JP4585061B2 - 電気自動車の制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、交流同期モータを用いて駆動用トルクを発生させる電気自動車の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
交流同期モータを用いる電気自動車においては、一般に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )を用いたインバーターブリッジ回路を介して交流同期モータの駆動を制御するようにしている。
【0003】
ところが、インバーターブリッジ回路を介して交流同期モータを制御する場合には、交流同期モータがほぼロックした状態、即ちその回転数が極低回転数域にある状態で、最大トルクを発生させるようにすると、対応する特定の相だけに大電流が流れるため、その相に対応するIGBTが発熱してインバーターブリッジ回路の寿命の低下を招くことになる。
【0004】
その対策として、従来、インバーターブリッジ回路の容量を絶対的に大きくしたり、インバーターブリッジ回路の放熱や冷却性能を向上させたり、あるいは特許第2796711号公報に開示されているように、車速が所定値以下の低速にあるときは、最初から最大トルクを出力しないように制御することが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、インバーターブリッジ回路の容量を大きくする場合には、IGBT自体が大型化して、ブリッジ回路自体の大型化およびコストの増加を招き、インバーターブリッジ回路の放熱や冷却性能を向上させる場合にも、IGBT等に取り付けるヒートシンクの大型化等により、同様に回路自体の大型化およびコストの増加を招くことになる。
【0006】
また、特許第2796711号公報に開示されているように、車速が所定値以下の低速にあるときは、最初から最大トルクを出力しないように制御する場合には、もともと電気自動車は大量の電池を搭載し、重量が重いために、発進時のフィーリングをさらに悪化させ、特に積載時や坂道発進等の際には不必要に力不足を感じさせることが懸念される。
【0007】
そこで、本発明者は、鋭意研究したところ、インバーターブリッジ回路は、通常の状態でもヒートシンクの熱容量等によってヒートシンクへの熱の流れ込みが生じ、発進時に交流同期モータに最大トルクを発生するように通電しても、その通電開始からしばらくの間はそれほど温度上昇がみられず、寿命に影響を与える温度に達するまでには、10数秒間の時間差があることを確かめた。
【0008】
本発明は、かかる点に着目してなされたもので、その目的とするところは、インバーターブリッジ回路の大型化やコストアップを招くことなく、積載時や坂道発進を含む発進の際のフィーリングを有効に改善できる電気自動車の制御方法を提供することにある。
【0009】
上記目的を達成する請求項1に記載の電気自動車の制御方法の発明は、電気自動車の駆動用トルクを発生する交流同期モータを、インバーターブリッジ回路を介して制御するにあたり、上記電気自動車のシフトポジション信号を検出するとともに上記シフトポジション信号に対応するシフトポジションにおける上記交流同期モータの回転数を検出し、少なくとも上記シフトポジションが前進最大駆動力側になく、かつ上記回転数が極低回転数域にあるときは、最初から最大トルクを発生させないように通常モードに対して上記出力トルクを低下させた保護モードで上記交流同期モータを制御し、少なくとも上記シフトポジションが前進最大駆動力側にあって、かつ上記回転数が極低回転数域にあるときは、上記交流同期モータから最大トルクを発生させるように制御し、その後所定時間経過しても上記回転数が所定回転数に達しないときは、上記交流同期モータの出力トルクを低下させるように制御することを特徴とする。
【0010】
請求項1の発明によると、シフトポジションの前進最大駆動力側である前進走行レンジが、例えばDレンジ及びLレンジの2段である場合には、Dレンジは交流同期モータの回転数が極低回転数域であっても、最初から最大トルクを発生させないように通常モードに対して出力トルクを低下させた保護モードで交流同期モータが制御されることから、インバーターブリッジ回路の発熱による寿命低下を有効に防止することができる。一方、シフトポジションのLレンジにおいて交流同期モータの回転数が極低回転数域にあるときは、少なくとも所定時間が経過するまでは、交流同期モータから最大トルクが発生するように制御されるので、発進時のフィーリングを改善でき、従って積載時や坂道発進等の際に力不足を感じさせることもなくなる。また、低速で大きなトルクを必要とする際にはLレンジを使用すれば良く、「Lレンジは低速で大きなトルクを要する場合に使用するレンジ」と考えることで、通常の運転者が違和感を感じることは殆ど無くなる。なお、前進走行レンジが、例えばDレンジ、2レンジ及びLレンジの3段ある場合には、Dレンジ及びLレンジは上記と同様に制御し、2レンジはいずれかの制御に固定するか、インバーターブリッジ回路の状態、例えば温度状態に応じて、高温のときはDレンジと同様に制御し、低温のときはLレンジと同様に制御することが可能である。更に、所定時間最大トルクを発生させても、交流同期モータの回転数が所定回転数に達しないときは、交流同期モータの出力トルクが低下するように制御させるので、最大トルクを発生させる所定時間を、インバーターブリッジ回路の温度が、その寿命に影響を与える温度にまで上昇しない時間、即ち交流同期モータへの通電開始から10数秒未満の範囲内で適宜の時間に設定することで、特にインバーターブリッジ回路の容量増加や、放熱・冷却性能の向上を図ることなく、インバーターブリッジ回路の発熱による寿命の低下を有効に防止することが可能になり、インバーターブリッジ回路の大型化やコストアップを招くことがなくなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1の電気自動車の制御方法において、上記交流同期モータの出力トルクを低下させるのに同期して警報を発することを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明によると、警報を発する、例えばランプを点灯あるいは点滅させたり、ブザーを鳴動することで、運転者に過負荷状態にあることを知らせて喚起を促す。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項1または2に記載の電気自動車の制御方法において、上記インバーターブリッジ回路における温度を検出し、その検出温度に基づいて上記所定時間を、高温時には短く、低温時には長く設定することを特徴とする。
【0016】
請求項の発明によると、交流同期モータの回転数が極低回転数域にあるときに最大トルクを発生させる所定時間が、インバーターブリッジ回路の温度に応じて、高温時には短く、低温時には長く設定されるので、より効率的に制御でき、車両の性能をより向上させることが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による電気自動車の制御方法の実施の形態について図1乃至図5によって説明する。
【0018】
(第1実施の形態)
図1乃至図3は本発明方法を実施する電気自動車の制御装置の第1実施の形態を説明するもので、図1は要部の構成を示すブロック図、図2は動作を説明するためのフローチャート、図3は交流同期モータの回転数と発生トルクとの関係を示すグラフである。
【0019】
図1において、バッテリ1の出力電圧は、平滑コンデンサ2で平滑してインバーターブリッジ回路3に供給し、このインバーターブリッジ回路3により電気自動車の駆動用トルクを発生する交流同期モータ4の駆動を制御する。インバーターブリッジ回路3は、それぞれ2個のIGBTを有する3個のIGBTモジュール5を用いて構成する。
【0020】
本実施の形態では、アクセルセンサ、交流同期モータ4の回転数及び変速機のシフトポジションに応じて、制御回路6からIGBTモジュール5の各IGBTのゲートに所要のパルス幅のゲート信号を供給し、これにより各IGBTをスイッチングして所望の駆動用トルクが得られるように交流同期モータ4の駆動を制御する。
【0021】
このため、交流同期モータ4にはエンコーダやタコジェネレータ等からなる回転数検出器7を設け、その出力を制御回路6に供給する。また、この制御回路6には、公知のアクセルセンサ及びシフトポジション検出手段(ともに図示せず)からの出力も各々供給する。
【0022】
また、制御回路6には、ランプやブザー等の警報装置8を接続して設け、制御回路6による制御によって、交流同期モータ4から最大トルクを発生できない場合には、警報装置8に警報信号を出力してランプを点灯或いは点滅させたり、ブザーを鳴動させるようにする。
【0023】
以下、図2及び図3によって、本実施の形態の動作を説明する。なお、以下の説明では、走行レンジとして前進2段のDレンジ及びLレンジと、後進1段のRレンジを有するものとする。
【0024】
先ず、アクセルセンサからの出力に基づいて、アクセルが踏み込まれている状態でのシフトポジションがLレンジ或いはRレンジにあるか否かを判定し(ステップS1)、Lレンジ或いはRレンジにあると判定された場合には、次に交流同期モータ4の回転数を検出して、その回転数が所定の極低回転数域、例えば車速が0.3km/h以下に相当する回転数であるか否かを判定する(ステップS2)。なお、所定の極低回転数域の情報は、制御回路6内のRAMまたはROM等のメモリに予め格納しておく。
【0025】
ここで、回転数が所定の極低回転数域を超えていると判定された場合には、特定のIGBTに負荷が集中することはないので、交流同期モータ4から最大トルクを発生し得るように、アクセルセンサによるアクセルの踏み込み量等の運転者による操作量に応じて、制御回路6によりインバーターブリッジ回路3を通常モードで制御する(ステップS3)。
【0026】
これに対し、ステップS2で、交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあると判定された場合には、先ず、所定時間tの間だけ、交流同期モータ4から最大トルクを発生させるように制御回路6によりインバーターブリッジ回路3を制御する(ステップS4)。この所定時間tは、インバーターブリッジ回路3の温度が、その寿命に影響を与える温度にまで上昇しない時間、即ち交流同期モータ4への通電開始から10数秒未満の範囲内で適宜の時間に予め設定して、制御回路6内のRAM或いはROM等のメモリに格納しておく。
【0027】
その後、制御回路6において、所定時間tが経過した時点で、再び交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあるか否かを判定し(ステップS5)、極低回転数域を超えていると判定された場合には、ステップS3に移行して、運転者による操作量に応じて最大トルクを発生させるように交流同期モータ4を通常モードで動作させる。
【0028】
これにより、車両発進時等における交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあっても、インバーターブリッジ回路3をその寿命に影響を与える温度にまで上昇させることなく、図3に実線で示すようなトルクパターンで運転を制御することができるので、積載時や坂道発進等の際に力不足を感じさせることなく、発進時のフィーリングを改善することができる。
【0029】
これに対し、ステップS5で交流同期モータ4の回転数が依然として極低回転数域にあると判定された場合には、交流同期モータ4の出力トルクを、図3に破線で示すように、交流同期モータ4の回転数に応じて低下させるように、制御回路6によりインバーターブリッジ回路3を制御して、交流同期モータ4を保護モードで動作させる(ステップS6)と共に、警報信号を出力して警報装置8を駆動することにより(ステップS7)、運転者に車両が過負荷状態にあり、出力トルクを低下させたことを知らせる。
【0030】
一方、ステップS1において、シフトポジションがLレンジ或いはRレンジにないと判定された場合には、次にシフトポジションがDレンジにあるか否かを判定し(ステップS8)、Dレンジにあると判定された場合にはステップS5に移行して同様に制御する。従って、この場合には、交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあると判定されたときは、最初から交流同期モータ4の出力トルクが低下するように、保護モードで動作することになる。
【0031】
このように、シフトポジションがLレンジ或いはRレンジにあって、所定時間tの間、交流同期モータ4から最大トルクを発生させてもその回転数が依然として極低回転数域にある場合や、シフトポジションがDレンジにあって、交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にある場合に、出力トルクを低下させた保護モードで交流同期モータ4の駆動を制御することにより、インバーターブリッジ回路3の発熱による寿命低下を有効に防止することができる。
【0032】
(第2実施の形態)
図4及び図5は本発明方法を実施する電気自動車の制御装置の第2実施の形態を示すもので、図4は要部構成を示すブロック図、図5はその要部動作を説明するためのフローチャートである。
【0033】
本実施の形態では、図4に示すように、インバーターブリッジ回路3における温度を温度センサ11で検出して、その出力を制御回路6に供給する。温度センサ11は、例えばIGBTモジュール5に取り付けられるヒートシンクや、インバーターブリッジ回路3あるいはその近傍の任意の位置に取り付ける。その他の構成は、図1と同様である。
【0034】
制御回路6では、温度センサ11での検出温度に基づいて、交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあるときに最大トルクを発生させる所定時間tを設定し、その設定した所定時間tを用いて第1実施の形態と同様にして、交流同期モ―タ4のトルク制御を行う。
【0035】
即ち、図5に示すように、先ず、温度センサ11の出力を取り込んで(ステップS11)、その検出温度Tcと基準値Tref とを比較し(ステップS12)、Tc≦Tref のときは所定時間tをt=t1に設定し(ステップS13)、Tc>Tref のときは所定時間tをt=t2に設定する(ステップS14)。但し、t1>t2とする。その後は、設定した所定時間t1またはt2を用いて、図2で説明したと同様にトルク制御を行う(ステップS15)。
【0036】
このように、交流同期モータ4の回転数が極低回転数域にあるときに最大トルクを発生させる所定時間tを、インバーターブリッジ回路3の温度に応じて、高温時には短い時間t2に、低温時には長く時間t1に設定すれば、より効率的な制御を行うことができ、車両の性能をより向上させることができる。
【0037】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では、いずれも前進走行レンジをDレンジ及びLレンジの2段としたが、DレンジとLレンジとの間に中間のレンジを有する3段の前進走行レンジを有する場合にも本発明を有効に適用することができる。この場合、Dレンジ及びLレンジは上記と同様に制御し、中間のレンジはいずれかの制御に固定したり、第2実施の形態のようにインバーターブリッジ回路3の温度を検出する場合には、その検出温度に応じて、高温のときはDレンジと同様に制御し、低温のときはLレンジと同様に制御することができる。また、第2実施の形態では、2種の所定時間t1、t2の中から検出温度Tcに対応する時間を選択して設定するようにしたが、検出温度Tcを複数の異なる基準値と比較することにより、3種以上の所定時間の中から検出温度Tcに対応する時間を選択して設定するようにすることもできる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した本発明の電気自動車の制御方法によると、発進時に交流同期モータに最大トルクを発生するように通電しても、その通電開始からしばらくの間はインバーターブリッジ回路にはそれほど温度上昇がみられず、寿命に影響を与える温度に達するまでには、10数秒間の時間差があることに着目し、交流同期モータの回転数が極低回転数域にあるときは、所定時間が経過するまでは、交流同期モータから最大トルクが発生するように制御するようにしたので、発進時のフィーリングを改善でき、積載時や坂道発進等の際に力不足を感じさせることがなくなり、また、所定時間経過しても回転数が所定回転数に達しないときは、交流同期モータの出力トルクが低下するように制御するようにしたので、最大トルクを発生させる所定時間を、上記のインバーターブリッジ回路の温度上昇を勘案して適切に設定することで、インバーターブリッジ回路の容量増加や、放熱・冷却性能の向上を図ることなく、インバーターブリッジ回路の発熱による寿命の低下を有効に防止することができ、インバーターブリッジ回路の大型化やコストアップを阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実施する電気自動車の制御装置の第1実施の形態の要部構成を示すブロックである。
【図2】第1実施の形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】第1実施の形態による交流同期モータの回転数と発生トルクとの関係を示すグラフである。
【図4】本発明方法を実施する電気自動車の制御装置の第2実施の形態の要部構成を示すブロック図である。
【図5】第2実施の形態の要部動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1 バッテリ
2 平滑コンデンサ
3 インバーターブリッジ回路
4 交流同期モータ
5 IGBTモジュール
6 制御回路
7 回転数検出器
8 警報装置
11 温度センサ

Claims (3)

  1. 電気自動車の駆動用トルクを発生する交流同期モータを、インバーターブリッジ回路を介して制御するにあたり、
    上記電気自動車のシフトポジション信号を検出するとともに上記シフトポジション信号に対応するシフトポジションにおける上記交流同期モータの回転数を検出し、
    少なくとも上記シフトポジションが前進最大駆動力側になく、かつ上記回転数が極低回転数域にあるときは、最初から最大トルクを発生させないように通常モードに対して上記出力トルクを低下させた保護モードで上記交流同期モータを制御し、
    少なくとも上記シフトポジションが前進最大駆動力側にあって、かつ上記回転数が極低回転数域にあるときは、上記交流同期モータから最大トルクを発生させるように制御し、その後所定時間経過しても上記回転数が所定回転数に達しないときは、上記交流同期モータの出力トルクを低下させるように制御することを特徴とする電気自動車の制御方法。
  2. 上記交流同期モータの出力トルクを低下させるのに同期して警報を発することを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の制御方法。
  3. 上記インバーターブリッジ回路における温度を検出し、その検出温度に基づいて上記所定時間を、高温時には短く、低温時には長く設定することを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車の制御方法。
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