JP4585099B2 - 電動機の固定子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
密閉型圧縮機内に配置された電動機の固定子について、特に成型絶縁の構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エアコンや冷蔵庫に使用される密閉型圧縮機の電動機の構造としては、図10に示すように固定子鉄心1が、軸方向に薄板を多数積層させ前記積層体の外周を溶接等により一体固着したものや、各薄板を其々プレス等により凸部を形成し、隣り合う薄板の凸部と反対側に形成される凹部に嵌め合わせされ一体固着した周知のオートクランプ方式等により形成している。
【0003】
固定子鉄心1には、固定子鉄心1と巻線2の絶縁をするためにスロット絶縁4が施され、この固定子スロットに装着されたスロット絶縁4に巻線挿入機により巻線2が挿入される。この巻線2は分布巻き等の巻線が施され各巻線間には巻線間の接触が無いように相間絶縁3が施されている。
【0004】
前記巻線2の各相からの引き出した巻線端部を溶接または半田等により口出線5を接続している。この口出線5は、密閉型圧縮機のケーシング端子に接続されるものである。巻線2は固定子鉄心1の端部から飛び出した巻線部分が複数のスロットを大きく跨ぐため取り扱い等による巻線の乱れが生じる。それが故に、この巻線の乱れや各相からの引き出された巻線端部と口出線5の接続点6を手作業により整列させ束ねることにより修正している。また、この固定子端部から飛び出した複数のスロットを跨ぐ巻線部分の乱れを修正するために整形プレス機等により整形している。更に、整形したままでは巻線2や口出線5及び接続点6等が再び乱れてしまうため巻線固定紐7にて確実に巻き付け固定している。この巻線固定紐7は機械(以下 レーシング・マシーンと略す)により確実に巻線2及び接続点6を固定している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年、環境問題等によりエアコンや冷蔵庫に使用される密閉型圧縮機内の冷媒が問題となっている。従来、冷媒としてCFC12、CFC22等の冷媒を使用してきたが、環境への配慮から代替冷媒としてHFC134a、HFC410a、HFC407c等に置き換わってきている。
【0006】
密閉型圧縮機内の冷凍機油としては、ナフテン系、パラフィン系の鉱油またはアルキルベンゼン系油などが用いられていたが、その構造から、ほとんど水分を溶解することはなかった。しかしながら、冷凍システムの構造上、または代替冷媒との適合性により冷媒用冷凍機油をポリアルキレングリコール系油やポリエステル系油またはエーテル系油等を採用することで水分を溶解しやすくなってしまった。
【0007】
この結果、電動機等に使用するスロット絶縁4や相間絶縁3等のフィルムであるポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムが、冷媒と混合油に溶解した水分により加水分解を引き起こし、電動機の絶縁性が失われることとなってしまっている。
【0008】
また、別の課題として近年、エアコンや冷蔵庫に使用される密閉型圧縮機内の電動機は小型化、高効率化、低コスト化が望まれている。このことに鑑みて、電動機の固定子鉄心1や回転子に使用される鋼板に高性能材料を使用し高効率を図るものや、鋼板の厚さを薄くし渦電流損失を減らしたり、あるいは固定子鉄心1のスロットに施される巻線2の占有率を上げたりして、電動機の小型化、高効率化という要求に対応してきている。また、小型化が達成されることにより低コスト化も実現してきている。更には、密閉型圧縮機内の電動機をブラシレスDCモータにすることにより、回転子に高磁力を有する永久磁石を採用し達成されてきている。
【0009】
しかしながら、更なる電動機の小型化、高性能化を目指す場合、従来方法の延長では対応が非常に困難になってきている。仮に、従来の方法で更なる高性能化を目指した場合,コストがかかる割には性能が良くなってこなかった。
【0010】
また、電動機の損失を考えた場合、鉄損と銅損に大きく分けることができるが、前記従来方法によれば、鉄損を改善してきたことになるが、大幅な銅損の改善がなされていなかった。また、先に述べたように電動機の小型化をしてきているものの高性能の材料を使用しているためコスト的にも合わないものとなってきており製品単価としては非常に高いものとなっている。
【0011】
また、固定子を製作する場合の作業性においては、複数のスロットを跨ぐ固定子鉄心1端部から飛び出た巻線2をプレス機等により整形する前に各相の巻線2の乱れを修正し口出線5及び接続点6を束ね整列させる作業を手作業により処理をしているため非常に多くの工程がかかっている。また、整形プレス機等による整形後は、固定子鉄心1の端部から飛び出た巻線2の部分と口出線5及び接続点6をレーシング・マシーンにより固定するのであるが、巻線固定紐7よって固定子鉄心1端部から飛び出た巻線2の巻線部分や口出線5及び接続点6等がレーシング・マシーンにより確実に固定できているか、作業者が常に確認しながら作業を行っている。従って、必然的にコストがかかってしまい製品単価を引き上げる事となっている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
密閉型圧縮機の冷媒としてHFCが封入され、電動機の固定子鉄心の歯部には一体成形されたボビンを介して直接巻線を巻き付けた集中巻方式の電動機の固定子であって、
前記電動機の固定子は、集中巻方式により巻き付けた巻線や口出線及び接続点等が散乱しないようにするための散乱防止用絶縁カバーを取り付けてなり、
前記散乱防止用絶縁カバーには、前記冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油が流通する風穴と口出線を固定するための固定方法を有しており、前記散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁には、固定子鉄心のスロット開口部と対向している部分を突出させ、前記ボビンの固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁と凹凸に噛み合う形状とし、
前記ボビンと前記散乱防止用絶縁カバーの材料がスーパーエンプラ(スーパー・エンジニアリング・プラスチック)である電動機の固定子とする。
【0013】
また、前記一体成形されたボビンと、前記散乱防止用絶縁カバーの少なくともどちらか一方に掛かり止めできる爪を設けた電動機の固定子とする。
【0014】
また、前記散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁がリング状につながれ、前記散乱防止用絶縁カバーの外径側に位置する樹脂壁を大きく切り欠いた電動機の固定子とする。
【0015】
また、前記一体成形されたボビンの一部が突出した突起部を有し、前記散乱防止用絶縁カバーに設けられた穴に嵌め込まれた後、前記突起部を溶着変形し前記一体成形されたボビンと前記散乱防止用絶縁カバーを一体固着する電動機の固定子とする。
【0016】
また、前記一体成形されたボビンにおいて、固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁よりも固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁の高さを低くさせた電動機の固定子とする。
【0017】
また、前記散乱防止用絶縁カバーに口出線を固定するための固定方法として、散乱防止用絶縁カバーの外径側から凹字状切り欠き溝を設け、凹字状切り欠き溝内に口出線を固定した後、一体成形されたボビンの固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁により蓋をした電動機の固定子とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明においての実施の形態を、図1及至図9を用いて説明する。尚、本発明において、固定子の構造上同じものや、もしくは、実施使用上同じ意味を持つものは、同一の符号を付して説明を省略する。図1及び図2は、本発明の請求項1記載の発明である。図1は、固定子が完成した状態を示す平面図であり密閉型圧縮機の電動機として採用される固定子を示している。また図2は、本発明の散乱防止用絶縁カバー9を取り付ける前の固定子鉄心1のボビン8に巻線2を巻き付けた状態を示した図である。固定子鉄心1には、冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油が流通する風穴19が設けてある。固定子鉄心1の端面部や、スロット内部を一体成形されたボビン8により絶縁されている。このボビン8には、ポリエステルまたは変性ポリエステルを主とした絶縁を有した巻線2が施されている。前記巻線2は、固定子の歯部に直接巻き付けられる集中巻方式により巻線が巻き付けられている。
【0019】
これにより、固定子鉄心1の端部から飛び出って複数のスロットを跨ぐ巻線2の巻線部分がなくなるため、従来の分布巻では難しかった電動機の銅損を大きく減らすことが可能となる。従って、固定子鉄心1端部から飛び出た巻線2の巻線部分が小さくなることにより巻線2の使用量も減らすことができる。
【0020】
更に、直接ボビン8に巻線2を巻き付ける集中巻であるため巻線2の乱れがなくなり、巻線2を整列させて巻くことも可能となる。このことにより従来手作業によって行っていた巻線2の乱れや、各相からの引き出された巻線2の端部と口出線5との接続点6を束ねて整列させる作業も必要としなくなる。また、従来整形プレス機等により巻線2の乱れを修正する目的で巻線2を整形していたが、直接ボビン8に巻線2を巻き付ける集中巻であるため整形する必要もなくなる。
【0021】
しかしながら、各相からの引き出された巻線2やそれに付随し引き出された巻線2の端部と口出線5による接続点6との固定方法が問題となる。ここで従来と同様の方法で巻線固定紐7により固定しようとすると、固定子鉄心1端部から飛び出た少ない面積の不安定な巻線2の端部上に口出線5及び接続点6等を固定することとなり非常に困難を要することになる。また、この巻線固定紐7によって固定子鉄心1端部から飛び出た巻線2や口出線5及び接続点6等をレーシング・マシーンにより確実に固定できているか作業者が常に確認しながら作業を行わなくてはならないため、実質上、作業性を緩和していることにはならない。
【0022】
そこで本発明は、これらを確実に固定する方法として図1の様な巻線2の散乱防止用絶縁カバー9を取り付けることにより確実に固定するものである。散乱防止用絶縁カバー9には、圧縮機システムの熱交換効率をあげる目的や電動機運転中の巻線2の温度上昇を防ぐために風穴10が複数個設けられている。この風穴10により冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油が、密閉型圧縮機内で流通し、圧縮機システムの熱交換効率をあげ、更に巻線2の温度上昇を防いでいる。尚、散乱防止用絶縁カバー9に設けられた風穴10は前記目的のものであれば形状や大きさ、数を限定するものではない。
【0023】
また、散乱防止用絶縁カバー9には、各相からの引き出された巻線2と口出線5とを接続した後、口出線5の端子をケーシングのハーメピンに接続しなくてはならないため、散乱防止用絶縁カバー9に口出線5を引き出し、固定するための袋止めされた凹字状の切り欠き溝11を設けている。図1の凹字状切り欠き溝11の拡大図を図3に示す。この切り欠き溝11は、散乱防止用絶縁カバー9の外径より切り欠き、散乱防止用絶縁カバー9の中央部付近で袋止めされた凹字状の切り欠きであり、図1及び図3においては凹字状底部11bの袋止め部は、切り欠き溝巾11aより巾広の丸穴である。
【0024】
これは、通常三相誘導電動機の場合、口出線5の本数はU相、V相、W相の3本存在する。散乱防止用絶縁カバー9の外径から中央部付近に達するまでの凹字状切り欠き溝巾11aは口出線5の1本の径より若干巾広に設定してある。この凹字状切り欠き溝巾11aに口出線5を1本づつ通すためであり、この3本の口出線5が凹字状切り欠き溝底部11bに達した際には俵状を形成し確実に固定することができよう凹字状切り欠き溝底部11bの袋止部を、散乱防止用絶縁カバー9の外径から中央部付近に達するまでの凹字状切り欠き溝巾11aより巾広に形成されている。本実施例では、凹字状切り欠き溝底部11bの形状を限定するものではなく丸穴、角穴、三角穴等、口出線が凹字状底部11bでおさまる形状であればよい。
【0025】
また、この凹字状切り欠き溝11は、散乱防止用絶縁カバー9の外径側に口出線5が挿入しやすい様に散乱防止用絶縁カバー9の外径側を広くしたロート状に切り欠き、形成することにより凹字状切り欠き溝11への口出線5の挿入性がよくなる。尚、図中の矢印部は口出線5が凹字状切り欠き溝巾11aを通り凹字状切り欠き溝低部11bに達する状況を示している。また、破線は口出線5が凹字状切り欠き底部11bに収まった状態を示している。
【0026】
更に、本発明の実施形態を、図9を用いて説明する。図9は、図5の固定子鉄心内径側から見た部分側面図である。固定子鉄心1に取り付けられたボビン8は、固定子内径側の巻線2が挿入される各スロット開口部においては樹脂壁が存在しないため、前述した様に巻線2の端部と口出線5による接続点6が固定子内径側に落ち込む可能性があるため散乱防止用絶縁カバー9aの内径に位置するコイル保護用のリング状の樹脂壁15に各スロット開口部に対向する箇所を部分的に突出させた樹脂壁を設けている。この樹脂壁は巻線2や口出線5及び接続点6等が固定子内径側に落ち込まないようにボビン8と凹凸で噛み合うようにし極力隙間のないように設けることが好ましい。例えば、散乱防止用絶縁カバー9aの内径に位置するコイル保護用のリング状の樹脂壁15に突出させた形状は、三角形、角形、丸形、台形等の形状にし、固定子端部より突出したボビンの形状と凹凸が噛み合うようであればよい。
【0027】
また、環境問題等により従来、エアコンや冷蔵庫に使用される冷媒がCFC12、CFC22等で冷凍機油がナフテン系、パラフィン系の鉱油またはアルキルベンゼン系油が採用されているが、代替冷媒であるHFC134a、HFC410a、HFC407c等の冷媒と、冷凍機油であるポリアルキレングリコール系油やポリエステル系油またはエーテル系油等の混合油を使用する場合、ボビン8や散乱防止用絶縁カバー9の材料をスーパーエンプラ(スーパー・エンジニアリング・プラスチック)を使用することにより従来問題となっていた冷凍機油内に含まれる水分量による絶縁物の加水分解を極力少なくすることが可能となる。スーパーエンプラとしては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー樹脂(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等がある。
【0028】
図4は、本発明の請求項2記載の発明である。図4は本発明を説明するための固定子鉄心1に取り付けられたボビン8aと散乱防止用絶縁カバー9の部分断面図である。固定子鉄心1端部にボビン8aが装着され巻線2が施されている。巻線2の上部には各相から引き出された巻線2の端部と口出線5とを接続した接続点6等が配置されている。この接続点6や巻線2等の散乱を防ぐ目的で散乱防止用絶縁カバー9より確実にボビン8a側に押さえ込んでいる。この押さえ込む方法として散乱防止用絶縁カバー9またはボビン8aの少なくとも一方に掛かり止めできる爪12を設けている。この爪12は、ボビン8a側の凸部と散乱防止用絶縁カバー9側の凸部が掛かり合わせして、固定子鉄心1の巻線2上部から接続点6等を押え込む様になっている。このことにより口出線5及び接続点6や各相からの引き出された巻線2の散乱を押えることができる。従って、従来のレーシング・マシーンによる巻線2や口出線5及び接続点6を固定する作業も必要になくなり、またボビン8aに散乱防止用絶縁カバー9を掛かり止めするだけであるので、巻線固定紐7により確実に固定できているか作業者が常に確認する必要もなくなる。
【0029】
尚、図4では両方に凸部の爪12を設けて掛かり止めしているが、ボビン8aまたは散乱防止用絶縁カバー9どちらか一方に凸部の爪12を設け、どちらか一方に凹部を形成してもよい。凹の場合は貫通穴としても良い。また図4ではこの掛かり止めできる爪12が外径側のコイル保護用の樹脂壁13に設けているが内径側のコイル保護用の樹脂壁14に設けてもよい。また、掛かり止めできる爪12は、散乱防止用絶縁カバー9及び、ボビン8aの全周に渡ってあってもよく部分的に存在してもよい。
【0030】
図5及び図6は、本発明の請求項3記載の発明である。図5は本発明の請求項3の発明であり固定子が完成した状態を示す平面図である。図6は図5に使用する本発明の散乱防止用絶縁カバー9aの平面図である。前述した様に、図1の散乱防止用絶縁カバー9には圧縮機システムの熱交換効率をあげる目的や密閉型圧縮機運転中の電動機巻線2の温度上昇を防ぐために風穴10を複数個設けている。この風穴10により冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油を密閉型圧縮機内で流通させて、圧縮機システムの熱交換効率をあげ、また巻線2の温度上昇を防いでいるが、更に、効果的に冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油を密閉型圧縮機内で流通させる方法として図5及び図6の散乱防止用絶縁カバー9aの外側に位置するコイル保護用の樹脂壁の一部を大きく切り欠くことにより、この冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油による冷却効果を高めることができる。
【0031】
但し、各相からの引き出された巻線2やそれに付随して引き出された巻線2の端部と口出線5による接続点6が、固定子内径側への落ち込みや飛び出すことにより電動機の回転子と接触し回転不良をおこさない様に、散乱防止用絶縁カバー9aの内側に位置するコイル保護用のリング状の樹脂壁15でつなぐことにより各相からの引き出された巻線2やそれに付随して引き出された巻線2の端部と口出線5による接続点6が固定子内側への落ち込みや飛び出しを防いでいる。
【0032】
また、図5及び図6の散乱防止用絶縁カバー9aの外側に位置するコイル保護用の樹脂壁の一部を大きく内径側に切り欠いた切り欠き断面は、各相からの引き出された巻線2やそれに付随して引き出された巻線2の端部と口出線5による接続点6が固定子径方向に飛び出さないように散乱防止用絶縁カバー9aの外径側と内径側を繋ぐように樹脂壁で覆われている。このことにより、散乱防止用絶縁カバー9aの強度を増すこともできる。
【0033】
また、散乱防止用絶縁カバー9aの内側をリング状の樹脂壁15でつなぐことによっても散乱防止用絶縁カバー9aの強度を増すことができるため、取り扱いによる散乱防止用絶縁カバー9aの割れやクラック等の不良を低減することができる。
【0034】
図7は、本発明の請求項4記載の発明である。図7は本発明を説明するための固定子鉄心1に取り付けられたボビン8bと散乱防止用絶縁カバー9の部分断面図である。図4の一体成型されたボビン8aと散乱防止用絶縁カバー9は前述した様に少なくともどちらか一方に掛かり止めできる爪12を設けボビン8aと散乱防止用絶縁カバー9を固定しているが、別の方法として図7に示すようにボビン8bと散乱防止用絶縁カバー9を強固に一体固着させるために散乱防止用絶縁カバー9の穴16を設け、この穴16に一体成形されたボビン8bからの突起部17を嵌め込み、この突起部17を超音波溶着等により変形させ溶着固定する。図7においては、この溶着固定さる溶着部18は1ヶ所での説明となったが、数を限定するものではなく用途によっては複数箇所設けても良い(図6を参照)。
【0035】
溶着部18を複数箇所設ける場合は、固定子内径の中心を基準として等間隔あるいは対称に設けることが好ましい。また、この溶着部18が複数箇所あることによって、初回での溶着固定を全ての溶着箇所で行わず、用途や材料強度等により必要最小限の個所のみ溶着固定することにより、仮にボビン8bと散乱防止用絶縁カバー9を溶着してしまった後でも、固定子において不具合が発生し修理等必要な場合でも、初回での溶着固定した溶着部18のみを取りはずし必要な修理等加えた後、別の溶着箇所にて溶着固定することができる。
【0036】
このことにより、ボビン8bや散乱防止用絶縁カバー9を完全に交換する必要がなくなる。また、固定子のボビン8bを交換する必要がなくなるため、巻線作業やその他の結線作業等をはじめから再度行う必要もなくなる。従って、修理に要する時間や材料費を低減することができる。本発明は、図4のボビン8aと散乱防止用絶縁カバー9に示した爪12と併用することにより更に強固に固定できることは説明を要しない。
【0037】
請求項5の発明を図4及び図7を用いて説明する。図4の一体成形されたボビン8aに巻き付けられる巻線2は、巻線2の占有率を向上するためにボビン8aに対して巻線2を整列に巻き付け配置している。また、ボビン8aには整列に巻き付けられた巻線2を俵積みすることにより更に多くの巻線を巻きつけている。このため、この俵積みされた巻線2が、固定子内径側及び、外径側にくずれない様にコイル保護用の樹脂壁13、14を設けている。
【0038】
ボビン8aに俵積みに巻かれた巻線2の巻線高さは、巻線2のスロットでの占有率が許す限り巻線2を巻くことができるため、俵積みされた巻線2がくずれない様にコイル保護用の樹脂壁を高く設けている。しかしながら、集中巻きによる巻線方法では巻線機のニードルの軌跡が固定子内側のコイル保護用の樹脂壁14を大きく超えてボビン8aやスロット内に巻かれるため前述した様に巻線2を整列に巻き付け配置することがかなり難しい物となっている。これは、巻線機のニードルが動く軌跡が大きいため巻線2がバラバラに巻かれ整列に巻線ができずに俵積みがくずれてしまい理論的には巻き込めるはずの巻数が巻き込めなくなることによる。
【0039】
そこで、以上のことから鑑みて図7に示す構造のボビン8bにすることにより解決することができる。つまり、固定子内側のコイル保護用の樹脂壁21を固定子外側のコイル保護用の樹脂壁20の高さより低くすることにより、巻線2をボビン8aに巻き付ける時に巻線機のニードルの動きが大きな軌跡を描くことが無くなるため巻線2を整列に巻き付け配置することができる。また、固定子内側のコイル保護用の樹脂壁21を低くすることにより巻線2を整列巻きすることができるため、固定子スロット内の占有率を向上することが可能となる。この場合、図4と図7とを対比させて説明したが、図4の発明に本発明を適用してもかまわない。
【0040】
また、請求項6の発明は、先に図1及び図3を用いて前述した凹字状切り欠き溝11に口出線5を固定する方法とは別の方法を図8を用いて説明する。図8は散乱防止用絶縁カバー9bの凹字状切り欠き溝23に口出線5を固定した要部斜視図である。散乱防止用絶縁カバー9bには、凹字状切り欠き溝23が設けられ、口出線5が挿入されている。散乱防止用絶縁カバー9bに設けた凹字状切り欠き溝23内に挿入された口出線5が飛び出さないように凹字状切り欠き溝23の開口部を巻線2が巻かれたボビンの固定子外径側に位置するコイル保護用の外径側樹脂壁22によって蓋をすることにより散乱防止用絶縁カバー9bの外に口出線5が飛び出ることなく確実に固定することができる。尚、説明するまでもないが、先に図1及び図3を用いて前述した凹字状切り欠き溝11に口出線5を固定する方法と併用することにより更に、確実に口出線5を固定することができる。
【0041】
【発明の効果】
冷媒としてHFCが封入された密閉型圧縮機の電動機において、固定子の歯には、集中巻きによる巻線を施すことにより電動機の損失である銅損を大幅に低減でき電動機効率をあげることができる。尚且つ、直接ボビンに巻線を巻き付ける集中巻であるため、巻線の乱れがなくなり集中巻を施す場合、巻線を整列させて巻くことも可能となる。このことにより従来手作業より行っていた巻線の乱れや、各相からの引き出された巻線端部と口出線との接続点部分を束ね整列させる作業も必要がなくなる。また、従来整形プレス機等により巻線の乱れを修正する目的で巻線を整形していたが、直接ボビンに巻線を巻き付ける集中巻であるため整形する必要もなくなる。また、集中巻きであるため各相が固定子の歯に分割されて巻かれているため各相を相間絶縁紙等で絶縁しなくてすみ、相間絶縁の材料費を低減することができる。また、相間絶縁の挿入するための作業も省略することができる。
【0042】
また、従来、電動機からの各相からの引き出された巻線端部と口出線との接続点部分を巻線固定紐にて固定していたが、巻線の散乱防止用絶縁カバーを取り付けることにより確実に固定することができる。これにより作業者が時間をかけず容易に接続点部分等を固定することができる。
【0043】
また、散乱防止用絶縁カバーには、圧縮機システムの熱交換効率をあげる目的や電動機運転中の巻線の温度上昇を防ぐために風穴が複数個設けられているため、この風穴により冷媒と冷凍機油とのミスト状の混合油が、密閉型圧縮機内で流通し、圧縮機システムの熱交換効率をあげ、更に巻線の温度上昇を防ぐことができる。
【0044】
更に、散乱防止用絶縁カバー外径から中央付近に達する凹字状の切り欠き溝を設け、凹字状切り欠き溝底部の巾を散乱防止用絶縁カバー外径から中央部付近に達するまでの切り欠き溝の巾より巾広の形状にすることにより確実に口出線を固定することができる。
【0045】
また、散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁には、固定子鉄心のスロット開口部と対向している部分を突出させ、前記ボビンの固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁と凹凸に噛み合う形状とすることにより極力隙間をなくすことができ巻線や口出線及び接続点等が固定子内径側に落ち込まないようにすることができる。
【0046】
更に、冷媒としてHFCが封入された密閉型圧縮機の電動機であるため、電動機に使用される絶縁材料として、スーパーエンプラ(スーパー・エンジニアリング・プラスチック)を使用することによって水分量により加水分解が極力少ないボビンと散乱防止用絶縁カバーとすることができる。
【0047】
また、前記一体成形されたボビンと、前記散乱防止用絶縁カバーの少なくともどちらか一方に掛かり止めできる爪を設けた電動機とすることにより、確実に巻線や口出線及び接続点部分等を固定することができる。また、確実に固定子のボビンと、散乱防止用絶縁カバーを掛かり止めすることができるため密閉型圧縮機内の振動等による音の発生も抑えることができる。
【0048】
また、散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁をリング状につなぎ、散乱防止用絶縁カバーの外径側に位置する樹脂壁を大きく切り欠いたことにより前記散乱防止用絶縁カバーに設けた風穴の効果以上の効果を得ることができる。
【0049】
また、一体成形されたボビンの一部が突出した突起部を、散乱防止用絶縁カバーに設けられた穴に嵌め込まれた後、前記突起部を超音波溶着により溶着固定しボビンと散乱防止用絶縁カバーを一体固定することにより前記ボビンと、前記散乱防止用絶縁カバーを強固に固定することができる。
【0050】
また、一体成形されたボビンにおいて、固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁よりも固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁の高さを低くさせたことによって巻線機のニードルの動きが大きな軌跡を描くことが無くなるため、巻線を整列に巻き付け配置することができる。また、巻線を整列巻きすることができるため、固定子スロット内の占有率を向上することが可能となる。
【0051】
また、散乱防止用絶縁カバーに口出線を固定するための固定方法として、散乱防止用絶縁カバーの外径側から凹字状切り欠き溝を設け、凹字状切り欠き溝内に口出線を固定した後、一体成形されたボビンの固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁により蓋をすることによりより確実に口出線を固定することができる。尚、散乱防止用絶縁カバーの内径側から凹字状切り欠き溝を設け、一体成形されたボビンの固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁により蓋をすることによっても同様の効果が得られる。
【0052】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例を示す固定子の平面図。
【図2】 図1の散乱防止用絶縁カバーを取り付ける前の固定子の平面図。
【図3】 図1の凹字状切り欠き溝の拡大図
【図4】 固定子に取り付けたボビン8aと散乱防止用絶縁カバー9の部分断面図である。
【図5】 本発明の実施例を示す固定子の平面図。
【図6】 本発明の実施例の散乱防止用絶縁カバーの平面図。
【図7】 固定子に取り付けたボビン8bと散乱防止用絶縁カバー9の部分断面図である。
【図8】 本発明の実施例の口出線の固定方法を示す要部斜視図である。
【図9】 図5の固定子鉄心内径側から見た部分側面図である。
【図10】 従来例を示す固定子の平面図。
【符号の説明】
1…固定子鉄心、2…巻線、3…相間絶縁、4…スロット絶縁、5…口出線、6…接続点、7…巻線固定紐、8,8a,8b…ボビン、9、9a、9b…散乱防止用絶縁カバー、10…風穴、11、23…凹字状切り欠き溝、11a…凹字状切り欠き溝巾、11b…凹字状切り欠き溝底部、12…爪、13,20、22…外径側樹脂壁、14,21…内径樹脂壁、15…リング状の樹脂壁、16…穴、17…突起部、18…溶着部、19…固定子鉄心風穴。

Claims (6)

  1. 密閉型圧縮機の冷媒としてHFCが封入され、電動機の固定子鉄心の歯部には一体成形されたボビンを介して直接巻線を巻き付けた集中巻方式の電動機の固定子であって、
    前記電動機の固定子は、集中巻方式により巻き付けた巻線や口出線及び接続点等が散乱しないようにするための散乱防止用絶縁カバーを取り付けてなり、
    前記散乱防止用絶縁カバーには、前記冷媒と冷凍機油のミスト状の混合油が流通する風穴と口出線を固定するための固定方法を有しており、前記散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁には、固定子鉄心のスロット開口部と対向している部分を突出させ、前記ボビンの固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁と凹凸に噛み合う形状とし、
    前記ボビンと前記散乱防止用絶縁カバーの材料がスーパーエンプラ(スーパー・エンジニアリング・プラスチック)であることを特徴とする電動機の固定子。
  2. 前記一体成形されたボビンと、前記散乱防止用絶縁カバーの少なくともどちらか一方に掛かり止めできる爪を設けたことを特徴とする請求項1記載の電動機の固定子。
  3. 前記散乱防止用絶縁カバーの内径側に位置する樹脂壁がリング状につながれ、前記散乱防止用絶縁カバーの外径側に位置する樹脂壁を大きく切り欠いたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電動機の固定子。
  4. 前記一体成形されたボビンの一部が突出した突起部を有し、前記散乱防止用絶縁カバーに設けられた穴に嵌め込まれた後、前記突起部を溶着変形し前記一体成形されたボビンと前記散乱防止用絶縁カバーを一体固着することを特徴とする請求項1及至請求項3いずれか記載の電動機の固定子。
  5. 前記一体成形されたボビンにおいて、固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁よりも固定子内径側に位置するコイル保護用の樹脂壁の高さを低くさせたことを特徴とする請求項1及至請求項4いずれか記載の電動機の固定子。
  6. 前記散乱防止用絶縁カバーに口出線を固定するための固定方法として、前記散乱防止用絶縁カバーの外径側から凹字状切り欠き溝を設け、前記凹字状切り欠き溝内に口出線を固定した後、前記一体成形されたボビンの固定子外径側に位置するコイル保護用の樹脂壁により蓋をすることを特徴とする請求項1及至請求項5いずれか記載の電動機の固定子。
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