ長一定制御間の制御切換え動作に及ぼす影響を排除でき、誤動作のない制御切換えが可能となる。このため、誤動作によってゼロパワー制御がOFFにされることがなくなり、電磁石105に不必要な励磁電流が流れることもない。したがって、装置を小型化でき、かつ電力消費が低減されると共に発熱も少なくなり、装置の信頼性向上を図ることができる。
なお、ゼロパワー制御とギャップ長一定制御を切り換える方法として、変位ベースの切換え方法がある。
すなわち、浮上体111の浮上時における磁石ユニット107とガイド113との間のギャップ長を読み込み、そのギャップ長が一定の範囲内にあればゼロパワー制御を行う。一方、外力により浮上体111が変位して、ギャップ長が一定の範囲を越えたときにギャップ長一定制御(つまり、変位を直接制御する方法)に切り換える。
しかしながら、このような変位ベースの切換え方法(ギャップ長に着目した切換え方法)では、外力によらない変位変化(ガイドの不整など)でも、大きな外力が加わったものと誤認識して、現在のギャップ長を無駄にホールドしてしまうことがある。また、ギャップセンサ121から出力されるギャップ長をその都度読み込み、そのときのギャップ長をギャップ長一定制御の目標値として設定する場合、ホールドするタイミングに遅れが生じることがあり、ギャップ長一定制御の目標値が適切な値から大きくずれる可能性があるという欠点がある。
これに対し、本実施形態のように、外力ベースの切換え方法(外力の範囲に着目した切換え方法)では、コントローラ内のオブザーバの計算結果として得られる外力推定値を用いる。そのため、外力推定値がある一定の範囲を超えた場合にのみ、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御への切り換えがなされるので、不用意に制御切り換えを行うこともない。また、ギャップ長一定制御の目標値を予め設定しておくことにより、切り換えのタイミングがずれた場合でも、適切な値に制御することができる。
なお、図2に示した構成では、ギャップ長一定制御器141が最小次元状態観測器149’およびゲイン補償器151’を備えているが、磁気浮上系の安定化が図れる場合には最小次元状態観測器149’,ゲイン補償器151’および減算器171を省略してなんら差し支えない。
また、浮上体111に印加される外力を推定する手段として、前記式8に基づく最小次元状態観測器を用いているが、最小次元状態観測器149、149’のどちらを用いてもよい。さらに、状態観測器の形態をなんら限定するものでなく、同一次元の状態観測器や他の外力推定手法を用いてもよい。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態では、浮上体の運動座標系の各モード毎に励磁電圧、励磁電流を演算することを特徴とする。ここでは、本発明の磁気浮上装置をエレベータに適用した場合を例にして説明する。
図5は第2の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、この磁気浮上装置をエレベータに適用した場合の構成が全体として符号10で示されている。また、図6はその磁気浮上装置のフレーム部の構成を示す斜視図、図7はその磁気浮上装置の案内ユニット周辺の構成を示す斜視図、図8はその磁気浮上装置の磁石ユニットの構成を示す立面図である。
図5に示すように、エレベータシャフト12の内面にガイドレール14,14’と、移動体16と、4つの案内ユニット18a〜18dが構成されている。ガイドレール14,14’は、強磁性部材で構成され、エレベータシャフト12内に所定の取り付け方法で敷設されている。
移動体16は、上述した磁気浮上装置の浮上体に相当する。この移動体16は、ガイドレール14,14’に沿って、例えばロープ15の巻上げ機等の図示せぬ駆動機構を介して上下方向に移動する。案内ユニット18a〜18dは、移動体16に取り付けられており、この移動体16をガイドレール14,14’に対して非接触で案内する。
移動体16には、乗りかご20と案内ユニット18a〜18dが取り付けられる。移動体16は、案内ユニット18a〜18dの所定の位置関係を保持可能な強度を有するフレーム部22を備えている。図6に示すように、このフレーム部22の四隅には、ガイドレール14,14’と対向する案内ユニット18a〜18dが所定の方法で取り付けられている。
案内ユニット18は、図7に示すように、非磁性材料(例えばアルミやステンレス)もしくはプラスチック製の台座24にx方向ギャップセンサ26(26b,26b’)、y方向ギャップセンサ28(28b,28b’)および磁石ユニット30を所定の方法で取り付けて構成されている。ギャップセンサ26,28は、案内ユニット18とガイドレール14,14’間のギャップ長を検出するセンサ部として機能する。
磁石ユニット30は、中央鉄心32、永久磁石34,34’、電磁石36,36’で構成されており、図8にも示されているように、永久磁石34,34’の同極同士が中央鉄心32を介して向かい合う状態で全体としてE字形状に組み立てられている。
電磁石36,36’は、L字形状の鉄心38(38’)をコイル40(40’)に挿入後、鉄心38(38’)の先端部に平板形状の鉄心42を取り付けて構成されている。中央鉄心32および電磁石36,36’の先端部には、個体潤滑部材43が取付けられている。この個体潤滑部材43は、電磁石36,36’が励磁されていない時に永久磁石34,34’の吸引力で磁石ユニット30がガイドレール14(14’)に吸着して固着することを防止し、かつ、吸着状態でも移動体16の昇降に支障が出ないようにするために設けられている。この個体潤滑部材43としては、例えばテフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料がある。
以下では、簡単のために、主要部分を示す番号に案内ユニット18a〜18dのアルファベット(a〜d)を付して説明する。
磁石ユニット30bでは、コイル40b,40b’を個別に励磁することでガイドレール14’に作用する吸引力をy方向とx方向に関して独立に制御することができる。この制御方式については、特許文献2に記載されているため、ここでは詳しい説明を省略する。
案内ユニット18a〜18dの各吸引力は、上述した励磁電圧演算部として用いられる制御装置44により制御され、乗りかご20およびフレーム部22がガイドレール14,14’に対して非接触に案内される。
なお、制御装置44は図5の例では分割されているが、例えば図9に示すように、全体として1つに構成されていても良い。
図9は同実施形態における制御装置44内の構成を示すブロック図、図10はその制御装置44内のモード制御電圧演算回路86の構成を示すブロック図である。なお、ブロック図において、矢印線は信号経路を、棒線はコイル40周辺の電力経路を示している。
この制御装置44は、センサ部61と、演算回路62と、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’とを備えており、これらで4つの磁石ユニット30a〜30dの吸引力をx軸,y軸について独立に制御している。
演算回路62は、このセンサ部61からの信号に基づいて移動体16を非接触案内させるべく、各コイル40a,40a’〜40d,40d’を励磁するための印加電圧を演算する励磁電圧演算部として用いられる。パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’は、この演算回路62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する励磁部として用いられる。
また、電源46は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に電力を供給すると同時に定電圧発生装置48にも電力を供給している。なお、この電源46は、照明やドアの開閉のために図示せぬ電源線でエレベータシャフト12外から供給される交流をパワーアンプへの電力供給に適した直流に変換する機能を有している。
定電圧発生装置48は、パワーアンプ63への大電流の供給などにより電源46の電圧が変動しても常に一定の電圧で演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’に電力を供給する。これにより、演算回路62およびギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は常に正常に動作する。
センサ部61は、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’と、各コイル40の励磁電流を検出するセンサ部としての電流検出器66a,66a’〜66d,66d’で構成されている。
なお、ギャップセンサ26a,26a’〜26d,26d’,28a,28a’〜28d,28d’は、各々のオフセット電圧を調整して、乗りかご20がガイドレール14,14’に対して所定の位置関係で案内されている場合の浮上ギャップ長を基準として、当該浮上ギャップ長からの偏差を出力するように校正されている。また、各案内ユニット18に取り付けられている2つのx方向ギャップセンサ出力および2つのy方向ギャップセンサ出力のそれぞれを平均する平均化部27,27’が備えられている。これにより、x,yの各方向における磁石ユニット30とガイドレール14,14’間の浮上ギャップ長偏差Δxa ,Δya〜Δxd ,Δyd が得られる。
演算回路62は、図5に示される運動座標系の各モードごとに移動体16の案内制御を行っている。ここで、前記各モードとは、移動体16の重心のy座標に沿った前後動を表すyモード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表すxモード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表すθモード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表すξモード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表すψモード(ヨーモード)である。
また、これらのモードに加え、演算回路62は、ζモード(全吸引モード)、δモード(ねじれモード)、γモード(歪モード)についても案内制御を行っている。すなわち、磁石ユニット30a〜30dがガイドレール14,14’に及ぼす「全吸引力」、磁石ユニット30a〜30dがフレーム部22に及ぼすz軸周りの「ねじれトルク」、磁石ユニット30a,30dがフレーム部22に、磁石ユニット30b,30cがフレーム部22に及ぼす回転トルクでフレーム部22をz軸に対して左右対称に歪ませる「歪力」に関する3つのモードである。
以上のような8つのモードに対し、磁石ユニット30a〜30dのコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の偏りが所定の範囲内であればその偏荷重トルクに関わらず永久磁石34の吸引力だけで移動体を安定に支持するゼロパワー制御を行い、偏荷重トルクが大きい場合にはギャップ長一定制御にて案内制御を行っている。
演算回路62は、浮上体である移動体16の運動の自由度に寄与する吸引力を発生させる各コイル40の励磁電流の線形結合で表させるモード別励磁電流を演算する機能と、同じく各コイル40の励磁電圧の線形結合で表させるモード別励磁電圧を演算する機能を備える。具体的には、次のように構成される。
すなわち、図9に示すように、演算回路62は、ギャップ長偏差座標変換回路74と、電流偏差座標変換回路83と、制御電圧演算回路84、制御電圧座標逆変換回路85と、x,θモード外力範囲検出器68と、y,ξ,ψモード外力範囲検出器69と、x,θモード記憶器70と、y,ξ,ψモード記憶器71と、を備えている。
ギャップ長偏差座標変換回路74は、ギャップ長偏差信号Δxa,Δxa’〜Δxd ,Δxd’およびΔya,Δya’〜Δyd ,Δyd’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる位置偏差Δy、x方向の運動に関わる位置偏差Δx、同重心のまわりのローリングに関わる角度偏差Δθ、移動体16のピッチングに関わる角度偏差Δξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる角度偏差Δψ、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する各偏差Δζ,Δδ,Δγを演算する。
電流偏差座標変換回路83は、モード励磁電流演算手段として用いられる。この電流偏差座標変換回路83は、電流偏差信号Δia ,Δia’〜Δid,Δid’により移動体16の重心のy方向の運動に関わる電流偏差Δiy 、x方向の運動に関わる電気偏差Δix 、同重心のまわりのローリングに関わる電流偏差Δiθ 、移動体16のピッチングに関わる電流偏差Δiξ、同重心のまわりのヨーイングに関わる電流偏差Δiψ 、フレーム部22に応力をかけるζ,δ,γに関する電流偏差Δiζ ,Δiδ ,Δiγ を演算する。
ここで、ゼロパワー制御が適用される場合、各電流検出器の検出値を座標変換した演算結果iy 〜iγ はそのまま各モードにおけるゼロ目標値からの電流偏差Δiy 〜Δiγ となる。
制御電圧演算回路84は、モード励磁電圧演算手段として、前記ギャップ長偏差座標変換回路74および前記電流偏差座標変換回路83の出力Δy〜Δγ,Δiy 〜Δiγ よりy,x,θ,ξ,ψ,ζ,δ,γの各モードにおいて移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧ey ,ex ,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγを演算する。
制御電圧座標逆変換回路85は、制御電圧演算回路84の出力ey ,ex ,eθ,eξ,eψ,eζ,eδ,eγより前記磁石ユニット30a〜30dのそれぞれの電磁石励磁電圧ea ,ea’〜ed ,ed’を演算する。この制御電圧座標逆変換回路85の演算結果つまりea ,ea’〜ed ,ed’は、パワーアンプ63a,63a’〜63d,63d’に与えられる。
x,θモード外力範囲検出器68は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usx ^ ,usθ ^ を入力して移動体16のx方向外力usxおよびθ方向外乱トルクusθ が所定の範囲内のときに1を、そうでないときはゼロを出力する。また、外力推定値の正負に従い±1もしくはゼロを出力する。
y,ξ,ψモード外力範囲検出器69は、制御電圧演算回路84からの外力推定値usy ^ ,usξ ^ ,usψ ^ を入力して移動体16のy方向外力usy ,ξ方向外乱トルクusξ およびψ方向外乱トルクusψ が所定の範囲内のときに1を、そうでないときはゼロを出力する。また、外力推定値の正負に従い±1もしくはゼロを出力する。
x,θモード記憶器70は、前記x,θモード外力範囲検出器68の出力値が1のときは所定の外力(外乱トルク)が加わった場合の位置偏差Δxu、角度偏差Δθuを出力し、前記x,θモード外力範囲検出器68の出力値がゼロのときはこれらの出力値をゼロにリセットする。
y,ξ,ψモード記憶器71は、前記y,ξ,ψモード外力範囲検出器69の出力値が1のときは所定の外力(外乱トルク)が加わった場合の位置偏差Δyu、角度偏差Δξu ,Δψuを出力し、前記y,ξ,ψモード外力範囲検出器69の出力値がゼロのときはこれらの出力値をゼロにリセットする。
さらに、制御電圧演算回路84は、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86e、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88b、歪モード制御電圧演算回路88cで構成されている。
前後動モード制御電圧演算回路86aは、ΔyおよびΔiy よりyモードの電磁石制御電圧ey を演算する。左右動モード制御電圧演算回路86bは、ΔxおよびΔix よりxモードの電磁石制御電圧ex 演算する。ロールモード制御電圧演算回路86cは、ΔθおよびΔiθ よりθモードの電磁石制御電圧eθ 演算する。ピッチモード制御電圧演算回路86dは、ΔξおよびΔiξ よりξモードの電磁石制御電圧eξ 演算する。ヨーモード制御電圧演算回路86eは、ΔψおよびΔiψよりψモードの電磁石制御電圧eψ 演算する。
全吸引モード制御電圧演算回路88aは、Δiζ よりζモードの電磁石制御電圧eζ を演算する。ねじれモード制御電圧演算回路88bは、Δiδ よりδモードの電磁石制御電圧eδ を演算する。歪モード制御電圧演算回路88cは、Δiγ よりγモードの電磁石制御電圧eγ を演算する。
これら各モードの制御電圧演算回路86a〜86c,88a〜88cのうち、y,x,θ,ξ,ψのモードについては第1の実施形態における励磁電圧演算部115と同様の構成を備えている。したがって、以下の図中では、同一箇所には同一記号を付して説明は省略する。
また、煩雑さを避けるため、各モードのギャップ長偏差Δy,Δx,Δθ,Δξ,Δψ,Δζ,Δδ,ΔγをΔzで表し、同じく電流偏差Δiy,Δix,Δiθ,Δiξ,Δiψ,Δiζ,Δiδ,ΔiγをΔizで表すことにする。
いま、前後動モード制御電圧演算回路86aを代表して、その構成を説明する。
図10に示すように、前後動モード制御電圧演算回路86aは、ゼロパワー制御器133と、減算器139と、ギャップ長一定制御器141と、ゲイン乗算器143と、ゲイン乗算器145と、加算器147とを備えている。
ゼロパワー制御器133は、ギャップ長偏差座標変換回路74の出力であるギャップ長偏差Δyおよび電流偏差座標変換回路83の出力である電流偏差Δiy を入力して、上述した式11に従って電磁石励磁電圧ei を演算する。
減算器139は、ギャップ長偏差Δyからy,ξ,ψモード記憶器71の出力z1 を減算する。
ギャップ長一定制御器141は、減算器139の出力Δz−z1 および電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiy を入力して、上述した式12に従ってギャップ長一定制御を行うための電磁石励磁電圧eg を演算する。
ゲイン乗算器143は、ゼロパワー制御器133の出力ei に所定のゲインk(0<k<1)を乗算する。ゲイン乗算器145は、ギャップ長一定制御器141の出力eg に所定のゲイン1−kを乗算する。加算器147は、ゲイン乗算器143,145の出力を加算する。
なお、本実施形態においても、ゲイン補償器143,145および加算器147はゼロパワー制御器133とギャップ長一定制御器141の出力の線形和を演算する線形和演算手段として動作している。
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eについても上述の減算器139に入力される信号z1はy,ξ,ψモード記憶器71の出力である。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cについて上述の減算器139に入力される信号z1はx,θモード記憶器70の出力となる。
ゼロパワー制御器133は、最小次元状態観測器149と、ゲイン補償器151と、励磁電流設定器153と、減算器155と、切換え器157と、電流積分器159と、減算器161とを備えている。
最小次元状態観測器149は、ギャップ長偏差座標変換回路74からのギャップ長偏差Δyおよび電流偏差座標変換回路83からの電流偏差Δiy を入力し、上述した式8に従ってギャップ長偏差Δy,ギャップ長変化速度の推定値Δy'^ ,励磁電流Δiy ,および外力の推定値usy ^ を出力する。
ゲイン補償器151は、最小次元状態観測器149から出力された各信号に所定の比例ゲインを乗じてそれらの総和を出力する。
励磁電流設定器153は、前後動モードにおける励磁電流の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
減算器155は、励磁電流設定器153の出力から電流偏差座標変換回路83の出力である励磁電流偏差Δiy を減算する。
切換え器157は、電流積分器159に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器157は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力値が1のときは、減算器155の値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力値がゼロのときはゼロを出力する。
電流積分器159は、切換え器157から出力される値を時間積分すると共に、その積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
減算器161は、電流積分器159の出力からゲイン補償器151の出力を減算する。この減算器161からゼロパワー制御を行うための電磁石励磁電圧eiが出力される。
このような構成において、ギャップ長偏差座標変換回路74および電流偏差座標変換回路83から最小次元状態観測器149〜ゲイン補償器151〜減算器161に至る制御ループが支持制御手段として用いられる。また、電流偏差座標変換回路83から減算器155〜切換え器157〜電流積分器159〜減算器161に至るループがゼロパワー制御手段として用いられる。
ここで、y,ξ,ψモード外力範囲検出器69には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us ^ (usy ^ ,usξ ^ ,usψ ^ )が入力されている。これにより、当該外力推定値us ^ が所定の範囲内にある場合には、y,ξ,ψモード記憶器71がギャップ長偏差Δzu (Δyu ,Δξu ,Δψu )を出力し、範囲外であれば所定の初期値(たとえば、ゼロ)が出力されることになる。
一方、x,θモード外力範囲検出器68には、最小次元状態観測器149で演算される外力の推定値us ^ (usx ^ ,usθ ^ )が入力されている。これにより、当該外力推定値us ^ が所定の範囲内にある場合には、x,θモード記憶器70がギャップ長偏差Δzu (Δxu ,Δθu )を出力し、範囲外であれば所定の初期値(たとえば、ゼロ)が出力されることになる。
ギャップ長一定制御器141は、最小次元状態観測器149’と、ゲイン補償器151’と、ギャップ長設定器163と、減算器165と、切換え器167と、ギャップ長偏差積分器169と、減算器171とを備えている。
最小次元状態観測器149’は、減算器139の出力および電流偏差座標変換回路83からの電流偏差出力を入力して、上述の式8に従ってギャップ長偏差Δy,ギャップ長変化速度の推定値Δy'^ ,励磁電流Δiy ,および外力の推定値usy ^ を出力する。
ゲイン補償器151’は、最小次元状態観測器149’から出力されて各信号のそれぞれに所定の比例ゲインを乗じて、それらの総和を出力する。
ギャップ長設定器163は、前後動モードにおけるギャップ長偏差の所定の目標値(通常はゼロ)を出力する。
減算器165は、ギャップ長設定器163の出力から減算器139の出力であるギャップ長偏差Δz−z1を減算する。
切換え器167は、ギャップ長偏差積分器169に対する積分切換え手段として用いられる。この切換え器167は、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力値がゼロのときは減算器165の出力値をそのまま出力し、y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の出力値が1のときはゼロを出力する。
ギャップ長偏差積分器169は、切換え器167から出力される値を時間積分すると共に積分結果に所定のゲインを乗じて出力する。
減算器171は、ギャップ長偏差積分器169の出力からゲイン補償器151’の出力を減算する。
このような構成において、ギャップ長偏差座標変換回路74および電流偏差座標変換回路83から減算器139〜最小次元状態観測器149’〜ゲイン補償器151’〜減算器171に至る制御ループが支持制御手段と用いられる。また、ギャップ長偏差座標変換回路74から減算器139〜減算器165〜切換え器167〜ギャップ長偏差積分器169〜減算器171に至るループがギャップ長一定制御手段として用いられる。
ここで、ピッチモード制御電圧演算回路86d、ヨーモード制御電圧演算回路86eにおいても、外部から切換え器157,167に入力される信号はy,ξ,ψモード外力範囲検出器69の出力となる。一方、左右動モード制御電圧演算回路86bおよびロールモード制御電圧演算回路86cについては、外部から切換え器157,167に入力される信号はx,θモード外力範囲検出器68の出力となる。
他の制御電圧演算回路である左右動モード制御電圧演算回路86b、ロールモード制御電圧演算回路86c、ピッチモード制御演算回路86dおよびヨーモード制御演算回路86eについても、前後動モード制御電圧演算回路86aと同様の構成であり、ここでは対応する入出力信号を信号名で示し、その説明は省略するものとする。
図11は制御装置44内のx,θモード外力範囲検出器68の構成を示すブロック図である。
x,θモード外力範囲検出器68は、ゲイン乗算器191と、加算器193と、ローパスフィルタ72とを図3に示した外力範囲検出器135に追加して構成されている。
ゲイン乗算器191は、ロールモード制御電圧演算回路86cの最小次元状態観測器149で推定される外力推定値usθ ^ を入力し、これに磁石ユニット30の高さ方向の取り付け間隔をLξとして1/(2・Lξ)を乗じる。
加算器193は、左右動モード制御電圧演算回路86bの最小次元状態観測器149で推定される外力推定値usx ^ を入力し、これにゲイン乗算器191の出力を加算する。ローパスフィルタ72は、加算器193の出力の低周波数成分を通過させる。
図12は制御装置44内のy,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69の構成を示すブロック図である。
y,ξ,ψモードギャップ長範囲検出器69は、ゲイン乗算器191と、ゲイン乗算器191’と、加算器193’と、ローパスフィルタ72とを図3に示した外力範囲検出器135に追加して構成されている。
ゲイン乗算器191は、ピッチモード制御電圧演算回路86dの最小次元状態観測器149で推定される外力推定値usξ ^ を入力し、これに磁石ユニット30の高さ方向の取り付け間隔をLξとして1/(2・Lξ)を乗じる。
ゲイン乗算器191’は、ヨーモード制御電圧演算回路86eの最小次元状態観測器149で推定される外力推定値usψ ^ を入力し、これに磁石ユニット30の左右方向の取り付け間隔をLθとして1/(2・Lθ)を乗じる。
加算器193’は、前後動モード制御電圧演算回路86aの最小次元状態観測器149で推定される外力推定値usy ^ を入力し、これにゲイン乗算器191,191’の出力を加算する。ローパスフィルタ72は、加算器193’の出力の低周波数成分を通過させる。
図13は制御装置44内のx,θモード記憶器70の構成を示すブロック図である。
x,θモード記憶器70は、前記第1の実施形態における記憶器137を2組にして構成されている。なお、左右動モード制御電圧演算回路86bに関わるものには添え字bを、ロールモード制御電圧演算回路86cに関わるものには添え字cを付して、これらの詳説は省略する。ここで、ギャップ長偏差設定器187b,187cには、ギャップ長偏差Δxu およびΔθu がそれぞれ設定されている。
図14は制御装置44内のy,ξ,ψモード記憶器71の構成を示すブロック図である。
y,ξ,ψモード記憶器71は、前記第1の実施形態における記憶器137を3組にして構成されている。なお、前後動モード制御電圧演算回路86aに関わるものには添え字aを、ピッチモード制御電圧演算回路86dに関わるものには添え字cを、ヨーモード制御電圧演算回路86eに関わるものには添え字eを付して、これらの詳説は省略する。ここで、ギャップ長偏差設定器187a,187d,187eには、ギャップ長偏差Δyu ,Δξu およびΔψu がそれぞれ設定されている。
一方、ζ,δおよびγの3つのモードの制御電圧演算回路88a〜88cの構成を図15に示す。
制御電圧演算回路88a〜88cは同じ構成であり、また、前後動モード制御電圧演算回路86aと同じ構成要素を有する。ここでは、前後動モード制御電圧演算回路86aと同一部分には同一符号を付し、’を付して区別する。ただし、電流偏差に乗せられるゲインを設定するゲイン補償器についてはスカラー量であるため、ゲイン補償器81とした。
次に、以上のように構成された磁気浮上装置の動作について説明する。
本装置が停止状態にあるときに、磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着し、電磁石36a’,36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着しているとする。このとき、固体潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降が妨げられることはない。
この状態で、本装置を起動させると、制御装置44はセンサ部61と演算回路62の働きにより、永久磁石34が発生する磁束と同じ向きまたは逆向きの磁束を各電磁石36a,36a’〜36d,36d’に発生させる。また、磁石ユニット30a〜30dとガイドレール14,14’との間に所定の空隙長を維持させるべく各コイル40に流す電流を制御する。
これによって、図8に示すように、永久磁石34〜鉄心38,42〜空隙G〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34の経路からなる磁気回路Mcおよび永久磁石34’〜鉄心38’、42〜空隙G’〜ガイドレール14(14’)〜空隙G”〜中央鉄心32〜永久磁石34’の経路からなる磁気回路Mc’が形成される。
このとき、空隙G,G’,G”におけるギャップ長は、永久磁石34の起磁力による各磁石ユニット30a〜30dの磁気的吸引力が移動体16の重心に作用するy軸方向前後力、同x方向左右力、移動体16の重心を通るx軸回りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクと丁度釣合うような長さになる。
制御装置44は、この釣合いを維持すべく、移動体16に外力が作用したときに電磁石36a,36a’〜36d,36d’の励磁電流制御を行う。これによって、いわゆるゼロパワー制御がなされ、移動体16の非接触支持が達成される。
ここで、人員や積荷の偏った移動や乗り降り等が原因で移動体16に過大な外力が加えられたとする。このような場合、ゼロパワー制御が適用されている場合には、磁石ユニット30とガイドレール14,14’間のギャップ長が減少し、ついには接触に至ることになる。こうなると、ガイドレールの不整が乗りかごに直接伝播するので乗り心地が極端に悪化する。
しかし、本実施形態によれば、過大な偏荷重トルクが印加されると、ゼロパワー制御がギャップ長一定制御に切り換わり、移動体16がガイドレールに接触することはない。また、過大偏荷重トルクが減少すると、ゼロパワー制御に切り換わるので電力が無駄に消費されることもない。
さらに、ゼロパワー制御とギャップ長一定制御の切換え時には、x,θモード外力範囲検出器68(y,ξ,ψモード外力範囲検出器69)に備えられたローパスフィルタ72の作用により切換えの頻発が防止されるので、良好な乗り心地が維持される。
また、偏荷重トルクが過大でない場合でも、ガイドレール14,14’の寸法精度が悪い箇所を移動体16が通過する際には、ギャップ長が大きく変動して一次的に磁石ユニット30a〜30dのいずれかがガイドレール14,14’に接触することがある。そのような場合には、外力範囲検出器68,69で過大偏荷重トルクが検出されないので、ゼロパワー制御が継続され、ギャップ長一定制御への切り換えによる移動体16の揺動を抑制できる。
このように、良好な乗り心地が維持されるばかりでなく、電力消費量の低減や装置の信頼性向上を図ることができる。
本装置が運転を終えて停止する場合には、前後動モード制御電圧演算回路86aおよび左右動モード制御電圧演算回路86bの励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163の設定値をゼロから徐々に負の値とする。これにより、移動体16は、y軸、x軸方向に徐々に移動する。そして、最終的に磁石ユニット30a,30dの中央鉄心32の先端および電磁石36a’36d’の先端が固体潤滑部材43を介してガイドレール14の対向面に吸着する。
この状態で本装置を停止させると、励磁電流設定器153およびギャップ長設定器163の設定値がすべてゼロにリセットされると共に、移動体16のガイドレールへの吸着状態が維持される。
上述のように、本装置では、外力範囲検出器68,69における最小外力値と最大外力値を設定するだけで、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御への切換え条件を設定できる。このため、エレベータのように多くの制御軸を有し、移動体が様々な姿勢をとる装置にあっては、切換え調整が極端に簡便になる。このため、調整時間が削減でき、コストの低減を図ることができる。
また、エレベータのように移動体の揺れを抑えることが重要な場合には、ガイドレールの据付に高精度な寸法精度が要求されるが、本実施形態ではガイドレールの寸法精度に高精度を要求されない。このため、工期の短縮が図れ、さらなるコストの低減が可能となる。
なお、ここではx,y,θ,ξ,ψ全モードの外力推定値を用いてゼロパワー制御とギャップ長一定制御を切り換える例を示したが、その一部のモードのみに適用する構成としてもよい。特に、エレベータでは積載による外乱は、そのほとんどがθモードおよびξモードに作用する。したがって、θ,ξモードにのみ本構成を適用することで制御系の簡略化を図ることができる。その場合、外力範囲検出器68、69への入力はθ,ξモードの外力推定値のみとなり、ゲイン乗算器191、加算器193を省略することができる。またそのとき、記憶器70、71の出力はθ,ξモードのみとなり、他のモードについては従来の制御手法により制御される。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
前記第1および第2の実施形態では、磁石ユニットが浮上体側に取付けられていたが、これは磁石ユニットの取付け位置をなんら限定するものでなく、図16に示すように、磁石ユニットを地上側に配置しても良い。なお、説明の簡単化のために、以下、第1および第2の実施形態と共通する部分には同一の符号を用いて説明する。
図16は第3の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を示す図であり、その全体の構成が符号300で示されている。
磁気浮上装置300は、補助支持部302、磁石ユニット107、ガイド304、防振台テーブル306、リニアガイド308、励磁電圧演算部115、パワーアンプ313、ギャップセンサ121および電流センサ123を備えている。
補助支持部302は、断面がコの字形状をなし、例えばアルミ部材などの非磁性体で形成される。この補助支持部302は地上に設置されており、磁石ユニット107は補助支持部302の上部下面に下向きに取付けられている。
ガイド304は、磁石ユニット107に対向する断面がコの字形状をなし、例えば鉄などの強磁性部材で形成されている。浮上体としての防振台テーブル306は、このガイド304を底部上面に備えており、全体としてコの字形状に形成されている。リニアガイド308は、防振台テーブル306の側面に取付けられ、地上に対して垂直方向にのみ動きの自由度を防振台テーブル306に付与している。
励磁電圧演算部115は、磁石ユニット107の吸引力を制御して防振テーブル306を非接触で支持するための制御を行う。パワーアンプ313は、励磁電圧演算部115の出力に基づいて磁石ユニット107を励磁するための図示せぬ電源に接続されている。ギャップセンサ121は、磁石ユニット107とガイド304間の浮上ギャップ長を防振台テーブル306と補助支持部302間の距離を測定することで検出している。電流センサ123は、磁石ユニット107の励磁電流を検出する。
ここで、励磁電圧演算部115は前記第1の実施形態と同一の構成をとっているが、外力範囲検出器135の構成が異なっている。したがって、ここでは外力範囲検出器135以外の説明を省略すると共に、この外力範囲検出器135を外力範囲検出器135’として以下に説明する。
図17は磁気浮上装置300の外力範囲検出器135’の構成を示すブロック図である。
磁気浮上装置300の外力範囲検出器135’は、最小外力設定器173と、最大外力設定器175と、減算器177と、減算器179と、切換え器181と、切換え器183と、乗算器185と、最小外力設定器173’と、最大外力設定器175’と、減算器177’と、減算器179’と、切換え器181’と、切換え器183’と、乗算器185’とを備えている。
最小外力設定器173は、第1の最小外力推定値を設定する。最大外力設定器175は、第1の最大外力推定値を設定する。
減算器177は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最小外力設計器173の出力値を減算する。減算器179は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最大外力長設計器175の出力値を減算する。
切換え器181は、減算器177の出力値が正のときに1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。切換え器183は、減算器179の出力値が正のときに1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。乗算器185は、切換え器181,183の出力値の積を演算する。
最小外力設定器173’は、第2の最小外力推定値を設定する。最大外力設定器175’は、第2の最大外力推定値を設定する。
減算器177’は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最小外力設計器173’の出力値を減算する。減算器179’は、最小次元状態観測器149の外力推定値から最大外力長設計器175’の出力値を減算する。
切換え器181’は、減算器177’の出力値が正のときに1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。切換え器183’は、減算器179’の出力値が正のときに1を、そうでないときはゼロを選択して出力する。乗算器185’は、切換え器181’,183’の出力値の積を演算する。
ここで、第1の最小外力推定値は、第2の最小外力推定値より小さい値であり、第1の最大外力推定値は第2の最大外力推定値より大きい値となっている。
また、この外力範囲検出器135’は、切換え器182と、切換え器184と、加算器186とを備えている。
切換え器182は、最小次元状態観測器149の外力推定値を入力し、その値が正のときは−1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。切換え器184は、最小次元状態観測器149の外力推定値を入力して、その値が負のとき1を選択して出力し、そうでないときはゼロを選択して出力する。加算器186は、切換え器182,184の出力値の和を演算する。
さらに、この外力範囲検出器135’は、立下り検出器310、立上り検出器312、OR演算器314、加減算器316、切換え器324、切換え器326、メモリ要素320とを備えている。
立下り検出器310は、乗算器185の出力値が1から0へ切り替わったことを検出し、その瞬間のみ1を出力する。立上り検出器312は、乗算器185’の出力値が0から1へ切り替わったことを検出し、その瞬間のみ1を出力する。OR演算器314は、立下り検出器310、立上り検出器312の出力値のORを演算する。加減算器316は、メモリ要素320の出力値に対して、立下り検出器310の出力が1のときに値を減算し、立上り検出器312の出力が1のときに値を加算する。
切換え器324は、OR演算器314の出力値が0のときにメモリ要素320の値を選択し、1のときに加減算器316の出力値を選択する。切換え器326は、切換え器324の出力値が正のときに1を出力し、0以下のときに0を出力する。
このように、第1の最小外力設定値<第2の最小外力設定値<外力推定値<第2の最大外力設定値<第1の最大外力設定値を設定し、上述した演算を行う。これにより、メモリ要素320に対して、最小次元状態観測器149から出力される外力推定値が第1の最小外力設定値と第1の最大外力設定値で定義される範囲を超えたときにゼロを出力させ、外力推定値が第2の最小外力設定値と第2の最大外力設定値で定義される範囲内に戻ったときに1を出力させることができる。
つまり、ゼロパワー制御からギャップ長一定制御への切り換えに必要な外力推定値は、ギャップ長一定制御からゼロパワー制御へ切り換えるときよりも、その絶対値が大きくなる。ここで、外力範囲が1つの場合には、外力推定値が最大あるいは最小の外力設定値と一致すると、ゼロパワー制御とギャップ長一定制御間の切り換えにチャタリングが生じ、浮上体に不要な振動が生じることになる。しかし、図17の例のように、2つの外力範囲を設定すると、制御切換えのチャタリングを防止でき、浮上状態の安定性が高められるという利点がある。
また、図16に示したように、磁石ユニット107を地上側に配置したことにより、可動部である防振テーブル306からの配線がなくなり、装置の信頼性が向上するといった利点もある。
なお、前記各実施形態では、磁気浮上を行う制御装置(励磁電圧演算部115)がアナログ的な構成として説明されているが、本発明は、アナログの制御方式に限定されるものではなく、デジタル制御にて構成することも可能である。
また、励磁部の構成としてパワーアンプを用いているが、これはドライバの方式を何ら限定するものではなく、例えばPWM(Pulse Width Modulation)形のものであって何ら差し支えない。
以上のように、これらの実施形態によれば、ゼロパワー制御の調整作業を簡素化すると共に、ゼロパワー制御の停止に伴う励磁電流の増加を抑制して、コストの低減と信頼性の向上を図ることのできる磁気浮上装置が提供される。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。