JP4567302B2 - 微細構造体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細構造体の製造方法に関し、特にフッ素樹脂を含む微細な構造体を得ることのできる微細構造体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)は、耐熱性、耐薬品性、撥水性、防汚性、潤滑性、及び耐摩擦性等に優れる。これらの特徴を利用して、PTFEは、フィルター、パッキン、ガスケット、チューブ、絶縁テープ、軸受け、あるいはマイクロマシン等に利用される。
【0003】
フッ素樹脂の中でもPTFEは加工が困難である。PTFE製の被加工体を微細に加工する方法としては、レーザ光を用いて被加工体をアブレーションさせる方法、あるいは特許文献1に開示されているように、シンクロトロン放射光を用いて被加工体をエッチングする方法が知られている。後者の方法によれば、シンクロトロン放射光を、例えば貫通孔が形成されたマスクを介して被加工体に照射することにより、被加工体にマスクの貫通孔に対応した形状の貫通孔を形成できる。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−336894号公報(第3−5頁、第1図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
シンクロトロン放射光を用いてエッチングすることにより、アスペクト比が100程度の貫通孔を形成することができる。アスペクト比とは、被加工体に形成された貫通孔の最小の開口幅に対する貫通孔の深さの比をいう。しかし、形成される貫通孔の開口部の面積は、マスクにおける貫通孔の開口部の面積に依存する。即ち、マスクの貫通孔よりも微細な貫通孔を形成するのは難しい。
【0006】
本発明の目的は、PTFE等のフッ素樹脂を含む微細な構造体を得ることのできる技術を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の一観点によれば、
(a)フッ素樹脂を含有する被加工体を準備する工程と、
(b)準備された被加工体に、貫通孔が形成されたマスクを通してシンクロトロン放射光を照射することにより、前記被加工体の一部を除去する加工を行う工程と、
(c)一部が除去された被加工体を熱処理して該被加工体を収縮させることにより、前記被加工体の一部が除去された部分を、前記マスクの貫通孔よりも微細にする工程と
を有する微細構造体の製造方法が提供される。
【0008】
本発明においては、工程(a)が、(a1)フッ素樹脂を含有するペーストを成形した成形体に、圧延処理及び延伸処理のうち少なくとも一方の処理を施して被加工体を得る工程を含むのが好ましい。成形体に、圧延処理及び延伸処理のうち少なくとも一方を施することにより、工程(c)の熱処理による被加工体の収縮率を制御できる。従って、工程(c)の熱処理後に所望サイズの微細構造体を得ることができる。
【0009】
本発明においては、工程(a)が、フッ素樹脂と、造孔剤及び発泡剤のうち少なくとも一方とを含有するペーストを用いて、被加工体を製作する工程を含むのが好ましい。造孔剤を分解することにより、被加工体の気孔率を向上できる。また、発泡剤を発泡させることにより、被加工体の気孔率を向上できる。気孔率とは、被加工体の内部に存在する気孔の体積の、被加工体の全体積に対する割合をいう。また、気孔率は、造孔剤の含有量又は発泡剤の含有量で調節できる。気孔率に基づいて、工程(c)の熱処理による被加工体の収縮率を制御できる。従って、工程(c)の熱処理後に所望サイズの微細構造体を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
〔実施例1〕PTFE製の粉末として旭硝子フロロポリマーズ社製の四弗化エチレン樹脂ファインパウダー(商品名:CD−123)を用い、これに潤滑剤としてのソルベントナフサを20重量%混合してペーストを得た。
【0011】
次に、得られたペーストを押し出し成形して、板状の成形体を得た。押し出し成形は、ペーストをPTFEの結晶融点未満の温度とした状態で行った。未焼成のPTFEの結晶融点は、335℃以上、345℃以下の範囲に分布する。詳細には、ペーストを330℃以下の温度とした状態で押し出し成形した。押し出し成形により、ペーストを構成する微粒子(粒子径:0.2μm程度)どうしが圧着されるから、成形体はその形状を保持できる。
【0012】
次に、60℃の乾燥炉にて、成形体からソルベントナフサを除去した。この段階で成形体のサイズは、厚さ1.2mm、幅180mmであった。
【0013】
次に、成形体に圧延処理を施して被加工体とした。詳細には、プレス機を用い、室温下で、成形体に対して厚さ方向に約44MPa(450kgf/cm2)の圧力を15分間加えて被加工体とした。得られた被加工体の厚さは、0.90mmであった。
【0014】
次に、住友重機械工業(株)社製の放射光発生装置(AURORA−2S、700MeV)を用いて、被加工体をエッチングした。
【0015】
図1は、エッチングを行うときの様子を示す斜視図である。電子蓄積リング1内で、電子が光速度に対して99.7%以上の速度に加速される。その電子が磁場で曲げられるときに、電子蓄積リング1の接線方向にSR光2が放出される。
SR光2の光子密度は、3.4×1011Photons/sec/mA/mm2とした。シンクロトロンにおける電子の電流値は、300〜500mAであった。
【0016】
SR光2の光路上には、マスク3と被加工体4とが配置されている。マスク3は、被加工体4よりもSR光2の光源側に位置する。SR光2がマスク3に入射する。マスク3は、ニッケル製の遮光板に正方形の貫通孔が行列状に配置された構造を有する。正方形の貫通孔の各々の一辺の長さは100μmである。
【0017】
マスク3の貫通孔が形成された領域のみがSR光2を通過させる。マスク3を通過したSR光2が、被加工体4に入射する。被加工体4の、SR光2が入射した領域がエッチングにより除去される。これにより、被加工体4に、行列状に配置された複数の貫通孔が形成される。
【0018】
電子蓄積リング1、マスク3、及び被加工体4は、真空容器内に配置される。
真空容器内の気圧は、1.3×10-2Pa(1×10-4Torr)以下とすることが好ましく、1.3×10-3Pa(1×10-5Torr)〜1.3×10-8Pa(1×10-6Torr)とすることがより好ましい。真空容器内において、被加工体4の温度を、PTFEの結晶融点以下の温度である140℃に保った状態で、被加工体4をエッチングした。
【0019】
図2(a)は、エッチングされた被加工体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真をスケッチした線図である。図示のように、焼成されていない被加工体に、SR光を用いて貫通孔をきれいに形成することができた。
【0020】
次に、貫通孔が形成された被加工体を熱処理した。熱処理により、被加工体が収縮した。これに伴い、被加工体に形成されていた貫通孔も収縮した。従って、マスク3の貫通孔よりも微細な貫通孔を有するPTFE製の構造体を得ることができた。なお、熱処理は、被加工体の収縮が充分に飽和するまで行った。詳細には、熱処理は、大気中、350℃の温度で10分間行った。
【0021】
図2(b)は、熱処理後におけるPTFE製の構造体のSEM写真をスケッチした線図である。図2(b)に示された貫通孔のサイズの方が、図2(a)に示された貫通孔のサイズよりも小さい。即ち、熱処理によって被加工体が収縮したことにより、予め熱処理前に形成した貫通孔よりも微細な貫通孔を得ることができた。
なお、熱処理された被加工体をSEMで観察して、貫通孔の開口部の面積を求め、その面積から熱処理による貫通孔の面積収縮率を計算した。熱処理前及び熱処理後の貫通孔の開口部の面積が、それぞれ1×10-2mm2及び0.92×10- 2mm2であり、面積収縮率は8%であった。
【0022】
実施例1と同じ条件で得られた成形体を試料Aとする。また、プレス機を用い、室温下で、その成形体に対して厚さ方向に約29MPa(300kgf/cm2)の圧力を15分間加えたものを試料Bとする。同様にして、成形体に対して厚さ方向に約72MPa(730kgf/cm2)の圧力を15分間加えたものを試料Cとする。試料B、Cの厚さは、それぞれ0.95mm、0.70mmであった。また、試料Aを圧延せずに焼成したものを試料Dとする。
【0023】
実施例1と同じ条件で、試料A〜Dに対してそれぞれエッチング及び熱処理を施した。そして、熱処理された試料A〜DをSEMで観察し、それぞれに形成した貫通孔の開口部の面積を求めた。さらに、その面積から、熱処理による各試料の貫通孔の面積収縮率を計算した。
【0024】
その結果を表1に示す。なお、表1には「実施例1」の欄に、上記実施例1の被加工体の熱処理後における貫通孔の開口部の面積、及び熱処理による貫通孔の面積収縮率を併せて掲げる。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示すように、試料Dにおいては、熱処理による貫通孔の面積収縮率が0%である。これは、予め焼成された試料Dであれば、再度の熱処理によって貫通孔の開口部が収縮しないことを示す。
【0027】
これに対して、予め焼成されていない試料A〜C、及び実施例1の被加工体においては、熱処理により貫通孔の開口部の面積が減小している。貫通孔の面積収縮率は、試料C、実施例1の被加工体、試料B、試料Aの順に大きい。上述のように、成形体の段階で加えた圧力は、この順に小さい。最も縮んだ試料Aには、圧延処理を施していない。即ち、圧延処理において成形体に加える圧力が小さいほど、熱処理による貫通孔の面積収縮率が大きくなる。
【0028】
このことから、熱処理による貫通孔の面積収縮率は、成形後の圧延処理において成形体に加える圧力で制御できると考えられる。貫通孔の面積収縮率を制御できるので、同一のSR光用マスクを用いながら、熱処理後にさまざまなサイズの貫通孔を得ることができる。
【0029】
なお、成形後の圧延処理において成形体に加える圧力が大きいほど、貫通孔の面積収縮が抑えられるのは、成形体を圧延すると、成形体を構成する粒子どうしが押し出しのときよりも強い力で圧着され、さらには、成形体の気孔率が下がることに起因すると考えられる。
【0030】
図3(a)は、熱処理前における試料AのSEM写真をスケッチした線図であり、図3(b)は、熱処理後における試料AのSEM写真をスケッチした線図である。図3(b)に示される貫通孔の間隔の方が、図2(b)に示される貫通孔の間隔よりも狭い。これは、熱処理によって、試料Aが実施例1の被加工体よりも大きく収縮したことを示す。
【0031】
〔実施例2〕実施例1と同じ条件で得られた板状の成形体に延伸処理を施して被加工体とした。詳細には、板状の成形体を、その平面内の互いに直交する2軸方向(縦方向及び横方向)にそれぞれ200%延伸して被加工体とした。
【0032】
なお、ここでは、成形体を延伸しながらその成形体の延伸率が所望値に達したときに延伸を止めた。ここでいう延伸率とは、延伸されている状態の成形体の延伸方向に伸びた長さを、延伸前の成形体の延伸方向の長さで除した値をいう。
【0033】
次に、実施例1と同じ条件で被加工体をエッチングし、エッチングされた被加工体を熱処理して微細構造体を得た。熱処理は、大気中、350℃の温度で15分間行った。熱処理により、被加工体が収縮した。これに伴い、被加工体に形成されていた貫通孔も収縮した。従って、SR光用マスクの貫通孔よりも微細な貫通孔を有するPTFE製の構造体を得ることができた。
【0034】
なお、熱処理された被加工体をSEMで観察し、貫通孔の開口部の面積を求めた。さらに、その面積から、熱処理による貫通孔の面積収縮率を計算した。収縮後の貫通孔の開口部の面積は、0.58×10-2mm2であり、面積収縮率は42%であった。
【0035】
実施例2と同じ条件で得られた成形体を平面内の互いに直交する2軸方向にそれぞれ50%延伸したものを試料Eとする。また、成形体を2軸方向にそれぞれ100%延伸したものを試料Fとする。また、成形体を延伸せずに、焼成したものを試料Gとする。
【0036】
実施例2と同じ条件で、試料E〜Gに対してエッチング及び熱処理を施した。
そして、熱処理された試料E〜GをSEMで観察し、それぞれに形成した貫通孔の開口部の面積を求めた。さらに、その面積から、熱処理による各試料の貫通孔の面積収縮率を計算した。
【0037】
その結果を表2に示す。なお、表2には「実施例2」の欄に、上記実施例2の被加工体における熱処理後の貫通孔の開口部の面積、及び熱処理による貫通孔の面積収縮率を併せて掲げる。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、予め焼成した試料Gにおいては、再度の熱処理による貫通孔の面積収縮率が0%である。一方、予め焼成していない試料E、試料F、及び実施例2の被加工体においては、熱処理によって貫通孔の開口部の面積が減小している。貫通孔の面積収縮率は、試料E、試料F、実施例2の被加工体の順に大きい。上述のように、成形体の段階で延伸したときの延伸率は、この順に大きい。
【0040】
このことから、熱処理による貫通孔の面積収縮率は、成形後の延伸処理における延伸率で制御できると考えられる。貫通孔の面積収縮率を制御できるので、同一のSR光用マスクを用いながら、熱処理後にさまざまなサイズの貫通孔を得ることができる。
【0041】
成形体の延伸率を大きくするほど、貫通孔の面積収縮率を大きくできる理由は次の如くと考えられる。即ち、成形体を延伸すると、押し出しによって圧着された粒子どうしが離れて、成形体の内部に亀裂状の隙間ができる。さらに、その亀裂状の隙間に糸を引くように、延伸方向に繊維が形成される。このようにして、内部に多くの隙間が形成された被加工体が得られる。被加工体中の隙間の、被加工体全体に占める体積の割合が高いほど、熱処理による被加工体の収縮率は大きくなる。そのため、貫通孔の面積収縮率も大きくなると考えられる。
【0042】
なお、成形体に、延伸処理及び圧延処理の双方を施すことによって、熱処理による貫通孔の面積収縮率を制御してもよい。
【0043】
〔実施例3〕実施例1と同じ条件で得られた板状の成形体に延伸処理を施して被加工体とした。詳細には、成形体をその平面の1軸方向(縦方向)にのみ100%延伸して被加工体とした。これを試料Hとする。
【0044】
また、同じ成形体を1軸方向に200%延伸したものを試料Iとする。また、その成形体を1軸方向に300%延伸したものを試料Jとする。また、延伸していない成形体を焼成したものを試料Kとする。なお、ここでは、成形体を延伸しながら成形体の延伸率が所望値に達したときに延伸を止めた。
【0045】
次に、実施例1と同じ条件で試料H〜Kをエッチングし、エッチングされた試料H〜Kを熱処理して微細構造体を得た。熱処理は、大気中、350℃の温度で15分間行った。
【0046】
熱処理された試料H〜KをSEMで観察し、それぞれに形成した貫通孔の開口部の面積を求めた。さらに、その面積から、熱処理による各試料の貫通孔の面積収縮率を計算した。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、予め焼成した試料Kにおいては、再度の熱処理による貫通孔の面積収縮率が0%である。一方、予め焼成していない試料H〜Jにおいては、熱処理によって貫通孔の開口部の面積が減小している。貫通孔の面積収縮率は、試料H、I、Jの順に大きい。上述のように、成形体の段階で延伸したときの延伸率は、この順に大きい。即ち、成形体を1軸方向にのみ延伸する場合であっても、その1軸方向の延伸率に基づいて、貫通孔の面積収縮率を制御することができる。
【0049】
〔実施例4〕実施例1と同じ条件で得られたペーストを押し出し成形して、シート状の成形体を得た。次に、60℃の乾燥炉にて、成形体からソルベントナフサを除去した。次に、得られた成形体を、1方向にのみ延伸して被加工体とした。
【0050】
図4(a)は、得られた被加工体の写真を示す。シート状の成形体を縦方向にのみ100%延伸して被加工体とした。被加工体のサイズは、縦3.9cm、横2.5cmであった。
【0051】
次に、実施例1と同じ条件で、被加工体をエッチングし、エッチングされた被加工体を熱処理した。熱処理は、大気中、350℃の温度で20分間行った。熱処理により、被加工体が収縮した。これに伴い、被加工体に形成されていた貫通孔も収縮した。従って、SR光用マスクの貫通孔よりも微細な貫通孔を有するPTFE製の構造体を得ることができた。
【0052】
図4(b)は、熱処理された被加工体の写真を示す。熱処理された被加工体のサイズは、縦2.5cm、横2.4cmであった。熱処理による被加工体の縦方向の線収縮率は約36%であり、横方向の線収縮率は4%である。厚さ方向の収縮は殆どみられなかった。非延伸方向である横方向及び厚さ方向の線収縮率は、延伸方向である縦方向の線収縮率に比べると小さい。即ち、被加工体は、ほぼ延伸方向にのみ縮んだ。
【0053】
このことから、例えば被加工体を所望の方向に縮ませたい場合には、予め成形体の段階でその方向に延伸しておけばよいと考えられる。また、例えば、予め互いに交差する2方向に成形体を延伸しておけば、熱処理によってそれぞれの方向に被加工体を縮ませることができると考えられる。
【0054】
被加工体の延伸方向の線収縮率は、その方向の延伸率で制御できる。従って、例えば、成形体を互いに交差する2方向に延伸する場合には、それぞれの方向における延伸率を調節することにより、貫通孔の当該各方向の収縮率を制御できると考えられる。
【0055】
なお、上述のように被加工体をほぼ縦方向にのみ縮ませることができたので、熱処理前の被加工体には、行列状に配置された複数の正方形の貫通孔を形成したにも拘わらず、熱処理後においては、行列状に配置された複数の長方形の貫通孔を得ることができた。長方形の貫通孔の各々は図4(b)中、横方向に細長い。各々の長方形の貫通孔の横方向の開口幅を、縦方向の開口幅で除した値は、成形体の段階で縦方向の延伸率を大きくするほど、大きくすることができる。
【0056】
また、被加工体をほぼ所望の方向にのみ縮ませることができるから、例えば、貫通孔が形成された被加工体を、ほぼその貫通孔の開口部の面積を減小させる方向にのみ縮ませ、その貫通孔の深さ方向には殆ど縮ませないようにすることもできる。即ち、熱処理によって貫通孔のアスペクト比を向上させることができる。
【0057】
〔実施例5〕PTFE製の粉末に、潤滑材のみならず発泡剤も混合してペーストを得る。次に、得られたペーストを押し出し成形して成形体を得る。次に、成形体中の発泡剤を発泡させる。発泡剤を発泡させることにより、成形体の気孔率が向上する。ここで気孔率とは、成形体の内部に存在する気孔の体積の、成形体の全体積に対する割合をいう。発泡剤を発泡させたものを被加工体とする。
【0058】
次に、実施例1と同じ条件で、被加工体をエッチングし、エッチングされた被加工体を熱処理する。熱処理により、被加工体が収縮する。これに伴い、被加工体に形成されていた貫通孔も収縮する。従って、SR光用マスクの貫通孔よりも微細な貫通孔を有するPTFE製の構造体を得ることができる。
【0059】
この実施例5によれば、ペーストに混合する発泡剤の量によって、被加工体の気孔率を制御できる。被加工体の気孔率が高いほど、熱処理による被加工体の収縮率が大きくなる。即ち、被加工体の気孔率に基づいて、熱処理による被加工体の収縮率を制御できる。従って、熱処理後に所望サイズの貫通孔を得ることができる。
【0060】
〔実施例6〕PTFE製の粉末に、潤滑材のみならず造孔剤も混合してペーストを得る。造孔剤として、熱分解温度がPTFEの結晶融点よりも低い材料からなる粉末を用いる。詳細には、造孔剤として、シリカゲル粉末を用いる。なお、造孔剤として、カーボンブラック粉末やアルミナ粉末等を用いてもよい。
【0061】
次に、ペーストを押し出し成形して成形体を得、得られた成形体から造孔剤を除去する。造孔剤の除去は、成形体をPTFEの結晶融点以下の温度に加熱することにより行う。即ち、シリカゲル粉末を加熱により昇華させて除去する。造孔剤が除去されると、その抜け孔が気孔となる。これにより、成形体の気孔率が向上する。成形体から造孔剤を除去したものを被加工体とする。
【0062】
次に、実施例1と同じ条件で、被加工体をエッチングし、エッチングされた被加工体を熱処理する。熱処理により、被加工体が収縮する。これに伴い、被加工体に形成されていた貫通孔も収縮する。従って、SR光用マスクの貫通孔よりも微細な貫通孔を有するPTFE製の構造体を得ることができる。
【0063】
この実施例6によれば、ペーストに混合する造孔剤の量や粒径によって、被加工体の気孔率を制御できる。被加工体の気孔率に基づいて、熱処理による被加工体の収縮率を制御できる。従って、熱処理後に所望サイズの貫通孔を得ることができる。なお、ペーストには、造孔剤及び発泡剤の双方を混合してもよい。ペーストに混合する造孔剤の量や粒径及び発泡剤の量に基づいて、被加工体の気孔率を制御できる。
【0064】
〔実施例7〕PTFE製の粉末に、潤滑材のみならず造孔剤も混合してペーストを得る。造孔剤として、熱分解温度が、140℃より高く、340℃以下の粉末を用いる。
【0065】
次に、得られたペーストを押し出し成形して成形体を得る。この成形体を被加工体とする。次に、実施例1と同じ条件で被加工体をエッチングする。エッチング時における被加工体の温度は、140℃であり、造孔剤の熱分解温度未満である。従って、エッチング時に造孔剤は熱分解されない。
【0066】
次に、エッチングされた被加工体から造孔剤を除去する。造孔剤の除去は、被加工体を、140℃より高く、340℃以下の温度で加熱することにより行う。
造孔剤を除去することにより、被加工体の気孔率が上がる。次に、被加工体を熱処理して微細構造体を得る。
【0067】
以上のように、この実施例7では、エッチング後に被加工体から造孔剤を除去する。なお、上記実施例6では、エッチング前に成形体から造孔剤を除去する。
【0068】
この実施例7によっても、ペーストに混合する造孔剤の量や粒径によって、熱処理による被加工体の収縮率を制御できる。
【0069】
造孔剤の熱分解温度が高い場合には、造孔剤を熱分解させるときにも、その熱により被加工体がわずかに縮むと考えられる。従って、実施例6のように、エッチング前に造孔剤を熱分解させる場合は、その熱により僅かに縮んだ被加工体をエッチングすることになる。これに対して、実施例7のように、エッチング後に、造孔剤を熱分解させる場合には、予め、造孔剤の熱分解に伴う縮みのない被加工体をエッチングできる。従って、その造孔剤の熱分解に伴う被加工体の縮み量の分だけ、貫通孔の開口部の面積縮小量を大きくとることができると考えられる。
【0070】
なお、造孔剤の熱分解温度がPTFEの結晶融点以下であれば、最後に行う被加工体の熱処理において造孔剤の除去を兼ねることもできると考えられる。そうすれば、エッチングと熱処理との間に、造孔剤の除去を行う必要がなくなるので、微細構造体の製造の効率化が図られる。
【0071】
以上、実施例について説明したが、本発明はこれに限られない。被加工体の形状は、板状又はシート状に限られない。ペーストを、例えばチューブ状やブロック状等さまざまな形状に押し出すことで、さまざまな形状の被加工体を得ることができる。微細構造体の形状も特に限定されない。例えばチューブ状の被加工体に、エッチング及び熱処理を施して、チューブ状の微細構造体を得ることもできる。
【0072】
また、PTFE製の粉末としては、旭硝子フロロポリマーズ社製の四弗化エチレン樹脂ファインパウダーCD−123以外にも、旭硝子フロロポリマーズ社製のフルオンPTFEファインパウダーCD1、C123、又はCD090(いずれも商品名)等の乳化重合によって得られるPTFEのファインパウダーを広く用いることができる。
【0073】
さらに、PTFE製の粉末としては、乳化重合によって得られるPTFEのファインパウダーに代えて、縣濁重合によって得られるPTFEのモールディングパウダー等を用いることもできる。また、PTFEのエマルジョンやPTFEのディスパージョン等からPTFE製の粉末を得ることもできる。
【0074】
詳細には、PTFEのモールディングパウダーとしては、旭硝子フロロポリマーズ社製のフルオンPTFEモールディングパウダーG163、G192、又はG190(いずれも商品名)等が挙げられる。PTFEのディスパージョンとしては、旭硝子フロロポリマーズ社製のフルオンPTFEディスパージョンXAD011、XAD912、又はAD1(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0075】
また、ペーストには、テトラフロロエチレン−パーフロロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体(以下、PFAという。)、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン系共重合体(以下、FEPという。)、又はエチレン−テトラフロロエチレン系共重合体(以下、ETFEという。)等のPTFE以外のフッ素樹脂を含有させてもよい。
【0076】
但し、PFA、FEP、及びETFEは、加熱して溶融したときの流動性が高い。従って、これらの含有量が多すぎると、加熱を伴う加工によって被加工体に貫通孔を形成する場合には、その貫通孔が変形してしまう可能性がある。そこで、PFA、FEP、又はETFEをペーストに添加する場合には、その含有量を50重量%以下とするのが好ましい。含有量が50重量%以下であれば、加工時の熱に起因する貫通孔の変形を回避できるであろう。
【0077】
また、被加工体を構成するフッ素樹脂の骨格に、パーフロロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフロロプロピレン、あるいは(パーフロロアルキル)エチレン等の共重合性モノマを含んでもよい。但し、これらの含有量が0.2モル%を超えれば、PTFEの物性が変わってしまう。そのため、これらの共重合性モノマの含有量は、0.2モル%以下とするのが好ましい。
【0078】
また、エッチング時における被加工体の温度は、140℃に限定されず、PTFEの結晶融点以下の温度であればよい。なお、被加工体の温度が結晶融点に達した時であっても、被加工体はゲル化するだけであり、その形状は保たれるであろう。エッチング時における被加工体の温度は、好ましくは0℃以上、330℃以下であり、より好ましくは70℃以上、200℃以下である。
【0079】
また、SR光を用いたエッチング以外にも、レーザ光を用いたアブレーション加工や機械的な加工等によって被加工体の一部を除去することができる。
【0080】
また、被加工体を熱処理するときの温度は、被加工体を収縮させることのできる温度であればよい。例えば、被加工体は、PTFEのガラス転移点(130℃)以上の温度で熱処理することによっても収縮させることができる。縦3cm、横3cmの正方形状の被加工体であって、縦方向及び横方向にそれぞれ延伸処理が施されたものを、200℃の温度で5分間熱処理することにより、縦2.5cm、横2.5cmの微細構造体を得ることができた。なお、被加工体を熱処理するときの温度は、好ましくは、330℃以上、より好ましくは340℃以上である。
【0081】
また、被加工体の熱処理は、不活性ガスの雰囲気中で行ってもよい。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、又は窒素ガス等が挙げられる。不活性ガスの雰囲気中で熱処理することにより、被加工体の酸化を防止できる。また、熱処理室を不活性ガスでパージすることにより、被加工体に不純物が混入してしまうことを防止できる。
【0082】
また、被加工体を熱処理するときの雰囲気を、大気圧よりも高い圧力に加圧してもよい。そうすると、被加工体の収縮率をより大きくすることができると考えられる。特に、被加工体中の各気孔が閉じている場合、即ち各気孔が被加工体の外部に通じていない場合には、熱処理のときに各気孔が大気圧よりも高い気圧によって押し潰されるので、被加工体の収縮率を大きくできると考えられる。また、被加工体を熱処理するときの雰囲気の気圧に基づいて、被加工体の収縮率を制御することもできると考えられる。
【0083】
また、被加工体の熱処理は、真空中で行ってもよい。真空中で熱処理することによっても被加工体の酸化を防止できる。また、熱処理室内を真空引きして清浄化することにより、被加工体に不純物が混入してしまうことを防止できる。さらに、被加工体中の各気孔が開いている場合、即ち各気孔が被加工体の外部に通じている場合には、被加工体を真空中で熱処理すると、被加工体の収縮に伴い各気孔が閉じられるときに、各気孔の内部が真空状態に保たれる。従って、微細構造体中に残存する気孔を少なくすることができると考えられる。その結果、大気圧で被加工体を熱処理する場合に比べると、最終的により微細な構造体を得ることができると考えられる。
【0084】
また、被加工体は、熱処理によって縮ませることができればよい。例えば、未焼成の被加工体は勿論、熱処理は施されたが、未だ完全には焼成されきっていないものを被加工体としてもよい。具体的には、市販のいわゆるe−PTFE(expanded−PTFE)等は、完全には焼成されきっておらず、エッチング後に、330℃程度の温度で熱処理を行うことにより、収縮させることができるであろう。
【0085】
また、造孔剤や発泡剤を用いて形成する気孔、あるいは成形体を延伸することによって形成する亀裂状の隙間が、被加工体の熱処理後に残るようにしてもよい。このようにすれば、熱処理後に残った気孔の部分も有効に利用できる。例えば、熱処理後に残った気孔の部分と、SR光等によって形成した貫通孔の部分とで目の粗さが少なくとも2段階に調節されたフィルターを実現できる。粗い粒子を貫通孔の部分で捕らえ、細かい粒子を気孔の部分で捕らえることができる。この他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0086】
【発明の効果】
本発明によれば、PTFE等のフッ素樹脂を含む微細な構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 シンクロトロン放射光を用いて被加工体に貫通孔を形成する様子を模式的に示す斜視図である。
【図2】 (a)はエッチングされた被加工体のSEM写真をスケッチした線図であり、(b)は熱処理後におけるPTFE製の微細構造体のSEM写真をスケッチした線図である。
【図3】 (a)は熱処理前における試料AのSEM写真をスケッチした線図であり、(b)は熱処理後における試料AのSEM写真をスケッチした線図である。
【図4】 (a)は縦方向に延伸されたシート状の成形体の写真であり、(b)はその熱処理後の微細構造体の写真である。
【符号の説明】
1 電子蓄積リング
2 シンクロトロン放射光
3 マスク
4 被加工体
Claims (7)
- (a)フッ素樹脂を含有する被加工体を準備する工程と、
(b)準備された被加工体に、貫通孔が形成されたマスクを通してシンクロトロン放射光を照射することにより、前記被加工体の一部を除去する加工を行う工程と、
(c)一部が除去された被加工体を熱処理して該被加工体を収縮させることにより、前記被加工体の一部が除去された部分を、前記マスクの貫通孔よりも微細にする工程と
を有する微細構造体の製造方法。 - 前記工程(c)において、焼成前の前記被加工体を熱処理することにより該被加工体を収縮させる請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
- 前記工程(a)において、フッ素樹脂を含有するペーストを成形した成形体に圧延処理を施すことにより、前記被加工体を準備し、
前記圧延処理の圧力と、前記熱処理時の収縮率との関係に基づいて、前記圧延処理の圧力を調節する請求項1または2に記載の微細構造体の製造方法。 - 前記工程(a)において、フッ素樹脂を含有するペーストを成形した成形体に延伸処理を施すことにより、前記被加工体を準備し、
前記延伸処理の延伸率と、前記熱処理時の収縮率との関係に基づいて、前記延伸処理の延伸率を調節する請求項1または2に記載の微細構造体の製造方法。 - 前記工程(a)において、フッ素樹脂を含有するペーストを成形した成形体に延伸処理を施すことにより、前記被加工体を準備し、
前記延伸処理の延伸方向と、前記熱処理時の、該延伸方向の収縮率との関係に基づいて、前記延伸処理の延伸方向を調節する請求項1または2に記載の微細構造体の製造方法。 - 前記工程(a)において、前記フッ素樹脂と発泡剤とを含有するペーストを用いて前記被加工体を準備し、
前記発泡剤の含有量と、前記熱処理時の収縮率との関係に基づいて、前記発泡剤の含有量を調節する請求項1または2に記載の微細構造体の製造方法。 - 前記工程(a)において、前記フッ素樹脂と造孔剤とを含有するペーストを用いて前記被加工体を準備し、
前記造孔剤の粒径または含有量と、前記熱処理時の収縮率との関係に基づいて、前記造孔剤の粒径または含有量を調節する請求項1または2に記載の微細構造体の製造方法。
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