JP5675220B2 - 嫌気性微生物を用いた酢酸の製造方法及びバイオエタノールの製造方法 - Google Patents

嫌気性微生物を用いた酢酸の製造方法及びバイオエタノールの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、嫌気性微生物を用いた酢酸の製造方法及びこの製造方法を利用したバイオエタノールの製造方法に関する。より詳しくは、加圧熱水処理などのリグノセルロースの分解処理をすることにより得られる処理液を基質として酢酸発酵により酢酸を製造する方法、及びその酢酸をエステル化及び水素化することによりエタノールを製造する方法に関する。
バイオエタノールは、生物由来の原料から作られたエタノールを指し、主に、サトウキビやビートの搾汁などに含まれる糖質又はトウモロコシやサツマイモなどに含まれるデンプン質を糖化したものを、発酵させることによって製造されている(特許文献1参照)。例えば、特許文献1に記載の方法では、糖質(炭水化物)を発酵させて得た酢酸を、エステル化及び水素化することによってエタノールを製造している。
この特許文献1に記載のエタノールの生産方法では、発酵工程を、乳酸発酵及び酢酸発酵の2段階で行っている。また、その酢酸発酵においては、クロストリジウム(Clostridium)属の微生物、具体的にはクロストリジウムサーモアセチカム(Clostridium thermoaceticum)やクロストリジウムフォルミコアセチカム(Clostridium formicoaceticum)などの酢酸生成菌を使用している。
また、従来、バイオマス資源を原料として、エタノールを製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。この特許文献2に記載の方法では、酸加水分解や酵素加水分解によりバイオマス資源に含まれるセルロースから、発酵可能な糖質を得ている。更に、本発明者らにより、リグノセルロースを加圧熱水で処理することにより広範な糖類を得て、これらを酢酸発酵により酢酸に変換し、その酢酸をエステル化及び水素化してエタノールを得る方法も提案されている(特許文献3参照)。
特表2002−537848号公報 特表2010−517581号公報 特開2009−106274号公報
しかしながら、前述した従来の技術には、エタノールへの変換効率が低いという問題点がある。例えば、糖質やデンプン質を原料とする従来のバイオエタノールの製造方法では、一般に、下記化学式(1)に示すように、1モルのグルコース(C12)から2モルのエタノール(COH)と2モルの二酸化炭素(CO)が生成するが、エタノール生成には、グルコースの6個の炭素のうち4個の炭素しか使用されておらず、炭素の利用効率が低い。
Figure 0005675220
これに対して、特許文献1〜3に記載の方法のように、酢酸を経由したバイオエタノールの製造方法は、理論上はエタノールの生成効率を向上させることができるが、例えば、特許文献1に記載の方法には、酢酸を得るための酢酸発酵の前工程として乳酸発酵が必要であり、プロセスが複雑であるという問題点がある。また、特許文献2に記載の方法は、材料の前処理がいかなるもので、どのような化合物が得られ、それらからの酢酸生産性がどの程度なのかなどの具体的内容が不明確であるという問題点がある。
一方、特許文献3に記載の方法は、加圧熱水処理によりリグノセルロースを糖類に分解し、更に、広範な糖類を全て酢酸に変換し得る微生物を用いているため、前述した従来法よりも効率よく処理液の基質からエタノールを製造することができるが、糖類から酢酸への変換率が十分でない。
そこで、本発明は、高効率で、リグノセルロースから酢酸を生成することができる酢酸の製造方法及びバイオエタノールの製造方法を提供することを主目的とする。
本発明者は、これまでの研究により、Clostridium thermoaceticum及びClostridium thermocellumの2種類の微生物の混合発酵系を用いることで、木材の加圧熱水処理により得られるヘキソース、ペントース及びこれらのオリゴ糖、更にはグルクロン酸などの広範な化合物からなる基質を、酢酸に変換できることを明らかにしてきた。そして、本発明者は、この嫌気性微生物を用いた酢酸の製造方法において、前述した課題を解決するために鋭意実験検討を行った結果、以下に示す知見を得た。
本発明者は、先ず、酢酸への変換率が、理論値よりも低くなる原因について検討を行い、(i)投入した基質が多量に菌体の増殖に用いられており、酢酸への代謝が十分でないこと、(ii)発酵液に用いる栄養液や緩衝液が基質を減少させていること、を発見した。そして、(i)については、「栄養液中に含まれるシステイン投入量を原料することにより、菌体増殖が抑制されること」を見出し、(ii)については、「pHセンサーにより培養液のpHをモニターしながら、適時アルカリ水溶液を添加しながら発酵を行うことで、発酵系への緩衝液の投入が不要となること」を見出して、本発明に至った。
即ち、本発明に係る酢酸の製造方法は、リグノセルロースを分解処理して得た処理液を基質とし、嫌気性微生物であるClostridium thermoaceticumを使用して、Cysteine・HCl・HO添加量を0.05〜0.1g/Lにして、酢酸発酵する。
ここで、「分解処理」とは、加圧熱水処理などの水熱処理、爆砕処理、酸加水分解処理、アルカリ処理及び酵素分解処理などを指す。
本発明においては、Cysteine・HCl・HO添加量を0.05〜0.1g/Lに低減しているため、発酵中における菌体の増殖が抑制される。その結果、酢酸に変換される基質の量を増加させることができるため、酢酸への変換効率が向上する。
この製造方法では、酢酸発酵工程において、pH測定器により液のpHを測定し、その結果に基づいてアルカリ水溶液を添加することにより、発酵中の液のpHを6.5〜7.5に保持することもできる。
また、酢酸発酵の際、嫌気性微生物として、Clostridium thermoaceticumとClostridium thermocellumとを併用してもよい。
更に、リグノセルロースを加圧熱水処理する工程を有し、この加圧熱水処理により得られた処理液を、前記酢酸発酵の基質とすることもできる。
その場合、加圧熱水処理工程は、圧力0.11〜50MPa、温度130〜400℃の条件で、0.1秒〜60分間行うことが好ましい。
また、加圧熱水処理工程は、例えば、第1段階として、圧力0.11〜50MPa、温度130〜270℃の条件で1〜60分間処理した後、第2段階として、圧力0.11〜50MPa、温度230〜400℃でかつ第1段階よりも高い温度の条件で0.1秒〜60分間処理してもよい。
一方、本発明に係るバイオエタノールの製造方法は、前述した酢酸の製造方法によって製造された酢酸を、エステル化及び水素化分解して、エタノールを得る工程を有する。
本発明によれば、Cysteine・HCl・HO添加量を従来よりも低減しているため、菌体の増殖が抑制され、リグノセルロースから酢酸を高効率で生成することができる。
Clostridium thermoaceticumによるヘキソースから酢酸への発酵経路を示す図である。 本発明の第2実施形態に係るバイオエタノールの製造方法を模式的に示す図である。 酢酸水溶液からエタノールを生成するエタノール製造装置の概要を示す図である。 横軸に発酵系のシステイン濃度をとり、縦軸に基質消費率をとって、システイン投入量と菌体増殖のための基質消費率との関係を示すグラフ図である。 横軸に発酵系のシステイン濃度をとり、縦軸に酢酸生成率をとって、システイン投入量と酢酸生成率との関係を示すグラフ図である。 本発明の第2実施例で用いたファーメンターの構成を模式的に示す図である。 横軸に発酵時間をとり、縦軸に酢酸生成率及び酢酸生成モル比(酢酸/グルコース)をとって、酢酸発酵状態を示すグラフ図である。 横軸に発酵時間をとり、縦軸に酢酸濃度をとって、緩衝液の添加有無と酢酸生成量との関係を示すグラフ図である。
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
<第1の実施形態>
先ず、本発明の第1の実施形態に係る酢酸の製造方法について説明する。本実施形態の酢酸の製造方法は、リグノセルロースを分解処理する工程(ステップS1)と、ステップS1で得られた処理液を基質とし、嫌気性微生物であるClostridium thermoaceticumを使用し、Cysteine・HCl・HO(以下、単にシステインという。)の添加量を0.05〜0.1g/Lにして酢酸発酵する工程(ステップS2)と、を有する。
[ステップS1:分解処理工程]
リグノセルロースは、木材の主要な化学構成物質であり、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンなどで構成されている。そして、このリグノセルロースを分解処理すると、各種単糖、オリゴ糖、多糖、糖過分解物、有機酸及びリグニン由来物質などが生成する。その際の処理方法は特に限定するものではないが、例えば、加圧熱水処理などの水熱処理、爆砕処理、酸加水分解処理、アルカリ処理及び酵素分解処理などが挙げられる。
これら分解処理方法の中でも、特に、加圧熱水処理が好ましい。リグノセルロースを加熱熱水処理する際の条件は、特に限定されるものではないが、例えば圧力0.11〜50MPa、温度130〜400℃、処理時間0.1秒〜60分間とすることができる。このように、加圧熱水処理によりリグノセルロースを分解すると、触媒などを使用せずに、水だけで反応を進行させることができ、更に、反応時間を短縮することができる。
また、加圧熱水処理は、条件を変えて、複数回行うこともできる。例えば、2段階処理を行う場合、第1段階(1st Stage)として、圧力0.11〜50MPa、温度130〜270℃の条件で、1〜60分間処理し、その後、第2段階として(2nd Stage)、圧力0.11〜50MPa、温度230〜400℃でかつ第1段階よりも高い温度の条件で、0.1秒〜60分間処理することもできる。このように2段階で処理することにより、ヘミセルロースとセルロースのように反応性の異なる成分を、それぞれ好適な反応条件で処理することが可能となる。
[ステップS2:酢酸発酵工程]
本実施形態の酢酸の製造方法では、前述したステップS1で得られた処理液を基質とし、Clostridium属の嫌気性微生物であるClostridium thermoaceticumを用いて、嫌気性酢酸発酵を行う。嫌気性酢酸発酵は、無酸素状態で発酵を行う方法であり、下記化学式(2)で表されるように、グルコースなどの糖類を直接酢酸に変換することができる。このため、エタノールの酸化により酢酸を生成する好気性酢酸発酵に比べて、炭素の利用効率が高く、酢酸の生産性を向上させることが可能である。
Figure 0005675220
(嫌気性微生物)
この嫌気性酢酸発酵において使用する嫌気性微生物は、基質であるリグノセルロースの分解処理液に含まれる成分に応じて適宜選択することができるが、本実施形態の酢酸の製造方法においては、少なくともClostridium属の嫌気性微生物であるClostridium thermoaceticumを使用する。下記表1に各種嫌気性微生物の酢酸発酵における代謝可能な基質を示す。
Figure 0005675220
上記表1に示すように、Clostridium thermoaceticumは、単糖を基質とする微生物であり、ヘキソース(グルコース、マントース、ガラクトース、フルクトース、ラムノース)、ペントース(キシロース、アラビノース)、酸性糖であるグルクロン酸、有機酸(蟻酸、乳酸)、更には一部の糖過分解物(5−ヒドロキシメチルフルフラール、フルフラール、エリトロース、グリコールアルデヒド、メチルグリオキザール)やリグニン由来物質(グアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒド、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、コニフェリルアルコール、シナピルアルコール)をも、酢酸に変換することが可能である。
図1はClostridium thermoaceticumによるヘキソースから酢酸への発酵経路を示す図である。なお、図1中ATPはアデノシン三リン酸であり、Acetyl−CoAはアセチル補酵素Aである。図1に示すように、Clostridium thermoaceticumは、エタノールを経由せずにヘキソースを酢酸に変換することができ、変換効率にも優れ、酢酸以外の生成物が少ないという特徴がある。
しかしながら、前述したClostridium thermoaceticumは多糖やオリゴ糖は変換することができない。このため、より広範な基質を酢酸に変換するためには、Clostridium thermocellumと、他の嫌気性微生物とを併用することが望ましい。具体的には、Clostridium thermoaceticumとClostridium thermocellumを併用することが望ましい。
Clostridium thermocellumは、多糖を基質とする微生物であり、セルロースを分解する能力が高く、セルロース以外にもキシランやマンナンなどのミセルセルロースなども変換可能である。このClostridium thermocellumはグルコースやキシロースなどの単糖は変換できず、Clostridium thermoaceticumに比べて、酢酸への変換効率が低いという欠点もあるが、Clostridium thermoaceticumと併用することにより、お互いの能力を補完し合い、高効率で酢酸への変換が可能となる。
このことについて、本発明者は、実験により、例えば、多糖類であるセルロースを基質として用いた場合は、Clostridium thermocellumを単独で用いて発酵させると、酢酸変換効率は30%に満たないが、Clostridium thermoaceticumとClostridium thermocellumを併用すると、60.5%の変換効率で酢酸が生成することを確認している。
また、Clostridium thermocellumによって多糖類を低分子化し、それによって生成される単糖をClostridium thermoaceticumで酢酸に変換することができるという効果もある。即ち、Clostridium thermoaceticumとClostridium thermocellumを併用することにより、広範な木質バイオマスの加圧熱水処理物から高効率で酢酸を生産することが可能となる。
(システイン添加量:0.05〜0.1g/L)
嫌気性酢酸発酵は、基質(リグノセルロースの分解処理液)に、前述した嫌気性微生物の培養液、緩衝液及び栄養液を加え、酸素を含まない雰囲気下で、所定の温度で、一定時間撹拌することにより行う。その際使用する栄養液は、嫌気性微生物の種類に応じて適宜調整することができるが、Clostridium thermoaceticumを使用する場合は、栄養液中にシステインが添加されている。
システインは、Clostridium thermoaceticumの育成に不可欠な硫黄分を供与するだけでなく、還元剤としての役割を担っており、溶液内の酸化還元のバランスを適切に保つ効果がある。しかしながら、前述したように、栄養液中にCysteineが大量に含まれていると、基質が大量に菌体増殖に使用され、酢酸への変換効率が低下してしまう。
そこで、本実施形態の酢酸の製造方法においては、栄養液中に添加するシステイン量を従来よりも少ない0.05〜0.1g/Lにする。これにより、Clostridium thermoaceticumの菌体増殖が抑制され、酢酸への代謝が促進される。
なお、栄養液中のシステイン含有量が0.1g/Lを超えると、菌体増殖が増加し、酢酸への変換効率が低下する。一方、栄養液中のシステイン含有量が0.05g/L未満の場合、菌体増殖は抑制できるが、酢酸への変換効率も低下してしまう。
(発酵中の液のpH調整)
前述したように、本発明者は、緩衝液には、基質溶液中の糖類を分解する作用があることを発見した。具体的には、加熱により、糖と塩類が化学反応し、分解されると考えられる。そこで、酢酸への変換効率をより高めるためには、緩衝液を使用せずに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加することにより、発酵中の液のpHを調整することが望ましい。
その具体的方法としては、例えば、pH測定器により発酵中に液のpHをモニターし、その結果に基づいてアルカリ水溶液を適時添加することにより、発酵中の液のpHを6.5〜7.5に保持する方法を適用することができる。これにより、緩衝液を使用せずに、発酵中の液のpHを適正な範囲に保つことができるため、基質の減少を抑制して、酢酸への発酵効率をより高めることができる。
以上詳述したように、本実施形態の酢酸の製造方法では、リグノセルロースの分解処理液を基質とし、Clostridium thermoaceticumを使用して嫌気性酢酸発酵する際に、システイン添加量を従来よりも減量しているため、菌体の増殖を抑制することができる。その結果、菌体増殖よる基質の減少が抑制され、基質から酢酸への変換効率が向上する。
また、システインの減量に加えて、緩衝液を使用せずに、アルカリ水溶液の添加により発酵中のpH調整を行うことにより、緩衝液により基質の分解も防止することができる。これにより、酢酸への変換効率をより一層高めることができる。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係るバイオエタノールの製造方法について説明する。図2は本実施形態のバイオエタノールの製造方法を模式的に示す図である。本実施形態のバイオエタノールの製造方法は、前述した第1の実施形態の酢酸の製造方法を利用してバイオエタノールを製造する方法であり、第1の実施形態の酢酸の製造方法で製造した酢酸を、エステル化した後、水素化分解して、エタノールを得る。
具体的には、図2に示すように、本実施形態のバイオエタノールの製造方法では、リグノセルロースを分解処理する工程と(ステップS1)、ステップS1で得られた処理液を基質とし、Clostridium thermoaceticumを使用して、Cysteine・HCl・HO添加量を0.05〜0.1g/Lにして、酢酸発酵する工程(ステップS2)と、ステップS2で得られた酢酸からエタノールを生成する工程と(ステップS3)を行う。
以下、各工程について詳細に説明する。なお、分解処理工程(ステップS1)及び酢酸発酵工程(ステップS2)については、前述した第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
[ステップS3:エタノール生成工程]
図3は酢酸水溶液からエタノールを生成するエタノール製造装置の概要を示す図である。ステップS3のエタノール生成工程では、下記化学式(3)で表されるエステル化反応と、下記化学式(4)で表される水素化反応を行う。これらの反応は、例えば、図3に示すようなエタノール製造装置20を用いて、ワンパスで行うことができる。
Figure 0005675220
Figure 0005675220
図3に示すエタノール製造装置20では、先ず、導入された酢酸水溶液を脱水・濃縮し、その後、生成水(HO)を除去しながら、酢酸(CHCOOH)とエタノール(COH)から、酢酸エチル(CHCOOC)を得る。そして、この酢酸エチル(CHCOOC)と水素(H)から、エタノール(COH)を得る。この反応では、3molの酢酸エチルから、6molのエタノールが得られる。
このエタノール生成工程は、例えば温度:100〜350℃、圧力:0.1〜20MPaの条件で行うことができる。なお、図2,図3では、エステル化反応と水素化反応を、1つの装置内で行う場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、それぞれ別の装置で連続して行ってもよい。
そして、前述したステップS1〜ステップS3の各工程で行われる反応(化学式2〜4)をまとめると、下記化学式(5)に示す反応となり、1molのヘキソース(C12)から3molのエタノール(COH)を得ることができる。このように、本実施形態のバイオエタノールの製造方法は、リグノセルロースという資源を十分に活用し得るエタノール生産プロセスであるといえる。
Figure 0005675220
更に、本実施形態のバイオエタノールの製造方法では、リグノセルロースの分解処理液を基質とし、Clostridium thermoaceticumを使用して嫌気性酢酸発酵する際に、システイン添加量を減量し、菌体の増殖を抑制しているため、基質から高効率で酢酸を生成することができる。その結果、従来の方法に比べて、リグノセルロースから得られるエタノールの収率も向上させることもできる。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
<第1実施例>
先ず、第1実施例として、システイン添加量を変えて酢酸発酵を行い、菌体増殖のための基質消費率及び酢酸生成率を求めた。その際、嫌気性微生物にはClostridium thermoaceticumを使用し、反応温度は60℃とし、二酸化炭素雰囲気中で、撹拌しながら96時間発酵を行った。また、発酵系には、基質としてグルコース水溶液(100g/L)を5ml、Clostridium thermoaceticum培養液を5ml、緩衝液を20ml、栄養液を20ml投入した。
本実施例で使用した緩衝液の組成を下記表2に、栄養液の組成を下記表3に、発酵系におけるCysteine・HCl・HO量を下記表4に、それぞれ示す。
Figure 0005675220
Figure 0005675220
Figure 0005675220
図4は横軸に発酵系のシステイン濃度をとり、縦軸に基質消費率をとって、システイン投入量と菌体増殖のための基質消費率との関係を示すグラフ図である。なお、図4に示す基質消費率は、投入した基質量に対する酢酸の生成に用いられた基質の割合であり、下記数式(1)により求められる。
Figure 0005675220
また、図5は横軸に発酵系のシステイン濃度をとり、縦軸に酢酸生成率をとって、システイン投入量と酢酸生成率との関係を示すグラフ図である。なお、図5に示す酢酸生成率は、投入した基質量に対する酢酸の生成量であり、下記数式(2)により求められる。
Figure 0005675220
図4,5に示すように、システイン投入量が本発明の範囲内である実施例1,2では、菌体増殖に使用される基質量を低減し、酢酸の生成率を高めることができた。これに対して、システイン投入量が多い比較例2〜4では、菌体増殖に使用される基質量が多く、酢酸生成率が低下した。一方、システインを投入していない比較例1では、菌体の育成に不可欠な硫黄分が欠乏しているため、菌体が繁殖できず、菌体増殖に使用される基質量は5%と低くなったが、酢酸生成率も54%と他の条件に比べて著しく低下した。
以上の結果から、本発明によれば、基質から酢酸への変換効率が向上することが確認された。
<第2実施例>
次に、本発明の第2実施例として、ファーメンターを用いて酢酸発酵を行った。図6は本実施例で用いたファーメンターの構成を模式的に示す図である。図6に示すように、本実施例で使用したファーメンター1は、pHセンサー2により発酵液3のpHを監視しながら、アルカリ水溶液出口4から水酸化ナトリムなどのアルカリ水溶液11を適時注入することが可能となっている。
また、外部のガスボンベから直接、発酵容器5にガス12を送り込むことが可能である。また、発酵容器5の最下部にガス出口6が設けられており、その直上域には、撹拌用の羽根7が設置されている。これにより、ファーメンター1は、ガス出口6から送り込まれたガス12が、回転する撹拌用の羽根7によって発酵液3内をまんべんなく通過し、効率的にバブリングを行える構成となっている。
更に、このファーメンター1では、液面に浮上したガス13は、冷却管8を通ってガス排出口から外部に排出されるため、発酵容器5内は、常にガスボンベからのガス12のみで満たされた状態となり、絶対嫌気状態を作り出すことができる。更にまた、発酵容器5を覆うように帯状のヒーター9が取り付けられているため、温度センサー10により適時温度調整を行うこともできる。
そして、本実施例においては、先ず、前述したファーメンター1を使用して、グルコース(10g/L)の酢酸発酵を行った。その際、嫌気性微生物にはClostridium thermoaceticumを使用し、反応温度は60℃とし、二酸化炭素雰囲気中で、撹拌しながら発酵を行った。また、緩衝液は使用せず、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を適時添加することにより、液のpHを7.0に保った。また、栄養液は、Cysteine・HCl・HO量を0.10gとした以外は、上記表3と同様の組成とした。
図7は横軸に発酵時間をとり、縦軸に酢酸生成率及び酢酸生成モル比(酢酸/グルコース)をとって、酢酸発酵状態を示すグラフ図である。図7に示すように、緩衝液を使用せずに、ファーメンターを使用した酢酸発酵では、1molのグルコースから2.9molの酢酸が得られ、酢酸生成率96%を達成することができた。
次に、緩衝液を使用した従来の発酵方法と、ファーメンターを使用した発酵方法とで、酢酸生成量を比較した。その際、嫌気性微生物には、Clostridium thermoaceticumとClostridium thermocellumとを併用し、基質は、ブナ木粉を、圧力は10MPaで一定にし、230℃で15分間、その後270℃で15分間処理した加圧熱水処理液を使用した。
図8は横軸に発酵時間をとり、縦軸に酢酸濃度をとって、緩衝液の添加有無と酢酸生成量との関係を示すグラフ図である。図8に示すように、緩衝液を使用せずに、ファーメンターを使用した酢酸発酵では、緩衝液を使用した従来の酢酸発酵に比べて、酢酸生成量が増加することが確認された。
1 ファーメンター
2 pHセンサー
3 発酵液
4 アルカリ水溶液出口
5 発酵容器
6 ガス出口
7 羽根
8 冷却管
9 ヒーター
10 温度センサー
11 アルカリ水溶液
12、13 ガス
20 エタノール製造装置

Claims (6)

  1. リグノセルロースを分解処理して得た処理液を基質とし、嫌気性微生物であるクロストリジウム・サーモアセチカム(Clostridium thermoaceticum)を使用して、システイン塩酸塩1水和物(Cysteine・HCl・HO)添加量を0.05〜0.1g/Lにして、酢酸発酵する工程を有する酢酸の製造方法であって、
    前記酢酸発酵工程では、pH測定器により液のpHを測定し、その結果に基づいてアルカリ水溶液を添加することにより、発酵中の液のpHを6.5〜7.5に保持することを特徴とする、前記酢酸の製造方法。
  2. 前記酢酸発酵において、嫌気性微生物として、クロストリジウム・サーモアセチカム(Clostridium thermoaceticum)とクロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)とを併用することを特徴とする請求項1に記載の酢酸の製造方法。
  3. 更に、リグノセルロースを加圧熱水処理する工程を有し、該加圧熱水処理により得られた処理液を、前記酢酸発酵の基質とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の酢酸の製造方法。
  4. 前記加圧熱水処理工程は、圧力0.11〜50MPa、温度130〜400℃の条件で、0.1秒〜60分間行うことを特徴とする請求項3に記載の酢酸の製造方法。
  5. 前記加圧熱水処理工程は、第1段階として、圧力0.11〜50MPa、温度130〜270℃の条件で1〜60分間処理した後、第2段階として、圧力0.11〜50MPa、温度230〜400℃でかつ第1段階よりも高い温度の条件で0.1秒〜60分間処理することを特徴とする請求項4に記載の酢酸の製造方法。
  6. 請求項1乃至5のいずれかに記載の酢酸の製造方法によって酢酸を製造する工程、及び該工程により製造された酢酸を、エステル化及び水素化分解して、エタノールを得る工程を有するバイオエタノールの製造方法。
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