JP5581244B2 - エタノール製造方法 - Google Patents
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Description
セルロース系バイオマスからエタノールを製造するための方法としては、まず、セルロース系バイオマスを前処理した後に、酵素による糖化処理を行って糖を得、得られた糖をエタノール発酵してエタノールを製造する方法が一般的に用いられている(特許文献1、2参照)。
一方、糖含有液を原料として用いたエタノール生産は古くから行われており、例えば、砂糖工場におけるモラセス(廃糖蜜)を原料としたエタノール生産が挙げられる。
一方で、糖含有液を原料としてエタノール発酵をする際に、仕込み糖濃度が高すぎる場合、発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎ、該高濃度のエタノールが発酵槽内の酵母によるエタノール発酵自体を阻害し、発酵後のエタノール収率が低下する。例えば、糖含有液が一般に50質量%程度の糖を有するモラセスである場合、糖濃度50質量%では発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎる。そのため、糖含有液の種類によっては発酵処理前に希釈液を投入して発酵槽内の糖濃度を調整することが一般に行われているが、その場合、大量の希釈液が必要になるという問題があった。
糖含有液の発酵は、発酵に用いる微生物のエタノール耐性濃度を越えないように希釈液を添加することにより行われるが、セルロースの糖化発酵の場合、先述のように固形物濃度を調整して糖化を効率よく行う目的のためにも希釈液を添加する。よって、セルロースの糖化発酵液中のエタノールは発酵に用いる微生物のエタノール耐性濃度よりも低く、かつ通常行われる糖含有液発酵液のエタノール濃度よりも低くなってしまう。
蒸留工程には両発酵液を混合したものを供給するが、結果としてこの混合液中のエタノール濃度は微生物の耐性濃度より大幅に低い値となるのが現状である。
(1)セルロース含有原料からエタノールを製造する方法であって、セルロース含有原料に、糖含有液由来発酵液を添加した後、糖化する糖化工程と、前記糖化工程において得られた糖液をエタノール発酵する発酵工程と、を有し、前記糖含有液由来発酵液は、水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上の糖含有液を、エタノール発酵して得られるものであることを特徴とするエタノール製造方法、
(2)前記セルロース含有原料の糖化工程の糖化槽における不溶性固形分濃度が、25質量%以下であることを特徴とする(1)のエタノール製造方法、
(3)前記セルロース含有原料のエタノール発酵後に得られるエタノール濃度が、12質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)のエタノール製造方法、
(4)前記セルロース含有原料の糖化工程と発酵工程とが、同一の反応槽中で行われることを特徴とする(1)〜(3)いずれかのエタノール製造方法、
(5)前記セルロース含有原料が、バガス、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、キャッサバ残渣、及びコーンストーバーからなる群より選択される1種以上であり、前記穀類の酵素処理物が、米、麦、キャッサバ、及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのエタノール製造方法、
(6)前記セルロース含有原料がバガスであり、前記糖含有液が水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液又はモラセスであることを特徴とする(1)〜(5)いずれかのエタノール製造方法、
を提供するものである。
また、本発明のエタノール製造方法によれば、得られる発酵液中のエタノールが高濃度であるため、該エタノール発酵液を蒸留する際のエネルギーを低減することができる。
さらに、希釈水として水の代わりにエタノールを含有した発酵液を用いることにより、セルロース含有原料の糖化、発酵の際の雑菌繁殖のリスクを低減させることができる。
セルロース含有原料を前処理する方法は、セルロース含有原料に対して施すことにより後段の糖化工程における糖化効率を改善し得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、細断処理、及び水熱処理からなる処理方法から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
水熱処理の条件は特に限定されるものではないが好ましくは160〜250℃の飽和水蒸気下、より好ましくは170〜220℃の飽和水蒸気下で、圧力として具体的には6.3〜28.5MPaで水熱処理を行うことが好ましい。また、水熱処理は、好ましくは3〜120分、より好ましくは5〜30分で行うことが好ましい。上記のような好ましい条件において水熱処理を行うことにより、セルロース含有原料の過分解を低減することができる。
水溶性糖類を含有する農作物としては、例えば、ケーンジュース、ビートジュース、ソルガムジュース等が挙げられる。
穀類としては、米、麦、キャッサバ、とうもろこし、キビ、アワ、ヒエ等が挙げられる。
穀類を酵素処理する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、アミラーゼ等の酵素と穀類とを接触させることにより行うことができる。本発明においては、澱粉含有量が高く、且つ生産量が多いことから、米、麦、キャッサバ及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることが好ましい。
水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、又は穀物の酵素処理物は、そのまま用いてもよく、脱塩処理や、殺菌処理をした後に用いてもよい。ここで脱塩処理、殺菌処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により行うことができる。
なかでも、バガスと、農作物の搾汁液又はモラセスとを用いた場合、穀類を酵素処理する工程が不要であるため、特に好ましい。
エタノール発酵能を有する微生物としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母、具体的には、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。
糖含有液をエタノール発酵する際に、エタノール発酵槽中の糖濃度が高すぎる場合、前述したように発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎ、該エタノールが発酵槽内の酵母によるエタノール発酵を阻害し、単位糖量あたりのエタノール収量が低下してしまう。そのため、エタノール発酵槽中の糖濃度は、25質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。
エタノール発酵槽中の糖濃度を上記範囲とする方法は特に限定されるものではなく、希釈液を添加する等の方法により行うことができる。希釈液としては、水が好ましい。なお、本発明における糖含有液由来発酵液には、未発酵の糖が微量(3%程度以下)含有されていてもよい。
図2〜3中、Bは糖含有液由来発酵液量を、Dは糖化槽内の全量を、xbは糖含有液由来発酵液中の糖濃度を、ybは糖含有液由来発酵液中のエタノール濃度を、zaは前処理物中の水分割合を、Qは前処理物中の固形物のエタノールへの変換係数を、Cは添加すべき希釈液量を示す。なお、図2〜3中、糖含有液由来発酵液中の糖からエタノールへの変換係数(割合)は、51質量%とした。また、Qで示される前処理物中の固形物のエタノールへの変換係数(割合)は、バガスを水熱処理した前処理物の場合、一般に14〜25質量%となる。
エタノール発酵の方法は特に限定されるものではなく、糖液のエタノール発酵に通常用いられる方法により行うことができる。例えば、糖液に、エタノール発酵能を有する公知の微生物を添加し、糖液をエタノール発酵することにより、エタノールを含む発酵液が得られる。エタノール発酵能を有する微生物としては、上記同様のものが挙げられる。
本発明のエタノール製造方法を用いた場合、糖化工程と発酵工程とを同一の槽内で、同時に行う場合にも、槽内の攪拌性と、糖濃度との両者を最適化することができる。
図4と図1とを比較すると、従来法(図1)では、用いる希釈液の量が合計で195万トン/年であるのに対し、本発明(図4)では110万トン/年である。
また、従来法では、得られた発酵液中のエタノール濃度が7.3質量%であるのに対し、本発明では10質量%と向上している。そのため、本発明では製品エタノール(約100%純度のエタノール)を得る際の蒸留に必要なエネルギーを低減することができる。
このように、本発明のエタノール製造方法によれば、添加する希釈液量を低減し、且つ、得られる発酵液中のエタノール濃度を高めることができる。
なお、本発明のエタノール製造方法では、図4中に示すような、「糖、エタノール濃度測定手段」、「スラリー濃度(水分)測定手段」を用いて、それぞれ、糖含有液由来発酵液中の糖及びエタノール濃度の測定、前処理物中の水分割合の測定を行い、得られた測定値等を用いて、図2〜3に示す制御概念や式により、用いる糖含有液由来発酵液の量や希釈液の量を決定することが好ましい。
セルロース含有原料としてバガスを、糖含有液としてモラセスを用いてエタノールを製造した場合の、発酵後の発酵液中のエタノール濃度について検討した。
酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/Lからなる培地を定法により滅菌後、本菌株を接種し、35℃で1日間好気的に培養した。培養液はそのままモラセス発酵およびバガス発酵に使用した。
結晶性セルロース50g/L、コーンステイープリカー10g/L、硫酸アンモニウム5g/L、尿素3g/L、硫酸マグネシウム1.2g/L、リン酸2水素カリウム12g/L、硫酸亜鉛10mg/L、硫酸マンガン10mg/L、硫酸銅10mg/Lからなる培地(pH4.0)を定法により滅菌後、本菌株を接種し、30℃で7日間好気的に培養した。得られた培養液をそのままバガス糖化に使用した。
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.5g硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水29.5gを添加して全量50gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器((株)日伸理化製NX−25D;以下、振とう機は全て同型を使用)にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の発酵液の全量は45.5gであり、発酵液のエタノール濃度は10質量%であった。
酵素糖化前処理として、セルロース含有原料であるバガスの水熱処理を行った。水熱処理には、バイオマス投入口、反応物排出口、水蒸気供給口を有する小型圧力容器(スチームガン)を用いた。バガス100g(水分20%)をスチームガンに投入して密閉し、水蒸気を供給して220℃まで加熱した。この状態を10分保持した後、排出口を開放し、バガスを取り出した。排出物の総量は140gであり、水分は60質量%であった。これをそのまま酵素糖化または同時糖化発酵に使用した。
水熱処理をしたバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液4.4g、実験例2の酵素液6.7g、上記モラセス発酵液45.5g、及び滅菌水9.6gを添加し、全量を50gとした(スラリー濃度11.9質量%)。
この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の発酵液の全量は80.7gであり、発酵液のエタノール濃度は10.0質量%であった。
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.5g及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水29.5gを添加して全量を50gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の発酵液の全量は45.5gであり、発酵液のエタノール濃度は10質量%であった。
上記実施例1と同様に水熱処理を行ったバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.5g、実験例2の酵素液6.7g、及び滅菌水15.8gを添加し、水熱処理バガス20質量%スラリーを調整した(全量50g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の発酵液の全量は46.4gであり、発酵液のエタノール濃度は7.7質量%であった。
両発酵液を合わせたエタノール量、濃度を表1に示す。
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.2g及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水24.5gを添加して全量44.7gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の全量は40.7gであり、そのエタノール濃度は10質量%であった。
上記実施例1と同様に水熱処理をしたバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.2g、実験例2の酵素液6.7g、及び滅菌水10.8gを添加し、水熱バガス22.4質量%スラリーを調整した(全量44.7g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の全量は41.7gであり、このエタノール濃度は7.3質量%であった。
両発酵液を合わせたエタノール量、濃度を表1に示す。
次に、比較例2は比較例1同様、バガス、モラセスを別個に発酵するプロセスで、エタノール濃度向上を目的として、希釈水量を両工程から5gずつ減量した例である。この場合、両系統ともエタノール収量が減少し、結果として収量が少ないばかりか、エタノール濃度も低くなってしまった。
一方、本発明に係る実施例1は、上述の発酵が良好に進む条件を確保しつつ、希釈液として、滅菌水の替わりに糖含有液由来発酵液を用いた例である。その結果、比較例2よりも得られたエタノール収量が多く、且つ、比較例1よりも得られた発酵液中のエタノール濃度が高いものとなった。
上記の結果から、本発明のエタノール製造方法によれば、同量のモラセス及びバガスを用いた場合にも、セルロース含有原料から、効率よく、高濃度のエタノールを製造することができることがわかった。
発酵液中のエタノール濃度と、該発酵液中のエタノールの蒸留に必要な熱量との関係をシミュレーションにより調べた。
発酵液を蒸留する際のエネルギー量と、発酵液中のエタノール濃度とは反比例の関係にあるため、約5質量%のエタノールを99.5質量%に濃縮脱水する場合のエネルギー量は約1390kcal/L−エタノールとなり、約8質量%のエタノールを99.5質量%に濃縮脱水する場合のエネルギー量は約930kcal/L−エタノールとなる。
上記シミュレーションの結果から、発酵工程によって得られる発酵液中のエタノール濃度が高いほど、発酵工程後の蒸留にかかる熱量を低減できることが分かる。
Claims (6)
- セルロース含有原料からエタノールを製造する方法であって、
セルロース含有原料に、糖含有液由来発酵液を添加した後、糖化する糖化工程と、
前記糖化工程において得られた糖液をエタノール発酵する発酵工程と、を有し、
前記糖含有液由来発酵液は、水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上の糖含有液を、エタノール発酵して得られるものであることを特徴とするエタノール製造方法。 - 前記セルロース含有原料の糖化工程の糖化槽における不溶性固形分濃度が、25質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造方法。
- 前記セルロース含有原料のエタノール発酵後に得られるエタノール濃度が、12質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエタノール製造方法。
- 前記セルロース含有原料の糖化工程と発酵工程とが、同一の反応槽中で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のエタノール製造方法。
- 前記セルロース含有原料が、バガス、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、キャッサバ残渣及びコーンストーバーからなる群より選択される1種以上であり、
前記穀類の酵素処理物が、米、麦、キャッサバ及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のエタノール製造方法。 - 前記セルロース含有原料がバガスであり、前記糖含有液が水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液又はモラセスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のエタノール製造方法。
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