JP4565164B2 - 糖製造方法、エタノール製造方法及び乳酸製造方法 - Google Patents
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現在、リグノセルロースから糖を製造する方法として注目されているのは、低環境負荷で、且つ高速処理が可能な水熱処理であり、水熱処理法は3種類に大別される。すなわち、バッチ法、スラリー流通法及び熱水流通法である。このうち、熱水流通法(特許文献1参照)のみがリグノセルロースから糖を製造するのに有効であることが知られている。
先ず、リグノセルロースが封入されたリアクター内を流通する水を、室温から約280℃になるまで段階的に加熱していく。これにより、溶解温度が異なるヘミセルロースとセルロースとを順次水に溶解させて混合液を得る。
次に、ヘミセルロースとセルロースとが溶解した上記混合液に、ヘミセルロースを加水分解させる酵素とセルロースを加水分解する酵素とを添加して、所定の温度に一定時間保つ。その結果、マンノース、キシロース、グルコース等の単糖やオリゴ糖等の多糖を含む糖溶液が得られる。
また、この方法で得られる糖溶液の糖濃度は非常に低いので、該糖溶液を用いてアルコールを製造する際には、再度濃縮して糖濃度を高める必要がある。そのため、糖溶液を濃縮するときに必要なエネルギが、熱水流通法による糖製造工程を含めたアルコール製造工程全体のエネルギ効率を低下させる。
すなわち、酵素を用いることなく、ヘミセルロース及びセルロースを加水分解させ、且つエネルギ効率の良い糖の製造方法を提供することを目的とする。
また、従来の水熱処理における加熱温度よりも低い加熱温度でセルロースからも糖を製造することができる。従って、本発明の糖製造方法は、従来の水熱処理よりも高いエネルギ効率で糖を製造することができる。
また、第一糖溶液または第二糖溶液に乳酸発酵菌を添加して所定の時間放置することで、乳酸を製造することもできる。
以下、図面を用いて本発明の一実施形態について説明する。図1は本実施形態に係る糖製造方法の工程を示す工程図である。図1に示すように、本実施形態に係る糖製造方法は、ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを含むリグノセルロースを原料として、該リグノセルロースに過酸化水素水を加えたリグノセルロース混合液を、所定の加熱温度で一定時間加熱し、ヘミセルロースとリグニンとを溶解させるための予備加熱工程と、上記予備加熱工程を経たリグノセルロース混合液を、予備加熱工程における加熱温度よりも高い加熱温度で一定時間加熱することで、種々の糖が溶けている糖混合液を得るためのヘミセルロース糖化工程と、得られた糖混合液からセルロースを除去し、第一糖溶液を得るための第一糖溶液分離工程と、除去されたセルロースに過酸化水素水をさらに加えたセルロース混合液を、所定の温度で一定時間加熱して、セルロース混合液に含まれるセルロースを多糖に分解するためのセルロース糖化工程と、上記セルロース糖化工程を経たセルロース混合液を、セルロース糖化工程における加熱温度よりも高い加熱温度で一定時間加熱することで、セルロース混合液に含まれる多糖を糖化させ、第二糖溶液を得る第二糖溶液生成工程とからなる糖製造方法である。
予備加熱工程は、リグノセルロース混合液を一定時間、所定の温度で加熱する工程である。この工程で、ヘミセルロース及びリグニンはリグノセルロース混合液に溶解する。
一方このとき、リグノセルロース混合液中に含まれる過酸化水素は、ヘミセルロースとそれに付着するリグニンとの間に隙間を生じさせるように作用する。その結果、次のへミセルロース糖化工程において、へミセルロースの糖化が円滑に且つ効率よく行われる。
過酸化水素の濃度が0.58mol/Lよりも大きいと、過酸化水素がヘミセルロースの加水分解によって製造された糖の過分解を促進する。その結果、アルコール発酵を抑制する物質であるフルフラール(C5H4O2)やヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が多量に生成される。
加熱温度が105℃よりも低い場合、ヘミセルロースが十分に溶解しないため、糖の収率が低下する。
加熱温度が145℃よりも高い場合、過酸化水素による過分解が活発に行われるため、糖の収率が低下する。
加熱時間が1時間よりも短いと、ヘミセルロースが十分に溶解しないため、糖の収率が低下する。
加熱時間が2時間よりも長いと、溶解したヘミセルロースが加水分解して糖が生成され、さらに生成された糖が過分解してしまうため、糖の収率が低下する。
ヘミセルロース糖化工程は、予備加熱工程を経たリグノセルロース混合液を予備加熱工程における加熱温度よりも高い温度で一定時間加熱し、糖混合液を得る工程である。
得られる糖混合液には、アラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロース等の単糖と、オリゴ糖や水溶性多糖が含まれる。
加熱温度が155℃よりも低い場合、ヘミセルロースの糖化が十分に行われないため、糖の収率が低下する。
加熱温度が165℃よりも高い場合、ヘミセルロースから生成された糖が過分解するため、糖の収率が低下する。
加熱時間が1時間よりも短いと、ヘミセルロースの糖化が十分に行われないため、糖の収率が低下する。
加熱時間が2時間よりも長いと、ヘミセルロースから生成された糖が過分解するため、糖の収率が低下する。
第一糖溶液分離工程は、ヘミセルロース糖化工程終了後に得られた糖混合液からセルロースを除去して、第一糖溶液を得る工程である。
セルロース糖化工程は、第一糖溶液分離工程において除去されたセルロースに過酸化水素をさらに加えて作られたセルロース混合液を、所定の加熱温度で一定時間加熱する工程である。
過酸化水素の濃度が0.17mol/Lよりも小さいと、過酸化水素とリグニンとが十分に反応せず、セルロースとリグニンとの間に十分な大きさの隙間が生じない。
過酸化水素の濃度が0.36mol/Lよりも大きいと、過酸化水素がセルロースの加水分解によって製造された糖の過分解を促進する。その結果、アルコール発酵を抑制する物質であるフルフラール(C5H4O2)やヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が多量に生成される。
加熱温度が230℃よりも低い場合、セルロースが十分に加水分解しないため、次に行われる第二糖溶液で得られる糖の収率が低下する。
加熱温度が245℃よりも高い場合、生成された多糖が過分解してしまい、次に行われる糖化工程で得られる単糖の収率が低下する。
加熱時間が1分よりも短いと、セルロースと過酸化水素との反応が十分に行われず、セルロースの加水分解が十分に行われないため、次に行われる糖化工程で得られる単糖の収率が低下する。
加熱時間が5分よりも長いと、生成された多糖が過分解するため、次に行われる糖化工程で得られる単糖の収率が低下する。
第二糖溶液生成工程は、セルロース糖化工程を経たセルロース混合液を、セルロース糖化工程における加熱温度よりも高い加熱温度で、一定時間加熱し、第二糖溶液を得る工程である。
上記セルロース混合液を加熱することで、それに含まれるオリゴ糖やその他の水溶性多糖が加水分解され、単糖であるグルコースが生成される。
加熱温度が250℃よりも低い場合、多糖の加水分解が十分に行われず、糖の収率が低下する。
加熱温度が265℃よりも高い場合、多糖の加水分解によって生成された糖の一部が過分解するので、糖の収率が低下する。
加熱時間が10秒よりも短いと、多糖の加水分解が十分に行われず、糖の収率が低下する。
加熱時間が60秒よりも長いと、多糖の加水分解によって生成された糖の一部が過分解するので、糖の収率が低下する。
酸の添加量が、2.0g/L多い場合、酸が生成された多糖の過分解を促進するため、収率が逆に低下する。
また、本実施形態に係る糖製造方法は、第二糖溶液生成工程中に生じるグルコースの過分解も抑制されるため、熱水流通法よりも高い収率で糖を製造することができる。
(実施例1)
本実施例に用いる試料として、3gの杉片を採用した。試料を粒径約0.5mm程度になるまで粉砕し、その粉砕した試料及び1.5mlの過酸化水素水(濃度30%)をハステロイ(Haynes International社登録商標)製のオートクレーブ内(内容積50ml、日東高圧社製品)に入れた。そして、オートクレーブ内の液体全体の体積が30mlになるまで水を加え、オートクレーブ内にリグノセルロース混合液を作った。なお、このときリグノセルロース混合液中の過酸化水素濃度は0.44mol/Lである。
オートクレーブ内の第二糖溶液をイオンクロマトグラフィーで分析し、第二糖溶液中に含まれるグルコースの重量を測定した。測定したグルコースの重量を、試料1gから得られた重量に換算して、表5に示す。
実施例2〜実施例17は、実施例1で設定した予備加熱工程おける加熱時間、予備加熱工程おける加熱温度、ヘミセルロース糖化工程における加熱時間、ヘミセルロース糖化工程における加熱温度、セルロース糖化工程における加熱時間、セルロース糖化工程における加熱温度、第二糖溶液生成工程における加熱時間、または第二糖溶液生成工程における加熱温度の少なくとも一つを変更して、実施例1と同じ手順で糖を製造した。
ヘミセルロース糖化工程で製造された糖の重量を、試料1gから得られた重量に換算して表1に〜表4に示す。また、第二糖溶液生成工程で製造されたグルコースの重量を試料1gから得られた重量に換算して表5〜表8に示す。
実施例18〜実施例27では、リグノセルロース混合液中の過酸化水素濃度を変化させたこと以外は全て実施例1と同じ手順で糖を製造した。ヘミセルロース糖化工程で製造された糖の重量を試料1gあたりの製造量に換算して、表9に示す。
実施例28〜実施例34では、セルロース混合液中の過酸化水素濃度を変化させたこと以外は全て実施例1と同じ手順で糖を製造した。第二糖溶液生成工程で製造された糖の重量を試料1gあたりの製造量に換算して、表10に示す。
実施例34〜実施例38では、セルロース混合液1リットルあたりのリン酸アルミニウムの添加量を変化させたこと以外は全て実施例1と同じ手順で糖を製造した。第二糖溶液生成工程で製造された糖の量を試料1gあたりの製造量に換算して、表11に示す。
具体的には、ヘミセルロース糖化工程が行われたリグノセルロース混合液に酵母を添加し、酵母が添加されたリグノセルロース混合液を、添加された酵母が最も活発に活動する温度に一定時間保つことで、リグノセルロース混合液内に溶けている糖がアルコール発酵し、その結果、エタノールを得ることができる。
なお、第一糖溶液の代わりに、第二糖溶液を用いても、上記と同様の方法でエタノールを得ることができる。
また、酵母の代わりに乳酸発酵菌を用いることで、乳酸を製造することできる。
Claims (5)
- ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを含むリグノセルロースから糖を製造する方法であって、
前記リグノセルロースに濃度が0.29mol/L以上0.58mol/L以下の範囲となるように過酸化水素水を加えたリグノセルロース混合液を、加熱温度が105℃以上145℃以下の範囲であり、加熱時間が1時間以上2時間以下の範囲となるように加熱し、前記ヘミセルロースと前記リグニンとを溶解させる予備加熱工程と、
前記予備加熱工程を経た前記リグノセルロース混合液を、加熱温度が155℃以上165℃以下の範囲であり、加熱時間が1時間以上2時間以下の範囲となるように加熱し、前記ヘミセルロースを糖化させ、糖混合液を得るヘミセルロース糖化工程と、
前記糖混合液からセルロースを除去することにより、第一糖溶液を得る第一糖溶液分離工程と、
前記セルロースに濃度が0.17mol/L以上0.36mol/L以下の範囲となるように過酸化水素水をさらに加えたセルロース混合液を、加熱温度が230℃以上245℃以下の範囲であり、加熱時間が1分以上5分以下の範囲となるように加熱して、セルロースを糖化させるセルロース糖化工程と、
前記セルロース糖化工程を経たセルロース混合液を、加熱温度が250℃以上265℃以下の範囲であり、加熱時間が10秒以上60秒以下の範囲となるように加熱して、第二糖溶液を得る第二糖溶液生成工程と、を備えることを特徴とする糖製造方法。 - 前記セルロース混合液にリン酸アルミニウムを添加することを特徴とする請求項1記載の糖製造方法。
- 前記リン酸アルミニウムが前記セルロース混合液1リットルあたり0.5g以上2.0g以下の範囲で添加されることを特徴とする請求項2記載の糖製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項記載の糖製造方法によって得られる前記第一糖溶液または前記第二糖溶液に酵母を添加して、所定の時間放置することを特徴とするエタノール製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項記載の糖製造方法によって得られる前記第一糖溶液または前記第二糖溶液に乳酸発酵菌を添加して、所定の時間放置することを特徴とする乳酸製造方法。
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